チュンチュンチュン………
外から漏れ聞こえる鳥の声。
朝の目覚めに最適なその声を聞きながら、シンタローさんはもぞもぞと布団の中で身動きしました。
まだ起きたくはないのですが、もうそろそろ鳥好きな団員が朝っぱらから盛大に豆まきをしだして、もっとうるさくなるだろうことはわかっていたので、仕方なくのろのろと上半身だけ起こすと大きな欠伸を一つしました。
今日はシンタローさんの12回目の誕生日です。
せっかくの特別な日を寝過ごして無駄に使いたくはありませんし、やはり起きるべきなのでしょう。それに今日は、シンタローさんには重大な使命がありました。シンタローさんにとって、生死を決めるにも等しいほどのものです。
ガバッと布団をはねのけて、勢いよくふかふかのセミダブルのベッドから飛び降りると、シンタローさんは決意も新たに拳を握り、カーテンを勢いよく開けました。
外はとてもいい天気で、一気に光の洪水がシンタローさんを襲いました。
自分の誕生日に雨が降って気分のいい人間などいませんし、シンタローさんもそれに違わず、晴れ晴れとした天気にワクワクした楽しい気分がこみ上げてきました。幸先は良さそうです。
トコトコと部屋の隅まで歩いていくと、ウォーキングクローゼットから着替えを取りだして、ちゃっちゃと着替えます。大きなクローゼットの中には色んな服が収納されているのですが、中には女の子の服など誰が着るのかもわからないようなものが仕舞われていて、自分の部屋のクローゼットなのに、シンタローさんにとってなかなかに未知な領域なのでした。
というか、ちょっと恐ろしくて調べられないというのが本音かもしれません。
洗面所に行き顔を冷たい水で洗い、ガシガシと歯を磨くと、すっかりシンタローさんの目は覚めました。そんなに目覚めの悪い方ではないシンタローさんなので、冷たい水で顔を洗えば、どんなに眠くてもたいていの場合目が覚めます。
そうして、だんだん伸びてうっとおしくなってきた髪を簡単に梳いて、シンタローさんは鏡を見ました。
中途半端に伸びた髪というのはなんとも情けなく、うっとおしさも相俟って切りたい衝動に毎朝駆られるのですが、大好きな美しい叔父さんのように長い髪にしてみたいという野望を持ったシンタローさんは、じっとその衝動を抑えるのでした。めざせサラサラロングヘア、を目標に掲げているシンタローさんです。
ゆったりとした足取りで洗面所を出ると、昨日のうちに作っておいたサンドウィッチを冷蔵庫から取り出すと、一口囓って思案に暮れました。
色々と昨日から考えていたのですが、どうもいい場所が思い浮かびません。
けれども、歩いているうちに思いつくだろうと見当を付け、シンタローさんは忙しく残りのサンドウィッチを口に詰め込んで呑み込むと、小さなリュックにお菓子とペットボトルを詰め込み、準備は万端!とばかりにそれを背負います。
そうして、まだまだ朝も早い時間から、シンタローさんの一日は始まったのでした。
まだ日が昇って何時間も経ってはいないので、ひんやりとした無機質な廊下はとても静かです。おまけに人っ子一人いないため、余計にそう感じてしまうのでした。
そこを、ソロリソロリとまるでドロボウのように抜き足差し足でシンタローさんは進んでいきます。
本当は匍匐前進でもしたい勢いですが、流石にそれをやるのはためらわれました。廊下で匍匐前進しているところを誰かに見られたらちょっと恥ずかしい、と幼心に思うシンタローさんなのでした。
それに、こんな隠れるところもない広い廊下で匍匐前進などしても、無意味というものです。
(どこ行こう………)
歩きながら、先程から頭の中をグルグルしているものはそれだけです。部屋から出たはいいのですが、まだ行き先は決めていません。
そもそも、何故シンタローさんがこんな朝早くからバタバタと大慌てで出掛けようとしているのでしょうか。
それは、毎年恒例になりかけている、誕生日のシンタローさんの境遇にあるのでした。
総帥の息子とあって、シンタローさんの誕生日には盛大なパーティーが行われます。その日だけは仕事は一切受けず、飲めや食えやの大騒ぎになるのです。
広いホールにどっさりと幹部や団員達が集まるのは、別にいいのです。盛大なパーティーも、楽しいので毎年とても楽しみでした。
問題は、家族やら親族達、なのです。
父親を筆頭に、いとこやら叔父やら……。とにかくひっつきたがるのです。
いえ、ひっつきたがる程度の可愛いものならば、シンタローさんもここまで追い詰められてはいないでしょう。
彼らは何故か”シンタローさんと二人っきりで誕生日を過ごす”ことにとっても執着するのです。オマケにそれがハンパな執着心じゃありません。勢いに押されてひっくり返りそうなほどなのです。
毎年毎年追いかけ回されて、すっかり疲れ切ってしまっているシンタローさんです。この歳から追いかけられる苦労を積んでしまっているのでした。
(おじさんだけならいいんだけどなァ……)
シンタローさんは美しい美貌を持った叔父が大好きでした。ハッキリ言ってかなり懐いています。どこかの嫉妬した某総帥など、危うく丑の刻参りに行きそうになった程です。
叔父さんとなら楽しいバースデーを過ごせそうなのですが、如何せん叔父さんと一緒にいると嫌でも見つかりたくない相手に見つかってしまいます。麗しき叔父さんはいるだけで目立つのです。
見つかりたくない相手は勿論、父親であるマジック氏でした。
(アイツにだけは見つかりたくねぇ……)
反抗期真っ直中のシンタローさんは、すっかりマジック氏を毛嫌いです。勿論それだけが理由ではなく、彼の過激な愛情表現にもあるのですが。
マジック氏の行き過ぎな親子愛には少々うんざりしているシンタローさんです。
そんなこんなで、今年こそ穏やかな誕生日を過ごそうと、朝も早よから出掛けることを決意したのでした。
悶々と考えていたシンタローさんは、ふと、ある男の存在を思い出しました。
彼は、妙にシンタローに構いたがる親族の中では、比較的必要以上に干渉したがらない男です。いえ、悪戯やからかわれるのはよくされるのですが、それでもまだマシな方です。
それに、彼はエラそうにふんぞり返る割には、シンタローさんをちゃんと一人の大人扱いしてくれるのです。
あちこちとお得意の飛行船で世界を飛び回っている彼に初めて会ったのは、数年前の秋のことでした。彼のナワバリにシンタローさんが踏み込んでしまったのがキッカケです。
それ以来、ガンマ団本部に彼が戻っているときには遊びに行くようになり、どことなく喧嘩友達のような、けれども友人とも呼べるかよくわからない、なんとも奇妙な関係を続けているのでした。
丁度いい、とシンタローさんは自分の名案にポンと心の中で手を打ちました。
(あそこへ行こう!)
―――あの切り株の森へ。
しかし、決意したところで、思うようにはいかないのが世の常というものです。
思い立ったが吉日と、極力足音を立てないように駆けだしたシンタローさんだったのですが、数メートルも行かないうちに、こんな朝っぱらからタイミング悪く歩いてくる人影がありました。
まずい、と思っても隠れる場所など、このだだっ広いだけの無情で無機質な廊下にはカケラもなく、いきなりピンチなシンタローさんです。
(このやろう! 来るんじゃねぇッ!!)
などと、呪いをかけようとするかのように心の中で怒鳴ってみてもどうにもなりません。
そんなこんなをしているうちに、ほんの少し薄暗い廊下の先にいる人物の姿が遠目に判断できた瞬間、
「!!!!!」
シンタローさんは可能な限り素早く回れ右をしました。
………が、
「あーッ! シンちゃんvv 探したんだよぉ~~!!」
黄色い声……もとい楽しげな声がシンタローさんの頭を小突くように追いかけてきました。
シンタローさんは嫌そーに顔を歪めましたが、見つかったものは仕方がありません。男らしく覚悟を決めて潔く人影に向き直りました。
「朝っぱらから大声出すなよナ、グンマ……」
声の主、いとこのグンマくんに向かってげんなりとシンタローさんは言ったのですが、グンマくんはまったく気にする気配はありません。
人のするコトなすコトにはしつこいくらいねちっこいクセに、自分のことにはゴーイングマイウェイまっしぐらな人物なのです。
その上、常にそのいとこに金魚の糞のようにつきまとっている男。
「シンタロー、グンマ様に指図するなんて赦しませんよ!」
「………なんでオマエまでいんだョ、マッドドクター」
「マッドは余計です。注射しますよ」
容赦なく言い返してくるドクター高松をジロリと睨み付けて、シンタローさんは口を噤みました。
注射は嫌いです。しかもドクター高松の注射なんて何が入ってるかわかったもんじゃありません。防衛本能に長けているシンタローさんなのでした。
「で、なんの用だよ」
何となくわかっていながらも、一抹の望みをかけて訊かずにはいられないシンタローさんです。
ちょっと奇抜なプレゼント贈呈、くらいなら貰ってやるからこの場を去らしてくれ……などと一生懸命になって心の中でお祈りしてみましたが、それをアッサリ砕くように、
「グンマ様が拉致監禁パーティを開きたいと仰っているのでね」
「やめんかッ!!」
「お見事。コンマ1秒でしたねぇ……」
「わぁ~! シンちゃんすごーい!!」
「…………………」
なんだかこの二人にマジメに付き合ってる自分がアホみたいに思えてきたシンタローさんでした。
ここは一気に強行突破しかありません。
そう思ったシンタローさんは、リュックに詰め込んでいたものの中から丸い物体を取り出すと、素早い動きでそれを二人の足下に勢いよく投げつけました。
シュッ!
パンパンパンパンッ!!
「っ!!」
「うわぁあッ!」
突如鳴った耳をつんざく音に二人が驚いて体を竦ませたその一瞬の間に、シンタローさんは一気にその横をすり抜けて全速力で走りました。
煙玉とクラッカーボールを同時に投げつけたため、シンタローさんが走り去ったあとにはモクモクと煙が漂っています。
(あぶねーあぶねー……。こんな早くから動き出してやがったのか。早いとこ行った方が良さそうだなァ……)
銀の廊下を風のように走り抜けながら、煙にむせる声を背後に聞き、そんなことを思うシンタローさんなのでした。
グンマ達を文字通り煙に巻いた後、シンタローさんは相変わらず無機質な廊下をただただ歩いていました。
幼い身体にはこのガンマ団基地は広すぎましたが、慣れたシンタローさんにとっては自分の庭のようなものです。歩くのには時間が掛かっても、新人の団員などよりはよっぽど早く目的地まで突くことが出来るのです。
今日の場合の目的地は、勿論玄関ホールでした。
しかし、問題は門兵です。シンタローさんは、エントランスから門の辺りを眺めて考え込みました。
門兵はマジック氏と繋がっていると見て、まず間違いはありません。シンタローさんが出ていけば、マジック氏に筒抜けになってしまうでしょう。シンタローさんにとって、それはゴメンです。
キョロキョロとシンタローさんはあたりを見回しました。こっそり脱出するのに、何か使えるものはないかと思ったからです。
そして、向こう側の廊下から誰かがやってくるのが見えました。シンタローさんは、相手が幾ばくかもこちらに来ないうちに、誰だか気付きました。
シンタローさんの叔父、ハーレムです。
逆立った金色の豪奢な髪は、なかなか間違えようがありません。シンタローさんは自分の運の良さに喜びました。
ちょうど彼のナワバリに行こうとしていたところですし、おまけに彼は、何故か大きな袋を肩から提げていたのです。あの大きさならシンタローさんでも楽々入れそうです。
脱出の予感を秘めて、シンタローさんはハーレムの元へと走り寄りました。ハーレムはすでにシンタローさんに気が付いていたようで、エントランスを出ようとしたいた足を止めました。
「ハーレム!」
シンタローさんは声を潜めて呼びました。そして、ガシッとハーレムが着ていたコートの裾を強く握ります。
「いまからどこ行くつもりだったんだ!?」
「それよりも、お前はどこ行くつもりなんだよ」
唐突な上、必死に質問したシンタローさんをハーレムはさらりと流します。しかし、シンタローさんは幼い故か、そのことに気が付かず、素直に「アンタのナワバリに行くつもりだった」と答えました。
「だから、その袋に入れってくんねェ?」
コートの裾を握ったまま、シンタローさんはハーレムを振り仰ぎます。
背の高いハーレムの顔を見るためには、必然的に上目遣いになることは仕方がありません。そして、シンタローさんの上目遣いに勝てるものはいないのでした。
「しょーがねェな……」
まんざらでもない顔でハーレムはそう言うと、シンタローさんの首根っこを掴むと、ポイ、と大きな黒い袋の中に投げ込みました。
まんざらでもない顔のわりには、結構乱暴です。
「いだッ!」
放り込まれた瞬間、袋の中に入っていた硬い箱に身体をぶつけて、シンタローさんは声を上げました。
「静かにしろ」
「いってー…、なんだョ、これ」
「企業秘密」
「はあ?」
呆れたように返すシンタローさんが、コンコンとその謎の箱を拳で叩きます。
厚みのある、長方形の黒い箱です。シンタローさんには、何が入っているか皆目見当が付きませんでした。
「ほら、出るぞ」
ハーレムがそう言うと、シンタローさんは門兵にばれないように、口にチャックをしました。
「はー、つっかれたァ……」
無事に門を通りすぎ、ハーレムのナワバリ(自称)である森に着いた後、伸びをして草の上で寝転がりながら、シンタローさんはしみじみとそんなことを言いました。
朝からずっとこそこそと動き回っていたのです。小さな身体にはやはり負担になったのでしょう。
地面と仲良くしているシンタローさんの隣では、ハーレムが荷物を降ろして切り株に座っています。葉の生い茂った木々の隙間から適度な量の光が漏れてきて、シンタローさんはその心地よさに目を細めました。
なんとも気持ちの良い日です。
シンタローさんは今日この日にこの場所を選んだ自分を褒めてやりたくなりました。
今日一日、ここでのんびりこうしているのもいいかもしれないと思いながら、シンタローさんはハーレムの方を見やりました。
頭上から零れてくる光を反射する金糸が目に眩しく、シンタローさんは目を眇めます。逆光でハーレムの顔が少し見えにくかったので、目を凝らしてみました。
「何顰めっ面してんだ」
切り株の方から伸ばされてきた手で、シンタローさんは頭をグリグリと乱暴に撫でられました。
別にしかめっ面をしているわけではありませんでしたが、特にそれを言及するわけでもなく、シンタローさんは先程から気になっていたことを訊くことにしました。
「あの袋の中の箱って何?」
子供というのは好奇心旺盛なものです。知らぬコトがあれば知りたがり、解らぬものがあれば解りたがります。
そういった子供の性でシンタローさんは訊いたのですが、ハーレムはニヤリと笑っただけでした。
そんなハーレムの態度が気にくわなく、シンタローさんはジロリと睨みます。
「言えよッ!」
「お子様は感情の起伏が激しいなァ」
怒ったようなシンタローさんの口調もものともせず、ハーレムはクツクツと低く喉で笑いました。
子供扱いされたシンタローさんは、ムッとしたような顔をしました。実際子供なのですが、子供扱いされると反抗したくなるのが子供というものです。
「言えってば!」
ムキになったように怒り出したシンタローさんに、ハーレムはサラリと言い放ちました。
「お前の誕生日プレゼント」
「…………………………え?」
思わず間抜けな声を出してしまったシンタローさんです。
「だーかーら、誕生日プレゼントだっていってんだろ」
耳遠いんじゃねェのかァ? などといつもの軽口を言われて、シンタローさんは我に返りました。
「俺の?」
「お前の」
確認するように訊いたシンタローさんの言葉に帰ってきた返事に、シンタローさんはハーレムの傍らに置かれている黒い袋ににじり寄りました。寝転がっていたため、匍匐前進です。
ハーレムはそれを見て、「芋虫みてェ」と呟きましたが、シンタローさんは聞こえない振りをしました。怒ってプレゼントを貰えなくなったらマズいと思ったのです。
「開けてもイイ?」
「好きにしろ、お前のだ」
シンタローさんは袋から出した黒いケースの蓋をバチンと開けました。
「あ……」
シンタローさんが小さく声を上げます。
中に入っていたのは、ナイフ一式でした。
前にシンタローさんがナイフを使えるようになりたいと言っていたのを覚えていたのでしょうか。
秘石眼のないシンタローさんは、それ故に力を欲していました。そして、それの第一歩として、ナイフを自在に使えるようになりたいと思っていたのです。
ちらりとハーレムに言ったことはあるような気がしたシンタローさんでしたが、よもやそれを覚えていて、その上くれるとは思ってもいませんでした。
手を伸ばして刃に触れると、ひんやりとした感触が指に伝わってきました。
「使い方は暇なときに教えてやる」
ぶっきらぼうにハーレムが言いました。
「ホントに!?」
「嘘ついてどーすんだ」
呆れたように言うハーレムの膝の上に、シンタローは勢いよく飛び乗りました。
驚いたハーレムの首に腕を回して金糸を掴み、シンタローさんは勢いよくハーレムの頬に唇をくっつけました。
「!?」
「お礼! ありがとな、ハーレム!」
驚きで言葉が出ないハーレムを気にすることもせず、シンタローさんは嬉しそうにそう言うと、さっさとハーレムの膝を降りてケースの前に座り込んでしまいました。
一瞬の後、我に返ったハーレムは、
「誕生日プレゼントにお礼はいらねェんだョ……」
などと、少々赤くなった顔でぼやいていましたが、シンタローさんの耳に届くはずもありませんでした。
end...
前へ
BACK
PR
ドォォォォォ……ン
その音に嫌そうに眉を顰めてシンタローは埃と血にまみれた団服を叩くと、まわりに倒れている人間を一瞥してその場を後にした。
これほどまでに凄まじい破壊力を持つ男は一人しかいない。その男が出てきたということは、退去と同意語だった。
………それだけの力を持っていた。
まわり一面の焼け野原。
散々な状態のそこにはもう見向きもしないで、シンタローは肩に掛かった髪を無造作に振り払い憎々しげに舌打ちすると、団員達が集まる集合場所へと急いだ。
あの男のいる所など本当は行きたくなどなかったが、点呼を取るときにいなければ咎められるのは自分だ。そんなつまらない意地などはさらさら張るつもりはなかった。
集まった場所へと着けばザワザワと異様に騒がしかった。
おそらくアイツの所為だろうな、とシンタローは後ろの方の列に並んで近くの木に腕組みをして寄り掛かった。 あの男がわざわざ出向くなどあまりないことだから。そして、何故出向いてきたのかなどというのは、ここにいる者達の大半は把握しているだろう。
それだけあの男が自分に執着していることは周知の事実だった。
息子可愛さか、とまわりがヒソヒソとシンタローを盗み見ながらそんなことを囁き合っているのが聞こえる。シンタローが眉を顰めてそちらを無表情に見やれば、慌てて顔を背けて上司が喋っているのをしっかりと聞いている振りをした。
(チッ、知らねぇヤツは好き勝手言いやがる)
胸くそ悪ぃ。
シンタローは苛立たしげに、何もかも追い出すように頭を振った。
「シンタロー」
用意された大人数用のゴツい車にまさに乗り込もうとしたとき、後ろから聞き慣れた声がしてシンタローは心底嫌そうに振り返った。
マジックはそんなシンタローの様子を気にも止めないでいつもの笑みを見せて、グイッとシンタローの腕を掴んで引き寄せ、悪戯な笑みを浮かべた。
「たまにはパパと一緒に帰ろうか」
「断る」
にべもなくシンタローは切り捨てた。
しかしそれくらいでへこたれる人間ではないのをわかっていたので、さっさと逃れようと掴まれていた腕を捻る。が、自分よりも少々ガタイの良い相手に抱き込まれ身動きが出来なくなってしまって、シンタローは苛立たしげにマジックを睨み付けた。
けれども一向にマジックの笑みが崩れる様子はない。
シンタローを乗せて空港へ向かうはずだった車ももう行ってしまった。マジックのヘリに乗っていくしかもう帰る方法はないだろう。自力では何も出来ないような気分になって酷くムカついた。
―――苛々、する。
「…………………」
無言で腰に回されたマジックの腕から逃れようと身を捩るが、身動きするたびに締め付ける力が強くなって軽く舌打ちした。後ろから抱き締める男がクスクスと小さく笑いを漏らす。
「さて。帰ろうか、シンちゃん」
「だったら、この腕を離しやがれ」
「駄目だよ」
それじゃあ逃げてしまうだろう?
耳元から入り込んでくる低い這うような声。
不覚にも身体が戦慄してしまって、カッと顔を赤らめる。
シンタローのその一瞬の隙をついて、マジックは一寸力を緩めるとシンタローを向かい合わせに抱き締め直し、突然のことに驚き見開いたままのシンタローの漆黒の瞳を覗き込んで、唇を重ねた。
シンタローの背中に回された指はスルスルと背骨を撫でるように辿り、合わさった唇からは悪戯な舌が入り込む。その瞬間、シンタローはようやく今の己の状況を理解し、藻掻いた。
「んんッ、ん、ぅぐ……ッ!!」
振り上げようとした腕は押さえつけられ、背中に回った腕に力が入るとシンタローは必然的に背中が弓なりになり、貪るような口吻けは一段と深くなった。
ガリッ
嫌な音が辺りに響く。
その途端執拗な口吻けから解放されて、シンタローは大きく肩で息をする。風が何もない荒地に吹き荒れていたため空気は埃っぽく、吸った途端に咽せた。
「流石はシンちゃん。お転婆だね……」
シンタローに舌を噛みつかれて血を流したマジックの唇が笑みの形を象る。ぎゅうぎゅうと締め付けてくる腕は未だ背中に回ったままだ。
シンタローの瞳が太陽の光を反射して煌めき、マジックは少しだけ目を細めた。
「そうかもな」
「!!」
マジックの笑みに気圧されないようにシンタローは不敵に笑うと、身体中の至る所に隠し持っているナイフを抱き締められた状態のままマジックの腹に押し付けた。
一瞬驚いたような表情をしたマジックだったがすぐに表情を戻し、気まぐれに笑うとスッとシンタローから離れてバラバラと大きな音を立ててプロペラを回しはじめたヘリへと踵を返す。クスクスと笑う声がシンタローの耳へと忍び込んでくる。
シンタローからは見えないマジックの表情は、けれどもきっと笑ってなどいないのだろう。
否、本気で笑っている所など見たことがなかった。
いつだってあの青い双眸は鋭く、今シンタローの手に握られているナイフのようで。
「乗りなさい、シンタロー。早くしないと置いていってしまうよ?」
振り返らないままマジックが至極愉しそうに言う。
「置いてく気なんかねぇくせして」
「……さぁ?」
この手の中のナイフを目の前の男に投げつけてやろうか、とシンタローは空の下に瞬く黄金を見ながらふとそう思う。
けれども、ナイフをその場に投げ捨てるとマジックの後を追いかけ、気怠げに歩き出した。
まぁいい。
自然と笑みが浮かんだ。
ナイフはまだ沢山あるのだから。
end...
BACK
日付が変わってすぐに、携帯電話が鳴ってメールの着信を知らせた。受信されたそれは父親のマジックからで、本文にはシンタローの誕生日を祝う言葉と仕事が終わるのが少し遅くなるといった内容が書かれている。
昼に会ったとき、仕事を終えたら酒とケーキを用意して部屋まで行くと言われた。断ろうとしたがこういうときこちらの意思は気にしてくれない。多分仕事が終わるのがどれだけ遅くなっても部屋まで来るつもりなのだろう。起きて待っていなければならないことに多少の不満はあったが、無視して寝てしまおうという気にはならなかった。
暫くして不意に来客を告げるチャイムが鳴る。遅くなると言っていた割には早かったなと思いながらも、シンタローは尋ねてきたのがマジックであると疑いもせずにドアを開けた。
ところが、そこに立っていたのは。
「よう、シンタロー。年食ってめでてえな」
滅多に自分の前に姿を現すことのない、叔父のハーレムだった。
困惑したこととあまり歓迎できない相手であることから、シンタローは無言のままドアを閉めようとする。しかしハーレムは足を挟んでそれを阻止した。
「オイオイ、親戚に対してちょっと冷たいんじゃねーの?」
「……何の用だよ、アル中」
黙っていても引いてくれそうにないことを察して、シンタローは溜息混じりに口を開く。ハーレムは片手に持っていた袋をわざとらしくドアの隙間から覗かせた。
「折角祝いに酒持って来てやったんだけどな。しょうがねえ、帰って一人で飲むか」
そう言って足を引いた途端、シンタローは顔色を変えて先刻とは反対に今度は勢い良くドアを開ける。思惑通りだったらしく、目の前でハーレムが面白そうに笑った。
「待てよ。上がってけ」
早口で引き止める言葉に、今度は声を立てて笑う。
「オメー現金だなァ」
全くその通りだと自分でも思ったから、シンタローは返す言葉も無く黙り込んだ。
シンタローがキッチンにグラスを取りに行っている間に、テーブルに置きっ放しにしていた携帯電話が一度だけ鳴った。
「おっ、メールか?」
すぐに切れたことから電話ではないのだろうと推測しながら、ハーレムはソファから身体を起こして携帯電話を手に取る。折り畳み式のそれを勝手に開けたところで、戻ってきたシンタローが引っ手繰るようにして取り返した。
「勝手に見てんじゃねーよ」
文句を言ってから画面に視線を移すと、自動的に受信されたメールの送信元が表示されている。またマジックからのメールだった。
「お祝いメールかァ?あの親ばかめ」
「それはもうさっき来た」
覗き込んできたハーレムがからかうように言うのに対し、シンタローは溜息混じりに答える。マジックからのメールならば別に見られても気にならないから、視線を気にすることもなくメールを開いて本文を表示した。
まだ暫く仕事が終わりそうにない、という内容だった。
「仕事終わったらここに来んのか?」
「そう言ってたぜ。酒とケーキ持って来るって」
「ほんとに親ばかだなァ」
声を立てて笑いながら、ハーレムは持ってきた酒の栓を開ける。二つのグラスに勢い良く中身を注いで、片方をシンタローに差し出した。
「仕事中の兄貴にゃ悪ぃが、先に飲んでよーぜ」
「ああ」
寝ずに待っているのだからそれぐらいは許されるだろう。シンタローは躊躇わず頷いてグラスを受け取った。
結局ハーレムが持って来た酒だけでは足りず、シンタローの部屋にあった物も何本か開けることになった。二人してペースが速いものだから、飲んでいる時間の割には数の多い空瓶が足元に何本も転がっている。
「次開けるかァ」
幾らか酔ったハーレムが、机の上にある未だ開いていない瓶を一本持ち上げる。その栓を開けようとしたのと同時に、またシンタローの携帯電話が鳴った。
送られてきたのはまたしてもマジックからのメールで、もう少しで仕事が終わりそうだということが書かれている。こんなに頻繁に送ってこなくても、仕事が終わってこちらに向かう前に一度連絡を入れてくくれば充分なのにとシンタローは文句を言った。
「何か子供扱いされてるみてえだなァ」
携帯電話の画面を覗き込んでハーレムが笑う。シンタローは不機嫌そうな顔をして、グラスに注いだ酒を一気に飲み干した。
「俺はガキじゃねーぞ」
「わーってるよ。兄貴だって分かってるさ。だからこそ寂しくて余計に構っちまうんだろうよ」
ハーレムの言葉にシンタローは俯いて黙り込む。何か考えているのだろうと、ハーレムは何も言わないことにしてグラスに注いだ酒を飲んだ。
暫くの間、沈黙が続いた。
幾ら何でも考え過ぎだろうと思う。自分が良くないことを言っただろうかと、ハーレムは困惑しながら先刻の言葉を反芻した。しかしシンタローをここまで黙らせてしまうような内容は思い当たらない。
「なァ、シンタロー」
とりあえず話し掛けてみようと名前を呼ぶが、シンタローは反応しなかった。
「……シンタロー?」
繰り返し呼んで、今度はその顔を覗き込む。
そしてそこでハーレムは、漸く一つの事実に気付いたのだった。
「……寝てやがる……」
何か考え込んでいるものだとばかり思っていたのに、実際にはシンタローは座って下を向いたまま眠っていたのだ。道理でいつまでも黙ったままだし、呼んでも返事をしなかったわけだ。
「前言撤回。やっぱまだまだガキだな」
苦笑を浮かべてそう言って、ハーレムはシンタローの頭を撫でる。
「兄貴がほっとけねーのも納得だぜ」
普段もこんなに子供のようなところを表に出したりするのだろうか。親戚同士の割には滅多に顔を合わせないため、自分は彼のことをよく知らないのだけれど。
当のシンタローは眠ってしまったが、マジックがここに来たら何か話を聞かせてもらおうと思う。そのためにここで待つことにして、ハーレムは開いた瓶に残っていた酒を一気に自分のグラスに注いだ。
一緒に食事をしようと、その日誘ったのはシンタローの方だった。逆にグンマの方から誘うことならば今までにもよくあったけれど、シンタローの方から声を掛けることは珍しい。
「でも僕今日は食堂に行くつもりだったから、お弁当持ってないんだよ」
外で食べるのが良いと言うシンタローの提案に、グンマは困ったような表情を浮かべる。それには、おまえの分もあるぞ、と一つの包みを差し出された。
こうしてまで一緒に食事をしたいと言うのだから、食事をすること自体ではなく他に何か目的があるのだろう。場所も食堂ではなく人の少ない外を選ぶぐらいだから、あまり他人に聞かれたくない話をしたいのかもしれない。
グンマは、深く考えることをしなかった。シンタローからの誘いを断る理由なんて、自分には一つもないのだから。
今日は朝から晴れているから、日当たりの良いこの場所は室内よりも暖かい。居心地の良さにグンマは大きく伸びをする。それからシンタローに渡された昼食の包みを解いて箱を開けた。
「いただきまーす!」
言うのと、ほぼ同時に箸を動かし始める。中身を見た途端にグンマの表情が一層明るくなったのは誰の目にも明らかだった。理由は、箱に詰められていたものの殆どが彼の好物だったから。とても単純ではあるけれど、シンタローが自分の好物を覚えていてくれたこと、そしてわざわざそれらを用意してくれたことは、箱を開けたときに目に入った事実よりも更に大きな要因だ。
手を休めることなく箸を動かすグンマの様子を眺めながら、シンタローも食事を進める。弁当箱の中身が半分ほど減ってから漸く視線に気付いたグンマは、顔を上げて不思議そうに首を傾げた。どうしたの、と尋ねると、シンタローは困ったような顔をする。そして少し考えるような間を置いてから、意を決したように口を開いた。
「グンマは、よかったのか?」
言葉を探すような間があった割には、それは随分と簡潔な問いだった。グンマはすぐには意味が分からず、数度瞬きを繰り返す。それから急に思い付いて、ああ、と声を上げた。
「それ、キンちゃんにも聞かれた」
問われた内容を確かめることはせずに会話を続ける。考えてみれば、今シンタローを悩ませていると思われる原因なんて一つしかない。
彼は数日前に、総帥の座を継ぐことを決めた。
まだ正式には発表されていないけれど、自分はその場にいたから知っている。自分以外にも一族の人間が殆ど同席していたけれど、誰も異論を唱えることはしなかった。
それでもグンマはシンタローが気にしていることに気付いていた。
あの島で明らかになった事実。
マジックの本当の跡継ぎは、シンタローではなくグンマだった。
しかしグンマは自分が次期総帥に選ばれなかったことに何の不満も感じてはいない。総帥になるのは絶対にシンタローの方が向いていると思っていた。マジックや一族の他の人間がシンタローと自分をどう比較して決めたのかは知らないけれど、彼らが導き出した答えには何の間違いもない。
自分は、総帥になりたいなんて少しも思っていなかったのだから。
「キンちゃんはね、僕もキンちゃんと同じだよって言ったら、すぐ納得してくれたよ」
今と同じ質問をキンタローからされたときに、グンマが返した答え。それだけではシンタローには意味が分からなかった。
不思議そうな顔をされて、グンマはいつも通りに笑う。
「僕達にとってはね、偉い人になるよりもシンちゃんの力になる方がずっと意味のあることなんだ」
今言ったようにキンタローも自分と同じだから、僕達、と括って告げた。
昔からずっとそう思っていた。シンタローにマジックの跡を継ぐ気が全くなかった頃から、それを分かっていても、シンタローが総帥になればいいのに、と考えてばかりだった。
自分は彼の部下として、彼の力になるために働ける。それはとても幸せなことだ。
グンマの、夢だった。
だからそれが叶うと決まったとき、本当に嬉しかった。シンタローは自分に対して悪いと思っているようだけれど、そんな風に感じる必要はどこにもないのだと分かって欲しい。
「シンちゃんが総帥になる日が楽しみだね」
それは同時に、グンマの夢が叶う日だ。
本心から告げられた言葉だと分かったから、シンタローも漸く笑った。
「がんばらねーとな」
「うん、一緒に頑張ろう」
疲れたら、いつでも寄り掛かってくれて構わない。
君を支えるために、僕はここにいる。
昼過ぎから山積みの書類の処理に追われているシンタローは、目の前から向けられる視線に苛立ったように顔を上げた。先刻からずっと気になってはいたのだが、そのうちいなくなるだろうと何も言わずにいたのだ。しかし視線の主は一向に立ち去る気配を見せず、シンタローの気は散るばかりだった。
「さっきから何やってんだ」
態々椅子を持ち出してきてまで向かいに陣取った彼は、机に頬杖をついたまま微動だにせずにずっとこちらを見つめている。シンタローの言葉にも、表情を変えないまま当然のように答えた。
「シンタローを見ているんだが」
「そんなことは分かってんだよ」
何しろこちらはずっとその視線を感じているのだ。見られていることに気付かないわけがない。自分が聞きたいのはそういうことではないのだと思い、シンタローの機嫌は益々悪くなる。
昼食を終えたシンタローが部屋に戻ってきた少し後、同じく昼食を終えたキンタローがこの部屋に姿を現した。何か用かと尋ねても何でもないと答えた彼は、不審そうな顔をするシンタローの視線の先で部屋の隅に片付けられていた椅子を持ち出してくる。そしてそれを机の前に置くと、今までの間ずっとそこに座ってシンタローが仕事をする様子を眺めていたのだ。
大量の書類だけでも充分に機嫌は悪くなっていたのに、目の前に暇そうに座っている他人がいては余計に腹が立つ。シンタローはとうとう堪え切れなくなって、横に積まれている書類を半分ほど掴んでキンタローの前に置いた。
「暇なら手伝え」
けれどキンタローは少しの間も置かず、その書類を元あった場所へと戻す。
「これはオマエの仕事だろう」
言っていることは尤もだ。しかし目の前でそれを見ていて何もしないというのはやはり気に入らない。しかも見られているせいで気が散って能率は下がる一方だ。
「邪魔しに来てんのかよ、オメーは」
「俺はオマエを見ているだけだ。仕事の邪魔をした覚えは無いぞ」
「気が散るんだよ!」
「……そうか」
怒鳴られたキンタローは少しだけ考えるような様子を見せてから、立ち上がって椅子を動かす。漸く立ち去ってくれるのかとシンタローは安心したが、彼はその位置を少しずらしただけで再び座って視線を向けてきた。
「この辺なら気にならないか?」
「そういう問題じゃねえッ!」
結局場所を少し変えただけで同じことを続けようとするキンタローに、シンタローは更に声を大きくして怒鳴る。それでもやはりキンタローは少しも動じなかった。
しかし一体何のためにそうまでしてずっと自分のことを見ているのだろうか。別にきちんと仕事をしているか監視しているというわけでもなさそうだ。尋ねてみてもし納得できる理由があるのならここにいることを許してやろうと、シンタローは疑問を口にしようとする。
が、それよりも早くキンタローが口を開いた。
「24年間、俺はオマエと同じ世界を見ていた」
「……キンタロー?」
突然言われたことの意味が理解できず、シンタローはそれまで考えていたことも忘れて不思議そうな顔をする。キンタローは真意を説明することはせずに、更に言葉を続けた。
「だけどオマエを見ることが出来なかったんだ」
そこで漸く、シンタローはキンタローが言いたいことを推測することが出来た。多分彼は、自分が口にしようとしていた疑問の答えを告げようとしているのだろう。
今まで見ることが出来なかった分、今見ているのだと。
それが分かっても、ずっと見ていたいと思われることに対してまだ疑問は残ったけれど。何故か腹を立てる気だけはすっかり失せてしまった。
「不思議だな、シンタロー」
そう言ってキンタローは小さく笑う。
「同じ身体にいた24年間よりも、今の方がずっとオマエに近い気がする」
そして手を伸ばし、向かいにいるシンタローの頬に触れた。
「見ることも、こうして触ることも出来る」
シンタローは僅かに戸惑った表情を浮かべたが、その手を払い除けることはしなかった。触れられて、何となくだけれど彼の想いが分かったような気がする。
キンタローは指先に触れるシンタローの体温に笑みを深めた。
「幸せだな」
本当に幸せそうな顔をするから、くだらないとは思えなかった。彼のことだから何の計算もない本音なのだろうけれど、それが余計に恥ずかしい。
「……オメーはどこでそういう恥ずかしい物言いを覚えてくるんだよ……」
シンタローは少しだけ視線を逸らして、戸惑いを隠すようにそう呟いた。あとはもう、キンタローを追い返すことは諦めて仕事に専念することにする。
結局その日キンタローは、シンタローが全ての書類を片付け終えるまでそこから動こうとしなかった。