Act.1
「早いもんですね…二人ともあんなに小さかったのに…」
ファンシーヤンキーランドの一角のベンチで、高松は横に座っているサービスに言った。
自分がシンタローへの祝いとして連れてきた犬の毛を指に絡めて遊んでいたサービスは高松の視線の先を見る。
「子供が大きくなるは早いとか言うのを聞いてたけど…やはり身近にいるとそう思うよ」
そこには、緊張した面持ちでメリーゴーランドの馬にしがみついているシンタローと、乗りたいけどやっぱりこわいというのでハーレムに付き添われて馬車に乗っているグンマの姿があった。
マジックからのシンタロー四歳の誕生プレゼントは『遊園地貸し切り』という豪華なものだった。
だが、残念なことに発案者のマジックは緊急の仕事が入ってしまい中座、取り残されたシンタローは、招かざる客こと叔父のハーレムに焚きつけられて、こともあろうか某国のお偉いさんだというヤンキーをカツアゲしようとして愛の御仕置きをくらってしまった。
あわや外交問題に発展か?という緊張が大人たちに走ったが、そこは子供を焚きつけたハーレムが悪いということで収まり、ハーレムが謝罪をすることによって解決した。
そして、当のハーレムはというと
『誰があれくらいのことで済むようにしてあげたのか考えてみたら?』
…と、仲裁をした弟から言われ
『体力バカのアンタにはうってつけの仕事ではありませんか。シンタロー様、グンマ様、誕生プレゼントを持ってこなかったお詫びに、ハーレム叔父様が乗り物に乗せてくれるそうですよ』
と高松に言いくるめられ…罰としてグンマとシンタローに園内を引きずり回されている。
それでもジュース代、ソフトクリーム代その他を自分の分まで上乗せしてせしめていくあたりがハーレムらしかったが。
ガタン、ゴトンと重い音をたてて、メリーゴーランドがゆっくりと動きはじめる。
「たかまつー!」
グンマの甲高い声に、高松はそっちを見た。
体をしっかりとハーレムに抱きかかえられたグンマが高松に懸命に手を振っていた。
「あぶねーぞ、そんなに身を乗り出したら落ちるじゃねぇか」
保護者の前でそんなことが起きたら、自分は明日は実験室でホルマリン漬けになっていると思い込んでいるハーレムは必死にグンマを抑えていた。
そして、
「サービスおじさーん」
回り始める前は必死にしがみついていたシンタローも、なんとか手を振っている。
「なんだかんだで子守が似合っているじゃないですか」
それに高松は手を振って応えてやり、サービスもそれに倣うと、ますます身を乗り出そうとするグンマと、こともあろうか両手離しをしようとするシンタローを怒鳴り続けては、さっきまでグンマに言っていた『身を乗り出すな』になっているハーレムがそこにいた。
喧噪の元が反対側に回り、ようやく落ち着いた頃、高松はタバコを取り出し火を点けた。
悲鳴が聞こえないところを見ると、ハーレムはちゃんと言い渡された使命を果たしているのだろう。
「あの場に総帥がいらっしゃらなくてよかったですねぇ。いたらここはどうなっていたことやら」
シンタローが愛のお仕置きを食らったときマジックがいたら…このファンシーヤンキーランドは全壊していただろうと、高松は思う。
「兄さんならやりかねないだろうね。その前にハーレムが半殺しになってると思うけど」
「それくらいで懲りる男じゃないでしょ。まーでも彼が来たおかげで救われたところもあるんですから。総帥も邪険にはしないと思いますよ」
「救われた?」
眉をひそめたサービスの横顔が、さっきシンタローに見せていた笑顔とはまるで違う、厳しいものになっていた。
「…今日ここに呼ばれている招待客の顔ぶれをみたでしょ」
「ああ…」
二人の兄、マジックが中座しハーレムが揉めごとを起こしたため、ゲストたちへの挨拶や応対はサービスの仕事になってしまった。
しぶしぶながらも引き受けたサーヒスだったが、各国のお偉方を相手にしての接待は全く卒がなく、高松を唸らせたのだった。
「シンタローはあなたには招待状を送ったそうですが…ハーレムはもらわなかったとか言ってましたね」
サービスは、自分がもらったシンタローが自分で作ったらしい、クレヨンでかかれた招待状のことを思い出した。
「みたいだけど」
「まあハーレムがどこでかぎつけたかは知りませんが。彼が来なかったらどうなっていたことやら」
「何が?」
競馬ですって小遣いをたかりにきただけじゃないか、と高松に向けられたサービスの冷ややかな視線が言っていたが、高松は否定した。
「今日ここで、あなたとハーレムがいなかったら…もしくはどちらかが欠けていたら、あの人たちは『青の一族は磐石ではない』という情報を国に持ち帰っていたでしょうね」
高松の視線が移った先には、それぞれ遊園地での一日を楽しみ、ガンマ団に連なる子供の無邪気に遊ぶ姿を見ながらも、外交を忘れない各国のお偉方がいた。
これだけ大勢の客がいても、幼子の誕生日を無邪気に祝える大人は、残念ながらごく一部だけだった。
「おまえからそんな言葉が聞けるとはね」
「ガンマ団に何かあったら、グンマ様にも累は及びますから」
「グンマがかわいくてたまらないんだね」
驚嘆に少しの皮肉を込めて言ったサービスに、
「ええ。本当に利発でかわいらしい方です」
と返事をした高松は笑みさえ浮かべていた。
偽りや打算のない穏やかな微笑みと眼差しの先には、あの子供がいる。
あの夜、突然泣き出したらどうしようと恐れながら頼りない体を抱き上げて、この男に渡した子供が。
これが望んでいたあるべき姿というなら満足のいく結果だというのに、サービスはどこか胸が締め付けられる錯覚に囚われる。
実際に締めているものは何もないというのに。
この苦しさは高松にはないのだろうか、とサービスは旧友の横顔を見た。
だが彼はもう一度回ってきたメリーゴーランドにいる子供たちに手を振って答えるのに忙しく、サービスの方をちらりとも見ない。
そうするうちにメリーゴーランドは動きを止め、降りてきた子供たちは見守っているだけの保護者のことは忘れ、今こき使うことのできる『子守』の手をとって次の目標に駆け出した。
「じゃあ…私はこれで」
サービスはベンチから立ち上がり、服の裾の乱れを直す。
「もう行くんですか?」
行き先は誰にも分からない、本人さえも知らない当て所のない旅に戻るサービスは、やや寂しさの篭っている旧友の眼差しを敢えて見ないで答えた。
「あまり長居するつもりはなかったんでね」
「シンタローくんが寂しがりますよ」
サービスは暫く何か考えていたが、高松の手を取りつれてきた犬の綱を握らせると、
「よろしく言っておいてくれ」
とだけ言い、振り返りもせずにひっそりと立ち去った。
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「おいッ!テメーまた洗濯手抜きでやりやがったな!!」
「い、いえッ滅相も御座いませんです!!」
「嘘吐け、このヤンキーが!!」
「えぇ?!ヤンキー関係ないんじゃ…ってスミマセン、口答えしてゴメンナサイ!!」
スライディングでシンタローの前までいき土下座。
最近これが日課になってしまったお姑さんとの日常。
俺は普段決して手抜きなどしない、したらパプワに叱られてたからな…。
だが、シンタローさんが来てからは構ってもらいたくて。
シンタローさんにしか見抜けないくらいのミスをする。
今日は洗濯の時の洗剤カスが残っていたらしい。
,
「ったく、よくもまぁこんなミスを毎日毎日…パプアもよく耐えられたもんだ」
「も、申し訳無いです…」
「…テメー、こんなんでよく4年も保ったな」
「…はぁ」
4年の苦労を馬鹿にされるのは屈辱だった。
でも俺のやり方なら当然か、と開き直る。
「さて…俺は此処で残りの洗濯をしてっからテメーはパプアを探してこい」
「は、はい、行ってきます!」
飛び出すように出て行くリキッド。
その後ろ姿に溜め息を吐いてしまい何の言葉も出てこない。
シンタローは残っていた洗濯物を干し始めた。
「シンタロー」
「えッ…ぱ、パプア?!」
「…リキッドはどうした?」
周りをキョロキョロ見渡してから現番人を目で探す。
しかし姿形もなく目の前にいるのはシンタローのみ。
「ついさっきお前を探しに行かせたんだが…」
「僕はチャッピーと一緒に湖で水遊びしていたぞ」
「ワゥ」
「ったく、お子様は涼しく水遊びかよ」
「お前たちも洗濯に水を使ってたじゃないか」
「…あれは家事で遊びじゃねぇんだよ」
「でも使っていたぞ?」
パプアは負けじと引く気配はない。
そんな子供の様子に引かない自分を大人気なく感じて。
「…もうイイ…ところで、俺はリキッドを探しに行くけどどうする?」
「僕等も手伝ってやる」
「……サンキュ」
4年前と変わらないパプアの性格。
素直じゃない言葉の裏にはちゃっかりとリキッドを心配している。
そんな行動がまるで自分みたいで面影さえ感じていた。
しばらくしてジャングルに迷い込んだ。
パプアやチャッピーは歩きなれた道なのか迷うことなく進んでいく。
シンタローは黙ってついて行くだけ。
「…なぁパプア…」
「ん?」
「普段のリキッドの奴のさ…家事の様子ってお前から見てどうだったんだ?」
「真面目だぞ。ま、シンタローの時とは違って始めから上手くなんてなかったがな」
「そっか…」
「でも、シンタローが来てから手を抜くようになった」
「…俺のせいみたいに言うなよ」
だが、確かにパプアの言うとおりかもしれない。
俺が家事をするようになってからリキッドは手抜きを始めた。
何故なのか…ある程度は出来ていないとパプアは納得してはくれない。
つまり俺がくる以前はパプアが納得出来る程度は出来ていたことになる。
確かコタローを迎えに来た時の朝食…。
あれは良かった、あんなにも美味いものを毎日食わせてもらっていたと知った時。
本当に嬉しかった。
ま、俺ならアレの何十倍も美味い飯を作れっけどなッ。
でもコタローのそばにいたのは俺じゃなくてリキッド。
長年待っていた。
コタローが目覚めて家族として暮らせるようになることを。
危険だからと言って日本に監禁していた親父も。
まだ自覚はたりないがコタローの本当の兄であるグンマも。
まだ家族というものに馴染めていないながらも大切な存在だと理解できているキンタローも。
総帥という新しい地位を受け継ぎ今度こそ愛しい弟を守ろうと心待ちにしている俺も。
少し安心していてアイツに気を許していたらサボるなんて家政夫の風上にもおけねぇ。
見つけたら問い詰めてやる。
「…おい、シンタロー?」
「えッ、あ、何だ?どうかしたのか?」
「…ボーっとするな、リキッドを見つけてやったぞ」
パプワが指差した先にはパプワーッ!と呼びかけ探しているリキッドの姿。
こんなところからでも見ていれば真面目に探していて。
赤の番人の役割を果たせてんな、って思えるのに。
何故自分の前だと手を抜きわざわざ叱られるような事をするのか。
もしかしたら特戦にいた頃に同僚や上司からの虐めで芽生えたMっ子気質が彼をそうさせているのでは?
「…んな訳ねぇか」
「何か言ったか?」
何でもねぇ、と言い返してまたリキッドを見る。
どうやらまだパプワを探しているらしい。
,
普段サボってる罰として暫く探させるか。
などと考えてたら隣に居たはずのパプワがいつの間にか居なくなっていた。
まさか、と思い再びリキッドを見ると居た。
チャッピーに跨り乗って悠々とリキッドの目の前に姿を現す。
「チッ…パプワが行ったなら………」
渋々2人の元に向かおうとしたら何か聞こえてきた。
耳を澄ませてみれば目の前の2人の会話だとわかって。
「ぱ、パプワ?!今までドコに居たんだ?探したってのに…」
「おい、最近お前シンタローに叱られてばっかりだぞ」
「げっ!」
「何で手抜きするんだ?シンタローはカンカンだぞ?」
「あ…いや……お、俺だって…やらなきゃ駄目だって分かってんだけど…」
「分かってるならシンタローの足を引っ張るような事をするな」
驚いた。
パプワにそこまで想われてるなんて夢にも思わなかったから。
無性に嬉しくなって思わず頬が微かに赤く染まる。
「わ、悪い…でも…俺、近くにシンタローさんが居るとさ…つい見とれちまうんだよ」
見とれる?
「料理してる時のなんか楽しそうにしてる顔とかさ、洗濯してて綺麗になったときの嬉しそうな顔とかさ」
顔しか見てねぇじゃねぇか。
「すっげー綺麗でさ、可愛くも見えんだ…」
可愛く?
ちょっと待て…コイツ何言ってやがんだ?
何親父みたいに男前な俺様に向かって可愛いなんてぬかしやがってんだ?
「指とか綺麗だし、大きな背中とかもカッコイイし…」
…結局何が言いたいんだ?
「でも、そんなシンタローさんは俺を全く見てくれない…飯の時も遊ぶ時もパプワとばっかり喋って…俺との会話は比較的に少ない…」
「ヤキモチか?」
「うっ…そ、そうかもしれない…」
否定はしねぇのかよ。
「だから…とにかく俺を見てほしくて瞳に映してほしくて喋りたくて…手抜き…しちまったのかな…はは、俺どうしちまったんだろ」
男が男に変だよな、と自分を嘲笑うような笑みで俯くリキッド。
そして、自分の存在がリキッドにそうさせたのだという罪悪感。
本人の目の前に出るに出られないというもどかしさが嫌になり。
,
「けッ、やってらんねぇってんだ」
さっと立ち上がって2人から見つからないように先周りをしてパプワハウスへと向かう。
そして無意識の内に全速力で走っていた。
パプワハウスに着いて扉に手をつき走ったせいで荒れた息遣いをおさめようと深呼吸。
何故走ったのか、走る必要などなかったハズなのに。
そんな疑問が頭の中を駆けずり回ってガンガンと頭痛のように痛い。
「……ったく、何だってンだよ…」
そんな頃、パプワやリキッドはまだ話し合っていたのだがシンタローがなかなか出てこない。
もしかすると先に帰ったのかもしれない、と考えてリキッドに。
「シンタローが待ってるからさっさと帰るぞ」
「あ、あぁ……なぁ、俺また怒られるかな…?」
「…ちゃんと理由を言えばシンタローだって分かってくれる、なんたってシンタローだからな」
まるで自分の事のように自慢気に言うパプワに笑みが漏れた。
プッと笑うと笑うなッ!とチャッピーに頭を噛みつかれた。
痛い、こんな事をシンタローさんは4年前に体験し耐えてきたのか…尊敬します。
なんて考えながら頭から流れる血をハンカチで拭き取る。
「なぁパプワ…俺が手抜きしてること、シンタローさん怒ってるよな」
「当たり前だ、だから帰ったら謝るんだぞ」
「…わかった」
俯きながら愕然となる。
改まって聞く事じゃなかった、怒っていることなど当たり前だ。
まるで、この世の終わりを思わせるような絶望感に満ちた顔での溜め息。
そんな赤の番人に呆れてしまうパプワとチャッピー。
パプワハウスに戻ってくると扉の前でシンタローが立っていた。
まさに仁王立ち、リキッドたちの姿が見えると腕をくみ。
「遅い!遅い!お前パプワを探しに行ったんだよな?なのに逆に探してもらうってのはどういうことだ?しかも俺1人に飯の準備させやがって…一体何様のつもりだぁ?」
「も、申し訳ないっす!スミマセンッ!」
またまたスライディングで土下座する。
しかし、シンタローはその上からリキッドの背中をゲシゲシ足蹴にし上から見下ろす。
「スミマセン!謝りますから蹴らないで下さいッ!」
「あぁ?テメーはいつから俺に指図するようになったんだ?」
「ず、ずびばべん゛……」
泣きながらの謝罪に満足したのか溜め息を吐いてから足を退けてパプワハウスから離れていく。
「さっさと飯に行け、俺は先に水汲みに行ってくっから」
「い、いえ!俺が行きます!シンタローさんが先に」
「いいから先に食え、其れとも俺が作った飯が食えねぇってのか?」
「お先にいただいています、行ってらっしゃいませ」
土下座で見送りパプワハウスへと入ればパプワから何故か注目を浴びる俺。
あぁ、どうせ分かってるさ、シンタローさんは何処かって言いたいんだろ!?
「シンタローに謝ったのか?」
「えッ…そ、そっち?いや、まだだけど…」
「飯くらい1人で食える、チャッピーもいるしな」
「ワウッ!」
「…だから先に謝って来い」
まさか、こんな子供からこんな言葉を聞けるなんて思いもよらなかった。
何時もは俺たち2人には命令形で口を利くくせに、嫌にこんなことに敏感で鋭い。
更に気を遣わせてしまっている俺って一体何のためにパプアのそばにいるのだろうか。
こんな子供に気を遣わせるなんて、大人の風上にもおけないな。
「ごめん、パプア…すぐに戻るから!」
それだけ言って勢い良くパプアハウスを飛び出すリキッド。
シンタローと別れてからまだ時間はそんなに経っていないと確認すれば全速力で水汲み場へと向かう。
俺はなんて奴なんだ…。
シンタローさんばかりでなく、あんな小さな子供のパプアにまで迷惑をかけていたなんて。
あんな小さな子供にまで気を遣わせて心配かけさせて。
守るべき存在に救われて…なんて情けない番人なんだろう。
暫く走っていると漸く目的地の水汲み場へと辿り着く。
そこにはシンタローも居ていかにも面倒くさそうに水汲みをしていた。
「シンタローさん!!」
「ん?」
「す、すみませんでした!!」
「へ?何が?飯の事か?」
「其れもですけど…今まで失態と手抜きについてです!」
もう、どうにでもなれ!って気持ちでシンタローさんに自分の思いを全て打ち明けよう。
そうだ、そうすれば俺のこの胸の詰まった、何だかスッキリ出来ず、ずっと悩んでいた、この気持ち。
「そ、その…手抜きっていうか、手が抜けてしまったのは…見惚れていたからなんですッ!!」
「あ、知ってる」
「えッ……はい?!」
「だから、知ってるって言ったんだ」
「な、なんで…?」
「その…パプアが迎えに行った時、俺も一緒だったんだ」
ってことは…聞かれていたのか?
あの恥ずかしい思いを、未だに分かっていない己の気持ちを聞かれてしまった。
「あ、あの…すみません、気持ち悪い…ですよね」
苦笑いをしてシンタローを見る。
その顔は周りを見る余裕など全くなく、ただこの場から離れてしまいたいという思いでいっぱいだからだ。
「あ、あの…残りは俺がやっときますんで先に戻ってて下さい」
「…2人で持つ方が楽だろ、そっち持て」
「あ、はい……って、今の俺の話聞いてました?!」
「それがンだよ?」
「そ、それがって…気持ち悪い、とか思わないんですか?……自分で言ってて虚しいですけど」
そうだ、打ち明けると決めたのは自分。
気持ち悪がれようが嫌われようが自業自得なのだから。
なのに、なんで構ってくれるんですか?
「テメーだって知ってんだろ?親父が何時も俺に言ってくる台詞をさ」
「マジック様ですか?…確か“可愛い”とか“愛してる”…あぁ、聞き慣れてンですね」
「そッ、だから気にするな」
漸く水汲みも終えパプアハウスに戻ろうとしながらシンタローが呟く。
まるで昔を懐かしむように空を眺めながらリキッドの少し前を歩きながら。
「親父は家族として言ってるって分かってんだけど、俺は可愛いとか…そういう事言われんの嫌だった」
その言葉がリキッドの胸にグサリとくる、自分も言ってしまった。
しかも本人の目の前で…と嘆きながら真っ白になり砂となっていく。
だが、シンタローは更に言葉を続けた。
「…なのに、親父のは嫌だったのに……お前に言われても…ンなに嫌じゃなかった…」
「嫌じゃなかったんですかぁ………えぇッ?!」
,
驚いたリキッドをシンタローは目を向ける事なく最初より早足で先に行こうとする。
シンタローの後ろからはリキッドがしつこくきいてくる。
「い、今何て言ったんですか?!嫌じゃなかったって言ったんですよね?!ね?!ね!」
「う、うるせぇ!!」
「お願いします!もう一度、もう一度だけ言って下さい!!」
「誰が二度というか!ったく……言うんじゃなかった」
ボソッと呟いたのだがリキッドには聞こえていたらしくニヤニヤ嬉しそうに笑み浮かべて。
「今は…まだ、こんな曖昧なことしか言えませんが…ちゃんと気持ちの整理がついたら伝えますからね♪」
「気持ちの整理って…ったく、何が言いたいんだ?」
「…好きかもしれないって事ですvvV」
リキッドの言葉に一気に顔が赤くなったのが分かった。
何故だか分からないが恥ずかしかった、顔が赤くなり体が硬直して動かない。
いつの間にかシンタローを抜かしていたリキッドが不審に思いシンタローの顔を覗き込んで見る。
「どうかしたんですか?」
「えッ?!み、見るなぁぁぁ!!!」
「ちょッ、シンタローさぶッッ!!」
殴られた。
ただ心配して覗き込んだだけだったのだが殴られてしまった。
しかもシンタローは更に殴られたのびたリキッドにバカヤロー!と追い打ちかけパプアハウスへと駆け込んで行った。
シンタローの意外な一面を見たリキッドは至福の時を感じていて殴られた後にも関わらず
リキッドが笑顔だったというのを……
島のナマモノたちが次々に見かけたとか。
更にパプアハウスに帰ってからパプアに帰りが遅いと言われチャッピーに噛まれたとか
END
(マジックside)
世界中で一番守りたくて
世界中で一番最優先で
世界中で一番愛おしくて
世界中で一番汚されたくなくて
世界中で一番汚してやりたい存在。
,
生まれてきた子は漆黒を纏って産声をあげた。
目を疑った、私たちは青の一族なのに金髪も碧眼を持っていなかったから。
一族の血を引いていないのか?と不安に包まれたのだが、同時に「普通」の子である事に安堵も感じていた。
そして段々逞しく育っていく息子を眺める。
何度も葛藤を繰り広げた原因の真っ黒な髪は長く美しく伸ばし。
瞳は魅入ってしまいそうになるくらい輝いていた。
そして息子として親子として愛していたのに………。
「シンタロー、愛しているよ」
“愛…?”
幼い頃はただ首を傾げていただけだったのに。
「そうだよ、パパはお前の全てを愛している、親子としても1人の人間としても」
“俺、アンタの息子だぞ?”
「そんなの私たちには関係ないよ、私は只シンタローという人間を愛しているだけ」
“寝言は寝て言え”
「シンちゃんは私が嫌いかい?」
“…あぁ、アンタなんか大ッ嫌いだ”
,
「そっか、大ッ嫌いか…随分と嫌われてるんだね」
“嫌い、大嫌い、最低だ、さっさと俺の前から消えろ”
大きくなったら口が達者になって反抗するようになった。
いつもの私なら負けじと息子に抱きついたりして耳元で愛を語っているだろう。
「…わかったよ、じゃぁね、おやすみ……」
“……あぁ”
今日は退散してみた、勿論シンタローの反応見たさに。
けど、何も反応してくれない。
いや、もしかしたら此が正常なものなのかもしれない。
私は世界中で一番守りたいものに溺れた。
, (シンタローside)
このまま、この男に溺れてしまえば楽だろうか?
幼い頃から溺愛され育てられた。
だから俺もその想いに答えるように好きだとか笑顔を向けていた。
しかし……
“愛している”
その言葉は子供の俺には嬉しいのものか重いものなのか分からなかった。
ただ首を傾げるしか出来なかったのだが、漸く理解出来た。
『親子では、やってはいけない。言ってはいけないものだ』
「俺は……分からないよ」
“分からないか…イイよ、いずれ分かる事だ”
「分かるのか?」
“…分からせてあげるんだよ”
「ッ???!」
その時の親父は今まで見てきた中で一番冷たい眼だった。
碧眼が俺の射抜く様に、全てを見透かすように見つめてくる。
どうすればイイのか、どう反応すればイイのか、どんな言葉をかければイイのか全く分からなくて。
ただ立ち尽くしか出来なかった。
“大丈夫、パパは優しいから…ね?”
「ぁ………ッ……」
,
そんな俺の気持ちを察したのか、優しく抱き締めてくれた。
頭では『突き飛ばせ、コイツの言葉に心を許すな、危険だ』そう言っている。
でも体に力が入らなくて、腕が上がらなくて、此以上優しくされたら溺れてしまいそうな気がして。
俺は親父から離れた
“…わかったよ、じゃぁね、おやすみ……”
「……あぁ」
黙って出て行く親父を見送る。
今までの俺なら小声で呼び止めたり服の端を掴んだりして止めるのに、動こうとしない。
2人きりの時はつい甘えてしまっていたが最近耐えるようになった。
「好きになっちゃ…駄目だ…」
そう、今の俺と親父の関係は行き過ぎている。
本来あってはならない所まできてしまったのだから。
だから、こうして俺が離れれば…親父もきっと…。
「俺の代わりを…」
捜すはず、俺より素直で良い奴を。
「そうだ、何時かは…別れてしまうんだなら…」
置いていかれるのは嫌だったから自分から離れる。
其れが今の俺に出来る唯一の離れ方。
面と向かって別れよう、なんて言えばアイツはどんな面をするのだろうか。
でも俺は言えなくて、言えばもしかすると自分が泣いてしまうんじゃないかって思えて仕方がない。
だから少しずつ離れて親父に俺が別れたい事を理解してもらえばイイのだ。
「アイツなら俺の代わりなんて…男でも女でも寄ってきそうだからな」
そうだ。
離れなくちゃダメなんだ。
, (マジックside)
今日のシンちゃん少し冷たい。
と言うより、構ってくれない。
まるで私を避けているようで胸の辺りがチクチクして痛くて悲しくなってくる。
『…おやすみ』
『あぁ』
たった一言しか返ってこなかった。
「おやすみ」と言う言葉でさえ言ってくれない。
引き留めたりして可愛い顔をまた見たかったのに見せてくれない。
「…本当に、嫌われちゃったのかな…?」
そんな事を呟いていると思い浮かんでくるのは、大嫌いの一言。
一番聞き慣れた言葉なのに今一番聞きたくない言葉になっている。
シンタローの部屋から少し進んだところに設置さるた椅子に腰掛け、離れた扉を見つめる。
「…シンちゃん」
もしかしたら今にでもあの扉を開けて私を捜してくれるかもしれない。
嫌いと言った事に後悔して焦っているかもしれない。
そんな思いが頭の中を駆けずり回って期待で胸が一杯になる。
しかし、扉は開く事なく廊下は静かなものだった。
「シンタロー…愛してる」
独り言のようにポロリと呟き、おやすみと言ってから扉へと背を向ける。
「………」
後ろから何か聞こえたような気がして振り返る。
しかし先程見た通りのままでシンタローも居ない。
なのに聞こえてきた誰かの声。
シンタローかと思った、しかし空耳だと思うことにして再び歩き始める。
「……メン」
「……シンタロー…?」
呼び掛けても返事がない。
こんな幻聴が聞こえてしまうほど私はシンタローに依存し愛していたのだろう。
「……ゴメン…」
「いいんだ、お前は悪くない」
「…ゴメン……」
「謝らないで、私はお前に謝られるのは苦手なんだから」
「…親父ッ」
「ねぇシンタロー、お前は父親の私と恋人の私…どっちが好きなの?」
「…分からない」
「私は両方好きだよ、息子に父として接していた時も…愛していると恋人で囁いたときのシンちゃんの焦り具合も」
「…バッカじゃねぇの」
「ふふ、ただ愛してるだけだよ」
, (マジックside)
今日のシンちゃん少し冷たい。
と言うより、構ってくれない。
まるで私を避けているようで胸の辺りがチクチクして痛くて悲しくなってくる。
『…おやすみ』
『あぁ』
たった一言しか返ってこなかった。
「おやすみ」と言う言葉でさえ言ってくれない。
引き留めたりして可愛い顔をまた見たかったのに見せてくれない。
「…本当に、嫌われちゃったのかな…?」
そんな事を呟いていると思い浮かんでくるのは、大嫌いの一言。
一番聞き慣れた言葉なのに今一番聞きたくない言葉になっている。
シンタローの部屋から少し進んだところに設置さるた椅子に腰掛け、離れた扉を見つめる。
「…シンちゃん」
もしかしたら今にでもあの扉を開けて私を捜してくれるかもしれない。
嫌いと言った事に後悔して焦っているかもしれない。
そんな思いが頭の中を駆けずり回って期待で胸が一杯になる。
しかし、扉は開く事なく廊下は静かなものだった。
「シンタロー…愛してる」
独り言のようにポロリと呟き、おやすみと言ってから扉へと背を向ける。
「………」
後ろから何か聞こえたような気がして振り返る。
しかし先程見た通りのままでシンタローも居ない。
なのに聞こえてきた誰かの声。
シンタローかと思った、しかし空耳だと思うことにして再び歩き始める。
「……メン」
「……シンタロー…?」
呼び掛けても返事がない。
こんな幻聴が聞こえてしまうほど私はシンタローに依存し愛していたのだろう。
「……ゴメン…」
「いいんだ、お前は悪くない」
「…ゴメン……」
「謝らないで、私はお前に謝られるのは苦手なんだから」
「…親父ッ」
「ねぇシンタロー、お前は父親の私と恋人の私…どっちが好きなの?」
「…分からない」
「私は両方好きだよ、息子に父として接していた時も…愛していると恋人で囁いたときのシンちゃんの焦り具合も」
「…バッカじゃねぇの」
「ふふ、ただ愛してるだけだよ」
, (マジックside)
今日のシンちゃん少し冷たい。
と言うより、構ってくれない。
まるで私を避けているようで胸の辺りがチクチクして痛くて悲しくなってくる。
『…おやすみ』
『あぁ』
たった一言しか返ってこなかった。
「おやすみ」と言う言葉でさえ言ってくれない。
引き留めたりして可愛い顔をまた見たかったのに見せてくれない。
「…本当に、嫌われちゃったのかな…?」
そんな事を呟いていると思い浮かんでくるのは、大嫌いの一言。
一番聞き慣れた言葉なのに今一番聞きたくない言葉になっている。
シンタローの部屋から少し進んだところに設置さるた椅子に腰掛け、離れた扉を見つめる。
「…シンちゃん」
もしかしたら今にでもあの扉を開けて私を捜してくれるかもしれない。
嫌いと言った事に後悔して焦っているかもしれない。
そんな思いが頭の中を駆けずり回って期待で胸が一杯になる。
しかし、扉は開く事なく廊下は静かなものだった。
「シンタロー…愛してる」
独り言のようにポロリと呟き、おやすみと言ってから扉へと背を向ける。
「………」
後ろから何か聞こえたような気がして振り返る。
しかし先程見た通りのままでシンタローも居ない。
なのに聞こえてきた誰かの声。
シンタローかと思った、しかし空耳だと思うことにして再び歩き始める。
「……メン」
「……シンタロー…?」
呼び掛けても返事がない。
こんな幻聴が聞こえてしまうほど私はシンタローに依存し愛していたのだろう。
「……ゴメン…」
「いいんだ、お前は悪くない」
「…ゴメン……」
「謝らないで、私はお前に謝られるのは苦手なんだから」
「…親父ッ」
「ねぇシンタロー、お前は父親の私と恋人の私…どっちが好きなの?」
「…分からない」
「私は両方好きだよ、息子に父として接していた時も…愛していると恋人で囁いたときのシンちゃんの焦り具合も」
「…バッカじゃねぇの」
「ふふ、ただ愛してるだけだよ」
, (シンタローside)
こんな勝手なことをして、まだ彼奴が好きだなんて。
「……ゴメン」
どうせ聞こえない。
「…ゴメン……」
どうせ届かない。
「…ゴメンナサイ」
扉にもたれかかり頭を抱えてうなだれるように呟く。
どうせ彼奴には聞こえていないんだ。
今の内に言いたいだけいっておこう。
好き、大好き、愛している。
「だからッ…ゴメン……」
「シンタロー……?」
「ッ!???」
扉の向こうから聞こえてきたのは居るはずのない者の声。
彼奴はとっくに部屋に戻っているはずだ!!!
今すぐにでも扉を開け確かめたかった、でも本当に居たらどうする?
「……ゴメン」
頼むから呼ばないでくれ。
「いいんだ、お前は悪くない」
そんな優しい声で話しかけるな、慰めるな、優しくしないでくれ。
「ねぇシンタロー、お前は父親の私と恋人の私…どっちが好きなの?」
こんな質問されると思わなかったから正直分からなかった。
でも、ふと両方好きだという答えが浮かんだ。
そして、まだコイツが好きなんだという思いを改めて思い知った。
「…分からない」
「私は両方好きだよ、息子に父として接してくれる時も…愛していると恋人として囁いてくれたシンちゃんの焦り具合も」
「…バッカじゃねぇの」
「ふふ、ただ愛してるだけだよ」
俺も同じだ、今まで好きで大好きで愛している。
絶対に言ってやんないがな。
「…父さん」
「ん?なんだい?」
「……愛している、だから…ゴメン…」
もう俺に愛を囁かないで、狂ってしまいそうになるんだ。
父からの異常なまでの愛情で育てられた俺は異常なんだ。
けどアンタが好きなのは本心だ。
こんな俺を愛してくれたアンタに感謝している。
だから…ゴメンナサイ。
end
大好きなあなたへ
シンタローは、必死に積み上がった書類を睨みつけていた。
その周りをウロウロする人物を、無視して。
「シンちゃぁん」
呼び止めても、顔を上げることすらしない。
「今日は私の誕生日だよ?」
書類をめくる音だけが、部屋に響く。
「シンちゃんってばぁ」
何度も呼びかけるのに、さすがに痺れを切らし始めた時。
「あ、お父様!やーっぱりここにいたんだね!」
騒々しく勢いよく扉を開けたのは。
「うるせぇぞ、グンマ」
シンタローは顔も上げずに、肘をつく。
「だって、お父様にプレゼント渡したかったのに。どこ探してもいないんだもん」
「直にねだりに来てたわけか…」
グンマの後からキンタローが現れる。
その姿を見つけ、思わずシンタローは席を立った。
「てめっ!キンタロー!!ここんとこ見かけねぇと思ったらッ何してやがったんだよ!」
「心外だな。俺は仕事はやっている…いいか、俺がやる仕事の分は必ずやってあるはずだろう」
「仕事はタマりにタマってんだよ!」
「…それはお前がやり切れずに残しているだけだろう。いつもは俺が半分は、いや半分以上はやっているからな」
「…何やってたんだよ」
どかっと座ってキンタローを睨む。
「はいッお父様!ハッピーバースデーだよッ!」
グンマは二人の会話を差し置いて、シンタローの横にいたマジックに綺麗に包装された包みを満面の笑顔で手渡した。
「わーグンちゃん、ありがとう!」
嬉しそうに笑顔をほろこばせるマジック。
「俺は、このプレゼントを作るのに全力を注いでいたんだ。これは俺とグンマの、いいか。俺とグンマが結集して作り上げた傑作だ」
キンタローは自身満々にそう言ってのけた。
「開けてみて!お父様ッ」
「うん、なんだろうなぁ」
大きくもなく小さくもない、30センチほどの包み。
出てきたのは、マジックがいつも見慣れている…。
「コレ…私のシンちゃんのぬいぐるみじゃないか」
「へへーッ。一個だけ盗んじゃったんだ!」
グンマは悪びれもせずに、舌を出して笑う。
「それじゃプレゼントにならねぇじゃねぇかよ」
シンタローが呆れてため息をつく。
「道理で一つないなぁと…。でもコレが?」
「ただのぬいぐるみじゃないんだよぉ!」
「そのぬいぐるみに向かって、何か言ってみろ」
「何か?うーん、そうだなぁ」
マジックは少し考えて、口を開いた。
「好きだよ、シンタロー」
それは甘く、低く響くようなヴォイス。
少しだけ反応して、シンタローは顔を赤く染めてしまう。
「好きだよ…父さん」
「えっ!?」
信じられない応答に、瞬時にシンタローに振り返る。
真っ赤になって否定する必死に首を振り、否定するシンタロー。
「おっ俺は言ってねぇぞ!」
「えーでも確かに…」
「父さん…好きだよ。父さん」
よくよく聞けばマジックが抱えていた、そのシンタローのぬいぐるみから発せられた言葉だったことにようやく気が付く。
「うふふ~ッ。やっと気が付いた?」
「それはマジックの声に反応し、応答するように出来ているんだ。ちなみにその声は、本物だ」
「シンちゃん、ついに私に告白を…!」
「い、言ってねぇ言ってねぇ!!キンタローが勝手に編集したんだろうが!」
「編集したのは確かだが、『父さん』というのと『好きだよ』という単語は確かに言っているぞ」
キンタローのその言葉に、ハッと何かに気が付く。
「そういや随分前にグンマに変な質問されたな…。あれがそうだったのか!」
「シンちゃんってば気づくのお・そ・い」
ツン、と鼻をつつく。
「せっかくの誕生日プレゼントだもん。うんと喜ぶもの贈りたかったし」
「てんめぇ~」
怒りに拳を握り締めていると、視線を感じた。
「シンちゃん」
ギクリとした表情になる。
「シンちゃんだけだよ?プレゼントないの」
「えーッ!?まだあげてないの?」
「今まで何をしてたんだ」
呆れ果てるキンタローの声。
「ぐ…ッ」
「ガンマ団の皆だって、みぃんな!プレゼントくれたのに!」
「…その分、給料引かれてんだろうが」
机越しにぐぐっとシンタローに迫る。
「私は、シンちゃんからのプレゼントがなくちゃ誕生日があったって嬉しくないんだよ」
真剣なマジックの表情にグッと息が詰まるシンタロー。
しばしの沈黙の後、シンタローはその雰囲気に耐え切れずに机から離れてマジックの前に立つ。
「シンタロー」
不安そうな声で呼ぶマジック。
シンタローはガッとマジックの抱えていた自分のぬいぐるみを取り上げた。
「あッ、それは…!」
手を伸ばそうとしたマジックに、シンタローはぬいぐるみに軽くキスをして。
「シンちゃ…」
そのままマジックの唇に押し当てた。
「し…」
思わず呆けるマジック。
「誕生日、おめでとう。父さん」
シンタローは微笑み、そう言い残して部屋を後にした。
「今のが、プレゼント?」
「そうみたいだな」
「えーッ!?いいの、あんなんで!凄くお手軽だよ!?」
「…あんなんで、いいみたいだな」
キンタローが見やる方をグンマも視線を向ければ。
そこには幸せの絶頂にでもいるかのように、嬉しそうにボーッと突っ立っていたマジックの姿があった。
「ま、いっか」
グンマは笑顔でマジックを見つめて言った。
その頃、部屋を出てしばらく廊下を歩き角を曲がって誰もいないのを確かめた後に、ずるずるとその場にしゃがみこんで頭を抱えた。
耳まで真っ赤に染めて。
「し、しまったー…ッ」
自分のやったことに今更後悔していた。
本当はちゃんとしたプレゼントを考えていた。
だが、実際何を贈ったらいいか分からず。
毎年あげたものは必ず喜んでくれるのだが、それは自分があげたから喜んでくれるのであって、本当にマジックが喜んでくれているかシンタローは不安だった。
今年はその不安も募り、迷いに迷ってるうちに当日になってしまったのだった。
あれをやって、相当…いや自分が思ってる以上に喜ぶことは確かだったのだが…。
「早まったかなー」
ボーッとしていたマジックは急に夢から醒めたようにガバッとシンタローぬいぐるみを見つめる。
「シ、シンちゃん…ッ」
「あ」
マジックがぬいぐるみに口付け、抱きつこうとした瞬間。
ガパッと首がもげた。
「え」
呆気に取られている間に、その中から銃口が飛び出し、カッと光を放ったかと思ったら目の前のマジックに向かって砲を撃った。
派手な音がして、もうもうと広がる煙の中からマジックが咳き込みながら現れた。
それでもしっかりぬいぐるみを抱えて。
「ぐ、グンちゃん…キンちゃん…何、これ?」
「えへへ~言うの忘れてた!」
「よりシンタローに近づけた方が喜ぶだろうかと、それに口付けて抱きしめようとするとガンマ砲に限りなく近づけた砲を撃つようになってるんだ」
「あ、大丈夫だよ!自動的にまた首は縫ってくれるから!」
言われてふと見ると、機械が自動的に現われ首を縫いつけ、すっかり元の通りに戻っていた。
「嬉しい?お父様」
首を傾げながら不安そうに尋ねるグンマ。
「…忠実で嬉しいよ。ありがとう、二人とも」
ボロボロになりながらもマジックは必死に笑みを作っていた。
その後しばらく、ガンマ団では爆発音が絶えなかったという。
「シンタローさん、ハイッ」
「何だ、コレは」
リキッドに笑顔で渡された、赤い…それはカーネーションだった。
いぶかしげにシンタローはリキッドを見やる。
「いやだなぁ。カーネーションですよ!」
その返答にゴン、と頭を殴る。
「んなこた分かってんだよ!何で、俺によこすのかって聞いてんだよ!」
「えーと…今日は」
「今日は?」
「お義母さまの日なんです!だから、いつもお世話になってるっていうことで…ねッ」
苦笑いでシンタローを見つめるリキッドに、もう一度頭を殴る。
今度は遠慮ナシに思いっきり。
「いっってぇえ~~。そうボカボカ殴らなくたっていいじゃないっすか!」
「だ・れ・が!お義母さまだッツ!!」
「え、違うんすか?」
いつものシンタローの態度に、お義母さまとしっかり認識してしまったらしいリキッド。
「ったく、何言ってんだか…」
思いっきり深くタメ息をつくシンタロー。
「す、すんませんッ」
「まぁ…でもこの花、キレイだし…」
少し笑みを浮かべたシンタローにリキッドは心奪われる。
「リキッド」
「は、ハイ…ッ!!」
「何ボヤッとしてんだ。早く花びん用意しろよ」
シンタローのその言葉に、パッと笑顔になるリキッド。
「は、ハイッ!今すぐに!」
リキッドは嬉しそうに花びんを探しに入った。
「ま、花にゃ罪はねぇしな」
シンタローは笑みを浮かべながら、カーネーションの匂いを楽しんだ。
⇒あとがき