作・斯波
とりかえしのつかない恋に
あなたと堕ちてみたいんだ
ものの弾みで泣いちゃいそうな
ちょっとしたことで笑えるような
直情ロマンス
人を好きになるってどういうことだろう。
二十八歳にもなって最近俺は、しみじみそんなことを考えている。
だけどホントのところのんびり考えてる暇なんてないんだ。
「俺シンタローさんのことが大好きっす!」
「もういい加減聞き飽きたんだけどソレ」
「何回でも言いますよ、俺あんたを愛してますから」
好きだって言われるのははっきりいって悪い気分じゃない。
だけどほのぼのしてる場合じゃない。
俺の仕事やこいつの使命や過激に素敵で粘着質な家族親類一同という諸事情を考え合わせると、とてもこいつの浮かれたアプローチにとりあっちゃいられないんだ。
「あのなあ、おまえ俺の性別年齢職業ご縁戚一同分かって言ってんの?」
「え、そんなん関係あります」
「あるだろーが普通!」
怒鳴ると、ヤンキーは本当に俺の言っていることが分からないというように首を傾げた。
「シンタローさんはそんな事考えて人を好きになるんすか」
「や、別に考えてから好きになるって訳じゃねーけど」
「だったら問題ないっすよね」
俺は、シンタローさんがシンタローさんだから好きなんですよ。
そう言って真っ白な歯を見せて笑うヤンキーの顔に、思わず見惚れた。
そんなに簡単なことなのか。
どうしておまえは躊躇いもなくそう言い切れるのか。
(今までにだって好きだと言われたことは何度もあるけど)
うかうかしてると流されそうになる。
こんな相手は、初めてだった。
「ね、手ェつないでいいですか」
「はあァ!? おまえバカじゃねーの!?」
「手ェつないだら大体分かるんですって」
「だから何が!」
「こうやって」
リキッドはさらさらに乾いた手でぐいと俺の手を握った。
「あっコラ」
「ヤですか?」
「何真顔で訊いてんだ! てめーやっぱ正真正銘のバカだろ!!」
実は、嫌ではなかった。
リキッドの手は大きくて温かくて、握られているだけで俺は心が落ち着くような気がする。
それはまるでふんわり乾した布団にくるまっている時みたいな、ぽかぽかした気分。
「ほら、俺たち絶対相性バッチリです」
「適当抜かしてんじゃねーぞてめェ」
「―――だから、俺とキスしてみません?」
ぬけぬけとほざきやがったヤンキーを、躊躇なく眼魔砲でぶっ飛ばした。
油断してるとついほだされる。
(ただの純情ヤンキーだと思ってたら)
恋の駆け引きも知らばこそ、若さに任せてぐいぐいと押しまくってくるリキッドの粘り強さに、不意に根負けしそうになる。
「信じてないんですか。俺、本気なのに」
真っ直ぐに俺を凝視めてくる青い瞳は少年のように澄んで、けれど確かに男の欲望がその奥に煌めいていて。
「初めて逢った時から思ってたんすよ。俺いつか、この人の運命のひとになるって!」
(・・・うわああ)
何でだ。何で俺の周りにはこーいう思い込みの激しい奴ばっかり集まってくるんだ。
くらくらと眩暈に襲われた俺のことはお構いなしで、リキッドは俺をぎゅっと抱きしめた。
「シンタローさんのこと考えたら夜も眠れない。もう毎日うずうずしてるんです。シンタローさんが振り向いてくれるまでなんていつまでも待ってられんない。俺そんなに気、長くないから」
「ちょ、離せ」
「ね、俺のことちゃんと真っ直ぐ見て下さいよ」
子供っぽい唇がニッと微笑を形作る。
「そしたらシンタローさん、俺からもう離れられなくなるよ。―――」
本日二発目の眼魔砲は、ヤンキーを家の外まで吹っ飛ばしたのだった。
人を好きになるってどういうことだろう。
考えたって始まらない、それくらいは理解してるつもりだけど。
―――俺いつか、この人の運命のひとになる。
(根拠のない思い込みと執着)
だけど不意に見せる真剣な眼差しが俺を惑わせる。
もしかしたらこいつは本当に俺のことが好きなのかもしれないと、そう思った。
ぶっ飛ばしても蹴りを入れてもメゲずについてくる。
「シンタローさん、ちょっとは本気で考えてみてくれました?」
「・・・おまえ、小学校の通知表に『人の話を聞きましょう』って書かれたクチだろ」
「『男が一度決めたら何があろーと諦めるもんじゃねェ』っつーのが親父の口癖でした♪」
(ほんとはちゃんと分かってる)
リキッドに求められることを、実は結構嬉しいと思っちまってる俺がここにいる。
(だけどやっぱり怖いんだ)
心の声に耳を傾けることがこれ程怖いものだと、知らずによくもまあ二十八年も生きてきたもんだ。
それでもリキッドは食い下がる。
「だって、今の気持ち以上にほんとのことなんてないでしょ」
「だからその一方通行な思い込み何とかしろ」
「どうせ俺たちはいつか誰かを裏切っちまう」
「・・・え?」
「存在してるだけで誰かを悲しませちまうことだって、あるから」
大きな青い瞳が微笑っている。
「だからせめて今は、自分の中の綺麗な想いは大事にしたいんすよ。俺、何回ぶっ飛ばされたって負けません。煩がられたって、しかめっ面されたっていいから」
「リキッド・・・・」
「俺、シンタローさんのこと愛してます!」
俺に必要とされることを願ってやまない不器用な男。
押しの一手しか知らない強引な、だけど可愛い年下の男。
「全く・・・無茶苦茶だよ、テメーは。―――」
(この溜息をも愛と呼べるなら)
もしかしたら俺たちは上手くやっていけるのかもしれない。
いつまで、どこまで、どんなふうに、このままが続いても。
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ヘタレてないリッちゃんは当サイト初です。
ご縁戚一同は考えた方がいいと思います。
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作・斯波
思いがくるくる回ってる
近くにいるのに飛ばされる
二人の距離が
つかめない
CLOSE TO YOU
満天の星空。
立ち上る湯煙。
リラックスするにはこれ以上ないシチュエーションのはずなのに俺が声も出ないほど緊張しているのは、隣でのんきに歌など口ずさんでいる鬼姑のせいだった。
パプワにせがまれて三日がかりで作り上げた露天風呂は、自分でも拍手したくなるほどの出来栄えだった。パプワとチャッピーは勿論、アニマルズやシンタローさんも大喜びで楽しんでくれて、俺はそれが嬉しくてたまらなかった。
だけどやっぱり俺は家政夫だから、風呂に入るのはちみっ子たちを寝かせた夜更けになる。
まあ一人で星を見ながら湯に浸かる気分は格別だったのでのんびり手足を伸ばして楽しんでたら、目を覚ました姑がやってきたのだった。
「おっいいな、夜の露天も」
「あ、も少ししたらあがりますからシンタローさんもドーゾ」
「ヤダ」
「えっ?」
「おまえ、風呂長いもん」
「いやそんなに長くは・・ちょっと待ってて貰えれば」
「うるせェ、口答えすんな。俺は今入りてーんだよ」
―――あんたどれだけ俺様なんですかアアァ!
魂のシャウトが途中で途切れたのは、無造作に服を脱ぎ捨てたシンタローさんのせいだった。
(ちょ・・・ヤバイ)
心拍数が、一気に跳ね上がった。
(・・・確かに風呂は島のみんなのことも考えて大きめに作りましたけども!!)
だけどゴツイ男二人が一緒に入るなんて状況は想定の範囲外で、自然俺とシンタローさんは肩が触れ合うほどの距離に居た。
―――あああ・・早く上がってくれねえかな。
俺の方が先に入っていたんだから俺が先に上がるのが普通なんだろう。
なのにそれが出来ないのは、湯の中でぼんやりと揺らめく白い身体のせいだった。
暗いせいではっきりとは見えないけど、それがかえって俺の劣情を刺激する。
別にイケナイ想像をしてるわけでもないのに、俺の下半身はとても人様に見せられるようなものではなくなっていた。
「―――な」
「はいっ!?」
「やっぱ風呂長いじゃんおまえ」
「そそそうすか!?」
声が裏返った。
「や、今日は何か疲れちゃって・・・やーいいもんですねっ、ゆっくり湯に浸かるってのは!」
「まあな」
ニヤリと笑うと、黒い瞳がきらりと光るのが夜目にもはっきり分かった。
(シンタローさんは、やっぱり綺麗だ)
そう思った瞬間、シンタローさんの指が俺の頬に伸びた。
「・・・おまえ、湯あたりしたんじゃねェ?」
「えっ」
「顔、スゲー熱くなってる。―――」
濡れた指が俺の頬をすっと撫でて、―――それから・・・唇をかすめた。
「シンタローさ―――」
ざばっとシンタローさんが立ち上がる。
水面が激しく揺れて、こぼれた湯がざあっと音を立てた。
「んじゃ、お先」
見事に引き締まった身体が無造作に湯船を跨ぐ。
呆然として言葉もない俺の前を通り過ぎて、シンタローさんはふと振り向いた。
「おい、リキッド」
「―――あ、はいっ!?」
「おとぎ話ならそれでいいけどさ、願ってるだけじゃ現実にはどうにもなんないんだぜ?」
ニッと笑ってそう言ったシンタローさんは、タオルをひっかけて家の中に入っていった。
濡れた長い黒髪から振り零れる水滴が、まるで天から落ちてきた星屑のように見えた。
広くなった湯船の縁に顎を乗せて、俺は満天の星空を見上げる。
「どうしろっつーんだよ・・・」
―――・・・どうせ俺に触れる気なんかないくせに。
(とか、ヘタレな俺には言えるわけもないけど)
今はあの人の一番近くで笑っていたいと、心からそう思った。
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風呂が長いのは渡井です。
斯波は短いです。
でもシンタローさんを風呂に入れるのは好きだそうです。
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作・斯波
明日天気になあれ
雨は半刻を過ぎて激しさを増していた。
俺は木の下で雨宿りをしながら空を見上げた。
このまま走って帰るか―――しかしそうすると背中に背負った食材も濡れる。ついでに今着ている服は同居している姑が洗濯したもので、濡らすと非常にまずい気がする。
じゃあ止むのを待つか―――しかしそれはそれで食事の支度が遅れてまずい気がする。
(どっちにしてもシンタローさんに怒られるのは決定か・・・)
走るか、と覚悟を決めた時、濡れた草を踏んで足音が近づいてきた。
誰だろう、と振り返って俺は目を丸くした。
傘を持って立っていたのは、今まさにその顔を思い浮かべていた鬼姑だった。
「何してんだよヤンキー」
隣に住んでいるトシさんが作ってくれた傘を差して、手にはもう一本の傘。
「ほら、帰るぞ」
ぶっきらぼうに言って俺に傘を押しつける。
「え、あの・・・」
「パプワが腹空かしてんだよ。帰ってとっとと飯の支度だ」
「あ、はいっ」
足早に歩き出した背中を慌てて追いかける。
―――もしかして俺を迎えにきてくれたんだろうか。
心臓が、ドキドキしていた。
「言ってた食糧は調達出来たか」
「はい、多分全部揃ったと思うんですけど」
「そっか」
空が急激に明るくなっていく。
「あの、シンタローさん」
「あん?」
―――俺のこと迎えにきてくれたんすか。
そう訊こうと思った時、シンタローさんが足を止めた。
太陽が覗きかけた空からは、もう雨は落ちてきていなかった。
「何だ、こんなにすぐ止むんなら迎えにきてやることもなかったな」
晴れていく空を見上げてシンタローさんは独り言のように呟いた。
「あの、ありがとうございます!」
「何改まってんの? せっかく洗濯した服濡らされたら気分悪いだろーが」
「あ、やっぱりそっちっすね・・・」
「―――それに今の時期は風邪、ひきやすいんだぜ」
「え?」
(今、何て)
ぽかんとした俺にびしゃっと冷たい水滴が降りかかった。
「ひゃっ」
シンタローさんが閉じた傘の滴を俺に投げかけたのだ。
「何するんすか!」
「グズグズすんな、ヤンキー」
俺を置いてさっさと歩き出す。後ろからは背中に揺れる髪と耳しか見えなかったけれど、俺はそれでも顔がだらしなく緩むのを抑えきれずにいた。
―――今の時期は風邪、ひきやすいんだぜ。
俺のことを心配して迎えにきてくれた鬼姑の耳は、林檎みたいに真っ赤だったから。
「・・おい!」
急に足を止められて、危うく広い背中にぶつかりそうになる。
「は、はい?」
「何で後ろ歩くんだよ?」
「え」
「俺の背後に立つんじゃねえよ」
「何ゴルゴみたいなこと言ってんすか? じゃあ俺が先歩きま」
「違うだろーが、馬鹿」
―――だから、・・・隣に来いよ。
そう言った小さな声は、ほんの少し気恥ずかしそうな響きを帯びていた。
シンタローさんの温かい手をしっかり握って歩く。
「遅くなっちゃいましたね」
「ああ」
「パプワ、怒ってますかね」
「ああ」
「キスしても、いいすかね」
「ああ―――ってコラ、ふざけんな!」
そっと触れた唇は、手よりもずっと柔らかくて温かかった。
「あ、明日も晴れですよ。―――」
見上げた空にはもう、薔薇色の夕焼けが広がっている。
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トシさんはリッちゃんのために一生懸命作ったんだと思います。
こんなことになってるとも知らず。
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作・渡井
晴天・好日
吹き抜ける風は気持ちいいが、日差しはじりじりと肌を焼く。
よく晴れたパプワ島で、リキッドは洗濯物を干していた。翻る白が目に眩しい。
「リキッド、今日のおやつはケーキがいい」
先ほどまで家の中でチャッピーと踊っていたパプワが、堂々と胸を張って宣言した。
「ケーキ? だけど卵がないぜ」
「取って来ればいいだろう」
「簡単に言うのねお坊ちゃま。じゃあパプワが取って来てくれよ」
「ノン。紫外線は肌に悪い」
「まあっ、この子ったらコタローの影響?」
言いながら少し可笑しかった。
パプワは最強のちみっ子だ。それはただ強いというだけではない。
この島は人を変える。かつて自分もそうだったように。そしてパプワ島の力とはすなわち、パプワの力なのだと思う。
コタローもこの島に来て、パプワの影響でずいぶんと変わった。あの女王様っ子は今も友人のために一生懸命に違いない。
だけど、パプワだってコタローの影響をちゃんと受けてるんだ。
コタローの言い草を真似られて、結局は自分が卵を取りにいく羽目になったけれど、何となく嬉しい気がした。
「っと、危ねえ」
険しい崖を登っている途中で手が滑りかけ、慌てて体勢を立て直す。
この場合の「危ない」とは滑落によって怪我をする危険性ではない。滑落によって服を破いた、あるいは汚したためにお姑に怒られる危険性を指す。
でもなあ、とリキッドは緩みそうになる口元を引き締めた。眼魔砲や悪口雑言や猫シャーでリキッドを叩きのめすあの俺様お姑だって、パプワに多大な影響を受けているし、与えてもいる。それはもう、弟以上に。
シンタローがパプワとチャッピーに向ける笑顔には、傍にいるだけのリキッドですら見とれてしまう。他人が入り込めないものを感じて、寂しくないと言ったら嘘になるけれど、安心する。
パプワはこの島の主で、シンタローはガンマ団の総帥。
頂点に立つがゆえに時に誰より孤独な存在が、かけがえのない絆を見つけられたなら、それはやっぱり幸せなことではないだろうか。
パプワ島ヒエラルキーの最底辺あたりに位置する自分も、いつかパプワやチャッピーやシンタローやコタローやナマモノや特戦部隊に、大好きな人たちに影響を与えられるくらいの存在になれるように。
リキッドは腕に力を込めて頂上へと這い上がった。
パプワ島の食材集めはナマモノたちとの真剣勝負。一瞬たりとも気は抜けない。軽く両頬を叩いて気合を入れる。
こんな何気ない日常だって、過去の自分が望んだ大切な未来だ。それを、未来の自分が誇れる大切な過去に出来るように。
もしかしたら全力片想い中のお姑が、ケーキ作り手伝ってくれるかもしれないし。なんて、少し虫のいい考えが頭をちらりとよぎるのもご愛嬌。
吹き抜ける風は気持ちいいが、日差しはじりじりと肌を焼く。
パプワ島は今日もいい天気。
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リッちゃんが思うパプワ・チャッピーとシンタロー・コタロー兄弟。
「全力片想い中の」は、下手するとリキシンよりリキ→シンが好きな渡井の趣味です。
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作・斯波
君が寝ている
どんな夢を見てるのかな
そこに僕は
いるんだろうか?
夏空の向こう側
さっきまで笑ってたのに、もう寝ちゃってる。
そういえばもつれる舌でねむねむ大王が来たとか訳の分からないことを口走ってた。
あー来てるそこまで来てるよ俺もう勝てねーよ、と言ったと思ったら糸が切れたみたいにことりと眠りに落ちてしまった人の頬っぺたを、ちょいとつついてやった。
「ん―――・・・」
クムクム・・と言いながら寝返りを打ってこっちを向いた顔の可愛さに、地団太を踏んだ。
太陽が程よく照っていて、時折風が吹きぬける。
マッドなナマモノ達も今日は姿を見せない。
俺とシンタローさんだけの午後。
どんなに悪い奴だって、寝てる顔は憎めない。
ましてそれが大好きで大好きで仕方が無い人の寝顔だったら尚更の事。
何の夢を見てるんだろう。
かすかに緩んだ唇にそっと人差し指の先で触れてみる。
「大好きっすよ、シンタローさん。―――」
(小さな小さな声だったのに)
まるでそれが聞こえたかのように、眠ったままシンタローさんはにこりと笑った。
心地良い風がシンタローさんの長い黒髪を吹き乱す。
顔にかかるのを払いのけようとした手が、きゅっと掴まれた。
「え・・・?」
起きたんすか、と声をかけたけれどシンタローさんは目を覚ました訳ではなかった。
子供みたいに俺の手を握ったまま、すやすやと寝息を立てている。
(わざとやってんじゃねーのこの人!!)
深く息を吸って青い空を見上げる。
(好きだと言ったらこの人はさっきみたいに笑ってくれるだろうか)
―――夢の中でならもう、百回も言った言葉。
夏空の向こう側で、入道雲が俺の弱気を笑っていた。
眼を覚まして仰天した。
―――俺、なんでこいつの手なんか握ってんだ!!
リキッドは俺の隣で規則正しい寝息をたてている。
(てゆーか・・えーと・・・)
食料調達に出て、ここに腰を下ろしたまでは覚えている。
下らない話をしているうちに眠くなって寝転んだっけ。
そっから先は覚えてねェ。
でも、何だかとても楽しい夢を見ていたような気がする。
俺がいてパプワがいて、チャッピーがいて、コタローもいて。
そしてこいつが笑ってた。
リキッドを見ると俺はいつも胸がきりきり痛くなる。
苦しいような、切ないような、それでいて暖かい気持ちになる。
(シンタローさん)
ああ―――思い出した。
夢の中で、俺はリキッドに好きだと言ったんだ。
金色と黒の髪が、さわさわと風に揺れる。俺は握ったままだった手をそっとはずした。
寝ているリキッドは、普段よりもずっと大人びて見える。普段はくるくると変わる表情が動いていないせいなのか、それとも見てる俺の心の問題なのか。
夢の中身は曖昧だけど、リキッドがくれた答えだけははっきり覚えている。
震えてる俺の唇をそっとなぞって、リキッドは言ってくれた。
大好きっすよ、シンタローさん、と。
「ん・・・」
(カーテンを開けば光が射しこんでくるように)
リキッドが眼を開けた瞬間、俺の世界が音を立てて動き出した。
あの青い空をそのまま写し取ったような澄んだ瞳が俺を捉える。
「・・シンタローさん・・・?」
夢の中で言ったように、うまく伝えられるだろうか。
夢の中で見たように、こいつは優しく笑ってくれるだろうか。
「・・・リキッド」
夏空と太陽が俺の背中を後押しする。
「俺、―――」
嵐のような恋が、始まろうとしていた。
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ねむねむ大王は強大ですね。渡井もよく負けます。
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