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+ 対 話 +

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 風に揺らされる木の葉のざわめきが、得体の知れない不安を煽るように響いた。
 時折吹く少し暖かな風は、普段ならば心地よく感じられるはずなのに、今はその生温さがまとわりつくようで鬱陶しい。空が今にも泣き出しそうなほど曇っているためか、その風が少し不気味にも感じられた。
 ガンマ団本部の屋上には、恐ろしく緊迫した雰囲気が漂っている。この場所だけ急激に温度が下がったかように凍てついた空気にも似たものが、刺すように流れていた。
 建物内から屋上へ出る扉には「立入禁止」の札がぶら下がっているため、普段ならばここへ来るものは皆無と言っていい。だが、今この場には二人の青年がいる。
 どちらも百九十を越える長身で、無駄な肉の一切を削ぎ落としたかのように引き締まった強靱な体躯を誇っている。どちらも見る者の目を引くには十分な程存在感溢れる青年で、並んでもお互いに引けを取らない。
 同じだけ大きな身長と体格、異なっているのは身に付けているもの、そして髪と眼の色だった。
 片方は美しい金糸の髪に涼しげな青い眼を持つ。
 もう一方は、艶やかな長い漆黒の髪と、それと同様に黒い眼をしていた。
 二人の青年は黙ったまま正面に立った相手を殺気立って睨み付けている。
 その気迫はこの上ないほど凄まじいもので、この場の空気がまるで電気帯びたようにピリピリしていた。
 普通の人間が今の二人を見たら、本能に従って即座に逃げ出していることだろう。二人を良く知るガンマ団の団員達も絶対に近寄りたくはないはずだ。

 二人にとって目の前にいる者は、ただ対峙しているだけで気力も体力もすり減らす特別な存在だった。
 少しでも気を抜こうものなら簡単に噛みつかれてしまう。
 そのまま食いちぎられて地に沈む己の姿が容易に想像できた。


 それでも、双方剣呑な眼つきで睨み付け、物騒な雰囲気を纏ったまま一歩も引く様子がない。


 どちらが先に動くのか、どの様に仕掛けてくるのか。
 一瞬の迷いは敗北に繋がる。


 吹き往く風だけが、二人の間を幾度となくすり抜けていった。
 金糸の髪を揺らし、漆黒の髪を靡かせる。


 かなり長い時間睨み合いは続いて、ようやく先に動いたのは漆黒の髪を持つ青年であった。


 黒髪の青年は、風に乗ったかのようにふわりと飛び上がる。
 翼を持つ生き物のように、鋭くも軽快な動作で一気に距離を詰めた。
 そして、空を斬る音と共に突き出された拳はとても重く、一撃でも当たろうものならそれだけで即座に昏倒するだろう。繰り出される攻撃は勢いを増してどんどん激しくなっていくのだが、金髪の青年は何とか紙一重の所でそれらを見事に躱していった。
 容赦なく繰り出される攻撃が拳だけでなく踵も飛んでくると、それを避けたタイミングで金髪の青年が反撃に出る。黒髪の青年の足を素早く払った。そして倒れる体に狙い違わず強烈な一撃を加えようとしたのだが、その前に相手が地面に手をつき一回転して体勢を整える。こちらも鋭く突き出された拳は大きな音を立てて空を斬った。
 だがそれだけでは終わらずに、今度は金髪の青年が容赦ない攻撃を仕掛けていく。
 チャンスがあれば攻撃に転じていかないとやられるのは己になるのだ。
 それが誇張したものではなく厳然たる事実であることを二人は判っていたため、どちらも譲るような真似はせずに攻防を繰り広げていった。
 そんな中、先に攻撃をヒットさせたのは金髪の青年だ。
 手足を使った連続技で何とか黒髪の青年を追い詰めると、腹に一撃加える。
「…グ…ッ」
 その強烈な一撃を食らって青年は倒れるかと思ったのだが、その手を掴んで相手を捕まえると一発殴りつけた。
 横合いから顔面に一撃食らわせる。
「………ッ」
 金髪の青年の唇に血が滲んだ。
 黒髪の青年は更に蹴り上げようとしたのだが、次の攻撃は見事に避けられた。

 隙は絶対に逃がすまいとお互いに鋭い視線を投げ付け、激しい火花が散るような睨み合いが始まる。

 だがそれは短い時間だった。
 今度は二人同時に動き出す。
 突き出された拳は寸前の所で躱し、敏捷な動きで蹴りも避ける。
 ずしりと重い攻撃は当たれば相手に強烈なダメージを与えられるはずなのに、どちらも次の攻撃が相手に命中しない。手加減のない攻撃を何度も仕掛けていくのだが、それを簡単に食らってくれるような相手ではなかった。
 次で獲れると思っても寸でのところで逃げられ、距離をあけたかと思えば追い詰められてしまうのだ。
 二人は言葉を交わすことなく、ただ相手を追い詰めることだけに全神経を使って一進一退を繰り返す。
 相手の動きや空気の流れを瞬時に感じ取り、余所見などしている暇も与えずに、ただ目の前に対峙している己の半身だけを追いかけていった。

 風を切る音が何度も続き、それに時折鈍い音が混じり、長いこと二人は屋上で暴れ回った。
 それでも勝負の行方は一向に見えてこない。
 体力は激しい勢いで消耗していき、揃って肩で息をする。それでも決して相手に向かうことは止めない。


 二人はまた同じように幾度となく衝突を繰り返し、屋上に響く激しい音は鳴り止む気配を見せなかった。










「二人とも何やってんのーッ!!」

 如何にして相手を沈めてやろうかと二人が剣呑な目つきで睨み合っているところで、一際高い声が耳を塞ぎたくなるほど大きく響いた。
 瞬間、その場の空気がガラリと変わって、今まであった緊迫した雰囲気が一気に消え失せた。
 二人は揃って声がした方を向く。

 屋上への入り口付近に、金髪の長い髪を一本にまとめた従兄弟が、拡声器を片手に握りしめ呆れた顔をしながら二人を睨んでいた。

「グンマ?」
 今まで二人の青年の身を包んでいた物騒な雰囲気がなくなり、黒と青の眼がきょとんとしながら、突然現れた従兄弟を見つめた。
「もうー…シンちゃんもキンちゃんも何でこんなところで暴れてるの?」
 グンマは呆れ果てた様子で二人の傍まで歩み寄る。
「いやぁー…何でって…なぁ?キンタロー」
 傷だらけになりながらも、シンタローはケロリとした様子でキンタローにめくばせした。
「…色々とあるんだ」
 キンタローはその黒い眼に視線を返しながらシンタローの傍に歩み寄る。
 大きな従兄弟二人が並ぶと、グンマはその前に仁王立ちをして説教を始めた。
「色々じゃないでしょッ!二人が暴れ出すと僕の所に苦情がくるんだから止めてよねッ!!もう…周りの人達が可哀想だよッ!大体から、何でいつも真っ先に手が出るのッ?!」
「んなの、昔からじゃねーか」
「シンちゃんはね」
「俺もだ」
「ちょっとキンちゃんッ!!何シンちゃんみたいなコト言ってるのッ!!」
 小柄な従兄弟にキャンキャン吠えられて、大きな二人は肩を竦めた。
「僕たちには“言葉”ってものがあるでしょッ!!どうして普通に話し合いとか出来ないの、二人はッ」
「あー?立派な話し合いだろ、コレも」
「そうだぞ、グンマ」
「もうーッそうじゃないでしょーッ!!」
 微塵も反省している様子がない二人にグンマがまたもや大きな声で怒る。
 それに対して二人は瞬間的にはばつの悪そうな顔をしたものの、次いで視線を合わせフッと笑みを浮かべると、示し合わせたかのようにその場から走り出した。
「オラッ逃げンぞ、キンタローッ」
 シンタローに楽しそうな声で呼ばれたキンタローが素直に応じて走っていくとグンマは慌てて二人の後に続く。
「あ、ちょっと、まだ話は終わってないんだからッ二人ともーッ待ってよォ~っ」
 飛び降りるように屋上から階段を駆け下り、仲良く逃亡を図った二人の従兄弟を、グンマは必死になって追いかけていった。


 自分が追いかけたのでは二人の従兄弟を捕まえることが出来ないと思ったグンマが、丁度本部にいた身内という名の青の一族を使って二人を捕まえ、再度説教を始めるのはこれから少し後のこと───。


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(Before...「EITHER YOU OR I」)[BACK]



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+ 触 浸 +

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 まさか、本当にやってくるとは思わなかった。いや、だって、思わねぇーだろ。
 部屋に引き込まれて壁に押し付けられた瞬間、ヤバイ、とは思った。
 キンタローは普段から飄々としたヤツで、あんまり感情が顕わになったりしねぇーんだけど、時々アイツの青い眼はその時の心情を物語っているときがある。
 だから、今回もそうだと思った。意地の悪い光が見えたから、ゼッテェからかってんだコイツと思って、負けじと挑発してやった。そう出ればさすがのキンタローも後込みすると思ったからだ。オメェはまだまだ甘いなって笑ってやるつもりだった。
 だけど、俺は今、何されてる?
 まさか、コイツが本当にキスしてきやがるとは思わなかった。重ねられたキンタローの唇を感じた瞬間、完全に時が止まった。
 いくら冗談でも、普通なら出来ねぇーだろ?男相手に。
 そんな言葉が頭の中に浮かんだけど、それ以上何も考えられなかった。コイツの行動で度肝抜かれたことの方が大きかった。
 キンタローのことだから、きっとまた何かを勘違いして曲がった方向に行ったんだと考えて、思考回路に再起動がかかったところで、俺は逃れようと身を捩った。
 なのにコイツは俺を離そうとしない。キンタローの胸を押したら、強い力で抱き締められた。
 なぁ、違うだろ、キンタロー。
 引き返せる内に戻れよ。
 今なら、まだ、ギリギリ冗談の範囲で考えてやるから。
 キンタローが戻れないのなら、俺が引き戻すつもりで、密着した体から離れることに努めると隙をつかれて舌を入れられた。これは冗談なんかじゃねぇと俺は狼狽えて、何も考えずに逃げようとしたけど、それがキンタローを煽ったのか執拗に舌を絡められた。
 まだまだ世間知らずのお子様だと思ってた。
 こういうことには興味を示さないストイックなやつだと思い込んでた。
 でも、俺は知っていたはずだ。
 クールに見えても心の内側に熱い感情を秘めていることや、感じたものをストレートにぶつけてくることを。
 キンタロー、お前、今、何を感じてんだよ?
 今まで微塵もそんな素振りを見せたことはなかったのに、今のキンタローが俺を求めているのは明かで、コイツが感じたものを素直にぶつけてくると俺も衝撃を受けて流されていきそうになる。
 ただの口付けだとは思えないほど情熱的で、とても無視なんか出来ないくらい甘く激しく絡みついてきて、俺はキンタローに酔わされていった。体が快楽の刺激を受けて熱くなっていく。感じさせられている場合じゃねぇーのに、コイツが与えてくる刺激は抗い難くて、理性なんてものは簡単に吹き飛ばされていく。
 俺は自分がキンタローを拒むことが出来ないということを、初めて知った。
 苦しい、キンタロー。
 酸欠でクラクラしてるのか、それともコイツに酔ってクラクラしてるのか、判らないけど確実に受け入れてる。でも感情が追いつかなくて、俺はいつの間にか苦しさの余り必死になって耐えるようにコイツの上着を握りしめていた。
 キンタローが一度唇を離してくれると、俺はやっとの思いで呼吸をする。快楽で目に涙が浮かんでいることに気付くと間近でそれを見られるのが嫌で、少し俯いたままただ息を吸い込んだ。今ここにある雰囲気に惑わされてキンタローの腕の中から動けない。
 きっと、頭が上手く働かないのは酸素が足りてねぇからだ。
 そんな言い訳を考えたけど、俺はキンタローの顔を見ることが出来なくて俯いたままでいた。
 そしたら名前を呼ぶもんだから、仕方なく顔を上げる。
「シンタロー…」
 そんな声で俺を呼ぶんじゃねぇ…。
 聞き慣れたはずの声なのに、名前を呼ばれるなんて珍しいことじゃないのに、ゾクリと感じる。
 また壁に体を押し付けられた。更にキンタローは自分の体を押し付けるようにくっつけてきて、俺は逃げる気すら起こせずに、いとも簡単に再度口付けられていた。
 触れられたところから、何かがわき起こりそれに浸っていく。俺は陶然となって、足元から崩れていった。
 ダメだ、引き戻せ。
 判っているはずなのにキンタローを押し返すことが出来なくて、でも引き寄せることなんてもっと出来なくて、ただぶつけられる感情が起こす荒波の中に不安定な状態で立ちすくむしか出来なかった。
 だけどコイツがそんな生易しい状態で放ってくれるはずもなく、腰を抱かれてその手にまさぐられると、迷いながらももう降参するしかなかった。
 どうにも立ってらんなくて、俺は参ったと思いながらその場に崩れ落ちていった。
 留まろうとした努力なんて泡のように消えていった。
 壁に背中を預けたまま重力に身を任せて落ちていくことで俺はキンタローの腕から逃れる。格好悪ィとか降参なんてしゃくだなんて思いながらも、もう他に方法がなかった。
 でも、甘かった。
 キンタローは膝をついて俺の傍に屈むと体勢が崩れたままの俺に被さるようにして尚も求めてくる。
 キンタローが自分を押さえられなくなっているのが伝わってきたけど、そんなことよりも完全に退路を断たれた俺はここからどうすればいいのかが判らない。
 手繰り寄せた理性には混乱の糸が絡みつき、沸き起こる快感に少しずつ浸っていく。

 よせ、キンタロー。

 そう思ったのに、もう俺は、キンタローしか感じられなかった。


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(FROM...「Deep Kiss」)[BACK]


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+ 接 触 +

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 シンタローは挑発すれば必ず乗ってくる。俺はそう考えて、計算通りに仕掛けた。


 普段、シンタローは俺のことをからかってくることが多い。だから少しだけ仕返しをするつもりで、仕事後の別れ際に、部屋の中へ引きずり込んで口付けた。
 軽く触れて終わりにするつもりだったのが、シンタローが思いの外、挑戦的な反応を示したので、最初の接触から勢いづいたものになってしまった。それでも俺の行動を予測していなかったシンタローが明らかに腕の中で固まったのを感じると、してやったりと思い、そこで満足───するはずだった。
 重ねていた唇を俺が離そうとするよりも先に、我に返ったシンタローが胸を押して離れようとした。だが俺はそこで急に離れ難くなり、腕に力を込めて引き留めるように強く抱き締めた。
 俺はシンタローを捕らえているこの状態に興奮を覚えたのかもしれない。
 味わったことのない感覚が、少しずつ覚醒していくのが判った。
 目覚める感覚なのに、だんだん思考が鈍くなっていく。
 結局、相手を簡単に解放することが出来なくなり、俺は重ねただけの唇では物足りなくなってきた。
 軽く身を捩ったくらいでは俺の腕から逃れることが出来るはずもなく、シンタローが俺の腕から逃れることに意識を集中させるとその隙をついて更に深い関わりを求める。
「…ァ……ッ」
 俺の舌が入り込むと度を失ったシンタローの体がビクリと跳ねた。
 だが俺はそれに構わず、逃げる舌を追い詰めていく。
 極上の獲物を仕留める寸前にある悦楽のような感覚に俺も酔わされて、行き場を失った舌を絡め取り、嬲り、ゆっくりと口腔を犯していた。相手がシンタローだということが、俺をよりいっそう高揚とした気持ちにさせてくれた。名前が判らない心地よい感覚に酔いしれていく。
 拒むように俺の胸を押していたシンタローの手が、いつのまにか俺の上着を握りしめていて、それに愉悦するような感覚が心を支配していき、俺の中にある何かを呼び起こそうとする。
 俺が良い気分になって唇を味わっていると、シンタローが苦しそうに眉根を寄せていることに気付く。仕方なく解放してやると、シンタローは少し俯いて酸素を取り込む。俺の支えがないと立っていることがままならないのか腕の中から逃げようとはしなかった。伏せられた目元が快楽に潤んでいるのは明かで、その艶に焦がれた俺は、結局束の間の解放しか出来なかった。
「シンタロー…」
 低い声で名前を呼び、僅かに俯いていた顔を上に向けさせると、衝動的に体を押し付け狂おしいほど口付ける。
「……ンッ」
 体に熱が篭もっていき、だがその解放の仕方が判らずに、俺はただシンタローを感じたくて、止め処なく沸き上がる激情の渦にのまれていった。
 シンタローが欲しい。
 そうだ、俺はシンタローを欲している。
 今のままでは物足りない。
 もっと、もっとシンタローを感じたい。
 壁に背を預けて俺を受け止めていたシンタローは、それだけでは支えにならないようで縋り付くように腕を伸ばしてくる。その姿に名前の判らない感情を感じて、俺は崩れ落ちていきそうになる体を腕で抱き留めるられるように腰に手を回した。そのままもどかしさに手を動かすと、シンタローの膝がガクリと折れる。体の重みが腕に加わり、シンタローも必死に体勢を留めようと手を伸ばしてきたのだが、俺も体を支えきれなくてずるずるとその場に崩れ落ちていった。
 俺はそれでもシンタローを離すことが出来なかった。
 お前が欲しい、シンタロー。
 そばに膝を突いて覆い被さるように唇を重ねたまま、これ以上進むことが出来ない苛立ちとともに俺を支配している感情を伝えようと懸命になる。
 シンタローとの接触で体に走った電撃が、まだどこかで眠っていた回路を起動させたのか。
 今まで感じたことのない何かを感じながら、その意味も判らずに、俺はただシンタローを求めた。


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(FROM...「Deep Kiss」)[BACK]


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+ 雨のち晴れ、否、落雷と... +

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 ガンマ団本部は今月に入って本日で四回目の爆発が起きた。
 三回目までは爆発を起こした本人相手にシンタローが鬼の形相でブチ切れた。
 だが、今回の四回目は、普段なら宥め役に回るキンタローが珍しくも怒った。


 そうなると、普段と配役が異なってくるようで、キンタローに怒られて大声で泣きじゃくるグンマ博士の宥め役が、今回はシンタローに回ってきたのである。


 研究室に着いたときは、シンタローにしがみついてわんわん泣き叫んでいたグンマだが、シンタローが文句を言わずに黙って付き合っていた甲斐があってか、次第に落ち着きを取り戻し、今現在は大好きなお菓子を口にしながら、時折笑みを浮かべてシンタローに話しかけている。
 シンタローは頷きを返してグンマの話し相手をしつつも、心の中で一つ溜息をついて、グンマの右腕に巻かれた包帯をそっと見つめた。


 それから、今グンマの研究室で後処理をしているであろうもう一人の従兄弟の姿を思い浮かべた。






 研究室の爆発が起きたのは日付が変わる二時間ほど前であった。そのぐらいの時間では、まだ各々の研究室で勤務している者達がかなりいる。
 シンタローも例にもれることなく総帥室で仕事をしていたのだが、突然大きな爆発音が聞こえると、即座に頭を抱えた。確認するまでもなく、誰が犯人かが直ぐに判ったからである。
 アイツは何度言ったら解ンだよと思いながら、直ぐに総帥室を出て従兄弟の研究室がある場所へ向かった。
 総帥と擦れ違う団員達はその形相に恐れをなして、普段よりも三割増で固まりながら敬礼をしていたのだが、シンタローの方はそれどころでなかった。
『グンマのヤロー…何回研究室ブッ壊せば気が済むんだよッ』
 心の中で悪態を付きながら足早に爆発現場へ向かったシンタローだが、研究室にたどり着く前に大声で泣きじゃくるグンマの声が聞こえてきた。
 自分で起こした爆発に驚いて泣き喚くグンマは毎度のことなのでシンタローは気にせず足を進めていたのだが、次にキンタローの怒鳴り声が聞こえると驚きのあまり一瞬足を止めて、次に走って二人の元へ向かった。
 シンタローがグンマの研究室があるフロアまで駆け上がってくると、まだ勤務していた研究員達が数歩下がった位置から二人の様子を窺っているのが判る。爆発以外に何かあったのかと思いながら走ると、キンタローの怒声が尚も聞こえてきた。
『こりゃマズイな…』
 自分の相棒が本気で怒っているのが判ったシンタローは、研究員達の群をかき分けて中へ入る。
「キンタローッグンマッ」
 シンタローが二人の間に割って入ると、涙で目を真っ赤にしたグンマが真っ先に飛びついてきた。
「シンちゃーんッキンちゃんが恐いーッ」
 シンタローにしがみつき胸に顔を埋めて泣きつくグンマに「お前、何やったんだよ…」と声をかけながら、次にキンタローに視線を向けた。シンタローが来たことでキンタローは黙り込んでしまったのだが、荒立った感情が納まっていないのは一目瞭然だった。
『キンタロー……アイツ…───』
 キンタローの青い眼が鋭い視線を投げ付けてきて、一見だととても恐いのだが、よく見ると本人が震えている。
 シンタローは二人の従兄弟をどうしようかと一瞬迷ったのだが、キンタローに後片付けを任せるとグンマを連れて急いでその場を離れた。


 何故ならば、怪我したグンマの血がシンタローの総帥服の一部分を赤黒く染めていたからであった。


 そのまま医務室に直行して、怪我の手当をするときも「痛いーッ」と大声で泣くグンマをシンタローは何とか宥めて、それから少し気持ちを落ち着かせようとリビングへ連れていった。
 泣く以外は大人しくシンタローに付いてきたグンマだが、怪我をしていない方の手でシンタローの腕を取るとそこから離れようとしない。シンタローもグンマの体が震えていることに気付いていたから、振り払うような真似はせずに、そのまま放っておいた。
 グンマに大人しく椅子に座って待っているように言うと、シンタローはキッチンへ向かう。急いでお湯を沸かすと、リビングに待たせている従兄弟が好きな、甘い紅茶やお菓子を用意して持っていき、グンマの正面にある椅子に腰を下ろした。
 シンタローから離れて最初は震えていたグンマだったが、少しそれが納まるとまず温かい紅茶に手をつけ、それから大人しくお菓子を口に運ぶ。
 シンタローは黙ったままグンマの様子を窺っていたが、当の本人は無言のまま何度かそれを繰り返すとしっかり落ち着いたようで、泣き腫らして赤くなった目に笑みを浮かべながら「ありがとう、シンちゃん」と一言礼を言った。その一言が普段と変わらない口調に戻っていたので、シンタローもひとまずは安堵する。
 それからグンマの他愛もない話に付き合い、大分時間が経った頃に『もう大丈夫だろう』と様子を見ながら話題を変えた。
「グンマ」
「なぁに?シンちゃん」
「お前、キンタローが何で怒ったか解ってるか?」
 シンタローがキンタローの名前を出すと、途端に表情が翳り、グンマは俯いたまま黙り込んだ。
 シンタローはそんな様子のグンマを根気よく待つ。
 正面に座った黒髪の従兄弟が無言のまま自分の台詞を待っていることに気付くと、しどろもどろになりながらもグンマは口を開いた。
「僕…が……懲りずにまた実験に……失敗…したから…」
「違う」
 グンマの大きな目には、再び涙が溜まってきていたのだが、シンタローの一言に少し驚いた表情を浮かべて顔を上げた。
 シンタローは特に怒った様子もなく、静かにグンマを見つめていた。
「違うの…?」
 グンマの問いかけにシンタローは頷きを返すと、再び口を開く。
「キンタローが恐かったか?」
 その問いかけに、少し躊躇いを見せたグンマだったが、素直に頷いた。
「凄く?」
「うん…とっても…。あんなに怒ったキンちゃん…僕、初めて見た…今までだって何回も…僕、実験の失敗はやってるのに……あん…な、キン…ちゃ……恐か……ッ」
 グンマの台詞を大人しく聞いていたシンタローは、目の前で泣きそうになっている従兄弟をジッと見つめながら静かに口を開いた。


「お前、怪我しただろ?」


 予期せぬ一言がリビングに響いて、グンマはきょとんとした顔をした。次いで自分の右腕を見る。
「お前が恐かったって分だけ、キンタローは凄いビックリしたんだよ、その怪我を見て」
 シンタローの言葉を聞きながら、先程医務室で手当をしてもらった際に捲かれた真っ白な包帯を見つめた。
「僕が…怪我をしたから…?」
「お前ってどんな強運持ってんだか知らねーけど、どんなに研究室ブッ壊しても何でか無傷じゃねーか」
「じゃぁ…」
「そう、だからキンタローは怒ったんだ───意味、解るよな?」
 最後の台詞は、グンマの耳に優しく響いた。
 キンタローの気持ちを理解した瞬間、グンマは感極まって勢い良く立ち上がる。
「僕、キンちゃんのことひどく言っちゃったよ…謝りに行かなきゃッ」
 半泣き状態で慌ててリビングから出ていこうとしたグンマにシンタローは片目を閉じてドアを指した。
「今、来るゼ」
 その台詞に驚いてグンマがシンタローを振り返ると、言われたとおりにリビングのドアが開く。
 忙しなく首を動かして、またグンマが背面を振り返ると、自分と同じ青色にあった。
「キンちゃんッ」
 普段なら真っ先にシンタローの元へ行く従兄弟だが、今は入口で立ち止まったまま目の前にいるグンマを青い双眸にしっかり映している。
 そしてグンマの右腕に視線を移すと、辛そうに顔を歪ませてそっと腕を取った。
「グンマ……怪我は?」
 悲痛に染まった声色は、どれ程心配をしてくれたかが、聞いた者全てに判るような響きを持っていて、グンマはそれが心に痛くて泣きながらキンタローに抱きついた。
「大丈夫だよ~ッうわーんっゴメンネ、キンちゃんッ心配かけてゴメンナサイッ」
 強い力で抱きつき、泣きながら捲し立てるグンマに、キンタローは目を白黒させる。
「恐いって言ってゴメンナサイッキンちゃんの気持ちに気付かなくてゴメンナサイーッわ~~んッ」
 キンタローは、泣き出したグンマにどう対応すればいいのか判らなくて、驚きと共に戸惑いを見せる。
 そんな従兄弟にシンタローは、
「グンマが凄い勢いで謝ってんだぜ。お前は何かねーの?」
と優しく笑いかけた。
 シンタローにそう言われて、キンタローはグンマの勢いに押されたために飲み込んでしまった自分の言葉を思い出す。
「いや、グンマ…俺も怒って悪かった…怒鳴り声を上げてすまなかった……その…恐かった、だろう…」
「恐かったけど良いのッキンちゃんが僕を心配してくれた気持ちだからっキンちゃん大好きーッ」
 シンタローに向かって「大好きッ」と言いながら抱きつくグンマの姿は見慣れていたが、まさか自分が抱擁を受けながら同じ台詞を言われるとは思っていなかったキンタローは、驚きのあまり完全に固まってしまった。

 グンマの腕から流れる血に驚いて、我を忘れて大声で怒ったのは、つい先程のことだ。
 あんなに怒鳴り声を上げたのだから、嫌われてしまっても仕方がないと思っていた。


 キンタローが困惑した表情でシンタローを見ると、柔らかな微笑と共に頷きを返される。
 キンタローは戸惑いながらも宥めるように、グンマの頭をそっと優しく撫でた。


─ 後日談 ─

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[BACK]


+
   

 ホシウミ湖の近くで、コタロー様をどうやったらガンマ団に連れ戻せるか、アラシヤマと仕方なく一緒に行動をしていた時のことだべ。アラシヤマは、
 「お星様――ッツ!届けわてのバーニング野望vv」
 と叫んでいたので、オラは、
 「アラシヤマぁ、大体は想像つくけど、お前の野望ってなんだっぺ?ほら、空見てみっぺ。お星様は願いを聞き終わんねーよーに流れまくっとるべ。それって、絶対叶わないんでねぇべか?」
 とアラシヤマに言った。するとアラシヤマは、
 「何を言ってはるんどすか。これやから、顔だけのお人は・・・。わての野望が叶わないわけおまへんやろ。まぁ、昇進は別にお星様に願わんかて、わての実力でどうとでもなりそうどすけど、問題は、シンタローはんどすな。ガンマ団にいた時かて、毎日欠かさずバーニングラブvって言ってましたのに、全然手ごたえがおまへん。一体いつになったら心友になれるんやろか」
 と言ったので、オラは呆れた。
 (こいつ、根暗やけど頭だけはいいと思ってたのに、考え直した方がいいべか?)
 どうして、オラがアラシヤマなんかにこんな親切に教えてやらなきゃなんねぇんだべと思ったが、まぁ、オラはトットリほどアラシヤマが嫌いでもないので教えてやることにした。
 オラは可愛い女の子以外の野郎はアウトオブ眼中だから、好き嫌い以前にアラシヤマの事なんかどうでもいいけど、一応こいつも数少ない同期の“仲間”のうちに入るし、しょうがないべ。
 「おめ、シンタローにそがいなこと言っとるんだべか?そりゃ、野望も叶わないはずだっぺ。そもそも、おめさ、友情というところでまちがっとるべ。オラぁ、トットリのことはベストフレンドやと思ってるけど、トットリにラブなんて言ったことないっぺ。“ラブ”は、親友やなく恋愛の意味で好きな人に言うもんだべ」
 アラシヤマは、しばらく悩んでいたが、
 「でも、わてはホモやおまへんえ?男をみても、全然可愛いとか思いまへんしな!あっ、シンタローはんは別やけど!!」
 「・・・その、別という所がヤバイんでねぇべか?ガンマ団の外には可愛い女の子がたくさんいるっぺ。おめ、一生友達できなさそうだから、親友よりも恋人を探した方がいいと思うべ。オラほどでなぐても、おめさはそんなに顔が悪いわけでねぇから、そのうち好きになってくれる女の子もいるはずだっぺ?」
 と、オラは親切にもアドバイスしてやったが、アラシヤマは煮え切らない態度だった。
 「わては、髪が長くて、料理が上手で、笑顔が可愛くて、少々俺様体質でも根っこの所で優しい子がええんどす・・・」
 (こいつ、明らかに特定の人物を思い浮かべて言っとるべ。なんだか、惚気られてるようで嫌になってきたべ)
 「アラシヤマ、オメさ、結局ホモだべ。そういや、木にもシンタローとの相合傘彫ってたっぺ。オラには全く分からねぇが、シンタローを好きなら好きで仕方ねぇんでねえべか?」
 と正直に思ったことを言ってやると、アラシヤマは何やら
 「うーん・・・。まぁ、恋人と親友が一緒でもええですやろ。むしろ、一生一緒にいるということを考えた場合、一石二鳥どすしな・・・」
 とかブツブツ言っており、その後、
 「じゃぁ、今から野望は少し変更どすな!お星様――!!やっぱり、シンタローはんをわての恋人にということも願い事に追加しといておくんなはれ~!」
 と、叫んでいた。
 「――――アラシヤマ。もう朝だから、お星様はいなくなってるべ。結局、野望は叶わないんじゃ・・・」
 とオラが言うと、アラシヤマは
 「あんさん、ほんまに顔だけで頭が軽いでんな!お星様は見えなくても、ちゃんと空の向こうにいるんどすえ?だから、わての野望は叶うんどす――!!」
 そう言った。
 オラを馬鹿にするアラシヤマの性格の悪さにかなりムカついたが、まぁ、こいつの野望が万が一叶ったりしたら、オラもお星様に何か願ってみてもいいかと思った。







何故か、ミヤギさん視点です。でもアラシン!(と言ってもいいのかなぁ・・・)
ミヤギさんの言葉がよく分からなくて、偽者ですみません・・・。

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