「ねぇ、シンちゃん。」
「あんだよ。」
「コスプレごっこしない?」
「しない。」
又あの、アーパー親父は訳の解らん事を!
今、シンタローとマジックは、マジックのベッドの上で裸で抱き合っていた。
かなりイイ雰囲気だったのだ。
それは、なし崩しじゃなく、シンタローの意識がハッキリしていて、それこそ合意の上ということになれば、それ相当じゃないといけない事はお分かりだろうか。
その雰囲気をいきなり根本からぶち壊し発言をしてきたのだ。
このバカたれは!!
「そこをなんとか!」
「なんとか、じゃねぇ!!」
普通にできんのか。
いつも通りでいいじゃねーか!
シンタローはベッドからギシリと音を立てて下りる。
マジックが泣きそうな顔をしていたが構うもんか。
「あ、あの、シンちゃん?」
シンタローの手を握り締めようとしたが、タッチの差でマジックは空を掴む。
シンタローはマジックをギロリ、と睨むと一言。
「さいてぇ。」
それだけ言うと、さっさとバスローブを身に纏いマジックの部屋から出ていってしまったのであった。
マジックは己の失敗に涙でうちひしがれた。
ああ、何で私、我慢できなかったのだろう。
シンちゃんのあられもない姿が見たいという欲望に負けたッッ!!
私のばかばか!マジックのばか!!
そう後悔しても後の祭。
あれだけ雰囲気よくシンタローが抵抗せず身を任せてくれたのに。
そんな事、一年に一回有るか無いかなのに!
マジックは今日の失敗を胸に悶々した気持ちの中、ベッドに潜り込んだ。
アイツ最低!
つくづく普通じゃねぇと思っていたが、あそこまでとはッッ!!
クッ!あれが親!俺の親父!!恥ずかしい!!!
シンタローは大股で部屋に帰る。
今日の事は寝てスッキリしよう!
親父がアホなことは前々から知ってたが、いくらなんでも俺もう成人してンだから。
親父の着せ替え人形じゃねぇンだヨ。
部屋に戻るなり、シンタローはベッドに寝転がる。
そして、少しほてってしまった顔を枕に押し付けた。
マジックとの情事を期待していた体は少し熱くて。
ちょっと勿体ない事したかな、とか考えてから、ブンブン頭を振った。
わーわーわー!!何を考えてンだ!俺はぁ!!は、恥ずかしい!!
余計顔が熱くなったのを感じたが、シンタローは枕に顔を埋め無理矢理瞳を閉じた。
次の日、シンタローは苛々した気持ちの中仕事をする。
毎日毎日飽きる事なく続くデスクワーク。
時折コーヒーをがぶがぶ飲み、コップをディスクにたたき付ける。
頭の中では昨夜のマジックの事ばかり。
ムカつく!すっげームカつく!!
だん!だん!と、ハンコを押すシンタローに、回りの秘書達は恐れおののいていた。
「シンタロー、どうした。」
唯一シンタローと肩を並べるキンタローが話し掛けるのだが、
「あんでもねーよ!」
不機嫌極まりない声色で突っ掛かるように言うのだった。
キンタローは溜息をつき、空になったシンタローのコップにコーヒーを入れる。
入れた途端、又それをがぶがぶ飲んで、乱暴にハンコを押す。
そんな中、休憩時間に突入したのだが、いつものごとくシンタローは休む事なくハンコを押し続けていた。
秘書達は総帥の「俺に構わず休み時間はしっかり休め!」の言葉通り、総帥室からは出ないが昼飯を食べたり雑誌を読んだりしている。
一人の秘書が読んでいた雑誌にシンタローの目が止まった。
じっ、と見つめるその目線の先には“マンネリ対策!!コスプレ必須!!”の文字が。
マンネリ対策ぅ?
シンタローはふと、思う。
なんだ、親父のやつまさかマンネリなんて感じてんのか?
いや、まさか親父に限ってンな事ねぇよな?
だって、いつもシンちゃん、シンちゃん、ってウザイ位に言ってるし…。
でも、万が一、もしも、もしかしたら………。
俺、親父に飽きられちゃってる―――?
今、シンタローの脳内映像のマジックは、マジックが下品な笑いを浮かべ、顔は見えないが、コスプレ美女と肩を組んでいるシーン。
「オイ!」
シンタローは思わず雑誌を読んでいる秘書を呼ぶ。
雑誌を読んではいけないと今まで言われた事などないので、その秘書は怪訝な顔をしながらも返事をした。
「ハ、ハイ、何でしょう?シンタロー総帥。」
「悪ぃんだけどヨ、その雑誌、ちょっと見せてくんねぇ?」
「あ、ハイ、どうぞ。」
秘書は、シンタロー総帥も週刊誌なんて読むんだな、なんて思いながら素直に渡す。
シンタローはパラパラとお目当ての記事の所まで開くと、食い入るように見た。
何々、男がコスプレを求めるのはマンネリ解消の一つの方法。
フーン。
コスプレをする事によって日頃マンネリ化した行為が解消される事確実!
へー。
日頃、浮気をしない人や、浮気が出来ない人にはオススメです!
…………。
コスプレをして、マンネリ解消!!楽しい性ライフをおくってみましょう!
……ほぉ
コスプレをしたいと言う恋人に、したくないと答えてはいけません。断った場合、相手に浮気をされる確率は68%にも昇ります。(当社比率)
………!
恋人に飽きられない為にも恥ずかしがり屋なアナタ!是非やってみて下さい。もしかしたら以外な彼の一面が見れるかも!!
シンタローに衝撃が走る。
下にはコスプレしてほしい服装のランキングが男と女に分かれて書いてある。
シンタローは男がしてほしいコスプレランキングを目を皿のようにして見つめた。
③位!ナース服
②位!スチュワーデス
①位!セーラー服
①位に寄せられたコメント:清楚な感じが堪らない。若々しい感じがする。ストイックな感じがいい。
ほー、セーラー服がいいの。馬鹿じゃねーの、犯罪じゃねーかよ!
……………親父もそうなのかな。
イヤイヤイヤイヤ!!例えそうだったとしても俺は断じて着ない!絶対!どうしても!!
その記事を見終わると、シンタローは雑誌を秘書に返し、目を隠すように机に肘をつく。
でも、しなかったら親父が他の女と……いや、俺には関係ねぇ!!
そうは思うが、本心では気に入るはずもなく。
シンタローは深く重い溜息を吐いて仕事を再開した。
しかし、先程とは打って変わって、のったらのったらと。
キンタローも又、軽く溜息を吐き、又、空になったシンタローのコップにコーヒーを入れてやるのだった。
のったらのったらしていたせいで、日も大分とっぷり暗くなってしまった。
時計を見ると22:54。
キンタローは一時間前に帰らせていたので、残るはシンタロー一人。
家に帰ったら夕飯食って、風呂入って寝よう。
ぽけ、っとしながらそう考えてシンタローは家迄帰って行く。
エレベーターに乗って自宅フロアまで。
チーンという間抜けな音がなってから、プシュン!と空気の抜ける音がする。
だらだらと食堂に入ると、いつものようにシンちゃんシンちゃんとウザイ位付き纏うマジックの姿が見当たらない。
御飯は綺麗にラップされていて、多分、グンマとキンタローが食べた後の食器が流しに水に浸からされてあった。
御飯の下にはピンクのカードに赤い文字で“シンちゃんの分ν”と書かれてある。
こんな事を書く位なのだから、マジックは何かの用事で外出しているのだろう。
自分は何時もこれくらいの時間に帰って来るのだから、それまでに帰ってくる気がないからわざわざメッセージカードなんかを置いておくのだ。
あの親父、なーにやってんだ!
冷めた冷や飯を食べる気分にはなれず、シンタローはとりあえず有り合わせのもので炒飯を作る。
おかずにキムチがあってラッキーとばかりだ。
ポテトサラダをつまみながらシンタローはふ、と昼間の事を思い出す。
思い出したのは自分のイメージが作り上げた他の女とコスプレごっこを楽しむマジック。
「うわ、気持ち悪ッ!」
おえ、と、誰も見てないのに一人ジェスチャーをしてみる。
だが、脳内の妄想はシンタローの意思とは関係なく進んでゆき、最後は見知らぬ女性とキスをし始めた。
そして、マジックが「私にはアナタしかいない。」と呟き、顔の見えない女性は「私も…愛してるわ!マジック!!」と言い、辺り一面に白い薔薇が咲き乱れる。
20代後半の分際でこんな少女漫画みたいな妄想しかできないのは、彼が女を抱いた事がないからと言えるであろう。
そして、父親の情事を妄想したくないというストッパーがついているから、AVのようなグロテスクかつ、エロチシズムな妄想に捕われなかったのかもしれない。
「まさか、な。」
ハハ、と渇いた笑いを浮かべる。
まさか本当に浮気だったりして。
そしたら笑えないじゃねぇか。
なんだかんだ言ってもシンタローはマジックを愛している。
口には出さないがそうなのだ。
取り敢えずマジックを待ってみようと、シンタローは夕飯を平らげ、コーヒーを飲みながら待っていることにした。
べ、べつに親父が浮気してるかもしれないからとかそーゆーんじゃ絶対ねぇんだからな!!
ここにはシンタロー一人しかいないのに、しかも心の中で自分に自分で言い聞かせる。
そして、シンタローは自分の言い訳に納得すると、静かに座ってマジックの帰りを待った。
どれくらいの時間がたったのだろうか。
シンタローは寝てしまったのだが、ふとした違和感で覚醒した。
長い事軍人なんてやっているので、臭いや物音に敏感なのだ。
歩いて来る足音はマジックのソレなのだが、匂いが。
違う。
何時ものマジックの匂いじゃない。
幼い頃から慣れ親しんだ心地良い匂いと異なる匂いに、シンタローは眉を潜めた。
なんだってーんだ?
聞き耳を起てると、足音はこちらに近づいてくる。
どうやら食堂に明かりが付いていることが気になったのだろう。
プシュン!ドアの開く音と共に鼻にかかる甘ったるい匂い。
明らかにマジックの匂いと異なるそれに、シンタローは苛々してしまう。
「シンちゃん。シンタロー。起きないと風邪引くよ。」
シンタローを揺さ振って起こそうとする。
シンタロー自体はもう起きているので、そのままガバと起き上がった。
「くさい。」
起き上がるや否やマジックに一言。
微かだが酒の匂いも感じとれる。
「え?そ、そうかな?ごめんねシンちゃん!パパお風呂すぐに入って来るから!」
お風呂、という単語で匂いの正体が解った。
あの匂いはシャンプーの匂い。
誰だったか忘れたが、団員の誰かが今流行ってるとかで、そのシャンプーを使っていた事があったのだ。
薔薇とストロベリーのドッキングされた甘い匂いだ。間違いない。
「又入るの?その匂いシャンプーの匂いだろ?」
指をマジックの髪に向かい指す。
「だってシンちゃんクサイって言うから…。」
うちにそんなシャンプーを使ってる奴はいない。
うちのシャンプーは節約の為、個人個人で別けていないので、一般的な普通のシャンプーなのだ。
「親父、アンタ今まで何処行ってたんだヨ。」
そう尋ねると、マジックは別に、とさしてなんでもないかのような口ぶりで笑う。
それが益々気に入らない。
だが、シンタローの脳内にピーンと浮かぶ妄想イメージ。
も、もしかしなくても浮気かよ!?
やってきた後で一緒に風呂にでも浸かってきたのか。
ムカムカとやり場のない怒りがシンタローを支配する。
あ、そう。そーゆー訳。へー。
つーか、何処の誰とヤってきた訳?
残り香迄つけてきて。
ガタン!と勢い良くシンタローは立ち上がる。
「どうしたの?シンちゃん。不機嫌だねぇ。」
理解していないマジックはニコニコとシンタローの肩に手を置いた。
しかし、振り向いたシンタローにマジックは驚愕する。
シンタローの顔は怒りではなく悲しみ。
泣きそうな、今にも涙の出そうな顔でマジックを見つめる。
そして、
「アンタさいてぇ。」
昨夜とは違った意味の持つ同じ言葉を吐いたのだった。
「な、何で?パパ、お前に何かした?ねぇシンタロー、どうしたの。」
そう聞いてもシンタローは、うるせー、黙れ、の一点張り。
一方マジックは意味が解らないでいた。
まして自分が浮気の疑いをかけられているなんて知るよしもない。
「ちゃんと言ってくれなきゃ解らないよ。どうしたの、シンタロー。」
シンタローの頬を両手で覆い、マジックはシンタローの瞳を見る。
ゆらゆら揺れている黒い瞳はいつ見ても綺麗で。
「アンタ。今まで何処で何してたの。」
シンタローが前と同じ質問をもう一度投げかけた。
「何もしてないよ。ただちょっと飲みに行ってただけで。」
「誰と。」
「一人だよ。」
「何で風呂入ったの。」
「気まぐれだよ。」
そこまで聞いてシンタローは深い深呼吸をした。
俺、これじゃまるで浮気を問い詰める妻みてーじゃねぇか。
馬ッ鹿みてー。
「どうしたのシンちゃん。今日、本当に少し変だよ?」
「証拠は?」
「え?」
「一人で居たって証拠!」
そこまで言われて流石のマジックもピンときた。
ははぁん、この子、私が浮気してると勘違いしてるな。
頭の中の妄想が本当かどうか確かめたいって所だろうね。
「証拠なんてないよ。ねぇシンタロー。何で今日に限ってそんな事聞くの?何時も聞かないのに。私が誰と飲みに行っても何も言わないのに。」
「な、なんでって…何となくだ!何となく!!」
プク、と膨れて顔を反らす。
あれあれ、シンちゃんたら、カワイイんだから。
「変なシンちゃん。ま、いいや。パパちょっと疲れちゃったからもう寝るよ。オヤスミ。」
「え?」
マジックは素知らぬふりで部屋を出ていく。
シンタローは呆然と立ち尽くした。
いつもだったら、シンちゃん一緒に寝ようって、しつこく聞いてくるのにそれすらしない。
怪しい!怪しすぎる!
シンタローは唸る。
もしかして、もう、俺に飽きちまって、その、誰だか知らない奴の方がよくなっちまったのかも。
コスプレをしたいと言う恋人に、したくないと答えてはいけません。断った場合、相手に浮気をされる確率は68%にも昇ります。
今日見た雑誌の記事が脳裏に過ぎる。
シンタローは真っ青になった。
ヤダ。そんなの嫌だ。
もう、シンタローは自分の気持ちに言い訳はしなかった。
そんな余裕すらない。
やってやる!俺はやってやるッッ!!そいつに出来て俺に出来ない事はねぇ!俺は!俺はガンマ団総帥、シンタローだーッ!!
シンタローはそう意気込むと、ラックにあるシャンパンに手を延ばす。
そして、コルクを抜き、がぶ飲みをする。
そんなに酒の強くないシンタローは、一升ビンを空けた途端顔が真っ赤。
チュポン!と、唇を離し、へべれけである。
コスプレ位なんだっつーの!俺なんかなぁ!着ぐるみだってなんらって、やってやるさぁ!コンチクショー!!
シンタローは空になった酒ビンをテーブルに置き、又新たにシャンパンを開ける。
それを片手にシンタローはマジックの部屋へ行くのだった。
待ってろよー!クソ親父!!俺が本気になればアンタらんてなぁ!一発よ!一発ッッ!!
フラフラと千鳥足で歩いて行く様は、どっかのサラリーマンみたいだった。
「おやじぃー!」
ビーッ!
「おやじいぃぃ!!」
ビーッ!ビーッ!
部屋のインターホンをビービー鳴らし、仕舞いにゃ、ドアをバコバコたたき付ける。
直ぐにドアが開き、マジックが顔を出すが。
「シンちゃん!?どーしたの!?さっきまで素面だったのに!いつ飲んだの!?」
心配するマジックに、シンタローはにへら~と笑って又シャンパンを飲む。
「おやじ、おれとぉ、コスプレごっこしたいってヒック、いってたよなぁ~!だからぁ、今、Now!しよーぜー!着ぐるみでも何でも持ってこぉおい!!」
ハッハッハー!!と、何故か誇らしげに笑うシンタロー。
「や、別に着ぐるみは…」「あんだよ!じゃ、セーラー服かぁ?」
「そ、それも捨て難いんだけど、シンちゃん本気?パパ、夢を見てるようなんだけど。」
「本気も本気!らいほんきらーー!」
そして、又、にへら、と笑う。
とりあえず酔っ払いを部屋に招いてマジックは、シンタローに着てもらおうと通販で買ったコスチュームをシンタローに渡す。
渡されたコスチュームを見て、シンタローは案外普通だな、と酔った頭で思う。
渡されたのは弓道等で着る袴。
酔ったシンタローは、総帥服を脱ぎ捨て、袴を着る。
上は合わせるだけなのだが、袴なんて履いた事がないので中々悪戦苦闘。
あんだ?この紐。結べばいーのか?
そんな事をやっていると、マジックが後ろからシンタローを抱きしめた。
「シンちゃん。」
妙に艶っぽい声で自分を呼ぶので、シンタローは鳥肌が立つ。
ぶるり、と体を震わせて、シンタローはマジックのされるがままに身を委ねた。
優しくベッドに下ろされて、至る所にキスの雨。
くすぐったくて、シンタローは身をよじる。
「あはは、お、親父、くすぐってーけど。」
「フフ、シンちゃん上機嫌だね。」
せっかく合わせた上着をはだけさせると、シンタローの健康的な肌が表になる。
首筋から胸元を舌で舐めれば、また、シンタローはくすぐったがり、クスクス笑うのだった。
クスクス位ならまだいいのだが、いきなり爆笑されたりもする。
「やべ!アハハ!親父、やべーよ!あはははは!!」
「え、シンちゃん、それって笑いすぎじゃない?」
ヤバイのはお前だよ、と言えない息子に甘いパパなのでした。
「そんな子には、お口を塞いじゃおうね。」
「ふ、ンーー!」
マジックがいきなり舌を入れてきた。
ねっとりとした感触が口内に広がる。
音をわざと立てて、シンタローの羞恥心をかき立てる。
「ン、ン、ふ、ウン、」
「ね、シンタロー、知ってるかい?」
ちゅ、と、唇を離し、お互いの唇が付くか付かないかの距離でマジックが話し始める。
シンタローは軽く息を吸いながらマジックの話を半分聞いているようないないような。
何しろ酔っ払いなので、余り意識もハッキリしていない。
「くすぐったい場所は全部性感帯なんだって。」
そうすると、シンちゃんは全身性感帯ってコトだよね。
楽しそうにマジックが笑う。
そして、またキスをする。
シンタローがキスに酔っていると、
「ンン!!」
シンタローの体がびくついた。
マジックの指が、袴からシンタローの下半身に忍びより、ふとももを撫で上げる。
ゾクリとした快感。
触って貰えないもどかしさ。
何で?という風に見上げれば、絶対分かっているくせにすっとぼけるマジックがいて。
でも、触って、なんて。口が裂けても言えない言葉。
意地悪。
心の中で悪態をつく。
「おや?…ふふ、シンちゅんったらイヤラシイ…。」
マジックの指にほだされて、シンタローの腰が宙に浮き、浅ましくゆらゆらと揺れる。
マジックが腰が、だよ。という風に腰を撫でると、ハッとしたようにシンタローは目を見開き、羞恥に悶えながら、泣きそうな顔をしてそっぽを向く。
その態度が又、マジックを酷く煽り、彼の加虐心を刺激する。
「シンちゃん。ココ、ヒクヒクしてるね。」
ココとは、シンタローの蕾で。
骨ばった長い指をツンツンと入口付近を触る。
赤く充血しているそこを楽しそうに触るのだ。
「とぉさ…」
意を決したかのようにシンタローがマジックに話しかける。
しかも、親父、ではなく、父さん。
マジックは優しく笑い、汗ばんだシンタローの前髪をかき揚げ、顔を良く見た。
虚ろな瞳は既に劣情に負けていて。多分、酒の力も借りて、いつもより体が熱っぽい。
「なぁに?シンちゃん。」
「………。」
「どうしたの?言わないと解らないよ。」
解ってるくせに。
ジトリとマジックを見ると、マジックはにこやかに、まるで今気付いたかのように笑った。
「ああ、もう入れて欲しいんだね。」
そう言われ、シンタローは頬が熱くなるのを感じた。
たまにはマジックも自分の気持ちを解ってくれるんだと、シンタローは思う。
しかし。
「じゃあ、シンちゃん。」そう言って唇を耳元へ近づける。
マジックの息遣いが聞こえた。
そして、その唇からとんでもない言葉が発される。
上に乗って自分で動きなさい。
驚愕の表情でシンタローがマジックをみやる。
しかしマジックはにこやかな笑みを崩さない。
うえ?上?上に乗…な、なんつー事を言いやがんだ!こンのクソ親父ッッ!!阿保か!ムリムリぜーったい無理!!
あわわ!と取り乱すシンタロー。
だが、待てよ。
俺は何の為にこんな事をしてたんだっけ。
そーだ!親父が浮気してたかもしれなくて、そいつに勝つ為…そーだよ。勝つ為だよ。なのにこーんな所でもたついててどーすんだ俺ッッ!恥とか棄てねーと。第一俺酒飲んでるし。酒のせいにしちまえばいいじゃねーか!
俺ってば頭イイ!!
シンタローの頭の中で自分は天才と結論が出たようだ。
のそり、と起き上がり、マジックを組み敷く。
マジックは薄い唇の端を上げてシンタローをみやる。
「俺のぉ、スーパーテクをとくとみやがれ~!」
そう意気込み、己の蕾をマジシン自身に埋め込む。
「ン、ヒァ、ッッ――!!」
ググ、とうごめく熱いもの。
ゆっくり腰を降ろし、シンタローは歯を噛み締めた。
生理的な涙が目に留まる。
「シンちゃん。ホラ、まだ半分だよ。頑張って。」
マジックはそう言って、シンタローの己を支えている手を払った。
「ヒャアアアア!!」
ズブブブ!!と、調節していたものがタガを外したように、シンタローの最奥へ無遠慮に侵入してくる。
「は、はぁ、はぁ…」
肩で息をして、飲み込めなかった唾液が口から垂れ流された。
ビリビリと甘い電流が脳を支配する。
それに伴い、体が自分の意思とは関係なく、ビクビクとわななく。
「ホラ、シンちゃん動いて。」
腰を摩られシンタローは手を使いゆっくり動き出す。
時折聞こえるのは自分とマジックの結合部分の粘膜の音と、己の切ない声。
「シンちゃんカワイイよ…」
いつもは良く見る事のできない息子の劣情にまみれた顔。
マジックの息遣いも段々荒くなる。
「は、はぅ、あ、ふ、」
一生懸命動くが、慣れない体位に悪戦苦闘する。
どうしよう。
シンタローの頭の中はそれだけで。
気持ちはイイ。
だけどこんなにゆっくりじゃ…。
イケない…。
「父さ…ん…も、ムリ…」
動くのを止めてマジックに抱き着く。
マジックは困ったように笑い、溜息を一つつく。
そして。
「仕方のない子だ。」
そう言うと、いきなりシンタローを突き上げた。
「ひゃ!あ!な、なに!?あ、ああッッ!!」
逃げ腰になるシンタローの尻を押さえ付けて、マジックは動いた。
いつもの快楽にシンタローは震える。
「ン!ア!と、さ…!!も、も、イッちゃ…あ、あう!」
ビクビクと痙攣させ、声にならない声を発して、シンタローはそのまま達した。
そして、マジックも、痙攣するシンタローの中に己の欲望を叩きつけたのだ。
「シンちゃんの臭いがすっかり染み付いてしまったよ。」
肩で未だ息をするシンタローの背中をあやし、マジックが冗談混じりで言う。
「ン、あ、はぅ…」
涙の跡が残る頬に、マジックは口づけた。
「私が浮気なんてするはずないのに。」
そう言ってシンタローを抱きしめる。
そうだよシンタロー。
私にはお前しか居ないんだ。
愛してるのはお前だけなんだよ。
お前が私の全てで、世界なんだ。
こんな事を言ったらお前は又怒るだろうけれど。
これが私の本心なんだよ。
「親父…」
そう言ってシンタローの方からキスをしてくれたので。
マジックは嬉しそうに瞳を閉じた。
「愛してる」
そう言ったのはマジックなのかシンタローなのか、あるいは二人なのか空耳なのか、真相は二人のみ知る
二人が知っていればそれでいいのだ。
終わり
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「あんだよ。」
「コスプレごっこしない?」
「しない。」
又あの、アーパー親父は訳の解らん事を!
今、シンタローとマジックは、マジックのベッドの上で裸で抱き合っていた。
かなりイイ雰囲気だったのだ。
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その雰囲気をいきなり根本からぶち壊し発言をしてきたのだ。
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「あ、あの、シンちゃん?」
シンタローの手を握り締めようとしたが、タッチの差でマジックは空を掴む。
シンタローはマジックをギロリ、と睨むと一言。
「さいてぇ。」
それだけ言うと、さっさとバスローブを身に纏いマジックの部屋から出ていってしまったのであった。
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ああ、何で私、我慢できなかったのだろう。
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私のばかばか!マジックのばか!!
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そんな事、一年に一回有るか無いかなのに!
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親父がアホなことは前々から知ってたが、いくらなんでも俺もう成人してンだから。
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マジックとの情事を期待していた体は少し熱くて。
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わーわーわー!!何を考えてンだ!俺はぁ!!は、恥ずかしい!!
余計顔が熱くなったのを感じたが、シンタローは枕に顔を埋め無理矢理瞳を閉じた。
次の日、シンタローは苛々した気持ちの中仕事をする。
毎日毎日飽きる事なく続くデスクワーク。
時折コーヒーをがぶがぶ飲み、コップをディスクにたたき付ける。
頭の中では昨夜のマジックの事ばかり。
ムカつく!すっげームカつく!!
だん!だん!と、ハンコを押すシンタローに、回りの秘書達は恐れおののいていた。
「シンタロー、どうした。」
唯一シンタローと肩を並べるキンタローが話し掛けるのだが、
「あんでもねーよ!」
不機嫌極まりない声色で突っ掛かるように言うのだった。
キンタローは溜息をつき、空になったシンタローのコップにコーヒーを入れる。
入れた途端、又それをがぶがぶ飲んで、乱暴にハンコを押す。
そんな中、休憩時間に突入したのだが、いつものごとくシンタローは休む事なくハンコを押し続けていた。
秘書達は総帥の「俺に構わず休み時間はしっかり休め!」の言葉通り、総帥室からは出ないが昼飯を食べたり雑誌を読んだりしている。
一人の秘書が読んでいた雑誌にシンタローの目が止まった。
じっ、と見つめるその目線の先には“マンネリ対策!!コスプレ必須!!”の文字が。
マンネリ対策ぅ?
シンタローはふと、思う。
なんだ、親父のやつまさかマンネリなんて感じてんのか?
いや、まさか親父に限ってンな事ねぇよな?
だって、いつもシンちゃん、シンちゃん、ってウザイ位に言ってるし…。
でも、万が一、もしも、もしかしたら………。
俺、親父に飽きられちゃってる―――?
今、シンタローの脳内映像のマジックは、マジックが下品な笑いを浮かべ、顔は見えないが、コスプレ美女と肩を組んでいるシーン。
「オイ!」
シンタローは思わず雑誌を読んでいる秘書を呼ぶ。
雑誌を読んではいけないと今まで言われた事などないので、その秘書は怪訝な顔をしながらも返事をした。
「ハ、ハイ、何でしょう?シンタロー総帥。」
「悪ぃんだけどヨ、その雑誌、ちょっと見せてくんねぇ?」
「あ、ハイ、どうぞ。」
秘書は、シンタロー総帥も週刊誌なんて読むんだな、なんて思いながら素直に渡す。
シンタローはパラパラとお目当ての記事の所まで開くと、食い入るように見た。
何々、男がコスプレを求めるのはマンネリ解消の一つの方法。
フーン。
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へー。
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コスプレをして、マンネリ解消!!楽しい性ライフをおくってみましょう!
……ほぉ
コスプレをしたいと言う恋人に、したくないと答えてはいけません。断った場合、相手に浮気をされる確率は68%にも昇ります。(当社比率)
………!
恋人に飽きられない為にも恥ずかしがり屋なアナタ!是非やってみて下さい。もしかしたら以外な彼の一面が見れるかも!!
シンタローに衝撃が走る。
下にはコスプレしてほしい服装のランキングが男と女に分かれて書いてある。
シンタローは男がしてほしいコスプレランキングを目を皿のようにして見つめた。
③位!ナース服
②位!スチュワーデス
①位!セーラー服
①位に寄せられたコメント:清楚な感じが堪らない。若々しい感じがする。ストイックな感じがいい。
ほー、セーラー服がいいの。馬鹿じゃねーの、犯罪じゃねーかよ!
……………親父もそうなのかな。
イヤイヤイヤイヤ!!例えそうだったとしても俺は断じて着ない!絶対!どうしても!!
その記事を見終わると、シンタローは雑誌を秘書に返し、目を隠すように机に肘をつく。
でも、しなかったら親父が他の女と……いや、俺には関係ねぇ!!
そうは思うが、本心では気に入るはずもなく。
シンタローは深く重い溜息を吐いて仕事を再開した。
しかし、先程とは打って変わって、のったらのったらと。
キンタローも又、軽く溜息を吐き、又、空になったシンタローのコップにコーヒーを入れてやるのだった。
のったらのったらしていたせいで、日も大分とっぷり暗くなってしまった。
時計を見ると22:54。
キンタローは一時間前に帰らせていたので、残るはシンタロー一人。
家に帰ったら夕飯食って、風呂入って寝よう。
ぽけ、っとしながらそう考えてシンタローは家迄帰って行く。
エレベーターに乗って自宅フロアまで。
チーンという間抜けな音がなってから、プシュン!と空気の抜ける音がする。
だらだらと食堂に入ると、いつものようにシンちゃんシンちゃんとウザイ位付き纏うマジックの姿が見当たらない。
御飯は綺麗にラップされていて、多分、グンマとキンタローが食べた後の食器が流しに水に浸からされてあった。
御飯の下にはピンクのカードに赤い文字で“シンちゃんの分ν”と書かれてある。
こんな事を書く位なのだから、マジックは何かの用事で外出しているのだろう。
自分は何時もこれくらいの時間に帰って来るのだから、それまでに帰ってくる気がないからわざわざメッセージカードなんかを置いておくのだ。
あの親父、なーにやってんだ!
冷めた冷や飯を食べる気分にはなれず、シンタローはとりあえず有り合わせのもので炒飯を作る。
おかずにキムチがあってラッキーとばかりだ。
ポテトサラダをつまみながらシンタローはふ、と昼間の事を思い出す。
思い出したのは自分のイメージが作り上げた他の女とコスプレごっこを楽しむマジック。
「うわ、気持ち悪ッ!」
おえ、と、誰も見てないのに一人ジェスチャーをしてみる。
だが、脳内の妄想はシンタローの意思とは関係なく進んでゆき、最後は見知らぬ女性とキスをし始めた。
そして、マジックが「私にはアナタしかいない。」と呟き、顔の見えない女性は「私も…愛してるわ!マジック!!」と言い、辺り一面に白い薔薇が咲き乱れる。
20代後半の分際でこんな少女漫画みたいな妄想しかできないのは、彼が女を抱いた事がないからと言えるであろう。
そして、父親の情事を妄想したくないというストッパーがついているから、AVのようなグロテスクかつ、エロチシズムな妄想に捕われなかったのかもしれない。
「まさか、な。」
ハハ、と渇いた笑いを浮かべる。
まさか本当に浮気だったりして。
そしたら笑えないじゃねぇか。
なんだかんだ言ってもシンタローはマジックを愛している。
口には出さないがそうなのだ。
取り敢えずマジックを待ってみようと、シンタローは夕飯を平らげ、コーヒーを飲みながら待っていることにした。
べ、べつに親父が浮気してるかもしれないからとかそーゆーんじゃ絶対ねぇんだからな!!
ここにはシンタロー一人しかいないのに、しかも心の中で自分に自分で言い聞かせる。
そして、シンタローは自分の言い訳に納得すると、静かに座ってマジックの帰りを待った。
どれくらいの時間がたったのだろうか。
シンタローは寝てしまったのだが、ふとした違和感で覚醒した。
長い事軍人なんてやっているので、臭いや物音に敏感なのだ。
歩いて来る足音はマジックのソレなのだが、匂いが。
違う。
何時ものマジックの匂いじゃない。
幼い頃から慣れ親しんだ心地良い匂いと異なる匂いに、シンタローは眉を潜めた。
なんだってーんだ?
聞き耳を起てると、足音はこちらに近づいてくる。
どうやら食堂に明かりが付いていることが気になったのだろう。
プシュン!ドアの開く音と共に鼻にかかる甘ったるい匂い。
明らかにマジックの匂いと異なるそれに、シンタローは苛々してしまう。
「シンちゃん。シンタロー。起きないと風邪引くよ。」
シンタローを揺さ振って起こそうとする。
シンタロー自体はもう起きているので、そのままガバと起き上がった。
「くさい。」
起き上がるや否やマジックに一言。
微かだが酒の匂いも感じとれる。
「え?そ、そうかな?ごめんねシンちゃん!パパお風呂すぐに入って来るから!」
お風呂、という単語で匂いの正体が解った。
あの匂いはシャンプーの匂い。
誰だったか忘れたが、団員の誰かが今流行ってるとかで、そのシャンプーを使っていた事があったのだ。
薔薇とストロベリーのドッキングされた甘い匂いだ。間違いない。
「又入るの?その匂いシャンプーの匂いだろ?」
指をマジックの髪に向かい指す。
「だってシンちゃんクサイって言うから…。」
うちにそんなシャンプーを使ってる奴はいない。
うちのシャンプーは節約の為、個人個人で別けていないので、一般的な普通のシャンプーなのだ。
「親父、アンタ今まで何処行ってたんだヨ。」
そう尋ねると、マジックは別に、とさしてなんでもないかのような口ぶりで笑う。
それが益々気に入らない。
だが、シンタローの脳内にピーンと浮かぶ妄想イメージ。
も、もしかしなくても浮気かよ!?
やってきた後で一緒に風呂にでも浸かってきたのか。
ムカムカとやり場のない怒りがシンタローを支配する。
あ、そう。そーゆー訳。へー。
つーか、何処の誰とヤってきた訳?
残り香迄つけてきて。
ガタン!と勢い良くシンタローは立ち上がる。
「どうしたの?シンちゃん。不機嫌だねぇ。」
理解していないマジックはニコニコとシンタローの肩に手を置いた。
しかし、振り向いたシンタローにマジックは驚愕する。
シンタローの顔は怒りではなく悲しみ。
泣きそうな、今にも涙の出そうな顔でマジックを見つめる。
そして、
「アンタさいてぇ。」
昨夜とは違った意味の持つ同じ言葉を吐いたのだった。
「な、何で?パパ、お前に何かした?ねぇシンタロー、どうしたの。」
そう聞いてもシンタローは、うるせー、黙れ、の一点張り。
一方マジックは意味が解らないでいた。
まして自分が浮気の疑いをかけられているなんて知るよしもない。
「ちゃんと言ってくれなきゃ解らないよ。どうしたの、シンタロー。」
シンタローの頬を両手で覆い、マジックはシンタローの瞳を見る。
ゆらゆら揺れている黒い瞳はいつ見ても綺麗で。
「アンタ。今まで何処で何してたの。」
シンタローが前と同じ質問をもう一度投げかけた。
「何もしてないよ。ただちょっと飲みに行ってただけで。」
「誰と。」
「一人だよ。」
「何で風呂入ったの。」
「気まぐれだよ。」
そこまで聞いてシンタローは深い深呼吸をした。
俺、これじゃまるで浮気を問い詰める妻みてーじゃねぇか。
馬ッ鹿みてー。
「どうしたのシンちゃん。今日、本当に少し変だよ?」
「証拠は?」
「え?」
「一人で居たって証拠!」
そこまで言われて流石のマジックもピンときた。
ははぁん、この子、私が浮気してると勘違いしてるな。
頭の中の妄想が本当かどうか確かめたいって所だろうね。
「証拠なんてないよ。ねぇシンタロー。何で今日に限ってそんな事聞くの?何時も聞かないのに。私が誰と飲みに行っても何も言わないのに。」
「な、なんでって…何となくだ!何となく!!」
プク、と膨れて顔を反らす。
あれあれ、シンちゃんたら、カワイイんだから。
「変なシンちゃん。ま、いいや。パパちょっと疲れちゃったからもう寝るよ。オヤスミ。」
「え?」
マジックは素知らぬふりで部屋を出ていく。
シンタローは呆然と立ち尽くした。
いつもだったら、シンちゃん一緒に寝ようって、しつこく聞いてくるのにそれすらしない。
怪しい!怪しすぎる!
シンタローは唸る。
もしかして、もう、俺に飽きちまって、その、誰だか知らない奴の方がよくなっちまったのかも。
コスプレをしたいと言う恋人に、したくないと答えてはいけません。断った場合、相手に浮気をされる確率は68%にも昇ります。
今日見た雑誌の記事が脳裏に過ぎる。
シンタローは真っ青になった。
ヤダ。そんなの嫌だ。
もう、シンタローは自分の気持ちに言い訳はしなかった。
そんな余裕すらない。
やってやる!俺はやってやるッッ!!そいつに出来て俺に出来ない事はねぇ!俺は!俺はガンマ団総帥、シンタローだーッ!!
シンタローはそう意気込むと、ラックにあるシャンパンに手を延ばす。
そして、コルクを抜き、がぶ飲みをする。
そんなに酒の強くないシンタローは、一升ビンを空けた途端顔が真っ赤。
チュポン!と、唇を離し、へべれけである。
コスプレ位なんだっつーの!俺なんかなぁ!着ぐるみだってなんらって、やってやるさぁ!コンチクショー!!
シンタローは空になった酒ビンをテーブルに置き、又新たにシャンパンを開ける。
それを片手にシンタローはマジックの部屋へ行くのだった。
待ってろよー!クソ親父!!俺が本気になればアンタらんてなぁ!一発よ!一発ッッ!!
フラフラと千鳥足で歩いて行く様は、どっかのサラリーマンみたいだった。
「おやじぃー!」
ビーッ!
「おやじいぃぃ!!」
ビーッ!ビーッ!
部屋のインターホンをビービー鳴らし、仕舞いにゃ、ドアをバコバコたたき付ける。
直ぐにドアが開き、マジックが顔を出すが。
「シンちゃん!?どーしたの!?さっきまで素面だったのに!いつ飲んだの!?」
心配するマジックに、シンタローはにへら~と笑って又シャンパンを飲む。
「おやじ、おれとぉ、コスプレごっこしたいってヒック、いってたよなぁ~!だからぁ、今、Now!しよーぜー!着ぐるみでも何でも持ってこぉおい!!」
ハッハッハー!!と、何故か誇らしげに笑うシンタロー。
「や、別に着ぐるみは…」「あんだよ!じゃ、セーラー服かぁ?」
「そ、それも捨て難いんだけど、シンちゃん本気?パパ、夢を見てるようなんだけど。」
「本気も本気!らいほんきらーー!」
そして、又、にへら、と笑う。
とりあえず酔っ払いを部屋に招いてマジックは、シンタローに着てもらおうと通販で買ったコスチュームをシンタローに渡す。
渡されたコスチュームを見て、シンタローは案外普通だな、と酔った頭で思う。
渡されたのは弓道等で着る袴。
酔ったシンタローは、総帥服を脱ぎ捨て、袴を着る。
上は合わせるだけなのだが、袴なんて履いた事がないので中々悪戦苦闘。
あんだ?この紐。結べばいーのか?
そんな事をやっていると、マジックが後ろからシンタローを抱きしめた。
「シンちゃん。」
妙に艶っぽい声で自分を呼ぶので、シンタローは鳥肌が立つ。
ぶるり、と体を震わせて、シンタローはマジックのされるがままに身を委ねた。
優しくベッドに下ろされて、至る所にキスの雨。
くすぐったくて、シンタローは身をよじる。
「あはは、お、親父、くすぐってーけど。」
「フフ、シンちゃん上機嫌だね。」
せっかく合わせた上着をはだけさせると、シンタローの健康的な肌が表になる。
首筋から胸元を舌で舐めれば、また、シンタローはくすぐったがり、クスクス笑うのだった。
クスクス位ならまだいいのだが、いきなり爆笑されたりもする。
「やべ!アハハ!親父、やべーよ!あはははは!!」
「え、シンちゃん、それって笑いすぎじゃない?」
ヤバイのはお前だよ、と言えない息子に甘いパパなのでした。
「そんな子には、お口を塞いじゃおうね。」
「ふ、ンーー!」
マジックがいきなり舌を入れてきた。
ねっとりとした感触が口内に広がる。
音をわざと立てて、シンタローの羞恥心をかき立てる。
「ン、ン、ふ、ウン、」
「ね、シンタロー、知ってるかい?」
ちゅ、と、唇を離し、お互いの唇が付くか付かないかの距離でマジックが話し始める。
シンタローは軽く息を吸いながらマジックの話を半分聞いているようないないような。
何しろ酔っ払いなので、余り意識もハッキリしていない。
「くすぐったい場所は全部性感帯なんだって。」
そうすると、シンちゃんは全身性感帯ってコトだよね。
楽しそうにマジックが笑う。
そして、またキスをする。
シンタローがキスに酔っていると、
「ンン!!」
シンタローの体がびくついた。
マジックの指が、袴からシンタローの下半身に忍びより、ふとももを撫で上げる。
ゾクリとした快感。
触って貰えないもどかしさ。
何で?という風に見上げれば、絶対分かっているくせにすっとぼけるマジックがいて。
でも、触って、なんて。口が裂けても言えない言葉。
意地悪。
心の中で悪態をつく。
「おや?…ふふ、シンちゅんったらイヤラシイ…。」
マジックの指にほだされて、シンタローの腰が宙に浮き、浅ましくゆらゆらと揺れる。
マジックが腰が、だよ。という風に腰を撫でると、ハッとしたようにシンタローは目を見開き、羞恥に悶えながら、泣きそうな顔をしてそっぽを向く。
その態度が又、マジックを酷く煽り、彼の加虐心を刺激する。
「シンちゃん。ココ、ヒクヒクしてるね。」
ココとは、シンタローの蕾で。
骨ばった長い指をツンツンと入口付近を触る。
赤く充血しているそこを楽しそうに触るのだ。
「とぉさ…」
意を決したかのようにシンタローがマジックに話しかける。
しかも、親父、ではなく、父さん。
マジックは優しく笑い、汗ばんだシンタローの前髪をかき揚げ、顔を良く見た。
虚ろな瞳は既に劣情に負けていて。多分、酒の力も借りて、いつもより体が熱っぽい。
「なぁに?シンちゃん。」
「………。」
「どうしたの?言わないと解らないよ。」
解ってるくせに。
ジトリとマジックを見ると、マジックはにこやかに、まるで今気付いたかのように笑った。
「ああ、もう入れて欲しいんだね。」
そう言われ、シンタローは頬が熱くなるのを感じた。
たまにはマジックも自分の気持ちを解ってくれるんだと、シンタローは思う。
しかし。
「じゃあ、シンちゃん。」そう言って唇を耳元へ近づける。
マジックの息遣いが聞こえた。
そして、その唇からとんでもない言葉が発される。
上に乗って自分で動きなさい。
驚愕の表情でシンタローがマジックをみやる。
しかしマジックはにこやかな笑みを崩さない。
うえ?上?上に乗…な、なんつー事を言いやがんだ!こンのクソ親父ッッ!!阿保か!ムリムリぜーったい無理!!
あわわ!と取り乱すシンタロー。
だが、待てよ。
俺は何の為にこんな事をしてたんだっけ。
そーだ!親父が浮気してたかもしれなくて、そいつに勝つ為…そーだよ。勝つ為だよ。なのにこーんな所でもたついててどーすんだ俺ッッ!恥とか棄てねーと。第一俺酒飲んでるし。酒のせいにしちまえばいいじゃねーか!
俺ってば頭イイ!!
シンタローの頭の中で自分は天才と結論が出たようだ。
のそり、と起き上がり、マジックを組み敷く。
マジックは薄い唇の端を上げてシンタローをみやる。
「俺のぉ、スーパーテクをとくとみやがれ~!」
そう意気込み、己の蕾をマジシン自身に埋め込む。
「ン、ヒァ、ッッ――!!」
ググ、とうごめく熱いもの。
ゆっくり腰を降ろし、シンタローは歯を噛み締めた。
生理的な涙が目に留まる。
「シンちゃん。ホラ、まだ半分だよ。頑張って。」
マジックはそう言って、シンタローの己を支えている手を払った。
「ヒャアアアア!!」
ズブブブ!!と、調節していたものがタガを外したように、シンタローの最奥へ無遠慮に侵入してくる。
「は、はぁ、はぁ…」
肩で息をして、飲み込めなかった唾液が口から垂れ流された。
ビリビリと甘い電流が脳を支配する。
それに伴い、体が自分の意思とは関係なく、ビクビクとわななく。
「ホラ、シンちゃん動いて。」
腰を摩られシンタローは手を使いゆっくり動き出す。
時折聞こえるのは自分とマジックの結合部分の粘膜の音と、己の切ない声。
「シンちゃんカワイイよ…」
いつもは良く見る事のできない息子の劣情にまみれた顔。
マジックの息遣いも段々荒くなる。
「は、はぅ、あ、ふ、」
一生懸命動くが、慣れない体位に悪戦苦闘する。
どうしよう。
シンタローの頭の中はそれだけで。
気持ちはイイ。
だけどこんなにゆっくりじゃ…。
イケない…。
「父さ…ん…も、ムリ…」
動くのを止めてマジックに抱き着く。
マジックは困ったように笑い、溜息を一つつく。
そして。
「仕方のない子だ。」
そう言うと、いきなりシンタローを突き上げた。
「ひゃ!あ!な、なに!?あ、ああッッ!!」
逃げ腰になるシンタローの尻を押さえ付けて、マジックは動いた。
いつもの快楽にシンタローは震える。
「ン!ア!と、さ…!!も、も、イッちゃ…あ、あう!」
ビクビクと痙攣させ、声にならない声を発して、シンタローはそのまま達した。
そして、マジックも、痙攣するシンタローの中に己の欲望を叩きつけたのだ。
「シンちゃんの臭いがすっかり染み付いてしまったよ。」
肩で未だ息をするシンタローの背中をあやし、マジックが冗談混じりで言う。
「ン、あ、はぅ…」
涙の跡が残る頬に、マジックは口づけた。
「私が浮気なんてするはずないのに。」
そう言ってシンタローを抱きしめる。
そうだよシンタロー。
私にはお前しか居ないんだ。
愛してるのはお前だけなんだよ。
お前が私の全てで、世界なんだ。
こんな事を言ったらお前は又怒るだろうけれど。
これが私の本心なんだよ。
「親父…」
そう言ってシンタローの方からキスをしてくれたので。
マジックは嬉しそうに瞳を閉じた。
「愛してる」
そう言ったのはマジックなのかシンタローなのか、あるいは二人なのか空耳なのか、真相は二人のみ知る
二人が知っていればそれでいいのだ。
終わり
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今のマジックが例え未来のマジックではないとしても、好きな人には代わりはない。
それでも心は嫌だった。
他人ではない。本人であるが、自分が好きなマジックとは違う。
歳も、顔も、声さえも。
面影は残されてはいるが、シンタローにとっての今の行為は無理矢理以外の何物でもなく。
「や、めろ!」
それでも涙を見せないのは彼のプライドのせいか、それとも…。
「そうやって逃げまどってくれて構わないよ。君にそうされると、私は酷く興奮する。君以外がそんな事をしたら私はソイツを有無を言わさず殺すだろうけどね。」
ゾッとするような綺麗な笑顔。
整い過ぎているからだけじゃない、既に人殺し集団のトップに立ち、数えきれない程の人を殺してきた男の顔。
未来のマジックは決して自分の前でそんな顔はしなかった。
隠そうと必死だったのに。
「おや、シンタロー君。さっきの威勢はどうしたの?」
楽しそうにクスクス笑いながら、顔面蒼白のシンタローの頬にキスを落とす。
怖くて体が動かなくなってしまったようで。
シンタローはどうにか動かそうと必死に力を入れるが上手くはいかなかった。
「そんな君も可愛いよ。」
布ごしに触っていた指を止めて、ズボンのチャックに手をかける。
ジィィィ…とチャックの開く音が無音の部屋の中やけに響いた。
無遠慮にズボンと下着を脱がせ、調ったシンタローのフトモモにキスを落としてから、外気に表になった性器に指を絡める。
「ひゃぁ、あッッ!」
ビク、と体がまた反応する。
怖くて堪らないのに自分のは元気良く勃ちあがっていて。
シンタローは唇を噛み締めた。
「怖いのに勃ちあがらせて…シンタロー君はマゾヒズムなのかな?酷くされるのが好きなんだね。」
シンタローはギッ!とマジックを睨む。
でも、そのほてった体と上気した頬で睨まれても、マジックにとってそれは誘ってるようにしか見えない。「こ、の!変態やろぉ!!」
「………まだそんな口を聞くんだね。これは少々手荒なお仕置きが必要かな?」
「何、ひ、や、ぁああっ!!」
マジックが手荒にシンタローの性器を上下に擦り上げる。
ぐちゅぐちゅといやらしい音と共に白濁の液がマジックの手を汚す。
「シンタロー君、凄くそそるよ。君のその顔。」
「や、ふ、ぁあ!や、やめて!…ンンッッ」
マジックの手を両手で押さえるが、マジックの動きが止まる事はなかった。
「先に一回イッておくといい。」
羞恥にまみれ、汗が額に浮き出るシンタローにマジックは耳元でそう呟く。
そして、激しく上下に擦りあげるのだ。
シンタローの止めて欲しいという言葉も聞かず。
「ンン!ぁ、あ、ああっ!!」
ビュル、とシンタローの性器から白濁の液が勢い良く飛び散り、マジックの手と、シンタローの腹を汚す。「ン、は、あ、あ」
瞳を潤ませ肩で息をするシンタロー。
余韻に体を震わせ、ぼぉ、とマジックを見た。
マジックは心底楽しそうな顔をして、シンタローを見ている。
「随分出したね、シンタロー君。」
シンタローので汚れた手の平をマジックは赤い己の舌先でペロ、と嘗める。
その光景を見て、シンタローはカァ、と赤くなった。
でも、シンタローにはどうする事もできない。
強制的に出す事になった己の液体。
嫌だったのに感じてしまった自分にシンタローはゾッとした。
そして同時に罪悪感がシンタローを襲う。
俺は一体何をしてしまったんだろう。
これは裏切り行為以外の何ものでもない。
俺は未来のマジックを裏切ったんだ。
そう理解した瞬間、今まで堪えていた涙が一気にドバッと溢れ出た。
「シ、シンタロー君!?」
マジックが焦りの声を上げる。
泣かせたかった訳じゃないのに。
私は唯、シンタロー君に恋をして。
だから抱きたくなったし、自分の気持ちをシンタロー君に解って貰う為に抱こうとしたのに。
どうやって他人を愛すかなんて、どうすれば伝わるかなんて私には解らない。
私は今まで他人を愛した事がない。
シンタロー君、じゃあどうすれば良かったの。
どうすれば君は私に振り向いてくれたの。
「大ッッ嫌いだ…アンタなんか。最低だ。お前の顔は見たくない。ぶっ殺されたくなかったら出ていけ!」
泣きながらマジックを睨み付け、喚き散らす。
そして、枕をマジックの顔面に投げ付けた。
ぼすん!と音がする。
避けられただろうにマジックはそれをしなかった。
甘受をあえてして、泣きそうな顔でシンタローを見る。
「出ていけ!出て行けよ!!」
大泣きをして、布団を被るが、マジックはそこからどこうとはしなかった。
辺りはシーンと再び静まりかえり、シンタローの鳴咽だけがくぐもりながらも聞こえた。
「ごめん…なさい。」
布団ごしにマジックの温かい体温と、謝りの言葉が降ってきた。
鳴咽の音がする部屋の中、マジックは力を強めて布団ごしに抱きしめる。
「ごめん、ごめんね、シンタロー君。」
すると、モゾモゾとシンタローが動き、顔を出した。腫れ上がった瞼に、充血した瞳。
必死に堪えた事が伺える切れた唇の端っこ。
シンタローが顔を出してくれた事に安堵の笑みを初めは漏らしていたマジックだったが、シンタローの顔を見て愕然とした。
こんな顔にしたのは、他ならない自分で。
シンタローは俯きながらも体をマジックに向ける。
よれた上着には先程の情事の跡が色濃く残り、頬には涙の跡が伺えた。
「――ッッ」
マジックは何と言葉をかけていいのか解らない。
会った時とは全く異なる覇気のない顔。
そうさせた卑劣漢は自分。
シンタローは何も言わないマジックを置いて、フラフラとバスルームに向かう。
立ち上がった瞬間マジックの目の前に飛び込んだシンタローの痛々しい下半身。
マジックは唇をキュッと強く結んだ。
ガラス張りの浴槽の前の脱衣所で、布の擦れる音が聞こえ、しばらく経ち、ガラガラとドアを開ける音が聞こえる。
シンタローがバスルームに入ったのだと、ガラス張りのバスルームに顔を向けると、ジャ、と、ブランドが閉まり、シャワーの音が聞こえた。
「ふ、う、グズッ…」
シャワーの音と共に聞こえるシンタローの鳴咽。
どうにかしなければ。
シンタローの悲しい顔は見たくない。
まさかこんな事になるなんて。
許して貰えなくてもいいから、ちゃんと誠意を見せよう。
そんな考えをする新たな自分にマジックはハッとした。
そんな事今まで考えた事すらなかった。
一方のシンタローは、ゴシゴシと体を擦っている。
洗うものがスポンジしかないのだけれど、それでも赤くなるまで。
綺麗にしなきゃ。
親父以外の男に触られた所全部。
汚くなってしまった所全部。
涙は止めようもなくて、ぼたぼた落ちる大粒の涙とシャワーの小雨の中、シンタローは必死で洗う。
洗った所で本当の綺麗には戻れないのに、それでも何かしないと狂ってしまいそうで。
ガラガラ、ドアの開く音がして、シンタローはバッ!とそちらを見た。
マジックが裸体でペタペタとこちらへ歩いてくる。
逃げようと思ったが体が言う事をきかない。
どうしよう。
そう考えてた瞬間、マジックに抱きしめられた。
この温かさは知っている。
子供の頃から優しかったあの温かさと同じだ。
「うわぁあああ!!」
タガが外れたように、シンタローは泣き始めた。
バスルームの中、子供のように大声をあげて。
マジックにしがみつき涙を流す。
それをマジックは優しく受け止め、シンタローの頭をさすった。
しばらく泣きわめき、すっきりしたのか、シンタローはバツが悪そうに顔を伏せていた。
「シンタロー君、君には好きな人が居るんだね。」
ぽつり、マジックが呟いた。
抱きしめられている形だったので、顔を見る事は出来なかったが、その声色は先程までとは打って変わって、酷く弱々しいものだった。
「そうだ。」
シンタローが肯定の言葉を吐いたので、マジックは瞼をきつく閉じる。
自分は傷つく立場ではない。
一番傷ついているのは他でもない目の前に居るその人で。
それでも心に突き刺さるその肯定文は、マジックにはどうする事も出来ない見えない刃となって深く突き刺さる。
「俺の恋人は…未来のアンタだ。」
は、と、目を見開く。
今言われた言葉をもう一度脳内で重複させ、聞き間違いではなかったか再確認をする。
「それ、本当かい?」
「ああ。」
恐る恐る尋ねるが、シンタローは即答する。
「いつ頃から?」
「………俺についての質問はしないっていう約束だ。」
「ああ。」
そうだったね。
マジックは深い息を吐いた。
ん?でも、待って。
「じゃあ何でさっきあんなに泣いたの?!私が恋人ならいいじゃないか!!」
「ああん!?ふざけんな!!テメーじゃねーんだよ!!未来のお前なの!今じゃねーんだヨ!!」
がば、と、体を離し怒鳴り付ける。
同じ私じゃないか。
マジックは呆れ顔でシンタローを見た。
彼は随分面倒臭い性格のようだと、マジックは思う。
「ああ、そう。何だか私はどっと疲れが出たよ…。」
「はぁ!?アンタは罪悪感とかねーのか!」
「あるよ!ああ、あるね!!本気で悪いと思ったよ!!何て事をしてしまったんだとね!でも、結局私なんだろう?君の恋人は!未来だろうが今だろうが私は私!マジックだよ!!」
あ。
何だかそう言われ気付いた。
胸に絡み付くもやもやとかが一気に快晴になったそんな気持ち。
そうだよな。
未来だろうが今だろうがコイツは俺の親父。
それは変わらない。
「アンタって、本当解りやすい性格。」
まだ腫れている瞼を緩めて笑ってやれば、マジックも優しい笑顔になって。
「君だけにね。」
と、呟くのだった。
本当アンタって奴は昔からちっとも変わってなかったんだな、と、シンタローは思う。
俺が小さい時からアンタは俺を甘やかせて、愛して、可愛がって。
そして沢山の色んな愛情を俺に惜しみなく注いでくれた。
「シンタロー君。もう一度君を抱きたい。今度は無理矢理じゃなく君の恋人として。」
肌と肌の温もりが二人を包む中、マジックが真剣な面持ちで言う。
シンタローは鼻で笑い、又上から目線に切り替える。
「却下だ却下!」
「そっか、それならしょうがないね。」
眉を潜めて笑うマジックの頭をグリグリとシンタローは撫でてやる。
「俺の恋人は俺の事を君付けで呼ばねーんだヨ。」
フン、と鼻息を吐いてそっぽを向くが、顔は赤くなっている。
そんなシンタローを見て、マジックも釣られて赤くなるのだった。
言葉の意味を理解したマジックはもう一度シンタローを力強く抱きしめる。
そして、先程とは異なる優しいキスをシンタローのぷくりとした唇に落とすのだった。
シンタローも又抵抗しなく、すんなりマジックを受け入れてくれて。
嬉しさの余り口元が緩む。
「ありがとう。」
ぽつり呟かれたので、シンタローはマジックに身を任せるのだった。
「ア、アンタなぁ…」
息も絶え絶えにシンタローがマジックを睨み付ける。
マジックは困ったように笑いながら、繋がっている部分を抜こうとはしない。
「ゴメン、シンタロー。」
「もう一回っていうのは一回だけの事を言うんだよ!!」
シンタローが怒るのも無理はない。
今現在、既に3ラウンド位は確実に終わっていて。
シンタローの体にはマジックの付けた後が点々としている。
「だって、納まりそうにないんだもの。」
そう言って、又動きを再開させる。
中に出された白濁の液が、シンタローの蕾からテラテラと溢れ出してきているので、そこに空気が加わり、ぐぷぐぷと淫乱な音を出す。
「ひゃ、あ、あ!」
50代でも現役で絶倫のマジックが20代なのである。
当然と言えば当然なのだが。
「ああ!あぅ!も、俺がムリ…ッッ!!」
腰をガッチリ持たれているせいで逃げるに逃げられない。
しかも、何度もしているうちにシンタローの良い所をピンポイントで貫くのだ。
びく、びく、と痙攣を起こし、下半身はガクガク震えている。
「でも、気持ちいいでしょう?シンタロー。」
「バッ…!!し、ねッッ!!」
肩で息をするシンタローを宥めるように、マジックはシンタローの額にちゅ、ちゅ、と優しいキスを落とした。
「ひ、あ、あ、あう…」
「ふふ、可愛いネ、シンタロー。」
そう言うのは無理もなく。
シンタローの足はマジックの足を絡みつけていて。
より中のより深い所にマジックを入れさせようという無意識の行為。
「ん、んん」
「声、我慢しなくていいんだよ。」
シンタローの声が聞きたいとマジックは言うが、やっぱり恥ずかしくて。
混沌とした意識の中でもまだ羞恥心は断片的に残っているらしい。
イヤイヤするように頭を振ってはみるものの、快楽から逃れられるはずもなく。
「ふ、ひゃ、あ、あああああ!」
ぎゅ、とマジックに抱き着き何度目かの放出をする。
白濁の己の液体が腹にかかり、トロリと滑り落ちる。
体をビクビク痙攣させ、手の平を口元に持っていく。半分目を開き、溢れ出した涙をそのままに。
数回腰を打ち付けられて、一際大きくなったマジック自身から熱い液体が体の中に注入され、マジック自身を抜き出す。
「ひ、あ、つぅ…」
シンタローはマジックを受け入れた。
今度はマジックがシンタローをきつく抱きしめる。
余裕たっぷりだったマジックの眉が少し歪み、シンタローは少ししてやったりと思うのだった。
荒い息継ぎの中、流石にシンタローは頭が朦朧としはじめた。
マジックは疲れていないのだろうか。
シンタローは慣れない総帥業務での疲れがどっと押し寄せてこられて。
べとべとの体では良くないと理解しつつも、睡魔と重い瞼にあがらえなくなり、そっと瞳を閉じた。
「シンタロー、眠ってしまったのかい?」
遠くでマジックの声が聞こえる。
「おやすみ、シンタロー。早く未来の君に会いたいよ。」
柔らかい声でマジックは呟き、備え付けのバスタオルでシンタロー体を拭く。
目に着いた自分が付けた跡に思わず頬がにやけた。
体を丁寧に拭いた後、柔らかい布団をシンタローにかけてやるのだった。
マジックが目を覚ますと、隣に居たはずのシンタローの姿は何処にもなく、場所も二人で泊まったあのホテルではなく、見慣れた自宅の自室。
外を見ると、まだ暗く、夜明けすら来ていない。
「兄さん、あんな所で何をなさってたんですか?随分探しましたよ。連絡も来ないですし。」
声のする方を見ると、困り顔の弟ルーザーが自分を見ていた。
一瞬戸惑う。
シンタローは自分の夢の中の人物だったのだろうかと。
でも、体に微かに残る体温と、優しくなれた心。
凍てついた自分を溶かしてくれた、そんな気持ち。
夢でも良かったじゃないか。
シンタローに会えたのだから。
「そういえば兄さん。」
思い出したかのようにルーザーが話し掛ける。
「なんだい?」
「シンタロー君はどうなさったのですか?」
マジックは目を見開いた。
ルーザーが知っていると言う事は、夢ではない。
そう、夢でも、妄想でもなかったんだ。
「結局、彼は何者だったんですか?」
「さぁね。」
マジックは微笑む。
今までにないほど柔らかい笑顔で。
「彼については私だけの秘密だ。」
「あんだったんだ…」
目が覚めると自分は総帥室の前に座って寝ていた。
今度は昔付けた古傷などか克明に刻まれている壁。
戻ってきたのだと再確認した。
夢だったのかもしれない。
だけど妙にリアルで。
シンタローはとりあえず家に帰ろうと立ち上がる。
「シンちゃ~ん!!」
遠くからハートを振り撒いてマジックがかけてくる。
その年齢が、ちゃんと自分の父の年齢でシンタローはハッキリ理解した。
俺は戻ってきたんだ。
すぐにシンタローの側迄かけてきて、シンタローを抱きしめる。
何時もならぶっ飛ばされるのに、されるがままになっているシンタローにマジックは訝しげに思い、シンタローを確認した。
そこでマジックは目が点になる。
シンタローの胸元には見覚えのない赤い跡。
震える指を指して、マジックは引き攣り気味。
「シ、シンちゃん、何ソレ!パパ、そんなの付けた覚えないよ!!」
「あ~ん?ホントにねーの?」
「ないよ!ないない!」
シンちゃん浮気したの!?
そう聞きたくても聞けない顔をしている。
あのマジックがここまで解りやすく顔に出す事がシンタローにはとても新鮮で。シンタローは口の端を軽く上げる。
「30年位前にも、ねーか?」
「あ」
思い出したかのようにマジックの動きが止まる。
そして、柔らかい笑顔をシンタローに向けたのだった。
終わり
それでも心は嫌だった。
他人ではない。本人であるが、自分が好きなマジックとは違う。
歳も、顔も、声さえも。
面影は残されてはいるが、シンタローにとっての今の行為は無理矢理以外の何物でもなく。
「や、めろ!」
それでも涙を見せないのは彼のプライドのせいか、それとも…。
「そうやって逃げまどってくれて構わないよ。君にそうされると、私は酷く興奮する。君以外がそんな事をしたら私はソイツを有無を言わさず殺すだろうけどね。」
ゾッとするような綺麗な笑顔。
整い過ぎているからだけじゃない、既に人殺し集団のトップに立ち、数えきれない程の人を殺してきた男の顔。
未来のマジックは決して自分の前でそんな顔はしなかった。
隠そうと必死だったのに。
「おや、シンタロー君。さっきの威勢はどうしたの?」
楽しそうにクスクス笑いながら、顔面蒼白のシンタローの頬にキスを落とす。
怖くて体が動かなくなってしまったようで。
シンタローはどうにか動かそうと必死に力を入れるが上手くはいかなかった。
「そんな君も可愛いよ。」
布ごしに触っていた指を止めて、ズボンのチャックに手をかける。
ジィィィ…とチャックの開く音が無音の部屋の中やけに響いた。
無遠慮にズボンと下着を脱がせ、調ったシンタローのフトモモにキスを落としてから、外気に表になった性器に指を絡める。
「ひゃぁ、あッッ!」
ビク、と体がまた反応する。
怖くて堪らないのに自分のは元気良く勃ちあがっていて。
シンタローは唇を噛み締めた。
「怖いのに勃ちあがらせて…シンタロー君はマゾヒズムなのかな?酷くされるのが好きなんだね。」
シンタローはギッ!とマジックを睨む。
でも、そのほてった体と上気した頬で睨まれても、マジックにとってそれは誘ってるようにしか見えない。「こ、の!変態やろぉ!!」
「………まだそんな口を聞くんだね。これは少々手荒なお仕置きが必要かな?」
「何、ひ、や、ぁああっ!!」
マジックが手荒にシンタローの性器を上下に擦り上げる。
ぐちゅぐちゅといやらしい音と共に白濁の液がマジックの手を汚す。
「シンタロー君、凄くそそるよ。君のその顔。」
「や、ふ、ぁあ!や、やめて!…ンンッッ」
マジックの手を両手で押さえるが、マジックの動きが止まる事はなかった。
「先に一回イッておくといい。」
羞恥にまみれ、汗が額に浮き出るシンタローにマジックは耳元でそう呟く。
そして、激しく上下に擦りあげるのだ。
シンタローの止めて欲しいという言葉も聞かず。
「ンン!ぁ、あ、ああっ!!」
ビュル、とシンタローの性器から白濁の液が勢い良く飛び散り、マジックの手と、シンタローの腹を汚す。「ン、は、あ、あ」
瞳を潤ませ肩で息をするシンタロー。
余韻に体を震わせ、ぼぉ、とマジックを見た。
マジックは心底楽しそうな顔をして、シンタローを見ている。
「随分出したね、シンタロー君。」
シンタローので汚れた手の平をマジックは赤い己の舌先でペロ、と嘗める。
その光景を見て、シンタローはカァ、と赤くなった。
でも、シンタローにはどうする事もできない。
強制的に出す事になった己の液体。
嫌だったのに感じてしまった自分にシンタローはゾッとした。
そして同時に罪悪感がシンタローを襲う。
俺は一体何をしてしまったんだろう。
これは裏切り行為以外の何ものでもない。
俺は未来のマジックを裏切ったんだ。
そう理解した瞬間、今まで堪えていた涙が一気にドバッと溢れ出た。
「シ、シンタロー君!?」
マジックが焦りの声を上げる。
泣かせたかった訳じゃないのに。
私は唯、シンタロー君に恋をして。
だから抱きたくなったし、自分の気持ちをシンタロー君に解って貰う為に抱こうとしたのに。
どうやって他人を愛すかなんて、どうすれば伝わるかなんて私には解らない。
私は今まで他人を愛した事がない。
シンタロー君、じゃあどうすれば良かったの。
どうすれば君は私に振り向いてくれたの。
「大ッッ嫌いだ…アンタなんか。最低だ。お前の顔は見たくない。ぶっ殺されたくなかったら出ていけ!」
泣きながらマジックを睨み付け、喚き散らす。
そして、枕をマジックの顔面に投げ付けた。
ぼすん!と音がする。
避けられただろうにマジックはそれをしなかった。
甘受をあえてして、泣きそうな顔でシンタローを見る。
「出ていけ!出て行けよ!!」
大泣きをして、布団を被るが、マジックはそこからどこうとはしなかった。
辺りはシーンと再び静まりかえり、シンタローの鳴咽だけがくぐもりながらも聞こえた。
「ごめん…なさい。」
布団ごしにマジックの温かい体温と、謝りの言葉が降ってきた。
鳴咽の音がする部屋の中、マジックは力を強めて布団ごしに抱きしめる。
「ごめん、ごめんね、シンタロー君。」
すると、モゾモゾとシンタローが動き、顔を出した。腫れ上がった瞼に、充血した瞳。
必死に堪えた事が伺える切れた唇の端っこ。
シンタローが顔を出してくれた事に安堵の笑みを初めは漏らしていたマジックだったが、シンタローの顔を見て愕然とした。
こんな顔にしたのは、他ならない自分で。
シンタローは俯きながらも体をマジックに向ける。
よれた上着には先程の情事の跡が色濃く残り、頬には涙の跡が伺えた。
「――ッッ」
マジックは何と言葉をかけていいのか解らない。
会った時とは全く異なる覇気のない顔。
そうさせた卑劣漢は自分。
シンタローは何も言わないマジックを置いて、フラフラとバスルームに向かう。
立ち上がった瞬間マジックの目の前に飛び込んだシンタローの痛々しい下半身。
マジックは唇をキュッと強く結んだ。
ガラス張りの浴槽の前の脱衣所で、布の擦れる音が聞こえ、しばらく経ち、ガラガラとドアを開ける音が聞こえる。
シンタローがバスルームに入ったのだと、ガラス張りのバスルームに顔を向けると、ジャ、と、ブランドが閉まり、シャワーの音が聞こえた。
「ふ、う、グズッ…」
シャワーの音と共に聞こえるシンタローの鳴咽。
どうにかしなければ。
シンタローの悲しい顔は見たくない。
まさかこんな事になるなんて。
許して貰えなくてもいいから、ちゃんと誠意を見せよう。
そんな考えをする新たな自分にマジックはハッとした。
そんな事今まで考えた事すらなかった。
一方のシンタローは、ゴシゴシと体を擦っている。
洗うものがスポンジしかないのだけれど、それでも赤くなるまで。
綺麗にしなきゃ。
親父以外の男に触られた所全部。
汚くなってしまった所全部。
涙は止めようもなくて、ぼたぼた落ちる大粒の涙とシャワーの小雨の中、シンタローは必死で洗う。
洗った所で本当の綺麗には戻れないのに、それでも何かしないと狂ってしまいそうで。
ガラガラ、ドアの開く音がして、シンタローはバッ!とそちらを見た。
マジックが裸体でペタペタとこちらへ歩いてくる。
逃げようと思ったが体が言う事をきかない。
どうしよう。
そう考えてた瞬間、マジックに抱きしめられた。
この温かさは知っている。
子供の頃から優しかったあの温かさと同じだ。
「うわぁあああ!!」
タガが外れたように、シンタローは泣き始めた。
バスルームの中、子供のように大声をあげて。
マジックにしがみつき涙を流す。
それをマジックは優しく受け止め、シンタローの頭をさすった。
しばらく泣きわめき、すっきりしたのか、シンタローはバツが悪そうに顔を伏せていた。
「シンタロー君、君には好きな人が居るんだね。」
ぽつり、マジックが呟いた。
抱きしめられている形だったので、顔を見る事は出来なかったが、その声色は先程までとは打って変わって、酷く弱々しいものだった。
「そうだ。」
シンタローが肯定の言葉を吐いたので、マジックは瞼をきつく閉じる。
自分は傷つく立場ではない。
一番傷ついているのは他でもない目の前に居るその人で。
それでも心に突き刺さるその肯定文は、マジックにはどうする事も出来ない見えない刃となって深く突き刺さる。
「俺の恋人は…未来のアンタだ。」
は、と、目を見開く。
今言われた言葉をもう一度脳内で重複させ、聞き間違いではなかったか再確認をする。
「それ、本当かい?」
「ああ。」
恐る恐る尋ねるが、シンタローは即答する。
「いつ頃から?」
「………俺についての質問はしないっていう約束だ。」
「ああ。」
そうだったね。
マジックは深い息を吐いた。
ん?でも、待って。
「じゃあ何でさっきあんなに泣いたの?!私が恋人ならいいじゃないか!!」
「ああん!?ふざけんな!!テメーじゃねーんだよ!!未来のお前なの!今じゃねーんだヨ!!」
がば、と、体を離し怒鳴り付ける。
同じ私じゃないか。
マジックは呆れ顔でシンタローを見た。
彼は随分面倒臭い性格のようだと、マジックは思う。
「ああ、そう。何だか私はどっと疲れが出たよ…。」
「はぁ!?アンタは罪悪感とかねーのか!」
「あるよ!ああ、あるね!!本気で悪いと思ったよ!!何て事をしてしまったんだとね!でも、結局私なんだろう?君の恋人は!未来だろうが今だろうが私は私!マジックだよ!!」
あ。
何だかそう言われ気付いた。
胸に絡み付くもやもやとかが一気に快晴になったそんな気持ち。
そうだよな。
未来だろうが今だろうがコイツは俺の親父。
それは変わらない。
「アンタって、本当解りやすい性格。」
まだ腫れている瞼を緩めて笑ってやれば、マジックも優しい笑顔になって。
「君だけにね。」
と、呟くのだった。
本当アンタって奴は昔からちっとも変わってなかったんだな、と、シンタローは思う。
俺が小さい時からアンタは俺を甘やかせて、愛して、可愛がって。
そして沢山の色んな愛情を俺に惜しみなく注いでくれた。
「シンタロー君。もう一度君を抱きたい。今度は無理矢理じゃなく君の恋人として。」
肌と肌の温もりが二人を包む中、マジックが真剣な面持ちで言う。
シンタローは鼻で笑い、又上から目線に切り替える。
「却下だ却下!」
「そっか、それならしょうがないね。」
眉を潜めて笑うマジックの頭をグリグリとシンタローは撫でてやる。
「俺の恋人は俺の事を君付けで呼ばねーんだヨ。」
フン、と鼻息を吐いてそっぽを向くが、顔は赤くなっている。
そんなシンタローを見て、マジックも釣られて赤くなるのだった。
言葉の意味を理解したマジックはもう一度シンタローを力強く抱きしめる。
そして、先程とは異なる優しいキスをシンタローのぷくりとした唇に落とすのだった。
シンタローも又抵抗しなく、すんなりマジックを受け入れてくれて。
嬉しさの余り口元が緩む。
「ありがとう。」
ぽつり呟かれたので、シンタローはマジックに身を任せるのだった。
「ア、アンタなぁ…」
息も絶え絶えにシンタローがマジックを睨み付ける。
マジックは困ったように笑いながら、繋がっている部分を抜こうとはしない。
「ゴメン、シンタロー。」
「もう一回っていうのは一回だけの事を言うんだよ!!」
シンタローが怒るのも無理はない。
今現在、既に3ラウンド位は確実に終わっていて。
シンタローの体にはマジックの付けた後が点々としている。
「だって、納まりそうにないんだもの。」
そう言って、又動きを再開させる。
中に出された白濁の液が、シンタローの蕾からテラテラと溢れ出してきているので、そこに空気が加わり、ぐぷぐぷと淫乱な音を出す。
「ひゃ、あ、あ!」
50代でも現役で絶倫のマジックが20代なのである。
当然と言えば当然なのだが。
「ああ!あぅ!も、俺がムリ…ッッ!!」
腰をガッチリ持たれているせいで逃げるに逃げられない。
しかも、何度もしているうちにシンタローの良い所をピンポイントで貫くのだ。
びく、びく、と痙攣を起こし、下半身はガクガク震えている。
「でも、気持ちいいでしょう?シンタロー。」
「バッ…!!し、ねッッ!!」
肩で息をするシンタローを宥めるように、マジックはシンタローの額にちゅ、ちゅ、と優しいキスを落とした。
「ひ、あ、あ、あう…」
「ふふ、可愛いネ、シンタロー。」
そう言うのは無理もなく。
シンタローの足はマジックの足を絡みつけていて。
より中のより深い所にマジックを入れさせようという無意識の行為。
「ん、んん」
「声、我慢しなくていいんだよ。」
シンタローの声が聞きたいとマジックは言うが、やっぱり恥ずかしくて。
混沌とした意識の中でもまだ羞恥心は断片的に残っているらしい。
イヤイヤするように頭を振ってはみるものの、快楽から逃れられるはずもなく。
「ふ、ひゃ、あ、あああああ!」
ぎゅ、とマジックに抱き着き何度目かの放出をする。
白濁の己の液体が腹にかかり、トロリと滑り落ちる。
体をビクビク痙攣させ、手の平を口元に持っていく。半分目を開き、溢れ出した涙をそのままに。
数回腰を打ち付けられて、一際大きくなったマジック自身から熱い液体が体の中に注入され、マジック自身を抜き出す。
「ひ、あ、つぅ…」
シンタローはマジックを受け入れた。
今度はマジックがシンタローをきつく抱きしめる。
余裕たっぷりだったマジックの眉が少し歪み、シンタローは少ししてやったりと思うのだった。
荒い息継ぎの中、流石にシンタローは頭が朦朧としはじめた。
マジックは疲れていないのだろうか。
シンタローは慣れない総帥業務での疲れがどっと押し寄せてこられて。
べとべとの体では良くないと理解しつつも、睡魔と重い瞼にあがらえなくなり、そっと瞳を閉じた。
「シンタロー、眠ってしまったのかい?」
遠くでマジックの声が聞こえる。
「おやすみ、シンタロー。早く未来の君に会いたいよ。」
柔らかい声でマジックは呟き、備え付けのバスタオルでシンタロー体を拭く。
目に着いた自分が付けた跡に思わず頬がにやけた。
体を丁寧に拭いた後、柔らかい布団をシンタローにかけてやるのだった。
マジックが目を覚ますと、隣に居たはずのシンタローの姿は何処にもなく、場所も二人で泊まったあのホテルではなく、見慣れた自宅の自室。
外を見ると、まだ暗く、夜明けすら来ていない。
「兄さん、あんな所で何をなさってたんですか?随分探しましたよ。連絡も来ないですし。」
声のする方を見ると、困り顔の弟ルーザーが自分を見ていた。
一瞬戸惑う。
シンタローは自分の夢の中の人物だったのだろうかと。
でも、体に微かに残る体温と、優しくなれた心。
凍てついた自分を溶かしてくれた、そんな気持ち。
夢でも良かったじゃないか。
シンタローに会えたのだから。
「そういえば兄さん。」
思い出したかのようにルーザーが話し掛ける。
「なんだい?」
「シンタロー君はどうなさったのですか?」
マジックは目を見開いた。
ルーザーが知っていると言う事は、夢ではない。
そう、夢でも、妄想でもなかったんだ。
「結局、彼は何者だったんですか?」
「さぁね。」
マジックは微笑む。
今までにないほど柔らかい笑顔で。
「彼については私だけの秘密だ。」
「あんだったんだ…」
目が覚めると自分は総帥室の前に座って寝ていた。
今度は昔付けた古傷などか克明に刻まれている壁。
戻ってきたのだと再確認した。
夢だったのかもしれない。
だけど妙にリアルで。
シンタローはとりあえず家に帰ろうと立ち上がる。
「シンちゃ~ん!!」
遠くからハートを振り撒いてマジックがかけてくる。
その年齢が、ちゃんと自分の父の年齢でシンタローはハッキリ理解した。
俺は戻ってきたんだ。
すぐにシンタローの側迄かけてきて、シンタローを抱きしめる。
何時もならぶっ飛ばされるのに、されるがままになっているシンタローにマジックは訝しげに思い、シンタローを確認した。
そこでマジックは目が点になる。
シンタローの胸元には見覚えのない赤い跡。
震える指を指して、マジックは引き攣り気味。
「シ、シンちゃん、何ソレ!パパ、そんなの付けた覚えないよ!!」
「あ~ん?ホントにねーの?」
「ないよ!ないない!」
シンちゃん浮気したの!?
そう聞きたくても聞けない顔をしている。
あのマジックがここまで解りやすく顔に出す事がシンタローにはとても新鮮で。シンタローは口の端を軽く上げる。
「30年位前にも、ねーか?」
「あ」
思い出したかのようにマジックの動きが止まる。
そして、柔らかい笑顔をシンタローに向けたのだった。
終わり
驚いて顔を上に向けると、満面の笑みのマジックとかちあう。
シンタローは暴れて逃げようとするが、マジックが耳元で一言。
「余り動かない方がいい。私たちは少し目立ち過ぎている、そうは思わないかい?」
そう言われ辺りを見回すと、行き交う人々が自分達を遠巻きに見ながらヒソヒソと話をしている。
シンタローはそれを見てバツの悪そうに舌打ちをした。
抵抗しなくなったシンタローに気をよくしたのか、マジックは満面の笑みでシンタローの腕を掴み走っていこうとする。
行き先はきっと自分の家。
冗談じゃねー!!
ば、と手を振り切る。
マジックが金髪を舞わせ、シンタローの方を見遣る。
「シンタロー君、どうしたの?」
ギリ、と奥歯を噛み、ジリジリ後ろに下がるシンタローを見て、マジックはシュン、と子犬のようにしょぼくれた。
「シンタロー君、初めの非礼は謝ります。」
そう言うマジックに、シンタローは、うっ!と身を少し引く。
この顔に自分は弱い。
親父のマジックにも弱いのだから、この若いマジックにはかなり弱い。
「だから私と一緒に来てくれないかな?」
「……それだけは嫌だ。」
そう言ってのけるが、マジックは諦めていないようだ。
「何故?」
「アンタの家に行きたくない。」
「どうして?そんな警戒しなくても…。貴方は同士だ。歓迎するよ。」
「だーかーら!!アンタにも、さっき居たルーザーも、アンタの双子の弟達にも会いたくねぇの!ちょっと一人で考え事したいんだよ!」
ガーッ!と頭に血が上った勢いでまくしたてる。
「あれ?」
「あんだよ!」
「私、シンタロー君に双子の弟達の話、していなかったよね?」
しまった!と、シンタローは咄嗟に思った。
何かいい言い訳はないかと頭の中はぐるぐる回る。
でも、咄嗟過ぎていい案が浮かばない。
しかも、ポーカーフェイスを決められない感情的なシンタローが顔に出さないはずもなく。
「シンタロー君、君は一体何者なんだい?」
シンタローは深い溜息をついてマジックに語り出す。
信じて貰えないと思うケド、と付け足して。
「俺は未来から来た人間だ。俺についてはソレ以上聞かないというのならアンタが知りたがっている一族の話をしてやってもいい。」
そう、ハッキリ、キッパリ言い切ると、マジックがシンタローの額に手を置く。
「俺は正常だ。」
「そんな非化学的な事…」
信じられない、と言おうと思ったが、信じなければシンタローは自分の質問に答えてはくれないだろう。
シンタローの方が今のマジックには興味があるのだが、一族についても興味が有る事は確かで。
なのでマジックは信じる事にした。
例え信じる“フリ”であろうと。
「…解ったよ、シンタロー君。君の話を信じよう。でも、立ち話も何だから何処かでお茶でもしながら…」
路地を見回せばそれなりに店は有る。
有る事は有るのだが、殆どシャッターが閉まっていて。
時間が時間なので、マジックの行きそうにないファミレス位しか開いていない。
マジックはファミレスに入るのは嫌だったので、何処かホテルのロビーでも、と思う。
「ホテルのロビーでもいいかい?」
そう聞くと、シンタローは頷く。
マジックはシンタローが逃げないようにと思い手を繋ぐ。
その瞬間手を払われた。
「ヤメロ。逃げねぇから手は繋ぎたくねぇ。」
そう言われてマジックは肩をすくませたが無理矢理手を繋ごうとはしなかった。
二人並んで歩き始める。
回りにも人は居るのだが、先程よりは少なくなっていて、結構まばらだ。
ホテルを捜す二人だが、中々見つからない。
まぁ、街中というより住宅街なので当然といえば当然なのだが。
そんな中外れの方に煌々と輝くネオン。
住宅街には不釣り合いなソレ。
マジックがそちらに歩いて行くのでシンタローもそれに従った。
到着して、シンタローは絶句する。
これって、まさか…
ネオンの看板には思いっきり“HOTEL Memory”と書いてある。
それだけならまだしも、横の壁にはご休憩とご宿泊の文字と料金。
ラ、ラブホじゃねーか…!
「此処でいいかな?ね、シンタロー君。」
のほほんと言うマジックに、シンタローは赤面しながら睨み付ける。
「ざ、ざけんな!何でテメーとこんなトコ!!」
「?ホテルはここしかないみたいだし。嫌かもしれないけど我慢して欲しいな。私もこの当たりは詳しくないんだ。まぁ、お茶を飲んで話をしたら直ぐに出れば。」
シンタローはハタ、と思う。
もしかしたらコイツ此処がどうゆう場所かってこと知らないんじゃ?
「あのなぁ…」
この場所はどうゆう所か、何をする為の場所なのかを教えようとして、シンタローは口をつぐんだ。
言えねー!つーか、恥ずかしいだろうがよ!
沈黙が流れる。
「立ち話もアレだろう?」
「ここに入る方がもっとアレだッ!」
「何でそんなに嫌がるの?狭い空間は嫌いかい?」
「そーじゃねー!」
だぁぁ!頭を掻きむしるが、どういう場所か解ってないマジックは眉を寄せて困り顔。
「もう私も歩き疲れたし、我が儘言わないでおくれよシンタロー君。」
そう言うなりシンタローの腕を掴みグイグイ引っ張る。
曲がりなにもガンマ団の若き総帥だけあって力も昔からハンパない。
シンタローはそのまま引きずられるように中に入ってしまったのだ。
扉を開けると店員の顔が見えない仕組みになっているフロアに入る。
シンタローはソワソワと辺りを見回す。
シンタローは耳年増なので、ラブホがどうゆう場所なのかは知っていても中に入るのは初めてなので、ちょっと興味がある。
マジックは顔を見せない店員にいぶかしがりながらも対応をしていた。
そして、溜息をついてシンタローの元へ。
「どうやら部屋に入らなければいけないみたいなんだ。直ぐに帰るからフロアでいいって言ったんだけど、どうやら駄目のようだ。すまないね、シンタロー。」
そう言って部屋の写真が光っている所迄歩いていく。
「何だかこのホテルはおかしい。店員も顔を見せないし、鍵もここから取るように言われたよ。あ、シンタロー君、光ってる部屋なら何処でもいいんだって。何処がいい?」
そう言って指を指すマジックに、シンタローは溜息をついた。
「何処でもいい。」
もー、どうにでもなれとヤケクソ気味。
それに、今のマジックに危険はない。
話をしたらさっさと出ればいいだけだ。
マジックは一言そう、と呟いて、白っぽい部屋を選ぶとシンタローを連れてエレベーターに乗った。
鍵を開けて部屋に入ると目の前には真っ白のダブルベッド、そして、テレビに電話に…………硝子張りの浴槽。
「おかしな部屋だね。」
「あーもー!………そうね。」
あー!俺はとうとうマジックとこーんな所に!クッ!何でだ!もう!
「じゃあ、紅茶かコーヒーでも注文するかい?」
マジックが見せたのはメニュー表。
腹もなんだか減っているし、もう、どうでもいい気持ちのが強かったので、シンタローは頷き、あと、ピザも。とマジックに注文した。
マジックが電話でフロントに話をつける。
その間シンタローは暇だったので、何気なくテレビをつけた。
『あ、あ、あん、』
二人は目が点にならざる得なくなったのだった。
もう一度言うがシンタローは耳年増なだけで来た事がないのだ。
つまり、テレビをつけたらいきなり濡れ場シーンが放送されているなんて、全く予期していなかったのだ。
シンタローとマジックの中では時が止まっていたが、テレビの女性は激しい喘ぎを繰り返し、男性は女性を喜ばせる為に頑張っている。
な、な、な!何をやっちまったんだ!俺わあぁあぁ!!
バカバカ!!俺の馬鹿!!
顔が赤くなるのが解り、慌ててシンタローはリモコンでテレビの電源を切る。
プツリ、という音と共に、目の前で繰り広げられた濡れ場シーンも消える。
気まずい空気が二人を包み込む。
「シンタロー、君。」
いきなり声をかけられたので、シンタローは文字通り飛び上がった。
心臓がバクバクしているのは、呼ばれたからだけじゃなく、先程見てしまったテレビのせい。
「そんなに驚かなくても…」
困ったように笑うマジックに、シンタローはちょっと悪い事をしたな、と思う。
「あ、あんだよ。」
ぶっきらぼうに口を尖らせて言う。
「話し、聞かせてくれないかな、君の事は約束通り聞かないから。」
そう言われハッとする。
そうだ、そもそも此処に来ざる得なかったのはそれのせい。
話しをさっさと終わりにして、此処から出よう。
それなら善は急げだ。
「ああ。解った。話すヨ。」
シンタローはベッドに、マジックはソファーにそれぞれ腰を落とし、シンタローが話し始めるのをマジックは黙って待つ。
「まず、今から話す事は他言無用だ。例え兄弟であっても話すな。」
「解った。」
マジックは肯定の意味を込め深く頷いた。
「で、何が知りたいの。」
「君の居る未来まで、一族が反映してるか、どうか。」
「ああ。してるよ。アンタは子供を二人授かるし、さっき居たルーザーさんも一人授かる。双子のアンタの弟達は、俺の知る限りじゃ子供は居ないけどナ。」
マジックは下を向き、何やら考える。
そしてシンタローを見つめ、思い切ったように言う。
それはとても重く。
「私は世界を手に入れているかい?」
真剣なアイスブルーの瞳とかちあった。
シンタローはその瞳を真っ向から見つめ、首を横に振った。
「そうか、」
マジックは俯き、自分の重ねていた指先に視線を向ける。
「けど、俺はそれで良かったと思う。アンタは世界より、もっと素晴らしいものを手に入れるから。」
世界より素晴らしいもの。
それは家族。
「世界より素晴らしいものなんて…なに?」
心底解らないという顔でシンタローを見る。
「それはアンタが未来のアンタになれば解る事だ。」
そう言ってマジックの青い瞳を見つめる。
マジックは一言、そう、とだけ呟いた。
「それともう一つ。」
「何だ。」
「私の息子は両目とも秘石眼かい?」
シンタローはドキリとした。
マジックの息子はグンマとコタロー。
自分は違う。
だからシンタローはマジックの息子の話の時、自分を含めなかった。
ずっと、24年間自分はマジックの息子だと信じていたし、秘石眼すら持たない一族のハンパ者の自分が、一族で1番優れているマジックの息子で有りたいが為、必死で頑張ってきた。
でも違う。
今はキンタローの体になっている元の体すらマジックの息子の物ではなかった。
自分は一族の人間であって一族の人間ではない。
「ああ。一人は両目共秘石眼だ。」
そう呟くと、マジックはどっち付かずの顔をした。
一族の繁栄を喜ぶのか、驚異を生み出した恐れか。
「君は…」
誰の子なの、と聞こうとしたのだが、直ぐに「俺の事は聞かない約束だ。」と言われてしまう。
「ミステリアスだね、シンタロー君。そんな人も」
嫌いじゃないよ。
そう、言ってソファーから身を乗り出し、ベッドに座っていたシンタローを押し倒した。
ぼすり、と柔らかいベッドにシンタローは沈む。
「あ、あにすんだ!」
「フフ、シンタロー君、君の事は聞かないって言ったけど、手を出さないとは約束していないよ。」
羽交い締めにして身動きが取れないようにし、シンタローを押さえ付ける。
さぞや驚くだろうと思っていたが、シンタローは冷静そのものでマジックを見ていた。
「アンタ、さぁ。こういう行為に意味持たないの?俺らさっき会ったばっかなんだぜ?」
「恋に時間が要るの?ね、シンタロー君。長く恋をしようが今この瞬間恋に落ちようが、人間やることはそんなに変わらないんだよ。」
その言葉を聞いてシンタローは目を伏せた。
マジックはシンタローが諦めたと思い、シンタローの唇にキスを落とそうとしたその時。
ぱしん。
渇いた音が響く。
頬が熱い。
少したってから自分がシンタローに頬を叩かれたのだと気付いた。
シンタローは冷たい目で自分を見る。
心がツキリと痛んだ。
「この俺様を安く見るんじゃねーよ。」
やっぱり彼は面白いとマジックは思う。
自分の周りに居る奴らは自分に媚びを売るか恐れおののくかで。
マジックにとってシンタローは新鮮そのもの。
その俺様気質は天性のものなのか。
心は痛んだのなんて、父親が死んだ時以来。
マジックは口の端を軽く上げた。
「早くどけ。」
冷たい目を止めないでシンタローがマジックを見据える。
マジックはそっとシンタローの顔を両手で覆い、顔を近づける。
もう少しでキスが出来るんじゃないかと思う位。
「嫌だ。私はとても君が興味深い。こんな事思ったことがない。でも、悪い気分じゃないんだ。多分、これが恋というものじゃないかと思うんだが。」
「ケッ!」
シンタローは顎をしゃくる。
マジックに羽交い締めにされ、下の位置にいるにも関わらずシンタローはマジックに上から目線。
「なーにが恋だ。馬鹿じゃねーの。今のアンタはただ新しい俺という玩具を見付けて喜んでるだけだろ。アンタの戯れ事に付き合ってられっか!」
ぐ、と、力を入れてマジックを突き放そうとしたが意味を持たなかった。
マジックはまだ20代前後なのに力は馬鹿みたいに強くて。
シンタローには中々太刀打ちができない。
流石のシンタローも、少し怯えた。
その空気をマジックが読めないはずもなく。
「何?シンタロー君、怖いの?私が。」
「ッッ!んなわけねーだろ!バーカバーカ!バカマジック!」
「そんな口、聞けなくしてあげるよ。」
ニコリと冷たい三日月みたいな目で笑う。
シンタローの体に鳥肌が立った。
「ッッや、やだッッ…!」
今シンタローはマジックにベッドに縫われている。
マジックの骨張った冷たい指先がシンタローの肌をまさぐる。
そのたびに敏感なシンタローの体は心とは裏腹にビクビクと震える。
「シンタロー君。まだ触ってないのに、随分元気になってるね。」
そう言ってシンタローの中心部を布ごしに撫でる。
ピク、と反応する下半身をシンタローは恨めしく思う。
それに気を良くしたのか、マジックは薄い笑みを浮かべてそこを何度も触る。
「ゃ…ふぅん…」
熱い吐息が無意識のうちに口から吐かれる。
「否定しかできないのかな?君のココはとっても喜んでいるのにね。」
シンタローは恥ずかしさと情けなさで顔を伏せた。
だってしょうがねーじゃねーか。
未来のアンタと俺はそうゆう関係なんだから。
シンタローは暴れて逃げようとするが、マジックが耳元で一言。
「余り動かない方がいい。私たちは少し目立ち過ぎている、そうは思わないかい?」
そう言われ辺りを見回すと、行き交う人々が自分達を遠巻きに見ながらヒソヒソと話をしている。
シンタローはそれを見てバツの悪そうに舌打ちをした。
抵抗しなくなったシンタローに気をよくしたのか、マジックは満面の笑みでシンタローの腕を掴み走っていこうとする。
行き先はきっと自分の家。
冗談じゃねー!!
ば、と手を振り切る。
マジックが金髪を舞わせ、シンタローの方を見遣る。
「シンタロー君、どうしたの?」
ギリ、と奥歯を噛み、ジリジリ後ろに下がるシンタローを見て、マジックはシュン、と子犬のようにしょぼくれた。
「シンタロー君、初めの非礼は謝ります。」
そう言うマジックに、シンタローは、うっ!と身を少し引く。
この顔に自分は弱い。
親父のマジックにも弱いのだから、この若いマジックにはかなり弱い。
「だから私と一緒に来てくれないかな?」
「……それだけは嫌だ。」
そう言ってのけるが、マジックは諦めていないようだ。
「何故?」
「アンタの家に行きたくない。」
「どうして?そんな警戒しなくても…。貴方は同士だ。歓迎するよ。」
「だーかーら!!アンタにも、さっき居たルーザーも、アンタの双子の弟達にも会いたくねぇの!ちょっと一人で考え事したいんだよ!」
ガーッ!と頭に血が上った勢いでまくしたてる。
「あれ?」
「あんだよ!」
「私、シンタロー君に双子の弟達の話、していなかったよね?」
しまった!と、シンタローは咄嗟に思った。
何かいい言い訳はないかと頭の中はぐるぐる回る。
でも、咄嗟過ぎていい案が浮かばない。
しかも、ポーカーフェイスを決められない感情的なシンタローが顔に出さないはずもなく。
「シンタロー君、君は一体何者なんだい?」
シンタローは深い溜息をついてマジックに語り出す。
信じて貰えないと思うケド、と付け足して。
「俺は未来から来た人間だ。俺についてはソレ以上聞かないというのならアンタが知りたがっている一族の話をしてやってもいい。」
そう、ハッキリ、キッパリ言い切ると、マジックがシンタローの額に手を置く。
「俺は正常だ。」
「そんな非化学的な事…」
信じられない、と言おうと思ったが、信じなければシンタローは自分の質問に答えてはくれないだろう。
シンタローの方が今のマジックには興味があるのだが、一族についても興味が有る事は確かで。
なのでマジックは信じる事にした。
例え信じる“フリ”であろうと。
「…解ったよ、シンタロー君。君の話を信じよう。でも、立ち話も何だから何処かでお茶でもしながら…」
路地を見回せばそれなりに店は有る。
有る事は有るのだが、殆どシャッターが閉まっていて。
時間が時間なので、マジックの行きそうにないファミレス位しか開いていない。
マジックはファミレスに入るのは嫌だったので、何処かホテルのロビーでも、と思う。
「ホテルのロビーでもいいかい?」
そう聞くと、シンタローは頷く。
マジックはシンタローが逃げないようにと思い手を繋ぐ。
その瞬間手を払われた。
「ヤメロ。逃げねぇから手は繋ぎたくねぇ。」
そう言われてマジックは肩をすくませたが無理矢理手を繋ごうとはしなかった。
二人並んで歩き始める。
回りにも人は居るのだが、先程よりは少なくなっていて、結構まばらだ。
ホテルを捜す二人だが、中々見つからない。
まぁ、街中というより住宅街なので当然といえば当然なのだが。
そんな中外れの方に煌々と輝くネオン。
住宅街には不釣り合いなソレ。
マジックがそちらに歩いて行くのでシンタローもそれに従った。
到着して、シンタローは絶句する。
これって、まさか…
ネオンの看板には思いっきり“HOTEL Memory”と書いてある。
それだけならまだしも、横の壁にはご休憩とご宿泊の文字と料金。
ラ、ラブホじゃねーか…!
「此処でいいかな?ね、シンタロー君。」
のほほんと言うマジックに、シンタローは赤面しながら睨み付ける。
「ざ、ざけんな!何でテメーとこんなトコ!!」
「?ホテルはここしかないみたいだし。嫌かもしれないけど我慢して欲しいな。私もこの当たりは詳しくないんだ。まぁ、お茶を飲んで話をしたら直ぐに出れば。」
シンタローはハタ、と思う。
もしかしたらコイツ此処がどうゆう場所かってこと知らないんじゃ?
「あのなぁ…」
この場所はどうゆう所か、何をする為の場所なのかを教えようとして、シンタローは口をつぐんだ。
言えねー!つーか、恥ずかしいだろうがよ!
沈黙が流れる。
「立ち話もアレだろう?」
「ここに入る方がもっとアレだッ!」
「何でそんなに嫌がるの?狭い空間は嫌いかい?」
「そーじゃねー!」
だぁぁ!頭を掻きむしるが、どういう場所か解ってないマジックは眉を寄せて困り顔。
「もう私も歩き疲れたし、我が儘言わないでおくれよシンタロー君。」
そう言うなりシンタローの腕を掴みグイグイ引っ張る。
曲がりなにもガンマ団の若き総帥だけあって力も昔からハンパない。
シンタローはそのまま引きずられるように中に入ってしまったのだ。
扉を開けると店員の顔が見えない仕組みになっているフロアに入る。
シンタローはソワソワと辺りを見回す。
シンタローは耳年増なので、ラブホがどうゆう場所なのかは知っていても中に入るのは初めてなので、ちょっと興味がある。
マジックは顔を見せない店員にいぶかしがりながらも対応をしていた。
そして、溜息をついてシンタローの元へ。
「どうやら部屋に入らなければいけないみたいなんだ。直ぐに帰るからフロアでいいって言ったんだけど、どうやら駄目のようだ。すまないね、シンタロー。」
そう言って部屋の写真が光っている所迄歩いていく。
「何だかこのホテルはおかしい。店員も顔を見せないし、鍵もここから取るように言われたよ。あ、シンタロー君、光ってる部屋なら何処でもいいんだって。何処がいい?」
そう言って指を指すマジックに、シンタローは溜息をついた。
「何処でもいい。」
もー、どうにでもなれとヤケクソ気味。
それに、今のマジックに危険はない。
話をしたらさっさと出ればいいだけだ。
マジックは一言そう、と呟いて、白っぽい部屋を選ぶとシンタローを連れてエレベーターに乗った。
鍵を開けて部屋に入ると目の前には真っ白のダブルベッド、そして、テレビに電話に…………硝子張りの浴槽。
「おかしな部屋だね。」
「あーもー!………そうね。」
あー!俺はとうとうマジックとこーんな所に!クッ!何でだ!もう!
「じゃあ、紅茶かコーヒーでも注文するかい?」
マジックが見せたのはメニュー表。
腹もなんだか減っているし、もう、どうでもいい気持ちのが強かったので、シンタローは頷き、あと、ピザも。とマジックに注文した。
マジックが電話でフロントに話をつける。
その間シンタローは暇だったので、何気なくテレビをつけた。
『あ、あ、あん、』
二人は目が点にならざる得なくなったのだった。
もう一度言うがシンタローは耳年増なだけで来た事がないのだ。
つまり、テレビをつけたらいきなり濡れ場シーンが放送されているなんて、全く予期していなかったのだ。
シンタローとマジックの中では時が止まっていたが、テレビの女性は激しい喘ぎを繰り返し、男性は女性を喜ばせる為に頑張っている。
な、な、な!何をやっちまったんだ!俺わあぁあぁ!!
バカバカ!!俺の馬鹿!!
顔が赤くなるのが解り、慌ててシンタローはリモコンでテレビの電源を切る。
プツリ、という音と共に、目の前で繰り広げられた濡れ場シーンも消える。
気まずい空気が二人を包み込む。
「シンタロー、君。」
いきなり声をかけられたので、シンタローは文字通り飛び上がった。
心臓がバクバクしているのは、呼ばれたからだけじゃなく、先程見てしまったテレビのせい。
「そんなに驚かなくても…」
困ったように笑うマジックに、シンタローはちょっと悪い事をしたな、と思う。
「あ、あんだよ。」
ぶっきらぼうに口を尖らせて言う。
「話し、聞かせてくれないかな、君の事は約束通り聞かないから。」
そう言われハッとする。
そうだ、そもそも此処に来ざる得なかったのはそれのせい。
話しをさっさと終わりにして、此処から出よう。
それなら善は急げだ。
「ああ。解った。話すヨ。」
シンタローはベッドに、マジックはソファーにそれぞれ腰を落とし、シンタローが話し始めるのをマジックは黙って待つ。
「まず、今から話す事は他言無用だ。例え兄弟であっても話すな。」
「解った。」
マジックは肯定の意味を込め深く頷いた。
「で、何が知りたいの。」
「君の居る未来まで、一族が反映してるか、どうか。」
「ああ。してるよ。アンタは子供を二人授かるし、さっき居たルーザーさんも一人授かる。双子のアンタの弟達は、俺の知る限りじゃ子供は居ないけどナ。」
マジックは下を向き、何やら考える。
そしてシンタローを見つめ、思い切ったように言う。
それはとても重く。
「私は世界を手に入れているかい?」
真剣なアイスブルーの瞳とかちあった。
シンタローはその瞳を真っ向から見つめ、首を横に振った。
「そうか、」
マジックは俯き、自分の重ねていた指先に視線を向ける。
「けど、俺はそれで良かったと思う。アンタは世界より、もっと素晴らしいものを手に入れるから。」
世界より素晴らしいもの。
それは家族。
「世界より素晴らしいものなんて…なに?」
心底解らないという顔でシンタローを見る。
「それはアンタが未来のアンタになれば解る事だ。」
そう言ってマジックの青い瞳を見つめる。
マジックは一言、そう、とだけ呟いた。
「それともう一つ。」
「何だ。」
「私の息子は両目とも秘石眼かい?」
シンタローはドキリとした。
マジックの息子はグンマとコタロー。
自分は違う。
だからシンタローはマジックの息子の話の時、自分を含めなかった。
ずっと、24年間自分はマジックの息子だと信じていたし、秘石眼すら持たない一族のハンパ者の自分が、一族で1番優れているマジックの息子で有りたいが為、必死で頑張ってきた。
でも違う。
今はキンタローの体になっている元の体すらマジックの息子の物ではなかった。
自分は一族の人間であって一族の人間ではない。
「ああ。一人は両目共秘石眼だ。」
そう呟くと、マジックはどっち付かずの顔をした。
一族の繁栄を喜ぶのか、驚異を生み出した恐れか。
「君は…」
誰の子なの、と聞こうとしたのだが、直ぐに「俺の事は聞かない約束だ。」と言われてしまう。
「ミステリアスだね、シンタロー君。そんな人も」
嫌いじゃないよ。
そう、言ってソファーから身を乗り出し、ベッドに座っていたシンタローを押し倒した。
ぼすり、と柔らかいベッドにシンタローは沈む。
「あ、あにすんだ!」
「フフ、シンタロー君、君の事は聞かないって言ったけど、手を出さないとは約束していないよ。」
羽交い締めにして身動きが取れないようにし、シンタローを押さえ付ける。
さぞや驚くだろうと思っていたが、シンタローは冷静そのものでマジックを見ていた。
「アンタ、さぁ。こういう行為に意味持たないの?俺らさっき会ったばっかなんだぜ?」
「恋に時間が要るの?ね、シンタロー君。長く恋をしようが今この瞬間恋に落ちようが、人間やることはそんなに変わらないんだよ。」
その言葉を聞いてシンタローは目を伏せた。
マジックはシンタローが諦めたと思い、シンタローの唇にキスを落とそうとしたその時。
ぱしん。
渇いた音が響く。
頬が熱い。
少したってから自分がシンタローに頬を叩かれたのだと気付いた。
シンタローは冷たい目で自分を見る。
心がツキリと痛んだ。
「この俺様を安く見るんじゃねーよ。」
やっぱり彼は面白いとマジックは思う。
自分の周りに居る奴らは自分に媚びを売るか恐れおののくかで。
マジックにとってシンタローは新鮮そのもの。
その俺様気質は天性のものなのか。
心は痛んだのなんて、父親が死んだ時以来。
マジックは口の端を軽く上げた。
「早くどけ。」
冷たい目を止めないでシンタローがマジックを見据える。
マジックはそっとシンタローの顔を両手で覆い、顔を近づける。
もう少しでキスが出来るんじゃないかと思う位。
「嫌だ。私はとても君が興味深い。こんな事思ったことがない。でも、悪い気分じゃないんだ。多分、これが恋というものじゃないかと思うんだが。」
「ケッ!」
シンタローは顎をしゃくる。
マジックに羽交い締めにされ、下の位置にいるにも関わらずシンタローはマジックに上から目線。
「なーにが恋だ。馬鹿じゃねーの。今のアンタはただ新しい俺という玩具を見付けて喜んでるだけだろ。アンタの戯れ事に付き合ってられっか!」
ぐ、と、力を入れてマジックを突き放そうとしたが意味を持たなかった。
マジックはまだ20代前後なのに力は馬鹿みたいに強くて。
シンタローには中々太刀打ちができない。
流石のシンタローも、少し怯えた。
その空気をマジックが読めないはずもなく。
「何?シンタロー君、怖いの?私が。」
「ッッ!んなわけねーだろ!バーカバーカ!バカマジック!」
「そんな口、聞けなくしてあげるよ。」
ニコリと冷たい三日月みたいな目で笑う。
シンタローの体に鳥肌が立った。
「ッッや、やだッッ…!」
今シンタローはマジックにベッドに縫われている。
マジックの骨張った冷たい指先がシンタローの肌をまさぐる。
そのたびに敏感なシンタローの体は心とは裏腹にビクビクと震える。
「シンタロー君。まだ触ってないのに、随分元気になってるね。」
そう言ってシンタローの中心部を布ごしに撫でる。
ピク、と反応する下半身をシンタローは恨めしく思う。
それに気を良くしたのか、マジックは薄い笑みを浮かべてそこを何度も触る。
「ゃ…ふぅん…」
熱い吐息が無意識のうちに口から吐かれる。
「否定しかできないのかな?君のココはとっても喜んでいるのにね。」
シンタローは恥ずかしさと情けなさで顔を伏せた。
だってしょうがねーじゃねーか。
未来のアンタと俺はそうゆう関係なんだから。
タイムトラベルという言葉をご存知だろうか。
タイムトラベルとは、よくSF映画に出たり出なかったりする、まぁ、日本語に訳すと、時間旅行。
ただし、多くの場合、時間は指定出来ず、時間の間に吹っ飛ばされる。
今のシンタローもまさにそれで。
今、総帥室を出たはずなのに。
ガンマ団の基地というところは変わってはいないのだが、辺りが何ていうか、微妙に変わっている。
子供の頃、つけた傷や、父と口論になり、眼魔砲をぶっ放し、修復したあの後もない。
妙だ。
辺りを見回しても誰も居る気配がない。
「なんなんだぁ~?」
愕然としていると、カツカツと、靴の音が聞こえた。聞き覚えのある、上に立つ軍人の歩き方。
なんだ、おかしいと思ったのは俺の気のせいか。
その足音に安堵したのもつかの間。
足音の主を見てシンタローは又愕然とせざる得なかった。
そこにいたのは自分の思っていた人物ではなく、金髪の美青年。
「何物だ。何故総帥服を着ている?」
口を開いたのはその人ではなく、隣に居たキンタローに瓜二つの人物。
不審者あつかいされ、シンタローは少し…イヤ、かなり頭にきた。
俺が総帥だ、文句あっか!と叫びたかったが、何故何故どうして叫べない。
だって、そうだろう。
シンタローは二つの仮説を立てる。
①未来に来てしまったパターン。
ここに居る総帥服を着た奴は、実はグンマかコタローの息子で、隣に居る奴はキンタローの息子である。
②過去に来てしまったパターン。
総帥服を着た青年は、父マジックであり、隣に居る奴はルーザーである。
既にタイムトラベルだと信じて疑わない時点で、結構大物だ。
シンタローは思う。
①で頼む!!そうすりゃ自分自身に会って話をすれば全て万々歳なんだ!
そーすりゃ疑惑の眼差しも無くなるってもんだろ!
「あ、俺は、その」
しどろもどろで固まっていると、キンタロー似の少年が何食わぬ顔で淡々と
「殺しますか?マジック兄さん」
と告げた。
②かよ!!
シンタローはその場にがっくりうなだれたのである。まぁ、こんなふざけた事が出来るのも、自分が青の一族の人間だと証拠着けさせるものを持っているから。
そして、二人掛かりならまだしも、一対一なら勝てはしないが相打ちにはできるだろうという思いから。
「待ちなさい、ルーザー。」
そこでマジックが静止の声を出した。
「どうしてその服を着ているんだい?君は…誰なのかな。」
口調は柔らかだが、視線は厳しく、現役総帥の威圧感がいやがおうでもシンタローを襲う。
ビク、と体が強張った。
それは仕方がない事。
シンタローにデレデレのマジックが、自分にこんなに冷たくする事なんて、なかった。
コタローが幽閉され、反抗した時も、自分が赤の一族だと思われた時も、確かに冷たくされたり、酷い事を言われたりした。
でも、こんな他人行儀は初めてで。
なんだよ。
マジックが自分を息子と認識してないと解っていても、悲しくなる。
言い難い苛々と、悲しみに襲われる。
「なんでそんな顔をするのかな?もしかして何処かでお会いした?申し訳ないが、私は覚えていないんだ。名前は何て言うの?」
相当顔が歪んでいたようだ。
名前、なんて。
アンタがつけたんじゃねーか。
ちくしょう。
ギッと、唇を噛み締め一つ呼吸を置いた後、口を開く。
「シンタロー。」
時が止まったようにシンタローには思えた。
一拍あった後、マジックが、口を開く。
「シンタロー君っていうんだね。ああ、でも、やっぱり名前を聞いてもピンと来ないんだ。君は何の用でその服を着てここまで来たのかな?私と君じゃ、外見が掛け離れている。そうは思わなかったのかい?」
どうやらマジックはシンタローが自分に成り切って何かをしようとした工作員だと思っているようで。
でも、シンタローにとってそんな事はたいした事じゃなかった。
外見が掛け離れている。
その言葉に頭からプールいっぱいの水を被されたかのような感覚に陥る。
頭がガンガンする。
自覚なんて勿論していて、だからこそ激しいコンプレックスをずっと抱いていて。
でも、アンタがそんな俺がいいって言うから。そんなの関係ないって言うから。
なのに。
やっぱり心の中、本心では違うと思ってたんだな。
悲しくなって鼻の頭がツンとする。
「兄さん。」
隣に居たルーザーがマジックに耳打ちをする。
内容はシンタローの処分。
マジックはそれでもいいかとは思ったが、この黒髪の青年を何だかとても気になって。
頭を横に降る。
ただの気まぐれ。
そして、自分に処分を任せて欲しいとルーザーに耳打ちをする。
ルーザーは潔く解りましたとだけ告げたのだった。
「シンタロー君、君の処分は私が決める。ついてきなさい。」
聞いた事のない冷たい声。
そして、背を向け歩き始める。
俺なんかが何か攻撃しても怖くねぇって事かよ!
自分を受け入れたわけでは決してないという事は、マジックの出すオーラでわかる。
後ろに目がついているみたいに、明らかにこちらを警戒していて。
ルーザーが、早くしろと言わんばかりの怒りとも取れる瞳でシンタローを見る。
その瞳の奥が妖しく煌めくのは、シンタローが少しでもおかしな行動を取れば秘石眼を発動させようとしているのだろう。
だが、シンタローの性格上、「着いてきなさい」と言われ、ハイ、解りました!と言える性格では決してなく。
シンタローは段々苛々してきた。
なーんでこの俺様が親父ごときにへーこらしなきゃなんねぇんだヨ!
ムカつく!!
だいたいよぉ、俺だって、好き好んでこの時間、この場所に居るわけじゃねぇんだ!
勝手に!そーだよ、勝手に何かが俺をここに飛ばしたんじゃねーか。
美青年だからってチョーシこいてんじゃねーぞ!
見てろよ!クソ親父ッッ!!
シンタローは右手をマジックに向けた。
武器は何も持っていない状態なので、ルーザーも、片眉をピクリと動かす位で特に動かない。
シンタローは溜め無しで、叫ぶ。
「眼魔砲ッッ!!」
右手から青い閃光が飛び出し、マジック目掛けて一直線に飛んでゆく。!
「なに!?」
ルーザーが叫ぶが間に合わない。
これはマジックの後頭部にクリーンヒット!と思いきや、マジックは紙一重で眼魔砲を交わす。
「チッ!!」
シンタローは思わず舌打ちをした。
すぐにルーザーが自分を押さえつけに来るかと思いきや、動かない。
マジックもその場に立ち尽くし、幽霊でも見たかのような驚きの眼差しでシンタローを見る。
「その技は一族のものしか使えないはず。どうして一族じゃない君が使えるんだい?」
彼等にとっては余りに驚く事態だったのだろう。
先程の余裕しゃくしゃくマジックが、少し、ほんの少しだが、温かさを持った声で話し掛ける。
ここで俺はお前の息子だと言えばいいのだが、シンタローは先程の出来事でかなり腹を立てていたので何も核心に触れず、一言。
「テメーにゃ何もカンケーねぇだろ。オラ、来いよ。俺様に命令するなんて後約30年早えぇんだヨ!」
構えて戦闘体制に入る。
すると、マジックがツカツカとこちらに寄ってきて、シンタローの間合いの一歩手前でピタリと止まった。
そして、上から下まで舐めるような視線。
シンタローの額が怒りでピクピク動いた。
何だこの、人を値踏みするみてぇにみやがって!
シンタローが自分から間合いに入ろうと動こうとした瞬間。
「実に興味深いね、君は。」
ニコリと屈託のない笑顔をされ、シンタローはやる気を削がれる形となった。
「黒髪黒眼の青の一族は居なかったと思っていたが、どうやら私の思い込みだったようだ。一族同士の争いは絶対してはいけない事。」
マジックはそこで一旦言葉を止める。
シンタローへ、もっと近付くと、長い黒髪をマジックは持ち上げ、あらわになった耳元に自分の唇を近づけた。
そして、シンタローにしか聞こえない程の大きさで耳打ちをする。
殺す前に気がついて良かったよ。
その言葉を聞いた瞬間、シンタローは背筋が凍るのを感じた。
そんな事を本人に言うなんて、神経がおかしい。
「良かったら一緒に夕食でも。」
悪びれもなく、そう言ってのけるマジック。
嫌だ。
そう思ったものの、彼の鋭いオーラのせいで、シンタローは大人しく首を前に倒すより他なかった。
あれほどまでに自分を処分しようとしていたルーザーも、シンタローが一族の証明ともいうべき眼魔砲を打ってから態度が違う。
同じ同士というように、シンタローを見る。
気まずさと、圧力の中、シンタローはマジックとルーザーに連れられ、ガンマ団基地を後にしたのだった。
「ねぇ、シンタロー君。君は何処から来たの?私達の他にも一族の血を受け継ぐ人は君以外にもいるの?」
先程の事があり、シンタローが大人しくついて来たあたりから、マジックは年相応の顔に戻り、根掘り葉掘り聞いてくる。
自分達以外にも青の一族はいるのかという興味なのか、それとも殺意なのかは解らないが、それでも目を輝かせて聞くもんだからシンタローも答えてやる。
何分美少年には弱いのだ。
彼の場合は美青年なのだが。
「ああ、居るよ。」
「沢山?」
「沢山って程じゃねーけど。」
「ねぇ、どれ位?名前教えてよ!」
「ああ―――。」
ここでシンタローはマジックにアンタが俺の父親なんだ、と言おうとしたが止めた。
もし言ったら、コイツの弟、ルーザーの死も話さなければならなくなるだろう。
自分の弟、ましてや本人を前にしては気が引ける。
「弟のコタロー、兄のグンマ、従兄弟のキンタロー、で、俺の4人だ。」
「君のお父さんは?」
ドキリとした。
アンタだアンタ!!
そう思うが、父親であって父親でないマジックにそんな事は言えない。
しかもその話しをすれば、あの、ややこしい事件の話もしなければならない。
なので、つい、とっさに
「親父は産まれた時から会った事がない。顔も名前も知らない」
と、嘘をついてしまった。
元来シンタローは嘘が下手である。
ちなみに父マジックを騙せた事はただの一度としてなく。
しかし、今のマジックなら…自分より少し年下であろうと思うこのマジックならば!!と、思いついてみた。
案の定マジックは「そうなんだ。」と、やけにあっさり言い放ち、さっさと違う話題に話を反らす。
シンタローはホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、他の人も君と同じ黒い髪の黒い瞳なのかい?」
その台詞に、先程言われた“外見が掛け離れている”と、言われた事を思い出し、シンタローは又嫌な心拍数が上がる。
カラカラに渇いた喉から、ようやく搾り出した声は「いや…」だけで。
マジックはそれがシンタローにとって自分達ではない青の一族で自分だけが異質な事を気にしているからシンタローが暗くなったとちょっとズレた事を考えた。
まぁ、事情を知らないマジックなのだから仕方のない事なのだが。
「髪の色が異なっていても、目の色が違うものでも、私とシンタロー君は青の一族だ。同士に他ならないんだよ。」
そう言うマジックにシンタローは複雑な顔をした。
マジックの悪意のない握手も、何もかもが気に入らない。
早く元の世界に戻りたい。
「もっと君と話がしたい。」
「や、やっぱ俺…帰る。」
帰る。と口に出したものの何処に帰ればいいのか。
自分の家はガンマ団基地内。しかも次元の違う。
「そんな、ね、もう少しだけ。シンタロー君は私に会いに来てくれたんじゃないのかい?そんな格好までして私に会いに来てくれたんじゃ?違うのかい?」
違うわい!俺は只単にいつもどーり総帥業務を全うして、家に帰ろうと部屋から出ただけだ!勝手になんか知らんがここに飛ばされたんだよッッ!!
黙っていると、調度赤信号らしく、乗っていた車が止まった。
今しかチャンスはないと思い、シンタローはドアを開けて脱走してみせたのだった。
「シンタロー君ッッ!!」
マジックも慌てて車から降りようとするが、
「兄さんッッ!!」
後ろからルーザーが叫んだので、マジックは一瞬留まった。
振り向くとルーザーが神妙な面持ちでこちらを見ていた。
何も言わずマジックが又シンタローの元へと走り出そうとしたとき。
「やっぱり、少しおかしいですよ、兄さん。あの、シンタローという男は。確かに彼は一族でしか撃てない眼魔砲を撃ちました。しかし、青の一族に黒髪は産まれません。黒髪は…」
「ルーザー、その話は後にしよう。直ぐシンタロー君を連れて戻ってくるから、先に弟達の元へ行ってくれ。」
それだけ言うとマジックはシンタローの元へと走り出した。
ルーザーは小さくなる兄の後ろ姿を見つめる。
「黒髪は敵の色だと私に教えたのは兄さんなのに。」
ルーザーの呟きは風と共に消え、ルーザーは運転手に車を出すよう指示を出した。
「ま、待って!シンタロー君!!」
既に遥か彼方にいるシンタローに、マジックは金髪をたなびかせ追い掛ける。
知りたい、もっと知りたい。
マジックにとって、こんな事は初めてだった。
人にこんなに執着したのも、全速力で走っているのに追い付かない人も。
益々興味がそそられる。
既にマジックの興味は一族より、シンタローで。
父親が死んでから、マジックは人の上に立っている。
そのせいか、自分の思い通りにならない事がなくなっていた。
例え思い通りにならなくても、力で捩伏せて。
でも、シンタロー君にはそんな事したくない。
何故かそう思う。
興味があるのだ。彼の事なら何でも知りたいという興味。
「チッ!しつけーな!昔から!」
シンタローは後ろから走ってくるマジックに悪態をついた。
一人にさせてくれ。
頼むから!
俺だって混乱してるんだ。
アンタは俺の痛い所ばっか突きやがる。
アンタの質問に、答えたくねぇ。
シンタローがもう一度後ろを振り向くと、マジックの姿が見当たらない。
ホッとして、速度を緩め歩く。
出てきたものの、シンタローは無一文。
しかも、目立つ真っ赤なスーツ。
たまたま羽織っていたコートが黒で良かったと、シンタローはコートを来て、赤い服が見えないようにした。
「どーすっかな。」
プラプラ歩いて、入り組んだ路地を曲がる。
どっか寝る場所と食い物は確保しねーと。
ブツブツ言いながら路地を下向いて歩いていたので、何かとぶつかった。
バランスを崩し、「悪い」と、言うと、何故か抱きしめられた。
びっくりして上を見上げると、そこにはマジックの姿が。
「つかまえた。」
タイムトラベルとは、よくSF映画に出たり出なかったりする、まぁ、日本語に訳すと、時間旅行。
ただし、多くの場合、時間は指定出来ず、時間の間に吹っ飛ばされる。
今のシンタローもまさにそれで。
今、総帥室を出たはずなのに。
ガンマ団の基地というところは変わってはいないのだが、辺りが何ていうか、微妙に変わっている。
子供の頃、つけた傷や、父と口論になり、眼魔砲をぶっ放し、修復したあの後もない。
妙だ。
辺りを見回しても誰も居る気配がない。
「なんなんだぁ~?」
愕然としていると、カツカツと、靴の音が聞こえた。聞き覚えのある、上に立つ軍人の歩き方。
なんだ、おかしいと思ったのは俺の気のせいか。
その足音に安堵したのもつかの間。
足音の主を見てシンタローは又愕然とせざる得なかった。
そこにいたのは自分の思っていた人物ではなく、金髪の美青年。
「何物だ。何故総帥服を着ている?」
口を開いたのはその人ではなく、隣に居たキンタローに瓜二つの人物。
不審者あつかいされ、シンタローは少し…イヤ、かなり頭にきた。
俺が総帥だ、文句あっか!と叫びたかったが、何故何故どうして叫べない。
だって、そうだろう。
シンタローは二つの仮説を立てる。
①未来に来てしまったパターン。
ここに居る総帥服を着た奴は、実はグンマかコタローの息子で、隣に居る奴はキンタローの息子である。
②過去に来てしまったパターン。
総帥服を着た青年は、父マジックであり、隣に居る奴はルーザーである。
既にタイムトラベルだと信じて疑わない時点で、結構大物だ。
シンタローは思う。
①で頼む!!そうすりゃ自分自身に会って話をすれば全て万々歳なんだ!
そーすりゃ疑惑の眼差しも無くなるってもんだろ!
「あ、俺は、その」
しどろもどろで固まっていると、キンタロー似の少年が何食わぬ顔で淡々と
「殺しますか?マジック兄さん」
と告げた。
②かよ!!
シンタローはその場にがっくりうなだれたのである。まぁ、こんなふざけた事が出来るのも、自分が青の一族の人間だと証拠着けさせるものを持っているから。
そして、二人掛かりならまだしも、一対一なら勝てはしないが相打ちにはできるだろうという思いから。
「待ちなさい、ルーザー。」
そこでマジックが静止の声を出した。
「どうしてその服を着ているんだい?君は…誰なのかな。」
口調は柔らかだが、視線は厳しく、現役総帥の威圧感がいやがおうでもシンタローを襲う。
ビク、と体が強張った。
それは仕方がない事。
シンタローにデレデレのマジックが、自分にこんなに冷たくする事なんて、なかった。
コタローが幽閉され、反抗した時も、自分が赤の一族だと思われた時も、確かに冷たくされたり、酷い事を言われたりした。
でも、こんな他人行儀は初めてで。
なんだよ。
マジックが自分を息子と認識してないと解っていても、悲しくなる。
言い難い苛々と、悲しみに襲われる。
「なんでそんな顔をするのかな?もしかして何処かでお会いした?申し訳ないが、私は覚えていないんだ。名前は何て言うの?」
相当顔が歪んでいたようだ。
名前、なんて。
アンタがつけたんじゃねーか。
ちくしょう。
ギッと、唇を噛み締め一つ呼吸を置いた後、口を開く。
「シンタロー。」
時が止まったようにシンタローには思えた。
一拍あった後、マジックが、口を開く。
「シンタロー君っていうんだね。ああ、でも、やっぱり名前を聞いてもピンと来ないんだ。君は何の用でその服を着てここまで来たのかな?私と君じゃ、外見が掛け離れている。そうは思わなかったのかい?」
どうやらマジックはシンタローが自分に成り切って何かをしようとした工作員だと思っているようで。
でも、シンタローにとってそんな事はたいした事じゃなかった。
外見が掛け離れている。
その言葉に頭からプールいっぱいの水を被されたかのような感覚に陥る。
頭がガンガンする。
自覚なんて勿論していて、だからこそ激しいコンプレックスをずっと抱いていて。
でも、アンタがそんな俺がいいって言うから。そんなの関係ないって言うから。
なのに。
やっぱり心の中、本心では違うと思ってたんだな。
悲しくなって鼻の頭がツンとする。
「兄さん。」
隣に居たルーザーがマジックに耳打ちをする。
内容はシンタローの処分。
マジックはそれでもいいかとは思ったが、この黒髪の青年を何だかとても気になって。
頭を横に降る。
ただの気まぐれ。
そして、自分に処分を任せて欲しいとルーザーに耳打ちをする。
ルーザーは潔く解りましたとだけ告げたのだった。
「シンタロー君、君の処分は私が決める。ついてきなさい。」
聞いた事のない冷たい声。
そして、背を向け歩き始める。
俺なんかが何か攻撃しても怖くねぇって事かよ!
自分を受け入れたわけでは決してないという事は、マジックの出すオーラでわかる。
後ろに目がついているみたいに、明らかにこちらを警戒していて。
ルーザーが、早くしろと言わんばかりの怒りとも取れる瞳でシンタローを見る。
その瞳の奥が妖しく煌めくのは、シンタローが少しでもおかしな行動を取れば秘石眼を発動させようとしているのだろう。
だが、シンタローの性格上、「着いてきなさい」と言われ、ハイ、解りました!と言える性格では決してなく。
シンタローは段々苛々してきた。
なーんでこの俺様が親父ごときにへーこらしなきゃなんねぇんだヨ!
ムカつく!!
だいたいよぉ、俺だって、好き好んでこの時間、この場所に居るわけじゃねぇんだ!
勝手に!そーだよ、勝手に何かが俺をここに飛ばしたんじゃねーか。
美青年だからってチョーシこいてんじゃねーぞ!
見てろよ!クソ親父ッッ!!
シンタローは右手をマジックに向けた。
武器は何も持っていない状態なので、ルーザーも、片眉をピクリと動かす位で特に動かない。
シンタローは溜め無しで、叫ぶ。
「眼魔砲ッッ!!」
右手から青い閃光が飛び出し、マジック目掛けて一直線に飛んでゆく。!
「なに!?」
ルーザーが叫ぶが間に合わない。
これはマジックの後頭部にクリーンヒット!と思いきや、マジックは紙一重で眼魔砲を交わす。
「チッ!!」
シンタローは思わず舌打ちをした。
すぐにルーザーが自分を押さえつけに来るかと思いきや、動かない。
マジックもその場に立ち尽くし、幽霊でも見たかのような驚きの眼差しでシンタローを見る。
「その技は一族のものしか使えないはず。どうして一族じゃない君が使えるんだい?」
彼等にとっては余りに驚く事態だったのだろう。
先程の余裕しゃくしゃくマジックが、少し、ほんの少しだが、温かさを持った声で話し掛ける。
ここで俺はお前の息子だと言えばいいのだが、シンタローは先程の出来事でかなり腹を立てていたので何も核心に触れず、一言。
「テメーにゃ何もカンケーねぇだろ。オラ、来いよ。俺様に命令するなんて後約30年早えぇんだヨ!」
構えて戦闘体制に入る。
すると、マジックがツカツカとこちらに寄ってきて、シンタローの間合いの一歩手前でピタリと止まった。
そして、上から下まで舐めるような視線。
シンタローの額が怒りでピクピク動いた。
何だこの、人を値踏みするみてぇにみやがって!
シンタローが自分から間合いに入ろうと動こうとした瞬間。
「実に興味深いね、君は。」
ニコリと屈託のない笑顔をされ、シンタローはやる気を削がれる形となった。
「黒髪黒眼の青の一族は居なかったと思っていたが、どうやら私の思い込みだったようだ。一族同士の争いは絶対してはいけない事。」
マジックはそこで一旦言葉を止める。
シンタローへ、もっと近付くと、長い黒髪をマジックは持ち上げ、あらわになった耳元に自分の唇を近づけた。
そして、シンタローにしか聞こえない程の大きさで耳打ちをする。
殺す前に気がついて良かったよ。
その言葉を聞いた瞬間、シンタローは背筋が凍るのを感じた。
そんな事を本人に言うなんて、神経がおかしい。
「良かったら一緒に夕食でも。」
悪びれもなく、そう言ってのけるマジック。
嫌だ。
そう思ったものの、彼の鋭いオーラのせいで、シンタローは大人しく首を前に倒すより他なかった。
あれほどまでに自分を処分しようとしていたルーザーも、シンタローが一族の証明ともいうべき眼魔砲を打ってから態度が違う。
同じ同士というように、シンタローを見る。
気まずさと、圧力の中、シンタローはマジックとルーザーに連れられ、ガンマ団基地を後にしたのだった。
「ねぇ、シンタロー君。君は何処から来たの?私達の他にも一族の血を受け継ぐ人は君以外にもいるの?」
先程の事があり、シンタローが大人しくついて来たあたりから、マジックは年相応の顔に戻り、根掘り葉掘り聞いてくる。
自分達以外にも青の一族はいるのかという興味なのか、それとも殺意なのかは解らないが、それでも目を輝かせて聞くもんだからシンタローも答えてやる。
何分美少年には弱いのだ。
彼の場合は美青年なのだが。
「ああ、居るよ。」
「沢山?」
「沢山って程じゃねーけど。」
「ねぇ、どれ位?名前教えてよ!」
「ああ―――。」
ここでシンタローはマジックにアンタが俺の父親なんだ、と言おうとしたが止めた。
もし言ったら、コイツの弟、ルーザーの死も話さなければならなくなるだろう。
自分の弟、ましてや本人を前にしては気が引ける。
「弟のコタロー、兄のグンマ、従兄弟のキンタロー、で、俺の4人だ。」
「君のお父さんは?」
ドキリとした。
アンタだアンタ!!
そう思うが、父親であって父親でないマジックにそんな事は言えない。
しかもその話しをすれば、あの、ややこしい事件の話もしなければならない。
なので、つい、とっさに
「親父は産まれた時から会った事がない。顔も名前も知らない」
と、嘘をついてしまった。
元来シンタローは嘘が下手である。
ちなみに父マジックを騙せた事はただの一度としてなく。
しかし、今のマジックなら…自分より少し年下であろうと思うこのマジックならば!!と、思いついてみた。
案の定マジックは「そうなんだ。」と、やけにあっさり言い放ち、さっさと違う話題に話を反らす。
シンタローはホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、他の人も君と同じ黒い髪の黒い瞳なのかい?」
その台詞に、先程言われた“外見が掛け離れている”と、言われた事を思い出し、シンタローは又嫌な心拍数が上がる。
カラカラに渇いた喉から、ようやく搾り出した声は「いや…」だけで。
マジックはそれがシンタローにとって自分達ではない青の一族で自分だけが異質な事を気にしているからシンタローが暗くなったとちょっとズレた事を考えた。
まぁ、事情を知らないマジックなのだから仕方のない事なのだが。
「髪の色が異なっていても、目の色が違うものでも、私とシンタロー君は青の一族だ。同士に他ならないんだよ。」
そう言うマジックにシンタローは複雑な顔をした。
マジックの悪意のない握手も、何もかもが気に入らない。
早く元の世界に戻りたい。
「もっと君と話がしたい。」
「や、やっぱ俺…帰る。」
帰る。と口に出したものの何処に帰ればいいのか。
自分の家はガンマ団基地内。しかも次元の違う。
「そんな、ね、もう少しだけ。シンタロー君は私に会いに来てくれたんじゃないのかい?そんな格好までして私に会いに来てくれたんじゃ?違うのかい?」
違うわい!俺は只単にいつもどーり総帥業務を全うして、家に帰ろうと部屋から出ただけだ!勝手になんか知らんがここに飛ばされたんだよッッ!!
黙っていると、調度赤信号らしく、乗っていた車が止まった。
今しかチャンスはないと思い、シンタローはドアを開けて脱走してみせたのだった。
「シンタロー君ッッ!!」
マジックも慌てて車から降りようとするが、
「兄さんッッ!!」
後ろからルーザーが叫んだので、マジックは一瞬留まった。
振り向くとルーザーが神妙な面持ちでこちらを見ていた。
何も言わずマジックが又シンタローの元へと走り出そうとしたとき。
「やっぱり、少しおかしいですよ、兄さん。あの、シンタローという男は。確かに彼は一族でしか撃てない眼魔砲を撃ちました。しかし、青の一族に黒髪は産まれません。黒髪は…」
「ルーザー、その話は後にしよう。直ぐシンタロー君を連れて戻ってくるから、先に弟達の元へ行ってくれ。」
それだけ言うとマジックはシンタローの元へと走り出した。
ルーザーは小さくなる兄の後ろ姿を見つめる。
「黒髪は敵の色だと私に教えたのは兄さんなのに。」
ルーザーの呟きは風と共に消え、ルーザーは運転手に車を出すよう指示を出した。
「ま、待って!シンタロー君!!」
既に遥か彼方にいるシンタローに、マジックは金髪をたなびかせ追い掛ける。
知りたい、もっと知りたい。
マジックにとって、こんな事は初めてだった。
人にこんなに執着したのも、全速力で走っているのに追い付かない人も。
益々興味がそそられる。
既にマジックの興味は一族より、シンタローで。
父親が死んでから、マジックは人の上に立っている。
そのせいか、自分の思い通りにならない事がなくなっていた。
例え思い通りにならなくても、力で捩伏せて。
でも、シンタロー君にはそんな事したくない。
何故かそう思う。
興味があるのだ。彼の事なら何でも知りたいという興味。
「チッ!しつけーな!昔から!」
シンタローは後ろから走ってくるマジックに悪態をついた。
一人にさせてくれ。
頼むから!
俺だって混乱してるんだ。
アンタは俺の痛い所ばっか突きやがる。
アンタの質問に、答えたくねぇ。
シンタローがもう一度後ろを振り向くと、マジックの姿が見当たらない。
ホッとして、速度を緩め歩く。
出てきたものの、シンタローは無一文。
しかも、目立つ真っ赤なスーツ。
たまたま羽織っていたコートが黒で良かったと、シンタローはコートを来て、赤い服が見えないようにした。
「どーすっかな。」
プラプラ歩いて、入り組んだ路地を曲がる。
どっか寝る場所と食い物は確保しねーと。
ブツブツ言いながら路地を下向いて歩いていたので、何かとぶつかった。
バランスを崩し、「悪い」と、言うと、何故か抱きしめられた。
びっくりして上を見上げると、そこにはマジックの姿が。
「つかまえた。」
パプワ島に来て、一体どれほどの月日がたったのだろうか。
何度も太陽を見て、何度も星を見た。
そんなある日。
奴が再び姿を表したのづある。
「やぁ、シンちゃん元気?パパはお前が帰って来たら元気になるんだけどなー!」
ガンマ団総帥、マジックその人である。
ニコニコ笑い、手なんて振って、無遠慮にパプワハウスへ入ってくる。
「おーきゃくさん!おーきゃくさん!」
「わーうわう!わーうわう!」
パプワとチャッピーが扇子両手にマジックの回りをクルクル回る。
マジックは、ハッハッハ!と笑い、パプワとチャッピーの頭を撫でようとした。
その時。
「触ンな!!」
ストップのポーズでシンタローが止める。
しかも、かなり大声だ。
いぶかしげにマジックがシンタローを見ると、シンタローはかなり不機嫌な様子でマジックを睨みつける。
「手!洗え!!パプワとチャッピーに病気が移るかもしんねーだろーが!!」
マジックが己の手を見てから、シンタローをもう一度見ると、シンタローの指先はある一点を指している。
その指されている方へ視線を移すと、そこには水瓶が。
マジックがそれに気を取られている隙に、シンタローはパプワとチャッピーを抱き抱えた。
「ダメだぞ!二人共。アイツ何の病気持ってるかわかんねーんだから!」
「シンちゃん、ソレ、パパに対してものすごーく失礼じゃない?」
行き場のない手をそのままに、マジックは固まりながらもツッコム。
パプワは、んばっ!と言わんばかりに扇子をポンッと広げた。
「マジック!」
シンタローが二人を連れて家に入る前に、抱き抱えられていたパプワがシンタローの頭ごしに話しかける。「何だい?」
笑顔でパプワに答えると、
「変なオッサンに声かけちゃダメでしょ!」
まったく、と、ため息をついて家に入る。
「手を洗ったらボクの家に来い!」
「パプワ!!」
メッ!と、叱るシンタロー。
シンちゃん、パパの事どー思ってるの?
私の勘違いかもしれないけれど、私だけ外してないかい?
マジックはとりあえずシンタローの言う通り水瓶の水で手を洗う。
水を杓で掬い、パシャパシャと少し温い水で綺麗にし、ポケットに常時入っている白いレースのハンケチーフで手を拭いた。
そして、ノックをし、中に入る。
「マジック!そろそろ昼飯だ!食べて行くんだろ?」
昼飯!?
台所を見ると、シンタローが慣れた手つきで調理している。
タタタタン、タタタタンと軽快なリズム。
いいなぁ、パプワくん。毎日シンちゃんのご飯食べれて…。
私なんて、シンちゃんの手料理数える位しか食べた事ないよ。
「パプワ!何で!!」
くる、と振り向いてシンタローがパプワに講義するが、パプワはシンタローに有無を言わせぬ口調で言い切る。
「ケチケチするな!」
あー…そんな事、そんな風に言ったらシンちゃん絶対怒るよ。
「チッ!はーいはいはい!わかりましたよー!」
!!?
アレ?私の聞き間違いかな?
そうは思うがシンタローが怒るそぶりはない。
黙々と料理にとりかかっている。
何この熟年夫婦の空気!
認めない!私は断じて認めないよッッ!!
お前のフィアンセはこの私だろう!?
まさか浮気!?こんなちっちゃい子と?
でも、シンタローのショタコン好きを考えると、否定もできない。
そんな事を考えていると、料理が出来上がったようで。
ご飯にお味噌汁に焼き魚と漬物。
パプワにはたーんと大盛。そして、自分、チャッピー、マジックには普通盛り。
「ほーらチャッピー、ちゃんと手を合わせて。」
何これ!?
チャッピー君は息子か何かのポジショニング!?
マジックの脳内では、
パプワ→夫
シンタロー→妻
チャッピー→息子
となっていた。
み、認めたくなぁい!!
呆然とそのやりとりを見ていると、シンタローと目が合った。
しかし、直ぐに反らされる。
そして、シンタローはガツガツとご飯を食べ始めたのだった。
「シンタロー!おかわり。」
「わーうわう!」
「はーい、はいはい。」
完全に出そびれた感じのマジック。
シンタローはこの中に完全に溶け込んでいて。
マジックはパプワを心底羨ましいと思った。
シンタローのこんな顔が見れたのは久しぶりかもしれない。
コタローを私が閉じ込めてしまう前の顔。
「シンタロー!行ってくる!」
「わぅーん!わんわん!」
「はいはい。あんまり遅くなるんじゃねーぞ!」
解った!と、遠くからパプワの声が聞こえた。
口元を緩めて二人を見送った後、シンタローは気付いてしまう。
もしかしなくても、俺、マジックと二人きりじゃねぇか…。
一度気がつくともう止まらない。
取り敢えず洗い物済ませたら帰って貰おう。
シンタローが台所に立つと、先程迄大人しかったマジックが隣に立つ。
ふ、と、マジックを見ると、困ったような笑みをこぼしていた。
「私も手伝うよ。」
そう言って洗い物を始める。
いいよ、帰れヨ。とか、邪魔だから座ってろ。とか、シンタローの口から出なかったのは懐かしさのせい。
昔はこうやって父のようになりたくて料理を教えてもらったんだっけ。
シンタローはマジックが嫌いではない。
嫌いになれないからこそ苦しいのだ。
弟のコタローを幽閉したことは許せない事で。
そして、その理由をはぐらかすマジック自身も又シンタローは許す事が出来ないのだ。
「シンタロー。」
真顔で自分を見つめるから。
咄嗟にそちらを見てしまう。
「あんだよ。」
目を直ぐに伏せてぶっきらぼうに答えると、マジックは濡れた手のままシンタローの肩を掴む。
ビクリ、と、反射的に体が強張った。
「お前はパプワ君とどうゆう関係なんだい?」
は?
意味の解らない質問に思わず脱力する。
「お前の恋人はパパだよね!?パプワ君とは肉体関係は持ってないよね!?」
「ハ?恋人?パプワとにくた…あ、あったりまえじゃぁぁあ!!なーにトチ狂った質問しやがるんだテメーという奴は!!」
真っ赤になって全否定すると、マジックはホッと胸を撫で下ろす。
とんでもねぇ親父だな!ったく!
マジックに対して無視を決め込み、シンタローはガチャガチャと食器を洗う。
「もー寝る準備するからさっさと帰れ!」
せっかく人がセンチに浸ってたのに、この馬鹿親父のせいでぜーんぶ台なし!
シッシ!と動物を追いやるように片手ですると、マジックが抱き着いてきた。
そして、シンタローの唇にキスをする。
「ンーッ!!ン、ンンッッ!!」
いきなりの事で抵抗のでかないまま床に捩伏せられる。
「よかった☆パパ以外とはドッキングしなかったんだね!」
「テメッ!!」
腕で唇をゴシゴシ拭く、
「シンちゃん、だーいすき!」
そして、今度は舌を入れてくる。
余りに久しぶりな性的快感に、シンタローは思わず身震いした。
今、コイツは俺に欲情している。
そう思うだけで、シンタローの下半身はズクリと疼く。
でも、まだ片手で掴んでいる理性はあって。
許してはいけない、コタローの事も、心も、体も、と、ぐるぐる螺旋のように頭の中で回っていて。
「や、やめ…ンムッッ、ヤメロ…ッッ」
否定の言葉を吐く自分の声色のあまりの弱々しさにゾッとした。
俺の心とか、意思って、そんなに弱いものなのか?
こんなキス一つで許してしまう程?
そんな事はない。あってはならない事だ。
「やめろよ!!」
グイ、と、マジックを渾身の力で押し返す。
「どうしたの?シンちゃん。」
「どーしたもこーしたもあるかっ!俺は!俺はッッ!!」
ほてらされた体が熱い。
中心がじゅくじゅくしてるのがわかる。
パプワが帰ってくるまでにこの熱を押さえなければ。
嫌われてしまうかもしれない。
そう想像すると死ぬ程怖かった。
俺はパプワに会えて本当に良かったと思ってる。
ガラじゃねーけど、友達になれて本当に嬉しい。
アイツは俺を裏切らないし、俺だってアイツを裏切らない。
初めて会えた心を許せる友に、こんな醜態はさらせない。
「やっぱり、ね。」
マジックの顔付きが冷たいものへと変わっていった。
「ヤ、やめろ!ふざけんな!」
秘石眼の力でシンタローはもう一度床に捩伏せられた。
重力が重くのしかかってくるような感覚に、シンタローは顔を歪める。
マジックは自分の上着を脱ぎ捨てて、シンタローの腕を縛り、ズボンを無理矢理脱がし、足をM字に開かせる。
そして、熱の納まりかけたソコに舌を這わせたのだった。
「ン!ヤ、やめろ…って!!」
久しぶりなのにいきなりそんな所を舐められて、シンタローは頭をイヤイヤと振った。
離して欲しいのに、マジックは舌でねっとりと舐め上げる。
先端をチロチロ舐め、裏をつつ…と舌先で舐める度、シンタローはビクビクと感じなければならなかった。
「ふざけんな…ッッ!この、変態ッッ!!」
今自分に自由がきくのは口だけなので。
思いっきり罵声を浴びせる。
すると、ふ、と秘石眼の力が無くなる。
やめてくれたとホッとしたのだが、シンタローはマジックの顔を見て顔を引き攣らせた。
マジックの目がとても冷たくて。
蔑むようにシンタローを見ている。
「私にそんな口の聞き方をするなんてね…。悪いコはどうなるか、身を持って知りなさい。」
すると、マジックは、まだ慣らしていないソコに、指を思いきり突っ込んだ。
「ひぅぅあ!!いっ!!いたァッッ!!」
濡れていないので滑り難いソコ。
無理矢理なので、ギチギチと指を締め付けるのがシンタローにもわかった。
気持ち良くなんて全然ない、痛みだけの行為。
痛さのあまり涙が出る。
「おやおや、シンタロー。お前の性器はだらしないね。」
すっかり萎えてしまったソコを、ピン!と、指で弾く。
「ッッ!!」
涙で視界がぼやける中、シンタローはマジックを見た。
彼の表情は相変わらず固いもので。
恐怖すら覚える。
助けて欲しくて、止めて欲しくて。
「パ…プワ…ッッ!!」
思わず今出掛けている親友の名前を呼んだ。
すると、マジックの目が一瞬見開き、その骨ばった大きな手で、シンタローの口を塞いだ。
苦しくて華で息をする。
「私とシている時に他の男の名前をお前は呼ぶんだね。」
何を言っているのだろうか。
何故怒っているのか。
シンタローには解らなかった。
ただ、父の抱く腕が、手順が、優しさが、全て異なる。
それが怖くて、悲しかった。
マジックが、指の動きを早める。
勝手知ったシンタローの体の1番良い所を指でグチグチと掻き回せば、シンタローの中心は熱をおび、ビクビクと天を仰ぐ。
「いやらしいコだ。」
指からはシンタローの愛液が垂れ流される。
だが、まだ十分ではないソコにマジックは己の高ぶりを捩込む。
「ひゃあぁああぁあ!!」
大きくのけ反り、声を張り裂ける。
喉仏がコクリと上下に動いた。
マジックが数回揺さぶると、シンタローは快感に堪えられなくなり、甲高い声を出して精を吐き出した。
久しぶりの行為に体が痙攣し、ビクビク震える。
マジックはそれを見て、不覚にも欲情してしまった。
が、しかし、顔には一切出さず、無表情のまま、激しく付き動かした。
「や、もぉ…やめ、てぇ…」
弱々しくマジックに縋り付く。
しかしマジックは動きを緩める事などしない。してなんか、やらない。
汗で髪が額や頬に張り付き、長い黒髪を見出してマジックに助けを求めても、マジックは知らない顔。
「淫乱。そうやってパプワ君も誘惑したのかい?いやらしく腰を振って、発情期の雌猫のように!」
そう言って最奥をガンガン付かれる。
そして、混入したまま、シンタローを後ろに向かせ、腰をガッチリ掴み、動きを再開させる。
「あ、あ、あんっ、あ、パ、パプワとっ…そんなことしてなっ…ンンッッ!!」
「どうだか。お前は男を煽るのは一人前だからね。」
振ってくる言葉は冷たいもので。
俺に欲情する馬鹿はテメー位のもんだと思う。
「ほん、と!ホントだってばぁ!あ、あぅ、」
「さぁ。口ではなんとでも言えるよシンタロー。お前は酷く淫乱だからね。男の癖にさっきもホラ。」
ピン!と、又性器を弾く。「ああ…ん!」
「ココ、じゃなくて、今私が出し入れしている所だけでイった。本当にだらしの無い子だ。」
「ホントにしてなッッ…んん!」
信じて、と、涙で霞んだ瞳でマジックを見る。
すると、マジックの動きが少し緩んだ。
「じゃあ、何で私を拒んだ。何故彼の名前を呼んだ?」
ピンポイントから少しズレた所をつかれながら、シンタローはままならぬ呼吸をしながらたどたどしく答える。
コタローを幽閉したマジックと体を繋げたくなかった事。
親友のパプワにこんな姿を見られたら嫌われてしまうかもしれない事。
「………。」
「………。」
「………パパの勘違い?」
「………そう。」
「………パプワ君とはそうゆう関係じゃないの?」
「………当たり前だろ。それにアイツにゃ、クリ子ちゃんっていうフィアンセもいるんだヨ。何度も言わせんナ。」
「……………………。」
「……………………。」
「…………。」
「…………。」
「……。」
「…。」
「シ、シシシシシンちゃん!ごめんなさいっっ!」
理解出来たのか、長い沈黙の後、凄く必死にシンタローに謝るマジック。
そりゃそうだろう。
ただでさえ嫌われてる(と思っている)シンタローに、勝手にお門違いに腹を立てて、好き放題ヤリまくってしまったのだから。
そんなマジックに、シンタローはかなりご立腹なようで。
「早く抜けヨ!!」
潤んだ瞳を腕でゴシゴシ擦る。
直ぐに抜くかと思ったが、流石マジックというところか。
抜きゃしない。
しまいにゃ、
「ね、パパね、まだイってないんだよ、だからね、シンちゃん、後ちょっと我慢して?」
「ハァ!?ふざけンンン~~ッッ!!」
抗議の声はマジックの唇に吸い込まれてしまったのだった。
そして、律動開始。
ガクガクと体を揺らされ、横向きにされて方足を持ち上げられ、目茶苦茶動かれる。
「やだやだ!!や、や、やぁああ!あん、あ、あ、」
「シンちゃん、スゴーイ!キュウキュウ締め付けられるよ!」
「ば!いき、できなっ!死ぬ!死ぬってば!」
なのに、マジックはラストスパートと言わんばかりに動きを早める。
「パパ、お前と腹上死が夢。走り続けろ!ラララ天国列車!!」
「テメーだけ乗りやがれ!!」
「あ、パパ、なんかイキそう。」
「逝ってろ!!ん、あ!」
いきなり前を擦られて、シンタローはなまめかしい声を上げた。
ちゅく、ちゅく、と先端から溢れる愛液。
舌先で乳首をコリコリと嘗めまわし、ちゅ、と音を立てて強く吸うと、シンタローは体を海老剃りにして、自分の腹の上に精を吐き出した。
マジックは二、三度腰を動かすと、荒い息をしているシンタローの口に無理矢理自信を捩込ませ、精を吐き出した。
当然シンタローが飲むなんて事が出来るはずもなく、全て唇から流れ落ち、シンタローはむせた。
「ゲホ、ゲホ、テ、テメー!!」
殴ろうとしたが、アレアレおかしい。
力が入らない。
寧ろ…座れないし、立てない。
「シンちゃん、もしかして足腰立たなくなっちゃった?!かわいー!かわいー!」
身動きの取れないシンタローをいいことに、マジックはシンタローに凄いスリスリしまくった。
今まで出来なかった鬱憤をはらすべく、スリスリスリスリ。
「テメ!ンな事してる場合じゃねーだろーが!パプワとチャッピーが帰ってくるんだぞ!もし、この事がバレたら…俺は生きて行けない!生きて行けないッッ!!」
バレたらって…。
シンタローの体はお互いの体液でベトベトだし、部屋はイカ臭い臭いで充満している。
「親父…1分以内でどうにかしろ。そうじゃねぇと、俺は金輪際体をアンタと繋げないし、イヤ、寧ろ別れる。」
どんよりと目を光らせるシンタローに本気だと理解したマジックは、一目散に綺麗に仕上げ、来た時よりも美しく!のキャッチコピーを本気でやってのけたのだった。
綺麗になった部屋で、マジックは雑巾をにぎりしめ、腕で汗を拭いた。
基本的に家事が好きなので、何だか清々しい顔をしている。
そんな時、見計らったかのようにパプワとチャッピーが帰って来て、
「きれーきれー!」
「わうーわうー!」
と、扇子片手にぴょいこらびょん!と踊っている。
シンタローとマジックが内心ホッとしていると、踊っていたパプワが何かに気がついたように、シンタローを指差した。
「シンタロー!凄い虫刺されだぞー!」
「は?むしさ…」
ま・さ・か!!
タンクトップを持ち上げると、マジックが付けたキスマークが。
「親父ィ…ちょっくら表出て久しぶりに親子の会話しようや…」
「シシシシシンちゃん!その手!眼魔砲撃つ気でしょ?殺意あるでしょ!?」
「ウッセー!さっさとこの島から出ていけ!眼魔砲ッッ!!」
ドゥッ!と撃つと、マジックはお星様になりましたとさ。
そんなシンタローを見て、パプワとチャッピーは扇子を両手に翳す。
「んばっ!」
今日も一日パプワ島は平和なのでした。
終わり
何度も太陽を見て、何度も星を見た。
そんなある日。
奴が再び姿を表したのづある。
「やぁ、シンちゃん元気?パパはお前が帰って来たら元気になるんだけどなー!」
ガンマ団総帥、マジックその人である。
ニコニコ笑い、手なんて振って、無遠慮にパプワハウスへ入ってくる。
「おーきゃくさん!おーきゃくさん!」
「わーうわう!わーうわう!」
パプワとチャッピーが扇子両手にマジックの回りをクルクル回る。
マジックは、ハッハッハ!と笑い、パプワとチャッピーの頭を撫でようとした。
その時。
「触ンな!!」
ストップのポーズでシンタローが止める。
しかも、かなり大声だ。
いぶかしげにマジックがシンタローを見ると、シンタローはかなり不機嫌な様子でマジックを睨みつける。
「手!洗え!!パプワとチャッピーに病気が移るかもしんねーだろーが!!」
マジックが己の手を見てから、シンタローをもう一度見ると、シンタローの指先はある一点を指している。
その指されている方へ視線を移すと、そこには水瓶が。
マジックがそれに気を取られている隙に、シンタローはパプワとチャッピーを抱き抱えた。
「ダメだぞ!二人共。アイツ何の病気持ってるかわかんねーんだから!」
「シンちゃん、ソレ、パパに対してものすごーく失礼じゃない?」
行き場のない手をそのままに、マジックは固まりながらもツッコム。
パプワは、んばっ!と言わんばかりに扇子をポンッと広げた。
「マジック!」
シンタローが二人を連れて家に入る前に、抱き抱えられていたパプワがシンタローの頭ごしに話しかける。「何だい?」
笑顔でパプワに答えると、
「変なオッサンに声かけちゃダメでしょ!」
まったく、と、ため息をついて家に入る。
「手を洗ったらボクの家に来い!」
「パプワ!!」
メッ!と、叱るシンタロー。
シンちゃん、パパの事どー思ってるの?
私の勘違いかもしれないけれど、私だけ外してないかい?
マジックはとりあえずシンタローの言う通り水瓶の水で手を洗う。
水を杓で掬い、パシャパシャと少し温い水で綺麗にし、ポケットに常時入っている白いレースのハンケチーフで手を拭いた。
そして、ノックをし、中に入る。
「マジック!そろそろ昼飯だ!食べて行くんだろ?」
昼飯!?
台所を見ると、シンタローが慣れた手つきで調理している。
タタタタン、タタタタンと軽快なリズム。
いいなぁ、パプワくん。毎日シンちゃんのご飯食べれて…。
私なんて、シンちゃんの手料理数える位しか食べた事ないよ。
「パプワ!何で!!」
くる、と振り向いてシンタローがパプワに講義するが、パプワはシンタローに有無を言わせぬ口調で言い切る。
「ケチケチするな!」
あー…そんな事、そんな風に言ったらシンちゃん絶対怒るよ。
「チッ!はーいはいはい!わかりましたよー!」
!!?
アレ?私の聞き間違いかな?
そうは思うがシンタローが怒るそぶりはない。
黙々と料理にとりかかっている。
何この熟年夫婦の空気!
認めない!私は断じて認めないよッッ!!
お前のフィアンセはこの私だろう!?
まさか浮気!?こんなちっちゃい子と?
でも、シンタローのショタコン好きを考えると、否定もできない。
そんな事を考えていると、料理が出来上がったようで。
ご飯にお味噌汁に焼き魚と漬物。
パプワにはたーんと大盛。そして、自分、チャッピー、マジックには普通盛り。
「ほーらチャッピー、ちゃんと手を合わせて。」
何これ!?
チャッピー君は息子か何かのポジショニング!?
マジックの脳内では、
パプワ→夫
シンタロー→妻
チャッピー→息子
となっていた。
み、認めたくなぁい!!
呆然とそのやりとりを見ていると、シンタローと目が合った。
しかし、直ぐに反らされる。
そして、シンタローはガツガツとご飯を食べ始めたのだった。
「シンタロー!おかわり。」
「わーうわう!」
「はーい、はいはい。」
完全に出そびれた感じのマジック。
シンタローはこの中に完全に溶け込んでいて。
マジックはパプワを心底羨ましいと思った。
シンタローのこんな顔が見れたのは久しぶりかもしれない。
コタローを私が閉じ込めてしまう前の顔。
「シンタロー!行ってくる!」
「わぅーん!わんわん!」
「はいはい。あんまり遅くなるんじゃねーぞ!」
解った!と、遠くからパプワの声が聞こえた。
口元を緩めて二人を見送った後、シンタローは気付いてしまう。
もしかしなくても、俺、マジックと二人きりじゃねぇか…。
一度気がつくともう止まらない。
取り敢えず洗い物済ませたら帰って貰おう。
シンタローが台所に立つと、先程迄大人しかったマジックが隣に立つ。
ふ、と、マジックを見ると、困ったような笑みをこぼしていた。
「私も手伝うよ。」
そう言って洗い物を始める。
いいよ、帰れヨ。とか、邪魔だから座ってろ。とか、シンタローの口から出なかったのは懐かしさのせい。
昔はこうやって父のようになりたくて料理を教えてもらったんだっけ。
シンタローはマジックが嫌いではない。
嫌いになれないからこそ苦しいのだ。
弟のコタローを幽閉したことは許せない事で。
そして、その理由をはぐらかすマジック自身も又シンタローは許す事が出来ないのだ。
「シンタロー。」
真顔で自分を見つめるから。
咄嗟にそちらを見てしまう。
「あんだよ。」
目を直ぐに伏せてぶっきらぼうに答えると、マジックは濡れた手のままシンタローの肩を掴む。
ビクリ、と、反射的に体が強張った。
「お前はパプワ君とどうゆう関係なんだい?」
は?
意味の解らない質問に思わず脱力する。
「お前の恋人はパパだよね!?パプワ君とは肉体関係は持ってないよね!?」
「ハ?恋人?パプワとにくた…あ、あったりまえじゃぁぁあ!!なーにトチ狂った質問しやがるんだテメーという奴は!!」
真っ赤になって全否定すると、マジックはホッと胸を撫で下ろす。
とんでもねぇ親父だな!ったく!
マジックに対して無視を決め込み、シンタローはガチャガチャと食器を洗う。
「もー寝る準備するからさっさと帰れ!」
せっかく人がセンチに浸ってたのに、この馬鹿親父のせいでぜーんぶ台なし!
シッシ!と動物を追いやるように片手ですると、マジックが抱き着いてきた。
そして、シンタローの唇にキスをする。
「ンーッ!!ン、ンンッッ!!」
いきなりの事で抵抗のでかないまま床に捩伏せられる。
「よかった☆パパ以外とはドッキングしなかったんだね!」
「テメッ!!」
腕で唇をゴシゴシ拭く、
「シンちゃん、だーいすき!」
そして、今度は舌を入れてくる。
余りに久しぶりな性的快感に、シンタローは思わず身震いした。
今、コイツは俺に欲情している。
そう思うだけで、シンタローの下半身はズクリと疼く。
でも、まだ片手で掴んでいる理性はあって。
許してはいけない、コタローの事も、心も、体も、と、ぐるぐる螺旋のように頭の中で回っていて。
「や、やめ…ンムッッ、ヤメロ…ッッ」
否定の言葉を吐く自分の声色のあまりの弱々しさにゾッとした。
俺の心とか、意思って、そんなに弱いものなのか?
こんなキス一つで許してしまう程?
そんな事はない。あってはならない事だ。
「やめろよ!!」
グイ、と、マジックを渾身の力で押し返す。
「どうしたの?シンちゃん。」
「どーしたもこーしたもあるかっ!俺は!俺はッッ!!」
ほてらされた体が熱い。
中心がじゅくじゅくしてるのがわかる。
パプワが帰ってくるまでにこの熱を押さえなければ。
嫌われてしまうかもしれない。
そう想像すると死ぬ程怖かった。
俺はパプワに会えて本当に良かったと思ってる。
ガラじゃねーけど、友達になれて本当に嬉しい。
アイツは俺を裏切らないし、俺だってアイツを裏切らない。
初めて会えた心を許せる友に、こんな醜態はさらせない。
「やっぱり、ね。」
マジックの顔付きが冷たいものへと変わっていった。
「ヤ、やめろ!ふざけんな!」
秘石眼の力でシンタローはもう一度床に捩伏せられた。
重力が重くのしかかってくるような感覚に、シンタローは顔を歪める。
マジックは自分の上着を脱ぎ捨てて、シンタローの腕を縛り、ズボンを無理矢理脱がし、足をM字に開かせる。
そして、熱の納まりかけたソコに舌を這わせたのだった。
「ン!ヤ、やめろ…って!!」
久しぶりなのにいきなりそんな所を舐められて、シンタローは頭をイヤイヤと振った。
離して欲しいのに、マジックは舌でねっとりと舐め上げる。
先端をチロチロ舐め、裏をつつ…と舌先で舐める度、シンタローはビクビクと感じなければならなかった。
「ふざけんな…ッッ!この、変態ッッ!!」
今自分に自由がきくのは口だけなので。
思いっきり罵声を浴びせる。
すると、ふ、と秘石眼の力が無くなる。
やめてくれたとホッとしたのだが、シンタローはマジックの顔を見て顔を引き攣らせた。
マジックの目がとても冷たくて。
蔑むようにシンタローを見ている。
「私にそんな口の聞き方をするなんてね…。悪いコはどうなるか、身を持って知りなさい。」
すると、マジックは、まだ慣らしていないソコに、指を思いきり突っ込んだ。
「ひぅぅあ!!いっ!!いたァッッ!!」
濡れていないので滑り難いソコ。
無理矢理なので、ギチギチと指を締め付けるのがシンタローにもわかった。
気持ち良くなんて全然ない、痛みだけの行為。
痛さのあまり涙が出る。
「おやおや、シンタロー。お前の性器はだらしないね。」
すっかり萎えてしまったソコを、ピン!と、指で弾く。
「ッッ!!」
涙で視界がぼやける中、シンタローはマジックを見た。
彼の表情は相変わらず固いもので。
恐怖すら覚える。
助けて欲しくて、止めて欲しくて。
「パ…プワ…ッッ!!」
思わず今出掛けている親友の名前を呼んだ。
すると、マジックの目が一瞬見開き、その骨ばった大きな手で、シンタローの口を塞いだ。
苦しくて華で息をする。
「私とシている時に他の男の名前をお前は呼ぶんだね。」
何を言っているのだろうか。
何故怒っているのか。
シンタローには解らなかった。
ただ、父の抱く腕が、手順が、優しさが、全て異なる。
それが怖くて、悲しかった。
マジックが、指の動きを早める。
勝手知ったシンタローの体の1番良い所を指でグチグチと掻き回せば、シンタローの中心は熱をおび、ビクビクと天を仰ぐ。
「いやらしいコだ。」
指からはシンタローの愛液が垂れ流される。
だが、まだ十分ではないソコにマジックは己の高ぶりを捩込む。
「ひゃあぁああぁあ!!」
大きくのけ反り、声を張り裂ける。
喉仏がコクリと上下に動いた。
マジックが数回揺さぶると、シンタローは快感に堪えられなくなり、甲高い声を出して精を吐き出した。
久しぶりの行為に体が痙攣し、ビクビク震える。
マジックはそれを見て、不覚にも欲情してしまった。
が、しかし、顔には一切出さず、無表情のまま、激しく付き動かした。
「や、もぉ…やめ、てぇ…」
弱々しくマジックに縋り付く。
しかしマジックは動きを緩める事などしない。してなんか、やらない。
汗で髪が額や頬に張り付き、長い黒髪を見出してマジックに助けを求めても、マジックは知らない顔。
「淫乱。そうやってパプワ君も誘惑したのかい?いやらしく腰を振って、発情期の雌猫のように!」
そう言って最奥をガンガン付かれる。
そして、混入したまま、シンタローを後ろに向かせ、腰をガッチリ掴み、動きを再開させる。
「あ、あ、あんっ、あ、パ、パプワとっ…そんなことしてなっ…ンンッッ!!」
「どうだか。お前は男を煽るのは一人前だからね。」
振ってくる言葉は冷たいもので。
俺に欲情する馬鹿はテメー位のもんだと思う。
「ほん、と!ホントだってばぁ!あ、あぅ、」
「さぁ。口ではなんとでも言えるよシンタロー。お前は酷く淫乱だからね。男の癖にさっきもホラ。」
ピン!と、又性器を弾く。「ああ…ん!」
「ココ、じゃなくて、今私が出し入れしている所だけでイった。本当にだらしの無い子だ。」
「ホントにしてなッッ…んん!」
信じて、と、涙で霞んだ瞳でマジックを見る。
すると、マジックの動きが少し緩んだ。
「じゃあ、何で私を拒んだ。何故彼の名前を呼んだ?」
ピンポイントから少しズレた所をつかれながら、シンタローはままならぬ呼吸をしながらたどたどしく答える。
コタローを幽閉したマジックと体を繋げたくなかった事。
親友のパプワにこんな姿を見られたら嫌われてしまうかもしれない事。
「………。」
「………。」
「………パパの勘違い?」
「………そう。」
「………パプワ君とはそうゆう関係じゃないの?」
「………当たり前だろ。それにアイツにゃ、クリ子ちゃんっていうフィアンセもいるんだヨ。何度も言わせんナ。」
「……………………。」
「……………………。」
「…………。」
「…………。」
「……。」
「…。」
「シ、シシシシシンちゃん!ごめんなさいっっ!」
理解出来たのか、長い沈黙の後、凄く必死にシンタローに謝るマジック。
そりゃそうだろう。
ただでさえ嫌われてる(と思っている)シンタローに、勝手にお門違いに腹を立てて、好き放題ヤリまくってしまったのだから。
そんなマジックに、シンタローはかなりご立腹なようで。
「早く抜けヨ!!」
潤んだ瞳を腕でゴシゴシ擦る。
直ぐに抜くかと思ったが、流石マジックというところか。
抜きゃしない。
しまいにゃ、
「ね、パパね、まだイってないんだよ、だからね、シンちゃん、後ちょっと我慢して?」
「ハァ!?ふざけンンン~~ッッ!!」
抗議の声はマジックの唇に吸い込まれてしまったのだった。
そして、律動開始。
ガクガクと体を揺らされ、横向きにされて方足を持ち上げられ、目茶苦茶動かれる。
「やだやだ!!や、や、やぁああ!あん、あ、あ、」
「シンちゃん、スゴーイ!キュウキュウ締め付けられるよ!」
「ば!いき、できなっ!死ぬ!死ぬってば!」
なのに、マジックはラストスパートと言わんばかりに動きを早める。
「パパ、お前と腹上死が夢。走り続けろ!ラララ天国列車!!」
「テメーだけ乗りやがれ!!」
「あ、パパ、なんかイキそう。」
「逝ってろ!!ん、あ!」
いきなり前を擦られて、シンタローはなまめかしい声を上げた。
ちゅく、ちゅく、と先端から溢れる愛液。
舌先で乳首をコリコリと嘗めまわし、ちゅ、と音を立てて強く吸うと、シンタローは体を海老剃りにして、自分の腹の上に精を吐き出した。
マジックは二、三度腰を動かすと、荒い息をしているシンタローの口に無理矢理自信を捩込ませ、精を吐き出した。
当然シンタローが飲むなんて事が出来るはずもなく、全て唇から流れ落ち、シンタローはむせた。
「ゲホ、ゲホ、テ、テメー!!」
殴ろうとしたが、アレアレおかしい。
力が入らない。
寧ろ…座れないし、立てない。
「シンちゃん、もしかして足腰立たなくなっちゃった?!かわいー!かわいー!」
身動きの取れないシンタローをいいことに、マジックはシンタローに凄いスリスリしまくった。
今まで出来なかった鬱憤をはらすべく、スリスリスリスリ。
「テメ!ンな事してる場合じゃねーだろーが!パプワとチャッピーが帰ってくるんだぞ!もし、この事がバレたら…俺は生きて行けない!生きて行けないッッ!!」
バレたらって…。
シンタローの体はお互いの体液でベトベトだし、部屋はイカ臭い臭いで充満している。
「親父…1分以内でどうにかしろ。そうじゃねぇと、俺は金輪際体をアンタと繋げないし、イヤ、寧ろ別れる。」
どんよりと目を光らせるシンタローに本気だと理解したマジックは、一目散に綺麗に仕上げ、来た時よりも美しく!のキャッチコピーを本気でやってのけたのだった。
綺麗になった部屋で、マジックは雑巾をにぎりしめ、腕で汗を拭いた。
基本的に家事が好きなので、何だか清々しい顔をしている。
そんな時、見計らったかのようにパプワとチャッピーが帰って来て、
「きれーきれー!」
「わうーわうー!」
と、扇子片手にぴょいこらびょん!と踊っている。
シンタローとマジックが内心ホッとしていると、踊っていたパプワが何かに気がついたように、シンタローを指差した。
「シンタロー!凄い虫刺されだぞー!」
「は?むしさ…」
ま・さ・か!!
タンクトップを持ち上げると、マジックが付けたキスマークが。
「親父ィ…ちょっくら表出て久しぶりに親子の会話しようや…」
「シシシシシンちゃん!その手!眼魔砲撃つ気でしょ?殺意あるでしょ!?」
「ウッセー!さっさとこの島から出ていけ!眼魔砲ッッ!!」
ドゥッ!と撃つと、マジックはお星様になりましたとさ。
そんなシンタローを見て、パプワとチャッピーは扇子を両手に翳す。
「んばっ!」
今日も一日パプワ島は平和なのでした。
終わり