「くそッ!」
意味無く吐き捨てられる言葉。それだけでは苛立ちが収まらずに、髪に指先を突っ込み、くしゃくしゃに掻き混ぜた。
気分が悪い。むかつきが収まらなかった。
とはいえ、身体の具合が悪いわけではない。これは精神的なものだ。
(だって、アイツがッ!)
その瞬間脳裏に浮かぶのは、つい一時間ほど前に対峙していたマジックの顔だった。しかし、今はその顔など見たくはない。
思い出しただけで、むかつきがさらに増した。
喧嘩をしたのだ。
きっかけは、些細なことだったと思う。どちらが悪かったのかさえ憶えてなかった。気がつけば、お互いに譲れないところまできていて、結局、盛大に怒鳴りあい――眼魔砲もちょっとばかり打ち合って――その後、悪態をつきながら部屋を出てきた。
「あいつが悪いッ!」
そう言い張ることで、自分の中の荒れ狂う感情を収めようとする。けれど、それは上手くはいかなかった。
イライライライラ…。
じっとしていることさえ出来ない苛立ちに、シンタローは落ち着けずうろうろと歩き回る。部屋に戻ろうとしたが、部屋でじっとしていることもできないことはわかっていたから、意味も無くその辺りを歩き回っていた。
「あ、シンちゃん。みーっけ!」
苛立ちを収められずにうろついていたシンタローに、能天気な声が響き渡る。長い廊下をあてどなく歩いていたシンタローだったが、とりあえずその声に応える様に振り返った。
「グンマ……何の用だよ」
不機嫌さは最骨頂のままだから、自然と目付きも鋭く、声も低めの凄むようなもとなっていたが、さすがに長年傍にいた従兄弟――後、兄弟――である。そんなことは気にも止めずに、いつもの調子で話しかけてきた。
「うん。あのね、ちょっと僕と一緒に来てよ♪」
そう言うと、こちらの有無も聞かずにこちらの腕をとり、ぐいぐいと引っ張り出した。
相変わらずマイペースな兄弟である。しかし、シンタローはそれに反発するように力を加え、足を止めた。
「ちょっとまて、グンマ!」
「なぁに?」
きょとんとした顔で、こちらを見上げるグンマに、シンタローはじとりと視線を投げつける。
「どこへ行くんだよ」
それをまだ聞いていなかった。
しかし、グンマはその言葉に、にぱっと嬉しそうな表情を浮かべて言い放った。
「内緒だよv」
三十路が近いくせに、そんなことはちっとも感じさせない無邪気な笑顔。屈託もなく、自然な笑みを簡単に見せれる兄弟が、少しばかり羨ましかった。
あんな風に素直に自分の感情を出せれば、先ほどみたいな喧嘩もせずにすんだだろう。
(って、何考えているんだよ、俺は)
別に、喧嘩をしたことには後悔していない。悪いのはあちらなのだ。自分は全然悪くない……と思う。たぶん。
それなのに、あちらも引かなかったものだから――というか、自分が興奮しすぎて――だんだんとエスカレートしてきて、あんな風な結果になったのだ。
仲直りなどしないままに、部屋を飛び出したのである。
(でも、ぜってーに、俺は謝らないからなッ!)
そんな決意までしてしまう。
しかし、こちらの心中など分かるはずもなく、グンマの方はといえば、再びシンタローの腕を引っ張り出した。
「とにかく一緒に来てよね、シンちゃん!」
連れてこられた先は、ダイニングルームだった。ぐるりと見渡せるほどの広いそれは、けれど青の一族専用の場所で、それ以外の人は立ち入り禁止である。そのために人気は無かったが、そのダイニングルームに一歩足を踏み入れると嗅ぎ慣れた匂いが鼻腔をくすぐった。
「………カレー?」
その言葉に反応するように、ダイニングルームの奥にあったキッチンから、見たくもないと言い放った顔がひょっこりと現れた。
「あ、シンちゃん! 来てくれたんだね」
お玉片手に、嬉しそうにそういわれた。
「親父……」
数時間前に盛大に喧嘩別れした相手の顔に、シンタローは少しばかりばつが悪げに視線を向けた。相手は真っ直ぐにこちらを見てくれるが、シンタローの方は居心地悪げに視線をそらしてしまう。
それに何を勘違いしたのか、マジックは、しゅんと落ち込んだような、しおらしい表情を浮かべた。
「――ごめんね、シンちゃん。さっきはパパが悪かったよ。許してくれる?」
「許すって…」
あの喧嘩では、どちらが悪いというわけではなかったのだ。それなのに、マジックの方からあっさりと謝られてしまっては、こちらとしてはなす術が無い。
居た堪れなくなって、自分をここまで連れてきたグンマに助けを求めようとしたが、すでにその姿はなかった。どうやらグンマの役目は、自分をここまで連れてくることだったようである。
(くそッ…どうしろっていうんだよ)
そのまま逃げることも出来ずに、立ち往生していれば、マジックがキッチンから出てきた。
「お詫びにシンちゃんが大好きなカレー作ったんだけど、食べてくれるかな?」
「カレー…?」
そう言えば、今ここに立ち込めている匂いは、紛れもなくカレーだった。
「そう。仲直りのカレーだよ」
マジックのその言葉に、シンタローは思わず口元にかすかな笑みを浮かべてしまった。
(仲直りのカレーか――)
それはたぶん、自分と父親にしか分からない言葉だ。
幼い頃は父親にべったりの自分だったが、その父と喧嘩をしたことがないわけではない。大概、自分が癇癪を起こして、父親に喧嘩を吹っかけて、そうして怒ったまま、部屋を飛び出すのも自分だった。だけど、そうしてしまうと後が気まずくて、自分が悪いとわかっていても、父親のところにいけなかったのである。
しかし、そんな時には決まって父親は、カレーを作るのだ。そして――。
「一緒に食べよう、シンちゃん」
そう言って、自分を誘うのである。
今回も同じだった。
お玉を片手に、こちらにそう訊ねる。
じっと様子を伺う姿は、なんとなく飼い主の顔色を伺う大型犬のようで、こちらの行動ひとつで、拗ねて背中を向けたり、喜んでシッポを振ったりしそうである。
「仕方ねぇな。食べてやるよ」
その瞬間、マジックの顔に、パッと笑みが灯った。
「ありがとう! シンちゃんv パパ、シンちゃんのことが大好きだよッ!」
「うわッ!」
やはり大型犬のように大きくシッポを振りながら、その巨体で自分に乗りかかってきそうな父親を、両手で制した。
「親父……」
目の前には、父親特製のカレー。すでに半分ほど減ってしまっていた。やっぱり美味い。もう二十年以上食べ続けているのに、ちっとも飽きさせないのが不思議である。
「ん? なんだい」
顔を向けるあちらの前にも同じようにカレーがあり減っていた。
共に同じテーブルについて、カレーを食べていたのだ。
それでも、仲良く団欒しながら――というわけではなかった。一応仲直りをしたような結果になっていたが、それでもシンタローの中にはまだ気まずい思いがあった。
まだ、言いたい言葉を言ってないせいだ。
そのせいで、気分がもやもやしたままで、胸が苦しくて、折角美味しいはずのカレーも、十分に味わえない。
「その………悪かったな」
ようやく言えた、謝罪の言葉。
「うん。いいよv」
その言葉に、にっこり笑うマジックの笑みは、やはりグンマの父親というべきか、屈託のないもので、こちらは思わず溜息をついてしまう。
分かっていても、やはりちょっとばかり悔しかった。
父親の思惑通りに事が運んでしまったようなものなのだ。
結局元通り。
いつまでたっても、父親には敵わない―――父親手作りのカレーを食べながら、そう実感してしまう、シンタローであった。
PR
今日は12月12日。
僕にとっては大切な日で、誰よりも早起きをして、大好きな人に、朝一番に伝えたい言葉がある。
「パパ! 誕生日おめでとうv」
一人で目を覚まして、顔を洗ってお洋服を着て、それからちょっとまだ眠いのを我慢して、ダイニングルームで待っていたら、入り口から赤い服が見えた。その瞬間、僕は椅子から飛び降りて、駆け出して、そうしてその服目掛けて飛びついた。
同時に、朝からずっと言いたかった言葉を告げる。
『誕生日おめでとう』
今日は、僕のパパのお誕生日なのだ。
だから、誰よりも先に、お祝いの言葉をあげたくて、早起きしてパパを待っていたのである。
足に抱きついた僕は――だって、まだ僕の背は小さくて、パパは凄く大きくて、それが精一杯なのだ――そのままキュッと足に腕を回して抱きつく。いつもの感触。安心するっていうのかな。そのまま頬をくっつけて、すりすりして、大好きなパパに甘えちゃう。
本当は、もうそんな年じゃないけれど――今年で5歳になったし――でも、久しぶりにパパに会えたのだから、許して欲しい。パパだって、僕をよく抱き上げて、すりすりしてくれるんだから、おあいこだよね?
パパは、昨日までお仕事で遠くの方に行っていたのだ。でも、誕生日の日だけは、決まって朝はここに来てくれる。絶対にパパに会えるとわかっているから、早起きなんて辛くなかった。
「パパ大好きv」
「Σぶほッ!」
頬をすりすりしていたら、上の方で奇妙な擬音が聞こえてきた。でも、僕は気にしない。だって、いつものことだもん。こういう音って、パパの傍にいると結構頻繁に聞こえてくるんだ。どこの家庭でもそうだよね?
グンマとドクター高松が一緒にいる時も、よくこんな音が聞こえてくるんだもん。
ぽたッ…。
何かが上から落ちてきた。目線を下に落とすと、赤い点が床に描かれている。何が零れてきたのだろう、とよく見ようとしたら、パパの大きな靴で、それは隠されてしまった。
それで、今度はパパの方を見上げたら、いつもの笑顔がそこにあった。格好よくて優しいパパの顔だ。
「ありがとう、シンちゃん。今年も、シンちゃんから最初に『おめでとう』の言葉をもらえて、パパ嬉しいよv」
その言葉と同時に、大きくて優しい手が頭の上に乗せられる。ふわふわと撫ぜてくれるのが、とても気持ちがいい。同時に、ぽた…ぽた…と、水音がどこからか聞こえてくる気がするけど、気のせいだろう。ただ、パパの足は忙しなく動いているようだった。
「あ、そうだ!」
気持ちよくて、ついうっかり忘れていたけれど、まだ、大事なものをパパに渡していなかったのだ。
パパから一歩離れて、ポケットの中に手を突っ込んだ。そうして、ゆっくりとそこに入れていたものを差し出す。
「あのね、パパ。今年のプレゼントはね。これだよv」
両手に持ったそれをパパに差し出した。
それは、青系の粒の大きいビーズで作ったブレスレットだ。もちろん僕の手作りである。
何にしようかと悩んで、大好きな美貌の叔父である、サービス叔父さんに相談して、その時、サービス叔父さんが手首にはめていた綺麗なブレスレットが目に入ってきたのだ。それで、そういうものをパパにあげたいといったら、ビーズで作れることを叔父さんが教えてくれた。
「パパのために一生懸命作ったの!」
これを作るのは、僕には難しくて、ビーズが何度もバラバラになって、内緒だけど、ちょっと泣いたりもしたりした。
それでも、ようやく完成したそれを、パパはそっと大切そうに受け取ってくれた。それを顔に近づけて眺めてくれる。
「上手に作ったね。これ、はめてもいいかい?」
「うん♪」
もちろん、そのつもりで作ったのだ。
青い色ばかりを選んだのは、パパの瞳の色と合わせたかったから。そのブレスレットが、パパの腕にはまった。キラキラと光にあたって輝く。
ちょっとだけ、パパの瞳に似ていると思う。パパの瞳は、ビーズなんかよりもずっとずっと青が深くて綺麗なのだから、少ししか似てないのは仕方ない。それは分かっていたことだから、僕は、それだけで大満足だ。
「どうだい?」
「パパ、似合うよ!」
本当に似合ってて、我ながらセンスがいいと、思わず手を叩いてしまう。そうしたら、パパもにっこり笑ってくれた。
「そうか。それは嬉しいな。素敵なプレゼントを、どうもありがとう。シンちゃん」
また、頭を撫ぜられる。
「えへへ」
喜んでもらえれば、凄く嬉しい。
パパのためのプレゼントが一番悩むけれど、だからこそ、こんな風に喜んでもらえた時が一番気持ちよかった。
悩んだ甲斐がある! というものだ。
「あのね、あのね! でも、最初にグンマに、パパのプレゼントを相談したら、馬鹿なことを言ったんだよ?」
サービス叔父さんに相談する前に、従兄弟のグンマにもパパの誕生日に何を贈ればいいのか、相談にいったのだ。けれど、グンマは馬鹿だから、馬鹿な答えしか返ってこなかった。相談相手を間違えたという奴だ。
「ん? グンちゃんは何だって?」
「ん~とね。グンマの奴、『シンちゃん自身をあげたらいいよ』って言ったの!」
馬鹿だよね?
そう言ったとたん、周りが赤くなった。
「Σブゥ~ッ!!」
「パパッ!? どうしたの?」
行き成りパパは、あらゆる穴から血を噴出して膝をついたのだ。幸い、最初の噴射があまりにも勢いがよかったから、すぐ真下にいた僕にはかからなかったけど、パパは、そのまま膝を床につけてしまった。
「大丈夫?」
そう訊ねてみれば、パパはなんだか虚ろな顔をして、どこか遠い目をして呟いてくれる。
「ああ…花畑に天使達が…笑ってる…ふふっ…」
「パパ?」
意味わかんないよ。
僕には、花畑も天使さん達も見えないけど、パパはどうやらそれらが見えているみたいだ。ちょっと羨ましいな。
でも、なんだか危険な気がしたから、なるべくパパのような見方はしたくない気がする。
「――それにしても、シンちゃんはなぜそれをやめたのかな?」
それから10分ぐらいたって、ようやく復活したみたいな、パパが、そう尋ねてきた。その頃には、僕は退屈していて、傍にあった椅子の上に座って遊んでたりしたんだけど、パパの質問には、きちんと答えてあげた。
「だって、僕はとっくにパパのものだもん!」
パパのためならなんだってするんだから、今更、パパに僕をあげるなんておかしいよ。
にっこり笑って、そう言うと、
「Σぐほッ、がふッ!!」
そんな妙な声がして、あたり一面が赤く染まった。
「うわッ!」
ビックリした。慌てて、椅子の上に登って避難する。反応が早かったために、被害はゼロだ。
赤い海が一瞬のうちに出来ていて、その中に、パパは倒れていた。
行き成り出来た赤い液体の中に浸ったパパが、何か言っていた。
「シンちゃん…パパも永久の愛を君に誓うよ……ジュテーム」
「……パパ?」
パパの言っている意味がよくわからないけれど、とりあえず、パパがそのままぴくりとも動かなくなったから、僕は、靴下が赤く染まって、汚れるのを気にせず、床に下りた。
ぬるぬるして気持ち悪いけど仕方がない。滑らないように、ゆっくりとパパの元へと歩く。そうして、パパに触れると、その顔を思い切り叩いた。
ビシバシッ!
「パパ! パパ!」
反応無し。
「……また?」
だんだん血の気がなくなって冷たくなってきたから、僕は、すぐに立ち上がって、高松を呼びに走った。
こういうことは、初めてじゃない。というよりも、しょっちゅうだったりするから、慌てる必要はないんだけど、高松は、一刻も早く処置しないといけないといってるから、こういうことがあったらすぐに呼びにくるようにしてるんだ。
あ~あ。靴下は、もう脱いじゃおう。
ズボンも少しだけ汚れてしまった。
僕と一緒の時に、こういうことはよく起こるんだ。でも、僕がいない時にこんなふうになったら、誰が、パパを助けてくれるのかな。僕が傍にいる時だけ、そうなってくれればいいけど。
本当に、パパってちょっと困った人だよね。僕がいないと、駄目なんだから!
でも、僕はそんなパパが大好きだよv
『お誕生日おめでとう! パパ★』
……こんな話にする予定だったかしら?
「お誕生日おめでとう……コタロー」
祈りを込めて、そう呟く。
(おめでとう――生まれてきてくれてありがとう)
自分の大切な存在となるために生まれてきてくれた弟に、シンタローは感謝の気持ちを込めて、言葉を送る。
けれど、その言葉に笑顔で返してはもらえなかった。ただ、穏やかな顔で眠りにつく顔だけが、シンタローに向けられる。
パプワ島で力を使い果たし、深い眠りについてから3年。まだコタローは眠りから覚める気配がなかった。
ベッドの上で、昏々と眠り続ける弟に、それでもシンタローは柔らかな視線を向ける。
「もう9歳になったんだな」
感慨深げに言葉を漏らすと、総帥服のままの腕を伸ばし、ふっくらとした頬に手を添えた。確かな温もりが指先に伝わる。弟に触れるのは久しぶりだった。仕事が忙しくて、こうして会いに来ることさえもできない。
今日も、弟の誕生日であり、クリスマスイブだというのに、日付が変わるギリギリまで仕事をしていた。誕生日であるその日に、お祝いの言葉を言えたのは、必死で仕事をこなした結果だ。
それゆえに、目元には疲れが滲んで入り、顔色も悪い。この部屋へ行く前に、先ほどまで自分の補佐として傍らにいたキンタローにも、そう指摘された。弟へお祝いの言葉を届けた後は、すぐに寝ろと指示されている。
自分もそうするつもりだった。
それでも、すぐには立ち去れない。
「ごめんな、今年はケーキも作れなかった」
食べてもらえないとはわかっているけれど、毎年コタローのためにケーキを作って、一日飾っておく。もったいないから次の日になれば、自分で食ってしまうのだけれど、それでも毎年かかさないことだった。けれど、さすがに今年は、時間がとれなかったのである。
「だから、これで勘弁してくれ」
そう言って、コタローの枕元に置いたのはヌイグルミだった。こつこつと、時間をみては作り上げてきたそれは、先程ようやく完成したものである。首にリボンを巻きつけ、プレゼント仕様にしたそれは、けれど、弟の横に違和感なく存在していた。
「やっぱりお前には、このヌイグルミだよな」
ぽん、とコタローの横へ寝かしてあげたヌイグルミの頭をシンタローは叩いた。
それは、コタローがずっと幼い頃から一緒に過ごしていたヌイグルミに瓜二つのものだった。けれど、以前のヌイグルミは、もう随分とボロボロになっていた。パプワ島での戦闘の被害をそのヌイグルミも受けていたのである。繕うにも限界のそれを、新しく作り直してあげようと思ったのは、随分と前のこと。けれど、時間がなく、合間を見て作っていれば、かなりの時間がたってしまっていた。
気に入ってくれるかわからない。
いつ目覚めるかわからないけれど、もうこのぐらいの年齢になれば、ヌイグルミなど必要ないだろう。それでも、あえてシンタローは、このヌイグルミを今年のプレゼントに決めた。
「これからもコタローの傍にいてくれ」
ずっと一緒にいてくれたヌイグルミの代わりであるから、願うように呟き、それを、コタローと同じ上掛けにいれた。添い寝するようなその姿に口元が綻ぶ。
そうしてヌイグルミと一緒に寝ていると、弟の愛らしさがさらに増したようである。
「やっぱ、可愛いなぁ」
ポタッ…。
そう呟けば、条件反射のように滴り落ちる液体。
「あッ………ああ?」
真下へと落下する液体は、真っ白なものに赤い染みとなって広がる。だが。
「セーフか?」
「セーフだ」
横から聞こえてきたその言葉に、シンタローは、腕を広げて、『セーフ』のジェスチャーをして答えた。
「ナイス、フォローだキンタロー! あやうくコタローの顔を汚すところだったぜ」
「まったくだ」
シンタローの鼻から落ちた鼻血は、コタローの顔に触れる寸前で、差し出され真っ白なティッシュに吸い込まれていった。それを差し出したのは、いつのまにか部屋に入ってきていたキンタローである。絶妙なタイミングのそれに、シンタローは、バシッとキンタローの背中を叩いてあげた。
「さすがだな。このタイミングでティッシュが出せるのはお前ぐらいなもんだ」
それは、言われて嬉しいのかどうかこれまた微妙なところだろうが、どうやらキンタローは、その言葉に満足したようだった。
「当然だ。お前の行動パターンはすでに把握済みだからな。いいか、俺はお前のことならなんでも分かっているんだぞ」
「はーい、ハイハイ。二度重ねはティッシュだけでよーし! お前はせんでいい。とりあえず、サンキュウな」
相変わらず、二度押し好きの従兄弟の言葉をさらりと流し、シンタローはうっかり自分の鼻血で汚しそうになったコタローを顧みた。
可愛い弟の顔を血まみれにはしたくない。ティッシュを鼻につめた間抜けな顔で、シンタローは、弟の頭を撫でた。
「メリークリスマス」
日付は、すでに25日へと変わっている。
「メリークリスマス」
その横で、キンタローも言葉を紡ぐ。
「来年は、一緒に誕生日とクリスマスを祝おうな」
毎年同じ言葉を紡ぐのだけれど、毎年願う言葉である。
『来年は一緒に笑ってお祝いできるように』
もう子供ではないけれど、純粋な願いとしてサンタに祈り、クリスマスの日を迎える。
聞き届けて欲しいと、本当に願うことである。
「しかし、シンタロー。サンタはいつ来るんだ。まだ、俺は見てないぞ」
「ああ? そりゃそうだろう。サンタは眠っているいい子のところに来るんだからな」
真剣な顔でそう不思議そうに呟くまだまだ経験の浅い従兄弟に向かって、シンタローは、真摯にそう答えてあげた。サンタはいないのだとは、言ってあげない。信じる信じないは本人が選択することで、自分はありえるかもしれない可能性を口にしてあげる。
『サンタは、眠っている子供のところにクリスマスプレゼントを届けるのだ』と。
それならば、コタローのところには来てくれるかもしれない。ずっと眠って待っているのだから。
「それは大変だ。早く寝ないといけないではないか」
「そうだな。寝るか」
果たしてキンタローの元にサンタクロースが来るのかどうか知らないが、それは目覚めてからのお楽しみである。
すでにキンタローへのプレゼントは用意済だ。眠ってから渡す方が効果的のようである。
(信じるものは、幸せになれるって言うしな)
信じて救われることは少ないかもしれないけれど、信じていれば、幸せは必ず訪れてくれるから。
(お前が、いつか目覚めてくれると、お兄ちゃんは信じているよ)
だから今は、まだ………。
「お休み、コタロー。メリークリスマス」
夢の中にまでサンタがやってきてくれるように願いつつ、シンタローは部屋を後にした。
「シンちゃん。今年は何をプレゼントしてもらうの?」
今日は、クリスマスイブ。眠れば、その後にサンタのおじさんがそっとプレゼントを置きにやってきてくれる、素敵な夜の日だ。
身内と親しい側近らで行われるクリスマスパーティー内で、こそっとそう耳打ちしたのは、マジックが手作りしたサンタ風の可愛らしい服に着込んだグンマだった。手首にあるふわふわの白いファーが、シンタローの耳をくすぐる。シンタローの服装も、グンマと似たものだった。けれど、ところどころ――襟やボタンの位置など――微妙に形が違うのは、父親のこだわりだろう。どちらも愛らしさをさそうその洋服は、マジックが、いそいそと今日この日のために作ってものだった。
「……僕は、別にいらない」
「え? どうして」
プレゼントをいらな子供なんていないはずである。けれど、シンタローは、なんとなく不貞腐れたような表情で、そう言い放った。
「もう貰ってたの?」
その言葉に、きょとんとさせて、グンマは尋ねた。
ガンマ団総帥の息子の溺愛ぶりは世界各国伝わっている。そのために、心証をよくしておこうという狙いミエミエで、シンタローへクリスマスプレゼントと称して様々な品物が毎年贈られてくるのである。大概の子供が喜ぶ品ばかりで、シンタローの欲しいものがその中に入っていてもおかしくなかった。
「それじゃあ、サンタさんに、何もお願いしなかったの?」
「グンマには関係ないだろ」
「シンちゃん…?」
ぷいっと横を向いてしまったシンタローに、グンマは、とたんにしょぼんとした表情を浮かべた。従兄弟と喧嘩することはしょっちゅうだから気にしないでいられるけれど、冷たい態度をとられると、哀しくなってしまう。しかも、今日の態度は少しおかしかった。
(シンちゃん、どうしたんだろう……)
パーティは、すでに始まって随分と経っている。呼び寄せたオーケストラからは軽快なクリスマスソングの生演奏が聞こえてくる。大人達は楽しそうに、ご馳走と酒を手に、会話をしているけれど、子供はシンタローとグンマだけだった。
自然に寄り添うように、二人でいたけれど、パーティが始まる前から、シンタローはあまり元気がなかった。
「あのね。内緒だけど、僕は、ちゃんとお願いしたよ。今度新しいロボット作るから特殊な合金素材をくださいって」
「ふ~ん、よかったな」
サンタへのお願いをこっそり教えてあげたのに、返って来たのは気のない返事。
「シンちゃんは?」
「教えねぇよ」
やっぱりそっけない言葉を吐くと、近くにあったテーブルから七面鳥のモモの肉を切り分けてもらい、それを口に頬張り始めた。なんとなく自棄食いに見える姿である。
(やっぱり伯父様がいないせいかな?)
シンタローの機嫌があまりよくないのは、今日のクリスマスパーティには、父親であるマジックがいないせいなのかもしれない。
昨日からの遠征で、まだ戻って来ていなかった。予定では、明後日の朝に帰ってくるらしい。かなりの激戦区で、わざわざ総帥が出向くほどだから、かなり危険が伴うだろうということを高松が話していた。たぶん、シンタローもそれを知っている。
普段は、パパなんていなくても大丈夫だよ、と強がってみせるけれど、本当は誰よりもパパが大好きで、一緒にいて欲しいと思っているのは間違いないのだ。
(シンちゃんったら、僕にまで意地っ張りにならなくてもいいのに)
素直に寂しいといってくれてら、こっちも慰めてあげられるのに、何もないって突っぱねられるから、こちらも何にも言葉をかけてあげられない。そんなものは、必要ないというかもしれないえれど、やっぱり言葉はあった方がいいのだ。
そんなシンタローは、むっつりした表情のまま、オレンジジュースと大きなケーキを交互に頬張っていた。
「どうしたんだい、シンタロー。楽しくないのかい?」
「サービス叔父さん! もう来ないかと思ったよ」
「遅れてすまない。メリークリスマス、シンタロー」
そんなシンタローに声をかけたのは、常日頃がら美貌の叔父様として、シンタローが慕っているサービス叔父様であった。何をしていたのか、今頃になって登場したその叔父に、とたんに、シンタローの顔に笑顔が戻ってくる。でも、それが空元気からでる笑いだということは、従兄弟だからグンマにも分かっていた。
「兄さんはすぐに戻ってくるよ。だから、シンタローは何も気にすることなく楽しみなさい」
「うん。僕は全然心配してないよ。だって、パパは強いもん! それに明後日にはちゃんと帰ってくるっていってたもんね」
「ああ、そうだね」
ぽんぽんと強がるシンタローに頭を叩くようにして撫ぜるサービス。その表情には愛しむものが見えて、グンマは頬を少しだけ膨らませた。
だって、自分にはしてもらえない。あんな風に―――頭を叩いただけで、ホッとしたような顔をシンタローに。あれだけで、安心させることができるならば、いくらでもしてあげるのに。
それは、仕方ないことだけど、やっぱり悔しい。
「どうしました、グンマ様」
「高松」
振り返ればそこには高松の姿があった。今日ばかりは白衣ではなく、ちゃんとスーツを着込んでいる。青の一族主催のパーティなのだから、おかしな格好は出来ないのだ。
「なんでもないよ」
これは高松には関係ないこと。でも、ちゃんと分かっているようだった。心得ているようになずかれ、そうして言われた。
「マジック総帥ならば、明日の朝には帰って来るようですよ」
「ほんと?」
「ええ。秘書官達にはすでに伝えられてましたから」
「そっか。よかった」
それなら、シンちゃんもきっと大喜びするはずだ。
(やっぱりシンちゃんは、笑顔でいてくれた方がいいもんね)
今日のような、落ち込んだ顔は見たくない。
ほっと一安心したら、ふわっと欠伸が出てきた。
「ああ、もうお休みのお時間ですね。シンタロー様も眠そうですし、寝室へお連れいたしましょう」
「うん…今日は、シンちゃんと寝る」
こんな夜にひとりぼっちは寂しすぎるから。
本当は寂しい気持ちや心配する気持ちが溢れてきてしまうだろうから、ひとりにはさせられない。
「ええ、分かりました。準備してまいります」
そう言って、先に部屋を出て行った高松に、グンマは、シンタローの姿を探した。後はシンタローと一緒に寝室へ行くだけである。
見つけると、欠伸をしたとたんどっとあふれ出てきた眠気、目を擦りつつ抵抗しながら、グンマは、シンタローの傍へと近づいた。すでにシンタローも眠そうで、サービス叔父の隣に座っていたけれど、時折がくっと身体が倒れかけていた。
それでもまだ起きているのは、きっとひとりで寝室に行きたくないため。だから、グンマはシンタローに向かって手を差し伸べた。
「シンちゃん、一緒に寝てよ」
「………グンマがそう言うなら、寝てあげてもいいよ」
意地っ張りらしく、そんな風に言う従兄弟に、グンマは、睡魔に捕らわれたとろりとした表情で頷いた。
「うん。一緒に寝てね」
しっかりと握り締められた手と一緒に、寝室まで付き合ってくれたサービスへ、お休みなさいの挨拶をすると、二人そろってベッドの上へと横へなり、夢の国へと旅立った。
どれくらい眠ったのだろう。
不意にグンマは目覚めた。けれど、視界に映るのは漆黒の世界。まだ夜は明けてないようだった。横には、シンタローが寝ている――そのはずだったのに、シンタローの姿はない。慌てて起き上がると、ドアの付近に怪しい人影を見つけた。その腕に、小さな子供を抱きかかえている。
「誰?」
グンマが声をかけると、その人影は振り返った。
「おや、グンちゃん。起きたのかい?」
「マジック伯父さま」
その声は、叔父のマジックの声に間違いなかった。その伯父の腕に抱かれているのは、シンタローである。
「シンちゃんを連れて行くの?」
「ごめんね。私は、今サンタクロースだからね。この子の願いを叶えてあげなければいけないんだよ」
サンタクロース。
そう言えば、いつ帰ってきたのかわからないけれど、今のマジックの姿は、絵本でよく見るサンタクロースの服装にそっくりだった。振り返れば、グンマが寝ていた枕の上にも、プレゼントらしい箱があった。きっとこの伯父が持ってきてくれたのだろう。わざわざサンタの格好をして。
「シンちゃんの願い?」
「そう。昨日の夜書いたんだろうね。サンタに当てた手紙には、『パパと一緒にクリスマスをしたい』って書いてあったんだよ」
そう言えば、昨日の夜寝る前に、何かを書いていた。覗き込もうとしたら、思い切り怒られた上に、しっかりと殴られたのである。
結局何を書いていたのかわからなかったけれど、シンタローはサンタへお手紙を書いていたのだ。クリスマスの日に欲しい願いを。
そうして、このサンタクロースは、その願いを叶えてにきたのである。
「お休み、グンちゃん。メリークリスマス」
そう言うとサンタはシンタローをつれていく。明日の朝、サンタを信じて願いを告げた子供の喜ぶ顔を見るために。
けれど、ひとりベッドへ戻ったグンマは、その顔に喜びはなかった。
ひとりっきりになったそこは、とても冷たく感じて、グンマは、ギュッと毛布を握り締めた。枕元にあるプレゼントに目が行く。中味はきっと自分がサンタに願ったもの。
でも、嬉しさは感じられない。
(こんなことなら、僕のお願いごと『シンちゃんが欲しい』って書けばよかった)
大好きな従兄弟が、サンタに連れ攫われるとわかっていたら、願い事だって変わっていただろう。
でも、そう思っても本当には願えない。
だって、それは自分だけの願いで、大好きなシンちゃんの願いではないのだから。
(僕もいつかシンちゃんのサンタになれるかな)
大切な人の願いを叶えてあげられるような、そんなサンタに、いつかはなられるだろうか。
あんな風に大人になれればきっと…。
グンマは、ジワリと滲んできた涙を一生懸命拭うと、毛布にしっかりと丸まって目を閉じた。
早く大人になれますようにと願って。
夕方頃、雨が降っていた。雷鳴轟き、暗雲立ち込める空模様。なのに、気付いてみれば、雨はすっかり上がっていていて、空を見上げれば、星月夜。
それが良いか悪いかといえば、やっぱり良かったのだと思う。
だって、今日は7月7日である。
それならば、願うのはやはり晴れで、空に輝く恋人達の一年に一度の逢瀬を地上から見守りたいと思うのは、日本人なら当然のことだろう。
雨の名残の湿った風が顔に触れる。今日は一日中室内で業務をしており、空調設備が整っていた場所へいたために、その風は、少し生温く感じられる。けれど、久しぶりに受ける自然の風は心地よかった。今日は、真夏日と言われるほど気温があがったいたようだったが、それでも夕刻の雨が、涼を呼んでくれている。
人気のない屋上。ガンマ団内部とはいえ、誰もあまり立ち入らないその場所で、ひとり彦星と織姫を眺めていたけれど、どこからこの場所を聞きつけてきたのか、不意に背後から声が聞こえてきた。
「今年の七夕には、何の願いごとを書いたんだい? シンちゃん」
振り返るまでもなく、誰の声だかわかるそれに、シンタローは、空を見上げたまま答えてあげた。
「『商売繁盛』」
今日の昼頃、ガンマ団本部の中央にある吹き抜けに飾られていた巨大な七夕用の竹に、確かにそう書いてつるした。筆で、大きくはみ出すギリギリまで書いて、頂上付近に飾ってやったのだ。
商売繁盛は、大切な願いごとである。ようやく軌道に乗り出した新生ガンマ団。ここからが正念場なのだ。
ぜひとも叶えてもらいたい願いごとである。
うんうん、と一人納得して頷いていれば、背後の人物は不服げな声をもらしていた。
「え~~。確かにそれも必要だけどね。でも七夕だよ? もっとロマンチックにいかないかい?」
同時に、肩にぽんと乗せられた手に、条件反射のように、眉間にシワがよる。けれど、振り払うことはやめたおいた。そんなことをすれば、次は肩だけではすまないのである。とりあえず、その程度で我慢してくれている時には、そのまま放置が絶対安全である。
「つーか、恋人との逢瀬で忙しい奴らに、何を願おうっていうんだよ」
『商売繁盛』も、別に他力で求めているわけではない。そうやって自分の願いを書くことで、それを実現させるために頑張ろうという気持ちを高めるのだ。
別に本気で願いが叶うなどとは信じていない。
「え? だから、『子宝が授かりますように』とかv」
「……誰に?」
「シンちゃんに!」
ドゴッ。
肩に手を置いたまま背後から身を乗り出すようにしそう言ってきた相手に、シンタローは、右の腕を折り曲げて、後方へとついてあげた。そのとたん、背後からいい音がしてくれる。
「痛いよッ、シンちゃん!」
「てめぇが、ふざけたことを言ってるからだろうか」
すぐに苦情が飛んでくるが、知ったことではない。
第一、そんなことを願われても、お空のお星様達も困るだろう。生物学的に、自分はどうやっても子供を産めない身体なのだ。
「仕方ないね。じゃあ、叶えられる願いを叶えてあげようかな」
「は?」
どうやら先ほどの一撃だけでは、致命傷は与えられなかったようで、あっさりと復活してしまった相手に、背後から抱きしめられた。油断していたとはいえ、腕を巻き込むように腰に回された右腕一本だけで、身動きできずにさせられる。その状態でいれば、マジックは、あいている左手をこちらの目の前にさらし、何かをちらつかせた。
それは、青い短冊。
そこには、細いペンで願い事が書かれていた。
それを見たとたん、シンタローは、その短冊と同じくらい蒼ざめた。
「ああッ!?」
「これなら、パパでも叶えられるからねv」
「てめっ!!!」
弾むような声でそう言う相手に、青くなっていた顔が今度は赤く染まっていく。
慌ててそれを奪い取ろうとしたが、寸前でかわされてしまった。それは、またマジックの懐の中へとしまわれる。
そこに何が書かれているのか、読まなくてもわかっていた。あの願い事を書いたのは、他の誰でもないシンタロー自身なのだから。
(嘘だろっ…なんで、こいつがアレをもってるんだよ)
あの短冊は、誰にも見られないように、こっそり書いてそっと、他の短冊や葉で隠れるように書いたものである。しかも、あれには名前などは書いていないし、願い事の内容にも固有名詞は一切書いていない。なのに、しっかりとそれは、マジックの手にあった。一番見られたくない相手に、見られてしまったのである。
「さあ、シンちゃん。パパがお願い事をかなえてあげよう―――今晩は、君を離さないよ★」
「~~~~~~~ッ」
当然だけれど、読まれてしまっていたその願い事に、シンタローは、どうすることもできずにただ同意の意味を込めて、真っ赤な顔のままこくりと頷くしかなかった。
空には、すでに逢瀬を遂げている恋人達の星。
彼らが願いを叶えてくれたのか、これが運命だったのか、シンタローはマジックの腕の中で、短冊に書いた願い事を反芻した。
短冊の願いごと―――それはただ―――『ずっと傍にいてくれますように』…それだけ…。