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作・斯波


今年ももうすぐ5月21日が来る。
言わずと知れた、リキッドの誕生日である。



FOR YOU, FOR ME



「あの―――何すか、コレ」
「ロマネ・コンティだ」
「はあ~、これがかの有名な(どうしよ、俺知らない・・)」
「85年物はとりわけ出来が良い。今朝フランスから空輸で取り寄せた」
「えっわざわざ!? ありがとうございます・・・で、でも高価いんじゃないすか?」
「大したことは無い。たったの250万円だ」
「あっそうですか・・・(大したことは無いとか言った! たったとか言ったよこの人!)」
「もし口に合わなければ料理酒にでも使ってくれ」
「使えるかアァァ!! ―――ってすいませんほんっとすいません勘弁して下さい!」
「どうかしたのか?」
「そんな無駄遣いしたらシンタローさんに殺されちゃいますよ!」
「大丈夫、あいつは自分の懐さえ痛まなければ気にしない男だ」
「そっすよね・・・(見抜いてる!)」


「はいコレ♪美味しいんだよ~、ここのケーキ」
「うわあ~、ありがとうございます! 俺いっぺんここのケーキ食ってみたかったんすよ! こないだテレビで見たんすけど凄い行列でしたよ。グンマさん自分で並んだんすか?」
「んーん、僕そんな無駄なことしなぁい。キンちゃんに並ばせた~v」
「えっキンタローさんに?(さすがはコタローの兄ちゃん!)」
「せっかくメモ持たせたのにキンちゃんたら違うの買ってきちゃってさあ。キンちゃんてほんと使えないよね~」
「え―――それでどうしたんすか?」
「もっちろんもっかい並ばせたよ~♪」
「へ・・へえ・・(魔女の血筋だ!)」


「師匠からの伝言や。あんさんの為に酒作ったさかい取りに来い、言うてはったえ」
「酒~?(あからさまに胡散臭い・・・)」
「精力増強によう効くんやって。シンタローはんとのナイトライフの充実にどないどすか」
「何でおまえが持ってきてくんないの?」
「重いさかい無理」
「重い? どうせマムシ酒かハブ酒だろ、精力剤代わりなら」
「阿呆、うちの師匠をナメなや。―――ニシキヘビ酒じゃ」
「返せ! 今すぐアマゾンに返してこい!」


数日前からずっと悩んでた。
もうすぐリキッドの誕生日が来る。
何が欲しいなんて訊いたとこで、あいつはでっかい犬みたいに目を輝かせて言うに決まってる。

―――俺、シンタローさんが居てくれればそれでいいっす!!


(それは重々分かってんだけどさ)
そもそも俺は一緒に暮らしてんだから、それじゃプレゼントにならないんだよ。
だけど、あいつは何にも欲しがらない。
俺の職業も稼ぎも知ってるくせに。
俺、泣く子も黙るガンマ団総帥よ?
隠してるけど実はあいつが思ってる額の軽く三倍は年収あんのよ?
なのにあいつは、自営業は将来の保証ないですからとか言って、生活費の中からせっせと貯金して、年に一度でいいですから休み取れたら旅行、行きましょうねって笑う。


俺が側に居るだけで超幸せ。
そんな顔をしてる奴に、何をやればいいんだろうか。



数日前からシンタローさんが悩んでるのには気づいてた。
もうすぐ俺の誕生日が来る。
だけど、欲しいものなんて何も無いと思う。


(その気持ちはすっごく嬉しいんだよね)
だけど俺は全てを持ってる。
俺の奥さんは泣く子も黙るガンマ団総帥だ。
隠してるらしいけど給料が俺に渡す三倍以上あるのはこちとら百も承知の助で。
俺が出来ることって言えばシンタローさんのために老後に備えとくことと、シンタローさんが毎日笑って生きていけるようにすることくらいなんだ。


俺が側に居るだけで超幸せ。
いつかあの人にも、そんな顔をして貰いたいと思ってる。

(だって、ねえ・・シンタローさん)


―――俺、シンタローさんが側に居てくれればそれでいいんすよ?



風呂から上がるとシンタローはベッドに腹這いになって書類を読んでいた。
シンタローが自宅に仕事を持ち帰ることは滅多にないのだが、今日は特別忙しかったのだろう。
「まだ大分かかりそうですか?」
タオルで髪を拭きながら声をかけると、シンタローはいいやと言って書類を脇に押しやった。
「きりがないから、もう寝る」
「そっすか。じゃあ電気、消しますね?」
淡い照明のスタンドに伸ばした手をいきなり掴まれた。
吃驚して振り返ると、ちょっと怒ったような顔でシンタローがこっちを見ていた。
「シンタローさん? まだ消しちゃまずかったっすか?」
「・・・なんで何も言わねーんだよ」
「は?」
「今日はおまえの誕生日だろ」
リキッドはまじまじとシンタローを凝視めた。
その瞳から逃げるように、シンタローがついと視線を逸らす。

「―――プレゼントが何か、訊かねーの・・・?」

リキッドは大きく眼を見開いた。シンタローは相変わらず眼を逸らしている。
その頬が赤く染まっているのを見た瞬間、リキッドの中に暖かい想いが溢れた。
「誕生日おめでと、リキッド。―――」

そう言ってかすかに笑った愛しいひとを、リキッドは力の限り抱きしめたのだった。


「・・・おまえ、頑張りすぎ」
力尽きたように横たわるシンタローを、リキッドの腕はまだしっかりと抱いている。
「そっすか?」
「何燃えてんだよ・・もう飽きるほどヤッてるだろ・・・」
「飽きたりしませんよ!」
「ホントはこんなのプレゼントにならないよなあ」
小さな呟きに、リキッドは吃驚してシンタローの顔を覗きこんだ。
だがシンタローは顔を隠すかのようにリキッドの肩に額を押しあてている。
「何でですか!? 俺、めちゃくちゃ嬉しかったのに」
「だって俺はもう、おまえのもんだから」
「・・・・」
「今さら贈り物にしたって意味ないだ―――」
怒ったように尖らせるその唇をキスで塞ぎながら、リキッドは眼だけで微笑った。

(ワインよりケーキより酒より)

「俺は、貰えるなら何度だって貰いますよ、シンタローさん」

(欲しいものはたったひとつ)

―――あなたのその言葉こそが、何よりの贈り物。


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作・斯波


テレビの画面には、まだ元気に動いているカニが映っている。
炬燵に入って蜜柑の皮を剥きながら、ぼんやりとヤンキーが言ったのだ。
「うわあ・・・美味そうなカニ。―――」



君がハートに火をつけた。



それは独り言に近い呟きだった。
俺はヤンキーが剥いた蜜柑を食べながら、テレビに釘付けになっているヤンキーを眺めた。
「おまえ・・・カニ、好きなの?」
「えっ?」
俺に訊かれて、ヤンキーはハッと我に返ったようだった。
「俺、今何か言いました!?」
「や、あの・・カニが美味そうだなって」
「あ、ああ・・・カニですね・・」

実はカニ、大好きなんすよ。
冬になると一度は食いたくなるんすよね。

ヤンキーははにかんだようにそう言った。


―――そんなこと、初めて聞いた。


考えてみれば、外食の時はともかく、家でヤンキーがコレを食べたいとかアレを食べたいとか言ったのを聞いたことはなかったと思う。
(シンタローさん、今晩何が食いたいっすか?)
(シンタローさんの好きなものって何ですか?)
あいつが作るのは俺の好きなものばかりだ。
もしくは俺の健康にいいとあいつが思ってるものばかり。
家事は何だって俺の方が上手いけど、最近は掃除も料理も前よりは随分マシになってきていて、たまにそう言ってやると、あいつはまるででっかい犬が尻尾振るみたいに喜んでた。
「・・・何で言わねえんだよ?」
「えっ?」
「これが好きですとか、あれが食いたいです、とか。言わなきゃ分かんねェだろ?」
「あの・・・でも俺」
ヤンキーは口籠もった。
「何」
「シンタローさんと居ると、別に食いたいものなんてなくなっちまうから」
「―――はあ?」


シンタローさんといると、シンタローさんそのものが目的になるんです。
他の、食事とか、酒とか、場所とか、どうでもよくなっちまう。
シンタローさんの存在やシンタローさんと居る事だけが大きな意味を持ってしまって、ベッドの中の事でさえシンタローさんと一緒に居るっていう事には勝てないんだ。


俺は蜜柑を口に運ぶ手を止めて、ヤンキーを凝視めていた。
自分でも何だか狼狽えちまうくらい、胸の奥が熱かった。
「だから、シンタローさんと居る時には俺、贅沢しても意味が無いんすよ」
ヤンキーはうつむいたまま蜜柑を剥き続けている。
「そんなの、贅沢の二乗っていうか・・・シンタローさんがここに居る事自体が物凄く俺には贅沢なことだから、そのつまり」
剥き終わった蜜柑を俺の前に置いて、ヤンキーは初めて俺が食べるのをやめていたことに気がついたようだった。
「あれっシンタローさん、もう食わないんすか?」
不思議そうに言った次の瞬間ぎょっとする。
俺の前には、綺麗に筋まで取られた蜜柑が山のように積まれていた。
「え・・・うわっ! 何この大量の蜜柑!」
「おまえが剥いたんだよ」
「えええええ! マジすかっ!?」
「こんなに食ったら手が黄色くなるわ! おまえ俺にどんだけビタミン摂らせる気!」
「蜜柑は身体にいいんすよ、風邪予防にもなるしお肌にも」
「あーん? オメー俺の肌年齢に文句でもある訳?」
「そっ・・・そんなこと言ってないじゃないですかアァ!」
「うるさい、もう喋んな馬鹿」
「うわああんシンタローさんが馬鹿って言った~!」

拳骨を食らって半ベソをかくヤンキーを無視して、目の前に積まれた蜜柑を口に放り込む。
(―――ったくこのヤンキーは)

「ねえシンタローさん、それ全部食うんすか?」
「うっせ」
「無理に食わなくていいですよ、冷凍蜜柑にしますから」
「俺の勝手だろ」
「てゆーか、俺にもちょっと分けて欲しいんすけど・・・」

(どこまで可愛いことを言い出すんだっつの)


明日になったら、朝一番で電話をしよう。
産地直送の最高級のカニを、食べきれないほど取り寄せてやろう。

(冬の花火みたいな笑顔が目の前で咲いたら)

たまには俺の方からキスしてやってもいいかなって、そう思うんだ。


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先日カニを食べに行ったので、記念にアップです。
休みをくれた上司よありがとう。
最高級ではありませんが、ほんと食べきれなくて今でも悔しい。


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re





作・斯波


お邪魔します、でもなく。
わあ、素敵、でもなく。
「うーわ見るからに金かかってそー! やったねえリッちゃん、逆玉じゃ~んv!」
「何だこの無駄に広い部屋は。呪われろ」
それが、ロッドとマーカーの第一声だった。



必 需 品



俺は暫く呆然と立ち竦んでいた。
(これは幻デスカ? いや、幻であって欲しい!)
固まったままの俺を無視して、特戦部隊の元同僚達は勝手に部屋の中のチェックを始めている。
「台所は片づいているようだな」
「家事の腕上がったねえvリッちゃん」
「だがグラスが曇ったままだ。ちゃんと磨き粉を使っているのか?」
「あっ俺エスプレッソねv濃いめでお願い」
「私は茶でいい」
やっと呪縛が解ける。

「なっ・・・何でアンタ達がここにいるんだよ――ッ!!」


「おまえが欲しがっていたのはこの布だろう」
マーカーが差し出したのは手織りの藍染めの紬の布。
家具に合う炬燵布団のカバーを探していたところ、アラシヤマが持っていると聞いて譲ってくれるように頼んだ覚えは確かにある。
「―――だからって何でアンタ達が?」
この虐めっ子達を呼んだ覚えは無い。確実に無い。100%無い。
俺の教育係だったクールな中国人は平然として一番上等の茶をすすった。
「あれに急な用事が出来てな、頼まれたのだ。あの馬鹿弟子が、師をパシらせるとは」
「それに隊長から、リキッド坊やの生活振りを探ってこいって命令されてたしね~v」
廊下の向こうからイタリア人の陽気な声が聞こえてくる。
「あっこっちが寝室?」
俺はがばっと立ち上がった。
「いい雰囲気じゃん。へえ~、リッちゃんこのベッドで毎晩シンタロー総帥とヤッ」
「あっロッド、コーヒー! 濃いめのコーヒー入ったから!!」
無遠慮に寝室を覗きこむロッドの肩を力づくで引き戻す。
イタリア人を連れ戻してきてハッと気づくと今度はチャイニーズが居ない。
「坊や、浴室は毎日換気した方がいいぞ。シンタロー総帥の残り香を楽しみたいのは分かるが閉めきっているとすぐに黴が生えてしまう」
「ええっとマーカーさんッ、お茶のお代わりはいかがっすかー!?」
二人を何とかソファに腰を下ろさせた時にはもう俺はぐったり疲れ切っていた。
「しっかしホント広いねえ~」
ロッドが感心したようにリビングを見回した。
「そう? キンタローさんはこんな狭い部屋で暮らせるのかって心配してたけど」
「げっ、ヤダヤダ坊ちゃん育ちは」
「確実に弟子の部屋の三倍はあるな」
「あいつだって借りようと思えば広い部屋借りられるんだろ? 一応高給取りなんだから」
そう訊くとマーカーは溜息をついた。
「あれは空間恐怖症なのだ。広い部屋に一人でいると発狂しそうになるらしい」
「あーちゃんは昔っからそうだったよね~」
俺も何となくリビングを見回す。
―――やっぱ、広いよなあ・・。
シンタローさんにとってはきっとこれでも狭い方なんだろうと思う。
本部でどんな部屋に住んでたのか知らないけど、たぶんスゲー広くて豪華なんだ。
だって一緒に暮らし始める前に初めて俺のワンルームマンションに来た時、玄関から俺の部屋から風呂からトイレまで全部覗いた挙げ句にあの人は、
―――で? 部屋は何処にあるんだ?
って真顔で訊いたもんなあ。
「けど家具のセンスはいいねえ。リッちゃんが選んだの?」
「それは、シンタローさんが」
「食器も良いものを使っているな」
「それも、シンタローさんが」
「電化製品も全部最新式のヤツじゃん」
「それも・・・シンタローさんが」
ぼそりと呟く俺に、ロッドが呆れたように肩をすくめる。
「んだよ、全部シンタロー様のお見立てかよ。おまえのモノっていっこもねーの?」


―――これは、結構こたえた。


うつむいてしまった俺を黙って眺めていた二人は、不意に立ち上がった。
「それではそろそろ失礼する」
「・・・ああ。サンキュ」
「早く帰んなきゃ。実はサボリだしね、俺らv」
(仕事中やったんかい!)
一応玄関まで見送ることにする。
編み上げの靴を履くのにちょっと手間取っているロッドを待っていた中国人が突然振り向いた。
「ああ、忘れるところだった」
「は?」
「Gからの預かりものだ」
懐から取り出したのは、俺のヒーローであるネズミーさんの縫いぐるみだった。
「おまえへのプレゼントだそうだ」
「Gが・・・」
「総帥に文句を言われない場所に飾っておけとのことだ」
「うん。―――Gに、ありがと、って」
「それから」
俺は眼を上げた。
「今度、うちの馬鹿弟子に香をことづけておいてやる」
「えっ?」
「夜、寝室に焚くとなかなか良いものだ」
マーカーはいつもどおりの無表情で何を考えているのかさっぱり読めなかったけど、薄墨色の眼はいつもより少しだけ暖かいような気がした。
「あ・・・あんがと」
ロッドも首をねじって俺を見上げながら笑う。
「俺はAV届けてやるよ。すんごいテクが学べるぜェ、今度シンタロー総帥に試してみな♪」
「試せるかアァ!!」
「他に、要り用なものはあるか?」
瞬きもせずに俺を見下ろしている先輩の目を真っ直ぐ見つめて、俺は笑って首を振った。
「大丈夫」
(そうだ、俺に必要なものはただ一つ)
「一番要るものはもう、ちゃんと持ってるから。―――」


マーカーが初めてふっと微笑った。
ロッドがやっと靴を履いて立ち上がる。
「じゃあね、リッちゃん」
「うん」
「ナマハゲには見たままを報告しとくわ。リッちゃんはシンタロー総帥と二人で、物凄く幸せに暮らしてます、ってねv!!」
頭をぽんぽんと叩いてくれた大きな手は、昔と変わらず乱暴で、昔と変わらず暖かかった。


一人になったリビングで、鼻歌を歌いながら夕食の支度を始める。
(ここには俺のものは何にもないけど)
だけどそれが何だって言うんだろう。
一番必要なもの、一番大事なものはちゃんと持ってる。

あと数時間したらここへ帰ってくる。
俺の作った飯を食って、俺の隣でテレビを見て、俺の胸で毎晩眠る。

(どこの宮殿だって六畳一間のアパートだって同じこと)

何処でだって生きていけるんだ。
俺の人生の必需品は、あの可愛い人だけだから。


それから三日後、特戦部隊から宅配便が届いた。
中身は中国四千年の秘法で作られたという媚薬と、イタリアンポルノのビデオの山。
シンタローさんに眼魔砲を食らった挙げ句一週間お預けを食わされる羽目になった俺は、もう二度とあの虐めっ子達を家には上げまいと決心したのだった―――。


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わらわらと人が増えている「ルルル」です。
文句を言われない場所なんてあるんでしょうか。


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era




作・渡井


  Godless Walking


リキッドと2人で外出した。
別に何も用事はないのだが、空は見事に晴れ渡り、ときおり吹く風は心地良く、暑くも寒くもないお出かけ日和に恵まれた休日、部屋にいるのがもったいなくなったのだ。

いつもは気づかなかった細い路地裏がどこに抜けるのか歩いていくと、パジャマの専門店を発見した。
さすがに形も色も素材もバリエーション豊かで、ありとあらゆるナイトウェアを扱っている。
最初はアレが欲しいコレはどうだと言っていたのが、いつの間にか「誰にどれが似合うか」という話になって、シンタローが目ざとく見つけた可愛い男の子用のがコタロー、までは意見が一致した。
しかし俎上にハーレムが乗ったあたりでパジャマ会議は紛糾し、「いっそこれはどうですか」とリキッドが持ってきたのはよりによって、ピンクのレースとフリルを多用した女性用のネグリジェで、それをハーレムが着ているのを想像して2人で腹を抱えて笑った。
こんなに笑ったのは久しぶりだ、と思った。


店を出てすぐに小さな神社があった。
境内は狭いが掃除が行き届いており、神社仏閣に特有の清冽な空気が流れている。
奥まったところにあるせいか、通りかかる人もない。日陰になった石段の上で猫が寝ているだけだ。
首輪をしているのでどこかの飼い猫なのだろうが、何ともだらしなく寝転んでいて、シンタローが腹を撫でると薄く目を開け面倒そうに「うにゃん」と鳴いた。
「気持ちのいいとこだな」
石段の下を見下ろして大きく伸びをすると、リキッドが元気良く返事した。
彼は朝から嬉しくて仕方ないという顔で笑っている。
さっきなどまともに「シンタローさんとお出かけなんて、俺すげー幸せっす」と言われて、内心では大いにうろたえた。
甘い顔をすると手ェ繋ぎましょう、なんてふざけたことを提案されかねない(かつて実際にあった。とりあえず殴った)ので、軽く受け流したが、気分は悪くない。
シンタローとしては気まぐれで始めた散歩なのだが、こんなにも喜ばれると、思わず頭の一つも撫でてやろうかという気になる。
…しないけれど。


「あっシンタローさん、お守り売ってますよ」
それにしても良くここまではしゃげるよな、と不思議に思うシンタローと対照的に、リキッドは3つ並んだお守りの棚に駆け寄った。
神主も巫女も見当たらない。勝手に取って代金は賽銭箱に入れていけ、という、何とものどかで良心に任せたシステムである。
「1つ買ってきましょうか。家内安全と商売繁盛、どっちがいいっすか?」
「どっちも要らん」
「え、安産祈願にするんですか…?」
石段の上から蹴落としてやりたい誘惑を理性で耐えた。我ながら偉いと思う。
「じゃなくて。お守りなんて信じてねーし、どれも要らん」
これは事実である。

リビングの神棚に文句をつけないのは、あくまでリキッドの心情にほだされただけで、加護を信じているのではない。
人間の思惑を超越した、運命―――のようなものを感じることはあっても、特定の宗教に依りかかってのものではないし、そんな運命でさえ自分で切り拓いていくものだとシンタローは思っている。
自分が道を作る、というのが基本的な考え方だ。
ついでに言うなら自分の道は神様でさえ横切らせねえ、という俺様な考え方でもある。
だが珍しく、リキッドが猛然と反論してきた。
「違いますよ、信じるとか信じないって問題じゃないんです」
「はあ? 交通安全のお守りつけてたって事故るヤツはいっぱいいるぜ」
「だからー、そういうんじゃないんですって」

「何をしてくれるって訳じゃないけど、持ってるだけで心が安らぐっていうのがお守りなんすよ。そこにあるっていうだけで、お守りの役割をちゃんと果たしてるもんなんです」

力の入った一生懸命な説明に、シンタローは思わず唇を綻ばせた。
「だったらなおさら要らねーよ、バカ」
「そんなー…」
がっくりと肩を落とすリキッドを置いて、足取りも軽く歩き出す。

何をする訳でもないけれど、心が安らぐ。存在だけで、ちゃんと守ってくれる。
そんなもの、もう持ってる。


「ほら、ぐずぐずすんな。さっきの店にパジャマ買いに行くぞ」
「え、隊長の?」
「コタローのだよ!」

ただ2人でいること。あてもなく一緒に歩くこと。くだらない話で笑うこと。
何の実にもならないそれだけのことで、日々の疲れにささくれだった心が潤っていく。

手を繋ぐのは死んでも御免だが、少しだけ―――そう、ほんの少しだけ普段より寄り添って歩いてやってもいいかもしれない。
俺のお守りはお前だなんて、口が裂けても言えない代わりに。


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パラレルは精一杯甘くしているつもりなのですが、
それでもシンタローさんがなかなか素直になってくれません。


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trh





作・斯波



好きな季節は夏
君の笑顔が眩しいから
好きな季節は冬
君の温もりが嬉しいから



HOT HOT WINTER



「なあ、そろそろいいだろ」
真紅のラブソファの上で膝を抱えながらテレビを見ているシンタローの言葉に、隣に座ったリキッドが生返事をする。
「そーですねえ・・・」
「だって寒いじゃん。世間様じゃもう立派に冬だぜ」
確かに天気の良い昼間などはまだぽかぽかしているものの夜は冷え込む。
案外寒がりなシンタローが愚痴るのも無理はない。
「なあリキッド、おまえ明日買ってこいよ」
「明日!? アンタ何でそんなせっかちなんすか!」
「俺ァもう一週間前からずっと言ってんじゃねェか! てめーこそ何グズグズしてんだよ!」
「部屋のインテリア崩すなって日頃から煩く言ってんのはシンタローさんでしょ!」
「うるせェ! 冬っていや炬燵だろ、炬燵で蜜柑って決まってんだろ!」

そう、二人が話しているのは冬の必須アイテム―――炬燵のことなのである。


残暑厳しい季節に二人で越してきたこの部屋にも、もう冬が訪れていた。
シンタローの希望により、インテリアはアジアン家具で統一してある。
だがお互いごちゃごちゃしているのが嫌いなので、リビングには必要最低限の家具しか無い。
フローリングの下は床暖房にはなっているが、いつでも床に寝そべっている訳にはいかない。
続きになっているダイニングを入れれば広さは30畳もあるから、テレビの前に炬燵を設置することには何の問題もない筈だ。寧ろ炬燵布団の柄さえちゃんと選べば、この上なく居心地のいいリビングになるに違いない―――というのがシンタローの主張だった。
これに対し、家政夫たるリキッドの反応は否定的だった。
炬燵なんか出したらそこから出られなくなるし、部屋が片づかない。それに疲れている日などシンタローは寝室へ行くのすら面倒がってそこで寝てしまうに決まっているのだから、健康にも悪い。大体今頃から炬燵なんか出して、真冬になった時にはどうするのか。
斯くして二人の意見は一致を見ないまま、一週間が過ぎているのだった。
「うーっ、さむっ」
お気遣いの紳士によっていつでも温度調節が完璧になされている本部ビルで働くシンタローの身体はリキッドより寒暖の差を敏感に感じるのだろう。ぶるっと身震いして膝を抱える。
「このマンション、建て付けが悪いのかな。いつもどっかから隙間風入ってくる気がする」
「気のせいですって。でも夏は涼しくて快適だったでしょ、この部屋」
「まあな。風通しがいいから仕方ねーか・・」
「住居ってのは夏に涼しい方がいいって言いますよ」
「けど何かさあ、こう・・足先が冷えんのがつらいんだよなー・・」
「ナニ年寄りみてえなこと言ってんすか」
「うっせ、てめーだって後数年したら分かんだよ!」
ごん、と殴られ眼から火花が飛び散った。
容赦ない拳骨を食らった頭をさするリキッドの唇にかすかな笑みが浮かぶ。

寒がりの恋人は、いつの間にか無意識のうちにリキッドにぴったり身体を寄せて座っていた。

「もぉ、仕方ないっすねえ・・・んじゃ明日、デパート行ってきますから」
「マジで? ちゃんとした奴選んでこいよ」
「分かってますよ」
「あ~楽しみ~! やっぱ冬は炬燵だよな~」
嬉しそうにはしゃぐシンタローの横顔を眺めて苦笑した。

もしも知ったら激怒するだろうなあ。
寒がりなアンタが俺にくっついてくれるように、わざと細めにキッチンの窓を開けてること。
だって炬燵なんか出したら、シンタローさんこうやって俺に凭れてくれないでしょ。


「・・・ま、炬燵ってのもある意味萌えか」
「は?」
「何でもないっす。でもホントに俺が選んでいいんすか? 柄とか、注文ありますか」
「いや、ネズミ柄じゃなけりゃ別に―――あ、いっこだけ」
「はい?」
「長方形の炬燵がいい」
とん、と肩を揺らしてリキッドにぶつけてくるシンタローの眼は悪戯っぽく輝いている。

「テレビ見る時、おまえの隣に、くっついて座れるようなヤツ。―――」


リキッドはぽかんと口を開けた。その顔がみるみる赤くなる。
シンタローがくすっと笑った。
「心配しなくたって、炬燵出した後もちゃんと湯たんぽ代わりに使ってやるよ」
「え、もしかしてあの」
「おまえは体温高いからな、この季節になると気持ちイイ。夏は側にも寄って欲しくねえけど」
「あっひどい」
「だから、さっさとキッチンの窓閉めてこい」


明日はさっそくデパートの家具売り場へ行こうとリキッドは思った。
そして大きすぎず小さすぎない、二人で並んで座れるようなサイズの炬燵を買おう。

だけどアンタを暖めるのは炬燵じゃなくて、俺の役目なんです。
それくらいは主張してもいいでしょ?
ね、シンタローさん。


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あたたかいというよりあついですふたりとも。
というのが甘々ぶりに漢字も忘れてちみっ子と化した私の感想です。


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