忍者ブログ
* admin *
[187]  [188]  [189]  [190]  [191]  [192]  [193]  [194]  [195]  [196]  [197
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

+
 本日も、パプワハウスの近くで、「ギャー、ギャー」と、争うような声が聞こえていた。
 「シンタローはんは、わてのもんなんどす!あんさん、近づかんといておくんなはれ!!」
 「あにいってんだ!?シンタローさんは誰のものでもねぇだろうがよ!ただ、確実に俺の方がオメーよりも好感度が上だろうな。2人で一緒に料理したりもするし♪」
 「くっ!(2人で仲良く料理とは羨ましいどす・・・!!わて、以前シンタローはんを手伝おうとして断られましたからな・・・。わてかて、シンタローはんとイチャイチャしながら一緒に料理したり、シンタローはんと一緒の布団で寝てシンタローはんの可愛えらしい寝顔を朝まで見つめていたり、恥らうシンタローはんと一緒にお風呂に入ったりして色っぽいシンタローはんを見てみとうおます!!・・・あぁっ!シンタローはーんvvv)でっ、でも、一緒に料理してはるいうても、あんさんの立場は単なる家政夫でっしゃろ!!わてなんか、そりゃあもう長――い付き合いどすから、可愛えらしゅうてたまらんシンタローはんの写真たくさん持ってますえ?士官学校時代のおぼこいシンタローはんから、現在の色っぽうてたまりまへんシンタローはんに至るまで、それこそ何枚も!!・・・前総帥にシンタローはんを隠し撮りしとるのがバレると没収されますから、ほんまに苦労して撮ったんどすえ!!」
 アラシヤマは、どこからか数枚の写真を取り出し、リキッドの前に突きつけた。
「・・・(こ、コイツ怖ぇ!!そんな昔っからストーカー!?でも、シンタローさんの写真か・・・。いいなぁ。あっ、もちろん生のシンタローさんが一番なんすけど、その辺は誤解しないで下さいね!!うーん、昔のシンタローさんってむちゃくちゃ可愛いいよなぁ。今も可愛いけど。やっぱり、好きな人の写真は、1枚ぐらい持っておきたいよなぁ・・・。ここはムカつくけど、下手に出ておくとするか)。アラシヤマさーん!(笑顔)」
 「・・・なんどすか?気持ち悪い声だしはって」
 「僕にも、シンタローさんの写真1枚くれませんかー?」
 「嫌どす」
 「どうしても?」
 「あたりまえどす。例え、宇宙が崩壊しても、あんさんに写真はあ・げ・ま・へん」
 「ヘェ、そうなんだー。じゃあ、かくなる上は・・・、奪うのみッツ!!」
リキッドの右フックが、決まったかのように見えたが、間一髪でアラシヤマは避けた。
 「わてと、闘うおつもりどすか?ええでっしゃろ、ほな、受けて立ちまひょか!!」
 「平等院鳳凰堂極楽鳥の舞ッツ!!」
 「エレクトリカルパレード!!」
2人は、しばらく闘い続けていたが、なかなか勝負がつかない。2人とも、かなり疲労してきた頃、
 「隙ありっ!」
そう言って、リキッドはアラシヤマから写真を奪った。
 「くっ!返しなはれ!!」
アラシヤマは、写真を取り返そうとリキッドの腕を取り、地面に押し倒した。
――――と、その時――――
 「リッちゃ――ん!!」
 「おめぇら、何してんだヨ?」
 と、それぞれ逆の方向から、2人の声がした。
 「あ゛、これって以前にも似たような場面があったような気が(しますな)・・・」」
 ウマ子の乙女美ジョンが発動した。
 「ギャ――っ!!リッちゃんに群がる御法度野郎―――!!」
 「御法度、SHO――――CK!!」
 アラシヤマは、ウマ子の鉄拳に吹き飛ばされ、ウマ子はそのまま泣きながら走っていった。
 さらに、追い討ちをかけるように、
 「ふ――――ん。お前らってそういう関係だったんだ。へェ――――。」
 と、冷たい目をしたシンタローがそう言った。
 「シ、シンタローはん、これは違うんどす!!完全な誤解なんどす!!わてがバーニング・ラブvなのはあんさんだけどす!!」
 鼻血をダラダラと流しながら弁解するアラシヤマに加えて、
 「シンタローさーん!!誤解しないで下さいよ~(泣)よりにもよって、こんな奴と!!!」
 リキッドも泣きながら、アラシヤマを指差し、必死で弁解したが、
 「ヘェ。お似合いなんじゃねぇの。リキッドも家を出てアラシヤマと暮らせば?」
 そう言って、振り返りもせずパプワハウスの方に戻っていくシンタローに向かって、
 「「シ、シンタローさーん(はーん)!!誤解です(どす)~~!!」」
 2人の叫び声が虚しく響き渡った。2人はガックリと肩を落とし、一言。
 「「今日は、最悪な一日だった(どした)・・・」」

 ・・・ドサクサに紛れてリキッドがちゃっかり隠し持っていた写真は、結局、その後シンタローに見つかり、処分されたそうな。

(おまけ↓)

 「ふふふ・・・。シンタローはん、どうやら気づいてないようどすけど、ネガはわてが持っている んどすえ?」



PR
+
アラシヤマは悩んでいた。
(な、なんで、トットリはんには、デコパッチンで、わてには焼き鏝なんやろか・・・。)
そんな彼は、体育座りをし、目の前に置かれたトージ君人形に話しかけている。
「トージ君、どう思わはる?」
「・・・・・」
「えっ!?シンタローはんは、わてのこと親友や思てるから、照れ隠しやて?」
「・・・・・」
「そうどすな、シンタローはんはテレ屋さんやさかいな。トージ君、ええこと言わはりますわ!!」
トージ君は何も言っていないにも関わらず、アラシヤマ勝手に元気付けられたようである。
「んなわけねェだろ。1人で人形に話しかけて勝手に自己完結してんなヨ、根暗男」
ふいにアラシヤマが座っている前の地面に、影が差しかけ、アラシヤマは背後によく見知った気配を感じた。
 「はうっ!シ、シンタローはん!?わてのためにわざわざ来てくれはったんですのん?う、嬉しおす~~vv」
がばっと立ち上がり、笑顔でアラシヤマはシンタローに抱きつこうとしたが、あっさりとかわされ、地面と抱擁するはめになった。
 「別に、お前のためにわざわざ来たわけじゃねぇヨ」
そう言って、少し笑った後、シンタローはアラシヤマの隣に腰を下ろした。
(わ、わての隣に、シ、シンタローはんが座ってはる!!き、緊張しすぎてどないかなってしまいそうやわ~~)
 「ただ、お前も親父のワガママに付き合って、ここまでコタローを探しにきてくれたんだろ?ありがとナ」
 「わ、わては、あんさんのためでしたら、火の中水の中、どんな危険な目にあっても何のことあらしまへん!!なんてったって、わてはあんさんの心友どすから!!」
シンタローは驚いたように目を丸くした後、少し困ったように笑った。
 「ハハッ、お前って、しょーがない奴だな」
それを聞いた、アラシヤマは少し涙が出そうになった。
 「わて、あんさんにそう言ってもらえるんやったら、どんなにしょーがない奴でも、かまやしまへん。・・・ただし、甲斐性はあると思いますえ?あんさん1人ぐらい養うのは朝飯前どすから、いつでもわての腕の中に飛び込んできておくんなはれvvv」
「調子に乗ってんじゃねぇ!眼魔砲!!」
「ああっ!愛が痛いどす~~~~」



.


「これ、わてからあんさんに。誕生日プレゼントどす」
 突然、アラシヤマから小さな小箱を渡された。
 バニラの香りがするので、
 「食いもんだったらもらわねぇぞ」と言うと、
 「食べ物やったらいらんってどないなことでっか?わて、そこまで信用ありませんのん?(涙)・・・残念ながら食べ物やおまへん。香水なんどす」
「信用はこれっぽっちもねぇナ(断言)。香水?」
 「原料となる花はヘリオトロープって言うんどす。紫色の小さな花が咲いて可愛ええんどすえ。花言葉もわてからあんさんにピッタリや思うてv現在は本物の花から作られた香水は、なかなかあらしまへんので高うおます。(わて、これっぽっちも信用がないやなんて…(泣))」
 「ふーん。ま、なんだかわからねェが、高いもんだったらもらっといてやるか。ただし、使うかどうかわかんねぇからナ」
 「充分どす。ただし、わては三四郎にはなりませんので、覚悟しといておくんなはれvv」
 そう言って、ヤツはあっさりと去っていった。
 「あ、オイ、ちょっと待てよ!三四郎ってなんなんだよ?」
 もう聞こえない所まで行ってしまったらしく、ヤツは戻ってこない。
 「アラシヤマのくせに・・・」
どうも、気になるので、たまたま執務室に提出書類を出しにきたトットリに聞いてみたところ、
 「アラシヤマの奴、そんなこと言ったんだらぁか。気障でムカつくっちゃ」
 「で、結局なんなんだよ。ヘリオトロープと三四郎って」
 「まず、ヘリオトロープの花言葉は、『献身的な愛』とか『愛よ永遠なれ』だっちゃ。ヘリオトロープは明治に流行った香水の名前で、有名な文豪が書いた小説の主人公の三四郎が片思いの美禰子のために選んだんだわや。三四郎がグズグズしてる間に結局三四郎の片思いに終わるんやけど、三四郎にならんってそういうことだらぁか」
 「・・・・」
 「ちなみに、ヘリオトロープは5月24日の誕生花らしいっちゃ」
 「~~~~っ!!もういい…。ありがとナ」
 「シンタロー、僕もアラシヤマに負けないっちゃ」
 そう言って、トットリは部屋から出て行った。
 1人、部屋に残された俺は、これからのことを思うと頭が痛くなった。


a


 ある日の昼下がり、ドウッ!!とどこかで爆発音がし、続いてガラガラと何かが壊れる音がした。
研究室でバイオフラワーの実験を行っていた高松は、それを聞き、
「あぁ、またですか。確か、ここは完全防音のはずですがねぇ・・・」と言いながら、溜め息をついた。
 その後、しばらくすると、
「コンコン」と研究室のドアがノックされ、ヒョコッと新総帥が顔を出した。
「ドクター、キンタローとグンマしらねぇ?」
「キンタロー様は、急遽調べたいことが出来たということで、アメリカの国際図書館へ、グンマ様は、新作ロボットの部品をご自分で注文すると言って出かけられましたよ」
「ふーん、なら、いいんだわ。サンキュな」
そう言って、シンタローがドアを閉めようとすると、

~「シ、シンタローは―――――ん、待っておくれやす~~~・・・」

と、遠くの方から、アラシヤマの情けない声が、かすかに聞こえてきた。
「おや、今回はアラシヤマ君でしたか」
と、思わず高松が声をもらすと、
「あんだよ。『今回は』って」
と、少々気に障ったようで、シンタローはしかめっ面をした。
「まぁ、立ち話もなんですし、中へどうぞ」
そう言うと、シンタローは、いかにも渋々と言った様子で研究室に入ってきたので椅子を勧めた。
 とりあえず、高松は、コーヒーメーカーにコーヒーが残っていたのでマグカップに入れ、それをシンタローの前に置いた。
「長話するつもりはねぇけどヨ、『今回は』ってなんだよ」
「いえね、グンマ様が以前『新総帥がガンマ団内で眼魔砲を撃つ回数に関する研究』をされていて、その統計結果を先日私に見せて下さったのですが、前総帥と彼が同率1位だったので」
シンタローは、怒っていいのか、呆れていいのか分からないような顔をした。
「で、今回は何が原因だったんですか?」
「・・・・・・」
「あぁ、もしかしてアラシヤマ君が、シンタロー様にキスをして押し倒そうとしたとか?」
一瞬、何か言おうとして言葉に詰り、一気にシンタローの顔は赤くなり、その後青くなった。
「ば、バッカ、んなわけねぇだロ!!」
「おや、違いましたか」
高松が、空っとぼけると、
「まったくよぉ、どっからそんな考えが浮かんで来るんだか・・・。今回は、でっかいハート型のペンダントを押し付けられただけだ!ホラ、2つに割れてて、それぞれにお互いの名前が入ってるやつ。2つを合わせると、1つのハートができるアレ。もちろん受け取らなかったけどヨ」
それを聞いた高松は、(自分のことは棚に上げ)少々アラシヤマのセンスを疑った。
「・・・・・。(アラシヤマ君、それって通販で買ったんですかねぇ…)」

しばし、2人の間に沈黙が続いた。
「・・・あいつ、いつも友情、友情、って言葉にこだわるけどよ、わかんねぇのかな。言葉にしなくても普通、なんとなく分かるもんだろ?俺はあの島で、あいつ等と一緒に闘った時、少なくともあいつ等のこと仲間だって思ったのに」
「うーん、難しい問題ですねぇ。ところで、ガンマ団って、女性と接する機会がほぼ皆無ですしねぇ。彼、仕官学校時代はともかく、最近は、薄々自覚しちゃったんじゃないでしょうか」
「ハァ!?何言ってんだよ?」
「どうも、新総帥が考えていらっしゃる友情とは違う感情でしょうね。私がこれ以上言うと、彼にとって不本意かもしれませんが。まぁ、その感情が何であれ、あなたと一緒に居たいのではないでしょうか」
「ふーん・・・」
なんとなく釈然としないような顔をしながらも、シンタローはそれ以上何も言わなかった。
「まっ、新総帥も色々と気をつけてくださいね。(子どもの頃からマジック様の過剰な愛情表現に慣れていらっしゃるシンタロー様にとって、マジック様と愛情表現が似ているアラシヤマ君の行動は、そう的外れなアプローチではないと思いますし。それに、マーカーに育てられたアラシヤマ君は、いくらつれなくされても多少のことではあきらめないでしょうからね)」
「何に気をつけろってんだヨ」と、シンタローは高松を睨むと、
「ドクター、邪魔したな」
そう言って、新総帥は、バンッと音を立てて研究室のドアを閉め、部屋から出て行った。

「あぁ…、研究室のドアを閉めるときは静かに閉めてもらいたいものですねぇ。バイオフラワーに悪影響が出ちゃうじゃないですか」
高松は、溜め息をつき、自分もコーヒーメーカーからコーヒーをカップに入れると、煮詰まったコーヒーを不味そうに飲んだ。
「出来れば、不毛な多角関係の、愛憎渦巻く修羅場はあまり見たいものではないですが・・・」

ふと、新総帥のために入れたコーヒーを見ると、一口も飲まれてはいなかった。



6
 シンタローが用意した食事を目の前にしながら、キンタローは全然違うことに気を取られていた。
 食事を運んできたシンタローは、それをキンタローに渡すと近くにある椅子にでも座るかと思われた。
 だが、実際はまたベッドの端に座ってキンタローの傍にいる。食べるのに邪魔にならないようにと考えたのか、肩と肩が微かにぶつかるか否かの適度な距離を保っているのだが、それでもはっきり言って近い。普段は、お互いが歩み寄ってこの距離になるのだが、キンタローが動けない今は、シンタローがキンタローの分も近づいて傍にいるのだ。
『これでは現金なヤツと言われても仕方がないな…』
 その距離が嬉しくて、シンタローにばかり気を取られているキンタローである。
「食わねーの?」
 シンタローにそう言われるまで、半身のことを気にしていたのであった。
 出されたものは先程の病人食と変わらずお粥である。キンタローは、取り分けられた器から少しすくって大人しく口に運んだ。見た目はただのお粥なのだが、口にすると微かに梅の風味が香る。それに一瞬目を瞠ると、シンタローが横で微笑した。
 他には消化が良いものといって、煮魚などを出された。シンタローの「ゆっくり食えよ」という言葉に頷いて、キンタローはゆっくり箸をすすめていった。
 大人しく食事をするキンタローを上々と思いながら見ていたシンタローだが、少し多めに作ったものをキンタローが全部平らげてしまうと、流石に驚く。
「お前、食欲ねぇとか言ってなかったっけ?」
 シンタローの台詞にキンタローは首を傾げると、
「どうやらお腹が空いていたようだ」
と一言呟いた。その台詞にシンタローは苦笑する。
「自分の腹具合くらいちゃんと判れヨ」
「……確かにそうだな」
 それ以上は咎めず、シンタローは空になった器を早々に片付けると、再びキンタローの元へ戻ってきた。シンタローが再びベッドに腰を掛けるのを待って、話しかけるよりも先にキンタローの手が伸びる。
 体勢からして抱き締めにくいだろうに、キンタローはシンタローを緩い力で拘束した。
「何だよ、どうした?」
「…補給だ」
「何の?」
「体の分は今やった。これは心の分だ」
 真面目な口調でそう言ってくるキンタローがおかしくて、シンタローは思わず笑ってしまう。
 普段なら、最終的には許してくれるものの、照れ隠しに結構文句を言ってきたりするシンタローなのだ。しかしこの時は大人しくされるがままになっていた。
「そりゃ大切だな。しっかり補給しとけヨ」
 そう言って、回された手にそっと自分の手を重ねてくる。
『ダメだ…可愛い』
 この物騒なガンマ団新総帥を捕まえて、可愛いと思ってしまう補佐官はかなりの強者であろう。
 筋骨逞しいこの総帥は、どんなに贔屓目に見ても簡単に腕に収まる程小さな体はしていない。それでも抱き締めると、シンタローが持ち得る暖かな空気に触れられてキンタローは心が穏やかになるのだ。
 シンタローはお互いがもう少し居心地が良いように体勢を変えると、甘い空気が漂うの中、おもむろに一枚のディスクをキンタローに渡した。
「悪ィ、すっかり渡しそびれてた」
「何だ?コレは」
 ディスクを受け取ったキンタローは、それが何なのか見当が付かない。
「ジョニーがアーサーからって。何かのリストとか言ってたけど…」
 シンタローの台詞に、キンタローは思い出したかのように頷いた。情報屋からそれを渡されるとは思っていなかったのだろう。シンタローは何のリストか気にならなかったわけではないが、キンタローのことだから必要があれば話してくるだろうと思い、特に聞いたりはしなかった。
 そのディスクは頭から外して口を開いた。
「昨日さ、部屋に戻ってからウィンディアの街警トップから昼間の事件で連絡があったんだけどさ…」
「…大人しく休んだんじゃなかったのか?」
「まず食らいつくところはそこなのかよ。ちゃんと休んだって」
 真っ先に少しずれた突っ込みを入れてきたキンタローにシンタローは呆れた顔をした。自分のことは完全に後回しなのだが、シンタローのことになるとそうではないようである。
「…ならいい。それで、何か判ったのか?」
 キンタローが顔を近づけて問いかけると、吐息がくすぐったかったのかシンタローは軽く目を瞑った。
「お前、近いって。で、えーっとな。やっぱ、単に偶然発生した強盗事件って訳じゃなかったみたいだ」
「強盗事件………そうだ、シンタロー。お前は昨日ウィンディアにはジョニーに会いに行ったはずだ。何をやってそんな事件に巻き込まれたんだ?」
「あれ?話してなかったっけ?」
 マジックとキンタローのど派手な登場で、シンタローはガンマ団本部へ戻る途中は一言も口をきかなかったし、戻ってからは一方的な説教を食らわせた。その後皆で揃ってとった夕食は、グンマも交えて一瞬昼間の事件の話題が出たものの、直ぐにあちこち話が転じて全然関係のないものになってしまった。今日は一日一人で寝ていたキンタローは、事の成り行きをきちんと聞いていないのだ。
 知らなかったのかと思ったシンタローは昨日起こった一連の流れを説明した。はじめは大人しく話を聞いていたキンタローであったが、話の最後には深い溜息をついていた。
「…シンタロー、お前はどうしてそういう無茶ばかりをするんだ…」
「無茶なんかしてねぇって」
「銃で武装した集団に素手で立ち向かうことは無茶以外の何でもない」
「民間人の安全を守ることの方が大切だろ?もしあの場からコソコソ逃げて、万が一俺があそこに居たなんてばれちまったら、それこそいい笑い者じゃねぇか。ガンマ団の新しい総帥は弱虫だって」
 尤もらしい台詞を並べたシンタローだが、抱き締めてくるキンタローの表情は嶮しい。納得いっていないのは明かであった。この台詞で納得しろという方が無理である。シンタローも他に言いようがないので、強引に話を進めた。
「で、話を戻すぞ。誰が何のために仕組んだのかは判んねぇけど、一種のテロなのかもしれねぇって」
「テロ?」
「あぁ、その線が一番強いって話だ」
 ウィンディアのみたいに本部からさほど離れていない街で不穏な動きがあれば、シンタローやキンタローが知らないはずはない。だが、そんな報告は一切受けていないのが現実だ。キンタローはその話を聞いて首を傾げる。
「何が目的だ?」
「それも判んねぇって」
「なら一概にテロとは言い切れないな」
「まぁ、その線が一番強いだろうってだけで、はっきり断言はしてなかったけどな」
 結局の所、テロかもしれないと言ってはみたものの、詳細は何も判っていないということなのだ。不審な点ばかりの事件であったが、どうやら昨日今日で解明できるほど簡単なものではないようだ。この分では近々、どこからか正式に『依頼』がくるかもしれない。
 昨日の事件について話をしていた二人だが、ふと沈黙が出来た。会話が途切れると、二人を包む甘い空気が一層際立つ。そもそも会話の内容がこんな甘い空気を纏いながらするような内容ではないのだから際立つなんてものではない。
 これではシンタローが気恥ずかしがって、キンタローの腕からそそくさと逃げ出してしまう。
 そう思ったキンタローだったが、シンタローはじっと大人しく抱かれたままでいた。キンタローはそれに嬉しくなって、そっと添える程度に重ねられていたシンタローの手を取って指を絡めた。その際に、腕にある傷が目に付いた。昨日の事件で弾を掠めた際に出来た傷だ。
「シンタロー…傷はもう大丈夫なのか?」
 キンタローに指摘されて、シンタローは腕を見た。昨日の内に血は止まったというのに、新しい傷痕は妙に赤い。これではキンタローのみならず、他人の目を引くであろう。
「あぁ、別に問題ねーよ」
 大した傷だとは微塵も思っていないシンタローは軽い返事をする。
 だが、キンタローは自分でしっかりと確かめないと気が済まなかったようで、おもむろに腕を掴んで引っ張ると傷口を凝視する。しかし抱き締めている体勢では見辛かったようで、拘束していた体をあっさり離した。もう一度しっかり見せろと態度で示してくる。突然強気になったキンタローに、シンタローは苦笑しながら腕を差し出した。
 シンタローにとって大した傷ではないことを知っていても、やはり傷痕を見ると痛々しく思う。
 暫くその傷を見ていたキンタローは、腕に顔を近づけると、唇で傷に触れた。微かに走った痛みよりも、キンタローの行動に驚いたシンタローの体がビクリと動く。腕を戻し損ねたシンタローは、そのままキンタローに傷口を舐められた。状況がいまいち飲み込めないまま固まったままでいると、行動がどんどんエスカレートしていき、キンタローが腕を甘噛みしたところで、我に返って頭を叩いた。
「やっぱり俺が昨日言ったとおり、お前は興奮してんじゃねーか!!」
「…………?」
「疑問符浮かべんなッ」
 シンタローに叩かれた頭をさすりながら、キンタローの青い双眸が無邪気な光を放っている。
『最悪…コイツ本当に自覚ねぇのかよ…』
 舐められた腕をさすりながらキンタローを睨んだシンタローだが、やはり迫力に欠ける。そんなシンタローをジッと見つめていたキンタローは己の行動を頭の中で反芻させた。
「興奮……そうか、そうだな。俺はお前の腕の傷に興奮したのか」
『肯定するコイツも最悪ッ!!』
 真面目な顔して言う肯定の台詞が嫌だと思いながら、シンタローは俯くと、変態、と一言呟いた。
 それでもこの半身は怒ってこの部屋から出ていくようなことはせずじっとしている。光り輝くように美しいがあらゆる意味で危険極まりない猛獣の傍にいるのだ。そんなシンタローにどことなく違和感を感じていたキンタローだったが次の瞬間その行動の意味を理解する。
 意味が分かった途端に、抑えきれない感情が溢れ出した。
 キンタローはもう一度半身を抱き締めようと手を伸ばした。腕を掴んで引き寄せたが、驚いたシンタローの体はキンタローの胸に納まる前に体勢を崩して足の上に転がった。キンタローの行動に振り回されてベッドの上にほとんど乗り上がってしまったシンタローは、寝転がったまま上目遣いにキンタローを睨む。
「イキナリ何すんだよ?」
「お前がそこまで心配していてくれたとは…全く気付かなかった」
 キンタローの台詞がシンタローの質問と噛み合っていない。一瞬疑問の表情を浮かべたシンタローだったが、だんだんその顔が赤くなっていく。キンタローの台詞が指し示すことに気付いたのだ。
 この部屋に来たときから、シンタローはずっとキンタローの手が届く範囲内にいた。手を伸ばしても逃げようとはしないで大人しくそこに収まった。それは倒れた半身を心から心配して、とにかく傍にいたかったからなのだ。
 真っ赤になった顔はこの場から今すぐにでも逃げ出したいというシンタローの気持ちをそのままストレートに表していた。更に、キンタローの台詞を肯定している。
 羞恥のあまり目の前の布団に顔を突っ伏してしまったシンタローを見て、キンタローの顔に微かな笑みが浮かんだ。
「シンタロー、俺は嬉しい」
 キンタローの素直な感想に、シンタローは顔を少し上げた。暫く羞恥に埋もれていたシンタローだが、微笑を浮かべる半身の顔は、ただの嬉しいではないのが明かである。『非常に』とか『凄く』と言った形容詞が確実についている。
 あまり表情を顕わにしないキンタローの嬉しそうな表情を目にして、シンタローは意を決して起き上がった。
 だが「あー」とか「うー」など唸り声を上げている。
 そんなシンタローを見つめながら、キンタローは『心が満たされる』というのを感じた。簡単には味わうことが出来ない感覚なのかもしれない。だが、シンタローの気遣いがしっかりとキンタローの心に響いた。
 ここでようやく、感覚が現実に戻ったような気がした。今更ながら疲労感に身を包まれ、ゆっくりだが確実に睡魔が襲ってきている。ここにきてやっと安心して気が抜けてきたのだ。
 キンタローはまだ唸り声を上げているシンタローの名前を呼んだ。
「シンタロー」
 半身の呼びかけに、シンタローは唸るのを止めて顔を向ける。
「疲れた」
 そう言ってじっと見つめてくるキンタローに、シンタローは一瞬驚いた顔をした後、微笑を洩らす。ベッドから一旦降りると最初部屋に来たときと同じ定位置に腰を掛けた。
「寝るまで傍に居てやるヨ」
 その台詞に、キンタローはしっかり寝床に戻り、シンタローに向かって手を伸ばす。リクエストに応えてシンタローはその手を握った。
『目が覚めたら、きっと俺は大丈夫だ…』
 シンタローが起きているのに、キンタローは自分が心地よい眠りにつくことが出来るとは思わなかった。今までは言えなかった「疲れた」と言う一言ことが、こんなに簡単に言えるとも思わなかった。
「もっと言えよ、そういうことは」
 意識が途切れる前に優しく響く声が聞こえる。
「お前もな…シンタロー…」
 夢現の状態でそう答えると、キンタローは心地よい眠りに身を任せ、意識を手放した。
 シンタローは、眠りに落ちたキンタローの目蓋に口付けを一つ落とすと、そっと部屋から出ていったのであった。

BACK NEXT
カレンダー
05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved