忍者ブログ
* admin *
[220]  [221]  [222]  [223]  [224]  [225]  [226]  [227]  [228]  [229]  [230
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

mm.






いつでも貴方のことばかり








オペラ座の怪人を鑑賞したマジック様(53歳)

「ううっ。グスっ。狂気なほどの純愛は死という結末をもって幕を閉じるんだね…」

「まるでパパとシンちゃんのような純愛っぷりだ。もちろんパパがファントムでシンちゃんがクリスティーヌだよ☆」

手元の人形をなでまわすマジック元総帥(53歳)

「シンタロー…でも安心しておくれ。パパはどんなことがあってもお前をあきらめたり

などしないから…しかしあのラウルとかいう若造さえいなければ今頃ファントムとクリスティーヌは…」

「はっ!もしかして私たちの周りにもそんな輩が潜んでいる!?」









「……伯父貴。取り込み中済まないがこの書類にサインを…」


「そうだったのか──────!!」


「は?」


「そうか…お前が……こんなところに……よぉし決闘だ!!私がかったらシンタロ

ーの前から消えてもらおう!!」





「……………。」

(伯父貴の様子がいつも以上におかしい…これは世間で有名なアレか?アレなのか?……遂にきてしまったか。まぁそろそろだとは思ったが…こんな惨めな姿をシンタローに見せるわけにはいかない。)


「……この俺がここで息の根を止めてやる。」


「………フフフ。止まるのはお前のほうだよキンタロ─。」

腕をくみ、自信げにキンタロ─を見おろすマジック氏。


二人の秘石眼がきらめく。

「「眼魔砲────!!」」












部屋のそとにはシンタローとグンマ。

「………あいつらナニやってるワケ?」

「オペラ座の怪人ごっこじゃない~?シンちゃんも見に行けばよかったのに。」

「俺は誰かさんと違って忙しいんだよ!」








荒々しくマジックの部屋のドアを開く総帥様。

「テメェらもいい加減にしやがれ!仕事しろ、仕事!!」



「シンタロー!!くるんじゃない!俺が始末する!」


「シンちゃん…!パパ負けないからね。例え地獄の業火に焼かれてもそれでも…」


「天国にでもいってきやがれ、眼魔砲────!!」














【グンマの日記】

その日から一週間お父さまは本当に天国に逝きかけました。

キンちゃんはシンちゃんにお説教をくらって1ヶ月オヤツ抜きでした。僕だった

らしんじゃうよ…

でも僕は知ってる。シンちゃんはよく「忙しい」っていうけどそれは僕らのため

に毎日必ずオヤツを用意してくれて、なんだかんだいってお父様の相手もしてる

からなんだって。無理してほしくはないけど、こういう忙しさだったら僕はいいか

なって思うんだ。








2004/




BACK


PR
kk



香り



ごろり。
ブルーカバーに掛かった読みかけの本を、肌触りの良いソファの上で寝読みする。
行儀は悪いが、今は常に威厳と尊厳を持ち始終緊張感に縛られる総帥任務から離れた、やっとのフリー時間。
こんな時まで、小さい事を咎める無粋者もいない。


いや、一人いるか。妙に行儀に煩いヤツ。
しかも目の前に。


何でも専門分野の研究の一つで、すっげー困難だったものらしかったがやっと目処の立ちそうな結果が導き出せそうだとかで、
コッチの脳みそがショートしそうな程意味不明な横列の報告書類を、
四方八方に―――けれどごちゃごちゃにしてるんじゃなくて綺麗に―――並べて、ノートパソコンと対峙している。
この部屋の主で、数年前まで俺と同体だった従兄弟。
従兄弟と言うより双子が近いんじゃないかと思う。
見た目は全く似ちゃいないけど。
俺とキンタローは任務以外でも一緒にいる。こうしてプライベートでも。
理由は『ずっと一緒に居たいから』と至ってシンプル。
当然と言えば当然だ。俺達は≪恋人同士≫だし。
好きなら常に一緒に時間を共有したいって思うだろ?
それを記憶からは薄れた誰かに言ったら、そいつには「常にってのは嫌だ」とか「飽きる」「うざったく感じる時だってある」
と言われた。
確かにあるな、そう感じる時。
けどそれは仕事の時には思っても、こうしたプライベートではうざいと感じた事はない。
それはコイツも同じだろう。
じゃなきゃ俺がコイツのトコに行かないと、自分の方から毎日でも来るって事ないよな。
いつもキンタローの部屋にいる訳じゃなく、お互いの気分次第で変わる。
昨日はキンタローが俺の部屋に来た。
それが嬉しくて………悔しい。
あー、馬鹿だ。
どうしようもなく馬鹿だ、俺。
コイツの事、マジで惚れまくっちゃっうなんてさ。
コタローを越える存在なんて、生涯絶対ないと思ってたのに。
コタローが一番のつもりなんだが、………コタローは特別の別格ってヤツで、キンタローは…………最愛?てか最恋??
いや、それもなんだかなー。
理由はよく分からないが、一緒に居ると安心するんだよな。
やっぱ好きだからだろうか。
と、今までパソコン向きだったキンタローの顔が俺に向いた。
こんな事すら嬉しい、なんて。
「何だ?」
「は?」
何だって、何が。
「いや、さっきから人の事を凝視してくるからな。何かと思った」
そういう事か。
特に何もないと答えると、あっさりと納得したらしい。
言えないだろ。見惚れてたなんて。
「邪魔したか、悪ィな」
本はまだ手に納めたまま、よいしょっと声を出して起き上がった。
「構わない。たった今終わらせた」
言いながら背後に回って俺の肩を抱くのは、キンタローの癖らしい。
いつもの事だから驚きはしないが、何かいつも以上に顔を寄せられてる気がする。
僅かに感じるコイツの吐息。
「何だよ?」
「いい匂いがする」
「どこから」
「お前からだ」
俺から?
まだシャワーは浴びてねえからシャンプーの匂いって訳じゃないだろうな。
けど香水類はつけてねーし。
くん、と自分の髪の一房を掬い、鼻先に近付けてみるが特に何も匂わないぜ?
「何の匂いだ?」
「さあな、分からない」
「何だよそれ」
分からない匂いなのに『いい匂い』なのか?
石鹸とか花とか、食べ物の何かとか………それのどれかとかと聞くと、どれとも違うと言う。



結局結構長い時間その体勢が続き、「良い匂いがする」と言い続けてきた。
悪い気は起きないが、すっきりしない問いと出ない答えが尾を引いた。



翌日、おやつに誘いに来たグンマに昨日の事を何となく話すと、最初は「う~ん………何だろうねぇ…」と眉を押せて可笑しい程真剣に悩んでいたが、急にパチンと嬉しそうに手を叩いて身を乗り出した。
「分かった!それってさ、“シンちゃんの匂い”なんだよ!」
いや、だからさ。
「俺の匂いって何の匂いだよ」
「だ~か~らぁ~、“シンちゃんの匂い”なんだって!う~ん…………そうだね、体臭?が一番近い表現かな?」
あんまり表現良くないけど、と付け足す。
体臭ってったって何も匂いつけてないぞ?
「僕もね、感じる事あるもん。シンちゃんから」
結局正確な答えは望めなかった。



悶々としたまま疑問は解けず終いで今日がもうすぐ終わる。
職務から解放された俺の傍にはやっぱりキンタロー。
今日は俺の部屋で一昨日借りてきたビデオ鑑賞。
それももうEDだ。
真っ黒画面に白い文字でキャスティングがスクロールされる。
そんなものは見ても別に面白くない。
興味を失った画面から目を互いに外し、唇を寄せ合う。


―――あ…。


思ったというより気付いた。
『理解した』が的確な表現か?
唇が離れ、銀絃が名残惜しげに泣き別れた。
「……そうか」
「どうした」
「あー、成る程ね」
グンマの言ってた事、こういう事か。
一体何だ。何を自己満足してるんだと眉間に皺寄せするキンタローに90度背を向けて笑った。
「何だ、一体」
「くく……っ、別にィ」


安心出来るいい香りを感じたんだ、お前から。
けどさ、花とか香水とかシャンプーの匂いとかじゃないんだよな。
体臭?ん~、よく分かんねーけど、感じたのは





“キンタローの匂い”





--------------------------------------------------------------------------------
* 風邪はお大事に *



よく晴れた日の事でした。



「え~!?シンちゃん風邪引いたの!?」
「なら見舞いが必「うつるといけませんから絶対に駄目です。キンタロー様。グンマ様もですよ」
「えぇ~!?」
「シンタローの風邪ならうつっても別に構わ「駄目です!いくらお二人の頼みでも駄目です!!
 せめてもう少し熱が下がってからでないとシンタロー様にも負担がかかるんですよ?」
「…はぁ~い……」
「……………」



「あ~……、…だりぃ」
ごろり
寝返りするのも頭に響く。
ギリギリまで全然気付かなかった。
いや、確かに一昨日からなんかだりぃな~とは感じてたけど。
チョコレートロマンスからの書類を受け取って…………………………それからの記憶がない。
突然視界が暗くなったんだっけかな?
……で、気付いたらここ(医務室)に居てこうして寝ている、と。
はあ……、親父が居なくて良かったな。
俺が倒れたと知ったらどうなるか、嫌と言うほど行動パターンが分かりきってるし。
熱は運ばれた時よりは下がってるんだが、まだ絶対安静だとかドクターに釘打たれた。
いくら俺でもここまで体調悪いって理解したら、今後の効率を考えれば今日はもう仕事はしねーんだけど。
下がったってたってまだ38.5分あるし。(倒れた時は39.5分だったらしい)
「だからってせめて簡単の書類の10枚くらい、目を通したいんだがなー…」
それも駄目だと言われた。
反論しようとしても一言話すのにもすっげー労力要って辛い。
何より普段はあのおちゃらけたドクターにあんな真剣な目で押し留められれば、子どもみたいに駄々捏ねられない。
心配してるって分かるからな。
そうは分かっちゃいるしすっげー気持ち悪ィが……………………暇だ………………はぁ…。

カラリ

医務室の扉がやけに慎重に開いた。
幻聴かといぶかしむくらい小さな音。
???ドクターか?
「何だ。起きているのか。……それとも今の音で起こしたか」
あ、キンタローだったのか。
「いや、別に。起きてたし。見舞いに来てくれたのか?」
「ああ。高松には入ってはいけないと言われたが。だからと言ってもお前が倒れたんだ。
駄目とは分かっているが納得は出来なかったからな」
「けど医務室の前には警備兵が数人いたろ」
どうやって入ったんだ。
ガンマ団総帥である俺が弱っているとなると、それを狙っての敵襲とかの心配があるんで警備兵の手配を(ドクターが)した筈だ。
ドクターがキンタローすらここに入ってはいけないと言ったなら、
当然警備兵達にもコイツすら入らないようにも言ったと思うんだが。
「邪魔な奴等が扉の前に居たが瞬時に手刀で気絶させた」
オイオイオイ~~~………そりゃあヤバイんじゃねぇか?後々に色々と…。
何か色々と思うところがあり過ぎてガックリと肩を落とした―――と。
ぐぃ
「!?」
ゆっくりだけど突然にキンタローの胸に抱き込まれた。
何だよ!?いきなりどうしたって……っ!
わたわたと狼狽している俺に、気にせず言ってくれたその言葉。
「俺がいる。いつもお前の傍に俺が居るんだ」
キンタロー……。
「安心して休め。何も気に咎めるな」
仕事の事もそれ以外も何もかも、との言葉が柔らかい。
まるで母親のように俺の頭を優しく撫でた。
…そうだ………いつだってコイツは俺の傍にいる。
嫌と言うほど知ってる筈なのに、こうして改めて教えられると初めて知ったような初々しい想いに駆られるのは何故なんだろうか。
「ん」
小さく頷いて笑顔を見せる。
だってよ。マジ嬉しいし。
俺のこんな表情を見せてやるのはコイツの前だけだ。
「シンタロー」
ああ……、声の音がこんなにも優しい。
きっとコイツだって俺の前でしかこんな声色を出さない。
自惚れじゃねえよ、ちゃんと俺は知ってるんだよ。
大好きな声にふらふらと誘われて、胸に押し付けられていた顔を躊躇いなくあげる。
そんなに強く抱きしめられてた訳じゃない。
「何だよ――――~~~んっ!」
触れた、熱いコイツの唇――――ってえぇ!?まてマテ待て――――!!!!
「ぷはぁ!」
そんなに長くでもないし舌も入れてねえけど、弱ってる身体にはかなり苦しい行為。
軽いソレだけど肩でゼエゼエと荒息を吐き出す。
擦ってくれるキンタローの手が優しい………………………って、おい。
「~~~馬鹿ッ!風邪マジにうつったらどうするんだよ!」
「うつせばいいだろう。うつっても俺は全然構わない。たかが病原菌よりお前が苦しむ姿の方がずっと耐えられないからな」
お前のいち早い回復した姿は俺の為でもあるんだと言うコイツに……俺は……


ゴンッ!

力の限り頭を殴ってやった。
風邪で力全然出てないからそんなに痛くない筈だが。

「何をする」
「大馬鹿者」
「それが殴った相手に言う言葉か」
かなり心外と言った顔で俺を軽く睨んでくるが俺の方何倍も怒ってるんだよ。
何でコイツは分からないんだよ。
頭いいと思ってたが、ホントは馬鹿じゃねえの!?
「そんな事言われて俺が嬉しいと思うのか?お前は」
「思うか思わないかは知らな…」
途端、あ、という表情で固まったコイツは
「すまん」
と一言。
自分がどんな無神経な事を言ったか、やっと気付いたかよ。
「お前が風邪引いたら、今度は俺が苦しいんだよ」
お前が俺の苦しみが耐えられないのと同じで、俺だってお前が風邪で倒れたら辛いんだよ!!
俺の為だとか言って、そんなの押し付けの愛情だ。
いらないイラナイ要らねえよ!!!んな気遣いなんかッ。
きっと今より苦し過ぎる。
「…そうだな。すまなかった。確かに失言だった……」
馬鹿だ…。
「だから泣くな」
は?俺は別に。

ぽたり



え?

ぽたり
ぽたり





ふと言われて気付けば、シーツと俺の手に濡れて出来た幾つもかの大きな染み。
「風邪の所為だ…ッ!風邪の所為で無意味に涙腺が緩むんだよ…ッ!!!」
知らずに涙が出ていた。
俺の事をこんなにも想ってくれるコイツに嬉しさと自己犠牲を何とも思わない愚かさに。
ヤベエ…ッ、止まらねえよ。
キンタローが軽く肩をぽんぽんと叩いて横になるよう促す。
吐き出す台詞は相変わらずキザっぽいのに、他のヤツラなら鳥肌モンの台詞も
コイツからは意図してるものじゃなく天然からだからなのか、そんな感じは受けない。
しつこいようだがしょうがない。
湧く感情は、ただ嬉しいだけ。
「なら風邪を早く治さないとな。お前には泣き顔より笑ってる方が……………俺は好きだ」
「分かってる」
「横になっていればそのうち眠くなる」
俺の手を壊れ物を扱うように、でもぎゅうっと握って傍に居てくれた。
小さい子どもは母親にこうしてもらうと眠れるらしい。
コイツは間違っても俺の母親じゃないし俺も子どもじゃないが、………あぁ、段々眠くなってきた……。



……………あ、そうだ。なあキンタロー。
風邪が治ったらお前が好きだって言う笑顔を沢山見せてやるよ!それと何処か出かけるぞ。
ん~、デートってヤツ?
仕事はたんまりあるけどな、少しだけでも何処か行くぞ!
だからその時風邪うつったって倒れてんなよ?



明日も、晴れるといいね。






--------------------------------------------------------------------------------
* 可愛い嫉妬 *


「何をしている」
「ああ、キンタローか。見て分かんねぇ?幾ら初めての体験っつたって知識として知ってるだろ。コレ」
目の前で―――未だ深い眠りについたコタローの寝室で、せっせとその作業をしているのは毎日毎日総帥職で多忙な筈の従兄弟。
コタローの事実上の義理兄。
二十四年間共に体を共有せざるを得ず、自由の身となってからも、当初は憎しみの対象にしかならなかった筈の相手と
今では恋人同士の仲なのだから、初めて世界に出ることが叶った一年前の俺から見れば驚愕ものだろう。
従兄弟であり恋人であり一応上司でもある、けれど互いに双子よりも近い彼―――シンタローは、
師走の今は普段の多忙に幾数もの輪っかをかけて時間に追われている筈が、コタローの背丈程まであるか否かの
小さめの作り物組み立てモミの木に、星やら天使やらバカデカイ靴下やら様々な飾りをせっせと飾り付けている。
「クリスマスツリーだな」
「ああ。この前遠征に行った時に丁度良い大きさのを買い物中に見つけてさ、買ってきた」
「しかし、クリスマスツリーなら毎年いつものがあるだろう」
マジック叔父貴が溺愛しているシンタローの為に彼が生まれた頃には買ったのだろう、
数百人は収容可能な大広間の天井にも届く程の巨大クリスマスツリーが。
外にもクリスマスツリーは飾られるが、それはあまりにも大き過ぎて地上から見ようとするのは首が痛くなるだけだ。
最低六階以上の部屋から見れば楽しめるらしい。
俺が提示したのは大広間に飾る方で、シンタローもそちらの方を思い出したようだ。
「あれか?あれ出すのは毎年クリスマス当日になってやっとの夜中だろ」
遅過ぎなんだよなーと眉を顰めて、けれど手は休めずに独り言のようにぼやいている。
「遅いのか?」
「あのなぁ………。クリスマス当日―――じゃなくても前日になってから飾っるってのはかなり遅いだろ」
「そうか?」
クリスマスイベントはイブを含めて24と25の二日であり、その日の為にクリスマスツリーを飾るのだろ。
ならばそれ程遅いとは思えんが。
俺の心情を察したのか会話からの繋がりからか、溜息交じりでシンタローが補足をする。
「たった二日だけ飾って直ぐしまっちまうのは呆気なさ過ぎとか思わないわけ?」
そう言われてみればそうなのかもしれない。
たった二日飾ってそれで終りと、あっさり片付けてしまうのは情緒にも欠ける。
かと言ってクリスマスの直ぐ後には正月という大行事が控えており、
その為の大掃除に25日以降にツリーを飾るのは邪魔になってしまう。
クリスマスを一日でも過ぎたツリーは意味を持たないただのオブジェと化す。
思い出せば、コイツが子どもの頃は直ぐに片付けてしまう、たった二日限りのクリスマスツリーに寂しさを覚えていた。
「だからこうして飾ってるんだよ」
語尾を言い終わる前にツリーの天辺に金の星を乗せて固定させた。
ツリーは完成したらしい。
広間のそれと比べ迫力はないが、従兄弟に組み立てからされ飾り付けられた小さなツリーは、
眺めていると不思議に穏やかな気持ちになってくる気がした。
理由は簡単だ。
従兄弟が小さな弟の為に心を込めて飾り付けをしたのだから。
シンタローにとって大事な大事な弟のコタロー。
俺にとってもその想いは変わりはしない………………………………………………………が。
「何?お前もじぶんの部屋に欲しいの?コレ」
「いや。これはコタローの傍にあればいい」
凝視と呼ぶに相応しい程ツリーに目をやっていたからかそう勘違いを起こしたらしい。
欲しくない訳ではないがツリーを欲しがるほど子どもではない。
それよりも今は。

「今俺が欲しいのはこれだな」
「うわっ!!」

ツリーよりも、もっと切望しているものは。

「離せ降ろせ――――ッッ!!!」
「飾り付けは終わったんだろう。それに大きな声を出すな。コタローが目を―――覚ますのはいいか」
「一人で自己完結するな!それよりこれからほったらかしておいた仕事に取り掛からなくちゃならねーんだよ!」

腕に抱えた愛しい体温。

「安心しろ。そう時間はかけない」
「嘘つけッ!!そう言って前も―――――――んんッ」
反論を封じ、唇を深く重ね合わせ舌を滑り込ませると、暫くすればシンタローもそれを絡めてくる。
ようやく離してやると、息苦しかったのか涙目で、しかし口元は意地悪げに微笑していた。
「お前…、嫉妬してたんだろ?コタローに」
おかし過ぎると腹を抱えて大笑いを始めたシンタローに
「ああ」
肯定してやれば笑いがぴたりと止まった。
嫉妬していたのは事実なのだ。隠す必要性もない。
嫉妬していただろうと問うてきたのだから正直に答えてやったというのに、何故かシンタローは耳まで朱に染めて
「馬鹿野郎!!ストレート過ぎだテメエは!!!!」
と怒鳴ってきた。
叱られる理由はイマイチ分からんが、あまりにも不安定な抱え方だというのに腕の中暴れるのとシンタローを欲っする想いから、
もう一度、先程より深く甘いそして略奪するような熱い口付けを落とした。






--------------------------------------------------------------------------------
* 狂乱の踊り子 *


物騒な言葉を、前触れも無くヤツは吐き出す。
何がキッカケという事も無い。
思い出したら口にする、ただそれだけだ。
実際有言実行に移る訳ではないし、それだったらとっくにオレかあいつかのどちらかがとっくに死体になっている。
オレに対しての暴言だが、面と向かって言われた事は殆ど無い。
主に傍に居る機会の多い高松やグンマが耳にしているらしい。
これはグンマから聞いた。
高松は慣れたように軽く嗜め、反対にグンマは焦って止めたり怒って見せたりするそうだ。

早く仲良くなってよね

困ったように数日前グンマが言ってきた。
そう言われてもなぁ………。
オレが歩み寄っても人見知りして警戒心を剥き出しにする獣のような目をされるんだぜ?
明るく「よッ」とか「調子はどうだ」とか聞いても「あぁ」だの「見て分からんか」だの素っ気無い返事しかしないんだぜ、あいつは。

なら、シンちゃんと仲良くなるように、ボクがキンちゃんを説得してくる!

飲みかけのミルクセーキを放り出して意気込むグンマの額に軽い拳を一つお見舞い。
涙目で講義してくるグンマにニヤリと含み笑いを返す。
馬ー鹿、んな事してくれんなよ。

なんでさー!だって二人共早く仲良しにならなきゃ…!シンちゃんはキンちゃん嫌いなの!?

必死なコイツには悪いと思いながらも、大丈夫だからの一言で強制的に話題を打ち切った。
反論される前にその場を立ち去ったんだが………。

いいんだよ。これはアイツとオレの事だから。
一心にオレに、オレだけに向けられる感情(コトバ)を始めは不快にしか感じなかった。
オレの知らぬところで幾つもの想いが交差しぶつかり合い時に交じり合って生まれた亀裂は奇跡。
本当に極最近、気付いた。
キンタローの殺意のメッセージに内包されているものに。
そしてその大切に包まれていた感情の喜びに。

ずっと待ち続けていた感情(コエ)に、甘く酔いしれる。
もっと、もっと
いっそ泣きたいほどに痛いくらいの想いを、オレに寄越せよ。
キンタロー。










≫戻る

くのいちDebut 引越し 見積もり アルバイト 天然石
k





ピ ピ ピと、医療器械音がやけにリアルに耳を滑る。
先程までマジック叔父貴やグンマ、コタローも居たこの無菌部屋も、
今は俺と、主に高松の説得で部屋を後にした為ひっそりと静まり返っている。
無菌部屋にいつまでも多人数は居られないからだけでなく、いい加減夕食の時間も過ぎている。
昼食も全員まだとっていなかったのだから、腹は空いている筈だ。
…とは言え、グンマ達の先程の様子では飯は殆ど口をつけていないだろう。
いつもシンタローの前では笑顔を振りまき、シンタローが怒っても嬉しそうに自分に都合の良過ぎる解釈をするマジック叔父貴は
顔が蒼褪め、眼は信じられないのだと語るばかりに見開かれたまま、息をするのも忘れていたのではないかという状態だったし、
グンマも蒼褪め、目尻にはうっすら雫が溜まっていた。
コタローに至っては「嘘、うそ」と首を振り、溢れる涙を止める術もなく両手で顔を覆い、ただただ激しく泣いた。
それが数十分前までの事だ。
三人共、とても食事を取れる心情ではない。
勿論それは俺も同じだ。
だが、誰かが冷静さを保っていなければならない。
グンマとコタローはマジック叔父貴に任せて、俺だけがこの部屋に残った。
シンタローが事故に合って直ぐ負傷と意識不明のシンタローはガンマ団最高クラスの医師達に委ねられ、
その中には当然ながら高松が居合わせてた。
「で、どうなんだ。シンタローは」
「命に別状はありません。いやはや全く運の強いお方ですよ、彼は。
 あれだけの鉄筋が雨のように降ってきたというのに」
俺と事件直前周囲に居た団員からの報告を纏めたカルテを軽く口元に当てて、まず先にシンタローの命を保障する。
咄嗟に眼魔砲を打って何本かは破壊出来たが、それだけでは足りず、数本がシンタローに容赦なく降り注いだ。
防ぎきれないと判断して直ぐにガードしたらしいが、背中を強打し、痛々しい外傷を残し反対に意識は消えた。
今のシンタローは意識不明の重体という状態で。
「外傷は背中が最も酷いですが、今まで私がシンタロー様の傷を治療してきた過去と照らし合わせますと
 おそらく跡も残らないと思われます」
流石ですねえと軽口で褒めるが、それはこの重い空気を和らげる役目を果たせなかった。
「意識の方はどうなんだ」
「……………」
「高松」
「……………」
「たかま」「意識が回復する確率は」
俺の言葉を遮り、下唇に張り付いていたカルテを放してもう一度検査結果に目を通している。
何度も何度も検査し直したその結果は―――

「確率は7%」

視界が暗く揺らぐ。
黒と白が渦を巻いて訪れるマーブリング状の眩暈に襲われる。
「それがシンタロー様の意識が回復する、一番希望を持ってみてもの確率、です」



7%も意識が回復する確率があるんだ。
そう俺自身に言い聞かせても、“も”は“しか”になる。
シンタローの生命力と運の高さは知っている。
シンタローは必ず意識を取り戻すと信じている。
信じているなら、この胸の重みはなんなのだろう。



今日はもう遅い。
マジック叔父貴に高松から聞いたシンタローの状態を伝え、俺は自室へと戻った。
シュンッと軽い音を立てて開かれた、俺の部屋、の、ベットに見える
「……誰だ」
人影。
誰も居ない筈の薄暗闇に問う。
暗闇の中の人物は完全なシルエットになっていて、誰なのか、はっきりとは識別出来ない。
暗闇に紛れているとはいっても、隠れもせず人のベットに腰掛けている“影”。
気配を感じないのは消しているのだろうが、堂々とシルエットを見せておいて気配断ちする無意味さが不可思議だ。
そういえば息遣いも全く聞こえない。
体系からして間違いなく男だとだけ分かった。
誰にしろ、一族の者以外が俺の部屋に勝手に入っているのだ。
何の理由にしろ不法侵入者には変わりない。
右の手の平に気を僅かに溜めもう一度問う。
「お前は誰だ」
影は驚いてか少し揺らめき、けれどもまた腰をベットに下ろし握り締めた指を顎に当てているようだ。
その様子は戸惑っているように見える。
影が取る次の行動を様子見るが、相手もどうして良いのか判断出来かねているようで、ベットから腰を上げない。
しかし影の正体を知るのに時間は掛からなかった。
動かない俺達を促すように、雲が晴れたのか今まで身を隠していた月の光がブラインドの隙間からうっすらと差し込んでくる。
薄暗い空間でも知れた長く、黒い髪は僅かな月光を静かに受け止めていた。
戸惑いながらも常に強い意志を持つ黒い瞳。
男として整った顔立ちは、その持ち主は―――…。

「シンタロー……?」

まさか、そんな筈はない。
月光をバックに浮かび上がった男に目を疑った。
男は紛れもなくシンタローだ。
少なくとも見た目は。
だが、シンタローは意識不明の重体で特別看護室に横たわっている筈だ。
仮に俺が去ってから直ぐに意識が戻ったとしても、とても直ぐに動ける体ではなかった。
それに数え切れぬ程の傷を負っていたが、目に映る“シンタロー”は怪我一つ見当たらない。
どう反応を返せばよいのか戸惑っている俺に、“シンタロー”は困ったように頭を掻いた。
「あー…、なんつーか」
他人事のようにコイツは言った。
非科学的過ぎて、到底信じられない事を。
だがこれは現実。



「幽霊になっちまったみたいなんだよなー…」
………………
………………………………
………………………………………………ゆうれい…?
幽霊になった、だと?
幽霊というのはアレだな、『①死者のたましい。亡霊。②死者が仏になることができないで、
             この世に現れるという姿。』(改訂新版現代実用辞典講談社編より)
死者…シンタローが?
そんな筈は無いだろう。彼はしっかりと呼吸をしていたのだから。
なら、目の前のシンタローはどう説明をするというのだ…?
「一体何がどう…」
足元が揺らぐイメージに、言葉が最後まで続かない。
ひび割れおうとつが出来た脆いガラスの上に立っているような気分だった。
「ん~?…なんか……鉄筋が降ってきて、鋭い痛みが襲ってきたと思ったら、意識がなくなって………、
 次に気が付いたらココに居た」
「…………」
どう…反応し、対応すればいいんだ?
シンタローは意識不明の重体で高松が付き添う医務室に意識を沈めている。
今夜はずっとシンタローを診ているだろう。
万が一、シンタローが目を覚まし動ける状態にまで回復したなら直ぐ俺に連絡する。
高松が目を離さない限り、無断でコイツが医務室から出ることは出来ない。
第一、あそこはパスワードを入力しなければ出ることは叶わず、それを知っているのは高松と
以下所属している医師団そしてハーレムを除いた青の一族(ハーレムに教えてしまうと情報が
外部に漏れる危険性が極めて高い為)、そしてシンタロー直属の秘書のティラミスとチョコレートロマンスだけだ。
「すまん」
「は?」
詫びの言葉を口にした俺をなんだ突然とシンタローが見返す。
「なんと反応を返してよいか…分からない」
それで謝ったのかよとシンタローは小さく笑った。
「仕方ねえじゃん?いきなりだし、しかも幽霊だしな」
それにお前の所為じゃないだろと慰めるような瞳で苦笑した。
「悪いなら俺だろ?あそこで注意を怠った総帥である俺のミス」
だからお前は悪くねえの、謝る必要もねえの。彼は言うが、シンタローを護るのが俺の使命だった。
だれかに命を受けたことではない。
シンタローに頼まれたことでもない。これは俺と俺との約束だった。
そんな俺の心中を見透かしたようにシンタローは困ったようにくすりと笑った。
心配する側の筈の俺が、逆に彼に心配されていた。
僅かだが、俺も笑みで答えた。
…苦笑、だったが。
「は~、それにしても…」
大きく息を吐き出し自分の手を宙に翳して見る。
その手は僅かに透けていて、手の平越しに天井が見えるらしかった。
「俺、死んじまったのかよ~…」
ガックリと肩を落として見せるが、先程からシンタローは深刻な状況を軽くスラスラと口にする。
俺より彼の方がよっぽど現実に楽観でいられた。
現実味がシンタロー自身、無いのかもしれない。
“気が付いたら生霊になっていました”などは極めて非日常だ。
まぁ、コイツは以前も生霊になったことがあるが、あの時と原因が大きく異なっている。
解決策もあの時と同じには決してならないだろう。
つまりはこれからどうすればいいのか見当が付かない、のだ。
それでも―――
「いや、お前の本体はまだ生きている筈だ。いや、生きている」
そうだ。
あの時シンタローの体はオレが所有することになり、コイツはジャンの再生した体に移った。
しかし今度は違う。
もう今のシンタローの体は紛れも無くシンタロー自身のモノだ。
他の誰と争うものではない。
そしてその体は生命の温かさを今も休まず必死に維持しているのだ。
「でもよ、ほら」
ふわりと音もなく体を浮かせ、窓に近付く。
「窓にも映らねえしいくら派手に動いても音出ねえし第一空中に浮かんでるし物掴めねえし」
おまけに体も若干透けているしな。
「俺にも何がなんだかさっぱりだぜ」
誰か説明出来るヤツが居たら教えて欲しいっつーの!苛立ちとそれ以上の困惑がシンタローの神経を甚振る。
軽い口調だったからこそ今まで気付かなかったが、シンタローの方が余程困惑していたのだ。本当は。
だからこそ余計に俺が冷静にならなければいけないのだ。
「つまり、今のお前の状態は『生霊』というヤツか」
―――だが…。
シンタローの黒絹髪が、薄く開けたままの窓からそよぐ夜風に誘われて、俺の鼻頭を擽った。
そのくすぐったさに軽く眉を顰めると「悪ぃ」、と苦笑し、さわさわと流れるソレを彼の手の平に掴み取った。
………。
……くすぐったい…?
目の前のシンタローは…今、は。

ぐいっ

「痛―――――ッ!!!~~~ッんだよ一体!?」
「幽霊というのは本来触れる事が出来ないのではないのか?」
手を伸ばせば確かに通り抜けてしまうシンタローの身体。
けれど彼の髪先に触れることが出来た。
「やー…、そうなんだろうけど、さ」
「ほら」と俺の頬に触れる。
温かく心地好い、よく知った感触。
確かなぬくもり。
続(つ)いで手を俺の頬から放し、
(高松が)新調してくれたばかりの鮮やかなスカイブルーのカーテンに触れた。
微かな布が擦れる音。
指の圧力で僅かに押されたカーテン。
再び彼の手を引き寄せる。
触れている。
他は一切触れる事はかなわず、後ろ髪の十数センチ毛先と両の手は触れることが出来る。
不思議に思うより先に、たった一部でも感じる場所があることが素直に嬉しかった。
ぺろりと手の平の生命線を舌でなぞると、返ってくるのはいつもの反応。

変わらない感度。

「~~~~~~…ッ」
ピクンと体が跳ね、彼の顔に朱が走っていた。
俺がシンタローの一部分を感じられるように、シンタローも俺を感じていた。
それは残酷なほど嬉しかった。
当たり前のように触れられるものが不可能になり、たった一部だけ許されたことへの喜び。
「馬…ッ鹿。やめろってッ。くすぐっってぇだろぉーが!」
俺から逃れようと力薄く片手で俺の肩を押す。
触れた部分からじんわりと注がれる手の平の体温。
厚い服越しで伝わる筈はないが、うっすらとシンタローの皮膚が汗ばんでいる気がする。
感じられるのは体温だけではない。
触れられる場所は生身の時と同じように発汗も僅かな手や髪の一房の重さも感じられた。
「触れる事が出来るのはココと髪の先少しだけか」
他の部分で俺に触れてみても全て素通りしてしまった。
無論触れることの出来ない場所の体温も重さも何も感じられない。
「中途半端だよな。カミサマの気紛れってヤツ?」
全く触れないよりはマシだけどさ、舌を出してシンタローが小さく悪態をついた。
「でもあんま中途半端過ぎても逆に欲求不満になりそー」
手の平を俺の額に当てて折角舞台がベットの上なのによと苦笑するシンタローは、
そういえば今日は一度も笑顔を見ていなかったことに気付いた。
先程から見せる笑みは全て苦さの混じったもの。
この状況だ、当たり前かと思いつつ、少々物足りないとも思った。
顔を寄せ、更に互いの距離を縮めて素通りの口付けを交わす。
月明かりの下生まれた影も独りきりで想いを冷めた唇に託す。
触れることは出来ないと知っている。
お互いがいつもの癖となってしまっているからする、してしまうだけだ。
何度かの口付けの後、髪の先を指に絡ませ唇をそっと彼の手の平に滑らせる俺と、
指全てで俺の口元で巧みに動かすシンタロー小さな遊びは暫く続いた。

カチ…

本当に微かな機械音が、複雑に入り組み始めた互いの思考を止めに入る。
時計は徹夜や真夜中まで掛かる研究や業務など何も無ければ、普段なら就寝する時間を大幅に超えていた。
「もうこんな時間か」
自室に戻ってから一時間も経っていないが明日も早い。
毎度の業務に加えて目の前の男の件もある。
何時もならシンタローを相手にして直ぐに翌日に(日付を越えて抱いてしまうこともあるが)備えて就寝をするところなのだ
―――が―……。
戸惑いが胸に溜まっていく。
その“原因”は俺の気を知らずに枕を数回叩いて眠るよう促している。
「別に眠くはない」
壁に寄りかかり此処を立ち位置にすると暗にアピールすることで寝る気は毛頭無いと教えてやったが、
ヤツは早くとベットサイドに手招きする。
普段ならこれはシンタローからの夜の誘いだが、幽体のヤツの意図は100%就寝命令だ。
「だからってこんな夜中に寝ないで他にすること無いだろ?ほらッ、眠くなくてもいいからさっさとベッドに入れ!」
横になって目と瞑るだけでいいからさ、そうすると自然と眠たくなるからなと両肩を押してくる。
「何故そこまで俺を寝かそうとするんだ」
本当に眠くはないのだぞ。
いや、正確に言えば眠くないと言うより寝てしまいたくない。


目を閉じて意識を手放してしまえば、
お前が――――――……がして…―――。


「夜はしっかり寝て翌日に備える!いつもお前が俺に言ってるだろ。夜更かししそうな時によ」
…ああ、そういえばそうだったな。
シンタローが仕事に熱中し過ぎな時やベットの中、何度も誘ってくる時や流行だとかのゲームに没頭している時に
言い聞かせていたのを思い出す。
「ほらほらキンタロー」
「…分かった」
仕方が無い。
ここは大人しくベットに入らなければずっとシンタローから小言を言われるのがオチだ。
やっと体を横にし薄手の掛け布団二枚を胸までかけた。
「ホントは疲れてるだろ?」
声を潜めて問いかけながらシンタローはそっと俺の頭に指を滑らせた。
安眠を促す為の額から頭上に撫でる指が心地好い。
あぁ……、本当に眠ってしまいそうだ…。
「眠りたくない」


眠ってしまったら
お前が―――――……る気ががして…――。


「でもさ」
ふぅ、と小さなため息がシンタローの口から漏れた。
「何だ」
息さえも本当は聞こえない。
シンタローが奏でる音は声だけだ。
それでもため息が聞こえた気がした。


「何か、お前の方が見ていて俺よりずっと辛そうだぜ?」


――――!
当たりだろと口元だけで笑みを浮かべてよしよしと俺の頭を撫でた。
不覚、だった。
意識不明で怪我人更には生霊にまでなってしまったヤツに気を使わせてしまったのか。
「寝ろよ」
横になるだけじゃなくちゃんと睡眠を取れと。
「病人にあんま心配されてんじゃねぇよ」
母親が子に安らかな就寝を促すように、ぽんぽんと薄手のタオルケットを叩く。
飲み込まれる意識の中に感じる一筋の糸。
ソレは音のイメージ。


……糸、
だ。……………。


……あぁ、これはシンタローの声か、この糸、は。
乳白色の視界の中で、純黒糸を引き寄せた。
聞えた糸。
お前が眠っても、俺はちゃんと側にいてやるから。だから安心して眠れ。
そんな彼の声が胸に聞こえてくるそれは決して幻聴ではない。
「なぁ…、キンタロー」
「なんだ」
「俺は消えないから、安心してたっぷり寝ろよな」

……ふ。
参ったな。何から何まで全てはお見通し、か。
………ああ…
もう、
お前の声が聞こえ―――


おやすみ。





「…ん」
チチチとか細くしかし高く鳴くのは、近頃早朝馴染みのつがい鳥のものだった。
着衣もそぞろに、窓から愛おしい視線を彼らに注ぐのが、この部屋に泊まって明けた早朝のシンタローの癖。
カーテンから溢れ出した白い光りが、睡魔に包まれたこの身体をそっと解き解し完全覚醒へと導く。
昨日は…シンタロー目掛けて突然鉄筋が降って……
―――!!!!!
「そうだ!!シンタローは…!?」
「あ~?こ・こ」
声がする方に目を向ければ、気持ち事件以前より白くなった肌のヤツが居た。
つがい鳥を見ていたのか、窓に体を寄せ首だけこちらに向けた。
夢ではないことを知る。
昨日、シンタローが鉄筋に襲われたこと。
意識不明の重体に陥ったこと。
生霊となってしまったこと。
そして
「前に幽霊になった時もそうだったけどよ。朝になっても」
消えてしまわない、こと。
疲れを癒す睡眠をとったばかりだというのに、落胆と安堵が交じり合った疲労がドッと押し寄せ深いため息を漏らした。
安堵はシンタローが目の前に居るからで、落胆は昨日の事故(事件と言った方が正しいか)は夢ではなかったからだ。
夢だったなら、今目の前に居るシンタローは生身であったのに。
「キンタロー」
「…なんだ」
「今のため息は安心からか?それともガッカリしたのか?」
笑みを浮かべながらも、申し訳なさそうに体制を少し低めにして俺の顔色を伺うように見上げている。
触れることが出来ないシンタローの頭代わりに自分の髪をグシャグシャと撫でる。
「両方だ」





「お前の様子でも見てくるか」
お前も行くか?と誘いかける前に、シンタローはちょっと待ったとパジャマの裾を引っ張るように制した。
「その前にさ、行きたいトコあんだけど」
「構わんが。急ぎか?」
「あ~…、絶対今直ぐって訳じゃねえけどよ……。出来れば早い内に用事済ませちまいたいし」
用事?仕事関係か?
今お前は本体は生きているが幽霊なんだ。
例え緊急の仕事でもお前がこなすのは無理だぞ?
考えが顔に出たのか、シンタローは違げーよと片手を軽く振った。
「予約していたCDが昨日入荷してる筈だからさ、一緒に着てくんねぇ?」
ふむ、今のシンタローは幽霊だからな。
車を走らせて、滅多に遭遇する事はないが交通交通渋滞に巻き込まれさえしなければだが、
15分もあれば繁栄謳歌を開設時から維持し続けている某大手デパートに着く。
シンタローが注文した品はビル三階端に構えているCDSHOPらしい。
しかし…わざわざ店に予約などしなくても、ガンマ団の特別ルートからの通信購入や秘書のティラミスや
チョコレートロマンスに言い付ければいい。
俺やグンマは殆どこれらで必要なものは揃えている。
一般的な品物なら談内の購買部も重宝しているな。
「お前、そーゆートコが淡白で味気ない考えなんだよ」
呆れたような苦笑を浮べ、シンタローは俺の一歩手前に進めていた足を止めて視線を僅かの間、合わせてきた。
「自分で買いに行くのがイイんだぜ?」
気分転換になるらしい。
俺にはあまり理解出来ない事だが。
「そりゃお前は買いモンとか興味薄いからなー」
ss
平凡な日常ほどありがたいものはない。
ない、が、≪ここ≫ではそうはいかない。
≪ここ≫での平凡は外の領域からみればまた特殊で。
いくら殺し屋集団の看板を取り払ったとはいえ、
≪ここ≫―――『新生ガンマ団』とは、平凡な日常というものはまずあり得ない。



チュド―――――――ンッ



・・・今日も今日とて在るべからざる場所から放たれる青の一族の秘技が鋼鉄な本部を揺るがし大勢の団員をざわめかせ、
一部の幹部を嘆かせる。






領域・~テリトリー(前編)





在るべからざる場所―――そこはガンマ団総帥の部屋。
豪華な―――しかし現総帥が今の地位に就任する前に全体に模様替えをした為、
決して嫌味ではない装飾が施されている。
そこに佇む二人の男。
二人は全くと言っていい程似ても似つかない容貌である。
一人は長い黒髪を、以前よりは日焼けの落ちた小麦肌に滑らせた男。
歳は・・・20前後に見えるだろうか。実年齢はもう三十路を控えているのだが、
マリアナ海溝よりも深すぎる事情により外見年齢はまだ青年になったばかりというところ。
意志の強さを物語る瞳は髪色同じく黒曜石。
【G】というロゴ入りの真っ赤なスーツは前総帥から(無理矢理に)受け継がらせたもので、
それからこの男が現総帥のシンタロ―である事が伺える。
趣味の悪いと言われた新着した同デザインの総帥服だが、想像するのとは大違いに彼とマッチしている。
黒髪と相性が良いのかもしれない。
もう一人の男はシンタロ―が黒い髪・瞳に対して見事なまでの金髪に蒼瞳を持ち、
さらさらと流れるような絹を連想出来るシンタロ―の髪とは打って変わり、かなり硬質である。
服装は特に派手でもなければ地味でもない。
ただ紫を基調にしている為か、どこか攻撃的な印象を全体に与える。
銜え煙草が猛禽類のような攻撃性を助長してもいた。器用に灰は床に落ちる事はないのが不思議だ。
特に目立つのが金髪に対して、何故か自生した黒眉でそこから獅子舞又はナマハゲ―――もとい、
前ガンマ団総帥の二番目の弟であり、特選部部隊隊長のハーレムだと知れる。
両者ともその整った顔立ちによりかなり目立つ。
男女問わず、一度見たらそうそう忘れられるものではないだろう。
佇んでいると言うよりは睨み合っている―――しかも互いに戦闘準備万端と言った風であり、
実際もう互いに一族の秘技を繰り出し合うと言う真に穏やかではない事をし合っている。

「ったく。何でこんな事ばっかりすんだよアンタはッ!」
「相手が弱過ぎんだよ。とっととケリつけた方が効率いいだろうが。こちとら忙しいしな」
「どこが忙しいってんだよ!いっつもいっつも競馬と酒に溺れやがるヘビースモーカー親父ッ!!
もうガンマ団は殺し屋じゃねーって何度言わせればいいんだアンタはッ!!!」

ガンマ団が暗黒面で名を馳せていた血生臭い歴史は長い。
それだけに不殺だと公言してもなかなかに殺し屋のイメージは世間から拭う事は難しく、
試行錯誤悪戦苦闘の毎日に丈夫だと自負している胃もキリキリと痛む―――と言うのにこの叔父は、
まるで自分の足を引っ張る所業ばかりで向ける怒りも並ではない。
額に青筋をデカデカと浮かべてシンタローが人差指をびしっと向け指すと、
口元は相変わらず笑みを残しているハーレムの蒼瞳が変わる。
気付いた変化に身体が凍り付いていくような感覚。


自分は何か特別な事をしたのか?
交わされる言葉の内容はハーレムがこうして大きな問題を抱えてくる度に激しい衝突を引き起こす、
終局の見えぬ平行線。
だからこそ脱力する程の今の会話にいつもは感じられない反応を見せた叔父の心情は分からない。
分からないが―――・・・
何か、あるのだ。
目の前の男の気に触れた言の葉が。


「もう殺しはしない?―――はっ!見せかけだけの奇麗事だな」
「んだと・・・っ」
「お前だってしてるだろ。
この前893国にどデカイ眼魔砲をぶちかましてくださったのはどこのどいつだァ?」
「あれは半殺しで済んでる!誰も殺してはいねぇよ!!」
「似たようなもんだろうが」
「違うッ!生きてるか死んでるかの違いが出てくるんだぞっ!!」

それだけで大きな違いだと口にする、若き新総帥の何と幼い事か。いっそ憐れだなとも思ってしまう。
世間を知らな過ぎる器だけ大きい、けれどただそれだけの総帥。

「死ななければいい。そりゃあ違うんじゃねーの?」

胸の中に溝が出来る。
それはさらに範囲を広げ、その内部に侵入するのはマグマのような純粋な―――単純な怒り。
せき止める法をシンタロ―は知らず、今日もまたこの言葉で二人の言い争いは終結を迎える。
それはあまりにも単純であっけなく面白みもない。

「出てけ――――ッッ!!!」





あれからどれくらい経ったのだろう。
ハーレムが憎たらしいまでの笑みを浮かべて立ち去った後、シンタロ―はすぐさま今日のノルマに取り掛かろうと、
叔父との喧騒の残り火を押しのけながらもパソコンでの作業へと頭を切り替える。
が。
イライライライラ・・・。

「あ~~~!!!ムカツクゥ―――――――ッッ!!!」

シンタロ―総帥、ハーレムと別れてからこれで数十回目の叫び。
PCを立ち上げてもエラーを出し捲くるわ折角打ち込んだ文章もデリートさせてしまったりでちっとも進まないではないか。
とにかく苛々して仕様がない。頭をガシガシと乱雑に掻き回して背凭れに体重を乗せる。
ぎしっ・・・と鳴る音が妙に虚しい。そして腹ただしい。
考えるのも嫌なのだが無視ることも出来ないトラブルメーカーな叔父の事。
もう彼との衝突は日常茶飯事に達している。
今回のように任務先で目に余る事をしでかしたとのものだけでなく、プライベートな時でも、だ。
出会えば何故か二人の間に衝突が起きる。殆どハーレムから仕掛けるのだが。
シンタローがその挑発にのってしまい勃発し、先程の状況になるその繰り返し。
最後に残るのはどうしようもない、あの男に対する消化出来ない怒り。
けれど今シンタローが感じているのは、様々な身勝手言い分ばかり述べる彼に対してだけの怒りではない。
男の言葉がリフレインする。


―――見せかけだけの奇麗事だな―――――死ななければいい。そりゃあ違うんじゃねーの?――・・・


分かっている。出来るだけ相手を傷付けずに済めば良いのだと常に願っている。
いるが・・・。
その事を忘れてしまう時が確かにあるのだ。
こうして我を忘れかけるくらい感情が高ぶると、願っていない言葉もついっと出てきてしまう。
感情に流されるのは総帥として汚点他ないだろう。
願ってはいない・・・・・・けれど心の奥底、“思って”はいる。
命を奪わないで済めば相手を傷付ける事を大目にみてしまう自分がいる。
そんな愚かな事があろうか。
平和を望むなら穏やかに事を進めなければならない―――けれど、
それに目を閉じて耳を塞いで・・・行われる己の手で、指示で行われる破壊。
平和が訪れるのは事実だ。
それでも破壊の元に行われたそれは、真の平和と言えるものではない。
その事実を一番の破壊衝動者に突きつけられる。
普通の者なら気にもせず聞き流すそれを、あの男は掘り返す。
忘れるなと囁くように・・・。
それが優しさからくるものだったら、まだ素直に聞けよう。
けれど彼の場合は―――明らかに自分に対しての挑発行為からだ。
感じる、彼が自分に向けている感情に。それは殺意なのだろう。
あれほど激しいものを感じない筈がない。
男も隠す気がないのか。全てをシンタローにぶつけてくる。
その元で真実を知らしめる。奇麗事を並べて言葉と矛盾している真実の自分を。
・・・・・・・一番胸を占めているのは自分に対する怒り。
忘れていた事に対しての。
忘れようとしている自分に対しての。
意識してではないけれど結局はそうなのだから言い訳するのはあまりに惨めで無意味。
所詮口先だけのキレイゴト。

「第ッ一!!アイツは何かにつけて俺に突っかかってくるんだ!」

けれど、その全ての感情を叔父に全面向ける事でそんな自分と思考を避ける。
それが卑怯な事だと内心理解していながら、認められずに足もがく。
あまりに怒りが今は何よりも勝っている為か、言葉を掛けられるまで戸口の気配に気付かなかった。

「ご機嫌斜めなトコ、すみまへんけど・・・」

遠慮深く様子を伺うように入ってくるアラシヤマの片手には大きな封筒。

「―――っ」

消して気配を消していた訳でもないのに気付けなかった。そんな自分に更に苛立つ。
積み重なる怒り憤怒、交じり合うマーブリング迷彩色の思考。
気付けなかったのだと決して悟られてはならない。
多くの人の上に立つとはそういう者。
常に冷静な判断と威厳を保ち尊敬を浴び、人を動かせるよう勤めなければならないのだ。
自分の父がそうであったように。

「んだよ」

けれど保とうと勤める冷静さをこの男の前では欠いてしまうのは、
身近な存在として無意識な認識をしているからか。
不機嫌さを隠さずに―――隠せるものなら実際は隠したいのだが―――夜中の訪問者を苛立ちの眼光で見据える。

「苛立ってますなぁ」
「るっせーよ」

相手にも分かるあからさま溜息をつかれ、更に苛々が増してしまう。
きっと自分の心臓はグツグツと煮立っているんだろうと冷静な部分が残っている自分がいれば、
そう客観視するかもしれない。
アラシヤマがここに来たのはハーレムとシンタローの騒動を聞きつけてきた野次馬心からでなく、
先日赴いた地区での報告書を渡しにきた事は右手に納められている茶封筒から知れる。
用件はそれだけであろう。それを置いて早く立ち去れと、に言葉を鋭く乗せてやる。
しかしその程度の嫌悪態度をとられたくらいでこの男が立ち去る事はない。
それは冷たくあしらわれる事に慣れているからか、
それとも師匠の弟子いびり(・・・。)から培われた打たれ強さか。
・・・・・・どちらかを取らねければならないとすれば、後者の方がマシな気がする。

「またハーレム様どすか?」
「関係ねーだろ。テメエには」

否定しないところからして答えになっていないようだが100%肯定であるようだ。
無視を決め込もうとするがなかなか立ち去らない男に苛々し、発する言葉がつい冷たいものとなる。
普段は冷たくないのかと問われれば返答に苦しいものはあるが。

「気が散る。帰れ」

彼の深いところまでの心情を読み取り、眉を顰める。

―――これは・・・相当ご機嫌斜めみたいどすな。

いつもより、という意味で。
普段ならばもっと遠まわしな言い方で立ち去るよう言う。
例えば明日も早いのだろうから早く休息を取らないと業務に響くぞ、とか。
帰れと言われても、このような状態の彼を放っておけない。
彼でなければアラシヤマも関心を持たずに立ち去ろうが、
相手がシンタローであるならばどうにかしてやりたいと保護欲のようなものが湧く。
その原因は、やはり―――

「シンタローはんの立場―――心情を他の親しい誰かが抱いています時、
あんさんはそれを黙って見捨てる事が出来ますの?」

自分は出来ない。
親しい者は少ないが、この男とは浅い仲ではないのだと自負している。
何より自分はこの男に心底惚れ抜いているのだから余計に―――。
くるりと身体ごとアラシヤマに向けるシンタローの表情は冷たい。微かに浮かべているその笑みも。
姿勢悪く右肘を立て顔を乗せる。僅かに顔を傾けた事で、さらりと長く伸ばされた黒髪が揺れた。

「俺とお前が親しいって言うのか?」
「違います?」
「大違いだ」

即答。
けれど、知っている。気付いている。言葉とは裏の彼の本心を。それは思い上がりじゃない。
いつも自分には冷たい素振りばかり見せる彼だけれど、隠されたココロを自分は知っている。
隠そうとしても隠し切れない無駄な足掻きをどうして彼は手放さないのかも知っている。
自分をそう簡単に誤魔化せないしさせはしないのに。


―――声が聞こえますよって。


以前、誰かに自分はこう言った。
確かまだ彼の父親が総帥だった頃、まだ現総帥が一団員でしかなく、まだあの島の温もりを知る前の頃。
もう顔も声すら覚えていない一団員の男がシンタローに対して言ったのだ。
そう、その時。
何時ものように冷たくあしらわれたアラシヤマに同情しての発言。
友達はいない彼だが、彼を慕う者は皆無ではなかった。
その中の一人の男がシンタローが去った後に悔しげに漏らした。


「シンタローさんは冷たい人ですよね」
「なしてそう思いますの?」
「えっ・・・だって・・・」


彼が自分に冷たい態度を取り続けるから?


「声が聞こえますよって」
「声?」
「悲しい声どすなぁ・・・。ああ、あんさんは泣いとるんですか?」
「アラシヤマ様・・・?」


その言葉はもはや男に対してではなく、別の強情な誰かに向けて。
声が聞こえた。
それは幻聴などではなく、真実(ほんとう)の彼自身。
それを彼に言おうならば間違いなく否定され、同時に眼魔砲の一発でも撃たれるのであろうが。
だからこれは自分だけが抱くもの。
そしてシンタロー自身が気付かなければ、頑固な彼は認めないのだろう事。
彼の内面考察は今は切り離そう。それより今聞いておきたい事がある。
自分が親しいものではないと言うならば、あの男はどうなのだろう。
今、シンタローの思考の大部分を奪っている彼の事は。
彼に寄せるシンタローの想いが敬愛や親しみではない事を知っている。
二人の間に何事もなければ、
無意識博愛者であるシンタローが相手に対して負の感情を抱きはしないのだろうけれど。
憎しみの感情にすら嫉妬を感じる自分はどこまで欲深いのであろうか。

「ハーレム様より、わてはあんさんとの距離があるます言うんですか?」
「・・・何故にそこでその名前が出てくるんだ」

何故?
それは。
嫉妬という一感情。
下らないプライドがそれを相手に伝えようとはしない。
伝えなければ当然伝わらない。
これがもっと心の芯からの深い間柄ならば伝わるのかもしれない。
けれども自分達はそこまで深くはないのだと
、親しい者とは自負していても悲しきかな、否定は出来ない認識。
ただそれは年月の問題ではない。
無論年月は親近感に大きく作用するが。
最低ラインでもあの島の小さな王者ほどに、彼の心に近付かなければ。

―――えらい高いハードルですなぁ。

一年半以上。二年は経過したであろうか。
自分がシンタローを知った14から約十年。
嫌悪感と認めたくはなかった激しい憧れを抱いて、彼の傍に居た。
それに比べればずっと短い2年にも満たない歳月で、彼の親族よりも何よりも、
きっと心を砕いた最愛の弟よりも、南国の幼い王者は何の策略もなしに彼にとって最も心傾けられる存在になった。
そしてその王者もまた。そこまで思考を巡らせてはた、と気付く。
最初は彼の叔父に対して沸きあがらせられていた嫉妬心が、
いつのまにか別の人物に向けていた事に驚いた。
当初のものと随分掛け離れてしまっていた事に、しかし笑う事は出来ない。
それだけ彼は多くのものに愛され、そして彼もまた多くのものを愛する。
今、彼の怒りをかっているハーレムにも、もしかしたら・・・・・・いや、きっと・・・

「アラシヤマ?」

訝しげに自分の中に突然閉じこもってしまった青年を見やる。
いつも自分の殻に閉じ篭ってしまう事は彼には珍しい行動ではないが、それがいつもとどこかが違う。
それは―――そう、直感。確かに働く第六感。
それ程先程の問いには答え難いものであったのか。
ただ単に一例としてハーレムの名を持ってきただけなのか。
何もこんな時にその名を挙げる事もないだろとは思う。
思うが。
ともかく・・・

「アラシヤマッッ!!」
「・・・えっ!?・・・あ、な、何ですのん!!?」
「~~~~~ッ・・・。・・・・・・あのなぁ・・・何だ?はこっちの台詞だ」

質問に答えず自分の殻に閉じ篭る男の思考に割り込むように名を叫び呼ぶ。
返ってきたのが素っ頓狂な返事だった為か大きな脱力感が襲ってくるのは仕方がないのか。
段々に怒りより呆れの方が強くなった気がしないでもない。
つい漏れてしまう溜息。
相手に聞こえるか聞こえないかの小さなものだったが、
しっかりと相手には聞こえたらしく困惑の表情を見せた彼。
相手の機嫌を更に悪くさせたのだろうかと思ったからだろう。
実際は、ただ、

「もういいや。こうしてるのが何か阿保らし」

話が食い違い繋がらず更に複雑化していく彼との会話は意味不明で生産性がないのだと、
手をひらひらさせて特別意識してではないだろうけれど思いを表し、その視線は宙を仰ぐ。
ちらり、とディスクに詰まれた書類に目を配る。
自分にはまだまだ山のような仕事がある。
それの為の時間を、
例えるなら最初から繋がりもしないバラバラのジグソーピース問答の為に随分と費やしてしまった。
はっきり言えばこれ以上の無駄な時間を打ち切ろうとの意味が、言葉の中には込められている。
それをアラシヤマも気付いているのだろう。何も言わないけれど、きっとそうだと妙な確信がある。
先程から彼には冷たい又は素っ気無い言葉ばかり投げてしまっている。
アラシヤマが嫌いな訳ではない。
普段は「嫌いだ」「うっとおしい」等言ってしまうが。
そしてそれは嘘でもないけれど、真実でもない。
冷たくしてしまうのは癖みたいなもの。
不器用な一種のコミュニケーション。
それは先程も提示したが嫌いだからではなく、
不思議と親族を抜かせばこの団内では気軽に接する事が出来るから。
彼が何か自分に訴えようとしているのは何となく分かる。
根拠もないもないただの感だけれど、きっとそれはお互いにとって、大切な事。
けれど対話する程の時間の余裕がこちらにはないのだ。
そして相手も高幹部の地位。それは総帥ではない自分程でないにしても多忙を余儀なくされる身。
不器用ながらシンタローなりに気を使ったつもりなのだ。
隠された本当の思いが伝わるか伝わらないかは相手の受け取り方次第。
互いの親密の度合が深ければ深い程正しく思いを汲む事が出来る。
確かに二人はあの島で故意ではなくとも隠されていた心をお互いに見せ合えた。
全てではなく、多少歪んだものだったけれど。
確かに。
それでも。
まだ足りなかった。

―――阿保らしい事・・・?

アラシヤマの表情がおどおどしていたものから一変し、シンタローの発した言葉を心中にて反復する。
自分の想いが?
他の誰かとの彼との関わり一つ一つに対する嫌悪感が?
その全てが陳腐なものだと?
決してシンタローはそこまで思って言っているのではなかった。
けれど最初にすれ違ってしまった二人は思いが混じる事はなく、平行線を辿るでもなくすれ違い、
時間をかけず大きな亀裂を作る。
陳腐なもの。
違う。いつだって自分は真剣なのだ。
彼に関しては全て。
想いは感情的な叫びとなり、止め処もなく溢れ出す。

「阿保ちゃいます!真剣なんどすえ!?」

いきなり常ならぬ怒鳴るアラシヤマに酷く驚き、目を丸くして一変した彼を見る。
言葉にしなければ伝わらない想い。
伝えなければならない想い。
越えなければならない境界線(テリトリー)。
大きく息を吐き出し、キッと相手を見据えた。顔面だけでなく身体中が火だって熱い。

「わては・・・わては、シンタローはんの事が・・・・・・」
「俺の事?」

まだ驚きながらも確信に迫るだろう言葉を待つのはシンタロー。
伝わって欲しくて反比例して言い出せなかった想いを言の葉に乗せるのはアラシヤマ。

「~~~好・・・きなんどすッッ!!」

言い終ったが同時に、
重労働後のようにどっと疲れが噴出してその場に崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。
やっとの思いで吐き出した、心の小箱に大事に大事に秘めていた切望色の想い。
すっきりしたと思えたのは一瞬で、今度は一気に顔が朱に染まりまた青くもなる。
長い間伝えれずにいた想いを遂に告白してしまったとの純粋な羞恥心と、
告白に対する相手の返答に期待と不安が交差する。

―――つ、・・・遂に言うてもうたっ!

整った容貌からか、一人で居る事が多いからか、はたまたガンマ団No.2という肩書きからか、
仲の浅い者(主に部下)から見ればアラシヤマはクールな上司。
やや大げさに言えば孤高の御方と憧れ的な眼差しで見られている。
特に新幹部や士官学校生などからは決して少なくなく尊敬を受けており、(※悲しきかな、当の本人はそれを知らず)
又、親しき同僚その他から見れば執念深い根暗男と見られがちなこの青年も、
クールで孤高なお方と見られようが根暗と言われようが根っこは極めて純情。
恋愛関連に関しては友愛以上に小心であるが故、
この告白が如何に勇気を振り絞ったものだったのかは想像に難くない。
体内で煩いほど響き渡る心臓が運んでくる血流が面中心に集まる。
今直ぐにでもここから逃げ出したい衝動を押し留めながら返答をただ黙して待つ。


待って。



待って。



待って。




―――アレ?

返答なし。
更に待っても同じ事。
何故。
突然の告白に彼は戸惑ってしまったのだろうか。
無言相手に不安が更に募り、恐る恐る彼と下げていた視線を合わせた。

「シンタローはん・・・あの・・・」
「あ?」

その声色は快・不快のどちらも伺えぬもので、
決死の告白を受けた者の反応とはあっさりとし過ぎている。戸惑いの様子はまるでない。

「わて、今言うたでっしゃろ・・・。あんさんの事が・・・っ!」
「言ったな。好きって」

あまりにもけろりとした返答にはて?と疑が過ぎる。
何かが擦れ違うような―――冷風が塀の亀裂に吹き抜けるような―――何か―――。

「せやさかい、お、お返事頂きたい・・・・んどす・・・けど」
「返事?いっつも言ってるだろ」

疑が確信へと近づく。それはもしや。

「いっつも好きだの親友だの言ってるじゃねーか」

見事に嬉しくないビンゴ。
確かに普段の彼も直に『好き』とは言ってはいないが、同等な言葉を彼に投げ掛けるのは日常茶飯事だ。
だからシンタローはアラシヤマの『好き』を友愛だと判断した。

―――果たしてそうでっしゃろか。

心の亀裂が更に開く感覚。
それを抉じ開けるのは自分。
キッカケは彼。
気付きたくない。


―――知らない方が良い事だってあるのよ―――


幼い頃にそう、自分に何故か哀しそうに告げたのは誰だったのだろう。
その時頭を撫でてくれた人の顔は今ではもうぼやけてしまったけれど、口元に浮かんだ笑みは忘れない。
笑っているのに、今にも泣きそうだった。その言葉が今となってリフレインする。
気付いてしまうのは自分。
その原因なるのはシンタロー。
今までの『好き』は嘘じゃない。
けれど今まで発してきた『好き』は今抱えている恋心が生んだ『好き』とは種が全く違う。
シンタローが判断したであろう友愛の『好き』。
それは今までの『好き』。
伝えたい『好き』は違う『好き』。
踏み出そうともがく想い。
更に踏み込む彼との彼が作った境界線。
踏み出すのは怖い。
けれど。

「ならこう言えば分かります?―――・・・愛してます、シンタローはん」

踏み出さなければ、きっと何も変わらない。

「・・・・・・」

無言でこちらを見つめる彼の面は先程の告白を受けた後とは明らかに違う。
伝わった筈だ。確実に。
不思議と二度目の告白に気恥ずかしさをそれ程感じなかった。
二度目だから、ではなく、まるで愛の告白をしたと言うよりこれは説得に近いと何故か思った。
それが、無性に悲しいのは何故―――?
無言無表情でアラシヤマの視線を受け止めていたシンタローは、
硬くも感じられた面を溜息と共に切り替えた。
まるで聞き分けのない子どもに向ける顔。それそのものだった。

「なあ・・・、好きも愛してると同じじゃん。『好き』がすっげー『好き』になっただけでさ」
「シンタローはん・・・」

搾り出すように出た相手の名を呼ぶ声は、泣きそうで。
どうして哀の想いが押し寄せてくるのか、もう知っている。
何度目かの震えが両の拳に走った。

「お前、書類提出しにきただけだろ?もういい加減帰れ。
こっちだって日常会話を楽しむほどの時間の余裕はねーし」

これで打ち切りと言葉を遮断し、くるりとディスクワークに戻ろうとするシンタローの右腕を強く掴んで轢き留めたその手は、
意識するより早く。
アラシヤマの瞳に焦燥感は消えうせ、代わりに怒りに似た色が浮かんでいた。
けれどそれは決して怒りの感情ではなく。

「違いますッ!!」
「何が」

何が、違う?
今までの『好き』と今伝えた『愛している』の違いを彼は気付かないのだろうか。
そこまでシンタローという人物は人の感情に疎かっただろうか。
いや。

「本当は知っとります筈ですわ」
「知らない・・・」

伝わっている。
だからこんなにも彼は真っ直ぐなアラシヤマを見れない。


最初に『好き』だと言った時。その時は気付かなかったが、彼は一瞬だけ瞳を揺らめかせた。
けれど彼にはまだ平常心を保つだけの余裕があった。
直ぐに相手の言葉の意味に気付かぬ振りも出来た。
『愛している』と言われた時にも相手の本心を細かく探っていた。
その言葉は真実なのか否かを。
次に『愛している』と言われ、彼の瞳や声色・伝わる全てから想いの意味を知り、同時に驚愕を覚えた。
その今では言葉の震えを感じている。
彼はアラシヤマの想いに気付いている。
それは今ではもう確実。


一歩、アラシヤマはシンタローへと進む。
ほんの少しだけ、半歩もいかないがシンタローは後退する。
僅かに耳についた革靴と絨毯の擦れる音。
また、一歩近付くアラシヤマと同じく僅かに後ずさるシンタロー。
後退する事は気負いを意味してしまうが、頭では分かっていても体が動いてしまう。
出来るなら時間を掛けて事を進めれば良いのだ。
それは理想。
けれど彼はあまりにも頑固で素直でなくて自分では何も気付かないから。
ならば無理矢理にでも彼のテリトリーに入り込む。
一つ間違えてしまえば永遠に修復不可能となってもそれでも踏み込みならきっと今しかない。
チャンスは互いに何度も訪れてはくれないのだ。
互いの息が掛かるかかからないかの距離で、やっとシンタローが口を開く。
相手との距離をこれ以上進めない為に。

「何で近付くんだよ。帰れって言っただろうが」

弱々しい声。まるで何かに酷く怯えたような声。

「怖がる事は何にもあらしまへんのに」
「―――なっ」
「もう誤魔化しは効きまへんよ?わてはずっと無視出来る程にはお人好しではおまへんから」
「何を誤魔化すってんだよっ!それに怖がってなんかねえっっ!!」

ハーレムとの言葉の攻防の時のように声を荒げる彼にに臆する事はない。
むしろそんな彼を痛ましく感じる。

「どうして俺がテメエを怖がらなくちゃなんねーんだよ!!」

彼の領域を全て取り払おうとするかのように、アラシヤマは言葉を紡ぐ。
それは確実へと繋がっていく。

「強がらなくてもいいんでっせ?」
「違うって言って―――ッ!」

語尾はアラシヤマに抱き込まれた為、発する事なく霧散する。
抱く腕は強く。
自分の想いを塗り込めるように優しく。

「分かりますんや」

そっと瞳を閉じてシンタローの肩に顔を埋めると、
彼の愛用するシャンプーの匂いがふわりと微かに香った。
母が子に聞かせるような穏やかな声がシンタローを包もうとする。

「わても・・・おんなじどすから」

その一言にもゆっくりと時間が流れる。
その人の痛みは同じ痛みを持つ者にしか決して分かり合えない。
同じ痛みを知らない者の手厚い同情心は、かえって傷口を深く抉り出すのだ。

「アラシヤマ・・・?」

胸に埋めさせられた顔をゆっくりと上げて合わさったのは、驚きを表している黒曜石の瞳。
そうだろう。自分だって隠していた心中奥の奥の鎖で固く封じていた心。
友が欲しいと常日頃言う。
それは本心。
けれど。
更に奥に潜めていた一番の想いのカモフラージュでもあったのだ。
友愛が恋愛より劣る訳じゃないけれど、伝えるのはどちらが重いか。
受け止めるのはどちらが軽いか。



領域・~テリトリー(後編)





愛する事が怖いのだと、音なき泣き声が聞こえる。
愛するものを失う恐ろしさを自分は知っている。
また彼も。
ふと気が付けば、彼は沢山の多種愛を持っていた。
親愛・友愛・家族愛・敬愛・・・。
それを捨てる気はない。けれどこれ以上所有するのは辛い。
もう失いたくはない。失わない為に守る。

―――けど、それは常にギリギリだ。

込み上げてくる、泣きたくなるような衝動感情を抑えるようにアラシヤマに縋る。
この男の前で弱さを表す事は悔しいけど。
縋らずにはいられないのは、込み上げるものを抑える為か。
それとも彼と同じ想いから欲する衝動か。

―――いや、けどそれは・・・。

自分の彼に対する想いは、彼が自分を想う感情と同一のモノだろうか。
向き合う事でさえ怖いのに、それを直ぐに認識するのはきっと無理。

「急がなくてもいいんですわ」

心を読まれたかと思い、びくりと僅かに肩が震えた。
読心術なんて―――そんな筈はないのだけれど。

「わてはただちゃんと向きおうて欲しい思いましただけですわ」

少々急かしてしまった面は否めないけれどと笑う彼の顔に寄る眉間の皺が哀しく見えた。
直接的ではなく。
とても間接的に諭そうとするその姿勢は、やり方の大差はあれど、と同じだ。

―――誰と、同じ?

ちらり、と月色の影がアラシヤマ越しに脳裏に映る。
揺れる 揺れる 黄金の鬣。

―――眩しい。

顎をつい・・・っと上げ、空ろな瞳をどこからか漏れているらしい微風に揺れる黒に映す。
さらりとそれを撫で上げてみれば相手の身体がおかしなくらいにビクンと跳ねる。
構わず優しく髪を梳いた。

「・・・お前の髪も・・・硬いな、少し」
「シンタローはん・・・?」

消え入りそうな彼の声、その中にある確固たる事に気付いた自分。
不審に思い、緊張に硬くなる面を彼に向ける。



お前の髪も・・・



―――“も”。それは誰の事を言うてはりますの?

ゆっくりと身体を離す。心臓がドクドクと喧しい。

「・・・言うて、シンタローはん」
「何を」
「あんさんは・・・あんさんの―――」


誰がシンタローはんの中にいますの。
わてより先に誰が入り込みましたんどす?
あんさんの眼前にいますんはわてですのに、わてを見てくれはりませんの?


疑問系ながら実際には検討はついている。
だからこそ苦くて辛い。

「わてでは役不足でっか?」

全てが遅すぎましたのやろか・・・。
苦しく苦い想いと共に愛しい人を更に強く抱き寄せる。

―――違う。

強い想いを打ち明けた彼の肩に腕を回しながら心の中、そっと呟く。

―――そうじゃない。

役不足なんかじゃない。
彼も大事な構成物質のピース。

―――ないが・・・ただ・・・。

世界に数限りなくある言葉。
だというのに上手く想いを適切に表す言葉は見つからなくて。
自分自身ですら整理のつかない想いを、どうして彼に伝えられるのでしょうか。





開け放たれた窓からバサバサと時より強めの風が室内で踊る。
部屋の主の兄よりは落ち着いた、弟よりは飾り気のある調度品の数々、
その中心部に固定設置されたさして大きくはない白いテーブル。
そして置かれた何杯目かのコップに注がれた、
アルコール度の非常に高い、決して少なくはない無数の酒瓶。
鬣のような硬質な黄金も揺れてその度に鈍く光る。
酒に酔う事はなく、逆に酒を酔わせているのではないかと誰かにそう嫌味として咎められたが、
あながち間違いではなさそうだ。
アルコールが齎す浮遊感も甘さも、いつの頃からか薄れていった。
面白みが半減したと知っていても呷り続ける酒。
浴びるように飲む。
確かにその言葉通り、服のあちらこちらに点々と酒の水滴がばら撒かれている。
双子の弟のような米国紳士的に上品に飲むと言う事はない。
途中からコップは意味をなくし瓶を片手に直接口を付け喉に流し込んだ。
とっくに酔ってしまってもおかしくはない―――それ程豪快に肝臓へとドロドロと流し込んでも酔い込めない。
今日はまだ大喰らいの彼は夕食を口にしていないのだ。
空っぽのお腹に酒を入れると酔いが回るのが早くなると言われているけれど。
それは全くに訪れず。
また乱暴な手つきで注がれる酒。
硝子の中、小さくなった氷が狭い空間の中でかちりと音を立てて離れる。
そしてまたどちらからと言う事もなく引き寄せあい、懲りずにカランとぶつかる。
豪酒な彼。
しかしこれでもまだ酔えぬ原因は

「アイツの所為で何時まで経っても酔えやしねえ」

子どもみたいな八つ当たり。
想いの複雑さは世間を知る大人のものなのに。
領域は森羅万象形見えるものも違えるものとて無限ではない。
例えるなら視界に捕らえる事は叶わぬ不明確な一つの箱舟。
ある一定量を受け付けたならそれは容易く崩れ落ち、泡粒に姿を変え深海へと消える。

「とっくに限界を超えてやがるだろう。テメエは」

紡がれた言葉は驚くほど弱い。
それに反応を示したかのように、またカランと鳴り揺れた氷。
小さく、なのにとても空間全体に響く音を打ち消すように呷る。
想いの全てを流すかのように。
グラスに残った僅かな残り酒と氷に映った顔は、
波紋でよくは見えなかったが不快だけで形成された面だろう事は知れた。
快を促す酒。
不快のみ感じる男。
原因はきっとあの影がある京人。
今頃、現総帥と言う肩書きを持つ甥の元へ何かと理由を付て傍に自分の居場所を作ろうとする、
部下の弟子が甥っ子の傍に居るのだろう小さな推理は全くの感ではない。
甥との日常茶飯事ともなっている討論後。
自室に戻る際、近くに感じた彼の気配。
気は複雑に乱れ、会いに行く男とのこれからをあれやこれやと頭に描き、
期待と落胆を繰り返しているのだろう事を予測するのは常日頃の―――係わり合いが乏しい為、
その間の微かな記憶の彼と甥の関係考察と、
師匠である部下から極たまに耳にする彼の小話からの僅かな情報からだけだが―――彼から簡単に知れる。
三十にも満たない生で、両腕から溢れ出してしまう程の親愛も無責任な期待も、
殺意を含む憎しみさえも受け止め続けた甥。
彼に近付くモノ。
その大半が甥の心を気にもせず入り込んだ先には未成熟な領域(テリトリー)。
入り込んだと言うより無理やりな形の侵略だろう。
あの男なら大丈夫なのだとの無意識下での勝手な押し付けられた信頼。
受け止め、同時に失った幾つもの愛おしい存在。
もうこれ以上何かを失う事が酷く怖いのだと深い心が悲鳴を上げても、誰も気付かない。
気付こうともしない。
例え察しても黙殺し、不安定要素で構築された窮屈な領域に土足で進入する。
あの京人もまた同じなのだとハーレムは結論付けた。
けれど。
どこかでリンリンと鳴る否定の鈴音。
ちらりと視界に過る片方だけのしかし両眼に炎を宿す瞳は―――。

「シンタローに呷られたのかよ?」

アイツも。
己も。
媚びるでもなく、劣等感も優越感さえ他の者ならいざ知らないが、
甥の前には現さない抱く筈はなかった不純な想い。
意外とも思える二人の共通点はシンタロー。
それでいて、違いを生み出す原因もまた彼。
一歩後ろ又は隣で、彼を見守り支えになりたいと願うアラシヤマとは違い、
ハーレムは甥の数十歩先を歩む優越感は持とうとする。
彼のように前に進むでもなく後ろに控えるでもなく、共に並ぶ事すら望む事はない。
甥はもう子どもではないのだし自分はそこまで甘くはない。
ただ特別意識させる事なく、察する事もさせずに道を作りたかった。
例えば生い茂る道なき広大な草原を無造作に進む。
新しく出来た道を甥が進むのだ。
常に彼の前を歩き、
その先に待つ、ハーレムとシンタローの互いの位置関係は今と比べ、どう変化するのだろうか。

「一時の愚問で終わるがな」

思考はそこで途切れる。
気付かせない素振りで彼の中へ潜り込みたかった。
けれど。
シンタローの箱舟はもうぎゅうぎゅう詰めで。
それ以上は定員オーバー。
それでも、あの器用でしかし妙なところで不器用なお人好しは、自分を必要とする者を、
結局は本気では邪険に出来ず、手を差し伸べるのだ。
心が悲鳴を上げていようとも。
それに気付かぬ愚者達の為に。
それが我慢ならないというのは傲慢なのだろう。
いや。ただの我侭だろう。
シンプルに。
自分は気が短い。
十分に自覚している。事について否定する気はない。
博愛の衣で、偽り姿で、狭く広い舞台で演じ続ける甥に現実を叩きつける。
瞳を逸らすなとそれこそ容赦なく。
好印象を持たれはしないだろう。
けれど憎悪の感情は強ければ強い程、質によっては彼の心を捉える事が可能となる。
それは“自分だから”だと自負してもいる。
彼の作った固い殻もこじ開け、捉える。
シンタローの箱舟から温まっている輩を全員蹴倒してしまえば、舟内は当然がら空き。
留まるのは自分だけでいい。
他の奴らには渡したくない居場所(ソンザイ)。
歪んだ愛情だ独占欲の黒い愛と人は呼ぶのだろうか。

「まァ誰が何を言おうが勝手に思おうが、俺には関係ねぇがな」

甥は確実にこの傲慢な叔父に対し、憎悪の想いを持っている筈。
しかしそれもこの男のカリュキュレーションズアンサー。
いつかのどこかで聞いた言葉がリフレインする。
もう遠の昔に誰かの囁き。

「愛と憎しみは紙一重・・・ねぇ」

愛する事と憎しみは別モノの感情。
当時はなにを馬鹿な事だと片付け、
まるっきりに無関心だった彼が意味を理解出来ずにそのまま流してしまった、記憶に留めていない遥かな昔。
必須項目ではない蛇足。気になるもの。常に胸を占める強き想い。
それだけで手一杯なのだから。
互いに互い、思いが先走り過ぎて素直になれないままに。
あまりに強情な甥。
激しい嫌悪感と、否定し切れない、確かに抱く愛しく想う情。
気付いてしまったなら―――認めてしまったのなら、すべき事は自然と一つの道へと向かい進む。

「刻み込んでやるよ」

俺を。
癒えない傷をもっと深く与え続けてあげる。
無理矢理にでも、それでも欲しいのだから。
我慢は覚えない。欲しければ奪えば良い。
全て。
身体だけじゃ決して満足など出来ない。
もっと欲するのは。

「けっ、らしくもねぇ」

男からすればまだまだ青臭いいあんな子どもに、
こんなにも激しく執着する事し快と不快を簡単に揺さ振られるなんて。
今は忘れるようと、酒を体内に循環させる。
今、だけ。
彼を忘れる事は実際には出来やしないし、

「忘れてもやらねぇけどな」

波紋を作り続けるワインレッドの表面に自分と甥を映し、小さく笑った。
微かに覗く月は朧月。
部屋の主である男を見守るように、淡く光を降らせ続けた。





「シンタローはん」
「んだよ」

呼ばれてはじめて飽きずにアラシヤマの髪を撫でていた手動がとまる。
明らかに見せつけと分かる盛大な溜息の次には「テメエの所為で溜まってる仕事を中断させられるわ
ソレを今からヤル気は削がれちまったしで散々だぜ」と長々ぶつぶつ言ってくる。
やれやれ先程までの彼はどこへ行ってしまったのか。
そう思うのと同時にけれど虚ろ調子ではない、いつものシンタローに少なからずの安堵感。
文句を言われる謂れは
・・・・・・・・・やはりあるのだろう。

―――それに何ぞ言い返したとしてもメリットのある結果は得られへん事も先読みが出来るさかい、
     素直に謝罪しておくのが何より得策でっしゃろ。

シンタローが“こういう場面”では“こうする”、
“ああいう場面”では“ああする”など舵の取り方が意識する事少なからず理解出来るようになってきている。
それだけ自分は彼を、彼だけをずっと見ているのだから。
気がつけば何時だって彼の事だけを追いかけていく自分。
今は安堵感を持たせる小言を淡い笑みを持って人差し指を彼の唇に当てて制した。
少なからず驚いたような彼は黒曜石の瞳を少し大きく開く。

「あんさんが誰を強く思うても構いまへん・・・と言うたら、まあ・・・嘘になりますけど」

言いながら触れる唇をゆっくりと優しくなぞりあげる。
アラシヤマにしては大胆過ぎる行為に対し、普段ならば十や二十、下手すれば眼魔砲を繰り出す癖に。
出来ない、しようとも思えないのは、彼の常には見られない温かさを纏った自愛な笑みについ、
毒気を抜かれたからか。

「いつかわてがトップになりますよって。期待しててくだはれv」

あの子どもよりも、最愛の弟よりも、彼の従兄弟からも他の仲間よりも、
・・・戦略的にシンタローに入り込む彼の叔父である、あの男をも越えて。
体も心も。
誰よりも自分が一番彼の傍にいたい。

「はァ?何の」

案の定。彼は気付かない。気付かれたらきっと、

「言うたらあんさん力いっぱい否定しますさかい。まだ言いまはんわ」
「んだよソレ。否定されるって分かってるんなら何のトップだか知らねーけどぜってぇーに無理だろ」
「酷いおますなぁ~。まだ何のか言うてまへんのにもう無理だ言いはるなんて」
「テメエの考える事は大概、俺にとってろくでもねえ事だし」
「ああっ!!相変わらずに殺生なお方やっ!」

冷たくさらっと言われてしまい、大袈裟によよよよ・・・と泣き真似を存分に披露する。
ただ少しからかってみただけなのに、相変わらずの彼が妙に可笑しくて、涙を瞳に溜めお腹を抱えて笑った。
彼が可笑しくて。
本当に、涙まで浮かんだのはそれだけが理由だったのだろうか。





それから少し続いた、いつも通りの二人の会話・対話とほぼ一方的ながらの言い合い。
いつも通り。
他の気心の知れた相手とならば誰とも大差な変わりのない態度。
平面だけの会話。
微量に受け取れる事の出来る想い。
それもそう遠くないうちに。

「変えてみせますよって」
「は?何を??」






誰も入り込めない、入り込ませない、二人だけの領域(テリトリー)。
END

☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:
PAPUWAキャラクター人気投票でシンちゃんが一位を獲得したと知った瞬間に、
「こりゃぁ祝うっきゃねえ!!」とばかりに書いた三位(ハーレム)vs二位(アラシヤマ)×一位(シンタロー)。
真っ黒クロスケ・・・と言う程ではありませんが、シリアスまっしぐらでした(´▽`;A゛
その口直し・・・になるのか分かりませぬが、ちょこっとおまけ↓はALLギャグ路線でGOo(≧▽≦)○☆★


★GOBLIN’SPARTY★・・・の没ネタ


★これまでのあらすじ★
ガンマ団に設置してある託児所の子ども達の為に、ハロウィンパーティを主催したシンタロー現総帥。
化け猫の仮装をして自らも積極参加。
無事に終わったハロウィンパーティだが、自室に吸血鬼の仮装をしたアラシヤマが訪れ、菓子を強請った。
邪険に対応するシンタローに、「仕方あらしまへんなぁ・・・・・・ほなら悪戯しますえv?」と襲い掛かるアラシヤマ!
どうなる!?シンタロー!!!





やばいヤバイや~~~べ~~~えええええよおおおぉおぉおぉおぉぉ~~~~~~~~!!!!!
脳みそをフル回転させて、この窮地を切り抜ける方法を考える。
何かある筈だろ!?どんな難解な状況でも打破する何かがッ!!思いつけ思いだせ思い・・・・・・・・・
―――あ。
あった・・・。アレがあったんだっけか!
グイッと相手の体を押し退けてベットから降りる。

「シンタローはん?」

展開に着いていけないと語るぼんやりとしたアラシヤマに背を向けてソファに向かう。
ソファの上にはさっきパーティで着用していた化け猫服(?)が無造作に投げ出してある。
少し時間が経った為か少々の皺が出来てしまっていたが、
どうせ明日にはガンマ団内に設置されているクリーニング部署に頼む予定だったから特に問題視はしていない。
しかし、クリーニングに出す前に≪コレ≫に気付けてよかったぜ。
そのまま出しちまってたらえらい事になっただろうな。
ポケットの中がべとべとしちまって。
俺が離れてしまっても、耳を塞ぐかその口を塞ぐかしたいアラシヤマお得意一人妄想語りが聞えてくる。

「何か探しものでっか?何もこないないざ本番な時にせんでもええんでっしゃろ。
それともよっぽど今すぐに必要なものですの?
ハッ・・!今入用なもの言わはったらやはりそういうもんですの!?
いややわぁ~vvシンタローはん、意外と大胆ですわぁv
そないなもんに頼らへんでもわてはちゃあぁ~んとあんさんを満足させる事出来ますよって要らへん思いますよ?
京人は手先器用が多いよってどすから。
まあ京人全員がそうとは言えまへんが、けどわては幼少期から何をやらせてもそつなくこなせましたし。
はっ!!そう言えばあんさんなしてそないな物を持っとりますの。
・・・まさか。
・・・・・・まさかとは思いますけどシンタローはん。
どこぞの誰かと使ったりしてまへんでっしゃろな!?
使う使わないは別としても、わて以外の男と―――――うわっ!!」
ぼすっ
「いい加減に黙れ」

≪コレ≫を服から取り出すただその動作時間だけで、
んなアホな想像妄想を限りなく続けられるアラシヤマの顔面めがけて化け猫服で思いっきり殴ってやった。
服はまあ、柔らかい素材で出来ているからそんなに痛くはなかっただろ。
勢いは全力でつけたから痛い“ようには”一瞬感じるかもしれねえケド。

「ほれっ」
「え?ぅわっととッッ!」

突然投げたソレを、慌ててアラシヤマが危なげな手つきでキャッチした。
手に平の中でソレが数回バウンドしている。
おいおい・・・。一回でキャッチしろよ、ガンマ団(自称)No.2の男。
ガッシリと両手に握り締めたソレをゆっくりと指を解いて凝視するこいつの顔に、
状況追跡困難色が目印のような判り易さで色濃く浮かんでいる。
俺の貞操危機(※まだあるのか信憑性はイマイチ)を救う小さなソレは。

「チロルチョコ・・・でっか?」

ハロウィンパーティで子ども達に配った菓子の中でやけに数の多かったチロルチョコ。
余った分は本部に戻すも良し、土産代わりに貰っても良しとなっている。
ハロウィンパーティー主催者は俺だが、菓子・場所手配諸々は親父の代からの総帥秘書、
名前だけは甘く仕事に関してはかなり厳しいコンビ・ティラミス&チョコレートロマンスに主な手配、運営を任せた。
菓子類は元々子供たちの為に用意したモンだし、俺は残らないように全部配ったんだが、
それでも中途半端に一つだけ余っちまったチロルを一応貰っておいた。
まさかこんなちっちゃなモンに救われるとは思わなかったぜ。

「そ。お前も知ってるだろ?チロルチョコ」
「そら、知ってはりますけど・・・はっ!?もしかしてシンタローはん・・・ッ」
「お前の予想、多分ビンゴな。どんなに小さくても菓子は菓子だろ」
「シ、シンタローはぁぁあん~~~」

あんまりに情けねえ声に、ちょっとだけ・・・本当に少しだけ意地悪だったかなと思うけど、
やっぱりそー簡単には俺の初物は渡してやんねーよ。






どうせ来るなら全てを賭ける覚悟を持って全力できな。
中途半端じゃ俺は捕まえられねえよ?
俺はお高いんだぜ?
知ってたか?



。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。。・
:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。
本当はこっちが【★GOBLIN'S  PARTY★】本編になる予定でしたが、
気が付いたらアラッシー甘やかしのHAPPYENDをUPしておりました。
おっかしいですね~(゚_゚?)何の為に『何故かチロルチョコの多い菓子の袋(勿論他の菓子もあるが)を
一つを渡し~』と菓子描写をしたのやら(;´▽`A``
俺様なシンちゃん書けて幸せ~vv主婦してるシンちゃんが一番好きなんですが、俺様受もいいよねッ☆ヾ(≧∇≦*)〃
俺様受シンちゃんシンちゃんはアラッシー相手じゃないとなかなか難しいですし。(キンちゃん・・・は対等ですし)














前編≪ ≫戻る

ポイント 愛知県 興信所 資格 確定申告
m
これからがはじまり





今までは殺し屋として君臨していたガンマ団。
サバイバルな男達の群れなそこには女性は殆どいない。
その為か団員には女性との縁がなく、また稀に縁あったとしても相手が『殺し屋』だと知れれば、
たちまち女性は逃げていく。
よって家庭を持つなどと言う者はガンマ団員では非常に小数であったのだが。
しかし今は殺し屋から180度変えた為、相変らず女性職員は少ないものの外で交際が順調にいっている団員が増えたらしく、結婚式の御呼ばれなんかも急激に増えた。
それはそれでとてもめでたい事なのだが、
ここで、どこの企業でも一度は頭を抱えてしまう問題が発生してしまったのだ。
結婚ともなれば次はそう、子どもである。
ベビーブームが到来し、結果、子どもを預かる所謂『託児所』なる場所が出来た。
しかも園長は、

「はいはぁ~~~いvvみずきちゃんはミルク160CCだったよね~~♪」

マジック前総帥その人であった。
総帥の座を息子のシンタロ―に継承した後、はっきり言って彼はかつてない暇を持て余していた。
最初は息子のディスクワ―クなどを手伝おう♪と張り切っていたものだが、当の新総帥本人に、

「この位自分で出来る!!テメエは老後を楽しんできやがれ!!」

と蹴りだされてしまった。シンタローとしてはもっと自分を信用して欲しいのだ。
決してマジックはシンタローの力量を疑っている訳ではなく、むしろその逆なのだが。
可愛い可愛い愛しすぎて困っちゃうvくらい大ッ事な愛息子のお手伝いをして、
少しでも負担を減らしてやりたいなーと思っているだけなのだが。
その後、仕方なしに有り余るほどの書物を読んだりレンタルビデオを借りに行ったり、何やらテレビや新聞、口コミ等で今流行のに手をつけてみたりもしたが、どうもイマイチ楽しめないのだ。
そんな時問題になっていたベビーブームによる育児問題。殺し屋廃業とは言え、
忙しさは変わらない―――いや、180度方向転換をした為以前より更に多忙なのだ。
よって設置された託児所。マジックの提案であった。自ら園長&主任になり結構生きがいを持って
世話をしているらしい。ちなみに殆ど2歳未満の乳児達がこの託児所で過ごしている。



夜も更け、ここ前総帥の寝室ではキングサイズのベッドに二人の男が寄り添って枕を共にしている。
一人はこの部屋の主、もう一人はその息子で現総帥。先程の疲れもあってか、
シンタロ―の瞼は閉じかかっている。マジックは息子の豊かな髪の毛を梳き、背中を宥めるように
摩りながら安眠へと導いていた。ちなみに二人が先程まで何をしていたのかは聞くだけ野暮です(笑)
しかしふと、マジックは思い出したように眠りかけていた息子にある提案をした。

「ねぇ、シンちゃん」
「・・・んだよ」
「シンちゃんもさぁ、数日間託児所で子供達のお世話してみないかい?」
「何でまた」
「シンちゃん今まで託児所に関してはノータッチだったでしょ?」

何事も体験だよvとマジックが畳み込む。それでもどこか渋るような息子に疑問を持つ。
子どもは嫌いじゃない筈―――いや、むしろ子ども好きなシンタロ―だ。渋る理由が見当たらない。
よいせっと身体を起こして溜息をつくシンタロー。

「今、総帥の仕事で手一杯だし・・・」

そうか。納得した。
まだ息子は総帥に就任してから日が浅い。慣れぬディスクワークに四苦八苦しており、ろくに休む時間も取れない。徹夜だって少なくはない。マジックも同じ道を歩んだからこそ十分に分かる。もはや総帥業からは引退したものの、総帥という地位について数十年経っても毎日が目まぐるしく忙しかった。

「だからさ・・・」

無理だと呟くシンタローの額にそっと口付ける。

「くすぐってぇ・・・」

文句を言いながらもクスクスと笑うシンタローにつられるような形でマジックも微笑む。

「大丈夫だよvパパが何とかしてみせるからvv」
「何とかって何だよ」
「シンちゃんは安心してパパに任せてvね?決定v託児所実習vv」

パパが手取り足取り教えてあげるからね~♪と浮かれ気味な父親を見て、シンタローは内心、

―――ただ単に俺と一緒に何かがしたいだけなんだろーけどな、実際。

呆れながらも愛されてると実感するのはこんな時だったりして、
それが妙にくすぐったくて・・・嬉しかったりする。
ばさっ毛布を顔が隠れるくらい被る。トマト顔はあまり見られたくない。

「わぁーった。やるからもう寝るぞ」
「おやすみvシンちゃんvv」

シンタローの毛布を少しはいで、再額に口付ける。


夜明けはまだ遠い・・・。



(シンちゃん一人称)

親父が俺のどっかの短大生のレポートのように溜まりに溜まりまくっている仕事にどう手を回したかは知らんが、託児所実習の日までには結構片付いていた。勿論俺も一生懸命こなしたが、最終日にはまだかなり残ってた筈なんだが・・・。まあいいか、見直してみたけど完璧な出来の書類だったし。
親父に渡されたガンマ団の託児所への地図を片手に歩を進める。総帥だが分からない施設は沢山ある。ここはやたらと広いのだし、建物も殆ど似通っている。
数十分歩いてついた先――――。



「ここが親父のいうガンマ団の施設なんだろうな・・・」

多分・・・・・・いや、絶対。やけに可愛い動物やらお花やらが描かれたその建物は、
周りの無機質さを感じさせる建物とは明らかに異色でかなり浮いているし。
何より【ウエルカムvマジック園】と言うダサ過ぎる園名が入った看板がデカデカと掲げてあるし。
まあ園名はともかく、外見は託児所らしくていいかと、戸に手を掛ける。

「あれ?」

開かないぞ?なんかロックがしているみたいだ。
今日7:45に来る事は親父や働いている職員達は知ってる筈なんだがなー。
ふと見ればインターホン。

「これを押せばいいのか」

さあ押すぞという時に、がちゃっ内側からロックが解除された。

「シンちゃんいらっしゃい♪」

嬉々として現れたのは、黄色を基調とした≪くまのプーさん≫がデカデカとプリントされたプリチ~v
エプロン姿に頭に三角巾を被った育ての父親。片手には小せえ赤ん坊を抱えている。

「ほらカズキ君、シンタローお兄ちゃんにおはようは?ん?」

親父にしっかりと紅葉の手でしがみついている“カズキ君”は暫し俺の顔を物珍しそうに見ていたが、
急に視線を逸らして親父の胸に顔を埋めた。何か泣いてるみたいなんだけど・・・。
俺、そんなに悪人面してっかなぁ・・・。

「嫌われたのかな・・・?」
「ううん、『人見知り』だよ」
「あ、そうか」

そういう時期って幼児期にあるって聴いた事がある。確か前に親父が話したか。

『一歳の頃のシンちゃんはね~、あんまり人見知りはしなかったんだけど、
ハーレムにはいつまで経っても懐かなくって、毎回見た途端に泣き出しちゃって。
あんまりシンちゃんが可哀想だから、暫くの間ハーレムに遠征に行ってもらったんだvv』

と話してたな。(獅子舞が可哀想とは思わないらしい親子)

「ごめんね、シンちゃん。昨日言い忘れてたんだけどいつもドアはロックして、
用がある人はインターホン鳴らさなきゃいけなかったんだ」
「随分と用心深いな」
「大事な預かり者だからねv」
「ふーん」

以前まで人殺しを平気でこなしていた男は、今では育てる側に回ったんだな。
それは俺も同じ事だけど。
てとてととしっかりとした足取りで、二歳近くだと思う女の子が俺の足元に引っ付いてきた。

「だ~~vv」
「この子は俺に人見知りしないんだな」
「そうだね、まだクミコちゃんはあんまり人見知りしないみたいだから」
「ふ~~~ん」

詳しいよな親父。ちょっと以外かもとか思ったが、考えて見なくても納得出来るじゃねぇか。
この男はシンタローとコタロー二人の息子の父親なのだから。
―――って言っても、俺は実子じゃねぇけど。マジックの本当の息子はグンマで・・・・・・。

「シンちゃん?」
「あ、ううん。何でもねぇよ」

「じゃあ早速あそこの部屋―――『観察室』って書いてある部屋が見えるでしょ?
そこの右隣の部屋―――がロッカーあるからそこに荷物置いて着替えてきてね」

着替え終わって(着替えって言っても、親父みたいに三角巾被ってエプロン付けるだけだけど)
うがい手洗い、それから出勤簿に印、と。

「シンちゃ~~~ん。朝会始まるから来てね」

でかい声で遠くから俺を呼ぶな親父!まだ寝てる子どもとかが起きるだろ!
ちなみに俺のエプロンかなり濃いピンクを基調とした≪ハローキティちゃん≫がでっかくプリントされたやつ。言っとくが俺の趣味じゃねえ!昨夜俺が用意したエプロンは薄水色の無印エプロンだった筈・・・・・・・・・・・親父・・・勝手に摩り替えやがったな・・・。
持ってきたリュック開けてみてから気付いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

仕方ねえか、ま、この方が子どもは喜ぶだろうし。



朝会っても、廊下でやるのか。場所的にも子どもが集まってる『歩フク室』ってところで。
そこかの会議室とかでやるんじゃないんだな。
まぁそうか、子どもとかがしっかり視界に入るところに常にいないとなに起こるか分かんねぇし。



朝会内容はかなり細かかった。夜中に預けられる子どもはここで寝泊りで、夜勤者がしっかりと管理してるらしい。寝たらそのまんま起きないで朝まで寝てるって訳じゃねえんだなー。
驚くほど細かく子どものチェックしてる。
朝会終了後からはもう目が回るほど忙しかった!
飯食わせようとすれば逃げるわ泣くわ暴れるわスプーン投げるわ吐き出すわ、
食事だけでもこの調子で、その他もろもろもかなり30人近くの子どもに振り回された。
慣れない手つきで四苦八苦している俺の側には、親父が付きっ切りで、

「離れんか!」

と言ってもニコニコしていて、何がそんなに嬉しいんだか効果なし。



やっと昼寝の時間になって俺達も弁当食い終わった頃、か弱い、
けど・・・何て言うか・・・訴えるような泣き声が聞こえた。
俺は親父の裾を引っぱり泣き声のする部屋を指差す。

「何かあの部屋から独特の泣き声が聞こえんだけど」
「ああ、ミルクの時間か」

『観察室』とプレートが掲げられている一室に眠っているのは真っ赤な顔して泣き叫んでいる、
すっげー小せえ赤ん坊。ホントに顔真っ赤にして泣くんだなー。あ、だから“赤ちゃん”か。

「この子はコウ君、まだ4ヶ月になったばかりなんだよ。まだ首座ってないから気を付けてね」
「なあ、親父。結婚して子どもが出来て、旦那はガンマ団で仕事は分かる。
じゃあ何でこいつらは“ここ”にいるんだ?」

母親がいるだろうが。こんな小さい時期の子どもなら尚更、母親が育ててやるもんじゃねぇのか?何で託児所なんかに預けるのか分からない。まさか育児放棄や捨てられたとかじゃねぇだろーな・・・。

「この子達の“お母さん”達もここで働いてるから」
「はぁ!?」
「シンちゃん・・・総帥なのに知らなかったのかい?」
「う」
「戦闘系じゃないけどね。経理とか事務とかそういう細やかな作業をしてくれてるよ?」

今までは『殺し屋』だったからだろう、女性にはあまり関心の持てないガンマ団だが、心機一転して団員が女性と付き合って、その女性もガンマ団に関心を持ってきて旦那と同じ職場に就職か。
納得したような、でも微妙に複雑な俺の耳に嫌~~な台詞が入ってきた。

「ねえシンちゃん」
「あんだよ」
「こうしてると・・・・・・・・・・・・・・・幸せ家族v育児編vvって感じだよねv」
「死ね。んで、三途の川がホントにあちいか確かめて来い」
「酷いッ!シンちゃんてば」

知るか、アホ。いちいちオーバーリアクションすんじゃねーよ。コウが驚いて哺乳瓶から手ぇ離しちまったじゃねーか。ったく・・・・・・。



「子どもって・・・こんなに世話すんの大変だったのかよぉぉぉ~~~~~~~~;」

いや、以前パプワの世話してた時も大変だったけどな。
ロッカーに手をついてそのままずるずると床に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
体力には自信がある俺だが流石に今日一日終わった後はすっげー疲れた。

「ディスクワークばっかで、あんま体動かしてなかった・・・か・・・ら・・・・・・」

・・・・・・あれ?何か引っかかる。

「あっ・・・//////」

・・・体動かしてないっても、親父が夜求めてくると結構動くっていうか体力消耗させられるけど・・・・////////

「何考えてんだよ、俺・・・///////」

やけにリアルに思い出しちまった。やべえ・・・顔が火だる。

「何考えてるのv?」
「何ってナ――――――――――うわああぁぁあああああああああああぁ!!!!!!!!!!!!」

部屋の隅まで後ろ向きですっ飛んだ!!いきなり気配消して超接近するな!親父!!!!!

「見事なほど驚いてくれたね」
「テメエがいきなり現れるからだろ!!!」
「シンちゃん、静かにねv子ども達がびっくりしちゃうし」

ぐぅぅうう・・・。何かすっげー悔しい。正論だが。

「何かシンちゃんが真っ赤になって蹲ってるから、どうしたのかなー?って思ったから、
大丈夫かなーってそっと近付いたんだけど」
「別に何ともねぇよ」
「そうかい?じゃあ帰ろっかvv」
ぱしっ
「何気に俺の肩を引き寄せるな!」
「クスン。シンちゃんってば冷たい・・・」
「うっせえ!」

親父が軽く人差し指を唇に当てる。

「だから静かにってば」

アンタが変な事しなきゃ問題ねえんだよ!!!!(怒)



とにかく今日は疲れた。子ども達は可愛いと思うけど・・・やっぱり第一の感想は『疲れた』だろう。
だってのに!どうしてこのオヤジは元気に求めてくるかな!?今日はゆっくり寝かせろ!
第一アンタだって疲れてるだろうに!!俺以上に子どもの相手やその他こなしてただろ!!
なのに食事と風呂済ませて疲れたから今日は早く寝ようとした瞬間合鍵で扉を開けて、
有無を言わさずアンタの寝室に連れ込まれて!!!はぁ・・・、何されるか分かる事が嫌・・・。

「シンちゃんv“ご飯とデザートは入るところが別腹”って言うの聞いた事ある?」
「それってただ単にもっと食いたいヤツの言い訳だろ」

特に若い?女性が使う(かもしんない)。

「でもね、某B級番組が調べたところによれば、ある女性に胃が満腹なるまで食べてもらったんだけど、デザートを見せた途端に少し胃のスペースが空いたんだよ。
パパもテレビ越しだけど実際見てビックリしちゃった☆★」
「で?それと今俺を押し倒してるっつー状況とどう関係あんだよ」

俺は疲れてるんだ!ヤったらもっと疲れるだろーが。

「つまりね、仕事の疲れとシンちゃんとの愛の行為により生じる疲れは別物vv」

おおぉぉ~~~~~~い!!!!
ふざけんな!!食欲と性欲ごっちゃにしてんじゃねぇー!!!!!!!!!!

「まあ託児所作ったのパパだし、疲れても嫌じゃないんだけどねvシンちゃんは?」
「大変だったけど」
「ケド?」

「全然懐いてくれない子が段々懐いてきてくれたり、抱っこする時乳児とは思えないくらいの力で
ギュって俺にしがみついてくると、頼られてるなって感じて温かい気持ちになるよな・・・」
「そうだね。シンちゃんもあの年の頃パパがいなくなるともう泣きだしっちゃって。で、パパが飛んで
いって抱っこするとピタリと泣き止んで、『もうどこにも行かないでー』って抱きついて」
「STOP!」
「どうしたんだい?」

あんなー、このままアンタの話聞いてたら夜が明けるわ。
俺は早く寝たい。っつー訳で早く自室に帰りたいんだが!?
ぽんっ
???親父の手が俺の両肩に置かれるのは何故だ?

「そうだね。長々と話し込んじゃったらシンちゃんとの熱い夜が明けちゃうよねv」
「だから俺は!んぐっ」

唇塞がれた・・・。
あとは・・・・・・明日起きれっかなー・・・。(現実逃避)



(マジック一人称)

「シンちゃん、起きてる?」
「起きてる・・・」
「あ、何か怒ってる」
「当たり前だ。
明日からまた総帥としての仕事が山のように待ってるってのに無理させやがって・・・」

ブツクサと文句を言う言葉に棘あるなぁ。でも声に張りが無い。
もう精も根も尽きちゃったってやつか。パパなんか、後五か

「STOP」
「え、何が?」

いきなりSTOPって・・・?パパ何も言ってないよ??

「今、物凄くSTOPかけなきゃいけないような気がしたんだよ」

感がいいねぇ・・・シンちゃん。

「そう言えば・・・コタローの事なんだけど・・・」

ぴくっ
あ、やっぱりコタローの事に関しての反応はほかの事よりも敏感に感じるようだ。

「自分でも・・・今までコタローには、随分悲しい想いをさせたと思っている」

シンちゃんは何も言わずに、でも真剣に私の話に耳を傾けてくれていた。

「これからは良い父親になろうと思っている」
「親父・・・」

あ、初めてこっち向いてくれた。――――――――――いかんいかん、今はその話じゃない。

「サービスが・・・コタローには母親が必要じゃないかって言ってね」
「・・・・・・・・・・」
「再婚・・・しようと思うんだ」

困惑した風でもなく、しっかりと私の言葉を受け止めようとする真剣な黒曜石の瞳。

「シンちゃんはどう思うかい?」
「どうって・・・」
「反対?」
「反対はしねーよ。しねーけど・・・」

少し、間が空いた。おずおずとした口調で聞いてくる。

「相手・・・いんのか?」

いるから言ってるんじゃないか。肯定する私にシンちゃんは肩の力を抜いて笑った。

「そっか、おめっとーさん。随分遅い再婚だけどな」
「遅いは余計だよ」

クスクスとベッドで笑い合う。
シンちゃんは頭に手を組んでごろりと枕に頭を預け、天井の薄明かりに目をやる。

「んじゃ、俺も親父に負けてらんねーな。気立てが良くて優しい奥さん見つけねーと」

は?何を言ってるんだ?この子は。

「ちょっと待って!シンちゃん」
「あん?」
「パパの再婚相手はシンちゃんなのに、何でシンちゃんがお嫁さんを探すんだい?」

??????あれ、シンちゃん、まるで鳩が豆鉄砲喰らったような顔してる。
何かおかしな事でも言ったかな。

「ちょ――――――――――――――っと待て!待ってくれよ!!」
「何だいv?」

何かシンちゃんが黒い影背負ってブツブツ言ってる。どうしたのか。
がしっ
まだ暗い顔でシンちゃんが私の肩を掴んできた。どうしたんだろ、さっきから。
あ、もう一回vって言う意思表示vv?(思い込み激しいパパンって若いねv)

「コタローに母親っていう存在が必要なのは分かる!アンタが再婚するのも一向に構わねえ!
で、どうして俺がアンタの嫁になんきゃねんねーんだよ!女にしろ!女!!」
「何でだい?パパはシンちゃんとしか愛せないし・・・」

勿論グンちゃんやコタロー、キンタローは家族の意味で愛してるけど。

「結婚vしようねvv」
「い・や・だ!」

あかんべーするシンちゃんも可愛いなぁ・・・vvでも・・・。

「シンちゃんは私が嫌いかい?」

ここで“パパ”ではなく、“私”というのにはちゃんと意味がある。
だって結婚したらパパじゃなく・・・・・・・・・アレ・・?

「ねえシンちゃん」
「あ?」
「結婚したらパパはシンちゃんの事はシンちゃんのままでいいよね。
でもシンちゃんはパパの事なんて呼べばいいんだろうねぇ」
「知るか!アンタと結婚なんかしねえよ!!」
「じゃあシンちゃんは誰と結婚したいんだい?」
「え・・・・・・」

急にシンちゃんの勢いがぴたりと止まり、絡め合っていた視線が下降する。
口をもごもご小さく動かしているけど、音にならないらしい。
シンちゃん自身どう言いたいのか分かっていないというところだろうか。
しかし、今までシンちゃんは文句を言いながらも私と肌を重ねる事を頑なに拒まなかった。
それは私がシンちゃんを息子として見ているのと同時に、恋人としてみているシンちゃんも私を父親、
そして恋人だと見ていてくれてるのだと、疑う事もなかった。
なのにシンちゃんは違うのかい?私のただの思い過ごしか?幻想夢なのか?シンタロー。

「ほら・・・だってよ!俺もアンタも男だし・・・」
「だから?」
「だからって・・・・・・ええと・・・、ほら!後継者とかどうすんだよ!
俺が結婚してその後を継ぐ子どもとか・・・孫の顔見てぇだろ?」
「後継者は何もシンちゃんの子じゃなくても、いいんじゃないかい?グンちゃんやキンタロー、
コタローだっている。ほら、私の大事な息子は四人もいる。
私は恋愛対象ではシンタローが側にいさえすればそれでいいんだよ」
「・・・・・・・・・・」

そんな思いつめた顔をさせちゃって・・・でも、私ばかりシンちゃんに「好き」「愛してるよ」って
言わせるのはずるくないかい?一度は聞いてみたいじゃないか。結婚願望も勿論本気だよ?



沈黙はどれだけ続いたのだろうか。ようやくシンタローが口を開く、音を紡ぐ。
「俺は・・・」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・わりい・・・もうちょい・・・タンマな・・・」
「分かった。待ってるから・・・もう少しだけ・・・・・・」

ずっと君だけを待ってるよ。
君の心を信じてるよ。
決して私だけの一方通行じゃあないよね?
ねえ・・・シンタロー・・・・・・。



タイムリミットまで・・・あと・・・僅か・・・・・・・・・・・。



                                                   END





★あとがき★

ひそか様から頂きました挿絵?四枚のお礼小説マジック×シンタローでした☆★なんか甘いですねー。
ラブラブ書くの苦手なのに・・・。実はこれ、40%くらい実話が入ってます。
妖(あや)は2003年の2月に乳児園に10日間実習に行って来て、この【ウエルカムvマジック園】はそこがモデルです。
実習内容もこんな感じで死にそうでしたよ・・・。
意外と難しかったのはパパンです。口調とか。でもこれでも妖にしたら驚異的なスピードで書き上げました。
(2003・5・2)












≫戻る

ネット広告 ロゴ 看護師 求人 SEO対策
BACK NEXT
カレンダー
05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved