忍者ブログ
* admin *
[155]  [156]  [157]  [158]  [159]  [160]  [161]  [162]  [163]  [164]  [165
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

p-3
24日クリスマスイブ。
関係ねーけど。

久しぶりの性欲処理のため、すっきりした体としこりの残った心をつれて、キッチンに。
今日の朝食担当は俺だ。
さて何がいいか。
半年間ずっとイギリスに住んでいた所為か、どうもマジックがよく作ってくれたものが思い浮かぶ
つまり、コーヒーか紅茶、ジュース、シリアル、ヨーグルト、トースト、ベーコン、卵料理、
ベイクドビーンズ、マッシュルーム、焼いたトマト等々。
ずいぶんな量だが、マジックが言うには
『これはFull English Breakfastっていって、昔1日2食だった時の物なんだよ。
 今はみんな昼に軽いサンドイッチを取ったりするから、
 普通の家庭では朝食はコーヒーか紅茶、ソレに薄いトーストかシリアルだね。
 ただ、私は朝食はしっかりとったほうがいいと思うから、こうしてるんだよ。
 朝じっくり時間を食べて食事をするというのはなんとなく優雅だろう?
 To eat well in England you should have breakfast three times a day.ってね』
イングランドでおいしい食事をとろうと思ったら、朝食を三度食べるべきだ。だそうだ。
話がそれた。
紅茶にしよう紅茶。
ほかに飲み物は、冷気貯蔵庫(常に冷気で満たされている箱。グンマ発明のマジック.ボックス)に
牛乳とバナナがあったからソレでジュースでも作ろう。
ヨーグルトもあったよな。
パンは...いいや。そのまま出そう。ジャムとマーガリンは各自にお任せ。
卵はコカトリスの卵でスクランブルエッグを出そう。
グンマがいるから砂糖で味付け。俺は嫌だけど。
トマトはめんどくさいから熱湯に浸けた後水にさらして皮をむき、くし切りにして出す。
味は塩かマヨネーズ。これもテーブルの上に出しておけばいいだろう。
グンマのは細かく刻んでコーヒーカップに入れて砂糖少々。
これをスプーンで食うとうまいらしい...(汗)

しかしジューサーといい冷気貯蔵庫...いわゆる冷蔵庫と言い、
他の悪魔の家には冷蔵庫はともかく、ジューサーはない。
グンマが人間界でメジャーになった家電製品を
こっちで、電気の代わりに魔力で色々作れないかと試した結果なのだ。
この辺アイツの技術には舌を巻く。

ということで、今日の朝食は、
バナナジュースと食パンヨーグルトにスクランブルエッグ。
それと小皿にトマト。
...緑のものがほしいな。ブロッコリーを昨日ゆでて取っておいたはず。

「おっはよー!」
「おはよう」
「おはようさん」
寝起きからハイテンションなグンマとすでに普段着に着替えているキンタロー。
「今日は勝手にパンに何かつけろよー。」
「はーい!...イチゴジャムある?」
「ほらよ」
「どーも!」
残り少なくなったイチゴジャムを手渡す。不必要なほどにでっかい元気なお返事が返ってきた。
「キンタローは?」
「...そうだな。グンマと同じでいい。」
こっちは妙に歯切れが悪い。
これはひょっとして...

俺はパンにりんごジャムを塗る手を止め、二人を交互に見つめて言った。
「なぁグンマ、キンタロー」
「え? なぁに??」
「...どうした」
満面の笑みで返してくるグンマとピクリと肩を震わせてこちらを見つめるキンタロー。
対照的な二人だが、これは多分...
「昨日聞こえてた...むしろ聞いていたな?」
あぁこめかみがピクピク動くのがわかるよ。
「何のコトだ?」
「大丈夫だよ。聞こえてなかったって。」
...二人とも平然としてる...フリをしているがな、
「キンタローはともかく、グンマの大丈夫って何がだ?」
「...あ。」
しまった! とグンマの瞳が物を言う。
「まぁそういうことだ」
おまえは立ち直りが早いなキンタロー。
「おまえらはよぉおお~~~!」
畜生やっぱり聞いていやがったのか!
「だ...だってシンちゃんのあんな声聞いたことなかったし...」
「普通は聞いたことないままで終わるんだよ!」
「仕方ないだろう。部屋が隣なんだから。」
ぐぅうう~~!
「で、でもシンちゃんも僕らの声聞いていたんでしょう?
 だったらおあいこだよ。ね?」
「俺は強制的に聞かされたんだよ!」
「まぁまぁ。そんなことよりこのトマトおいしーねー」
さっきも言ったが、グンマのトマトは荒いみじん切りに砂糖を加えたものだ。
イメージするとして、
噛んでいる感じはシャーベットで、味はトマトに砂糖...トマトジャム? みたいなものだろうか。
トマトに塩なら分るが、トマトに砂糖。
これも俺がいない間に、グンマが考えたものらしい。
どんな状況下で生み出したのやら。
「くっそー...まぁ...色々釈然としねーが、
 過ぎたことだし忘れよう。
 もうすぐ年末だ。そろそろ家の掃除を始めるぞ」
「はーい!」
「了解」

自室の大掃除は今日1日で終わった。
少しキッチンもキンタローと2人で掃除したが(グンマは研究室の掃除)『腕が落ちた』と評された。
確かに去年はもうちょっと手際よくできた気がする。
今まで掃除なんてしなかったからな。
それに半年いないうちに細かいものの場所が変わっていて、いちいちキンタローに確認をとっていたからな。
にしても疲れた...
風呂にゆっくり浸かって、ぐっすり寝よう。
どうせ明日も早いんだ。

人間界では今日明日とイルミネーションが町を彩るだろう。
アイツのご自慢のイルミネーションはどうなっただろう?
むしろ、アイツはどうしているだろうか。
...年が明けたら、挨拶に行ってもいいかもな。
しばらくあいつと離れていた所為か、だいぶ自分の気持ちに整理ができた。
年があけたら挨拶くらいに行ってみよう。
また捕獲されないように今度は3人で。
いきなり行ったらどんな顔をするだろう。
行くなと引き止めるのだろうか。それとも封印をといた日のように笑って送り出すのだろうか。
ま、とりあえず、今は年末で掃除とかもろもろの整理で忙しいから、年が明けたらだな。


************************************************

コイツら何語で話してるんだという突っ込みはナシの方向で。

PR
「んんっ...!」
ズボンの中に手を突っ込み半ば勃っているそれにそぉっと触れる。
目を閉じ、事務的に擦っていただけで、だいぶ硬くなった。
と、ティッシュティッシュ...
「うぅっ」
ガサガサとしたティッシュで包んだだけなのに、過敏に反応する。
「はぅ...くっ......っッツ!
 ───んん~~~っ」
思わず声を出しそうになり、慌てて枕に窒息しそうになるほど顔をうずめ、
何とかして声を押し殺す。
「っ...ぷはっ」
汚れたティッシュを捨て、湿った手を別のティッシュでふき取りゴミ箱に投げ捨てる。
...うし。上手く入った。
軽い喜びとともに少しの焦燥。
つまるところ───足りない。
どうすれば満足するのかは分るが...
そうしたら戻って来れなくなる。
けれど...
『うきゃぁああっ!』
隣にはすでに行ったやつがいるしなーッ!!

っくそ。
覚悟は決めた。俺も男だ!来るなら来い! 行くなら行ってやる!


右手の指をしっかり舐めて濡らして尻のほうに持って行く。
ズボンは全部下ろしたし、掛け布団も剥いだ。
暖房は魔力を使ってどうにでもなるし、だいぶ体も温まってきてる。
とはいえ流石にまだ暖房が部屋中に回ってなくて肌寒いので、パジャマの上着だけは着たままだが。

「あっ」
ぬれた指でソコに触れただけでビクンと身体が震える。
「っく...ぅう...」
周りを何周か、指の腹でなでた後、人差し指に力をいれゆっくりと差し込んで行く。
───はぁ...
人差し指がすべて埋まり、そっと息を吐く。
隣から声は聞こえてこない。
2ラウンド目を終えて、まったりしているか、寝ているか、シャワーを浴びているかのどれかだろう。
しかし声を抑えるに越したコトはない。
大量にティッシュを取り、再び枕を口に当てて、手の動きを再開した。

「んっ...ぅ...んんっっ!」
───シンちゃん。気持ち良い?
指を増やす。1本から2本。3本と

「ふっ...ぅ....んん───っ」
───私はイイよ? 君の中。熱くて、とけちゃいそうだ。
いつもヤツが弄くってた所を見つけ、ソコを何度も指で押し上げる。

「っぷは...。っつぅう...」
───あぁ。君も気持ち良いんだね。こっちもトロトロになってる。
もう一度、あいている方の手で前を軽く握り、親指の腹でこする。

「ぅんっ...んんっんぅ........」
───マジックじゃないだろう?何度も何度も父さんって呼ぶように言ったじゃないか。
隣からは物音一つしない。
きっともう寝てしまったのだろう。
少しは声を出しても大丈夫だろうか?
むしろ、酸素が必要で、呼吸が大きくなって...枕で抑えてなんかいられない。
「っふぅ...あ...あぁ...」
枕から顔を離し、大きく息を吸い込む。少しは楽になった。
───さ、父さんって呼んでごらん? 
...なんでここまでリアルにアイツの台詞が再現できるんだろう。
だが...体はもっと欲しがっている。
どうせここには誰もいないんだし、隣も寝ているようだし少しさらけ出しても大丈夫だろう。

「うん...と...ぉさん...もっと...」
そう。誰もいない。だから、少しくらい欲望をさらけ出しても問題はない。
───はい。よく言えました。
「ひっ...」
いつもアイツがしていたように後ろの弱点を何度も刺激し、前も強く擦りあげる。
「あぁっ...っ...んっく......あはっ......」
も......だめ...だっ
俺は次に来る快感に耐えるように息を大きく吸い込み、目を硬く閉じた。
「んくぅうううッツ!!」
頬を枕に押し付け、頭のてっぺんから足の先まで強張らせ、ティッシュに熱い体液を吐き出す。
そのまま、糸が切れたあやつり人形のようにくったりとベッドに倒れこんだ。

「はぁ...はぁ...」
何枚にも重ねたはずのティッシュがやけに湿っているように感じる。
ソレを適当に高く放り投げてひと睨み。
ティッシュのかたまりは床に着く前に燃え尽きた。
「...ふぅ...」
息を整え、頭に残る顔を何とか追い出し、隣が静かになっているのを確かめ、俺は浴室に行った。


p-1

明日はいよいよクリスマス・イブだ。
といっても悪魔には何の関係もない話だ。
人間界やお祭り好きの天上界の奴らも何故か一緒になって騒いでいるだろう。
魔界の奴らには関係なし。
少なくとも俺は昼になってもベッドの上でごろごろと惰眠をむさぼっていた。

『シンちゃんは、悪魔なんだよね』
『あん?何をいまさら?』
『悪魔がこうやって目の前にいるんだから、
 神様も本当にいるんだよね?
 それとも神様や天使なんていなくて、悪魔だけがいるのかな?』
『...いろんな誤解があるようだな。
 まぁどうせ風呂が沸くまで暇だし説明してやるよ。
 いいか、お前らが住んでいる人間界と、次元を別にして俺が住んでいる魔界のほかに、
 さらに次元を異にした天上界ってのがあるんだ。』
『いかにもな名前だね。』
『まぁな。 
 で、人間界は説明しなくても分るな。お前らが住んでいる世界だ。
 魔界ってのは、青の秘石っつー...わけの分らん石があって、
 そいつが生み出したって言われている。
 魔界には悪魔やその他魔物...たとえば吸血鬼、人狼とかが住んでいる。
 悪魔や吸血鬼みてーな知性の高い生き物は青の秘石や、
 その直属の最上級悪魔『アス』の統治の下、町や都市を形成しているが、
 知能の低い生き物は野生でうろうろしているな。』
『たまに人間界に来たりするのかい?』
『一応禁止されているけど、実際には、あってないようなものだな。
 飲酒運転くらいのレベルだ。
 ある程度魔力がありゃ人間界への扉を開くのは簡単だからな。
 だから、たまーに裏出版で人間界の観光案内なんてのも出てる。』
『ずいぶんと俗っぽいね』
『そんなもんだ。
 正式な許可は、秘石..とまでは行かなくても、魔界の幹部連中から出るな。
 アンタがやった悪魔召喚の儀式は実は意外にも高度な技術でな、
 青の秘石直通なんだ。
 あれをすると青の秘石にあんたのデータが行って、
 それに見合った力を有する悪魔を、秘石が直接送り込むんだよ』
『へー』
『で、天上界だな。
 天上界っつてもお空の上にあるわけじゃねーぞ。他の2世界と次元が違うだけだ。
 赤の秘石をトップに、秘石が生み出した天使達や
 同じく秘石が生んだユニコーンとかなんだか「それ」ッぽい生き物が住んでる。
 青の秘石と赤の秘石は対を成す存在で、
 最上級悪魔『アス』に対して、最上天使『ジャン』ってのがいる。』
『天上界と魔界ってやっぱり中が悪いのかい?』
『伝統的にな。相容れねーんだよ』
『へぇ? んじゃ戦争とかあるの?』
『大昔はあったみてーだけど、
 青の秘石と赤の秘石が直接ぶつかった事はないみたいだな。
 うん。今は戦争まであとちょっと!とか
 武力による小競り合いがちょこちょこ起こってるわけじゃねーぞ。
 ほら、お前らイギリスとフランスみたいなもんだ。
 お互いに気質があわないがゆえに気に入らないってな感じで。』
『神様って言うのは?』
『...結論から言うとだな、『神』っつー存在はいねえ』
『...赤の秘石とは違うのかい? 天使はいるんだろう?』
『いいか、考えても見ろ、神っつーのは人間それぞれの理想像だ。』
『...なるほど。』
『分るか? たとえば...、
 二つの村があって、二つの長老がいた。
 ある日片方の村の長老が、もう片方の長老に言った。
 「私の村に素晴らしい若者がいた。
  彼ものの父親が羊を盗んだが、息子はそれを役人に告げたのだ」
 ソレに対してもう片方の長老が言うには
 「私の村で言う素晴らしい若者は、
  父親のために父親の盗みを隠し、父親は息子のために隠す者を言う」』
『なるほど。価値観の違いか。もしも片方の長老の考えを支持する『神』がいたら、
 もう片方の長老には支持されないわけだから、彼とっては『神』ではない。』
『私の神がそんな事を言うわけがない!!ってことだな。』
『キリストは? 彼は神の子だろう?』
『あー...神って名づけたのは失敗なんだろうな。
 天上界の奴らは、人間界に対して世話を焼くのが好きでな。
 そうやって色々世話を焼いた結果なんだ。』
『...世話...って』
『人間界が災害や、その他色々なコトで深刻に困っていたら
 ついつい世話を焼いちまうんだよ。
 人間からしたらわけの分らない生き物?がやってきて
 なんだか分らないけど助けてくれた。
 これはきっと万能な存在がいるに違いない! これが奇跡なんだ!って所か。』
『...悪魔の場合は?』
『人間みたいに弱い奴らをからかうのが好きなだけだ。』
『...からかうって...』
『だからからかってるだけだって。
 俺がアンタに3つの願いを叶えて、代わりにあんたの魂は俺のもの。
 普通は色々悩んだり考えたりして、でもって、死んだ後に魂をもらうわけだが、
人間の魂なんかもらったところであんまり意味無いからな。
 ぽーいっとかって適当に捨ててるぞ。』
『...ひどい』
『かわりに3つの願い叶えてやるんだろ。
 色々破滅して行くやつがいるからな、そういうの見ているのが楽しいんだ。
 悪魔と人間の知恵比べってのもある。』
『いたずら感覚って事か。』
『そういうことだ。
 基本的に血の気が多かったりノリと勢いだけで生きてるやつが多いからな。
 お前らから見りゃ結構ひどいことしてるんだろーな。』
『ま、私の場合は最高だけどねv』
『アンタこそが悪魔だよ...』
『ところでシンちゃん。』
『あん?』
『いつも羽出しっぱなしにしているけど、邪魔じゃないのかい?』
『...邪魔だけどまだ仕舞えねーんだよ』
『まだ?』
『俺はまだ下級悪魔だからな。上級悪魔だったらしまえるんだけどよ』
『下級? 上級?』
『生まれたての悪魔は一通りの知識を身につけたところで、「下級悪魔」
 通称「見習い悪魔」と呼ばれるようになる。
 経験を積む事で羽がだんだんおっきくなって行って、
 ある程度の大きさに行くと、さっき言った青の秘石に頼んで「進化」するんだ。
 進化したら「上級悪魔」になる。』
『具体的にはどう代わるんだい?』
『魔力が桁違いに上がるな。
 それと、物理的に考えて下級悪魔の羽の大きさでは飛べねーんだけど、
 上級悪魔になると羽だけで飛べるほど大きくて立派になる。』
『でもそれって邪魔にならないかい?』
『なる。もちろんなる。
 だからその桁違いの魔力を使って、
 羽や、やっぱりでかくなった角を消す魔法をまず最初に覚えるんだよ。』
『へーぇ。悪魔もそれなりに面倒だねぇ』
『まぁ人間に比べて余計なものがついてるからな。』
『他には他には?』
『...キラキラした子供のような目で見るのはやめろ。
 汚れまくってるくせに』
『失礼な。
 シンちゃんを想うこの心に汚れた部分なんてありはしないよ!』
『...じゃぁしばらく一人で寝ろよ』
『あ、ソレは無理。』
『速ッツ!』
『むしろ君を嘘偽りなく愛しているからこそ、
 もっと別の色々な形で愛を表現したいんじゃないかッ!』
『ほーぉ。じゃぁこの俺の尻を撫でているのも愛情表現か?』
『当然!』
『...風呂沸いたな。先に入るぜ』
『あ、私も一緒にv』
『入るな! よって来るなぁああ!!』
『洗いっこしよーねぇv』
『アンタが一緒だと洗うだけですまねーから嫌なんだよ!』
『なんだかんだで喜んでるくせにぃ』
『ソレはアンタがうま...じゃなくて、
 とにかく来るなぁああ!』

───回想終了───
か、関係ないところまで回想してたな。
それはともかく、アイツにも説明したとおり、『神』と呼べる明確な存在はいない。
人間が神と指しているのは、赤の秘石だろう。
天上界のトップじゃねーか。
人間にならまだしも、俺たちに奇跡なんて起こるわけがない。
だから、

「何だ。おきているのか」
「...キンタロー...
 せめてノック位してくれ。」
必要最低限の礼儀だというとヤツは肩をすくめ
「返事がなかったからな。
 中で死んでいるのかと思った」
死んでたまるか。
「で、何のようだ?」
「布団を干す」
................あん?
「布団乾燥機をグンマが作ってな。
 少し実験させてくれ」
布団乾燥機って...そりゃ確かにあったかい布団は気持ちが良いけどよ。
つか実験?
「...自分のところでやれ」
「却下」
「なんでだよ」
「失敗したら寝るところがなくなるからな。
 お前以上に困る」
...ソレは今夜グンマとヤルってコトデスカ...?
そゆことを堂々と示唆するな!!
いや、だったら!
「失敗したらグンマの所にとめてもらえば良いだろ?」
どっちの部屋でも一緒だろが。
「グンマの部屋はぬいぐるみやその他でどうにもその気になれなくてな。
 ───分るだろ?」
分りたくない分りたくない。
兄弟の部屋が色んな意味でロリポップな雰囲気で
お菓子の甘い匂いがふんわり漂ってて
日を間違えると機械が床に散乱しているなんてコト知りたくない!
「別に台所とかでも良いんだが、明日そこで朝食を作るということを考えるとな。
 ちなみに明日はお前の担当だったな」
ぐはっ!
「わ...分った! わかったよ!!
 布団乾燥機でも布団圧縮袋でも持ってきやがれ!」
「布団圧縮はないが...じゃぁ失礼する
 その間ベッドは使えないから適当にうろうろしててくれ」
「へーいへいへい」
俺は重い腰を(比喩だぞ)持ち上げ、台所に行った。

「あ、シンちゃーん。
 おそよーv」
お早うと言いたいのだろうか。
そりゃ昼まで寝てりゃ早くもねーけど、なんか最後についたハートが怖い。
そんなに説明しないのが腹立つのか?
心配かけた罰として3ヶ月皿洗い引き受けてやっただろうに。
「キンちゃんは?」
「お前が作った布団乾燥機使って俺の布団乾燥させてる」
「あぁ。大掃除に向けて造ってみたんだよ。すごいでしょ。」
「あーすごいすごい」
「お布団が寒いとどうにもやる気がしなくて」
「ふーん。何がだ?」
「え? 色々」
...コイツが言っているのは本当に「お布団が寒いと何をするにしてもどうもやる気が出ない」という意味だろうかそれともやっぱり『そっち』の意味なのだろうか。俺が人間界に行くまでのグンマだったらあっさりと前者を選んだんだがキンタローとそういう関係になっていったと知るとやはり後者としか思えないような気もするし。しかしどんな状況下に置かれようとグンマがグンマであるコトに変わりはないわけだからやはりこれは前者で良いのだろう。そもそも部屋さえ温かければ布団が多少冷たいくらい我慢できるだろうし俺の場合は電気毛布が入っていたから関係なかったけれどって何を思い出させるんだこの
「馬鹿グンマ───!!」
「えぇえええ!!??」
...はっ!
し、しまった。つい心の葛藤と現実を混ぜちまった...ッ!
正気に戻ってグンマを見てみれば、硬直しているコイツの姿。
「えーと...」
「シンちゃん。やっぱり人間界で何かあったの?」
「そりゃ...何にもなけりゃ半年以上もいねーよ。
 けど色んな理由で言えねぇ。」
何度も言ったけどな。こればっかりは言えねぇ。
「はぁ...聞きたいけど、いいよ。諦めた。
 シンちゃんって昔っから強情なところあったもんね。」
そうだな。自分でもそう思うよ。
「でもね、
 自分がしなくちゃいけないことをしっかり理解するのも大事だよ。」
「............」
「どしたの?」
「いや...お前に言われるとは思わなかったからな。」
「.........どういう意味?」
「あの部屋の散らかりよう。
 キンタローが嘆いてたぞ」
「ぐぅ。」
コイツが何を知っているのか、それとも何にも知らないで出てきた言葉なのか分らないが...
「少しの間外に出てくる。
 すぐ戻る」
「いってらっしゃーい」

自分がしなくちゃいけないことをしっかり理解する...か。
そんなの、とっくに理解してるんだよ。

「グンマ。」
「あ、キンちゃん。聞いてたの?」
「今、シンタローに言ったコト...しなくちゃいけないことってのは...」
「うん、アスから連絡があってね、シンちゃん契約とか何にもしないで帰ってきたんだって。
 まぁぼくらが無理やりつれて帰ったんだけど...
 だから...」


その夜。
グンマが新しく作った布団乾燥機とやらは無事成功したらしい。
布団が柔らかくなっていた。
それから、

『...あぁ...はぁ...』
『あんっ...』

隣の部屋から聞こえるグンマの声。
ちなみに隣の部屋はキンタローの部屋で、俺のベッドがある壁の、すぐ反対側にはキンタローのベッドがある。
つまり、壁一枚を隔てた向こうでは、キンタローとグンマが...

『いぁっ...』

だぁああああああああっ!!!
眠れねーッ!!
そりゃいくらなんでも兄弟のあえぎ声が聞こえたら眠れるもんも眠れんわ!!
くっ! こうなったらベッドの位置をずらすか?
い、いやいやいや。それだと振動が向こうに伝わってベッド移動しているのがばれる!
そんなことする理由はたったの一つなんだから聞いてたってばれる!
い、いや、好きで聞いてるわけじゃなく、聞こえちまってるんだから別に俺がすまないと思う義理はねーんだが...
くそー...
こうなったら意地でも寝てやる!!

『んぁっ!』

............
........................
....................................

『ああぁあああっ!』
...イったか。
じゃぁこれから静かに...

『きゃぁッ!』

え?
悲鳴にも似た声に何かあったのかと、耳を壁につけないまでも、耳をすませると、
よくは聞こえなかったが、なにやら言い争いをしているような雰囲気だ。
痴話げんかか?
..................

『あっ! あぅっ...』

単に2ラウンド開始かぁああああっ!!

まったくキンタローも若いな。
大体グンマも女みてーな、いつもより甲高い声あげるからよけーに煽られるんだろうが。
まぁあーゆー時はえてして裏返ったりするもんだけどよ。
俺だっていつも...

『くぅッツ!』

や...やべぇ...
勃ってきた───ッツ!!

どうすんだよこれどうすんだよこれどうすんだよこれぇッツ!
そ、そりゃここに来る前は毎晩のようにマジックに抱かれていたから今まで大丈夫(何が)だったけれど、
かんがえてみりゃ先週の木曜から一度も処理してねぇ!
なおかつ今日はこの状況...。
勃たないわけがない!

などと威張ってみたところでどうにかなるわけではなく、
...どうするんだよ本気で。

1、我慢
2、トイレにGO!
3、ここで処理

1は...
この隣からよく見知った二人がそーゆーコトをしているという事実がある以上、
というか音が聞こえてくる以上我慢は無理だ...
そもそも我慢して寝られるわけがねぇ。
2は、トイレ...
け、けどドア開けたら音が響くような気がする。
もしもそれで二人の邪魔をしちまったら...ッ!
.........邪魔してやろうか。
あ、じゃなくて、
どちらにしろ明日気まずい雰囲気になるような気がする。なんとなく。
3、ここで...
声を押し殺せば、奴ら自分らの行為に没頭しているだろうから、気づかれないような気がする...
だ...大丈夫だろうか。
再び耳を澄ませば、しっかり聞こえるグンマの嬌声。
......うわなんか腹立ってきたし。
何でコイツら+1のためにここまできつい思いしなくちゃいかんのか。
このままキンタローの部屋に殴りこみ...
だめだ! 痛すぎる!

あーちっくしょー...
これも結構イタいもんがあるけど...

おれはうつ伏せで寝ていた状態から、足をまげて腹を浮かせ…………、
p[
side;サービス
「───で、結局帰るタイミング失っているわけだ」
「そんなおじさんはっきりと...」
義理の甥がなにやら真剣な面持ちで相談したいコトがあると言ってきたからなんだと思ったら...

今まで彼を苦しめてきた封印をかけた本人があっさりとはずしたというのだ。
その人の───兄の真意がつかめないと言うことらしい。
クッキーを頬張りつつ眉間にしわを寄せて考えこんでいる。
「なんか企んでいるようには見えないし...」
「じゃぁ素直に帰れば良いじゃないか。
 家族が待っているんだろう?」
「...そうなんですけれど...」
「兄さんと離れるのがつらい?」
「───んなっ!?」
面白いぐらいに反応される。
ある意味素直なんだが。
「まぁシンタローの感情はともかくとして、
 どんな形にしろ色々な物に情が移ったんだな」
シンタローのコトを気にかけてくれる古株のメイドとか。
私達とか、そしてもちろん兄さんにも。
「離れがたいんだろう?」
「まぁ...そりゃ半年以上も一緒にいたら...」
「だったら一度向こうに行って、また戻ってくれば良い。
 なんだったらその家族も連れてきても良いし。」
シンタローの話によると2人ほど家族と呼べる存在がいるらしい。
「私も、兄さんもシンタローの家族だったら大歓迎だよ?」
多少家族が増えたってどうにでもなるしね。
「それもそうなんでしょうけど、
 なんか親父の策にはまっているようで嫌なんですよ!」
やれやれ...
素直になればずいぶんと楽になるだろうに。
ギリギリにならないと...なっても自分の本音をさらけ出さないんだろうな。
「ま、タイミングが分らないってのなら分るまでいれば良いんじゃないかな。
 どうせそうなるんだろう?」
「...そうなるんだろうな。」
ポツリと返ってきた返事は、何か変化を期待するように聞こえたのは、気のせいだろうか?


Side;ルーザー
「どういう風の吹き回しですか?」
「んー? なんか一石投じてみたくなってね」
先日の兄さんの誕生日で、溺愛する悪魔とさっさと部屋に戻ったから
翌日は遅く起きてくるだろうと予想していたのだが、予想に反してこの兄は早く起きてきた。
心なしか顔色も良い。
どうしてかと尋ねると、昨晩はぐっすりと眠れたというのだ。
具体的に話を聞くと、寝る前にシンタローの封印をとき、
混乱するシンタローをそのままにベッドに入ったのだという。
「ソレでよく眠れましたね」と言うと、「シンちゃんがなんか魔法かけて眠らせたみたい」と。
───悪魔というのは何でもありだな。
それで起きてみたらシンタローの姿はなく、ハーレムの話によれば朝早くからサービスの部屋にこもっているらしい。
いきなり封印をとかれたものだから、帰るにしても家族達にどう話をすれば良いのか分らないし、
帰らないにしても、今まで散々帰りたい帰りたいといっていたのに、
何故帰らないのかと尋ねられたらどう答えて良いのか分らないのだろう。
それでサービスの部屋に逃げたわけだ。
それ以来食事はもちろん、ベッドに入るのも兄さんを強制的に寝かしつけてからだという。
つまるところ、徹底的に避けられているらしい。
ややこしいカップルだ。
私に言わせれば、(兄弟として贔屓目もあるが)シンタローが素直になれないのが問題だと思う。
「兄さんは、シンタローが兄さんのコトをどう思っていると思います?」
「んー...愛されてるんじゃないかなぁ」
「ずいぶんあっさり言いますね」
こういう時はせめてためらったりするものだろう。
「だってシンちゃん素直だし」
「ソレは上に「ある意味」がつくでしょう」
「まぁそうなんだけど...」
だからね、と一呼吸置いた後に、我が兄が言うには、
「こうやってちょっと突き放すって言うか
 今までとは少し違った状況において、シンちゃんの心を揺さぶるわけだよ。
 『今までずっと帰らしてくれなかったのに何でいきなりそんなコト言うんだよ。
  もう俺のコトはどうでも良いのか?
  ううん。父さんが俺のコトを代わらず愛してくれているって言うのはよく分っている。
  だからこそ俺の封印をといたんだろう。
  でも、どうして俺は帰る気にならないんだろう。家族も心配して待っているだろうに。
  これはやっぱり...薄々気づいていたけど俺は父さんを』」
「『一発ぶたないと気がすまないんだ!』」
「違うッツ!」
突然聞こえた第3者の声と台詞内容に今までの(ゆかいな)一人舞台はどうしたのか、
声のしたほう、ドアの方をきっとにらみつける。
「ハーレム!
 せっかく人がルーザーに愛息子の分りやすい心情解説をしていたというのに
 いきなり邪魔するんじゃありません!」
「僕は頼んでませんよ」
「傍から見ていてあまりにも楽しそうだったからな。
 ついチャチャ入れたくなったんだ。気にするな」
「おまえたちは~~!!」
交互に僕とハーレムをにらみつけてくるが、慣れている僕らにとっては怖くもなんともない。
「ところで、サービスとシンタローは?」
「またサービスの部屋だぜ?
 シンタローも強情だよな。」
なんであのプライドの高いサービスが、あっさりとシンタローを受け入れたのかは分らないが、
とにかくあの二人は仲が良い。
兄としては気になるところだ。
しかしそう言う所を見ると、ハーレムでもいい加減見抜いているらしい。
シンタローがマジックをどう思っているか。
「自覚がなくて自分の気持ちに戸惑っているのか、
 自覚がうっすらあってどうして良いのか分らないのか、
 どっちだと思います?」
「ルーザー兄貴らしくもねえな。
 そんなの『自覚はあるけど認めたくないから逃げてる』んだろ?」
『やっぱりハーレムもそう思うか?』
...台詞がかぶったな。
「しかしマジック兄貴も、よくシンタロー断ちが続いているな。」
「...息子をタバコや酒みたいに言わないでくれないか?」
「僕も数日絶っていれば絶対禁断症状が出ると思いましたよ」
「むしろ薬物なの!?」
だって今日が16日でしょう? 
あれから4日。
よく我慢できるものだ。
「将来のための投資だよ。しかもだいぶ近い将来の」
...なるほど。そういうことか。
「クリスマスカップルですか」
「やっぱりそんなオチかよ」
私達は半ばあきれて、「クリスマスはまた一緒にイルミネーション見に行くんだーっv」
とはしゃいでいる兄を置いて部屋から出て行った。




side シンタロー
結局夕方までおじさんの部屋で時間をつぶしてしまった。
というか、この封印がとかれてから一度もオヤジと会話していない。
明日はちゃんと話そう話そうと思って4日が過ぎてしまった。

オヤジ(兼自分)の部屋に戻ろうと廊下を歩く。
マジックは今なら書斎に行っているはずだ。
今のうちに、とりあえず、冷静に、今、自分がやるべきコトを考えねーと...

そう、まずは、魔界に戻って赤の秘石に報告。だよな。
それと、心配しているだろうからグンマとキンタローのところにも早く行かねーと。
「それから...」
それから?

───はぁああ~~~~~~......
盛大なため息をつきつつ部屋に到着。
念のため部屋の中を確認するため、ドアに耳を当てる。
ぴとっとドアにへばりつくのは傍から見ていて格好悪いが、
今はなりふりかまっていられないのだ!

『───...』
ん?
ドアの奥からなにやら音が聞こえる。
何の音だともう一度よく耳を澄ませ───
『ねぇねぇこの部屋であってるのかな』
『シンタローの残り香はあるぞ?』
『...残り香ってなんかえっちな感じ。』
『...グンマ、この状況分ってるのか?』
『いや、気分を和まそうかと...』
『シンタローを見つけてからにしろ』
───グンマとキンタロー?
何でコイツらがここに?
いや、目的は分るけど。
『とにかく探さないとな。』
『じゃぁ僕が発明した、シンちゃんお探し3点セットを』
3点セット?
『...何度見ても妙な外見なんだよな。
 怖くて今の今まで聞けなかったが、どうやって使うんだ?』
『うん。まずこの辺一体をこのレーザーで廃墟と化すの。』
ほうほう。
「ってそりゃいかんだろーがぁああ!!」
バンッ!!
「シンちゃんッ?」「シンタローッツ!!?」
突然ドアが開き、探していた当人(俺だ)が出てきて驚愕する2人。
二人は俺の姿を認めると、即座にグンマの手元に視線を落とし、
その手にはどこかで見たようなパペットタイプの牛さんと蛙さん、平べったい黄色い犬の人形がッ!
「うわ早速発明の効果がッ!!」
『違うッ!』
見当違いの反応をするグンマに、即座に突っ込む俺ら2人。
きょろきょろと人形ズと俺を見比べるグンマは放っておいて、
キンタローは俺に向き直り、
「シンタロー封印はどうしたんだ!? 
 解かれていたのなら何で早く帰ってこなかったんだ!!
 ───という話は魔界に帰ってから聞く!
 帰るぞ! ほらグンマも!!」
───へ?
何でお前俺が封印されてたって知っているんだ?
いや、そもそも帰るって───
と考えるまもなく、キンタローは俺の腕を引っ張って窓から外に出ようとする。
「ちょ、ちょっと待てキンタロー。
 俺はまだやるコトが───」
「シンちゃん? 今なんかすごい音がしたけど...」
ぎょっとしてドアのほうを見る俺ら3人。
そこには『シンちゃんラヴ』と書かれたピンクのエプロンを着て
黄色い汁(おそらくカレー)がついたお玉を持ち、
エプロンと同じ柄の三角巾をかぶったオヤジの姿。
お約束とも言える緊張感のかけらもない格好をしたマジックの表情が驚きに変わる。
「シンちゃん。この子達は───」
「行くぞ! グンマ『扉』を開け!!」
「りょーかい!」
マジックの言葉を無視して、キンタローは俺の手をつかんだまま窓から外に飛び出す。
その先にはグンマがいつの間にか開いていた魔界への扉。
ここに来たときとまったく同じ、黒い煙を潜り抜け、
俺は魔界に『帰った』


side;グンマ
「でだ、シンタロー。お前晩御飯まだだろ。
 ここ来る前に作っておいたんだ。」
「今夜はチゲ鍋だよー!
 火をかけたまま来たから、すぐ食べられるよ!!」
「あぁ。」
『...................』
むぅ!
せっかく久しぶりにシンちゃんに会えたのに!
なんだかシンちゃんテンション低いよ場がしらけてるよ!
こっちは聞きたいコト色々あるのに!
なんだか聞くような雰囲気じゃないよ...

誰もなにも口を聞かないまま、久しぶりに3人そろった夕食は始まった。
さっきキンちゃんシンちゃんに聞きたいコトがあるって言ったのに。
その質問内容も言ったのに。
どうして二人ともなにも言わないんだろう。
「ほらグンマ、豆腐煮え立つぞ」
「うん。ありがとう」
もう!! 今重要なのは火のとおり具合じゃないのに!

「...なぁグンマ。」
「え? な、なに?」
シンちゃんからいきなり名指しで指名されて、僕は動揺してしまった。
って言うかなんで僕?
僕とキンちゃん二人に言うべきことがあるんじゃないの?
「首の痕くらい隠しておけ」
「ええぇええええぇッツ!!?」
僕はがたんと席を立ち、反射的に首を隠した。
「ひどいキンちゃんッ! つけないって言ったのに!!」
明日は(今日のコトだけど)シンちゃん迎えに行くんだから
動揺させるといけないからつけないでねって僕は言ったのに!!
おなべから白菜を取っていたキンちゃんは、手の作業を続けたまま抑揚のない声でただ一言
「つけてない」
つけてないって...!
じゃぁ何でシンちゃんは...
............
「あぁああ~~~~!!!」
だ、騙されたぁあ!!
思わず頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
ちらりと二人を見ると、キンちゃんはともかく、シンちゃんは顔がにやけていた。
「やーこうもあっさり行くとはなぁ。」
「隠す気はなかったんだがな。」
う~~~っ!
も、もう怒ったよ!!
僕はきっとシンちゃんをにらみつけ思いっきり言ってやった。
「そ、そりゃ半年以上ずっと二人っきりだったんだもん。
 シンちゃんがいないのが悪いんじゃないか!
 だいたいなんで帰ってこなかったの!
 どうして帰ってきたのに嬉しそうじゃないの!!?
 あの年甲斐もなくピンクのエプロンつけたオジサンがそんなに悦かったの!!?」
勢いに任せて言うと、シンちゃんとキンちゃんはなぜか頭を抱えていた。
「どったの?」
「『よかった』言うな。」
「核心に触れまくった台詞なんだが、どうにも言い方が悪いな。」
...なんだか失礼なコトを言われているような気がする。とくにキンちゃん。
「で、実際どうなの?」
「なにがだよ。」
「何があったの」
これ以上は我慢できない。
全部何があったのかなにを考えているのか聞き出してやる!!

side;……もう一度シンタロー
『...........................』
2人の視線が交差する。
俺の目の前には、珍しく本気で怒っているグンマ。
言うべきだろうか。
≪商人のサービス精神に負けて力を封印されたあげく、グンマの言うピンクのエプロン来た親父に捕まり
 息子として養子縁組まで組まされていました。
 封印が解けても帰ってこなかったのは、タイミングがいまいちつかめなかったからです。≫
───言える訳がねぇ!!
最後のはともかく最初の一文は特に!
どうやってコイツをごまかそうかと思案していると、キンタローから助け舟が出た。
「グンマ。」
「なにッ!?」
「今夜はもう遅い。シンタローを問い詰めるのならいつでもできるだろう」
できればそのままなし崩し的にずっと言いたくないのだが。
「だって~~~っ。
 キンちゃんは気にならないの!!?」
「もちろん気になっているが...」
ちらりとこちらを一瞥し、再びグンマに視線が戻る。
「コイツが言いたくなければどんなに問い詰めても言わないだろう。」
違うか?と聞かれ、グンマはうっと詰まった。
流石キンタロー。俺のコトをよく分ってるぜ。
「だがシンタロー。」
「あん?」
「俺やグンマはともかく、赤の秘石にはちゃんと報告しておけ」
げ。
「赤の秘石なら言わなくても全部分ってるんじゃないか?」
「けじめだ。」
はいはい。
「わかったよ。明日報告書をまとめておくさ。
 そんじゃ、ごっそーさん」
まだ腑に落ちない、納得できないという表情のグンマと、
いつものようにポーカーフェイスのキンタロー。
二人を置いて、俺は自室に戻った。








翌日。
1日中部屋にこもって赤の秘石に渡す書類を書き上げていた。
とりあえず書いたのは、向こうに行ったとたん
人間界に残っていた悪魔の力を封印するアイテムによって人間に捕らわれてしまったコト。
そのせいで魔界に戻るコトもできず、今までずっと過ごしてきたということだけを簡潔にまとめておいた。
...結局3つの願い、一つも叶えてやれなかったな。
つまり、人間に捕まった挙句願いも叶えずに逃げてきたという形になってしまったが、
マジックがあんなアイテムを持っているなんて調べられなかった秘石が悪い。
そのコトも示唆しておいた。
書類は黒ケットシー(有翼猫)印の宅配便を使って郵送する。

マジック...とおじさんたち、今頃どうしてるかな?


「おい兄貴…」
「ん~~?」
「明日ゴミの日なんだからシンタローの物整理しておけよ」
「だめだよ。いつ必要になるか分らないじゃないか。」
「...帰ったんだろ?」
「きっと帰ってくるさ。」
............昨日、晩飯の席にシンタローは現れなかった。
なんでも台所で兄貴が飯を作っていると、自室でなにやら音がしたから行ってみたら
シンタローの他に黒い羽をした悪魔が2人ほどいて、シンタローを引っ張っていったという。
さぞかし落ち込んでいるだろう、下手したら自殺しかねんと俺は心配したが、
予想に反して兄貴はのほほんと構えていた。
今も昨日残ったカレーの冷凍保存の作業中だ。
「連携があまりなっていなかったから、計画していたことじゃないと思うんだ。
 たぶんシンちゃんの実家が痺れを切らして迎えに来たんじゃないかな。
 シンちゃんも無理やり手を引っ張られていたみたいだし。」
冷静な分析だがな、
「そのまま音信不通になるんじゃねーか?」
あるいは自然消滅とかな。
「演技でもない事言わないでくれないかい?
 そんなわけないだろう」
ずいぶんな自信で。
「だってシンちゃん私のコト愛してるしね。」
......本当にずいぶんな自信で。
「それでも素直になれないのなら...」
「なら?」
「私がシンちゃんの実家に行くさ」
「ずいぶんな自信だな」
今度こそ声に出していった。
pm

もうすぐ私の誕生日だ。
毎年私の誕生日には裏表、両方の仕事を休みにして、家族…兄弟水入らずで過ごしている。
へたすれば取引先主催のクリスマスパーティと重なるときもあり、経済的な影響は避けられないが、
親を早くに亡くし、なんだかんだ言いつつも、兄弟仲の良い私達には大切な日となっている。
今年は一人息子も加わったことだし、にぎやかな誕生日会になりそうだ。

「そういやもうじきアンタの誕生日だろ? どうするんだ?」
夕食も食べ終わり、今夜ベッドに入る前に説明しようか、それともそれは後回しにして…と考えていると、
シンちゃんのほうから聞いてきてくれた。私の誕生日会を気にかけてくれていたのだろうか。
でもさ、そのくらいなら、
「シンちゃん…いい加減パパとかお父さんって呼んでくれても良いんじゃないかな…
「ふん…で、どうするんだよ
 どうせあんたの事だからお偉いさん大量に呼んでごーかにやるんだろ?」
「シンちゃん私を誤解していないかい?」
私は無意味に権力を開かしたりするような真似は…嫌いじゃないけど、
たまには兄弟水入らずで楽しみたい時もあるんだよ。
「大体そんなことをしたらまた連中にシンタローを見せなくちゃいけないじゃないか。
 ただでさえあの後うちの娘とどうだなんて話が来たっていうのに!」
確かに知力、器量、血筋、その他諸々そろったお嬢さん達は、すばらしいと思うけれど、
この件に関しては下町の娘でも英国王室の御令嬢でもごめんだよ!
「俺もいやだ…っつか無理だろ。」
それは確かにそのとおり。
「でね、いつも…毎年毎回、私達の誕生日には、家族全員集まって食事会開いているんだよ。
 ちなみに料理の担当はその日の主役以外の兄弟。
 ハーレムとサービスの料理はちょっと不安だけど、
 ルーザーは意外にも何でもできるから、安心できるね。」
「じゃぁ兄弟水入らずってことはオレは邪魔者だな。」
「……なんでそうなるのかな?」
やれやれ、シンちゃんは本当に手間がかかるなぁ。
そんなの実際はどうなるか、分かっているくせにワザと言うんだから。
「シンちゃんも私達の家族だろう? 心配しなくてもシンちゃんの席はちゃんとあるよ」
本当はこんなセリフ待っていたくせに。
どうして自虐傾向に走るんだろう。
押してだめなら引いてみろって言うけれど、シンちゃんは引きっぱなしなんだからね。
もっとも私が押しっぱなしなのがいけないのかもしれない。
でも、シンちゃんを見てると、引くなんてコト! 出来るわけがない。
「パーティの用意は、原則として主役はしないことになっているんだよ。
 ルーザーたちどんな風にしてくれるのか、楽しみだね。」
「…ふん。」
そう言ってそっぽを向いたシンちゃんだったけれど、少しだけ声が安堵しているように聞こえた。







今度の日曜はいよいよマジックの誕生日だ。
今年は運悪く日曜と重なってしまったため、
取引先が開くパーティをことごとく断る羽目になったらしいが
その分豪華にしてやるとハーレムたちは張り切っていた。

さて、今夜はちょっとした用事があって、
不本意ながらマジック同伴でロンドンの町並みを散歩している。
蝙蝠のような羽と羊のような角があるオレが
何故外に出られたかと言うと冬の寒い気候のおかげだ。
マジックが編んだ編んだニット帽で角を隠し、
羽対策は、まず背中に穴を開けたコート
それから、背負うタイプの大きな鞄にも背中にあたる部分に穴を開ける。
これらの穴から羽を鞄の中に隠す。尻尾はコートに隠れて見える心配なし!
耳は長髪で十分隠れる。
空気は寒いし、下手すれば穴から冷たい空気が流れ込んでくるだろうが、
今までの息苦しい環境に比べたら天と地の差!

11月に入ってから増え始めてきたイルミネーションは、ここ12月に入ってさらに数を増し、
25日を過ぎたら一気に撤去するだろうに、
必死で飾り付けをして近所と競っている姿は悪魔にとって滑稽でもある。
「…見とれている人のセリフじゃないよね」
「うるせぇ!」
ほっといてくれ。
外に出られるようになってもアンタが中々出してくれなかったもんだから、
窓の外から見えていたのが気になってたんだ。
「で、どこか行きたいところは?」
「...アンタ一押しのイルミネーション。それと本屋」
「妙な組み合わせだね。」
確かに自分でもそう思う。
「嫌なら帰っていいぜ」
軽く睨みながら突き放すように言うと、マジックは肩をすくめ「ご冗談。」と言った。
了承と言うことだろう。

「私の一押しのイルミネーションねぇ...」
ふむ、と唇に指を当て考えるしぐさをとる。
「どこかって言われたらうちの本社前のクリスマスツリーかな...」
「でかいのか?」
「大きさはもちろん。
 本社入り口のステップの中央に噴水があって、
 こっちは時期を問わずにライトアップされているね。
 ただクリスマスシーズン中、12月に入ってから25日までクリスマスツリーを飾るんだ。
 噴水の奥にもみの木を運んできて、飾り付けするんだよ。」
この辺のクリスマスツリーでは一番立派だと豪語する。
どうやらずいぶんと気に入っているようだ。
まぁ...派手好きなコイツのコトだ。さぞかし立派なツリーなんだろう。
「見に行くかい?」
「行く。どこにあるんだ?」
「えーと...もちろん歩いていける距離だけど、少し遠いかな。
 一度家に戻って車を取ってこようか?」
パパ運転するよ? と聞かれたが、色々寄り道したい。せっかく外に出られたんだ。
なら小回りの利く歩きだろう。
「いや、いい。
 だったら地図とか買ってこうぜ。ついでにペン。」
「...メモするの?」
「悪いか?」
「いや、悪くないけどさ、そんなに外に出られたのがうれしいのかなって」
ふーんへーぇほおぉおおう?
「だれのせいで7ヶ月近く外に出られなかったんだ?オレは。」
「シンちゃんが可愛い所為です。」
「明らかにあんたの所為だろうがぁ!!
 いいからいくぞ!!」

本屋でこの辺の地図とイルミネーションの特集を組んでいた雑誌、記入用の赤いペンを買い、
面白そうな本を適当に見つけ、何冊か出版社と題名、筆者名を控えておく。
後々オヤジに買ってきてもらおう。
「シンちゃん、クリスマス・イルミネーションにそんなに興味があったのか...」
「まぁな。」
「悪魔なのに?」
「悪魔でも芸術は分るぜ。たとえそれがイコンでもな」

地図を見てマジックの屋敷と会社の位置をチェック。
なるほど意外と近い。
それと雑誌を適当に見て、
その近場で目に付いたイルミネーションをチェックし、ここにも案内してくれと頼む。

「クリスマス本番はもっとキレイなんだけどね?」
そう前置きしてつれてこられたマジックの会社前。
「いや...なんつーか...見事だな......」
「ふふ...シンちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ」
そういってオヤジは柔らかく微笑む。
しかし実際見事だった。
会社入り口のステップは扇状に広がっていて、その両端に電飾が飾られている。
その中央の噴水はタロットカードの[節制]を思わせるような、
丸い噴水の中央で、立てひざの女性が、水瓶から水を下の泉部分に注ぎ、
その泉部分は複雑な軌跡を描いて水の柱が噴出すようになっている。
マジックによれば、こっちはクリスマスに関係なくライトアップされているとのコトだ。
噴水の光は暖かい薄いオレンジ色...まぁいわゆる普通のスポットライトの色だな。
時間ごとに曲が流れる仕組みらしい。
少しだけ水しぶきでぬれるのを覚悟して、泉を除くと、案の定コインが落ちていた。
「まぁ基本だよな」
「あ、このコインは定期的にさらって、
 会社でやっている慈善事業で使わせてもらっているんだよ」
...この会社って犯罪組織の隠れ蓑だよな。

さて、肝心のクリスマスツリーはというと、
近くで見たらまずてっぺんの星が見えないほどの大きさで、
刈り残しなくきれいな二等辺三角形に刈り込んである。
ポイントなのは、ステップ端の電飾とともに、光が青と白で統一されているところだった。
よくある電飾では、白といったらオレンジがかった電灯の色だよな。
ところがこっちは蛍光灯よりも発色が良い、マグネシウムを燃やしたときの白に、
色のはっきりした青。
その2つの光が、ホワイトクリスマスを演出しているようでキレイだった。
本番までまだ数日あるのに、すでにこの状態ってコトは、
クリスマス当日はどうなるのだろう。
「アンタの誕生日もこのままなのか?」
せっかくクリスマスに近いのだから、
会長の誕生日くらいクリスマス並に飾り付ければ良いのに、というと
マジックは相当嬉しかったのか、
「シンちゃんが言うのなら、ちょっと人を雇ってやってみようか」といった。
単純なヤツだ。助かるけど。

この後も雑誌で目をつけたイルミネーションを見て回ったが、
やはり会社の前で見たものと比べるとどうも見劣りしてしまう。
先にこっちを見るべきだったな。
何はともあれ。もうすぐコイツの誕生日だ。オレも色々と準備が...必要ないのか?












クリスマスカラーの飾り付けがなされた部屋の中。
ケーキにさしたロウソクの光が揺らめいている。
明るい部屋の中、4人の歌声が響く。
『Happy birthday to you♪ Happy birthday to you♪
Happy birthday dear My brother![Magic]
 Happy birthday to you!!』
ふぅーっと私がロウソクの火を消すと、同時にぱんっぱんッ!!とクラッカーの音が響いた。
「誕生日おめでとうございます兄さん。」
「案外もうめでたくねーかもな。」
「ま、今年も運良く生きながらえたってコトで」
「おじさんソレ素直に喜べる内容じゃありません。」
「うん。素直にお祝いの言葉言ったのルーザーだけだね」
私の誕生日だろうと何だろうと容赦なく普段と変わらない弟達に苦笑しながら
ケーキを切り分けようとナイフを手にする。
「って兄さんなにやっているんですか」
ハーレムに全員のグラスにシャンパンを注ぐよう指示していたルーザーがこちらを見て顔をしかめる。
「へ? ケーキ分けないと。」
「そうではなく、兄さんは今日の主役なんですから座っているだけでいいんです。
 会長室にいるときみたいに。」
「人を飾り物みたいに言わないでくれ」
本当に容赦がないなと笑いながらルーザーにナイフを渡す。
ソレを受け取り、ロンドン1のケーキ屋に通いつめて味を覚えたという弟達の手作りケーキを切ろうとして、
ルーザーの動きが止まった。
? どうしたんだと顔を盗み見ると、彼はつぶやくようにぽつりと言った。
「...5等分?」
............なるほど。
確かに丸いケーキを5等分するのは至難の業だな。
果断即決の次男が珍しく思案にふけっているのが珍しいのか、ハーレムがからかうような口調で
「いままでは四等分だったから楽だったんだ.......よな...あ...」
ばかぁぁああああああ!!!

反射的にシンタローを見ると、ソレこそシンタローにしては珍しく、ぎこちない様子で
「あ...なんだったら俺いらねぇ...」
はぁああれむぅうううう!!!
あわや気まずい雰囲気に陥りそうになったかもしれない所を(マジックもちょっぴし混乱中)救ったのは、
ポツリとサービスが言った言葉。
「6等分して兄さんが2つ食べれば良いんじゃないかな...」
「あ、そうか。」
サービスナイスフォロー!!

...紆余曲折あったが、とにかくルーザー監督の下、サービスとハーレムが作ったチョコレートケーキは
甘さ控えめ、ほんのりコーヒー風味の大人の味vで美味しかった。
食事が進めばお酒も進む。
お酒が入ればタガも外れてくる。
最初に外れたのはハーレムだった。
「はーれむ、一升瓶一気飲み行きまーす!!」
相変わらず化け物だな...
「あれって酔う酔わないの前にむせるよな」
ハーレムのこの芸を見たコトがないシンタローは、あきれたような、いっそ感心したような表情で
どんどん中身が減って行く一升瓶を見つめている。
「シンタローもやってみたら?」
万が一倒れても開放してあげよう。
「味が分らなくなるような飲み方はしねぇ」
「じゃぁ二人っきりになった後、ゆっくり楽しむかい?」
「却下」
つれないなぁ...
懲りない私も私だけど。

そうこうしているうちに、料理も減り、話題もなくなった所でお開きとなった。
時間はすでに夜の12時を回っている。
こんな時間までメイドたちを働かせるのは私達の本意ではないので、
後片付けは自分たちでやる。これも毎年恒例だ。
使用人たちは自分たちの仕事だといってくれるけれど、
誕生日だからこそ、普段人任せにしているコトを自分たちでやりたい。
もっとも、当の主役は部屋に送り出されるのだが。
「シンタローは片付けは良いよ。兄さんの面倒を見ててくれ」
「あ、わかりました」
サービスに言われてシンタローは私の元に近づいてくる。
...珍しいな。いつものシンタローなら、サービスと一緒に片付けるほうをとると思うのだが...
「ほら。あんたの部屋行くぞ」

これはひょっとして...
「ねぇシンちゃん」
「あん?」
「今晩オッケーってコトかい?」
ごすっ。
......聞いてみただけなのに...
どこからか出したワインボトルと放り投げると、シンタローはさっさと部屋に戻っていってしまった。

「ソレ着ろ」
一足先に部屋に戻ったシンタローがそういって差し出したのは、黒のロングコートだった。
私のものだ。
「外に出るの?」
「まぁな」
「ふーん?」
...この前チェックしていたイルミネーションでも見に行くのだろうか?
何も考えずにとりあえず袖を通す。
ちらりとシンタローを見ると、彼は部屋着のまま、つまり私が用意した黒の上下以外なにも着ていない。
コートとかなくちゃ寒いだろう。
「シンタローのコートは?」
「いらねぇ。」
「でも...」
「いいから。
 そんなことよりオヤジ」
ちょいちょいと呼ばれ、近づく。
「どうしたんだい?」
「この首輪はずせ。」
..............................え?
「そ...れはちょっと...」
困った...困ったぞ。
まさかこうストレートに来るとは思わなかったから...。
本気で困っていると、シンタローはなぜか苦笑いして
「逃げねーよ。こんな方法で封印といたってうれしくとも何ともねぇ」
そうは言われても...
じっとシンタローの目を見つめると、なんだか私に挑むような、けれど柔らかい表情をしている。
...信じてみるか。
「わかった。おいで」
そういうと、シンタローの表情が目に見えてほっとしたようだった。
私に近づいてきて、
「じゃぁこれはサービスだな」
と、明るい声で言うと、
...ぎゅっと抱きついてきた。
「え...えぇ!?」
混乱して思わずシンタローの腰に手を回してこちらもぎゅっと抱きしめる。
「違うだろ。」
即行飛んできたのはいくばくか冷めた声。
しまったついうっかり。
「あ...あぁ。じゃぁ...本当に逃げないでね。」
我ながら情けない声が出てしまった。

チャリ...

小さな音がして金具が外れる。
そっと首輪を取ると、シンタローは確かめるように首を回し、手を当てて、確かめるように首に触れた。
シンタローが私の腰から手を離すと同時に、今度はこっちがシンタローの体にしがみつく。
その手をやんわりとはずすと、シンタローは私の後ろに回った。
「...シンタロー?」
姿が見えないと不安だ。
「んー...ちょっと少しで良いから手を上に上げろ」
...え? ひょっとして拳銃とか持ってる?
「...分った」
言われたとおりにすると、シンタローの腕が私の脇の下を通ってお腹のあたりでがしっと組まれた。

バサッ!

空を切る音に顔を向ければ、シンタローの羽が立ち上がった音だった。
この羽がこうも派手に動いているのを見るのは初めてじゃないだろうか。

シンタローは、しばらく目を閉じて、神経を研ぎ澄ませているようだったが、
やがて目を開くと、再びばさりと羽を動かして...

ふわりと二人の体が浮いた。

「いっくぜ!?」
楽しそうなシンタローの声。
勢いをつけてそのまま窓に向かって...
ぶつかる!?
あわてて目を閉じるが、ガラスに激突する様子は無し。
冷たい空気が肌をなでているのに気づき、恐る恐る目を開けると、そこはもう外...むしろ上空だった。
空に広がる星の海よりも、眼下に広がる光の海のほうが強い。
流石クリスマスシーズンだ。
「...すごいな...」
思わずポツリとつぶやくと、背後から得意そうな声が聞こえた。
「んじゃ、あんたお勧めの場所に行ってみるぜ?」
...あぁ...だからこの前あんなにこだわっていたのか。

「あの辺りは明るいから、あんまり近づくと姿が見えちまうな。」
そういってシンタローはさらに高度を上げる。
見覚えのあるイルミネーションがどんどん過ぎて行く。
シンタローが言う「私のお勧めの場所」にはすぐに着いた。

...見方が違うとこうも代わるものか。
普段決して全体像を見るコトのできない頂点の星を見る。
シンタローの言うとおり、うちのイルミネーションは、星だけでもずいぶん明るく、
近づいたらまず間違いなく地上から上を見ている人に気づかれるだろうとシンタローが心配したため、
ある程度は離れているが、それでもやはり見事だと思う。

人として生きている以上、決して臨むコトのできなかったであろう光景と、
背中に感じる想い人の熱に年甲斐もなく心ときめかせていると、
シンタローが後ろから楽しそうに
「なぁなぁ。ココからコイン落として、あの噴水の中入ると思うか?」
と言った。
「あぁ。よくある、後ろ向きにコインを投げて、運良く入れば恋人と幸せになれるって言う...」
───てそれは...
「シンちゃん...?」
ちょっと期待してシンタローを見ると、彼はしばらく考えていたようだが、すぐにあわてて否定した。
「ち、ちがうぅ! 俺はただ単に難易度と、下にいる奴らが驚くだろうって思ってだな!」
「はいはい。そういうコトにしておいてあげるね。」
「そういうコトに、じゃなくてそうなんだよ!」
「別に照れることないのにねぇ?」
「るっせぇ! それ以上言うと手ぇはなすぞ!」
「うわぁぁああ!!? そ、ソレはご勘弁~~~!!」
いきなり暴れ始めたシンタローをなだめつつ、私達は帰路についた。

歯を磨いてパジャマに着替えて、もう寝る準備万端の私達だが、
さっきの光景を思い出して寝付けそうにもない。
「楽しかったねぇ。ありがとね、シンタロー」
「ふん。誕生日だって言うから特別だぜ」
髪をとかして適当にゴムでまとめながら返事をするシンタロー。
口調は乱暴だが、顔をこちらに向けないところを見るとどうやら本当に照れているらしい。
「ん。本当に楽しかったよ。私も何かお礼しないと」
「あん? 別にいらないぜ? 一応誕生日プレゼントなんだからな」
こちらをふりむき、怪訝そうな顔を向ける。
「いいんだよ。どうせ貰いものなんだから」
はい。と手渡したのは、赤い首輪。
「...おい。これ...」
今渡されたのが信じられないのか、私の顔と、手に無理やり握らされたものを交互に見つつ呆然とした口調で言った。
「骨董品店でおまけで貰ったんだ。
 悪魔の力を封じる首輪なんだって。
 シンちゃん悪魔なんだから、誰かと喧嘩するときに使えるんじゃないかな?」
さっさと言い、「それじゃぁおやすみ」と先にベッドに入る。
手の中の首輪をじっと目詰めるシンタローを残して。

もちろんベッドの中に入っても眠れなかったが、
しばらく後にシンタローが入ってくるのは分った。
そのまま狸寝入りを続けると、シンタローの声が聞こえた。

「偽りの眠りをさまたげよ。
 深き真の眠りにて」

その言葉が終わると同時に、私の意識は沈んでいった。
BACK NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved