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「シンちゃん!大好き!!」

「うわ、こら、抱きつくな!!」

紅い液体を撒き散らしながら、親父が俺に抱きついてきた。

「酷い、昔は抱っこしてパパ~って私を誘惑していたのに!!」

「子供のお願いに、何変な期待を抱いてんだ!!」

ぷくっと、頬を膨らませた親父はそれでも俺を抱きしめた腕はそのまま。

解放する気は無いようだ。

「ほら、シンちゃん。そんなに照れないで、パパを見てよ」

「あ?んだよ・・・・」

親父のほうに嫌々ながらも視線をやると、嬉しそうに笑うその顔が視界に入ってくる。

これが、イヤなんだよ。

「ふふふ・・・・、愛してるよ」

耳元の甘い囁きが、俺を地獄に突き落とす。

その言葉は、一体誰に向けてのものなんだろうな?




なあ、あんたは知っていたか?

俺がずっと前から、気づいていたことを。

本当は、知らないままのほうが幸せだったと分かっていた。

だけど、あんたの望どおりに俺は育ってしまったんだ。

それが原因で、俺はいつもあんたを見ていた。

いつも遠くを見るその青い瞳を、俺がどれだけ見ていたのか。

あんたは、気づいたか?

俺と視線を合わせていることがあっても、その瞳は常に俺の後ろを見ていた。

『俺自身』を一切い見ようとしなかった。

あんたがどれだけ俺に『愛してる』と囁いた?

どれだけ俺に抱きついた?

あんたの望どおりに俺は育ってしまった。

それなのに、俺を通して違う誰かを見るあんたを、俺はどれだけ見ていたか。

気づかなかっただろう?

だから、俺は気がついていたんだ。

『俺』を通して、『あいつ』を見ていたんだろう?

『俺(レプリカ)』と同じ顔の『あいつ(オリジナル)』を。

その、愛のささやきも。

温かい抱擁も。

全て『あいつ(オリジナル)』に向けて言った言葉だってこと、俺はずっと前から気づいていたよ。

あんたに心奪われていた俺が、どれほど出会いが遅かったことを悔やんだのか、あんたは知らないだろう。

嘆いても、悔やんでも、この運命は変えることができない。

だから、もう諦めたよ。

今の現状のままでいいと、そう思うように勤めたことも、もう慣れたよ。

だけど、時々思うことがある。

もしもの、話。

俺があんたと出会うのが、あいつよりも早かったら。

そしたら、あんたは俺だけを見て、俺を『俺』と認め、『俺』と認識してくれたのかって。

笑えるだろう?

らしくもねえことばかり、考えて。

決して叶うことのないことだって、重々承知の上でそんな空想ばかりに時間を費やしているんだ。

空想だけが、俺の唯一つの心の拠り所になっていく、こんな日々を過ごす弱い俺の心は、まるで梅雨のようにジメジメして気持ちが悪い。

だから、早く決定打が欲しかった。

『偽りの俺』と『本当の俺』を、あんたが選ぶのか。

拭うことのできない思考は、心に湿気のようなものをいつまでも纏わり着かせてくるから。

だから、腐る前に『答え』が欲しかった。

その瞳と心が、俺だけを映してくれることを願いながら。





「どうした、シンタロー?」

キンタローが俺の顔をのぞきこみながら、そんなことを聞いてきた。

何を指しているのか分からない俺は、首を傾げて「何が?」と聞き返した。

「顔色が悪い」

そう一言言うと、上体を起こし「健康管理は仕事のうちだ」と厳しい言葉を残して去っていった。

総帥専用の椅子に深く座り込んでいた俺は、キンタローの言葉によってさえぎられてしまった思考の波を呼び覚ますべく、ゆっくりと目を閉じた。

健康管理はしっかりできてるさ。

心配するな。

毎日栄養たっぷりな食事を作っているのは、一体どこの誰だと思っている?

俺の心の波をかき乱す、親父だ。

毎日見ているだろう?

馬鹿な鼻歌歌いながら、フリフリピンクのエプロンの裾を翻して作るご飯を。

身体面での問題は、皆無だ。

問題は、精神的なもの。

心は毎日悲鳴を上げ、苦しいと俺に訴えてくる。

キンタローでも、親父でも気づくことの無い俺の心の『叫び声』。

誰も聞いてくれないその声に、俺は日々耳を塞ぐしかなかった。

その悲鳴の音量を何とか下げようと、空想に逃げ込む末期症状の俺を、誰も助けてはくれない。

自分の問題なのだから、自分で解決するしか方法が無いことは知っている。

だが、方法が無い。

いつの間にか暗い思考の渦に飲み込まれていく。

“この姿ではなければ、親父は俺を抱かなかった”

そう思うと、心が大きな悲鳴を上げ苦しかった。

そんなことはないと、何度も言い聞かせていた。

モルヒネとして、空想を心に与え絶えてきた。

だから、そろそろ答えが必要だと、何度考えても最後はそこに行き着く。

ああ、お願いだ。

もう、これだけ苦しんできたんだ。

ご褒美をねだっても、罪にはならないだろう?


  “お願いです。この姿が変わっても、見捨てないで下さい”










「シンちゃん、顔色悪いよ」

自宅に戻ると、グンマからも同じことを言われてしまった。

それに大きな溜息をつきながら、「なんとも無い」と応えてみたが、簡単に引き下がる相手でもなくあいつは元気が出る飲み物を作るといって、俺を無理やりリビングのソファーに座らせると、よく分からない鼻歌を歌いながらキッチンに消えていった。

「ったく、ここにはお節介野郎しかいないのか?」

呟いた言葉は、グンマには聞こえていないだろう。

キンタローもグンマも、俺のことを気にかけすぎだ。

まったく。

イヤじゃないけどな。

「はい、お待たせ!!グンマ特性元気の出る出る出まくりココアだよ!!」

部屋中に広がってきた独特な香りのお陰で、テーブルに出される前にグンマがキッチンで作っていたものが何なのかはすでに予想済みだが、出された液体が本当にココアなのか怪しい。

「あ、疑ってるね?大丈夫、高松が作った『1日動けませんココア』は今日は持ってきていないから」

ああ、本当に変なココア作ったんだな、あの変態ドクター。

一体誰を、動けなくしたいんだ。

そんなことを頭の隅で考えながら、俺の横のソファーに座り一緒に持ってきた自分用のマグカップを両手で持つと、グンマはニコニコしながらその中身を飲み始めた。

一緒に作って変なものを入れているのなら、もう少し作るのに時間がかかっていただろう。

香りも、大丈夫。

よし。

恐る恐る、コップに口をつけ一口飲んでみた。

「お、案外普通だな」

「あ、酷い。それ、僕が作るもの全てが変だって言っているようなものだよ!」

頬を膨らませながら怒るその姿に、笑いながらコップを傾けた。

俺が好む甘味より、かなり甘いがこれはこれで疲れた心に温もりを与えてくれる。

だけどな、グンマ。

親父と血の繋がったお前が横にいるだけで、また心が悲鳴を上げ始めるんだよ。

繋がりがあるお前が、羨ましいって。

「ふふふ、どう?美味しかった?」

「ああ、サンキュー」

口についてしまったココアを、右手の甲で拭いながら礼を言うとグンマは花が飛び散るほどの笑みで「また作るから、早くよくなってね」なんて言いやがって、ああ、本当ありがたいよ。

シンクにコップを持っていこうと立ち上がると、グンマからソファーで休めと命令された。

「まだ顔色悪いよ。お片付けは僕がしておくから」

こいつも、大人になったもんだ。

人にここまで気を使えるなんて。

「ああ、悪いな」

「何言ってんだよ、僕達家族じゃん」

俺のコップを持ってキッチンに向かったグンマに、心の中でお礼を言った。

お陰で、少し心の痛みが和らいだように感じたから。






水音が耳奥に響く。

白い洗面台には、紅い花が今まさにその命を水によって、消されようとしていた。

目の前に広がるその絶望の海に、俺はただ傍観するしかなかった。

何故、もっと早く気がつかなかったのだろう。

一月前から体に起きた変調を、俺は何故軽く見ていたのか?

グンマが俺にココアを出したあの日の翌朝、目が覚めた俺は風邪を引いたときのような体のだるさに顔をしかめながら、とうとう心の病が表に出てきたのかと思った。

病は気からとはよく言ったものだと、感心しながらその時は軽く考えていた。

手が白くなるまで、握り締めた拳は小さく震えていた。

そんな己の体を見ながら、脳裏に浮かんでくるものは親父に対しての謝罪だった。

どんなに謝ったとしても、もう許してくれない。

昔のように、悪戯した後「ごめん」と一言ですんでいたことが、今はできなくなってしまった。

だって、そうだろう?

俺は、その資格を失ってしまったのだから。

ずっと流れる水を見ていたが、そろそろ動かないといけない時間だと己に言い聞かせ、重たく感じる体を動かした。

そして、まず最初にしたことは、鏡に映っているだろう自分を見るのではなく、ポケットに入れていた携帯電話を取り出すことだった。

『・・・・・なんだい?』

長い呼び出し音の後、やっと出た相手の声はどこか冷たく感じた。

「あの、・・・・ごめん」

『何を謝っているのか、全く分からないね。私も忙しいんだよ。それだけの用事で電話をかけてきたのなら―』

「あ、あの・・・・」

『―書面で報告しなさい』

無情にも相手はそれだけを言うと、通話を一方的に終わらせた。

機械的な音が鳴り響くことに、熱くなる目頭を片手で覆いながら、予想通りの態度にやっと『答え』が出た事実に、もう悩む必要がないことに安堵ともいえる感情が生まれ始めていた。

やっと、終わった。

もう、苦しむ必要が無い。

だから、全てに終止符を打とう。

目を覆っていた手を下ろすと、もう片手に握り締めていた携帯のボタンを操作した。

短い呼び出し音の後、「どうした?」と少し不機嫌そうな声が聞こえた。

「ああ、悪い」

『そんなことはいい。今、どこにいる?もうすぐ仕事の時刻だ』

キンタローの事務的な声に、笑みを漏らしながら「もう、辞める」と呟く。

「総帥職は、そうだな。直系のグンマにでもさせようか。お前がいれば、安心だもんな。で、俺は辞職扱い。まあ、やっと自由に暮らせるってもんだよな」

先ほどの相手とは対照的に、俺の口からはまるで台本を読んでるかのように、言葉がすらすらと出てきた。

『お、おい!』

「お前さ、俺に黙っていることあるだろう?4日前に採血した結果でてんだろ?もう、俺自身永くないって知ってんだろ?」

問えば、キンタローは黙ってしまった。

その沈黙は、認めているというということだ。

「悪いな」

そう一言残し、俺は通話を切るためボタンを押した。

「・・・・・・お前は、知らないほうが幸せなのかもしれない」

知ってしまえば、目の前に広がるのはただ絶望の海だけだ。




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あいつは、いつもシンちゃんシンちゃんと、大声を上げ鼻血を大量にたらしながら俺に抱きついてくるくせ、絶対先に進もうとはしない。

本人にしては、ただのスキンシップのつもりなのかもしれない。

だが、年頃の俺にとってはあの逞しい腕に引き寄せられ、熱い胸板に包まれるあの感触に性的欲求を感じてしまうわけで、毎回親父が抱きついたときに股間が熱くなるのをなんとかごまかし、そのあと一人トイレで抜いていた。

「シンちゃ~ん」

「ぐお!よるな、触るな、近づくな!!」

「嫌だよ~」

どれだけ俺が嫌がっても、必ず抱きついてくるクソ親父は、俺が抱きしめられながらあそこが硬くなり始めているなんて、微塵にも思っていないんだろう。

「いい大人が父親に抱きしめられているなんて、恥ずかしいだろ!!」

「何を言っているんだい?お前は、まだまだ子供だよ」

まだ子供だから、なんて思われてしまっている現実が、悔しくて、悲しくて、そして腹立たしかった。

だから、俺はある計画を立てた。

そりゃ、ガンマ団NO.1的な、学者もびっくり計画!

「と、いうことなので、『親父ホイホイ作戦』するからお前ら手伝え」

俺の恋愛(?)相談を、真剣に涎を垂らしながら聞いてくれていたミヤギたちに、今回の計画を持ちかけた。

「・・・丁重に、お断りさせていただきます」

ミヤギ、トットリ、コージは土下座をして断ってきた。

「シンタローはん・・・・わ・・・・」

ガウン、ガウン、ガウン、グシャ・・・・・

「ヒッ!!」

近くで無視が泣く音が聞こえたが、手短にあったトカレフを打ち込んで黙らした。

「ああ、嫌だな。夏は虫を無視するのもウザってえのに。やっぱ蚊取り線香(トカレフ)は必需品だな」

目の前に紅い水溜りが大きくなりかけていた。

そろそろ、雨でも降るんだろうか。

・・・・・雨

・・・水

シャワー・・・裸

「あああああ!!何考えてんだ!!」

雨だけで、裸の親父がシャワーを浴びているシーンが・・・・

「いいかも・・・・ポッ」


「シンタロー、顔あかいっぺ」

「あれは、恋わずらいじゃな」

「僕、早く逃げたい」


「いいな、親父のあの熱い胸板に、俺のか細い体が包み込まれて・・・・」

ああ、その光景が想像できる。


「・・・・か細いだっちゃ?」


「そして、二人は己の体からあふれ出る体液をこすり合わせて・・・・」

ああ、体液だなんて生々しかった・・・・でも、それって・・・・フフ。


「なんじゃ、唾液か?」

「う●こかも、しれんっぺ」


「そして、上り詰めるお互いの楽園に」

飛び散る波のように、お互いの汗も飛び散るんだろうな。


「パラオの人もはた迷惑だっちゃ」


続く









結局、コージたちは必要な助言もせず、邪魔ばかりしてきて役に立ちそうも無かったので、近くの空き地に埋めた俺は、一人団内をとぼとぼ歩いていた。

俺の立てた計画は最高なのだが、どうしても俺ぐらいの秀才ではないとこの計画が分からないらしい。

トットリなんて、説明していた途中であまりの難しさに理解で傷、顔を真っ青にして倒れてしまったぐらいだ。

ああ、誰かこの計画に賛成してくれるやついねえかな。

そんなことを考えていると、前方の角から高松とグンマが何かを話しながら、こちらのほうに向かって歩いてきているのが目に入った。

俺のことには気がついていないみたいだが、こいつらもしかして使えるかも。

なーんて、天才な俺様は考えたわけよ。

グンマは以前、俺のことそういう意味で好きだって告白してきたからな。

モテる男はつらいな。

まあ、あいつのそんな気持ちを受け止めたくても、俺には最愛の親父がいるし・・・・

だから、まあ、この計画に参加してもらううってつけの『生贄』だな。

「おい、グンマ!」

「あ、シンちゃん!」

声をかけると俺に気がついたグンマは、高松に向けていた顔をこちらに向けると、まるで大型犬が喜んではちきれんばかりに尻尾を振るかのように、満面の笑みで手を大きく振りだした。

そりゃ、もうぶんぶん音が鳴るぐらいに。

「シンちゃん!何か用?もしかして、僕と付き合ってくれるの?」

振っていた手はそのままで、スキップしながらそんなことを叫ぶグンマ。

まあ、これも計画通りだ!!

廊下にいる他の団員の、生暖かい視線を受けながら俺も満面の笑みでグンマの質問に頷いて答えた。

「ああ、抱かせてやる!!」



その後、グンマは顔を真っ赤にして見事なまでに鼻血を大噴射し、そのまま出血多量で医務室に担ぎ込まれた。

「ああ、グンマ様。どうして・・・・」

集中治療室に、運ばれたグンマの状態はかなり危険なものだった。

鼻血を噴射したことにより、血液不足による意識不明の重体。

「ああ、グンマ様が、どうして・・・・・・」

機械が奏でる心拍数の音は、今にも途切れんばかりの弱い音だった。

白いベッドの上で、人工呼吸器、点滴を付けたその姿は痛々しいものだった。

俺はそんな状態になるほどの攻撃を、こいつにしたということなのだろうか?

罪悪感が俺の胸を締め付ける。

「グンマ様、どうして・・・・」

そのベッドの傍には、真っ青な顔の高松がカメラを片手にグンマの手を握っていた。

・・・鼻詮付で。

パシャ!

これで、何度目のシャッター音だろう。

高松は「危篤状態の寝顔なんてめったに拝めない!」といった理由で、もう一時間ほど同じ台詞をこぼしながらシャッター音を病室に鳴り響かせていた。

「どうして、グンマ様が・・・・」

何度も繰り返す高松のその言葉に、段々イライラし始めた俺は腰に手を当てながら応えてった。

すると、折角教えてやったのに大きな溜息を吐かれ「あんた、バカですか?」なんて暴言を浴びせられた。

「な・・・っ!」

怒りに拳を作りかけた左手に、血痕が僅かについている高松の右手が重なった。

因みに左手にカメラ。

「グンマ様は、貴方を自分のものにしようと本気なんですよ?そんな純粋なグンマ様の心を、軽々しくもて遊ばないで下さい」

純粋な奴が、鼻血噴くか?

「だって・・・・」

言い訳をしようとすれば、また溜息を吐く声が聞こえちょっとムカっとした。

高松を睨みつけてみたが、案の定あまり効果が無かった。

「そんなに男に抱かれたいのなら、私が抱いて差し上げますよ」

「は?」


一瞬、何を言われているのか理解ができなかった。


コチ、コチ、コチ・・・・



時計の秒針の時を刻む音が、やけに大きく感じる。


ところで、グンマの心音の音は聞こえないな~。


「もう一度言いましょうか?」

「っ!」

その声に、俺の脳はやっと動き始めた。

高松に抱かれる??

俺が?

ありえない!

ありえなさ過ぎる!!

想像なんてしなくても、俺の末路が予想できる。

いかがわしい変態プレイのオンパレードで、耐え切れず精神崩壊する可哀想な俺。

―(シンタローの妄想)―

「もっと・・・もっ・・・お願いです・・・ここに、しろいの・・・いっぱい・・・・・ほし・・・」

「なら、私のモノを立たせなさい」

「は、はい、ご主人様ぁ・・・」

「ふふ・・・好き物ですね」

「ゴメンナサイ、欲しいんです、これ・・・ふゃぁ、おっきくなったぁ・・・」



「っぎゃああぁぁぁぁっ!! いやだぁぁぁぁっ!!」

な、なんで俺がネコ耳メイドの格好をして、高松のモノを奉仕しちゃってんだよ!

っくそ、ダメだ!

もし、そんなことになったら、俺の野望が水の泡・・・・。

「さ、しましょうか?」

あれ?

からかいでもなく本気ポイ。

もしかして、高松を怒らしちゃったのか?

「い、いや・・・いい」

首を小さく横に振る。

「っち・・・・。まあ、本当に抱かなくてもあの人ぐらい、簡単に騙せますよ?」

その言葉はまさに、泥舟の助け舟が俺の目の前に来た瞬間だった。





「本当?」

「ええ」

気味の悪い笑みを浮かべながら、高松を俺の首の後ろに手を回したかと思うと、ぐいっと強い力で引っ張られた。

「うわっ!!」

一瞬ピリッとした感触と、生暖かいモノが首に触れる感触に、自然と体中に鳥肌が立ってしまった。

「ちょ、何するんだよ!」

高松にかぶさるように倒れた上体を起こし睨みつけるが、あいつはすました顔で「キスマーク付けただけです」とぬかしやがった。

「てめ、何勝手なこと・・・・」

「それがあれば、抱かれたと言っても信用してもらえますよ」

一瞬高松が天使に見えた。

一瞬だぞ!

ほんの刹那だ!

「なるほど! サンキュー! じゃ、さっそく行くか!」

膳は急げとばかりに、俺は心拍数の機械音が途絶えた病室を出た。

その後聞いた話だが、グンマは少しの間心配停止状態にまで陥ったと、高松が溜息を吐きながら言っていたが、まあ俺のせいではないのでそれもすぐに忘れることとなった。

スキップをするように親父の執務室に向かい、そして何も言わずにドアを開けると・・・・・美味しそうに餡蜜を食べている親父と目が合った。

そして、俺は腰に両手を当て仁王立ちのポーズで胸を張った。

目を大きく開けたままの親父。

この様子からすると多分親父は、このキスマークに気がついただろう!

そして、段々と興奮し始めて・・・・・。

へへ、ちょろいぜ。

「親父、俺、高松とね・・・・・・」

親父の持っていたスプーンから、黒豆が落ちる音が聞こえた。






あれ、何でだろう。

真っ暗。

俺、どうしてたんだっけ?

えっと、確か高松のキスマークを親父に見せに行ったら、そうそう親父びっくりしちゃっててそんで、黒豆落として・・・・・・ああ、そうだ!


秘石眼が光って・・・・・・って、俺、今どうなってんだ?




「ひゃああぁぁぁぁっ!」

強制的ともいえる強い快感に、今まで閉じていた瞼を開け状況を確認しようと、ぼやける視界に何とか焦点をあわせた。

「・・・・ほう、狭いな」

目の前にいたのは、俺の股間を見つめる親父・・・・。

「ふぁ・・・ひゃふ・・・ああ、んぁっ!」

一体何しているのかと、声を出そうとしたがうまく声が出ない。

何故だ?

ってか、何で変な声ばっかでんだよ!

「抱かれたというわりには、キスマークは一つだけか。それに、ここも・・・未使用のようだね」

「ひゅあぁっ!」

何故だかわかった。

親父の指が俺の中に、ぐにゅぅって入って、そんで中で何かを触ってる。

そこをかりっとされる度に、眩暈を伴う快感が体中を駆け巡る。

「感度は、良好か・・・・。天性の淫乱かぁ」

小さな声で「まいったな」なんて言いやがって、わざとらしい溜息もちょっと腹が立ってくる。

殴りたいが、腰が抜けてしまっているみたいで全く力が入らない。

それよりも、体がこの快感をもっと味わいたいと貧欲に求め始めている。


p3

そこは真っ白な世界。

俺がただ一人、ぽつんと立っているだけの世界。

そして、段々と俺の目の前に人影ができていく。

それは、知った人だった。

  「兄さんを怒らして、苦しめて、そんなに楽しいの?」

開口一番に、優しい声で冷たく言われた。

  「あなたに、言われたくない」

ふいっと、視線をはずしてもその人は必ず、俺の視界の真ん中に移動する。

  「兄さんは…犠牲者なんだ。それぐらい君だってわかっていたはずだろう!」

大きな声で言われ、それがどんな意味を含んでいるのか痛いほど分かっている俺の身体が、小さく震えた。

  「わかってる。だから・・・・」

冷たい瞳がなおも俺を射抜く。

  「なら、何故、兄さんを苦しめるんだ」

  「あなたも、同じだろ?俺は、親父が幸せになると思って、『シンタロー』を殺したんだっ!!」

冷たい瞳が、哀れみの色に変わる。

  「…シンタロー」

もう、その声には冷たさは感じられなかった。

  「その名前で呼ばないでください。俺には名前なんてないんです。“シンタロー”は、グンマかあなたの息子の名前だ」

  「…いいや。君がシンタローだ」

温かさを含んだ声が、俺の心に触れてくる。

  「いいえ、俺はただの『ダミー』です」

  「それでも、ここに来てしまった君は、どうするんだ?私のように、さ迷い歩くつもりか」

ここがどこか、いまいち分かっていない俺にそんな質問をしてくるなよ。

  「いいえ。俺は時機にに消滅しますよ」

  「?」

どうせ、ここはあの世とこの世の境目なんだろうけどさ。

  「もともと、無かったものですから」

驚愕に開く眼は、やはり綺麗な青い瞳だ。

  「それで君は、満足か?」

その瞳、親父と同じだな。

  「元に戻るだけです。そう、俺は無に帰るだけ」

  「まだだ」

搾り出すような声が、少しキンタローに似ている気がした。

  「いいえ、もうすぐです」

やっぱり、同じなんだな。

  「まだ、君の体は消滅していない」

子供っていうのは、どんなに親に似ていてもクローンではない。

  「時間の問題ですよ」

だから、違うところも持っているけど似ているところも持っている。

  「今、キンタローや高松が懸命に治療を施してくれている。君は帰るチャンスがあるんだ」

ふとしたところが、親に似るんだろうな。

  「…無理です」

親を知らなくても、親の仕草に似てくる。

それが、血の繋がりって奴なのかもしれない。

俺、似てねえや。

  「シンタロー」

  「俺自身が、もう無理」

うらやましいや。

  「何故?」

  「・・・だって、あの人の最後の言葉が、My hated Mr. vicarious victim(私の嫌いなダミーさん)だったから」

本当の親子なら、こんなこと言えるはずもねえ。

  「・・・」

  「永遠に眠れって言われちゃったんだ。俺、気にしていないように見えるかもしんねぇけど、本当は…今まで、信じていたんだ。愛してくれていると」

永遠になんて、酷すぎるだろ。

  「そうだね」

  「俺は、そんなつもりでこの世に生まれてきたんじゃないのに・・・」

生まれてこなければよかったなんて、この年で思いたくもなかった。

  「君は、頑張ったんだね」

  「誰も俺のこと認めていない」

この人の温かい言葉が、胸に染み渡ってくる。

  「もういいよ。君は頑張った。私よりも。そして、ほかの誰よりも」

嘘をついていない。

本心からそう、言ってくれている。

  「・・・ありがとう」

  「こちらこそ、ありがとう」

何だか、やっと落ち着けたって感じだ。

  「じゃ、行くね」

  「気をつけてね」

まっすぐ、この人の顔を見て笑った。

  「うん。さよなら。ルーザーおじさん」



続く




反省
ルーザーさんがいい人に~~








「ん・・・」

まぶしい。

白い光が、瞼に直接当たって痛い。

「あ、起きた!」

この声は、グンマ?

「キンちゃん!シンちゃんが起きたよ!」

嬉しそうに弾む声で、キンタローを呼ぶグンマの様子は、眼を開けなくとも分かってしまう。

「グンマ、それをいうなら目を覚ました、もしくは意識が戻ったといったほうが適切だと・・」

足音が近づいてくると同時に、キンタローの声も大きくなる。

「ぐ~」

それに、ゆっくりと眼を開けた。

白い天上が見えた。

そして、少し横を見れば半分眠りかけのグンマと、呆れ顔のキンタローがいた。

ああ、なんだ俺、生きてるんだ。

「やっと目が覚めたか。シンタロー、お前はどうして俺たちの肝を冷やかせるようなことばかりするんだ。もう少し総帥としての自覚を持って行動をしてほしい」

眉間に皺を寄せながら、いつものように話し始めるキンタローの目の下には、薄っすらと隈が浮かんでいた。

「・・・親父は?」

意識が戻って第一声がこれとは、心配してくれた従兄弟には申し訳ないが、仕方ないだろう。

「叔父貴は…」

珍しく、キンタローの歯切れの悪い言葉に、吉報ではない知らせが耳に入る覚悟をした。

「あまり、朗報といえるものではないのかも知れない」

キンタローは淡々と話し始めた。

もう少し話し方に抑揚をつけてほしいと思ったのは、時計の短針が一周したときだった。

「・・・それで叔父貴は、比叡山延暦寺に坐禅を組むといって、翌朝8時初の電車に乗り込むと言い出した。俺は、坐禅を本当に組むというのなら、禅宗の寺に決まっているだろうと言うと、叔父貴は曹洞宗のお寺に行くと言い、ついでに茶道をたしなんでこようといい始めた。そこで・・・」

「お前は、臨済宗が発祥だから福岡まで行ったほうがいいと助言したんだな?」

明るかった外は、真っ暗になってもこいつの話は止まない。

どうやら、自殺未遂した俺は運よくたまたま部屋に訪問したキンタローに発見され、すぐに手術を行い一命を取り留め、5日ほど意識不明だったということだ。

親父は、意識不明の俺を目の前にして、初めて後悔し始め、このゆがんだ気持ちを正すのは滝に打たれればと思ったらしい。

そして、キンタローの要らぬ世話のオンパレード。

12時間と30分。

やっと、話は俺が意識不明になって3日まで進んだ。

あと2日。

聞くのがだるい。

「そうだ、それで・・・・」

まだ進むのか・・・。

「叔父貴は、ジャンを・・・・」

そこで、キンタローの言葉がとまった。

俺に気を使ってんだろう。

だというなら、ジャンに何かあったということが。

「いいから、進めろよ」

「ああ、叔父貴はジャンを・・・・・・・殺した」



「は?」



冗談だろと聞けば、首を横に振られた。

「すべての元凶はジャンであって、シンタローではないと言って、ジャンを殺した」

そんな、おかしいだろ?

原因なんてジャンではないことは明白だ。

「とめなかったのか?」

「皆、賛同した」

俺に気を使って言っているのか。

冗談だろ。

あれだけ、手に入れたかったジャンを簡単に殺せるはずないだろう。

「夢に親父が、俺の親父が出てきたんだ。皆の夢の中に。お前と父さんが話している夢が・・・。それを見て、最初は反対していた皆が賛成し始めた」

あの会話が?

「お前が、マジック叔父貴のことが大好きでたまらないと泣きじゃくっていた。そして、ダミーといわれたのがショックでたまらないから、消えてやるとダダをこねていた」

そんな風に見えたのか?

あれが?

まあ、そんな風にも見えるのかもしれないな。

「安心しろ。皆、お前の味方だ」

なにか、都合がよすぎないか?

ジャンを親父が殺した。

皆が味方?

都合がよすぎる。

そのとき、ドアを叩く音とが聞こえた。

「入るよ」

親父の声が聞こえた。

「シンちゃん、久しぶりというべきなのかな?それとも、謝ったほうがいいのかな?」

そういいながら、前と変わらぬ笑顔で親父が入ってきた。

「親父・・・」

「ごめんね」

そう言って、俺が横たわるベッドに腰掛けた。

「俺は退室する。何かあったら呼んでくれ」

キンタローは俺に気を使っているのか、それともマジックに使っているのか、話を途中で切り上げ眠りこけているグンマを抱えあげ、そのまま部屋を出て行った。

都合、良すぎるよな?

「シンちゃん」

親父が俺のほほをなでる。

優しい手。

そして、以前感じた殺意は微塵も感じられなかった。

あるのは、俺に対するあふれんばかりの愛情。

ジャンを見ていた、あの瞳。

「ごめんね。お前がいなくなってから、私はお前に対する感情を再認識させられた。本当にお前のことを愛しているのだと・・」

都合よすぎるよ。

ねえ、ルーザーおじさん。

あんた、何かしただろう。

「シンタロー、お前が許してくれるというなら、私は一生をかけてお前を愛し、罪を償うよ」

違う。

あんたはそんな風になれない人間だ。

都合が良すぎる。

これは俺が作り出した、もしくはルーザーおじさんが作り出した、幻想の世界だ。

俺を苦しめないように作られた。

「シンタロー」

「違う!違う!違う!」

「シンちゃん?」

こんなの、違う。

「こんなの絶対、違う!親父はこんな風に俺を見ない!キンタローも、誰もかも俺を味方じゃない!」

「シンタロー!」

俺は逃げたかった。

望んでいたのは、こんな世界かもしれない。

だけど、嘘で作り上げられた世界なんて要らない。

だから、眼魔砲で窓を壊し、そんな俺をとめる「あの人」に似た幻想の世界の親父の腕を振り払い、俺は窓から飛び降りた。

予想通り、ここは一族専用の医療ルーム。

冗談抜きで地上20階の高さからのダイブ。

「シンタロー!」


悲痛な叫び声に、俺は笑った。


偽りの世界だったとしても、そんな風に呼ばれるの嬉しいからさ。


ばいばい。






    「なぜ、戻ってきた」


p2
とても軽くなった頭。

やはり違和感が残るが、それでもそんなことを微塵も態度に出すことなく、俺は親父の執務室に向かって歩いていた。

いつもの赤いジャケットは脱ぎ、白衣を羽織って。

「あ、ジャン博士」

「おぅ~」

誰もが俺をジャンと思い、声をかけてくる。

「ジャン博士、先日のあのメカ、美観的にどうかと思う意見がありますよ」

「ははははは! あれは、芸術品なんだよ!」

それに、あいつらしいすっごい馬鹿みたいな救いようのない笑顔で応じながら、鳥肌をたてつつ親父の執務室の前まで来た。

「死にそう・・・いや、ちょっと死に掛けた・・・」

涙があふれ出そうになるが、そこは男だから何とか堪える。

「よし」

今日は、ジャンはまだ上る時間ではないので、鉢合わせの可能性はまずないだろう。

それは、さっきグンマにも確認済みだ。

高鳴る心臓を押さえるため、小さく深呼吸をしドアをノックする。

ドアの右に設置されているドーム型の小型カメラが、ぐるりと回転し俺の姿を捕らえると、ロックの解除音と共にドアが自動的に開いた。

「どうしたんだい?」

何度か訪れたことのあるその部屋の窓際に設置されたデスクに、すまし顔で微笑む親父がいた。

いつものピンク色のジャケットに身を包み、大き目の椅子に深々と座り俺を見ている。

そんな姿が様になるのは、悔しいがさまになっている。

「今日は、仕事が早く終わったので」

「ふふふ・・、可愛いことを言う」

そう言うと、椅子から立ち上がり俺のいるところまでゆっくりと歩いてくる。

「愛しい、ジャン。そんなに私を煽らないでおくれ。どこかに押し込めたくなる」

俺の目の前に夏と、前髪を一房つままれ、何をするのか不思議に思いただ無表情にそれを見ていると、段々と顔が近づいてくる。

それをするのが当たり前のように、そこに口付けが落とされた。

「お前だけを、愛しているよ」

正直驚いて、表情に出したかった。

何とか必死に堪えながら、親父を見つめる。

だって、髪に口付けなんてされたことがなかった。

そんなに、熱を帯びた目で見つめられることなんてなかった。

「ジャン、愛してる」

俺は、段々自分が誰だか分からなくなってくる。

その口から、囁かれる他人への始めて聞く感情の篭もった愛の告白。

一瞬自分のことかと錯覚してしまったが、親父の瞳に写っている俺に、否応無しに現実に引き戻される。

それは、どう見てもジャンそのものだった。

「シンタローは、いいんですか?」

微笑みながら、親父の首に両腕を回す。

「おや、妬いているのかい?」

その質問に俺は、なるべく余裕ぶった笑みを浮かべながら、小さく頷く。

「こう見えても、ナイーブなんですよ」

親父は満足そうに笑い、そして俺の腰に腕を回してきた。

「私をた試すのは、やめなさい」

ばれたのかと、思ったがそれは思い違いだった。

「何度もいうが、私はお前そっくりなあの子を、殺したいほど・・・憎い。そして、邪魔な存在だよ」

その言葉に、俺はゆっくりと瞼を閉じた。

「ああ、貴方は本当に・・・・」

暗くなったその世界にあるのは、ただの闇だけだった。



続く



反省
暗いくらい、暗くするのは大好きよ~~






「ジャン、嫌なことを思い出させるね」

その声にゆっくりと瞼を上げると、青い瞳が冷く憎悪でぎらぎらと光る。

「その、ぎらぎらした眼・・・・とてもいいですよ」

その視線の先にあるのは、俺の幻影なのだろう。

どれほど憎んでいるのか、良く分かる。

「憎すぎて、憎すぎてたまらない。殺してしまいたいが、お前と同じ顔だから私の手では殺せない・・・・」

憎くても、最愛の人の顔だから殺せないのだと、その声は甘く囁く。

ジャンの顔だから、今まで殺せなかったその真実に、俺は悲しくはなかった。

「じゃあ、俺が貴方の代わりに『シンタロー』を殺して差し上げます」





グンマが俺に笑って言った。

「お父様は、シンちゃんのことが大好きだね」

キンタローが気難しそうな表情で言った。

「叔父貴は、お前のことしか頭に無いみたいだ」

コタローが呆れ顔で言った。

「パパったら、お兄ちゃんのことばっか」

サービスおじさんが微笑み囁いた。

「兄さんは、お前に出会って変わったよ」

ハーレムが酒の席で酒瓶片手に叫んだ。

「アニキはお前に甘い!!」

高松が小さく溜息をつきながら漏らした。

「マジック様は相変わらず貴方だけですね」

ジャンが余裕たっぷりの笑みで宣言した。

「どうしても、手に入れたかったんだろう」




俺は、ジャンのその言葉の意味を取り違えていたことを、今になってようやく気がついた。

あいつが言っていたのは、俺のことではなく、あいつ自身のことだったなんて。

何故、あのときのあの笑みで気がつかなかったんだ。

息子でなかったとしても、親父の愛情が俺だけのものだと、なんでそんな風に思っていたんだろう。

俺を見るあの瞳は、殺意が篭もっていたなんて、何故気がつかなかったんだ。

みんなが嫌いだと、昔のコタローが言った。

世間も良く知らなかったから、そんなことを言っていたのだと、今は笑って話している。

だがな、今の俺はその通りだと思う。

だって、そうだろう?

今の俺は、皆が嫌いだ。

そして、俺自身も嫌いだ。





続く


反省
1話、1話が短くてスイマセン





お前の言葉に、賛同している俺だけど、コタロー、お前も嫌いなんだ。

俺の求めていたものを生まれてきたときから、持っている。

生まれた当初は、可愛い弟って思ってた。

時がたつにつれ、お前が幽閉されたことを知った時、俺はお前を幽閉した親父を憎んでいたが、それ以上にお前自身に対して嫉妬に狂いそうになった。

お前は苦しい思いをしなくても、親父の子として認められ、そして親父から特別扱いを受けている。

それが許せなかった。

そして、俺自身の秘密を知ってしまって、さらにお前がいやになった。

俺にもあると信じていた、『血族』の称号。

親父からの、愛情。

だから、コタロー。

今の俺は、死ぬほどお前が嫌いんだよ。

だけど、そんな素振りを僅かでも見せれば、親父が俺を嫌いになるかもしれない。

だから、俺はいい子ぶってお前を好きだと言ってあげるよ。

鼻血だって、本当は殺したいほど憎いこの怒りの血潮が、鼻から血液を流すだけ。

「あの人」を真似たこの、方法。

うまく言っていると思わないか?



「シンちゃんは、本当にコタローが好きだね」

「ああ」

「パパのほうを選んでくれたっていいのに…」

「嫌だよ」

「シンちゃんのいけず」

ほら、親父が鼻血を出している。

けどね、それは俺が憎いから。

体中の血液が煮えたぎっているから。

手に入れることができなかった、ジャンを俺と重ねているから。

だから本当は、「あの人」はコタローが大好きなんだよ。

だって、自分と同じものを持った身内だぜ?

血のつながりを大切にする、青の一族だ。

部外者で愛されるのは、ほんとまれなこと。

俺はあの島の一件以来、血のつながりが消え親父のなかでは嫌悪の対象に入っていたことぐらい、本当は分かっていたさ。



「シンちゃん、愛してるよ」



戯言。

皆を騙すための、言葉。

以前のように振舞うため、わざとそんなことを口にする。

嫌っている俺に、囁く言葉。

もう、うんざりだ。

こんなに苦しい思いをしたって、どうしても手に入らないものがあることぐらい俺だって分かっているさ。

だから、あの時の俺は親父に『シンタロー』を殺してやるって、約束したんだ。

まさに、滑稽な話だよな。

俺を俺が殺してやるって、約束するなんて。

あのときの親父の顔ったら、とっても嬉しそうに微笑んで「それなら、是非見学したいね」なんていいやがって。

別に、いいさ。

どうせ、俺の命はあの時にパプワ島で消える運命だったんだ。

だから、今消えたって誰も文句は言わないだろう。


続く


反省
暗い・・・・ってか、精神的に病みすぎな感じが・・・






「シンちゃんは、パパに愛してるって言ってくれないの?」

あれから数日たった夜、親父が俺のベッドの上でいつもの口癖を漏らした。

裸のままそのまま眠りに入ろうかとしていた俺は、身体の疲れに逆らうことなくその話題を早く切り上げるべく、いつものような返事を返そうかと思ったが、ふと思い立って空いていた口を閉じた。

ここで、愛していると答えたら、親父はどんな風になるんだろう。

怒り狂う?

それとも、喜んだふり?

言ってあげようかな。

どんな風になるのか、見てみたい。

だから、言ってあげるよ。

「愛しているよ。父さん」

だって、もう、疲れたんだ。

  「シン・・・・タ・・・・」

そんなに震えなくてもいいのに。

疲れすぎたんだよ。

あなたの本心を知ってもなお、貴方を愛して、そして戯言に振り回される日々が。

  「俺の、返事はそんなに嫌だった?」

あなたの殺気に満ちた瞳に、毎日に睨まれるのが。

疲れたんだ。

  「イヤだな、嬉しいよ・・・」

一生懸命、嘘をつく。

予定外の言葉に、貴方は動揺を隠せないまま。

  「俺のこと嫌いだったのに?」

  「・・・・知っていたのか」

いつの間にか震えていた声は、平静を取り戻していた。

  「知っていたよ」


あなたを愛していると答えたら、

・・・あなたは、俺の感情を殺してくれるから。

終わりにしよう。

このふざけた物語を。

秘石に操られた俺の人生を。


ゆっくりと、頭につけていた鬘をはずし、親父のその冷たい瞳に視線を合わせ笑ってやった。

「あんたにとって俺は、殺したいほど憎く、そして邪魔な存在なんだろ?」

カツラをベッドから床に落とす音と共に、部屋の空気が重たいものに変わっていく。

「でも、俺は愛してるよ」

「ジャンと同じ顔で、違うお前が言うな…」

低い声で否定をする。

   「でも、愛しているんだ」

顔も、髪型もジャンそのもので、でも中身が違うから否定される。

「それを言うな!」

それでも俺は、本当にあなたを愛してしまったから。

「誰よりも、あなただけを愛して・・・」

どんなに貴方が俺を、憎んでいてもこの気持ちは奪えない。

「SILENCE!」

だから、その気持ちまでも否定されたら、俺は存在できないんだ。

「愛してる」

「When not stopping the chattering, I kill you.(そのお喋りを止めないと、私はお前を殺すよ)」

親父の口から出た殺意の篭もったその言葉に、俺は笑いながら首を横に振った。

「ダメだよ。でも、愛していることは否定しないで欲しい」

   「It will kill if wanting to die.」

すごく恐い顔で俺を見ている。

「ダメだ。それじゃ、約束が守れない」

その言葉に、すごい恐い顔だった親父の表情が少しだけ、和らいだ気がした。

   「シンタロー?」

いや、ただ驚いているだけなんだろうけど。

それでも、俺にはそんな風に映ってしまう。

   「約束だから、あんたに俺を殺させない」

あの時、親父に約束をした。

俺が、親父の代わりに『シンタロー』を殺してあげるって。

そう、約束したのを、もう忘れてしまっているのかな。

   「俺、約束だけは守るから」

枕の下に隠し持っていたナイフを取り出し、そして首元に当てた。

   「シンタロー」

一生懸命、俺にできるとびっきりの笑顔を作りながら、それをゆっくり頚動脈のある皮膚に差し込んでいく。

ぶつっと嫌な感触と音が同時に頭の中に響いてくるが、それにかまわず刃を進めていくと、身体が急に熱くなってくる。

   「今まで、生かしてくれて、ありがとう」

一気にその刃を、横に進めれば色んなものが切れて、そして肺に入り込んでくる。

咽たいが、咽ることもできない。

熱くなった身体は、流れ出るものと同時に冷たくなっていく。

一生懸命、笑顔のまま親父を見つめていると、あいつは笑っていた。

   「Good-bye. Eternal sleep.
My hated Mr. vicarious victim」


親父の最後に聞いた声


あんたらしいよ、でもさ、


よかった。


あんたに、看取ってもらえて。


最高の、幸せモノじゃん。


もう、疲れきっていたけどさ、


最後にいいことあった


別れの言葉は、酷かったけど、


もう、苦しまなくていいから


だから、気にしないさ


世界が段々霞んでいって、


真っ赤な世界が広がって、


そして暗くなった。


ああ、俺は死ねたんだ。


そして、俺はやっと“無”に帰れるのか。




続く




反省
元々は、マジックがシンタローを殺すシーンでした。
ってか、自害かよ。

りお様ごめんなさい。

なんか、違う話のように感じてしまうかもしれません。

ゴメンナサイ。
p1

「ジャン」

布のこすれる音。

何をしているのか、分かってしまう音に、耳を塞げないままの俺。

「あぁ、マジック様」

荒い息遣いで、相手の名前を呼ぶ黒髪の男。

その息遣いは、知っている。

「あああ、そんな・・・」

頬を高揚させ、潤んだ瞳は相手を誘う武器。

同じものを、俺も持っているから良く分かる。

「ふふ・・、お前は本当に可愛いね」

その色香にワザと引っかかった振りをする。

俺のときも、そうするから。

「もっと・・ああ、そこ」

背を仰け反らせながら、相手を奥へ奥へと誘うその姿はまるで娼婦そのもの。

俺も、そうだから・・・・。




俺はそれ以上見ることができず、その扉を閉じた。




朝は、イヤでも毎日訪れてしまう。

けたたましい音で起床時間を知らせる時計のスイッチを押し、その五月蝿い音を止めた。

長い髪が、体中に纏わりついてくる感触に、眉を寄せる。

夢なんて覚えてもいないが、どうも夢身が悪かったのだろう。

張り付いた髪を取ろうと、額に手をやれば大量の汗がその甲についた。

「最悪だ・・・・」

なんとなくではあるが、薄々分かっていたことが本当だったという確証を得ただけだというのに、どうしてこんなに胸が痛むんだ。

起きたくなかった。

起きて、台所にいる親父に合いたくなかった。

「シンちゃ~ん、朝だよ~」

日課となったその声に、溜息を吐いてしまう。

仕方なく朝食に向かうべく、汗を流すため浴室に向かった。








「シンちゃん!パパね頑張ったよ~」

朝食の時間、テーブルの上には、いつものように和食の朝食が用意されていた。

そして起きてきた俺に、ピンク色の声で話しかけてくる。

「うるせえ」

それに、いつもの態度で、いつもの言葉で返し、手に持っていたジャケットを椅子の背にかけると、俺は自分の席に座った。

「ひどい」

ぶつぶつといいながら、俺の前に温かい白いご飯と、味噌汁と配膳をしながら、また「ひどいよ」と呟かれた。

それを無視しながら、手を合わせ「いただきます」と一言言えば相手は上機嫌になり、ニコニコ笑顔で俺の顔を見つめてくる。

テーブルには、俺と親父だけ。

グンマたちは、いつも気を遣って俺よりも先に朝食を済ませているので、このテーブルで皆が集まって朝食をとったことはなかった。

「シンちゃんて、酷い子だね~。パパ、悲しいな」

無視を決め込みながら、箸を動かす。

「鬼~、意地悪~」

いつもの態度に小さく溜息を吐き、まだ食べかけだった食事を前に、食べる気などとうの昔に失せてしまった俺は、持っていた箸をテーブルに置き席を立つ。

「ごっそさん」

「あれ、もういいの?」

全く食べていない食事に、親父の眉間に皺がよる。

少し、眼の色が冷たくなった気がした。

「ああ」

「悲しいよ、パパが一生懸命作ったのに・・・・」

泣きまねを始めようと準備をし始めたため、俺はこのままかかわりを避けるためさっさと仕事に向かうことにした。

椅子の背にかけてあったジャケットを取り、「いってきます」と小さな声で挨拶をして部屋を出た。

背後では親父が五月蝿く「残すなんて、ひどいよう~」と泣きまねをする声が、ドアを閉めるまで聞こえた。




続く



反省
・・・・味噌汁のみたい。







仕事をしている時間が、今の俺にとって一番幸せなのかもしれない。

余計なことを、考えなくて済む。

昨晩、たまには俺のほうから誘ってやろうかと、俺らしくないことをふいに思いついた。

親父の部屋に乗り込んで驚かし、いつものすました表情を崩したまま、そのまま立ち去ってやるのも良いし、それからなし崩しにやってもいいなと、意気揚々向かった部屋。

気配も消して、音も立てずに開けたドアの向こうには、すでに親父の上に俺がいた。

いや、『俺』であって『俺』ではない、誰か。

俺を支えていた足元の、何かが、全部崩れ落ちた。

それは繊細な雨細工よりもろく、親父の存在で何とか俺を形成していたもの。

それに名前をつけるなら、『無償の愛情』。

それに対する無意識の依存。

いや、当たり前だった。

どんなに俺が、ジャンと同じ顔だからと言って、親父は俺がいる限りジャンのほうなんて、見向きもしないと安心していた。

だって、俺は血がつながっていなくても、24年間は本当の親子として生活していたんだから。

周りがあきれるぐらい、可愛がられて、愛されて育ってきたはずだ。



「総帥、本日はこれぐらいで」

秘書のティラミスが俺が判を押した書類を抱え、「今日はお仕事がかなりはかどりましたので、ご褒美ですよ」と、どちらが上司か分からないことを微笑みながら言ってきた。

「いや、もう少し・・・・」

このまま部屋に戻りたくなかった俺は、いつもなら山のように溜まっている書類を捜したのだが、それが全く見当たらない。

「総帥が全部片付けたので、我々もすることがほとんど無くなってしまったんですよ」

チョコレートロマンスが苦笑している。

「そっか」

いつも残業をさせている秘書達も、今日は珍しく定時に上がれるという期待に目を光らせている。

そんな期待に応えないのも悪い気がして、俺は定時前に上がった。

予定では、今日も残業だったから、親父も俺が今終わっているということ知らないはず。

そんなことを考えた俺の脳裏に、ふと悪魔の囁きが聞こえた。

『あれを試せ』と。

前々から考えていた、『あれ』。

裏切ることになるかもしれない行為が、怖かくてできなかった。

だが俺の土台が亡くなった今、怖いものなんて何もない。

今の心が痛むこの状況で、ただ何もせずそこにいることができなかった。




つづく



反省
暗いくらい・・・





それは、準備が必要なこと。

準備といったって、大それたものではなくとても簡単なものだ。

俺のちっぽけな『自尊心』をゴミ箱に捨て、少し大きめの手鏡とハサミを準備し、あとは白衣を着るぐらいで十分。

それを実行に移すため、総帥室から出た俺は高松のところに立ち寄り、グンマからハサミと手鏡、あとは白衣を借りた。

「前髪が邪魔だから、切るっていうのはよく分かるけど、何で白衣が必要なの?」

「お前も大人になったら、わかんだよ」

それ以上聞くなと、頭を軽く叩いてその部屋を後にする。

そのまま、一般団員用に設けられたトレーニングルーム横のシャワー室に忍び込み、誰も使用していないことを確認すると、そのまま一番奥の個室に入った。

ここまで上手くいくと、なんだか見られているのではないかという錯覚に陥ってしまう。

「考えすぎか」

自虐的な笑みが出てしまうのは、精神的にどん底まで落ちている今を考えれば仕方のないことだ。

「さて・・・」

誰かが来る前に、早く行動に移そうと手に持っていた手鏡とハサミを見つめた。

「・・・・ったく、バカらしいよな」

親父が好きだといってくれた髪。

少し伸びたときから邪魔になり、何度も切ろうと思ったが、親父が「とても、好きだから切らないで欲しい」とそんな戯言に心躍らされ、今まで伸ばしてきた。

  
  『邪魔なんだよ』

  『パパは、シンちゃんの髪が好きだよ』

  『俺が、いやなの』

  『ダメ、このまま伸ばして。ね?』


それは、結局ジャンと見分けがつくためだったんだろ?

「信じて、いたんだ・・・ずっと・・・・」

俺であるための土台でもある、この髪。

「だから、だから、俺は・・・・」

そう思いたくないから、俺は親父を試す。

「ゴメン、父さん」

そして、自分の髪を一房掴みそれに鋏の歯を当てた。

「・・・・・・さよなら、だな。自分」

鏡の中の俺は、今まで見てきた己の顔の中で、一番酷いものだった。





続く


反省




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