なんとか無事ホテルに到着した2人は車を駐車場に停め、会場となっているホテルの入り口へと向かった。
このホテルは、この国では最も歴史と伝統があるホテルであり、ホテル側は「最新設備を備えつつも洗練された豪華な部屋&世界に誇るサービス」をモットーにしており、 「最もロマンチックなホテル第1位」・「通が選んだ『リゾーツ&グレートホテル』第3位」等々、様々な賞を受賞しているので利用客の評価も上々であると言える。
2人はフロントであらかじめ予約しておいた部屋の鍵を受け取り、荷物を置くためと作戦の手順の最終確認を行うために部屋へと向かった。
パーティーの開始時間にはまだ早いので、パーティーに招待されたと思われる客は、ホテル内では見かけられなかった。
部屋の入り口を入ってすぐ、ドレッシングエリアとベッドルームが見えていた。
2人はベッドに腰掛け、作戦の最終チェックを行った。
アラシヤマは、未だに作戦内容についてブツブツ言っていた。
「シンタローはーん・・・。やっぱり、あんさんがわて以外に可愛いらしゅうするのは嫌どす・・・。そないな光景見たくありまへん」
それに対しシンタローは、
「大丈夫。俺がお前に愛想良くすることなんてぜってー、ありえねェから。それに、そもそも作戦からいうとお前は途中で退場する予定だし、俺が何をしようと結局見れねぇだろーが?」
と、もっともな事をいったが、アラシヤマはどうにも納得がいかない様子である。
「そうなんどすけど、やっぱり嫌なものは嫌どすえ~!!」
そんなアラシヤマを無視し、シンタローは最終チェックを終えようとしていた。
「うるせェな。とにかく!!途中の合流はこの部屋で。ノックは1回だからちゃんと開けろヨ」
「へぇ。了解どす」
28階のパーティー会場には、そろそろほぼ招待客が集まりかけていた。
シンタローは、アラシヤマにエスコートされ、(嫌々であったが)腕を組んで会場内に足を踏み入れたのだが、
――――その瞬間。
「Asian Beauty・・・!!」
シンタローを見た会場内の人々から、どよめきの声が上がった。
老若男女関係なく大勢の人々がシンタローに注目する中、堂々とした態度を崩さない シンタローは、人々の目には非常に気高く神秘的に写ったようである。
しばらく2人は周囲の人達と話をしていた(というか、質問攻めにあっていた)が、折を見てアラシヤマはシンタローを伴い、組織のボスの所まで挨拶に行った。
一通りの儀礼的な挨拶が終わり、アラシヤマはシンタローを婚約者としてボスに紹介した。
「なんて美しいお嬢さんなんだ・・・。私は今まであなたのような人は見たことが無い」
そう言うとボスは手袋を嵌めたシンタローの手を取り口づけようとした。
が、それを見ていたアラシヤマは(わ、わてのシンタローはんに何しますのん・・・!!)と、すっかり任務だということを忘れて頭に血が上った様子であり、
「平等院鳳凰堂極ら・・・」
と、大技を繰り出しそうになっていると、シンタローが小声で
(何必殺技を出そうとしてんだヨ!作戦を台無しにする気か!?)
と囁き、ボスに分からないようにアラシヤマの足をハイヒールで思いっきり踏みつけた挙句、余程の武術の達人で無ければ目に見えないぐらいのスピードでアラシヤマの脇腹に強烈なエルボーをくらわした。
あまりの痛みにアラシヤマは「うっ・・・」と呻いて脂汗を掻きながらうずくまった。
「お客様、いかがなされました?大丈夫ですか」
と、ホテル側が「世界に誇るサービス」と自負しているだけはある対応の速さで、ボーイが大急ぎで駆け寄り、アラシヤマをホテル内の病院へ案内しようとした。
本来の作戦内容とは少々展開が違ったが、概ね流れは逸れていなかったので、アラシヤマとシンタローはそのまま作戦を決行することにした。
ボスは何が起こったかよくわからない様子でポカンとその場の状況を見ていたが、どうにか調子を取り戻し、シンタローに話しかけた。
「お嬢さん、アラシヤマ君は急に具合が悪くなったようでしたが、貴女は付き添わなくてもよろしいのですか?ご心配でしょう」
シンタローは(目に見えない猫を100匹ぐらいかぶり)、そっと目を伏せこう言った。
「いえ、いいんです。所詮、私達は親同士が勝手に決めた婚約者ですし。私達の間には愛情なんてありませんもの・・・(ケッ。我ながら気味悪ィぜ。あのババァ、男を誘惑する方法なんて気持ち悪ィもん覚えさせやがって。しかも、中々できねぇから散々扱かれたし。本当にこんなんで、効くのかよ??)」
――――どうやら、ボスには確りと効いていたようである。
「おやおや。彼と貴女は、美男美女でお似合いのように見えるのですが、一体何処がご不満なのですか?女性というものは、大抵美男子がお好きなものでしょう?」
「(ってゆーか、俺、元々男だし。あっ、美貌の叔父様のことはもちろん尊敬してますケド!)私、実は年上の男性が好きなんです。お父さんみたいで何処か安心するし・・・(ありえねェ!!)。顔の美醜なんかより、落ち着きがあって優しい人が好きカナ。それに彼、貧乏ですし、私はお金のある男性の方が好きなんです。あっ、すみません。初対面の方にこんなことまでお聞かせしてしまって・・・」
恥らうような様子で頬を染め(←もちろん演技である)、少し俯いたシンタローの様子を見たボスは、「この女は落とせそうだ・・・!!」と直感したらしく、口説きにかかった。
「ハハ。正直な方ですな。最初から貴女とは初対面という気は全くしませんでしたからお気になさらないで下さい。いや、むしろ今日貴女と出会うことは運命であったのではないでしょうか。2人の出会いに乾杯!」
そう言って、悦に入った笑顔のボスとは対照的に、シンタローは内心かなり引きつっており、腕には鳥肌が立っていて思わず「眼魔砲!!」と叫びそうになったが、厳しい特訓を思い出してそこをグッと堪え、潤んだ目でじっとボスを見つめた(これも、マジックが探してきたエキスパートの特訓内容の内に入っていた)。
それを見たボスは、それはもう心臓に衝撃を受けたようで、色々考えていた口説きの文句を全部すっ飛ばし、
「パーティーが終わってから、私の部屋でお会いできませんか?もしよろしければ、今から部屋のキーをお渡ししますので、心が決まれば部屋の中で待っていて下さい。」
そう言って、部屋のキーをシンタローに渡した。
シンタローは、恥ずかしげ(くどいようだが、もちろん演技である)に「ハイ・・・」とキーを受け取った。
パーティー会場を後にしたシンタローは、「気っ色悪かったゼ・・・」と非常にムカつきながら、アラシヤマが待つ部屋へと向かった。
コン、と一回、シンタローが部屋の扉をノックすると、ものすごい勢いで扉が開き、アラシヤマが出てきた。
「シ、シン」
シンタローは、大声を上げそうなアラシヤマの口を片手で塞ぎ、とりあえず部屋の中に入って扉を閉めた。
手を離してもらい、口が自由になったアラシヤマは、ガバッとシンタローの両肩を掴み、
「シンタローは~~~ん!!無事どした!?あの変態親父に何もされへんかったやろか??わてがボディーチェックを―――!!」
と、錯乱状態であったが、シンタローはアラシヤマの手を振り払い、
「この俺様が、何かされてたまるかヨ!!」
と、アラシヤマに蹴りを入れた。
アラシヤマに八つ当たりをしたシンタローは、少しだけ気分が浮上した。
蹴りを入れられて、なんとか落ち着いたらしいアラシヤマとシンタローはベッドの縁に腰掛け、作戦の最終確認を行った。
「部屋の前にSPは何人いた?」
「へぇ、2人でしたわ。ボスがあと2人連れてますから合計4人どすな」
「いいか、カウントは5秒だからナ。5秒でケリつけろヨ」
「4秒で十分どす」
「火は使うなよナ。ホテル内の物が焼けたら弁償するのはガンマ団だし」
「シンタローはん、わてを何やと思ってますのん?ガンマ団ナンバー2どすえ?何処かの誰かさん達と違って、特殊能力に頼らんでも大丈夫どす。任せておくんなはれ」
「よし。じゃあ行くぜ」
そう言って2人は部屋を出た。
シンタローとアラシヤマは、27階のボスの部屋が見える廊下の曲がり角まで来ると、お互い無言で頷き、シンタローは影から一歩を踏み出し部屋に向かって歩き始めた。
SP達には連絡が既になされていたようで、彼らは無言でシンタローが部屋の扉を開けるのを見ていた。
シンタローは、入り口を入って左側の扉を開け、ベッドルームに入り、窓から夜景を眺めた。
(おおっ、やっぱここの夜景はスゲーな。それにしても、任務がこんなに精神的に疲れるとは思わなかったぜ・・・)
色々と思いながら外の風景を眺めていると、不意に入り口の方でドアを開ける音が聞こえ、どうやらボスが帰ってきたらしかった。
そして、すぐに部屋のドアが開き、ボスが入ってきた。
(よし、今から4秒だな。いーち、にーい、さーん、よん、っと。アイツ、うまく潜入できたかな?)
「・・・やっぱり、来て下さったのですね。この部屋にいるということは貴女も中々大胆だ。貴女が背にしている夜景よりも、貴女の方が100万倍美しい・・・」
ボスの恥ずかしい台詞を鳥肌を立てて聞きながら、シンタローは気色悪さよりも、どこかで聞いているはずのアラシヤマがタイミングを無視しないかどうかという事の方が気になっていた。
シンタローはまたもや100匹ぐらい目に見えない猫を被り、儚げに俯いた。
そして、
「まだ、少し迷いがありますので、先にシャワーをお浴びになって下さいませんか?その間に心の準備をしておきますので・・・」
ボスは、「今更逃げられるわけが無い」と高をくくったようで、余裕をもって鷹揚に頷いた。
「いいでしょう。それでは、お先に」
そう言ってドレッシングルーム(その奥に浴室がある)の方に消えていくボスを見ながら、シンタローは(アラシヤマだったら、絶対一緒に入るって言い張りそうだな・・・。そんな状況ありえねェけど)と思っていた。
程なくし、ベッドルームの扉が開き、アラシヤマが部屋に入ってきた。
シンタローは少し、ホッとした。
「シンタローはーん!わてにもあんな台詞言ってほしゅうおます~!!わてなら、むしろ、あんさんにシャワーなんて使わせまへんけど。その方がシンタローはんの匂いが堪能できますしvv」
小声でそう言うアラシヤマの台詞を聞き、シンタローはさっきアラシヤマを見てちょっと安心した自分を全否定したい気分になった。
「・・・(あぁ、今、眼魔砲が撃てたらナァ)。ホラ、早く準備しろヨ!」
そうシンタローに言われ、アラシヤマはドレッシングルームとベッドルームを仕切る扉の横の壁に背中を預け、張り付いた。
シンタローはベッドの縁に腰掛け、2人はボスが出てくるのを待った。
数分経つとシャワーの音が止み、ドレッシングルームからバスローブを着たボスが出てきた。
ボスはというと、シャワーを浴び体の神経がリラックスしており、扉からベッドに腰掛けたシンタローの姿が見えたのですっかり油断していたらしい。
アラシヤマがボスの後ろから首筋に手刀を叩き込むと、あっけなくその場に倒れ気絶した。
アラシヤマは、その場に屈みこみ、ボスの手から小指に嵌められていた蛇の形の指輪を抜き取った。
念のため、アラシヤマが指輪の仕掛けを開け、中を確認するとマイクロチップが入っていた。
「ええっと、これでよかったんどすな。これで任務完了ですわ。ほな、退却しまひょか。あ、そうそうその前に・・・」
アラシヤマはシンタローの前に立ち、
「シンタローはん。わて、思ったんどすけど。この変態親父、ここの窓から放り出しまへんか?」
と、真顔でそう言った。
・・・ちなみに、この部屋は27階なので、窓から放り出されると間違いなく天国または地獄行きである。
「・・・何でだよ?そこまでする必要はねぇダロ?任務も終わった事だし、さっさと帰ろうゼ」
そうシンタローは言ったが、アラシヤマはどうも不満気である。
「だって!わてのシンタローはんの手を握ってキスしようとしたんどすえ!?万死に値しますやろ!!」
「俺は、お前のもんじゃねぇよ!!勝手に所有格つけんなヨ!それに、『手を握った』つっても手袋の上からだし、キスされてねぇから別にいいじゃねぇか」
「でっ、でも、わては見てないのに可愛ええシンタローはんの姿も見てますし、やっぱり納得いきまへんえ~!!」
未だにブツブツ言うアラシヤマに、シンタローは非常に面倒くさくなった。
「ホラ、手ぐらい握りたきゃ握ればいいダロ?ったく、面倒くせぇ」
と、シンタローがアラシヤマの方に投げ遣りに腕を差し出すと、しばし、無言でそれを見ていたアラシヤマは、急にシンタローの腕を掴むとシンタローをグイッと自分の方に引き寄せ、いきなりシンタローを抱き上げた。
「オイ、コラ!あにすんだヨ!?降ろせ――――!!!」
所謂、お姫様抱っこされた状態のシンタローはジタバタと暴れたが、
「嫌どす~♪ほな、部屋にもどりまひょか。あまり暴れはりますと、不審に思われますえ?」
もっともなことを言うアラシヤマに非常にムカつきながら、シンタローは結局アラシヤマに抱えられたまま部屋に戻った。
部屋に戻った2人であるが、シンタローはドレスのままでは目立つし動きにくいので着替えることにした。
用意してあったバッグを開け、着替えを取り出した途端、シンタローは着替えを床に投げつけた。
「シンタローはん?ど、どないしはりましたん??」
「なんで、またスカートなんだヨ!?任務じゃねぇ時にスカートなんか着れっかよ。俺は男だ~~!!」
「(元総帥の趣味なんやろか・・・)シ、シンタローはん?ここのホテルはカジュアル禁止ということで、女性は何故かスカートを履かなあきませんらしいどすえ?だから、スカートでむしろよかったんどす」
そう言ってアラシヤマはシンタローをなだめようとしたが、かえって逆効果のようである。
「お前はズボンだしいいよナ!もしお前が急に女になったら、スカートなんか履けんのかよ!?」
シンタローはアラシヤマに語気荒く詰め寄ったが、
「シンタローはんのためやったら、わてはスカートなんか全然へいきどす~vvv」
アラシヤマは、全く躊躇せずにそう答えた。
(コイツに聞いたのが間違いだったゼ・・・)
シンタローは、もう何も言う気力が起こらず、ドレッシングエリアに行き黙々と着替えた。
着替えた2人は、ホテルをチェックアウトし、駐車場に向かった。
「シンタローはん、わてが運転しましょか?スカートやったら運転しにくいでっしゃろ?」
「イヤ、いい。もう、金輪際お前の運転する車には乗らねェ・・・」
来るとき、何があったのかは不明であるが、とにかくアラシヤマの運転はシンタローにとってはかなり怖かったようである。
シンタローが車を運転し、2人はガンマ団内に戻った。
駐車場に車を停め、2人は本部の方に歩いていった。
「シンタローはん、このあとお茶でも・・・vvv」
「お前は、報告書かかなくちゃなんねェだろーが。報告書は明日提出だぜ?そんな暇ねぇダロ」
「はうっ!そうどした・・・。あっ!シンタローはんも一緒の任務やったんやさかいに、別に報告書は書かんでもええんとちゃいます?」
「・・・報告書を書かないと、お前、今回の報酬は無しだゼ?給料払うのに形式的な記録が残っていないと爺さん連中がうるせぇんだよ。じゃっ、また明日ナ」
そう言って、アッサリと去っていくシンタローの背を見つめ、
「シンタローはーん・・・」
と、涙を流すアラシヤマであったが、とりあえず部屋に戻り、徹夜で報告書を書き上げた。
翌日、報告書提出のため総帥室を訪れたアラシヤマは、男に戻ったシンタローと対面した。
「シンタローはーん!!アレっ?元に戻りはったんどすか??女のあんさんもそれはもうメチャクチャ可愛ゆうおましたけど、やっぱり、男のシンタローはんが一番どすな。わて、できれば女性と組む任務はもう2度としとうおまへん・・・。心臓に悪いどす。あっ、シンタローはんがまた女性になりはったら話は別どすが」
それを聞いたシンタローは、苦笑いし、
「俺も、もう2度とあんな任務はしたくねェヨ」と言った。
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「シ、シンタローはーん!これ、どないなことでっか!?」
管理人に手伝ってもらって大荷物を抱え、部屋に戻った後アラシヤマがシンタローに詰め寄ると、シンタローはアッサリと言った。
「あ?俺、馬鹿な漫画オタク共のせいで今だけ女になってるんだわ。お前、この前ガンマ団に『女性パートナー急募』って申請出したダロ?普通ならたぶん却下なんだけど、ちょうどよかったから俺が来たわけ。久々に少人数の任務にも出たかったしナ」
「・・・そうなんどすか。まぁ、何にしろ、シンタローはんと任務ができるのは嬉しおす」
アラシヤマは、色々と疑問があったが、今日一日あったことで頭が許容量オーバーになっていたようでそれ以上深く考えることを放棄した。
「ところで、お前よォ、さっきみたいに初対面の女にいつも抱きついたりしてるのか?」
シンタローは、どことなく不機嫌そうにそう聞いた。
「誤解どすえ~!!そんなわけあらしまへんやろ!!あれは、シンタローはんやからそうしたんどす。だいたい、わては最初、あんさんが女になってはるやなんて全然気づきまへんでしたし」
それを聞いたシンタローは、(本人は否定するであろうが)少し機嫌が直ったようであった。
「それにしても、なんで気づかねんだよ。普通分かるもんだろ?」
「だ、だって、遠くからどしたし、あんさんが休日の時着てはる服と同じの着とりましたし・・・」
「まァ、いいか。それにしても茶ぐらい出せよナ。何かねぇのかヨ」
シンタローは、立ち上がると物珍しげにキョロキョロと辺りを見回し、勝手に冷蔵庫の扉を開けた。
「何で、何も入ってねェんだよ!!」
「男の1人暮らしなんてこんなもんでっしゃろ。作るの面倒ですし」
「・・・今から買い物に行くゾ!!」
「へぇ。(あぁー。わてら新婚さんみたいどす~♪)」
2人は買い物に出かけた。
夕方、(いろいろとあった)買い物から帰ってきた2人であるが、シンタローが晩ご飯を作っていた。
アラシヤマは手伝おうとしたのだが断られ、結局座って、テキパキと働くシンタローの後ろ姿をボーっと見ながら幸福に浸っていた。
(シンタローはん、可愛いおすなぁ。男でも女でも、あんなに可愛ええ人はおりまへんやろ。今回、この任務を引き受けてよかったどす!!作戦②も一応出しといてほんまに良かったどすなぁ。ん?ちょっと待っておくんなはれ。・・・確かわてが立てた作戦②の内容は「色仕掛け」どしたな。となると、シンタローはんが色仕掛け?それはあきまへんやろ!!任務成功率は高そうどすが、わてが許せまへん!)
アラシヤマは急に立ち上がり、シンタローの背後に立った。
「シンタローはん」
「あァ?何だよ」
料理に夢中のシンタローは振り返りもせず返事をした。
「今回の任務、やっぱり止めてくれまへんやろか。わて、例え“フリ”でも、あんさんが他人に色仕掛けしはるのを見るのは嫌なんどす」
「あに言ってんだ?そもそも、お前が立てた作戦だろーが。それを評価したから俺が来たんだぜ?俺も嫌だけど、親父が連れてきた嫌味なババァに1日中マナーとか散々しごかれたんだ。今更計画の変更は認められねぇナ。それに、色仕掛けって言っても、とりあえずボスの部屋まで行くだけだから、その後はなんとでもなるだろ」
「・・・シンタローはんは、全然分かっておまへんなぁ」
そう低く呟くと、アラシヤマは背を向けていたシンタローの体を捕らえて前を向かせ、顎を掴んで無理やり顔を上げさせた。
「・・・離せよ」
シンタローはギッとアラシヤマを睨みつけている。
「あんさん、今は女なんでっせ?ホラ、わてのこと振りほどけまへんでっしゃろ。あんさんがいくら強いいうても女の身では限界があります。万が一押さえ込まれでもしたら眼魔砲も撃てまへんしな。あんさんの認識は甘いんとちがいますか?」
「何でお前にそんなこと言われなくちゃなんねェんだよ。離せよ、変態」
そう言って、シンタローはますます強くアラシヤマを睨んだ。
「・・・そんなに睨みはっても、可愛ええだけで全然怖うおまへんえ?それとも、わてのこと挑発しはってますの?」
「んなわけねェだろ!この勘違い野郎!!3秒以内に離さねぇと、給料無しにすっからな!」
シンタローが、そう怒鳴ってもアラシヤマには全然堪えた様子はない。
「あぁ、ほんまにシンタローはんは可愛いおすなぁ・・・。キスしてもええどすか?」
「オイ、コラ、テメェ人の話聞いてんのかよ!?あっ、何、やめ・・・」
アラシヤマは、片手をシンタローの後頭部に回すと、シンタローの顔を引き寄せ口付けた。
しばらく影は1つに重なりあっていたが、不意にアラシヤマがシンタローから離れ、口元を拭った。
手には赤い血が付いている。
シンタローは無言でアラシヤマを睨んでいた。
血を見たアラシヤマは、少し笑うと、
「あんさんは、男でも女でもほんまにはねっかえりどすなぁ。まぁ、そういうとこが可愛いおすけど。その方が調教のし甲斐もありますしな」
そう言ってアラシヤマは、再びシンタローの顎を強く掴み、深く口付けた。
目を閉じたシンタローは、しばらくアラシヤマにされるがままになっていたが、不意にシンタローの目じりに涙が浮かんだ。
それを見たアラシヤマは、我に返った。
「シ、シンタローはん?何泣いてますの??泣かんといて。わて、あんさんに泣かれるとどないしてええかわかりまへんえ?」
アラシヤマはオロオロし、シンタローの涙を指で拭った。
鍋が吹き零れる音がし、そのこともまた2人を日常の空間に戻した。
アラシヤマは、慌ててシンタローから離れ、
「シ、シンタローはん、えらいすんまへん!!わて、つい、我慢ができへんようになってしまいましたわ。もう2度としませんさかい、許してくれまへんか?」
そう言って謝った。
シンタローはまだ少し呆然としていたようであったが、
「勝手にキスしといて今更謝んじゃねぇよ・・・」
と、小さい声で呟いた。
てっきり、眼魔砲を撃たれるか、殴られるかと思っていたアラシヤマは、吃驚し、
「えっ?もしかして、シンタローはん、それって、これからもキスしてもOKってことなんどすか??」
と、失言(・・・)してしまった。
「んなワケねェだろ!調子のんな!!あーっ!!肉ジャガが焦げちまったぜ。お前のせいだからな!責任もって全部食えヨ!!」
「へぇ。責任もって食べさせて頂きます・・・」
焦げた肉ジャガで、結局さっきの事件(?)は有耶無耶となった・・・。
――――夕食後――――
「・・・今回の作戦は何が何でも実行するから、お前、もうツベコベ言うなよナ!」
「へぇ。(やっぱり、大変心配で、本当は嫌どすが、これ以上さっきの話を蒸し返しますと色々と都合が悪いさかい)もう言いまヘん・・・」
さわやかな朝である。
目を覚ましたシンタローは、隣にいるはずのない人物がいるのに気がつき、一気に機嫌が最悪になった。
――――昨日の夜――――
「お前、俺の半径1メートル以内に近づくなよ!風呂とか着替えを覗いたら殺すぞ!!寝るときは当然あっちのソファーで寝ろ!!!」
「えぇー。そんな、殺生な!!何もしまへんから、せめて半径50センチにしておくれやす~。本来は男同士でっしゃろ、何も問題はないはずどす!!」
「・・・この野郎。お前、これっぽっちも信用がねぇんだヨ!!」
シンタローは眼魔砲を撃とうと思ったが、マンション退去時の敷金などのことを考えると眼魔砲は止め、アラシヤマに蹴りを入れるにとどめた。
「ひどうおす~!!シンタローはーん!!」
で、昨夜そんなやりとりがあったにも関わらず、何故かシンタローはアラシヤマに抱きしめられている状態で(ベッドのサイズはシングルなので狭い)、しかも、アラシヤマは暢気に寝ている。
非常にムカついたシンタローは、アラシヤマをベッドから蹴落とした。
「えっ?何が起こったんどす??地震どすか?」
「・・・何で、お前がここにいんだヨ?」
「あっ、シンタローはん。おはようさんどすvvv気がつきましたらここにおったんですわ。何故かはわてにもわかりまへん。世の中には不思議なこともあるもんどすなぁ・・・」
その返答にますますムカついたシンタローであったが、朝から口喧嘩をして気力を使い果たすのは嫌であったのでアラシヤマを一発殴るにとどめておいた。
「痛いどすえ~」
シンタローは不満気なアラシヤマを完全に無視し、朝食の準備をした。
午前中は、2人はホテルの見取り図を見ながら、これまでの経緯の説明や作戦の具体的な手順などを確認して過ごした。
「これで、お前も文句が付けられねぇダロ。あとはお前の実力にかかっているからナ」
「うーん。まぁ、そういうことどしたら、文句はいいまへん。大船に乗ったつもりで待ってておくんなはれvvv」
「泥舟じゃなかったらいいがナ」
「ひどうおす!!シンタローはんの身の安全が懸かっている時のわてにミスはありえまへんえ?」
「は~~~い、ハイハイ」
「今、本気で言ってましたのに、さらっと流さんといておくれやす~(泣)」
午後になると、2人はパーティーの支度を始めた。
「ババァによると、どうしても女の方が時間がかかるらしいから、お前の方から始めようぜ」
シンタローがアラシヤマに運んでこさせた大荷物の中にはアラシヤマの衣装も含まれていたらしい。
シンタローは、色々と衣装を取り出しながら必要なものをアラシヤマに渡した。
「正式な場では、蝶ネクタイらしいけど、今回はそんなに正式なもんでもないらしいから、ネクタイみたいだな。まァ、大学の若い講師は普通蝶ネクタイなんて持ってねェだろ」
「シンタローはーん。わて、ネクタイが結べまへん・・・」
「えッ?じゃあ、今までどうしてたんだヨ!?」
「ホラ、あの、パチッてとめるやつがありますやろ?あれ使っとりました」
「・・・しょーがねぇなぁ。ホラ、貸せよ。結んでやるから動くなヨ」
シンタローは、自分からアラシヤマに今までないくらい近づきネクタイを結び始めた。
一生懸命ネクタイを結んでいるシンタローの姿は非常にかわいく、アラシヤマの自制心の針は、すぐに振り切れた。
「シンタローはーん!!」
アラシヤマはシンタローに抱きつこうとしたが、ヒョイっと避けられ、たたらを踏んだ。
「そう何回も抱きつかれてたまるかヨ」
そう言ってイタズラが成功した子どものように笑うシンタローはとても可愛かったので、アラシヤマは「まぁ、いいか」と思った。
・・・さて、シンタローの着替えの番である。
当然、というか、もちろん、アラシヤマは部屋から追い出された。
アラシヤマはソファに座り、シンタローの着替えが終わるのをボーっと待っていた。
(シンタローはん、まだですやろか。今着替えはってるんどすなぁ・・・。そうや、シンタローはんは着替えはってるんどすえ!いつものわてやったら即、覗きに行くはずどす!!なんで気付かんかったんやろか!!!あっ、カメラ×2!)
アラシヤマは立ち上がり、シンタローが着替えている部屋の方へと急いだ。
アラシヤマがドアの前に立つと、不意にドアが開き、シンタローが顔を出した。
「・・・お前、なんで、こんなとこにいんだよ?」
そう言って、非常に疑わしそうな目でアラシヤマを見ている。
アラシヤマの背中を、冷や汗がダラダラと伝い落ちた。アラシヤマは愛想笑いをしながら、
「たっ、たまたま通りかかっただけどすえ~。あっ、ホラ!お手洗いに行こう思いまして」
と、言い訳をしたが、
「方向は逆じゃねェかヨ」
と、シンタローに一刀両断された。
「・・・まァ、今回のところは眼魔砲は無しにしといてやるよ。もう一回最初から支度しなおす時間も無いし。それよりも、お前を呼びに行こうと思ってたんだ。ほら、背中のボタン留めんの手伝え。俺じゃ、手が届かねーやつがあんだよ。ッたく、あのクソ親父、面倒くせェ服押し付けやがって・・・」
シンタローは両手で髪をまとめて前の方に持ち、後ろを向いた後しばらくブツブツ言っていたが、アラシヤマがやけに静かなのでアラシヤマの方を振り返って見上げると、アラシヤマは・・・、
―――――固まっていた。
どうやら、あまりにもありえない幸福状態に機能が停止したらしい。
シンタローは、アラシヤマの両頬を両手で掴むと、・・・思いっきり引っ張った。
「い、いひょうおみゃす!!(涙目)」
「(あッ、結構伸びるもんだナ。・・・おもしろいかも)やっと正気に戻ったか。言っておくが、変なことすっと殺すからな」
「こんな美味しい状況で、そないにいけずなこと言わはりますのん??そ、そんな殺生な・・・」
「時間がねェんだヨ。早くしろ!!」
「了解どす~」
アラシヤマがボタンを留め終わりシンタローの支度が終わると、アラシヤマはマジマジとシンタローの姿を見つめた。
「シンタローはん、綺麗どす・・・。やっぱりあんさんは男でも女でも赤が似合いますな」
あまりにもアラシヤマが真剣に言うので、シンタローは何か言おうとしたが反論する機会を失ったようで、顔を赤くしそっぽを向いた。
「シンタローは―――ん!!かわいおす~~!!!」
あまりのかわいさに、思わずアラシヤマがシンタローを抱きしめようとすると、シンタローはドレスのスリットからナイフを取り出し、アラシヤマに向かって至近距離から投げつけた。
「シ、シンタローはん??何どすかコレ?」
どうにかこうにか、ガンマ団№2の実力ギリギリで避けたアラシヤマが冷や汗を流しつつそう聞くと、
「仕込み武器。お前がツベコベ言うからワザワザ着けたんだぜ?小型の銃も付いてるけど、どっちかというとナイフのほうが使いやすいナ」
そう言って、シンタローは再びナイフを太腿に着けたベルトのケースに戻した。
「そうなんどすか・・・(色っぽうおますけど、危のうてわてが近づけませんやん!!まぁ、でも今からのことを考えるとあった方が正解どすな)」
「ホラ、車のキー。お前が運転しろヨ」
「普通車を運転するのは久しぶりどす~」
「オイオイ、大丈夫かよ・・・」
2人は駐車場へと向かった。
アラシヤマは、闇美術品売買組織に「金が必要な野心のある若手考古学者」という設定で組織への潜入に成功し、盗品や盗掘品の売買の証拠を集めていた。
組織に潜入する際、現役を引退しているがアンダーグラウンドでは顔が利く(実はガンマ団と繋がりのある)教授の紹介があったため、すぐに信用はされた。
あらかた情報は集まり、そろそろ任務も終盤に近づいてきたかに思えたが、どうやら決定的な証拠が収められたマイクロチップは組織のボスが肌身離さず持ち歩いているらしいことが分かった。しかし、ボスにはいつもたくさんのSPがついている。
アラシヤマは、ノートパソコンの前で悩んでいた。
(うーん。面倒どすな。以前のガンマ団やったらボスを暗殺しとけば話は簡単なんどすけど、今のガンマ団ではそうはいきまへんからな。もし、殺してもうたらシンタローはんにえらい怒られるし・・・。前はしばらく口聞いてもらえまへんどしたからな)
「やっぱり、早う終わらせるためには、作戦を立て直さないけまへんやろか・・・。ちょうど、なんやパーティーにも招待されましたしな」
そう言ってアラシヤマが考えた作戦は、
①会場のホテルに火をつけ、パーティー客が動揺している隙を狙ってマイクロチップを 奪う。
②ガンマ団に女性の応援を要請し、その女性が色仕掛け(・・・)でボスの注意を惹きつけて いる間にアラシヤマがマイクロチップを奪う。
(わては①の方がええんどすけど、やっぱり被害が最小で効率がええのは②ですやろか・・・。でも、わて、人見知りが激しいさかい、②はできれば避けたいどすなぁ。そもそも、わてはあまり(?)女性の扱いが得意やありまへんし、初対面の女性にえらい嫌われてしもうたら、しばらく立ち直れへんでっしゃろな・・・。ガンマ団に作戦を報告せなあきまへんけど、作戦①だけ出して、実は効率のええ②があったことがバレたら、シンタローはんにえらい怒られますやろか。それに、「②を思いつかんかったんか」って後からトットリはんらに馬鹿にされたら悔しゅうおますし。あっ、そうや!とりあえず、両方出しとけば、ガンマ団は女性団員がおりまへんから、自然と②は却下されますやろ!素人の女性を巻き込むことは禁止どすしな。なんやそう思たら、わて、気が楽になってきましたわ~♪)
アラシヤマはその後報告書を書き上げ、ガンマ団に宛ててメールを送信した。
ガンマ団から任務内容に関する返事が届き、それを読んだアラシヤマは驚愕した。
「えっ!?ウソでっしゃろ~~~??な、なっ、なんで、②が採用されとるんどすかぁ?しかも、その女性がわての婚約者いう設定で明日ここに来るんやて??わて、どないしよう・・・。急に台風でも来んですやろか・・・」
アラシヤマは気分が落ち込み、しばらく何も手につかなかった。
翌日、アラシヤマの願いに反してお天気は快晴であった。
昨日あの後、少し立ち直ったアラシヤマは電話でガンマ団本部に連絡し、作戦変更してもらうように抗議したが、それは却下された。
(あぁー。気が重いどす・・・)
アラシヤマは、マンションの下に降り、今日車で来るという女性を待っていた。
「おっ、学者先生やないか。おはようさん。兄ちゃん何しとるんや?」
管理人室の窓から、管理人が顔を出した。
「おはようさんどす。わて、婚約者を待っとるんどす」
「へぇー。兄ちゃん婚約者がおったんか。兄ちゃん男前やし、婚約者も別嬪さんやろな」
「へぇ。今日、車でこっちに来るみたいなんどす(いや、わて、婚約者どころかその人の顔も知らんへんのやけど・・・)」
「おっ、なんや駐車場の方で車の音がするで。あれとちゃうか?いってみよか?わしも、兄ちゃんの婚約者見てみたいわ」
「はぁ・・・」
そう言って、2人が歩き出したとき、門の方から1人の背の高い女性が姿を現した。
「シ、シンタローは―――――ん!!」
アラシヤマは、突然ダッシュし、ものすごい勢いでその人物に飛びついた。
――――と、その人物にとってそれは不意打ちに近かったらしく、アラシヤマはその人物を押し倒す格好となった。
(アレ?シンタローはんのはずやけど、なんや柔らかいしえらい小さいどすな。何で??それにどうしてシンタローはんがここにおるんやろか??)
とりあえず、アラシヤマはシンタローをギュッと抱きしめたまま、地面に座りなおした。
「・・・(怒)」
アラシヤマが、何がなんだかわけが分からずにボーッとしていると、急に突き放され、アラシヤマの脇腹に痛烈なボディブローが決まった。
「グハァッ・・・」
アラシヤマが、あまりの痛さに耐えていると、急にシンタローに頭を引き寄せられ、小声で囁かれた。
「訳は後で説明するからヨ、とりあえず、お前は黙っとけ」
アラシヤマが慌てて首を縦に振ると、シンタローはあっさりと立ち上がり、呆然と一部始終を見ていた管理人に笑顔で挨拶した。
「こんにちは」
「あ、ああ・・・。こんにちは」
「すみません。お見苦しいところをお見せしまして」
「い、いや。ところで姉ちゃんが、あの兄ちゃんの婚約者かいな?」
「はい、(スッゲー嫌だけど)そうなんです」
「・・・あんたら、いつもあんな感じなんか?」
「何のことでしょう?(笑顔)」
「・・・・」
やっと少し立ち直ったアラシヤマが、2人の側に近づき、
「シ、シンタローはん、そろそろ部屋の方に行きまへんか?」
「おう。鍵貸せヨ。あっ、荷物は車のトランクに入ってるから、お前が持って来いよ」
そう言ってシンタローは部屋の鍵を受け取り、アラシヤマに車のキーを渡すと管理人にペコリと一礼し、さっさと歩き出した。
「・・・兄ちゃん。あんたの婚約者、えらい別嬪さんやけど、性格の方は強烈やなぁ・・・。でも、兄ちゃんは完全にベタボレやなぁ。なんや、結婚してからも大変そうや思うわ」
アラシヤマがあらかじめ教えられていた車種の車に大量の荷物をとりに行くのに付き合っていた管理人は、シミジミとそう言った。
「はぁ・・・」
あまり現状認識ができていないアラシヤマは、そう答えるしかなかった。
組織に潜入する際、現役を引退しているがアンダーグラウンドでは顔が利く(実はガンマ団と繋がりのある)教授の紹介があったため、すぐに信用はされた。
あらかた情報は集まり、そろそろ任務も終盤に近づいてきたかに思えたが、どうやら決定的な証拠が収められたマイクロチップは組織のボスが肌身離さず持ち歩いているらしいことが分かった。しかし、ボスにはいつもたくさんのSPがついている。
アラシヤマは、ノートパソコンの前で悩んでいた。
(うーん。面倒どすな。以前のガンマ団やったらボスを暗殺しとけば話は簡単なんどすけど、今のガンマ団ではそうはいきまへんからな。もし、殺してもうたらシンタローはんにえらい怒られるし・・・。前はしばらく口聞いてもらえまへんどしたからな)
「やっぱり、早う終わらせるためには、作戦を立て直さないけまへんやろか・・・。ちょうど、なんやパーティーにも招待されましたしな」
そう言ってアラシヤマが考えた作戦は、
①会場のホテルに火をつけ、パーティー客が動揺している隙を狙ってマイクロチップを 奪う。
②ガンマ団に女性の応援を要請し、その女性が色仕掛け(・・・)でボスの注意を惹きつけて いる間にアラシヤマがマイクロチップを奪う。
(わては①の方がええんどすけど、やっぱり被害が最小で効率がええのは②ですやろか・・・。でも、わて、人見知りが激しいさかい、②はできれば避けたいどすなぁ。そもそも、わてはあまり(?)女性の扱いが得意やありまへんし、初対面の女性にえらい嫌われてしもうたら、しばらく立ち直れへんでっしゃろな・・・。ガンマ団に作戦を報告せなあきまへんけど、作戦①だけ出して、実は効率のええ②があったことがバレたら、シンタローはんにえらい怒られますやろか。それに、「②を思いつかんかったんか」って後からトットリはんらに馬鹿にされたら悔しゅうおますし。あっ、そうや!とりあえず、両方出しとけば、ガンマ団は女性団員がおりまへんから、自然と②は却下されますやろ!素人の女性を巻き込むことは禁止どすしな。なんやそう思たら、わて、気が楽になってきましたわ~♪)
アラシヤマはその後報告書を書き上げ、ガンマ団に宛ててメールを送信した。
ガンマ団から任務内容に関する返事が届き、それを読んだアラシヤマは驚愕した。
「えっ!?ウソでっしゃろ~~~??な、なっ、なんで、②が採用されとるんどすかぁ?しかも、その女性がわての婚約者いう設定で明日ここに来るんやて??わて、どないしよう・・・。急に台風でも来んですやろか・・・」
アラシヤマは気分が落ち込み、しばらく何も手につかなかった。
翌日、アラシヤマの願いに反してお天気は快晴であった。
昨日あの後、少し立ち直ったアラシヤマは電話でガンマ団本部に連絡し、作戦変更してもらうように抗議したが、それは却下された。
(あぁー。気が重いどす・・・)
アラシヤマは、マンションの下に降り、今日車で来るという女性を待っていた。
「おっ、学者先生やないか。おはようさん。兄ちゃん何しとるんや?」
管理人室の窓から、管理人が顔を出した。
「おはようさんどす。わて、婚約者を待っとるんどす」
「へぇー。兄ちゃん婚約者がおったんか。兄ちゃん男前やし、婚約者も別嬪さんやろな」
「へぇ。今日、車でこっちに来るみたいなんどす(いや、わて、婚約者どころかその人の顔も知らんへんのやけど・・・)」
「おっ、なんや駐車場の方で車の音がするで。あれとちゃうか?いってみよか?わしも、兄ちゃんの婚約者見てみたいわ」
「はぁ・・・」
そう言って、2人が歩き出したとき、門の方から1人の背の高い女性が姿を現した。
「シ、シンタローは―――――ん!!」
アラシヤマは、突然ダッシュし、ものすごい勢いでその人物に飛びついた。
――――と、その人物にとってそれは不意打ちに近かったらしく、アラシヤマはその人物を押し倒す格好となった。
(アレ?シンタローはんのはずやけど、なんや柔らかいしえらい小さいどすな。何で??それにどうしてシンタローはんがここにおるんやろか??)
とりあえず、アラシヤマはシンタローをギュッと抱きしめたまま、地面に座りなおした。
「・・・(怒)」
アラシヤマが、何がなんだかわけが分からずにボーッとしていると、急に突き放され、アラシヤマの脇腹に痛烈なボディブローが決まった。
「グハァッ・・・」
アラシヤマが、あまりの痛さに耐えていると、急にシンタローに頭を引き寄せられ、小声で囁かれた。
「訳は後で説明するからヨ、とりあえず、お前は黙っとけ」
アラシヤマが慌てて首を縦に振ると、シンタローはあっさりと立ち上がり、呆然と一部始終を見ていた管理人に笑顔で挨拶した。
「こんにちは」
「あ、ああ・・・。こんにちは」
「すみません。お見苦しいところをお見せしまして」
「い、いや。ところで姉ちゃんが、あの兄ちゃんの婚約者かいな?」
「はい、(スッゲー嫌だけど)そうなんです」
「・・・あんたら、いつもあんな感じなんか?」
「何のことでしょう?(笑顔)」
「・・・・」
やっと少し立ち直ったアラシヤマが、2人の側に近づき、
「シ、シンタローはん、そろそろ部屋の方に行きまへんか?」
「おう。鍵貸せヨ。あっ、荷物は車のトランクに入ってるから、お前が持って来いよ」
そう言ってシンタローは部屋の鍵を受け取り、アラシヤマに車のキーを渡すと管理人にペコリと一礼し、さっさと歩き出した。
「・・・兄ちゃん。あんたの婚約者、えらい別嬪さんやけど、性格の方は強烈やなぁ・・・。でも、兄ちゃんは完全にベタボレやなぁ。なんや、結婚してからも大変そうや思うわ」
アラシヤマがあらかじめ教えられていた車種の車に大量の荷物をとりに行くのに付き合っていた管理人は、シミジミとそう言った。
「はぁ・・・」
あまり現状認識ができていないアラシヤマは、そう答えるしかなかった。
シンタローが女体化する約1ヶ月前・・・。
アラシヤマは、任務の内容の書かれた紙をティラミスから渡され、固まっていた。
「ほんまに、わてがこの役やるんどすか??どうも、わてはこーいうのよりも、暗殺とか戦闘とかそっちの方が得意なんどすけど・・・」
ティラミスは、顔色一つ変えずに言った。
「こちらで、アラシヤマさんが一番適任かと判断した結果です」
「わ、わてが大学の講師というのは無理があるんやおまへんか?わては対人コミュニケーションが得意な方やありまへんし(←控えめな表現)・・・。それに、考古学の専門知識なんてあらしまへんえ?」
ティラミスはやっぱり冷静なままである。
「大学の先生は、変わった人が多いそうですから大丈夫です。それに、専門知識については、今から勉強してもらいます。・・・まぁ、そんなに詳しい知識は要らないみたいですよ。こちらで替え玉の論文は用意しますし、その論文の内容について把握しておくことができれば大丈夫でしょう。それに、アラシヤマさんは、中国語が話せるでしょう?漢文や中国史の知識もおありと聞いておりますし」
アラシヤマの脳裏に、修行時代マーカーが「刺客になるためには体術ばかりではなく知識教養も必要だ」と言って、厳しく勉強させられた思い出が浮かんだ。
アラシヤマはどちらかというと、体術の方が好きで、あまり勉強の方は好きではなかったので、最初の頃はマーカーに散々叱られた。
「うーん、嫌なことを思い出してしまいましたわ。・・・ちなみに、その任務、わてに拒否権はあるんどすか?」
「ありません」
アラシヤマは、泣く泣くいつもとは違う内容の任務に就くことになった。
「えーっと、ここでええんどすな?」
アラシヤマは、某国のあるマンションの前に荷物を持って立っていた。このマンションはマンスリーマンションで、アラシヤマは今日から1ヶ月間ここに住む予定である。
突然、マンションの入り口のすぐ横にある管理人室の扉が開き、眼鏡をかけた白髪の小柄な老人が顔を出した。
「おっ、来た来た。兄ちゃんが、今日から1ヶ月間契約したアラシヤマさんかいな?」
「そ、そうどす。よ、よろしゅうお願いします」
「なんや、兄ちゃんも関西出身か。その言葉は京都やな?わしは大阪なんや。まぁ、同じ関西もん同士よろしゅう頼むわ。ところで、兄ちゃんはタイ○ースファンか?」
「いや、わては野球の方はあんまり・・・」
「なんや、おもんないな。タイ○ースは最高やで!!いっつもダメ虎やけど、最近は調子ええしな。あっ、そうそう。これ鍵な。忘れるとこやったわ。渡しとくさかいに」
そう言ってアラシヤマは鍵を渡され、管理人が部屋の前まで案内していくのに後ろから着いて歩くが管理人の老人のお喋りは止まらない。
「えーっと、契約書を読んだんやけど、確か兄ちゃんは京都の大学の先生なんやってな。ほんまに、頭ええなぁ。この国には研究調査のために来たんやて?わしは学無いさかい、考古学なんぞよう分からんけど、兄ちゃんえらいなぁ。そういや、兄ちゃんは学者さんやいうけど、えらい体格ええな?」
アラシヤマは、「来たっ!」と思い、あらかじめティラミスから教えられていた答えを答えた。
「こ、考古学というのは遺跡を掘り返したりするのがほとんどなんで、ガテン系の道路工事とやることは一緒なんですわ。わて、学生時代はずっとそのバイトやっとったんどす(えーっと、これでよかったんでっしゃろか?)」
アラシヤマは内心冷や汗を流していたが、管理人は納得したようであった。
「はぁ、そうなんや。わし、学者さんはヒョロヒョロしたモヤシみたいな奴らやばかりやと思うとったわ。そういや、京都とかよく道路掘り返しよるしな。わしも昔道路工事のバイトやっとったことあるで。同じようなもんやな。なんやわし、兄ちゃんのこと気に入ったわ。これから1ヶ月間よろしゅう頼むで。わしは土日以外は昼までおるさかい、困ったことがあったらなんでも言うてや」
そう言って、管理人は帰って行った。
アラシヤマは何もしていないにも関わらず、なんとなく普段の任務よりも疲れた気がした。
アラシヤマは、任務の内容の書かれた紙をティラミスから渡され、固まっていた。
「ほんまに、わてがこの役やるんどすか??どうも、わてはこーいうのよりも、暗殺とか戦闘とかそっちの方が得意なんどすけど・・・」
ティラミスは、顔色一つ変えずに言った。
「こちらで、アラシヤマさんが一番適任かと判断した結果です」
「わ、わてが大学の講師というのは無理があるんやおまへんか?わては対人コミュニケーションが得意な方やありまへんし(←控えめな表現)・・・。それに、考古学の専門知識なんてあらしまへんえ?」
ティラミスはやっぱり冷静なままである。
「大学の先生は、変わった人が多いそうですから大丈夫です。それに、専門知識については、今から勉強してもらいます。・・・まぁ、そんなに詳しい知識は要らないみたいですよ。こちらで替え玉の論文は用意しますし、その論文の内容について把握しておくことができれば大丈夫でしょう。それに、アラシヤマさんは、中国語が話せるでしょう?漢文や中国史の知識もおありと聞いておりますし」
アラシヤマの脳裏に、修行時代マーカーが「刺客になるためには体術ばかりではなく知識教養も必要だ」と言って、厳しく勉強させられた思い出が浮かんだ。
アラシヤマはどちらかというと、体術の方が好きで、あまり勉強の方は好きではなかったので、最初の頃はマーカーに散々叱られた。
「うーん、嫌なことを思い出してしまいましたわ。・・・ちなみに、その任務、わてに拒否権はあるんどすか?」
「ありません」
アラシヤマは、泣く泣くいつもとは違う内容の任務に就くことになった。
「えーっと、ここでええんどすな?」
アラシヤマは、某国のあるマンションの前に荷物を持って立っていた。このマンションはマンスリーマンションで、アラシヤマは今日から1ヶ月間ここに住む予定である。
突然、マンションの入り口のすぐ横にある管理人室の扉が開き、眼鏡をかけた白髪の小柄な老人が顔を出した。
「おっ、来た来た。兄ちゃんが、今日から1ヶ月間契約したアラシヤマさんかいな?」
「そ、そうどす。よ、よろしゅうお願いします」
「なんや、兄ちゃんも関西出身か。その言葉は京都やな?わしは大阪なんや。まぁ、同じ関西もん同士よろしゅう頼むわ。ところで、兄ちゃんはタイ○ースファンか?」
「いや、わては野球の方はあんまり・・・」
「なんや、おもんないな。タイ○ースは最高やで!!いっつもダメ虎やけど、最近は調子ええしな。あっ、そうそう。これ鍵な。忘れるとこやったわ。渡しとくさかいに」
そう言ってアラシヤマは鍵を渡され、管理人が部屋の前まで案内していくのに後ろから着いて歩くが管理人の老人のお喋りは止まらない。
「えーっと、契約書を読んだんやけど、確か兄ちゃんは京都の大学の先生なんやってな。ほんまに、頭ええなぁ。この国には研究調査のために来たんやて?わしは学無いさかい、考古学なんぞよう分からんけど、兄ちゃんえらいなぁ。そういや、兄ちゃんは学者さんやいうけど、えらい体格ええな?」
アラシヤマは、「来たっ!」と思い、あらかじめティラミスから教えられていた答えを答えた。
「こ、考古学というのは遺跡を掘り返したりするのがほとんどなんで、ガテン系の道路工事とやることは一緒なんですわ。わて、学生時代はずっとそのバイトやっとったんどす(えーっと、これでよかったんでっしゃろか?)」
アラシヤマは内心冷や汗を流していたが、管理人は納得したようであった。
「はぁ、そうなんや。わし、学者さんはヒョロヒョロしたモヤシみたいな奴らやばかりやと思うとったわ。そういや、京都とかよく道路掘り返しよるしな。わしも昔道路工事のバイトやっとったことあるで。同じようなもんやな。なんやわし、兄ちゃんのこと気に入ったわ。これから1ヶ月間よろしゅう頼むで。わしは土日以外は昼までおるさかい、困ったことがあったらなんでも言うてや」
そう言って、管理人は帰って行った。
アラシヤマは何もしていないにも関わらず、なんとなく普段の任務よりも疲れた気がした。
ある日の昼下がり、グンマ博士が、科学部隊第7研究室から「ぜひお貸し頂きたい」という要望のあった文献資料を小脇に抱え、ガンマ団内の廊下を鼻歌を歌いながら、スキップしていた。
「フンフフーン♪あっ、ここだー。第7けんきゅうしつ・・っと。こんにちはー?」
グンマがインターホン越しに呼びかけたが誰も出てこない。
「あれェ?変だなぁ。お邪魔しまーす」
ドアを押すと何故か開いていたので、グンマは勝手に研究室の中に入った。
「誰もいないよー。お昼ごはんかな?それじゃ、ホワイトボードに磁石で留めておこう。横に用件を書いておけばいいよね」
そう言って、グンマは作業を済ませると、机の上に目を向けた。そこには、『どうぞご自由にお取り下さい。もし、お菓子がなくなった場合は誰かが補充しておくこと!!』と書かれた大き目の菓子折り箱が何故か(男ばかりの研究室にもかかわらず)置かれていた。
「あっ、お菓子だ~。『ご自由に』って書いてあるから僕が貰ってもいいんだよね??えーっ、でもこれ、僕の嫌いなやつばっかりだよー。他にもなんかないかなァ」
グンマがキョロキョロと辺りを見回すと、机の端の方にカラフルな飴の絵が描かれたドロップの缶が置いてあった。
「あっ、ドロップだ!!僕ドロップ好きなんだよネ。これ貰っていこーっと!!」
グンマは、白衣のポケットにドロップの缶を入れ、その場を立ち去った。
「うーん。今から暇だなァ・・・。キンちゃんは今居ないし、高松の所には朝行ったばかりだし・・・。あっ、そーだ!シンちゃんの所に遊びに行こう♪」
ほんの少し悩んだあと、グンマは総帥室の方角へと向かった。
「ヤッホー♪シンちゃーん!遊びに来たよ~」
「おう、グンマか。入れよ。もうすぐ終わるから」
シンタローは、何やら難しそうな書類を読んでいた。時々、小さく咳をしているので、グンマは心配になった。
「シンちゃん、もしかして風邪気味?」
「んー。昨日からちょっと調子が悪いんだ」
「具合の悪いときは無理しちゃ駄目だよ!!そんな時は仕事なんか、おとーさまに押し付けちゃえ☆」
「ハハ。まァ、そういうわけにもいかんだろーが」
そう言って仕事を再開し始めたシンタローは、やっぱり具合が良くなさそうであり、グンマはもどかしい気持ちでそれを見ていた。
「あーっ!シンちゃん!!僕いいもの持ってるんだヨ♪ドロップなんだけど、一緒に食べようよ。少しは喉にいいかも」
そう言ってグンマがドロップの缶を開けると、中には糖衣でコーティングされた漢方薬の匂いのする黒い小さな飴が入っていた。
「えーっ、これって南○のど飴だよ~。僕これ嫌い。辛いもん!あっ、でもシンちゃんには丁度いいかも。シンちゃん食べる?」
「ああ、そんじゃ俺貰うわ」
「一個じゃなくて、たくさん食べなよ。その方が効きそうだし」
「うーん、じゃぁ、4粒貰うぜ」
そう言ってシンタローは飴を口に放り込み仕事を続けていたが、しばらくするとシンタローは急に苦しみだした。
慌てるグンマを他所に、シンタローは椅子から崩れるように倒れた。
「どーしたの!?シンちゃん??大丈夫??」
机の向こうに倒れたシンタローの姿は見えず、グンマは慌てて駆け寄り、シンタローの額に手を当てた。
「ううっ・・・・」
シンタローは苦しげに呼吸している。
「うわぁ、すごい熱!!どうしよう・・・。うわーん、高松~ゥ!!」
グンマは、慌てて壁の電話を取り、高松の研究室の番号をプッシュした。
「はい、第2研究室です。って、グンマ様♡えっ?泣いていては分かりませんよ。新総帥にいじめられたのですか?違う?ええっ?新総帥が倒れた??すぐに行きますから心配なさらず待っておいて下さいね!!」
高松が電話を切った後、グンマはシンタローの体を抱き起こして引きずり、なんとかソファ
に寝かした。
「早く来てよー。高松~!!」
グンマは待ちきれず、廊下に出て高松を待った。
時間にして数分後、走ってきた高松が総帥室前に到着した。
「遅いヨ~!!」
「グンマ様!私が来たからにはもう大丈夫ですよ。新総帥の容態はいかがですか?」
2人は扉を開け、部屋の中に入った。
「熱がすごいの。シンちゃん風邪みたいだったんだけど、急に苦しみだして倒れたんだよ!?」
2人が部屋に入ると、シンタローの頭がソファから少し見えた。
「シンちゃーん!高松が来たからもう大丈夫だヨ」
そう言ってグンマがシンタローの顔をのぞきこむと、シンタローは気を失っている様子であったが、先ほどよりはかなり楽になったようであった。
グンマは、ふと、違和感を覚えた。
「ねぇ、高松。なんかさ、シンちゃんいつもと違わない??ちょっと小さくなったような…」
「そうですねぇ。何故か骨格そのものが華奢になったような・・・。ちょっと失礼」
そう言って、高松は新総帥のジャケットの前を開いた。
――その途端、彼は鼻血を吹いて倒れた。
「わァ、高松~!?どうしちゃったの!?!?大丈夫??」
高松は、鼻血を拭きながらヨロヨロと立ち直った。
「だ、大丈夫ですよ、グンマ様。ただ、どうやら、シンタロー様は・・・女性になってしまわれたようです」
「ええッ?でも、シンちゃんは従兄弟だよ?女の子じゃないよ??」
「でも、現に今そうなっておられますので・・・。新総帥は何か変なものを食べてませんでしたか?」
「うーんと、僕が来る前は分からないけど・・・。あッ、そうだ!!シンちゃんと第7研究室からもらってきたドロップを一緒に食べようと思ったんだけど、南○のど飴みたいだったから、僕は食べなくてシンちゃんだけ食べたんだッツ!!」
「第7研究室ですか。不吉な・・・。あいつ等、漫画がどうとかいう同好会作っていつも変なものをつくってますからねぇ。グンマ様、その飴の缶どこにあります?私は奴らをちょっと締め上げて、急いで元に戻る薬を作りますので。グンマ様は、シンタロー様についておいてあげてくださいね。彼のことですし、気がつくと大暴れしそうですので・・・」
「う、うん。眼魔砲されたらちょっと嫌だけど、頑張る」
「それでは、くれぐれもお気をつけて」
そう言って、高松は部屋から出て行った。
グンマは頬杖をついて、シンタローの寝顔を眺めていた。
「シンちゃん、僕のせいで女の子になっちゃったんだ?本当にごめんね。あぁー、おとーさまがこのことを知ったら、大変そうだなァ・・・。他にも色々と大変そうな人達がいるけど、みんな留守で本当に良かった・・・」
「ん・・・」
「あっ!シンちゃん気がついた??よかったー」
グンマは、ホッとしたような泣き出しそうな顔をしてシンタローを見た。
「えっ?俺どうしたんだっけ?確か、仕事中に倒れて・・・」
シンタローは、ふと、自分自身の声の違和感に気がついた。低めの声ではあるが、男性の声とは明らかに違う。
「???」
「あのね、シンちゃん。驚かないで聞いてね。実は、シンちゃん・・・、のど飴のせいで女の子になっちゃったみたいなのッツ!!」
「へ?何言ってんだヨ??」
明らかに現状認識できていないシンタローに、
「もしよかったら、そっちの部屋で確かめてきて・・・?」
と、グンマが隣室を指差すと、フラフラと何かに操られるようにシンタローは隣の部屋に消えた。
(わぁ、シンちゃん、雑誌に出てくるモデルさんみたいだなぁ。背も20センチは縮んだみたいだけど、僕と同じぐらいあるし・・・。やっぱり、男の子でも女の子でもシンちゃんは綺麗だなぁ)
グンマが色々と感心していると、不意に扉が開き、グンマが一番厄介だと思っていた人物が顔を出した。
「シンちゃーん!もうお仕事終わった?パパだよ~♪」
「あッ、おとーさま・・・」
「あれ?グンちゃんもいたの?シンちゃんは??」
その時、隣の部屋から
「なッ、なんじゃこりゃァァァ~~~~!!!!」
という○田○作風の雄叫びが聞こえた。
「えッ!?グンちゃん、今のって何??何なの??」
グンマが答えようとすると、隣の部屋のドアがバンッツ!!と開いた。
「シンちゃーん!!会いたかったよ~~~!!」
マジック元総帥は、思わず駆け寄り、呆然としているシンタローをギュッ♡と抱きしめた。
「あれ?いつもとシンちゃんの触り心地が違う!?柔らかいし、なんか小さい…。ん――??」
ポフポフと、シンタローを確かめるように触るマジックに、しばらくジッとしていたシンタローであったが、急にスイッチが戻ったように・・・キレた。
「離さんか、ゴルルァ!!」
そう言って、シンタローはまず元総帥の顎に強烈なアッパーをかまし、続いて腹部目掛けて膝蹴りを放った。そしてさらに、
「眼魔砲!!!」
部屋の中を眼魔砲によって破壊し始めた。
「ぼ、僕しーらないッと。おとーさま、頑張って止めてね」
と、グンマはとりあえず部屋の外に避難した。
(シンちゃんって、女の子になっても戦闘能力高いなァ・・・)
――――30分後、グンマが部屋をソッとのぞきこむと、部屋の中は壊滅状態であり、中にはボロボロになった(でも、少し嬉しそうな)元総帥と、少しは落ち着いたらしい(でも、毛を逆立てた猫のような状態の)新総帥が立っていた。
「あのー・・・、シンちゃん、少しは落ち着いた?」
「・・・アァ。なんとかナ。でッ!どういうことか説明しろヨ!!」
「なんかね、さっきののど飴が原因みたい。高松に携帯で聞いたら、科学部隊の漫画マニアの人達がメ○モちゃんみたいに、子どもが大人に変身できる薬を作ったみたいだヨ。何故かシンちゃんは女の子になっちゃったけど・・・」
「ソイツら、全員クビ」
「ま、まぁまぁ。シンちゃん、彼らだって悪気があってやったわけでは無いし・・・」
そう、マジックがとりなそうとすると、
「悪気があろーが、なかろーが、関係ねんだヨ」
シンタローはにべも無い。
「本当にごめんなさいッツ!!間違えてシンちゃんに食べさせた僕が悪いんだ!!」
グンマは、誠心誠意を込め、シンタローに謝った。
「・・・何日ぐらいで戻るんだ?」
「さっき高松に聞いたら、元に戻る薬は作り方が難しいから4日ぐらいだって。ゴメンね。シンちゃん」
「ふーん。まァ、それぐらいで戻れるんだったらいいか。ずっと女ってわけでもねぇしな。ただし、誰にも言うなヨ。ソイツらにも高松にも口止めしとけ。親父もナ」
「「はーい」」
「僕、高松を手伝ってくるね。あと、科学部隊の人達クビにしないでね。一応、いろんな所から無理言ってスカウトしてきた人達だし。じゃあね、シンちゃん。それでは、おとーさま、失礼します」
グンマは、ホッとした様子で部屋から出て行った。
「・・・シンちゃーん。なんだか、グンちゃんに比べてパパの扱いがひどくないかい?パパ、とっても寂しいよ・・・」
「グンマは前よりも大人になったからナ。それに、アンタと違ってセクハラしてねぇし」
「セクハラじゃなくて、親子のスキンシップだよ~。それよりもシンちゃん。とりあえず女の子の服とかいるよね」
「あ゛?別に、このままでいんじゃねェの?総帥服は大きいけど、私服なら着れるだろ?」
「駄目だよ!!そんな可愛い格好でシンちゃんがガンマ団内を歩いていると襲われちゃうよ!パパは許しません!!」
「じゃぁ、どうしろっていうんだヨ!俺は、女の服とかわかんねぇぞ。それに4日間ずっとひきこもってるのも嫌だし・・・」
「じゃぁ、パパがシンちゃんの服を作ってあげるから、それ着てパパに見せてよ。4日間パパとモデルさんゴッコしよう♪うーん、シンちゃんは猫耳とかバニー耳が似合いそうだなぁ。あと、キャンギャル風とか、女子高生風とか、婦警さんとか、看護婦さんとか・・・。あッ、ビデオも撮らないと!!」
鼻血を垂らしながら、シンちゃん人形を抱きしめているマジックに、シンタローはなんとなく背筋が寒くなった。
「(親父・・・。それってモデルさんゴッコじゃなくってイメクラだろうが・・・)ぜってー、い・や・だ!!」
「ええっ!?すっごく楽しそうなのに・・・。それじゃ、シンちゃんは他に何か案がある?もし無かったら、4日間モデルさんゴッコだよ??」
シンタローは、悩んだ。4日間イメクラゴッコは絶対に、したくはなかった。
そして、しばらく悩んだ末、あることに気がついた。
「あっ!そうだ!!とりあえず、俺がガンマ団内に居なかったら俺が女になったってバレないんだよな!?そんじゃ、俺、久しぶりに任務にでるわ♪部屋の修理もその間にできるし。新総帥は、風邪で静養中ということにしといてくんねぇ?個人任務が一番いいんだけど、今要請が来ているやつはというと・・・」
シンタローは崩壊した部屋の中を通り、なんとか壊れずに形を保っている丈夫な総帥机の引き出しをあけ、少し楽しそうに任務予定表を取り出した。
「んー。なかなかねェな。ン?なんだコレ?急遽マッチョな男性求む?・・・無理だな。じゃぁ、しょうがねェから2人組みの任務はっと・・・。うーん、あまり階級が下のやつと組むと後が面倒そうだナ。えーっと、幹部級の奴らは・・・。みんな遠征中か。この近くは・・・おっ、あるじゃん。何々?『女性パートナー急遽必要。パーティーへの同伴及びマイクロチップをボスから奪う手助け。でも、他のプランも考えてますさかい、なるべく無しの方向で』??なんか、えらいネガティブだな。提出者は、っと。あっ、コイツ、アラシヤマじゃん!!」
それを、傍で見ていたマジックが、口を挟んだ。
「シンちゃーん・・・。アラシヤマと2人っきりなんて危険だよ!!そんな美味しい状況で奴が調子にのって、シンちゃんが襲われちゃったらどうするの!?アラシヤマと2人きりの任務なんてパパは許しませんよ!!やっぱり、パパと2人で4日間モデルさんゴッコしようよ~。もしそれが嫌なら、どこか旅行に出かけてもいいよ」
(うーん。アラシヤマと2人きりも大変そうだけど、親父と2人きりで旅行というのも嫌だなぁ・・・。イメクラゴッコは論外。総帥になってからここ最近ガンマ団内ばかりだし、任務といっても大勢ついてくるし、久々に個人任務に出てみるか)
どうやら、シンタローの中では(アラシヤマではなく)任務の方が勝ったらしい。
「親父。やっぱ俺、任務に出るわ。アラシヤマとどうにかなることなんてありえねェし。それに任務の内容自体たいしたこともなさそうだし、心配すんなって。ホラ、『かわいい子には旅をさせろ』ってよく言うダロ?とにかく俺、もう任務に行くって決めたからな!!」
「シンちゃーん・・・(泣)」
「泣いても無駄。パーティーへの同伴か・・・。女物を着るのは嫌だけど、まァ、任務だと思えば我慢できるか。親父、悪ィけどいろいろと手配してくれねぇ?」
「可愛いシンちゃんの頼みならしょうがないか・・・(やっぱり、アラシヤマと一緒の任務だってのが気に入らないけど。まぁ、女の子になってもあれだけ戦闘能力が高いシンちゃんなら大丈夫か)。それじゃ、シンちゃんがパーティーの会場で注目度ナンバーワンになれるように準備するから待っててね~。あっ、もちろんシンちゃんは何もしなくても今のままで十分綺麗だとパパは思うけど」
「は~~~~い、ハイハイ。じゃぁ、頼んだわ」
「フンフフーン♪あっ、ここだー。第7けんきゅうしつ・・っと。こんにちはー?」
グンマがインターホン越しに呼びかけたが誰も出てこない。
「あれェ?変だなぁ。お邪魔しまーす」
ドアを押すと何故か開いていたので、グンマは勝手に研究室の中に入った。
「誰もいないよー。お昼ごはんかな?それじゃ、ホワイトボードに磁石で留めておこう。横に用件を書いておけばいいよね」
そう言って、グンマは作業を済ませると、机の上に目を向けた。そこには、『どうぞご自由にお取り下さい。もし、お菓子がなくなった場合は誰かが補充しておくこと!!』と書かれた大き目の菓子折り箱が何故か(男ばかりの研究室にもかかわらず)置かれていた。
「あっ、お菓子だ~。『ご自由に』って書いてあるから僕が貰ってもいいんだよね??えーっ、でもこれ、僕の嫌いなやつばっかりだよー。他にもなんかないかなァ」
グンマがキョロキョロと辺りを見回すと、机の端の方にカラフルな飴の絵が描かれたドロップの缶が置いてあった。
「あっ、ドロップだ!!僕ドロップ好きなんだよネ。これ貰っていこーっと!!」
グンマは、白衣のポケットにドロップの缶を入れ、その場を立ち去った。
「うーん。今から暇だなァ・・・。キンちゃんは今居ないし、高松の所には朝行ったばかりだし・・・。あっ、そーだ!シンちゃんの所に遊びに行こう♪」
ほんの少し悩んだあと、グンマは総帥室の方角へと向かった。
「ヤッホー♪シンちゃーん!遊びに来たよ~」
「おう、グンマか。入れよ。もうすぐ終わるから」
シンタローは、何やら難しそうな書類を読んでいた。時々、小さく咳をしているので、グンマは心配になった。
「シンちゃん、もしかして風邪気味?」
「んー。昨日からちょっと調子が悪いんだ」
「具合の悪いときは無理しちゃ駄目だよ!!そんな時は仕事なんか、おとーさまに押し付けちゃえ☆」
「ハハ。まァ、そういうわけにもいかんだろーが」
そう言って仕事を再開し始めたシンタローは、やっぱり具合が良くなさそうであり、グンマはもどかしい気持ちでそれを見ていた。
「あーっ!シンちゃん!!僕いいもの持ってるんだヨ♪ドロップなんだけど、一緒に食べようよ。少しは喉にいいかも」
そう言ってグンマがドロップの缶を開けると、中には糖衣でコーティングされた漢方薬の匂いのする黒い小さな飴が入っていた。
「えーっ、これって南○のど飴だよ~。僕これ嫌い。辛いもん!あっ、でもシンちゃんには丁度いいかも。シンちゃん食べる?」
「ああ、そんじゃ俺貰うわ」
「一個じゃなくて、たくさん食べなよ。その方が効きそうだし」
「うーん、じゃぁ、4粒貰うぜ」
そう言ってシンタローは飴を口に放り込み仕事を続けていたが、しばらくするとシンタローは急に苦しみだした。
慌てるグンマを他所に、シンタローは椅子から崩れるように倒れた。
「どーしたの!?シンちゃん??大丈夫??」
机の向こうに倒れたシンタローの姿は見えず、グンマは慌てて駆け寄り、シンタローの額に手を当てた。
「ううっ・・・・」
シンタローは苦しげに呼吸している。
「うわぁ、すごい熱!!どうしよう・・・。うわーん、高松~ゥ!!」
グンマは、慌てて壁の電話を取り、高松の研究室の番号をプッシュした。
「はい、第2研究室です。って、グンマ様♡えっ?泣いていては分かりませんよ。新総帥にいじめられたのですか?違う?ええっ?新総帥が倒れた??すぐに行きますから心配なさらず待っておいて下さいね!!」
高松が電話を切った後、グンマはシンタローの体を抱き起こして引きずり、なんとかソファ
に寝かした。
「早く来てよー。高松~!!」
グンマは待ちきれず、廊下に出て高松を待った。
時間にして数分後、走ってきた高松が総帥室前に到着した。
「遅いヨ~!!」
「グンマ様!私が来たからにはもう大丈夫ですよ。新総帥の容態はいかがですか?」
2人は扉を開け、部屋の中に入った。
「熱がすごいの。シンちゃん風邪みたいだったんだけど、急に苦しみだして倒れたんだよ!?」
2人が部屋に入ると、シンタローの頭がソファから少し見えた。
「シンちゃーん!高松が来たからもう大丈夫だヨ」
そう言ってグンマがシンタローの顔をのぞきこむと、シンタローは気を失っている様子であったが、先ほどよりはかなり楽になったようであった。
グンマは、ふと、違和感を覚えた。
「ねぇ、高松。なんかさ、シンちゃんいつもと違わない??ちょっと小さくなったような…」
「そうですねぇ。何故か骨格そのものが華奢になったような・・・。ちょっと失礼」
そう言って、高松は新総帥のジャケットの前を開いた。
――その途端、彼は鼻血を吹いて倒れた。
「わァ、高松~!?どうしちゃったの!?!?大丈夫??」
高松は、鼻血を拭きながらヨロヨロと立ち直った。
「だ、大丈夫ですよ、グンマ様。ただ、どうやら、シンタロー様は・・・女性になってしまわれたようです」
「ええッ?でも、シンちゃんは従兄弟だよ?女の子じゃないよ??」
「でも、現に今そうなっておられますので・・・。新総帥は何か変なものを食べてませんでしたか?」
「うーんと、僕が来る前は分からないけど・・・。あッ、そうだ!!シンちゃんと第7研究室からもらってきたドロップを一緒に食べようと思ったんだけど、南○のど飴みたいだったから、僕は食べなくてシンちゃんだけ食べたんだッツ!!」
「第7研究室ですか。不吉な・・・。あいつ等、漫画がどうとかいう同好会作っていつも変なものをつくってますからねぇ。グンマ様、その飴の缶どこにあります?私は奴らをちょっと締め上げて、急いで元に戻る薬を作りますので。グンマ様は、シンタロー様についておいてあげてくださいね。彼のことですし、気がつくと大暴れしそうですので・・・」
「う、うん。眼魔砲されたらちょっと嫌だけど、頑張る」
「それでは、くれぐれもお気をつけて」
そう言って、高松は部屋から出て行った。
グンマは頬杖をついて、シンタローの寝顔を眺めていた。
「シンちゃん、僕のせいで女の子になっちゃったんだ?本当にごめんね。あぁー、おとーさまがこのことを知ったら、大変そうだなァ・・・。他にも色々と大変そうな人達がいるけど、みんな留守で本当に良かった・・・」
「ん・・・」
「あっ!シンちゃん気がついた??よかったー」
グンマは、ホッとしたような泣き出しそうな顔をしてシンタローを見た。
「えっ?俺どうしたんだっけ?確か、仕事中に倒れて・・・」
シンタローは、ふと、自分自身の声の違和感に気がついた。低めの声ではあるが、男性の声とは明らかに違う。
「???」
「あのね、シンちゃん。驚かないで聞いてね。実は、シンちゃん・・・、のど飴のせいで女の子になっちゃったみたいなのッツ!!」
「へ?何言ってんだヨ??」
明らかに現状認識できていないシンタローに、
「もしよかったら、そっちの部屋で確かめてきて・・・?」
と、グンマが隣室を指差すと、フラフラと何かに操られるようにシンタローは隣の部屋に消えた。
(わぁ、シンちゃん、雑誌に出てくるモデルさんみたいだなぁ。背も20センチは縮んだみたいだけど、僕と同じぐらいあるし・・・。やっぱり、男の子でも女の子でもシンちゃんは綺麗だなぁ)
グンマが色々と感心していると、不意に扉が開き、グンマが一番厄介だと思っていた人物が顔を出した。
「シンちゃーん!もうお仕事終わった?パパだよ~♪」
「あッ、おとーさま・・・」
「あれ?グンちゃんもいたの?シンちゃんは??」
その時、隣の部屋から
「なッ、なんじゃこりゃァァァ~~~~!!!!」
という○田○作風の雄叫びが聞こえた。
「えッ!?グンちゃん、今のって何??何なの??」
グンマが答えようとすると、隣の部屋のドアがバンッツ!!と開いた。
「シンちゃーん!!会いたかったよ~~~!!」
マジック元総帥は、思わず駆け寄り、呆然としているシンタローをギュッ♡と抱きしめた。
「あれ?いつもとシンちゃんの触り心地が違う!?柔らかいし、なんか小さい…。ん――??」
ポフポフと、シンタローを確かめるように触るマジックに、しばらくジッとしていたシンタローであったが、急にスイッチが戻ったように・・・キレた。
「離さんか、ゴルルァ!!」
そう言って、シンタローはまず元総帥の顎に強烈なアッパーをかまし、続いて腹部目掛けて膝蹴りを放った。そしてさらに、
「眼魔砲!!!」
部屋の中を眼魔砲によって破壊し始めた。
「ぼ、僕しーらないッと。おとーさま、頑張って止めてね」
と、グンマはとりあえず部屋の外に避難した。
(シンちゃんって、女の子になっても戦闘能力高いなァ・・・)
――――30分後、グンマが部屋をソッとのぞきこむと、部屋の中は壊滅状態であり、中にはボロボロになった(でも、少し嬉しそうな)元総帥と、少しは落ち着いたらしい(でも、毛を逆立てた猫のような状態の)新総帥が立っていた。
「あのー・・・、シンちゃん、少しは落ち着いた?」
「・・・アァ。なんとかナ。でッ!どういうことか説明しろヨ!!」
「なんかね、さっきののど飴が原因みたい。高松に携帯で聞いたら、科学部隊の漫画マニアの人達がメ○モちゃんみたいに、子どもが大人に変身できる薬を作ったみたいだヨ。何故かシンちゃんは女の子になっちゃったけど・・・」
「ソイツら、全員クビ」
「ま、まぁまぁ。シンちゃん、彼らだって悪気があってやったわけでは無いし・・・」
そう、マジックがとりなそうとすると、
「悪気があろーが、なかろーが、関係ねんだヨ」
シンタローはにべも無い。
「本当にごめんなさいッツ!!間違えてシンちゃんに食べさせた僕が悪いんだ!!」
グンマは、誠心誠意を込め、シンタローに謝った。
「・・・何日ぐらいで戻るんだ?」
「さっき高松に聞いたら、元に戻る薬は作り方が難しいから4日ぐらいだって。ゴメンね。シンちゃん」
「ふーん。まァ、それぐらいで戻れるんだったらいいか。ずっと女ってわけでもねぇしな。ただし、誰にも言うなヨ。ソイツらにも高松にも口止めしとけ。親父もナ」
「「はーい」」
「僕、高松を手伝ってくるね。あと、科学部隊の人達クビにしないでね。一応、いろんな所から無理言ってスカウトしてきた人達だし。じゃあね、シンちゃん。それでは、おとーさま、失礼します」
グンマは、ホッとした様子で部屋から出て行った。
「・・・シンちゃーん。なんだか、グンちゃんに比べてパパの扱いがひどくないかい?パパ、とっても寂しいよ・・・」
「グンマは前よりも大人になったからナ。それに、アンタと違ってセクハラしてねぇし」
「セクハラじゃなくて、親子のスキンシップだよ~。それよりもシンちゃん。とりあえず女の子の服とかいるよね」
「あ゛?別に、このままでいんじゃねェの?総帥服は大きいけど、私服なら着れるだろ?」
「駄目だよ!!そんな可愛い格好でシンちゃんがガンマ団内を歩いていると襲われちゃうよ!パパは許しません!!」
「じゃぁ、どうしろっていうんだヨ!俺は、女の服とかわかんねぇぞ。それに4日間ずっとひきこもってるのも嫌だし・・・」
「じゃぁ、パパがシンちゃんの服を作ってあげるから、それ着てパパに見せてよ。4日間パパとモデルさんゴッコしよう♪うーん、シンちゃんは猫耳とかバニー耳が似合いそうだなぁ。あと、キャンギャル風とか、女子高生風とか、婦警さんとか、看護婦さんとか・・・。あッ、ビデオも撮らないと!!」
鼻血を垂らしながら、シンちゃん人形を抱きしめているマジックに、シンタローはなんとなく背筋が寒くなった。
「(親父・・・。それってモデルさんゴッコじゃなくってイメクラだろうが・・・)ぜってー、い・や・だ!!」
「ええっ!?すっごく楽しそうなのに・・・。それじゃ、シンちゃんは他に何か案がある?もし無かったら、4日間モデルさんゴッコだよ??」
シンタローは、悩んだ。4日間イメクラゴッコは絶対に、したくはなかった。
そして、しばらく悩んだ末、あることに気がついた。
「あっ!そうだ!!とりあえず、俺がガンマ団内に居なかったら俺が女になったってバレないんだよな!?そんじゃ、俺、久しぶりに任務にでるわ♪部屋の修理もその間にできるし。新総帥は、風邪で静養中ということにしといてくんねぇ?個人任務が一番いいんだけど、今要請が来ているやつはというと・・・」
シンタローは崩壊した部屋の中を通り、なんとか壊れずに形を保っている丈夫な総帥机の引き出しをあけ、少し楽しそうに任務予定表を取り出した。
「んー。なかなかねェな。ン?なんだコレ?急遽マッチョな男性求む?・・・無理だな。じゃぁ、しょうがねェから2人組みの任務はっと・・・。うーん、あまり階級が下のやつと組むと後が面倒そうだナ。えーっと、幹部級の奴らは・・・。みんな遠征中か。この近くは・・・おっ、あるじゃん。何々?『女性パートナー急遽必要。パーティーへの同伴及びマイクロチップをボスから奪う手助け。でも、他のプランも考えてますさかい、なるべく無しの方向で』??なんか、えらいネガティブだな。提出者は、っと。あっ、コイツ、アラシヤマじゃん!!」
それを、傍で見ていたマジックが、口を挟んだ。
「シンちゃーん・・・。アラシヤマと2人っきりなんて危険だよ!!そんな美味しい状況で奴が調子にのって、シンちゃんが襲われちゃったらどうするの!?アラシヤマと2人きりの任務なんてパパは許しませんよ!!やっぱり、パパと2人で4日間モデルさんゴッコしようよ~。もしそれが嫌なら、どこか旅行に出かけてもいいよ」
(うーん。アラシヤマと2人きりも大変そうだけど、親父と2人きりで旅行というのも嫌だなぁ・・・。イメクラゴッコは論外。総帥になってからここ最近ガンマ団内ばかりだし、任務といっても大勢ついてくるし、久々に個人任務に出てみるか)
どうやら、シンタローの中では(アラシヤマではなく)任務の方が勝ったらしい。
「親父。やっぱ俺、任務に出るわ。アラシヤマとどうにかなることなんてありえねェし。それに任務の内容自体たいしたこともなさそうだし、心配すんなって。ホラ、『かわいい子には旅をさせろ』ってよく言うダロ?とにかく俺、もう任務に行くって決めたからな!!」
「シンちゃーん・・・(泣)」
「泣いても無駄。パーティーへの同伴か・・・。女物を着るのは嫌だけど、まァ、任務だと思えば我慢できるか。親父、悪ィけどいろいろと手配してくれねぇ?」
「可愛いシンちゃんの頼みならしょうがないか・・・(やっぱり、アラシヤマと一緒の任務だってのが気に入らないけど。まぁ、女の子になってもあれだけ戦闘能力が高いシンちゃんなら大丈夫か)。それじゃ、シンちゃんがパーティーの会場で注目度ナンバーワンになれるように準備するから待っててね~。あっ、もちろんシンちゃんは何もしなくても今のままで十分綺麗だとパパは思うけど」
「は~~~~い、ハイハイ。じゃぁ、頼んだわ」