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今日は新年パーティーということで、一族が勢ぞろいして大騒ぎだった。
ナマハゲがお酒を飲みまくってパパに叱られたりするのはいつものこととして、ビボーの叔父様とも久々にゆっくりお食事できて僕はとても嬉しかった。
従兄弟のグンマとじゃれあってるうちにトイレに行きたくなってきたから、グンマに断って会場をこっそり抜け出たんだ。
すっきりして戻ってくると、パパと叔父さん2人とグンマは楽しそうにおしゃべりしてた。
金髪がきらきら、シャンデリアの光を反射してキレイだった。
なんだかその4人が絵になるなぁ~っなんて思っていたら、入るのがためらわれてしまった。
サービスおじさんのビボーは今更言うまでもないけど、双子の兄だって言うナマハゲもパーツごとはキレイに整ってるし(顔つきが下品なんだよね)。もちろんパパだって皆に自慢できるくらいカッコイイ!
グンマだって泣いてばっかりだけどきちんとすればそれなりに見目のいいやつだと思うし…。
扉の隙間からボーっと中を眺めていると、いきなりその扉が大きく開いた。
「こんなところでなにをなさっておいでです?シンタロー様」
不思議そうな色の声が上から降ってきた。見上げるとそれは、ドクター高松だった。
「さ、入りますよ」
「あーん。シンちゃん、遅いよぉ~~っ」
ドクターに誘導されるように輪に入っていくと、グンマが寄ってきた。
よかった。高松がいて。
一人じゃあの輪の中に、どうやって入っていったらいいかわからなかったから。
6人でまた談笑を続ける。自分の内心など誰も気付かないだろう。でもその方がよかった。自分のコンプレックスを悟られるなんて絶対イヤだった。
そして僕は、何となく、思ったことがあった。

「今日は楽しかったねぇ~っシンちゃん。今年もハーレム叔父様はお年玉くれなかったけどさ。」
大人たちが後片付けをしている間、僕らは子ども部屋で遊んでいた。
「僕達ももう小学生だしさ、あと10年くらいの間に一回でもくれたらいいのに~」
ほのぼのとのん気な事を言っているグンマに、今自分が思っていることを言うのはためらわれた。でも、今日を逃したらいつ言うのか。僕は思い切って口を開いた。
「なぁグンマ…僕、お前のお父さん、誰かわかったかも…」
「………。」
彼の父親のことを話題にしたことはなかった。
ドクター高松がいるとはいえ、彼が「父親」にすごく憧れているのは知っていたし、何よりパパ達が話題にするのを避けているみたいだったから。
案の定グンマは想像もしなかっただろう話題に、蒼い瞳をまん丸にさせている。
「…?シンちゃん…。僕のお父様は、シンちゃんのパパの弟…」
「待て。グンマ。最後まで聞いてくれ。そうすれば、何もかも辻褄が合うんだ。」
真剣な顔をして言えば、真剣な顔をして返してくれた。こいつ、バカだけど、オレが真面目な話をしているかどうかはすぐわかるんだよな。
そして僕は、あんまり口にしたいことではなかったけれど、搾り出すように言った。
「お前の父親は、マジックだ。」
俯いていたからグンマがどんな表情をしたかはわからない。
彼の返事は数瞬の時を要した。
きっと僕がなにを言っているのか、掴み損ねているんだろう。
「じゃあ、僕達、双子なの…?」
彼のたどり着いた結論。でも僕は違うと思う。
「いや。それだったら誕生日がずれているのはおかしい。」
「え?ならシンちゃんのパパって…」
当然の質問。それに答えるのは、さっき彼の父親を答えたのよりも苦しかった。
「僕の、僕の本当の父親は…」
グンマは僕の言ったことを一言も聞き漏らすまいとするような眼差しで僕をみた。
きっと彼なら、自分がこれから言うことを笑わないで聞いてくれるだろう。
「高松だ。」

「どうして…」
グンマの呟きがなにに対してのものなのかはわからない。でも僕は、一度口にしたら止まらなくて次々と喋っていった。
「だっておかしいと思わないか?僕のこの髪と瞳。」
「え?おかしくなんてないよ。僕、シンちゃんの髪さらさらしてて好きだし、瞳だって…」
「そうじゃなくてさ。一族みんな金髪碧眼なんだよ?いくら母さんが日本人だからって、違和感あるだろ」
これまで自分の色についてグンマに語った事はなかった。まさかグンマがそんな風に思っていてくれたなんて知らなかった…。今はそんな場合じゃないのに、妙に感動してしまう自分がいた。
「僕が、高松の子どもなんだったら納得いくだろう?」

きっと高松は結婚しない相手との間にできた子どもをどうしようか迷って、パパ…マジックに相談したんだ。
マジックはちょうど生まれたばかりだったグンマもいることだし、一人でも二人でも構わないだろうと思って承諾した。
しかしそれを反対する人がいた。
それがルーザーだ。
総帥の激務に着く長男マジックに、さらに二人の子を持つのは無理だと思ったのだろう。彼は一人の子どもは自分が育てると申し出た。
ルーザーがどのような人だったのかはわからない。
きっと、世間体を重んじる人だったのだろう。そうでなければ何かの偶然かもしれない。
彼が育てると選んだのは、金髪の方の子どもだった。
僕が考えるに、きっと自分の方が一族の跡継ぎとしてふさわしい子どもを育てる事ができると踏んだんじゃないかな。長男には総帥と父親を両立する事が無理だと思ったんだよ。きっと。

先ほどの談笑の間に考えていた事をすべて吐き出した。
所々不明な点があるけど…きっと、大筋では間違っていないはずだ、と確信していた。
「シンちゃん…すごいね。自分が赤ちゃんのときのことなのに、そこまでわかっちゃったの?」
「あくまでも仮定にすぎないけどな。でも僕はそうだと思う。
 父親は、高松なんだ…。」
「シンちゃんが言うなら僕も信じる。」
迷いのない声が耳から伝わってきた。
グンマが信じてくれた。そのことが、より一層確信を深めさせた。
するとグンマは少し悲しそうに笑った。
「そうなると、僕達、いとこ同士じゃないんだね…」
「…そうなるな…」
そうだった。グンマがマジックの子で、僕が高松の子なら、僕達にはなんの血縁関係もなかった。
「でも友達にはかわりないよね!」
「あぁ。親友に決まってんだろ」
お互いに笑いあって、心が軽くなった気がした。

窓から見える空は、もうとっくに暗くなっていた。
すっかり話に夢中になってしまった。
もう後片付けも終るだろうし、そうするとグンマは高松と帰っちゃうんだよな…。
今しがた友情を深めたばかりで、もっと一緒にいたいと思った。
でもそれと同時に、マジックの自分への愛情は、本当はグンマに注がれるはずのものなんだと思うと…。
「あ!グンマ、いいこと考えた!」


「えぇっ。僕がシンちゃんになるのぉ!?」
「いいアイディアじゃない?どうせ僕らが真相を言ったところで誰も相手にしちゃくれないだろうし。それなら今日だけでも、本当の親子を味わってみようよ。」
しかもお前も高松もそろって訳のわかんない発明ばっかりしてるし。
何かそういうヘンテコな副作用かなんかで、中身が入れ替わっちまった、ってことにしとけば、誰も疑ったりしないよ。
「むぅ…訳のわかんない発明なんてしないし、ヘンテコな副作用のある発明なんてしたことないし、本当に誰も疑わないか疑問だけど…」
それに僕にはもう一つ、楽しみな事があった。
「僕、高松の家に泊まったことないんだよな~。」
「あー。そうそう。僕も不思議に思ったことあるんだけど。僕がシンちゃんの家に泊まることはあっても、シンちゃんが高松の家に泊まったことってないんだよねえ。」
「いっぺんどんなものだか見てみたいんだよ」
「そうだね~。ま、いっか。一晩くらい大丈夫だよね!」
それから僕らは大人たちが呼びに来るまで打ち合わせをした。

「高松ぅ~っ。ホットミルク、もっと甘くしてぇ~…こんな感じか?」
「ねえ、パパ。一緒にお風呂に入ろうよ~っ…シンちゃんぽいかな?…パパか。パパ…」


最初に入ってきたのは高松だった。
「グンマさま。そろそろお暇しますよ。ご準備なさってくだ」
言い終わらないうちにだきついた。
「うぇ~んっ。高松ぅ~。どぉしよぉ~~っ!!」
「シ、シンちゃんっ!!??」
高松に続いて入ってきたマジックは大声をあげた。
マジックが高松に張り付いた僕を引き剥がそうとする前に、グンマも寄ってきてマジックに抱きついた。
「パパぁ~っ。パパ、僕どうしたらいいのぉ!?」
「あぁシンちゃん、ごめんね今は…えって。えぇ!?」
マジックと高松は、僕とグンマを交互に忙しく見やった。
「そっちの可愛いシンちゃんがグンちゃんで、こっちのグンちゃんぽい方がシンちゃん…なの…?」
泣きべそをかいた僕達はこっくりと頷いた。
「…高松…これは一体どういうことなんだい?」
なんだかマジックを青いオーラみたいなものが包んでいる様に見えた。
「ちょ、ちょ、ちょ、不可思議な事が起きたらすべて私のせいにするのはやめてくださいよっ!」
「とぼける気かい?」
「違うのあのね。僕のせいなの。僕が、栄養ドリンク作ろうと思って勝手に色々しちゃったからなの。高松は悪くないよ~~~っ」
僕は発明だとかなんだとかはさっぱりだけど、これ以上高松を悪者にしないために必死で演技した。何せ本当の父親だしね。
普段からグンマの発明に関する説明なんてこんなもんだし、違和感はないだろう。
「あぁっ。お優しいグンマさま!」
鼻血が!鼻血が!
グンマはいつもこれに耐えてるんだな…考えてみるとスゲエ奴だ。
ため息を一つついたマジックは、グンマを抱えると言った。
「なんだかよくわからんが…今日はとりあえず二人も疲れただろう。ゆっくり休ませるとして…高松。」
総帥の顔をしたマジックは青い目をぎらつかせた。
「明日までになんとか、できるよねえ…?」
「…はい…」

やった。僕達の作戦は、成功した!
高松を慰めるふりして、喜びに僕は一層高松にしがみついた。
こっそり見ると、グンマも嬉しそうにマジックにしがみついていた。
自分のパパを取られたみたいでちょこっと悲しい気もするけど、グンマが嬉しそうだから、自分もやっぱり嬉しい。
上手く行けばこれからずーっとこうしていられるのかも…と思っていた。

が。

家を出るなり高松は言った。
「で。どういうおつもりなんです?シンタローさま」
だめだった…。
作戦は失敗か。高松の腕から飛び降りた。
「ん~…話せば長くなるんだけど…。とにかく、グンマにとってはいいことなんだよ。」
「グンマさまに?入れ替え作戦がですか?」
僕は本当は高松の子で、グンマはマジックの子なんだから。
などと言うつもりはなかった。
確証もないのに大人を説得するほど自信があるわけじゃないし。
ただ結論だけ聞かされた高松には何のことかさっぱりだろうけど。
「そう。ばれちゃったんならしょうがないけど、今夜はドクターん家に泊まってもいい?」
「いんですけどね…はぁ。」
「悪かったな。愛しのグンマさまじゃなくて」
「いえいえとんでもない。マジック総帥の息子さんですからね。丁重におもてなししますよ。」
怪我でもされたら総帥に殺されます…と言った高松は、また僕を抱き上げてくれた。
「何か食べたいものあります?」
「ん~っ。さっきいっぱい食べたしなぁ。軽くでいいよ。あ、日本食が食べたい」
「あぁ、いいですね~。日頃はグンマさまに合わせて洋食が多いですから、久しぶりです」
「あれ、ドクターって出身どこだっけ」
高松とこんなにゆっくり会話したこと、あったっけ。
きっと本当に血がつながってるから、こんなに穏やかに話せるんだろうなぁ。
高松のぬくもりに頬を寄せて、僕はご機嫌で足を揺らしていた。

家に着くと、高松は簡単にうどんを作ってくれた。
手の込んでないさっぱりしたもので、こういうのの方が僕は好きだった。
やっぱり親子だから好みも似るんだな…。
食べながら高松とはご当地話に花を咲かせた。マジックは日本が好きみたいだけど、こんな入り込んだ話はしたことなかったし、とても楽しい。
「ドクターは京都のおたべって食べた事ある?一回食べてみたいな~」
「私はあまり好きではありませんけどね…。」
「そっかぁ。ふう!ご馳走様でした!おいしかったよ。」
「はいはい。お粗末さまでした。」
「僕、洗物やっておくね。」
「お客様にそんなことをさせるわけにはいかないのですが…すみません。今日はまだやらなければならない実験がありますから、お言葉に甘えさせていただきますよ。」
「ん。まかせとけって」
あ~あ。親子の会話もこれで終わりか…。

食器をゆすぎながら、グンマは今頃どうしてるかな~なんて考えていた。
高松がすぐにわかったくらいだし、マジックにはあっさりわかっちゃったんだろうなぁ。
じゃあどうして僕を引き止めなかったんだろう。
考えてみれば高松の家にお泊りした事ないのって、全部パパが引き止めてたからなんだよね。「いくら高松だからって、そこまで迷惑かけちゃいけないよ」とか、「パパを置いてそんな男と寝るのかい!?」とか。
今回はやっぱりわが子かわいさってやつかな…。パパにはグンマがいるんだもんね。寂しくないわけじゃないけど、僕には高松がいるもんね。
次ぎはお風呂沸かして、親子で一緒に入ろう。

「ドクター。ドクター、お風呂沸いたよ。」
仕事場まで呼びに行くと、眼鏡をかけた高松が振り返った。
「わざわざ沸かしてくださったんですか。それじゃあ冷めないうちに入りましょうかね。」
「お仕事はもういいの?」
「ああ。もうあらかた終りましたからね。」
初めて入った高松のお風呂は、家のと比べると狭かった。さらに二人で入ってるから、とても伸び伸びとはいかなかった。それでも暖かくて癒された。
「いや~。シンタローさまがいると助かりますねぇ。」
「ちょっとはグンマにも手伝わせろよ。」
「グンマさまにやらせるなんて、とんでもない!グンマさまのお手を煩わせるくらいなら血反吐を吐いてでも自分でやりますとも。」
「…あっそ…。」
グンマがルーザーの子であれマジックの子であれ、赤の他人には違いないはずなのにどうしてそんなに世話がやけるんだろう?
まぁ変態だからしょうがないか…ってそれが自分の父親なのか…。
うーんうーんと湯船につかっていたら、のぼせますよ、と声をかけられたのでもう上がる事にした。
二人して漆黒の髪を拭いていると、お揃いでなんとなく嬉しかった。
「今グンマさまのパジャマ持ってきますね。」
そう言い置いて高松は脱衣所を出た。
鏡を見ながらまだ乾かない髪を拭いていた。パパやグンマと入るときみたく、キレイな色に憧れては自分のを見て落ち込んだりすることもない。
高松は僕をグンマのように愛したり可愛がってくれたりはしないけど、僕も男の子だしそれは寂しいとは思わない。
でも…。
いくら本当の子は僕なんだとしても、やっぱり高松の「一番」はグンマなんだなと思うとちょっとだけ寂しい。
パパもグンマが「一番」で、高松もグンマが「一番」なら、誰が僕のことを「一番」好きでいてくれるんだろう?
サービス叔父さんはきっと自分自身が「一番」だろうし、ナマハゲは有り得ないというか、もしナマハゲの「一番」になっても嬉しくないし、グンマは何だかんだでパパが「一番」だろうし…。
…はぁ。なにを考えているんだか。今日は一日中考えても仕方のないことを考えてる気がする。
早くゆっくり寝よう…。

持ってきてもらったグンマのパジャマに袖を通しながら、高松に言った。
「ドクターん家に泊まるのって初めてだ。」
「あぁ。マジック総帥はあなたのことをとても大事にしてますからね。」
大事?
…あぁ、一応他人様の子だしな…。
「私も人のこと言えませんけどね。一番大好きなシンちゃんが自分以外の人と寝るなんて許せないってところじゃないですか?さっきも私に抱きついてきた時の怒りようはすごかったですねぇ。」
「違うよ」
言ってからしまった、と思った。
ここは笑い流すところだったのに。
彼の「一番」はグンマだと、さっき思っていたものだからつい口が動いてしまった。
高松も呆けた顔してこっちを見ている。
「…何がですか?私がグンマさまを愛しているのは、確かな事実ですよ!」
…高松でよかった。
「そ、そうでしたね。すみません…」
とりあえず謝っておいた。

「さ、そろそろ寝ていただかないと。明日睡眠不足のあなたを帰したら何をしていたのかと怒られてしまいます。」
「はーい」
グンマの部屋へ向かっていると、来客を告げる鐘が響いた。
高松が玄関に出るのを一瞬目で追ったけど、眠たくなってきたのは確かだったから大人しく寝ようと思った。
何度か遊びに来たときに見たけど、恐ろしく趣味の合わないベッドだよな…。ぬいぐるみとか置いてあるし。
乗ってみるとふかふかで、意外にも居心地がよかった。
寝る前にちょっと漫画を手にとって読んでいると、軽いノックの後にドアが開いた。
まだ読んでいない漫画から目を離さずに聞いた。
「ドクター?今の誰だったの?」
「パパだよ。シンちゃん」
思わず顔を上げた。
「シンちゃ~んっ。ごめんねぇ。ダメだったよ~!」
途端に抱きついてきたのはグンマだった。
「あぁ。もういいよ。それはこっちもだったから。」
「本当?僕のせいで作戦ダメにしちゃったと思って焦ったよ。あ、その漫画シンちゃんまだ読んでなかったよね。一昨日買ったんだ~。」
「僕も昨日漫画買ったけど、読んできた?」
「読んだ読んだ。面白かった~!」
ついついグンマがいると他愛もない話が始まってしまう。
それを咳払いでパパは水を差す。
「シンちゃん。もう帰ろうね。」
息子には甘いと定評のあるパパだけど、そういうときばっかりじゃないのを僕は知ってる。
「もうお風呂入っちゃったし…今日はここに泊まっちゃだめ?」
「そうだよぉ叔父様。シンちゃんはここに泊まればいいよ」
「だめだよ。支度なさい」
そういうときはこんな風に取り付く島もない。
もしかしたら頑張ってお願いすれば聞いてくれるのかもしれないけど、そうする気にさせない力があった。
それはグンマも同じらしい。
「残念だね…漫画、貸してあげるよ」
「さんきゅ」

「高松。世話になったね」
玄関先で挨拶をかわす。
「じゃあね~っシンちゃん。」
「ドクター、ご馳走様でした。今日はありがとう。」
「いえいえ。今日はグンマさまのためだったのでしょう?
 私も楽しんでいましたよ。」
僕も楽しかった。名残惜しいけど、高松の家を後にした。
ドアを閉める前、高松が鼻血出しながらグンマを抱きしめるのが見えた。
グンマも嬉しそうだった。

パパは僕を抱っこすると車に乗り込んで、部下に出すよう指示した。
なんだか怖くてパパの顔が見れない。
怒ってるのかな…彼が僕を抱っこするのは甘やかすときだけじゃない。
逃げられないように捕まえているって時もある。
今だってしっかり抱きしめられているわけじゃないけど、なんとなく後者なんだろうと思う。
グンマは今日楽しめたかな。パパはいつまでグンマのパパでいたんだろう。
そういえばパパは僕に何も聞かない。
グンマから全部聞いてしまったからだろうか。
車に乗ってから口を開こうとしないパパに、話しかける勇気はなかった。

家について車から降りると、ようやく彼は口を開いた。
「シンちゃん。パパとお風呂入ろうね。」
「え?僕もう入ったよ。それに眠たいし…」
「ダメだよ。そのままでは湯冷めしてしまうからね。パパと入るんだ。」
だったらあのまま高松の家で泊まらせてくれたらよかったのに。
反抗する言葉を模索するうちにまた抱きかかえられて、歩き出してしまった。
彼が何をしたいのか、さっぱりわからない。
でも低い声でしゃべるパパは僕でも怖くて、「パパなんて嫌いっ」なんて恐ろしくて言えない。
むしろ「僕は本当のパパの所に居たいよ。パパは本当の息子と一緒に居て?」と言えばいいのだろうか。
あぁ、そもそもなんで自分の父親は高松なんて思ったんだっけ…?パパの腕の中で揺られていると、もうそんなのどうでもいいことのように思えてくる。
「シンちゃん…寝ちゃった?」
もう応える気力がなかった。
「あのね、シンちゃん…シンちゃんは高松が好きなのかい?そんなことないよね…。ただ、万が一にでもそうなのだとしたらごめんね。パパはシンちゃんを手放す気なんてないよ。いつもずっと傍にいて…」
優しい声音が聴こえる。なんて言ってるのかはもうよくわからないけど。
「シンちゃんがね。高松を選んだ理由はわかるつもりだよ。なぜグンちゃんの父親がパパだと思ったのかまではよくわからないけどね。シンちゃんは私の子だよ…パパが生んだわけじゃないから、100%って言い切れないのが残念だけど。」
頭を撫でられる感触。
「別の関係ならもっとスムーズに行ったのかもしれない…。でも『親子』なら、どんなに離れてもずっと『親子』でいられるだろう?パパは怖いんだよ。お前が離れていくのが。」
「何を考えて今日こんなことしたのか、起きたら教えて。グンちゃんには言ってパパには言わないなんてヒドイよ。考えてる事は何でも教えて。前はシンちゃんのことで知らないことなんてなかったはずなのに、どうしてだろうね。これが成長なんだとしても、パパはイヤだよ…」
「おっと。漫画が落ちちゃうよ。…こんな推理物ばっかり読んでいるから、変に勘ぐり深くなっちゃうのかねぇ…」


目が覚めたらパパのベッドだった。
パパの腕の中に居るのって、すごく安心する…。
でも残念だな。グンマにこの気持ち味わわせてやれなくて。
そうだ。「パパ」はグンマにあげることにして、これから僕は「父さん」って呼ぶことにしよう。
別にそれでどうにかなるわけじゃないけど、男だもの。義理ってものがあるよね。
「ん…シンちゃん起きたかい?おはよう。」
「おはよう。父さん。」

昼頃グンマから借りた漫画を読んでいると、「総帥が固まっている!」「動かないぞ」とかいう声が聞こえてきた。


後日談
結局あれだけ悩んだ事も子どもだけあってすっかり忘れてしまった彼ら。
もし真相が解き明かされるまで、このことを覚えていたら
「あぁっ俺って惜しい!」
とか思っていたかもしれません。
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DESTINY
信じられなかった・・・
まさか俺が・・・あんな失敗をするとは・・・・

************

今日はガンマ団でのちょっと変わったイベントが開催される。
その名は・・・・

  「愛○エプロン 最強料理タッグバトル!!」

・・・・・・・・・・・

なぜ俺がこんな馬鹿げたイベントに参加しなければならねぇのか?
そもそもこのイベントを手かげたのって・・

親父だった・・・(アハハハシンちゃん、パパだよ・・・みたいな?)

・・・・・・・・・・・
あのクソ親父・・・あとでシメル!!

んで、俺は試食者になったのだが・・・・
最高級の牛乳で杏仁豆腐を作るらしいが・・・・・・・

「うわーーーん!!高松ゥ!!火が怖いよ!!」
「料理をしたのは初めてだ。」

見てられん・・・こんな状況で誰が試食できると思う?
しかも・・・
「スペシャルゲスト!!シーーーーーーーーンちゃーーーーん!!」

は?   
俺も出場するのか?
俺は嫌だぞ!!絶対に!!死んでも!!
「ははん・・・・シンちゃん料理ができないのかぁ・・・・」
「情けないぞシンタロー。」
こう煩いので、悶々しながらも出場する羽目に・・・・(ああ・・・)

******************
無事料理バトルは終了した。
試食でキンタローが試食者に暴言はいて退場になった。(哀れな・・)
グンマもまずいの一言で大泣きしていた。
高松が暴言はいてまた退場になったとか・・・
あとは長州○力とか言う奴と俺が生き残った。

「優勝はガンマ団一般ピーポーの長州○力だーーーーーーーーー!!」

**********************
終わった・・・・・
料理に自信があるこの俺が負けるなんて・・・
「こんなの無効だ!!総帥の俺が負けるなんて!!こんなくだらねぇ茶番は無効だ!!」

『ドコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!』

俺はそばにあったキンタローのスーツケースを思いっきり蹴り飛ばし、長州○力の顔面に当てた。
「ああ・・・キンちゃんのスーツケースが・・・」
「・・・・・(怒)!!」
すまんキンタロー・・・後で金払う・・

私は一生懸命頑張りました。
これは私自身に運命なんです。
人間どんなけ頑張っても駄目なときってあるものです。
それを今日この場で学べた・・・それだけでもいいじゃないですか・・・・



****************************

その夜・・
「シンちゃん負けたよ。フハハハハハハ!!」
「眼魔砲ーーーーーーーーーーーーー!!」

親父は宇宙の地理となった。


    おまけ

 「こんなくだらねぇ茶番は無効だ!!」


 『ドコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!』

 「スマねぇ、キンタロー。お前のスーツケースぶっ壊しちまって・・・」

  スーツケースの中身は・・・・

 「めがねだらけだ!!」
  
  誰がするのか分からないめがねが入っていた。
  キンタローはそれを大切そうに磨いていた。
 
  
  END
 


cx

苛つく気持ちをどうしても押さえられなかった。

自然足取りは荒くなり、通りがかった団員が何事かという表情で振り返っていく。

普段なら余裕ある総帥、を演じるのに余念の無い俺だが(前任者が前任者なだけに、焦ってる様子など死んでも見せたくない)今回ばかりはそれも出来ずにいた。


ムカツク!!!


ホントにホントにムカついて具合が悪くなってきた。
胸がムカムカしている。吐き気もする。頭痛もしてきた。気のせいか耳鳴りも。

苛つきは頂点に達して、涙が出た。ちょっとだけ。

この涙の理由は極限に達するストレスから出たもので、生理的反応ってやつだ。
それ以上でも以下でもない。いや、ホントに。というか俺は誰に対して言い訳しているのか。

通りがかった団員か?
俺自身か?
それともこの怒りをもたらしてくれたあのオッサンか?

びっくりした。人間ってやつはあんまり怒ると涙が出てくるのだ。

俺はうがーーーっ!と叫んで髪を掻き毟りたくなる衝動を抑えて、早足で自室へと向かっていた。ムカつきからの涙は、当分おさまりそうにも無かったから、防音設備完璧の自室で思い切り叫びたかったのだ。





「クソ親父のバカヤローーーー!!!」





ようやく自室にたどり着き、何度目かの咆哮の後、なんとか気持ちが落ち着いてきた。
しかしそれもうっかり思い出してしまえば儚い海の藻屑。
ぼうふらのように怒りが湧いて来る。
お!俺って詩人?なんてことを思ってみたりしたり。

うーん。しかし、ぼうふらって響きがあんまり詩的じゃないな。

寄せては返す波のように?いや返っちゃ駄目だろ。

空に輝く星のように?いやいや、アイツのせいで感じているこの苛立ちに対して美しすぎるだろ。

ううーん。

ついつい考え込んでしまってからハッと気付く。違うだろ俺!

詩といえば、ヤツはすぐに詩を作っては、いらんとゆーのに無理やり俺に聴かせていた。

「シンちゃんに捧げる愛の歌 君と迎える17回目のクリスマス編」

とかゆー類の無茶苦茶に濃いやつ。
うなされるよーなの。
俺は聞きたくないっつってんのに。
いいかげんにしろっつってんのに。
布団被って耳塞いでも、しつこくしつこく最後の一音までしっかり聞かせやがって。
終いにゃ歌まで作りやがって。
クリスマス当日には合唱団に歌わせたりしやがって。


それなのにそれなのにそれなのに!!!


普段からしつこいのはあの親父のほうなのに!
俺いっつも忙しいっつってんのに!!
ベタベタベタベタベタベタと!!!くっつきまわってるくせに!



あああああもう!!ムカツク!!!







・・・・・・。誕生日を、祝ってやろうと思ったのだ。

コタローが閉じ込められてからはそんなこともなかった。
当然、そんな気にはなれなかった。

・ ・・あの島から帰ってきてからの親父は少しはマシになったようだったし。
本当にコタローの父親になると、誓ってくれたから。

家族を、やり直そうと思ったのだ、俺も。


『母さんは死んじゃったけど俺達3人仲良くやっていこーな!』


あのときの、気持ちのままに。家族として。

今は3人じゃなくて、グンマにキンタロー、当然含まれる麗しの叔父様に、ついでの獅子舞。なんだったらあのマッド医者も含めてやっても良い、グンマに免じて。


家族になれると思っていたのだ。
青の一族とか、秘石眼とか、・・・血の繋がりとか。関係無く。


家族に、なれると思っていた。
あの言葉を聞くまでは。


『ねぇねぇ伯父様、じゃない、おとーさま!!今年の誕生日プレゼントは期待してくれても良いからね!何しろ僕とキンちゃんと高松とで開発した・・・』

『グンマ。内容は当日まで秘密だといっただろう。いいか。そもそも誕生日とは当日まで秘密にしていたプレゼントを相手に渡すことによって!いいか、秘密にしておくことによってだな、渡された相手は驚きとともに喜びが深まるのだという。
理想的には誕生日パーティの存在自体を秘密にしておくことが望ましいのだが、それが叶わない以上はだな・・・』

『キンちゃん!むしろ、本人の前でそーゆー話をしちゃうことが色々台無しだよ!』

『何!?そうなのか!・・・クッ!俺としたことが!
俺は、俺は、伯父の誕生日すらまともに祝えないのか?ぐおお・・・!』

『キンちゃん!しっかりして!大丈夫!大事なのは気持ちだよ!!』

『・・・なぁ。お前らコントでもしてんのか?』

グンマが騒いで。
最近感情豊かになってきたキンタローも、浮かれた空気を醸し出していて。

『シンちゃん!シンちゃんもパーティには出席できるんだよね?』

グンマがあのキラキラうるうるした感じの瞳で訊いてきて。

『ん?あぁ・・・』

まぁな、仕方ねーからナ。と言うつもりだった。祝ってやらんでもない、と。

仕事調整して、一日とは言わないが半日ぐらいは空けられるようにしていた。
ガキの頃みたいに、アイツ何が欲しいのかな、なんて考えたりもしていた。

『ああ、シンタローは忙しいだろうから、今年の誕生日は気にしなくていいよ。
E国からのテロリスト撲滅依頼もそろそろ、完了だろう?
そういう時が、一番危ないからね』


いっつも、「構って!」って、うるさい癖に。
毎年誕生日になるとそわそわしては、俺の動向気にしてやがった癖に。

今年に限って。

なぁ、それは。

知ったから、なのか?
俺が、アンタの実の息子じゃないって、コト。



『しかし、伯父貴。現地はすでに安定してきているし、反乱の兆しも無い。
伯父貴の誕生日パーティーに出席できるぐらいの時間は用意できる。
半日程度ならシンタローも本部に戻ってこられるぞ』

『だったら尚更だよ。シンちゃんも最近ずっと働き通しだっただろう?
休めるときにしっかり休まなくてはね』

「ね?」と念押しするように俺に対して微笑んできた。
反論することを許さないような微笑。

だから、俺は。

『そーだな!最近どーも疲れてきてるし!ちょっとだけだけどな!
休んだほうが良いかもナ!』

ヤケになって言った。
グンマはそれでも一年に一回なのに。せっかくの誕生日なのに。などと訴えていたが親父がなんだかんだと言い包めていた。

それを最後まで見ずに俺は部屋を出た。

キンタローが気遣わしげに俺を見ていたのが、今は煩わしかった。




なぁ、俺は。

アンタの誕生日を。

祝いたかったんだ、父さん。




肩たたき券だとか。庭で摘んだ花の花束だとか。手作りのプリンだとか。
小さい頃は父と一緒のとき以外は、外出を許されていなかったから、そんな中でも用意できるような簡単なものしかプレゼントできなかった。
それでもマジックは。

『ありがとうシンちゃん! パパ、シンちゃんにお祝いしてもらうのが一番嬉しいよ!』

子ども心にもヒクような、緩みきった笑みを浮かべて、鼻血をダラダラ垂らしながら大喜びしていた。

『ね、シンちゃん知ってる? 誕生日はね、大好きの日なんだよ!』

『大好きの、日?』
 
『そう! その人の事が大好きな人が『あなたのことが大好きですよ』って伝えるための日なんだよ! 生まれてきてくれてありがとうって! 会えて嬉しいって!
・・・シンちゃんは、パパの事好きだよね?』

『うん!僕、パパの事大好きだよ!!』

『ブホォッ!・・・っく、予想以上の威力。 ありがとうシンちゃん!
君の魅力にパパはクラクラさ!』

『パパ、大丈夫!?いっぱい血が出てるよ、鼻から!
さっきからずっとだけど、さらに激しく!』

『大丈夫だよ、シンちゃん! シンちゃんからの愛があればパパは不死身だから!
むしろ不死鳥のように甦ってくるから!!』

『それつまり一回死んでるよね!!? 血が止まらないよ、パパ!
ど、ドクター呼んでこなきゃ!』

『待って!最後にこれだけは訊かせて? パパの誕生日はね、『パパ大好きの日』なんだ。
・・・シンちゃんはこれからも、パパの誕生日を祝ってくれる?』

『うん!毎年絶対、僕が大人になっても祝ってあげる。 僕、パパの事大好きだから!』

『ブホォォォッ!(鼻血出力過去最大) 君は、パパの天使だよ・・・。
我が人生、一片の悔いも無し!』

コトリ、と首が傾き。椅子に寄りかかったまま満足そうな表情で固まった親父と。

『うわぁーーーん!! パパ、死なないでぇーーー!!!』

親父の鼻血を真正面から受け、髪も顔も真っ赤に染まりながら泣き叫ぶ俺。

全体的に血に染まった部屋が禍禍しいほど赤く、現場はさながら地獄絵図のようだったと、事件を知るものは言う。偶然通りがかったグンマもあまりの恐怖に泣き出し、駆けつけたドクターがその泣き顔についつい興奮したり、元凶に激怒したり、秘書連中が辞表を書き始めたり、と騒動はどんどん大きくなり、結局親父の治療が始まったのは、鼻血が過去最大出力で噴き出してから2時間後のことだった。

ヤツはその後一週間ほどは生死の境をさまよい、祖父の時代からガンマ団で働いていた古参の幹部が、

『戦場では不死身と言われた総帥が…年端もゆかぬ御子息の満面の笑み(+「大好き」の告白付き)を浴びて重体だなんて…』と情けなさに震えていたというのは有名な話。


…まぁ、あまり美しい思い出とは言いがたいが。
そんな時も、あったのだ。打算も含みも途惑いも無く、素直にパパ大好きなんて言っていた日々が。誕生日を祝えていた頃が。


『パパの誕生日はね、『パパ大好きの日』なんだ。
・・・シンちゃんはこれからも、パパの誕生日を祝ってくれる?』

どこか恐る恐るとでも言うように、尋ねてきたマジックの顔が浮かぶ。
ガンマ団の実情、凄まじいまでの破壊の力を持つ秘石眼、それを両目に持つ自分のこと、世界を征服しようとすることの意味と、そのために流された血。
いずれ俺がそれらすべてを知る日が来ることを分かっていて、それが親子の決定的な断絶に繋がるかもしれないことも分かっていて、それでも、親父はあの時、その日が訪れれば何の拘束力も持たない、幼い子供の口約束に、縋ろうとしていたのかもしれない。


『これからも、パパの誕生日を祝ってくれる?』


血が繋がってないから、実の息子じゃないから、
俺にはもう祝って欲しくないってのかよ?なぁ。


********************************************************************************



気付いたら眠ってしまっていたようだった。
時間を見ると叫びつづけていた時から、1時間半が経過していた。
やばい!と慌てて飛び起きる。今日はこれから、E国に向かって、残党の調査と、必要があれば追討の準備をするはずで。
今のうちに少しでも進めておかなければ、12日には間に合わない。
そこまで考えて、ふと気付く。

12日を、空けておく必要はもうないのだ。

『シンタローは忙しいだろうから、今年の誕生日は気にしなくていいよ』

当の本人から、そう言われている。無理をしてその日を空ける必要も、誕生日を祝ってやる必要もないのだ。12日に赤いペンで丸をつけられた12月のカレンダーが、昨日よりも色褪せて見えた。

「馬鹿か、俺は…」

寂しい、なんて、そんなこと。
気付きたくもなかったのに。

眠気も何もかも吹き飛ばすように、少し乱暴に髪を掻き回す。
よし!と自分に気合を入れて立ち上がる。
予定があろうとなかろうと、仕事は一刻も早く解決しなければならないのだ。
依頼人のため、ではなく、何よりもそこで暮らす人々の為に。彼らの笑顔を守るために。

「…にしてもキンタローのヤツ、何で起こしてくれねーんだ…?」

服の皺を引っ張ったり、赤くなった眼を濡れたタオルで冷やし、腫れを誤魔化そうとしたりしながら責任を、最近から補佐官を務めてくれている従兄弟に転嫁して愚痴る。
突飛なところにいたわけでもあるまいに、何故呼びに来てくれなかったのか?
時間には正確で、上に馬鹿が付くほど正直で真面目、という第一印象からは全く窺えなかった性格をしている従兄弟なのだが。

「まさかアイツも昼寝で寝過ごしたか…?」

無さそうでありそうな可能性を検討してみる。
予想外のところで、人生経験の無さと子どもっぽさを披露してくれる、なかなかに愉快な従兄弟である。
その責任の一端は自分にもあるといえるのだが、彼のそんなところは、何と言うか、可愛らしい。
あれはあれで、アリだよな、うん。と頷きながら、自分の顔を鏡でチェックする。腫れもよくよく見なければ気付かない程度には引いたようだ。

「うし!行くか!」

キンタローが寝てたら起こしてやんなきゃなー、あーでもアイツも最近疲れてるみたいだし、今日は俺一人で行って休ませてやろーかなー、などと考えながら入り口まで向かう。
中からは、自動ドアのようになっているので、ろくに前も見ずに一歩外に出たとたん、何かにぶつかった。

「っぶ! なんだぁ!?」

俺にぶつかってくれやがったモノを見上げて、その正体を確認した途端、俺は部屋に引き返したくなった。


マジックが、どこか困ったような、戸惑ったような表情で俺の前に立っていた。
ドアなんて、本人確認のセキュリティがあったとしても、その気になれば開けられるだろうに。
部屋の前で立ち尽くしていたのか?
俺に会うのを、迷っていた?
それは、どうして?

「…シンちゃん、あのね…?」

とりあえず親父を部屋に入れて俺も戻ってから、親父は椅子に、俺はベッドに座り込む。そうして親父は意を決したように口を開く。
こんな風に途惑った様子の父親を見ることは、そう無い。いつでも自信に溢れて、自分の行動に迷うことの無い父親だった。少なくとも、自分の前では。

迷う様子など少しも見せなかった。いつも、自分にはそれが悔しかったのだけれど。
弟を幽閉することを決めたときにも、父は逡巡も苦痛も、見せなかったから。
…本当は迷っていたのだろうか。苦しんでいたのだろうか。
今のように。見せなかっただけで。

弟を愛していないわけじゃないこと、今では知っている。

「…何? 早く言えよ」

これからすぐに仕事だから、話があるなら早くしてくれ、そう続ける。
慣れない空気に落ち着かなくて、それを誤魔化すように、振り払うように、つい口調が荒くなる。

「仕事の事なら大丈夫だよ。キンちゃんがもう向かってるから」

「はぁ!? 一人で!? 何で起こさないんだよ!!」

「あの子も心配しているんだよ、お前の事を。もうずっと、休む時間もろくにとっていないだろう? そんなことでは体を壊してしまうよ」

たしなめるような口調に頬が赤くなるのが自分でも解った。
自分の無力さを、指摘されているようで。
そんなつもりじゃないのは重々承知しているのだけれど。
長年のコンプレックスがいまだに尾を引いている。

「大分休めたから、もう平気だ。これからすぐに向かう。
何かあったときにキンタローだけじゃ対処できないかもしんねーだろ」

「あの子はお前が思うよりもしっかりしているよ。 お前はもう少し人に頼ることを覚えたほうが良い」


他人に頼ったことなど一度もなさそうな男にそう言われるのが、どうしても苦痛に感じてしまう。比べても仕方ないということを解っているつもりではあったのだが。


あの従兄弟が一人でも大丈夫だということは、理解していた。
今では、誰よりも多くの時間を共に過ごしているのだ。
それでも、必要以上に子ども扱いしてしまうのは、必要とされていると感じたかったからなのかもしれない。

すべてが明らかになって、血の絆なんてものが弟とも、従兄弟とも、叔父たちとも、この目の前の男との間にも存在しないことが分かって。
人間ですらないかもしれない自分の、一族の中での身の置き場に迷って。

家族から、必要とされたかった。
間違い無く、お前は自分達の家族なのだと。
あの島での父の言葉、自分もまた彼の息子なのだと言ってくれた言葉を。
今になって不安に感じていた。
無理をしてまで頑張るのは、他人に任せ切ることが出来ないのは、人を信じられないからじゃない。自分に、その下す判断に自信が持てないからだ。


何か起こっても、すぐに次の手を打てるように。
俺が間違えたとしても、被害を広げることの無いように。


一番子どものままなのは、俺。



それも、分かっていた。




「お前の事が心配なんだ、みんな。此処に来たのはさっきのことを話したかったからだよ。 お前が、誤解しているといけないと思って」

「…誤解って?」

「私がお前に祝ってもらいたがっていない、と思っているんじゃないかってね」


図星。


誤魔化せそうに無かったから正直に話すことにする。
どうせ俺の考えなんてこの父親にはお見通しなのだろう。


「…そーじゃなかったら、何だって言うんだよ? 毎年毎年しつこいくらいに祝えって煩いくせに。 戦場にまで押し掛けて祝わせてやがったじゃねーかよ。それが、」

今年に限って。
続きは、言葉にならなかった。


「今までお前と過ごしたどんな時にも、今ほど忙しくは無かったよ」

言っただろう?お前が心配なんだ。


頬にその大きな手を伸ばして、包み込むようにしながらそう言った父の瞳には、嘘が無いように思えた。昔から自分に対して、隠していることは数多くあった父親で。
けれど、結果的に嘘になることはあっても意図的に嘘を吐くことは無い人だった。
嘘を吐くよりも沈黙を選んでいた。

そんなところばかり不器用な、自分達の父親。


「家族をもう二度と失いたくは無いんだ。 あの時ああしていれば、なんて自分の愚かさを悔やむようなことを、繰り返したくない」


その言葉にハッとする。
完璧な人じゃないこと、わかっていたつもりだったのに。
俺はいつでもこの人の弱さを忘れては、傷付ける。


この人だって迷ったりする。誤解を恐れたりする。
息子を傷付けることを恐れて、なかなか扉を開けなかったりもするということ。

俺だけが悪いわけじゃなくて。
この人だけが悪いわけじゃなくて。


家族だから。大事な人間だから。
迷ったり、恐れたり、する。


「そっか…。心配してくれて、サンキュ。 何か、色々、悪かったな、ヤな態度とって」



不覚にも再び涙腺が緩みそうになって、慌てて下を向きながらそう言う。
その拍子にマジックの手が俺の頬から離れる。


助かった。

なんとなくそう思う。触れられたままなのは落ち着かない。
嫌なわけじゃないけれど、なんとなく。
あの島から帰ってきて以来、父に触れられるのはむず痒いような感触を俺に与える。セクハラは当然問答無用で眼魔砲だが。


「いいんだ。私も言葉が足りなかったと後から気付いてね」

グンちゃんから叱られてしまったよ、と父は楽しそうに続ける。
おとーさま、今の言い方じゃシンちゃんが誤解しちゃうよ!ってね。


父の似てない物真似に、ようやく俺にも笑みが浮かぶ。
自分が思うよりも、自分は家族に愛されていて。
気付けなかった、たくさんの優しさが愛しくて。


やはり、総帥という重責に、変えようとするものの大きさに、俺は余裕を失っていたのだと、そう思う。




「そ・れ・に!誕生日は『パパ大好きの日』だからねー。 シンちゃんとパパにはこれからもっと大事な日が待っているから! 誕生日は祝いたいと思ってくれるシンちゃんの気持ちだけでジューブンだよ!」

今までのどこかしんみりとした空気をブチ壊すような、親父のノーテンキな声。

「んあ? もっと大事な日?」

予想外の言葉に思わず思考が飛ぶ。

そして気付く。

「そっか。そーだよな。 コタローの誕生日のほうがもっと大事だな!」

この父親も自分に対しては少しだけ子離れして、コタローに対しては父親らしくなったじゃないかと嬉しくなる。


「違うよ! コタローの誕生日は確かに大事だけど、それは家族みんなにとって大事な日でしょ? シンちゃんと私にとって特別な意味を持つ日があるんだよ」

それにしても少しも躊躇い無く私の誕生日よりもコタローの誕生日を選んだよね。勝てるとは思ってないけど、せめて同じぐらい大事な日とか言ってくれないかな。
グチグチ煩い父親はとりあえず無視するとして。


世界が祝うべき、最愛の、さ・い・あ・いの!!コタローの誕生日をアンタと同列に並べられるかってんだ。


しかし、そうすると他に大事な日なんて思い浮かばない。
…俺とアンタにとって大事な日?



「…正月とか?」

アンタ餅つきとか羽子板とか好きだよなー、この日本フェチめ。と続けるとオーバーに嘆いて見せる。

チッチッとわざとらしく指を振り、舌を鳴らした後。

「ホントーに大事な日を忘れてるみたいだね、シンちゃん。ちなみに私は餅つきも羽子板も好きだけれどシンちゃんの着物はもっと大好きだよ」


要らん知識。可及的速やかに忘れることにする。


「なんだっつーんだよ! 言うなら早く言え!」


段々腹が立ってきた。
その俺の気配に気付いたのか、親父が仕方ないなー、と言いたげな表情で目を細め、その日を告げる。
つーかその顔やめろ。マジでムカツク。



「クリスマスだよ!!」




……。はぁ!?



「だからコタローの誕生日だろ?」

「ちっがーう! コタローの誕生日は24日のクリスマスイブでしょ? みんなでコタローの誕生日を祝った後のクリスマス当日が二人にとって大切なの!」


だからなんで? 無神論者のクセに。
当日は二人でミサに行こーね!とでもいうつもりか?


「その顔見るとまーだわかってないみたいだね、シンちゃん。 クリスマスといえば恋人達の祭典! 熱く燃え上がる二人の愛! 気持ちも体も熱くなっちゃう聖夜だよ!!」






………………………。






「あ、あ、あ、あ、アホかーーーーーーーッッッ!!!!!」







思わず本部全体に響き渡りそうな大声で叫ぶ。付いてて良かった防音設備。
もちろんこんなことのために用意したわけではないのだが。

本来は常に騒がしいガンマ団での俺の安眠を守るためのものなのだ。
眠るためだけの部屋で、総帥室とは別の仕事部屋や休憩室も他にある。
そんなことはどうでもいい。俺の動揺も著しい。
というか俺はなんで動揺しているのか。このアホがアホなのは周知の事実だというのに。


しかし呆れて口もふさがらない。何が聖夜だ。何が恋人達だ。アホだ。アホ過ぎる。
そうか、アホはアホでアホだと知っていたが、あまりのアホさに動揺したのか俺は。

繰り返すと本当にマヌケな響きだな、アホ。

「いつ俺とアンタが恋人同士になったってゆーんだよ! アホか! つかアホめ! 今までのセクハラだけでは飽き足らず何をゆーかキサマは!!」

「もちろんシンちゃんはパパの大事な息子だけれど、それとは別に、恋人としてはそろそろもうワンステップ進んでも良いかなーって思って。 心の繋がりは前からあるから次は体の繋がりも必要だよね? 親子としてのスキンシップだけじゃなく恋人としてのスキンシップも深めていかなきゃ!」


「お・れ・の! 話を聞けーーーーーーーーーッツッツッツッツ!!!」



「ん? 何かな? パパはいつでもシンちゃんの話を聴いてるよ?」

「今! 今まさに! 聞いてねーんだよ俺の話を!!」


俺の俺による俺のための涙の訴え。


「あれ、シンちゃん泣いてる? パパの愛に感動した? それとも初夜の心配? 大丈夫だよ、パパ上手いから」


「そーゆーことを言ってんじゃねーーーーーーーー!!! も、もう頼むから俺の話を聞け! 聞いて下さい! そんで理解しろ! 俺とアンタは親子で、それ以上でも以下でもない!!!」


「やだなー、シンちゃんたらまたそんなこと! 恥ずかしがっちゃって! 可愛いんだから、もう!」


「…アンタと話すのヤになってきたぞ、俺は。頼むからさぁ、俺の話を聞け!
俺とアンタは親子なの! そんだけ! そんだけなの!!」


目の前の男が黙り込んだので、俺はようやくふざけるのをやめたかと思って安堵した。


が。


「…ホントにそれだけだと思ってる?」

顔を覗き込まれて、低い声で囁かれて。
息が詰まる。
声が、出なかった。
考えるまでもない、質問なのに。



「っぐ!!」





「 ……が、眼魔砲―――――――――ッ!!!」









壁を破り、爆風と共にマジックがふっとんでいった。
「シンちゃーーーーーーーーーーーーーん!」と徐々に遠くなる悲痛な叫び声付きで。





…うん!
これで良いんだよな!これでいつもどおり!
さっきまでの空気がなんかちょっと変になってただけで!
なんかちょっと動揺とかしちゃっただけで!!
なんかちょっと赤くなんかなっちゃったりしただけで!
別に何でも無いし!!!全然!いやホントに!








まぁしかし、アレだ。
少なくとも俺は、この頬の赤みが引くまでは。

この部屋から、出られないようだった。







なぁ。


クリスマスに、アンタがもう少しマトモなら、俺は一緒に過ごしてやらんでもない。
いや!ホニャララの祭典とかそういったことは関係無く!!
家族として!あくまで家族として!


…コタローの誕生日を家族みんなにとって大事な日だと、言ってくれたから。
数年前までは考えられなかった台詞。


「少しは父親らしくなったじゃん…」

くすぐったいような気持ちになる。
こうして、すこしづつでも。
俺達は家族になっていく。


今は眠ったままの弟に語り掛ける。


「コタロー、お前が起きるのをみんなが待ってるよ」



君が起きる頃には、少しでも平和な世界を。


笑顔が、見たいから。
君が心から笑える世界を。あの島の子どもにも、君にも、世界中の子ども達にも。




そして。




願えるならば。
罪を犯した人間にも、等しく神の祝福を。




自分の大事な人達には、幸福を、祈ってやまないけれど。
なあ、もしもアンタが地獄に堕ちると言うのなら、



「一緒に堕ちてやるぐらいの覚悟は付けてるんだぜ…?」




…プレゼントは、グンマにでも預けておいてやろう。
世界平和を目指して、俺はアンタの誕生日も任務に勤しんだり、休息したりするけれど。





祝う気持ちは、本当だから。





xc



花言葉だとか、この花束の意味だとか、そんな事まったく知らなかった。
ただ、幼い頃から父の望むままに、それを贈る事は、ほとんど習慣のようになっていた。

「パパ大好き~」と、なんの躊躇いも照れもなく言えていた頃は勿論。
自分の家庭が、他の家庭とかなりの割合でずれている事に気付いてからも。
反抗期に入り、父の愛情表現がかなりウザイと本気で思うようになってからも。
弟が生まれ、父との間に溝ができてからも。

この日には12本の白薔薇の花束。

勿論、この年の、その日も同じものが用意された。
昼時には必ず、用が無くともシンタローの顔を見に現れる父に渡す。
感動してシンタローに飛びついてくるマジックに眼魔砲を一発。
それで終了。後は祝われる当の本人が用意した豪華ディナーを家族で取って、マジックの誕生日は終わる。
そのはずだった。


朝、総帥室へ花束が届けられた場所に居合わせた、知識とウンチクの塊の従兄弟に、その意味を教えられるまでは。

「………キンタロー」
「何だ」
「今の話、本当だろうな…」
「当然だ。そもそも新婦のブーケ、新郎のブートニアの謂れともいえる…」
「二度説明しなくていい。よ~く分かったぜ」
「そうか。それで…」
「あんのクソ親父~~!騙しやがったな~~!!」
「待てシンタロー、伯父貴は別にお前を騙したわけでは無いと思うが」
「ああん?」
「花束の意味を別の事に置き換えてお前に伝えていたわけではない。お前もその意味を尋ねた訳ではないのだろう?」
「俺が悪いとでも言いたいのかよ?」
「いや、お前の『騙された』という認識がそもそも間違いなのだと…」
「うるせえっ!報告が終わったんならさっさと研究室に戻りやがれ!!」

室内に響き渡る大音量で、キンタローの言葉を遮る。
怒りの形相のシンタローに背を向け、キンタローは心の中で密かに伯父に手を合わせていた。

(伯父貴、申し訳ない…。まさかとは思うが、もしもの時は成仏してくれ)

だが、一応できる限りのフォローはしておくべきかと振り返る。

「シンタロー、『それ』はどうするつもりなんだ?」
「どうするつもりだってぇ?決まってるじゃねえかよ。親父の目の前で眼魔砲で灰にしてやる!」
「……お前の自由だがな。だが、シンタロー」
「何だよ、もったいねえとでも言いたいのかよ」
「そうではなくて、だな。12本の意味ごと灰にするつもりか?」
「それは…」
「まあ、お前の自由だがな」

そう告げて、今度こそキンタローは総帥室を後にした。


静まり返った職務室、シンタローは怒りの余り沸点に達した血圧と動悸を抑えようと、椅子に座りなおす。
少なくとも、キンタローが退室間際に発した言葉で僅かに落ち着きを取り戻してはいるが。

「12本の意味だって?そんなモン…」

毎年、当たり前のようにやってくる誕生日。
幼い頃、シンタローが父にプレゼントは何が欲しいか初めて尋ねた時。
しばし考えて、父は言ったのだ。

『そうだね…シンちゃんがくれるなら何でも嬉しいけど、薔薇の花束がいいな。12本の』



「あの頃は、俺達普通に親子してたじゃねえかよ…」

まだ幼い子供だった自分に、父はとんでもない要求をしたものだと思う。
今となっては、確かに違わないのだが。

「どうすっかなー、コレ」

溜息を一つ零して、シンタローはデスクの上に置かれた花束を見つめた。

キンタローに言った通り、マジックの目の前で灰にする…というのも一瞬本気で考えはしたが。
豪奢な花束を前に、その決意は揺らぐ。
花束以外のプレゼントを欲しがらない父の為に、いつも最上級の薔薇を用意した。
二人の関係が、弟によって微妙になってからも同じだった。
もったいない、と思った。
金銭の事ではなく、これを用意し続けた今までの自分の気持ちまで、灰になるような気がしたからだ。
少なくともマジックに、そう受け止められてしまうかもしれないのは、嫌だった。

「ほんっとにクソ親父だぜ…」

忌々しげに呟いて花束を手に取ると、シンタローは勢いよく立ち上がった。





*******************************************


ガンマ団本部。
総帥室への通路を歩く男が一人。
かつて冷酷非道の覇王と言われた前総帥、マジック其の人である。
世界規模のファンクラブを持ち、アンケートの「ウザイ」という評価とは裏腹に、団の内部に隠れファンが根強く存在する男。
息子に対する変態的な愛情表現さえなければ、と団内部で囁かれる男。
その彼に、パタパタと走り寄るのは、かつて甥だった実の息子。

「おとーさま~!」
「やあ、グンちゃん。今から実験室かい?」
「うん、キンちゃんがもうすぐ戻ってくるから…。あれ?ティラミス達は?」

いつもマジックに付き従っている二人の秘書の姿が見えない。
キョロキョロと辺りを見回して、グンマはポンと手を打った。

「そっか、今日は二人ともプレゼント受付で忙しいんだっけ?」
「ははは、二人とも朝から大忙しだよ」
「だよね~。今年もまた倉庫一杯になるかな?」
「グンちゃん、くれぐれもシンちゃんには…」
「分かってるってばおとーさま。今年こそシンちゃんには絶対内緒だよね」

人差し指を唇に当てながら、グンマは去年のシンタローの不機嫌顔を思い出していた。

「ホント、シンちゃんてば素直じゃないんだから、おとーさまも大変だよね」
「いやいや、そこがシンちゃんの可愛いところで…おや」
「あ、キンちゃん」

廊下の向こうから二人の元へキンタローが歩いてくる。
一見普段通りだが、二人の姿を見つけた途端、やや早足になる。

「伯父貴…」
「どうしたのかな?」
「伯父貴、俺は…なんとお詫びすればいいのか…」

拳を握り締めて俯く彼に、マジックとグンマは顔を見合わせた。

「どうしちゃったの?」
「何か私に謝らなければならないことでも?」
「実は…」
「おいそこのクソ親父!」

キンタローの懺悔を遮ったのは、花束片手に眦を吊り上げて仁王立ちする現総帥、シンタローだった。

「シンちゃん!その花束はパパへのバースディプレゼントかな?今年はより一層ゴージャスだね!」

シンタローの姿を目にした途端、飛び掛らんばかりの勢いでマジックが尋ねる。

「そのつもりだったんだけどな。キンタローに聞いたぞ、このヤロー」
「聞いたって、ああ、この花束の意味の事か」

それでキンタローが謝ろうとしていたのかと、マジックは納得した。

「何の話?」

展開が掴めず、興味心身のグンマと、伯父の身を案じているキンタローにマジックは行きなさいと手を振った。

「二人とも、これから実験だろう?これは私とシンタローの話だから、もう行きなさい」
「…はぁ~い」
「はい」

渋々といった様子で二人の姿が消えてから、マジックはシンタローに向き直った。

「あ~あ、バレちゃったか」
「このクソ親父、『あ~あ』じゃねえだろうが」

二人っきりになった途端、僅かにシンタローの声から刺々しさが消えた。

「アンタが欲しいっつーから、毎年毎年バカの一つ覚えしてきて…」

「いいじゃないか、私は本当にそれが欲しかったんだよ」




「いいじゃないか、私は本当にそれが欲しかったんだよ」




微笑んでそう言うマジックに、一旦は落ち着いたはずの怒りと口惜しさがまたメラメラと蘇ってくる。

「あのな!俺は…」

危うく本音を言いそうになって、止める。
言ったところで過ぎた年月は返らないし、また父が付け上がるのは目に見えている。

『俺は俺が選んだプレゼントを贈りたかった』なんて、言えるはずもない。

「何々?」
「何でもねえよ!」
「そう?ところで、今年はそれは貰えないのかな?」

シンタローの怒りは意に介さず、マジックは息子が手にしたままの花束を指差した。

「あ!?やっぱ欲しいのかよ?」
「勿論!パパは今日この日を364日前からどれだけ待ってたか!」
「あのな…」

まったくこの男はどこまで本気でものを言っているのだろう。
いや、多分全部本気だ。

ハァ…と、本日2度目の溜息を吐きながら、シンタローは花束を差し出した。
その様子に、マジックはいつになく素直な息子に首をかしげる。

いつかその意味を知った時、彼が激怒するだろうことは予想していたが。
激怒というよりは、呆れている。
それはそうかもしれない。
この花束の意味を最初から彼に教えなかった。
初めて自分がシンタローにこの花束を求めた、幼い頃から。
正直、覚悟はしていたのだ。
目の前で眼魔砲で花束を灰にされるか、自分が眼魔砲をくらうか。
どちらにしても、覚悟はしていた。
それなのに、目の前の彼は素直に自分に花束を差し出してくる。

「オラ、いらねーのかよ?」

僅かな間だが、硬直していたマジックの手に、シンタローは花束を押し付ける。
マジックは、その瞬間のシンタローの瞳に走った笑みに気づく事はなかった。

「あ、ああ。ありがとう」

受け取って、マジックは花束を見つめる。
おかしい。
質の良さが一目で分かる花だけに、リボンすら巻かれていない。

「あ、シ、シンちゃんっ!」

花束を見つめていたマジックの視線が急に宙を泳ぎ、ワナワナと花束を抱える手が震えるのを見て、シンタローは内心してやったりとほくそえんだ。

「なんだよ?」
「ちょ、ちょっとコレ!足りない!!12本じゃ無いじゃないか!?」
「ああ、今年からはこれでいくからな。じゃ、俺は仕事に戻る」

踵を返したシンタローの右手には、ついさっき花束から抜き取った12本目の白薔薇が握られていた。
リボンが結ばれているのは、花束に巻かれていたものを付け直したのだろう。

「シンちゃんっ!ソレ!ソレもちょうだいっ!!」
「やだね」

振り返らずに、シンタローは手に持った白薔薇を振ってみせる。

「1本っ!1本足りないぃ~~~っ!!」

背後で悲鳴を上げるマジックに、「日本の怪談かよ」と呟いて、シンタローは総帥室へと戻ったのだった。

ちなみにマジックは。
シンタローの後を追おうと一歩踏み出したところを、いつの間にか現れていた秘書二人に捕獲され。
ファンから贈られたプレゼントのお礼として送付される
『撮り下ろし☆マジカルマジック・ビデオレター』なる物の撮影に連行されたという。


その夜。
表面上はつつがなく夜の身内だけのパーティーを終え、マジックは寝室に戻った。
何も知らず、無邪気に自分を祝ってくれるグンマと、そして一日中自己嫌悪に陥っていたらしいキンタローの手前、花束の件について、シンタローには何も言えず。
1本減らされたとはいえ、プレゼントとして花束を貰えた事は喜ぶべき事なのだが。
プレゼントとして貰えたものの、自分が欲しかった12本の花束ではないことは…。
何とも言えない気持ちのまま、11本の白薔薇を飾った花瓶を手にマジックは寝室へと入った。

ベッドサイドに花瓶を置こうとして、そこに置いてある物に気付いた。
枕の上に無造作に置かれているのは、リボンが結ばれた1本の白薔薇だった。
シンタローからもらった花束から抜かれた1本だということは、一目瞭然で。

「シンタロー…」

名を呼ぶ声も、白薔薇に手を伸ばす指も震えている。

「最後の1本、12本目もパパにくれるのかい?」

その呟きに、答えは返ってこないけれど。

「いつの間に…。本当にあの子は、素直じゃないというか、何というか…」

そう言いながらも、マジックは自分の頬が笑みの形に緩んでいくのを止められなかった。
最後の1本を取り上げ、その花弁に唇を落とす。
ゆっくりとそれを花瓶に差し込みながら、マジックは恐らく自分の寝室で寝ずにいるだろうシンタローを思い浮かべる。

「さて、どうしようか」

シンタローの寝室へ押しかけて、仰々しく礼の言葉を告げ、いつものように熱烈な求愛でもしてみせようか。
それとも。
今夜はこのまま、シンタローの送ってくれた12本の花束に想いを馳せたまま、眠ろうか。



cxz

本当のことを言えば、もうこの歳になると誕生日なんて大して楽しみでもない。

確かにファンから山のようにプレゼントが届いたり、大々的にパーティーをやったりするのは楽しいけれど、本当に私が求めているものはそれではないのだからね。

それは勿論、シンちゃんが私のために1日休みをとってずーっと一緒にいてくれるのなら話は別だけれど。



「親父、誕生日のプレゼントは何がいいんだ?」

突然そう聞かれて、私は目を丸くしてしまった。

私の誕生日も差し迫ったある12月の昼下がり。
シンちゃんが珍しく私の部屋へとやって来て、うろうろしていたから、何かなー?と思っていたら、いきなりのこの発言。

「…何馬鹿面してんだよ、何がイイかって聞いてんだけど…」

「シンちゃん、パパの誕生日ちゃんと覚えててくれたんだ!!嬉しいよ~!!」

嬉しさのあまり抱きつこうとすればひょいと身をかわされてしまう。

チッ…

「アンタが毎年毎年ウザいくらいに言ってやがるから覚えちまったんだよ…で、何がいいんだ?」

シンちゃんは腕組みをして、椅子に座る私を机の向こうから見下ろして、思いっきり俺様オーラを発しながら私に尋ねた。

どうしていつも私の誕生日のシーズンになると面倒くさそうにしていたシンちゃんがいきなりこんなこと聞くのかとちょっと不思議に思ったけれど、多分、私からのしつこい『誕生日だよ!』攻撃回避とプレゼントを考える手間を省く為だろう。

正に一石二鳥。

シンちゃんも大人になったナァ…

とにこやかに息子の成長を見守る父親な私。

パパの希望を聞いてくれるのは嬉しいんだけど…
この手間を省く為っていう感じが…うーん、ちょっとフクザツ…

「じゃあね、じゃあねッ!!パパのお誕生日はシンちゃんが丸一日パパに付きっ切りでデートして!!」

「ああ~!?お前の誕生日は祝日か何かか!?フツーの平日だろうが、このボケが!!俺はオシゴトなの!!正義の味方は忙しいのッ!!アンタの為に丸一日無駄に出来るほど暇じゃねぇんだよ!」

「大丈夫!!パパのお誕生日を世界的祝日にする準備は整ってるから!!今から各方面に電話してすぐに12/12を祝日に…」

「やーめーんーかーー!!!」

電話に伸ばした私の手に向かって眼魔砲準備万端☆なシンタロー。

ああ、そんなに顔を引きつらせて…可愛い顔が台無しだよ!
怒った顔も勿論可愛いけど!!

「…とにかく、それは却下」

「…シンちゃんのケチー…」

しぶしぶ手を引っ込めて、不満げな顔をシンタローに向ければ、イライラとため息をつく息子の横顔が目に入って。

そこには明らかに疲れの色が見え隠れしていた。

私の前では疲れているのを見せたくないんだろうけど、私にそれが分からないと思ってるのかな、シンちゃんは?

「…じゃあさ、言ってよ」

「あぁ?」

「パパ大好きって、言って。シンちゃん忙しそうだからそれで良いよ、私への誕生日プレゼント」



…昔、もう随分と昔だから、きっとシンちゃんは覚えていないだろうけれど、私はちゃんと覚えているよ。

最初に大好きって言ったのは、おまえだったんだから。

私のことを好きって言ってくれて、可愛い顔で笑いかけてくれて、それでパパはシンちゃんにメロメロになっちゃったんだよ?

だからね、今のシンちゃんが、もう一度大好きって言ってよ。



呆れ顔で私を見ているシンちゃんを眺めていたら、またため息を吐くのが分かった。

「…もういい、アンタに聞いた俺が馬鹿だった。プレゼントは俺が選ぶ。文句は言わせねぇからな!」

ビシっと人差し指を突きつけて、扉を豪快に閉めて、私の部屋を出て行ってしまった。

シンちゃんが出て行ったドアを見ながら、自然と笑みが零れる。

大好きって言った方が絶対楽なのに…そういう不器用なところも好きだよ。

ただ、どうしても無理をしてしまうシンちゃんの体は心配だけど…

よし!
シンちゃんも随分疲れているようだったし、折角だから12/12はお休みになるようにしてしまおう!

言葉が欲しかったのは本当だけど、シンちゃんが私のことを考えてプレゼントを選んでくれるのも同じくらい嬉しいから、ついつい表情が緩んでしまう。

「…プレゼントは何かな…?」

内線電話の受話器を手にとって、ちょっと笑って呟いた。

誕生日の当日を楽しみにしてくれて、ありがとう、シンちゃん。
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