「……わては、何してるんでっしゃろ」
ぽつりと、アラシヤマが呟いた。そんな事俺が聞きたいと口にするか暫く悩み、黙り込んだ。
左手首の火傷がヒリヒリと痛む。本来なら即座に冷やさなければならなかったのだが、そんな暇は与えられなかった。痕が残らなければいいのだが。
「シンタローはんの事好きなんどすけど、愛しとるんどすけど」
俺の顔を見下ろしてはいるのに、俺の瞳を見つめてはいるのに、俺を見ていない。
正気を失っているのかもしれない。それがいつからかなのかは分からないが。
「どないして、傷付ける事しかでけへんのでっしゃろ…」
俺が傷付いている?何を見てそんな事を言うんだ?
それよりも俺は、こいつが傷付いた様な──なんだか寂しそうな、今にも泣き出しそうな子供の様な──そんな表情をしているのが引っ掛かるんだよ。
傷付いてるのは、お前の方なんだろ?…お前が望む通りになったんだろ、それで何で傷付くんだよ。
「──俺は、傷付いてなんかいねェ」
小さく呟くと、アラシヤマは泣きそうな顔を更に歪める。
「シンタローはん、酷く傷付いた顔してはる」
俺は今、感情を押し殺して無表情を装ってるつもりなんだがな。どこを見てそう思うのか、いつもの事だがこいつの思考は分からない。
「怒ってて、泣きそうで、怯えてて、悲しそうな顔してはる」
お前は本当に俺の事を見てるのか?そう問うこともせずに、俺の姿を映しこむアラシヤマの瞳を見つめた。
「嫌いにならんで。嫌わんでおくれやす。わてにはあんさんしかおらんのどす。独りにせんといて。怖いんどす、独りは嫌なんどす。今わてシンタローはんを失のォたら壊れてまう。」
俺に言ってるのか独り言なのか、この距離で辛うじて聞き取れる声でぼそぼそとアラシヤマは言う。
「独りきりはもう耐えられへん。怖いんどす。なァシンタローはん、嫌わんといておくれやす…」
縋るように。
「ホンマは傷付けたくなんかないんどす。シンタローはんには笑うていて欲しいんどす」
釈明するように。
「見捨てんといて。嫌わんで。堪忍どす、すんまへん、謝りますから…ッ」
懺悔するように。
「…だから、傷付いてなんかねーつってんだろ…」
傷付いたのは心じゃない。ただ、身体に傷を負っただけだ。
俺に覆い被さっていた身体を、馬乗りの状態で上体だけ起こしたアラシヤマは、やっと俺から視線をはずして
「シンタローはんに嫌われとォないんどす…捨てんといておくれやす…見捨てんといて…」
空を見つめ、語尾が少しずつ小さくなっていきながらも、口の中で未だ何か言っているが俺にはもう聞こえなかった。
俺が止めないと、アラシヤマはいつまでもこのままだ。
「…早く帰れよ。パプワ達が帰ってくるだろ」
俺の声がやっと耳に入って、怯えた目で俺を見た。後悔する位なら、何もしなきゃいいんだよ。
「シンタローはんの身体が心配で帰れまへん」
「お前と一緒に居るところなんか見られたくねーんだよ」
俺の言葉にはっとして、また表情を歪める。ホラ、傷付いた顔をしてるのはお前の方じゃねーか。
「……そうどすか」
アラシヤマが、俺の身体を優しく抱き締めて肩に顔を埋めた。抵抗する気も起きず、黒髪を無言で睨みつける。
パプワとチャッピーはリキッドを連れて遊びに行った。夕飯の食材をついでに調達してくるとは言っていたが、いつ帰ってくるか分からないこの状況で、こいつを甘やかす気は起きない。手首の火傷の痛みに多少眉を顰めながら、眼魔砲の構えを取った。
「早くどっか去れつってんの、わかんねーの?」
意識を集中させて、光の粒子が形を成していく。そこでやっとアラシヤマは身体を離して立ち上がった。
「せやったら、トージくんとこに帰りますわ…」
のろのろと下げていたズボンを上げて、腰布を巻き付ける。それを見ながら掌の光を四散させた。
「すんまへん……愛してます…」
口にするだけなら簡単な言葉を告げて、扉をくぐるアラシヤマを見届けて、散らばっていたタンクトップで汗を拭う。新しいものに着替えればいい。どうせ洗濯はリキッドの仕事だ。右手首にしているリストバンドを、左手首に付け替える。押さえ付けられた火傷が痛むが、見つかって理由を問われるよりマシだ。
これで、六度目。
何度も同じ事を繰り返しては泣いているアラシヤマを、捨てることが出来ないでいる俺も同罪なんだろうか。
…俺はただ、下手に火傷を増やしたくないだけだ。
青の一族を騙す為の影として作られた俺が、その役目を終えてもそこに存在し続けている現実が息苦しくて、俺を求めるこいつに依存しているのかもしれないと思いこそしても、それを認める気はない。俺に執着している…自分の作り上げた自分にとって都合のいい「シンタロー」像に執着しているこいつには、本物の俺の言葉はもう届かない。俺の気持ちなんてあってもなくても変わらないんだろう。
俺が傷付くことを知らなかった昔と、俺が傷付いたと決め付ける今と、どちらもうっとおしいことに変わりはない。
抱き締められても口付けられても何も感じねェ。ただ、どこか空しいだけで。それが傷付いてるって言うのか?
いつまで続くか分からないこの関係を、俺は終わることを望んでいるのだろうか。続くことを望んでいるのだろうか?
友達だとか親友だとかはとっくに崩壊している。
ただ依存して執着して、こんなのは恋でも愛でもなんでもねェ。
窓からの風に、あいつと同じ色の髪がさらりと揺れた。
「俺はお前の事、最初ッから嫌いなんだよ…これ以上、嫌いはしねェ」
聞こえる筈のない言葉を投げかけて、俺の頬をいつの間にか流れ始めていた滴を手の甲で拭った。
ぽつりと、アラシヤマが呟いた。そんな事俺が聞きたいと口にするか暫く悩み、黙り込んだ。
左手首の火傷がヒリヒリと痛む。本来なら即座に冷やさなければならなかったのだが、そんな暇は与えられなかった。痕が残らなければいいのだが。
「シンタローはんの事好きなんどすけど、愛しとるんどすけど」
俺の顔を見下ろしてはいるのに、俺の瞳を見つめてはいるのに、俺を見ていない。
正気を失っているのかもしれない。それがいつからかなのかは分からないが。
「どないして、傷付ける事しかでけへんのでっしゃろ…」
俺が傷付いている?何を見てそんな事を言うんだ?
それよりも俺は、こいつが傷付いた様な──なんだか寂しそうな、今にも泣き出しそうな子供の様な──そんな表情をしているのが引っ掛かるんだよ。
傷付いてるのは、お前の方なんだろ?…お前が望む通りになったんだろ、それで何で傷付くんだよ。
「──俺は、傷付いてなんかいねェ」
小さく呟くと、アラシヤマは泣きそうな顔を更に歪める。
「シンタローはん、酷く傷付いた顔してはる」
俺は今、感情を押し殺して無表情を装ってるつもりなんだがな。どこを見てそう思うのか、いつもの事だがこいつの思考は分からない。
「怒ってて、泣きそうで、怯えてて、悲しそうな顔してはる」
お前は本当に俺の事を見てるのか?そう問うこともせずに、俺の姿を映しこむアラシヤマの瞳を見つめた。
「嫌いにならんで。嫌わんでおくれやす。わてにはあんさんしかおらんのどす。独りにせんといて。怖いんどす、独りは嫌なんどす。今わてシンタローはんを失のォたら壊れてまう。」
俺に言ってるのか独り言なのか、この距離で辛うじて聞き取れる声でぼそぼそとアラシヤマは言う。
「独りきりはもう耐えられへん。怖いんどす。なァシンタローはん、嫌わんといておくれやす…」
縋るように。
「ホンマは傷付けたくなんかないんどす。シンタローはんには笑うていて欲しいんどす」
釈明するように。
「見捨てんといて。嫌わんで。堪忍どす、すんまへん、謝りますから…ッ」
懺悔するように。
「…だから、傷付いてなんかねーつってんだろ…」
傷付いたのは心じゃない。ただ、身体に傷を負っただけだ。
俺に覆い被さっていた身体を、馬乗りの状態で上体だけ起こしたアラシヤマは、やっと俺から視線をはずして
「シンタローはんに嫌われとォないんどす…捨てんといておくれやす…見捨てんといて…」
空を見つめ、語尾が少しずつ小さくなっていきながらも、口の中で未だ何か言っているが俺にはもう聞こえなかった。
俺が止めないと、アラシヤマはいつまでもこのままだ。
「…早く帰れよ。パプワ達が帰ってくるだろ」
俺の声がやっと耳に入って、怯えた目で俺を見た。後悔する位なら、何もしなきゃいいんだよ。
「シンタローはんの身体が心配で帰れまへん」
「お前と一緒に居るところなんか見られたくねーんだよ」
俺の言葉にはっとして、また表情を歪める。ホラ、傷付いた顔をしてるのはお前の方じゃねーか。
「……そうどすか」
アラシヤマが、俺の身体を優しく抱き締めて肩に顔を埋めた。抵抗する気も起きず、黒髪を無言で睨みつける。
パプワとチャッピーはリキッドを連れて遊びに行った。夕飯の食材をついでに調達してくるとは言っていたが、いつ帰ってくるか分からないこの状況で、こいつを甘やかす気は起きない。手首の火傷の痛みに多少眉を顰めながら、眼魔砲の構えを取った。
「早くどっか去れつってんの、わかんねーの?」
意識を集中させて、光の粒子が形を成していく。そこでやっとアラシヤマは身体を離して立ち上がった。
「せやったら、トージくんとこに帰りますわ…」
のろのろと下げていたズボンを上げて、腰布を巻き付ける。それを見ながら掌の光を四散させた。
「すんまへん……愛してます…」
口にするだけなら簡単な言葉を告げて、扉をくぐるアラシヤマを見届けて、散らばっていたタンクトップで汗を拭う。新しいものに着替えればいい。どうせ洗濯はリキッドの仕事だ。右手首にしているリストバンドを、左手首に付け替える。押さえ付けられた火傷が痛むが、見つかって理由を問われるよりマシだ。
これで、六度目。
何度も同じ事を繰り返しては泣いているアラシヤマを、捨てることが出来ないでいる俺も同罪なんだろうか。
…俺はただ、下手に火傷を増やしたくないだけだ。
青の一族を騙す為の影として作られた俺が、その役目を終えてもそこに存在し続けている現実が息苦しくて、俺を求めるこいつに依存しているのかもしれないと思いこそしても、それを認める気はない。俺に執着している…自分の作り上げた自分にとって都合のいい「シンタロー」像に執着しているこいつには、本物の俺の言葉はもう届かない。俺の気持ちなんてあってもなくても変わらないんだろう。
俺が傷付くことを知らなかった昔と、俺が傷付いたと決め付ける今と、どちらもうっとおしいことに変わりはない。
抱き締められても口付けられても何も感じねェ。ただ、どこか空しいだけで。それが傷付いてるって言うのか?
いつまで続くか分からないこの関係を、俺は終わることを望んでいるのだろうか。続くことを望んでいるのだろうか?
友達だとか親友だとかはとっくに崩壊している。
ただ依存して執着して、こんなのは恋でも愛でもなんでもねェ。
窓からの風に、あいつと同じ色の髪がさらりと揺れた。
「俺はお前の事、最初ッから嫌いなんだよ…これ以上、嫌いはしねェ」
聞こえる筈のない言葉を投げかけて、俺の頬をいつの間にか流れ始めていた滴を手の甲で拭った。
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「おとーさまッ」
その日マジックが一番最初に耳にした声は、愛しの息子の一人のものだった。
元総帥の、ガンマ団本部内にある私室のドアがノックされ、開くと同時に覗き込むように中を窺う息子に続き、甥も後ろから、あまり笑うことのない彼なりに精一杯の笑顔を見せ肩を並べた。
「お誕生日おめでとう、おとーさま」
「おめでとう、マジック叔父貴」
そう言って、差し出される花束とプレゼントの包みを、部下の前では見せないような満面の笑顔で受け取り、謝礼を口にしようと開いた口唇が言葉を発する前に、慌てた様子の部下の言葉にそれが遮られる。
「失礼ですがマジック様、お時間の方が迫っていますのでお急ぎく下さい」
廊下からかけられた声に慌てて時計を振り返れば、デジタルの数字は最早一時の余裕もない事実を示して
「──有難う、グンちゃん、キンちゃん。」
それだけを告げ、一人ずつ抱擁し頬に口付け、プレゼントを抱えたまま飛空艦の発着場へと足を向けた。
◆12130005
(シンタロー、来てくれなかったな…)
殆ど揺れることの無い空の道のりの道中に、マジックの心に浮かぶことはそればかり。
三人いる息子のうち、一人は数年間眠り続けていて、そして一人は先程祝いの言葉をくれた。
ただ一人いる甥ですら、息子と一緒に祝ってくれた。二人とも決して暇ではないはずなのに。
…けれど問題は、最後の一人。
今日が何の日かまでは口にしなかったが、今日は一日戻らないことは伝えたけれど──
総帥という立場がどれだけ忙しいものかも知っているし、シンタローがどれだけ意地っ張りなのかも分かっている。それ以前に誕生日を覚えていないかもしれない。
(それでも、一言くらい声をかけて欲しいものなんだけど)
息子が幼い頃を思い返せば、誕生日になれば似顔絵やらお手製肩叩き券やら可愛らしいプレゼントを手にして、”おめでとう、パパ”なんて照れながら口付けてくれたものだというのに。
手にしたお出かけ用シンちゃん人形に視線を落とし、総帥として走り回る息子の姿を重ねた。
人形はこちらを見て微笑んでいるが、そういえばここ暫く本物の笑顔を見ていない。
今までマジックやその前の代、それよりも前からずっと続いてきたガンマ団の体制を大きく変えようとしている息子の姿は、とても重いものをその背に背負う、男のものに変わっていく。
それでも、何があっても、いくつ年を重ねても親子であることは変わりないのに、距離が少しずつ広がっていく。
…それが寂しくて、溜息を小さく吐いた。
けれど、いつまでもそう沈んでいる場合ではない。今日一日、過酷なスケジュールが待ち構えているのだから。
そう思うとマジックは、総帥だった頃のような、厳格な面持ちで顔を上げた。
沢山のファンの笑顔と祝福とプレゼントに埋もれる形で、マジックファンクラブの公式バースデーイベントは無事に幕を閉じ、夜も更けた頃にタッチパネルを操作しプライベートルームのロックを解除するその手は疲労に小さく震えていた。
それでも一人になるまでは疲れを表に出さず、部屋に踏み出し──
「……よぉ。」
──踏み出したところで、足を止める。
応接間の大きな赤いソファに腰掛ける、同じく赤い軍服を身に着けた黒髪の青年が、ひらりと片手を上げた。
「…どこ行ってたんだよ?」
「いや、あの、シンちゃん……パパ今日は一日忙しいって言ってたよね?」
問いに問いで返すと、青年は不機嫌そうな表情で睨みつけ返す。
そして無言で立ち上がり、足を止めたままのマジックに歩み寄って枕ほどの大きさの何かを押し付けた。
「……これは?」
「プレゼントだよ。わざわざ聞くなッ」
更に不機嫌そうにそっぽを向いて、そのまま言い難そうに口を動かし、小さくぽつりと言葉を続ける。
「…誕生日だろ、今日。……おめでと」
衝動的に包みごとその身を抱き締められ、青年が押し付けられた身体に添えるように掌を翳すと、やっとその抱擁が終わる。
「有難う、シンちゃん。…開けてもいいかな?」
「…勝手にしろよ。もう親父のだし。」
その黒い包みを開くと、中には白いエプロンが一着丁寧に畳まれて姿を現す。
「……それでたまには、カレー作ってくれよ。今度俺が暇なときにでも食いに来るから」
嬉しそうに、逞しく衰えを知らない体にそれを当ててみたりしているマジックは、目線を逸らし頭を掻いて、ほんのりと頬を染めて現総帥が言ったそれに、笑顔で頷いてそのままエプロンを着け始める。
「じゃ、今から作ろうか。シンちゃんの大好きなお肉たっぷりでのカレー。」
「いや、別に今じゃなくても…誕生日にンなもん作ってくれなくてもいいって」
「大丈夫。……ほら」
言って、指差した壁掛け時計の数字を見て、シンタローも薄く笑顔を浮かべた。
「0時5分、か」
「誕生日はちゃんとお祝いしてもらったし、今度はパパが返す番だよ」
その日マジックが一番最初に耳にした声は、愛しの息子の一人のものだった。
元総帥の、ガンマ団本部内にある私室のドアがノックされ、開くと同時に覗き込むように中を窺う息子に続き、甥も後ろから、あまり笑うことのない彼なりに精一杯の笑顔を見せ肩を並べた。
「お誕生日おめでとう、おとーさま」
「おめでとう、マジック叔父貴」
そう言って、差し出される花束とプレゼントの包みを、部下の前では見せないような満面の笑顔で受け取り、謝礼を口にしようと開いた口唇が言葉を発する前に、慌てた様子の部下の言葉にそれが遮られる。
「失礼ですがマジック様、お時間の方が迫っていますのでお急ぎく下さい」
廊下からかけられた声に慌てて時計を振り返れば、デジタルの数字は最早一時の余裕もない事実を示して
「──有難う、グンちゃん、キンちゃん。」
それだけを告げ、一人ずつ抱擁し頬に口付け、プレゼントを抱えたまま飛空艦の発着場へと足を向けた。
◆12130005
(シンタロー、来てくれなかったな…)
殆ど揺れることの無い空の道のりの道中に、マジックの心に浮かぶことはそればかり。
三人いる息子のうち、一人は数年間眠り続けていて、そして一人は先程祝いの言葉をくれた。
ただ一人いる甥ですら、息子と一緒に祝ってくれた。二人とも決して暇ではないはずなのに。
…けれど問題は、最後の一人。
今日が何の日かまでは口にしなかったが、今日は一日戻らないことは伝えたけれど──
総帥という立場がどれだけ忙しいものかも知っているし、シンタローがどれだけ意地っ張りなのかも分かっている。それ以前に誕生日を覚えていないかもしれない。
(それでも、一言くらい声をかけて欲しいものなんだけど)
息子が幼い頃を思い返せば、誕生日になれば似顔絵やらお手製肩叩き券やら可愛らしいプレゼントを手にして、”おめでとう、パパ”なんて照れながら口付けてくれたものだというのに。
手にしたお出かけ用シンちゃん人形に視線を落とし、総帥として走り回る息子の姿を重ねた。
人形はこちらを見て微笑んでいるが、そういえばここ暫く本物の笑顔を見ていない。
今までマジックやその前の代、それよりも前からずっと続いてきたガンマ団の体制を大きく変えようとしている息子の姿は、とても重いものをその背に背負う、男のものに変わっていく。
それでも、何があっても、いくつ年を重ねても親子であることは変わりないのに、距離が少しずつ広がっていく。
…それが寂しくて、溜息を小さく吐いた。
けれど、いつまでもそう沈んでいる場合ではない。今日一日、過酷なスケジュールが待ち構えているのだから。
そう思うとマジックは、総帥だった頃のような、厳格な面持ちで顔を上げた。
沢山のファンの笑顔と祝福とプレゼントに埋もれる形で、マジックファンクラブの公式バースデーイベントは無事に幕を閉じ、夜も更けた頃にタッチパネルを操作しプライベートルームのロックを解除するその手は疲労に小さく震えていた。
それでも一人になるまでは疲れを表に出さず、部屋に踏み出し──
「……よぉ。」
──踏み出したところで、足を止める。
応接間の大きな赤いソファに腰掛ける、同じく赤い軍服を身に着けた黒髪の青年が、ひらりと片手を上げた。
「…どこ行ってたんだよ?」
「いや、あの、シンちゃん……パパ今日は一日忙しいって言ってたよね?」
問いに問いで返すと、青年は不機嫌そうな表情で睨みつけ返す。
そして無言で立ち上がり、足を止めたままのマジックに歩み寄って枕ほどの大きさの何かを押し付けた。
「……これは?」
「プレゼントだよ。わざわざ聞くなッ」
更に不機嫌そうにそっぽを向いて、そのまま言い難そうに口を動かし、小さくぽつりと言葉を続ける。
「…誕生日だろ、今日。……おめでと」
衝動的に包みごとその身を抱き締められ、青年が押し付けられた身体に添えるように掌を翳すと、やっとその抱擁が終わる。
「有難う、シンちゃん。…開けてもいいかな?」
「…勝手にしろよ。もう親父のだし。」
その黒い包みを開くと、中には白いエプロンが一着丁寧に畳まれて姿を現す。
「……それでたまには、カレー作ってくれよ。今度俺が暇なときにでも食いに来るから」
嬉しそうに、逞しく衰えを知らない体にそれを当ててみたりしているマジックは、目線を逸らし頭を掻いて、ほんのりと頬を染めて現総帥が言ったそれに、笑顔で頷いてそのままエプロンを着け始める。
「じゃ、今から作ろうか。シンちゃんの大好きなお肉たっぷりでのカレー。」
「いや、別に今じゃなくても…誕生日にンなもん作ってくれなくてもいいって」
「大丈夫。……ほら」
言って、指差した壁掛け時計の数字を見て、シンタローも薄く笑顔を浮かべた。
「0時5分、か」
「誕生日はちゃんとお祝いしてもらったし、今度はパパが返す番だよ」
瞼を開き、視界に入る白いタイルの天井の意味が分からなかった。
夜ベッドへ入り朝目が覚めるのとはわけが違うのだ。
なぜ、目が覚めたんだろうか。
あの日の続き
全身が酷く重い。左手を上げ、寝惚けた瞼を擦るのすら億劫だ。肌に触れる腕の感触がどこかおかしく、よく見てみれば真白の包帯がよれてしまっていた。
体を起こさず辺りを見回せばそれと同じ白、白。完璧な清潔感が嘘くさく、夢の中にいるようだった。
「失敗して…してもうたんかな」
今こうして生きているということは、つまりそういうことでしかない。命を、しかも自分以外の仲間の命まで賭したあの戦いに負けてしまったのだろう。
「最後にほんのちぃとだけ、また笑た顔がみたいとか思うてしもたからあかんかったんやろか」
自分では声を発しているつもりだが、きちんとそれが音になっているかも怪しい。
喉はからからに渇き、呼吸が痛い。
「そんで失敗してもうたらなんの意味もあらへんのに」
指先に力を篭め、軽く握ってみた。小さな震えが走る。そんなことはお構いなしに手を突き腰を曲げ上体を起こした。ここはどこで、結局どうなって──あの人は、どうなったのだろう。
「は」
吐いた溜息と共に、声が漏れた。それに、ははは、と掠れた笑い声が続き、重い右手で俯いた額を押さえた。
──しもた。ああクソ、人生最大の失敗や。
今度の言葉はもう完全に発されておらず、どこか壊れたように繰り返される笑いに掻き消され、さして広くもない部屋に響くことなく消えた。
両目で見える部屋中の白が眩しい。右目を覆うように伸ばしていた前髪の気配がなく、指先に短く揃えられた毛先が触れる。誰に切られたのだろう、やはり師だろうか? 見ていてうっとおしいだの視界を狭めるなだのと散々言われた記憶をなぞって見て、それを言った〝師〟であったマーカーの表情を思い出してみれば、最後にみた顔と違わないものに思えた。
人の気配を感じぷつりと「は」の連続音が途切れ、再び静寂が辺りを包む。振り向いてみると見覚えの無い白衣の男が──いや、見覚えはあった。その顔でなく服装は、あまり利用することもないガンマ団の医療練にいた──それが、こちらを見て驚愕を浮かべ、慌てて立ち去る。
「……失礼な奴どすな」
ふん、とまた前を見る。閉ざされた白いカーテンが、風になびいて、ふわりと揺れた。
静寂と孤独、白い病室、これだけでは何も理解が出来ない。どうなったのだろう、あの人は。ただそれだけが気がかりで、幾つもの最悪のパターンを頭に描いているうちに、それはばたばたとした足音であろう騒音に掻き消される。
「うわ、ほんとにアラシヤマさ生き返ってっべ」
「じゃけぇ言うたじゃろう。寝とけば治る」
「そげなんはコージくらいだっちゃ」
あの島で、嫌と言うほど聞いた同僚達の声──自爆に巻き込んだはずの、三人の声。あの炎の中心に居た自分が無事なのだから、彼らが無事なのは道理だ。振り向かずともベッドを取り囲まれ、見慣れぬデザインの新しい軍服に身を包んだ三人の誰にともなく、ぽつりと囁く。
「……シンタローはん、は」
「ああ、アイツんことじゃけどものう…」
コージが頬を人差し指で掻きながら、言い難そうにそう零す。
「シンタローはんは生きてはるん? シンタローはんは怪我はしてへん? シンタローはんは」
シンタローはんシンタローはんと連呼しながら、真正面に陣取っていたコージへ詰め寄ろうとすれば、点滴のチューブや何やら分からない機械に繋がったコードと、残りの二人に取り押さえられる。
「おめ、今無茶さしっだら傷が開くべ」
「開口一番それなんだらぁな…」
呆れたような両脇の二人の言葉と、返ってこない答えが苛立ちを煽り、内から上がりそうな炎を何とか鎮める。
「シンタローはんは」
「…俺がどーしたって?」
興奮のせいだろうか、気配に気が付かず、かけられた声に振り返れば、真紅の軍服に下ろした黒い髪の、その人の姿があった。
「いや、連絡しちょーてもなかなか繋がらんかったけぇ、来んの遅うなりそうじゃて説明しちょーところで…」
「あんさん、それ…」
デザインは多少違うが、それはマジック総帥が身を包んでいた軍服と酷似した、団の頂点を指す赤。振り返った姿勢のままのアラシヤマを気遣ってか、隣へとゆっくり歩む。コツコツと、総帥と同じ硬い軍靴の音。
「…ホントにまだ生きてやがったんだな。ま、二回死んだ俺の方がよっぽどなんだけどよ」
言って笑う姿は、あの島で見ていたものと同じ。最後に見たいと思ったその笑顔。手を伸ばせば、やはり医療器具へ拘束されているようなコードに阻まれ、届かなかった。
「俺、団継ぐことにしたから。まだ正式に就任はしてねーんだけどヨ」
膝の上に置き直した、届かなかった手のように、また、届かない。昔から追いかけていたその背中、やっと並べたと思っていた肩、それがまた、一気に遠ざかった。
「シンタローはんが、総帥に?」
「そー。オメーが寝込んでる間に決めたことだ。団全体もそれに向けて動き出してる。」
もう、届かない場所へ行ってしまったのだ。どこかで違えた選択肢のせいで。
昔着ていた青い軍服に無造作に纏めた髪よりも、今の紅い軍服に広がる黒髪の方が、真新しい光景であるはずなのに何故かしっくりくるものがある。彼の決意は固いのだろう。そこに、もう届くことは叶わないほどに。
「だから早く回復しろよ、意識が戻ったんなら」
遠ざかっていた意識が引き戻される。話の前後が繋がらない。
「お前も──四人纏めて一気に昇格だ。俺の周りは信頼できる奴で固めとかなきゃなんねぇからな」
「それ、て」
「僕ら纏めて総帥直属だっちゃよ」
トットリの言葉に、何となく話が見えてきた。だから、今までと違う軍服に身を固めていたのか。
「わては、シンタローはんの直属の部下になるんどすか」
「…いつまで寝惚けてんだよ。そーいうことだそーいうこと」
「届かなくなったわけや、ないんや…」
下ろした視線の先の拳を、ぎゅ、と握り締めた。
「は?」
「せやったら、早ぉ体調整えて、いくらでもあんさんの下に居りますわ」
十分に届く位置に、彼はいるのだ。選択肢は、何一つ違えてはいなかった。
しっかりと、決意する。届くのなら、手を伸ばせばいい。肩を並べるのならば、追いつけばいい。視線を上げシンタローを見て、アラシヤマは薄く笑みを浮かべた。
「ガンマ団ナンバー2の呼び名は伊達やあらしまへんえ。しっかりと、こき使うとくれやす」
夜ベッドへ入り朝目が覚めるのとはわけが違うのだ。
なぜ、目が覚めたんだろうか。
あの日の続き
全身が酷く重い。左手を上げ、寝惚けた瞼を擦るのすら億劫だ。肌に触れる腕の感触がどこかおかしく、よく見てみれば真白の包帯がよれてしまっていた。
体を起こさず辺りを見回せばそれと同じ白、白。完璧な清潔感が嘘くさく、夢の中にいるようだった。
「失敗して…してもうたんかな」
今こうして生きているということは、つまりそういうことでしかない。命を、しかも自分以外の仲間の命まで賭したあの戦いに負けてしまったのだろう。
「最後にほんのちぃとだけ、また笑た顔がみたいとか思うてしもたからあかんかったんやろか」
自分では声を発しているつもりだが、きちんとそれが音になっているかも怪しい。
喉はからからに渇き、呼吸が痛い。
「そんで失敗してもうたらなんの意味もあらへんのに」
指先に力を篭め、軽く握ってみた。小さな震えが走る。そんなことはお構いなしに手を突き腰を曲げ上体を起こした。ここはどこで、結局どうなって──あの人は、どうなったのだろう。
「は」
吐いた溜息と共に、声が漏れた。それに、ははは、と掠れた笑い声が続き、重い右手で俯いた額を押さえた。
──しもた。ああクソ、人生最大の失敗や。
今度の言葉はもう完全に発されておらず、どこか壊れたように繰り返される笑いに掻き消され、さして広くもない部屋に響くことなく消えた。
両目で見える部屋中の白が眩しい。右目を覆うように伸ばしていた前髪の気配がなく、指先に短く揃えられた毛先が触れる。誰に切られたのだろう、やはり師だろうか? 見ていてうっとおしいだの視界を狭めるなだのと散々言われた記憶をなぞって見て、それを言った〝師〟であったマーカーの表情を思い出してみれば、最後にみた顔と違わないものに思えた。
人の気配を感じぷつりと「は」の連続音が途切れ、再び静寂が辺りを包む。振り向いてみると見覚えの無い白衣の男が──いや、見覚えはあった。その顔でなく服装は、あまり利用することもないガンマ団の医療練にいた──それが、こちらを見て驚愕を浮かべ、慌てて立ち去る。
「……失礼な奴どすな」
ふん、とまた前を見る。閉ざされた白いカーテンが、風になびいて、ふわりと揺れた。
静寂と孤独、白い病室、これだけでは何も理解が出来ない。どうなったのだろう、あの人は。ただそれだけが気がかりで、幾つもの最悪のパターンを頭に描いているうちに、それはばたばたとした足音であろう騒音に掻き消される。
「うわ、ほんとにアラシヤマさ生き返ってっべ」
「じゃけぇ言うたじゃろう。寝とけば治る」
「そげなんはコージくらいだっちゃ」
あの島で、嫌と言うほど聞いた同僚達の声──自爆に巻き込んだはずの、三人の声。あの炎の中心に居た自分が無事なのだから、彼らが無事なのは道理だ。振り向かずともベッドを取り囲まれ、見慣れぬデザインの新しい軍服に身を包んだ三人の誰にともなく、ぽつりと囁く。
「……シンタローはん、は」
「ああ、アイツんことじゃけどものう…」
コージが頬を人差し指で掻きながら、言い難そうにそう零す。
「シンタローはんは生きてはるん? シンタローはんは怪我はしてへん? シンタローはんは」
シンタローはんシンタローはんと連呼しながら、真正面に陣取っていたコージへ詰め寄ろうとすれば、点滴のチューブや何やら分からない機械に繋がったコードと、残りの二人に取り押さえられる。
「おめ、今無茶さしっだら傷が開くべ」
「開口一番それなんだらぁな…」
呆れたような両脇の二人の言葉と、返ってこない答えが苛立ちを煽り、内から上がりそうな炎を何とか鎮める。
「シンタローはんは」
「…俺がどーしたって?」
興奮のせいだろうか、気配に気が付かず、かけられた声に振り返れば、真紅の軍服に下ろした黒い髪の、その人の姿があった。
「いや、連絡しちょーてもなかなか繋がらんかったけぇ、来んの遅うなりそうじゃて説明しちょーところで…」
「あんさん、それ…」
デザインは多少違うが、それはマジック総帥が身を包んでいた軍服と酷似した、団の頂点を指す赤。振り返った姿勢のままのアラシヤマを気遣ってか、隣へとゆっくり歩む。コツコツと、総帥と同じ硬い軍靴の音。
「…ホントにまだ生きてやがったんだな。ま、二回死んだ俺の方がよっぽどなんだけどよ」
言って笑う姿は、あの島で見ていたものと同じ。最後に見たいと思ったその笑顔。手を伸ばせば、やはり医療器具へ拘束されているようなコードに阻まれ、届かなかった。
「俺、団継ぐことにしたから。まだ正式に就任はしてねーんだけどヨ」
膝の上に置き直した、届かなかった手のように、また、届かない。昔から追いかけていたその背中、やっと並べたと思っていた肩、それがまた、一気に遠ざかった。
「シンタローはんが、総帥に?」
「そー。オメーが寝込んでる間に決めたことだ。団全体もそれに向けて動き出してる。」
もう、届かない場所へ行ってしまったのだ。どこかで違えた選択肢のせいで。
昔着ていた青い軍服に無造作に纏めた髪よりも、今の紅い軍服に広がる黒髪の方が、真新しい光景であるはずなのに何故かしっくりくるものがある。彼の決意は固いのだろう。そこに、もう届くことは叶わないほどに。
「だから早く回復しろよ、意識が戻ったんなら」
遠ざかっていた意識が引き戻される。話の前後が繋がらない。
「お前も──四人纏めて一気に昇格だ。俺の周りは信頼できる奴で固めとかなきゃなんねぇからな」
「それ、て」
「僕ら纏めて総帥直属だっちゃよ」
トットリの言葉に、何となく話が見えてきた。だから、今までと違う軍服に身を固めていたのか。
「わては、シンタローはんの直属の部下になるんどすか」
「…いつまで寝惚けてんだよ。そーいうことだそーいうこと」
「届かなくなったわけや、ないんや…」
下ろした視線の先の拳を、ぎゅ、と握り締めた。
「は?」
「せやったら、早ぉ体調整えて、いくらでもあんさんの下に居りますわ」
十分に届く位置に、彼はいるのだ。選択肢は、何一つ違えてはいなかった。
しっかりと、決意する。届くのなら、手を伸ばせばいい。肩を並べるのならば、追いつけばいい。視線を上げシンタローを見て、アラシヤマは薄く笑みを浮かべた。
「ガンマ団ナンバー2の呼び名は伊達やあらしまへんえ。しっかりと、こき使うとくれやす」
+++真夏の楽園+++
「懐かしいぜ、この感じ。」
四年ぶりにパプワ島に立ったシンタローの第一声はそれだった。
『シンタローさーん!!!!!』
地響きとともに、懐かしくもあまり聞きたくなかった二匹の声を聞いてしまった。
「あら?おかしいわね、確かにシンタローさんの匂いを感じて
ここまで来たんだけど…。」
そう言ったのは巨大カタツムリのイトウ君だった。
「それに、見ない顔だけど、アナタ、どちら様?」
そう言って、シンタローに話し掛けてきたのは鯛のタンノ君だ。
「…ほんっとにかわんねぇナおめーら。」
呆れてそう呟くシンタロー。
「何よその言い草ー。はっ!さてはアナタ、私達とシンタローさんを引き裂くために
彼を光速で隠したのね!て、ことはもしかして恋敵なの!?」
そういちゃもんをつけたのはイトウだった。
「何てことなの!?いきなり出てきてそんなのないわ!彼の匂いはまだすっごい
近くにあるんだから早く彼を出しなさいよー!」
それに便乗して騒ぎだすタンノ。
「眼魔砲!!!!!!!」
ちゅどーん!!!!!
二匹の変態生物に騒がれて、ただでさえ短い堪忍袋の尾が切れた
シンタローはあっさり溜め無し眼魔砲を繰り出す。
眼魔砲にぶちあたってプスプスと黒い煙を出しながら
イトウは呟く。
「懐かしいわ、溜め無し眼魔砲…って、ことはもしかしてアナタ」
「シンタローさん…なの?」
続けてタンノが呟く。
「ああ、そーだよ。あのクソっ玉のおかげでな。」
ややヤケ気味にそう答えるシンタロー。
「ああ、何てことなのシンタローさん。あんなにたくましかったアナタの胸が今は
こんなにやわらかそう…」
大げさに嘆きだすイトウ。
「で、でも大丈夫よシンタローさん。」
タンノがそうシンタローに切りだす。
「…この忌まわしい呪いをとく方法を知ってんのか?!」
「やぁねぇ、昔から決まってるじゃない、そういう呪いは愛する人の
キスで戻るものなのよー」
そう答えるタンノ。
「…へぇ、それで?」
この先の展開が読めてきたシンタローはあきらめ半分に聞き返した。
「さぁ、私の熱い愛のキッスで呪いを解いてあ、げ、る…」
「あぁ、ずるい抜け駆けだわタンノちゃん!アタシもアタシも…」
そう言ってまたしても迫り来る変態生物達。
「おとといきやがれ、変態ナマモノ共!!!!!」
そう叫ぶとまたしても溜め無し眼魔砲を二匹にお見舞いするシンタローだった。
そんな騒ぎをしていたところに後ろからシンタローへ声をかける者があった。
「帰ってきたんだね…シンタローさ…?」
そう言って飛びつこうとしたエグチ君とナカムラ君は彼の姿を見て静止してしまった。
何故なら、確かに懐かしい彼の匂いをさせながら振り向いた
その人は女性だったからだ。
「あー…こんな体になってからわかんねぇかもしんねぇけど、俺はシンタローだよ。
エグチ君、ナカムラ君。それにみんな、久しぶりだな元気にしてたか。」
そう言ってシンタローは集まってきた島のみんなに笑いかける。
『お帰り!シンタローさーん!!!!!』
その笑顔に安心してか、二匹の胸キュンアニマルを筆頭に
島のみんながシンタローの帰還を喜ぶ。
「おい、ムツゴロウ…いや、シンタロー」
「素でボケるな、キンタロー。」
キンタローのボケにすかさず突っ込むシンタロー。
「再会を喜びあうのはいいが早めに用件を済ませるのを忘れんでくれ。
俺達がここに滞在できる時間は限られているんだ。」
そういうと、キンタローはシンタローに現状を説明した。
「…とにかく、時間がないってことはわかった。早ぇとこコタロー探すか。
おーい、コタロー!!!!!おにーちゃんだぞーー!!!!!」
「シンタロー、今のお前は正しくは『お姉ちゃん』だ。いいか、女兄弟は…」
「二度言うな!!!!!俺は誰が何といおうとコタローのにいちゃんだよ!!!!」
すかさず突っ込んだキンタローにむきになってそう返すシンタロー。
「おーい、コーター…「その名前、言っちゃアカーン!!!!!!」
一心不乱にコタローの名前を叫びつづけるシンタローに、
そう叫びながら、リキッドは彼女に飛びついた。
「うわっ!!!!!」
後ろから突然飛びついてきたリキッドに、シンタローは不覚にも
引き倒されてしまった。
「シンタロー!!!!!」
突然のことに、キンタローも驚き声を上げる。
「…あれ?なんだこの柔らかい感触は…。」
以下、リキッドの心の叫び。
今、ガンマ団新総帥の名前で呼ばれてたよな、この人。
でもこの柔らかい感触は…乳…チチ?胸がある!!!!(しかも柔らかい)
て、オンナの人???
ちょと待て落ち着けよ俺。
ガンマ団新総帥はマジック総帥の息子のシンタローだよな?
何度か垣間見た程度に会った事あるけどあの人歴記とした男だったよな?
でもこの感じは確かにホンマモンの女性特有の胸の膨らみだし(しかも結構でかい。)
え?え?え?一体どういう……。
「てめぇ、いい加減はなしやがれーーーーー!!!!!」
ショックでややトリップしていたリキッドに、男にとっての急所にあたる股間を
容赦無く蹴り上げるシンタロー。
「いぎゃーーーーーー!!!!!」
リキッドが断末魔の叫びを上げながら悶絶する。
痛みにのたうちまわっているリキッドのド頭に、シンタローは容赦無く
踵落しをくれてやると、そのまま踏みつける。
「この忌まわしい身体にされて不覚にも三年になるがな…。出会い頭に胸つかまれることは
あっても、流石に揉んできたのはてめぇが初めてだよ。逝く覚悟できてんだろぉな?アぁ??」
「ああ…俺、無意識のうちにそんな嬉しいことしちゃってたの?通りで気持ちイイわけ…」
今だにちょっとトリップ気味なのかリキッドがそう呟く。
「戯言は済んだか。じゃぁ逝け、今すぐに!!…って、お前、確か特選部隊のリキッドだな?
ってことはハーレムの差し金か、てめぇ。」
「違うっス!!俺はこの島の番人で特選部隊とは…」
「…あのクソ獅子舞。てめぇの部下使ってまでセクハラとは上等じゃねぇか。」
言い募ろうとするリキッドを無視してシンタローは誤解したまま事実を曲解する。
「は?あの何か勘違いしてるみたいっスけど……。」
「おお、おお、久々に会ったが相変わらず現状は変わってねーみたいだな。
ガンマ団のお嬢様?」
さらに言い募ろうとしたところで後ろから特選部隊隊長、ハーレムが現れる。
「誰がお嬢様だ!!!!!てめぇこそまだ生きてたのかよアル中。
こんなとこに来てまで部下使ってセクハラとは相変わらず姑息なエロ親父だなぁ?おい。」
曲解したままのシンタローはハーレムにそう言って食って掛かる。
「なーに勘違いしてんだ?だがあんなチェリーボーイのつたない技でもしっかり感じてんだろ?
なんせその身体は俺様が調教した身体だからな。俺がいない間もちゃんと寝技鍛えてたか?」
シンタローの嫌がる言葉を選んでハーレムはそう言う。
そんなハーレムに無言のままシンタローは彼の頭を狙って後ろ回し蹴りを繰り出す。
寸でのところでハーレムはそれを受ける。
だが、受けたその腕は痺れていた。
「…アンタの忠告はしっかり受け取ったよ。ちゃんと鍛えてたさ。アンタの言う
下品な技じゃなくて体術の方を基礎からみっちりとな。」
三年前に突然女性化してしまったシンタローは女性体となったせいで
筋肉がつきにくい体質になってしまった。
そのために、合気道を中心に、もう一度身体を鍛えなおしたのだった。
総帥としての激務の合間に。
幸いにも仕官学校時代から体術は得意だったから知識としては十分だった。
「はっ、相変わらず負けず嫌いだな。だが、半年前のあの事件、忘れたわけじゃねぇだろ?」
ハーレムがそう言うと、シンタローの目つきが変わった。
「それぐらいにしてもらおうか、ハーレム叔父貴。それは今話題にするには場所が悪すぎる。
…力不足だったのはシンタローだけじゃないはずだ。俺や貴方を含めてな。」
二人の間に入り、シンタローを庇うようにそう言うキンタロー。
「てめーも相変わらずかキンタロー。」
そんな様子に溜息を吐きながら呟くハーレム。
「当然だ。俺以外に誰がシンタローを止めつつ補佐できるヤツがいる。」
不敵に笑いながらそう言うキンタロー。
そんなキンタローに、ハーレムは彼にだけ聞こえるように囁く。
「前にも一度忠告したはずだ。そんな調子じゃアイツにゃ一生伝わらねぇってな。」
「…俺は貴方やマジック伯父貴とは違う。そんな愛し方をしたいわけじゃないんだ。」
そうキンタローは返した。
勿論、ハーレムにしか聞こえないように。
目まぐるしく展開していく目の前の現状に、
自分がチェリーだという発言に反論する暇もなく眺めていたリキッドが、
『ロタロー』に関してシンタローと一触即発するのはこのすぐ後だった。
「しかし、ちょっと会わない間に随分縮んだな、シンタロー。」
コタローがシンタローの総帥服を見て力を暴走させ、さらにそれをパプワが
止めた後のことだった。
「うるせー。コレもみんな、あのクソッ玉のせいだよ。」
溜息を吐きながらそうぼやくシンタロー。
「それに胸だってこんなに柔らかくなかったぞ。」
そう言うと、いつの間にか座り込んでいるシンタローの懐に入って、
パプワはその胸をポンポンと触る。
「あ、あのな、パプワ。今俺は一時的に女の身体になってから言うけど、
普通、女の人の胸にいきなり触るのはしちゃいけないことなんだぞ?」
顔を赤らめ、『一時的に』という部分を強調しながら
シンタローはパプワに説く。
生まれてこの方、異性の大人(ウマ子を除き)に会ったことの無いパプワは知らなくて
当然といえば当然のことを。
「そーだよ、パプワ君。女の人にそんなことするのは失礼だよ。」
ひょっこり顔を出したロタローが口添えする。
「…なんなら君も触ってみるかい?」
そんなロタローに、ちょっとトリップ気味に鼻血を垂らしながらそう言うシンタロー。
「止めろ!!!!シンタロー!幾らなんでもそれは犯罪だぞ!!!!逆セクハラだ!!!!!
いいか、セクシャルハラスメントだぞ!!!!!」
やや錯乱気味にキンタローがトリップ気味に危ないことを言い出したシンタローを
止めに入る。
「チャッピー、餌。」
自力でトリップ世界に旅立ってしまったシンタローに向かって、パプワはチャッピーを
けしかける。
女体化していようがなんであろうが、やはりパプワの躾は容赦なかった。
「あがーーーーー!!!!!」
チャッピーに頭をかじられながら走り回るシンタロー。
「コレで少しは頭に上った血もさがっただろう。」
相変わらずの調子でそう言ってのけるパプワ。
「もう、誰なの?このすぐ流血する女の人は。美人なのに変な人だね。」
危うく女の人の危ない罠にはまりかけたロタローが顔を赤らめながらそう言う。
「あーーーー!もう、なんでもいいからコタローこっちに返せよ、パプワ!」
やっと本来の世界に戻ってきたシンタローがチャッピーを抱きかかえながらそう叫ぶ。
「ダーメ」
そんなシンタローに、あっさりそう切り返すパプワ。
「シンタロー、お前、何でこの島でそんな重たそーな服着てんだ?
そんな服着てたら心まで重たくなるぞ。」
その言葉はシンタローの胸を刺すには十分な言葉だった。
「その服脱いだら、僕の家に遊びに来てもいーからな。」
「バイバーイ。またねー。」
二人のちみっ子はそう言うと帰っていった。
ずっと書きたいと思ってましたがついにやってしまいました。
原作ベースの女化話。この先続きを不定期に連載するつもりです。
半年前の事件云々は裏作った後に入る予定の駄文の複線です(爆)
いやしかし、リキッドが総帥の乳を云々のところはなんとなく
ガッシ●のフ●ルゴレを思い出してしまいました(笑)
(この人の声、PAPUWAのリキッドの声なんですよ(笑))
チチもげ大好きだ!(黙れ。)
「懐かしいぜ、この感じ。」
四年ぶりにパプワ島に立ったシンタローの第一声はそれだった。
『シンタローさーん!!!!!』
地響きとともに、懐かしくもあまり聞きたくなかった二匹の声を聞いてしまった。
「あら?おかしいわね、確かにシンタローさんの匂いを感じて
ここまで来たんだけど…。」
そう言ったのは巨大カタツムリのイトウ君だった。
「それに、見ない顔だけど、アナタ、どちら様?」
そう言って、シンタローに話し掛けてきたのは鯛のタンノ君だ。
「…ほんっとにかわんねぇナおめーら。」
呆れてそう呟くシンタロー。
「何よその言い草ー。はっ!さてはアナタ、私達とシンタローさんを引き裂くために
彼を光速で隠したのね!て、ことはもしかして恋敵なの!?」
そういちゃもんをつけたのはイトウだった。
「何てことなの!?いきなり出てきてそんなのないわ!彼の匂いはまだすっごい
近くにあるんだから早く彼を出しなさいよー!」
それに便乗して騒ぎだすタンノ。
「眼魔砲!!!!!!!」
ちゅどーん!!!!!
二匹の変態生物に騒がれて、ただでさえ短い堪忍袋の尾が切れた
シンタローはあっさり溜め無し眼魔砲を繰り出す。
眼魔砲にぶちあたってプスプスと黒い煙を出しながら
イトウは呟く。
「懐かしいわ、溜め無し眼魔砲…って、ことはもしかしてアナタ」
「シンタローさん…なの?」
続けてタンノが呟く。
「ああ、そーだよ。あのクソっ玉のおかげでな。」
ややヤケ気味にそう答えるシンタロー。
「ああ、何てことなのシンタローさん。あんなにたくましかったアナタの胸が今は
こんなにやわらかそう…」
大げさに嘆きだすイトウ。
「で、でも大丈夫よシンタローさん。」
タンノがそうシンタローに切りだす。
「…この忌まわしい呪いをとく方法を知ってんのか?!」
「やぁねぇ、昔から決まってるじゃない、そういう呪いは愛する人の
キスで戻るものなのよー」
そう答えるタンノ。
「…へぇ、それで?」
この先の展開が読めてきたシンタローはあきらめ半分に聞き返した。
「さぁ、私の熱い愛のキッスで呪いを解いてあ、げ、る…」
「あぁ、ずるい抜け駆けだわタンノちゃん!アタシもアタシも…」
そう言ってまたしても迫り来る変態生物達。
「おとといきやがれ、変態ナマモノ共!!!!!」
そう叫ぶとまたしても溜め無し眼魔砲を二匹にお見舞いするシンタローだった。
そんな騒ぎをしていたところに後ろからシンタローへ声をかける者があった。
「帰ってきたんだね…シンタローさ…?」
そう言って飛びつこうとしたエグチ君とナカムラ君は彼の姿を見て静止してしまった。
何故なら、確かに懐かしい彼の匂いをさせながら振り向いた
その人は女性だったからだ。
「あー…こんな体になってからわかんねぇかもしんねぇけど、俺はシンタローだよ。
エグチ君、ナカムラ君。それにみんな、久しぶりだな元気にしてたか。」
そう言ってシンタローは集まってきた島のみんなに笑いかける。
『お帰り!シンタローさーん!!!!!』
その笑顔に安心してか、二匹の胸キュンアニマルを筆頭に
島のみんながシンタローの帰還を喜ぶ。
「おい、ムツゴロウ…いや、シンタロー」
「素でボケるな、キンタロー。」
キンタローのボケにすかさず突っ込むシンタロー。
「再会を喜びあうのはいいが早めに用件を済ませるのを忘れんでくれ。
俺達がここに滞在できる時間は限られているんだ。」
そういうと、キンタローはシンタローに現状を説明した。
「…とにかく、時間がないってことはわかった。早ぇとこコタロー探すか。
おーい、コタロー!!!!!おにーちゃんだぞーー!!!!!」
「シンタロー、今のお前は正しくは『お姉ちゃん』だ。いいか、女兄弟は…」
「二度言うな!!!!!俺は誰が何といおうとコタローのにいちゃんだよ!!!!」
すかさず突っ込んだキンタローにむきになってそう返すシンタロー。
「おーい、コーター…「その名前、言っちゃアカーン!!!!!!」
一心不乱にコタローの名前を叫びつづけるシンタローに、
そう叫びながら、リキッドは彼女に飛びついた。
「うわっ!!!!!」
後ろから突然飛びついてきたリキッドに、シンタローは不覚にも
引き倒されてしまった。
「シンタロー!!!!!」
突然のことに、キンタローも驚き声を上げる。
「…あれ?なんだこの柔らかい感触は…。」
以下、リキッドの心の叫び。
今、ガンマ団新総帥の名前で呼ばれてたよな、この人。
でもこの柔らかい感触は…乳…チチ?胸がある!!!!(しかも柔らかい)
て、オンナの人???
ちょと待て落ち着けよ俺。
ガンマ団新総帥はマジック総帥の息子のシンタローだよな?
何度か垣間見た程度に会った事あるけどあの人歴記とした男だったよな?
でもこの感じは確かにホンマモンの女性特有の胸の膨らみだし(しかも結構でかい。)
え?え?え?一体どういう……。
「てめぇ、いい加減はなしやがれーーーーー!!!!!」
ショックでややトリップしていたリキッドに、男にとっての急所にあたる股間を
容赦無く蹴り上げるシンタロー。
「いぎゃーーーーーー!!!!!」
リキッドが断末魔の叫びを上げながら悶絶する。
痛みにのたうちまわっているリキッドのド頭に、シンタローは容赦無く
踵落しをくれてやると、そのまま踏みつける。
「この忌まわしい身体にされて不覚にも三年になるがな…。出会い頭に胸つかまれることは
あっても、流石に揉んできたのはてめぇが初めてだよ。逝く覚悟できてんだろぉな?アぁ??」
「ああ…俺、無意識のうちにそんな嬉しいことしちゃってたの?通りで気持ちイイわけ…」
今だにちょっとトリップ気味なのかリキッドがそう呟く。
「戯言は済んだか。じゃぁ逝け、今すぐに!!…って、お前、確か特選部隊のリキッドだな?
ってことはハーレムの差し金か、てめぇ。」
「違うっス!!俺はこの島の番人で特選部隊とは…」
「…あのクソ獅子舞。てめぇの部下使ってまでセクハラとは上等じゃねぇか。」
言い募ろうとするリキッドを無視してシンタローは誤解したまま事実を曲解する。
「は?あの何か勘違いしてるみたいっスけど……。」
「おお、おお、久々に会ったが相変わらず現状は変わってねーみたいだな。
ガンマ団のお嬢様?」
さらに言い募ろうとしたところで後ろから特選部隊隊長、ハーレムが現れる。
「誰がお嬢様だ!!!!!てめぇこそまだ生きてたのかよアル中。
こんなとこに来てまで部下使ってセクハラとは相変わらず姑息なエロ親父だなぁ?おい。」
曲解したままのシンタローはハーレムにそう言って食って掛かる。
「なーに勘違いしてんだ?だがあんなチェリーボーイのつたない技でもしっかり感じてんだろ?
なんせその身体は俺様が調教した身体だからな。俺がいない間もちゃんと寝技鍛えてたか?」
シンタローの嫌がる言葉を選んでハーレムはそう言う。
そんなハーレムに無言のままシンタローは彼の頭を狙って後ろ回し蹴りを繰り出す。
寸でのところでハーレムはそれを受ける。
だが、受けたその腕は痺れていた。
「…アンタの忠告はしっかり受け取ったよ。ちゃんと鍛えてたさ。アンタの言う
下品な技じゃなくて体術の方を基礎からみっちりとな。」
三年前に突然女性化してしまったシンタローは女性体となったせいで
筋肉がつきにくい体質になってしまった。
そのために、合気道を中心に、もう一度身体を鍛えなおしたのだった。
総帥としての激務の合間に。
幸いにも仕官学校時代から体術は得意だったから知識としては十分だった。
「はっ、相変わらず負けず嫌いだな。だが、半年前のあの事件、忘れたわけじゃねぇだろ?」
ハーレムがそう言うと、シンタローの目つきが変わった。
「それぐらいにしてもらおうか、ハーレム叔父貴。それは今話題にするには場所が悪すぎる。
…力不足だったのはシンタローだけじゃないはずだ。俺や貴方を含めてな。」
二人の間に入り、シンタローを庇うようにそう言うキンタロー。
「てめーも相変わらずかキンタロー。」
そんな様子に溜息を吐きながら呟くハーレム。
「当然だ。俺以外に誰がシンタローを止めつつ補佐できるヤツがいる。」
不敵に笑いながらそう言うキンタロー。
そんなキンタローに、ハーレムは彼にだけ聞こえるように囁く。
「前にも一度忠告したはずだ。そんな調子じゃアイツにゃ一生伝わらねぇってな。」
「…俺は貴方やマジック伯父貴とは違う。そんな愛し方をしたいわけじゃないんだ。」
そうキンタローは返した。
勿論、ハーレムにしか聞こえないように。
目まぐるしく展開していく目の前の現状に、
自分がチェリーだという発言に反論する暇もなく眺めていたリキッドが、
『ロタロー』に関してシンタローと一触即発するのはこのすぐ後だった。
「しかし、ちょっと会わない間に随分縮んだな、シンタロー。」
コタローがシンタローの総帥服を見て力を暴走させ、さらにそれをパプワが
止めた後のことだった。
「うるせー。コレもみんな、あのクソッ玉のせいだよ。」
溜息を吐きながらそうぼやくシンタロー。
「それに胸だってこんなに柔らかくなかったぞ。」
そう言うと、いつの間にか座り込んでいるシンタローの懐に入って、
パプワはその胸をポンポンと触る。
「あ、あのな、パプワ。今俺は一時的に女の身体になってから言うけど、
普通、女の人の胸にいきなり触るのはしちゃいけないことなんだぞ?」
顔を赤らめ、『一時的に』という部分を強調しながら
シンタローはパプワに説く。
生まれてこの方、異性の大人(ウマ子を除き)に会ったことの無いパプワは知らなくて
当然といえば当然のことを。
「そーだよ、パプワ君。女の人にそんなことするのは失礼だよ。」
ひょっこり顔を出したロタローが口添えする。
「…なんなら君も触ってみるかい?」
そんなロタローに、ちょっとトリップ気味に鼻血を垂らしながらそう言うシンタロー。
「止めろ!!!!シンタロー!幾らなんでもそれは犯罪だぞ!!!!逆セクハラだ!!!!!
いいか、セクシャルハラスメントだぞ!!!!!」
やや錯乱気味にキンタローがトリップ気味に危ないことを言い出したシンタローを
止めに入る。
「チャッピー、餌。」
自力でトリップ世界に旅立ってしまったシンタローに向かって、パプワはチャッピーを
けしかける。
女体化していようがなんであろうが、やはりパプワの躾は容赦なかった。
「あがーーーーー!!!!!」
チャッピーに頭をかじられながら走り回るシンタロー。
「コレで少しは頭に上った血もさがっただろう。」
相変わらずの調子でそう言ってのけるパプワ。
「もう、誰なの?このすぐ流血する女の人は。美人なのに変な人だね。」
危うく女の人の危ない罠にはまりかけたロタローが顔を赤らめながらそう言う。
「あーーーー!もう、なんでもいいからコタローこっちに返せよ、パプワ!」
やっと本来の世界に戻ってきたシンタローがチャッピーを抱きかかえながらそう叫ぶ。
「ダーメ」
そんなシンタローに、あっさりそう切り返すパプワ。
「シンタロー、お前、何でこの島でそんな重たそーな服着てんだ?
そんな服着てたら心まで重たくなるぞ。」
その言葉はシンタローの胸を刺すには十分な言葉だった。
「その服脱いだら、僕の家に遊びに来てもいーからな。」
「バイバーイ。またねー。」
二人のちみっ子はそう言うと帰っていった。
ずっと書きたいと思ってましたがついにやってしまいました。
原作ベースの女化話。この先続きを不定期に連載するつもりです。
半年前の事件云々は裏作った後に入る予定の駄文の複線です(爆)
いやしかし、リキッドが総帥の乳を云々のところはなんとなく
ガッシ●のフ●ルゴレを思い出してしまいました(笑)
(この人の声、PAPUWAのリキッドの声なんですよ(笑))
チチもげ大好きだ!(黙れ。)
+++家族パニック+++
「ここのところ、根を詰めているな。そろそろ少し休憩してはどうだ?」
「ああ、それじゃ最近みかん貰ったから食べようぜ。」
いつものごとく執務中の総帥室で、総帥と補佐官とのたわいない会話から
それは始まった。
「…このみかん随分すっぱいな。」
シンタローが団員から貰ったのだというみかんを頬張りながらキンタローは呟く。
「そうか?俺はこれくらいが丁度いいが。」
そのみかんをうれしそうに食べるシンタロー。
それをいぶかしげな顔で見つめるキンタロー。
「…うっ!」
「どうした?」
突然喉を詰まらせたシンタローにキンタローが声をかける。
「わりぃ、ちょっ…トイレ行ってく…」
最後まで言いきらないうちにシンタローは走り出した。
しばらくしてシンタローは戻ってきた。
心なしか顔色が青白かった。
「どうした?」
「あー…。なんか急に気持ち悪くなってな。吐いてきちまった。」
心もとない足取りで執務室の自らの椅子に座りながらシンタローは答える。
「……………」
そんなシンタローを凝視するキンタロー。
「なんだよ?変なもんでも見る顔して。吐いたら楽んなったからもう大丈夫だ。」
そんなキンタローに笑ってそう言うシンタロー。
「………すめ。」
「あ?何だって?」
「今日はもういい。お前は戻って休んでいろ。」
真剣なまなざしでシンタローにそう言うキンタロー。
「いや、だから吐いて楽になったから大丈夫だって。」
「いいから休んでいろ…!」
断ろうとするシンタローの肩を叩き、キンタローは危機迫る表情でそう言った。
「そ、…そうか?じゃあ悪りぃけど戻るぞ?」
そんなキンタローに気圧されてシンタローはうなずく。
シンタローが大人しく自分の部屋に戻ったのを見送ると、
キンタローはその足で特選部隊へと連絡を取った。
「ハーレム叔父貴。下手な言い訳はしなくていい。最近シンタローに手を出したのはいつだ?」
『…わざわざ遠征先に連絡よこしたと思ったら間髪入れずにそういう話題かよ。
まぁ、おれは好きだがな、そう言う話は』
人の悪い笑顔を見せながらそう答えるハーレム。
「茶化すな。大切なことだ。…どうやらシンタローが妊娠しているようなんだ。」
キンタローのその言葉に、ハーレムは目を見開く。
『おいおい、マジかよ。それで俺のとこに連絡入れたのかよ。』
「ああ、そうだ。」
いまいましげにキンタローは答える。
『…最後にヤッたのは今回の遠征前だから三ヶ月前くらいか…?』
「…兆候が出るには十分な期間だな。」
呟くようにそう言ったハーレムに、眉間に皺を寄せながら答えるキンタロー。
『いや、ちょっと待ってくれ。俺はナマじゃしてねぇぞ?』
「スキンか?それでも一割程度危険性はある。」
『あー…そりゃあなぁ…。』
「随分と渋るな。だが心配しなくてもいい。別に叔父貴に責任を取らせようというわけ
じゃない。」
『どういう意味だ?…まさかお前、シンタローに堕ろさせるつもりなのか?』
「まさか。シンタローはあの性格だ。あれだけ嫌がっていた事態だが
いざそうなってしまえばアイツは絶対産むだろう。」
『じゃあどういう…』
「貴方の認知は必要無い。産まれてくる子供の父親には俺がなる。」
ハーレムを見据え、キンタローはきっぱりと言いきる。
「叔父貴の勝手でこれ以上シンタローを傷つけないでくれ。」
『……お前こそ、何を勝手に言ってやがる』
そんなキンタローにハーレムは言う。
『ガキじゃあるまいし、何の覚悟もなしにアイツに手ぇ出したわけじゃねえ。』
『本当にアイツが俺のガキ身篭ったってんなら最後まで責任は取る。』
今度は逆に、キンタローをしっかりと見据えてハーレムは言う。
キンタローは密かにショックを受けていた。
女性体になってしまったシンタローにハーレムが手を出していたのは知っていた。
それはハーレムが面白半分にやっていたのだろうと思っていたのだ。
だが、それは違った。
ハーレムは確かに遊び半分だったのだろうが、それは本気の遊びだったのだ。
思えば、ちゃんと避妊具を使用していたのも、シンタローを思ってのことだったのだろう。
『ショックな顔してんな。…てーか、お前はどうなんだよ?心当たりは?』
「…それは絶対にない。俺はシンタローと寝たことは無い。」
うつむきながらそう言ったキンタローに、ハーレムは驚く。
『おいおい、マジかよ。……その立場を保ちたいってのはわかるけどな、
それじゃアイツにゃ絶対伝わんねぇぞー。アイツそういう方面は鈍感だから。』
他のことにかけては器用なキンタローの、
意外に不器用な面に驚きながらハーレムはそう言った。
『ああ、しかしそうは言ってもアイツは一人で産むって言いそうだなぁ。』
苦笑いしながらハーレムは言う。
『って、それよりも問題は兄貴に何て説明すっかだな…。俺、殺されかねないな…。
…ん?』
「…あ。」
マジックの名前が出た途端二人は向かい合って静止する。
『………キンタロー、マジック兄貴には確認入れたか?』
「いや、まず先にハーレム叔父貴に連絡入れたからまだだ。」
『馬鹿野郎!!!!まず先に怪しいのはあの親父だろう!!!!!』
「仕方ないだろう!突然のことで俺だって気が動転していたんだ!!!!!」
『いいから、兄貴んとこ確認して来い!!』
そう言われキンタローは急いでマジックの元へ連絡を入れた。
『やぁ、キンちゃん。こんな時間に私に連絡を入れるとは珍しいね。
仕事ははかどっているかい?』
いつもの派手なピンクのスーツ姿でマジックは通信に出た。
「マジック伯父貴、今はそれどころではない。最近いつシンタローに手を出した?」
『あはは、シンちゃんが聞いたら激怒しそうな内容だね。一番最近は昨晩だね。』
キンタローの質問にあっさりとマジックは答える。
それに呆れながらもキンタローは続けて聞く。
「そうか。では二、三ヶ月前には?」
『ああ、一週間に五回挑んで三回はなし崩しにことに及んでいるよ。』
ケロリとそう答えるマジック。
「…ちなみに避妊具は使っているか?」
顔に青筋を立てながらもキンタローは聞く。
『うーん…。シンちゃんはどうしても付けろと言うんだけどね。
三回に一回は付けないよ。まぁ、ほとんどシンちゃんが意識飛ばしちゃってる頃にね。』
ころころと笑いながらそう言うマジック。
こいつが犯人で間違い無い!!!!と、キンタローは心の中で絶叫した。
「伯父貴、落ち着いて聞いてくれ。どうも、シンタローが妊娠しているようなんだ…。」
『何だって!!』
キンタローの言葉に、驚き叫ぶマジック。
そんなヤり方してて何を驚いている。と、キンタローは思ったが次のマジックの言葉に
もっと驚かされた。
『そうか。やっとおめでたなんだねぇ。随分かかったなぁ。』
マジックは嬉しそうにそう言ったのだ。
「な…っ。伯父貴、まさか確信犯なのか?」
『え?当然じゃないか。そうじゃなきゃこんな抱き方はしないよ?』
やはりきっぱりとそう言うマジック。
マジックの代からの団員の中の一部で、彼の支持率が異常に低い
理由を垣間見たキンタローだった。
『ああ、こうしちゃいられない。だったら今すぐシンちゃんを抱きしめてあげなくちゃね!』
そう言うや否や、マジックは一方的に通信を切った。
行き先は恐らく、いや、絶対にシンタローの私室だ。
キンタローも急いでシンタローの私室のほうへ向かった。
「シーンちゃーん!よくやったね。おめでとう!」
ノックも何もせずにそう叫びながら部屋に乱入したマジックは一目散に
自室で結局のところ書類での仕事をしていたシンタローへ飛びついた。
が、それを身を翻し避けるシンタロー。
「…いきなり乱入してきて何なんだよ。」
呆れながら倒れ伏しているマジックへそう言い捨てるシンタロー。
「もー、照れなくても良いんだって。キンちゃんから聞いたよ?シンちゃん、
パパの子を身ごもったんだって?」
顔面着地を致して鼻血を噴いているにもかかわらず、マジックは嬉しそうに
シンタローを見上げながらそう言った。
「はぁ!?何の冗談だそれは。」
驚きながらそう返すシンタロー。
「冗談じゃないよ。キンちゃんが言ってたんだ。シンちゃんが『妊娠してるようだ』って。」
きょとんとしながらそう言うマジック。
それを聞き、先ほどのキンタローの態度を思い出し、
シンタローは盛大にため息をつきながら頭を抱えた。
「…アイツはほんと変に偏った知識がある上に思い込みが激しいな。」
シンタローがそう呟いたのと同時に、キンタローがその場にやってくる。
「シンタロー、それにマジック伯父貴、入るぞ。」
「おー、おー、この騒ぎの元凶が来てくださったな。」
声をかけ入ってきたキンタローに、シンタローは嫌味たっぷりにそう言った。
いきなりわけのわからない嫌味を言われてきょとんとしているキンタローだった。
「だから、俺が妊娠する確立は、1パーセント位の確立で、まずあり得ないんだって。」
シンタローが妊娠したと勘違いしたキンタローに、そう言ってやるシンタロー。
「だがお前、あんなにすっぱいみかんをおいしそうに食べていたし、
そのあとつわりだって…。」
「あのなー。俺はもともとみかんは甘いのよりほどほどなのが好きなの。
で、吐いたのだってその前の日徹夜で仕事してて空きっ腹にいきなり
消化に悪いみかん入れたのが悪かったんだろーよ。」
あっけなくそう言い捨てるシンタロー。
「でもまぁ、可能性はゼロじゃねぇわけだけど、それだってもうちょいしたら
月のモンが来っから結果はすぐわかる。」
この女性体になってはや半年。
いやなことにあれだけ抵抗があった月経にもすっかり慣れてしまった
シンタローはそう続けた。
「そうか、そうだったのか。」
シンタローのその言葉に安心するキンタロー。
だが、その横でマジックは不服そうな顔をしている。
「シンちゃん。なんで、出来ちゃう可能性が1パーセントしかないの?」
そんなマジックにしかめっつらをしながらシンタローは言う。
「あぁン?アンタがどんだけ言っても付けねーからピル飲んでんだよ。」
「薬飲んでるの!?」
マジックは驚きながらそう言った。
「…誰のせいだと思ってやがる、このアーパー親父!!それすら嫌だと
ぬかしやがるんならテメェとは金輪際何があっても寝ない!!!
そもそもなんでそんなに子作りにこだわンだよ、アンタは!?」
憤慨しながらシンタローは叫ぶ。
「私はお前との愛の結晶を望んでいるだけだよ?」
「…今以上にややこしい家族関係を構成してどーすんだよ。」
呆れながらそう言うシンタロー。
「それにほら、突発的なことでシンちゃんが女性体でいられるのは
いつまでかわからないでしょ?だったらこのチャンスを逃す手はないなーと思って。」
「俺は早急に元に戻りてぇんだよ。いいから、もうこの話は終わり!!!
わかったら執務室に戻ってもいいな?キンタロー。」
いい加減かなり不毛なやり取りをしていることに気づいたシンタローはキンタローにそう言う。
「ああ。だがせっかくだからお前は今日はもう休め。」
シンタローの言葉にそう返すキンタロー。
「あのなぁ、総帥がそう簡単に…」
「そう言って、何だかんだでお前体調少し崩しているだろう?今日はもう休め。」
言い返そうとするシンタローにそう言い捨てるキンタロー。
「うん。頑張るのはいいけど、休むのも大切なことだよ?シンちゃん。」
後押しする形でマジックも口添えする。
「あー…。もうわかったよ。」
結局シンタローが根負けする形となった。
それを満足そうに見て、部屋を出ようとするキンタロー。
しかし、マジックは逆にシンタローの傍へ行く。
「…おい。なんだよ。」
自分の傍に寄ってきたマジックに不服そうに聞くシンタロー。
「え?シンちゃんもう今日はお休みでしょ?だったら1パーセントの確立にかけて
パパ今日も頑張っちゃおうかと思って…」
『眼魔砲!!!!!』
図々しくもそう言ってきたマジックに、シンタローとキンタロー二人の
眼魔砲が炸裂する。
流石のマジックもそれにはボロボロになる。
「…シンタロー。伯父貴は俺が送っていくから安心して休め。」
ボロ雑巾のようになっているマジックを引きずりながらキンタローが言う。
「ああ、悪いな。キンタロー。」
それに礼をいうシンタロー。
その日はマジックの夜這いもなく、久しぶりの安眠を手にすることが出来たシンタローだった。
おわり。
女体化モノで一回はやってみたかった妊娠ネタでした(笑)
この駄文書くために、避妊具についてかなり本気で調べてしまいました(爆)
<2月9日追記>
一度、WEB拍手にて、『青の一族の子供を孕んだ女性は短命なのでは…』
というご指摘を受け、この駄文は一時降ろしていたのですが、
この駄文を好きだと言ってくださる方、残念だと仰ってくださった方が
いらっしゃったので、もう一度アップしました。
私としても結構、楽しんで書いた作品だったので、間違いがあるのを承知の上で
もう一度掲載させていただきます。
いっそ、女化モノだということで、その辺りのことも目をつぶっていただけると幸いです(滝汗)
また、WEB拍手にて、上記のご指摘していただけた方も、本当にありがとうございました。
パプワの二次創作をするにあたって、とても参考になりました。
折角のご指摘を覆すようなことをして申し訳ありません。
「ここのところ、根を詰めているな。そろそろ少し休憩してはどうだ?」
「ああ、それじゃ最近みかん貰ったから食べようぜ。」
いつものごとく執務中の総帥室で、総帥と補佐官とのたわいない会話から
それは始まった。
「…このみかん随分すっぱいな。」
シンタローが団員から貰ったのだというみかんを頬張りながらキンタローは呟く。
「そうか?俺はこれくらいが丁度いいが。」
そのみかんをうれしそうに食べるシンタロー。
それをいぶかしげな顔で見つめるキンタロー。
「…うっ!」
「どうした?」
突然喉を詰まらせたシンタローにキンタローが声をかける。
「わりぃ、ちょっ…トイレ行ってく…」
最後まで言いきらないうちにシンタローは走り出した。
しばらくしてシンタローは戻ってきた。
心なしか顔色が青白かった。
「どうした?」
「あー…。なんか急に気持ち悪くなってな。吐いてきちまった。」
心もとない足取りで執務室の自らの椅子に座りながらシンタローは答える。
「……………」
そんなシンタローを凝視するキンタロー。
「なんだよ?変なもんでも見る顔して。吐いたら楽んなったからもう大丈夫だ。」
そんなキンタローに笑ってそう言うシンタロー。
「………すめ。」
「あ?何だって?」
「今日はもういい。お前は戻って休んでいろ。」
真剣なまなざしでシンタローにそう言うキンタロー。
「いや、だから吐いて楽になったから大丈夫だって。」
「いいから休んでいろ…!」
断ろうとするシンタローの肩を叩き、キンタローは危機迫る表情でそう言った。
「そ、…そうか?じゃあ悪りぃけど戻るぞ?」
そんなキンタローに気圧されてシンタローはうなずく。
シンタローが大人しく自分の部屋に戻ったのを見送ると、
キンタローはその足で特選部隊へと連絡を取った。
「ハーレム叔父貴。下手な言い訳はしなくていい。最近シンタローに手を出したのはいつだ?」
『…わざわざ遠征先に連絡よこしたと思ったら間髪入れずにそういう話題かよ。
まぁ、おれは好きだがな、そう言う話は』
人の悪い笑顔を見せながらそう答えるハーレム。
「茶化すな。大切なことだ。…どうやらシンタローが妊娠しているようなんだ。」
キンタローのその言葉に、ハーレムは目を見開く。
『おいおい、マジかよ。それで俺のとこに連絡入れたのかよ。』
「ああ、そうだ。」
いまいましげにキンタローは答える。
『…最後にヤッたのは今回の遠征前だから三ヶ月前くらいか…?』
「…兆候が出るには十分な期間だな。」
呟くようにそう言ったハーレムに、眉間に皺を寄せながら答えるキンタロー。
『いや、ちょっと待ってくれ。俺はナマじゃしてねぇぞ?』
「スキンか?それでも一割程度危険性はある。」
『あー…そりゃあなぁ…。』
「随分と渋るな。だが心配しなくてもいい。別に叔父貴に責任を取らせようというわけ
じゃない。」
『どういう意味だ?…まさかお前、シンタローに堕ろさせるつもりなのか?』
「まさか。シンタローはあの性格だ。あれだけ嫌がっていた事態だが
いざそうなってしまえばアイツは絶対産むだろう。」
『じゃあどういう…』
「貴方の認知は必要無い。産まれてくる子供の父親には俺がなる。」
ハーレムを見据え、キンタローはきっぱりと言いきる。
「叔父貴の勝手でこれ以上シンタローを傷つけないでくれ。」
『……お前こそ、何を勝手に言ってやがる』
そんなキンタローにハーレムは言う。
『ガキじゃあるまいし、何の覚悟もなしにアイツに手ぇ出したわけじゃねえ。』
『本当にアイツが俺のガキ身篭ったってんなら最後まで責任は取る。』
今度は逆に、キンタローをしっかりと見据えてハーレムは言う。
キンタローは密かにショックを受けていた。
女性体になってしまったシンタローにハーレムが手を出していたのは知っていた。
それはハーレムが面白半分にやっていたのだろうと思っていたのだ。
だが、それは違った。
ハーレムは確かに遊び半分だったのだろうが、それは本気の遊びだったのだ。
思えば、ちゃんと避妊具を使用していたのも、シンタローを思ってのことだったのだろう。
『ショックな顔してんな。…てーか、お前はどうなんだよ?心当たりは?』
「…それは絶対にない。俺はシンタローと寝たことは無い。」
うつむきながらそう言ったキンタローに、ハーレムは驚く。
『おいおい、マジかよ。……その立場を保ちたいってのはわかるけどな、
それじゃアイツにゃ絶対伝わんねぇぞー。アイツそういう方面は鈍感だから。』
他のことにかけては器用なキンタローの、
意外に不器用な面に驚きながらハーレムはそう言った。
『ああ、しかしそうは言ってもアイツは一人で産むって言いそうだなぁ。』
苦笑いしながらハーレムは言う。
『って、それよりも問題は兄貴に何て説明すっかだな…。俺、殺されかねないな…。
…ん?』
「…あ。」
マジックの名前が出た途端二人は向かい合って静止する。
『………キンタロー、マジック兄貴には確認入れたか?』
「いや、まず先にハーレム叔父貴に連絡入れたからまだだ。」
『馬鹿野郎!!!!まず先に怪しいのはあの親父だろう!!!!!』
「仕方ないだろう!突然のことで俺だって気が動転していたんだ!!!!!」
『いいから、兄貴んとこ確認して来い!!』
そう言われキンタローは急いでマジックの元へ連絡を入れた。
『やぁ、キンちゃん。こんな時間に私に連絡を入れるとは珍しいね。
仕事ははかどっているかい?』
いつもの派手なピンクのスーツ姿でマジックは通信に出た。
「マジック伯父貴、今はそれどころではない。最近いつシンタローに手を出した?」
『あはは、シンちゃんが聞いたら激怒しそうな内容だね。一番最近は昨晩だね。』
キンタローの質問にあっさりとマジックは答える。
それに呆れながらもキンタローは続けて聞く。
「そうか。では二、三ヶ月前には?」
『ああ、一週間に五回挑んで三回はなし崩しにことに及んでいるよ。』
ケロリとそう答えるマジック。
「…ちなみに避妊具は使っているか?」
顔に青筋を立てながらもキンタローは聞く。
『うーん…。シンちゃんはどうしても付けろと言うんだけどね。
三回に一回は付けないよ。まぁ、ほとんどシンちゃんが意識飛ばしちゃってる頃にね。』
ころころと笑いながらそう言うマジック。
こいつが犯人で間違い無い!!!!と、キンタローは心の中で絶叫した。
「伯父貴、落ち着いて聞いてくれ。どうも、シンタローが妊娠しているようなんだ…。」
『何だって!!』
キンタローの言葉に、驚き叫ぶマジック。
そんなヤり方してて何を驚いている。と、キンタローは思ったが次のマジックの言葉に
もっと驚かされた。
『そうか。やっとおめでたなんだねぇ。随分かかったなぁ。』
マジックは嬉しそうにそう言ったのだ。
「な…っ。伯父貴、まさか確信犯なのか?」
『え?当然じゃないか。そうじゃなきゃこんな抱き方はしないよ?』
やはりきっぱりとそう言うマジック。
マジックの代からの団員の中の一部で、彼の支持率が異常に低い
理由を垣間見たキンタローだった。
『ああ、こうしちゃいられない。だったら今すぐシンちゃんを抱きしめてあげなくちゃね!』
そう言うや否や、マジックは一方的に通信を切った。
行き先は恐らく、いや、絶対にシンタローの私室だ。
キンタローも急いでシンタローの私室のほうへ向かった。
「シーンちゃーん!よくやったね。おめでとう!」
ノックも何もせずにそう叫びながら部屋に乱入したマジックは一目散に
自室で結局のところ書類での仕事をしていたシンタローへ飛びついた。
が、それを身を翻し避けるシンタロー。
「…いきなり乱入してきて何なんだよ。」
呆れながら倒れ伏しているマジックへそう言い捨てるシンタロー。
「もー、照れなくても良いんだって。キンちゃんから聞いたよ?シンちゃん、
パパの子を身ごもったんだって?」
顔面着地を致して鼻血を噴いているにもかかわらず、マジックは嬉しそうに
シンタローを見上げながらそう言った。
「はぁ!?何の冗談だそれは。」
驚きながらそう返すシンタロー。
「冗談じゃないよ。キンちゃんが言ってたんだ。シンちゃんが『妊娠してるようだ』って。」
きょとんとしながらそう言うマジック。
それを聞き、先ほどのキンタローの態度を思い出し、
シンタローは盛大にため息をつきながら頭を抱えた。
「…アイツはほんと変に偏った知識がある上に思い込みが激しいな。」
シンタローがそう呟いたのと同時に、キンタローがその場にやってくる。
「シンタロー、それにマジック伯父貴、入るぞ。」
「おー、おー、この騒ぎの元凶が来てくださったな。」
声をかけ入ってきたキンタローに、シンタローは嫌味たっぷりにそう言った。
いきなりわけのわからない嫌味を言われてきょとんとしているキンタローだった。
「だから、俺が妊娠する確立は、1パーセント位の確立で、まずあり得ないんだって。」
シンタローが妊娠したと勘違いしたキンタローに、そう言ってやるシンタロー。
「だがお前、あんなにすっぱいみかんをおいしそうに食べていたし、
そのあとつわりだって…。」
「あのなー。俺はもともとみかんは甘いのよりほどほどなのが好きなの。
で、吐いたのだってその前の日徹夜で仕事してて空きっ腹にいきなり
消化に悪いみかん入れたのが悪かったんだろーよ。」
あっけなくそう言い捨てるシンタロー。
「でもまぁ、可能性はゼロじゃねぇわけだけど、それだってもうちょいしたら
月のモンが来っから結果はすぐわかる。」
この女性体になってはや半年。
いやなことにあれだけ抵抗があった月経にもすっかり慣れてしまった
シンタローはそう続けた。
「そうか、そうだったのか。」
シンタローのその言葉に安心するキンタロー。
だが、その横でマジックは不服そうな顔をしている。
「シンちゃん。なんで、出来ちゃう可能性が1パーセントしかないの?」
そんなマジックにしかめっつらをしながらシンタローは言う。
「あぁン?アンタがどんだけ言っても付けねーからピル飲んでんだよ。」
「薬飲んでるの!?」
マジックは驚きながらそう言った。
「…誰のせいだと思ってやがる、このアーパー親父!!それすら嫌だと
ぬかしやがるんならテメェとは金輪際何があっても寝ない!!!
そもそもなんでそんなに子作りにこだわンだよ、アンタは!?」
憤慨しながらシンタローは叫ぶ。
「私はお前との愛の結晶を望んでいるだけだよ?」
「…今以上にややこしい家族関係を構成してどーすんだよ。」
呆れながらそう言うシンタロー。
「それにほら、突発的なことでシンちゃんが女性体でいられるのは
いつまでかわからないでしょ?だったらこのチャンスを逃す手はないなーと思って。」
「俺は早急に元に戻りてぇんだよ。いいから、もうこの話は終わり!!!
わかったら執務室に戻ってもいいな?キンタロー。」
いい加減かなり不毛なやり取りをしていることに気づいたシンタローはキンタローにそう言う。
「ああ。だがせっかくだからお前は今日はもう休め。」
シンタローの言葉にそう返すキンタロー。
「あのなぁ、総帥がそう簡単に…」
「そう言って、何だかんだでお前体調少し崩しているだろう?今日はもう休め。」
言い返そうとするシンタローにそう言い捨てるキンタロー。
「うん。頑張るのはいいけど、休むのも大切なことだよ?シンちゃん。」
後押しする形でマジックも口添えする。
「あー…。もうわかったよ。」
結局シンタローが根負けする形となった。
それを満足そうに見て、部屋を出ようとするキンタロー。
しかし、マジックは逆にシンタローの傍へ行く。
「…おい。なんだよ。」
自分の傍に寄ってきたマジックに不服そうに聞くシンタロー。
「え?シンちゃんもう今日はお休みでしょ?だったら1パーセントの確立にかけて
パパ今日も頑張っちゃおうかと思って…」
『眼魔砲!!!!!』
図々しくもそう言ってきたマジックに、シンタローとキンタロー二人の
眼魔砲が炸裂する。
流石のマジックもそれにはボロボロになる。
「…シンタロー。伯父貴は俺が送っていくから安心して休め。」
ボロ雑巾のようになっているマジックを引きずりながらキンタローが言う。
「ああ、悪いな。キンタロー。」
それに礼をいうシンタロー。
その日はマジックの夜這いもなく、久しぶりの安眠を手にすることが出来たシンタローだった。
おわり。
女体化モノで一回はやってみたかった妊娠ネタでした(笑)
この駄文書くために、避妊具についてかなり本気で調べてしまいました(爆)
<2月9日追記>
一度、WEB拍手にて、『青の一族の子供を孕んだ女性は短命なのでは…』
というご指摘を受け、この駄文は一時降ろしていたのですが、
この駄文を好きだと言ってくださる方、残念だと仰ってくださった方が
いらっしゃったので、もう一度アップしました。
私としても結構、楽しんで書いた作品だったので、間違いがあるのを承知の上で
もう一度掲載させていただきます。
いっそ、女化モノだということで、その辺りのことも目をつぶっていただけると幸いです(滝汗)
また、WEB拍手にて、上記のご指摘していただけた方も、本当にありがとうございました。
パプワの二次創作をするにあたって、とても参考になりました。
折角のご指摘を覆すようなことをして申し訳ありません。