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ks*
交わった後の余韻に浸っていると体が冷えてきた。
すでにシーツは剥ぎ取っていたし、今更がっつくような仲ではない。
着衣ではなく素肌のまま触れ合っていた所為か触れ合うところだけ熱く、剥き出しの肩や背などはひんやりとした空気を感じていた。
  

「寒くないか?」
腕に抱きこんだまま従兄弟に尋ねると彼からは掠れた声が返ってくる。
「…べつに。眠い」
わずかに赤く腫らした瞼は眠たげだった。閉じようとする重力に逆らうように必死で目を開けている。
「明日はオフだ、ゆっくり眠っていればいい」
汗でしっとりした髪を撫で付けてやるとシンタローは上目遣いでじっと見てきた。
「眠い」
「だから眠ればいいだろう」
「体が気持ち悪いんだよっ、中に出しやがって」

それはすまなかった。
抱き込んでいた腕を外し、起き上がってバスルームへと向かう。湯に浸したタオルを持ってくるとシンタローが腕を伸ばした。
  
「ソレ、寄越せ」
自分で拭く、と言いたいのだろう。それには反論することなく素直に渡してやるとシンタローがほっとため息を吐いた。
  
馬鹿なヤツだ。
ぺたりとシーツの上に座り、互いの汗や体液でべたべたとした体を拭くシンタローを俺は黙って見る。
くそっとか舌打ちしながらごしごしと力を入れて拭くシンタローはかわいい。
上体をあらかた拭いて腿へと彼が向かおうとしたとき、俺も彼へと指を伸ばした。

「なにすんだよっ」
タオルを持っていた手首を掴み、転がすように押し倒すと面白い具合に足が浮いてくる。
カエルを解剖する時のような体勢にすると、彼は持っている力を振り絞るように足をばたつかせ始めた。

「ふざ…けんなっ、キンタロー」
あんだけやっといてまだ足りないのかよ、盛るな、やめろ、イヤだ!とシンタローは足をばたつかせ振りほどこうと暴れる。
けれども普段とは違い、情事のけだるさと体への負担の所為で痛くも痒くもなかった。

「シンタロー、勘違いするな」
彼を攻め立てるときのようにぐいっと足を開かせて体を割り込ませる。
「きれいにしてやるだけだ、ココは自分ではうまくできないだろう」
ひくつきながらもとろりと俺の残滓を流すソコを指ではじいてやると、シンタローは小さく声を漏らした。

「や、め…ひとり、…でき、る」
「たまには手伝わせろ。原因は俺にあるんだからな、責任を取ってやる」




暴れ、掠れた喉を振り絞るように喚いていたシンタローも指を差し入れると急に大人しくなった。
もとより、疲労した体ではろくに抵抗など出来ないのは充分分かっていたのだろう。
抵抗も軽いものだった。


慣らしたときのようにじっくりと、たんねんに繊細な注意を払って指を入れる。
緩んでいたそこは難なく俺の指を貪欲に飲み込み始めた。
くぷくぷと音を立てて溢れるそこにタオルを当ててやる。
抵抗などもうない。掴んでいた手は当に離していたし、俺はもうシンタローを押さえ込んでいない。
シンタローは足を自分で閉じて逃げようとすることが出来るのにしないでいる。
人差し指だけでは作業が進まなかったので、中指も差し入れると肉の環が窄まった。

シンタローは全身を小刻みに震えさせている。
必死で歯を食いしばっていた。

気づかない振りをして、鉤型に間接を曲げて掻き回す。溢れ出すくちゅっとした水音に比例するように彼の息が荒くなっていく。
「どうした、シンタロー。具合が悪いのか」
はあはあと熱い息を吐くシンタローを気遣うように装いながらも手は休めなかった。



水音がやみ、出したものはすべてタオルが吸い取ったのに俺は指を引き抜くことはしない。
シンタローも自分の中がどういう状態くらいは分かっているだろう。
粘着質な音ではなく、指で擦る音が内部で響いているはずだ。
じわじわとシンタローの自身が勢いを取り戻し、赤みを帯びながらふるふると天を仰ぐ。
呻き声だけで、声を抑え、息を吐きつづけるシンタローに、
「もういいな、抜くぞ。充分きれいになった」
と言うと彼は自分で俺の指を締め付けた。

「わ、かって…クセ、に」
息を荒くしたシンタローが足を絡めてくる。
「なにがだ」
意地悪く、空いた手で彼の片側の腿を押し開きすばやく抜き取る。

「や、あ…、抜く、な」
シンタローの目には涙が浮かんでいた。ぱくぱくと口を鯉のように開けて荒い息が止まらない。

「そんなことを言っても、充分きれいになっただろう」

シンタローの下に当てていたタオルを再び手にとって、使っていた二本の指を拭く。
あたたかかったはずの布地はすでにぬるくなっていた。



シンタローは息を吐くのも困難になっていた。ぼろぼろと涙をこぼし、シーツをぎゅっと握り締めている。
「ひ、ど…な、」
なんでという言葉すら口から吐けない。
全身を戦慄かせ、必死で俺を引き寄せようと右手を上に上げる。
伸ばされた指を手にとってやると、息を吐くだけではなくだらしなく唾液をたらしていた口が笑みを形作った。
「キ…ンタロ」
俺が彼の熱い熱を取ってやるのかと思ったんだろう。
ちゅっ、と軽く音を彼の指先に立ててやるともう一度俺の名を呼んだ。
「な…キンタロッ、はや…」
口づけた先から、爪や指の関節を舐めしゃぶる。仰ぐ彼自身を口淫するのに見立てて吸い付くと身をよじった。

「キンタロ、ゆび、や…」

だが、ゆびではないものをせがんだ彼を裏切る言葉と動作を取る。

「手伝ってやるから自分でしろ、シンタロー」

仰いでいるシンタロ-自身を彼の手指をとって、間接的に握りこむとシンタローは泣きじゃくった。
「や、だ…キン、タロ…や、やぁ…あ、ふ」
「いやじゃないだろう。気持ちがいいくせに」
俺の指は添えられただけだ。けれどもシンタローは体を震わせ、泣きながらも自分で慰めている。
彼が自身を動かし、肉が擦れるいやらしい音を立てているのを添えた手を通して俺は感じている。

涙声でいやだと連呼しつつ、シンタローは動きを早め続ける。
ぐちゃぐちゃに涙で濡れた彼からは不明瞭な言葉しか漏れない。

「や、や、ああ、あ…ん、ん!あッ」
ぐちゅっと音が立った。今までで一番大きい音が。
握り締めていた彼の手から俺の掌へと熱い感触がじわりと伝わってくる。
呆然自失といった表情のシンタローは固まったままだった。
体を寝かせて、彼が放ったものを拭き清めてやる。


すばやく清拭を終え、シンタローを覗き込むと彼は虚空を見据えていた。
生理的な涙が伝わる目じりに舌を寄せて掬い取ると、うす塩辛い味が口内に広がる。

「最初に一人でできると言ったのはお前だっただろう」
囁いても彼は何も答えぬまま、ただ虚空を見つめていた。



END



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ks*
「こんな姿にしてどういうつもりだよ」
睨みつけながらキンタローに訴えるとしらっとした顔でヤツは答えた。

「人間が猫になれるのか実験したまでだ」


ふざけやがって。俺の意思はどうでもいいのか。
勝手に酒に一服盛りやがったな。
大体俺でなくても高松のところの助手とか、若い団員とか、アラシヤマとか親父とか選択肢は一杯あるだろうよ。
なに考えてんだ、こいつは。

「俺じゃなくてもいいだろッ」
こういうことは他のやつにしろ、とソファに体を投げ出して怒鳴ってもキンタローの表情は変わらない。
ふっと口角を上げ、普段から言っている言葉を吐いた。


「おまえでなくては嫌だ」

だーかーら!!俺じゃなくていいだろって言ってるだろ。
俺じゃなきゃ嫌なんて…んなコト、今言うんじゃねえ。


とりあえず鏡の前に立ってみろ、とにやつくキンタローに悪い予感が胸をよぎった。





***


無理やり脱衣所に引きずられ、鏡の前に立たされると案の定異形の俺が写っていた。
ソファに座っていた時から感じた違和感どおり鏡の中でぱたりぱたりと尻尾が動いている。
タンクトップから出た二の腕は目覚めてすぐに気づいた。
灰色がかった濃い紫のふわふわの毛がそよいでいる。
まさか、と思って胸の前を掴んで視線を落とすとそこには毛が生えてはなかった。

「全身じゃねえみたいだな」

剥き出しの方は艶やかな毛並みで覆われてはいない。
胸にもないとなると、腕と尻尾と…ああ、あとは頭の上の耳だけか。

全部が全部、猫のようになったわけではないようだ。

だが、気に入らねえ。
わざわざ騙してこんな姿にしやがって。

拳を握り締めようとするとふにっとした肉球が邪魔をして指が曲げられない。
気のせいではなく、指自体が短くなっているのも一因のようだ。

眼魔砲は…撃てねえだろう。



「おい、キンタロー。早く戻せよ。ちゃんと動物になれたんだろ、実験は終わりにしろ。
おまえのことだから解毒剤は用意してんだろッ!」

寄越せ、と腕を出すものもなんとなく格好がつかない。
そのうえ、キンタローはにやつきながら意地悪く拒否してくれた。



「それよりも、シンタロー。今見えてる部分だけ変わったかと思っているのか」
「ああ?」
「尻尾が生えてるだろう。…ああ、悪いが勝手に穴を開けた。脱がせたときに俺は確認済みなのだが」


急いで胸を確認した時と同じようにカンフーパンツの紐を緩めて、覗き込む。


「…ッ!!なんなんだよっ!これはっ」


俺の下半身は、いや正確に言うと太股までが腕と同じく毛で覆われていた。





***


ふざけんな、なに考えてるんだ、おまえは。
この変態。いつも好き勝手しやがって。
大体、俺を実験にするのがおかしい。つーか、やめろ!絶交するぞ!
あーもー、なに考えてるんだよ。
百歩譲って猫にするのはまだいい。いいか、譲ってやってだぞ。
するんだったら完璧に猫にするとかな…あー、ホントおまえ馬鹿だ。
頭いいけど馬鹿だ。なに考えてるんだ。これじゃ中途半端に露出してて俺が変態みたいじゃねえか。
靴下履いたままスルのとは訳が違うんだぞ!!くそっ。
いいか、今日はもう指一本触らせねえからな。
実験だからって俺は同意したわけじゃないんだからな。

おまえが変だっていうのに…このまんまでいたら誤解うけるだろっ!この×××野郎!



「言いたいことはそれだけか」

ぜえぜえと息をついた俺にキンタローは素っ気無く言う。
なんだって、あんなに言ったのに分からねえのかよ。

「いいからとっとと戻せ。今すぐにだっ!」

「その戻す薬はここにはない。ちゃんとおまえの手が届かない場所に隠してある」

「ふざけんなっ、ぶん殴るぞ」
「その腕でか?」

ぐっと詰まった俺に目を細め、キンタローはさっと視線を横へと移した。


「そういえば飲んでいたから風呂に入ってなかったな」

「俺が綺麗に洗ってやる」



まずい…コイツ本気で言ってやがる。
くるっと背を向けて部屋へと戻ろうとする。
だが、逃げるよりも早くぎゅっと尻尾を掴まれた。

「ぎゃっ!」

爪先から頭の天辺まで悪寒が駆け上がる。
逃げようと思っていたのにへなへなと力が抜けていく。
ぺたりと膝をつくと、キンタローがしゃがみ込んで俺の髪を片手でかき上げた。
もう片方の手は俺の尻尾を掴んで離さない。
二度三度指先に髪を絡め、そしてその指を顎へと持ってくる。


(キスする気かよ?)

尻尾が掴まれたままで力が出ない。
だが。

舌入れてきたら噛み付いてやると待ち構えているとキンタローは思いもかけない行動を取った。



「シンタロー」
少し腰を浮かせて、ふっと新しくできた耳に熱い息と囁く声が吹き込まれた。
何故だか、掴まれている尻尾が震える。



抵抗する力なんか…もう出ない。でも…。



「安心しろ、可愛がってやるから」


ンなこと言われても誰が安心するか。
いい加減に尻尾を離せ。あ、待て。脱がすなっ。


「あとで首輪もつけてやるからな」



ふざけんなキンタロー、ああ、もう最悪だ!!


でも…抵抗なんて。もうできやしない。



ここまでくれば、もう言いなりになるしかないのだ。
意識がない間に穴を空けられたカンフーパンツは無理やり破り取られてしまったし、タンクトップだって引きちぎられて床の上にある。
下着だってとっくに身に着けていない。

変質者としか思えないような姿のままバスルームへと引きずり込まれる。

尻尾は握られたままだ。
ここまできたら逃げることなんて出来ないのは分かっているのに、キンタローは俺の尻尾をしっかりと握りこむ。
足の裏も手と同じように肉球となっている。
バスルームのタイルはひんやりとしていて、思わず掴まれたままの尻尾がじんじんとした。

いつの間にかキンタローはシャツの袖を捲り上げていた。

「……キンタロー?」
できることならここで引き返して欲しい。
願いを込めるように彼の表情を伺う。けれども、彼からは無情な宣告しか聞けなかった。


「シンタロー、綺麗にしてやるから膝で立て」


もう、抵抗は出来ない。
俺はそろそろと冷たい床に膝を着いた。



***



「!!熱っ」

かけられた湯の熱さに耳がふるふると震えた。
また、尻尾にびくびくと振動が伝わる。

「ああ、すまない。今は猫だったな、もう少しぬるめにしよう」

すぐさま温度が調節され、心地よく感じる湯が髪から膝へと伝わっていった。
ふわふわとした毛並みが濡れて張り付くのを確認すると、キンタローがシャンプーを取ろうと腕を伸ばした。
その間、シャワーヘッドは固定され湯が流れていたため寒さは感じなかった。




髪を洗われることはべつに初めてじゃない。
床屋でだってあるし、ガキの頃は親父が洗ってくれたりした。
目の前のこの男が洗ったことだって何度もある。
だが、今ここで俺の髪を流れる指の感触はそのどれもと違う感じがした。



何故違うのだろうと、ぼんやりと考えていると再び湯が注がれる。
髪を洗う気持ちよさにいつのまにか時間の感覚も鈍くなったらしい。
湯を流す間も絶えずキンタローの指先は俺の髪を梳いていた。
耳の後ろを洗われたときようやく違和感の原因に気づく。

(そうか…耳が猫みたくなってたな)



泡をすべて流し去るとキンタローが今度はボディソープを手に取る。
とろりとした乳白色のそれを肩から順に擦りこむように泡立てられる。
髪の毛を扱っていたときと同じように腕の毛並みは丹念に洗われ、立たされてから背筋や腰を洗われ、下肢へと洗う手が進んでいく。
彼の動きに反応しないように耐えようと天井の方を見つめる。必死に別のことを考えようと頭を動かす。
大体、コイツは一緒に風呂に入るとここからやらしい手つきになるんだ。


案の定、キンタローの手つきは緩慢ながらも俺を高みへと押し上げるものだった。
彼の指の動きに翻弄されないように、我を失わないようにと俺は必死で別のことを考えようとする。

太股にソックスのように生えた毛を撫で擦られたときも、胸板へと滑る指先が胸の尖りを掠ったときも。
腰のくびれを泡とともに擦られ、臍の周りを円を描くようになぞられたときも。

必死で別のことを考えてやりすごす。



だが、すっと指が後ろへと回され、尻尾を擦られると「あっ」と小さい声が出てしまった。

「尻尾が感じるのか」
「…ッ!いきなり触るから驚いただけだっ」
「そうか」

くっと笑って、キンタローがぎゅっと尻尾を掴む。その力に擦られたときよりも大きな声が出た。

「ンンッ…アッ!」
「どこが感じてないんだ?シンタロー」

さて、とわざとらしく言いながらキンタローが指を前へと滑らしてくる。

「胸から腹はつるつるのままにしたのに…ここは邪魔だな。猫らしくない。美観を損ねる」
洗うだけじゃないのかよ、と訴えた言葉は当然の如く聞き入られない。
いやだ、と抵抗しても腕に抱きこまれいつの間にか反転させられて背面座位のように姿勢をとらされる。
無理やり足を開かされて、閉じようとばたつかせても尻尾を握りこまれると封じられてしまう。

いつの間にか手に持っていたシェーバーをチラつかせられ、体から力が抜けていく。
もう抵抗は意味を成さない。
心の奥底、いやそんな奥を探らなくても俺はもう抵抗する気など起きていないのだ。

脱衣所とは違い、鏡がない。

けれど、分かる。俺は今きっと怯えの中に媚を売るような表情をしている。
それが、キンタローを煽るのだ。いつも、いつも…。

シェーバーの電源が入った。
朝、身だしなみを整えるときと同じ繊細な指使いが下肢を走る。
尻尾の戒めが外され、長い指が柔らかな毛並みの下に滑らしていく。


「キンタロ、オ…」
「おまえが動かなければ大丈夫だ」

左手で俺のモノを軽く押さえられた。
キンタローの息が肩口に当たる。
熱い。吹きかかった場所がぞわりと粟立つ。


「そのままじっとしていろ」

茂みにそっとシェイバーの刃が当てられる。
ヴィーンと機械音が鳴り、下腹に振動が伝わる。
掬い取るように当てられ、シュ、シュ、シュと軽い音を響かせて剃り落とされていく。

「や、ふざけ…」
動くことは出来ない。
徐々に露出させていくそこを見るのが気恥ずかしい。なんとはなしに目線は風呂場の壁へと逸らされていく。
形ばかりの抵抗を口にしてもキンタローの手は止まらなかった。





「どうする?シンタロー」
剃られた毛を落とすために湯をかけながら、キンタローが囁いてくる。
シェーバーを当てられる間、尻尾に回されていた手が傷つけないようにと前を握りこまれていた。
尻尾を掴んだときのようにぎゅっとするのではなく、ゆるゆると縦にも横にも動かされそこは確かな兆しを見せていた。
今もただ流すだけでなく、シャワーを持っていない手で張り付いた毛を払い落とすように触っている。
張り詰めたそこはじんじんと熱を上げていく。
注がれる湯が止められた後もなお、キンタローは俺を弄っていた。


波のように襲ってくる快感はもうやり過ごせない段階に来ている。
何度も高波を堰き止められ、もうどうしようもない状態に陥って荒い息をつく俺に後ろから熱い息がかかる。

「さあ、どうする?シンタロー」
ここでするか、ベッドがいいかと囁かれると返事をするどころではなく。
キンタローの声だけで堰が崩され、自分が熱い飛沫が放出するのをぼんやりと見ている羽目に陥った。


「答えを貰っていなかったのにな」

べとついた手を見せつけながら、わざとらしくそれを舐めとる。キンタローはうすく笑っていた。





***


風呂から出て、寝室へとどうやって戻ってきたかは分からない。
たしかに自分の足で来たのは覚えているのに、頭の中がふわふわとしている。
いつの間にか猫のように四つ這に姿勢をとらされ、後ろから掠めるようにしか与えてくれないキンタローの愛撫に思考が奪われている。
背骨や腰のくぼみをなぞる指がどうしようもなく焦れったい。
じわじわとしか与えられていない快感をやり過ごそうと頭を振ると濡れて重くなった髪がばらばらと肩へと落ちてきた。
自分の髪が触れる感触すらも今は快感となっている。

「どうしてほしいんだ、シンタロー」

さっきみたいに触って欲しいのか?ちゃんと言えばしてやるぞ。
俺を追い立てようと意地悪くキンタローが尻尾の先を指でつついた。
そのままびくびくと震え、アンテナのように立ち上がったままの尻尾を掴む。
俺を捕まえたときのようにぎゅっと締めるのではなく、指で作った環の中を扱くように擦られた。

「前も後ろも立てていやらしいヤツだ」

まだ猫は発情期ではないぞ、と笑いながら尻尾の付け根に手をかける。
中指で円を作ったまま、親指で入り口を引っかかれてたまらない震えが沸き上がる。


「さあ、どうする?シンタロー」



***




緩やかでもとめどない刺激に観念し、キンタローが言わせたかった言葉を口にするとすぐに熱い楔が打ち込まれた。
待ち構えていたものの感触に体の中が震え、彼を煽ってやろうと言わんばかりに収縮する。

「あっ、や…いや、あ、あ」
「猫みたいに鳴いてくれないのか、シンタロー」
それともまだ足りないのかもな、と打ち込む動きを強くされ、体が刺激でのけぞる。
後ろから攻め立てるキンタローのヘアで尻尾が擦られ、びんびんと震える。


「ひっ…ん、んあぁ…。あっ、い、い」
「こういう楽しみ方も…っ悪くないな」
双丘に手をかけられ、ぐっと開かされてより奥へとキンタローが突き進んでいく。
ゆるやかな突きと抉るような差込とでシーツにぐっしょりと水溜りのようなしみが出来ていた。




「あ、も…キン、タロッ、無理ッ」
快感を最大に得ようと勝手に体が動く。獣のように腰を振って押し付けるようにねだる。
互いの息は荒い。
ラストスパートまでもう少しとなり、ねだる動きも与える強さも激しいものへとなっていく。


「あ、っ…ん、キン…タロ」

荒い息を吐き、言葉にならない声をつむぎながら互いの名を呼び合う。
一呼吸、ぎりぎりまで引き抜いた後、深く抉る刃が訪れた。

「シンタロー」
熱い呼びかけとともに放っておかれていた尻尾が擦られた。
ピンと立ち、敏感になっていたそこから刺激が全身へと伝わる。

「んんんにゃぁぁあ!!っあ、あっ!」
味わったことのない刺激に耐えることが出来ず、本物の猫のように甲高い叫び声が喉をついた。






「目が覚めるころ元に戻しておいてやるよ」

流し込まれる奔流が途絶えた後、そんな囁きが聞こえた気がしたが何か言う前に俺の思考はフェードアウトした。


END



ms4
息を整え、汗の引いた体を起こして、マジックはベッドから下りた。
敷き詰められた絨毯の感触が裸の足の裏をくすぐり、気持ちがよい。
シーツに包まったままの彼の愛息子はあーとかうーとか唸りながらぐったりとしている。
ミラー越しにそんな様子を見つつ、ガラステーブルからマジックはグラスを手に取った。
ガラスの表面は冷たい冷気の粒ではなくいつの間にかテーブルまで水を滴らせていた。
中身を口に含めるとぬるい酸味が口に広がる。
果汁のうまみも香りも吹き飛んだそれでとりあえずマジックが喉を潤していると背後から声がかかった。

「……悪ぃ。俺にもくれ」
喉渇いた、と掠れ気味の声でシンタローはマジックに頼んだ。

「ああ。さっきシンちゃんが飲んでたやつ?パパ、今飲んでみたけどぬるくて美味しくないよ」
それでもいいの?とマジックはベッドの方へと顔を向けた。

「甘い方がいいのならルームサービスを頼むよ」
「……いい。とりあえずなんか飲みたい」

自分のグラスを置いて、マジックはシンタローの飲んでいたものを手に取る。
マジックがベッドへと運んでいくとシンタローはゆっくりと体を起こした。

「はい。シンちゃん。でも本当に美味しくないからね」
「あー、はいはい」
いいんだよ、と言いながらシンタローは渡されたグラスに口をつけた。
喉を通るグレープフルーツジュースはマジックの言うとおり時間が経って味が落ちている。
それでもシンタローは一瞬、眉を顰めるも一気に飲み干した。

「すごく喉が渇いていたんだね」
「アンタが声あげさせたんだろッ」
シンタローはふんと鼻を鳴らした。
「ああ。それはパパが悪かったね」
ごめんね、とマジックはシンタローの手から空のグラスを取り上げた。
ベッドサイドのチェストにそれを置いて、マジックはシンタローへと指を伸ばす。

「……ねえ。シンちゃん、キスしてもいい?」
マジックはシンタローの顎へと手を添えて、くちづけを試みてもよいか窺った。
「……ん」
シンタローは静かに目を伏せる。毒づいていた息子が大人しくなる変わり様にマジックは気づかれないようそっと笑みをこぼす。

「愛しているよ。好きだと言ってくれてありがとう」


マジックの与えたくちづけは深いものではなかった。
そっと口唇が触れ合うと彼はすぐに離した。
それから、幼い頃、就寝前に与えたときのもののように掠めるように、目を閉じたシンタローの瞼にやわらかいキスを落とす。
くすぐったそうにシンタローは顔を僅かに背けると、頬へと寄せられていたマジックの指をそっと手にする。

「俺も……」
愛してる、といってシンタローはマジックの背へと腕を回した。





ゆっくりと互いを侵食しあうキスを終えると、離れていくマジックにシンタローは悪戯めいた表情で父の口唇を奪った。
シンタローが突然試みた啄ばむようなキスを与えられてマジックは思わず口元に手をやる。

「シンちゃん……可愛い」
パパはもうめろめろだよ、とずっと封印してきたふざけた口調でマジックはシンタローに言った。

「……ったく。可愛いとか言うんじゃねえよ。それよりさ」
「なんだい?」
「アンタ……痩せただろ」
前よりも、と言ってシンタローはじっとマジックの裸身を見つめた。
シンタローが毎日袖を通している赤い総帥服をマジックが着ていた頃、マジックは鍛え抜かれた体をしていた。
総帥という激務を何十年もこなしていても秘石眼だけには頼らずに遠征へ赴いていた。。

「最近ジムに通っていないから筋肉が落ちただけだよ」
マジックは息子の問いにそう答えた。ジムに通っていないのは事実だ。
引退して、あまり体を維持する必要性がなかったこともある。それにその時間を末息子の看病へと当てていた。

「そう……かな」
言われてみればそうかも、とシンタローはマジックを見る。

「それともういい加減年だからね。来月にはまたひとつ年をとるし」
段々体力も落ちてくるよ、とマジックは悲しげに笑った。

「え、アンタ年取るの気にしてたのかよ!?」
まだ棺桶に足突っ込むには早いだろ、とシンタローは笑う。

「うん。気にするよ。だってシンちゃんと年の差を実感するからね」
止まって欲しいくらいだよ、とマジックは苦笑した。
そんな父にシンタローは大きく嘆息する。

「……馬ッ鹿じゃねえの」

酷いよ、シンちゃん。パパの繊細な男心を分かってくれないなんて、とマジックは息子に言う。
けれども、息子は相手にもしない。

「年取るの気にしててパーティも止めることにしたのかよ」
止めたところで意味がないぜ、とシンタローは呆れたように言った。

「う~ん。パーティはね、別にそういうわけじゃないよ。年末で忙しいし、どちらかといえばコタローのほうに力を入れてあげないとと思ったから。
今年から……パパはちゃんとコタローのことを祝うよ」

だから自分のことはいいのだ、とマジックはシンタローへ言った。
年末を控えていて家族もそれぞれ仕事が忙しくなる時期だ。

「一度くらい私の誕生日がなくてもいいじゃないかと思ったんだ。コタローには寂しい思いをさせてしまったし、それに今年は私も仕事が入っているから」
必要ないんだ、とマジックはそっと目を伏せた。





「……でも誕生日に一人って寂しいよな」
黙り込んだ父親にシンタローは口を開いた。望んだことだよ、と言う父にシンタローは首を振った。

「俺が嫌なんだよ!だからッ、仕事はキンタローに任せるように手配して来月の12日は空けておいてやるから」
「……シンちゃん?」

「キンタローには上手い酒でもやればいいからさ。俺がアンタの誕生日を祝ってやる」
アンタの仕事先に押しかけてやるよ、とシンタローははにかむように笑った。

「今日みたいに?」
「ああ。いいだろ?」
少し照れくさそうにシンタローにマジックは仕方なさそうに頷く。

「もちろん、いいよ」
シンちゃんがしてくれることなら、とマジックは了承した。



*



デキャンタに残っていたグレープフルーツジュースを飲んでから、シンタローはバスルームへと向かう。
先にシャワーを浴びたマジックはシンタローを未練がましい目で見た。

「なんだよ?」
鈍い重さが残る体に眉を顰めつつ、シンタローはマジックを見返した。

「やっぱり一緒に入ればよかったかな……って」
バスルームへ向かうシンタローの足取りからマジックは息子の体を気遣う様子を見せた。

「一人で入れるっつうの!」
うるせえな、とシンタローはマジックに言い捨てた。

「そんな声出さなくても……。シンちゃん、今更恥ずかしがらなくたっていいんだよ?」
「ふざけんな!」

間髪入れずにシンタローに返事をされてマジックは大仰にため息を吐いた。

「分かったよ。……シンちゃんがお風呂に入っている間、パパは大人しくレストランの予約を入れておくから」
お風呂は今度でいいから、とマジックが言うよりも早くシンタローは
「とっとと予約しやがれッ!アンタと運動した所為で俺は腹が減ってんだよッ!!」
と投げつけるように叫び、バスルームのドアを閉めた。


残されたマジックは、シンタローの要望を速やかに叶えるべく、濡れた髪のまま受話器を取り上げた。





ms3
2週間を経てもなお、彼ら親子の関係は修繕されなかった。
こんなにも長帳場になったというのに焦れたシンタローが歩み寄る気配もまったくない。
ただ時を拱くのならばまだしも、むしろ、状況は段々と悪化してきている。
縋るような眼差しでマジックを見ていたシンタローがいつの頃か、視線を逸らすようになった。
キンタローとグンマはそんな従兄弟に最初こそ歩み寄って拒絶されたからでないか、と考えたがどうやらじっと観察してみると違う。
昨年度の決算の報告を探しに資料室へ赴いたキンタローは過日のファイルがないことに気づいた。
そしてそれが総帥室のデスクに入っていることにも。

あの写真が印刷されたページではない、けれど同じ人物が写ったページをすぐに開けるほどに折り目がついたそれを発見したとき、キンタローは思わず苦笑した。
どうしようもない親子だ。キンタローとグンマを巻き込んですれ違っているくせに、本心では同じ感情でいる。
元々、マジックの態度に不審を抱いただけなのかと思っていたが違ったらしい。
今もシンタローは視察に訪れた支部の貴賓室で憂いを帯びた表情でいる。
視線の先には飾り棚に置かれたマジックの著書があった。

支部の責任者との懇談が終えれば、帰還するだけだ。
少し休んでから帰る、とキンタローが伝えてからこの支部の人間は皆退席している。
ため息だけが続く部屋に2人でいるのも飽きてキンタローは口を開いた。

「いつまでそうしているつもりだ?」
視線を一点に集中していたシンタローは弾かれるように傍らの椅子に座るキンタローへと転じた。

「え?あ、悪い。結構休んじまったな。すぐに帰んなきゃいけねえのに」
テーブルの上に供されていた茶はすっかり冷め切っている。

「帰還の話じゃない。おまえと伯父貴のことだ」
キンタローの答えにシンタローはぎくりと身を震わせた。

「気づかないわけないだろう。俺もグンマも先月から迷惑しているんだ。とっととくっつくなり何なりしてくれ」
「くッ……くっつくって、ちょっ……キンタロー、おまえな」
何を言ってるんだ、と慌てるシンタローにキンタローは呆れたように息を吐いた。

「好きなんだろう。伯父貴が」
「好きって……親父と俺は親子だぞッ!」
何言ってるんだ、とシンタローはキンタローに詰め寄った。
動いた拍子にテーブルの上の茶碗が動いてがちゃっと音を立てる。
注がれたまま冷たくなっていた茶がガラステーブルへと揺れ零れて、うすいグリーンの小さな水溜りを作った。

「親子といえばそうだが、おまえたちは血は繋がっていないはずだ」
問題はない、とキンタローが言い切るとキンタローのスーツを掴んでいたシンタローの手が緩む。

「……問題、あるだろ。それでも親子なんだから」
血が繋がってなくても俺たちは親子だ、と苦しげに言うシンタローにキンタローの眉が寄る。

「親子でも好きなんだろう。今のような状態が辛いくせになにを逃げているんだおまえは。
伯父貴に離れられて寂しいくせに言わないし、おまけにおまえも避けてると思ったら未練がましく机に写真を入れていただろう」

「なんで知って……」

「見たからだ。昔の伯父のページかと思えば、引退直前に撮られたものだったがな。
写真なんぞ見ていたって状況は変わらないぞ。それこそ、そこの本の背表紙を穴が開くほど見ていたってな。
ガンマ団総帥が背中を見せてどうする。尻尾を巻いて逃げるおまえに俺もグンマも愛想が尽きてきたんだ。とっとと告白するなり押し倒すなりしろ」

キンタローはシンタローの髪を掴んだ。
ぎり、と黒い髪が擦り合わされ手の中で音が鳴る。その痛みだけではなく、シンタローは眉を寄せ、泣きそうな表情を浮かべた。

「好きだなんて言えるかよッ!親父にとって俺は息子なんだぜ。血が繋がってなくても息子だって言ってくれたんだ!そういう対象なんかじゃない!!」

離せよ、と髪を掴むキンタローの手にシンタローは触れた。
ふん、と鼻を鳴らしキンタローは渋々掴んだ髪を開放する。

「俺の調査ではきちんと対象範囲に入っている。
伯父貴とおまえはたしかに互いに親子だと認め合ってるがな、どっちも相手の気持ちに気づかないで恋に苦しんでいる自分を演じる愚か者だ」

「対象って……ンなわけ」
ないだろ、と呟くシンタローの口唇にキンタローは指で触れた。
戦慄くシンタローの口唇は青ざめて冷たい。

「伯父貴はおまえに惚れている」
シンタローの口唇をゆっくりなぞったあと、キンタローは静かな声でそう言った。

「告白しろ、シンタロー。伯父貴が好きで仕様がないんだろう」
友好国の顧問としての依頼が舞い込んでいる、とキンタローは告げた。

「駄目なら駄目でおまえは仕事に打ち込むだけだ。伯父貴は海外に行ってもらう」
いいから、告白しろ。年末はただでさえ忙しいんだ。チャンスは今だけだ、とキンタローはゆっくりと言った。

「……だけど」
「とっとと好きだと言いに行け。後のことは俺がどうにかする」
後のこと、とキンタローが言うとシンタローは目を見開いた。

「後のことってなんだよ?」
「振られたらおまえの自棄酒に恋人が出来るまで毎日でも付き合ってやる。
おまえのかわりに伯父貴の老後の面倒も見てやる。……ああそれから」

成功したら明日の仕事は俺だけで片づけてやる、とキンタローは笑った。

「だから、行ってこい。シンタロー」
弱いおまえなど価値がない、とキンタローはシンタローを見据え、一枚のメモを渡した。





*





シンタローが飛び出していってから、キンタローは椅子に座り込んだ。
手のかかるヤツだ、と頑固な従兄弟を思い出してため息を吐く。
ジャケットから取り出した携帯の短縮番号を押し、繋がる前に冷たい茶で喉を潤す。

数回のコール音の後、受話器の向こうで明るい声が聞こえた。

「もしもし。キンちゃん?」
「そうだ。今から帰る。……ああ、俺一人だ」

ああ、よかった、という声がキンタローの耳元に響く。

「お父様のとこへ行ったんだね、シンちゃん」
「ああ。……ちゃんと焚き付けておいたからな。今夜は帰らないだろう」

上手くいかないはずがない。
2人を思い浮かべて、キンタローはグンマに大仰なため息を吐いた。

「あはは。そうだね。まあ、明日2人で揶揄ってあげようよ。僕たちをずっとやきもきさせたんだから」
「そうだな」
笑うグンマにキンタローは同調する。
グンマもキンタローの反応にくすっと受話器越しに笑みを漏らした。

「あの2人は放っておくとして……キンちゃん。まだ支部でしょ?まだお仕事?」
「いや、もう挨拶をして帰るところだ」
「じゃあさ、早く帰ってきてよね。誰もいなくて今、暇なんだ。それから……」

2人がいないから、今日のお夕飯はキンちゃんが作ってね、とグンマは受話器の向こうで破願した。





キンタローに教えられたホテルへとシンタローが着いたとき、ちょうど人の波が崩れてゆくところだった。
著書の全巻刊行を終えた記念に開かれたサイン会はシンタローの想像していたよりもずっと多くの人間が集まっている。
会場から捌けてゆく人並みをくぐり抜け、父親の元へと急ぐ。
立ち止まると、気分までもが尻込みしてしまいそうでシンタローは駆け足のまま、裏口へと向かった。

歓声の湧く人の塊を押しのけて、赤い絨毯へと出て行く。
ここから先は来ないでください、と警備に当たっていた人間が一瞬シンタローを押し戻そうとしたが、顔を確認して手を出すのをやめた。
イベントの仕切りもなにもかもがガンマ団の息がかかっている。
自分のとこの総帥は分かってるらしいな、と肩を竦め、シンタローは父の背へと駆け寄った。

「親父ッ!」
「シンタロー!?」
どうして、と驚いたのはマジックだけでない。警護の者も付き従っている秘書もだ。
だが、シンタローは彼らを気にすることなく父親の顔をしっかりと見つめた。

「……話があるんだ。アンタが泊ってるとこ、一緒に行ってもいいだろ」
「シンタロー様!?どうされたんですか!?」
間に入ろうとする秘書をマジックは手で押し止める。

「人目があるよ。騒がないように」
「マジック様」
すみません、と謝る秘書にマジックは微笑んだ。

「……話があるんだね。分かったよ」
ついておいで、とマジックは軽く目を伏せてシンタローに言った。

「……ああ、そうだ。騒がせたね。みんな、今日はありがとう」
優雅に上げられた手に何事かと見守っていた周囲はわっと歓声を上げた。





車中は互いに一言も口を聞かなかった。
秘書もちらちらと助手席からミラー越しに窺っていたが、声をかけることなんてできない。
サイン会場に設定されたホテルから少し離れたホテルへと移るなり、秘書はフロントで受け取ったキーをマジックへと渡した。

「別室で控えていますので何かあったら及びください。お二人でごゆっくりどうぞ」

一礼する彼に親子は短く礼を言って後にした。




ピーッと電子音とともにロックが解除され、ドアが開く。
淡い色調の部屋はシンプルな内装だったが、よく見るとカーテンひとつシーツひとつとっても最高級のものだった。
ウェルカムドリンクとして用意されていたグレープフルーツジュースをマジックはデキャンタからグラスへと注ぐ。
シンタローへとそれを勧めると、マジックは用件を問いただす前に喉を潤した。


「……話ってなんなんだい?」
シンタローも口をつけ、喉が嚥下するのを見計らいマジックは問うた。
かちゃっと手にしたグラスをどちらともなくテーブルに置く。
冷たいジュースで冷やされたグラスから水が滴ってテーブルクロスの花模様がわずかに滲んだ。

「聞いて欲しいことがあるんだ。……驚くかも知れねえけど」
シンタローは両手を組んだ。
軽く目を伏せてから意を決して口を開く。

「俺さ、親父が好きなんだ。その……恋愛対象として」

口にした語尾が思わず掠れてしまってシンタローは口唇を噛み締めた。
しんとした沈黙が室内に落ちる。青い目を驚愕に染めたマジックにシンタローは泣きそうな気持ちになる。

「……俺とアンタは血が繋がってない。でも親子だ。それでも好きなんだ」
もう押さえられそうもない、とシンタローは組んでいた手を自分でぎゅっと握り締める。

「もともとアンタからすれば俺は対象じゃないだろうけど……」

「……シンタロー」
マジックは掠れた声で息子の名を呼んだ。

「いきなり、こんなこと言って迷惑だろ?悪かったな。忘れてくれ……」
涙声でシンタローは告白相手である父親から顔を背けた。
帰る、と言い残しドアへと向かう。


「シ、シンタロー!」


息子の行動にマジックは慌てて駆け寄った。ノブが回る前に手でシンタローの肩を掴む。

「……離せよ。悪かったから」
シンタローの掴むノブに涙が落ちる。ガチ、ガチ、と回せないノブが音を立てて、それからシンタローは背後から抱きすくめられた。

「私も――」
おまえが好きなんだ、と振り絞るようにマジックはシンタローの髪へと顔を埋めた。





「好きだ、好きだよ。愛しているんだ。シンタロー」
熱に浮かされたようにマジックはシンタローへ囁いた。
ドアノブからシンタローの指を外させ、正面から抱きすくめる。
勢い余ってシンタローは背をドアへと打ちつけたが、そんなことにかまっていられる余裕はなかった。

「マジ……かよ」
涙の溜まる目尻へとキスを落とされシンタローは呆然と呟く。
こんなことがあるなんて、と驚きでいっぱいだった。

「本当だよ。親子だけれど、パパはシンちゃんがどうしようもないくらい好きなんだ」
ごめんね、とマジックはシンタローに困ったように微笑んだ。

「父親失格だよね」
ごめん、とマジックはシンタローを抱き寄せた。それから、シンタローの背へと腕を回し抱え上げる。
対して体格など変わらない、むしろ年齢の経たマジックのほうが振りだというのにマジックは子どもの頃風邪を引いたシンタローをベッドへと運んだように抱え上げた。
「親父ッ!」
危ない、とシンタローはマジックに言う。けれども、マジックは息子の言には従わず、易々とベッドまで運んでみせた。
背中へ衝撃を与えることなくそっと下ろされ、シンタローはマジックを見上げた。
いつのまにかマジックの瞳には驚きと苦悩ではなく情欲の色が浮かんでいる。
父の手がシーツについて、それから体重をかけてベッドに乗りあがってきた。
ぎしり、と軋む音にシンタローの心臓がどくりと跳ね上がる。

「好きだよ、シンちゃん」
軽蔑しない?とマジックは口にしてシンタローの顎へと手をかけた。






熱い……くちづけだった。

微かに酸味の帯びた舌が口腔を這い回るとともに逃げるようにシンタローの舌が動く。
捕らえられるのを恐れて逃げ回っても逃げ場など泣きに等しい。すぐに絡めとられ、シンタローはマジックのくちづけを為すがままに感受した。
ねっとりとした舌がシンタローから解かれて、口腔から出て行っても余韻が口の中に残っている。
ため息をこぼすとマジックはシンタローの顎に添えていた指を滑らせた。

「嫌いにならないで。私はもう抑えられないんだ……」

ぷつっと総帥服のボタンがひとつづつ外されていく。
胸元に触れたマジックの指が自分と同じくらい火照っているのを感じてシンタローはカッと頬を染めた。

ボタンを弄っていたマジックは次の標的をベルトへと定めた。
片手で器用にかちゃかちゃと緩め、ズボンのジッパーを下ろす。
圧し掛かられたままのシンタローはどうしていいのかわからなくてじっとしていたが、思い切って口を開いた。

「いい。……自分で脱げる」
「駄目だよ。私にやらせて」
間髪いれずに断られてシンタローはむっとした。
眉を顰めたシンタローにマジックは微笑み、皺のよった眉へとくちづけを落とす。
シンタローの眉が緩んだ隙に下着ごと下肢をマジックは一気に肌蹴けさせた。


何も纏っていない状態の下肢に外気が触れる。
空調が効いたホテルの一室とはいえ、まじまじと視線をマジックが落としているのを感じてシンタローは身を震わせる。

「最後にお風呂に入ったときはこんなに生えていなかったのにね」
愛しげにマジックはシンタローの中心を撫でた。
そんなこと言うなよ、とシンタローが怒って起き上がる前に、マジックはシンタローの秘部が見えるように足を大きく開かせた。

「……ッ!!」
「暴れないで、シンちゃん」
気持ちよくしてあげるから、とマジックは開いた足の中心へと手を這わせた。
ゆるゆると動かし始めれば子どもの頃とは違うかたちをくっきりと主張していく。
ふふ、と笑みをこぼしながらマジックはシンタローの成長に熱い息を吐いた。

「や、め……親父ッ」
触るな、といやいやをするようにシンタローは頭を振った。
けれども、マジックは嫌じゃないでしょ、とすげなく言い切ってその動作をやめない。
透明な蜜が零れ始め、ぬるぬるとシンタローの裸身を汚してもマジックは手を休めなかった。

「……一回、達してた方がいいからね」
誰ともなく呟くとマジックはシンタローの括れを爪で擦った。
痛くならない程度に、と力を入れたその指使いに敢え無くシンタローは身を震わせる。

「や、イっっちまう……!」
刺激するな、とシンタローは髪を乱したがマジックは
「遠慮しなくていいからね」
と微笑んで、シンタローの敏感な先端を突いた。




吐き出したシンタローの精を達したばかりのものにぬるぬると塗りつけながらマジックはさらに奥へと指を進ませた。
ぬめった感触と敢え無いからだの反応に羞恥を感じたシンタローのものは再び鎌首をもたげ始めている。
若いね、と思いながらマジックはシンタローへと体を進め、足をばたつかせぬよう、しっかりと固定した。
どうしていいのかわからず、達したままぼんやりと焦点の合わぬ瞳で見上げる息子にマジックは焦がれた。

ゆっくりと指の腹で奥まった秘所を探り、そっと進行していく。
ぬるつく指で傷つけないように慎重に埋め込みながらマジックは息子の喘ぐ顔を堪能することにした。






汗で長い髪が胸へと張り付いている。
はあはあと途切れぬ息が濡れた口唇から零れ落ちて、視線を上げれば両の眼は潤んでいた。
指を増やすごとに、マジックがシンタローの体を揶揄するごとに、シンタローのものは顕著な反応を見せた。

「シンちゃん、愛してるよ」
埋め込んでいた指を引き抜くと、身を捩ったシンタローの髪が動いて、今まで髪で隠れていた乳首が晒される。
下肢のものと同じく勃ち上がっているそれにマジックは満足げに息を吐いた。

「感じてるんだね。でも……」
ちょっとの間、気持ちいいことは終わりだよ、といってマジックは自分の下肢にシンタローの手を導く。

「後悔しない?シンちゃん」
熱いものを握りこませてマジックは問いかけた。
潤んだ目でシンタローは、
「……ふざけんな」
と答える。

後悔をしないわけがない。勢いのまま告白したとはいえ、親子なのだ。
血の繋がっていないとはいえ、シンタローを組み敷く男は24年間父親だった男なのだから。

後悔しないわけがない。それでも。

「……今更、ンなこと聞くんじゃねえよ」
散々好きにしやがって、とシンタローは手の中のものに軽い力を込める。
息子の反応にマジックは笑みをうかべ、それから……。


「今だけは……パパと呼ばないで」
熱い吐息交じりに囁いて、マジックはシンタローの額へと軽いキスを落とした。

「馬……鹿じゃねえの。パパなんていつも呼んでないだろ」
噛み付くようなキスをお返ししてシンタローが言うとマジックはそうだねと笑った。





足を抱え上げられ、熱い切っ先を押し当てられてシンタローは身を捩った。
ゆっくりとシンタローの内部を圧迫して行くそれは指とは比べ物にならない。
告白し合うついさっきまで互いに躊躇いがちだったのに、今では互いを食い尽くすように貪りあっている。
我慢して、と囁かれ熱い舌で口内を慰撫されてシンタローはマジックを逃がさぬよう懸命にくちづけた。

「シンちゃん。ごめんね。……愛してる」
耳朶を食まれてシンタローは謝るなと濡れた目で訴えた。

「シンちゃ……シンタロー」
シンタローの抗議に気づいたマジックは苦笑した。
ごめんね、ともう一度言いそうになってマジックは目を伏せる。
熱い楔を打ち込みながら、マジックはシンタローの黒い目にキスを落とした。

「愛してるよ、シンタロー」
「ん、ああ……わかってッ」


「……シンタロー」
おまえは、と情欲に染まった目でマジックはシンタローを見つめた。
答えを聞かせて、とシンタローの耳朶に息を吹き込んでマジックは息子の答えを強請る。

「俺、も……愛してる……マジック」
回答の最後に切なげに父の名を呼んだシンタローに、マジックは溢れ出す愛しさで理性を保てなくなった。





END





ms2
グンマから相談を持ちかけら、数日間キンタローは渦中の親子を観察した。
確かにグンマの言っていたとおり、ただ行き違いが生じてよそよそしくなっているのとは違う。
物言いたげなシンタローと気づかない振りを続ける伯父。
口唇をかみ締めたシンタローはガンマ団総帥の威厳はない。
弱気な彼が、ひとたび仕事の時間となるといつものようなふてぶてしい態度の仮面をかぶるのを間近で見てキンタローは嘆息した。
言いたいことがあれば言えばいいのだ。
いつもどおりにしてくれと要望するなり、自分が何かしたのかと詰問するなり。
大体、伯父も伯父だ。
シンタローを遠ざけたいのなら、来月に控えた誕生日のように仕事を入れてしまえばいい。
引退して、いくつかの国との交流以外は個人的な活動しかやっていないのだ。
長期間の視察でも表敬訪問でも何でもすればいいのだ。何も本部に留まる必要はない。
自分から遠ざけているくせに、物言いたげな視線をシンタローが外すと、伯父はシンタローに切なげな眼差しを送る。
いい加減にしろ、と朝な夕な怒鳴りつけたくなったがキンタローとて彼らの関係を掴めてはいないのだ。
グンマの言うとおり、伯父であるマジックがシンタローを恋愛対象として見ていたとしてもシンタローの気持ちは分からない。
もう、互いに別個の人間なのだ。間近にいても心の揺れ動きまでは分からない己にキンタローは苛立っていた。




前総帥の任期中のことを纏めたデータは資料室にある。
一般の団員が任地へ赴くのと違い、任地の周辺だけを理解しておくわけにはいかない。
総帥ともなれば過去に執られた団の指針はもとより相手の国の情報は過去にまで遡って把握する必要だある。
総帥に就任する前から少しずつ手をつけていたとはいえ、まだまだ読んでおかねばならない資料はたくさんある。
折を見て、キンタローはシンタローとともに勉強に精を出していた。

「ようやく先々代のデータが終わるな」
「そうだな~。じいさんの時代は結構、世界中で動乱があったから本当ようやくだぜ」
ばらばらと分厚いファイルを捲りながらシンタローが言う。
今日からようやく伯父の代だ。資料を取ってこよう、とキンタローが立ち上がったとき内線が響いた。

「キンタロー、おまえ出ろよ」
分かっている、と従兄弟を一瞥し、キンタローは受話器をとる。
内線電話の相手は通信室だった。手短に用件を了承するとキンタローは受話器を置いた。

「なんだったんだよ?」
「通信室からだ。ハーレムが任地に着いた連絡だそうだ。了解して切ってもいいか通信員に聞かれたんだが……。
俺がちょっと叔父貴に用があるんでな。通話のままにした。すまないが少し中座する」
「ふうん。まあいいけどな。俺は親父の頃の資料見てるからさ」
行って来い、とひらひらと手を振ってシンタローはキンタローを送り出した。





*





現在、本部と通信中の部隊はハーレムの率いる特戦部隊のみだった。
通信機器の使い方を熟知しているキンタローはそれを確認すると室内の団員を人払いした。
ハーレムに大事な用がある、と最近加わったとはいえ青の一族の人間に命令されて従わないものはいない。

「ハーレム叔父貴、聞こえるか」
キンタローが呼びかけるとすぐに「おう」と答えが返った。
無事、任地に着いたそうだなとキンタローが言うとハーレムは
「前置きはいいからよ。それより、回線切らねえで待たすなんてなんの用だよ?」
と尋ねた。

「察しがよくてありがたい。いくつか叔父貴に聞きたいことがあったんだが」
答えてくれ、とキンタローが言うと画面に映し出されたハーレムは驚いた顔をした。

「おまえが俺に?高松じゃなくてか?」
研究のことなんて無理だぜ、と言うハーレムにキンタローは笑う。
研究のことなどハーレムにそもそも聞くわけがない。

「一族のことは一族の人間にしか聞けないだろう」
「サービスには聞いたのか?」
「アンタの方が適任だ」
キンタロー自身は末の叔父よりも自分の体を得てから傍にいたハーレムのほうが話しやすい。
シンタローの敬愛するサービスよりも、ハーレムの方が親密なだけだったからにすぎないのだが、画面の中のハーレムは破願した。

「まあ、俺の方がアイツより尊敬される人間だからな。分かってんじゃねえか」
うんうん、と頷くハーレムにキンタローはそれは違うと否定したかったが、機嫌を損ねる必要はない。
誤解はそのままにハーレムに尋ねたいことをぶつける。

「聞きたいことと言うのは祖父のことだ」
「パーパの?」
パーパ、と口にしてすぐにハーレムはカッと頬を染める。
画面の向こうからくつくつと噛み締める笑い声が聞こえてきてキンタローは叔父のすぐ傍に特戦の人間がいることを理解した。

「少々調べていることがあるんだが、マジック伯父貴はシンタローに過剰なスキンシップをとっているだろう。
対して、俺の父、ルーザーは一度しか顔を合わせていないとはいえああいう態度はとらなかった。日常とは状況が違うがな。
それで、アンタとサービスは子どもがいないから分からないんだが、いたとしてもマジック伯父貴のような育て方をするか?」

「はあ?俺にガキがいたら?ンなもん、あんな兄貴みたいな気持ち悪ぃ接し方するかよ」
間髪入れずに返ってきた反応にキンタローはふむと考え込む。

「サービスについてはどう思う?」
「しねえだろうな」
双子の弟に対してもハーレムはきっぱりと否定した。

「可愛がりはするだろうけどよ。アイツは兄貴みたいな態度はとらねえと思うぜ。
むしろそういうのはジャンの野郎がサービスの子どもに取るだろうな」
「ジャンが?」
キンタローは思いがけない答えに目を見張った。

「ああ。そりゃそうだろ。アイツはあんな魔女みてえなヤツが大好きな野郎だぜ。
魔女のちっこいのがいたら同じようにべたべた引っ付いて下僕のように奉仕するに決まってる」
「……なるほど」
言いことを聞いたとキンタローは思った。

「じゃあ、同じ質問をもう一度聞くが俺の父さん、ルーザーの場合はどう思うか?
父さんは俺には情のある人間だったが、24年前は違っていたんだろう。マジック伯父貴のような態度はとらないと思うが……」
念のため聞く、とキンタローはハーレムをじっと見た。
自分と双子の弟のときとは違い、ハーレムは少し考えてから口を開く。

「……ルーザー兄貴はなあ。善悪の区別はつかない人間だった。
俺からすれば悪魔みてえな男だったけどサービスへの態度とか考えるとな……。表面的だったけど、家族は大切にしてたぜ。
おまえの言いたいのは生きてたらってことだろ?兄貴のような摂し方はまずしない。
むしろ、ガキのときの俺とサービスへの接し方と同じようになるだろうな。それか兄貴のことだから……」

「自分の父親がしていた接し方をすると言いたいんだろう」
科学者だった父のことだ。同じ事例を当てはめるに決まっている、とキンタローはきっぱりと断言する。

「そう。そう言おうと……ああ、だからてめえはパーパのこと聞いたのか」
「そうだ」
キンタローは叔父へと頷く。

「祖父は父さんを含めてあんたたち4人の兄弟、全員でなくても誰かしらに過度のスキンシップを求めたか?」
「過度の……ってマジック兄貴がシンタローに取ってるようなやつだろ?そんなもんねえよ。
俺がようやく物心ついたころに死んじまったけどな、誰に聞いても兄弟分け隔てなかったって言うぜ」
「そうか」
「聞きたいことはそれだけか?」
「いや。もうひとつだけある」
キンタローがそう言うとハーレムはため息を吐いた。今度はなんだ、と煙草に火をつけて先を促す。
炎の使い手ではなく、かちりとした音とともにライターから生み出された火が一瞬ハーレムの髪をオレンジ色に染めた。

「……アンタは親子ほど離れた年齢のヤツと恋愛できるか?」

キンタローが尋ねるなり、ハーレムはブッと煙草を噴出した。
画面には見えないものの周囲いる特戦の連中もさっきとは違い盛大に笑っている。

「……できるんだな」
叔父と彼らの反応からキンタローは結論を出した。

「じゃあ、その相手が幼い頃、そうだな……生まれた頃から知った相手ならどうだ?」
恋愛対象になるのだろうか、キンタローは咳き込んだままのハーレムを見つめた。

「――わかんねえよッ!ンなもん人それぞれだろ!!」
俺は違うけどな、と喚くハーレムに笑い声が被さる。
聞きたいことは聞き出せた。
キンタローはぎゃいぎゃいと騒ぐ画面を冷静に見ながら、口を開く。

「まあ、そうだな。確かに恋愛はアンタの言うとおり人それぞれだ。時間をとらせてすまなかったな。礼を言う、ハーレム」
切るぞ、とまだ騒ぎの収まらぬ画面に言って、キンタローは回線を落とした。





ハーレムとの通信を終え、キンタローは止めておいた他の回線を回復させた。
通信中に本部へ接触を試みた部隊はなく、休憩を取らせていた通信員を戻す。
世話をかけたな、と通信員を労うとキンタローはその場を後にした。



「進んでいるか?今そこの廊下で……」
おまえの気に入りの津軽に会ったぞ、と声をかけようとしたがキンタローは言いかけていた言葉を引っ込めた。
戻ってきたキンタローに気づかない様子でシンタローが手元の資料をじっと見ている。
大分集中しているな。どのデータだろう、と思ってキンタローは席に着く。
覗き込むとシンタローが見ているページには1ページ丸々写真が印刷されていた。

「……シンタロー」
「え!?あ、戻ってきたのかよ」
驚かすな、と睨むシンタローにキンタローは嘆息した。

「随分と夢中になっていると思ったら、おまえ好みの少年だな」

シンタローが見ていたページの写真は短めの金髪を持った少年が写っている。
赤い服を着て笑顔を浮かべ、いくつかの国の首脳と会談していた。

「……俺好みって!ちっげえよ!これは総帥になったばっかの親父だっつうの!」
よく見ろ、とシンタローは顔を赤くしてキンタローへ投げつけるようにファイルを渡した。
言われてみれば、確かに面影が残っている。
「ああ。伯父貴だったのか。でも、おまえの好みには変わらないと思うが」
「好みってそういう問題じゃねえだろ!親父なんだから!」
シンタローはキンタローに掴みかかるほどの勢いで否定した。

「親父か……。それならばシンタロー。この写真の少年がマジック叔父貴じゃなくて赤の他人だったらどうする?」
「……はあ?」
とくに意図することはなかったがキンタローは従兄弟に尋ねてみた。
どう見ても、従兄弟の好みの顔立ちなのだ。きらきらした金髪も青い眼も、少年の年齢も。
怒っていたシンタローが急に大人しくなって、考え込む様子を見始めさせたのを見てキンタローは心中笑った。

「……冗談だ。早いところそのファイルから片づけてしまおう」
終業時刻まで1時間をきってしまったからな、とキンタローはさりげなくファイルのページを繰った。





*





白い靄がかかったような景色だった。
見たことのない場所だ。うすいヴェールのような靄を纏う木々も石造りの建物が立ち並ぶ小路もまったく見覚えがない。
人っ子一人歩いていない坂をシンタローは恐々歩んでいく。
シンタローの周りには誰もいない。補佐であるキンタローも従兄弟のグンマもガンマ団の団員も。

誰もいなかった。

石を敷き詰めた坂道を登り終えると、風車が見えた。
風車のある国……オランダか?などと推察してみたがシンタローにはそうは思えなかった。
ざあっと木々を揺らす風が吹いて、目の前の風車が少し右に動く。
風見鶏もからからと回った。

靄が晴れる。

誰か人に尋ねてみようと視界が晴れた道を歩き、シンタローは教会を見つけた。
教会とはいえ、ステンドグラスも何もない。白かったはずの漆喰が剥げて灰色がかった色びの教会だった。
扉がわずかに開いていて光が漏れている。
ぎいぃと軋む音を立てて扉を開けると祭壇に人がいた。

1人だ。
シンタローの背丈よりもずっと小さい。
駆け寄ると、少年が振り返る。

「シンタロー」

少年は何故だかシンタローの名を知っていた。
そして、見たことのある子どもだった。赤い服を着て金色の髪と青い眼の子ども。


ふわりと飛びついてきた少年にシンタローは戸惑う。
これは誰だ?
きみはだれ、と尋ねるよりも早く少年がシンタローの口唇を塞ぐ。
軽いキスをされ、あっと思う前に飛びついた少年がたちまち成長した。

「シンタロー」

そうだ。さっきの子どもは……。
キンタローにも言ったはずじゃないか。これは親父だと。

開けっ放しの扉から靄が入り込む。
金色の髪が靄に包まれて、シンタローの視界が次第にぼやけていく。

「シンタロー」

抱きしめられ、シンタローは眉を寄せた。
どうしてそんなに優しい声音で俺の名を呼ぶんだろう。昔みたいに。

「シンタロー。愛しているよ」
現れたときの少年の姿と同じように、父であるマジックがシンタローの口唇に軽いキスを落とす。
父さん、と呼びかける前に白い靄に意識が包まれてシンタローは正体を失くした。












(――っ!!)

シンタローは毛布を跳ね除けるように上半身を起こした。
カーテンの隙間から差し込むひかりがシーツへと伸びている。枕元の時計へと目をやれば、時刻は7時を差していた。
シーツに置いた手はじんわりと汗ばんでいて、布地の皺を徐々に侵食していく。
ひとつにくくっていない髪はシンタローが息を吐くごとにばらばらと胸元へと落ちた。
後ろに流した髪だけは汗ばんだ襟足に張り付いて落ちてはこない。

(……なんなんだよ。あの夢)

思い出すに動悸が激しくなる。
昨日、勤務中に見た写真をそのままに現れた少年とのキス。そして、彼が成長した姿でのキス。

(――ッ!なんで親父が出てくんだよ)

別に夢の中に誰か知り合いが出てくるのはおかしいことではない。
けれども、あれはないだろう。よりにもよって、父親とキスをするなんて。
ばくばくと動く心臓を押さえるようにシンタローは自分の手を握りこんだ。


吐き出す息の荒さが収まらない。
心臓はこれ以上ないほどに早鐘を打っている。
寝汗の所為だけでなく、シンタローの体は火照っていた。

(ああ!なんでこんなに熱くなんだよッ!)

夢の中の出来事に興奮している自分にシンタローはじたばたと暴れだしたい気持ちでいっぱいだった。

(ちくしょう!なんで……こんなッ)

これじゃあ、親父の顔見れねえよ、とシンタローは乱れた髪を掻き混ぜる様に首を振った。





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