「シンタロー。準備はできたかい?」
ドアをノックする音。
「とっくに。そっちは?」
それに返事を返すと、「やっと終わったところだよ」という声と同時にドアが開いた。
開かれたドアの向こうには、『ドラキュラ』の姿。
...もちろん本物ではない。
今夜の仮装ハロウィンパーティーのために、ドラキュラの格好をしたオヤジだ。
裏が深紅で表が漆黒のマント、人間界からすれば時代のかかった格好に胸元には真っ赤なバラ。
この男にしては珍しく、俺以外のことでやや興奮した口調で、
「どうだいこの衣装!
デザイナーにも頼んだんだけどねー。どうも私のイメージと違っててねぇ。
仕方ないから自分で作ってみたんだよ!
マントもお手製さ!」
言ってマントの両端をつまんでくるりと一回転。
ばさりと音がして光沢を持った布がはためく。
そのご自慢のマントは、襟元に複雑な銀細工のとめ具がついている。
つくりからすると、ただの飾りで、実用性は薄そうだ。
確かに、人間のイメージのまんまの『ドラキュラ』だろう。
「どうだいシンちゃん! これなら本物のドラキュラと比べても勝てるだろう!!」
どんな勝負する気だアンタは。
いつもの俺ならそう突っ込んだ所だ。
こいつの性格からしてドラキュラあたりやるんじゃないかなとは予想してたさ。
けどな、こいつが完璧主義者ってのを忘れていた。
だがな、本物を見たことがある俺から言わせれば...
.........やべぇ...似合ってやがる...。
「シンちゃん? どうしたのかな?」
「え?あ───あぁ。
ドラキュラの傲慢でタカビーな所がよく出てるぜ」
うそじゃねぇ。
「つまり、高貴な雰囲気を醸し出してるってことだね!
ありがとうううぅう!!」
あぁやっぱり自分に都合の良いよう勝手に変換しやがったな。
───けどまぁ。わざわざ訂正するようなことでもねーし。
軽くハイハイと流しておいてオヤジのそばによる。
「時間ギリギリだよな。行くぜ。」
「うん。じゃぁ早速。ちょっとシンちゃん背中向けて下向いて?」
「? あぁ。」
服のチェックか?
くんっと軽く首輪が引っ張られたような気がして、続いてチャリ...という小さな金属音。
「よし。じゃぁ行こう。」
そういうオヤジの手には鎖が握られて...
くぉうら。
「なんだこれは。」
「え? 鎖。鎖の先は君の首輪~♪」
「喜ぶな!」
無理やり引っ張って奪おうとするが、思いの他強く握っているらしく、勢いでは抜けなかった。
「タイトルは、『ドラキュラに捕獲された生意気悪魔』で」
「まんまじゃねーかよ!」
思いっきり引っ張っているはずだが、どうもこの男の握力は俺より上らしい...。
「さ、会場にれっつごぅ~~♪」
「ぐぇっ! ちょっと待て!! 首がぁああ...絞まるぅうう...」
「んじゃ、シンちゃん準備はおっけい?」
「一応な。」
痛む首を軽く押さえ、目の前の扉を見る。
しっかし...改装前のは知っていたが、ずいぶんと派手に飾り付けたもんだ。
豪奢と言う意味ではなく、カボチャだの蔓だの蝙蝠だの骨だの...
そんなおどろおどろしい飾りつけは入り口からドアまで続いていた。
きっと中も似たようなものだろう。
「マジック様」
呼ばれた声に俺も振り向いてみたら、つい最近オヤジの専属秘書になった2人だった。
名前は確か...ティラミスと、チョコレートロマンス。
ティラミスは魔法使い、チョコレートロマンスは包帯男の格好をしている。
「準備は整いました。後は時間にあわせてお入りになるだけです。」
「あぁ。」
オヤジは軽く答え、時計───懐中時計を見た。
古めかしいデザインで、どうせ今日1日のためだけに買った、あるいは作らせたのだろうが、
こいつのことだ。きっとソーラー電池とか、電波時計とか、無意味ではないがやたら金のかかるつくりにしたに違いない。
その代わり時には忠実だろう。
あと1分もない。
「いいかいシンちゃん?
絶対に私のそばを離れないこと。そうすれば彼らもプライベートなところまでは立ち入ってこないよ。
一応紳士だからね。
あとは、私が渡した料理以外には口をつけないこと。いいね。」
「分った。」
胸元に懐中時計をしまい、マントも元通りにして体全体にくるむ。
「みのむし」
「失礼な」
なんとなく連想したものを口に出したら、笑われた。
観音開きの扉の取っ手を秘書二人がそれぞれ握る。
うう...さすがに緊張するな。
「お時間です」
ティラミスが言い、チョコレートロマンスと同時に扉を引いた。
「...っ。」
開いたとたん襲ってきた光に顔を思わずしかめる。
すぐにそれがスポットライトだと分ったけど。
周りを見れば、中にいたモンスターたち...客や使用人たちまでもがこちらを見ていた。
バサッ!!
すぐ隣で空を切る音。
見ればオヤジが勢いをつけてマントを翻した音だった。
真紅の裏地がスポットライトに照らされる。
ピンと張った背筋に2メートル近い長身。
認めたくはないが、思わず俺も見とれていた...ような気がする。
部屋のすべての視線がこちらに注がれる。
さすがの俺も気圧される中、いつの間にか後ろにいたティラミスがオヤジにマイクを渡す。
「魔女は空を飛び、墓からは死者がよみがえり、カボチャは踊りだし、吸血鬼は彷徨う。
ようこそ皆さん。今宵の宴、何を待っていたかは人それぞれ。
いかなる要望にもお答えしましょう。
血の滴るような肉に、真っ赤なワイン。
美しい貴婦人に──」
ぐいっと体が引き寄せられる、ぽすっとオヤジの肩に頭が押し付けられた。
「話題の提供。
彼が私の息子、シンタローです。」
話題の提供...ゴシップネタか?
オヤジからこちらに視線が移り、内心どうしようと冷や汗を流しつつ、
ハイとオヤジから渡されたマイクを握り締め、俺は途方にくれた。
「その...」
と言ったきり後が続かない。
「シンタロー...です。よろしくお願いします。」
言ってから激しく後悔。
何でもうちょっと気のきいた台詞が出ないんだ...。
うぅ...どこかで笑い声が聞こえたような気がする...
オヤジにマイクを返すと、奴は落ち着いた様子で
「どうやら御婦人たちの美しさに心奪われているようです。
失礼いたしました。」
うあクサイ台詞を...
「それでは皆様、パーティーの途中で失礼いたしました。
食事にお戻りください」
言い忘れていたが、パーティーは立食形式で、
何列かに分かれたテーブルの上に、所狭しと料理が並んでいる。
包帯男や被り物をしている奴らは食いにくそうだ。
「彼が噂のご子息ですか」
テーブルに近づく途中、いきなり声がかけられた。
もちろんオヤジ宛だ。
「おや。これはこれは。」
そちらを振り向くと、そこにも吸血鬼が立っていた。
ただ、その吸血鬼は...デブ...もとい、太っていた。
後退しまくった髪の毛を、後ろのほうから無理やり前に撫で付け、
染めてあるように不自然な黒髪は油でてかてか光っている。
典型的洋ナシ型と言っても良い腹は、ズボンの上でたぷんたぷんと揺れていた。
オレは面食いではないが、...基本は同じ服装でも、
着る人間が代わればこうも変わるものかと思ってしまった。
「お忙しい中、ようこそおいでくださいました。歓迎いたしますよ」
マジックはにこやかな笑みを浮かべ、握手した。
...こいつ一応まともな会話できるんだな。
「こちらこそご招待ありがとうございます。
お言葉に甘えて楽しんでまいります
ところで彼が?」
「えぇ。最愛の息子、シンタローですよ」
最愛言うな。
周りをこっそり伺うと、近くにいる連中全員がこちらの会話に聞き耳を立てられているのが分る。
気分はよくないが...耐えるしかねぇ。
「はじめまして。シンタローです。」
少し頭を下げて挨拶をする。
「はじめまして。シンタロー君。私は...」
デブな吸血鬼は言って懐に手を突っ込み名刺をとしだし、
「ストップ」
受け取ろうとした手を止められる。
「なんだ?」と視線で問うと、
オヤジはにっこりと笑って、
「ハロウィンでは悪魔に魅入られないために変装するんですよ。
自分から正体をばらしてしまっては意味がありません。」
おいおいおい...
「オレの紹介はアン...父さんがしただろ?」
『アンタ』と言いかけてあわてて言い直す。
オレは、ここではコイツの息子なんだ。
「ほら、君は一応パーティのメインだから。」
「あん?」
...ちょっと言葉遣いが悪すぎるだろうか。
目の前のオッサンは俺のほうを少し驚いたように見ている。
「そうでしょう?」
これはオヤジが、オッサンに言った言葉だ。
「そ───うですね。
ところで...」
「はい?」
オッサンはオレとオヤジ、それと鎖を眺めつつ。
「見たところ貴方のほうが悪魔を捕まえてるようですが...
実際に捕まったのはあなたの方なのでは?」
───うわ来たし。
ホントウはどんな関係か、ずばり言い当てられたらどうしようかと悩んでいたんだ。
別にコイツの立場が悪くなろうと俺には関係ないし、
その可能性も低いが、オレが悪魔だと広まったらヤバイ。
パパラッチどころの騒ぎじゃなくなるからな。
まぁ実際このオッサンだって本気で言ったわけではなく、
ちょーっと軽い話題転換のつもりなんだろう。
第一男同士なんて普通に考えてあるわけないんだから。
オヤジだってさらりと流すだろ。
「あぁ。捕まったのは私なんですけど。
どうもそのまま逃げられそうだったので、
逆に捕まえなおして、逃げられないようつないであるんです。
ねぇ?」
何が『ねぇ』かぁあああ!!
あわてて周りを見渡すと、目の前のオッサンはおろか、
周りで聞き耳を立てていた連中も固まっていた。
「は...はは...
相変わらずご冗談が好きですねぇ」
おぉ。(どこの誰か知らないけど)オッサンナイスフォロー!
「いやいや。こういう場所だとつい開放的になるんですよ。」
開放しすぎだ!
その後、オッサンとオヤジは簡単な挨拶をして、別れたんだが...。
にしても一人目の挨拶でえらく疲れた...
本気でばらすとは思えんが...
俺の慌てる様が見たいとか言う理由でギリギリなことは言い出しそうだ...
「おーい兄貴ーっ」
最近になって聞きなれた声に振り向けば、そこにはハーレムとサービスおじさんの姿。
ハーレムは耳と尻尾をつけただけの狼男。
サービスおじさんは長いローブに黒の三角帽子とほうき...
一応魔法使いのつもりなんだけど魔女っぽい。
「シンタローの挨拶回りはどうだ?」
「これからどんどん回って行くつもりだ。
挨拶しなくちゃいけない人はいくらでもいるからな」
「...何人くらいいるんだ?」
「最低30人」
「無理だ───!!」
全員挨拶しきるのに何時間かかるんだよ!
そのたびにさっきみてーなハラハラ気分を味わうのかッ!!?
「まぁうち何人かは一緒にいるだろうから、そんなに時間はかからないよ。多分」
多分じゃいやだああ!
「そんなことより二人とも、ルーザーはどこいったんだ?」
「受付に行ってます。」
「何かあったのか?」
「さぁ...」
「何かあったにしてもルーザー兄貴に任せておけば大丈夫だろ?
そんなことより兄貴、シンタロー紹介するなら早くしたほうが良いんじゃねーか?」
「そうだな。じゃぁ行こう。シンタロー」
い...いきたくねぇ...
「な...なぁオヤジ...」
「うん?」
「オレ...おや...じゃなくて、父さん以外の人に色々見られたり聞かれたりするのヤダナァ...」
顔が引きつりそうになるのをこらえ、クィッとマントを引っ張り、目をじっと見て『お願い』する。
必殺『父さん』攻撃。後々サービスおじさんが命名した。
この攻撃はてきめんだったようで...
「ふぅ...」
新しく渡されたワインを一口飲んでほっと一息。
「今回の主役がウォールフラワーっつのも問題だと思うんだが」
「ほっといてくれ。一人目の挨拶で死ぬほど慌てたんだ。」
「兄さん少しでも君を拘束したくてたまらないんじゃないか?」
「こっちのほうがたまらないって...」
結局あの後、オヤジは「どうしても挨拶しなくちゃいけないのが何人かいるから...」といって名残惜しそうに会場の真ん中に向かっていった。
おかげでオレはサービスおじさんとハーレムとで平和に料理が楽しめる。
「でも兄さんお目付け役がいないと好きなこと言いそうだけどね」
..........
いやな予感がして会場を見渡す。
───いた。
真っ黒なイブニングドレスを着た女性となにやら親しそうに話している。
大きな三角帽子をかぶっているところを見ると、この人も魔女だろう。
でも誰だ?
「新規参入して来た企業の社長だよ」
「───?」
声のしたほうを見れば、なにやら妙に楽しそうなサービスおじさんの姿。
「きれいな人だろ。あれで30後半だからな」
───なんですと!?
改めて視線をやる。
肩の出たイヴニングドレスには胸元に大きなコサージュがついている。
足元のスリットは大きくはないが、それでもそこから除く足はすらりと長くて、白い。
顔よりまず先に体に目が行くのは、男として当然だと思う。
でもって顔は...
「...ホントウに三十過ぎですか?」
「女性は怖いな。」
足と同じように白い肌...しかも首と顔の色も同じだ。
唇は色の薄い口紅が塗られている。
髪の毛はアクセサリーもつけずに下ろしているだけだが、
ゆったりとした黒髪は周りの男の注目を浴びていた。
遠目だから分らないが、それでも本当の年を当てられる人はいないだろう。
で、その人がマジックとなにやら談笑していた。
女性のほうがヒールの高い靴を履いているからだろうが、背の高い親父とはちょうど良い距離だ。
「兄さん黒髪に弱いからなぁ…」
「え?」
「兄さんのかつての奥さん...つまり養姉さん日本人だったんだよ。」
「あの人よりはるかにキレーな髪の毛だったな。もちろん顔もだいぶ差があるけどよ。」
「若くして亡くなったのが惜しまれる...
むしろ若くしてなくなったからこそ良かったとか言われてるくらいだし。」
そういや、オレマジックから奥さんのことあんまり聞いたことねーな。
オレと同じ黒髪...ね。
「あの女も東洋系だな。」
「日本ではないけれど...まぁ見ての通り。」
「ふーん?」
ワインを一口。
少し暖房が効きすぎてるんじゃないか?
なんか暑いぞ。
「気になる?」
「はぁっ?」
なんでそうなるんだ!?
「別にオレは? あの女がマジックと付き合おうが全然気にならねーし。」
「ふ~~~ん???」
「あんだよ」
ニヤニヤしたハーレムの面が妙に憎い。
「いやいやいや。
オレは『兄貴の奥さんのことが気になるのか』って聞いたのにずいぶん飛躍してるからな。」
「───なっ?
ふ、普通そう考えるだろ! 直前の話題があの女のことだったんだから!」
「私もシンタローと同意見だな。」
「おじさんv」
あぁ...やっぱりこの人だけは俺のみかt
「だから、シンタロー、安心して良いぞ」
なにがですかぁあああ!!?
な...なんか良く分らんが、からかい倒されたような気がする。
精神的にぐったりしていると、またマジックの姿が視界に入ってきた。
さっきの女とは別れ、今度は別の人...ミイラ男と話している。
ほ...包帯だらけでどんなヤツかわかりゃしねぇ。
身長はマジックよりも下。...中肉中背だな。
いったいどんな話をしているのか、俺のことか仕事のことか。
ボーっと見ていると今度は別のヤツが加わってきた。
多分中国人だろうキョンシーの格好をしている。
さらに今度はフランケンシュタインがやってきて...
「よく会話が続くもんだな」
ハーレムがあきれたようにつぶやいた。
俺もそれは思う。
「兄さん兄弟の中では一番こういう場所があっているかもね。」
「俺はどう考えても現場向きだしな。」
「意外と自分のこと良く分ってるんだな。」
「どういう意味だガキ。」
「自分で言ったんだろ。」
「ハーレム、シンタローを子供だというなら少しは落ち着け。
シンタローも、すねてないで兄さんのところに行ったらどうだ?」
「だからどうしてそこまで飛躍するんですか!!」
結局この後、半分意地もあってマジックの傍にはよらなかったのだが、
人と話している間...むしろパーティの間、
ずっと笑顔を絶やさなかったマジックを少しだけ見直したのは事実。
「あ、シンちゃんの身元については、ちゃんと創り上げた経歴に沿って話しておいたから、
ばれることはまずないよ?」
......創り上げた経歴というのが気になるんですけど。
ま、まぁそれは後でゆっくり聞こう。
とりあえずは、何もなく終わって一安心だ。
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10月21日
パーティ10日前
「で、屋敷の改装はいつごろ終わるんだ?」
「んー・・・パーティ1週間前ってところかな。
結構ギリギリだけど・・・ま、何とかなるでしょ。」
「よゆーだな・・・」
「まぁね」
シンタローがマジックにつかまってからもう少しで5ヶ月になる。
初めは逃げようとか、誰にかに封印をはずしてもらおうとか色々考えていたシンタローだったが、
失敗するたびに「お仕置き」と称して色々な事をされたため、
懲りたのか、それとも諦めたのか、あるいはその両方か。
今ではすっかりおとなしく、憎まれ口をたたいたり無意味やたらに暴れる程度になっていた。(おとなしく?)
二人が今いる場所はマジックの部屋。
そこに散乱する裁縫道具と布。
マジックはシンタローにメジャーを当て、寸法を測っている。
今度この屋敷で開かれるハロウィンパーティの衣装を作っているのだ。
シンタローの衣装は例外なくマジックが作っている。
背中に羽が生えているため、それを出す穴が必要なのだが、
どこのブランドでもそれ専用の穴が開いている服を作っているところなどないし、
仕立て屋を呼んで、この悪魔を見せるわけにもいかない。
結局、器用で事情を一番良く知っている当事者、
つまりマジックがシンタローの衣服を作っているのだ。
部屋は今改装中の大広間。
今は機械や職人たちが自らの腕と誇りにかけて作業しているが、
今月の末には自らの権力と美貌を誇りにかけた男女が部屋を彩るだろう。
マジックがシンタローという名前の青年と養子縁組したというのは裏や表でも話題となっていた。
というのも、マジックは超強大企業ガンマコンツェルンと犯罪組織ガンマ団のトップ。
しかし、彼のみならず、彼ら兄弟には子供がいない、結婚や再婚をする気もない。
では、いったい誰が継ぐのかと皆注目していたのだ。
そこに振って沸いた養子縁組である。
シンタローとは何者か?
今までマジックの周りにそんな名前の者はいなかった。
マジックとの関係は?
彼は会長になってからも、まめに会社に通い責務を果たしていた。
すくなくとも、他企業、他組織が雇ったスパイの報告によれば、
仕事中マジックと深く関係を持つようなものなどいやしなかった。
器量はいかほどのものか?
そう。もしもシンタローがマジックの跡を継ぐとしたら、
人を支配する度量はあるのか、社員をまとめる実力はあるのか。
焦燥、疑問、恐怖、好奇心。さまざまな感情がロンドンを駆け巡る。
そろそろ頃合かと見計らったマジックは、表の顔でパーティーを開催することにした。
『10月31日、ハロウィンパーティー。参加者は全員仮装する事』
「仮装パーティーねぇ…」
関係者に贈られた招待状を見て、シンタローが半ば呆れたように口を開く。
「よく考えたでしょ」
メジャーをシンタローに巻きつつ、得意げに微笑むマジック。
どさくさにまぎれて腰に触れているが、シンタローは軽くため息をつくにとどめた。
「これなら『私の息子』に角や羽、尻尾が生えいても不思議はないでしょう?」
「まぁ・・・まさか「本物の悪魔がいる!」なんて誰も考えねーだろうし。
多少動かしたところでも「なんてリアルなんだ」とか思われる程度だろうな」
「さすがに触られたら体温とかでわかっちゃうと思うけど、
ま、触る人なんていない────というか近づけさせないから安心してねw」
「で、どんな衣装にするんだ?」
「んー。基本的に黒一色かな。
とりあえず露出度はそんなに高くしないよ。」
「へぇ?」
「シンちゃんの素肌はできるだけ見られたくないんだよ。」
「……あんたはどんなの着るんだ?」
ここで絡むとまたくだらない言い争いになると今までの経験で学習したシンタロー。
深くは突っ込まず、話をそらしてみた。
「ん~~???秘密?」
「語尾を上げるな。可愛くもねぇぞ」
「失礼な。」
むぅと口を尖らせ軽く反論。
「どうでも良いけど年考えてそれなりの格好しろよな。」
「ますます失礼な。
サービスに比べたらマシな方だよ。」
「・・・おじさん?
何の格好するって?」
「魔女」
────魔女?
言われてシンタローは考える。
三角帽子をかぶってスカートを翻してほうきで飛び回るサービスの姿を。
「似合うからよし!」
「ずるぃいいいい~~~!!
大体前々から気になってはいたけれど、シンちゃんヤケにサービスと親しくないかいッ!!?
そりゃ確かにサービスは美人だけれども!
ちゃんと男なんだからね!!」
「自分に言え自分に!」
至極正論を吐くシンタロー。
なおもブツブツ言うマジックを見下ろし──足の長さを測っているのだ──ポツリとつぶやく。
「とりあえず、あんたの格好も一応楽しみにしておいてやる。
せいぜい笑わせてもらうからな。」
悪態にしか聞こえないセリフ。
マジックはシンタローのコミュニケーションの一環だと微笑ましく思った。
が、シンタローの股下を測っていた彼には気付かなかった。
シンタローの頬がわずかに染まっていたと言うことに。
「俺は…何にもしなくていいのか?」
「何かしてくれるのかい?」
「…………」
バタバタと慌しい屋敷の中の一室。
自分ひとりがジッとしているのも居たたまれなくなり、
何か手伝えることはないのかと尋ねたのだが、
返ってきた答にシンタローは沈黙するしかなかった。
今この屋敷に出入りしているのは、マジックが信用していた家 政婦や執事だけではなく、
それに加えて、パーティー会場の飾り付けを依頼された職人た ち。
もちろんその個人個人に対して念入りな調査はしているが、
それはあくまで身の回りの調査。
間違っても『羽と角と尻尾を生やした奴を怪しむか』という調査ではない。
第一怪しむに決まっているのだから。
つまるところ。 シンタローは職人たちがいる間はマジックの部屋から出られない。
かといって暇なわけでもない。
マジックが延々とかまってくるからだ。
それでも、外でばたばたと騒がしい音がしている中、
自分(とマジック)だけが部屋でごろごろしているのは
活動的なシンタローには耐えられないのだろう。
「出来ることはないだろうけどな。
でも、ほら。招待された客の顔や名前を覚えろとか…」
「無理だと思うよ?
人数が2桁簡単に越したし、
何より中途半端な知識はかえって邪魔になる。」
「あん?」
自分が今どんな立場にいるのか分かっているのだろうが、
危機感の薄いシンタローにマジックは少々丁寧に、ゆっくりと 説明しだした。
マジックが頂点に立つ表の組織、裏の組織のこと。
シンタローが将来そのトップに立つのではないかと噂されてい ること。
今回のパーティーも皆シンタローの器量を測りに来ているようなものなのだ。
「だから、もしも君が私の後を継ぐのだと思われたら、
みんなつぶしに来るか、あるいは取り入ろうとするだろう?」
「取り入るのはともかく、つぶしに来られても問題ねーと思うぜ?
俺は…あんたには負けたけど、それなりの武術は使えるし
、 何よりここに侵入できる奴がいるとも思えねーけど」
「念には念を入れるのが私だよ。
それに、殺すにしてもみんな情報を集めようとするだろう?
ひょっとしたら誰かが君が普段でも角と羽を生やしているなーんてことに気づくかもしれないよ。」
「あのなぁ…」
「もちろんそれが、」
シンタローの台詞をさえぎって無理矢理続ける。
「いきなり悪魔にまで発展するとは思えないけど、みんな変だ と思うじゃない?
ひょっとしたら私も君もコスプレ(しかも悪魔系)が好きな んだって思われたら…
あんまり良い気しないだろう?
それに身の回りを探られるのだって気分悪いし。」
「うーん…」
考えこんだのを見計らい、マジックは畳み込むようにいった。
「だから、君は何も知らないほうが良い。
『君は私の後を継がない』
参加者にそう思わせておくんだ。いいね?」
「つまり馬鹿な不利でもしとけって事か?」
「そこまでは言っていないけれど…」
「けど?」
「むしろシンちゃんには私だけ見ていてほしいなぁって。」
「言ってろ。」 マジックの結論はたいていこのあたりに集約できる。
いつものオチに、シンタローはあきれながらも少しだけほっと していた。
───こいつが真面目なこと言ってるとなんだか気持ち悪いか らな。
パーティ10日前
「で、屋敷の改装はいつごろ終わるんだ?」
「んー・・・パーティ1週間前ってところかな。
結構ギリギリだけど・・・ま、何とかなるでしょ。」
「よゆーだな・・・」
「まぁね」
シンタローがマジックにつかまってからもう少しで5ヶ月になる。
初めは逃げようとか、誰にかに封印をはずしてもらおうとか色々考えていたシンタローだったが、
失敗するたびに「お仕置き」と称して色々な事をされたため、
懲りたのか、それとも諦めたのか、あるいはその両方か。
今ではすっかりおとなしく、憎まれ口をたたいたり無意味やたらに暴れる程度になっていた。(おとなしく?)
二人が今いる場所はマジックの部屋。
そこに散乱する裁縫道具と布。
マジックはシンタローにメジャーを当て、寸法を測っている。
今度この屋敷で開かれるハロウィンパーティの衣装を作っているのだ。
シンタローの衣装は例外なくマジックが作っている。
背中に羽が生えているため、それを出す穴が必要なのだが、
どこのブランドでもそれ専用の穴が開いている服を作っているところなどないし、
仕立て屋を呼んで、この悪魔を見せるわけにもいかない。
結局、器用で事情を一番良く知っている当事者、
つまりマジックがシンタローの衣服を作っているのだ。
部屋は今改装中の大広間。
今は機械や職人たちが自らの腕と誇りにかけて作業しているが、
今月の末には自らの権力と美貌を誇りにかけた男女が部屋を彩るだろう。
マジックがシンタローという名前の青年と養子縁組したというのは裏や表でも話題となっていた。
というのも、マジックは超強大企業ガンマコンツェルンと犯罪組織ガンマ団のトップ。
しかし、彼のみならず、彼ら兄弟には子供がいない、結婚や再婚をする気もない。
では、いったい誰が継ぐのかと皆注目していたのだ。
そこに振って沸いた養子縁組である。
シンタローとは何者か?
今までマジックの周りにそんな名前の者はいなかった。
マジックとの関係は?
彼は会長になってからも、まめに会社に通い責務を果たしていた。
すくなくとも、他企業、他組織が雇ったスパイの報告によれば、
仕事中マジックと深く関係を持つようなものなどいやしなかった。
器量はいかほどのものか?
そう。もしもシンタローがマジックの跡を継ぐとしたら、
人を支配する度量はあるのか、社員をまとめる実力はあるのか。
焦燥、疑問、恐怖、好奇心。さまざまな感情がロンドンを駆け巡る。
そろそろ頃合かと見計らったマジックは、表の顔でパーティーを開催することにした。
『10月31日、ハロウィンパーティー。参加者は全員仮装する事』
「仮装パーティーねぇ…」
関係者に贈られた招待状を見て、シンタローが半ば呆れたように口を開く。
「よく考えたでしょ」
メジャーをシンタローに巻きつつ、得意げに微笑むマジック。
どさくさにまぎれて腰に触れているが、シンタローは軽くため息をつくにとどめた。
「これなら『私の息子』に角や羽、尻尾が生えいても不思議はないでしょう?」
「まぁ・・・まさか「本物の悪魔がいる!」なんて誰も考えねーだろうし。
多少動かしたところでも「なんてリアルなんだ」とか思われる程度だろうな」
「さすがに触られたら体温とかでわかっちゃうと思うけど、
ま、触る人なんていない────というか近づけさせないから安心してねw」
「で、どんな衣装にするんだ?」
「んー。基本的に黒一色かな。
とりあえず露出度はそんなに高くしないよ。」
「へぇ?」
「シンちゃんの素肌はできるだけ見られたくないんだよ。」
「……あんたはどんなの着るんだ?」
ここで絡むとまたくだらない言い争いになると今までの経験で学習したシンタロー。
深くは突っ込まず、話をそらしてみた。
「ん~~???秘密?」
「語尾を上げるな。可愛くもねぇぞ」
「失礼な。」
むぅと口を尖らせ軽く反論。
「どうでも良いけど年考えてそれなりの格好しろよな。」
「ますます失礼な。
サービスに比べたらマシな方だよ。」
「・・・おじさん?
何の格好するって?」
「魔女」
────魔女?
言われてシンタローは考える。
三角帽子をかぶってスカートを翻してほうきで飛び回るサービスの姿を。
「似合うからよし!」
「ずるぃいいいい~~~!!
大体前々から気になってはいたけれど、シンちゃんヤケにサービスと親しくないかいッ!!?
そりゃ確かにサービスは美人だけれども!
ちゃんと男なんだからね!!」
「自分に言え自分に!」
至極正論を吐くシンタロー。
なおもブツブツ言うマジックを見下ろし──足の長さを測っているのだ──ポツリとつぶやく。
「とりあえず、あんたの格好も一応楽しみにしておいてやる。
せいぜい笑わせてもらうからな。」
悪態にしか聞こえないセリフ。
マジックはシンタローのコミュニケーションの一環だと微笑ましく思った。
が、シンタローの股下を測っていた彼には気付かなかった。
シンタローの頬がわずかに染まっていたと言うことに。
「俺は…何にもしなくていいのか?」
「何かしてくれるのかい?」
「…………」
バタバタと慌しい屋敷の中の一室。
自分ひとりがジッとしているのも居たたまれなくなり、
何か手伝えることはないのかと尋ねたのだが、
返ってきた答にシンタローは沈黙するしかなかった。
今この屋敷に出入りしているのは、マジックが信用していた家 政婦や執事だけではなく、
それに加えて、パーティー会場の飾り付けを依頼された職人た ち。
もちろんその個人個人に対して念入りな調査はしているが、
それはあくまで身の回りの調査。
間違っても『羽と角と尻尾を生やした奴を怪しむか』という調査ではない。
第一怪しむに決まっているのだから。
つまるところ。 シンタローは職人たちがいる間はマジックの部屋から出られない。
かといって暇なわけでもない。
マジックが延々とかまってくるからだ。
それでも、外でばたばたと騒がしい音がしている中、
自分(とマジック)だけが部屋でごろごろしているのは
活動的なシンタローには耐えられないのだろう。
「出来ることはないだろうけどな。
でも、ほら。招待された客の顔や名前を覚えろとか…」
「無理だと思うよ?
人数が2桁簡単に越したし、
何より中途半端な知識はかえって邪魔になる。」
「あん?」
自分が今どんな立場にいるのか分かっているのだろうが、
危機感の薄いシンタローにマジックは少々丁寧に、ゆっくりと 説明しだした。
マジックが頂点に立つ表の組織、裏の組織のこと。
シンタローが将来そのトップに立つのではないかと噂されてい ること。
今回のパーティーも皆シンタローの器量を測りに来ているようなものなのだ。
「だから、もしも君が私の後を継ぐのだと思われたら、
みんなつぶしに来るか、あるいは取り入ろうとするだろう?」
「取り入るのはともかく、つぶしに来られても問題ねーと思うぜ?
俺は…あんたには負けたけど、それなりの武術は使えるし
、 何よりここに侵入できる奴がいるとも思えねーけど」
「念には念を入れるのが私だよ。
それに、殺すにしてもみんな情報を集めようとするだろう?
ひょっとしたら誰かが君が普段でも角と羽を生やしているなーんてことに気づくかもしれないよ。」
「あのなぁ…」
「もちろんそれが、」
シンタローの台詞をさえぎって無理矢理続ける。
「いきなり悪魔にまで発展するとは思えないけど、みんな変だ と思うじゃない?
ひょっとしたら私も君もコスプレ(しかも悪魔系)が好きな んだって思われたら…
あんまり良い気しないだろう?
それに身の回りを探られるのだって気分悪いし。」
「うーん…」
考えこんだのを見計らい、マジックは畳み込むようにいった。
「だから、君は何も知らないほうが良い。
『君は私の後を継がない』
参加者にそう思わせておくんだ。いいね?」
「つまり馬鹿な不利でもしとけって事か?」
「そこまでは言っていないけれど…」
「けど?」
「むしろシンちゃんには私だけ見ていてほしいなぁって。」
「言ってろ。」 マジックの結論はたいていこのあたりに集約できる。
いつものオチに、シンタローはあきれながらも少しだけほっと していた。
───こいつが真面目なこと言ってるとなんだか気持ち悪いか らな。
「リン……」
首を軽く振るたびに後頭部から高い音が響く。
オヤジから渡されたヘアゴムだ。
確かにこの長髪は邪魔だ。
魔界にいたときも何度切ろうと思ったか分からない。
が、いかんせん手の掛かるヤツと口うるさいヤツと一緒に住んでいる上に、
見習い悪魔の俺にはそんな時間的、精神的余裕はなく、
なによりその2人にも好評だったため、数年放置していたのだ。
そして現在に至る。
今ならヒマだし。あいつらに合える希望もないし(涙)
短くするのも良いかも知れない。
そう思ってオヤジに「髪を切りたい」と言ったところ、
帰ってきた返事は
「誰が切るんだい?」
……失念していた。
考えてみれば俺の存在は、そのうちお披露目パーティーとやらを開くらしいが、一部の人間しか知らない。
そのお披露目パーティではコイツのことだから俺の羽とか角とか誤魔化す算段を立てているだろう。
が、パーティ以外で、理容師にこの髪の毛を聞かれたらどうしろというのだ。
「あ、まてよ。アンタが切ればいいじゃ「却下w」
即行で返された。
「私は君の艶やかな黒髪も気に入っているんだよ?
しっとりしているのにサラサラで……
良いねぇ……」
トリップしかけたところを見ると、どうやら本気で切ってくれる気はないらしい。
仕方ない。
俺は諦めてベッドにごろりと横になった。
怠けているわけではない。
腰が痛くて実は動くのも億劫なのだ。
次の日。
マジックからハイとヘアゴムが渡された。
「本当はもっと立派なのあげたいんだけど、とりあえず暫定的にね。」
「イヤ、コレで十分だよ」
コイツに本気で選ばせたら、なんつーか煌びやかと言うか豪奢な作りのバレッタでも仕入れてきそうだ。
渡されたヘアゴムは、長い一本の物で、必要なときに必要な分だけ切って使うという物だった。
「とりあえず一本有ればいいのかな。」
貸して。とハサミを持ったオヤジが言ってきた。
「ほらよ」
「どうも。」
渡されたゴムを短く切って、デカイ鈴をつけて、端と端を硬く結ぶ。
…………デカイ鈴?
「はい。できあがり」
ごす!
「何だその鈴は!!?」
軽くげんこつで殴っておく。
俺が想像したのは、猫の首輪に付いている鈴だった。
牛のカウベルでも良いが。
「他意はないんだよ?
ただシンちゃんの居場所がよく分かるってだけで」
「俺がいる場所はここしかないわぁ!!」
「……シンちゃん……今のセリフ」
「?……!!
ち……違う! 今のは『俺の居場所はここしかない』ってんじゃなくて、
今現在俺がいる場所はいつもここだけっていう……
って人の話を聞けぇええ!!」
「シンちゃぁああんっv何て可愛いことを言ってくれるんだぃ!!?」
「ちっがーうぅうううう~~~ッツ!!
結局、俺の後半のセリフは耳に入っていなかったらしいオヤジに、
その日はそのままベッドの上で……
ちなみにその鈴付きゴムは、そりゃ有れば便利だから使っているのだが、
音が鳴るたびにオヤジのうっれしそーな顔と、その版……のことを思い出してしまい、
集中できなくなってしまった。
そもそもゴム使うのは、集中力が必要な作業をしているときだっつーのに……
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首を軽く振るたびに後頭部から高い音が響く。
オヤジから渡されたヘアゴムだ。
確かにこの長髪は邪魔だ。
魔界にいたときも何度切ろうと思ったか分からない。
が、いかんせん手の掛かるヤツと口うるさいヤツと一緒に住んでいる上に、
見習い悪魔の俺にはそんな時間的、精神的余裕はなく、
なによりその2人にも好評だったため、数年放置していたのだ。
そして現在に至る。
今ならヒマだし。あいつらに合える希望もないし(涙)
短くするのも良いかも知れない。
そう思ってオヤジに「髪を切りたい」と言ったところ、
帰ってきた返事は
「誰が切るんだい?」
……失念していた。
考えてみれば俺の存在は、そのうちお披露目パーティーとやらを開くらしいが、一部の人間しか知らない。
そのお披露目パーティではコイツのことだから俺の羽とか角とか誤魔化す算段を立てているだろう。
が、パーティ以外で、理容師にこの髪の毛を聞かれたらどうしろというのだ。
「あ、まてよ。アンタが切ればいいじゃ「却下w」
即行で返された。
「私は君の艶やかな黒髪も気に入っているんだよ?
しっとりしているのにサラサラで……
良いねぇ……」
トリップしかけたところを見ると、どうやら本気で切ってくれる気はないらしい。
仕方ない。
俺は諦めてベッドにごろりと横になった。
怠けているわけではない。
腰が痛くて実は動くのも億劫なのだ。
次の日。
マジックからハイとヘアゴムが渡された。
「本当はもっと立派なのあげたいんだけど、とりあえず暫定的にね。」
「イヤ、コレで十分だよ」
コイツに本気で選ばせたら、なんつーか煌びやかと言うか豪奢な作りのバレッタでも仕入れてきそうだ。
渡されたヘアゴムは、長い一本の物で、必要なときに必要な分だけ切って使うという物だった。
「とりあえず一本有ればいいのかな。」
貸して。とハサミを持ったオヤジが言ってきた。
「ほらよ」
「どうも。」
渡されたゴムを短く切って、デカイ鈴をつけて、端と端を硬く結ぶ。
…………デカイ鈴?
「はい。できあがり」
ごす!
「何だその鈴は!!?」
軽くげんこつで殴っておく。
俺が想像したのは、猫の首輪に付いている鈴だった。
牛のカウベルでも良いが。
「他意はないんだよ?
ただシンちゃんの居場所がよく分かるってだけで」
「俺がいる場所はここしかないわぁ!!」
「……シンちゃん……今のセリフ」
「?……!!
ち……違う! 今のは『俺の居場所はここしかない』ってんじゃなくて、
今現在俺がいる場所はいつもここだけっていう……
って人の話を聞けぇええ!!」
「シンちゃぁああんっv何て可愛いことを言ってくれるんだぃ!!?」
「ちっがーうぅうううう~~~ッツ!!
結局、俺の後半のセリフは耳に入っていなかったらしいオヤジに、
その日はそのままベッドの上で……
ちなみにその鈴付きゴムは、そりゃ有れば便利だから使っているのだが、
音が鳴るたびにオヤジのうっれしそーな顔と、その版……のことを思い出してしまい、
集中できなくなってしまった。
そもそもゴム使うのは、集中力が必要な作業をしているときだっつーのに……
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「で、なんでいきなり『父さん』なんだ?」
岩場で出来た日陰だったとはいえ、
カンカンと太陽の照りつける中長い事ヤっていたので、流石にのどが渇いた。
マジックが持ってきたクーラーボックスには、ビールをはじめ各種飲み物があったので、
俺はさっぱりとしたお茶を飲み、砂浜に敷いたビニールシートに横になって水分補給をしていた。
横ではマジックが座って、俺の髪をなでている。
とりあえず、最中にマジックが言った『父さんと呼ぶように』発言の理由を聞いてみた。
「ん? あぁ。ひょっとしたら兄弟から聞いたかもしれないんだけど、
君と養子縁組を組もうと思って。」
「……どうやってだよ。」
「色々な届出とかは問題ないよ。
そのための組織なんだし。」
そのためなのか?
「で、養子縁組したら私と君は親子になるわけだから、人前に出たときぼろが出ちゃ大変だろ?
だから、とりあえず『父さん』って呼び方に慣れてもらおうと思って。
それに私も子供はほしかったし。」
ずいぶん飛躍するな……。
「あんた息子にこういうことするのか?」
いつの間につけられたのか、首もとの赤い後を指差して俺はそんな事を聞いた。
「さぁ? 息子持った事ないから。
でも、シンちゃんが実の息子でもきっと同じコトしたと思うよ?
だってシンちゃん可愛いし。親子関係だけなんて満足できないよ」
あんた嫁さんに心底惚れてたんじゃなかったのか。
俺はマジックのわけのわからない理論展開にあきれて、海に視線を戻した。
さっきまであんなコトをしていたせいでカラダがダルイ。
ここにいる間に回復して、海で泳げるかどうか不安だ。
はぁ……と俺は何回目になるか判らないため息をついて、ぐいっと背筋を伸ばしたのだった。
「父さん……ねェ?」
「いやかい? いやならまた体に直接交渉するだけだけど?」
「……………………せめて『親父』で我慢してくれ」
コレが精一杯の譲歩だ。
「……まぁそれはそれで温かみがあっていいから……良いか。」
マジックはそれでも不満そうだったが、しぶしぶ承諾した。
こんな経緯で、俺とマジックの生活はますます複雑になっていくのだった。
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それにしてもマジック……アンタ何を考えてる。
「戻ったぞー。」
ルーザーさんのセリフからして、マジックはもう台所の整理は終わって自室に戻ったというのは判った。
ということでマジックの部屋に入る。
「やぁお帰り。面白そうなものはあったかな?」
「まぁな。」
面白そうどころか計画実行不可って事が判っただけだったけどな。
「そうか。ところで早速海に行こうって思ってるんだけど、シンちゃんも行こうねv」
「行く? の疑問系じゃないあたりがアンタだよな。」
しかし、この広い海で泳いでみたい。っつーか気分転換してェ。
「俺の水着はどこだ? タオルも」
俺の言葉にマジックは顔いっぱいの笑顔を浮かべ、
「これだよv」と電気ねずみの絵が書いてあるビニールバックを取り出した。
ビーチパラソルとクーラーボックスをマジックが担いで俺がそのほかの荷物もち。
上に羽織っていた上着を脱ぎ、早速泳ぐぜ!
「ふふ……シンちゃんの海パン姿……一生懸命作ってよかった。」
うわなんか一気にテンション下がったよ。
「一生懸命作ったって……」
ちなみに俺のは普通のトランクス型の水着で、色は紺一色。
なんだか尻側につけられた『シンタロー』と書いてある白い布が気になるが。
「ん? あぁ。尻尾用の穴が開いている海パンなんてそうそうナイからね、作るしかなかったんだよ」
作ったのか。
「そうだ、泳ぐのなら向こうに岩場があるだろう?」
「アレか?」
俺が指を指した先には、魚の住処となりそうな岩場があった。
「うんうん。あの向こうって魚が結構いるからさ、向こう行ってみないかい?」
「一人で行きゃいいだろ。でもってアンタは泳がねーのか?」
マジックはハーフパンツデザインの水着で、夕焼けに染まった椰子の木がプリントされている。
上はTシャツだ。
「泳ぐよ? 泳ぐけどせっかく海来たんだから魚達と戯れるシンちゃん見たいし。」
「……ここはそんな観光地張りの経験ができる場所なのか?」
「はっはっは。まぁいいじゃないか。普段家に引きこもってるんだし。
こういう時くらいは大自然の恵みを受けて日の光を浴びるのが一番!」
「俺が普段引きこもってるのは誰のせいだと……」
「聞こえませーん。
さぁ早速れっつごぉ!」
「うだわぁああああぁああ~~!!?」
「はい。とうちゃーく」
「つ……疲れた……。」
無理矢理引っ張られてやってきました。
ココだとでっかい岩で日陰になっていて足元も暑くない。
「はい、シンちゃんシュノーケルと、水中眼鏡」
「おー……海に来たって気がするなー。」
海泳ぎセットを受け取り早速水中へ!
最近俺適応能力上がったよな。
「あ、待ったシンちゃん。」
「あん?」
水中眼鏡を装備し、早速飛び込もうとしたとたん、マジックに声をかけられた。
「サンオイル。塗らないとヒリヒリしちゃうよ?」
「別にそのくらい……」
早くもぐらせてくれ。
「だーめ。お風呂入ったときすっごく痛いんだからね。」
「ち……しゃーねーな……」
早く塗ろうと大量に手に取り出し腕や胴体に塗りつけていく。
「って……アンタ何やってるんだ?」
ちらりと後ろを見ると、マジックもサンオイルを取り出していた。
そのくらいなら自分に塗るのだろうと思えるが……目つきが妙だ。っつか変だ。
「ん? シンちゃんの背中に塗ってあげようと思って。」
「遠慮します。」
「だめだよ。塗りムラがあったら日焼けまでムラがでちゃうんだよ?
背中なんて一番塗りにくいところじゃないか。」
「そうかもしれねーけど……」
「はい、それが判ったら背中向けて!」
「へーい。」
くるりと再び背を向け、先ほどの続きを……。
ぬりぬり。
マジックの手が背中を行ったり来たり。
妙に念入りに塗ってるな……。
まぁマッサージされているみたいで気持ちいいといえば気持ちいいんだけど……。
「はい。塗れたよ。」
ぽんっと軽く肩を叩かる。
「あぁ。ありがとな。」
珍しく何もないで終わったな。
こいつがこうペタペタ触ってくる時はたいてい何かあるんだが……。
何もないか。
大体コイツだって弟達が来るかもしれないこんな場所で何かするわけないしな。
ふと、視線をめぐらす。
俺たちがいる場所は別荘からは少し離れていて、なにより茶色い岩が丁度俺達の姿を別荘からは見えなくして……
い……嫌な予感がする。
いや、予感というかもっと具体的に……
とにかく、本能的に危険を察知し、マジックから距離をとろうと一歩踏みだ……
さわ……
「ひっ!?」
いつの間にやら俺の体はマジックに拘束されていた。
俺よりも長身のマジックが後ろから覆いかぶさるように抱きしめている。
それだけならどかんかいっつ!と言って文字通り一蹴すればいいのだが、
マジックの右手が俺の水着の上(しかも前側)にあるから問題なのだ。
下手に握られでもしたら……(汗)
などと考えている間にも、マジックの手は大胆さを増してきて、水着の中にまで入ろうとしている。
「はぁっ……テメ……こんなところで何を……」
「え? 私はオイルを塗っているだけだよ。」
そんな事を言っている間にも、反対側の手は胸に回り、乳首をくりくりとひねるように刺激している。
「……ッツ!」
きつく抓られるが、オイルでぬめった手はつるんと滑って刺激だけを残して胸から離れる。
「ほら、シンちゃんも苦しくなってきたろう?」
確かにマジックの言うとおり、俺のブツは水着の中で窮屈そうに自己主張し始めていた。
「さ、シンちゃんも素直になって?ね?
それとも本当にイヤ?」
「イヤに決まってるだろうが!」
熱くなってくる体を無視して無理矢理そう叫ぶ。
どうせこういったところでこいつは無視して続きをするんだ。
それがいつものパターンだ。
が。
「ふーん? そう?じゃぁ今回は我慢しよう。」
「……え?」
予想外のマジックのセリフに一瞬からだの動きが止まる。
大してマジックはニヤニヤと。
「イヤなんだろう? だったらたまには私もシンちゃんの言うこと聞いてあげないとね」
「───……」
この男……。
口ではそういったが、マジックの目は完全に『たまにはシンちゃんのほうからおねだりして欲しいなぁv』と語っていた。
強制的におねだりさせてどーする……。
だが、水着の中の俺自身はじくじくと疼いている。
「さ、どうする?」
後ろからはがいじめにしたまま、俺の耳に唇を寄せ、そんな事を聞いてくる。
耳が苦手だって事知ってるくせにっ!
うわなんか腹立ってきた……。
ドンッ
「───!?」
マジックの体を懇親の力で突き飛ばす。
数歩後ろにたたらを踏んだが、ヤツが体勢を立て直す前に、自分の水着に手をかけ───
一気に降ろす!
「シンちゃ───」
体ごと後ろに向き、目を丸くしているマジックの胸倉(やつはTシャツを着ている)をつかみ、一気に引き寄せる。
っち……上背で負けてる分迫力が落ちるな。
「コレで……満足か?」
マジックは少しの間あっけに盗られていたが、
すぐにいつもの笑顔に戻ると、「十分v」とだけ言って唇を寄せてきた。
ちゅv
なんて軽いものを想像してはいけない。
いきなり舌を入れられ我が物顔で口の中に進入してくる。
いつもなら流されるままになっているだろうが、俺は珍しく応戦してみる事にした。
マジックの舌を自分の舌で押し返し、逆にマジックの口の中に押し入ってみる。
必死で舌を伸ばし、つぅっと唾液が口から溢れるのも構わずにマジックの唇を貪欲に求める。
爪先立ちで必死になって吸い付くさまにヤツは何を勘違いしたのか、急に俺を抱きしめなおして直に尻に触ってきた。
ぐにぐにと揉んだり、ちろりと時たま前の方にきたり、
気がついたら俺はマジックの唇から離れヤツの胸にしがみついていた。
「ん……はふ……」
も……イキタイ……
そう思っているのに、マジックは決定的な刺激を与えてくれず、俺は悶々とマジックの愛撫に耐えていたが……
そろそろ限界だ……
「マジック……」
そうとだけ呟いて、俺はマジックの体にはちきれそうになっている自分自身を押し付ける。
「あふっ」
マジックが穿いている水着独特の感触が俺自身を刺激し、同時にマジックのもトンデモナイ状況になっていると理解する。
その両方が俺の気分を高ぶらせ、気がついたら浅ましくマジックに腰を擦り付けていた。
シャリシャリと水着で擦られる音が耳に届く。
けれど求める刺激にはまだまだ足りなくて、時折「くぅ……ん」と鼻にかかったような声を出しながら
それ以外は声を出さず、動作だけでマジックをねだった。
「ね、シンちゃん。」
「うぅ……ん? んっく!」
後ろの入り口周りをつぅっとなでられカラダが跳ねる。
さっきから刺激を求めているソコは、自分でも判るほどひくひくと疼き、マジックのものを望んでいた。
あぁもう……早く入れろよ……。
「父さんって呼んでくれるかい?」
「……とう……さん……?」
言葉の意味なんて理解できなかった。
ただ、その単語がこの重いカラダを開放してくれる、呪文だと感じた。
そしてそれは効果覿面でして……。
ずっ
「ひっ!?」
マジックの長い指が中に這入ってくる。
オイルが塗られていたのか、痛みは全然なくて、
むしろ待ち望んだ刺激に快感を与えてくれる指を逃すまいとギュッと反射的に締め付けた。
「シンちゃんもっと呼んで……」
「ふぁっ…とうさん……とうさんっ…もっとぉ……」
「はいはいv」
中をかき回す指が増える。
ぐちゃぐちゃとオイルと空気が混ざる音がいやらしく響く。
でも、やっぱり指では足りなくて、
もっと後ろから突き上げて欲しい、前をもっと強く刺激して欲しいと、そんな期待をして嬌声を上げていた。
「じゃ、シンちゃん。そろそろ……大丈夫?」
待ち望んだ展開に尻尾がピクリと震える。
俺が無言で頷くとマジックの体が離れ、岩盤に手をつくよう指示される。
素直に岩にしがみつくようにして腰を突き出し、マジックを待つとすぐに腰に暖かい手が触れた。
「じゃ、おとーさんいっくよーv」
「ん……ッく……くぅうううううっっ!」
ずぶりと一気に深いところまで入り込み、マジックのセリフに突っ込む間もなくピストンが開始される。
「ふぁっ……んっく……っふ」
やばい……さっきから思ってたけど、今日なんか変だ。
『案外既に体のほうは開発されてたりしてなー』
ハーレムの馬鹿笑いが耳にこだまする。
そんなの……そんなの……とっくに理解してたんだよ。
マジックとの性交渉は、チープな言い回しだが、本当に麻薬のようで、
もう駄目だ駄目だと思っていても気がついたら流されてしまっている。
どんなに抵抗しても結局最後は同じ末路。
いっそ下手に抵抗しない方がいいのでは……と考えてみるのだが、
それでも抵抗するのは当然だろう。
大体マジックは男相手だというのに上手すぎるんだ!
非難しているつもりだが褒め言葉になっているし本人に言ったら絶対勘違いして喜ぶから言わないけど。
「なんだかシンちゃん今日は妙に素直だねぇ。」
マジックもいつもと違う俺に気づいたのか、そんな事を言ってくる。
「そ……んなことっ……ない……ひゃっ?」
……確かに、確かに今日は気分が高ぶっているかもしれない。
八方塞だと諦めがついたからか、それとも……
「ひょっとして海だから気分が高ぶっているのかもね。
───それとも私が上手くなった?」
「知るかっ! ぐっ……あぁっ!」
頼むから自分の期待通りの答えが返ってこないからといっていきなり前の方を握らないで欲しい。
「まぁいいけどね。とりあえず父さんって呼んでもらっただけでもよしとするよ」
「父さんって……なんで……」
「っ……いいねぇ。その呼び方。
とーさんドキドキしちゃうよ。」
そういうマジックの声も少し荒い。
俺はその声に不本意ながらさらにカラダを熱くしてしまった。
「じゃ、素直なシンちゃんにご褒美だよv
たっくさんうけとってねw」
「んぁっ!?」
マジックの手が俺の前に来て、荒々しく扱き出す。
振って湧いたような快感に、俺の意識は自然と自分の体に移り、
「んぁああぁああっ!?!」
おもいっきりマジックの手の中と岩と砂に白濁した体液を吐き出していた。
マジックの最後の質問の答えは、多分両方正解なんだろうけど、
俺はその質問には最後まで無視して、
マジックから(半ば無理矢理)与えられる快感にしばらく酔ったのだった。
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「戻ったぞー。」
ルーザーさんのセリフからして、マジックはもう台所の整理は終わって自室に戻ったというのは判った。
ということでマジックの部屋に入る。
「やぁお帰り。面白そうなものはあったかな?」
「まぁな。」
面白そうどころか計画実行不可って事が判っただけだったけどな。
「そうか。ところで早速海に行こうって思ってるんだけど、シンちゃんも行こうねv」
「行く? の疑問系じゃないあたりがアンタだよな。」
しかし、この広い海で泳いでみたい。っつーか気分転換してェ。
「俺の水着はどこだ? タオルも」
俺の言葉にマジックは顔いっぱいの笑顔を浮かべ、
「これだよv」と電気ねずみの絵が書いてあるビニールバックを取り出した。
ビーチパラソルとクーラーボックスをマジックが担いで俺がそのほかの荷物もち。
上に羽織っていた上着を脱ぎ、早速泳ぐぜ!
「ふふ……シンちゃんの海パン姿……一生懸命作ってよかった。」
うわなんか一気にテンション下がったよ。
「一生懸命作ったって……」
ちなみに俺のは普通のトランクス型の水着で、色は紺一色。
なんだか尻側につけられた『シンタロー』と書いてある白い布が気になるが。
「ん? あぁ。尻尾用の穴が開いている海パンなんてそうそうナイからね、作るしかなかったんだよ」
作ったのか。
「そうだ、泳ぐのなら向こうに岩場があるだろう?」
「アレか?」
俺が指を指した先には、魚の住処となりそうな岩場があった。
「うんうん。あの向こうって魚が結構いるからさ、向こう行ってみないかい?」
「一人で行きゃいいだろ。でもってアンタは泳がねーのか?」
マジックはハーフパンツデザインの水着で、夕焼けに染まった椰子の木がプリントされている。
上はTシャツだ。
「泳ぐよ? 泳ぐけどせっかく海来たんだから魚達と戯れるシンちゃん見たいし。」
「……ここはそんな観光地張りの経験ができる場所なのか?」
「はっはっは。まぁいいじゃないか。普段家に引きこもってるんだし。
こういう時くらいは大自然の恵みを受けて日の光を浴びるのが一番!」
「俺が普段引きこもってるのは誰のせいだと……」
「聞こえませーん。
さぁ早速れっつごぉ!」
「うだわぁああああぁああ~~!!?」
「はい。とうちゃーく」
「つ……疲れた……。」
無理矢理引っ張られてやってきました。
ココだとでっかい岩で日陰になっていて足元も暑くない。
「はい、シンちゃんシュノーケルと、水中眼鏡」
「おー……海に来たって気がするなー。」
海泳ぎセットを受け取り早速水中へ!
最近俺適応能力上がったよな。
「あ、待ったシンちゃん。」
「あん?」
水中眼鏡を装備し、早速飛び込もうとしたとたん、マジックに声をかけられた。
「サンオイル。塗らないとヒリヒリしちゃうよ?」
「別にそのくらい……」
早くもぐらせてくれ。
「だーめ。お風呂入ったときすっごく痛いんだからね。」
「ち……しゃーねーな……」
早く塗ろうと大量に手に取り出し腕や胴体に塗りつけていく。
「って……アンタ何やってるんだ?」
ちらりと後ろを見ると、マジックもサンオイルを取り出していた。
そのくらいなら自分に塗るのだろうと思えるが……目つきが妙だ。っつか変だ。
「ん? シンちゃんの背中に塗ってあげようと思って。」
「遠慮します。」
「だめだよ。塗りムラがあったら日焼けまでムラがでちゃうんだよ?
背中なんて一番塗りにくいところじゃないか。」
「そうかもしれねーけど……」
「はい、それが判ったら背中向けて!」
「へーい。」
くるりと再び背を向け、先ほどの続きを……。
ぬりぬり。
マジックの手が背中を行ったり来たり。
妙に念入りに塗ってるな……。
まぁマッサージされているみたいで気持ちいいといえば気持ちいいんだけど……。
「はい。塗れたよ。」
ぽんっと軽く肩を叩かる。
「あぁ。ありがとな。」
珍しく何もないで終わったな。
こいつがこうペタペタ触ってくる時はたいてい何かあるんだが……。
何もないか。
大体コイツだって弟達が来るかもしれないこんな場所で何かするわけないしな。
ふと、視線をめぐらす。
俺たちがいる場所は別荘からは少し離れていて、なにより茶色い岩が丁度俺達の姿を別荘からは見えなくして……
い……嫌な予感がする。
いや、予感というかもっと具体的に……
とにかく、本能的に危険を察知し、マジックから距離をとろうと一歩踏みだ……
さわ……
「ひっ!?」
いつの間にやら俺の体はマジックに拘束されていた。
俺よりも長身のマジックが後ろから覆いかぶさるように抱きしめている。
それだけならどかんかいっつ!と言って文字通り一蹴すればいいのだが、
マジックの右手が俺の水着の上(しかも前側)にあるから問題なのだ。
下手に握られでもしたら……(汗)
などと考えている間にも、マジックの手は大胆さを増してきて、水着の中にまで入ろうとしている。
「はぁっ……テメ……こんなところで何を……」
「え? 私はオイルを塗っているだけだよ。」
そんな事を言っている間にも、反対側の手は胸に回り、乳首をくりくりとひねるように刺激している。
「……ッツ!」
きつく抓られるが、オイルでぬめった手はつるんと滑って刺激だけを残して胸から離れる。
「ほら、シンちゃんも苦しくなってきたろう?」
確かにマジックの言うとおり、俺のブツは水着の中で窮屈そうに自己主張し始めていた。
「さ、シンちゃんも素直になって?ね?
それとも本当にイヤ?」
「イヤに決まってるだろうが!」
熱くなってくる体を無視して無理矢理そう叫ぶ。
どうせこういったところでこいつは無視して続きをするんだ。
それがいつものパターンだ。
が。
「ふーん? そう?じゃぁ今回は我慢しよう。」
「……え?」
予想外のマジックのセリフに一瞬からだの動きが止まる。
大してマジックはニヤニヤと。
「イヤなんだろう? だったらたまには私もシンちゃんの言うこと聞いてあげないとね」
「───……」
この男……。
口ではそういったが、マジックの目は完全に『たまにはシンちゃんのほうからおねだりして欲しいなぁv』と語っていた。
強制的におねだりさせてどーする……。
だが、水着の中の俺自身はじくじくと疼いている。
「さ、どうする?」
後ろからはがいじめにしたまま、俺の耳に唇を寄せ、そんな事を聞いてくる。
耳が苦手だって事知ってるくせにっ!
うわなんか腹立ってきた……。
ドンッ
「───!?」
マジックの体を懇親の力で突き飛ばす。
数歩後ろにたたらを踏んだが、ヤツが体勢を立て直す前に、自分の水着に手をかけ───
一気に降ろす!
「シンちゃ───」
体ごと後ろに向き、目を丸くしているマジックの胸倉(やつはTシャツを着ている)をつかみ、一気に引き寄せる。
っち……上背で負けてる分迫力が落ちるな。
「コレで……満足か?」
マジックは少しの間あっけに盗られていたが、
すぐにいつもの笑顔に戻ると、「十分v」とだけ言って唇を寄せてきた。
ちゅv
なんて軽いものを想像してはいけない。
いきなり舌を入れられ我が物顔で口の中に進入してくる。
いつもなら流されるままになっているだろうが、俺は珍しく応戦してみる事にした。
マジックの舌を自分の舌で押し返し、逆にマジックの口の中に押し入ってみる。
必死で舌を伸ばし、つぅっと唾液が口から溢れるのも構わずにマジックの唇を貪欲に求める。
爪先立ちで必死になって吸い付くさまにヤツは何を勘違いしたのか、急に俺を抱きしめなおして直に尻に触ってきた。
ぐにぐにと揉んだり、ちろりと時たま前の方にきたり、
気がついたら俺はマジックの唇から離れヤツの胸にしがみついていた。
「ん……はふ……」
も……イキタイ……
そう思っているのに、マジックは決定的な刺激を与えてくれず、俺は悶々とマジックの愛撫に耐えていたが……
そろそろ限界だ……
「マジック……」
そうとだけ呟いて、俺はマジックの体にはちきれそうになっている自分自身を押し付ける。
「あふっ」
マジックが穿いている水着独特の感触が俺自身を刺激し、同時にマジックのもトンデモナイ状況になっていると理解する。
その両方が俺の気分を高ぶらせ、気がついたら浅ましくマジックに腰を擦り付けていた。
シャリシャリと水着で擦られる音が耳に届く。
けれど求める刺激にはまだまだ足りなくて、時折「くぅ……ん」と鼻にかかったような声を出しながら
それ以外は声を出さず、動作だけでマジックをねだった。
「ね、シンちゃん。」
「うぅ……ん? んっく!」
後ろの入り口周りをつぅっとなでられカラダが跳ねる。
さっきから刺激を求めているソコは、自分でも判るほどひくひくと疼き、マジックのものを望んでいた。
あぁもう……早く入れろよ……。
「父さんって呼んでくれるかい?」
「……とう……さん……?」
言葉の意味なんて理解できなかった。
ただ、その単語がこの重いカラダを開放してくれる、呪文だと感じた。
そしてそれは効果覿面でして……。
ずっ
「ひっ!?」
マジックの長い指が中に這入ってくる。
オイルが塗られていたのか、痛みは全然なくて、
むしろ待ち望んだ刺激に快感を与えてくれる指を逃すまいとギュッと反射的に締め付けた。
「シンちゃんもっと呼んで……」
「ふぁっ…とうさん……とうさんっ…もっとぉ……」
「はいはいv」
中をかき回す指が増える。
ぐちゃぐちゃとオイルと空気が混ざる音がいやらしく響く。
でも、やっぱり指では足りなくて、
もっと後ろから突き上げて欲しい、前をもっと強く刺激して欲しいと、そんな期待をして嬌声を上げていた。
「じゃ、シンちゃん。そろそろ……大丈夫?」
待ち望んだ展開に尻尾がピクリと震える。
俺が無言で頷くとマジックの体が離れ、岩盤に手をつくよう指示される。
素直に岩にしがみつくようにして腰を突き出し、マジックを待つとすぐに腰に暖かい手が触れた。
「じゃ、おとーさんいっくよーv」
「ん……ッく……くぅうううううっっ!」
ずぶりと一気に深いところまで入り込み、マジックのセリフに突っ込む間もなくピストンが開始される。
「ふぁっ……んっく……っふ」
やばい……さっきから思ってたけど、今日なんか変だ。
『案外既に体のほうは開発されてたりしてなー』
ハーレムの馬鹿笑いが耳にこだまする。
そんなの……そんなの……とっくに理解してたんだよ。
マジックとの性交渉は、チープな言い回しだが、本当に麻薬のようで、
もう駄目だ駄目だと思っていても気がついたら流されてしまっている。
どんなに抵抗しても結局最後は同じ末路。
いっそ下手に抵抗しない方がいいのでは……と考えてみるのだが、
それでも抵抗するのは当然だろう。
大体マジックは男相手だというのに上手すぎるんだ!
非難しているつもりだが褒め言葉になっているし本人に言ったら絶対勘違いして喜ぶから言わないけど。
「なんだかシンちゃん今日は妙に素直だねぇ。」
マジックもいつもと違う俺に気づいたのか、そんな事を言ってくる。
「そ……んなことっ……ない……ひゃっ?」
……確かに、確かに今日は気分が高ぶっているかもしれない。
八方塞だと諦めがついたからか、それとも……
「ひょっとして海だから気分が高ぶっているのかもね。
───それとも私が上手くなった?」
「知るかっ! ぐっ……あぁっ!」
頼むから自分の期待通りの答えが返ってこないからといっていきなり前の方を握らないで欲しい。
「まぁいいけどね。とりあえず父さんって呼んでもらっただけでもよしとするよ」
「父さんって……なんで……」
「っ……いいねぇ。その呼び方。
とーさんドキドキしちゃうよ。」
そういうマジックの声も少し荒い。
俺はその声に不本意ながらさらにカラダを熱くしてしまった。
「じゃ、素直なシンちゃんにご褒美だよv
たっくさんうけとってねw」
「んぁっ!?」
マジックの手が俺の前に来て、荒々しく扱き出す。
振って湧いたような快感に、俺の意識は自然と自分の体に移り、
「んぁああぁああっ!?!」
おもいっきりマジックの手の中と岩と砂に白濁した体液を吐き出していた。
マジックの最後の質問の答えは、多分両方正解なんだろうけど、
俺はその質問には最後まで無視して、
マジックから(半ば無理矢理)与えられる快感にしばらく酔ったのだった。
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