~できると思ってたのに~
キ「今日は…6月2日か」
グ「うん、そうだねー」
キ「大安、だ」
グ「へー、詳しいねキンちゃん」
キ「結婚式を挙げるなら今日のような日がもっとも良き日だ。ちょうどジューンブライドだしな」
グ「へー…」
キ「俺は挙式をするならやはり教会だと思うのだが。シンタローの髪は黒く艶やかだから、白いドレスによく映えるだろうな。丘の上の教会で鐘の音に祝福されたいものだ。いや、しかし和式も捨てがたい。白無垢姿のシンタローの横で共に三三九度を飲み交わすのもわ(以下略)」
グ「ふぅーん…ねぇキンちゃん。その前に男同士は結婚できないんだよ」
キ「な、ななな何をいっているんだグンマ。いやいやそんなはずは…今日は大安なんだぞ。いいか、今日はたいあ…」
グ「大安でも仏滅でも無理だよ」
キ「な、なんだってぇぇぇ!?(がびーん)」
・終・
愛があればなんでも出来るんだと信じていたキンタロー(4歳)。
--------------------------------------------------------------------------------
見上げればふわりふわりと真っ白な雲が浮かんでいる。
僕はそんな青空の下で、芝生の上にぽつんと座っていた。
きっと今の僕は「青空と緑と美少年」というとっても絵になる構図だと思う。
まぁ、僕の場合は美少年すぎるからどこにいても絵になるんだけどね。
と、思ってみても話す相手が誰もいないので、雲に向かって話しかけてみた。心の中でだけど。
ごろん。
そのままふわふわした雲を目で追っていたら、視界がぐるりと回って空が少し遠くなった。
どうやら見上げすぎて後ろにころっと倒れちゃったみたい。
僕ってばとんだドジッ子だ。
せっかくだからぐっと手足を伸ばして大の字になってみた。
清々しかったけれど、そんなに楽しくはなかった。
「あーぁ、つまんないや」
僕は不満そうに言葉をはきだした。
けれど誰もいないので反応も何も返ってきやしない。
完全に独り言だ。
よけいにつまらないしなんだか寂しくなった。
「おにいちゃん、はやく仕事終わらないかなー」
もう一度つぶやく。また独り言だ。
独り言を言うなんてまるでアラシヤマみたいだなー、なんて思ってしまったから僕は少し(いや、かなり)嫌な気分になった。
気分転換のつもりでごろりと体ごと横に向けば、綺麗に整えられた芝生の色が目の前に広がる。
(でも、今僕が見たいのはこんなんじゃないんだ)
僕は目を閉じた。
次に目を開くときは兄がいるようにと願いながら。
・終・
お仕事中のシンタローさんを邪魔しないようにお外で待ってるコタちゃん。
この兄弟はお互いにお互いのことを大切に思い、依存しあっていると思う。
--------------------------------------------------------------------------------
★☆ワンクッション☆★
この先の小咄は、グンちゃんとシンタローさんは今は従兄弟じゃなくて兄弟なんじゃないか?という妄言から生まれた小咄です。
南国終盤でグンマの本当の父親はマジックだと分かり、そしてシンタローさんも血の繋がりはないが「お前は私の息子だ」と、この先もマジックとは本当の親子です。
この二人の父親は同じマジックなので……ってことは兄弟なんじゃねーの?
しかもこの二人っと同じ5月生まれだけど、グンちゃんのが早いから…グンマがお兄ちゃん!
シンタローさん弟でグンマがお兄ちゃぁぁぁぁぁあん!!
そんな暴走で出来た小咄なので、ぷっ、何その妄想って方は見なかったことにしてください。
では、どうぞ!
~グンマお兄ちゃんとシンタローくん~
グ「と、いうことで!」
シ「…何がだよ」
グ「これからは僕のことをお兄ちゃんと呼びなさい!」
シ「はぁ?嫌に決まってんだろ」
グ「えー何で!だってよくよく考えてみたら、今の僕とシンちゃんっておとーさまが同じ人だから兄弟なんだよ!」
シ「だからって何でお前が兄貴になるんだよ」
グ「だってほら、僕のが誕生日早いじゃない」
シ「つっても、12日早いだけじゃねぇか」
グ「でも僕のが早いのは事実だよ、だから僕がお兄ちゃん!ね、お兄ちゃんだから頼って良いんだよ?」
シ「お前に頼る日は来ねぇよ。って、何で両手広げてんだよ」
グ「え?お兄ちゃんらしく弟を抱擁しようかと思って?」
シ「しなくていい!閉じろ!」
グ「ほら、シンちゃん!お兄ちゃんの胸に飛込んできても良いんだよー」
シ「話を聞けぇぇぇ!!」
・終・
シンタローさんのお兄ちゃんになったらグンちゃんは喜んで無駄に張り切ると思う!
--------------------------------------------------------------------------------
~グンマお兄ちゃんとシンタローくん・その2~
キ「……何を、やっている」
シ「キンタローいいところに!とりあえずこいつを何とかしてくれ!」
キ「何とか、と言われてもな…グンマ、何をやっているんだ」
グ「何って…兄弟のスキンシップ?」
シ「俺に聞くな!そしていい加減その広げた手をどうにかしろ!」
キ「兄弟…と、言ってもここにはコタローがいないというのにどうやって兄弟のスキンシップを取るんだ?」
グ「え?だからシンちゃんとだよー」
キ「…お前たちは兄弟ではなく従兄弟だろう」
グ「ところがどっこい違うんだよね!僕のおとーさまとシンちゃんのおとーさまは同じマジックおとーさまでしょ?だから僕たちは兄弟なんだよ!」
キ「……確に、そう言われれば一利あるな」
シ「…お前もあっさり納得するのかよ」
グ「だから僕ね、お兄ちゃんらしくシンちゃんをぎゅってしてあげようと思ったんだ。ほら、兄弟のスキンシップって大切でしょ?」
キ「ああ、確にそれはそうだな」
シ「え、それも納得!?今の内容でちょっとはおかしいなって思うとこあるだろ!」
グ「だからほら、お兄ちゃんの胸に飛込んでおいでー」
シ「行かねぇよ!だからその手を止めろってグンマ!」
キ「………、」
シ「な、何だよキンタロー…って、何でお前が羨ましそうにこっち見てんだよ!おい、だから何でお前まで両手広げてこっちに迫ってんだ!飛込まねぇぞ!絶対飛込まねぇからな!!ちくしょう負けるもんかぁぁぁ!」
・終・
前門のグン、後門のキン。
そしてキンちゃんは兄弟がちょっと羨ましくなりました。
キ「今日は…6月2日か」
グ「うん、そうだねー」
キ「大安、だ」
グ「へー、詳しいねキンちゃん」
キ「結婚式を挙げるなら今日のような日がもっとも良き日だ。ちょうどジューンブライドだしな」
グ「へー…」
キ「俺は挙式をするならやはり教会だと思うのだが。シンタローの髪は黒く艶やかだから、白いドレスによく映えるだろうな。丘の上の教会で鐘の音に祝福されたいものだ。いや、しかし和式も捨てがたい。白無垢姿のシンタローの横で共に三三九度を飲み交わすのもわ(以下略)」
グ「ふぅーん…ねぇキンちゃん。その前に男同士は結婚できないんだよ」
キ「な、ななな何をいっているんだグンマ。いやいやそんなはずは…今日は大安なんだぞ。いいか、今日はたいあ…」
グ「大安でも仏滅でも無理だよ」
キ「な、なんだってぇぇぇ!?(がびーん)」
・終・
愛があればなんでも出来るんだと信じていたキンタロー(4歳)。
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見上げればふわりふわりと真っ白な雲が浮かんでいる。
僕はそんな青空の下で、芝生の上にぽつんと座っていた。
きっと今の僕は「青空と緑と美少年」というとっても絵になる構図だと思う。
まぁ、僕の場合は美少年すぎるからどこにいても絵になるんだけどね。
と、思ってみても話す相手が誰もいないので、雲に向かって話しかけてみた。心の中でだけど。
ごろん。
そのままふわふわした雲を目で追っていたら、視界がぐるりと回って空が少し遠くなった。
どうやら見上げすぎて後ろにころっと倒れちゃったみたい。
僕ってばとんだドジッ子だ。
せっかくだからぐっと手足を伸ばして大の字になってみた。
清々しかったけれど、そんなに楽しくはなかった。
「あーぁ、つまんないや」
僕は不満そうに言葉をはきだした。
けれど誰もいないので反応も何も返ってきやしない。
完全に独り言だ。
よけいにつまらないしなんだか寂しくなった。
「おにいちゃん、はやく仕事終わらないかなー」
もう一度つぶやく。また独り言だ。
独り言を言うなんてまるでアラシヤマみたいだなー、なんて思ってしまったから僕は少し(いや、かなり)嫌な気分になった。
気分転換のつもりでごろりと体ごと横に向けば、綺麗に整えられた芝生の色が目の前に広がる。
(でも、今僕が見たいのはこんなんじゃないんだ)
僕は目を閉じた。
次に目を開くときは兄がいるようにと願いながら。
・終・
お仕事中のシンタローさんを邪魔しないようにお外で待ってるコタちゃん。
この兄弟はお互いにお互いのことを大切に思い、依存しあっていると思う。
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★☆ワンクッション☆★
この先の小咄は、グンちゃんとシンタローさんは今は従兄弟じゃなくて兄弟なんじゃないか?という妄言から生まれた小咄です。
南国終盤でグンマの本当の父親はマジックだと分かり、そしてシンタローさんも血の繋がりはないが「お前は私の息子だ」と、この先もマジックとは本当の親子です。
この二人の父親は同じマジックなので……ってことは兄弟なんじゃねーの?
しかもこの二人っと同じ5月生まれだけど、グンちゃんのが早いから…グンマがお兄ちゃん!
シンタローさん弟でグンマがお兄ちゃぁぁぁぁぁあん!!
そんな暴走で出来た小咄なので、ぷっ、何その妄想って方は見なかったことにしてください。
では、どうぞ!
~グンマお兄ちゃんとシンタローくん~
グ「と、いうことで!」
シ「…何がだよ」
グ「これからは僕のことをお兄ちゃんと呼びなさい!」
シ「はぁ?嫌に決まってんだろ」
グ「えー何で!だってよくよく考えてみたら、今の僕とシンちゃんっておとーさまが同じ人だから兄弟なんだよ!」
シ「だからって何でお前が兄貴になるんだよ」
グ「だってほら、僕のが誕生日早いじゃない」
シ「つっても、12日早いだけじゃねぇか」
グ「でも僕のが早いのは事実だよ、だから僕がお兄ちゃん!ね、お兄ちゃんだから頼って良いんだよ?」
シ「お前に頼る日は来ねぇよ。って、何で両手広げてんだよ」
グ「え?お兄ちゃんらしく弟を抱擁しようかと思って?」
シ「しなくていい!閉じろ!」
グ「ほら、シンちゃん!お兄ちゃんの胸に飛込んできても良いんだよー」
シ「話を聞けぇぇぇ!!」
・終・
シンタローさんのお兄ちゃんになったらグンちゃんは喜んで無駄に張り切ると思う!
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~グンマお兄ちゃんとシンタローくん・その2~
キ「……何を、やっている」
シ「キンタローいいところに!とりあえずこいつを何とかしてくれ!」
キ「何とか、と言われてもな…グンマ、何をやっているんだ」
グ「何って…兄弟のスキンシップ?」
シ「俺に聞くな!そしていい加減その広げた手をどうにかしろ!」
キ「兄弟…と、言ってもここにはコタローがいないというのにどうやって兄弟のスキンシップを取るんだ?」
グ「え?だからシンちゃんとだよー」
キ「…お前たちは兄弟ではなく従兄弟だろう」
グ「ところがどっこい違うんだよね!僕のおとーさまとシンちゃんのおとーさまは同じマジックおとーさまでしょ?だから僕たちは兄弟なんだよ!」
キ「……確に、そう言われれば一利あるな」
シ「…お前もあっさり納得するのかよ」
グ「だから僕ね、お兄ちゃんらしくシンちゃんをぎゅってしてあげようと思ったんだ。ほら、兄弟のスキンシップって大切でしょ?」
キ「ああ、確にそれはそうだな」
シ「え、それも納得!?今の内容でちょっとはおかしいなって思うとこあるだろ!」
グ「だからほら、お兄ちゃんの胸に飛込んでおいでー」
シ「行かねぇよ!だからその手を止めろってグンマ!」
キ「………、」
シ「な、何だよキンタロー…って、何でお前が羨ましそうにこっち見てんだよ!おい、だから何でお前まで両手広げてこっちに迫ってんだ!飛込まねぇぞ!絶対飛込まねぇからな!!ちくしょう負けるもんかぁぁぁ!」
・終・
前門のグン、後門のキン。
そしてキンちゃんは兄弟がちょっと羨ましくなりました。
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~ある日の従兄弟達~
グ「そういえば昔、究極の選択ってやつが流行ったよねー」
キ「究極の…?何だそれは?」
シ「あー、懐かしいなそれ。カレー味のウンコかウンコ味のカレーかってやつだろ」
グ「それそれ!あれってついどっちか選んじゃうんだよね」
シ「たしかにな、どっちも最悪なのによ」
キ「……なら、シンタロー俺を“ダーリン”と呼ぶか俺に“ハニー”と呼ばれるかどっちか選べ」
シ「…う、うーん(悩み中)」
グ「シンちゃん。それ、騙されてるよ」
・終・
うっかり引っ掛かっちゃうシンちゃん。二択にされちゃうとついつい選んでしまうから不思議。
--------------------------------------------------------------------------------
~マジックとお守り~
マ「シーンーちゃん。手、出してごらん」
シ「ぁん?何だよ糞親父」
マ「もー、シンちゃんったら相変わらず冷たいんだからー。はい、これ。シンちゃんにあげるよ」
シ「ん?…何だ、これは?」
マ「何って見てのどおり“お守り”だよ」
シ「はぁ、お守りかよ。何でまたこんなもん…」
マ「シンちゃんがいつも元気で安全にいますように、ってね。だってシンちゃん自分が総帥だからっていっつも無理ばっかするでしょ?だから気休めだけどお守り。体調に気を付けてって言っても聞かないんだからこれぐらいは許してよね?」
シ「……ん、まぁ、仕方ねぇから貰ってやるよ」
マ「ふふ、ありがとうシンちゃん」
シ「ばっ、何で親父が礼を言―――って、これ!よく見たら安産のお守りじゃねぇかっ!!」
マ「えっ、なになに?パパ何か間違えた?」
シ「おもっくそ大間違いだこのくそボケヤローがぁぁぁ!!」
・終・
マジックパパはシンちゃんはいつか自分の子を産んでくれると本気で思っています。
--------------------------------------------------------------------------------
~今日は何の日いい歯の日~
キ「今日は、11月8日か」
シ「ん、あぁ、そうだな」
キ「いい歯の日、だ」
シ「………へ、へぇー…」
キ「…そういうわけで、シンタロー」
シ「え、なにがだよ」
キ「いい歯の日、だから今日は特に歯を大事にしないといけない」
シ「あ、あぁ、そうだな」
キ「だからだな、シンタロー。お前の歯を俺がしっかり磨くぞ。いいか、この俺がお前の歯――」
シ「二度言わんでいい!つか、そんな事しなくていいから!歯磨きくらい自分でできるって!」
キ「何を言うシンタロー。自分では磨けていないところも意外とあるんだぞ。だから自分で磨いた後は、母親にチェックしてもらって再度磨いてもらっているんだ。ましてお前はずぼらだから俺がしっかりと磨いてやるぞ」
シ「それは子供の話だろうがー!!俺は27歳なんだぜ!そんな恥ずかしいことできるかっ!」
キ「む、今日はただのゴロ合わせだとしても、いい歯の日なんだ。だからしっかり磨かなくていけない。ほら、こっちに来いシンタロー」
シ「人の話を聞けキンタロー!って、お前!なんで俺の歯ブラシ手に持って準備してんだよ!しかも歯磨き粉はイチゴ味かよっ!!」
キ「往生際が悪いぞシンタロー。いい加減に上向きで寝て口を開けるんだ。俺が奥歯や歯の裏も磨いてやる。それとも歯磨き粉はメロン味がよかったのか?」
シ「いやいやいや、よくねーよ!だから27にもなってそんな事したくねーって言ってんだ!って、キン!歯ブラシ持って迫ってくんな!ちょっ、誰かこいつを止め…ギャーー!!」
・終・
仕事以外では空回りしているキンにきゅんときます。
--------------------------------------------------------------------------------
~節分なんですそうなんです~
マ「あ、シンちゃん。今日は節分だよ!」
シ「ん、そうだな」
マ「そういえばシンちゃんってあれ好きだよね」
シ「あぁ?あれってなんだよ。豆は嫌いじゃないけどさ」
マ「ほら、あれだよ。黒くて太くて長いの」
シ「……って、なっ!おまっ、何言ってんだ馬鹿っ!!」
マ「あれー、何でシンちゃん顔赤くなってんの?節分の黒くて太くて長いのってもちろん恵方巻のことじゃない」
シ「!?な、な…っ!!!」
マ「あ、もしかしてシンちゃん他のこと考えた?わー、シンちゃんや――」
ドゴッ!!
マ「ぐふぅっ。シ、シンちゃん…照れ隠しするのは可愛いけれど、全力満開で肘打ちするのはパパもさすがにこたえるから」
シ「う、うっさい!ボケっ!」
ドスンッ!!!
マ「ごふっ。もうシンちゃんったら可愛いなぁ。はははは」
キ「…グンマ。伯父貴がみるみるうちに血で赤く染まっていくが、助けなくていいのか?」
グ「んー、いいんじゃない?なんだかんだでおとーさまもシンちゃんに構ってもらえて喜んでるみたいだし」
キ「……そうか」
・終・
マジックパパは確信犯。
グ「そういえば昔、究極の選択ってやつが流行ったよねー」
キ「究極の…?何だそれは?」
シ「あー、懐かしいなそれ。カレー味のウンコかウンコ味のカレーかってやつだろ」
グ「それそれ!あれってついどっちか選んじゃうんだよね」
シ「たしかにな、どっちも最悪なのによ」
キ「……なら、シンタロー俺を“ダーリン”と呼ぶか俺に“ハニー”と呼ばれるかどっちか選べ」
シ「…う、うーん(悩み中)」
グ「シンちゃん。それ、騙されてるよ」
・終・
うっかり引っ掛かっちゃうシンちゃん。二択にされちゃうとついつい選んでしまうから不思議。
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~マジックとお守り~
マ「シーンーちゃん。手、出してごらん」
シ「ぁん?何だよ糞親父」
マ「もー、シンちゃんったら相変わらず冷たいんだからー。はい、これ。シンちゃんにあげるよ」
シ「ん?…何だ、これは?」
マ「何って見てのどおり“お守り”だよ」
シ「はぁ、お守りかよ。何でまたこんなもん…」
マ「シンちゃんがいつも元気で安全にいますように、ってね。だってシンちゃん自分が総帥だからっていっつも無理ばっかするでしょ?だから気休めだけどお守り。体調に気を付けてって言っても聞かないんだからこれぐらいは許してよね?」
シ「……ん、まぁ、仕方ねぇから貰ってやるよ」
マ「ふふ、ありがとうシンちゃん」
シ「ばっ、何で親父が礼を言―――って、これ!よく見たら安産のお守りじゃねぇかっ!!」
マ「えっ、なになに?パパ何か間違えた?」
シ「おもっくそ大間違いだこのくそボケヤローがぁぁぁ!!」
・終・
マジックパパはシンちゃんはいつか自分の子を産んでくれると本気で思っています。
--------------------------------------------------------------------------------
~今日は何の日いい歯の日~
キ「今日は、11月8日か」
シ「ん、あぁ、そうだな」
キ「いい歯の日、だ」
シ「………へ、へぇー…」
キ「…そういうわけで、シンタロー」
シ「え、なにがだよ」
キ「いい歯の日、だから今日は特に歯を大事にしないといけない」
シ「あ、あぁ、そうだな」
キ「だからだな、シンタロー。お前の歯を俺がしっかり磨くぞ。いいか、この俺がお前の歯――」
シ「二度言わんでいい!つか、そんな事しなくていいから!歯磨きくらい自分でできるって!」
キ「何を言うシンタロー。自分では磨けていないところも意外とあるんだぞ。だから自分で磨いた後は、母親にチェックしてもらって再度磨いてもらっているんだ。ましてお前はずぼらだから俺がしっかりと磨いてやるぞ」
シ「それは子供の話だろうがー!!俺は27歳なんだぜ!そんな恥ずかしいことできるかっ!」
キ「む、今日はただのゴロ合わせだとしても、いい歯の日なんだ。だからしっかり磨かなくていけない。ほら、こっちに来いシンタロー」
シ「人の話を聞けキンタロー!って、お前!なんで俺の歯ブラシ手に持って準備してんだよ!しかも歯磨き粉はイチゴ味かよっ!!」
キ「往生際が悪いぞシンタロー。いい加減に上向きで寝て口を開けるんだ。俺が奥歯や歯の裏も磨いてやる。それとも歯磨き粉はメロン味がよかったのか?」
シ「いやいやいや、よくねーよ!だから27にもなってそんな事したくねーって言ってんだ!って、キン!歯ブラシ持って迫ってくんな!ちょっ、誰かこいつを止め…ギャーー!!」
・終・
仕事以外では空回りしているキンにきゅんときます。
--------------------------------------------------------------------------------
~節分なんですそうなんです~
マ「あ、シンちゃん。今日は節分だよ!」
シ「ん、そうだな」
マ「そういえばシンちゃんってあれ好きだよね」
シ「あぁ?あれってなんだよ。豆は嫌いじゃないけどさ」
マ「ほら、あれだよ。黒くて太くて長いの」
シ「……って、なっ!おまっ、何言ってんだ馬鹿っ!!」
マ「あれー、何でシンちゃん顔赤くなってんの?節分の黒くて太くて長いのってもちろん恵方巻のことじゃない」
シ「!?な、な…っ!!!」
マ「あ、もしかしてシンちゃん他のこと考えた?わー、シンちゃんや――」
ドゴッ!!
マ「ぐふぅっ。シ、シンちゃん…照れ隠しするのは可愛いけれど、全力満開で肘打ちするのはパパもさすがにこたえるから」
シ「う、うっさい!ボケっ!」
ドスンッ!!!
マ「ごふっ。もうシンちゃんったら可愛いなぁ。はははは」
キ「…グンマ。伯父貴がみるみるうちに血で赤く染まっていくが、助けなくていいのか?」
グ「んー、いいんじゃない?なんだかんだでおとーさまもシンちゃんに構ってもらえて喜んでるみたいだし」
キ「……そうか」
・終・
マジックパパは確信犯。
俺がパパでお前がママだ
「うっ…」
綺麗に整備され掃除も隅々まで行き届いたガンマ施設内のトイレに、苦しそうな声が響いた。
誤解を招かないように先に説明しておくが、別段トイレの花子さんでもそういった類の恐い話しに出てくる声でもない。
このうめき声はトイレの個室から聞こえるのではなく、トイレ内に設置された手洗い場から聞こえてきているのだ。
手洗い場の縁に手をつき、がんがんと痛む頭を抱えている一人の男から。
「くっそー、飲みすぎたな…」
そう呟きながら痛む頭を押さえた人物、シンタローは正面に構えている鏡をじっと見る。
そこには少し青ざめた顔をしながら眉間に皺を寄せている自分が写っている。
もう一人の自分と対面した男は、さらに眉間の皺を増やした。
「あんの糞獅子舞、覚えてろよ」
自分がこうなってしまった原因である人物にぶつぶつと文句を言う。
と、言ってもその本人であるハーレムは今この場に、どころか気付いたらガンマ団から飛び出してまた何処かに行ってしまったので、今ここで文句を言っても効果は皆無であったが。
そう思うと余計に腹が立ってくる。
どうせならそのまま帰ってこなければいい!と憎まれ口を叩きたくなる。
毎度毎度、ハーレムは自隊とともに好きかってにやらかしたり、どこかに行ったりしているのだから本当にそのまま戻ってこなくなるというのも考えられることだ。
しかし、彼は時々帰ってくるのだ。
酒と酔っぱらいというオプション付きで。
昨夜はシンタローがその酒乱のターゲットとなってしまった。
疲れた体をベットへダイブさせようとした矢先に、叔父であるハーレムが高笑いで入ってきたのだ。
追い出そうと力も行使したのだが「俺の酒が飲めないってのかー!」という言葉を皮切りに捕まって飲まされてしまった。
そして気付けばこの状態だ。
しかもあの叔父の暴挙は今回が初めてというわけでもなかったので、またもこんな状態になっている自分にも苛立ちが募っていく。
だがそんな苛々とした気持ちも次第には気持ち悪いという気持ちが勝り、吐き気と共にどこかに飛んでいってしまった。
気分転換の為に顔でも洗うかと思ったシンタローは、蛇口を捻り水を勢いよくだした。
銀の口からジャーと垂直に落下し、その無色透明の水はやがては円を描くようにしてぐるぐると穴に吸い込まれていく。
そんな普段ならどうでもいいことも、まだ本調子じゃないからか顔を洗うどころかついぼけっとその様を見ていた。
だがそれも肩を叩かれたことにより束の間で終わる。
何だとも思ったが、振り返るのすら億劫になってきたので鏡越しに背後を見る。
すると自分とは別の、一族特有の風貌をもつ自分の傍らの姿が映っていた。
「戻ってこないから様子を見に来てみれば…お前は一体何をやっているんだ」
その言葉に返事をしようと振り向けば、体を動かしたせいか再び気持悪さが襲ってきた。
顔をしかめたのが相手にも見えたようで、キンタローはその様に気付く。
「どうした?」
「な、なんでもな……ううっ」
二日酔いです、などと素直に言ってしまえばどうなるかは明白なので(またお前はだらしないことを云々と説教されるに決まっている)なんでもないと告げようと試みた。
だがそれも吐き気によって失敗となる。
込み上げてくるものを堪えようとバッと口許を手で抑える。
そのまま振り返り再び洗面台へと対面すると、もう片方の手で体を支えるようにその縁を掴んだ。
また何度かうめいたが、しばらくするとなんとか治まってくれたようだ。
「…大丈夫か」
一息ついて声のした方へと顔を上げると、キンタローがハンカチを片手に側で立っていた。
さすがお気遣いの紳士だけある。
「ああ、サンキュー」
シンタローは一言礼を言うと、ハンカチを受け取ろうと手を伸ばす。
だが、それはキンタローの手によって阻まれる。
ハンカチへと伸ばした筈の手が、キンタローにがしりと掴まれてしまったのだ。
突然の行動に内心驚いたシンタローは、視線を掴まれた腕から掴んだ人物の顔へと移す。
その表情を伺うように見てみれば、いつも通りの仏頂面だ。いや、少し、機嫌が悪いのかもしれない。
シンタローは何故彼がそんな顔をしているのかわからなかったが、つられるように眉根にぐっと皺を寄せた。
彼もまた、何故自分が手を掴まれてしまったのか分からなかったからだ。
見る、と言うよりも睨みつけるように視線を送ると、何故か向こうに呆られた顔をされた。
しかもはぁーという盛大な溜め息付きで、だ。
そんなに彼を待たせてしまったのだろうかと思ったシンタローは、とりあえず何か言おうと口を開こうとしたがそれはキンタローに先を越されてしまった。
「行くぞ」
何か文句でも言われるのかと思っていたが、彼が言葉にしたのは移動の促しだった。
「…行くって、どこに?」
その言葉がどこを示すのかなど分からず、その主語を聞こうと口を開く。
いや、もしかしたら仕事場に戻るぞ、という意味なのかもしれないがそれにしても簡潔な注文すぎる。
しかしただ単に行き先を聞いただけだったのだが、キンタローはというと顔に不機嫌さを上乗せしただけであった。
「決まっているだろう、医者にだ」
「……はぁ?何でだよ」
シンタローはその行き先聞いてしばし考えた後、今度はシンタローがぽかんとした表情になった。
たかだか二日酔いで病院行き、なんて考え付かないからだ。
第一、今はそんな所に行ってる暇はない。
つまりは、忙しいのだ。
今日は自分が酔い潰れたせいでいつもより仕事始めが遅くなってしまった。
酔った姿は見せれまいと酔いがさめるのを待った結果が、そうなってしまった原因なのだ。
明確なる原因が自分である以上(あの獅子舞にも充分責任はあると思うが)そんなとこに行っているよりも自分が仕事を進めなければならない。
「そんなとこに行かねぇよ。第一行ってる暇なんかないだろ」
たとえ暇があっても二日酔いで病院など行けないが。
だからシンタローは行かないと意思表示をした。
すると今度はキンタローが悲しそうな顔をしていた。
それどころかはらはらと泣いているではないか。
「お、おい!どうしたんだよ!」
ますますわけがわからないとシンタローはうろたえるしかなかった。
この時、キンタローの手はシンタローの腕から外れていたが、それに気付くこともなく慌てていた。
そして外れた手は上へと移動して、がしりと両肩を掴んだ。
それと同時にキンタローはシンタローの顔を見据える。
その時の顔があまりにも真剣だったので、シンタローはびくりとした。
いつの間にかキンタローの涙は止まっていた。
代わりに口をゆっくりと開いていく。
「…俺の、子か?」
「……………………は?」
「そうか、そうなんだな!今まで気付いてやれなくてすまなかった。子どもができていたなどと知らずに毎日毎日仕事ばかりをさせてしまい…俺は何という男なんだ!」
「いや、あの、は?いったい何を言って…」
「いいんだシンタロー!みなまで言うな!総帥という身で今まで誰にも明かすことが出来ず一人で大変だったんだろう?産気づいたりしてお前は……俺が頼りないばかりに、苦しい思いをさせてすまなかった!だがこれからはお前一人ではなく、俺と共にこの新しい命を育てていこう。いいか、俺たち二人でこの命を育てていくんだ!」
「………。」
開いた口が塞がらない、とはまさにこの事か。
誰が、いったい誰がこの男の暴走を止められるというのだろうか。
いいや、誰にもできないだろう。
それほどまでに目の前の男はキラキラと、そして情熱に溢れているのだ。
シンタローは誰かこいつにおしべとめしべについて教えてくれ!と思った。
そして「子どもの名前は何がよいだろうか?」とくちばしってきた従兄弟に、このまま意識を手放したくなったのだった。
・END・
暴走したキンタローが「はっ、みんなに報告しなくては!」と言い出すのは1分後。
そしてガンマ団に知れ渡るのはそれから15分後。
そして嵐、いや世界の終わりを背負ってマジックが来るのはその30秒後。
シンタローさんがキンタローとみんなの誤解を解くのはさらに丸一日かかったようです。
思ったよりもキンちゃんが暴走して長ったらしくなりました。びっくり。
キンちゃん書いてると楽しくて止まらなくなる!
溜め息ついたりしたのは自分のふがいなさにしたもようです。
そしてたぶんハムが団を抜ける前の話、し…?(ぐだぐだだな!)
お菓子をあげる!
「……あの」
恐る恐る、と言った風に口を開いたのは成人になるかならないかというぐらいの青年だった。
その前に立っていた男はちらりと視線を向けて何だと促す。
青と赤、違う色形だが同じGの文字を背負う制服に身を包む二人は、大きく捉えれば同じ組織の人間だ。
だが決定的な違いがある。それこそ天と地ほどの、だ。
そのはずの二人が、今は通路で向き合って立っていた。
「あ、あのう…総帥」
青年はもう一度問掛ける。
総帥と呼ばれた男はそれに、だから何だと今度は言葉にして返した。
青年はというと、目を右へ左へときょろきょろと動かしながら次の言葉を探している。
そのまましばらくあ、とかう、とか言葉を洩らしながら口を閉開させていたが、覚悟を決めたのか青年は一度呼吸を整えると、意見を述べるべく口を開いた。
「お、恐れ多いながら発言させていただきますが…こちらは、何でしょうか」
これ、と指したのは先程目の前の人物に手渡された物。
それは何かと言うと、シンプルだが綺麗にラッピングされたクッキーだ。
なぜそれが青年の手にあるかと言うと、これまでの経緯を数分前に遡る必要がある。
青年は頼まれた資料をある部署に届けるため、今では幾分慣れてきた通路をいつも通りに歩いていた。
そうしたら背後から急においと呼び止められ、青年が振り向けばその先に総帥がいたのだ。
はっ、として青年が挨拶をし頭を下げようとするが、それよりも先に手を出せと要求をされる。
その言葉のまま遠慮がちに手を差し出せば…渡されたのだ。これを。
そして今に至るわけだ。
だがなぜこれが自分に、しかもこのような方から手渡されたのだろうか。
分からない。
分からない、というか想像もつかない。
だから青年はこれは何かと聞いた。
いや、これがクッキーということは分かる。
そういうことではなく、それが自分の手の上に置かれている現状が分からないのだ。
しかし青年はそれを聞いたことを次の瞬間には後悔した。
赤い服の男が、この団の最高地位者が、その眉間にぐっと皺を寄せたからだ。
青年は自分の顔からさっと血が引いていくのが分かった。
もしかしたら自分は失礼な言い方をしてしまったのかもしれない!
それとも何かの地雷を踏んでしまったのか!
青年は頭の中でぐるぐるとその原因を考えようとした。
だがそれもすぐに真っ白になってしまい、代わりに冷や汗がだらだらと流れる。
対して男はというと、かちんこちんに固まってしまった青年の様子を目にして眉間の皺をといていた。
その代わりにぽかんと、どうしたんだこいつ?というような表情でもって青年を見ている。
しばらく固まった様子を(固まってはいるが冷や汗がだらだらと流れていてそのまま溶けてしまいそうだ)見ていたが、その理由に何か合点がいったようでああ、と声を洩らした。
「そうか、お前まだ一年目か」
男の発言を耳にした青年はハッとして、真っ白だった思考から一気に我に帰ってきた。
慌てて視線を目の前の赤い人物へと向ける。
先程の発言に「何が」とは含まれていなかったが、その主語が何かは青年にも伝わったようで急いで返答するべく口を開いた。
「あ、はい!今年入隊しました!」
「だからか、なるほどな」
青年の慌ただしい発言を聞いて男はうんうんと納得していた。
だが、今度は青年がぽかんとしている。
「何が」なるほどなのかが分からないからだ。
じっと赤い男の黒い目を伺うように見る。
おそらくこれは無意識に、その意味を知ろうとしているからの行動だろう。
でなければこの青年にとってこのような恐れ多いことはできやしない。
その視線に気付いた男は、実はなと話しを切り出してきた。
「俺はてっきりこのクッキーが何なのかって聞かれたんだと思ってよ。俺はクッキーのつもりで作ったのに、そうとは見えないぐらいの出来になっちまったのかなーって考えてたんだが…」
「そ、そんなことはありません!これほど素晴らしい焼き菓子はありませんよ!」
男がそこまで言ったところで、青年はとっさにそれを否定した。
これをないがしろにしてはいけない気がしたからだ。
だが実際に手元を見てみると、渡された当初は頭が混乱していて翌々見ることが出来なかったが、そこには実に美味しそうな色合いで焼けてたクッキーがある。
小麦色の生地にぽつぽつと浮き出ていたり沈んでいたりする黒い点。
これはチョコチップクッキーと言うもののようだ。
食べるのが楽しみだな、と青年がそこまで考えてふとあることに気付く。
先程眉間に皺が出来ていたのは、怒っていたのではなく考えていたからだということ。
いや、それよりも総帥はこれを「作った」と言っていたよな、ということに。
そこまで気付いて青年は、
「えぇーー!!?」
おもいっきり驚いた。
「あの、まさかこれって総帥のて、手作りなんですか!」
「そうだけど…何だ、嫌だったか?」
青年はそんなつもりで言ったわけではなかったが、先程の発言はそう思われてしまっても仕方がない言い方だったと今頃になって気付いた。
いや、むしろ不快に感じてしまってもおかしくない。
またもや青年の顔が着ている服のように青くなる。
否定しなくては!と思い、ぶんぶんと顔を横に振る。おもいっきりにだ。
「いえそんなわけありませんしむしろ嬉しい限りでありまして食べるのが楽しみだと思っているぐらいです!ただ少し驚いてしまってそのっ…!」
青年は途中から自分でも何を言っているか分からなくなるくらい勢いよく話しだした。
この組織のトップである彼が料理上手だということは噂で聞いたことぐらいはある。
しかしそれが青年が思っていたよりも遥かに上の腕であった(男の手料理なんて切って炒められれば充分だと思っていた)ことと、まさかそれが総帥直々に貰えるなんて思ってもいなかっただけに大層驚いてしまったのだ。
青年が言い終えると待っていたものは頭痛だった。
思っていたよりも大声でしかもほぼノンブレスで口走っていたことと、頭をぶんぶんと振りすぎたことで酸欠と伴って頭ががんがんと痛む。
だがそんなのを気にしている暇はない。
自分は目の前の相手を怒らせていないだろうか、と恐る恐る相手の表情を見る。
すると男は不快な感情を表すどころか、にっと笑っていた。
「そうか気に入ったか、なら有り難く食えよ。で、お前はあれだろ?何でこんなもんをもらったんだろう~とか思ったんだろ?」
「…あ、はい。そうです」
「お前は貰うの初めてだもんな。ほらよ、今日ってハロウィンだろ?だから菓子を配ってんだ」
「ああ、なるほどー…」
って、えぇー!!?
青年はもう一度驚いた。
だが今度は口に出さずに心の中で思うことに成功したようだ。
「も、もしかして毎年配っているんですか!ガンマ団全員に!」
しかし疑問に思ったことはついぽろっと口から出てしまった。
こうやって思ったことを考えずにすぐ出てしまうあたり、若さというものがまだまだ見られる。
が、男はそんな青年を無礼等とは思わず、まあなと返答をした。
「つっても、これをやりだしたのは3年前だけどな。それに全員ってのは俺もさすがに無理だから、会えた奴にだけ渡してんだ。量も量だから簡単なものしか作れなかったけど、これでも味に自信はあるんだぜ?」
そう言って笑ってみせた男を、青年はぼけっと見ているだけであった。
次はどうすればいいのか、どう返事をすればいいのかとか、混乱しすぎていよいよ分からなくなってきたのだ。
青年にとって今日は驚いくことが多すぎた。
自分が仕事の最中であったということを(と、言っても書類を運ぶだけだが)忘れてしまうぐらいに。
まさかここで、しかもこの組織の頂点に君臨する人物にハロウィンだからとわざわざ作ってくれたクッキーを貰えるなんて十分前の青年はみじんも考えていなかった。
だが実際こうして自分の手の中にそれはある。
しかも先程の男が言っていた内容には、これは皆が皆貰えるわけではないらしい。
そう思うと青年の中で何か込み上げてくるものがあった。
自分の顔が崩壊する前に、青年はぐっと口元を引き結んだ。
そんな青年を男は不思議そうに見ていたが、やがてああそうだと言ってもう一度にっと笑った。
「ハッピーハロウィン、仕事頑張れよ」
そう言うと男は満足したようにじゃあなと告げてその場から去っていった。
「ほお、そんなことがあったんか」
昼時。施設内に設けられた食堂で(食堂といってもそんじょそこらとは比べ物にならないほどの広さと設備だ)自分が午前中に体験したことを居合た人物に話す。
「そうなんですよ先輩、まさかここでそんな行事をしてもらえるとは思っていませんでした」
互いに青い服を着た二人のうち、先輩と呼ばれた右眉に傷のある男は本来そのように軽々しく「先輩」と言えるような立場の人間ではなくむしろ幹部クラスの上司だ。
だが、その彼自身が軽い性格であり「それじゃあつまらんじゃろう」と言って自分の部下には自分のことを上司ではなく先輩と思え!という注文をしていたりするのはこの組織の中で結構有名だったりする。
そんなわけで、新人格である青年と伊達衆と呼ばれている大男は同じテーブル席にて本日の昼食を咀嚼しながら会話をしていた。
「まぁ、あいつが手料理を誰かに食わすんは珍しくないが、ハロウィンにああいうことをしだしたのはちーっと訳があるんじゃよ」
もごもごと食べ物を口に入れながら、かつそれをこぼすことなく男は話した。
起用な人だなと思いながら聞いていた青年は、その言葉に興味を示しどんな訳ですかと話しの続きを促した。
「ほら、ハロウィン言うたら有名な台詞があるじゃろ?鳥食うおおトリートメントっていう」
「……それってトリックオアトリートのことですか」
「おおそれじゃけ!」
青年の訂正にぽん、と大きく両手を打った男はうっかりしたけぇのうと声を出して笑った。
青年は自分の上司ながら、この人は大丈夫なのだろうかと少し心配になる。
だが、そう思うのもこれが初めてではないし、この人の凄さも見てきている青年はまぁ大丈夫なんだろうな、と思うことにしてとりあえず話しの続きを待つことにした。
「ありゃあ菓子をくれなきゃ悪戯しちゃるぞってやつじゃろ?じゃから毎年この時期はシンタローの周りに人が集まるんじゃけん」
「…………。」
青年はそこまで聞いてその先に何を言わんとしているのかが安易に分かってしまった。
つまりはあれだ。
お菓子を貰えなかったらあわよくば悪戯をしてやろうというべったべたなことを総帥、ことシンタローにしようとする輩がいるということだ。
「それってつまり…」
「まぁ、そういうことじゃのう。ほいじゃから毎年シンタローも迷惑しててな、そこでキンタローが入れ知恵をしたんじゃ!」
男は自分が持っていた箸をびしっと青年に向けて、まるで核心に迫るように言った。
青年も食べるのを一時中断してその続きを聞くべく耳へと神経を集中させた。
その様に男は満足してつまりじゃな、と口を開く。
「トリックオアトリートと言わせる前に先に菓子を配っといて、牽制してそんなことを言わせないようにすればいいとキンタローが言ってな、じゃからこの時期はこのむさ苦しいガンマ団でも甘い匂いがするんじゃよ」
つまりは先手必勝ということか。
青年はそこまで聞いて何だそれだけかと少々肩透かしを食らった。
てっきり毒でも仕込んでいるのかと思ったからだ。
いや、もしそれだったら大変困るのだが。
「本当はキンタローの奴、毒でも仕込んで始末すりゃええって最初に言ったらしいんじゃがな」
……そこで止まってくれた総帥に感謝しよう。
青年は心底そう思った。
「さ、ここまで話したんじゃし、わしにもそのクッキーを食わしてもらおうかのお」
青年がクッキーの作り主へ感謝していると聞こえてきたとんでもない台詞に、え?この人は今なんと?と数秒ほど反応出来ずにいた。
その言葉が脳内にやっと届いた頃には、青年は持っていたフォークを落としそうになった。
ガシャン
いや、実際に落とした。
「な、何を言ってるんですか!駄目ですよあれは俺のなんですから!」
「なんじゃ、ちっとくらいええじゃないか。わしはまだ貰えとらんのじゃし」
なおもぶーぶーと文句を垂らす男に、あげませんからね!と青年は必死に防御する。
青年はこの場にクッキーを持ってこなくて良かったと思った。
きっと持ってきたら目の前の相手につまみ食いされていただろう。
大事に自分のデスクの引き出しにしまったそれに「お前は俺が守るからな!」と想いをはせながら、男に対しぎっと視線を送る。
と、いっても青年にとっては上司である相手なので、控え目程度にだが。
「ぬぅ、ぬしも中々にケチじゃのう…」
やれやれといったように吐き出した言葉に、やっと男が諦めてくれたかと青年はほっとした。
対して男は未だに名残惜しそうな顔をしていたが、やがてまぁ仕方がないかとため息を一つした。
「ハロウィン一つでそんなにムキにならんでもええじゃろうに…あれか、ぬしはそんなにクッキーが好きなんか?」
「いえ、そういうわけではありませんが…」
そうなのだ。
別段このイベントが好きというわけでも、クッキーが大の好物というわけでもない。
だがこれだけは別なのだ。青年自身もよくわからないが、あれを貰えたと自覚した時にはとにかく嬉しかった。
そんなわけで、総帥との別れ際は顔がにやけそうになるのを抑えるのが大変だったのだ。
「ああ、でも…」
ぽつり、と思い出したように先程の続きを言う。
テーブルの上に置いた手を組み、渡された時のことを思い浮かべる。
思い出すと自然と自分の頬が緩むのが青年にも分かった。
これまでのことを思い、考え、そしてそれは一つの結論につく。
ああそうだ。そういうわけではなかったのに、たぶんそうなんだ。
「今年から、好きになりました」
今までなんともなしに思っていたハロウィンやお菓子。
でも今日は特別。
今日からは特別なんだ!
・END・
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流行に乗れない、それがここのクオリティ。(お前…)
遅ばせながら、ガンマ団のハロウィンなお話しです。
大体お察しはついたと思いますが、男はシンタローさんで先輩がコージ、そして青年は新人ガンマ団員(捏造)です。
キンタローの入れ知恵で始まったこのハロウィンですが、実はシンタローさんからお菓子を貰うのが難しかったりします。
シンタローさんも総帥ですからもちろん仕事があり、そんなに本部内をうろちょろなんて出来ません。
なので出現率が低すぎる。
だからこちらから向かおうにも、仕事でもないのに総帥室に行こうものなら仕事をしろー!と怒られて返されます。
あと数にも限りがあるから早いうちに偶然総帥と出会うか、仕事で総帥室に向かうかが貰える条件です。
と、言っても総帥室に直に入れるのも限られたクラス以上ですがねー。
総帥の手作り、そして直々による手渡しということで倍率はかなり高いと思うよ!
でも青の一族はしっかり貰えていそうだ。あと伊達衆も。
一族分は最初からちゃんと作ってあって、伊達衆は当日にタイミングが合わず貰えなくても欲しい!作って!お願いします!とかって言えばすんげー嫌な顔するけど仕方ねぇなぁってなんだかんだで作ってくる!
シンタローさんはそういう人だと思っています。
710
「やっぱ日本人は納豆だよなー。」
そう独り言を言いながら台所でねりねりと納豆を掻き混ぜるシンタロー。
と、シンタロー以外誰も居なかった台所に突然人影が増えた。
シンタローに近づいてきた人物は皆様もご存じ、ナイスミドル(別名・救いようのない馬鹿)なマジックだ。
いつもなら近付こうものなら手なり足なりガンマ砲なり出てくるのだが、今回は納豆に熱中していたためか、シンタローはマジックの存在に気付かなかったようだ。
「シーンーちゃん。何してるの?」
久しぶりに近付けたことに上機嫌となったマジックは、喜々としながらひょっこりと背後から覗くようにしてシンタローの手元を見た。
シンタローは近付いてきた中年(注・元覇王です)を無視しようとも思ったが、如何せん、この男は答えるまでしつこくまとわりつくだろう。
安易にそれが想像できたので、舌打ちをした後に不本意ながら答えを言った。
「………見りゃわかんだろ、納豆だ糞中年。」
もちろん、暴言も忘れずに。
「へぇー、シンちゃんがそういうの食べるだなんて珍しいねぇ。」
シンタローが食べるものは、時間が無いときは簡単に食べれる出来合ものなのだが、時間があるときにはシンタロー自身が作ったものを口にすることが多い。
しかも作りだすと凝る性格なのか、手作りとなると一工夫も二工夫も手が入り、レトルトやインスタント系に頼ることは殆んど無いのだ。
だからこそ、本当に珍しそうにマジックは呟いた。
「…珍しくて悪かったな。たまにはいいじゃねぇか、無性に食いたくなっちまったんだから」
マジックのその言い方にムカッとしたのか、シンタローはぶっきらぼうに応えた。
しかしそれを言われた相手の反応は意外なものだった。
「えっ!?もしかしてシンちゃん納豆が好きなの!!?」
「んだよその反応は。…別に納豆は嫌いじゃねぇけど」
「そ、そんなぁ!ダメだよシンちゃんっ!!」
何故かマジックは納豆を断固否定する。
しかも頬を朱に染めながら。
「あぁん!?何がだよ!納豆は健康にいいんだぞ!!」
「いくらシンちゃんが納豆好きだからって納豆プレイはさすがにパパもどうかと思うよ!だってベットの上で納豆だなんて臭いよ絶対!後片付けも大変だよ!!あぁ、でもねばねばするっていうプレイはいいかもね。まぁシンちゃんが望ならパパ臭いのとか耐えて頑張っちゃうけど。それにシンちゃんだったらなにぶっかけても艶「眼魔砲っ!!」
今日もガンマ団本部には壮絶な爆音が鳴り響いた。
団員たちにとってもはや慣れてしまったそれは(いや、そんなに慣れたくもなかったが)、今日も彼らに恐怖ではなく、悩みの種を与えたのだった。
・終・
7月10日は納豆の日です。
7月10日に書いたのでこんな内容になりまし、た…
マジックパパは本当にどうしようもない中年です。
そんなどうしようもないパパに萌えます。