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こうやって、戯れに髪に触れるたび。

「仕事の邪魔だから触んなよ」

指に絡めた真っ黒なそれが、指を離れていくのを目にするたび。

「だって話しかけても相手してくんねーじゃん?」

ひどく、悲しくなる。

「だから仕事中だって言ってんだろ」

どうしてあのとき、

「仕事中だからこうしておとなしくしてるんじゃん」

どうしてあの場所で、

「……もういい。勝手にしろ」

この男と俺は、

「おう、勝手にする~」

 1つに、なれなかったんだろうかと。










溶け合ってしまえたらいいのに









毛足が長すぎてちゃんと座れているか不安になるような絨毯の上で、男の座る椅子に寄りかかる。

そして上から降ってくる髪を、またくるくると指に絡めた。

部屋に反響しているのは、男がペンを走らせる音と、2人分の息遣いだけ。

2人っきり。

この多くの人間に好かれてしまっている男を、確かに独占しているといえる状況なのに、心は、それに

満足してくれない。

構ってもらえないとか、こっちを向いてほしいとか、そういう理由からではない、それ。
 
理由なんてわかっていて、だから、指に絡まった男の髪を見つめながら、脳はまた同じ過去の再生を始

める。

『シンタロー、俺の中に来い!』

あのときはただ、使命に急かされていただけだった。赤の番人としての役目を果たすため、ただそれだ

けのためにあの男と1つになろうとした。

1つの器の中で2つの魂を重ねあって、混ぜあって、肉体を通しての感覚、剥き出しの魂を通しての記

憶、知識の共有を進めて、果たさねばならないことのために、1つに、と。溶け合ってしまえ、と。

結局それは後でわかった赤と青の反発とか、あのとき自己の放棄を拒んだお前の精神とか、そういうの

に邪魔されて叶わなかったんだけど。

でも、あのときはそれでよかった。混じりあえなかったことを、よかったと思えた。

だってそのおかげで俺はサービスと、ついでに高松ともまた共に過ごす時間を得られた。

失った分の時間を埋め合わせるように、そばに寄り添うことが許された。

そして、面と向かって向き合うことで、シンタローに惹かれることだってできてしまった。

嬉しくて、幸せで、喜んだ。満たされていて、悲しいことなんて何もなかった。

でも今はそのことに、混じりあえなかったことに物足りなさを感じている。

シンタローのことを好きになれたのは嬉しい。それが2つに別れていたが故にできたことだというのも

確かにわかっている。

けれど、好きになれば好きになるほど寂しい。いつか、こうして寄り添い合うこともできなくなったら

と考えてしまって。

これまで生きてきた長い長い人生。その中でも別れはたくさんあった。

親しくしていた者たちは、皆自分より早く死んでいった。

青の一族が島を出ると、唯一同等の時間を生きていた、アスまでもが遠ざかった。

別れは死別であれ離別であれ関係なく、必然として目の前に存在していて、避けることなどできなかっ

た。

だから、怖い。

また、今度はシンタローを失ってしまうのではないかと思えて仕方ない。

元々俺の身体だったシンタローの今の肉体は不老ではあっても不死ではない。

秘石がそばにあればいくら傷つこうが修復してもらえるが、聖地に旅立ってしまった秘石は遠く、復活

も必ずではありえない。

それに別れは死別だけではない。

シンタローが俺を嫌いになる、俺の存在を厭うようになる。その可能性がないと、誰が保証できる?

指に絡んでいた髪がするすると解けていく。まるでそれが未来の暗示であるかのように。

悔しくてさっきより強くその髪を引けば、背後から「痛ぇっ!」という声と苦情が届く。

「あ、悪ぃ悪ぃ」

何を考えていたかなんか読ませないように明るく返事をすれば、「今度は気をつけろよ」と振り返った

シンタローが言った。

やめろ、と言われないのが嬉しくてにこにこと笑っていれば、「アホ面」と罵られる。

でもそれで構わない。相手がシンタローであれば別にいい。

「ちなみにお前も笑えばこの顔だぞ?」

今度はにやりと口端を歪めて見せれば、「知ってるからやめろって言ってんだよ」と上から頭を小突か

れた。少し痛い。

仕事に戻るシンタローを見届けてから、やんわりと掴んだ髪を指に巻きつけてキスをしてみる。

顔が見えないのが惜しい。見えたら絶対にあの顔は真っ赤に染まるから。

『1つになってしまったら、もう2度とシンタローと直接触れ合うことはできないんだぞ?』
 
たった1人、俺の願望を知る男の声が耳に甦ってくる。

1つの身体に2つの魂が共存するという経験を、24年もの間強要されていた男の言葉が。

『俺がシンタローの中に閉じ込められていた状況と、お前とシンタローが1つになる状況とではタイプ

が異なるのだろうが、結論は一緒だ。

1つである限り、触れ合うことは決してできない』

また1つになりたいと、シンタローの中に戻りたいと思うことはないのかと、尋ねたときに返された言

葉だ。

1人の人間として生きる中で受け入れていかねばならないしがらみとか、不意に訪れる苦境とかにぶつ

かったとき、

男は確かにシンタローの中に帰りたいと思うと言い、その後に付け足された言葉。

『あの場所は俺にとって母の胎内のような所だった。自由はないが安全で、確かに守られていると感じ

られる場所だ。

戻りたいと思わないと言えば嘘になる』

だが、と男は言った。

それでも戻りたくはないのだ、と返した。

『あそこにいる限り俺はシンタローに触れることはできない。何もしてやれないし声すらも届かない。

そんな状況はごめんだ。それを幸せだとは、俺には思えない』

男の意見に対する反論などは特になかった。

正論と呼べるものだと確かに感じたし、納得もした。

そのうえで、それでもなお、俺は望んだのだ。

『それでも俺は、シンタローと1つになりたいな』

離別からの永遠の解放。

それが得られるのなら、触れ合えないことなど耐えられる。思いが届かなくても構わない。

そう言ったら、あの男は苦笑した。苦く苦く、だがそれ以上何も言う気はないという顔で。

『そうか』

と一言だけ返事をくれた。

『そうだよ』

とにっこり笑って見せたら、男の顔の苦味が増して、


『可哀想だな』


と呟かれた。

多分相手が他の人間なら、そんな愚かな願望に固執することを馬鹿にされたんだと捉えたと思う。

でも、相手は他の誰でもないあの男で、だから本当の意味を確かに理解して、返した。


『そうだろうな』


好きな相手と1つになるなんてことは、本来なら絶対に叶わない願い。

だから人間は手を繋いだりキスをしたり、もっとそれ以上のことをして相手に近づこうとする。

たいていはそれ以上が不可能だと知っているから、そこでちゃんと満たされて終わるんだけど、俺は違

う。

1つになれることを知ってしまって、しかもそれに失敗してしまった。

だからこんなにも求めてしまう。また1つになりたいと望んでしまう。

不可能ではなく可能だと、知ってしまっているが故に貪欲になってしまう。

可哀想。確かにそうなんだ。

「なあなあ、シンタロー」

くいくいと、痛くはない程度で髪を引く。

「あんだよ」

仕事中だと言いながらもちゃんとシンタローは振り返ってくれるから、笑う。

「好きだぜ。お前のこと」

突拍子もなくありのままの言葉を告げる。

シンタローはやっぱり驚いたけど、次の瞬間にはすぐ背中を向けてしまった。

「勝手に言ってろ」

声はひどく素っ気ない。でも戻り際に見えた頬は赤かった。

髪が、またサラサラと降り注いできた。

『知ってる』

そう言っているみたいに、俺の肩に滑り落ちる。


今の関係に、不満があるわけではない。

この状況で、幸せになれないわけじゃない。


ただ、足りないから。

満たされきることができないから、だから、また髪に触れる。

髪に触れて、馬鹿みたいな願いを胸に抱えて、期待してる。


ああ、このまま1つに溶け合ってしまえたらいいのに。










































『空知らぬ雨』の管理人、椿さんから相互記念で頂きましたー!

うわわわわ、有難う御座いますホントに!ジャンとシンタローなんてドマイナーなもの頼んだのにこの様な素晴らしい作品を・・・!

ジャンが哀れで寂しくてすごく愛しいです。

『大切』を喪う痛みを知っているから、どんな別れも訪れさせないようにと一つになりたいジャン。

外的に触れ合う事が出来なくても、離れるよりはずっと良い。

そんな風に思うジャンが切なくて、でも何処か必死な子供のようで。

満たされなくとも、せめて互いが一番近くに居れる事を願います。


ジャンとキンタローって、ある意味で対極ですね。

一つになって絶対な安心感を得たいジャンと、別たれる事によってそれを失った代わりに、触れる事が出来る両腕を得たキンタロー。

キンタローは最初に一つだったから別で在る事の幸福を知っている。

もしも後にジャンがシンタローと一つになれたとしても、いつか充足感が枯れてしまうのではないかと思います。

一つであるから別れは来ないけれど、二つであるから感情は喚起されるのですから。




何やら訳分からない事ぬかしてすいません。(汗)

椿さん、どうも有難う御座いました!





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砂が舞い上がる。






その様はまるで。

















曖昧な世界の中心で曖昧な僕が叫ぶこと

























「シンタローはん?」



擦れて、聞き慣れた自分の声とは思えない音が溢れた。

返事は無い。


背中合わせで座り込んでいる為表情は分からないが、伝わる肩の上下で安堵し、そのまま続ける。



「シンタローはんからも、砂が踊るのが見えてます?ずーっとずぅっと向こうまで」



背中に少し重みが増した。


話を聴く体勢をとったのか、唐突な話題への抗議なのか。



普段なら考えずとも解るソレが今は全然で、少し己に失望する。



「砂達が舞うこの光景は、まるで世界にノイズが走っている様やんなあ。

霞んで、途切れて、曖昧で。

世界が壊れ始めている様に見えますえ?」



そう言って嘲った声さえ霞んでいて、余計に、可笑しかった。

          
返事は、矢張り無いまま。



「今なら、総て壊して奪って喪失しても。誰にも知られないで済みまんなぁ。

何をしたって咎めるお人なんて居らんですわ」


「居らんから、シンタローはん」









「『還って』も、良いんどすえ?」









あの、多分世界で最後の鮮やかな場所。



そして世界の終わるその瞬間まで暖かな。






「わては何処へでも付き従いますから。今なら、あんさんの『生きたい』場所へ」







自分は貴方が好きだけれど、総帥を担っている貴方はとても綺麗だけれど。



あそこでの貴方は眩しくとも柔らかな、原初の人間そのままのそれだったから。





こんな自分がそう想えるのも、きっとあの島のお陰。















ぐっ 














「い・・・・っ!?」



急に胸と膝が接近して、酷使した体が軋んだ。



「バァーッカ」



やっと声が聞けたのに。


その声が響かせたのは、そんな言葉。



「シ、シンタローはん?」

「俺はまだ、逢いに行けねぇよ」

「・・・・・シンタローはん」

「まだ俺は、アイツに自分を誇れねぇ。こんな、全部が中途半端じゃな」






                         ・・・ああ。






如何してこんなにまで、この人は自分に厳しい。


人に厳しい以上に、ずっと、ずっと、酷なのだ。


そんな揺るぎ無く紡ぐそれは、絶対に覆る事は無い。彼が口に出した以上、絶対。


だから行かないだろう、今はまだ。


何かやむを得ない事情が出来るまで、彼が行くのにどれだけの時間が必要で。



どれだけの傷を負うだろう。


          





でも。







今ある生が終わったら、必ず彼の魂あの島へ還るのだろう。















せめてその瞬間まで傍に居られる事を、信じてもいないけれど神に祈り続けよう。






















































なんだかよく分からない話。
多分戦闘中の小休憩中か何かだと。(曖昧だな)
コタローの事がなかったら、シンタローさんはパプワ島に帰って来なかったのかも、と思いました。


けれど回帰する処は。



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ずっと訊いてみたかった事がある。



























「なあ、シンタロー」



同じ顔をした彼と向き合うと、鏡を見ているような錯覚に陥る事が多々ある。

初めて会った時から、ずっと、ずっと。

正しくはもう少し前からだけど。



「ンだ、ジャン?アンタにしては珍しくしょぼくれてんな」



だけど違う。



「・・・・また、サービス伯父さんの事思い出してたのか?」



俺はこんな、自分も辛い時に他人を労る笑顔を浮かべる事なんて出来ない。



「違う」

「なら如何したんだ?」



俺はこんな優しい目をする事なんて出来ない。



「訊、きたい事があるんだ」
 
「ん?言ってみろよ」



俺にはこんな泣きたくなるくらいの慈しみなんてない。



「お前、・・・俺の事、恨んでるか?」



髪の長さ以外は、同じ筈なのに。

こんなに違う。



きっと本当は、俺なんかよりシンタローの中にいた金色の彼奴の方がずっと同じで近い。



近くに居るのに遠い、シンタロー。


 
「・・・どれの事だ?腹刺されたのか?それとも最近また妙な薬飲まされたのか?」

「違う。その・・・・」

「なら俺がお前の体に入ってから、歳取らなくなった事か」

「・・・・・・ああ」



出した声は擦れて、思ったよりも小さく響いた。


誰が虚像で、誰が実像なんだろう。

俺達のどちらが。

影だった彼は此処に居て。

本体だった青の番人は居ない。



影でなくなった彼は何になったんだろうか。



「皆、死んだ。殺しても死ななそうなアイツ等も死んだ。

もうあの頃の面影は何処にもない。寂しいし、正直辛くないって事はない」



「だけどな。それはお前の所為じゃねぇ」



肩を強い力で掴まれ、地面を見ていた視線を上げる。

強い光が其所には在った。



「アイツ等は普通の人間だ。命は限られてる」

「ああ・・・」



青でも赤でもない暖かい色。

サービスも、その兄弟も、皆が好きだった色だ。



「それにな、別にその事に関しちゃ恨んでなんかいねーよ」






意識がほんの一瞬途絶えた。






そうであれば良い、とは思っていたけどそれは愚者の望みだから。




「シ、ンタロー?なんで・・・」

「なんだ恨んでほしいのか?」

「違う!そうじゃなくて・・・・・!」



同じだったら、言葉なんて要らなくて、全てが伝わったんだろうか。



「あの時確かに俺とお前は一緒だったんだ」


「パプワを護りたくて、島を護りたくて、同じだったんだよ。

なあジャン、俺がお前を恨まなきゃならねえ理由が一体何処にある?」

「・・・・・・・・っ」



     お前、俺と同じでいいのか?

言いたかった。


     幸せになれないぞ。

言い切れない。





だって今、俺は



「泣くなよ・・・ジャン・・・・」



泣くほど嬉しくて幸せなんだ。


























『でもな、ジャン・・・。俺は多分、そんなに永くは生きられない。

無いって解ってたって、どうしても面影を探しちまうんだ。


そんな俺は何時か必ず潰れる』








あの後、夜と朝の狭間で彼奴はそう言った。

          
今。


此処にはいない。






世界の何処にもいない。



















鏡は破れた。













































ジャンシン・・・・?
ジャン+シン?
どっちにしろジャン→シンです。

C5前の話だったり・・・。
マトモに読んだ事無いですけどね!ははっ!



高松は何処行った。





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「シンタローはん」







愛しい人を呼ぶ(自分の名を呼ぶその声が)









「あんだよ」










応えてくれる(気に入っている、と思う)















Nth Degree Of Hapiness















「シンタローはん」



「シンタローはん」



「シンタローはん」



「シンタローは・・・」




「だから何だよ」




先ほどから繰り返し繰り返し彼      アラシヤマの唇に乗せられている己が授かった己の名。

彼に名を呼ばれるのは嫌いではない。

本人には決して言わないが、むしろ好きの範囲に入るのだろう。

しかし物事には限度がある。

最初の内はしっかりと返事をしていた。



が。



「何でもおまへんよ」



帰って来るのはこれのみ。

いい加減に腹が立ってきた。


ガンマ団総帥に着任してからというもの、以前とは比べ物にならない程に丈夫になった堪忍袋がそろそ

ろ限界を見始めている。



「喧嘩売ってんなら買うぞコラ」

「いやどすなあ、わてがシンタローはんに勝てるわけありまへんよ」



当たり前だ、と思う。

こんなほにゃりと笑う男に負けてたまるものか。



「・・・・だったら何なんだよ、さっきから」

「幸せどすなあ」

「オイ」



脈絡がないだろう。



「たとえシンタローはんが、仕事が忙しゅうて全然会えへん恋人と折角一緒に居るのに

構ってくれなくても」

「・・・悪かったな」



けれど自分から行動に移した事など皆無に等しい。

いつも彼から行動するか、または促してくれるのだから。

今回もそれを待っていた。


今更自分からなんて、恥ずかしい事この上ない。



「だったらこれから構っておくれやすv

名前を呼んで反応があるだけで幸せ、やなあと」

「安い幸せだな」



半分以上本気でそう言う。

そんなのは共に居れば何時だって出来る。

当たり前の幸せ。



「そうどすなあ、せやけど安い幸せが大切だとわては思うんどす」



ふ、と目を細めて言葉を続けた。






















「大きな幸せの前ではこんな些細な幸せは感じなくなってまう。

より大きな方に溺れてくんどすな」



まるで風の流れのようだ、と言ったのは誰だったか。
 
自分に他者を屠って生きる術を教えた師匠だっただろうか。

今となってはそれも遠すぎて分からない。



「それの何がいけないんだよ。人間がより良いモノを求めるのは当然だろ。

幸せでも、なんでも。

向上心を失ったらそれまでだ」



こんな風に当たり前だと、それが普通だと言える愛しい彼は、なんと暖かな処で生きてきたのか。


彼の父が何の汚いモノも見せないで育ててきたからか。

何の仇為すモノからも護って遠退けてきたからか。



「何もいけない事はありまへんよ。

ただ、無くした時の事を考えると堪らなくなるんどす。

大きなものに慣れてしもうたら小さなものは見え難うなるものでっしゃろ?

わてはそれが寂しゅうて仕方ないんどす」



きっと他の幸せなど見つけられないから。

見つけたくもないから。



「・・・・マジで何なんだよ、お前」



黙って俯いていた彼がポツリと呟いた。

自惚れではなく、自分でなければ聞き逃してしまいそうな。



「シンタローはん?」



少し戸惑いながら声を掛ける。此処でも名を呼ぶ。

途端、長い髪を瞬かせて顔を上げ、口を大きく開いた。


その大きさの口をそんなに大きく開けたりしたら、裂けてしまうんではないだろうか。



「この俺が一緒に居てやってんのに、ドコが小さいんだよこのボケッ!アホ!ふざけんな!」



興奮からか、込み上げてくるその感情からか。

彼の一族から見れば異端の黒眼が潤んで常より更に輝いていた。



「ああ・・・シンタローはん、泣かないでおくれやす。

誰もあんさんとおる事が小さいだなんて言っておりまへんがな。寧ろわいには大きすぎるわ。

頼んますから泣き止んでおくれやす。

あんさんが泣きよりますとわてまで悲しゅうなってきまんねん」

「泣いてねえ!それにお前の場合は自業自得だ!お前の所為なんだからな!!」



ぽたり、ぽたりと頬を伝って前総帥と同じ紅のブレザーに落ちる液体。

部屋の明かりに反射しては、きらきらきらきら。



「・・・・わての・・・・・・所為でっか?」

「他に誰が居んだよ!?」

「嬉しゅうおすなあ・・・」

「は・・・・!?」



精密な創りの顔が盛大に顰められ、此方を凝視する彼。

綺麗な顔をしているのに勿体無い、と思うものの、自分の発言を考えると仕方の無い事かもしれないと

も思う。

呆けだの阿呆だのと怒鳴られて嬉しいなどとのたまったのだから。



「好きな人が自分のした事で感情を返してくれはったら、嬉しゅうて、嬉しゅうて。

この気持ちを覚えておけば、シンタローはんに棄てられてもちょっとの間は生きていけます」



こうゆう事を自分の中に留めておきたい。

棄てられて、また独りになっても今度は生きていく自信はない。

師に教え込まれた術では、自分はもう生きてはいけない。

彼、という自分には過ぎた大きな幸せを覚えてしまったのだから。


だから自分は少しずつ昇華するのだ。


寒さに凍えて死にそうになったら思い出して。




総て昇華してしまったその時は、自分が死ぬ時。






















「・・・棄てられたら死んじまうくらいの事、言えないのかよ」



腹の底が熱い。

胸の奥が、熱い。



目の前のにこやかに穏やかに笑っている男に体中が怒りを覚えている。



「そうなったら冗談抜きで死にとうなるんやろうけど、そしたらあんさんが気にしますえ?

死ぬ時は少し時期をずらそう思いましてなあ。

せやから大きなものだけやのうて小さなものも全部シンタローはんの事は覚えておきまんのや。

そうしたらシンタローはんを想いながら死ねるさかい。

そのくらいは、堪忍しれおくれやす?」



この男はどうして。



「アラシヤマ・・・・」



にこり。


子供のような無邪気な笑顔。

自分の前以外で彼のこんな表情は見た事がない。



「ほら、また一つ。

わて、シンタローはんの名前呼ぶのも、シンタローはんに名前呼ばれんのも好きなんどす。

棄てられてもうたらこんな事もでけへんさかい」



この男は本当にどうして。

自分が何時か彼の隣以外を望むと見当違いな未来を見ているのか。



「アラシヤマ」



今度は 自分から名を呼ぶ。



「はい」



嬉しそうに更に笑みを深くするその顔。

口には出さないが、こんなにも想っているのに伝わらないのがどうにも口惜しい。



「アラシヤマアラシヤマアラシヤマアラシヤマ!!」

「はい」

「自惚れんなよ、てめえ!」

「はい?」



ずっと微笑みに彩られた目と表情が変わったのを見た時のそれは歓喜。

彼のはにかんだ様な優しい表情は好きだが、あんな何もかもを悟って諦めたような笑みは要らない。


この自分が傍に居たいと思ってやっているのに何を諦める事があるのか。



「お前がその辺でのたれ死んで俺が気にするわきゃねーだろうが!」

「そうどすか?そないハッキリ言われますと傷つきますわあ」

「だから・・・だから、そんないつ来るか、来ないかもしれない可能性の未来の事なんか考えてんなよ。

つーかそんな暇あったら俺に棄てられないように努力してろよ。

そしたら棄てないでやらない事もねえ」



嘘だ。


何処かで自分が言う。

そんな事は言われないでも知っている。

自分が彼を離すわけがない。




そして死なせる事も。























「シンタローはん・・・・」



この人は。



「お前は先の事なんて気にしてねえで俺の有り難みを感じ入ってりゃいーんだよ」




そうして己だけを想え。




そう言っている。



「はあー・・・」



感嘆の息が漏れる。

この人はどうしてこんなにも自分を幸せにしてくれるのだろう。

繰り返し繰り返し。


あまりにも幸せをくれるものだから、己の中の容量をいつか超えてしまうのではないだろうか。

折角溜めた幸せが溢れ出て。

いつか自分はもっと、もっとと求めてしまうようになるかもしれない。



「あんだよ文句あんのかよ」

「いやあ、シンタローはんは亭主関白やなあと」

「お前がヘタレてっからだ」

「そうどすかぁ?せやったらこれから遠慮無く強気でいかせてもらいますえー」



だって解放を促したのは貴方。

我慢をするな。自分を求めろ。

そう言って扉をこじ開けた。

貴方の為に我侭は何時も自分の中に仕舞い込んでいたのに。



『貴方が欲しいんです。何時何時までも一緒にいたいんです』という想いと共に。



「あ゛?」

「可愛え可愛え恋人に、『自分だけを見てろ』言われて攻めなかったら男が廃るゆうもんでんなあ」

「言ってねえよンな事!!」

「よう覚悟しておいておくれやす」

「き・・・・っ聴けよ人の話!!!」

「あんまり叫びなはるとその口塞がせてもらいますえ?」

「・・・・・・・!(開き直ったヘタレはタチ悪ぃんだよチクショウ!」








終わりの時まで傍に立っていられるよう、精々悪足掻きさせていただくとしますえ。



往生してくれなはれ、シンタローはん?













































初☆カップリング駄文です。
アラシヤマ×シンタローでお送りさせていただきましたv
ナニが書きたかったんでしょうね、私・・・・・・・・・・・・・・・。(遠目)
あ、公式の身長差なんて私の頭の中には存在してませんからv(死)
あと肌の色も。(笑)
シンタローはアラシヤマより背ぇ低いんですよ。
元は色白なんですよ。


笑って許して流してクダサイ・・・・。(汗)
そして正しい京都弁を教えてください。







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tgs

















 久しぶりに、その夢を見た。
 それは、青い悪夢。
 

 子供の頃は頻繁にみた。
 『青』が自分を追いかけてくる夢。
 どんなに一生懸命走っても、それはぴたりと後をついてくる。
 足がもつれて何度も転びそうになっては、すんでのところでなんとか態勢を戻す。そして、遅れた分を取り戻そうと、よけい必死に走ることになるのだ。
 それは永遠に終わらない無限地獄のようで、いっそ倒れてしまえればきっと楽になれると分かっているのに、そうできない。
 苦しさを終わらせたいという欲求より先に、あれに追いつかれたらという恐怖が自分を駆り立てる。
 怖くて、辛くて、自分の悲鳴で何度目が覚めたことだろう。
 息もうまくできなくなっている自分を、そのたび毎に温かい手が抱きしめてくれた。
「大丈夫ですよ、グンマさま。ほら、高松がきましたよ。」
 背中をさすられて、やっと呼吸ができるようになった自分に、保護者はハチミツをたらした温かいミルクを飲ませてくれ、再び寝付けるまで側についていてくれた。
 しかし、彼は一度も自分に悪夢の内容を聞くことが無かった。
 予想がついていたというより、それを理解することができない自分の限界を知っていたということだろう。
 自分も彼に訴えることはしなかった。
 うまく説明できなかったし、言葉に出すとそれが夢の中から這い出してきそうだったからだ。


 そんなある日、高松が出張で出かけ、グンマは伯父の元に預けられることになった。
 高松がいないのは心細かったが、お泊まりは子供にとって年に数回あるかないかのスペシャルイベントで昼間はもちろん、夜も居間やお風呂で、さんざんはしゃぎ回って早々にベッドに入れられた。
 楽しかった今日のことを思い出したり、明日の予定を考えてわくわくしている内にいつしか眠りに落ちたのだった。



――――そして、『青』が来た。


「アアア―――ッ!」


 いつものように悲鳴で目を覚ましたが、ここには高松がいない。慰めてくれる優しい腕も、ホットミルクも現れない。
 毛布を頭から引きかぶったものの、もう目をつむることなどできなかった。
 うっかりでも閉じてしまったら、今度こそアレにつかまる。
 いや、もうすでにアレは自分の夢の中から出てきて、今、この部屋のどこかのすみっこから自分を見張っているのかもしれない。
 グンマは跳ね起きて、枕をお守り代わりにひっつかむとその部屋を飛び出した。
 暗い廊下を無我夢中で走って、少し離れた部屋に飛び込むと、シンタローが眠たい目をこすりながら、ベッドから起きあがった。
「どーしたの? グンちゃん」
「しんちゃ………。」
 呼ぶ声も言葉にならず、ひっくひっくと泣き出すグンマに、シンタローが、もしかして、と意地悪い顔をした。
「おねしょしたんだ?」
「ちがっも……うっうえぇ……。」
 泣きじゃくっていると、シンタローが降りてきて自分のところに駆け寄ってきた。
「あー、もう、泣かないでよ。はい、ハナかんで。」
 彼が抱えたティッシュ箱を差し出す。
 鼻をかんだ後も、何枚もティッシュを取り出してシンタローはグンマの顔をふいてくれた。
 それは高松のような手稲なやりかたじゃなくて、肌が真っ赤になったけど、優しいのはあの手と同じでグンマはなんとか落ち着いて説明した。
「あのね……コワイ夢をみたの……。」
「コワイ? ……おばけ?」
 そう口にして、びくびくと周りを見回す。シンタローはお化け屋敷や映画に弱い。
 グンマはかぶりを振った。
「おばけじゃないの……。」
「じゃあ何?」
 グンマは一生懸命シンタローに伝えた。
 今まで高松にすら話せなかった夢の内容を。
「あのね、こわいのがね、おっかけてくるの。つかまったら食べられちゃうからいっしょうけんめい、ボク、逃げてるんだけど、ずっと追っかけてくるの。」
 それだけじゃない。
 本当に怖いのは追いかけられることじゃない。
「……いつか、ボクつかまっちゃう。きっと。」
 グンマはぎゅっと目を瞑った。
 どれだけ必死に走っても、あれから逃げることはできないのだ。
 だって、あれは……あれがいるのは『自分の中』――――。

「……おばけじゃないんだよね?」
 グンマがこっくり頷くと、シンタローはほっとしたように笑った。
「じゃあ、大丈夫。いっしょに寝よ。ボクが見張っててあげる。それが出てきたらやっつけてやるね。」
「ホント?」
「うんっ。」
 元気の良い返事と一緒に差し出された手を握ると、温かかった。
 毛布に潜り込むと、さっきまでシンタローが寝ていたそのぬくもりが残っていて、それだけで安心できる。
 一晩中見張っていると言ったくせにシンタローはものの五分で寝入ってしまったが、グンマはもう怖くなかった。
 すりよれば体温を感じ、規則正しい彼の呼吸が聞こえるのだから。
「しんちゃん。」
 こっそり名前を呼ぶと、握っていた手にぎゅっと握り返される。
 ―――その夜はもう怖い夢はみなかった。

 その後も、まったく見なかったわけではないけれど回数は明らかに減ったし、前ほどは怖くなくなった。
 青に追いかけられている最中も、昔は逃げることしか頭に無かったが今は『シンタローさえ見つければ大丈夫』と思えば、なんとか、がんばれたからだ。

 
 魔法使いみたいだよね、と言えば、『俺は格闘家だ』と的はずれな答えが返ってきそうだけど、本当にそう思う。


 あの、心音と体温を思い出せば、悪夢なんて怖くなくなった。


 トクン……トクン……。


 突然、その音を耳にし、グンマは目を覚ました。
 そして目に飛び込んだのは鍛えられた厚い胸板。
「……シンちゃん?」
 なんで、真っ裸なんだ。
「ああ、履いてる履いてる。」
 思わずベッドに潜り込んで確認してしまうグンマ博士だった。
 そういえば、シンちゃん下着一枚で寝てたって言ってたなぁ。
 とりあえず、私邸に戻った……あの『お父様』と一つ屋根の下に戻った今はやめておけと忠告しておいたのだが、南国で培った癖はなかなか抜けないらしい。
 でも、なんでこんなとこで寝てるんだろう。
 酔っぱらって部屋を間違えたってことはない。
 総帥の座についてからここ数ヶ月、休みらしい休みもとらずに働いているシンタローが、酔うほどに酒を飲む時間があったとは思えないからだ。
 まあ、いいかとグンマが再び目をつむろうとしたその時、控えめなノックの音がした。
 そっとドアが開いてそこから顔をのぞかせたのはもう一人の従兄弟だった。
「夜分に悪い。シンタローがここにいるかと思ってな。」
 見ると、キンタローはパジャマ姿だ。
 それはいいけど、なんで毛布を握ってるんだろうとグンマが疑問に思っていると、彼は部屋の中に入ってきてシンタローの隣に潜り込んだ。
「ええっ! ちょっとちょっと! キンちゃんまでここで寝るつもり?」
 本人に確かめないでお泊まり会の会場にしないでよ、というグンマの抗議に、キンタローは素直にごめんと謝った。
「シンタローが部屋にいればグンマにまで迷惑をかけなかったのに。」
 その姿が珍しくしょんぼりとしている様子だったので、グンマは言い過ぎたかなと反省してしまったが、よく考えると何かおかしい。
「………なんか、いつもシンちゃんと寝てるみたいな発言なんですけど?」
「いつもじゃない……嫌な夢を見た時だけだ。」
 嫌な夢、グンマははっとして身を起こして従兄弟見下ろした。
 自分と同じ青い目が天井を見ている。
 
 ―――――ああ……そうだよね―――――。

「シンタローが近くにいると、怖くなくなるんだ。」
 キンタローの言葉にグンマは少し笑って頷いてみせた。
「そっか、良かった。きっと大丈夫だよ。」
 いつか、見ないですむようになるよ、とは保証できない。
 けれど、彼がいれば大丈夫だよ、とそういう意味の相づちだと彼はいつか分かってくれるだろう。
 けれど。
「なんで、シンちゃんはここで寝てるんだろ………。」
「グンマの方が俺よりはまだ小さいからだろ。」
 グンマの独り言に、キンタローが分かり切ったことでもあるかのように答えた。
「なにそれ。」
「体温だってたぶん俺より高い。」
「だから、何それ?」
 二度目の問いに返事は無かった。
 かわりに、すーすーと安らかな寝息が聞こえてきた。
「ちょっ!」
 シンタローの眉がぴくっと動いたのを見て、グンマは口を閉じた。
 へたに起こしたら殴られるかもしれないし。
 シンタローは眠ったまま手をぱたぱた動かし、シーツについたグンマの手を探り当てぎゅっと握った。
 そして、唇の動きを見たグンマはキンタローの言った意味がやっと分かったのだった。

 前にあの島に乗り込んだとき、子供に添い寝しているシンタローを見た。
 いつもああだったんだもんなぁ。
 急に一人でクィーンサイズのベッドは広すぎるのかもね。

 でも、僕はあんなに小さくはないんだけど、と苦笑したが手をほどきはしない。
 小さい頃、夢から守ってくれた魔法の手。
 いや、今も、従兄弟二人を守ってくれているこの手の温度。

 あのときの僕や今のキンちゃんと同じように、この手と鼓動と体温は君に安らぎを与えられているのかな。



 そうだったらいいんだけど。



 ―――どうか、三人ともいい夢を見られますように――――。













end
04/03/25
 
改稿
200/03/19

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