静寂(マジシン)
アンタがいない、それだけで。
イラついて、仕事にも手がつかなくて、そのへんにある物に当り散らしたくなる。
普段なら騒がしくて、とうに眼魔砲のふたつみっつはぶっぱなしてる頃なのに。
もっと腹が立つのが、そんなことでムカついてる俺自身。
もう末期症状だろ、コレ…
出会い(マジックとシンタロー)
「病院の新生児室。」
「俺は覚えてねぇけどな。」
椅子(グンマ、シンタロー、キンタロー)
「わぁー、これ、シンちゃんと僕の椅子だよ!」
「懐かしいなあ。ガキの頃、親父が二人おそろいで、って買ったんだっけ。」
「座ると”ぷきゅっ♪”って音が鳴るんだよー。でも古いからもう鳴らないね。」
「おそろい…子供の頃か…俺には無縁のものだな(欝)」
「き、キンタロー!」
「話題が悪かったねぇ…そうだ!!
キンちゃんもこれから何かをおそろいにすればいいよ!」
「…何をおそろいにするんだ? 服は無理だぞ。
シンタローは血しぶきを浴びてもわからないように、
いつも真っ赤なブレザーを着用しているのだからな。」
「誰の血しぶきを浴びるっつーんだよ。マジックの鼻血かァ?」
「それも含めてだが、お前は伯父貴をめこめこにノシてしまうだろう?
その時の返り血だ。」
「あんだとコラ。事実なだけに反論が思いつかねぇぞチクショー。」
「ケンカは人様の迷惑にならないところでやってよね。
ともかく、おそろいにするものを考えようよ!」
「おいおいグンマ、ガキじゃあるまいし…」
「…俺の子供時代を奪ったのは誰だったか…」
「悪かった。俺が悪かった。もう何も言ってくれるな、キンタロー。」
「ねぇねぇシンちゃんキンちゃん! おそろいのパジャマなんてどう!?」
「いたたたたたたたたたたたた。三十路近い男どもが何を。」
「なんて素敵なんだ。ぜひそうしよう。」
「もう好きにしろよお前ら!」
―――後日、おとーさまお手製のアヒルパジャマ(色違い)が僕達三人の元に届いた。
三色限定(マジック)
マジック前総帥は頭を悩ませていた。
真剣な表情とは裏腹に、悩んでいる内容は実にくだらないものだった。
「3色…」
考えるときに顎を手にやるのはマジックのくせだ。
眉間にしわを寄せ、覇王と恐れられた彼は頭を抱える。
「無難に三原色、赤・黄・青でいくか…
それとも意表をついてライラック、オフホワイト、エメラルドグリーンにしようか…
いやいや、それぞれに似合う色にしなくては。
シンちゃんは黒髪が映える白、グンちゃんならピンク、キンちゃんは…」
ミシンを目の前に置き、裁縫箱を片手にため息をつくナイスミドル。
その横では布を注文するために、
辞書並みの厚さのカタログをめくっている秘書達の姿があった。
ヒナタ(マジックとシンタロー)
「シンちゃん! 今日は天気がいいから、パパとひなたぼっこしようよ!」
「嫌だ。」
「今ならパパの膝枕つきだよ~。」
「いらねぇよ。邪魔だからどっか行け。」
「眼魔砲☆」
づどむ。
「て、テメェ……」
「さあ行こうかシンちゃん! 愛してるよー。」
「愛してるなら手加減しろよ…」
絵本(マジックとシンタロー)
「シンちゃ~ん! 寝る前にご本読んでぇ!」
「とうとう頭まで腐ったかテメェは。いやもともとか。」
「エヘへ。パパ、シンちゃんに甘えたくなる病にかかったんだよー!」
「俺の視界から消えろ。もう二度とその姿をさらすな。」
「シンちゃんひどいよぉぉ! ハンカチかみしめパパ泣いちゃうッ!」
「泣け泣けわめけ。そして死ねッ。」
ガラクタ(マジック)
「役に立たない人間はガラクタ以下だよ。存在そのものが罪だ」
カオス(マジック→シンタロー。マジシン)
自分でもおかしくなるくらい心の中はぐちゃぐちゃで、
何が詰め込まれているのかわからないくらい、混沌とした私の感情。
誰かを求めて、求めるくせに内に踏み込まれることを拒絶して。
私自身どうしたらいいのかわからない。
だけど君が死ぬほど好きなのはわかってる。
私にはそれだけなんだよ、それが私の生きている意味そのものなんだ。
わがままなパパでごめんね、ダーリン。
崩壊(マジック→シンタロー)
「強がってばかりじゃ、いつかは壊れてしまうよ」
コラッ!(マジック→ハーレム)
「タマネギを残すんじゃありません!!」
生意気(マジシン風味)
「生意気なお前の泣き顔が好きだよ。
私だけにしか見せないその表情が好き。」
キライ(マジック→シンタロー)
ねえ、シンタローは知ってるかな。
お前が私に投げつける言葉の痛みを。
「このクソ親父!!」とか「テメェは引っ込んでろ!」ってよく言うよね。
どんなこと言われても笑顔で返すか、わざとらしくハンカチ噛んでみせるけど。
本音を言うと、すごく辛いんだよ。
やっぱりシンちゃんはパパのこと嫌いなのかなって。
どんなに償いをしても赦してはもえらえないのかなって。
すっごくすっごく悲しくなって、時々なんだけど、泣いちゃう。
シンタロー、お願いだよ。パパは被害妄想激しいんだからさ。
もう少しでいいから、ほんのちょっとでいいから、やさしくしてよ。
痛くて(シンタロー→マジック)
「あの言葉が俺の心臓を引き裂く」
『私はおまえの父ではない』
「誰のどんな言葉や態度よりも、アンタのそのひとことが痛かった」
生きろ(マジック→シンタロー)
「傷つかない生はないよ
私たちは生きている限り、どこかで誰かを傷つけ
同時に傷つけられているのだから
何も犠牲にせずに生き続けることなどできはしないんだ
どんなに辛くても苦しくても、それでもお前は生きなさい」
止まらない(マジック→シンタロー)
「私を止められるのは、シンタロー。お前だけだよ。
早くパパの元に帰っておいで。」
裏切り(マジック。マジシン)
「パパが他の人を好きになったら、シンちゃんきっと死んじゃうね。」
静寂(マジシン)
アンタがいない、それだけで。
イラついて、仕事にも手がつかなくて、そのへんにある物に当り散らしたくなる。
普段なら騒がしくて、とうに眼魔砲のふたつみっつはぶっぱなしてる頃なのに。
もっと腹が立つのが、そんなことでムカついてる俺自身。
もう末期症状だろ、コレ…
深(マジック→ジャン)
どこまでも、深く、深く。ゆっくりと君に溺れてゆく。
出会い(マジックとシンタロー)
「病院の新生児室。」
「俺は覚えてねぇけどな。」
椅子(グンマ、シンタロー、キンタロー)
「わぁー、これ、シンちゃんと僕の椅子だよ!」
「懐かしいなあ。ガキの頃、親父が二人おそろいで、って買ったんだっけ。」
「座ると”ぷきゅっ♪”って音が鳴るんだよー。でも古いからもう鳴らないね。」
「おそろい…子供の頃か…俺には無縁のものだな(欝)」
「き、キンタロー!」
「話題が悪かったねぇ…そうだ!!
キンちゃんもこれから何かをおそろいにすればいいよ!」
「…何をおそろいにするんだ? 服は無理だぞ。
シンタローは血しぶきを浴びてもわからないように、
いつも真っ赤なブレザーを着用しているのだからな。」
「誰の血しぶきを浴びるっつーんだよ。マジックの鼻血かァ?」
「それも含めてだが、お前は伯父貴をめこめこにノシてしまうだろう?
その時の返り血だ。」
「あんだとコラ。事実なだけに反論が思いつかねぇぞチクショー。」
「ケンカは人様の迷惑にならないところでやってよね。
ともかく、おそろいにするものを考えようよ!」
「おいおいグンマ、ガキじゃあるまいし…」
「…俺の子供時代を奪ったのは誰だったか…」
「悪かった。俺が悪かった。もう何も言ってくれるな、キンタロー。」
「ねぇねぇシンちゃんキンちゃん! おそろいのパジャマなんてどう!?」
「いたたたたたたたたたたたた。三十路近い男どもが何を。」
「なんて素敵なんだ。ぜひそうしよう。」
「もう好きにしろよお前ら!」
―――後日、おとーさまお手製のアヒルパジャマ(色違い)が僕達三人の元に届いた。
三色限定(マジック)
マジック前総帥は頭を悩ませていた。
真剣な表情とは裏腹に、悩んでいる内容は実にくだらないものだった。
「3色…」
考えるときに顎を手にやるのはマジックのくせだ。
眉間にしわを寄せ、覇王と恐れられた彼は頭を抱える。
「無難に三原色、赤・黄・青でいくか…
それとも意表をついてライラック、オフホワイト、エメラルドグリーンにしようか…
いやいや、それぞれに似合う色にしなくては。
シンちゃんは黒髪が映える白、グンちゃんならピンク、キンちゃんは…」
ミシンを目の前に置き、裁縫箱を片手にため息をつくナイスミドル。
その横では布を注文するために、
辞書並みの厚さのカタログをめくっている秘書達の姿があった。
なくしたもの(サービス→キンタロー)
君を見ると なくしてしまったあの人を思い出す 想い出す
君は何も悪くはないのに その存在が
私を さらなる悲哀の深みへと 唯 導く
影(シンタロー)
「それ、俺のことか?」
ヒナタ(マジックとシンタロー)
「シンちゃん! 今日は天気がいいから、パパとひなたぼっこしようよ!」
「嫌だ。」
「今ならパパの膝枕つきだよ~。」
「いらねぇよ。邪魔だからどっか行け。」
「眼魔砲☆」
づどむ。
「て、テメェ……」
「さあ行こうかシンちゃん! 愛してるよー。」
「愛してるなら手加減しろよ…」
絵本(マジックとシンタロー)
「シンちゃ~ん! 寝る前にご本読んでぇ!」
「とうとう頭まで腐ったかテメェは。いやもともとか。」
「エヘへ。パパ、シンちゃんに甘えたくなる病にかかったんだよー!」
「俺の視界から消えろ。もう二度とその姿をさらすな。」
「シンちゃんひどいよぉぉ! ハンカチかみしめパパ泣いちゃうッ!」
「泣け泣けわめけ。そして死ねッ。」
ガラクタ(マジック)
「役に立たない人間はガラクタ以下だよ。存在そのものが罪だ」
カオス(マジック→シンタロー。マジシン)
自分でもおかしくなるくらい心の中はぐちゃぐちゃで、
何が詰め込まれているのかわからないくらい、混沌とした私の感情。
誰かを求めて、求めるくせに内に踏み込まれることを拒絶して。
私自身どうしたらいいのかわからない。
だけど君が死ぬほど好きなのはわかってる。
私にはそれだけなんだよ、それが私の生きている意味そのものなんだ。
わがままなパパでごめんね、ダーリン。
崩壊(マジック→シンタロー)
「強がってばかりじゃ、いつかは壊れてしまうよ」
コラッ!(マジック→ハーレム)
「タマネギを残すんじゃありません!!」
生意気(マジシン風味)
「生意気なお前の泣き顔が好きだよ。
私だけにしか見せないその表情が好き。」
キライ(マジック→シンタロー)
ねえ、シンタローは知ってるかな。
お前が私に投げつける言葉の痛みを。
「このクソ親父!!」とか「テメェは引っ込んでろ!」ってよく言うよね。
どんなこと言われても笑顔で返すか、わざとらしくハンカチ噛んでみせるけど。
本音を言うと、すごく辛いんだよ。
やっぱりシンちゃんはパパのこと嫌いなのかなって。
どんなに償いをしても赦してはもえらえないのかなって。
すっごくすっごく悲しくなって、時々なんだけど、泣いちゃう。
シンタロー、お願いだよ。パパは被害妄想激しいんだからさ。
もう少しでいいから、ほんのちょっとでいいから、やさしくしてよ。
痛くて(シンタロー→マジック)
「あの言葉が俺の心臓を引き裂く」
『私はおまえの父ではない』
「誰のどんな言葉や態度よりも、アンタのそのひとことが痛かった」
生きろ(マジック→シンタロー)
「傷つかない生はないよ
私たちは生きている限り、どこかで誰かを傷つけ
同時に傷つけられているのだから
何も犠牲にせずに生き続けることなどできはしないんだ
どんなに辛くても苦しくても、それでもお前は生きなさい」
虹(グンマ)
「お日様と雨からのプレゼントだよ。」
ステーション(マジックと秘書ズ)
「一度でいいから電車に乗ってみたいなァ…」
『だめです。』
「なら、電車がホームに入ってくるのを待つだけでいいから! ね? ね?」
『だめなものはだめです。私たちの身にもなってください。』
「ちぇ。」
ホクロ(ハレ高)
「そこ、舐めてみてもいいか?」
「それだけで終わらないから嫌です。アンタ全ッ然TPOを考えませんし。」
止まらない(マジック→シンタロー)
「私を止められるのは、シンタロー。お前だけだよ。
早くパパの元に帰っておいで。」
裏切り(マジック。マジシン)
「パパが他の人を好きになったら、シンちゃんきっと死んじゃうね。」
散歩(グンマとコタロー)
「コタローちゃんっ♪ 一緒にお散歩に行かない?」
「行くー……ちょっと待った。背中に背負ったその網かごは何?」
「散歩ついでに、山菜取りに行こうかと思って。
わらびやぜんまいがおいしい時期だからね!」
「変なところで庶民くさい家だよ…」
アンテナ(キンタローとシンタロー)
「ハーレムが戻ってきそうな予感がする。」
「不吉なこと言うんじゃねぇ。」
「何を言う。喜ばしいことこの上ないじゃないか。
……通信が入ったな。―――ハーレムが帰ってくるそうだぞ。」
「お前時々人間じゃねぇような気がするよ。」
四重奏(四兄弟)
『みなが互いをそれぞれの形で愛していた
そのことを互いに理解できなかっただけ』
夏休み(グンマ、シンタロー、マジック、キンタロー)
「シンちゃーん、夏休みはどこ行くー?」
「総帥にそんなものはない。」
「パパの時にはあったけど。」
「お前は黙ってろよ。」
「長野に行こうよぉ。軽井沢の別荘で避暑!」
「それから群馬でだるまでも買って帰ろうか。ね?」
「わーい、おとーさま名案!」
「マジック伯父貴、俺は群馬名物焼きまんじゅうを食べたい。」
「うんうん、いいよ~。私も食べてみたかったんだよねぇ。
あ、ついでに前橋の知り合いにもちょっと挨拶しておきたいな。」
「ならばそれも含めて、俺が予定を立てておこう。叔父貴達にも一応連絡しておく。」
「俺の言ったこと一切無視かよ。」
「無視などしていない。キビキビ働け、シンタロー。夏休みは日本で過ごすぞ。」
「だぁ~からそんな暇ねぇって…」
「ないなら作ればいい。今から身を粉にして働けば一週間くらいは休める。」
「シンちゃんがんばって~!」
「パパも影ながら応援するよ!
これから講演会あるから、お仕事手伝ってあげられないからね。」
「おめェらみんな鬼だアァ――――――――――――――――ッッッ!!!」
ある朝目が覚めると(キンハレ)
隣でハーレムが寝ていた。
勝手に入ってくるのは構わないが(むしろ歓迎すべきことだ)
彼の気配に気づけなかった自分が憎い。
きっとハーレムへの愛情が足りないせいだ。俺はまだまだ未熟だな。
シンタローなんて、寝ていても半径20メートル以内に
マジック伯父貴がいるのに気づくほどだというのに。
あれが世間で言うところの、『愛のなせる業』なんだろう。
今度シンタローに極意を聞いてみようと思う。
手と手(マジックとコタロー)
つないだ手をゆるく前後に振りながら、二人で歩く。
時々くっついたり離れたりしながら。
沈黙が苦しくなくなったのはいつだったかな。
「今日のお夕飯はすき焼きだよー」
頭上から降ってくるパパの声。
何の気なしに僕は左手に持った袋をちらりと見た。
中に入っているのはネギとしいたけと卵。ひとつだけだよ、と買ってもらったお菓子。
ちなみにお菓子はみんなで仲良く分けなくちゃいけないらしい。
「パパぁ、お腹空いたー」
「帰ったらすぐに支度するから、もうちょっと我慢してなさいね。
それから夕飯前に甘いものを食べちゃだめだよ」
僕らどこから見ても立派な親子だよね?
それから後も、やっぱり僕らは手を前後に振りながら帰った。
恋心(マジック→シンタロー)
甘えてきたかと思えば、いきなり冷たい態度をとったり、
笑っていたかと思えば、突然怒り出したり。
私の日常は全部君の気まぐれに支配されているといっても過言じゃない。
猫よりもタチが悪い君を相手にできるのはパパだけだよ。
おかえり(マジックとシンタロー)
「おかえり。」
「…ただいま。」
何処にいてもお前の帰る場所は私しかないのだから。
アンタがいない、それだけで。
イラついて、仕事にも手がつかなくて、そのへんにある物に当り散らしたくなる。
普段なら騒がしくて、とうに眼魔砲のふたつみっつはぶっぱなしてる頃なのに。
もっと腹が立つのが、そんなことでムカついてる俺自身。
もう末期症状だろ、コレ…
出会い(マジックとシンタロー)
「病院の新生児室。」
「俺は覚えてねぇけどな。」
椅子(グンマ、シンタロー、キンタロー)
「わぁー、これ、シンちゃんと僕の椅子だよ!」
「懐かしいなあ。ガキの頃、親父が二人おそろいで、って買ったんだっけ。」
「座ると”ぷきゅっ♪”って音が鳴るんだよー。でも古いからもう鳴らないね。」
「おそろい…子供の頃か…俺には無縁のものだな(欝)」
「き、キンタロー!」
「話題が悪かったねぇ…そうだ!!
キンちゃんもこれから何かをおそろいにすればいいよ!」
「…何をおそろいにするんだ? 服は無理だぞ。
シンタローは血しぶきを浴びてもわからないように、
いつも真っ赤なブレザーを着用しているのだからな。」
「誰の血しぶきを浴びるっつーんだよ。マジックの鼻血かァ?」
「それも含めてだが、お前は伯父貴をめこめこにノシてしまうだろう?
その時の返り血だ。」
「あんだとコラ。事実なだけに反論が思いつかねぇぞチクショー。」
「ケンカは人様の迷惑にならないところでやってよね。
ともかく、おそろいにするものを考えようよ!」
「おいおいグンマ、ガキじゃあるまいし…」
「…俺の子供時代を奪ったのは誰だったか…」
「悪かった。俺が悪かった。もう何も言ってくれるな、キンタロー。」
「ねぇねぇシンちゃんキンちゃん! おそろいのパジャマなんてどう!?」
「いたたたたたたたたたたたた。三十路近い男どもが何を。」
「なんて素敵なんだ。ぜひそうしよう。」
「もう好きにしろよお前ら!」
―――後日、おとーさまお手製のアヒルパジャマ(色違い)が僕達三人の元に届いた。
三色限定(マジック)
マジック前総帥は頭を悩ませていた。
真剣な表情とは裏腹に、悩んでいる内容は実にくだらないものだった。
「3色…」
考えるときに顎を手にやるのはマジックのくせだ。
眉間にしわを寄せ、覇王と恐れられた彼は頭を抱える。
「無難に三原色、赤・黄・青でいくか…
それとも意表をついてライラック、オフホワイト、エメラルドグリーンにしようか…
いやいや、それぞれに似合う色にしなくては。
シンちゃんは黒髪が映える白、グンちゃんならピンク、キンちゃんは…」
ミシンを目の前に置き、裁縫箱を片手にため息をつくナイスミドル。
その横では布を注文するために、
辞書並みの厚さのカタログをめくっている秘書達の姿があった。
ヒナタ(マジックとシンタロー)
「シンちゃん! 今日は天気がいいから、パパとひなたぼっこしようよ!」
「嫌だ。」
「今ならパパの膝枕つきだよ~。」
「いらねぇよ。邪魔だからどっか行け。」
「眼魔砲☆」
づどむ。
「て、テメェ……」
「さあ行こうかシンちゃん! 愛してるよー。」
「愛してるなら手加減しろよ…」
絵本(マジックとシンタロー)
「シンちゃ~ん! 寝る前にご本読んでぇ!」
「とうとう頭まで腐ったかテメェは。いやもともとか。」
「エヘへ。パパ、シンちゃんに甘えたくなる病にかかったんだよー!」
「俺の視界から消えろ。もう二度とその姿をさらすな。」
「シンちゃんひどいよぉぉ! ハンカチかみしめパパ泣いちゃうッ!」
「泣け泣けわめけ。そして死ねッ。」
ガラクタ(マジック)
「役に立たない人間はガラクタ以下だよ。存在そのものが罪だ」
カオス(マジック→シンタロー。マジシン)
自分でもおかしくなるくらい心の中はぐちゃぐちゃで、
何が詰め込まれているのかわからないくらい、混沌とした私の感情。
誰かを求めて、求めるくせに内に踏み込まれることを拒絶して。
私自身どうしたらいいのかわからない。
だけど君が死ぬほど好きなのはわかってる。
私にはそれだけなんだよ、それが私の生きている意味そのものなんだ。
わがままなパパでごめんね、ダーリン。
崩壊(マジック→シンタロー)
「強がってばかりじゃ、いつかは壊れてしまうよ」
コラッ!(マジック→ハーレム)
「タマネギを残すんじゃありません!!」
生意気(マジシン風味)
「生意気なお前の泣き顔が好きだよ。
私だけにしか見せないその表情が好き。」
キライ(マジック→シンタロー)
ねえ、シンタローは知ってるかな。
お前が私に投げつける言葉の痛みを。
「このクソ親父!!」とか「テメェは引っ込んでろ!」ってよく言うよね。
どんなこと言われても笑顔で返すか、わざとらしくハンカチ噛んでみせるけど。
本音を言うと、すごく辛いんだよ。
やっぱりシンちゃんはパパのこと嫌いなのかなって。
どんなに償いをしても赦してはもえらえないのかなって。
すっごくすっごく悲しくなって、時々なんだけど、泣いちゃう。
シンタロー、お願いだよ。パパは被害妄想激しいんだからさ。
もう少しでいいから、ほんのちょっとでいいから、やさしくしてよ。
痛くて(シンタロー→マジック)
「あの言葉が俺の心臓を引き裂く」
『私はおまえの父ではない』
「誰のどんな言葉や態度よりも、アンタのそのひとことが痛かった」
生きろ(マジック→シンタロー)
「傷つかない生はないよ
私たちは生きている限り、どこかで誰かを傷つけ
同時に傷つけられているのだから
何も犠牲にせずに生き続けることなどできはしないんだ
どんなに辛くても苦しくても、それでもお前は生きなさい」
止まらない(マジック→シンタロー)
「私を止められるのは、シンタロー。お前だけだよ。
早くパパの元に帰っておいで。」
裏切り(マジック。マジシン)
「パパが他の人を好きになったら、シンちゃんきっと死んじゃうね。」
静寂(マジシン)
アンタがいない、それだけで。
イラついて、仕事にも手がつかなくて、そのへんにある物に当り散らしたくなる。
普段なら騒がしくて、とうに眼魔砲のふたつみっつはぶっぱなしてる頃なのに。
もっと腹が立つのが、そんなことでムカついてる俺自身。
もう末期症状だろ、コレ…
深(マジック→ジャン)
どこまでも、深く、深く。ゆっくりと君に溺れてゆく。
出会い(マジックとシンタロー)
「病院の新生児室。」
「俺は覚えてねぇけどな。」
椅子(グンマ、シンタロー、キンタロー)
「わぁー、これ、シンちゃんと僕の椅子だよ!」
「懐かしいなあ。ガキの頃、親父が二人おそろいで、って買ったんだっけ。」
「座ると”ぷきゅっ♪”って音が鳴るんだよー。でも古いからもう鳴らないね。」
「おそろい…子供の頃か…俺には無縁のものだな(欝)」
「き、キンタロー!」
「話題が悪かったねぇ…そうだ!!
キンちゃんもこれから何かをおそろいにすればいいよ!」
「…何をおそろいにするんだ? 服は無理だぞ。
シンタローは血しぶきを浴びてもわからないように、
いつも真っ赤なブレザーを着用しているのだからな。」
「誰の血しぶきを浴びるっつーんだよ。マジックの鼻血かァ?」
「それも含めてだが、お前は伯父貴をめこめこにノシてしまうだろう?
その時の返り血だ。」
「あんだとコラ。事実なだけに反論が思いつかねぇぞチクショー。」
「ケンカは人様の迷惑にならないところでやってよね。
ともかく、おそろいにするものを考えようよ!」
「おいおいグンマ、ガキじゃあるまいし…」
「…俺の子供時代を奪ったのは誰だったか…」
「悪かった。俺が悪かった。もう何も言ってくれるな、キンタロー。」
「ねぇねぇシンちゃんキンちゃん! おそろいのパジャマなんてどう!?」
「いたたたたたたたたたたたた。三十路近い男どもが何を。」
「なんて素敵なんだ。ぜひそうしよう。」
「もう好きにしろよお前ら!」
―――後日、おとーさまお手製のアヒルパジャマ(色違い)が僕達三人の元に届いた。
三色限定(マジック)
マジック前総帥は頭を悩ませていた。
真剣な表情とは裏腹に、悩んでいる内容は実にくだらないものだった。
「3色…」
考えるときに顎を手にやるのはマジックのくせだ。
眉間にしわを寄せ、覇王と恐れられた彼は頭を抱える。
「無難に三原色、赤・黄・青でいくか…
それとも意表をついてライラック、オフホワイト、エメラルドグリーンにしようか…
いやいや、それぞれに似合う色にしなくては。
シンちゃんは黒髪が映える白、グンちゃんならピンク、キンちゃんは…」
ミシンを目の前に置き、裁縫箱を片手にため息をつくナイスミドル。
その横では布を注文するために、
辞書並みの厚さのカタログをめくっている秘書達の姿があった。
なくしたもの(サービス→キンタロー)
君を見ると なくしてしまったあの人を思い出す 想い出す
君は何も悪くはないのに その存在が
私を さらなる悲哀の深みへと 唯 導く
影(シンタロー)
「それ、俺のことか?」
ヒナタ(マジックとシンタロー)
「シンちゃん! 今日は天気がいいから、パパとひなたぼっこしようよ!」
「嫌だ。」
「今ならパパの膝枕つきだよ~。」
「いらねぇよ。邪魔だからどっか行け。」
「眼魔砲☆」
づどむ。
「て、テメェ……」
「さあ行こうかシンちゃん! 愛してるよー。」
「愛してるなら手加減しろよ…」
絵本(マジックとシンタロー)
「シンちゃ~ん! 寝る前にご本読んでぇ!」
「とうとう頭まで腐ったかテメェは。いやもともとか。」
「エヘへ。パパ、シンちゃんに甘えたくなる病にかかったんだよー!」
「俺の視界から消えろ。もう二度とその姿をさらすな。」
「シンちゃんひどいよぉぉ! ハンカチかみしめパパ泣いちゃうッ!」
「泣け泣けわめけ。そして死ねッ。」
ガラクタ(マジック)
「役に立たない人間はガラクタ以下だよ。存在そのものが罪だ」
カオス(マジック→シンタロー。マジシン)
自分でもおかしくなるくらい心の中はぐちゃぐちゃで、
何が詰め込まれているのかわからないくらい、混沌とした私の感情。
誰かを求めて、求めるくせに内に踏み込まれることを拒絶して。
私自身どうしたらいいのかわからない。
だけど君が死ぬほど好きなのはわかってる。
私にはそれだけなんだよ、それが私の生きている意味そのものなんだ。
わがままなパパでごめんね、ダーリン。
崩壊(マジック→シンタロー)
「強がってばかりじゃ、いつかは壊れてしまうよ」
コラッ!(マジック→ハーレム)
「タマネギを残すんじゃありません!!」
生意気(マジシン風味)
「生意気なお前の泣き顔が好きだよ。
私だけにしか見せないその表情が好き。」
キライ(マジック→シンタロー)
ねえ、シンタローは知ってるかな。
お前が私に投げつける言葉の痛みを。
「このクソ親父!!」とか「テメェは引っ込んでろ!」ってよく言うよね。
どんなこと言われても笑顔で返すか、わざとらしくハンカチ噛んでみせるけど。
本音を言うと、すごく辛いんだよ。
やっぱりシンちゃんはパパのこと嫌いなのかなって。
どんなに償いをしても赦してはもえらえないのかなって。
すっごくすっごく悲しくなって、時々なんだけど、泣いちゃう。
シンタロー、お願いだよ。パパは被害妄想激しいんだからさ。
もう少しでいいから、ほんのちょっとでいいから、やさしくしてよ。
痛くて(シンタロー→マジック)
「あの言葉が俺の心臓を引き裂く」
『私はおまえの父ではない』
「誰のどんな言葉や態度よりも、アンタのそのひとことが痛かった」
生きろ(マジック→シンタロー)
「傷つかない生はないよ
私たちは生きている限り、どこかで誰かを傷つけ
同時に傷つけられているのだから
何も犠牲にせずに生き続けることなどできはしないんだ
どんなに辛くても苦しくても、それでもお前は生きなさい」
虹(グンマ)
「お日様と雨からのプレゼントだよ。」
ステーション(マジックと秘書ズ)
「一度でいいから電車に乗ってみたいなァ…」
『だめです。』
「なら、電車がホームに入ってくるのを待つだけでいいから! ね? ね?」
『だめなものはだめです。私たちの身にもなってください。』
「ちぇ。」
ホクロ(ハレ高)
「そこ、舐めてみてもいいか?」
「それだけで終わらないから嫌です。アンタ全ッ然TPOを考えませんし。」
止まらない(マジック→シンタロー)
「私を止められるのは、シンタロー。お前だけだよ。
早くパパの元に帰っておいで。」
裏切り(マジック。マジシン)
「パパが他の人を好きになったら、シンちゃんきっと死んじゃうね。」
散歩(グンマとコタロー)
「コタローちゃんっ♪ 一緒にお散歩に行かない?」
「行くー……ちょっと待った。背中に背負ったその網かごは何?」
「散歩ついでに、山菜取りに行こうかと思って。
わらびやぜんまいがおいしい時期だからね!」
「変なところで庶民くさい家だよ…」
アンテナ(キンタローとシンタロー)
「ハーレムが戻ってきそうな予感がする。」
「不吉なこと言うんじゃねぇ。」
「何を言う。喜ばしいことこの上ないじゃないか。
……通信が入ったな。―――ハーレムが帰ってくるそうだぞ。」
「お前時々人間じゃねぇような気がするよ。」
四重奏(四兄弟)
『みなが互いをそれぞれの形で愛していた
そのことを互いに理解できなかっただけ』
夏休み(グンマ、シンタロー、マジック、キンタロー)
「シンちゃーん、夏休みはどこ行くー?」
「総帥にそんなものはない。」
「パパの時にはあったけど。」
「お前は黙ってろよ。」
「長野に行こうよぉ。軽井沢の別荘で避暑!」
「それから群馬でだるまでも買って帰ろうか。ね?」
「わーい、おとーさま名案!」
「マジック伯父貴、俺は群馬名物焼きまんじゅうを食べたい。」
「うんうん、いいよ~。私も食べてみたかったんだよねぇ。
あ、ついでに前橋の知り合いにもちょっと挨拶しておきたいな。」
「ならばそれも含めて、俺が予定を立てておこう。叔父貴達にも一応連絡しておく。」
「俺の言ったこと一切無視かよ。」
「無視などしていない。キビキビ働け、シンタロー。夏休みは日本で過ごすぞ。」
「だぁ~からそんな暇ねぇって…」
「ないなら作ればいい。今から身を粉にして働けば一週間くらいは休める。」
「シンちゃんがんばって~!」
「パパも影ながら応援するよ!
これから講演会あるから、お仕事手伝ってあげられないからね。」
「おめェらみんな鬼だアァ――――――――――――――――ッッッ!!!」
ある朝目が覚めると(キンハレ)
隣でハーレムが寝ていた。
勝手に入ってくるのは構わないが(むしろ歓迎すべきことだ)
彼の気配に気づけなかった自分が憎い。
きっとハーレムへの愛情が足りないせいだ。俺はまだまだ未熟だな。
シンタローなんて、寝ていても半径20メートル以内に
マジック伯父貴がいるのに気づくほどだというのに。
あれが世間で言うところの、『愛のなせる業』なんだろう。
今度シンタローに極意を聞いてみようと思う。
手と手(マジックとコタロー)
つないだ手をゆるく前後に振りながら、二人で歩く。
時々くっついたり離れたりしながら。
沈黙が苦しくなくなったのはいつだったかな。
「今日のお夕飯はすき焼きだよー」
頭上から降ってくるパパの声。
何の気なしに僕は左手に持った袋をちらりと見た。
中に入っているのはネギとしいたけと卵。ひとつだけだよ、と買ってもらったお菓子。
ちなみにお菓子はみんなで仲良く分けなくちゃいけないらしい。
「パパぁ、お腹空いたー」
「帰ったらすぐに支度するから、もうちょっと我慢してなさいね。
それから夕飯前に甘いものを食べちゃだめだよ」
僕らどこから見ても立派な親子だよね?
それから後も、やっぱり僕らは手を前後に振りながら帰った。
恋心(マジック→シンタロー)
甘えてきたかと思えば、いきなり冷たい態度をとったり、
笑っていたかと思えば、突然怒り出したり。
私の日常は全部君の気まぐれに支配されているといっても過言じゃない。
猫よりもタチが悪い君を相手にできるのはパパだけだよ。
おかえり(マジックとシンタロー)
「おかえり。」
「…ただいま。」
何処にいてもお前の帰る場所は私しかないのだから。
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好き(マジシン)
「シンタローがいない世界なんて考えられないよ。そんなものいらないね。
価値がまったくないと思うよ。君がいないなら」
そんな台詞を平然と吐けるアンタがちょっとうらやましくもあり
イカれてる、頭わいてんじゃねぇの、とも思う
ちくしょう。アンタが死ぬほど好きだ、俺。
生まれる前(マジシン)
「アンタの過去が知りたい。」
(でも本当は知りたくない)
「だってアンタは俺のことを最初から知ってるんだ。」
(知っても過去には入り込めないから)
「それってズルくない?」
(嫉妬でこの身は焼き焦がれそうなのに)
「悔しいから俺でアンタをいっぱいにしてやる。
思い出とかそんなもの二度と思い起こせないように。」
上を向いて(マジシン)
アンタとのキスは切なくて
触れたぬくもりが離れていくのがひどく苦しい
キラキラヒカル(マジック)
僕らの目と同じ色の青空と。
薫る若草のにおい。
光を受け、きらきら光る金の髪。
発せられては溶け消える笑い声。
あの日僕らは幸せだった。
デジャヴ(マジック)
「私を棄てるのは私が愛したものばかり」
刹那(マジック)
それは刹那の出来事でした
あっと思う間もなくあの子は私の前に立ちはだかり、力強く私にしがみつきました
向かい来る青い光から私をかばうかのように、強く、強く
それを認識できた次の瞬間には激しい爆音が響き
私のすぐ傍にあった温もりは離れていったのです
どうしてかわかりませんでした
あの子はあんなにも私を憎んでいたはずなのに
なぜ、私をかばったりしたのか
もうもうと立ち込める煙があらかた晴れて、うずくまるひとつの影に私は安堵しました
しかし、愛しい黒髪のあの子はどこにもおらず
変わりに青の力を宿した青年がそこにいただけでした
大好き!(マジシン)
「だぁぁぁぁっ、うるせー!! 何回言ったら気が済むんだ!」
「何回言ったって足りないさ!
パパのシンちゃんへの愛は山中に湧き出る泉のごとくだよ!」
人形(マジックとシンタロー)
「新作人形、騎士シンタロー! パパのピンチには颯爽と現れて…」
「眼魔砲。」
ちゅどぉぉぉぉんっっ!
「ああっ! 作るのに2日も費やしたのに! パパ泣いちゃうぞー!」
「泣きてぇのはこっちだ。」
母さん…こんなヤツのどこが良かったんですか。
あなたの感性とかその他もろもろを疑います。
俺はなんだかもうくじけてしまいそうなので、早くこのバカを迎えに来てください。
闇(マジック)
真っ暗な道
手をつないでいてくれる人も
引き止めてくれる人も
誰もいなくて
ただひとり、闇の奥へと突き進む
もしも(マジシン)
「ねえ、」
「もしもお前が誰かのもとへ逃げたら、」
「もしも私から去っていくというのなら、」
「私は絶対にお前を殺すよ」
親子(マジシン)
「『生まれてこなければ良かった』
そんなふうに感傷的に考えてた頃もあったけど…
だけど今は、生まれてきて良かったと思えるんだ。
私にはかわいい弟達や子供達がいる。
そして、かけがえのない存在=シンちゃんに会えたことを運命とか神に感謝!」
「…アンタみたいな人間でも運命や神を信じてるんだな…」
「シンタローがいない世界なんて考えられないよ。そんなものいらないね。
価値がまったくないと思うよ。君がいないなら」
そんな台詞を平然と吐けるアンタがちょっとうらやましくもあり
イカれてる、頭わいてんじゃねぇの、とも思う
ちくしょう。アンタが死ぬほど好きだ、俺。
生まれる前(マジシン)
「アンタの過去が知りたい。」
(でも本当は知りたくない)
「だってアンタは俺のことを最初から知ってるんだ。」
(知っても過去には入り込めないから)
「それってズルくない?」
(嫉妬でこの身は焼き焦がれそうなのに)
「悔しいから俺でアンタをいっぱいにしてやる。
思い出とかそんなもの二度と思い起こせないように。」
上を向いて(マジシン)
アンタとのキスは切なくて
触れたぬくもりが離れていくのがひどく苦しい
キラキラヒカル(マジック)
僕らの目と同じ色の青空と。
薫る若草のにおい。
光を受け、きらきら光る金の髪。
発せられては溶け消える笑い声。
あの日僕らは幸せだった。
デジャヴ(マジック)
「私を棄てるのは私が愛したものばかり」
刹那(マジック)
それは刹那の出来事でした
あっと思う間もなくあの子は私の前に立ちはだかり、力強く私にしがみつきました
向かい来る青い光から私をかばうかのように、強く、強く
それを認識できた次の瞬間には激しい爆音が響き
私のすぐ傍にあった温もりは離れていったのです
どうしてかわかりませんでした
あの子はあんなにも私を憎んでいたはずなのに
なぜ、私をかばったりしたのか
もうもうと立ち込める煙があらかた晴れて、うずくまるひとつの影に私は安堵しました
しかし、愛しい黒髪のあの子はどこにもおらず
変わりに青の力を宿した青年がそこにいただけでした
大好き!(マジシン)
「だぁぁぁぁっ、うるせー!! 何回言ったら気が済むんだ!」
「何回言ったって足りないさ!
パパのシンちゃんへの愛は山中に湧き出る泉のごとくだよ!」
人形(マジックとシンタロー)
「新作人形、騎士シンタロー! パパのピンチには颯爽と現れて…」
「眼魔砲。」
ちゅどぉぉぉぉんっっ!
「ああっ! 作るのに2日も費やしたのに! パパ泣いちゃうぞー!」
「泣きてぇのはこっちだ。」
母さん…こんなヤツのどこが良かったんですか。
あなたの感性とかその他もろもろを疑います。
俺はなんだかもうくじけてしまいそうなので、早くこのバカを迎えに来てください。
闇(マジック)
真っ暗な道
手をつないでいてくれる人も
引き止めてくれる人も
誰もいなくて
ただひとり、闇の奥へと突き進む
もしも(マジシン)
「ねえ、」
「もしもお前が誰かのもとへ逃げたら、」
「もしも私から去っていくというのなら、」
「私は絶対にお前を殺すよ」
親子(マジシン)
「『生まれてこなければ良かった』
そんなふうに感傷的に考えてた頃もあったけど…
だけど今は、生まれてきて良かったと思えるんだ。
私にはかわいい弟達や子供達がいる。
そして、かけがえのない存在=シンちゃんに会えたことを運命とか神に感謝!」
「…アンタみたいな人間でも運命や神を信じてるんだな…」
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しゃっくりの止め方
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「――――っく!」
「え?」
突然、室内に響いた謎の音に、リキッドは振り向いた。
音のした方では、昼食準備の途中だったのか、シンタローが包丁を置いて口元を抑えている。
「――――っく」
気分でも悪いのかと近づくと、またあの音。
「……シンタローさん?」
「何だ、っく、よ?」
やはり……。
音の正体は彼の喉だ。
引きつったような音が繰り返すたび、肩が上下する。
「水、飲みます?」
「…………」
その状態で言葉を喋るのが面倒なのか、シンタローは、小さな子供のように黙って頷いた。
コップに水を注ぎながらそれを見て、可愛いと思ってしまうあたり、リキッドの目にはかなりのフィルターがかかっている。
(こういうの何て言うんだっけ……『恋は盲目』?)
あっているような、間違っているような……。
「――――っく」
「大丈夫っスか?」
軽く背中を摩りながら、コップを渡す。
少し掠れた声で返事があったような気がしたが、喉からの音にかき消された。
いつまでも声を出せないのはごめんだ、と彼は渡した水を、鼻をつまんで一気に飲み干す。
……が。
「――――っく」
止まっていない。
今回、この方法は効かなかったようだ。
「えーと、あ。味噌の原料……」
「大豆。――――っく」
……もともと彼が言ってくれた方法なのだから、当たり前なのだけれど。
考えるまもなく、即座に答えられてしまっては、意味はない。
「止まんないっすね……。どうしましょうか……?」
「ああ? 放っときゃ、っく、いいだろ?」
シンタローは、何故か真剣な面持ちで考え込むリキッドを無視し、再び包丁を手にして、中断していた料理をはじめようとするが……。
「だめっスよ!」
リキッドに即座にその手を掴まれ、結局何も出来ないまま、また包丁を置くはめになった。
邪魔されたことに苛立ちを覚えつつ、ため息をつく。
「ぁんだよ?」
「だって、しゃっくりが100回続くと死んじゃうんっすよ?!」
――――ぶち。
何か切れた。
「馬鹿かお前は?!」
そんなものを信じてるのか! と言わんばかりにシンタローの拳がリキッドの頭に炸裂した。
「な、何するんっすか!!」
目の前に星をちらつかせながら口を尖らせる。
心配したのに(いつものことだが)理不尽だ! と。
「横隔膜の痙攣ごときで死んでたまるか!」
「そうなんっすか?!」
「知らねぇのか、よ! ……っく! かはっ、ごほっ……!」
しゃっくりをする間もなく、怒鳴り続けたために噎せたのか、涙目になって咳こむ。
「シ、シンタローさん?!」
「ったく……っく」
これだけ咳こんでも、喉がおさまることはない。
「……とりあえず、聞ける人には止め方聞いてみません?」
これ以上方法を思いつかないリキッドは、「ちょっと待ってて下さいね」と言い残し、止めるまもなく外に出て行った。
「……別にいいって、っく、言ってんのに」
何も聞いて回るようなことじゃないだろう。
確かに少々面倒ではあるが、彼の言うように死ぬというわけじゃない。
「まぁ、いいか。――――っく」
放っておいてもそのうち止まるのだし。
今はこの作りかけの昼食をどうにかしなくてはと、今度こそ邪魔される事なく、料理を再開した。
十分としない内に、リキッドは戻ってきた。
よほど急いだのか、大きく肩で息をしながら。
まさかまだ、くだらない迷信を信じているのかと、シンタローは訝しげな視線を向けたが、リキッドは気付いていない。
以下は彼の聞きこみ成果である。
証言1:侍。
「しゃっくりの止め方? んなもん息止めてりゃいいんじゃねぇか?」
証言2:炎使い。
「へぇ……砂糖水やらお湯を飲ませはるとええて言いますなぁ」
証言3:ナマモノニ匹。
「そりゃ、驚かせるにこしたことないわよー!」
「そうねぇ、驚いた時の顔っていうのもイイワー!」
「……何で、どんどん、っく、アテにならねぇヤツの意見に、っく、なってくんだ?」
頭を抱えたくなる。
内容はともかく、聞く人間(一部人外)くらい選んで欲しい。
「とりあえず、試してみます?」
「息止めんのも、っく、水飲むのもやったろ……」
驚かすにしたって、そうと知っている人間をどう驚かせるというのか。
「他には……ピーナッツバターを上唇に塗って、舌先でそれを少しずつ舐める。……とか、『レモン』と三回唱える。……とか、片手を上げながら、水を飲む。……とかですけど」
「っく……、絶対やらねぇ……」
胡散臭すぎる。
実行して止まらなかったら、ただの笑いものではないか。
そもそも、一体誰にそんな怪しい方法を聞いたのか。
「……あ。じゃあいっそ全部一度にやってみますか?」
「はぁ?」
これは名案、と言わんばかりの顔で古典的にも手を打ったリキッドに、シンタローは呆れ顔で返す。
一体何を言い出すのだこの男は。
ピーナッツバターを上唇に塗って、『レモン』と三回唱えた後に、片手を上げながら息を止め、砂糖水を飲んで驚け。
とでも言うのか。
アホらしい。
「お前なぁ……」
言いかけて顔を上げたシンタローの目に映ったのは、相手の目の青だけ。
それくらい、近くにあった顔。
突然のその行動に、反応が遅れた。
「っ?!」
相手のそれにより、塞がれた口。
そこから流れ込んできた甘い何かに、眉を寄せる。
――――ゴクン。
その正体がわかったのは、解放されてから。
どうやら砂糖水だったらしい。
拭った手から、甘い匂いがした。
「止まりました?」
「…………」
確かに驚かされた。
息も止まっていたし、砂糖水も飲んだ……ということになるのだろう。
事実、先程まであんなにうるさかった喉は、今はとても落ち着いている。
全部一度に……こういうことだったらしい。
しかし……。
「シンタローさん?」
少々顔を赤くしつつも、全く悪びれることなく聞いてくるリキッドに、固まっていたシンタローはわなわなと震え出し…
「っ~!! 何すんだこの馬鹿ヤンキーっ!!」
眼魔砲を炸裂させたことは、言うまでもない。
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隠せないもの
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神様、これは試練でしょうか?
それとも一生一度ぐらいのチャンスですか?
「えっと……」
「ぁんだよ」
「いえ……」
いつもの鋭い目つきに睨まれて何も言えなくなる。
「笑いたきゃ笑え」
そんなことを言うもんだから必死で首を横に振った。
俺だってまだ死にたくないですもん。
「あの……大丈夫、っスか?」
「そう見えんならな」
一応聞いてみたものの、とても大丈夫そうには見えなかった。
いつも綺麗な髪はぼさぼさで、ところどころ葉がついているし、肌には細かい切り傷が多い。
おまけに全身ずぶ濡れだ。
崖の上から落ちてこれなのだから、充分助かったと言えるだろ。
下に泉があったのが救いになったんだろうな。
けど、まあ、痛そうは痛そう。
「とりあえず……帰ります?」
本当はいつものごとく食料調達だったのだけれど……それどころじゃない。
「ああ?別に大したことねぇよ、このくらい」
あんな所から落ちるなんて体鈍ったかなー、とか言いながら水から上がろうとするシンタローさんの手を取る。
それは自然なことだったんだけど……。
手に触れるってのはかなり心臓に悪い。
この人、手とかまでしっかりしてて綺麗なんだ。
そのまま力を入れて引き上げると、小さくうめくような声がした。
「え?」
「っ……」
一瞬なんだか分からなかった。
でも辛そうな顔を見てやっと理解する。
どこか痛めた……?!
「痛いんっスか?!」
「何でもねぇよ」
いや、そんな辛そうな顔(一瞬だったけど)した後に言われても……説得力ないし。
この人嘘が下手だ。
ゆっくり歩き出そうとするその足が、片方だけとても不自然。
ああ、足捻ったんだ。
「捻ったんですね?」
「大したことねぇつったろ」
多分今のが精一杯の譲歩だったんだと思う。
否定しないだけまだマシなんだろうか? この強情俺様人間っ!
「……」
それならそれで、こっちにだって考えがある。
「待ってください!」
「!!」
肩に置いた手でそのまま彼の体を引きずり倒した。
やっちまった……。
だっていい方法思い浮かばなかったし、多少強引じゃなきゃ止まってくれないだろうから。
背中とか頭とか打ったかもしれないけど、それは後で謝るとして。
「っぅ……ぁにすんだ! この元ヤン!!」
「手当てぐらいさせてください!」
こうなったらもう半ばヤケで、強気に出てみる。
眼魔砲がきませんように、眼魔砲がきませんように……!!
俺がそんな風に考えていると、シンタローさんはしばらく黙っていたけど、やがて諦めたようにため息をついた。
「……ったく……、わぁったよ。勝手にしろ」
神様! 俺生きてていいんですね?!(錯乱)
眼魔砲は逃れたみたいだ。
生命って素晴らしい!
良かった良か……ん?
「…………」
「…………」
……あの……今の体勢って……。
「おい……。」
かなり、ヤバイんじゃないでしょうか……?
今更になって気付いたけど、仰向けになった彼の上に乗ってる状態……。
「リキッド……?」
うわっ! 名前なんて呼ばないで下さいよ!!
多分あるはずの理性がギリギリと音を立てている。
ヤバイ。
崩壊しないで俺の理性!
早くどかなければと思う反面、体が動かない。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!
心臓が痛いくらいに良く動く。
顔とかすげぇ熱くて、見られんのが嫌で下を向いた。
こんな事言えない。
「どうした?」
そんなこと知る由もない俺の下にいるこの人は、何でか、いつもより優しい感じの声で語りかける。
おまけに「熱でもあるのかと」額なんか触ってくるもんだから……!!
この人はこっちの気持ちなんか知らない。
そう思ったら急に憎たらしくなる。
こんなにも焦がれているのに、本当に気付いていないんですか?
「あのっ……!」
「ぁん?」
口の中で小さく「すんません」と呟いて(多分聞こえなかったと思う)、彼に何かを言う暇なんて与えずにその口を塞いだ。
きっともう、理性なんかどこかに飛んでしまっていて。
「っ……ふっ……!」
口端から漏れた声。
絡めるように動かす舌から、ぎこちなく逃げるそれを追いかける。
「っう……」
少し暴れる彼は、たぶん捻った足を動かしてしまったのだろう、ビクリと震えた。
一度放すと、肩で息をしながら睨み付けられた。
こ、怖っ!
「てめっ……!」
手当てはどうしたと目線が言っている。
俺自身、折角許してくれたのに卑怯だと思うけど……。
でも、俺だって引けない。
もう行動に移してしまったんだから。
「すんません、でもっ……」
あなたが好きなんです。
そう言って、もう一度……。
他に何も考えられなくて。
「んっ……」
深く深く、重ねる。
愛しいこの人。
心地良い髪を梳いていた手を、ゆっくりと下へと移動させる。
濡れた肌が冷たい。
いや、ホント、すんません。
俺、かなりアナタに甘えてます。
けど……。
ああ。俺もう、本当に、絶対。
隠したりなんか出来っこない。
END
--------------------------------------------------------------------------------
後書き
その腕、その手、その指、熱をもった全てが愛おしい。
脱兎。
「ギリギリだぞ!」と中国人師匠に言われそうな感じで。
えっと、『愛しき素直さ』の前の話のはずだったもの、です。
あまりの恥ずかしさに散々隠しページにしようかと思い悩みましたが……。
結局出したんですね……。(遠い目)
それにしてもヘタレじゃないリキッドなんて別人だ!!(酷!)
2004(May)
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0524
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「「シンタローさーんっ」」
「よぉ、エグチくん、ナカムラくん」
訪ねてきた胸キュンアニマル達に、穏やかに微笑むシンタローさんは、あんまり直視できない。
ものすごい俺の心臓に悪いから。
この組み合わせはヤバイ。ホントに。
「お誕生日だって聞いて、お祝いにきたのー」
「きたのー」
「そっか、ありがとな」
っ……! 可愛すぎるっ……! どっちがとは言わないけどっ……!
言わなくても分かるだろ?! この状況を前にすれば!
二匹を撫でながらお礼を言って、見送る姿。
ああ、和むよなぁ……。
って、そうじゃない!
和んでる場合じゃない!
俺だって祝いたい気持ちは同じ。
「おめでとう」の一言くらい、五秒足らずで済むのだろうけど、変に意識しちまって、言い出せない。
落ち着け俺。たった一言じゃないか!
……良し、言う。
言うぞー。
「シン……」
「シンタローさぁ~ん!」
「私たちの愛を受け止めてぇ~!!」
……いや、いつかはくると思ってたけどさ、 なんてタイミングの悪いナマモノ達なんでしょうねっ……?!
「眼魔砲」
さっきとは打って変わって、冷酷にナマモノどもを一蹴する。
うわ、黒焦げ……惨い。
まあでも、ゾンビの如く不死身に甦る生命力なのであんまり心配はしてない。
ったく、また言えなかった。
今日に限って……いや、今日だからこそ、この家には来客が多い。
「いっそどっかで大々的にやったほうが良かったんじゃねぇか? パプワ?」
俺がそう言うと、パプワはいつものように扇子を広げながら答えた。
「みんなそれほど暇じゃないんだぞ。状況を考えろ状況を」
確かに、今は島ごと空間移動したりとか、色々忙しいけどさ。
じゃあこの来客数はなんだよ……。
多すぎなんだよ。
……たぶん、パプワも彼と共に過ごしたいと思ってるんだろう。
素直じゃないよなー、ホント。
しかし、
「シンタローさん~」
この状況じゃ、
「シンタローさんっ!」
いつまで経っても言えそうにない。
流石、愛されてます。
「シンタローはぁ~んっ!」
「眼魔砲」
……余計なのにも愛されてます。
今日はまた一段とよく飛んだな……。
花、添えとくか。
「ったく、余計なもんまで来んなっての」
余計って、シンタローさんにまで……同情するぜ、祇園仮面。
けど、何にしろ後回し。今はそれどころじゃない。
「あ、あのっ……!」
「あん?」
やっと人口密度が減って、いつもの人数になったところで、やっと……。
今度こそ言う。言うんだ俺っ!
「よぉ、邪魔するぜ」
……今度はどなたデスカ?
何なんだこのタイミングの悪さ!
俺に恨みでもあるのか? えぇ?!
「何であんたたちまで来るんだよ……」
シンタローさんが訝しげな視線を向けたその先には、心戦組の面々。
……はっ?! ウマ子はっ……?!
……どうやらいないらしい。
よかった! 生きてるって素晴らしいっ!
「んなことぁ、こいつに聞いてくれ」
煙草をふかしながらしれっと言うトシさんは、近藤さんの方を指差した。
っていうかアンタら来るなら来るで、もっとタイミング見てくれませんか?
「いや、島では一応ご近所さんな訳ですし、何もないのもどうかと思いまして」
「……そう言うからには、手ぶらってこたぁないんだろうな?」
……俺様モード入ってます。
もともと組織自体が敵対してるようなもんだから、仕方ないのかもしれないけど。
でも、どっちかというと天然で。
「えぇ、今ウマ子が、祝いにと熊を獲りに……」
「「いりません。」」
そんな危険物は。
う……前に見たトラウマが……!
「ホント、祝う気持ちがあるならその分現ナマよこせよって感じですよね」
……こっちはこっちで怖いし。
「ソージ! お前はまたそういう……!」
「三段突きみね打ち」
……床、掃除しないとなぁ……。
「ったく、何しに来たんだよ」
「そりゃこっちのセリフだ」
熊は要らんからとっとと帰れと言わんばかりに、トシさんを睨みつける。
俺様継続中。
「俺は別に、商売敵の頭の生まれた日なんて祝う気ねぇよ」
トシさん、じゃあホント何しに来たんっスか……。
シンタローさんの機嫌損ねるくらいなら帰って欲しいんですけど。
「おいリキッド」
「え、はい?」
何でそこでいきなり俺に振る?!
とか思ってたら、何か投げてよこされた。
「どーせ飲まねぇからな。お前にやるぜ。 同居人とでも飲みな」
手の中のものを確認する。
言った言葉から大体予想は出来たけど。
……酒。
和風の。つまり日本酒ってやつ。
わざわざ俺使って関節的に渡さなくても……。
自分で渡せばいいのに、この人も大概素直じゃない。
「それじゃあな」
用向きもすんだからと言って、近藤さんを引きずって帰っていく。
……局長だよね? 一番偉いんだよね? あの人?
未だ流血したまま引きずられていく姿からは、全く想像できないけど。
「何がしたかったんだ、あいつ等は……」
大きく息をついて、シンタローさんがドアを閉める。
ちなみに熊は念を押してお断りした。
この大事な日にウマ子に構ってる暇はないんだっての。
つーか今度こそ言えるだろ?
もういい加減次があったら泣くぞ俺は?!
「シ……」
「だぁー、何か疲れたなー今日」
……今度は当人に言葉を遮られました……。
……もぉ泣いて、いいっスか?
って言うか実は故意ですか?!
まさかこの間頬にしたことを、まだ怒ってる……ってことはないと思うけど……。
たぶん……。
「贅沢者め。みんなお前に会いにきてたんだぞ」
俺が言うより先に、パプワが答えた。
その「みんな」のおかげで俺はまだ言えてないんっスけどね!
「ん……そっか」
あ……。
今、なんか……。
呟いたその声が、すげぇ嬉しそうだった。
「何っつーか……こういう風に会いに来られるのも、嬉しいもんだな」
本当に、少し照れくさそうに、ふわって感じで笑って。
その顔は、やっぱ心臓に悪い。
鼓動が痛いくらいに早く打つ。
「みんなシンタローが好きだからな」
「わぅ~!」
パプワが言った言葉。
確かに、みんな彼が大好きで、彼も嬉しそうにそれを受け止めている。
「おめでとうナ、シンタロー」
「わぅ!」
不意に、先を越された。
くっ……! 俺が言いたかったのにっ……!
「ああ、サンキューな」
けれど、
そう言って笑う顔を見ていると、嫉妬する自分を、馬鹿みたいだって思う。
やっぱ俺、相当この人のことが好きだ。
「シンタローさんっ、あの……」
そのたった一言に緊張して、震えてはいたけれど。
やっと言い出しかけたそれに対して、笑顔で……。
「てめぇ、一昨昨日の……今度やったら殺すぞ? 変態ヤンキー」
いや、笑顔だけど、目が笑ってない……。
やっぱまだ怒ってるんですね。
プレゼントだと思って許してくれたりとかしません?
……って、今はそのことじゃなくて!
「そ、そうじゃないっス! 俺はただっ……!」
「ただ?」
正面から見つめて(睨みつけて)くるのは反則だと思います……。
「その……一言、『おめでとう』を、言いたくて……」
ああ、もう、普通に言えば済むことなのに。
何でこんなことまで言ってんだ、俺は。
「ふぅん」
『ふぅん』って……それだけですか?!
俺はそんな一言で片付けられちゃうんですか?!
うわっ、すげぇショック……。
「……どうした。はやく言えよ」
「へ……」
てっきりそこで終わったと思った会話は、まだ続いていたらしく、シンタローさんは、まだ俺を見ていた。
「言ってくれんだろ?」
苦笑して、促すような言葉。
「祝ってくれんなら、受け取っとくぜ?」
沈んでいく気分を、その一言がすくい上げた。
自分のことながら、かなりの単純ぶりだよな、俺も。
こんな風に言ってくれるから、俺は――――。
あなたに――――。
「っおめでとうございますっ! シンタローさんっ!!」
精一杯の気持ちを込める。
デカイ声だすな、とどつかれたけど。
小さく「ありがとな」と言ったのも、確かに聞こえた。
『ありがとう』を言いたいのは、むしろ俺のほう。
島のみんなに好かれていて、
家事全般が上手かったり、
天然俺様体質だったり、
人をこき使ったり、
けれど、
色々言いながらも、人の誕生日を祝ったり、
向けられた言葉に、照れながらお礼を言ったりしてるあなたが――――。
今、ここに、いてくれる。
だから、
『おめでとう』と『ありがとう』を――――。
END
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後書き
す、すごい……人(ナマモノ含)がたくさん出ているっ……!
(いっつもリキシン(二人だけ)ばっかり書いてるから……。)
要するにシンタローさんはアイドルです。(何)
続きものにするはずだったのにほぼリンクしてません。(オイ)
というか互いに相手目線で祝おうとしただけなのに、
リキッドばかりが幸せそうってどういうことなんデスカ?!
2004(May)
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