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 明るい日差しが差し込む部屋の棚に置かれたガラスケースの中、彼は小さな両手でピーナッツを持ち、カリコリと音を立ててその好物を齧っていた。隣のケースではやはり彼の同胞がピーナツを齧っていたが、彼が半分ほど食べ進んだ時には既に食べ終わっており、うらやましげに彼の方を眺め始めたので、彼は慌てて同胞に背を向け、ピーナッツをゆっくりと味わった。
 不意にガラスケースの蓋が開き、上から薬品臭のする白い袖口に包まれた大きな手が降りてきて彼は掴み上げられた。
 彼がジタバタと暴れると、
 「ちょっと簡単な実験に協力してもらうだけですよ」
 と言って、大きな箱の中に降ろされた。彼が混乱しその場を歩き回ると、溜め息が聞こえ、
 「脳の活動部位の変化は見られませんね。やはり、薬剤の媒介による記憶そのものの伝達には無理がありましたか・・・。まぁ、他にも方法は考えますし、別にいいんですが」
 と誰かが呟いていた。彼にはその意味が全く分からなかったが、再びつまみ上げられ、ガラスケースの中に戻されたので安心した。
 「実験にご協力、ありがとうございました」
 声が聞こえ、餌箱の中にはピーナッツが入れられた。
 「あ、そうそう。ついでに君にもオマケであげましょうかね。封を開けたままだと湿気っちゃいますし・・・」
 どうやら隣の同胞もピーナッツを貰ったようであったが、彼は気にせず好物を齧る事に集中した。バタンと大きな音がし、どうやら人間は部屋から出て行ったようである。
 不意に意識が途切れ、我に返った際、彼は手にピーナッツを持っていなかった。そして、周囲の環境にも何故か違和感を感じた。ガラスケースの向こうでは、ピーナッツを食べ終えていたはずの同胞が、ピーナッツを齧っていた。彼は全く訳が分からず、部屋の匂いを嗅いだりおが屑の敷かれたガラスケース内をウロウロした。再び目の前が暗くなり、気がつくと手にはピーナッツの欠片を握っていた。彼には一体何が起こったか解らなかったが、とにかく手に持っていたピーナッツを急いで口に放り込むと満足し、ヒゲを震わせて
 「チィ」
 と一声鳴いた。


 彼は眠っていたが、明るさと物音を感じたので眠りから覚めた。
 「わァ、ハツカネズミだッツv高松が実験で使ったのかな?」
 と人間がガラスケースを覗き込んできたので、彼は慌てて巣箱の中に顔を引っ込めた。
 「あれッ、高松いないのー??それじゃ、約束のリンゴとミカンのハチミツ、勝手に貰っていくからねッツ♪今からシンちゃんにケーキを焼いてもらうんだ~vvv」
 そう言うと、人間は再びバタバタと騒々しく出て行ったので彼はホッとした。




 


 (・・・ここは、総帥室の前か?)
 マジックは気がつくと、見覚えのあるドアの前に立って居た。
 (前髪が鬱陶しいな)
 片方の腕は何やら持っていてふさがっていたので、無意識にもう一方の手で髪を掻き揚げると、少しは視界が広くなった。
 ふと、視界をよぎった腕の服地の色が自分の着ていたスーツと違ったので、色々と不審に思いつつも、とにかくドアを開けた。
 「シンちゃーん!元気だった?朝会ってお茶を入れてもらったばかりだけど、寂しかったヨーvvv」
 「相変わらず、ウゼェ!!・・・って、アラシヤマ!?」
 マジックは、顔を上げて自分を見たシンタローが非常に驚いたような顔をしたので、自分も驚いた。
 「シンちゃん?」
 (アレ?やっぱり私の声じゃないね。・・・この声は、アラシヤマなのか??)
 「・・・てっめぇ、何の悪ふざけだッツ!?」
 椅子から立ち上がり、胸倉を掴んだシンタローは自分よりも背が高かった。
 「シンタロー」
 と、低く呼び、両目で見つめると彼は動揺しているようであった。服を掴んでいる手に手を重ねると、手を振り払って逃げようとしたが、もちろん逃すようなマジックではなかった。
 (シンちゃん、何だかすっごく可愛いし。・・・こんな表情、私には見せたことがないよねぇ)
 シンタローを抱き寄せ、耳元で、
 「シンタロー、いつもヤツにはこんな可愛い顔を見せているのかい?ムカツクね?」
 そう囁くと、
 「一体、何だってんだよ・・・」
 困惑したような力ない返事が返ってきた。
 その時、扉がバンッと開き、
 「シンタローはーん!大変どすえ~!!気がついて鏡を見たら金髪オヤジになってたんどすッツ!!」
 片目を前髪で隠し、何故か京言葉のマジックが入ってきた。
 「あっ、シンタローはんがわてに襲われてますやん!?一体全体どういうことどすか!?頭がこんがらがりそうどすが、とにかく離れてんかッツ」
 マジック(アラシヤマ)がシンタローからアラシヤマ(マジック)を無理矢理引き離すと、シンタローは既に我慢の限界であったらしく、
 「何だかわかんねぇけど、眼魔砲ッツ!!」
 と二人に向かって眼魔砲を撃った。
 「あっ、元に戻りましたえ~・・・」
 「シンちゃん、酷いヨ~・・・」
 どうやらお互い本来の体に戻ったらしい二人がそう言ってバタリと倒れると、シンタローは彼らをドアの外に引きずって行き、
 「テメーら、しばらく俺の前にその面見せんなッツ!!」
 そう叫ぶとバタンとドアを閉めた。何やら、扉の向こうで重いソファやテーブルを引きずる音がし、扉の前に積み上げているようであった。
 「―――アラシヤマ。お前のせいで、シンちゃんに嫌われちゃったじゃないかッツ!!」
 「・・・前総帥。シンタローはんをどないしはるつもりやったんどすか?自業自得ですやろ!?」
 「あっ、お前色々ムカツクし、減給ね」
 「それとこれとは、話が違いますえー!!」
 二人はボロボロになった状態でいがみ合っていたが、元凶のハチミツについては知るよしもなかった。
 その頃、高松の実験室では、ハツカネズミがグンマから
 「おすそ分けだよ~v」
 と胡桃を貰い、幸せそうにそれを齧っていた。










 i 様ー!リクエストをしていただき、本当にありがとうございました・・・!(涙)
何かまた的外れなSSのような気もします(汗)が、 i 様に捧げますので・・・m(_ _)m


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ass
   


 シンタローが新総帥になる少し前の話である。 
 ある日の昼下がり、廊下を高松とグンマが歩きながら会話をしていた。
「どうしよう~!高松―ぅ?僕達、明後日から世界ロボット学会で共同研究発表だよ?キンちゃんは、ロボットにはあまり興味が無いみたいだし、まだあまり大勢の人がいるところに行かないほうがいいと思うけど。だからといって2日間キンちゃんを1人にするのは不安だし・・・。」
 眉間に皺をよせて考え込むグンマに対し、高松は、
 「そうですねぇ。今回は共同発表ですので、私たちのうちどちらかがガンマ団に残るという訳にはいきませんね。キンタロー様を学会に一緒に連れて行っても、私たちが始終ついているというわけにもいきませんし・・・。うーん、ガンマ団の誰かにキンタロー様の事を頼んでいくしかないでしょうか。もちろん、キンタロー様を利用しようとする輩にはお任せできませんし、そうなると人選が難しいですねぇ・・・」
 と、これまた高松が眉間に皺を寄せて考え込み、しばらく2人は無言で歩いていた。
 突然、グンマが、
 「うーんとォ、じゃァ、秘書はッツ?ティラミスとかチョコレートロマンスだと、おとーさまのお世話に慣れているし♪眼魔砲を受けても大丈夫でしょ?」
 と叫ぶと、高松がそれに異議を唱えた。
 「グンマ様。多忙な彼らにこれ以上仕事を増やすのも気の毒な気がしますが・・・」
 「そっかー。お父様は・・・、シンちゃん以外の面倒を見たがるとは思えないよね。伊達衆は料理とかできなさそうだし、サービス叔父様も特選部隊も今はいないし・・・」
 いくつか可能性を上げ、それらもことごとく自分自身で却下してしまったグンマはさらに腕を組んで悩んでいたが、急に何か閃いたようであった。
 「あッツ!いいこと思いついちゃった!!シンちゃんはどう?シンちゃんなら信用できるし、料理もうまいし、子どもの世話に慣れてるし!それに、しばらく暇みたいだよ?」
 そう、グンマが言うと、高松はまだ表情を曇らせていた。
 「――――シンタロー様ですか?でも、キンタロー様は、新総帥のことを苦手というか、少々コンプレックスを感じておられるみたいですよ?あまり、上策とはいえないのでは・・・」
 「大丈夫だよ~!もう、高松は心配性だなァ!ホラ、パプワ島で、僕が最初キンちゃんと仲良くしたくないって言った時、シンちゃんが仲裁してくれたデショ?だから、絶対大丈夫だよっ!シンちゃんは、過去のことをあまり根に持つタイプじゃないしサ。キンちゃんも、そろそろ僕たち以外との関わりが必要だよ」
 「グンマ様がそこまで仰られるのでしたら、思い切って彼にキンタロー様のことを頼んでみますか!後は、キンタロー様をどう説得するかですね」
 「大丈夫だよー。キンちゃんは、絶対シンちゃんのことを気にかけてるから、うまくいくヨ~」
 「そうですね。それでは、グンマ様は、シンタローの説得の方をよろしくお願いします」
 「うん。じゃぁ、また後でね♪」
 そう言うと、2人は別々の方向に向かった。


 キンタローは、廊下に立って、目の前のドアを開けるか開けまいかで悩んでいた。
 (俺は来たくなかったんだが、結局高松に押し切られて来てしまった・・・。料理はできないが自分のことぐらい自分でできるし、帰った方がよくないだろうか?)
 そう思っていると、後ろにいた高松がドアをノックし、ドアを勝手に開けた。
 「新総帥。お邪魔しますよー」
 「おう。入れヨ。って、もう入ってんじゃねェか。それに俺はまだ、総帥じゃねぇヨ」
 部屋の中に居たシンタローが立ち上がって入り口の方に歩いてきた。
 高松は、
 「今日から2日間程留守にしますので、キンタロー様の事をくれぐれもよろしくお願いしますね」
 と、シンタローに頼んだ。キンタローは、
 「高松、俺は子どもじゃないんだし、何回も言ったように自分の事ぐらい1人でできるが・・・」
 そう言ったが、高松はキンタローの傍に行き、小声で、
 「キンタロー様、もう決まったことですので。それに、彼は料理上手ですよ?キンタロー様が好きなプリンも作ってもらうよう頼んでおきましたからね」
 「プリンか・・・」
 キンタローが何か考え込んでいる間に、高松はシンタローの方に向き直り、
 「まっ、とにかく、2日間よろしくお願いしますね。それでは、今から学会に行ってきますので。キンタロー様、お土産買ってきますので、シンタロー様と仲良くお過しくださいね!!」
 そう言うと、高松は部屋から出て行った。
 残されたキンタローは、どうしていいか分からずに入り口付近に立っていたので、焦れたシンタローはキンタローの腕を掴んで部屋の中程まで引っ張っていき、
 「とりあえず、この部屋の中の物は好きに使って良いゼ。あと、2日間の行動も俺と一緒でも別行動でもどっちでも。じゃあ、俺は今からやることがあるから」
 そう言って、机の方に向かい、山のように積まれた書類を読み始めた。
 キンタローは、どうしても聞きたかったことがあったので、シンタローに声を掛けた。
 「シンタロー、お前は、俺を憎んではいないのか?」
 それを聞いたシンタローは驚いたようで、目を丸くした。
 「何?オマエ、もしかしてそんなことを悩んでずっと姿を見せなかったのか?別に、オマエのことを嫌いじゃねーヨ。そりゃ、俺だってちょっとは悩んだ時もあったけど、ずっと考えてても仕方がねぇしナ。それに、もともと同じ身体に居たっつーんなら、マァ、兄弟みたいなもんだろ?そもそも、オマエの方こそ、俺を憎んでいるんじゃなかったのかヨ?」
 そう言って、シンタローは再び書類を読み始めた。
 「いや、今は違う」
 キンタローは、やっとのことでそう言うと、しばらく呆然とソファに座っていた。

 夕方近くになると、シンタローは立ち上がって伸びをし、
 「飯でも作るか」と言い、キッチンに向かった。
 キンタローも、その後をついて行った。
 キンタローは、シンタローが手際よく調理をしている傍らで自分だけ何もしないのは気が引けたので、
 「シンタロー、俺も何か手伝う」
 と言った。
 「あぁ、そんじゃ、ジャガイモの皮を剥いてくんねぇ?そこに包丁あるから」
 そう言われたので、キンタローは、包丁を手に取りジャガイモの皮を剥こうとしたが、
 「シンタロー」
 「あ゛ぁ?何だヨ!?」
 忙しい中、声を掛けられたシンタローが、少々キレ気味にキンタローの方を振り向くと、そこには、無表情なまま指からダラダラと血を流しているキンタローがいた。
 「血が出てきたのだが・・・」
 「――――お前、料理したことがあるのか?(っていうか、それ以前に不器用なような・・・)」
 「いや、料理は1回しようとしたのだが、失敗した。大抵のことは、一回やればできるのだが、料理はあまり好きではないので、それ以来料理はしていない」
 そう、堂々というキンタローに、
 「ハァ、さいですか。って、血――!!うわっ、かなり深くねぇか?カットバンで大丈夫かな??包帯の方がいいんじゃ・・・」
 そう言って、キンタローの手をとって傷の具合を見ていたシンタローであったが、急にキンタローの指をとり、口にくわえた。
 「な、なっ、何だ!?」
 キンタローは、非常に狼狽した。
 そんなキンタローの様子を、少しキョトンと見ていたシンタローであったが、
 「何って、消毒。手近に救急箱が無かったからナ。昔、母さんに料理を習っていた時、手を切ったらこうしてくれてた癖がつい出ちまって悪ィ。よく考えたら、普通、男にこんなことされても気持ち悪いよナ!」
 ガッハッハッと、豪快に笑うシンタローに、
 (イヤ、全然気持ち悪くなかったのだが・・・)
 とキンタローは、思ったが口には出さなかった。
 結局、隣の部屋に行き、キンタローはシンタローに包帯を巻いてもらった。
 「もう、何も手伝わなくていいから、そっちで待ってろ!」
 (ったく、どうして俺の周りにはこう料理のできねェ奴等ばかりなんだ?一応、料理が出来るヤツでもえらい不味かったし。・・・アレは料理じゃねぇナ。母さんが、“これからの時代は男も料理ができないと駄目だ”って言って俺に料理を教えてくれたときは面倒だったけど習っといて良かった・・・。危うく自立できないダメ大人になるところだったゼ)
 と、シンタローはブツブツ言っていたが、キンタローには聞こえなかったようである。
 キンタローはしばらく隣の部屋に居たが、どうにも手持ち無沙汰になり、キッチンの方に戻ってきた。
 「シンタロー、皿ぐらい並べるぞ」
 (うーん。まァ、それぐらいだったら危険はねェだろ)
 「あぁ、んじゃ頼むわ」
 そう言われたキンタローは、食器を並べ終わると、椅子に座ってシンタローが料理をする姿を見ていた。
 (よく分からないが、TVでみた母親というのはこんな感じだっただろうか・・・。でも、俺には母親のことが分からないから、後でシンタローに聞いてみよう)
 結局、シンタローが1人で作った料理を、2人はテーブルを挟んで向かい合って食べた。
 「シンタロー、これは何だ?初めて食べるぞ」
 「あぁ、それは肉ジャガだ。気に入ったのか?」
 「ああ。美味い。グンマや高松も料理を作ってくれたが、シンタローの方が料理が複雑だな」
 「エッツ?アイツ等って料理するの?何か、とんでもないものが入ってそうでコワイな・・・。お前、よく平気で食べれるな?尊敬するゼ(それにしても、“複雑”って、誉め言葉なのか?)」
 「尊敬と言われても困るのだが・・・。確かにあまり美味しくないが、ただ、一生懸命作ってくれたのが分かるから食べている」
 「・・・そうか。マァ、ここにあるのも食っとけ。残したら許さねぇゾ!」
 そう言って、2人はしばらく黙々と料理を食べていた。すると、再びキンタローが、
 「シンタロー、母親ってどんなものだ?俺にはさっぱり分からんが、さっきシンタローが料理する姿を見ていてなんとなく、そういうものかと思ったが」
 シンタローは、箸を止め、
 「うーん。俺は男だから母親というのとは違うと思うけど、母さんはよく台所にいたな。まぁ、世の中の母親が全部料理をするかというとそうでもないみたいだけどナ」
 と答えると、しばらく何かを考え、キンタローに、
 「そういえば、オマエ、俺と同じ身体に居たんだろ?母さんの記憶とか無いのかヨ?」
 そう、不思議そうに聞いた。
 「いや、俺は、お前と同じ身体に居たと言っても、暗い箱の中に閉じ込められていたようなもので、お前が感じている感情や日常生活の記憶は全く入ってこなかった。それに、お前がこの身体から出て行ったとき、脳を含め身体の細胞なども全て新しく組替えられたみたいだと高松が言っていた。お前が今まで習得した知識や事実は情報として残っているが、感情などの記憶は一切残っていない。それは、お前が全て持っているので、だから俺とお前は別の人間だと思う」
 そうキンタローが言うと、シンタローは少し痛そうな顔をした。シンタローは、キンタローの顔をしばらくじっと見ると、
 「そういや、お前は親父やお前の父親にソックリだよナ。俺とは全然似てねぇから、やっぱ、別の人間なんだろうな」
 キンタローは、シンタローと別の人間であることが少し残念な気がしたが、一方で良かったとも思った。じっと、見つめるシンタローの灰色がかった黒い目はとても綺麗なものに思えた。
 「シンタロー、俺は、シンタローが自分と似ていない所があってよかったと思うぞ。自分と全く一緒の存在がいたら、俺はたぶん好きになれないと思う。シンタローはこの世で1人で、俺もこの世で1人だ。高松がキンタローという名前をつけてくれたから、俺はキンタローだ」
 キンタローが静かにそう言うと、シンタローは
 「そうか」
 と、一言そう言った。



   

 次の日、キンタローが、書類をシンタローの机のすぐ傍でシンタローから借りた本を読んでいると、突然、ドンドンとドアを叩く音がし、
 「シンタローはーんッツ!!お待ちかねの、あんさんのアラシヤマが帰ってきましたえ~vvvもう、今回の任務はえろう面倒でおましたが、シンタローはんに会いとうて即行で片付けてきましたさかいに!」
 そう言って、シンタローが返事をする前にドアを開けて部屋に入ってきた。
 そして、シンタローの傍にいるキンタローを見るなり、
 「シ、シンタローはん!非道うおす!!わてがおらん間に間男をー!!」
 と、叫んだが、
 「眼魔砲」
 アラシヤマはシンタローの眼魔砲を受け、床に倒れた。
 「・・・シンタロー、何で急に眼魔砲を撃ったんだ?こいつがシンタローのものってどういうことだ?人間が人間を所有することはできないはずだ。そして、間男って何だ?」
 そうキンタローが聞くと、うっと言葉に詰まったシンタローはしばし目を白黒させた後、結構な迫力で、
 「いいから、気にすんな」
 と、一言言った。その迫力に押され、キンタローはそれ以上質問するのを止めた。
 「シンタローはーん・・・、久々に会った恋人にいきなり眼魔砲はキツイどす。もっと、こう、笑顔で迎えてくれはってもええですやろ!?」
 「うるせェッツ!オマエが、教育上不適切なことを口走るからだろーが!!」
 「シンタロー、お前はこいつと恋人同士なのか?それに、なんとなく俺が子ども扱いされているようだが、俺は子どもではないぞ」
 「そうどすえ?だいたい、わてという恋人がありながら、あんさんは他の男に対してガードが甘いんどす!もう、いらん虫を退治するのにわてがどれほど苦労していることか・・・」
 「シンタローは大人気なんだな。ところで、男同士でも恋人になれるのか?」
 「あんさん、そんなことも知りまへんの?そりゃもう、あの時のシンタローはんは可愛ゆうてたまりまへんえ?」
 キンタローは、ニヤニヤ笑うアラシヤマを少々不気味に思いつつも、(よく分からないがそんなに可愛いシンタローなら、俺も見てみたい)と思ったが、口には出さなかった。何故なら、隣のシンタローの様子がおかしかったからであり、なんとなく黙って壁際に避難した方がいい気がしたからである。
 「――――眼魔砲ッツ!!」
 さっきよりも、威力の増した眼魔砲がアラシヤマに向けられ、部屋はほぼ半壊状態となった。
 「シンタロー、恋人でもそうでなくても同じガンマ団員を攻撃するのはどうかと思うが・・・」
 と、キンタローが言うと、
 「えっ?キンタロー、今何か言ったか?」
 と、笑顔で何事もなかったかのようにシンタローは答えた。それは、さっきのドスのきいた脅しよりも数倍怖かったので、キンタローは、
 「何でもない」
 と応じた。
 「ところで、こいつは何の用で来たんだ?」
 と、キンタローがアラシヤマの方を指差すと、ものすごい回復力でどうやら立ち直ったらしいアラシヤマが、
 「もちろん、シンタローはんに会いたかったからに決まってますわ。あっ、それと一応もうすぐ会議の時間やさかいに呼びにきたんどす」
 と言うと、シンタローは、
 「あっ、忘れてた!そういやジジィ連中から呼び出しをくらってたんだったゼ。会議が始まるまで、もうあと数分しかねぇじゃねェかヨ!?ホラ、アラシヤマ。いつまでも床に座ってないでとっとと行くゾ!あ、キンタロー、お前はどうする?一緒に来るか?会議なんて、絶対面白くねェけどヨ」
 「会議というものを体験するのは初めてだ。一緒に行く」
 「あまり、参考にならねぇと思うゾ?」
 「シンタローはーん、どうもさっきから、わてよりも、そこのキンタローはんに優しくないどすかぁ?」
 アラシヤマのその言葉はシンタローに無視され、3人は会議室に向かった。


 会議の内容は、新生ガンマ団に関することであった。ガンマ団内には、暗殺集団であるガンマ団を解体することを頑なに拒む一派もいた。このような会議は、シンタローが総帥になることが決定し、新生ガンマ団の方向性を示してから、今までに何度も繰り返されていた。
 3人が会議室のドアを開けて入ると、総帥席に座ったマジックや、ガンマ団の幹部である年配の将校達が座っていた。マジックは表情を変えなかったが、将校達はキンタローがシンタローと一緒にいるのを見て、皆一様にギョッとした表情であった。
 その中の1人が立ち上がり、
 「これはこれは、キンタローさまも御揃いで。確か、我々の前に姿をお見せになるのは初めてですな。何か、仰りたいことがおありで今日は来られたのですかな?」
 と、少し揶揄するように言った。
 「俺は、会議とはどのようなものかを見に来ただけだ。シンタローが示したガンマ団の方針に口出しするつもりはない」
 キンタローが無表情にそう言うと、何かを期待していたような将校達は一気に鼻白んだような顔をした。
 「それじゃ、始めようか」
 マジックがそう声を掛け、会議は始まった。
 新生ガンマ団反対派は、声高に暗殺集団であることの利点を主張し、シンタローの考え方が甘いということを非難したが、シンタローは黙ってそれを聞いていた。キンタローは、何故シンタローが黙ってきいているのかが分からず、非常に歯痒い思いをした。
 そして、興奮した反対派から意見が出なくなり相手が落ち着いた所で、シンタローは自分の考え方をキッチリと述べ、時々アラシヤマが補足した。
 マジックは、反対派にもシンタローにもどちらにも荷担せず、黙って成り行きを見守っていた。
 反対派の大部分が、シンタローの堂々とした冷静な態度に感服し、新生ガンマ団の方針を受け入れようと心を動かしつつあるような雰囲気の中、最初にキンタローに声を掛けた中年の将校だけが、悔しそうにシンタローとアラシヤマを睨みつけながら最後まで反対意見を唱えて譲らなかった。膠着状態が続く中で、マジックが会議の終わりを告げた。
 キンタローは、見ていて非常に疲れる思いがしたので、会議が終わって外に出るとホッとした。
 3人が廊下に出ると、反対派の中年の将校が3人の傍まで歩いて来た。
 「こんな茶番劇、何度続けても無駄ですな。他の仲間がどうであれ、私は意見を変えませんよ。実戦を何度も経験してきた立場から言わせてもらいますと、貴方の考え方は甘いです。うまくいかない結果が目に見えていますね。そう遠くない将来、伝統あるガンマ団を潰すのは貴方でしょう。そもそも、黒目黒髪の貴方がガンマ団の総帥になること自体、おかしいと思いますし。全く、本当にマジック総帥の子どもかどうかも分からないのに現総帥は寛大なお方ですな」
 そう、得意気に言い切ると、シンタローの方を見据えた。
 シンタローは少し痛そうな顔をしたが、それは一瞬で、何も言わずに幹部の言葉を聞いていた。
 キンタローはその様子を見ていて非常に腹が立ち、シンタローをかばいたく思ったが、あまりにも腹が立ったので言葉が見つからず、思わずその幹部に殴りかかろうとした。
 それに気づいたアラシヤマが、キンタローの方を見て軽く制する仕草をして首を横に振り、口を開いた。
 「あんさん、さっきから聞いてますと、新総帥に向かって言いたい放題どすな。あんさんの考え方がいくらわてらと違っても、それは、あんさん個人の考えやさかい非難はしまへんけど、新総帥の外見を侮辱することや、出自を邪推することは、全く的外れやおまへんか?そこまで必死やと、何か後ろ暗いことがあるんとちがうかと痛くもない腹を探られますえ?まぁ、痛い腹かもしれまへんけど。どうも、麻薬密輸組織と組んで裏でこっそりと甘い汁を吸うてはるお方が数名いはるようですしな」
 そう言われた中年将校は、顔を真っ赤にし、
 「ぶ、無礼な!私がそうだとでも言うのか!?一体どこにそんな証拠があるんだ?そもそも、お前は最近、次期総帥に取り入っているが、お前こそ根っからの人殺しだろう!?以前、戦場でお前が表情一つ変えずに敵を火で燃やし殺していたのを私は見たぞ!!そんな残酷な殺し方は普通の神経では出来ないはずだッツ!!人殺しのお前なんかが、絶対、甘っちょろい新生ガンマ団でうまくやっていけるはずがないッツ!」
 アラシヤマの表情は静かであり、むしろ、シンタローの方が怒りを顕わにしていた。
 「勝手に、他人の人生決めつけてんじゃねェよッツ!過去がどうであれ、今は違うんだから、それでいいじゃねーか!!お前にアラシヤマのことをツベコベ言う権利も筋合いも全くねぇ!!」
 その勢いに、シンタローを侮っていた将校は呆然とし、怯んだ様子を見せた。
 まだ続けて、何か言おうとするシンタローをアラシヤマは止めた。
 「シンタローはん、もう充分どす。わてを庇うてくれてありがとうございます。でも、これ以上言いますと、今までのわてらの我慢が水の泡ですさかいな。まぁ、この人の言う事もわての事に関してはそれほど間違いというわけでもおまへんし、わてにとってはこのぐらいの嫌味たいしたことと違います。この将校さんも、心の中では少し言い過ぎてヤバイ思てはるといった具合ですやろ?ひとつ、ここらへんでお互いにひきまへんか?」
 アラシヤマの言葉に将校は明らかにホッとした様子を見せ、それでも強がった様子でその場を退出した。
 シンタローはまだ納得がいかない様子であり、怒っていたが、アラシヤマは、ヘラっと笑い、
 「シンタローはーん。あまりいつまでも怒ってはると、貸しにしますえ?今ポイントが5つ貯まってますさかい、10個になったら何してもらいまひょか?あぁー。楽しみどす~」
 と、冗談のように言った。
 キンタローはシンタローがアラシヤマに対して怒るかと思ったが、予想に反してシンタローは下を向き、
 「俺は、オマエが自分自身を悪く言われても、何もなかったように振舞う所が嫌いだ」
と、ポツリと言った。
 それを聞いたアラシヤマは、困ったような嬉しいような表情で、
 「わては、そう言ってくれはるシンタローはんがいるおかげで、どんなことにも耐えられるんどすえ?」
 と言い、苦笑しながらまだ俯いて髪で表情が見えないシンタローを抱きしめ、背中をあやすように軽く叩いた。
 キンタローは、場の雰囲気になんとなく居心地が悪くなり、
 「じゃぁ、俺は、高松とグンマがもうすぐ帰ってくるから帰るぞ。世話になったな、シンタロー」
 と言ってその場を後にした。



   

 高松が学会発表を終え、グンマと共にガンマ団に帰ってくると、既にキンタローが研究室の中にいた。
 「キンちゃーん!ただいま~~♪僕、キンちゃんへのお土産にロボットキーホルダーとロボットサブレ買ってきたよッツvvvこれって学会限定商品で、いつも売り切れちゃうんだけど美味しいんだ♪」
 「キンタロー様~!ただいま帰りましたよー!!私からのお土産はカエル饅頭ですよvvv可愛いでしょ?って、アレ?今はまだ、新総帥のところにいるはずでは・・・?」
 キンタローは、どうやら何か考え込んでいる様子で、2人の声に気づいた様子は無かった。
 グンマがソファーに座っているキンタローの前に回りこんで、顔をのぞき込み、
 「おーい、キンちゃーんッツ!!聞こえてますか~??」
 と、キンタローの目の前で手をヒラヒラと振ると、キンタローはやっと気がついた様子であった。
 「あぁ、2人ともお帰り。研究発表はうまくいったか?」
 と聞いたが、どこか上の空であった。
 グンマと高松は顔を見合わせ、首を傾げた。
 「キンタロー様、どこか具合でも悪いんですか?もしや、新総帥にいじめられたとかッツ!?それなら今すぐ文句を言いに行かなくては!!」
 「ちょっと待ってよ、高松ぅ。変だナァ・・・。シンちゃんがキンちゃんをいじめるはずは無いし・・・。あッツ、わかった!!この状態ってもしかして恋!?キンちゃんシンちゃんと外に行った時、可愛い女の子に出会ったんデショ?ガンマ団には、可愛い女の子はいなくてムサイ男か女の人がいてもおばちゃんばかりだしネ?」
 「なんだ、そうだったんですか。思わず、早とちりしてしまいましたよ。いいですねぇ、青春ですねェ」
 2人が勝手に盛り上がっている中、キンタローはあまり話を聞いておらず、ボーっとしていた。
 「キンちゃーん!!どんな子か、話を聞かせて聞かせて~♪その子、可愛い子なんでしょ??」
 「確かに可愛い。だが、すでに恋人がいる。ただ、俺にはまだ、これが好きという感情かどうかが良く分からないんだが・・・」
 「それって、恋だって!!キンちゃんなら、絶対、その子の方も恋人よりも好きになってくれるヨ!!あっ、こういう場合どうしたらいいか、人生の先輩の高松に聞いてみようよ~??亀の甲より年の功って言うしネッ☆」
 「(グンマ様・・・。それって、私が年寄りってことですか??)そ、そうですねぇ。私は三角関係とかドロドロしたのには関わりたくないタイプなので、あまり参考になるとは思いませんが。来るもの拒まず、去るもの追わずですし・・・。まぁ、一般的に言うとそういった場合は、まず、生物学的にはやっぱり相手の男よりもレベルが上で、心理学的にはより長い時間相手の傍にいることで気持ちもグラつくのではないでしょうか?ただし、後者は相手に嫌われていると逆効果ですが。とにかく、結論から言うと、包容力がある紳士的な男性を女性は好むものではないでしょうか?マジック総帥など、若いころは女性から大変モテていましたし」
 「そうか・・・。包容力のある紳士的な男が好かれるのか。グンマ、高松、協力してくれ!」
 「もちろんッツ!!キンちゃん、その勢いだよ~☆」
 「キンタロー様にお頼みされるとは!不肖高松、精一杯ご協力しますので!!」
 3人は、キンタローの恋愛話(略して“恋話(コイバナ)”)に、大層盛り上がった。
 若者2人がコイバナで盛り上がっている中、それでも年長の高松は、
 「あ、そうそう。新総帥にもお世話になったことだし、明日カエル饅頭をもってご挨拶にいかなくては・・・」
 と、お土産を渡す算段をしていた。

 高松もグンマも、キンタローの恋(?)のお相手が、そのお土産を渡す相手だということは、まだ、知らない。





















ass




 「あの……」
 片目に前髪が鬱陶しくかぶさった男は、机の向こう側にいる相手におずおずと声をかけた。
 「何だ?ハッキリ言えよ。もし、ろくでもねー用件なら即眼魔砲な」
 彼より手渡された書類から目もあげずに、シンタローはそう返事をした。
 「シンタローはん、わて、ずっと思うてたんどすが……。わてのこと、『アラッシー』って呼んでくれはっても全然かまいまへんえ?心友どすさかい、遠慮はナシどす!」
 シンタローは片手で書類の上に置いていたペーパーウェイトをわしづかみ、思いっきりアラシヤマの方へと投げた。アラシヤマはどうにかそれをかわしたが、金属製のペーパーウェイトは防弾加工がほどこされているはずの壁に何故だかめり込んでいる。
 シンタローは、そちらを見もしなかった。その場にはただ、書類をめくる音だけがしていた。
 「し、シンタローはんッツ!今のは一体どういうことなんどすかー!?」
 「んー?テメーの話をよく聞いてなかったけど、遠慮はナシなんだろ?そこだけは聞き取れたぜ」
 「あと数センチ!今壁に突き刺さってる文鎮を数センチ横に避けられへんかったら、今頃わてはあの世行きの川を渡ってますえー!」
 「うるせぇ。用がすんだなら、出て」
 「――出て行きまへん」
 じっとりと、恨みがましく自分の方へと視線を送るアラシヤマに、シンタローは我慢できなくなったのか、
 「さっきから、なんなんだよ。オマエ!?」
 と、書類を机の上に投げ出し、すわったままアラシヤマを睨みあげた。
 「そう、それどすえー!その『オマエ』どす!」
 「はぁ?」
 「どすから、シンタローはん!わてら心友どすえ?せやけど、あんさんはオマエとかテメェとかわてのことめったに名前で呼びまへんやん!?心友どすのにさみしおす……!」
 「……テメーはただのストーカーだろ?」
 シンタローが呆れたようにそう言うと、
 「またまた、シンタローはんってば照れやさんどすなぁv名前で呼ぶのが照れくさいんやったら、呼びやすいニックネームはどうでっしゃろて思いましてvvv」
 小首をかしげ、笑顔のつもりらしい表情をアラシヤマは浮かべた。
 (あー……、すっげぇウゼェ。でも部屋を直したばかりだし、眼魔砲を撃ったらあいつ等からの苦情は確実だよナ……)
 渋い表情の秘書達の顔を脳裏に思い浮かべたシンタローは、机の上をざっとみやった。トットリから貰ったペーパーナイフがわりの苦無が目に付いたので手に取り、
 「えい」
 と、間髪をおかず投げつけたが、アラシヤマは再び避けたので苦無は壁に突き刺さった。
 「……なんで避けんだヨ。的になる気遣いぐれーできんだろ?マジムカツク」
 不機嫌な様子でシンタローがそう言うと
 「――それって、忍者はんからのプレゼントでっしゃろ?」
 アラシヤマも不機嫌そうである。
 「わてかて、暗殺用の小刀をたくさん持ってますえー!シンタローはんが言うてくれはったらなんぼでもあげましたのに!」
 どうやら、アラシヤマが不機嫌な理由は生命の危機におちいったこととは無関係らしかった。
 (眼魔…いや、落ち着け俺!)
 机の下で片手に発生しかけていた光を握りつぶすと、シンタローは笑顔で、
 「あのよォ、アラシヤマ。忙しいからもう帰ってくんねぇ?俺達心友ダロ?」
 と言った。
 「し、シンタローはんッツ!わ、わてッ……!」
 「やっとわかったか!つーことで、とっとと帰れ!」
 「わて、やっぱりシンタローはんの笑顔を見たら、ますます帰りとうなくなりましたえー!」
 「眼魔砲ッツ!」
 壁には、ちょうど人の形に真ん中の部分が凹んだクレーター型の跡がついた。その付近には壁にささったままのペーパーウェイトと苦無が仲良く並んでいた。


 「うう……、死ぬかと思いましたわ。でも、シンタローはんが忍者はんからもらったもんを使いはるよりは眼魔砲の方が何倍もマシどす」
 文字通り壁から抜け出てきたアラシヤマは、壁にもたれて座り、息をついた。
 「何だ、その理屈。眼魔砲の方がダメージが大きいに決まってんダロ」
 「あの、わて、あんさんに小刀プレゼントしますさかい!苦無よりも切れあじはよろしおますえー!!」
 「聞けよ、ひとの話。それに言っとくけど、俺は換金性の高いもん以外はいらねーんだからナ!無駄口がたたけんなら、とっとと出てけヨ」
 「はぁ、ほなそろそろ失礼しますわ……」
 よいしょ、と立ち上がるアラシヤマを見たシンタローは顔をしかめた。
 「――なぁ、そういやオマエ、昔みてーに『シンタロー』って俺のこと呼び捨てにしねーな」
 その声を聞いたアラシヤマは一瞬固まり、
 「そそそれはその、……呼び捨てにしたら、あんさん、えっらい怒らはるんちゃいます?」
 と、ひきつった笑顔で答えた。
 「まぁ、当然ムカツクけど」
 「ホラ、やっぱりどす……」
 アラシヤマは俯き、何か考え込んでいる様子であった。
 (コイツ、そんな殊勝な野郎だったっけか?……いや、全然違うよナ)
 シンタローがいぶかしげにアラシヤマを睨むと、不意に顔を上げたアラシヤマは、
 「シンタロー」
 と、真摯な声音で呼んだ。
 目を丸くしたシンタローを見たアラシヤマの顔には、一瞬複雑そうな色が浮かんだがすぐに苦笑に変わり、
 「ああ、シンタローはんは、やっぱりシンタローはんでええんどすわ。えろうすみまへん。ほな、失礼しますわ」
 と言って軽く頭をさげ、部屋を出て行こうとした。
 「アラシヤマ」
 「えっ、なんどす…」
 振り向いたアラシヤマの顔面に、鈍い音を立てて何かがぶつかった。
 ばたり、と床に倒れたアラシヤマをそのままに、シンタローは彼の脇に落ちた辞書をひろいあげ、棚に戻した。
 そして、足先でアラシヤマを軽く蹴飛ばしたが、どうやら気絶しているらしい。
 「……『アラッシー』ってオメー、とことんセンスねぇナ」
 シンタローはため息をつき、総帥室を出た。










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 (――目が痛え)
 正確には、眼球ではなく目の奥に疼痛を感じた。
 前日からずっと座ったまま書類と首っ引き状態で、日付がかわってからもかなりな時間が経過しており、シンタローは思わずため息が出そうであった。
 もしため息をついたとしても、それに対して何か言葉をかけるものは現在ここには誰もいない。すでに、秘書達については強引に帰らせていた。
 静かな部屋の中、メールの受信を知らせる音声が響いた。シンタローはパソコンに向かい、送られてきた戦況報告書を読みはじめたが、立ち上がると先ほどまで目を通していた書類をつかんで廃棄処分の書類箱にすてた。
 ドサリ、と体を投げ出すように椅子に座り、背もたれに身を預けてシンタローは目を閉じた。
 どれほどの間そうしていたのかさだかではなかったが、突然ドアが開く音が聞こえ、
 「失礼致します。総帥」
 声がした。
 シンタローが目を開けると、デスクの前には大荷物を背負った男が立っていた。
 「し、シンタローはん、今からわてと一緒にきてくれはりまへん?」
 「夜逃げか?」
 アラシヤマの格好をいちべつし、目を眇めてそう問うと、
 「ちゃいますって!もしかしてオーバーワークで寝ぼけてはるんどすか?……ああ、もう時間があまりあらしまへんっ!」
 腕時計を確認したアラシヤマは、ずかずかとシンタローの座る椅子へと近づき、
 「失礼しますえ!」
 と、めずらしく強引にシンタローの腕をとると、ひっぱって立ち上がらせた。


 「おい、手ぇ放せ!」
 廊下をしばらく歩いた頃、我にかえったシンタローが語気強くそういうと、前を歩くアラシヤマは立ち止まり、
 「手、放しても一緒に来てくれはります?」
 疑い深そうに振り返った。シンタローは手を振り払おうとしたが、アラシヤマはどうあっても放そうとする様子はない。
 (眼魔砲決定、だな)
 いつもと違った種類のしつこさに腹を立てたシンタローが決意したとき、アラシヤマは手を放し、
 「――今から、屋上へ行きたいんどす。お願いどすから、あんさんも来ておくんなはれ」
 ぼそぼそと聞き取りにくい声でそう言った。
 

 「うっわ、寒っみー!」
 普段立ち入り禁止となっており閉ざされていた屋上のドアから一歩外へ出た瞬間、シンタローは顔をしかめた。後ろから続いて出てきたアラシヤマは、
 「間に合いましたえー!」
 と、群青色の一面に白い星が散らばる夜明け前の空を見上げた。
 「シンタローはん、こっちどすえー!こっち!!」
 嬉しそうなアラシヤマの後からついて歩きながら
 「何が?超寒いんだけど?」
 不機嫌そうに言葉少なく答えるシンタローの方へアラシヤマは向き直り、
 「ちょっと待っておくんなはれ」
 と、背負ったザックの中から取り出した毛布を手渡した。シンタローが体に毛布をはおりながら
 「テメーにしては、まぁまぁ気が利く方なんじゃねーの?」
 と言うと、
 「ししししシンタローはんッ!あの、毛布はひ・と・つvどすえ?これって何か気ぃつかはりません??」
 薄明かりの中、アラシヤマは小首をかしげ何やら期待しているもようである。
 「別に。じゃ、これ返すから俺戻るわ」
 「……待っておくんなはれー!こんな数秒だけやったら、せっかくのシンタローはんのぬくもりがチャージされてまへんやん!って問題はそこやのうて、わてが計画してたんは、“二人で一緒に毛布にくるまって日の出をながめる濃密☆バーニング・ラブv心友プラン”どすえー!」
 「眼魔砲」
 屋上が一瞬青白く輝き、すぐに光はおさまった。


 「あのー、シンタローはん。いくらわてでも、ここの高さから落とされたら助からんような気がするんどすが……?」
 襟首を掴まれ、ずるずると屋上のふちへと引きずられていく途中に目を覚ましたらしいアラシヤマがおそるおそるそう問うと、舌打ちをしたシンタローはいきなり手を放した。支えを失った彼はそのまま仰向けに倒れた。
 「わて、もしかして、ほんのついさっきまで死の瀬戸際におりました?いや、そんなことよりも、まだお日さん顔だしてまへんやろな!?」
 慌てて起き上がったアラシヤマは、まだ日が昇っていないことを確認すると肩で息をついた。空は群青からスミレ色に変化し、空の星も数えられるほどになっている。
 「毛布、もう一枚予備を持ってきてるんどす。せやから、シンタローはんも日の出を一緒に拝んでいかはりまへんか?」
 「半径50メートル以内には近寄らなかったら、まぁ考えてやってもいいけど」
 「それって、一緒にとはいえへんように思うんやけど気のせいでっしゃろか?」
 「気のせいなんじゃねーの?」
 「……せめて、1メートルにまけておくれやす~」
 アラシヤマは情けなさそうな顔つきをして毛布を取りに行った。

 
 シンタローとアラシヤマは1メートルほどの間隔をあけて座っていた。アラシヤマがポットに温かいほうじ茶を入れて持ってきていたので、どうやらシンタローが譲歩したらしい。
 ほうじ茶をすすりながら、東の方角を見ていると少しずつ空の色が薄いピンク色から黄みのまさったオレンジへと変化してきた。そして、太陽が上縁を地平線にのぞかせた瞬間、空の色が一瞬輝くような朱色となった。
 (なんかこいつの炎の色みてーだナ)
 シンタローが目を瞬かせると、アラシヤマが、
 「シンタローはん、何か願っといたら叶うかもしれまへんえ?」
 と言った。
 (別に、そんなの信じる気にはなれねーけど……)
 そう考えつつ、シンタローは目を閉じた。
 しばらく経って目を開け、アラシヤマの方を見ると彼も目を閉じていた。
 「てめーにも、願いごとなんてあんのか?」
 と、シンタローは目を開けたアラシヤマに声をかけた。
 「ぎょうさんありますえ~!でも、とりあえずは今ここであんさんとの距離が1mから1cmぐらいに縮まらへんかなぁというんが望みどす。本音をいいますと0cmが理想なんどすが」
 「そりゃ、ぜってーかないっこねーナ!」
 「あんさんが協力してくれさえすれば、簡単なことなはずなんやけど……」
 小声でアラシヤマはブツブツ言っていたが、それを無視したシンタローは伸びをして朝の大気をすいこんだ。
 いつの間にか、太陽の位置は高くなり青空が広がっていた。










あけましておめでとうございます。年賀SSなど書いてはみましたが、
どうも、年明けからいろいろまことにすみません…(汗)
フリーですので、もしお入用なお方はご自由にお持ちくださいまし~。
今年もよろしくお願いいたしますvvv


aa



 
 「好き、嫌い、好き…。あっ、また好きになりましたえー!100パーセントの確率どすぅ~vvv」

 真っ青に晴れた空の下、トットリが海へと続く道をのんびりと歩いていると、ふと数十メートル先の方から何やら叫ぶ声と見覚えのある気配がした。
 (これは…、あいつだわナ)
 今来た道をひきかえそうとすると、
 「あっ、忍者はんやおまへんか!」
 どうやら相手も気づいていたようで、なんだか嬉しげにこちらにやってきたのでトットリは思わず舌打ちをした。
 「なんどすの?その露骨に嫌そーな顔」
 「……根暗男が、一人で叫んでいるのを耳にしたら、だれだってえっらい引くわナ」
 「ああさっきのあれ。お花でわてとシンタローはんの相性を占ってたんどすv」
 何やら含み笑いをしながら、頬を染めてモジモジとしているアラシヤマを眇めた目でみて、
 「占うまでもなく、わかりきったこととちがうんか?」
 と、トットリはいった。
 トットリのそっけない様子にも気づかず、アラシヤマは浮かれた様子で得たりとばかりにうなづいた。
 「マヌケな忍者はんもごくごくたまにはええこといいますやん!まぁ、薄っぺらーいベストフレンドとかのたまう顔だけ阿呆とあんさんの場合とちごうて、わてとシンタローはんがバーニング・ラヴvな親友同士なのはまぎれもない事実どすケド!」
 無表情のままトットリはポケットに手をやり、いきなりアラシヤマに手裏剣を投げつけた。
 「あぶなっ!あんさん、いきなり何しはるんどすかー!?危のうおますやんッ!!」
 ギリギリのところで避けたアラシヤマがそう怒鳴ると、
 「―――何で避けるんや、根暗。お前ってほんっと、空気の読めないやっちゃね~?」
 トットリは貼りついたような笑顔で答えた。アラシヤマは不機嫌そうであったが、
 「……まぁ、今日は気分がええ日やさかい、一応燃やすのは堪忍してやりますわ」
 といった。
 トットリは、少し辺りを見まわし何かに目をとめると、一瞬姿を消した。すぐに戻ってきた彼はアラシヤマに一輪の花を差し出した。
 「アラシヤマ、さっきまでのことは水に流して、この花でシンタローとの相性を占ってみるといいっちゃ」
 そういってにっこりと微笑んだ。
 「トットリはんッ…!あんさんの友情に感謝どす~vvv」
 「そんな、アラシヤマ、僕達の間には友情なんて一ミリたりとも存在しないから、全然気にしなくっていいっちゃよ!」
 アラシヤマは聞いていない。
 「シンタローはんは、わてのことを好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き、きら…」
 「どがしただらぁか、アラシヤマ?」
 「ききききき、きらっ…!」
 「もうその花びらしか残ってないけど、はやく千切るっちゃ」
 笑顔のままトットリがそう言うと、アラシヤマは手に持っていた花を握りつぶし、
 「そんなはずはッ、あらしまへんー!!!」
 花が、炎につつまれ一瞬で炭屑になった。
 「シンタローはんはっ、わてのことが大好きなハズどすー!!なんてったって心友どすからッツ!!なんや、占いなんてそないな非科学的なもん、わては信じまへんえっ!? わては今からシンタローはんと海でイチャイチャするんどすっ!シンタローはんの肌に優しくサンオイルを塗ってあげるんはこのわてどすえッツ!!」
 シンタローはーん!と叫びながら、アラシヤマはものすごい勢いでパプワハウスのある方角へ走っていった。その場に一人とりのこされたトットリは、
 「―――それにしても、とことんイタイ野郎っちゃね…」
 と呆れたように呟いた。
 「まぁ、あげな阿呆、どーでもええわ。あっ、早くしないとミヤギくんとの待ち合わせに遅れるだわや☆」
 にっこりと笑顔になると、トットリは駆け出した。



 「シンタローはーんッ!今からわてと浜辺でアバンチュールを楽しみまへんかッ!?」
 「眼魔砲ッツ!!」









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