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シンタローはハーレムを待っていた。別に自分から望んだ事でもなく、誘われたから行くだけだと言えばその通りだ。
自分の意志で街に下りるのは久しぶりだ。視察やなんかでくる事はあるものの、それまでだ。自分から来たいとも思わないし、必要な事は全部団内で事足りる。それほどに意識から遠い場所ではあったが、いざ来てみるとどこか懐かしさを覚える。記憶の奥の方に眠っていたのだろうか。
喧噪は近い。壊れかけのテレビみたいに人々は、いろんな音を発しながらシンタローの側を通り過ぎて行く。自分なんかが街に下りても大丈夫かと心配だったが、たまに振り返る者があっても、それも一瞬だった。案外顔は知られていないんだなと、シンタローは苦笑する。腕を組み直し遠くを見遣れば、赤色がだんだん近づいてくるのが見えた。シンタローが、それがハーレムの車だと気づいたのは、その車が自分の前で止まったからだった。驚きに目を丸くしていると、内側から扉が開かれた。
「乗れよ」
雑な言葉とは裏腹に、開かれたドアから見える手は優しく手招きをしているように見えた。一瞬間があいたシンタローの動作にハーレムが中側から覗き込むと、シンタローは思わず笑う。似合わないな、おっさん。シンタローが言ってみせると、ハーレムは銜え煙草で笑う。
「安全運転で頼むぜ」
後ろから急かすクラクションに、シンタローは足早に乗り込んだ。

町並みが鮮やかに流れて行く。元来そうなのか、シンタローが注意したせいかは知らないが、ハーレムは安全運転で車を走らせていた。車はと言えば、完全にハーレム仕様だった。匂いはハーレムの煙草の匂いだし、助手席の位置はハーレムの女の位置だった。ハーレムの吐き出した煙にシンタローがむせると、すまん、と一言、灰皿に煙草を押し付けた。
「・・・どうした、今日は」
普段見せぬ優しさに思わずそう聞けば、ハーレムは何も言わずハンドルを右に切った。何も言わないハーレムに、シンタローはハーレムに向けていた視線を再び窓の外に追いやった。答えろよ、とぼやく。
「デートだからな」
約5分後、シンタローが質問を忘れかけていた頃にハーレムはそう答えた。
「は?」
「デートだからな、今日は」
そしてまた5分後、シンタローは答える。
「おっさん、馬鹿か」
ウインカーの音にかき消される声だった。煙草はもう消したはずなのに、シンタローはまた咳き込んだ。

「照れるなって」
豪快に笑い飛ばすハーレムにシンタローは、あからさまに不機嫌な顔をしてやった。


ハーレムの車の色って
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この男から気遣いの言葉を聞くとは思わなかった。そう思いながらシンタローはわずかに体をもたげる。
「大丈夫か」
ハーレムは指にシンタローの髪を絡め遊ぶように動かす。するりとこぼれる黒髪を追いかければ、汗ばんだ肌にたどり着く。
「・・・誰のせいだ」
ぼやくように言い放ち今度こそシンタローは体を起こす。肩をなぞる指が邪魔だった。覗き込むハーレムから視線を外せば、くつくつと楽しげな笑い声が聞こえる。
「素直じゃねーな」
「・・・・・・黙れ」
ハーレムが反対を向く気配に振り返れば、おそらく戦場で負ったのだろう傷だらけの背中がうつる。
シケモクに火を付けるハーレム。カチ、とライターの音を合図にしたようにシンタローはハーレムの背に触れる。その感覚にハーレムは振り向きもせずそっぽを向いて煙草をくゆらせる。滑り落ちた手は背中の下部を左右に走る傷へ。
「・・・珍しいか?」
笑うハーレムに、痛々しい傷をシンタローは眉もひそめず見つめる。
そうして次の瞬間、シンタローはその傷に唇を重ねた。
「・・・気でも狂ったか」
振り返るハーレムにシンタローはぺろりと舌を出してみせる。赤い舌がまるで蛇のように動くのを見てハーレムは、誘われているのだと気づいた。
「・・・けっ」
半ばぶつかるように唇を重ねる。

名前の分からない感情を二人は、その手に持て余していた。
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二日酔いだ二日酔いだと吠えながら、ハーレムはシンタローの所へやって来た。

「・・・いつまでいるんだよ」
ため息まじりのシンタローの声も、ハーレムの大欠伸にかき消される。総帥用の大きなテーブルと椅子の反対側、負けず劣らず大きな来客用のソファにハーレムは我が物顔で寝転がっていた。背もたれの上の部分から、オレンジがかった金の鬣が見え隠れしている。全力で追い返そうと努力すればそうできるのだが、今は山になった仕事の合間、片手間に「帰れ」というくらいしか出来ない。仕方なくシンタローは、ハーレムが自分の意志で出て行くのを待つ事にした。

「泣いてないんだな」
唐突に、ハーレムの声が空気を震わせた。
「は?」
シンタローは、目を走らせていた書類から視線をソファに移す。いつの間に起きたのか、ハーレムはソファの背もたれに片手をかけこちらをじっと見つめていた。声の主は深々と煙草をくゆらせ、距離はあるはずなのにその匂いはシンタローの元まで届いていた。ただよう煙とハーレムの顔を交互に見遣ると、もう一度ハーレムは問う。
「泣いてないんだな」
同じ言葉で、少しだけ大きな声。今度ははっきりとその音はシンタローの耳に沈んだ。小さく噛みしめるようにシンタローは自分の中でその言葉を繰り返す。
「・・・なんのことだ」
結果だけを問うハーレムの言葉に苛つきながらもシンタローは平静を装う。書類は既に手から離れテーブルの上に落ち着いていた。
「・・・・・・・」
言葉の代わりにハーレムはたっぷりと煙を吐き出した。さまよい、そして消えて行く。何も言わないハーレムのおかげでシンタローは、記憶を全てひっくり返す羽目になった。

「総帥」の名をその肩に負うものは、泣くという事を自らに禁じているようだった。だから、入団以来の親友だと笑っていた男の訃報を聞いても、シンタローはその背中で、ましてや表情で泣くなんて、これっぽっちもしてみせなかった。

「・・・あんたに関係ないだろ」
青い目が、痛かった。視線を合わせていると本心を見抜かれそうで、シンタローは思わず部屋の中の何も無い空間に視線を這わせた。目の端でハーレムが動くのが見えて、何か厄介な事でもされるんじゃないかと思わず椅子に座ったまま少し後ずさる。ざざ、と椅子の脚と床が擦れる音がやけに響いた。手が伸びて来て、ついでに酒と煙草の匂いも運んで来た。きつい匂いにくらりとして、そして頭の上の影に気づく。ハーレムの、軍人らしい大きな手がシンタローの頭の上の空間に乗っていた。叩くのだろうか、殴るのだろうか。予想は外れた。ぽん、と軽く頭に手をのせられ、そして手は動く。撫でているのだった。ハーレムの手は、まるでそうする事しか知らないみたいにシンタローの頭を撫で続ける。黒髪が乱れて、くしゃ、と潰れる。

ハーレムなりの、それは慰め方だった。
人が、その命を失くすという事は悲しい事なのだと。
どんな肩書きを持っていようと、死を嘆いてはいけない事など無いのだと。
例えようも無く、不器用だった。

「・・・へたくそ」
ただ左右に動く手を、シンタローは笑い飛ばした。


二日酔いの目、泣きはらした目
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戦闘の指揮やデスクワークと言った仕事ばかりで戦闘の前線にはほとんどでないが、総帥の手はそれほど奇麗という訳ではない。傷もあるし、グンマの実験に付き合わされてついた傷なんかもある。
重なった傷の、一番上。わずかに皮膚が剥がれて赤くなっていた。空気に触れれば痛むその場所を見て、シンタローは思わず顔をしかめる。舐めるつもりがつい噛んでしまったとあの男はいつもの顔で言った。そんな馬鹿な事があるかとシンタローは言った。けれどそれも、乱暴な愛撫でごまかされうやむやになってしまった。
「・・・ちっ」
舌打ちをしてはみたものの、それすらあの男の思うままなのではないかと思いシンタローは頭を抱えた。

獣だった。
それも、猛毒を持った獣だ。
決して即効性ではない。じわじわとめぐる毒が、次第に体の自由を確実に奪って行く。
毒に地に伏す自分を見下ろし、ハーレムはやはり笑うのだろう。
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まず目に入ったのは、その手に握られた濃い青色のボトルだった。
隊服ではない地味なハーレムの格好で、それだけがその鮮やかな色のせいか浮いていた。もうすでに酔っているのか、千鳥足でハーレムは総帥室へ入って来た。ハーレムの動きにつられて揺れる青のボトルからハーレムに目をやれば、「よぉ」と表情で言う。何度目か分からないため息を吐き、諦めたようにシンタローは座っていた総帥用の椅子から対面の来客用の椅子へと場所を移す。そこはハーレムと、シンタローの指定席でもあった。

来た理由など聞かなくても分かっていた。それはもう何度も、ハーレムがその理由でシンタローの所にやって来ていたからだ。ただの「酒盛り」。無類の酒好きのハーレムにとっては、それがどうも毎日行うべき行為として定まっているみたいだった。
付き合わされるこっちの身にもなってみろ。シンタローがそう言いたくなるほど、ハーレムはほぼ毎日こうやってシンタローの所へ押し掛けて来ていた。
別に何か楽しい話をしあいながらなんて訳でもなく、グラスに酒をついで、呑んでなくなればまたついで、そしてそれがボトルが空になるまで続けられるだけ。その間にすこしハーレムの自慢話が付いてくるくらいだ。
「で、今日はどうしたんだよ」
半分ほど酒がつがれたグラスを持ってシンタローは言う。どんな自慢話だ?と笑いながら問えばハーレムは満面の笑みで喋り始める。



ハーレムの笑い声がふと、止む。シンタローがグラスからハーレムへ視線をやれば、まっすぐな目が見つめ返していた。
「シンタロー」
静かに名を呼ばれ、思わず視線をそらす。少しずつゆっくりと、変わり始めていた空気を、シンタローは感じていた。ハーレムという男が、「叔父」から一人の男になる。
シンタローは立ち上がっていた。
けれどそれよりも早く、ハーレムの腕がシンタローの腕を、逃がすまいとばかりに握りしめていた。その勢いのまま、シンタローはハーレムの腕の中へと収まる。酒の匂いしかしないはずの、その向こう側からただよう獣の匂いに、目がくらむ。
引き寄せられた勢いで触れた太腿は、火傷しそうなほどの熱さだった。酒の力だけでは無かった。
「ハーレム・・・!」
精一杯の、抵抗だった。普段呼ばれぬ名前を呼ばれたことに一瞬ひるんだのか、腕の力がふっと抜ける。その隙にシンタローは逃げ出し、ソファにつまずきながらもハーレムから離れる。
「なに、っしてんだよ・・・!」
荒いだ息を整えながらシンタローは叫ぶ。打って変わってハーレムは、鼻で笑い、両手を両肩の辺りまで上げ、さあな、とジェスチャーをしてみせる。
「とぼけんな・・・!」
体中をめぐる酒が、シンタローの体の自由を利かなくさせる。熱湯に浸かったみたいに、体中がぼんやりしていた。
「・・・・・・」
「?」
ハーレムの口が動くのが見えた。しかしかすかな声はシンタローの所までは届かなかった。ハーレムは立ち上がり、シンタローとの距離をつめる。後ずさりが出来たのは、壁までだった。冷たい壁を背に、逆光で表情の分からぬハーレムに、シンタローは恐怖に似た感情を覚える。
「・・・っ!」
一瞬のことだった。ハーレムの右手はシンタローの首をつかんだ。けれどそれは優しく、まるで赤ちゃんにでも触れるみたいだった。シンタローが唾を飲む、その喉仏の動きがハーレムの腕を伝う。
「して欲しいんじゃないのか?」
耳元で、ハーレムが囁く。ぶつかった視線で「何を」とシンタローが問えば、ハーレムはにやりと笑う。首に添えられていたハーレムの手が動き、その親指がシンタローの唇をなぞる。伸びた爪が、乾いた唇を引っ掻く。小さく走った痛みに顔をしかめれば、滲んだ血を絡めとりながらハーレムはシンタローに口づける。

ただ、その行為だけを与えようとするキス。
なにも、感じなかった。
ハーレムの肩越し、目の端に映った群青が、いつまでも頭に残っていた。


無意識の欲望
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