キリ番3300リクエスト小説『マジック×シンタロー』
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ガンマ団のとある場所。
そこにいるのは赤のスーツをまとったガンマ団総帥、マジック。
もう一人は総帥の息子、ガンマ団ナンバーワン戦闘員シンタロー。
「親父ィイ!!! コタローをどこやった!
答えろよ! 親父!!!」
「シンタロー・・・
コタローのことは忘れろ!」
「何言ってんだ親父! 気は確かかよ!!!」
「私の息子はお前だけだ・・・
おまえさえいればいいんだ!」
「な・・・何言ってんだヨ親父・・・」
「覚えておけシンタロー お前は一族の後継者だ」
「違うよ!
俺は後継者なんかじゃねぇッ!! 秘石眼すら持たねえできそこないだ!!!
俺はアンタみたいにゃなれねえ!!!」
静かな廊下に、甲高い音が響き渡った。
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「――――……そーいえば、親父に殴られたのって初めてだよな……」
数日後、ガンマ団シンタローの自室。
書き上がった報告書を前にシンタローはつぶやいた。
あれ以来父親とは口を利いていない。 こっちから避けていたから、というのもあったが、
とある任務が入っていて、それを解決した後すぐに報告書を仕上げなければならなかったのだ。
後は報告書を……総帥に渡しに行くだけ。
もちろん、直に渡しに行く必要など普段なら無い。
ただ今回は、ある程度機密性の高い任務だったため、直接報告しなければいけないのだ。
「ったく……タイミングわりーよナ」
正直、報告する必要がなければ、もうしばらくの間顔を会わせたくはなかった。
――――あの親父に仕組まれたんじゃねーだろーな。
今回の任務は前々から言いつけられていたモノだったから、そんな訳はないのだろうけど。
いつも冷静な指示を出す父親の顔を思い出し、シンタローはふとそんなことを思った。
会いたくない理由は一つだけ。 どんな顔をして会えばいいのか分からないから。
なんだかんだ言って自分にはいつも甘かった。
それがコタローのこととなると、とたんに冷たい瞳になる。
その豹変ぶりが分からない。
ただ……今回殴られたのは、コタローが原因ではなく、
自分の発言が原因だったというのは分かる。
それが分からないほど子供じゃないし。
そんな状況下で、一体どんな顔して会えと?
――――せめて、痣が消えてくれるまで待っててもらいたかったナ。
未だに青く残る痣を見ながらふとそんなことを思った。
もっとも、任務終了後なのだから体のあちこちに傷はある。
だが、自分は元々戦闘能力が高く、今回の任務でもそんな目立つ傷はつくらなかった。
――――すっげぇ大怪我でもワザと受けて、療養すれば良かった。
はぁ、と溜息をつき報告書を持つ。
不幸にも総帥の部屋は近くにある。 いくら息子とはいえ、こちらは一戦闘員に過ぎないのだから、
他の戦闘員と同じ 宿屋にしてほしかったと思うのは、贅沢なのだろうか。
「…………行くか……」
諦めたようにつぶやき、自室のドアに向かって歩いていった。
『総帥のお部屋v 』
赤い丸文字でかかれたプレート。
本人は気に入っているらしいが、完全防音、防銃、防ダニ加工までしてある重々しい扉と全然マッチしていない。
直せ直せと息子を始め弟や幹部にまで言われるが、一向に直す気がないらしい。
だが、今回はそんなことすら気にならない。報告しに行くと連絡は入っているはずだし、父親、いや、総帥は中にいるのだろう。
――――そう、ただ報告をしに来ただけなんだ。何か気にする必要はない。
そう言い聞かせても、先ほどここに来るまでに見た、窓に映った自分の顔を思い出し気が重くなる。
なかなか入る気になれず、しばらくの間、扉と格闘していた。
キィ…… 扉に会わず、軽い音を立て扉が勝手に開いた……わけではない。
「親父…………」
「シンちゃぁあぁんっよかった無事だったんだぁねぇッ!!」
「ぐはァッ!」
自分より10cm近く身長差がある父親にいきなりタックル……もとい抱きつかれ一瞬息が止まる。
「予定の時間よりも2分近く遅れてたからパパ何かあったんじゃないかって心配してたんだぞ!!」
「ぐえぇぇぇ……」
思いっきりベアバッグ(熊の抱きつき)……もといそのままぎぅぅと抱きしめられる。
「今回の任務なんかちょっとハードだったもんだからまさかケガが悪化して来られないんじゃないかとか、色々想像しちゃったじゃないか!!」
「お……オヤジ……頼むか…………手……放…………」
ぎぅぎぅと締め付けられながらも、何とか声を絞り出す。
「え? ああ すまない。ついねぇ」
腕を緩めてはくれたが、どうやら手を離す気はないらしい。
仕方なく、父親に抱かれたまま顔を上げると目があった。
「シンちゃん……」
「な、なんだよ」
右頬に手が当てられ、親指で口の端にある痣を撫でられると、ちくりとした痛みが走り、思わず目をつぶっていた。
再び目を開け、何か言おうとしたが、 頬に当てられていた手が頭の後ろに回り、そのまま胸に押しつけられる。
「ごめんねシンちゃん、痛かったろう?」
頭の上から声が聞こえる。 その声があまりにも辛そうで、何もいえなかった。
「けどね、コタローを外に出すわけには行かないんだよ。絶対に」
――――だから何でだよ!?
そう思うがやはり言えなかった。かわりに上を向き、じっと父親の両の秘石眼を見つめる。
すると、マジックの顔が近づいて次の瞬間、痣をぺろりとなめられた。
「とりあえず消毒と言うことでv」
そう言う父親の顔はいつもの調子だった。
「血なんか出てねぇよ」
やや憮然としながらも返事をかえす。
「じゃ、おまじないだね」
頭の後ろにあった手が今度は頭を撫でている。
――――ったく、何だってこの男はいつもどおりなんだ?
「も、いいから放せよ」
「う~ん……あと5分……」
「寝ぼすけかてめえはッ!!」
「そうだねぇ……たまにはシンちゃんと一緒に朝まで」
ガンマ団のとある一室。
そこにいるのはこの部屋の主であるガンマ団戦闘員ミヤギとそのベストフレンドのトットリ。
ベッドに座り日本茶を飲んでいる。
「ったく今回の任務もシンタローの独り舞台だったべな」
「そげなコトなかよ。ミヤギ君もかっこよかったっちゃv」
「トットリ……」
「ミヤギ君……」
二人の指が絡められる。
部屋の外で『コージのキヌガサ君が逃げたぞおぉぉおお!!!』
『さがせぇッ!! まだ遠くには行ってないはずだ!!』とか言う声が聞こえたが、
二人の耳には入らなかった。
顔がだんだん近づいていって…………
ちっど――――んっっ
がいんっ
「ぐはあッ」
いきなり起きた地響きに部屋が揺れ、タンスの上の花瓶がトットリの頭を直撃した。
「ああ! トットリ!!」
慌ててミヤギが起こすが、完全に気絶している。
「またあの親子か――――ッッ!!!」
ミヤギの怒声がガンマ団の戦闘員宿屋に響いた。
ちゃんちゃん♪
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ということで、3300リクエスト小説。マジック×シンタローをお送りします!
の割には最後で何故か「ミヤギ×トットリ」
あ、アラシヤマ出てねぇや。
さてさて恒例の後書き
プロローグ(と言うほど大げさなモンでもない)
コミックスをそのまま引用しました。
完全防音・防銃・防ダニ加工
私の小説は、一件シリアスに見えて何処かに笑いのタネが隠れています。
没原稿のこと。
実は没原稿があります。
最後まで書いてみたら、×ではなくなってしまったのでボツにしたのですが
よろしかったらそちらもどうぞ!
3300リクエスト小説もう一つの物語。
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キリリク3100小説『マジック×シンタロー甘甘』
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今までまとめていた髪を下ろし、総帥の赤いブレザーに袖を通す。
そんないでたちで、俺は親父の―――ガンマ団総帥の部屋の前にいた。
もっとも……親父が総帥であるのも今日までのこと。
明日からは、俺がその椅子に着くことになる。
緊張はしていない。そういったらまず嘘になる。
今まで世界制覇を目論んでいたガンマ団の意趣を180度かえるわけだし。
…………何より、俺が秘石眼でない。というのは事実だし。
すぐ下の奴らは、方言ばりばりの色物集団は大丈夫だと思うが、
さらにその下の奴らから反抗者が出るのは明らかだ。
もっとも、俺が本当の親父の子供ではなく、秘石から作られた存在だということを知っているのは、ごく一部の奴らだけなのが救いでもある。
あの事件ですべてが解決したとはいえ、事情を知らない奴らから見れば、グンマが『なぜか』親父の息子になってて、
代わりにいきなり現れた青年がルーザー叔父さんの息子を名乗っているのだから、混乱が起きるのは間違いない。
少しは収まったと思うが、まぁ……それは明日考えればいいだけのこと。
とりあえずは……
目の前の扉を眺めつつ、これから俺の身に起きるであろうことを想像し、
ちょっと憂鬱になってみたり。
壁に掛けられた時計を見て、今度はこの部屋の扉に目を向ける。
そんなことを何度繰り返したろう。
そろそろ準備は終わる頃だと思うのだが……
まさかサイズが合わなかったか?
いや、あれは私が計って、私がデザインした物だ。
そこんじょそこらのデザイナーならともかく、このガンマ団総帥が間違えるはずがあろうか(反語)?
それともデザインが気に入らなかったか?
似合ってると思うんだけどなぁ……
さては赤が気に入らなかったのか?……グンちゃんにも不評だったらしいし。
デザインはもちろん、サイズまで測っておきながら、私は息子が晴れ着を着たところを見たことがなかった。
理由はもちろん、明日の就任式までお楽しみはとっておきたかったからv
しかし今朝、明日になったらシンちゃんが仕事に追われて、ゆっくり話す機会なんかないんじゃないか?ということに気づき
急遽、総帥服を着て、私の部屋に来るように言ったのだ。
嫌がるかとは思ったが、意外とすんなり承知してくれた。……ちょっと期待しちゃったりして。
ああ、それにしても遅いいぃぃぃっ!!!
こーなったらこっちから出向いて……
ここでうろうろしていてもしょーがない! とっとと腹決めて入るか!!
ガチャッ ばんっ
……『ばんっ』?
「や……やぁシンちゃん。遅かったね。」
額を軽く押さえつつ、親父が言う。
「親父……なにンなトコにつったってんだ?」
「いや、お約束的バッドタイミングってやつだよ」
「よくわかる説明どうも……」
「それより…………」
「な……なんだよ」
じっと見つめられ、ちょっとひるむ。
くるか!? お約束的パターンっ!!
だが、予想に反して、いきなり勢いをつけて抱きつかれることもなく、親父は俺を部屋の中に誘導して扉を閉めた。
「いや、ちょっと嬉しくてねぇ……」
しみじみと、遠くを見つつ続ける。
「5歳の時にはおしっこをもらしてたり、怖い話を聞くとトイレに行けなくなっ たりしてたシンちゃんがまさかここまで立派になるとは……。
とーさん嬉しいやらちょっと寂しいやら複雑だぞ。」
「そ、そうか」
いつもならそれこそ「んな昔の話すなぁぁぁああっっ!!」と叫びつつ眼魔砲をぶっ放しているところだが、
ここでそんなことしたら明日に影響が出る。、
ひょっとしたら、あまりにも親父が感慨深げに言うのだから、やる気が失せたのかもしれない。
「……シンタロー」
そんなことを考えていると、ふと名前を呼ばれ、肩を抱きしめられた。
ま、まぁこんな日くらいはおとなしくしてやるか。
あごというか首を親父の肩に乗せ体重をすこし親父にかけると、親父の手が俺の髪に触れてきた。
そのまま撫でるように髪を梳かれる。
その手が気持ちよかったから、体に伝わる相手の体温が暖かかったから、つい俺は目を閉じて、その感覚を味わっていた。
左手でシンちゃんの頭を撫で、肩においといた右手を腰に移動する。
が、シンちゃんからの抗議の声は無し。
それどころか、気持ちよさそーに目を細めている。
えーと……これは、ひょっとして……
期待してもいいってコトかッ!?
「シンちゃん?」
名前を呼ぶと、不意をつかれたように顔をこちらに向ける。
…………可愛いかも
とっさに私は髪を撫でていた手をシンちゃんの後頭部に回し頭を固定。
こっちが何を考えているのか気づかれる前に、そのまま口づける。
「……んっ」
うめき声が上がり体を強張らせるが、とりあえず、暴力で訴えてくる様子はない。
とりあえず、下唇を軽くなめて顔をはなす。
「……ったく、いきなり何すんだよ……」
「いやぁシンちゃんがあまりにも可愛かったから、ついねえ……」
「だからってフツー実の息子―――じゃねぇけど、
実の息子として育てたヤツにキスなんかするか?」
「何言ってるんだシンちゃん。シンちゃんは間違いなく私の実の息子だよv」
「だったらなおさら……」
「それともシンちゃんは今までそーーんなこと思ってたのかい?」
「イヤ別にそんなこと……」
「だったら問題無しだなv」
言ってシンちゃんを抱き込む。
「あ?」
「さぁシンちゃん私と早速げふぅッ!!」
数分後
俺は、方言ばりばり色物集団の元へ行った。
「おいお前ら」
「なんどすか? ガンマ団新総帥v」
「明日の用意は全部出来とるぞ」
「まだなんかあるだべか?」
「だったら急ぐっちゃ」
「日程変更だ。1週間ほどのばす」
『ええぇえっ――――――――!!』
「現総帥が『謎の大ケガ』を負って、式典に出られそうにないんだ」
「総帥が……?」
「何があったんじゃ?」
「……みなはん、野暮なことは聞いたらあきまへん」
『?』
「シンタローはん、たぶん総帥は……」
「ああ?」
「腰が痛くて療」
ゐりっ
「とにかく、一週間ほど延ばすよーに。質問は受けつけん。」
『は~い』
壁にめり込んでる京都弁男を見ると、多少力が強すぎたかと思うが、
ま、さっき眼魔砲撃ったせいで、体中だるいし、力だってある程度セーブされただろ。
野郎どもの返事を聞いてきびすを返すと、後ろから声が聞こえた。
「馬鹿じゃなぁアラシヤマ」
「だっちゃ。」
「フツー腰が痛くなるならシンタローの方だべな」
…………
「て・め・え・らぁぁっっっ!!」
――――結局
新総帥就任式は、前総帥を含む最高幹部の数名が謎の大ケガを負ったため1週間延期された。
『謎の大ケガ』の理由は、けがを負った本人たちしか知らない。
俺は3日ほどたったら忘れたからな。
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というわけでキリリク3100小説『マジック×シンタロー甘甘』をお送りしました。
甘かねぇッ!!
……と言うつっこみは無しです。
そもそもどこまでが甘甘になるんだッ!!?
ギャグにもなりきってないし……ましてやほのぼのでもシリアスでもないし……
ひ~ん(泣)
とりあえず、最後の方でオチを付けるのは、あたしの習性ということで。
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帰ってきた。
この島に。
さぁ始めようじゃないか。
Doppel
act13 cross road
「シンタロー」
全てを放り出すかのようにガンマ団から出てきてしまってから、シンタローはひとり部屋にと籠もっていた。
無論指示を出してこなかったわけじゃない。
けれどあれではまるで子どものようだと。
今更ながらに後悔の念が押し寄せる。
どうにも従兄に合わせる顔もなく。
すでに島を目の前にして悶々としていたところ、部屋が開かれた。
淡々とした落ち着いた声音。
ノックも無しに、入ってこれる人物などほとんどいない。
ベッドに突っ伏したまま来訪者を迎える。
部屋に閉じこもってから、己の心情を考えてだろう。
顔をまったく出していなかった彼は、島に着く寸前にしてようやく自分の元にとやってきた。
動かない様子の自分を気にせず、彼はすとんと横に腰掛けた。
ふわりと、微かに薬品の香りがシンタローの鼻を擽った。
「もうすぐ着くぞ」
「…………知ってる」
「出てきた勢いはどこへいった?俺は構わないが、こんなところまで付き合わされた団員のことも考えてやれよ」
「…………………………」
軽い溜息と共に、横たわる気配。
もぞもぞと身動きしていたかと思うと、体の下に引いていた毛布が引っ張られてシンタローは反転する。
「オイ…………」
「寝る、疲れた」
言ったが早いが、寝息が聞こえてきて。
シンタローに抱き込まれた状態のシンタローはため息をひとつついて、自然入っていた体の力を抜いた。
別に島に着くまで何かやらなければいけないというわけでもなし。
そしてシンタローがこんな様子を見せるのはめったにないから。
抱き枕となることを受け入れる。
一緒にいることで彼の傷が少しでも癒せるのなら。
明らかに寝入った振りのシンタローのまわされた腕に、シンタローもそっと手を添えた。
冷たい手。
これで彼に何かを与えられるとは思わない。
それでも、傍にいることぐらいは出来るから。
「……眠ればいい」
ゆっくりと。
もう目の前なのだから。
止まっていた時間の大きな流れは。
「シンタロー…」
「…………………」
かすかな声で呟かれた名に、沈黙で返す。
もう、自分がいうことは何も見つからないから。
ありがとう。
耳元で囁かれた感謝の言葉に。
つきんと痛んだ心の奥。
それが痛みとはそのときは分からなかったが。
素直にそれは受け入れることは出来ずに、添えた手に僅かに力を込めて強く目を瞑ったのだった。
誰も。
こんなこと望んでいなかったのに。
彼は、友の傍にいたかった。
彼は、弟と話したかった。
彼は、息子を手放したくなかった。
大切な人を。
守りたかった。
それだけなのに。
どうしてこう、なってしまうんだろうか。
「──────何も…、出来なかった……」
落ちていく男を。
呆然と見送ったシンタローは、強く透明な壁に指を押し付けて。
今にも崩れそうな体を保っていた。
どうして。
どうしてまた、あの男が。
「厭だ、俺は厭だ────…」
満足そうな笑み。
それが脳裏について離れない。
「彼と一緒にいたくて、けど彼とも離れられないのに」
そんな二律背反をいつも抱えていた。
それを選ぶ岐路に立つとき、揺れるのは自分が勝手なだけだ。
彼が選ぶ道に、どうして意見を言うことが出来るだろう。
けれど。
あんな形を望んでいたわけではないのに──────…。
「戻って、こい……」
小さな小さな呟きは。
飛行艦のエンジン音と喧騒に。
飲み込まれ誰にも聞こえることはなかった。
それで、いい。
今度こそ、君が幸せになるのだから。
一瞬のことだった。
足場が崩れて。
自分も怪我を負っていて。
守れなくて。
必死で伸ばされた腕。
彼はそのとき、迷っていた。
だから後押しをした。
「親父ぃ─────ッ!!」
俺を選ぶな。
俺は平気だから。
あんたは、今度こそ弟を選ばなければいけない。
間違ってはいけない。
強い視線に、彼はそれを受け入れた。
自分の弟を。
彼の次男をその腕にと抱きしめた。
それでいいんだ。
俺は。
どうせ死なないし。
貴方と一緒にいたいけど。
隣にいることは辛いから。
丁度いいのかもしれない。
ああでも貴方は。
何でそんな表情をしてくれるのだろう。
また、期待してしまう。
どこまでも高い青い空を見上げながら。
シンタローはこれからどうするかと何処か他人事のように考えるのだった。
今目の前で起きたことが現実味を帯びていなかった。
それでも何とか我を忘れずにいられたのは腕の中の息子の存在。
小刻みに震えているのは自分への恐怖からか。
それとも目まぐるしく展開していった置かれている状況にか。
その両方かもしれない。
けれど、そんな状態でもぎゅうっとしがみ付かれた腕に、守ってあげたいと思う。
自分の腕の中にすっぽりとおさまってしまうまだまだ幼い息子。
この子を選択できたのは、もう一人の息子のおかげ。
その瞬間はスローモーションだった。
反射的に手を伸ばすもののどちらを手にとればよいのか正直分からなかった。
そのとき、そんな私の思考を読み取ったかのように彼は叫んだ。
たった三文字の言葉と目で強く叫んでいた。
俺を選ぶなと。
弟を選べと。
ほとんど自分の感情は入っていなかったと思う。
それはほぼ条件反射のように体が動いていたから。
後悔をしなかったといえば嘘だ。
無論、兄ではなく弟を選んだことではなく。
落ちていく兄を呆然と見送ってしまったこと。
あの、満足そうな笑みを見てしまったこと。
また、いなくなってしまうのかと。
恐怖感が体を包む。
それでも理性を保っていられたのは守るべきものがあったから。
今この瞬間は息子には私しかいなかったから。
そして私にもこの子しかいなかったから。
縋るようにそっとその体に腕を回せば。
彼も私により強くしがみ付いてくる。
その力の強さに、私が救われていた。
カタカタと小気味いい音が艦の管理ルームで響いている。
大きな揺れを感じたと思ったら、たちまち部屋は警告音が支配した。
焦る団員達に落ち着きを取り戻させたのはシンタローだった。
少し危うい足取りで部屋で入ってきた彼は、けれど意志の強い瞳でモニターを見据える。
現在の状況を素早く理解すると、すぐに指示を団員達に出した。
破損の激しい箇所のエネルギーを止め、補助の方にと回す。
幸いメインエンジンには傷がつかなかった。
ガンマ団本部に着くまではなんとか保つことが出来る。
新しくシールドを張り直すプログラムを打ち込みながらシンタローはあることに気づいた。
相手から受けた攻撃。
そのエネルギーの波形に覚えがあった。
「シンタロー様!補修プログラム発動しました!!」
「次はシールドの強化だ。今俺が立て直しているプログラムに直接繋いで組みたててくれ」
「了解しました!!」
「こちらも破損箇所のエネルギー供給停止完了です!」
「破損箇所のチェックをしてきてくれ。保つとは思うが確認をしておきたい」
「はい!」
団員からの報告にすぐに返しつつも、シンタローは動かす手を止めない。
新しくプログラムを打ち込みながら、相手のエネルギー波の解析も続ける。
どこか。
どこかで見た覚えがあるこのデータは。
記憶を一つ一つ遡って思い起こそうとする。
「─────……あ、」
「シンタロー様何か問題が!?」
「今やっている作業が終わったら三年前からのαデータを全てこのデータと照らし合わせてくれ」
「分かりました!」
おそらく、自分の予想はあたっている。
記憶力には自信があった。
これは、シンタローが倒れてしまったときのあの。
「心戦組……」
シンタローは、ひとり呟いて。
その組織の名を脳裏に焼き付けたのだった。
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気づいていなかった
気づこうともしていなかった
一番の道化は、他でもない俺で。
Doppel
Act14 また一つの物語
「シンタロー不在を他国に知らせるな。すべての指揮は、私が執る」
圧倒的なその存在で、男は再度ガンマ団を統治する。
ほんの少し前まで、彼こそがその頂点に立っていたのだ。
誰もが、認める彼の力。
それは、全く衰えを見せず。
また新たな、力を見せつけていた。
「どうしましたハーレム、呆けた顔をして」
「相変わらずだな高松。久しぶりの再会なんだぞ、少しぐらいこの俺様に会えた喜びをだなぁ……」
「なんで貴方にそんなことしなければならないんですかやかましいのが出戻ってきたと思わず出てしまうこの溜息の慰謝料を貰いたいぐらいですよ」
「……てめぇ」
3年ぶりの再会。
しかし悪友は顔を見せても全くその表情を変えることはなく、その毒舌は滑らかに口から出る。
ひくっと顔が引きつるが、手でも出せば後で払うツケは大きい。
長いつき合いでそれを身に知らされている立場としては、迂闊に殴ることは出来なかった。
「面倒事まで連れてきて…、おかげでこっちは大忙しですよ」
「俺だけの問題じゃねぇっての。一応ガンマ団と敵対?してる奴らなんだから」
「その敵対者と和気藹々と島で暮らしていたのはどこのどいつですか。今更その口で敵対なんて聞きたくありませんね」
そしてまた、ハーレムのこめかみに青筋がくっきりと浮かぶのも仕様のないことだ。
そんなブチ切れ寸前怒りオーラ大放出のハーレムを前にしても、高松は気にした様子はない。
すらすらと言葉遣いだけは丁寧な言葉を並べ立てていく。
そんな高松に、ハーレムは少々気を削がれたように彼の言葉を耳にした。
「それでハーレム、貴方がぼけっとしていた様子ですが」
「一々ひと言多いんだよてめぇは」
「総帥に何かあるんですか?」
ハーレムの視線の先には団員に指示を出すマジックの姿。
あの赤い総帥服に、黒のロングコートを羽織った後ろ姿は彼の息子と被る。
じっと兄を見つめていたのがばれていたことに、少しばかり気恥ずかしさを覚えるがそんなことは高松にとってはどうでもいいことのようで。
ハーレムに視線を送るでもなく、同じようにマジックに視線を向ける高松になにか違和感を感じながら、それでもハーレムは口を開いた。
「マジックは……、頂点に立てる男なんだなって思っただけだ」
「おや、貴方にしてはえらく殊勝なことをおっしゃいますね」
「うっせぇな。てめぇが聞いたんだろうが!……それに、」
いつになく真剣な表情をするハーレムを横目で確認しながら、高松は風で浚われそうになる髪を押さえた。
ここは風が強い。
こうして近距離で会話を交わすのすら、声が飛ばされそうになるのに。
マジックの声は、決して語気の強いものではないのにここまで聞こえる。
善く通る声。
年齢を全く感じさせない、整った堂々たる風貌。
彼の存在は、特別だと。
思う。
「俺は、けっしてあいつに勝てねぇって昔から知ってるよ」
「………闘ってみようとも?」
「はッ!向こうが俺と闘う気はさらさらねぇんだよ。強い奴は好きだが、あいつはそういうところが昔っから好かねぇ」
乱暴ではあるが、落ち着いたハーレムの声は彼の本音だ。
いつでも己の好きなようにやる彼は、自分の中の真実だけは見失わない。
それは高松がハーレムを好ましく思う大きな点だった。
「あの方とは、やってみなければ分からないと言うことが当てはまりませんね。確かに」
「………てめぇそれは俺が弱いって言ってるのか、言外に」
「だってあの方は今まで本気を出したことなどないでしょう。それこそ、我を忘れるような力の解放なんて」
その言葉に、ハーレムは思わず高松を凝視する。
口の端に銜えた煙草を落としそうになりながら、高松の次の言葉を待った。
高松はやはり己のペースを崩さずに。
静かに、言葉を連ねていく。
「貴方達の力のメカニズムは非常に興味深い。よくよく研究してみたいのは今でも変わりませんよ」
「………………………」
「そんな凶悪そうな表情をしなくとも。貴方以外を研究対象にはしませんよ」
「オイコラテメェふざけるな」
「本気ですが?」
「尚悪い!!」
真剣に聞こうと思った自分が浅はかだったのかと言えば今更分かったんですかと間違いなく返ってくるのが分かるほど付き合いが長いのが嫌になってくる。
イライラをどうにかして煙草に集中させて、怒りをやり過ごそうとすれば隣からは馬鹿にしたような笑い。
ああいらいらする。
一体、何が言いたいのか。
こんなやつばっかりだ。
本音をはぐらかして。
誤魔化して。
そして笑顔で塗りつぶす。
本当のことを言うのを。
どうしてこんなにも怖がるのだろう。
「私もこれは人から聞いてよくよく観察させて貰ってきたんですけどね」
「…………なにを」
「あの方の力は完璧すぎる。それこそ人が持つには、強すぎるほど」
また唐突に話題を変える高松に、ハーレムは眉を寄せるだけでついていく。
ここでまたそこに突っ込めば話は進まない。
何よりも、こんな話し方をする奴がここには多すぎて。
慣れたくもないのに、慣れてしまった。
「人でなければ、いっそ楽だったのに」
「お前それは誰のことを言っている」
「シンタローさんですよ。別に、化け物とも思ってはいませんけど。シンタローさんは人よりも人らしい、人だ」
ハーレムこそ何を言っている、とばかりに返されて。
少しばかりたじろげば、小さく溜息をつかれる。
「それでいえば、よっぽどシンタロー様の方が人らしくないでしょうね。私の自業自得ですが、そんなところまであの人に似なくともと思いますよ」
「………本当に、自業自得だな」
「私の世界はあの人でしたからねぇ。そんなものでしょ、大事なことの優先なんて」
あまりにもさらっと言うから聞き逃しそうになった。
全ての発端を作った割には、本当に気負うものがない。
お前こそあの兄に似ていると言いたくなりながらも、ハーレムは黙って高松の話を聞く。
「あの方だけ、両目を秘石眼で生まれてきた。そしてそれを完璧にコントロールする術を持って。けどね、普通考えれば貴方の方が正しい形でしょう?」
「どういうことだ?」
「コントロールできないから、その強大すぎる力を使うことはない。ガンマ砲も十分常人外れた力ですが、相当の訓練を必要とする」
引っかかる言葉はあったが、本題に戻ったのを今更蒸し返したくはない。
素直に言葉の意味にだけ疑問の意を返せば、高松も静かに答える。
「少し睨んだだけで人を簡単に殺せる力なんて、ジャンやシンタローさんですら持っていないんですよ」
元々の一族を生み出した秘石達が。
直に作り出した石の番人。
その彼らですら、そんな力は持っていない。
「あの方は、人なのに人ならざる力を持った方だ」
「…………………」
「いくら貴方が馬鹿でアホで間抜けで脳味噌まで筋肉で獣並の知性しか持っていないとしても、それでも同じ力のルーツを持った血の繋がった弟です。闘うなんてこと、思うはずもない」
「その無駄に長い枕詞を後の言葉でうち消せると思うなよ」
「おや枕詞なんて言葉知っていたんですね、いつのまにそんな知識を」
ぱちぱちと本気で拍手しているから質が悪い。
その左唇下の黒子をマーカーで塗りつぶしてやろうかこの野郎。
「と、まぁ冗談はこの辺にしておきまして」
「いや、本気だったろテメェ」
「私はそろそろシンタロー様のサポートに戻りますので。貴方もあの方のサポートをしっかりやって下さいね」
今度こそ。
ぽろりと煙草が口から落ちた。
弟やあの赤い石の元番人には、同期のよしみで。
あの兄には、盲目的な敬愛を持って。
その落とし子には、同じく偏愛をもってして。
接しているこの男から。
こんな言葉を、聞くなんて。
「なに呆けているんです、ハーレム?煙草は片づけて置いてくださいね、シンタロー様あまり好きじゃないんですから。ここを通りがかった際シンタロー様に拾わせる気ですか」
「お前そんなに兄貴のこと…、気にしてたか?」
見つからない。
いや、そりゃあるんだけど。
それでも。
この男の特別範囲内には、あの男は入らないと思う。
だから気になった。
そもそもそれが、この会話の始まりだったのだが。
「私は、マジック総帥のこと好きですよ」
「………………」
「ルーザー様が唯一尊敬していた、方ですから」
ああ、元でしたねとか。
そんなことを残して高松は去っていった。
残されたハーレムはと言えば、ぼんやりとマジックがいた方向を見ている。
すでに彼も姿を消していた。
無意識に新たな煙草を銜えながら、ハーレムは空を仰いだ。
どんよりとした厚い雲に覆われた空は、誰の心を映しているのだろうか。
「………俺が知っている以上に、もしかして」
あの兄たちは。
背負うものが大きかったのか。
善悪を知らずに生まれてきた兄。
邪魔なものを邪魔といってどうして駄目なのか。
彼にとって、人を殺す理由などそんなもので。
そんな兄は、身内だけは好きだったから。
優しく穏やかな兄であると信じていた弟。
そんな弟を兄も心底可愛がってたから、この家業の深いところにはあまり近づかせなかった。
俺はと言えばまぁ要領はすこぶる悪いわけで。
嫌われていたとは思っていない。
むしろ、サービスと同じように可愛がって貰っていただろう。
ただ、兄の全ても見てしまっていたわけで。
その愛情を、鵜呑みには出来なかった。
嫌いではなかった。
ただ好きかと問われて、イエスと即答は出来ない。
そして俺は。
逃げたのだ。
面倒なものから。
自分だけの特別なものをつくって。
それで好き勝手やっていて。
なにもかも。
どうにかしようなんて思わなかった。
気にくわなかったけど。
どうにかしてやる義理もないと。
全てを。
兄に押し付けて逃げたのだ。
ここにいる奴らはどっかしらなにか欠けていて。
それは、俺達も例外じゃなくて。
つまりが、あの兄だって。
誰にも見せなかっただけで。
誰にも気づかせなかっただけで。
「…………殴る、権利なんて」
なんでこんなにも馬鹿が多いのかと思ってた。
全てが終わって始まって。
けど馬鹿は馬鹿のままで。
「筆頭、俺かよ………」
あのとき必死になったシンタローを見ていられなくて。
離れることで自分を保とうとした。
所詮、自分のためだった。
島に来たコタローを見て。
あの少年と楽しそうに暮らすコタローを見て。
このままで良いんじゃないかって思った。
あのシンタローが指揮を執る現在のガンマ団。
確かに変わった。
寝る時間さえほとんどなくし。
どんなに辛くとも真っ直ぐに前へ進む男が、全身全霊で作り上げている。
けれど、それでも僅か4年で全ては変わらない。
あの戦場へと送り込むよりは。
この島で、もう暫く。
父親であるマジックが。
今度こそ父であろうと、決意していた兄が。
目も、心も。
閉ざしたままの幼子が、目覚めるのはいつかと。
待っていた姿を、他でもない自分が一番近くで見ていたのに。
目覚めた途端姿を消した息子を。
どんな思いで探していたかなんて。
全く、考えてやしなかったのだ。
「………俺、」
あの兄が、何を考えているかなんて。
真面目に考えた事なんて。
この年数生きてきて。
ありやしなかったのだ。
甥や部下や……、弟を。
守っている気になって。
自分を守る存在が。
当たり前すぎて、そうとは感じさせなかった存在を。
気にしたことなんて、なかった。
--------------------------------------------------------------------------------
ああ、彼は矢張り。
彼の息子なのだと。
Doppel
Act15 close your eyes
何事にも屈しない、その姿勢。
堂々たる容貌は記憶にあるときよりも、凛として見えて。
『父親』である彼しかこの4年間は見ていなかった。
だから誰もが見逃してしまっていたのだろうか。
忘れてしまっていたのだろうか。
彼とて。
彼のように無茶を十分にする、質だと。
「おいッ!?」
その背中はぐらりと揺れた。
部屋に帰る瞬間の、ほんの一幕。
ただ単に前屈みにドアを潜っただけなのかも知れない。
その姿はドアの向こうにすぐに消えてしまって、それ以上のことは分からなかった。
しかし気になった。
あまりにも彼の姿が。
なんだかひどく、危うげな感じがして。
思わず、その背を追いかけてしまった。
身内だけが主に知っている暗証パスを打ち込み、そのドアを開ける。
一瞬、その姿が見つからなくて狼狽えたが、すぐに視界にその姿を捉えた。
自分の勘が、寸分外れていなかったことを知る。
「おいッ!大丈夫なのかよ!?」
「許可なく総帥室入っちゃ駄目なんだけどなぁ。ああでも君はパス知ってるもんねぇ仕方ないか……」
「茶化すな!!」
「格好悪いところ見られちゃったなー…、」
シンちゃんには、内緒ね?
この期に及んでそんなことを抜かす馬鹿を、一発ぐらい殴ってやろうかと(いや実際には到底出来ないんだけど)肩に手を掛けてその顔を無理矢理こちらに向かせた。
何の抵抗もなく、簡単に俺の動作に従うその様子に眉を顰めて。
そして顔色を見て思わず息をのんだ。
「おいッ………!?」
「あー…、大丈夫だから。ホント、タイミング悪いなぁ……」
「そんなこと言えるような体調か!あんた、休んでるのか!?」
部屋に入った瞬間、目線の高さに彼はいなかった。
床に、うずくまるような形で膝をついて。
穏やかな口調ではあるが、その声にいつものような力強さはない。
荒い呼吸を耐えるような区切りの悪さに、肩を掴んだ手の力が知らず強まった。
額にびっしょりと汗しながら、きつく目を閉じて。
けれど口元には笑みを浮かべている。
「平気だって。そんなに私のこと心配かい?」
「阿呆抜かせッ!こういう時茶化すのは本当に最悪だぞ」
「あははー…、あんまり耳元で叫ばないで」
背中を抱えるようにすれば、意外にも体重を預けてくる。
からかうような口調だが、本当に具合が悪いのだろう。
宙を仰ぐようにして、目を右手で押さえる。
その動作の一つ一つが緩慢だ。
「っと、悪ィ……」
「いや気にしないでいいよ。こんな大事な時に、こんな無様な姿見せる私が悪いんだから」
慌てて口元を押さえて謝罪の言葉を口にすれば、ひらひらと空いた左手を振って気にするなの意思表示。
コート越しでは分からないが、この分では熱も出ているのではないだろうか。
発熱の際の、独特の匂いがする。
「ごめんね。もう大丈夫だから、君も戻っていいよ」
「………は!?まだふらふらのクセして何抜かす!待ってろ高松呼んでくるから!」
「呼ばなくていいって」
腕から重みが消えた。
そう、思った時にはすでに彼は立ち上がっていて。
にっこりと笑いながら手を上げる様子は、感謝の意。
けれどそれは。
なんて柔らかな拒絶なのだろうか。
「そんなんで立っていても、ミスを呼ぶだけだ」
「体調管理も仕事の内ってね。よーく知ってるよ?」
「じゃあなんで!」
「だって高松は今シンちゃんのために動いてもらってるしねぇ…、怪しげな薬も飲みたくないし」
その態度がえらく腹に立って。
真剣ににらみつければ、困ったように眉を下げた。
そしてふざけてるとしか思えない理由を口にして。
この人は。
昔からこうだっただろうか。
「そんな理由で納得できるか!」
「だよねぇ……。ね、わかんないかな」
苛々して叫べば、ため息と共にはき出される言葉。
疲れたように目を押さえる動作。
そういえば。
さっきからこの人は。
「…………まさか、」
「流石元番人。けどちょっと気づくの遅いね、観察眼鈍ったかな?」
「ッ!だからどうして貴方はそう……!!」
壁に少し体重を預けて。
それでも笑うこの人は。
なんて。
あいつと似ているんだろうか。
顔だけ似ていても。
体が同じでも。
本質は、まるで違うあいつと俺。
今、初めて分かった気がする。
あいつを育てたのは。
間違いなく、この人だと言うことを。
「秘石がないからね、コントロールするのが難しいのは仕方ないしねぇ…。使うのも久々だし……。ちょっと疲れただけだよ」
「いつからですか……、そんな状態なのは」
「君が知る必要はないよ、失態を見せたからこれぐらいは仕方ないけどね。シンちゃんが戻ってくるまでだし」
深く息を吸って呼吸を整える。
しかし、張りつめた空気までは変わらなかった。
「高松呼んでも仕方ないだろう?いい研究対象ぐらいには見るかもしれないけど」
「………………………」
「まぁ君が心配するって言うなら、シンちゃんや高松のサポートに入って次元スキャナ完成を早めてくれるのが一番かな?シンちゃん、君が入ると気にするだろうからそこら辺はうまくやってね」
ああ矢張り。
暗に、これ以上は踏み込むなと言っている。
特別と見せかけて、この人の線引きは相当だ。
とっくに。
俺は、特別から外れているけれど。
その割り切りはいっそ見事で。
そうでもなければ、人殺し集団のトップなどつとまらないのだろう。
「………分かりました。けどその代わり貴方も今日はもう、」
「君はいつから私とそんな駆け引きが出来るようになったんだい?」
「シンタローが心配する……!」
瞬間、彼の周りの空気が膨らんだ。
触れれば音を立てそうな、その緊張感に思わず息をのむ。
「あの子がいるときに私で有ればそれでいい」
静かに。
耐えるような、その姿。
「……頼むから、」
「…………っ」
「コントロールできる内に、この部屋を出ていってくれ」
纏う空気は痛いほど張りつめているのに。
その口調は崩れることなく平坦で。
ただ、言葉通りいつ溢れ出してもおかしくない力の流れを感じる。
僅かに頭を下げ、背を向けた。
自分に出来ることなどない。
秘石の番人といえど。
いや、だからだろうか。
秘石の力の前に、何かをなすことなど出来ないのだ。
シュンッと小気味いい音を立てて開くドアの外へ一歩踏み出した。
その背に、声がかかる。
「……ありがとう、ジャン」
振り返ったが、目の前にはすでに閉じられたドア。
……本当に、存外に。
質が悪い男だ。
突き放すなら突き放したまま。
手を伸ばすならはっきりと伸ばせばいいのに。
演じているのか。
真実なのか。
演じているならば気づけばいい。
その上で彼にどう接するかは自分の判断自己責任。
けれどそれが彼の本当ならば。
それは。
なんて。
哀しい人なのだろう。
「………あんたの位置も、辛いんだな」
自分の位置は。
どうしようもない孤独感でいっぱいで。
けれど対に奴がいた。
たとえ相容れられなくとも。
同じ立場の者がいることは、精神的に楽で。
今では。
他でもない、彼がいる。
奴の影。
俺の、似て非なる者。
「とりあえず高松のとこ、いくかぁ……」
サービスは、甥っ子につきっきりだし。
頭を振ることで意識の切り替えを図る。
今一度、目の前のドアを見やって。
友人の元へと、足を向けるのだった。
「本当、タイミング悪かったな……」
ジャンがいなくなった総帥室。
そこでマジックは、壁づたいにして座り込んでいた。
思っていたよりも大分きつい。
「まだハーレムとかなら、良かったんだけど」
部屋に倒れるように入り込んだ。
それを気づかれたのもそうだけれど。
「彼の前で頑張るのもねぇ…」
正直面倒だし。
彼なら、口止めするのも簡単だ。
「……きついとは、思ってたけど」
少々、甘く見ていたようだ。
オーバーヒートを起こしている体を煩わしく思いながら自嘲する。
全てを厳しすぎるくらいに想定して。
その上で行動していくのを得意としていたのに。
「やっぱり殺さずってのは難しいな……」
ほぅっと息を吐いて、熱のこもる体をやりすごす。
彼にはああ言ったが一旦座り込んだのはまずかったかもしれない。
しばらく立ち上がれそうにもない、情けない体に溜息を付いた。
ひと思いに全てを消し去るのは簡単だ。
それを加減するのが難しい。
けれどもう自分のものではない、ガンマ団。
他でもない自分が、間違えるわけにはいかない。
「これがあの子の痛みか」
4年間安穏と暮らしていたわけではない。
けれど彼に比べれば平穏な日々だったのだろう。
久しぶりに体感する、戦場の空気に最初は違和感を感じてしまっていた。
それも数日で以前と変わりない物になったけれど。
ゆるゆると目を開けて。
ぼやける視界に映る総帥服。
少しくすんだ赤が、過ぎた年月を教える。
ガンマ団内にいるときはこの総帥服を着て。
戦場に出るときは一般的な軍服。
シンタロー不在を他国に知らせるわけには行かないが、総帥代行は身内には知らせている。
その位置を示すにはこの服を着るのが一番手っ取り早い。
「なんか、大きくなっちゃったよね……」
畏怖の面で見る秘書。
一目置いてくれる、直属の部下。
けれど確実に。
以前の自分と違うことを、些細な点が教えてくる。
この総帥服一つとってもそうだ。
服が余っている。
あまり感じたくはない、けれどやはり体力が衰えている。
「………早く、帰っておいで」
ここはもう。
私の場所じゃないんだから。
「お前の痛みなら、いくらでも耐えられるから」
私が私でなくなる前に。
この力が、暴走を始める前に。
「────…どこにいる?シンタロー」
私が父であれる、人であれる愛し子。
お前が帰ってくる場所はここだよ。
そう、内心呟きながら。
僅かな休息を欲して。
意識を落とすのだった。
--------------------------------------------------------------------------------
この後5分で総帥は起きるんですよ。
と、いうことでマジック編。
ようやく今まで全く書かなかったマジックさんの心境をちらほらと。
肝心なところはやっぱりぼやかしていますが(苦笑)。
いやだってそれ書いたらこの話終わるしさ…。
少々弱い感じになりすぎたかなーと思いつつ。
色々後で全部書いていけたらなと。(ええ色々と…)
とりあえず、マジック総帥の秘石眼について。
両目秘石眼で完璧コントロール出来る方、というところがもうたまらなく好きなんですが。
やーなんか特別って感じで!
今回は南国時代、秘石がないせいかコントロールが悪いと言っているシーンを元に捏造。
秘石なくなっちゃったしブランク有るし本当に加減しなきゃいけないし…、ってな感じで。
総帥の精神安定剤もいないしね(切笑)
またちょっとずつ設定を散りばめつつ。(まとめへの設定もいれつつ)
総帥大好きだ……。
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四年経った。
総帥としての俺のペルソナはすっかり定着して。
今日も貴方との距離を測る。
ねぇ。
時が来たようだ。
Doppel
act11 そして始まる君の物語
「あー……、きたか」
すとんとそれは俺の中に落ち着いた。
いつくるか、総帥になってからの四年間その日を迎えることにどこかで怯えを感じていたと思う。
無論それを知るものは少ない。
いない。と言いたいところだが、いかんせん不都合な体は時々主の感情を無視するのだ。
しかし訪れれば簡単に受け入れることが出来た。
ああ、こんな物なのかと。
始まる前は、どうにかしてそれをくい止めることは出来ないかとゼロに近い可能性に縋ってしまうけれど、いざ動き始めてしまえばもうその流れにのるしかないのだ。
「さて……俺はどうするべきなのかな」
これは君の物語。
止まった時間を動かすための君の物語。
本部へと戻る艦の中。
一人窓辺にと佇んで流れる景色を何とはなしに見やる。
目を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。
深い蒼にすいこまれそうな空。
白い砂浜にうち寄せる波。
暑さを含んだ空気が頬を撫ぜるのが心地よくて。
「………もう、四年か………」
それともまだ四年だろうか。
あの島ですごしたのは一年ほどだった。
けれど、一生分の輝きを詰め込んだような一年だった。
まだ三十年も生きていない分際で、と言われるかも知れない。
でもわかる。
だってこれから歩いていく道に彼はいない。
そして選んだ道は果てなく続くのに、一緒に歩く人は一人また一人と減っていくのだろう。
これはすでに決められた結末。
「………言える資格ねぇよな」
同じ顔をしたあの男はその中で生きてきた。
幾度の別れがあったことだろう。
けれど決して自らの使命を放棄することはなかった。
たった独り。
何度彼は見送ったのだろう。
どこまでも近いようで、けれどその実遠い存在は。
やはり目の前に在る。
鏡像のように、彼と交わることはないけれど。
その生き様に。
あの男は惹かれたのだろうか。
「俺のが先に逢えてたら……、何か違ったのかな」
何も違わないだろう。
俺はあの男の息子として生まれたのだから。
そしていまがあるのだから。
「どうしようか?」
俺は今すぐ貴方に会いたい。
そう。
今動き出した弟よりも。
俺は今すぐ貴方に会いたいんだ。
「でも……追ってなかったらそれはそれで怒るんだろうなぁ」
あの愛し子を。
今度こそ父親としての役目を果たすと言っていたあの男が、それこそ何の動きも見せていなかったら容赦しないだろう。
傍にいて欲しいのと供に、あの男が一番傍にいるべきなのは弟だと思っているから。
「……………違うな」
自嘲気味に軽く頭を振れば、長い黒髪が静かに音を立てた。
随分と伸びた気がする。
四年間一度も髪に鋏を入れたことはない。
これは俺の唯一の抵抗。
貴方を好きだと思う俺の。
唯一の自己主張。
「あいつを見てもらいたくないのは、変えられないんだよ」
四年かけて納得をさせた。
無論少し揺さぶられれば簡単に零れてしまう、そんな脆い殻だけど。
それでも閉じこめた。
何の解決になりはしないのは自分でも分かっている。
けれど離れられない。
そんな俺の選べる手段なぞ、後は自己防衛に走るしかないだろう。
「―――……無茶苦茶情けないけどな、」
折角あそこに行ったのに。
俺は今でも成長していないんだろうか。
今回呼ばれなかったのは。
ただ単に俺が必要なかったから?
「今度は、お前の物語だ……」
口に出して己自身に言い聞かせる。
彼の物語に、俺は必要ないのだろうか。
それともあの島に俺も行ってしまったら。
――――――――――今更ながらに、選んだ道を違えてしまうからだろうか。
「ありえない。って断言できないところが自分で辛いな」
ふっと、鼻だけで自分をせせら笑う。
そう。
たった一人の男に簡単に揺れてしまう自分は。
それと同じようにあの島に惹かれている。
背負っている物が、あのころとは違う。
四年前に辿り着いたときは、総帥の嫡男という肩書きこそあった物のその肩に負っている物は自分自身だけだった。
けれど今は新生ガンマ団総帥として、自分だけの体ではない。
今更全てをかなぐり捨てることを選ぶほど愚かではない、と思いたい。
ただ目の前にして、誘われないとは言い切れないのが事実で。
「そもそも……あいつにぶっ飛ばされそうだ……」
置いていかれたと思ったのは自分なのだろうか。
あそこで手を伸ばされていれば。
――――――多分、俺が選んだのはあいつだ。
「会いたいよ」
君にも。
貴方にも。
決して交わることのない二つの線。
それがまた交差しようとしている。
「今度こそいっぱい愛されろよ……」
あのどうしようもなく不器用な男は。
さて、どう出るのだろう?
「そろそろ俺も………覚悟決めないとな」
また動き始めたことに、今こそ自分は何も関係していない。
けれどあまり遠くなく、関わることは間違いないだろう。
だって俺は秘石から作られた人間なのだから。
「何を考えている?」
「シンタロー、」
不意に軽い音を立てて開いたドアに、シンタローは己の思考から浮上する。
気配を感じられなかったのは訪問者が消していたからか、それともそこまでのめり込んでいたのか。
両方かも知れないと思いつつ、シンタローは後ろを振り返った。
「ちょっと、これからのこと」
軽く笑みを乗せながら答えれば、そこには少し気むずかしそうな顔をしたシンタローがいた。
多分他の人から見れば、いつもと変わらない表情に見えるのだろうが。
困ったように眉を寄せているシンタローに、シンタローは問いかける。
「どうした?何か変わったことでも起きたか」
「いや……それもある、が……」
こいつにしてはいつになく、歯切れの悪い口調。
思ったことは歯に衣を着せずずばっというタイプだから(それが素なところが恐ろしい)かなり珍しい。
本当に何か起きたのかと、シンタローが表情を固くしたときだった。
目の前に立つシンタローが、ふっと手を伸ばしてくる。
「シンタロー……?」
「連絡が入った。お前には厳重に口止めされている」
何がそんなに辛いのだろうか。
冷たい指先が、そっとシンタローの頬に添えられて泣きそうにその瞳が歪んだ。
「もう、多分知ってるんだろう……?」
その一言で、シンタローは全てを察する。
無論、シンタローが分かったことは漠然とした物だったが目覚めた後の行動くらい容易に想像できている。
けれど、それと今シンタローがこんなにも苦しそうな表情をするのはそんなに関係があることだろうか。
確かに目の覚めぬ弟を気遣っていたし、この男が『生まれた』時に懐いていたようではあるが。
「コタローが目覚めた。それだろうな」
「ああ…、そしてあの島へ向かったらしい」
きゅ、と力無く頬を伝った指がシンタローの服を掴む。
なにを。
何をこんなに不安がっている?
まるで縋るように伸ばされる腕が、目にするのはこの四年の中もしかしてはじめてでは無かろうか。
いつもさりげなくこの男はシンタローの隣にいてくれたけれど。
自分自身はどうだっただろうか。
総帥という役割と。
自分に手がいっぱいで。
当たり前のようにいてくれる存在を。
軽んじてはいなかっただろうか。
必死で伸ばしていなければいつの間にか届かなくなりそうな存在ばかり。
追いかけて。
追いつけなくて。
「シンタロー?」
「………お前が、気に病む事じゃない……」
気持ち声を潜めて呼び掛ければ、少し掠れた声が出た。
自分でも思わぬその声に、シンタローはふるふると首を振る。
「俺が勝手に……揺れているだけだ」
「…………え?」
ポツリと零されたシンタローの言葉。
聞き取りにくかったが、確かに彼はそう言った。
そしてシンタローの胸元に顔を埋めるように、彼は抱きついてくる。
突然のシンタローの行動に、シンタローは戸惑いを隠せない。
なにが、あったのか。
常にないこの男の様子にシンタローはしばし逡巡して、眼下にある彼の肩にそっと手を置いた。
「………少しだけ、このまま」
抑揚のない声で、けれど何処か儚さが含まれる声色にシンタローは何も聞くことは出来なかった。
ただ、微かに体重を預けてくる男をゆるく腕に抱き込む。
自分がそうであるように、シンタローも自分から言わないことは、問い質されても口を開くことをしない。
己がそんなときは、シンタローは少し困った顔をして。
けれど何も言わず隣にいるのだ。
それがシンタローにはいつもありがたかった。
いて欲しいときにいてくれる。
そんな存在が。
「悪い……」
「いや、構わねぇよ」
お前のそんな姿は初めて見た。
そう口に出しそうになって寸前で止める。
多分、こんな事言ったら二度と彼は自分の前で弱った姿を見せることはあるまい。
誰よりも感情を表すのが苦手なクセに、感情を察することは誰よりも得意なのだ。
緩慢な動きで、ほんの少しだけシンタローから離れる。
その温もりが動くことがシンタローに少しだけ寂しさを感じさせた。
「あの男の気持ちが分かった気がする」
そう言って彼は微笑んだ。
微かに、泣きそうになりながら。
でもそれ以上を語ることはしなかった。
「多分今頃本部では大騒ぎだろうな」
「ああそうだろうなー……、絶対あいつ等担ぎ出されてる気がする」
一回だけ俯いて、次に顔を上げたときにはいつもの自分が知っているシンタローだった。
切り替えたように先程の話題を口にするのにシンタローものった。
それとなく背中を押してくれる存在だった。
大切な仲間たちは、一足先に島へ向かっていることだろう。
「いや、向かわされてるって言った方が正しいかな」
「報告、上がってると思うが……」
「あー別に良いよ。帰れば分かることだ」
シンタローが聞いてくるかと目線だけで問うのに首を横に振って答える。
あいつ等なら大丈夫。
なんだかんだで島になじんでいたし、大切なあの子ども達に危害を加えるような真似はしない。
「俺が心配なのは弟じゃなくてむしろ―――……」
「叔父貴か?」
「ぜってぇ怯えてるね。俺の弟への執着は奴が一番知っている」
勿論シンタローだってあの父親が何もしなくて弟が島へ行ったのではないことぐらい分かっている。
その場にいたとしても止めきれなかったとは思うのだ。
秘石の影響を特に受けやすい、両目に秘石眼を持つ弟。
たとえあの男もそうだとしても、本家に勝てるとは思えない。
と、そこまで思ってシンタローはふと気づく。
「そういやお前平気なの?調子悪くしてねぇよな」
「なんだいきなり」
「いやだって」
片目だけ秘石眼であるけれど、例外が一人いた。
目の前にいるこの男は、ずっと秘石の影響下にいたせいかその力をもろに受けやすい。
シンタローはそう考えている。
同じモノを共有していたせいもあるが、自分が秘石の番人なのも関係しているのではないかと思い始めたのだ。
そう考えれば、妙に不安定だったことも納得がいく。
「……別に、おかしなところはないと思うが」
少し困惑気味なシンタローの頭をくしゃくしゃと掻き回す。
自分のことを不器用だとかよく言うこの男も、存分に不器用だと思う。
まだよく分かっていない。
自分のことなのに、理解していないことが多かった。
今ではまだマシだが本当に元に戻った当初は大変だったのだ。
熱があることに気づかない。
眠いと言うことがわかっていない。
そして痛みに鈍感だった。
ある意味、Nopain者であると言っても過言ではないだろう。
勿論感覚はきちんと持っている。
しかし頭で理解しているだけで、それがどういう状態かはよくわかっていないのだ。
「俺の痛みは、俺の物だったしなぁ……」
小さく呟いて、シンタローは改めて目の前の従兄がどれだけ通常とは違うのかを思う。
確かにシンタローはシンタローの中にいた。
朧気ながら、その事実は認識していたらしい。
例えばシンタローがナイフで手を誤って切る。
刃物で傷を付ければ皮膚の下を走っている血管が傷つき血が出てしまう。
それは分かる。
けれど感覚は体がないため分からない。
それが危ないことだとはかろうじて分かるが、どうして危険なのかと言うことを理解していないのだ。
痛いと思えばそのことを人は避けるだろう。
けれどシンタローはその痛いが、傷口と結びつかないのだ。
どういうときに痛いのか。
まだ切り傷かなんかはわかりやすくて良かった。
一回や二回、元に戻ってから経験すれば簡単に分かる。
こうすると痛い。と言うことがすぐに理解できるからだ。
「………分かってても、つい近づちまう場合もあるけどな」
「シンタロー……?」
理解していても痛いことに近づく。
自分の状況はまさにそうではないだろうか。
この痛みは手に負えない。
例え血を流していても、傍目にはそれと分からないのだから。
例えどんなに苦しくても、死ぬことはないのだから。
もう随分と当たり前のようになってしまった自嘲の笑みが知らず浮かんだ。
僅かにシンタローの眉が顰められたことに、シンタローは気づかなかった。
「もうすぐ、着く……」
「そうだな」
「あまり手荒なことはするなよ?」
「さてねぇ………?」
楽しそうにシンタローに笑いかけたシンタローに、ようやくシンタローは知らずつめていた息をそっと吐いた。
やっぱり、重傷だ。
この男の背負っている物は。
シンタローによって乱された薄い金髪に手をやりながらシンタローは心の中だけで呟いた。
お前がいなくなりそうで怖かったんだ。
そう、口に出して言うことは彼の重荷を増させる。
通信室から連絡が入り、一足先に部屋を出ていった背中を見送って。
シンタローは僅かに乾いた目を強く瞑る。
「………本当に、あの男の気持ちが分かる気がする……」
もうすぐ到着するガンマ団本部。
一悶着あるだろう事は想像しなくたって決まっていることで。
「何があってもついていってやる」
一人決意を新たにして。
それでも前に進める彼を、眩しく思った。
--------------------------------------------------------------------------------
だから。
知られたくなかった。
だから。
必死になっていた?
めぐし子達よ、幾度この手をすり抜けていけば。
かえってくる。
Doppel
act12 だからその手を
「ガンマ砲ッ!!」
容赦のない攻撃に、ガンマ団本部は大きく揺れていた。
道化などいくらでも演じて見せよう。
それでお前が離れていかないと言うならば。
けれど所詮は足掻き。
分かっていたことだ。
あの子が手許から離れていったときから。
この子も島に行ってしまうのだ。
「奪うな」
壊すことしかできない私が。
唯一生み出せたモノなのです。
「頼むから………」
どうかこの手に。
あの子たちを。
彼の人はこんなに脆かっただろうか。
すっかり有り様を変えてしまった辺りを見渡す。
潮を含んだ湿っぽい風が、髪の毛を撫でていく。
次いで舞う粉塵。
からからと砕かれたもとは壁だったものが足元を転がっていった。
「またひどくやったものですねぇ」
かつん、と硬質な音が背後に現れる。
のんびりとした、客観的視点をいつでも崩さない。
科学者としてとても優秀だが、弟のこととなると少し盲目的なところがある。
私に言われたくはないだろうが。
「怒られちゃった」
「まぁそうでしょうねぇ……また修復費がかさみます」
「ハ―レムに出させようか」
「あ、丁度良いですねどうせそちらへ行くことですし」
さらりと吐かれた台詞にマジックは眉をわずかにあげた。
「シンタロ―様が、総帥に言われたと艦の準備を始めていたので。貴方にも報告しておいてくれと頼まれました」
「シンタロ―はあの子と?」
「ええ、彼とともに行くそうです。本来なら残るべきなんだろうと言っていましたが」
空を仰ぎながら高松は細く息を吐く。
「でもシンタロ―さんを止められるのはあの方だけですからね」
色々な意味で。
その台詞に彼も多分、自分と同じ不安を感じてるのだろうと思う。
あの子は島に近すぎる。それを彼は間近に知っている。
「シンタロ―が二人とも留守で特選部隊もいない。その上幹部達まで島か―――、ガンマ団が随分と手薄だな」
「ですね。まぁ貴方がいますし、ジャンとサ―ビスでなんとかなるとは思いますが」
ジャン、高松から出たその名にマジックは目を細める。
「そういえば―…、ジャンは行かないのか?」
「はい?」
マジックの言葉に、高松はまじまじとその黒い瞳をこちらに向ける。
思いもしていなかったらしい問いに、困惑しているようだ。
「あ―…、貴方はある意味当事者ですものねぇ……」
「高松?」
「第三者の方が状況を正確に判断できるという事です」
白衣の裾を翻しながら高松は、マジックの横をすり抜けて部屋(だった場所)の端にと立つ。
眼下の海を覗き込みながら言葉を続けた。
「ジャンは島に未練があるわけではありません」
シンタロ―さんと違って。
振り返らずとも、マジックの顔が歪んだことがわかる。
風だけではない、体を刺すような空気にけれど高松は臆することをしなかった。
「ジャンは自分の意思でここに来たんですよ。島の番人としての役目も存分に理解していた彼が、その島から出てきた」
いまさら―……。ようやく彼は選択出来たのだ。
「帰る理由がありません」
サ―ビスの隣にいることを選んだ、ジャンには。
「ただ、シンタロ―さんも『番人』としての意識はないですからその点では島に惹かれてはいませんよ」
「………それぐらいは、私にだって分かるさ」
島自体への恋慕だったら、こんなにも繋ぎ止めたいと思わない。
「あの赤の少年だろう?相反するからこそ惹かれたのか……」
マジックの言葉に高松もその記憶を思い起こしながら言葉を口にのせる。
「それは違うと思いますけどね」
「それならジャンとシンタロ―さんだってもう少し仲良くったっていいです」
「それは……また違うだろう?」
今度はマジックが高松の言葉に異を示し、それに高松も賛同した。
「ま、そうかも知れないですね」
「しかしあまり仲が良いと言えないのも事実だ。もう少し歩み寄った方がお互い楽だろうに」
似たものをその裡に持っているのだから。
「………―――まさか気付いてないんですか?」
「高松?」
「あの二人は……いえ。シンタロ―さんは」
続いた言葉は海風にさらわれて。
そして、第三者の介入に聞き返すことも叶わなかった。
「シンタロ―様、どうなさいました?」
「…………………」
高松の視線はマジックの後ろに真っ直ぐ注がれている。
軽く床を叩いて青年はその足をマジックへと進めた。
不意な登場に思わず被った。
弟と。
彼は彼が『産まれた』ときからすでに父親より年上だった。
弟の享年は23。
その形から年老いることはなく、そしてそれより年上になったと言っても彼の容貌は弟に瓜二つだった。
「追い掛けてきてくれ」
口数が少ないこの青年は、いつも単刀直入だ。
その分一言一言が重い。
あまり変わらない表情のなか、今は眉間に皺が寄せられている。
「あいつらを追い掛けてきてくれ」
「どういう」
ことだ?
続けようとして、青年を呼ぶ声がそれを遮った。
青年に聞こえないはずもなく、声の方向に一度視線を向けると踵を返そうとする。
「シンタロ―様」
「手を、掴んでやれ」
「グンマももう少しで鑑を完成させる」
いつもの薄い、蒼が。
深い海の色を反射させてどこまでも濃いブルーにと色を変えている。
「それで、貴方も島まで」
「島に……私が?」
潤んでいるように見えるのは。
私の気のせいなのか。
「離したくないのなら掴みに行けばいい」
例えそれがアイツを傷つける結果になろうとも。
それを彼自身が望んでいる。
そこで立ち止まるか突き進んでいくか。
彼の選択だ。
俺が出来るのは。
そのとき見ていることだけだ。
「……………シンタロー」
「生憎俺じゃ役不足だからな」
「頼む」
そう言う彼が浮かべる笑みは。
切ないほどまでに綺麗だった。
「………私、貴方の気持ちが少しだけ分かった気がします」
「高松……」
「あの方が、このまま帰ってこなくなるんじゃないかと」
「…………そうだね……」
すでに彼はこの場にいない。
まもなく出立するだろう。
迎えに行くために。
新たな道を進むために。
「私たちも準備をしようか?」
「そうですね………」
いつの間にか立ち止まっていた。
ただ得体の知れないそれに恐れて。
「若い子には敵わないなぁ」
「ちょっと引退長かったですか?」
「食らいたい眼魔砲?」
「あー……、仕組みに興味はあるんですけど」
まだこの手を離れきったわけじゃない。
今ならまだ間に合う。
ただ受け入れて貰えるかどうかが恐いだけなんだ。
それをお互い思っているのにも気づかないのが。
また愚かしいんだけどね。
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久しぶりのドッペルです。ああんまとまってねぇ!!(泣)
何かまとまって無さ更新しちゃった感じです。(駄目じゃん)
なんつーかシンちゃんが欠片しかいないのがすげぇびっくりだ。
つかマジックさんと高松だけですか。
おかしいな……。
相変わらず視点がころころ変わって読みにくくてすいません。
キンちゃんとマジックさんもう少し掘り下げたかった…のですが。
書けば書くほどやっぱりへにょってるようなッ。あう。
しかも今までの中で一番副タイトルがきにくわなかったり。(ヘタレ)
……どうぞついてきてやて下さいませ……。
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いつだって俺は。
自分のことしか見えてなかったんだ。
Doppel
OtherAct 雪の降る音
どうしようもない喪失感。
突如襲われたその不安定な心持ちは、俺の物ではない。
「ハーレム………?」
絶対、何かあった。
この感が外れることなどありはしない。
走り出した際に散らばった書類を気に止めることもなく、研究室を飛び出した。
「ハーレム」
「……お前か」
ハーレムはシンタローの姿を見てあからさまに顔を顰めた。
怒りの空気がまとわりついているハーレムの周りに人は見当たらない。
このまま誰にも会わずに出て行ければ楽だったのだが。
特に、この男には会いたくなかった。
「お前シンタローに何をした?」
「何もしてねぇよ。話をしてただけだ」
「………それだけじゃないだろう」
嘘だ、とは否定しない。
桜の花のことは聞きもしない。
シンタローは、シンタローに関して妙に勘がいい。
勘がいいとは少し違うのだろうが、何故か誰よりも早くその異変を嗅ぎつけるのだ。
そう、それを強く感じたのは一月ほど前のこと。
シンタローが倒れたとき、この男はその場にいなかったにも関わらず素早くその状態を把握していたのだった。
そんなことをハーレムがつらつらと考えていると、シンタローが強く睨んでくる。
淡い金髪に薄い青。
…………いつも淡い笑みをたたえていた、自分の兄が被る。
「話した内容は話さなくても良い。けど、お前は一体シンタローに何をしでかした?」
「矛盾してねぇか?まぁ別に構わねぇけどよ……、しでかしたってのは人聞き悪いな」
「…………そうでもなければ、なんだって言うんだ」
ハーレムが出ていく前よりも強いこのざわめきは。
知らず握りしめていた拳が、震えだす。
「ま、確かに仕事を増やしてきたけどな」
「ハーレム」
「黙っててもすぐ分かることだし言っておく。俺、ガンマ団抜けるわ」
「……………何?」
呆然としたシンタローに、ハーレムは淡々と続ける。
「あいつの考え方は理解できねぇよ。本気で。……理解したくもないけどな」
「お前自分が何言ってるのかわかってるのか?」
「俺よりそれはあいつに言えよ。あいつこそ何言ってるのかわかんなかったよ俺は」
「シンタローは、お前のことを」
「あいつは……少しは思い知った方が良いんだよッ……、何も見えちゃいねぇ」
「…………………それは」
ハーレムの独り言のようなその言葉。
シンタローも薄々分かっていたことで。
けれど肯定は出来ない。
否定はもっと出来ない。
何も見えていないわけではない。
けれど見えなくなっている物が多いのは事実で。
でもそれを彼は決して分かっていないわけじゃないのだ。
だから手に負えない。
手を差し伸べようとすれば何でもないように振る舞うから。
「けど、今のシンタローはっ………!!」
「いいじゃねぇか俺がいなくなっても。衝突しまくりだし命令違反しまくりだし誰もおかしくは思わない。総帥の面子は保てるだろうよ」
「俺はそんなことが言いたいんじゃない!!」
総帥の立場とか体裁とか。
そんな物より、俺が大事なのは。
「………欲しがれば良いんだよ。辛くて苦しくて支えが欲しいなら、望めば良いんだ。振り払うことまでは、しやしない」
「そうじゃなくて……!!」
「話しすぎたな、お前が納得できなくても俺は止めるって決めたんだ。口出ししても無駄だ」
小さく舌打ちをしたハーレムは、シンタローの様子を一瞥して踵を返した。
いなくなる。
ハーレムが去ってしまう。
「ハーレムッ…………!!」
「……………お前等はホント手に負えねぇな」
溜息混じりのその言葉に何が含まれていたのだろうか。
表情が伺えず、それ以上呼ぶことも出来ず。
シンタローはハーレムの背が小さくなるのを、ただ見送っていた。
ハーレムの意図が分からないわけじゃないのだ。
ただ。
その意図を、彼は気づけない。
自分が気づけても、彼は気づけない。
「あんな状態のシンタローから、離れたら」
何があったかは分からない。
けど、ハーレムはどのように別れたかくらいは見当が付いて。
「見限られたとしか、思えないだろう………?」
例え貴方が別の考えを持っての行動だとしても。
それに気づける彼ならば、貴方をそんな風に動かしたりしないのだ。
「シンタロー……」
くしゃりと右手で髪を掻き上げながら、自分ではどうしようもない事態に。
臍を噛んだ。
どこまでも白い。
白い冷たい世界が広がっている。
数メートル先でさえ降り積もる雪で見えなくて。
吐く息が白く溶け込む先を、厭きることなく眺めている。
もう、二年目が終わろうとしていた。
ハーレムが去ってからあと少しで一年。
忙しさは増したが、それはそれで構わなかった。
他のことに没頭していればその間は思い出さなくてすむから。
相変わらず進歩がない。
自嘲気味に笑おうとするが、寒さで顔の筋肉が麻痺したように思うようには動かなかった。
キン、と張りつめた空気。
思い切り吸い込むと、体の中から浸透していきそうなその冷たさ。
少しのぼせたような身体には丁度良かった。
雪深い北国。
説得を手こずっている国へ総帥自ら足を運ぶ。
それは他の組織はどうか知らないが、ガンマ団では当たり前のことだった。
下手に小隊を送り続けるよりも早くすむ。
それは……自分が決めた『殺すな』という組織の在り方のせいでもあるから。
乾燥した唇を噛みしめると、僅かに錆の味がした。
この決断を悔いたくはない。
今更悔いたら、この二年間はいったい何になるのだろう。
自分の命令ひとつで、消えていった者達は。
想像してたよりも深い雪と、冷え込んだ空気は艦のエンジンにダメージを与えた。
このまま動かし続けるには流石に不都合が生じる。
一端メンテナンスの時間をとると同時にシンタローは、艦外へと足を運んだ。
まわりの物は誰か護衛を、と何度も言っていたがここにいる誰よりもシンタローは強い。
それに、自分の我が儘で外に行くのを付き合わせるわけにも行かなかった。
この間にしっかりと体を休ませて置けと言うシンタローに、団員はそれでもなかなか首を縦には振らず最後は総帥命令といって今に至る。
突き刺すような寒さは作業を手こずらせるだろう。
辺りが山で囲まれているというのがかろうじて分かるそこは、次から次へと降ってくる雪で本来の形が覆われていた。
足跡を付けてもすぐに大きな雪の粒が埋めていく。
あまり離れると艦は簡単に見えなくなってしまう。
ざくざくと雪を踏みしめる音以外、何も聞こえない。
まるで全てを隠してしまうかのように。
ここは、雪が抱き尽くしていた。
見上げれば降り積もる雪に、逆に空に吸い込まれていきそうで。
手を伸ばせば、限りなく高い空に届かないことを知る。
音もなく降り積もる。
立ち止まれば唯一の音源は無くなり不可思議な感覚に陥った。
自分だけが取り残されたような空間で考えることは、やっぱりあの男のことだった。
どうしようもなく捕らわれて。
思い出したくないことばかり、頭によぎる。
『私はお前の父ではない』
初めての拒絶の言葉。
不意に思い出されたこの言葉に、息が詰まる。
まだ、まだ気にしているのか。
己自身の思わぬ動揺に、それこそ狼狽えてしまった。
自分の正体が何者か。
そんな混乱の最中だったからだろうか。
余計に、苦しかったのだ。
伸ばされていた手を、取ろうとした直前に振り払われてしまったような置いてけぼりの気持ち。
恐れていたことが、現実になってしまったその瞬間を。
多分生涯忘れることは出来ない。
「…………いや、いつか忘れるかもな」
結局はどこまでも人間なのだ。
長い時間を経ていけば、それはどれもが思い出になって記憶から薄れていくだろう。
それがいつになるかは分からないけれど。
発した言葉は響くこともなく、雪の中に消えていった。
吹雪でもないのに目の前を覆い尽くす雪。
その存在感は圧倒的だ。
思い立って、手袋を外した手に雪をひとつ落とせばそれは簡単に溶けてしまうのに。
降り続ける雪は逆に己を隠してしまいそうで。
白銀の世界の中、一人だった。
「―――――――戻るか……」
流石に冷えきってきた。
また、倒れたりしたならどうしようもない。
この白い世界にいるのは割と心地よかったのだが。
漆黒の髪に張り付いた雪を落としながら、踵を返した。
さくりとした雪の中を進むのはなかなかに難しい。
幾度か足を縺れさせそうになりながら、艦に戻っていくそのときだった。
「――――――――ぶえくしゅッ!!」
「――――――――何だぁ?」
いっそ別世界のようなそこに突然入ってきたくしゃみ。
その間抜けな音に、シンタローは思わず後ろを振り返った。
普通なら警戒するとこなのだろうが、聞き覚えのある声で。
考え事をしていたとはいえ、気付かなかったから殺気もない。(確かに殺気を消すことも出来るだろうが、それならばとっくにアクションしていてもおかしくない)
辺りは相変わらず雪のせいで視界が悪かった。
それでも目を凝らしてみれば、数メートル先に人影が浮かびあがる。
「ミヤギ!?お前いったい何を………」
「それはこっちの台詞だべ」
ずずっと鼻を啜りながら近づいてきたのは、肩書きとしては総帥直々の部下。
ガンマ団幹部の一人。
シンタローの大事な仲間でもある、ミヤギだった。
総帥と幹部が同じ目的のために一緒に出かけると言うことは少ない。
戦力の分散から言って、シンタローを含む五人は大概バラバラなのだ。
今回はたまたま居合わせたミヤギに、急ぎの仕事もなく向かう国が北とあって連れてきたのだった。
もしものときに今回シンタローの眼魔砲は出しにくい。
地の利は向こうにある上に、この雪では自分たちにもダメージがあるだろう。
ミヤギの武器は、接近戦でなければいけないが一番平和的に戦える武器でもある。
そのことを考慮に入れて、連れてきていた。
この深い雪の中を器用に歩きながらミヤギはは近づいてくる。
金髪碧眼、整った容姿にはてしなくギャップのあるばりばりの東北弁。
元々白い肌はこの寒さのせいか余計に白くなり、色が悪い。
頭の上に積もった雪が、更に寒々しさを増していた。
「あー……しゃっこえーなー……」
「すまんわからねぇって言うかお前こんなになるまでいったいなにしてんだよ!」
「総帥の護衛だべな」
「…………俺護衛いらないって言っておいたんだけど」
「そんなこと言ってもな、おめさんはやっぱり総帥なんだしそういうわけにいかねぇべ。それにオラはそれ聞いてないしな」
しれりと何でもない風に言うミヤギの鼻が赤い。
自分が出ていってすぐに後を追ってきたのだろうか。
近づいただけで冷気がひやりと伝わり、その体が冷えきっていることが分かる。
軍服の上にコートすら着ないで、かろうじてマフラーは巻いているが手袋はしていなかった。
「お前はあほか!?こんな冷えきるまでこんなとこいるんじゃねーよ!」
「………それそのままシンタローにけぇすべ」
指さしで思い切り怒鳴る声もこの雪の中では、かき消されてしまう。
そういうシンタローの顔も十分に白く、黒髪の対比で蒼白にすら見えるぐらいだった。
そもそも冷えきるまで外にいたのはシンタローも同じで、この寂しい場所で彼は一体何を考えていたのだろうか。
「こんなに雪が降り積もってるべな」
「………お前もだって言ってんだろうが」
肩に積もった雪を振り払うミヤギの手の動きが固い。
シンタローも頭に積もった半溶けの雪を払ってやりながら不意にその手を取った。
………………激しく冷たい。
「あんだべ?」
「……………どうしたらこんな冷たい手になるんだよテメェは」
「シンタローもしゃっこえぇべ」
「俺はいいんだよ」
「それならオラも別にいいべ」
「…………………」
こんな不毛な会話を繰り広げているだけでも、雪はどんどん降り積もっていく。
シンタローの憮然とした表情に、ミヤギはふっと息をもらした。
「あんなぁシンタロー」
「んだよ」
「オラな、雪を素手で触るの好きなんだべな。手袋とかしてると上手く雪で遊べないべ?さっきもなぁ、シンタローがぼーっとしてるときずっと雪いじってたんだわ」
「………………………」
そういってミヤギは不意にしゃがみ込み、足下の雪を丸く形作っていく。
どこから取ってきたか分からない赤い木の実と、緑の細長い葉。
それをその雪の固まりにくっつけて、掌サイズのそれをずいっとシンタローの目の前に差し出した。
思わずその雪を受け取れば、ミヤギは満足したように一人頷く。
「……なんだこれ」
「雪ウサギ。シンタローが、ぼけっと雪眺めてる間にいくつも作れたべ」
「ぼーっとっていうなよ!」
「端から見れば考えごとしてるのもそれもあまり変わらねぇよ」
そういって、笑うミヤギの顔は何を考えているかよく分からない。
いきなり突きつけられた雪ウサギなるものも、どうしてそれなのかよくわからない。
「………こげに寒い場所でぼーっとしてるんは、オラみたいに雪で遊ぶ、とかこの冷たさを楽しむ、とかそういうきちっとした目的がねぇと体によぐねぇからよ」
「目的って……」
「だってシンタローはここにいたけども、違う場所におるんだもん」
自分の台詞に自分で首を傾げながら、ミヤギは笑う。
シンタローはそのミヤギの言葉に思わずどきりとした。
なにかとても、図星を突かれたようで。
その図星がなんなのかは分からないのだけど。
「そげなことしてたら心まで冷たくなってしまうわぁな」
そういってミヤギはまたひとつ、雪ウサギを作り上げる。
シンタローから先程渡した雪ウサギを取り上げて、その隣にと寄り添えた。
「何にせよ体にワリィのは事実だからな、早くみんなのとこ戻るべ」
「――――――ああ」
すぐ雪に埋もれてしまうだろう雪の造形。
それを嬉々として作ったミヤギは、シンタローの背中を押して艦へと促す。
その手に逆らうこともなく足を進めはじめれば、ほわっと暖かい物が首筋に触れた。
「ッなんだぁ!?」
「トットリから預かってきたんだべー、渡そうと思って実は追いかけてきたんだけんどもがよ。話しかけるにかけれねぐて」
驚いて振り返ったシンタローの手に渡された物は、小さな金属のケースだった。
見慣れないそれは、振ればカタカタと僅かに音がする。
「………これ、何だ?」
「ん――、ホッカイロみてぇなもんでねぇかな。中にそれ炭が入っててな、あったかいべ?」
「ああ………」
確かにそれは、じんわりとした温かさが心地よい。
冷えきった指先にも熱くは感じず、ゆっくりとそこから解けていくようだ。
「寒いだろうから気をつけぇだとよ。それ炭さえ入れ替えればなんべんも使えるしな」
「炭って……そんなのどこに」
「艦に置いてきたけど持ってきてっからな、アラシヤマでもおれば完璧だべな」
そういって歩き始めたミヤギの背を、二、三歩遅れてシンタローも歩き出す。
トットリの心遣いを握りしめて、シンタローはほぉっと息を吐いた。
思っていたよりも体は随分と冷えていたようだ。
こうして、温かい物に触れるとそれがよく分かる。
「……後でトットリに礼を言わないとな」
「そうだべなー、そんならアラシヤマとコージにもいわねぇと駄目だけどな」
「え?」
「預かりもん、まだあるんだべ」
そういって前を歩いていたミヤギは振り返り、シンタローに向かって何かを投げた。
それは軽く弧を描いてシンタローの手の中にと収まる。
「………お守り?」
「アラシヤマからだべ。何か中にはいっとるような気がしたけども…」
流石に自分が開けるわけには行かないから、とミヤギが言うのを受けてシンタローはようやく暖まった指先でその紐をほどいた。
そこに入っていたのはおきまりの小さな板と、布きれだった。
「お守りだからこっちの板は分かるとして、こっちの布は……」
「発火布でねぇか?確かシンタロー様がつくっとった覚えがあるけども」
「………なんかお前に様って言われるの、すげー寒い」
「おめさんのこと言ったんでねぇよ。寒いならそれ燃やせばいいべ」
意味が違う。
ミヤギの指摘を受けて、よく見れば確かにそんな気がしてくる。
以前グンマがそんな話しをしていたことが思い出された。
「………やっぱあいつすげーな……でも雪の中でも効くのか?」
「無能かもな。だけんどもアラシヤマは、よくもらえたなぁ。シンタロー様なら直接シンタローに渡しそうだのに」
「遠征の準備でなかなか会えなかったんだ最近は……。お前こそよく預かって来れたな」
「オラが一緒行くってどこからか聞いたらしくてな、チョコレートロマンス通じて持たされたわ」
「………………そこまでして」
苦笑を称えるシンタローに、ミヤギはほんの少しばかり眉を寄せた。
ざくざくっと雪を踏みしめてシンタローの目の前にと立つ。
そんなミヤギにシンタローは少々呆気にとられていれば、眼前にびしっと指を突きつけられた。
「みんなおめさんが心配なんだべ!今回はたまたまオラ一緒に来れたけども、もしおめさん一人だけだったらぁ、こげとこで………体さ暖めることもなく一人で冷えとったんでねぇのか…?」
最初は勢いの良かったミヤギの言葉は、最後には雪にかき消されてしまった。
伸び始めた髪が俯いた彼の表情を隠す。
雪が。
雪が降り積もる。
容赦なく降り続ける雪はあっという間にその姿を隠そうとして。
追いかけても追いかけても手が届かない。
――――――悔しい。
どうしてこんなにも。
距離が遠い?
「ミヤギ、」
「わかったら!早く戻るべまた冷えてしまうでねぇかっ」
シンタローが手を伸ばそうとしたときだった。
黄色の頭が勢いよく起きあがり、顔を赤くしたミヤギが怒ったように口を動かした。
シンタローのその勢いに押されて頷けば。
彼はすぐに笑顔にと戻った。
「分かれば良いんだべ」
「―――――――てめ、もしかして憚ったか?」
楽しそうに笑うミヤギに、シンタローは思わずはっとなる。
拳をわなわなと震わせれば、彼は急ぎ足で艦にと向かっていった。
「おいミヤギ!」
「早く戻るべな~、メンテナンスもおわっとると思うんだけんども」
シンタローの怒声もどことやら。
さくさくと雪の中を進む彼は、大粒の雪を楽しそうに掻き分けていく。
追いかけるように進んでいけば目の前には、艦の影が見えてくる。
後もう少しで着く、というときだった。
目の前のミヤギは不意に、消えてしまった。
「ミヤギッ!?」
「――――――――……」
シンタローが慌てて近寄れば、そこには雪に埋もれた彼の姿が。
僅かに高低差のあるそこは雪のせいでみえなかったのだろう。
そのまま足を縺れさせてその勢いで雪にダイブしてしまったらしい。
心配したシンタローは雪に倒れ込んでいるミヤギの姿を見て、笑った。
「俺を憚ろうなんて考えるからそんな目に遭うんだよ!」
「……性格悪いなおめさん…」
雪に突っ伏していたミヤギは、シンタローの笑い声に体を反転させる。
シンタローが涙目を浮かべながら笑うのを確認してぽつりと呟くが、ミヤギもやがて口の端を上げた。
「とりあえず起こしてくんろ」
「総帥使って起きあがるなんててめーしかしねぇだろうな……」
差し出された掌。
雪に座り込んだままのミヤギを腕を取って起きあがらせてやれば、彼はなんだか嬉しそうにシンタローを見やっていた。
「――――――なんだ?」
「おめさんはやっぱりそげな顔しとる方が、いいべ」
ぱたぱたとあちこちに付いた雪を払いながらのミヤギの言葉に、シンタローは思わずきょとんとする。
ちょいちょいとミヤギが手招きするのに従い目の前に立ってやればさらに手で指示された。
「……少しだけ頭下げてくれねっがな」
「ああ?なんなんだよいったい」
ミヤギの要望に、シンタローは首を傾げつつもその通りにしてやった。
吐く息が白い。
しん、としたこの空間で眼前にはいるのは雪ばかりだと思っていたのに。
――――――頭を撫でられる感覚に、シンタローはバッと顔を上げた。
「……撫でにくいんだけども」
「そうじゃなくて、」
「これが、コージからの預かりもんなんだべ」
「………はい?」
「『気ぃ張りすぎるんじゃねぇよ』だと。オラが撫でれば意外性で驚くから丁度良いっていっとったなぁ」
「……あの野郎……。お前も律儀に……」
なおも頭を撫でようとして、けれど雪を振り払うだけに留まってしまったミヤギはシンタローの髪を梳いた。
冷たいのだろう。
けれど己の掌も同じように冷えきってしまっているのでよく分からない。
感覚のない手で撫ぜているとシンタローの呆けた顔が、赤みを増した。
「えーとな……まぁ役に立ってるかしらんけど」
僅かばかり眉を下げて、でも口元には笑みをたたえて。
ミヤギは口を開く。
「俺等はここにおるからな、」
耳に痛いほどの静寂。
こんな近い距離でも、雪がそれを見にくくする。
降り積もる雪は音を閉じこめて。
いつの間にか、己の心すらも。
「あ、催促きちまったが」
不意に訪れた軽い電子音に、ミヤギはイヤホンを取りだし口元に近づけた。
「ああ、今戻るべ。何も異常ねぇから安心さしとけ。うん、もう目の前だぁ」
『―――――……』
「わかっとるって、――――ああ、うん」
シンタローからには流石に相手の声は聞き取れない。
ミヤギの言葉からして、艦に戻ってこいと言うのだろう。
連絡が終わるのを待たず、シンタローは歩き出した。
「あ、シンタロー、おめッ!――――ああ、なんでもねぇって。すぐ戻る」
先を歩き始めたシンタローを、通信を切ったミヤギが追う。
後ろから来る足音に追いつかれないよう、シンタローは早足で歩く。
だってこんな情けない顔、見せられない。
自分のことに精一杯で。
差し伸べられる手にも気付かないで。
選ばなきゃいけないだなんてそんな固定観念に縛られて。
「―――――……今なら少しだけ分かるよハーレム」
貴方が言いたかったこと。
それでもやっぱり離れることを選択することは出来ないけど。
だけど。
「ああ?なんだべいったい」
「聞こえなくていいよ」
うっかり漏らしてしまった声は、この静寂の中聞き咎められるかと思ったがそれは杞憂だった。
本当にこの雪は音と言う音を包み込んでしまうらしい。
雪をしっかりと踏みしめていれば、後ろからはのんびりとした声が聞こえてくる。
「本当に、やかましいほどに降っとるからなぁ、声が聞こえにくくって仕方ねぇべ」
「――――――…やかましい?」
意外なミヤギの言葉にシンタローは思わず立ち止まり、振り返った。
制服のポケットに手を突っ込んだミヤギは、振り向いたシンタローに首を傾げてみせる。
「どしたべ?」
「だってお前、こんな静かなところのどこがうるさいって……」
「…………聞こえんか?」
「雪の降る音。故郷じゃあ、雪が積もる頃になると、聞こえたべ」
よく小説とかで雪がしんしんと降る、なんて描写があるけれど。
雪が降るのに音なんてないと思ってた。
その張りつめた空気などで雪が降り積もった朝は分かったものだけど。
「変な特殊能力持ってるな…………」
「そうだべかぁ?ん――――、ま、いいべ戻るべ」
鼻の頭を更に赤くしたミヤギは体を縮こませながらまた歩き始めた。
シンタローもその後ろをすぐに歩き始める。
雪の降る音。
今まで気付かなかった、その音。
この雪独特の気配をそう呼ぶのだろうか。
「……気付かなかったな」
「ん?そうかぁ?気にすることはないべ」
「ああ………でも、気付かなかったんだ」
これだけ近くにあったのに。
これだけ長く過ごしてきたのに。
ねぇ、気付いてなかったよ。
「気付いてなかった」
いまだ深い棘を抜くことは出来ないけど。
この脆さに、多分耐えることが出来なくて目を知らず逸らしていた。
全てを受け入れられない。
けれど受け入れるべき物も排除してたのではないか?
けっして問題と向き合ったわけじゃない。
向き合えるほど強くない。
ああだけど。
俺はここに一人じゃない。
吐く息が白く、雪の中に溶けていった。
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幕間なのでいつもよりライト風(そうか?)。
はい、今回頑張った刺客ズはミヤギです。つかすげーでばりましたな!
この人(とトットリとアラシヤマ)は、実は1話以降出ても名前だけという扱いでした。
………コージは出してたんだけどね?
シンちゃんに少し吹っ切れる要素が欲しいなって話です。
幕間なのでどっちかって言うとまわりがメインか?いえその割にはポエ夢ってますが。
なんでミヤギかって言うとまぁ私が好きだからってのもあるんですけど(さりげに名前出る頻度が高い)、こういうのはミヤギが一番あってるかなーと……私は思ったんですよ。
コージは大人だから見守ることが出来るのです。
シンちゃん(白)は分かっているから口に出せない。
アラシヤマは口を開こうとは思わない。
となるとトットリととミヤギが残るんですけど(消去法か!)(違いますけどね)トットリの忍者という設定を最大限に妄想すると(大得意ですよコレ。作ってあるし)…この場合トットリは、傍観者に回るかと。
ミヤギは言えるんですよ。言える何かを持った子(子ってあなた)だと思うんです。
見てるだけに徹することが出来ない(くしゃみでばれてる間抜けさな)、少し的を外れた言い方だからシンタローさんは気負わなくてもいい。でも決して本質は外していないから……。
…………ってのが書きたかったのですが、なんか書ききれなくて最高に解説しまくりですな。
その解説すらもわかりにくいってなにさ。
鈍すぎるシンタローさんはシンタロ-さんじゃねぇだろって事で。(あれだけまわりが考えていて何の反応もないシンちゃんは嫌だ)
次からガンガン追いつきますー。多分。
03/8月号辺りかな?その辺からです。
シンちゃん出てないところからは流石に書けないので。
ようやく空白の四年間は終わりですねー。すげーとびとびですけど。
どうぞお付き合いしてやって下さいませ。
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