忍者ブログ
* admin *
[137]  [138]  [139]  [140]  [141]  [142]  [143]  [144]  [145]  [146]  [147
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

m,

ぬくぬく




「だ~~~~ッッ、もう、寒みぃ~~~~~~~ッッ!!!」

 吹きすさぶ、寒風の中。
 ようやく我が家に辿りつき―――といっても、風に吹かれて歩いたのは、車から玄関までの数メートルの道程だが―――勢い良く、ノブを回したシンタローは。

 鍵が掛かっている事に、気づいた。

 ………よく見ると。
 『屋敷』と呼べるほどの家の窓には、何処にも明かりが灯っていない。

 そう言えば、今朝。
 『今日の夜から、サイン会で移動なんだ!! ごめんねシンちゃん、擦れ違いになっちゃうよ~~~~~ッッ!!!』と。

 帰還中の飛空挺に。それはそれは下らない内容の、通信が入ってきて。
 
 「………切れ」
 青筋を立てて、そう命じた気がする。

 ついでに言うなら、(激しく余計な)気を回して『パパに会えなくて、とっても残念ばいvv』とかいう返信を返そうとした(とっても不幸な)どん太に、踵落としを喰らわせた気もする。
 
 家中の明かりが、消えている所を見ると。
 グンマとキンタローも、研究室に泊まり込みなのか。

「………ただいま」

 解っていても、シンタローは。

 小さい頃から、躾られた習慣のまま。
 家に入るときには、そう言わずにはいられない。

 もちろん、無人の家から、返事の返ってくることは無く―――返ってくる方が、この場合、却ってコワイのだけれど―――彼を迎えたのは。

 ………しん、と。冷たい、沈黙。

 誰もいない家、というのは。
 随分、久しぶりであることを、思い出した。

 コタローと引き離され、しばしの間、家には帰らなかった。
 それ以来かも、しれない。

 パプワ島にいる間は、ずっとパプワとチャッピーと一緒で。
 帰ってからは、父親と二人のイトコ(+時に、マッドなサイエンティスト)と同居する、賑やかな生活だった。

 
 …………こんな寒い日に、一人っきりになるのは。


 気づいてしまえば。
 見慣れた玄関も、そこから続く廊下も、ヤケにだだっ広く見える。

「―――アホらし。寝よ」

 ぼりぼり、頭を掻きつつ。
 わざと乱暴に………大きな独り言を、呟いて。

 玄関の鍵を掛けると、シンタローは大股に。
 冷え切った家の中、自室へと進む。

 それにしても、ヤケに寒い。

 ―――隠居以来、今まで。
 キンタローやグンマが、いない日はあっても。
 必ず、暑苦しい程賑やかな、父親が迎えてくれた。

 確か、―40度だか、―50度だかの寒気団が、5000メートル上空にいるらしい。
 今日は、この冬一番の、冷え込みだそうで………こんな日に限って。

 いるだけで、体感温度が数度上昇するかに思える、父親がいないというのも。
 皮肉な、ものだ。

「まー、寒気団。5000メートル上で、良かったよナ」
 
 ―――あはは。一メートル上とかだったら、今頃パパもシンちゃんも、氷漬けだって。

 おどけた、呟きにも。そんな風に応えてくれる者は、いない。
 
 普段。戦場で、ロクに水浴びも出来ない日も、あるからこそ。
 基本的には、入浴しないで寝るコトには、抵抗はあるのだけれど。

 多分、マイナスの数値を表示するであろう。
 室温計つきの、エアコンや。

 温まるのを待たないといけない、最初のシャワーや。

 いつもなら、何でもない。諸々の、そういった一連の儀式が。
 今は考えるだけでも、面倒で。
 
 ………飛空挺ン中で、シャワーは浴びたし、メシも喰ったし。
 まぁ、いいか―――と。

 自室に戻った、シンタローは。
 ぽんぽん、服を脱いで。

 冷え切ったベッドに………否。

 冷え切っているはずの。
 これから、自分の体温だけで温めねばならない、ベッドに。

 滑り込んだ、ハズだったのに。

「………へ?」

 中は、ぬくぬくと暖かく。

 特有の、ひやりとした感覚を覚悟していた、シンタローは。
 間の抜けた声を、上げてしまう。

 同時に、足先に当る………その温もりの、発生源。

 よいしょ、と。
 腕を潜り込ませ、それを引っ張り出すと。

 枕ほどのサイズの、金髪のヌイグルミが、笑っていた。

「…………また、あのアホ親父。ヨケーなモンを」

 ニコニコ笑顔の。
 ホンモノより、一層間の抜けた表情の、ソレは。
 
 持ち上げると、見ためよりもずっしり重く。
 ヌイグルミの布地を通して。
 冷えた指先に、じわじわと伝わってくる、心地よい熱。

 これはいわゆる、湯たんぽというヤツだ。
 しかもご丁寧に、カバーにマジックの姿を象った。

 ――――そう言えば、小さい頃は。冬になると毎晩、作ってくれたっけ。
 さすがに、同じモノでは無いようで。
 父親の姿の湯たんぽカバーは、ごく真新しいようであるが。

「………ったく、ガキじゃねぇんだゾ。誰が、こんなもん………」

 ぶつぶつと、呟いてみたものの。
 形が、非っ常っにっ!! 気に食わない、とは言え。
 何年ぶりかに襲われた、この大寒波の夜に。

 確かに、この温もりは。
 非常に魅惑的な、誘惑で。

 ―――ま。親父が帰ってくるのは、明日だろーし。
 キンタローもグンマも、今日は帰って来ねぇみてーだし。

 明日の朝にでも、ゴミ箱に突っ込んでやりゃ、いいかーと。

 遠征疲れの溜まっていた、シンタローは………コテン、と。
 湯たんぽを抱えたまま、横になり。

 柔らかに伝わってくる、その暖かさに―――あっという間に。
 電気を消すことさえ、忘れ。

 幸福な、眠りの世界へと、旅立って。

 …………そして。

 懐かしい、夢を見た。




******************




「し、シンちゃんッッッ!!! どうして、どうしてもう、パパと寝ないなんて言うんだい!!??」

 おろおろと。
 まるで、この世の終わりのような顔をして………問い詰める、父親に。

 プイッと、視線を逸らしたままで。
 父の目から見れば、まだまだ幼い息子は、口を開く。

「だって、ヘンなんだもん!! ぼ………オレのクラスにだって、今時父親と一緒に寝てるヤツなんか、いないし!!」

「―――変っ!!??」

 ぐわぁぁぁああん!!! と、その父親は。
 50tハンマーでぶん殴られても、ココまで派手なリアクションはすまい、という状態で。

 小学校の息子の。
 至ってまともな主張に、打ちのめされ………ずぶずぶ地面へとめり込んで行く。

「あぁ、ソレは。シンタローの言っているコトが、正しいネ」

「オマエは黙ってろ、サービス!! こんな寒い夜に、一人で寝るなんて!! シンタローが風邪でもひいたら、どうするつもりだいっ!!??」

 ―――だが、復活は早かった(笑)

 ぎぅぅぅっっ、と。
 カワイイカワイイ、可愛くて仕方ない、一人息子を抱きしめ、主張するが。

 対する息子は、少々困った顔ではあるけれど………包まれた腕の中で、きっぱりと却下した。

「ダメ!! もう、ぼ………オレ、一人で眠れるもん。パパのいない時だって、ちゃんと一人で寝てるモン!!」

「………シンちゃん」

 シンタローの言葉に、マジックは。
 返す言葉を、失う。

 確かに、愛息子とは。普段、あまり一緒にはいられない分。

 その分、共に過ごせる時間には。
 一分、一秒でも長く、と。

 溢れまくって崩壊寸前な、愛情の総てを、注いできたのだけれど。

 シンタロー自身が、成長をしようとしているのに。
 父親たる自分が、それを妨げてしまうコトは………果たして、彼の為になるのか?

 珍しくも、マジックは。
 自らの煮えたぎる、欲望(笑)と。
 シンタローへの深い愛情との狭間に、葛藤を抱いて。

 ―――そこで。兄と甥の、やりとりに。
 薄笑いを浮かべ、成り行きを見守っていた、サービスが。   

「じゃあ、シンタロー? 今夜は、叔父さんと寝るかい?」と、楽しげに口を挟む。

「………え? 叔父さん、一緒に寝てくれるの!?」 

 父親とは違った意味で、大好きな―――その感情がどう違うのか、当時の幼いシンタローには、知る術は、まだ無かったのだけれど―――叔父の、魅惑的な提案に。
 
 パッと、顔を輝かせ、彼の元に駆け寄ろうとしたのだが。

「ダメ――――――ッッ!!! シンちゃん、サービスと寝るなんて、絶対ダメ――――――ッッッ!!!!」
 
 単なる『父性愛』とは、ちょっと呼び辛い、嫉妬心を剥き出しに。
 マジックは慌てて、サービスに駆け寄ろうとした、シンタローを抱きとめる。

「おぅ、じゃあ。オレが抱いて寝てやろーか?」

 ………と、見計らっていたとしか思えない、タイミングで。
 更に状況をややこしくする人物が、顔を出した。

「ハーレム、久しぶりだね」

「オマエ、また、何の用だっ!?」

 誰にとっても、常に頭痛のタネでしかない。
 突然の、三男坊の来訪に。

 サービスは、うっとおしそうに、左右に首を振り。 
 マジックは柳眉を逆立て『金なら貸さんぞ!!』と、叫んだが。

 ”ヒトのハナシを聞きゃしねぇ”青の一族の、(ロクでもない)血を。
 しっかり受け継いでいる、ハーレムは。

 ニガテな叔父の登場に、無意識に父親に体を摺り寄せた(ココでマジックは、鼻血を吹いた)シンタローに。

 ニヤリ、と、邪悪な微笑を向け。

「イロイロ、教えてやるぜぇ?」

「………? イロイロ?」

 良く解らない、彼のコトバに。
 きょとん、と。

 シンタローは、細い首を傾けて、パチパチ瞬きを繰り返す。

「なァ、アニキ。シンタローに、男のイロイロ、教えてやっからよォ♪ 授業料………」

「こォの、愚弟がァ~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」

 マジックは。
 頭から湯気を吹き上げつつ、爆発した。

 
 


 ――――結局。
 眼魔砲飛び交う、兄弟喧嘩の後。

 それでも、ガンとして。
 「もう、一人で寝られるの!!」と主張を曲げない、シンタローに。

 泣く泣くマジックが、手渡したモノは。
 速攻で作ったらしい、自分の姿を模ったカバーの湯たんぽで。

「コレが、パパの代わりに。シンちゃんを、温めてくれるからねっっ!!」

 滂沱の涙を、落としつつ。
 まるで、今生の別れのように、そう言った。


 ―――その、夜。
 ぽかぽかと、温かい。
 父親を模った人形を、抱きしめたまま。

 ベッドに潜り込んだ、シンタローは。

 一人。
 小さな声で、呟いた。

 

 ………だって、パパといっしょだと。
 何だかドキドキして、よく眠れないんだもん。



「おやすみなさい、パパ」

 ―――ごめんネ、と。

 人形に、ちゅっと口づけて。
 でも、ちょっとだけ寂しいかなぁ、と。
 
 ぽかぽかの、湯たんぽを抱きしめ、眠りにつき。
 


 ――――翌日。
 シンタローが生まれて以来、初めての独り寝となった、マジックは。

 数年ぶりに、風邪をひいた。




******************




『………ッッ、シンちゃんってば、可愛い~~~~っっvvv』

『シッ、グンマ。声が高い』

 真夜中に、ボソボソ響く、男二人の不穏な会話。

 その正体は、もちろん。
 シンタローの従兄弟の、キンタローとグンマである。 

 どんなに研究が、イッパイイッパイであっても。
 シンタローが帰還した、と知っていて。この二人が、家に戻らないハズはない。

 殆ど『明け方』と呼ばれるような、時間帯ではあったが。
 何とか新型エンジンの、試作段階にまで漕ぎ着けて。

 ぐったり疲れ果て、辿りついた家には―――こんな時間だというのに。
 シンタローの部屋にだけ、明かりが灯っていた。

 不思議に思い、二人でそっと、様子を見に行くと。

 余程に疲れていたのか、電気も消し忘れ。
 すかすか眠る、シンタローの姿があって。

 そうして―――微かな笑みを浮かべ、彼が頬を寄せている。
 その腕に抱かれている、妙に愛らしい、マジック人形。(実際は湯たんぽなのだが、この時点で彼らに知る由は無い)

 抱いている、ソレに。
 ソレゾレ胸中では、違った感想があるのだが。

 滅多に見られるものでは無い、鼻血モノに愛らしい光景であることだけは、間違いなく。
 
 咎める口調では、あるが。
 キンタローの声も、上擦ろうというもの。

『ハイ、チーズvv ぴろり~ん♪』
 
 ―――と。
 フラッシュと共に、グンマの携帯が光る。

『オイ、グンマ………』

 焦った視線を向ける、キンタローに。
 実に上機嫌な笑顔で、グンマは応じ。

『うふふ、おとーさまに見せてあげるの♪ 喜ぶよぉ?』

 だが。キンタローの視線は、そんな意味ではない。
 
 無邪気にヌイグルミを抱いて寝ている、この青年は。

 コレでも、現役バリバリに。
 ガンマ団を束ねている、総帥なのだ。

 こんな派手な音を立てられて、それでも寝こけているならば。
 とっくに戦場で、寝首をかかれている。 

「~~~~~~ん、何だァ………?」

 案の定、光と音の刺激に。 
 シンタローは、うっすらと目を開き。
 安眠を妨害する輩を、確かめようとし。

 焦りまくった表情の、親愛なるイトコ達と、視線が合った。

「ちがっ、コレはッッ!!!!」
「ちがっ、コレはねッッ!!??」

 がばり、と身を起こし。
 抱いていた人形を、床に放り投げる、シンタローと。
 
 慌てて携帯を、背後に隠すグンマ。

 ………そうして。
 ガンマ団現総帥たる、シンタローの状況判断能力は。

「オイ、グンマ。今、何隠した?」

 寝起きと、言えど。
 たった今行われた、従兄弟の不穏な行動を、正確に予想した。

「な、何でもないよぉー、シンちゃんvv」

 切れ長の瞳をすがめた、厳しい視線を。
 ギロリ、と向けられたグンマは。
 コソコソと、キンタローの背後に隠れ―――その行動こそ。

 『やましいコト、してましたvv』という立派な証明であるコトに、気づいていない。

 ―――ちっ、みっともねートコ見られちまったッ!! と。
 心持ち頬を染めた、シンタローは。

「オイ、グンマ。ソレ、こっち寄越せ」

「ヤだよー、シンちゃん、絶対壊すでしょ、僕のケータイッッ!!」

 キンタローの後に隠れたまま、出した顔を左右に振る。

「オイ、キンタロー。そいつ、コッチに渡せっ!」

「………まぁ、いいじゃないか。オマエが可愛かったのは、本当のコトだし」
 ―――グンマでなくとも、あの映像を永久に残しておきたいと思うぞ?

「そうそう、そうだよねっ♪ 流石キンちゃん、イイコト言う~vvv」

 キンタローの、まったくなっていない(燃え盛る炎に、ガソリンをぶちまけるより、悪い)フォローと。
 そんな彼に、尊敬の眼差しを向け。パチパチ手なんか叩いている、グンマに。

 ついには、ぶちぃっ!! と、堪忍袋の緒を引きちぎった、シンタローは。 

「てめーらっ、二人とも泣かすゾッッ!!??」
 ―――いいからっ、コッチに寄越せっつってんだッッ!!!

 羞恥の余り、耳まで真っ赤に染め。
 がぁぁ~~~~~ッッ、と牙をむいて、イトコ達に、掴みかかり。

「………ぅおっ!? 落ち着け、シンタロー!!」

「わぁっ、キンちゃんッッ!?」

 勢いで、キンタローがグンマにぶつかって。
 その衝撃で、とっさに携帯をかばおうと持ち上げた、グンマの手から。

 すぽ――――んッッ!! と、すっぽ抜けた携帯は。
 そのまま宙を舞い、ドアの方へ飛んでいく。

 ――――ガチャリ!!

「たーだーいーまッッ♪ やっぱりー、シンちゃんに会いたくなって、帰ってきちゃった~~~~って、うわっ!?」

 扉を開けた瞬間、飛んできた携帯を。
 さすがの動体視力と、反射神経で受け止めた、マジック前総帥は。

「もー、何だい? モノを投げたりしちゃ、いけませんって、常日頃から………」

 全く事態が飲み込めないまま、ノンビリと『息子たち』に、お説教しつつ。
 受け止めた携帯を、何気なく覗き込もうとして。

「っ、お、おとーさまっっ、逃げて!!」
「叔父貴っ、危ないッッ!!」
「~~~~~~ッ!!! 見るんじゃ、ねぇ~~~~~~~~~ッッッ!!!!」

 三者三様の、悲痛な絶叫が響き。

  
 ―――粉雪、舞う。
 大寒波の夜の、明け方に。

 一人の、金髪英国紳士が………携帯を、しっかと抱きしめたまま。

 高く高く、舞い上がり。
 そのまま、明けの明星に、なられたそうな…………。





<終わっとくッス>






○●○コメント○●○  シンちゃん、眼魔砲って叔父さんと修行するまで、知らなかったよーに、思うのですが。
 アノ兄弟の喧嘩には、眼魔砲がなきゃネ★ ということで、確信犯の過去捏造でぃす。
 バレンタイン二日後に控えて、ワザワザこーいう話をUPする、カケイとゆーヤツは。

 ものの見事に、歪んでるなぁと、つくづく思います。反省。 


<2005.2.12 カケイ拝>





PR
ms

………コワイ話




 ―――カッ!!!


 閃光が、翻り。
 漆黒の夜空は。
 刹那、真昼以上に、煌いて。


 ―――ゴロロロ………ガシャ~~~~~ンッッ!!!!

「いっやぁぁぁ~~~~~ッッ!!!」

 地響きを伴う、落雷の音と共に。
 男のものにしては、キィの高すぎる、凄まじい絶叫が響き渡る。

「だ~~~~~ッッ、うっせぇよ、グンマ!! 男だろーが、テメェッッ!!」

 至近距離で泣き喚く、従兄弟の音量に、負けじと。
 シンタローはドスの効いた声で、怒鳴ってみたものの。

「こわいよぉ、こわいよぉっ、シンちゃん~~~~~~!!!」

「オメーの顔の方が、恐ぇよッッ!!!」

 涙と鼻水で、顔中をベタベタにし、殆ど白目を向きかけている相手には。
 多分、全く聞こえていないのだろうな、と思う………と。

 ―――カッ!! バリバリッッ!!! ガッ、ドォォ~~~~~ンッッ!!!

「いっやぁっ、怖いぃぃ~~~~~ッッ!!!」

 轟き以上の悲鳴を上げ、グンマは。シンタローの胸に、しっかとしがみついてきた。

「うぁ、暑苦しいッッ、離れろッ!!」

 驚いた彼は、払いのけようとしたが………火事場のクソ力とは、こういうコトを言うのだろうか。
 非力なグンマとも、思えぬ力で。
 セミのように、ピッタリと張り付いて、どうしても離れない。

 しかも。そのシャツを掴む細腕は、もちろんの事。
 鍛え上げた自分より、ずっと華奢なその全身は―――ガタガタと、ひっきりなしに震えていて。

 ………はぁ、と。
 シンタローの唇から、諦めに似た吐息が洩れる。

 事実を述べると『ウソだろう!?』と。
 大概の人間に、聞き返されてしまうのだけれど。
 その容姿も、性格も。殆ど、対極の位置にありながら。
 シンタローとグンマは、従兄弟同士にあたる。

 更には、両名共。
 世界最強の、暗殺者集団を育て上げているガンマ団の、士官学校生であり。
 ついでに言うなら、年齢も同じ16歳だ。

 フツー、この年頃の少年なら。
 例え、本当は怖かったとしても………雷なんて何でも無い、と。
 精一杯の虚勢を、張るものだけれど。

「あああ、もう、しょーがねーなぁ………拭けよ、カオ」

 未だ自分に、ぎうぅぅっと、しがみつき。
 ガタガタと震えている、グンマの顎を片手で掴むと。

 シンタローはその、涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃの顔を。
 手近なタオルを引き寄せ、乱暴に拭ってやる。

「ぅぅぅ………シンちゃーん、雷、何で平気なのぉ………??」

 大人しく顔を拭かれつつ。
 ぐずぐずとしゃくり上げ、そう問い掛けてくるグンマに。

「こんなもん、何が怖いンだヨ。ただの、自然現象じゃねーか」

「でもっ、当たったら、死んじゃうんだヨ!?」

「ンなもん、宝くじ以下の確立でしか、当たねーっつーの」

 テキトーに、いい加減な慰めを言う、シンタローだったが。
 ソコはさすがに、科学者のタマゴ。
 べそをかきつつもグンマは、キッと顔を上げ。

「以下じゃないもんっ、年末ジャンボ1等の確立と、雷に打たれる可能性は、ほぼ同…………」

 言いかけた、その台詞を遮り。
 この嵐が始まって以来、最大の閃光、轟音。

 ~~~~~カッ、ガァ――――ン、ドオォゥ―――――ン!!!!

 光と音は、ほぼ同時。

「ぎゃあああああ~~~~~~~~~~~~~ッッ!!!!」

 呼応するように、グンマも最大級の悲鳴を放ち。
 鼓膜を振動させる、凄まじいボリュームに。
 シンタローは、思わず仰け反りつつも。
 
 地面と空気の、振動加減から言っても。
 ごく近くに、落ちたようだ………無意識の内に、判断した瞬間。

 ………フッ、と。
 突如、家中の。灯りという灯りが、総て消え失せた。

「………お、停電。やっぱ、落ち………」

「やだやだやだ、やだぁぁ~~~~~~ッッ!!!」

 本来なら、夏の日照時間は、うんと長い。
 夕立の始まった時刻には、急速に湧いた雨雲を透かし。
 僅かながらも、届いていた陽光も………三十分近い、嵐の間に。
 すっかり、分厚い雲に覆われて。

 まだ、七時前だというのに。
 世界は夜へと、様変わりしていた。

「オイ、グンマ、いい加減にしろヨ! 大丈夫だって、オメーには宝くじも当たらねー代わりに、雷だって当りゃしねーからッッ!!」

「ぶわ~んっ、何かソレも納得いかな………ひっ、また光ったぁ~~~~~~~~ッッ!!!!」

 シンタローの首筋に腕を回し、ぶら下がるような格好で。
 更なるナキゴトを、喚きたてていた、グンマだったが。

 カッと、辺りが青白く。
 真昼のごとくに、照らされたのを見て。
 その肩口に、顔を埋めた。
 
「いいから、ちょっとその手、離せ。何か灯りになるモン、探してきてやっからヨ」

「イイっ、暗くてもいいからっ、シンちゃん、離れないでよぉっ!!!」

 困りきっている様子の、シンタローを。
 一層の力を込め、抱きしめて。
 彼の引き締まった体躯を、全身で感じながら。

 ふと。

 今の今まで。
 雷への恐怖に、すっかり麻痺していた思考が、動き出す。
 
 ”二人っきりの、暗闇”
 ”腕の中にある(状態としてはどうかと思うが)、大好きな相手”
 
 ………コレは。
 コレは、もしかして、ひょっとしなくとも。

 ものすごーい、チャンスなのでは、無いだろうか………???

 思いついた瞬間、グンマは。
 それまでの、雷への恐怖を彼方へと、ぶっ飛ばし。
 ごくん、と、大きく息を飲んだ。

「し………シンちゃん、あのねっ!!」

「あー、解った解った。じゃ、一緒に行こうぜ」

「違うって!! あの………あのねっっ!!!」

 雷への恐怖心を上回る、衝動に支配され。
 グンマは、首筋に回した腕から伝わる、高めの体温に。

 何度も、浅い呼吸を繰り返す。

 ―――どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 ずっと秘密にしてきた、想いだ。

 自分は、彼よりずっと弱くて。
 情けなくて、みっともなくて。

 でも、それでも………側にいたくて。
 できれば”一番”になりたいのだ。

 ―――ずっとずっと、自慢だった。
 綺麗で可愛い、イトコの彼の”一番”に。 

「シ、シンちゃんッッ、ぼ、僕ねッッ!!」

「うわっ、グンマ、何!?」

 見た目に自分より、華奢と言えど。
 それでもやはり、相手は。16歳の、育ち盛りの男子である。

 不意打ちでいきなり、全身の体重を預けられれば。
 いかにシンタローとて、バランスを保つのは難しく。

 圧し掛かられたグンマの重みで、仰向けに倒れ込んでしまう。

「だからねっ、その………僕、僕………」

「オイ、重いってッ!! コラ、グンマ!!!」

 押さえつけるような重みに、閉口しつつも、シンタローは。
 
 友人宅の犬が、雷に脅える余り、いつも。
 飼い主の頭の上まで、よじ登ろうとする、という。
 タイヘンに、微笑ましい話を思い出し、苦笑する。

 もちろん。グンマの、劇的な真情の変化など。
 微塵も気づいては、いない。

 その事実に、気づく様子も無く、グンマは。
 仰向けに倒れた、シンタローの体を押さえ込んだまま。

「シンちゃんっ、僕は、シンちゃんが………シンちゃんの、ことがねッッ!!」

 ばくばく、ばくばく―――ともすれば。
 泣き出してしまいそうな、緊張感を持て余し。

 抵抗が無い事に、誤解故の光明を、見出して。

「………オイ、グンマ?」

「ずっと、ずっと――――!!」

 決定的な告白を、突きつけようとした、瞬間だった。 

「………シンちゃんグンちゃん? 何やってるの」

 二人は不意に、小さなライトに照らし出される。
 ソレと同時に、掛けられたのは。とても、聞き覚えのある声。

 ―――今は、今だけは。
 何としても聞きたく無かった、慣れ親しんだ、伯父の声――――。

 息を飲み、固まった、グンマの下から。
 シンタローは、するりと抜け出し。

「何って。雷にわんわん泣き喚いた挙句。暗闇が怖いって、泣き縋ってンだよ、いつものごとく」

 ―――ちっ、みっともないトコ、見られちまったぜ、と。
 そう言わんばかりの口調で、父親に説明する姿に、グンマは。

 ………勇気を振り絞り、想いの丈をぶつけようとした、最愛のイトコが。
 全くもって、何一つ気づいていないコトに。

 ―――心底、がっかりした。

 伯父の手に握られている、家庭用懐中電灯の。
 僅かな明かりの中でも、きっと、はっきりと解るほど。
 自分の頬は、真っ赤になっているだろう、と思うのに。

「ふ――――――ん??」

 それとは、対照的に。
 シンタローの説明に、意味深な相槌を返す、伯父には。
 多分………気のせいではなく。
 十中八九、見透かされている気がして。

「あ、ええとねっ、伯父様………これは、あのねっ!!」

 どうしてだろう。
 マジックが、シンタローを溺愛しているコトは、知っている。
 だが彼らは、飽くまで”親子”であり。

 告白が未遂に終った今、別に慌てるコトも無いだろう、と思うのに。
 ジッと自分を見つめてくる、一族の証の青い瞳に。
 
 何やら、居たたまれない気分となった、グンマは。
 起き上がると、伯父の下へと歩み寄り。

 上擦りながら、言い訳をしようとするが。

 ――――ピカッ!!! ガン、グワァラガラガラ、ドォォォ――――――ンッッッ!!!!

「ひっ、いやぁぁぁ~~~~~ッッ!!!」

 再び、間近で響いた。強烈な光と、轟音に。
 我を忘れ、力一杯。
 目の前の人物―――つまり、伯父であるマジック―――へと、しがみ付いていた。

「おやおや。グンちゃんは、幾つになっても甘えッ子だねぇ………」

 ………ぽんぽん、と。
 シンタローより、幾分華奢な手応えの、その背中を。
 優しい手付きで、叩いてやって。

 マジックは、くすくす笑い始めた。

 それが何となく、シンタローには、面白く無い。
 ”何となくとは何だ”と、聞かれても。

 ………何となくは、何となくだ。
 説明など、しようがない。

 ―――と、その時。

 グワッシャーンッ、ガンっ、ゴンッッ!!!! と。

 折り良く(?)も、玄関を蹴破る音が響いてきて。

「くぉら、グンマ。お前が抱きつく相手は、アッチだろ」

 シンタローは、そう言うと。
 両手でグンマの、金色の頭を挟んで。

 ぐるりと………凄まじい勢いで駆け込んできた、白衣の男の方へと向けた。

「グンマ様ッ!! 大丈夫ですかッ!?」

「高松ぅぅぅッッ!!!」

 自らの保護者の姿を、確認した瞬間。
 グンマはパっと、マジックから離れ。

 雫の滴る、ビショビショに濡れた相手に、しがみ付く。

「大丈夫ですっ、グンマ様!! この高松、グンマ様の為に、この周囲半径1キロ以内の総てに、強力避雷針”雷吸い取る君一号”を立てて参りましたからっ!! 何があろうと、ココにだけは雷は落ちませんともっ!!」

「ぶわあぁぁ~~~~んッッ、高松ぅ、怖かったよぉぉ!!!」

 感激の再会劇を繰り広げ始めた、二人を尻目に。
 シンタローには、ドクターが。
 門からココまで来ただけにしちゃ、濡れすぎの理由が解って。

 同時に。
 ―――強力避雷針ってどんなだ、ソレはエライ近所迷惑なんじゃねーのか?? とか。
 ―――ってーか、さっきからこの周囲にばっか、ガンガン雷が落ちまくってる原因って。ひょっとしなくても………などと。

 なにやら、頭痛が痛くなってきて。

「………ふー、疲れた疲れた。さー、メシ食って寝ようぜー」
 ―――あ、ドクター。その辺ちゃんと、拭いといてくれヨ?

「そうだな、こんな状況じゃ、簡単なモノしか作れないが。グンちゃんも、高松と泊まっていきなさい」
 ―――あ、高松は。玄関の修理代、きっちり給料から、引いておくからネ★

 似てないようで、やはり、似たもの親子の二人から。
 キッチリ、釘を差されたが。

 白衣のお医者さんは、気にする風も無く。
 水だけでなく、何やらイロイロ吹き零しつつ。
 至福の表情で、しっかとグンマを抱きしめたまま―――頷いて。

 ………マジックと、共に。
 夕食準備の為に、台所へと向かうシンタローの。
 凛とした、後姿に。
 
「シンちゃんって、ホント、怖いモノ無しだよねぇ………」

 ぐすんっ、と鼻をすすりあげつつ。
 グンマは、哀しいため息をつく。

 結局、千載一遇のチャンスに。
 想いを伝えるどころか、脅えて逃げ惑っていただけで。
 情けないにも、程がある―――軽い自己嫌悪に、陥っていると。

 高松の、グンマを抱く腕に、力が篭もり。

「………まぁ。そういうことに、しておいてあげましょう?」

 そんな囁きが―――外の豪雨に負けない勢いの―――鼻血と共に、降ってきた為。

「ねぇ、高松ぅ………そろそろ、その鼻血止めないと、死んじゃうよォ………?」

 グンマは、雷の為だけでもない、恐怖に。
 すっかり青ざめ、身を震わせたのだった。
 



******************




 ロウソクは、僅かな空気の流れにも、ゆらゆら揺れる。
 何とも頼りない、その明かりだけを光源に。
 簡単な食事と、後片付け、風呂を済ませ。

 シンタローは。
 『怖いから、一緒に寝てvv』と、駄々を捏ねるグンマを振り切り。
 『怖いから、一緒に寝てvv』と悪乗りする父親に、蹴りを食らわせ。
 一人早々と、自室に篭もっていた。

 キャンプでも無いのに、男だらけ―――しかも、内二人は。うっとおしいぐらい過保護なオッサン共―――で、一晩雑魚寝など。

 まっぴら、ごめん、というのが。
 ただいま思春期真っ盛りの、シンタローの弁である。
 
 とは言え、電気が無い、というのは。
 思った以上に、不便を強いられた。

 テレビも見れなきゃ、マンガも読めない。
 間の悪いことに、ウォークマンさえ、バッテリー切れで。

 普段より、随分早い就寝時間だが。
 仕方なく、ベッドに転がり込み、横になる。

 目を閉じると、風の音が、殊更に耳を突いた。 
 
 雷こそ、鳴りを潜めたもの。
 外では未だ、嵐は荒れ狂い。

 ―――何か、オンナの悲鳴みてぇ。

 思いついた瞬間、ソレは。
 彼の思考にこびり付き、離れなくなる。

 嵐の夜だ。
 エアコンが無くとも、そう、暑くは無い。
 なのに、酷く寝苦しい………。

 幾度も寝返りを、繰り返し。
 耳障りなその音を、意識の内から追い出そう、と。

 幾度目かの、寝返りの内に―――闇に慣れた目が。
 闇夜に、ぼうっと光る、ドアノブを捉えた。

 ―――先刻、少し迷った挙句。
 ソコに鍵は、かけなかった。

 ………だって『何か』があった時。逃げられないのは、困るから。
 『何か』と言うのは………つまり『アレ』で。

 昼間の訓練で、疲れた体は。
 確実に、眠気を訴えているのに。

 意識だけが、妙に冴えて。
 悲鳴のような風の音が、音程を変える度。
 ビクリと背筋が、勝手に強張る。
 
 ―――情けない。
 情けない、とは思うけど。

 人間、生理的嫌悪に起因する、苦手なモノなど。
 幾ら年齢を重ねても、そうそう変わらないモノなのだ。

 ………雷に脅える、従兄弟に。
 アレだけエラそうに振舞えた、シンタローだったが。
 
 彼自身はと言えば―――小さい頃から、現在に至るまで。
 口に出すどころか、想像するのもイヤなぐらい。
 『オバケ』の類を、苦手としていた。

 もっと正確には。
 『怪談』の類が、大嫌いなのである。

 もちろん『男』として。
 人前でソレと悟られるような行動は、断じて行っていないのだが。
 
 きつく瞼を閉じて、寝返りを打つ………と。

「シンちゃーん、入るよー」

 ノックと同時に、返事も待たずに、開かれた扉。
 鍵を掛けなかったコトを、一瞬、後悔したが。

 今更は、もう遅い。

 遠慮なく部屋に踏み込んでくる、相手の気配に。
 シンタローはそのまま、身を固くして。

 眠っているフリに、専念する。
 
「シンタロー? 寝てるのかい」

 耳に染み入る、優しい声音。
 イヤと言うほど、聞きなれた声。

 だが、シンタローは。
 表情を殺し、スヤスヤと―――作った寝息を、繰り返す。

 心臓だけが、ドキドキと。
 意に反し、痛いほど………強く早く、リズムを刻んでいた。

 風の音は、もう聞えない。

 視界以外の総ての意識は、相手の動向に向けられていて。

 気遣うように、潜められた足音と。
 ごく僅かな、衣擦れの音―――それから。

 閉ざされた、瞼を透かし。
 ぽっと、柔らかな明かりが灯った。

 こんな夜を、知っている。
 そう思うと、同時に………シンタローは。

 ぎゅっと胸の奥が、締め付けられるような。
 切なさを、思い出す。

 いたいけな、幼年期の彼に。
 後々まで引きずるトラウマを、植え付けてくれたのは。

 誰あろう、この。どーしようも無い、ダメ親父である。
 
 世界征服、などという。
 どうかしている、としか思えない誇大妄想を抱く―――しかし、着実に。世界地図は、彼の色に塗り替えられて行っているコトが、笑うに笑えない、最悪の悪夢だ―――父親は。

 世界各国を渡り歩き、イロイロな土地の、あらゆる物語に、通じていた。
 単純なおとぎ話や、ヒロイックファンタジー。
 ちょっと面白い小話から………そう。

 怪談の類に、至るまで。

 人生の殆どを、戦場で過ごした、マジックである。

 ちみっ子に語るには、生々しすぎる、死体の描写。
 リアル過ぎる演技の、怨念の絶叫、断末魔の表情。
 そして、非業の死を遂げた怨霊の。
 身の毛もよだつ、復讐劇………この場合。

 如何なるコトに、対しても。
 完璧な才能を発揮する、マジックの優秀さが。

 互いにとって、決定的な不幸であった。

 寝苦しい、真夏の夜。
 『早く寝ないと、こんなオバケがきちゃうよォ♪』から始まる、父親の怪談に。
 幼いシンタローは、最終的に。必ず白目を向いて、失神し。

 翌朝には、それは見事な世界地図を、布団に描いて。
    
 『しょうがないなぁ、シンちゃんはvvv』

 などと、ビデオを回している父親に対し。
 どれ程屈辱を感じ、恨みに思ったものか………涙ナシには、語れない。

 ―――くっそ、何もかも、コイツが悪いッッ!!!

 改めて、考えると。
 しみじみムカッ腹の立ってきた、シンタローは。
 
「………眩しい」

 今初めて、目が覚めました、という様を繕って。
 シンタローのデスクで、書類を広げ始めた、相手を睨み。

 不機嫌な、抗議の声を上げた。

「そう? ごめんね」

 シンタローの狸寝入りに、気づいていたのか、どうなのか。
 マジックは、その部分には触れず。

 ローソクの、ほのかな明かりの下で。
 持ち帰った、大量の書類に。静かに目を、通している。

「………何でワザワザ、オレの部屋でやるンだよ」

「あぁ、だって、こんな天気だろう? パパ、もう、怖くて怖くて~~~vvv」
 ―――だから、シンちゃん。今日はココで寝かせてねvv

 ………ウソをつけ、ウソをッッ!!!

 からかっているとしか思えない、相手の台詞に。
 シンタローは、聞えるように、大きな舌打ちをする。

 幽霊VS父親なら、どう考えたって、父親の勝ちだ。
 シンタローは今でも、怪談の類は、苦手だが。

 それでも、成長の過程で、一つ解ったコトがある。

 ”死んだ人間よりも、生きている人間の方が、断然強い”
 ”死んだ人間は、けして。生きている人間に、勝てはしない”

 そして、この目の前の、人物は。
 おそらくは”生きている人間”の内でも、最も強い部類に入る。

 彼の怪談に。
 幼いシンタローが、失神する程、脅えたのは。

 ―――その何割かに、含まれていた。
 確実な真実を、嗅ぎ取ってしまったからだろう。

 非業の死も、呪詛の声も。
 総ては、実際に。

 マジックが目にした………あるいは。
 彼自身が、他人に強いたコトに、他ならない。

 そう、気づいてからは――― 一層、リアルに。 
 
 恐くなった。

 ………父親の広い背に、隠された。その、向こう側で。
 黒く淀んで、渦巻いている、深淵の入り口が。

 自分の思考に、戦慄して―――思わず、身を竦めた、シンタローに。
 不思議そうに、青い瞳が向けられる。

 ほんの僅かな、空気の流れに、頼りなく揺れる。
 小さなローソクの、明かりの中でさえ。
 
 ハッキリと解る、その青は。
 
 うみの、いろ。
 そらの、いろ。

 呪われて然るべき、男には―――余りにも、不自然に。
 自然な、愛すべき色が、備わっていて。
  
 マジックは、隠しているつもりのようだが。
 自分だけが、持っていない。

 ――― 一族の、証の色。
 
「………甘え上手って、アイツみたいなヤツのこと、言うんだろうな」

 気がつくと、シンタローは。
 小さな声で、呟いていた。

 グンマは、本当に素直だ。

 無鉄砲でしかない、強がりや。
 張り通せもしない、意地などに。
 ちっぽけに、捕われたりなどしない。

 憂鬱に、吐き出した言葉だったが。
 ソレに、笑いの粒子が被さる。
  
「そうかな? シンタローも、中々の甘え上手だと思うけど」
 ―――だって。この私が、放って置けないくらいだ。

 最後の、言葉になるやならずの。
 小さな囁きを、敏感に聞き咎め。

「………はぁ!? 何言いやがるっ、クソ親父ッッ!!!」
 ―――いつオレが、構ってくれなんて言ったッッ!!??

 ガバリ、身を起こし。
 詰め寄ろうとした、その真横に。

 いつの間に、こんな所まで、と。
 彼が、ギョッとする程、至近距離に。

 マジックの。硬質に整った、端正な顔があった。

「………ッ!?」

 本気で驚いて仰け反った、その頬を。
 つん、と―――生者の体温を保つ、指先が突いて。  

「ほら、甘えんぼさんっ♪」

 そう言いながら、自分に向けられた、瞳は。

 瞳に染み入る、よく晴れた空の色。
 太陽の下さざめく、真夏の海の色。 
 
「~~~~~ッッ!!! 寝るッッ!!!!」

 自分に向ける、この瞳を。
 他の誰かにも、向ければいいのに。

 そう思う、反面。

 夕刻、グンマに抱き付かれ。
 あやしていた、あの表情を思い出し。

 胸の内は、酷く複雑で。

「アレ、ホントに寝ちゃうのかい、シンタロー?? もっとパパと、お話しようよー」

 ふざけた調子で掛けられた、父親ヅラした声に。
 無言のままで、背を向ければ。

「………じゃあ、パパも寝よーっと♪」

「って、何でヒトのベッドに、入って来ンだよッッ!?」

 微かな明かりが、吹き消され。
 シーツのめくり上げられる、感触に。

 ギョッとした、シンタローは。
 振り返ると、反射的に。力一杯、叫んでいたが。

「しーっ、しーっ、シンちゃん。夜だよー、グンちゃんと高松が、何かと思って見に来るヨ?」

 狡猾な言い回しだが………一理あり。

「………仕事しろヨ、仕事ッッ!!!」

 吐息の触れる距離にある、相手に向かって。
 潜めた声で、そう毒づけば。

「シンちゃんが眠っちゃうと、恐くてお仕事できなーいvv」

 ヘラヘラ笑いつつ、益々くっついてきて………やっ、アンタの方が、こぇぇよっ!!!

 一気に総毛立った、シンタローは。
 マジックを追い出すべく、拳を振り上げたが。

 振り上げた手は、するりと絡め取られ。
 
「もうお休み、シンタロー。お前も、疲れたろう?」

 ぽんぽん、あやすような手付きで。
 シーツの上から、軽く体を叩かれる。

「…………」

 遠くの空で、雷光が輝く。
 間をあけて、鈍く響いてくる、落雷の音。

 諦めたように、シンタローは目を瞑った。
 
 勢い良く窓を叩く、豪雨も、強風も。
 総ての嵐は、今は遠く、遠く。


 ―――幼い頃、シンタローは。

 よく、真っ赤な夢を見た。

 それはただ、赤い夢。
 上も下も無い。
 ただの真っ赤な空間に、放り出される夢。

 何だか解らない、そんな恐怖に捕われて。
 泣きながら父親に、訴えれば。

 しゃくり上げる子供の、たどたどしい説明を。
 根気強く、聞いてくれて。

『ソレはね、シンタロー。オバケの、仕業なんだヨ』

 そして、もっともらしい顔で、理由をくれた。

『………オバケって、なに?』
 
 小首を傾げたシンタローに、マジックが語ってくれた。
 ソレが、現在にまで至る、トラウマの始まりで―――。

 ―――ったく、情操教育に悪い、父親だぜっ!!
 
 思い出すと、ムカついたシンタローは。
 しつこく触れてくる、父親の手から逃れるように。

 寝返りを打ち、出来るだけベッドの端っこに、寄ってみる。
 すると、離れた分の距離を。
 ゴロンっと寝返りで、詰められて。

「暑っ苦しいンだよっ!! ああもうアンタ、床で寝ろ床でっ!!」

「まぁまぁ、そんな冷たいコト言わずにvv」

「冷たく無ぇ、暑いッッ!!!」

「そんなにヒートアップしたら、余計に暑いよー、シンちゃん♪」

 ヘラヘラ、マジックは笑う。
 自分の前ではいつも、笑っているのだ、この父親は。
 
 小さな頃は、単純に。
 そんな父親が、世界で一番強いと、思っていた。

『どんな恐いオバケだって。パパと一緒なら、近寄って来れないからね』

 そんなタワゴトを、信じて。
 彼のパジャマに縋りつき、朝までぐっすり、眠る事が出来た。



 ―――彼が。
 恐怖を連れてきてた、なんて。
 
 ずっと知らないでいられれば、良かったのに。


 
 ガタガタと、窓が揺らされる。

 カーテンの、向こう側。
 見えない手が、ひしめきあって。

 いつか彼は、連れて行かれるのかもしれない。
 犯した罪の、代償に。


 ―――そんな錯覚に、捕われる。


 ………恐いのは。


 ………コワイノハ。




******************




 一晩中続いた、嵐の翌朝。

 起き出して来た、シンタローの瞳は。
 両方とも、真っ赤に充血していて。

 元々あまり、寝起きのイイ従兄弟ではないけれど。
 あまりにも、眠たそうだ、と。

 高松が作ってくれた、朝食の。
 生クリームと果物をサンドした、大きなホットケーキを前に。
 グンマは少し、小首を傾げる。

 いつもであれば『朝っぱらからこんな甘ったるいモン、食うな――――ッッ!!』という怒声が、飛んでくるハズなのに。

 ゲンナリとした視線を、チラリと向けただけで。
 スグに顔を背け、そのままぐったり席についた。
 らしからぬ、従兄弟の様子に。

 ミルクセーキをすすりつつ、考え込んでいた、グンマだったが。
 ややして、ポン、と手を打った。

「あ、そっか。なぁーんだぁ。やっぱりシンちゃんも、昨日の嵐、怖かったんだねー」

 うんうん、一人納得するグンマに。
 不名誉な事実を、押し付けられそうになった、シンタローは。

「ちげーよっ、オレはなッッ!! 一晩中………」

 言いかけて。ハッとしたように、口を噤む。

「一晩中? なぁに??」

 真っ直ぐな瞳で、問い掛けられ。
 シンタローは、そのまま固まってしまい。

「え、あ~~~~………いや、その…………ッッ」

 だらだら、脂汗を流しつつ。
 宙空に視線を彷徨わせ、言い淀んでいると。

「一晩中、パパが腕枕してあげてたんだヨvv」

 ひょいっ、と。
 大盛によそおった、ご飯茶碗を、シンタローの前に置き。
 愛用のピンクのエプロンも眩しい、マジックが。
 ニッコリvv と、微笑んだ。

「………てめぇっ、死ね~~~~~~~~ッッ!!!」

「わ、シンタロー!? 食卓で暴れるのは、止めなさいって!!」

「うっさいっ、ぶっ殺す~~~~~~~~~~ッッ!!!」

 首筋まで、真っ赤に染めて。
 コレまでの戦績、全戦全敗にも拘わらず。

 シンタローは今朝も、父親に挑みかかって行き。

「ホント、飽きませんねぇ、どっちも」

 自らの朝食を、席に運びつつ。呆れかえって、呟く高松に。
 
「そうだねぇ。仲いいよねぇ、伯父様とシンちゃんvv」

 クスクス笑った、グンマの、空色の瞳は。
 瞬きする一瞬、垣間見えた。

 シンタローの首筋に残された、紅い痕を、捉えていた。

 その、手の内で。
 冷たい、ミルクセーキのコップが揺れる。
 カタカタと。卵色の液体が、波紋を描く。







 ―――ねぇ、貴方の。


 恐いモノは………何ですか?





<終>






○●○コメント○●○  BDに引き続き、書いたヒト以外に意味の解らない(以下同文。コレも名物になってきました)

 何でまた、寮じゃないのかというと。
 この上に伊達衆も絡んだら、収拾つかなくな………げふん、げふんっ!!

 えっと、二人とも夏休みで、お家に帰ってますvvv(←アンタな(-_-;))

 どーも、カケイのSS。睡眠&酒絡みのワンパですネ。
 書いてるヒトの、生活が知れる………。(酒と睡眠、大好きvvv)
 一晩中ナニがあったのかは、ご想像にお任せしまァす♪

 あぁ、何とか夏話UP出来て良かった(そういう結論?? 


<2005.8.23 カケイ拝>





smi








「ミヤギ…」

「何だべ?」

「お前の髪ってさぁ…キレイだよナ」



今日。久々にあの島でのメンバーが揃ったという事で、最上階にある総帥 ──── シンタローの私室で呑む事になった。
夜中になり、数時間も酒をかっ食らって、シンタローと自分以外、3人ともダウンしてしまった。
そこらに寝転がり、イビキをかいている。
そのままチビチビと大した会話もなく呑んでいると、唐突にシンタローがそんなコトを言った。



「はァ?ボケただか、シンタロー」


…思わずこう言ってしまっても自分に罪は無いだろう。



「ンだよ…失礼な奴だナ。キレーなもんキレイっつって何が悪い」

「…男に言われても嬉しくない台詞だべ…」

「そりゃあそうか」


憮然とした表情で返せば、そう言ってケラケラと笑う。
……酔っているのだろうか。


「んでも…やっぱ、キレーだ」


やはり酔っている。ソファの背にズルズルともたれ、ぼんやりとやや舌っ足らずな様子で言葉を紡ぐ。
もう寝かせた方が良いだろうと、腰を上げシンタローへと近づく。
我らが総帥に風邪を引かせては色々と後がコワい。


「シンタロ」

「きんいろでさ」

「ヒカリがあたるときらきらして」

「…シンタロー?」



どうも様子がおかしい。
今まで溜まっていたモノが酔っぱらって枷が外れたのだろうか。



「何で…俺だけ黒いんだろーなァ…」

「……」

「とーさんも、こたろーも。…オジさんたちもみーんな綺麗なきんいろなのに…」





──── ああ、この男は。



いつも強い強いと思っていたこの男は、やはり誰よりもずっと強く、そして誰よりもずっと弱い。



「シンタロー。もう寝るべさ」


放っておくと、どんどん深みに入りそうだ。
早く寝かせた方がいいだろう。


「何で…ッ」


シンタローが顔を此方に向けた。


「─── ッ」

「やっぱり、」


「影だから、かな…?」



此方を向いたシンタローの顔は泣いていた。思わず慌てて、シンタローの隣に陣取っていたアラシヤマをソファから蹴落としてしまったが、
だいぶん呑んでいたし、今も目を覚ました様子はないので大丈夫だろう。
とりあえずアラシヤマがいた場所に─── シンタローの隣に腰を下ろす。
が、何をしたら良いのかわからない。
どうしようかと心の中で葛藤していると、シンタローがまた喋り始めた。


「しかも、影の、また更に影だぜ?真っ黒クロー…ってしょうがねェか」


涙をボロボロ流しながら笑いながら喋るシンタローに思わず声が出た。


「オラは、」

「あー?」


どうしよう。というか、何故こんな事になったのか ───…



「オラは、オメェの髪の綺麗だと思っとるべ」



嘘ではない。何も手入れをしていないと言うのがウソの様にシンタローの髪はキレイだと思う。



「きっと、トットリもコージもアラシヤマも、…おめェの家族だって、皆そう思っとるべ」

「…そ、か?」

「そうだべ」



ひとまず泣き笑い(結構コワイ)を止めてくれたシンタローに、自信満々に言い切る。



「それに、オラ達は影だの何だのなんて、関係ねーべ。少なくともオラ達4人はマジック様の息子だからとかでなく、おめだからこそ、付いていっとるんだべ」

「…ん」

「それとも、オラ達じゃ不満だべか?」

「…いや。……あんがとな。」



そう言って何の悪意もなく、キレーに微笑んだ。

…アラシヤマがバーニングなんたらだとか、騒ぐ気持ちが少し、分かった気がする。

綺麗に男も女もない。男でもキレイなモンは綺麗なんだからしょーがない。
男に(しかも上司)に心臓の鼓動が速くなってしまったのに少しショックを受けつつも、それもしょうがない、と思ってしまう。
別に男が好きな訳ではなく、シンタローだったからなワケで。
と、肩が急に重くなった。ちらりと見やるとシンタローが自分の肩を枕代わりに眠っていた。


「…もしかして、完全に酔っぱらってただべか…」


間近にあるシンタローの顔に、またもや速くなってきた己の心臓を自覚しつつ、シンタローの顔にかかっていた髪の毛を自由な方の手で起こさぬように掻き分ける。
その髪の毛は、やはりさわり心地も良く。



「…オラは、好きだべ」






scs







「痛」


総帥室へと戻る途中。唇に感じた微かな痛みにシンタローは顔をしかめた。
ぺろりと舌で舐めると、血の味がした。


「不味ぃ…」


鉄錆の様な味に更に顔をしかめ、そのまま廊下を突っ切って行く。
総帥室まで後10数メートルと言うところで、前方から見知った顔の大男が歩いてきているのを発見した。


「お、シンタロー」

「コージ。どうした?」

「書類を届けに行ったんじゃ。行ったらおらんかったんで引き返しよったんじゃがな」


タイミングが良かった、とコージは言い、持っていた(重要)書類をひらひらと振った。



「悪ィな。…ッて、渡せよオイ。」


コージはその書類を渡そうともせず、手を伸ばしたままのシンタローの顔をじー、と見ている。


「…なンだよ」

「お前、唇切れとるぞ」

「あ?あぁ、俺もさっき気が付いた。最近空気が乾燥してっからな~」


そう言ってペロリと唇を舐めたシンタローに、コージは懐をゴソゴソと漁り、何かを取り出した。


「ホレ。コレやるけぇ付けとけ」

「あン?…何だこりゃ」

「見て分からんのか?リップクリームじゃ」

「イヤ…そりゃ分かるけど。何で子供が喜びそーな黄色いクマの絵…しかも『ハチミツ味』なんだヨ」

「わしゃあミントやらは好かんけぇの。どうせなら美味い方が良いじゃろーが」

「美味いって…」


リップクリームに美味いも不味いも有ったモンじゃないと思ったが、ホレ、と差し出されたモノをとりあえず受け取っておく事にした。
この男はきっと受け取るまでこうしているだろうから。


「ッたく…ありがとよ」


ボソリと呟かれた礼の言葉に、コージはクツクツと喉の奥で笑い、書類を手渡すと
「ほいじゃあのォ」
と、去っていった。



「つぅか…使いかけ何じゃねェのか?コレ」


シンタローは暫く考えた後に、まぁ良いか。という結論に達し、また少し切れたらしい唇にソレを塗ったくる。




…ちょっと、染みた。








ss





「どーしたッグンマ!!」


悲鳴の聞こえて来た部屋の扉を勢いよく開け、悲鳴の主────元従兄弟、現兄弟のグンマの姿を探す。
机の向こうに、見慣れた金髪を見つけた。どうやら床に尻餅をついているらしい。



「し…シンちゃんッツ!?」

「どうしたんだ、いきなり叫んで。何かあった────…」




シンタローの台詞が途中で止まる。動きも止まる。
何やらサイズの違いすぎる服に身を包んだ子供が視界に入ったのである。

─────目が、合った。


「あわわわわわわわわッツ!!し、シンちゃんッ!何でも無いからッ!!お仕事まだ残ってるんでしょッ!?」


グンマが慌ててその子供をシンタローから見えない様にと背に隠す。
その子供はシンタローと目を合わせたまま固まっている。



「……誰の子だ?この子供…なーンか親父に似てるよーな…」


「え゛ッ!!!?」



呟かれた言葉に、グンマとその後ろに居る子供が思いきり体を震わせ青ざめる。シンタローから子供の様子は見えなかったが、気配で分かる。
しばらく考え込むような素振りを見せ、やがてポムっと手を打ち顔を上げる。
そしてこう言った。


「まさか、お前の隠し子かッツ!?」




ずごしッ


グンマと子供が一斉にコケた。


「おー!動きまでそっくりだナ。お前何時の間に子供なんて作ってたんだ?」


「違うよッツ!ボクには昔から心を決めた人が居るんだからッ!!」



物凄い剣幕で詰め寄られ、シンタローは少々仰け反りながらカクカクと頷く。


「そ…そォか。…まさか、心に決めた奴って…ドクターとかか?」

「何で高松なのさッ!!!シンちゃんのバカー!!」

「いや何で俺に八つ当たり…て、グンマの子でも無いとすると…」


未だギャーギャーと喚いているグンマを押しのけ、突っ伏したままの子供をひょいと抱き上げる。
何故か顔を赤らめる子供の顔を見つめ、渋い顔でこう宣った。



「…マジックの隠し子か。」


ぶ───ッ!!!


子供が盛大に吹き出した。


「うわ汚ッ」

「違うよシンちゃんッ!パパはシンちゃん一筋だよッツ!!」






──────────間。



その子供…が、慌てて自分の口を塞ぐ。───が、遅かった。

手が戦慄く。目が霞む。腹の底から何かが込み上げてくる。
シンタローは、ひっくり返った声で思い切り叫んだ。


「オヤジィッツ!!!?」

「やは。」


その子供───マジックは、とりあえず笑って挨拶をした。























「うわーッ!シンちゃん落ち着いてヨッ!」

「だまらっしゃいッツ!こーいう妙な事になると全ッ部俺に厄災が降りかかってくるんだッ!
とっととこの馬鹿オヤジを元に戻さねぇと…!」



頭にでっかいたんこぶ付けたグンマと、小脇に抱えられた己の父親を連れて、この父親がちみッこくなった原因───マッドサイエンティストのドクター高松の所に───医務室である。兎に角、其処へと向かう。


「うぅ…嬉しいけど、どーせならパパがシンちゃんを抱き抱えたい…」

この戯けたオヤジ───…今は子供だが、中身はそのまんまである。
『最近おとーさまが疲れてるだ』とグンマが高松に相談すると、『それじゃあ此の栄養剤を。』と渡されたらしい。それを持って自分の研究室へと戻ると丁度様子を見に来たマジックが居り、早速飲ませたらこーなったと。


─────────実験台だろ。ソレ。



話を聞いたシンタローはサクリと突っ込んだ。




「ドクターッ!!」

医務室のドアを殆ど蹴り破るような勢いで開け、其処に居る筈の人物の名を呼ぶ───が。






BACK NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved