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じっとこちらを見上げる目にシンタローはちらり、と隣に目をやる。
隣ではなんとも言えない顔をした――多分自分も同じ表情を浮かべているのだろう――グンマもシンタローを見上げている。
「・・・・触るのはいいけど、触った後絶対に手を洗えよ?」
「わかった!!」
キラキラした目でキンタローは返事をするとうれしそうにガマガエルをつかんだ。
「・・・・・触るくらいは平気だよな?」
「う~ん。攻撃しなきゃ毒ださないし、手を洗えば平気だと思うよ?」
「・・・ふぅ」
「シンタロー」
「なんだ?」
「なんか出てきたぞ?」
「わかった。速攻手を洗いに行け」



赤とんぼ



「・・・・昨日はナメクジに塩かけて遊んでたな」
「蛇もね。青大将だっけ」
「・・・・日本くんじゃなかったなぁ」
「ゆっくりできていいかな、って思ったんだけどね」
シンちゃんが総帥になる前にね。
グンマが少しさびしそうに笑ってそう言うのでシンタローは少し困ったような顔で笑った。
シンタローの、正しくはグンマの母親が田舎に建てた別荘・・というには少々小ぢんまりとした平屋の日本家屋。
本当に普通の田舎にあるような家。母が家族とだけ過ごすために建てた家。
そこに三人だけでやってきた。

「シンちゃんが総帥になる前に三人だけで過ごしたい」

そうグンマが言った。そのどこか祈るような声にシンタローはうなづいた。
キンタローも都会で過ごすことはあったが日本の田舎はもちろん初めて。
すぐにうれしそうにうなづいた。
「・・・・まぁ、いいか」
「・・・キンちゃんが楽しそうだから?」
「ん、まぁな」
「・・・気にすることないのに」
「気にしてねぇよ。ただ、本当にそう思ってるだけだ」
「ふぅん。うそつきぃ」
グンマは笑ってそういった。シンタローも笑った。
足音が近づいてきたのでシンタローは廊下を見た。
「洗ったか?」
「洗った」
「きれいに洗ったか?」
「洗った」
「よし」
二人で座っていた縁側からシンタローは立ち上がる。
グンマも続けて立ち上がりキンタローは縁側から庭へ降りる。
「さて。庭は散策しつくしたし近くを散歩するか」
「そうだね」
「うむ」
「蛇がいても、もうかまうなよ」
「どうしてだ?」
「日本で蛇って言うのは神様の使いなの。だからイタズラしたりするのはダメなの」
「殺生なんてもってのほか、だな」
「ふぅん」
「さて、いくか」




「あれは?」
「あれは赤とんぼ。ちょっと、気の早い、な」
「指に止まらないかな」
「難しいんじゃね?」
グンマが人差し指を空へ向ける。キンタローも真似をする。
赤とんぼはそれを無視して飛び回っている。
「こないね~」
「・・・むぅ」
それを見ながらシンタローは言いかけた言葉を飲み込んだ。
母さんは上手だった、そう言おうとした。
だがそう呼んでいいのかな、と思ってしまった。
思ってしまったこと、そして母と呼ぶことをためらった事。
それが妙に、あの優しい母に申し訳なく思った。
「シンタロー・・とまったぞ」
「へ?」
グンマとキンタローを見るがどこにも赤とんぼの姿はない。
「どこだ?」
「お前の頭の上だ」
「へ?」
グンマとキンタローが笑った。




「あ、ナワシロイチゴだ」
「あ。ほんとだ」
「ちょうど頃合・・か熟れすぎか・・どれ」
シンタローが壁に這うように生えているツタに生った実をつまむ。
見るからにそれは赤く熟していた。
「ん、あまい」
「キンちゃんも食べてごらんよ。木苺の一種だよ」
「ああ」
「少し摘んでくか」
キョロキョロ辺りを見回しフキの葉を一枚。それと近くに生えている頑丈な草を数本。
「どうするんだ?」
「こうして重ねて・・・草で縫い合わせるんだよ」
「あ~おば、お母様におしえてもらったやつだよね」
あっさりと言ったグンマにシンタローは少し驚き、うなづいた。
「ああ、母さんから教えてもらったやつだ」
「上手い具合に器ができるんだな」
「よし。摘んでいこうぜ」
「そうだね。歩きながら食べようか」
摘んだナワシロイチゴをいれたフキの葉の器をグンマが持ち、三人でつまみながらあぜ道を歩く。
「あ、神社だ」
「あんなに小さかったんだな」
「・・・俺もあれには見覚えあるな」
「へぇ」
「かくれんぼしてグンマが泣いたときのことを」
「そんなの覚えてないでよ・・」
グンマが情けない顔をしたのでシンタローはこっそり笑った。
それでもそれにちゃんと気づいたグンマはあんぱーんち、と言いながら力のいれられてないパンチをシンタローに繰り出した。
「シンちゃん!」
「はは!わるいわるい」
「も~」
「確か俺が見つからないって、泣いてたんだよなぁ」
「だって~僕が泣くとシンちゃんすぐにどこからか出てきてくれるんだもん」
膨れ面でそういった後、グンマはふふ、とうれしそうに笑った。
「そういえばあの頃は僕魔法がつかえるのかと思っていたよ。泣くと使える魔法。シンちゃんにだけ効く魔法!」
「今だって使えんだろうが」
「もう使えないよ。というより使わない。僕は泣かないって決めたもの」
シンタローの足が止まった。キンタローもグンマを見つめている。
グンマは少し歩くとくるり、と振り返りおだやかに微笑んだ。
「もう泣かないよ。シンちゃんがそばにいないのなら、意味のない魔法だって知ったもの」
「グンマ・・」
「その代わり頼りになるお兄ちゃんになるって決めたんだ!コタローちゃんが起きたとき頼れるようなね。
それでお父様と一緒にシンちゃんの留守を守るんだ!」
「・・そっか」
「キンちゃんは?」
「今は・・科学者もいいな、と思ってる。だが・・」
「おやぁ、菖蒲さんとこの坊ちゃんじゃないか」
一台のトラックがとまり初老の夫婦が顔を出した。
「あ、こんにちは」
「お久しぶりです」
シンタローは微笑み軽く会釈すると夫婦のほうへ歩いていった。
キンタローは首をかしげグンマに尋ねる。
「誰だ?見たことあるような・・」
「あの家を時々手入れしてくれてる人だよ」
「ああ・・そういえば」
「なかなか来れないから腐っちゃうもん。たまに風をいれないとね」
「叔父貴はよく来ているようだったが」
「うん・・・お母様の思い出がたくさん詰まっているからね」
「そうか」
「で、さっきの続きは?」
シンタローが夫婦と楽しげにしゃべっているのを確認してからグンマは続きを促す。
「・・・だが、シンタローを手伝うのも面白そうだと思っている」
「面白そうって・・」
「こういうものを、守るのだろう?」
キンタローは周囲を見回す。ただただのどかな田園が続く。
あたりでは蛙が煩いくらいに鳴いている。
そろそろ日が傾き始めた証拠だ。
「こういう、当たり前の日々を送る人たちを守るのだろう?」
「そうだけど・・」
「なら面白そう、というか・・・やってみたい、と思う」
「僕の研究だってその一環なんだけど?」
「だがグンマは家を守るといった。なら俺はそこに帰るシンタローを守りたいと思う」
ダメか?と犬のような目で見られグンマは考え込む。
「いきなりその道だと多分シンちゃんが引退するまでその道だよ?」
「研究も続けるさ。片手間になるだろうが関係ない」
「・・・・・本気?」
「もちろん」
「高松が怒りそうだなぁ」
「そうか?」
「うん。高松はキンちゃんがキンちゃんなりの道を歩むのを望んでたから」
「俺なりの道だろう」
「う~ん。やっぱりシンちゃんに引き寄せられてるって思うんじゃないかなぁ」
「・・・それはグンマもじゃないのか?」
「あ、僕の場合は諦められているから」
グンマはにっこり笑ってイチゴを口の中へいれた。
「・・・僕のは24年間の歴史があるし、それを徹底してきたことを知ってるから」
「俺にもある。俺なりの、24年間が」
「うん。でもずっとシンちゃんの心を見てきてしまっているからその心を助けてあげたいって思っちゃうんじゃないかって・・・そういう心配」
「・・・・・そうか」
「うん」
「なら俺も諦めてもらおう」
「は?」
キンタローもイチゴをいくつか手に取り口に入れる。
「理由はどうあれ世界のためになるのだから諦めてもらう」
「キンちゃん・・」
「俺はまたここにこうやって遊びに来たい。コタローや叔父貴たちとも一緒に」
「・・・うん」
「もちろん、高松も」
「うん」
「だから、そのためにはこの世界が平和になる必要がある」
「うん。そうだね」
「だから、そのために世界をあいつの望む形に変えたい」
話が終わったのかシンタローと夫婦は頭を下げあっていた。
夫婦の笑顔は、キンタローがシンタローの内から見ていた笑顔と変わっていなかった。
とてもあたたかな笑顔だった。つられるようにシンタローも同じ笑顔をうかべていた。
それを見て少しうれしくなってキンタローも笑う。グンマはそれを見て笑う。
「不純な動機だね。シンちゃんのために世界を平和にするなんて」
「結果がよければいいだろ」
「そうだね」
「お前だって不純だろ?」
「純粋だよ~?僕は平和も何も関係ないもの」
「え?」
「シンちゃんの幸せが平和だと言うならそれを作り上げる。シンちゃんの幸せがあの島ならどんな手をつかってもあの島へ行かせる」
「グンマ・・」
「純粋でしょう?一途ともいうし・・」
グンマはそこで少しうつむいて髪で顔を隠した。
「執着、とか偏愛とかとも、言うけどね」
「・・・・かもな」
でも、とグンマはまっすぐ顔をあげる。真剣な目で、まっすぐ前を見据える。
「でも知ってるし、分かってるから。それでも望むままに」
「・・グンマ」
キンタローが顔をしかめるとグンマはいつもの笑顔で笑った。
そしてびし!とこぶしを空に向けてグンマは叫んだ。
「ただただシンちゃんのためにぃ!!あ、痛」
「何を叫んどる」
グンマはシンタローにこづかれた頭を抱え後ろを振り返る。
シンタローは呆れ顔で立っていた。トラックはもう遠くへ走り去っている。
「ん~・・・愛の告白?」
「あのなぁ」
「だから、がんばろうねって話」
「がんばろう、ね?」
シンタローはキンタローをみる。キンタローはそれにあわせるように視線をそらす。
「・・・・お前まさか俺を手伝うとかいうんじゃねぇよな」
「・・・その、まさかだったらどうする?」
「・・・高松の説得は自分でやれよ?」
シンタローはそう言うと驚く二人を置いて歩き出した。
「・・・・怒らないの?」
「呆れてる」
「止めないのか?」
「止めてきくのか?」
「いや・・しかし、止められると思っていたから・・」
「俺は、そう言うだろうと思ってたよ」
「・・・そうか」
グンマはそこで少し足を止めた。
二人の背中が少しずつ遠ざかる。
そうか。ここからは二人で歩き出すのか。
正直、うらやましくないとは、とてもじゃないけど思えない。
けれど、もしかするとこの結果は当然のことなのかもしれないとも、思う。
キンタローがシンタローの内にいたことも必然のように思える。
なら、僕は今までどおり見守ればいいだけのことだ。
キンタローを。そしてなによりシンタローを。
ただただ彼の望むままに。
グンマはそう決心して二人に追いつこうと歩き出した。
そこへ、シンタローの声が届いた。


「じゃあ、二人でグンマのとこへ帰ろうな」


ぴたり、と足が止まった。手に持っていたイチゴを地面に落とした。
シンタローは足を止め振り向くと、笑った。
「頼むぞ」
「――――――うん!」
グンマが笑顔になったのを見てキンタローもほっとしたように微笑んだ。
シンタローの危惧はどうやら当たりだったようだ。
今まで何より共にいた存在でありながらその隣にキンタローが立つということ。
それでもグンマはそれを当たり前のように見守り、自分の留守を守ろうとする。
だからこそ、自分で決めさせるのではなくシンタロー自身の口からそれを頼む。
それがグンマの救いになればいい。そう、小さな小さな声でつぶやいた。
「・・・気にしすぎだ」
「あ?何か言ったか?」
「いや」
シンタローは何も悪くはない。ただ周囲がシンタローのためにありたいと思うだけだ。
「よし!帰るぞ!」
「うん」
グンマは落としたハスの器を拾い慌てて二人に並ぶ。
少しイチゴが外へ出てしまったが器は壊れておらず中のイチゴをまたつまむ。
「日が暮れてきたね」
「そうだな」
「今日のご飯何?」
「柳川鍋」
「え?ドジョウあったっけ?」
「さっき話の流れで。持ってきてくれるって」
「やったー!」
「ドジョウを食べるのは初めてだ」
「よしよし。腕をふるうから喜べ」
「うむ」
「わーい!早く行こう!」
「はいはい・・あ」
ふとシンタローは足を止め人差し指を空へ向けた。
そこにすぅ、と赤とんぼが当たり前のようにとまった。
「わぁ・・すごい」
「何でだ?」
「何でってそりゃあ・・」
シンタローは誇らしげに胸を張って、言った。


「俺も母さんの息子だからな!」



FIN




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僕はある日突然あることに気づいた。
気づいたらそれはすとん、と僕の心の真ん中に落ち着いた。

「ああ、そっか」
「あ?どうしたグンマ」
「ううん。ただ、やっぱりそうだったのかって」
「?」

そうか、やっぱり君が僕の世界なんだね。




世界





その日は穏やかな日だった。
二人でのんびりと日向でお茶を飲んでいたときに。
神の啓示っていうのはこういうのかと思ったほどに突然だった。

「シンちゃん。好きだよ」

なんの脈絡もない僕の言葉にシンちゃんはぱちり、と瞬きをした。
それから不思議そうな顔をして言った。

「それって今更じゃねぇの?」

まったくだ。告白はすでにすましてるし受け取ってももらえた。
シンちゃんは僕の恋人という立場にいる。でも。

「ん~なんか改めて言いたくなったんだ」
「なんでまた」
「シンちゃんが好きだなぁって思ったから、かな」
「ふぅん」
「君が、僕の世界だと思ったから」
「せかい?」

恋人になれる人は他にもいるのだろう。
けれども僕の世界となりえる人は一人しかいない。
シンタローというただ一人の存在だけ。

「上手く説明できないけど、世界だと・・・笑う?」
「まさか」

笑ったりしないと分かっているのにそんなことを聞いてしまう。
そんな僕を笑わない。そんな君が、僕の世界。
なんてすばらしいことなのだろう。

「・・・へへ」
「んだよ」
「ありがとうシンちゃん」
「っとに何だよ今日は」
「うん、なんかそんな気分」
「ったく」

大きく優しい手が頭をなでた。

「俺も好きだよ」
「うん」
「・・・ありがとうグンマ」
「・・うん」
「おめでとう、グンマ」
「あ、うん。ありがとう、シンちゃん」

そういえば今日は僕の誕生日の代わりだった。
当日はシンちゃんが遠征でいなかった。
だから二人きりの時間を一日でいいから、とわがままを言った。
どこへも行かず、ただ部屋にいるだけでいいからと。

「・・グンマ」

優しい声だった。
穏やかな笑顔だった。


「生まれてきてくれて、ありがとう」

「きっと、俺の世界もお前だよ」


「・・・シンちゃん」
「・・・笑うか?」

慌てて首を横にふった。

「まさか」
「そっか」
「・・・・それは嘘じゃないんだよね」
「そんな嘘はつかない」
「でも、シンちゃんの世界は、あの子じゃないの?」

震えてしまう声にシンちゃんは苦笑して首を横に振る。

「あいつは、もっと違う。世界とかそういうものじゃない。
パプワは俺が俺であるために必要な存在で、対等な存在で、親友だ」
「うん」
「でもグンマはなんか違う。なんていうか・・」

笑うなよ、と言ってからシンちゃんはつぶやくように言った。

「俺が俺として生まれた、意味のようなもんなんだと、思う」
「・・・うん。分かるよ」

名を呼ばれるたびに新しい名前を名づけられているような気分になる。
それと同時に自分があるということを幾度も教えられているような気分にもなる。
生まれてきたのは君の名を呼ぶためだったのだろう。
生まれてきたのは君に名を呼ばれるためだったのだろう。

「・・・シンちゃん」

頬に手を伸ばす。ぬくもりが手に伝わる。
頬にかかる髪に触れる。
日にあたっていたせいか髪は温かかった。
そっと近づくとギリギリの距離まで見詰め合ってそっと目を伏せた。
触れるだけのキスをして離れるとそっと手をつなぐ。
指を絡めて、痛くない程度に力をこめた。

「シンちゃん」
「・・グンマ」

やさしいキスが額に落ちた。

「おめでとう、グンマ」
「ありがとう!!」




FIN


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恋告草





パプワたちが新たに降り立った世界に当然のごとく赤玉はなかった。

「ほら。あそこに紅梅が咲き誇っているだろう?ちょっと群生してまるいかんじ」
「もういい。つまり今回も空振りなんだな?」
「見てのとおりだ。花見でも楽しめ」

そういい残して青玉はチャッピーの体から離れた。
シンタローは大きくため息をついてチャッピーを抱きかかえたまま向こうの島を見た。
梅、桜、つつじ・・・杜若か菖蒲か遠目ではよくわからない。両方かもしれない。
椿や牡丹、ひまわり百合チューリップ薔薇エトセトラエトセトラ・・・。
なるほど。季節感は無視しているが見事だ。

「花島、か?」
「そんな感じだな」
「・・・いってきたらどうだ?」
「お前はいかないのか?シンタロー」
「家事がたまっているんですのご主人様」
「しかたないな」
「リキッド。お前も一緒にいってこい」
「へ?俺も一緒に家事しますよ?」
「食料の調達にいけ」
「らじゃー!」





シンタローがあらかた家事を片付け一息ついていると花まみれの二人が帰ってきた。
正しくは花を抱えた一人と一匹。シンタローは読んでいた本を閉じ出迎えた。

「ただいま」
「おかえりパプワ。チャッピー。その花は?」
「つんできた。たまには家に花があるのもいいと思ってな」
「ふむ」
「花瓶の代わりになるもの取ってくる」

そういってパプワはチャッピーとともに外へ出て行った。
それと入れ替わりにリキッドも手に花を抱えながら家の中に入ってきた。

「今帰りました!」
「おう。どうだった?」
「食料は魚とイノシシとキジと・・あと菜の花とたけのこ」
「どこの田舎の食材だ」
「管理人の母親の実家っす。キジは味濃いんすよ。混ぜご飯にしましょう」
「まぁいいけどよ」
「あと、はい。お土産です」

リキッドが差し出したのは美しい青色のあじさいだった。

「なんか、すっげぇきれいだったから・・シンタローさんに」
「・・・・・おう」

花をもらって怒る相手はいない。シンタローも驚いたが素直に受け取った。
リキッドはそれを見てうれしそうに笑った。
花をプレゼントするなんてはじめてだ。
そのうえ好きな人に、なんて。

「・・・・・・分かってないんだろうなぁ。意味」
「なんか言ったか?」
「いいえ~何も~」

シンタローはふぅん、と興味なさそうにあじさいに視線を戻す。
深い、清んだ青色をしたあじさいにシンタローはうれしそうに微笑む。

「あじさいなんて久しぶりに見たなぁ・・最近日本にも行ってねぇし」
「そうですね。そういえば途中ウマ子に会ったんですけど俺思わず抱えてる花投げつけちまったんすよ。
そしたら突然ひどい!とかいって泣きながら走っていっちまったんですよ。なんだったんでしょうね」
「・・・・・ああ」
「ああ、ってシンタローさん心当たりあるんですか?」

シンタローは持っていた本をリキッドに手渡した。

「外に落ちてた」
「外?」

それには「花言葉」と乙女チックな字で書かれた本だった。

「投げつけたのは?」
「黄色の・・チューリップ?ナカムラくんとエグチくんの摘むのを手伝ってて・・」
「花言葉みてみろよ」

リキッドは言われるまま本のページをめくった。

「・・・・・望みのない恋」
「それじゃあ泣くわな」
「ええ!だって俺知らなかったんですよ?」

半泣きで顔を上げたリキッドにシンタローは頭をかく。
とりあえずアジサイをあいていたバケツにとりあえず置いて向き直る。

「でも泣かせたんだろ?女性を泣かすのは男として最低だぞ?」
「ええ!?」
「それにこれ置いていったの本人だからな。
多分奥手なお前にプレゼントだったんだろうに・・彼女の親切を無駄にしたなぁ」

本の裏表紙を見ればウマ子、と達筆な字で書かれていた。

「んなこと言われても俺にはちゃんと想い人が!」
「いるの?」
「いるのって・・・わかんないんすか?」
「わからん」
「・・・俺普段のアピール足りないのかな・・」
「しらん」

リキッドの問いかけにシンタローはバキッと一言で答えた。

「誰なんだ?」
「え?まぁ、それはそのうち・・」
「ふぅん」

ふんどし侍だったら家追い出そう・・。
リキッドが知ったらそれこそ家出しそうなことをシンタローは思っていた。
それにしても、とリキッドは花言葉の本を見つめる。

「どうしよう・・やっぱ謝るべきなんでしょうか」
「泣かせたんだしな。あとで無難な花でも贈っとけば?」
「無難・・・同じチューリップとか・・」
「赤・愛の告白。紫・永遠の愛。絞り・美しい姿・・だ、そうだが?」
「やめます」
「ちなみにあじさい。貴方は冷たい人・冷淡・移り気・・」
「そんなつもりはありません!!」

リキッドは力いっぱい叫んだ。それに返ったのはシンタローの笑顔だった。
そのめったに見れない自分へ向けられる、シンタローの笑顔。

「分ぁってるよ」
「・・は、はい」
「花言葉は勝手に人がつけたもんだからな。きれいならきれいでいいんだよ」
「・・・・ええ、ですね」
「そう言ってくれば?」
「へ?」
「ウマ子だっけ。あれに」
「・・・そうっすね。理由はともかく泣かせちまったんだし」
「そうそう」
「ウマ子にやさしいっすね」
「一応コージの妹だからな」
「・・・そうっすか」
「そうそう」
「・・・あじさい、きれいですね」
「そうだな。水切りして生けなおそうかな」
「できるんですか?」
「体が弱い母親の部屋によく飾ってたからな。必然的に覚えた」
「・・ああ」

シンタローはパプワが持ってきた花もバケツに入れるとハサミをもってこようとしたときパプワが竹を抱えて帰ってきた。

「なるほど、竹か」
「ああ。大きさも色々とってきたぞ」
「わん」
「おし。じゃあ飾るか」
「あ、俺先にウマ子んとこいってきていいすか?」
「おう。行ってこい」
「なんだ告白か?これを持ってくといいぞ」
「怖いこというなよパプワ・・って白梅?」

リキッドは花言葉の本をめくる。

「花言葉は気品?・・なんで告白に持ってくといいんだ?」
「何だ。梅の別名をしらんのか?これだから家政夫は・・」
「家政夫は関係ないだろ」
「梅の別名は匂桜、春告草・・・それから」

パプワはそこでシンタローを見た。


「それから、恋告草・・だ」


「分かったか?シンタロー」
「・・わかりました」
「分かったか?リキッド」

勝ち誇った笑みを浮かべるパプワにリキッドは固まった。
その固まったリキッドの目の前でパプワは手を伸ばし白梅をシンタローの髪に飾った。

「な、なんだよ」
「さっさと受け取らんからだ。似合うぞ」
「っ!」

パプワの言葉にシンタローは顔を赤くする。
それにパプワは楽しそうに笑った。

「・・顔が赤いぞ?シンタロー」
「・・誰のせいだ阿呆」
「―――――――――――――」





「リキッド!どうした!何を泣いてる!」
「トシさーん!!失恋しましたー!」
「何!お前を振るなんざなんてひどい奴だ!誰だ!」
「シンタローさんっす!!」
「・・・・・・・え」
「パプワに奪われたんですー!!」
「・・・・・・リキッド、ちょっと落ち着いて話しをしよう。な?」
「うわぁぁああん!」
「りっちゃーん!どうして泣いとるんじゃー!むぅうう!?土方さん!?もしや御法度ォ――――――!!!」
『ギャ――――――――――――――――!』


FIN


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約束の証












ささやかながら、高松とサービスとグンマで準備した誕生日パーティー。
そんな中、高松は早いなぁ、と感慨深げに主役を眺めていたら不思議そうな顔をされた。

「なんだその顔」
「どんな顔してます?」
「なんていうか、遠い目をしてたぞ」
「まぁ、ちょっと・・・もう20年もたったのかと・・」

というか、自分がもうそんな年なんだな、という。
己が年齢を顧みて気が遠くなったというか。
そう素直に言えばシンタローに苦笑された。

「仕方ないでしょう」
「ま、そうかもな」

俺も早いなぁって思うよ。
なぁ、コタロー。
とこんな日でも腕の中には愛しい弟君の姿。

「あ、そうだ、高松」
「なんでしょうシンタローさん」

いつもならそのままコタローに話しかけ続けるシンタローが顔を上げた。

「コタロー寝かせたら部屋行くから」
「ええ。分かりました」

このやり取りはいつからだったか。
あえて見ない振りをして避けていた大人に真っ向勝負を仕掛けてきた子供。
その子供のぬくもりを振り払うどころか逆に腕の中に閉じ込めてしまった。
そんな自分の愚かさが分かっていても最早、手放すことなどできはしない。
ただただ愛おしくて       、 仕方がない



















ドン、とテーブルに置かれたのはウィスキーのボトル。
ラベルを見るからに年代物。そのうえシンタローと同じ年齢。

「どうされたんですか?」

そう問えば高松の正面に座ったシンタローは口の端を上げた。

「なんとナマハゲから」
「へぇ。ハーレムが、ですか?」
「ハタチのキネンだってさ。ようやくおおっぴらに酒を飲ませられるって」
「いままでも飲ませてたくせにねぇ。で、これをどうしろと?」

飲むんですか?

「飲まない。預かってて」
「預かる、ですか?」
「明日から遠征だから」
「存じ上げております。それも、激戦区だとお聞きしましたが」
「まぁな。でも、俺なら戻ってこれる」

言い切ったシンタローの眼差しに少しの揺らぎもない。
高松はその力強い瞳を見返しうなづいた。

「ええ。それは私も確信しております。貴方でしたら戻ってこれるでしょう。ただ」
「ただ?」
「帰ったら、必ず私の元へくるように」
「もう耳タコだ」
「それでも言い聞かせておきたいのです」
「不安か」
「いつでも」
「そうか。俺もだ」

高松が素直に認めるとシンタローもあっさりと弱さを見せた。
あの、力強い眼差しのまま。

「シンタローさん」
「だから、高松。これを預かっていてくれ」

そっと、酒のビンに触れ、僅かにこちらへ押し出した。

「取りに戻るから」
「はい」
「んで、一緒に飲もう」
「わかりました。でも怪我をして戻ったら治るまでお預けですよ?」
「わかってるよ。主治医の言うことには逆らいません」
「よろしい」
「じゃあ、それだけ」

そういって立ち上がったシンタローに分かっていながらも高松は問いかけた。

「泊まってゆかれないのですか」
「明日から遠征なので」

おどけて言うシンタローに苦笑して高松も見送るために立ち上がる。

「では、それも帰ってきてから、ですね」
「そうだな。今は、これだけで」

一瞬見つめい、そっと重なるだけのキスを交わした。

「じゃあ、おやすみ」
「ええ。おやすみなさい」

いつものように分かれて、ドアは閉められた。
そうしていつものように「ただいま」とドアは開けられるのだろう。
高松はそう確信しながら2人で飲むための酒を大切にしまった。










FIN




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猫のような笑顔






澄んだ声ではない。僅かにかすれたハスキーボイスが耳に心地いい。
長い前髪のせいで顔の左半分が隠れてしまっているがなかなかの美人の歌い手だ。
まだ甥っ子と同じほどの年齢だろうにブルースを歌いこなしている。
「聞きほれるだろう?」
「そうだな」
なじみの店に久々に訪れてみればなじみのマスターは歌手を一人雇っていた。
前はピアノ弾きが一人いたがそれは辞めたのだという。
「あの子顔に火傷の痕があってね。メジャーになるのは難しいし歌いたいだけだからって」
「へぇ・・もったいねぇな」
「まぁ本物ならいつしかここから巣立つさ。あのピアノ弾きのようにね」
「なんだアイツプロになったのかと」
こんな古ぼけた酒場で弾いているのはもったいないと思うほどの腕前だったがなるほど。
「そりゃあよかった」
「わるかったね古ぼけた店で。その店に足しげく通ってくれるお客さんもいるんだよ?」
「俺みたいな物好きだな」
「お黙りなさいな獅子舞くん。もうツケなしにしてもいいんだよ?僕は」
「へん。今度まとめてはらってやらぁ」
「いつもそう言うけどね」
マスターは拭き終わったコップをおき俺の前に黙って新たな酒を置く。
店には俺のほかに10人ほど。皆彼女の歌声に聞きほれている。
そこに一人の客が入ってきた。職業病か。反射的に入ってくる人物を観察する。
長い黒髪に上質のコート。コートの下はいつもの紅い服ではなかったがやはり上質のスーツだった。
「・・シンタロー」
「あれお知り合い?彼もなじみだよ」
「んな暇人じゃねぇはずなんだがな」
「うん。まぁそう頻繁ではないけどね」
息抜きと、彼女が心配なんだと思う。
その言葉に思わず顔をしかめていた。
シンタローは店に入ってから彼女を熱心に見つめこちらに気づいてもいない。「どういうご関係で?」
「彼があの子を連れてきたんだ」
「ほぉ~お」
それはそれは。
歌が終わり彼女のステージは一旦終了。決まった時間とリクエストがあった以外はバーテンをしているらしい。
彼女はうれしそうにシンタローに駆け寄り何かしゃべっている。そしてそのまま二人こちらへきた。
「げ」
「なにが「げ」だ」
「何でこんなとこいるんだよナマハゲ」
「俺はここの常連なんだよ」
「どうせツケためてんだろ?やめろよいい年して」
「あぁ!?」
後ろと前で笑い声が起きた。マスターと彼女が笑っている。
緩やかに波打つアーバンホワイト。右目は黒だったが左は火傷のせいかブルーの瞳だった。
上等のペルシャ猫のような女だ。歌っていたときとは違ってどこか少女じみた幼さも残っている。
「ツケってことは・・シンタローさんがよく言う困ったおじさんってこの人?」
「そうだよ」
「ああ、じゃあアンタがよくしゃべってる生意気な甥っ子ってこの子か」
「そうだよ」
『つかなんだテメェひとのこと他人にベラベラしゃべってんじゃねぇよ!』
きれいにはもった台詞にまた笑い声が上がった。




シンタローはこのあとまだ仕事が残っているらしく軽めのキールを頼んだ。
俺は飲んでいた酒を追加注文する。猫が楽しそうに酒を置いて他の客の元へ行った。
「おいあのペルシャ猫」
「ペルシャ猫?」
「ああ目が左右違うし髪も白いし・・」
「ああ。火傷のせいだ。名前はナスリーン。野バラの意味がある」
「お詳しいことで」
「俺が拾って・・・名前をつけたからな」
「あぁ?」
思いがけない言葉に完全に声に嫌悪が混じった。やっぱり馬鹿だ。
シンタローは気にせず猫のことを話す。
「何も分からないんだ。ひどい火傷を負って・・体中傷だらけで目覚めたとき記憶がなかった。
ひどい目にあったんだと思う。髪ももっと淡い金髪だったのに・・。
何か覚えてることは?って聞いたら歌って言うから。ここならいいと思って」
「ふぅん・・そういう事情持ちにしちゃ楽しそうだがなあの猫」
「名前でよべよ」
「別にいいだろ」
「記憶がないナスリーンにとって存在を証明する唯一のものだなんだ。それくらい考えてやったっていいだろ」
俺たちが巻き込んだのかもしれないのに、と唇だけが動いた。
それにばかばかしい、と口の端を上げて笑う。
そんな風に同情してそんな大事な名前をつけてやったというのか。
そんなことは他の奴にやらせればいい。こんな団体のトップがやることではない。
ましてそれが人気集めというのであればまだしも純粋に心からの行為。
「お優しいこって」
「んだと!」
「妬いてるのぉ?」
「誰がっ――――――!」
目の前に猫が面白そうに笑っていた。口の端をきゅう、とあげて。猫のように。
「ふふふ。ごめんねハーレムさん。名前をつけてっていったのは私のわがままなの」
「謝ることねぇよナスリーン」
「そうだそうだ。関係ねぇのに首つっこむなよ猫」
「でも」
やっぱり言っておいたほうがよさそうだったから、と言う猫の頭に手を置く。
「そういうのをおせっかいって言うんだよ。だからこんな目にあうんだぜ?学習しろよバカ猫」
「おい!ナマハゲ!」
シンタローの抗議の声を無視してわしわしとフワフワの髪をかきまわすと猫はまたきゅう、とうれしそうに笑った。

ぐしゃぐしゃの髪で、醜い火傷の痕をさらしながら。口の端をあげて、猫のように。

「ふふ。素敵な人ねぇシンタローさん」
「どこが!」
「ダメだよシンタローさん。こんな素敵な人にせっかく妬いてもらってるんだから素直にならなきゃ」
「ナスリーン!?」
「いいからいいから。あ、あとここは安らいでもらえる場所なの。喧嘩する人はお外にだすわよ?」
「う」
うめいたシンタローはしぶしぶ引き下がる。それに猫は満足そうに笑う。
ああ、そうか。誰かに似てると思えばあの人だ。
「・・・そういう理由もあるのか」
「何か言った?ハーレムさん」
「いや・・おい猫」
「なぁに?」
猫と呼ばれることになんとも思っていないのか猫は素直に返事をする。
「何でも歌えるのか?」
「もちろん」
「じゃあリクエストを」
「ええ、なにを歌う?」
あの人が好きだった歌をリクエストすると猫はうれしそうに返事をして舞台へ向かった。
それをシンタローは見送ってから俺のほうを見る。
「なんだ?」
「・・・今の歌。たしか」
「猫見てたら思い出したんでな」
「・・・・ああ、そうか。そういうことか」
「あ?お前もしかして今気づいたのか?」
「そういえば似てるかもな。笑い顔」

母さんに。

最後の声はほとんど独り言に近いほどの声だった。
笑い顔以外に似ているものはない。
けれども、その笑顔はよく似ていた。




またリクエストしにきてね?と猫の笑顔で手をふる彼女に手を振り返す。
するとうれしそうにぶんぶん手を振ってきたので子供みたいだな、とつぶやくとシンタローが笑った。
「ま、いい歌手だな」
「・・・だろ?」
めずらしいハーレムのほめ言葉にシンタローは笑みを浮かべた。
ハーレムもうれしそうな顔に方眉を上げて口の端を上げる。
「またくっかなぁ」
「きてやれよ。俺はまた来れなくなるから」
「また遠征か?」
「日本のほうで仕事・・ああ、母さんとこ墓参り行ってくっかな」
なんか思い出したし。
シンタローは空を見上げてつぶやく。
ハーレムも空を見上げた。そこには街の明かりで星すら見えなかった。
だが彼女の眠る場所でならおそらくうつくしい星空が広がっているのだろう。
「姉貴かぁ」
「生きてて欲しかったなぁ」
「そうだな」
「そういえばアンタはまだしばらくこっちに?」
んな命令出してねぇけど。
「ああ。飛空艇のメンテナンスで帰ってきたんだよ。マーカーが報告書書いてたから明日あたり目にするんじゃねぇの」
「あのなぁ・・アンタがかけよ」
「俺は忙しい」
「ったく」
シンタローは呆れたように頭をかいて、ふと腕時計を目にして固まる。
「やっべ!じゃあなハーレム!俺は帰る!」
「お~」
「じゃあ――――おやすみ」
穏やかな声と、ガキの頃みたいな笑顔でシンタローは走っていった。
残されたハーレムは呆然と一人残された。そしてすぐに笑って空を見上げささやいた。
「・・・おやすみ」
シンタローに向けての言葉か、それとも空にいるといわれる彼女にか。
柄でもないと笑うと煙草をくわえ夜の街へ歩き出した。




FIN

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