忍者ブログ
* admin *
[135]  [136]  [137]  [138]  [139]  [140]  [141]  [142]  [143]  [144]  [145
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ss






トットリ「拍手、嬉しいだわいやーvv」
ミヤギ「以下、お礼SSだべっ」
トットリ「………コレ、お礼いうよか、呪いだわや………?」




警報発令



 空は、ピーカンと晴れている。

 だが、その日。
 ガンマ団本部に、突如として。
 不吉な警戒音が、響き渡る。




 ――――警報が、発令されたのだ。





「おぉ、警報が出たようじゃ。ほぉ………暴風、地震、大雨、洪水………今回は、派手じゃのぅ」

 警報音と同時に、窓辺に立ち。
 そこから見える、中央の電光掲示板を確認しつつ。
 妙に楽しそうに呟いている、コージに。

 遠征先から、久々に戻ったばかりの―――余りに新総帥へのストーカー行為が激しい為に、長期間遠方激戦区へ、左遷されていた―――アラシヤマは。

 実に、あっさりと。
 この、不可解な警報を受け入れている、彼の横顔と。

 自分の不在の間に、設置されたらしい。
 エラく巨大な、電光掲示板の間を。

 軽く、眉を潜めて………代わる代わる、視線を往復させた。

「敵襲やのぅて? 台風でも、来るんどす?」

「この天気じゃけん、台風はないじゃろ」

 アラシヤマの、問いかけは。
 アッサリと、粉砕されてしまい。

「ほな、何なんどす? トットリはんでも、帰ってきはりますの?」
 さらに、問い掛けてみると。

「いやぁ。帰っとるんは、シンタローじゃけん」

 ――――のーんとした、彼の答えに。

 瞬間、アラシヤマの顔は。パッと輝いた。

「シンタローはんがっ!? もぅっ、早よぉ言うとくれやすッッvv」

 そのまま彼は、イソイソと。ドアに向おうとしたのだけれど。
 背後からコージに、グイッと肩を引っ張られ。
 勢いのまま、つんのめりそうになってしまう。

「何どすッ!?」

 端麗な顔に、怒りのマークを浮かべて。
 キッと、キツイ視線で振り返る、京美人に。

「………止めといたほうがええぞぉ、アラシヤマ」
 ―――警報発令中は、部屋ん中で大人しくしとるもんじゃけんのぅ。

 相も変わらず、ノンビリした口調で。コージは、忠告したのだが。

「あんはんに、偉そうに言われる筋合い、あらしまへんっ!!」
 ―――慣れ慣れしゅう、触らんといておくれやすっ!!
 ピシリ、と。止めるその手を、払いのけ。

「シンタローはぁ~んvv 心友のわてが、今行きますえ~~~vv」とか。

 アラシヤマは、勝手な妄想を夢見がちに。
 意気揚揚と。がちゃり、ドアを開いたのだが。

 ―――瞬間。
 ぐらり、と………ガンマ団本部が、不気味に揺れた。

 殆ど同時に。
 立て続けの爆発音、破裂音―――収まることの無い、激しい大揺れ。


 ………な、何どすッッ!!??


 半分部屋から、出かけた姿勢のまま。立ち竦んでいる、彼の耳に。

「―――くらえっ、眼魔砲ッッ!!!」

 ―――ごおぉぉぉぉォォォッッ!!!!

 聞き慣れた、叫びと共に。
 馴染みの衝撃波が、廊下の端から、襲い掛かってきて。

「……………!!??」



  ―――アハハ、シンちゃんvv こっちだよ~~~♪♪


 ―――てンめぇッッ、マジックッ!!!! ぶっ殺ーすッッ!!!!



 遠くに聞こえる。
 一方は、激怒の。もう一方は、実に楽しそうな、声のやりとり。


「………マジック様が来たゆう、警報じゃけんのぅ、アレ」

「―――何で、もっと早よ、言うてくれんのどすッッッ!!??」

 焦げ焦げの、半身を。
 豪雨のごとく降り注ぐ、スプリンクラーに冷やされながら。





 ………その日。アラシヤマの、人間不信は。

 深まりゆく、秋と一緒に―――一層、根深いものとなったという。




<終>









○●○コメント○●○  やっぱり伊達衆は、言葉が難しい、としみじみ痛感いたしました。
 コージ&アラシヤマの組み合わせも、かなりスキですねvv
 両方とも、大局がちゃんと見えてるし。
 コージだけは、アラシヤマを友達だと思ってんじゃないのかナー、と思うんですけど。
 って、はっ!!
 こんな話を書いた人間の言う事じゃ、無かったです(x_x;)シュン






PR
ms






キンタロー「ありがとう。つまらないモノだが、お礼SSを、用意しているそうだ」
高松「………こんなにつまらない、SSを読むのは?」
キンタロー「………ああ、初めてだ(苦笑)」




夕涼



 日本支部では。連日三十度を越す、熱帯夜だった。
 その上。夕立が近いのか、湿度まで80%を超えている。

 さすがに、あんな暑苦しい総帥服を。
 プライベートタイムにまで、着込んではいられない。

 日本支部の屋敷の、窓という窓、扉という扉のすべてを開け放ち。
 シンタローは、一風呂浴びた、浴衣姿で寛いでいた。

「うぇぇ、あっちィ~~~~~!!!」

 今時珍しい『縁側』に座り込み、パタパタと団扇を仰ぐも。
 風呂上りの体を冷やす効果は、さほど無い。
 湿った風が、ぬるく傍らを過ぎて行くだけで―――けれど。

 あの島から帰ってから………シンタローは。
 エアコンの効いた室内より、こんな涼の取り方の方が。
 余程にいいと、思うようになった。

 それに―――夏という季節は。
 あの親友と過ごした、幸福な時を。思い出させてくれるから。

 ぱたぱたぱた、と。忙しく、団扇を動かして。
 厚く雲に覆われた、真っ黒な夜空を見上げていると。

「ハイ、シンちゃん。夜食だよーvv」
「っ、ぎゃ―――――ッッ!!!」

 ピタリ、と。
 突然、頬に冷たい何かが押し付けられ。
 シンタローは思わず、絶叫を上げる。

「マジック、てめ………あ?」

 無意識に構えかけた、眼魔砲を。途中で、解いたのは。

 振り向いた、その先に。
 涼しげなガラスの器に盛られた、真白の氷の山があったから。

「………カキ氷?」

 シンタローの疑問の視線に、応えるように。
 マジックは、器を持つ手とは反対の手で。
 テーブルに置いてある、手動式の、小さなカキ氷機を指差した。

「………うわ、なつかしー」

 思わず、声が出た。

 それは、その昔。
 母親の里帰りも兼ね、連れてこられた、この日本支部で。
 夜店のクジで、シンタローが引き当てた、四等の景品だった。

「日本の夏といえば、カキ氷だろ。蜜は、イチゴでいいかい?」

 電動のカキ氷機が、数千円で買える今では。
 子供のオモチャでしかない、チャチなソレを発掘してきて。
 お揃いの浴衣で、ニコニコ笑っている、父親に。

 シンタローは、小さく頷いて―――未だ本部で眠っている、最愛の弟を想う。

 ………早く、コタローが目を醒ませばいい。

 そうしたら。
 幾つだって、カキ氷を作ってやるのに。
 赤も青も、黄色も緑も………虹色だって。

 コタローが望むだけ、幾つも幾つも、作ってやるのに。

 チリンと、風鈴が鳴る。
 夕立の気配は、いよいよ濃くなり。
 湿気を過分に含んだ風が、少しずつ、強くなる。

 切なくなって、唇を噛み締めた、シンタローの頬に。
 もう一度、冷たい容器が押し付けられ。

「………んぎゃっ!! この野郎っ!!」

 ―――一度ばかりか、二度までもッッ!!

 シンタローは、今度こそ。

 タチの悪い父親に、眼魔砲の照準を合わせたが。

 シンタローの傍らに、赤い氷の器を置いた、マジックは。

 もう片手で下げて来た、そのカキ氷機を。
 両手で包み込み、首を傾げた。

「コレ、本宅に持って帰るかい、シンちゃん?」

「………あぁ。そうだな」

 今、撃つと―――巻き添えに、しちまうな。

 思いなおした、シンタローは。
 嘆息と共に、その構えを解いて………代わりに、器を取り上げると。
 銀のスプーンでひとさじ、口へと運ぶ。

 スッキリ冷たい、氷の塊は。
 唇から、食道をくぐり、胃に落ちて。

 やがては、きーん、と。
 細胞の隅々まで、広がっていく、涼。

 その間に、マジックは。自らのカキ氷を持参して。
 シンタローの隣に、あぐらをかく。

「夏だねぇ?」と。
 さくさく、氷の山を崩す、何気ない彼の呟きに。

「夏、だな」と。
 シンタローは。口元に僅かな微笑を刷き、そう応えた。

 ………間もなく、雨になるだろう。

 湿気た南風は、絶えること無く。




 軒下では、風鈴が。
 しずこころなく、揺れている。




<終>









○●○コメント○●○  夏も終わりに書いてしまった、夏らしいお礼です(笑)
 マジシンって何だか、夜が似合うと勝手に思ってます。 逆に、真昼の明るい話が、まったく思い当たりません……困ったなァ(^^;;;

 付き合い長すぎて、老成しちゃったんですか、ワタシ(^^;;;





m





マジック「拍手、本当にありがとうvv すっごく嬉しいヨvvv」
シンタロー「以下、お礼SSだとよ。くっだらねぇケド、良かったら読んでやってくれよナ」




『あの頃』





 「~~~~~~~~ッッッ!!! うっぎゃぁぁぁぁ~~~~!!!!」

 どちらかというと。
 断ッ然ッ!! 寝起きが悪い、と言い切れるオレが。
 その日の朝、目覚めと共に、ハイテンションな絶叫を放ったのは―――もちろん、理由があった。

「………あ? おはよう、シンちゃん」

 目をこすりつつ。むっくりと、隣で身を起こす人物に指を突きつけ。
 シンタローは、あらん限りの大声で、相手を問い詰める。

「何でテメェ、隣で寝てやがるんだョ!!??」

「………ぁあ。そうそう、シンちゃんを起こそうとしたんだけど。あんまり気持ち良さそうに寝てるから、つられて………」

 ふぁーあ、と。
 欠伸をしつつ、ノンビリと答えたのは、オレの父親………ガンマ団総帥マジックだったが。

 その寝ぼけ眼の台詞に、不吉な予感がしたオレは。
 慌てて、枕もとに置いてあった目覚し時計を取り上げる。

 アナログ時計の、目覚ましは。
 長針は天辺。短針はその左側、綺麗な45度の角度を示しており。

「………九時ッッ!!?? 完璧、遅刻じゃねーかョッッ!!!!」

 シンタローの口から。本日二回目の、絶叫が上がる。

 顔を洗うヒマさえない。
 慌ててパジャマを脱ぎ捨て、制服に着替えると。
 床に転がるバッグを引っつかみ、転がるような勢いで階段を駆け下りる。

「あっ、待ちなさい、シンタロー!! 朝ご飯ぐらい、食べて行きなさい!!!」

「んな時間、ねぇッッ!!!」

 ガンマ団士官学校への道を、疾走しつつ。
 一体。今日、何だってこんなアクシデントに見舞われたのか、考えてみた。

 昨夜、眠りに着く前。
 間違いなくオレは、目覚ましのセットをした。
 それも、朝に弱い自覚があるから。
 増音スヌーズ機能のついた、強力なヤツを使っている。

 にもかかわらず、気付かなかったのは…………。

 多分、昨日の深夜―――というより、今朝方、遠征から帰ってきたのであろう。
 半年振りに見た、父親の先刻の台詞を思い出す。

 『シンちゃんを起こそうとしたんだけど………』

 ―――あんのぉ、アーパー親父ぃっッッ!!!

 間違いなく、マジックが。
 勝手に侵入した挙句、勝手に目覚ましを消し。
 挙句、呑気に一緒にスヤスヤ寝ていたに違いない。

 どうせ、遅刻は確定だ。
 だったら、一発殴ってやらなければ気がすまない、と。

 ………振り向いた、オレの視界に。

「待ちなさい、シンタロー!! 朝食は、成長期のキホンなんだよッッ!!!」

 朝食トレイを掲げて、住宅街を追いかけてくる。
 フリフリピンクのエプロンに身を包んだ、父親の姿。

 ―――一気に、総毛立った。

「………ッッッ、来るんじゃねぇぇぇぇッッ!!!」

 爽やかな、夏の朝――――三度目の、絶叫が。
 平和なガンマ団内に、響き渡った。




 ―――それは、随分昔の話だ。

 急ぎ足に、過ぎ去っていった。
 鮮やかに残る、記憶の断片。


 あの頃。
 愛されているコトが、当たり前だった。

 疑う術さえ、持っていなかった。


<終>










○●○コメント○●○  今読み返して気付いたんですが、シンちゃん寮のハズなのに、何だって家にいるんでしょーね………。
 うん、きっとパパだから!! きっとパパが、シンちゃんを寝てる間にお家にさらっちゃったのよッッ!!! (゜゜)(。。)(゜゜)(。。)ウンウン
 素直に過ちを認めない管理人で、すみません…………(T^T)
 でも、案外。シンちゃんだけは、パパ、寮生活認めないっていうか、ダダを捏ね回した挙句、無理矢理家に留めたような気がほんのり………。






Happy birthday,dear papa





 ―――♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪………

 ………ウルサイ………。

 頭は完全に眠ったまま。

 ―――♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪………
 
 それでも鳴り続ける、聞き慣れたメロディに。
 いつしか、体が勝手に反応し。
 彼は、反射的に携帯を取っていた。




******************




「もー、シンちゃん、出ないよぉっ!!!」

 いらいらと。
 携帯を手にしたまま、グンマは唇を尖らせる。

「まぁまぁ、グンちゃん。シンちゃんは、忙しいから………」
「だって、おじ………じゃなかった、おとーさまっ! アレほど、ボクが何回も何回も何回もッッ!! メール入れておいたのにっ!!!」
 ―――招待状だって、100通は出したのにッッ!!!
 
 …………ソレは、もう殆ど。
 不幸の手紙とか、スパムメールの域に達しているのでは、無いだろうか、と。
 思わず、キンタローは、溜息をついてしまう。

「そうです、マジック様!! この会場の飾り付けにしても、わたしとグンマ様が徹夜で行ったんですよ!?」

 ―――そんな健気な、グンマ様の真心を踏みにじるなど。全くもって、許し難い!!!

 気炎を上げる、高松の後ろでは。

「あ。だから、こんなに飾り付けの趣味が悪いっちゃね♪」

 それはそれは、無邪気に、トットリが。
 招待客の誰もが言えなかったヒトコトを、代弁し。
 
 ………間髪入れずに、バイオハマナスに巻き付かれた。




******************




 世間では、クリスマスムード一色に染め上げられる、この時期だが。
 ここ、ガンマ団においてだけは―――少なくとも、表向きは。
 年末最大の行事、と言えば。
 12月12日の今日、つまりは総帥マジックの誕生日パーティである。

 シンタローに代替わりした今では『元総帥』なのだが。
 長年の習慣は代わることなく………イヤ、むしろ。
 今年は、実はマジックの実の息子、と判明し。
 にわかに権力を増してしまったグンマが、張り切って陣頭指揮をとったせいで。

 規模は例年以上に拡大し――――殆ど強制的に集められた招待客は、例年の倍の広さの会場に、入りきらない上。
 グンマと高松という、有る意味最強コンビが徹夜で行ったという、場内の飾りつけは。
 あちこちに、微妙にファンシーなロボットやら、不気味に動き、客を威嚇するバイオ植物やらが、ゴテゴテと配置され。
 
 極めつけに。バブル全盛期の結婚式を、彷彿とさせるような。中央にででん、と置かれた12段重ねのバースディケーキは。
 『マジックくん、おたんじょうびおめでとう』の電光表示板を背負い、ところ狭し、とばかりに、あらゆる表情とポーズの、砂糖菓子製のシンタロー人形が飾られている。

 ………余りの不調和さに、コメディーを既に通り越し。
 もはや、祝ってるんだか呪ってるんだか、というような有様で。 

 トットリの意見は、至極正しい、と。
 この場で、当事者二人を除き、誰もが内心頷いていたが。

 誰も―――それこそ。
 通常なら、真っ先に眼魔砲で、このアヤシイ場を破壊しかねない、マジックの兄弟達でさえ。
 大人しく、参加している理由は。

「もぉー、シンちゃん、出てよぉ………シンちゃんがいなきゃ、パーティが始められないじゃないぃ」

 ほとんど、半べそで携帯に耳を押し当てている、グンマが。
 本当に、頑張ったのだ、ということが解っていたから。
 血の繋がらない息子を、溺愛する父親と。
 そんな父親の気持ちに。
 ちっとも応えようとしない、意地っ張りの息子の為に。

 パーティの開始時刻を、とっくに過ぎた会場で。
 グンマは、携帯を握りしめたまま、途方に暮れて立ち尽くす。

 ―――もう、いいから。始めよう………。

 見かねた、マジックが。そう、声を掛けようとした瞬間。

『ふぁい、もしもし………』

 プッ、という接続音と共に。如何にも寝起きです、と解る。
 シンタローの、低く掠れた声が、響いた。

「あ、もしもし? シンちゃん!?」

 ぱっ、と輝いた、グンマの顔は。。
 しかし、次の瞬間、キッと引き締められ。

『あー。んだよ、グンマ。おめーかよ………』
「おめーかよ、じゃないよ!! 今日は、おじ……おとーさまの誕生日でしょ!? 招待状だって、送っておいたのに!!」

 金切り声で、まくし立てると。
 ただでさえ、寝起きの不機嫌そうなその声が。
 いっそう低く、凄みを増した。

『………用事がそれだけなら、切るぞ。時差を考えろよ、何時だと思ってんだ、テメー』
「ちょっと、シンちゃん!!」
『オヤジに言っとけ。イイ年齢して、誕生日ごときで浮かれるなってナ』

 ――――――プツッ!!

「シンちゃん!? シンちゃん!!!」

 呼びかけても、既に携帯は切れた後。

 何度リダイヤルしても、電源を切られたらしく。
 『しばらくたってから、おかけ直しください』のアナウンスのまま。

「………シンちゃんの、バカ――――――ッッ!!」

 ぶわぁぁぁーんっっ!!! と。
 切れた携帯を握り締め。グンマはついに、座り込み、大声で泣き出した。

「あ゙あ゙あ゙――――っ!! グンマ様を泣かすなど、許し難いッ!! もうあんな男は放って置いて、私達だけでパーティを始めましょう!!!」
「高松のおバカぁっ!! シンちゃんが来なきゃ、意味がないんだってばぁッ!!」
 ―――慰めるつもりが、逆に、言い返され。思わず鼻血と涙を同時にこぼし、高松は硬直する。

「仕方が無いだろう、グンマ。確かに、アイツの遠征の場所は、難しい場所だから………」
 シンタローの、新総帥としての激務を知っている、キンタローも。
 何とか、宥めようとするが。
 しかし、グンマは大きな瞳からボロボロ涙をこぼしつつ、キッと

「忙しいのも、遠いトコに行ってたのも、キンちゃんだって一緒だもんっっ!!」
 ―――それでもキンちゃんは、ちゃんと時間の都合をつけて、来てくれたじゃないっっ。
 
 ………更に、言い返され。グゥの音も出なくなる。
 確かに、キンタローは。
 祝い事には、とにかく顔だけでも出すべきだ、という常識に従い。
 招待状が届いて以来、身を粉にして働き。何とか今日一日の、時間の都合をつけたが。
 しかし、その常識は。そもそもシンタローの内に在る間に、培われたモノで。
 つまり、その原型たるシンタローが来なかった、という事は。

 こちらの想像を絶するほどに、忙しいのでは、無いだろうか………とか。

 そう言いたいのは、山々だったが。
 グンマがどれほど頑張ったか、高松から聞いている、キンタローには。
 この瞬間の、彼の怒りや、悲しみも、理解が出来て。
  
「シンちゃん、去年は南国でバカンス中で、お祝いもしてあげなかったしッッ!!」
 ――――だから。だから、今年こそは………。

「グンマ? シンタローは、バカンスしてたんじゃなくて、漂流した挙句、幼児と犬の家政夫になってたんだよ………?」
 見かねたサービスも。身も蓋も無い、フォローを入れてみるが。

「同じことだもんッッ!!!」

 ―――ちっがーう!!!

 ………その突込みを、誰も入れられなかったのは。
 駄々をこねつづける、グンマの秘石眼が。
 キラキラと輝きを増し、発動寸前の状態であることを悟ったから。
 
 ひぃぃぃっ、と一般団員は頭を抱え。
 伊達衆はトットリ救出の為、バイオハマナスと格闘し。
 固まったままの、高松とキンタロー。
 説得を諦め、優雅に持参の紅茶を啜る、サービスに。
 不穏な気配に、せめて一杯、と勝手にやりはじめた特選部隊。

 もはや、収拾は不可能かと思われる混乱の中。

 ………ぱんぱんっ!! と。
 小気味良い、破裂音が響いた。
 
「はぁい、ソコまで」
 柔らかい―――けれど、良く通る低い声が、その場に響いて。

「さ。待たせちゃったけど、パーティを始めようか」

 今までの混乱が、ウソのように。思わず全員が、動きを止め、注目する中。
 すたすたと、マジックは。
 会場の真ん中にいる、グンマの―――息子の元へ、歩いて行き。

 ―――ぽん、と。座り込んだままの彼の頭に、大きな手を乗せた。

 途端に。
 ………すぅっと、引いていく、グンマの秘石眼の光。

「お……とーさま。だって………」

 まだ、瞳に涙を溜めたまま。
 くすんっ、と鼻を鳴らす、グンマに。

「ありがとう、グンちゃん。でもね、いいんだよ」
 ―――実はね。シンちゃんからは。もうちゃんと、プレゼントを貰ってるから。

 そう、囁いたマジックに………ピタリ、とグンマの涙が止まる。 
「え、ソレ、ほんと? おとーさま」

 ホントなら。
 ホントなら………シンタローは、マジックの誕生日を忘れていなかった、コトになる。
 だったら。
 招待状も、メールも。無駄では無かった、という事になり。

 じっと、見つめてくる、グンマの視線に。
 にっこり、と。マジックは上機嫌に微笑む。

「うん。シンちゃんが恥ずかしがるから、内緒にしてたんだ。ゴメンねvv」

「えー、ナニナニ? ナニもらったの!!」

 ―――今泣いたカラスが、何とやら。

 見せて見せてvv と。
 顔一杯に書いてわくわく、と詰め寄るグンマに、少し首を傾げ。

「見せる、というか………聞かせることなら、できるんだけど」

 マジックは首を傾げつつ、答える。

「じゃあ、聞かせて聞かせてvvv」
「んんー、どうしようかなぁ?」

 迷うそぶりながらも、聞かせたいのは明白な素振りの、彼に。

 ―――多分。
 最初から、あの混乱を予想しておきながら。
 ワザと黙っていたのだろう……と、簡単に想像のついてしまう、その歪んだ性格とか。
 一瞬にして、あれだけの騒ぎを静めてしまった。未だ健在の、そのカリスマ性や。
 
 シンタローが先刻、あれほど不機嫌だった理由さえ。
 
 単純な、グンマと違い………ここまでのやりとりで。
 色々なものが、見えてしまった、キンタローは。

 それでも。
 とりあえず、大事なイトコが泣き止んでくれた事に、ホッとして。

「………今はやめておけ、グンマ」
 と。

 肩を抱いて、囁いた。

 ―――そして、遅れること、一時間後に。
 盛大なパーティは、始まった。




******************




「………ったく。なァにが、誕生日だよ」
 ぶちっ、と携帯の電源を切り。
 シンタローは。再び、ベッドに身を委ねる。

 ―――眠い、眠い、とにかく眠い。

 何せ、色々あって。
 眠りについたのは、午前4時を回っていた。
 
 七時の起床まで、三時間は眠れる、と思っていたのに。
 グンマの責任で、中途半端な時間に、叩き起こされて。

 ―――まァ、でも。しょうがないけどさ、今回は。
 うとうと、と。

 すぐに全身を気だるい眠気が包み―――やがて、完全に眠りに堕ちる。




 ―――Happy birthday,Dear papa………
 
 ………数時間前に、呟いた歌を。もう一度、夢の中で歌いながら。




 ………本能の求めるまま、眠りについたシンタローは、まだ知らない。

 目覚めて、再び。電源をオンにした際、入ってくる爆弾メールの事を。
 
 『昨夜は、お疲れさま(^-^)ニコ 今日はゆっくり休んでね♪
 あ、そうそう。プレゼントは、着信音に登録しといたたヨvv』

 ―――眠気も、寝不足ゆえのだるささえ、吹っ飛ぶ。その、とんでもない内容に。
 ワナワナ、と震えつつ。天井を仰いで。

「………あンの、クソ親父~~~~~~~ッッ!!!!」

 と。絶叫するハメに、陥る事を。




******************




 それから、しばらくの間。マジック元総帥の携帯が鳴る度に。

 たどたどしくも、艶のある。
 シンタローの声で謡われる「ハッピーバースディ」が響き渡り。
 思わず聞き惚れる団員達で、業務が完全にストップする現象が多発し。

 その為、シンタロー新総帥は。
 溜まりに溜まった、書類業務の監督の為。
 ガンマ団本部に、戻らざるを得なくなったのだった。







○●○コメント○●○ コレをUPしたかったが為に、予定のパパの誕生日のサイト開設が「なんちゃって開設」になってしまった、という、イワク付きのSSデス。
だって、パパの誕生日記念に作ったサイトに、パパへのプレゼントが無いなんて、許されないじゃあないですか(T^T)クゥー
ちなみに。色々と深読みが出来る内容ですが………深読み禁止でお願いします(苦笑)
その内、ウラを作ったら、書くでしょう、メールにまつわる色々。
ともあれ………大好きな、マジックパパvv 誕生日、おめでとうございました。今後とも、末永くお願い致しますvv





mss

ミライノタメニ (前)





 二人が、壊れてしまうのと
 二人で、壊れてしまうのは

 ―――どちらがどれだけ、哀しいのでしょう




******************




「シーンちゃん、シャンプーしたげる♪」
「………いらねぇ」

 ぼそり。
 呟きながら、眼魔砲を飛ばすことも、もちろん忘れない。

 なにもそこまで、と言う無かれ。

 こういう事を、言い出したが最後。
 いつまでもしつこく、しつこく、しつこく!! 付きまとった挙句。

 無理矢理にでもシャンプー、リンス、トリートメントのフルコース………挙句に。
 彼の背中まである黒髪を。切って、編んで、結い上げて。
 心ゆくまで遊ぶのが、彼の父親「マジック」という人物なのだから。

「シンちゃん、ヒドイ…………」

 手加減無しの、一発だったが。
 タメ無しのせいか、さほどダメージも受けていない様子で。
 「よよよよ」と、ハンカチ片手に泣き崩れる。

 いくら、年齢より相当若く見える―――40越えているとはちょっと思えない―――とはいえ。
 実年齢は53歳のオッサンに、ソレをやられると。不気味を通り越して、かなりサブい。

「………昔は、何だってヤラせてくれたのに」
 ボソリ、と。
 ここのセリフだけ、聞いている者がいれば。
 間違いなく、誤解を受けそうな発言をされ。
 ―――と、言うよりも。
 彼の性格を鑑みるに、ワザと誤解させようと仕向けているに、違いなく。

「四捨五入すると余裕で三十になる息子を、小学生レベルで扱うなぁッッ!!」

 ぷちっと切れた、シンタローは。
 再び、本気の眼魔砲をぶちかまし。

 対するマジックは、というと―――それはそれは、楽しそうに。
「はっはっはっ、親子団欒だねぇ♪」
 とか何とか。
 トボけたことをほざきながら、応酬してきて。

 爆音と共に。不吉なきしみを上げ、崩壊を始めたガンマ団本部では。

「総帥と元総帥が、また、親子ゲンカだぁ~~~~~っっ!!!」
「頼むから、外でやってくれェ~~~~!!!」

 ひきつった顔で逃げ惑う、団員達の絶叫が………夕暮れの空に、響き渡った。





******************





 元々。大概、何だって、器用にこなす父親だった。
 長男として。弟達の面倒を見始めた頃には、素地が出来ていたのだろう。
 ………それが。

 病弱な妻に代わって、幼い息子の面倒を見始めてからは、更に拍車がかかり。
 シンタローが、物心ついた時には。
 普通『母親』の役割もこなしてくれる『父親』になっていた。

 それでも。
 ガンマ団の若き総帥としての地位を、確固とし始めていた、当時は。
 遠征やら交渉やらで、殆ど家にいることが無く。
 寂しい思いをすることは、度々だったけれど。

 その埋め合わせのように。
 長く家を空けた後は、必ず。両手いっぱいに、お土産を抱えて帰ってきてくれて。
 食事やら、身の回りの世話やら………一日中でも、側にいてくれた。

 母親譲りと思われていた、シンタローの黒髪は、特にお気に入りで。
 切ったり、編んだり、結ってみたり。

 それが、当たり前だったから。
 シンタロー自身、さしたる抵抗も無く受け入れていたのだけれど。


 ―――それが、憂鬱に変わったのは、いつからだろう?


 「ガンマ団総帥の長男」という特別な立場。
 それを自覚し始めたのは、小学校に上がる頃だった。
 
 今まで、一緒に転げまわって遊んでいた、友達に。
 徐々に、距離を置かれるようになり。
 遊びに誘っても、何のかんの理由をつけられ、断られるようになった。

 最初、シンタローには。周囲の変化の理由がわからず、ただ戸惑うだけだったが。 
 その内、大人達が子供達に言い聞かす、潜めた声は。嫌でも耳に入ってきた。

『あまり、あの子と仲良くしちゃダメよ? あの子のお家はね…………』

 ………気が付くと、一人ぼっちになっていて。
 それでも、当時の。
 幼い―――『悪意』と言う言葉さえ、知らないほど。
 幼な過ぎた、シンタローには………為す術も、無く。
 
 登下校はおろか、昼休みも、放課後の予定すら無いまま―――たった一人で過ごす、学校生活。

 その内に、すっかり塞ぎ込み。
 理由をつけては、学校を休むようになった、一人息子を心配し。
 マジックは、忙しいスケジュールを何とか調整し、遠征も控えるようになって。

 その分、なるべく家にいるようにして―――今までに増し。
 それはそれは甲斐甲斐しく、シンタローの世話を焼いてあげた。

 大好きな父親と、一緒にいられるようになったコト。
 それが本当に、嬉しくて。
 シンタローは、まるで素直な子犬のように。
 父親の行く所ならば、何処へでも付いていった。

 ―――シンちゃんさえ、構わなければ。
 
 ある日、膝に抱えたシンタローの。
 お気に入りの黒髪を、優しく梳きながら………マジックは、言った。

「学校を辞めて、ずっとパパと一緒にいるかい? 勉強なら、家庭教師をつけてあげるし。パパだって、少しは教えてあげられるから」

 学校に、いかなくてもいい―――それどころか。ずっと、大好きなパパと一緒にいられる!!

 一瞬の躊躇も無く、シンタローは頷いた。
 何も、考えていなかった………考えようとさえ、せずに。

 ただ、提示された。自分にとって、都合のいい未来に飛びついた。

 それ程に当時の自分は、子供で―――自分の行動が、周りに及ぼす影響、など。
 考える事さえ出来ない程、甘やかされた子供だったのだ、と。

 今なら、解るのに。


 ―――転機が訪れたのは、その数日後。

 その日も、シンタローは。学校を休み、広い家の庭で一人、遊んでいた。
 いつもなら、一緒に遊んでくれている筈の、マジックは。
 現在、急な来客とやらの応対をしている。

 最初はムクれていたものの、所詮は子供のこと。
 お詫びに、と。
 父親に与えられた、新しいラジコンカーにすっかりハマってしまっていて。

 指先一つで、思いのままに動く。
 その模型の車と一緒に、夢中で走り回っていたシンタローは、気付かなかった。

 ………どんっ、という鈍い衝撃。

「うわっっ!?」

 正面から『何か』に激突したシンタローは、見事な尻餅をついてしまい。

「もうっ、な………」

 ぷうっと、頬を膨らませ。
 突然出現した、大きな『何か』に抗議しながら視線を上げ………小さく、息を飲んだ。

 逆光の中、こちらを見下ろしてくる、巨大な影の正体は。

 ――――ハーレム叔父、だった。

 シンタローは。優しくて綺麗なサービス叔父のコトは、ダイスキだったが。
 子供にも、容赦ない―――というより、単に大人気ないヒトだったのだ、と。今なら、解るのだが―――彼のコトは、大の苦手で。

 尻餅の姿勢のまま、固まっているシンタローに、手を差し伸べるでもなく。
 「不機嫌です」と顔一杯に描かれた、表情で。
 唇を歪め。吐き捨てるように、ハーレムは呟いた。

「………オマエ、まだオムツしてんのか?」

 突然言われた言葉に。きょとん、とシンタローは首を傾げる。
 彼の意図するところが、まるで見えない。

 もちろん。現在小学生のシンタローは、普通の半ズボンを履いている。
 見れば、解るハズなのに。

 大きな目を見張って。
 やたらに、不機嫌そうな叔父を見つめていると。
 
「赤ん坊じゃねーんなら。テメェのケツぐらい、テメェで拭けよ」

 ますますもって、シンタローには、言われている意味が解らなかった。
 
 もちろん、今では。トイレの個室にまで、誰かに付き添われて入る事など、無い。
 いくら父親の面倒見が良くとも、ソコまでしてもらったのは、ごくごく幼少の間だけだ。

 唖然としたままのシンタローを、憎憎しげに睨み付け―――それは。
 まるで、シンタローの背後にいる、見えない誰かを睨みつけているかのように。

「………ガキが。解らねぇなら、教えてやろうかァ!?」

 突如、声を荒げられ。
 シンタローは思わず、ビクリと身を竦める。

 ―――怖かった。
 
 今まで。
 当の本人のハーレムさえ、マジックの目を気にしてか。
 彼の溺愛する一人息子に、こんな態度を取る者などいなかった。

 ただ、竦んだままのシンタローに。
 一歩、ハーレムが足を踏み出す。

「ハーレム、シンタローに何をする気だ!?」

 その時、響いた救いの声に。
 シンタローの、脅えきった顔が、パッと輝く。 

「さーびす、おじさん!!」

 対照的に。チッ、と舌打ちをして………ハーレムは忌々しげに、ソッポを向く。

「シンタロー。大丈夫かい? このシシマイ顔に、何かされなかったかい?」
「シシマイ言うんじゃねーよ、この魔女っっ!!」

 くわっ、と。獅子舞そのものの顔で喚く、ハーレムを完全に無視して。
 サービスは、小さなシンタローの体を抱き上げる。 

 抱かれた暖かな胸に、ほっと力を抜き。シンタローは小さく呟く。

「おじさん………オレ、なにかした?」
「いいんだよ、シンタロー」

 当時のシンタローには。大人の心の機微など、解らなかったが。
 けれど―――応えた、大好きな叔父の心は。
 どこか、晴れやかで無いように、感じ。
 不安そうに、綺麗な顔を見上げた瞬間………再び、ハーレムが。

 大音声で、叫んだ。

「お前らが、そうやって甘やかすからっっ!! コイツはいつまでたっても、自分が邪魔だってコトに、気がつかねーんだろーがっっ!!!」

 ビクリ、と。
 あまりの剣幕に。再びシンタローは、叔父の胸の内で、身を竦め。

「ハーレム、止せっ!」

 サービスの制止など、耳に入らない様子で、ハーレムは吠え続ける。

「いいかぁ!? 今は、ガンマ団が存続すっかどうかの、大事な時期なんだよッ!! テメー、やっぱり疫病神………」

「ハーレムッッ!!!」
「ハーレム。私の息子に当るのは、止めてくれないか?」

 懇願するかのような、サービスの叫び。
 そんな叔父の声を聞いたのも、初めてだったけれど。
 それに、重なった、もう一つの声。

 ―――なんて、冷たい。
 ………氷の塊を、背に押し付けられたような、気さえする。

「お前の力が足りないからだろう? それは」

 ゆっくりと。
 テラスをくぐり、こちらに近づいてくる、足音。

 いつもであれば。
 嬉しくて、叔父の腕から飛び降り………駆け寄っているはずの、人物の足音。

 ―――なのに、何故だろう。今は、体が動かない。

「おまえが気にすることは無い、シンタロー。ハーレムは仕事がうまくいかなくて、ちょっとイライラしてるだけだから」

 いつもと、シンタローの様子が違うことは、解っているであろうに。
 それとも、本当に気づいていないのか。

 にっこり、と。変わらぬ笑顔を浮かべ………そのまま、ハーレムに近づいていく。

「そうだな、ハーレム?」

 対照的に、ハーレムの顔色は。酷く悪い。

「………あ、兄貴………」

「何をしている? 子供に当たるより先に、するべきことがあるだろう」

 呑まれたように、ハーレムは頷くと。
 どこか覚束ない足取りで、踵を返す―――。

 一連のやりとりを。呆然と、見つめながら。
 その時初めて、シンタローは。
 去っていく、ハーレムの。首筋や袖から覗く、白い包帯に気付いた。  

 あの叔父が、とても強いコトは、知っていた。
 その彼に、あれほどの大怪我を負わせた、何かがあり。
 尚且つ、それを労わるでもなく『力が足りない』と、切り捨てる。

 ………コノヒトハ、ダレダロウ?

 そんな父親は、今まで知らない。見た事も、無い。

 ―――凄まじい、違和感に。 

「………パパ?」

 震えを押し殺し、必死に言葉を紡ぐと。

「大丈夫だよ、シンちゃん。シンちゃんが心配するような事は、なァんにもないからねvv」

 いつもと、同じ。優しい口調で言葉を返してくれたが。
 シンタローは、サービスにしがみついたまま、なおも訴えようとする。
 カタチにできない、その感情を。

「でも、パパ………」
「こんなに、シンちゃんを困らせるなんて。後で、ハーレムはうんと叱っておかなきゃね」

 ………コノヒトハ、ダレダロウ??
 
 大好きな、パパと。
 同じ姿、同じ声、同じ笑顔………なのに。

 ―――けして、微笑うことの無い。
 何て、冷たい………碧い瞳。




******************




 子供という生き物は、鈍感な上に、残酷だ。

 もう、その頃には。殆ど、学校に出てこない上。
 たまに来ても、一人ぼっちで椅子に座っているだけの、シンタローは。
 クラス中の、イジメの対象となっていた。

『コイツ、男のクセにカミなんかのばして、おかしいのー』
『シンタローは、オカマだー』

 ―――行く度に、投げつけられる、言葉の暴力。

 大人になってみれば。
 彼らが、無邪気であるが故に。愚かだったことは、良く解る。
 
 自分達が、ちょっかいを出している相手が。
 魔王の子である事さえ、気付かずに。

 ましてや、ヒト以外の存在であったなど。
 想像さえも、しなかったのであろう。

 それは、滑稽で、どこか哀しく。

 ―――切ないほどに、幸せな。幼年期の、終わり。



ミライノタメニ (後)




 見ようと思って、見なければ。
 「見えないもの」は沢山ある。

 あの後、何度か。
 優しいサービス叔父さんに、あの日の出来事について、尋ねてみたけれど。

 ………彼は。ハーレム叔父の行動を、庇う言葉も口にしない代わりに。

 ―――困ったように微笑むだけで。
 父親のように、シンタローが正しい、とも言ってはくれなかった。

 だから。
 シンタローは、今、ここにいる。

 初めて、一人で父親の職場である、ガンマ団に来て。
 初めて、気をつけて周りを見ながら。そこを、歩いてみた。

 幾度が父親にくっついて、訪れていた場所だったが。
 父親と一緒の時には、気付かなかった事。

 ひっきりなしに、輸送艇が。降り立っては、飛び立ち。
 その度に、大量の人間と物資が移動する。

 シンタローの傍らを。
 数台の担架と、白衣の大人達が、慌しく駆け抜けて行き。
 その光景は、初めてでは無かったけれど。
 ………以前見た時より、格段に増えている気がした。

「駄目だ、心拍停止!!」
「叩き起こせ!! まだ、攻略は終っていないんだぞ!?」

 誰も、小さなシンタローになど、気を止めていなかった。
 
 父親の影に、はにかみながらついて歩いていた時は。
 出会う大人達の、誰もが。
 皆、優しく微笑んで、お菓子やジュースを振舞ってくれた。
 マジックの仕事が終るまで、遊んでも、くれた。

 ―――息を飲んだまま。
 更に、歩きつづければ。

 暗い表情でヒソヒソ話す、大人達に出くわした。

 ―――クソッ、何だってマジック総帥は、こんな大事な時期に前線を離れて………。
 ―――千人犠牲にしても、一万人が助かればいいとさ。取り戻せるのかね。
 ―――大体。あの子供は、ヒセキガンさえ持ってないんだぜ!?
 
 シンタローと、遊ぶ事を禁じた。
 友人の親を思い出させる………重くて暗い、その囁き。

 本当に。今ならば、解るのだ。
 あの時の、胸の痛みの理由―――複雑な、葛藤が。

 ………大好きな父親の存在が、自分を苦しめ。
 同時に。自分の存在こそが、今。
 大好きな父親を苦しめているという、紛れも無い事実。

 しばらくの間、ガンマ団内を歩き回る内。
 シンタローは、聞き覚えのある声に、捕獲されてしまう。

「シンタロー!? お前、何だってこんなトコにいんだよ」

 ヒョイ、と。背後から襟首を掴み、持ち上げるという傍若無人な振る舞い。
 首を反らして、その顔を見てみると………案の定、苦手なハーレムで。
 
 だが、相手のほうは。この間の重い一件など、気にも止めていない様子で。
 ニヤリ、と笑うと。くしゃくしゃともう片方の手で、シンタローの黒髪をかき混ぜる。

「オメェ、一人で来たのか?」

 コクン、と頷くと。

 何がそんなに、嬉しいのか。
 満面の笑みで。更にぐしゃぐしゃと、乱暴に黒髪を乱され。

「どうしたよ? 兄貴に、会いに来たのか?」

 もう一度、コクン、と頷くと。

「テメ、口が無いんじゃなきゃ、喋れよ」

 むぎゅっと、唇の端をつねられ………やはり、この叔父はキライだと。
 改めて、認識したが。
 
 思っていたより、元気そうで。
 ホッとしたのも、事実。

「ハーレム。ケガ、へいき?」
「テメーな。何だって、サービスには『おじさん』で、オレは『ハーレム』なんだよ………ったく。大体、あんなモン。怪我の内にも、はいらねーぜ」

 ブツブツ、ぼやきつつも。
 ハーレムは、抱え上げたシンタローを、マジックの元まで連れて行ってくれ。
 
「………オイ、兄貴ッッ!! シンタローが来たぞ!!!」

 その時のマジックの、驚いた顔は。一生忘れられない、と思う。

「シンちゃん!! どうして、こんな所まで………」

 何かの、会議中だったのか。開け放たれた、扉から見える光景は。

 マジックを上座に据え。
 普通にしていれば、偉そうな大人達が。
 揃って、ぽかん、と間の抜けた顔で。こちらを眺めていた。

「てめーら、会議会議って、いつまでやってんだ。こっちは準備万端で、合図待ってるっていうのによォッ」

 即座に、父親は席を立ち、こちらに駆け寄ってくる。
 大きく、広げられた腕。

 しかし、シンタローは。思わずハーレムに、しがみついていた。

「………くっつく相手が、違うだろォ?」

 苦笑しながら、マジックに小さな体を、渡そうとして。
 意外な程の力で、抵抗され。ハーレムは、困惑する。

「ここまで、一人で来たのかい?」

 顔色が、余り良くない………多分、ここの所、ずっとだったハズだ。
 そんな事さえ―――今、初めて、気付いた。

 ハーレムに、しがみついたまま。ぎゅっと唇を、噛み締めて。
 大きな瞳で、ただ見つめているだけの、シンタローに。
 
 マジックは。小さな溜息と共に、視線を反らし。

「ハーレム。お前、今日はこのまま休みなさい」
「オイ、兄貴!? バカ言うなよ、オレの部隊は、今から出陣だろーが!!」

 ハーレムは目を剥いて、マジックに詰め寄り。
 シンタローを抱いていた腕が、するりと解ける。

「構わないから。シンタローを、送ってやってくれ」
「兄貴ッ、いい加減にしろよ!?」 

 自分の力だけで、ハーレム叔父にしがみついたまま。
 シンタローは。
 
 あの日、とも違う。
 哀しそうな、碧い目の大人を、じっと見つめる。

 ………コノヒトハ、ダレダロウ。
 
 ―――コノ、ひとハ………この人、は。


「………かえれる」

 不意に。
 きっぱりと、シンタローが呟いた。

「シンタロー!? ダメだ、危ないだろう!?」

 しがみついた腕を解けば。もう、小さな身体は自由だ。
 自分の意志で、動く事ができる。

「ひとりで、かえれるってば!!!」

 叫ぶと。身を翻し、駆け出した。

 ………パパ。
 お父さん、父親で―――ガンマ団総帥、マジック。

 
 ―――言われるまま、伸ばしつづけていた髪の毛。

 ―――愛玩動物のように、甘やかされるだけの、自分。


 それが。

 怒り、に変わったのは。

 ………その瞬間、だったのだと、思う。




******************




 久しぶりに、学校に顔を出したシンタローを迎えたのは、いつもの風景。

 ――――いつも通りで無かったのは、シンタローの心。
 
 初めて、父親に口答えしてから………心の一部が、壊れてしまった気がする。

 それが、何だったのか。
 大切なものだったのか、どうでもいいものだったのか。
 それさえも、解らなくて。
 ただただ、落ち着かず。ざわめく心を、抱えたまま。

 始業と同時に、シンタローは。
 教室に入ると、長らく不在にしていた、自らの席に着いた。

 すると。
 何も知らない、無邪気な子供達は。
 すぐに、今まで通り―――シンタローをからかい始める。 

『オカマのシンタロー、オカマ、オカマ』
『お前のとーちゃん、コロシヤなんだってなー、こえぇぇ』
 
 ………ウルサイ。

『コロシヤってどんなんだー? オマエのカーチャン見ねぇのは、トーチャンがコロシたからか?』

 ―――ウルサイ………イライラする、イライラする。

『キリサキジャックみたいなもんさ。ヒトの首切るより、息子のカミ、きってやれよなー』

 ―――イライラする、イライラする、イライラするッッ!!!

 ぐいっと。束ねた黒髪を、引っ張られた瞬間。
 ぶちり、と―――シンタローの中で、明確な音とともに『何か』が切れた。

「………こんなモンが羨ましいンなら、くれてやるっっ!!」

 工作用のハサミを取り出し。
 父親が今朝、綺麗に束ねてくれた髪を。一息に、切り落とすと。
 相手に叩きつけると同時に、掴みかかっていた。

 一瞬にして教室は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなり。

 ―――特殊な訓練を、受けていなくとも。
 シンタローはもともと、暴力と身近な環境で育ってきたのだ。
 箍が外れてしまえば。本人にさえ止められない、凶暴な本能。

 女の子達の甲高い悲鳴や、泣き声が響く中。

 ついには、頭を抱え。
 泣きながら許しを請う、イジメのリーダー格だった少年に馬乗りになって。
 容赦なく、拳を振るう。
 
「ナメてんじゃねぇぞ、誰に向かってクチ聞いてんだ、コラァ!!!」

 啖呵を切り―――また、殴りつけて。

 最終的に。大人達に、取り押さえられ。
 父親までが、呼び出される騒ぎとなったが。

 ―――マジックは一言も、シンタローを叱らなかった。

 それが余計に………悲しくて。

 ザンバラになった髪を、綺麗に揃えてくれた後。

 ―――学校、続けるかい? と。マジックに、静かに問われた時。

 今にも、泣き出しそうな顔で。
 それでも、シンタローは。こくり、と頷いてみた。

 それが、生まれて初めて。
 自分の『意志』で、何かを決めた瞬間だった。

 「二人を壊してしまうこと」を。
 選択したのだ、と思う。
 
 ―――――守る、為に。




******************




 その日以来、シンタローは―――元来は。
 人を惹き付ける性質の、子供だったのだから。

 キッカケさえ、掴んでしまえば………むしろ周囲の方が、放っては置かず。
 日を追うごとに、子分やら友人やらが増えて。
 
 陰口だって。
 自分さえ、それがどうした、という態度を貫いていれば。
 やがて聞こえなくなる、という事も、学び。

 にわかに忙しく、回り始める日々。

 シンタローが、自立の道を歩み始めた事を、寂しがっていたマジックも。
 やがてまた。遠征に交渉にと、忙殺される日々が続いて。

 ―――ただ、それからも。
 髪だけは、父親が切ってくれていた。

 月に一度、有るか無いかであった、休みの日には。
 会えなかった時間の、総てを埋めるように。
 色々な事を、語り合いながら。

 大きな手で。
 シンタローの望み通りの髪型に、仕上げてくれた。
 
 




 



 ―――『あの日』まで。









 そして。







 もう一度、コタローに会えますように。
 もう一度、僕らが……家族に、戻れますように。


 ………願いを込めて、想いを込めて、髪を伸ばした。




******************




 もはや、原型を留めていない、総帥室で。

 互いに、ガンマ砲を撃ち尽くした後。
 シンタローとマジックは、ぜぇ、ハァ、と。
 荒い息を付きながら、睨み合う。

「ちょっとイジらせてくれるぐらい、いいじゃないかッッ!!」
「しつっこいんだヨ、テメェ!!」

 同時に、怒鳴り合い―――不毛だ、と思った次の瞬間。
 ハッと、シンタローは我に返る。

 コレだけハデに壊してしまうと。修繕にかかる費用は、ハンパではない。
 ただでさえ、経費節減の、この折なのに。
 総務部辺りから、怒涛のように舞いこんで来る苦情は。
 現総帥のシンタローが、一身に受けなければならず。

 ―――ヤラレタ………このクソ親父め。

 大抵の嫌がらせであれば。
 最近は、聞こえないフリで聞き流して来れたのに。

 『髪』だの『昔』だのを引っ張り出す、実に見事な、ピンポイントの嫌がらせに。
 すっかり忘れていた過去を、引っ張り出され………つい、熱くなってしまった。

「別に。髪なんかに、そんなに手間ヒマかける必要、ねェだろーが」

 落ち着け。落ち着け、自分―――言い聞かせつつ。
 構えを解き、務めて冷静に、反論すると。

「しかし。きちんと手入れしてやらなければ、もったいないじゃないか」

 ………そんなに綺麗な、黒髪なのに。

 本当に惜しそうに、マジックが、そう言うものだから。
 シンタローの唇から、深々と洩れる、溜息。
 
 彼に、してみれば。

 この年齢なのに、白髪さえない。太陽そのものの、マジックの黄金色の髪の方が。

 ―――余程に、美しいと思えるのに。

「ねー、シンちゃーん。絶対、切ったりしないから」

 ちょっとだけでいいから、お手入れさせてvv と。
 
 ………だから、五十三歳にもなって、お願いvv ポーズをとるんじゃねェ………。

 シンタローは、はぁぁぁ、と息をつく。
 何だか、とっても疲れた。

「あーもう、解った解った。アトでな」

「あ、じゃあ。どれがいいか、選んでくれる?」

 わくわく、と。
 マジックが差し出した雑誌を、チラリと見ると。
 
 ソコに、ずらりと並んでいるのは………黒髪に、振袖姿の和風美人モデル達。

 ―――やっぱり、一月は振袖だよねぇvv シンちゃんの黒髪に、とっても映えるし♪

「………『息子』に振袖着せてどうするつもりだっ、このヘンタイ親父ッッッ!!!!」

 気がつくと。
 残りの総ての力を振り絞った、眼魔砲を放っていた。

 僅かに残っていた、壁の部分には。綺麗に、人型の穴が空き。
 鮮やかな放物線を描きつつ、飛んでいくマジックの姿。

 普通の者なら、命は無いだろうが。
 まァ、あの父親のコトだ。怪我一つ無く、戻ってくるであろう。

 それにしても、派手にやってしまったな、と。
 改めて。周囲の惨状を見渡す。
 ………総帥なのに。
 修理代の為に、しばらく給料カットされるかもしれない………総帥なのに。

 トホホ、と肩を落として。

 かつて、窓と呼ばれていた―――今は、硝子どころか。窓枠すら残っていない、そこから顔を出し。

 見上げた空は、鮮やかに青く。

 ………はるかに遠い、彼の人を思い出させる。

 あの子供も、また。
 二人を壊す事で始まる―――新しい未来を、信じたのだと思う。


 だから。 



 ――――髪は、切らない。



 もう一度、会えますように。
 ………もう一度、家族になれますように。


 遠く離れた、南国の空。
 茶色い犬と暮らす、小さな友達に想いを馳せ。
 
 願いながら、瞳を閉じた。







○●○コメント○●○  「とうさん」と打つと、すぐさま「倒産」と変換されるウチのパソ子に眼魔砲★
 ギャグを入れられなかった、自分にも眼魔砲★(←駄洒落と、ギャク大好き)
 マジシンに見せかけて、パプワオチですねσ(^◇^;)
 シンちゃんの髪、時代時代で結構長さ変わってるのに、パプワからPAPUWAで変わってない理由について、思ってる内に出来た、駄文デス。
 結局、年齢データとかも入手出来なかったし(;^_^A
 引っ張った挙句、こんなんで、スミマセンデシタ。





BACK NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved