総帥室は全壊したので、その修繕には数日を要した。その間、シンタローは別の部屋で仕事をしていたがアラシヤマは相変わらず姿を見せなかった。
シンタローが元通りとなった総帥室に戻ったその日、久々にアラシヤマが姿を現した。
「オマエ、何でギリギリになってこんな書類持って来やがんだ!?」
「・・・すみまへん」
「ったく、面倒かけさせんなヨ!!」
苛々としながらシンタローは書類をめくったが、
「痛ッ!」
どうやら鋭い紙で指が切れたようである。指先を見ていると、プツリ、と赤い血の玉が浮かんだ。いまいましく思いながら、シンタローは指を口に含んだが、
「何だよ?見てんじゃねーヨ」
アラシヤマの視線を感じ、顔を上げ睨みつけると、アラシヤマは我に返ったような顔をし、
「すみまへん」
と謝った。そして何処か後悔しているような表情を浮かべた。アラシヤマが何も言わず立ったまま、中々その場から動こうとしないので、シンタローが、
「まだ何か用事でもあんのか?無いなら、さっさと帰れよ」
そう声をかけると、アラシヤマは帰るつもりは無いようであったが、躊躇っているようであり話し出しもしなかった。そして、しばらくしてやっと口を開き、
「・・・あれからずっと考えてみたんどすが、やっぱりラブなんどす。わて、あんさんを抱きとうおます。いや、シンタローはんがわてを抱きたいいうんやったらそれでもええんどすが」
と言った。
シンタローは、予想もつかなかったことを告げられ一瞬頭が真っ白になった。少し落ち着くと、どうにかしてその発言を聞かなかったことにはできはしないかと考えをめぐらせたが、アラシヤマの真剣な様子を見て、それも止めた。溜め息をつき、
「―――俺は、オマエの事、恋愛とかそういう意味で好きじゃねぇし」
と、血の止まった指先を見つめながらシンタローがそう言うと、
「それは、わかってます。でも、わてには、シンタローはんだけなんどす。・・・他は、何もいりまへん」
気負う様子でもなく、むしろ苦しそうに、しかし真っすぐにシンタローを見据えながらアラシヤマは言葉を絞り出した。シンタローは、指先をぼんやりと見ているようで見ておらず、アラシヤマの言葉を聞いていたが、
(なんでコイツはそんなに俺を欲しがるんだろう?わかんねぇ)
そればかり、頭を廻っていた。ふとシンタローが気づくと、アラシヤマがすぐ傍まで来ていた。
「シンタローはん」
シンタローが顔を上げアラシヤマを見上げると、アラシヤマにキスされた。
(思ったよりも嫌じゃねーな。何でだ?やっぱり分かんねぇし、ああもう、ゴチャゴチャ面倒くせぇッツ!!)
「怒りはらへんの?それは、承諾ととってもええんどすか?」
「・・・抱きたけりゃ、抱けよ。そんかわし、2度目はねーからナ」
「ほんまに、ええんどすか?」
アラシヤマが片手を伸ばし、震える手でシンタローの頬に触れると、
「しつこい!」
シンタローは、手から逃れるように顔を背けた。
ベッドの縁に腰掛けたシンタローの前にアラシヤマは立つと、躊躇いがちに、
「怖かったら止めてもええんどすえ?」
と言ったが、シンタローは、
「誰が!俺の気が変わんねーうちに、さっさとすませろ」
アラシヤマを睨み上げた。
アラシヤマは、震える声で
「シンタローはん」
と呼ぶと、シンタローに歩み寄り、頭を引き寄せ深くキスした。
(何で、俺、コイツとキスしてんだろう)
シンタローがぼんやりとそう考えていると、アラシヤマはいったん身を離し、
「シンタローはん、今はわてのことだけ考えて」
耳元でそう囁き、シンタローをベッドの上に抱き上げた。
総帥服のボタンを全て外され、一糸纏わぬ姿にされたシンタローであったが、アラシヤマは感嘆したように
「あんさん、綺麗どすな」
と言った。
「傷だらけだし、綺麗なわけがねーダロ」
「わてにとっては、綺麗なんどす。早く、抱きとうおます」
掠れた声でアラシヤマはそう言うと服を脱ぎ、顔を背けていたシンタローの顎を捉え、性急にキスをした。
不意に、シンタローは、自分に覆い被さっているアラシヤマから逃れようとした。が、アラシヤマはもちろんシンタローを逃さず、
「別に、恥ずかしいことやあらしまへん。わては、あんさんに気持ちようなってもらいたいんどす」
と言って、花芯から手を離さなかった。そして、もう片方の手でシンタローの片膝を割り開くと、緩く起ちあがった花芯を口に含んだ。
シンタローは暖かくて柔らかい感触に、気持ちがいいとも悪いともわけが分からなくなり、思わず
「ヤダ」
と子どものように目に涙を溜めたが、それでもアラシヤマは止めなかった。シンタローの体が魚のように跳ね、力が抜けたようにクッタリとすると、身を起こしたアラシヤマは、
「ご馳走様どした。美味しゅうおましたえ?」
そう言って嬉しそうにしていたので、シンタローが息が整わないまま彼を睨みつけると、
「そんな色っぽい目でみつめられたら、わて、鼻血が出そうどす」
と真顔で言って軽く口付けた。
力の入らないまま、アラシヤマが下肢へと伸ばす手を振り払えずにいたが、今度は胸の飾りを舐められ、それが赤く色づくと軽く歯を立てられた。シンタローが身を震わせると、アラシヤマは手の中に受けた蜜をシンタローの後口に塗りこめた。
「ええんどすか?」
余裕が無さそうにアラシヤマがそう聞くと、
(そんなこと、一々聞いてんじゃねぇッツ!)
と思いながら、シンタローは小さく顎を引いた。
アラシヤマが自身の切っ先を入り口に押し当て、内に入り込んでくるとシンタローは痛みで気が遠くなりそうであった。生理的な涙の滲んだ目でアラシヤマの顔を見上げると、
「シンタローはん、大丈夫どすか?」
心配そうな顔をしていた。
「まぁな」
と返事をすると、アラシヤマは大切そうにシンタローの手を握り、
「好きな人に受け入れてもらえることが、こんなに気持ちのええもんやて、わて、初めて知りましたわ」
そうポツリと言うと、そっとシンタローの腹を撫でた。前髪で隠れて表情はよく見えなかったが、どうやら泣きそうになっていたらしい。
シンタローは初めてアラシヤマの背に腕を回すと、彼を引き寄せ、自分から口付けた。
アラシヤマが思わず目を丸くしてシンタローの顔を見ると、
「ジロジロ見てんじゃねーヨ!」
と顔を赤くしてそっぽを向いた。
「・・・あんさん、おぼこすぎどす。もう我慢できそうもおまへんから、動いてもええどすか。堪忍してや」
そう言うと大きくシンタローの両膝を割り開き、体を進めた。
(痛ぇ・・・)
勝手が違うのか、最初はゆっくりであったが、どうやら内部が切れて血が潤滑剤がわりとなったようである。アラシヤマに大きく揺さぶられながら、シンタローは意識を手放すまいと必死でアラシヤマの背に手を回していたが、その背に決して小さくはない傷があるのを手に感じると、何故かまた涙が出てきた。
(別に、コイツをかわいそうとか思っちゃいねぇし。ただ苦しいだけだ)
「シンタロー」
そう呼びかけると、アラシヤマは指でシンタローの涙を拭った。
「・・・わてを、拒まんでくれてありがとう」
アラシヤマの言葉を聞きながら、シンタローの意識は闇に呑み込まれていった。
シンタローは、ふと、誰かに優しく髪を撫でられる感触に気づいた。
(?、・・・あぁ、ここは俺の部屋か)
まだはっきりとは覚醒してはいなかったが、薄く目を開けるとベッドサイドには既に着替えたらしく制服を着たアラシヤマが居た。シンタローは、アラシヤマの顔を見たくなかったので、ギュッと目を閉じ手から逃れるように背を向けた。自分を見つめるアラシヤマが、優しい顔をしていたら、嫌だと思った。
「シンタローはん、起きました?」
アラシヤマの言い方がいつもと変わらなかったので、シンタローが、アラシヤマの方に向き直ると、アラシヤマは、
「大丈夫どすか?」
と一言聞いた。
「―――腰が痛ぇ。オマエのせいだからな!」
シンタローが不機嫌にそう答えると、アラシヤマは赤面し、
「そ、そんなシンタローはんッツ!あんさん、はしたのうおますえっ!?」
何やら慌てていた。その様子を見たシンタローは呆れ、
(今更コイツ、何言ってやがんだ?)
と思った。なんとなくアラシヤマがうっとうしく思えたシンタローは、シーツに包まると、
「今日は、仕事しねーからナ!そう言っとけ」
と言って向こうを向いた。
「シンタローはーん!そう、すねてへんとこっち向いておくんなはれ。あっ、もう一回一緒にお風呂に入ります??意識のないあんさんもおぼこうおましたが、やっぱりわて、意識のあるシンタローはんとも一緒にお風呂に入ってみたいんどすー!!」
「・・・調子乗んなッ!死ねッツ!!」
至近距離からの眼魔砲に倒れたアラシヤマをシンタローは見遣って、
「―――特に、何もかわんねーナ。別にオマエのこと好きになったわけでもねぇし。オマエ、ヘタだし」
と確認するように呟いた。アラシヤマは床に倒れたまま、
「シンタローはーん、非道うおますえ・・・。あれはわてが下手なわけやのうて、あんさんがバージ」
「うるせぇッツ!・・・てめぇそれ以上何か言ったら殺ス!!!」
床から立ち上がったアラシヤマは、顔を赤くして怒っているシンタローを見て、(やっぱりこの人、おぼこうおますなvvv)と嬉しく思った。
「シンタローはん。わて、あんさんに好きや言うてもらえるよう色々頑張りますさかい、覚悟しといておくれやすvvv」
アラシヤマがニヤニヤしながら言うのを見て、
(やっぱり、こんな奴に抱かれてやるなんて失敗だったか?ムカツク!!)
少々どころではなくかなり本気で殺意を覚えながらも、シンタローはアラシヤマがそうしたのかきれいに畳まれて置いてあった服を手に取った。
「さっさと出てけヨ!」
そう言って、アラシヤマに背を向けボタンを嵌めていると、
「ほな、シンタローはん、わては今から遠征に行って来ますさかいに」
真面目な声でそう言い、アラシヤマは部屋から出て行こうとした。ドアノブに手を掛ける音がした時、シンタローが
「―――オマエ、死んだらただの馬鹿だからナ」
と、ポツリと言うと、一瞬間が空き、
「あんさん、優しゅうおますナ」
嬉しそうに低く笑うのが聞こえた。そして、アラシヤマは引き返すと憮然としているシンタローを背後から抱きしめ、
「わては、還ってきます。約束どす」
と言った。
ドアが閉まり、アラシヤマの気配が完全に無くなると、
「心配なんて誰がするかヨ!それに、不確かな約束なんかいらねぇッ!!」
シンタローは、ベッドの縁に座ったまま、手近に会った枕をドア目がけて投げつけた。
「・・・馬鹿アラシヤマ。別に俺は優しくなんかねぇし」
シンタローは手で顔を覆い、しばらくそうしていたが、
「今までどおり、だ。何も変わんねぇはずだ」
顔を上げると、一言一言、自分に言い聞かせるようにように言った。
数週間後、なんとかガンマ団に帰還したアラシヤマは、
(気がすすみまへんが・・・)
そう思いつつ、ある部屋のドアをノックすると、
「お入り」
中から声が聞こえ、ドアが開いた。マジックはいきなり、
「お前がここに来たということは、シンタローを抱いたんだね?」
とアラシヤマに尋ねた。穏やかな口調ではあったが、威圧感があった。
「そうどす。あんたはん、シンタローを今まで抱いてへんかったんどすな」
一瞬、底冷えのするような殺気が自分に向けられたのをアラシヤマは感じたが、何事もなかったかのようにマジックの口調は変わらなかった。
「シンちゃんは、世界中で一番可愛いけどネ。でも何よりもまず、シンちゃんは私の息子で大切な家族だからだよ。お前との事に関しては、シンタローが決めたことならば、私は口出しをしない」
そう、マジックはキッパリと言った。アラシヤマは拍子抜けしたような思いと同時に、マジックのシンタローに対する家族という想いに少し敗北感に似たものも感じた。
考え込んでいる様子のアラシヤマをマジックは眺めながら、(モチロン、これからたーっくさん、邪魔はするけどネ☆)と心中では思っていたが、アラシヤマはそんなことは知るよしもなかった。(―――さて、)とマジックは気持ちを切り替え、口を開いた。
「―――アラシヤマ。お前、厄介なものに手を出したね。もしお前がシンタローを裏切ったら、シンタローの意志がどうであれ、私はお前を消すよ?」
アラシヤマを見据え、今までとは一転して、淡々とした冷たい口調で告げた。
「・・・あぁ、そしたら、今までのガンマ団内での刺客は前総帥が差し向けたものやなかったんどすか」
少し間を置き、アラシヤマもただ事実を述べるようにそう言った。
「私じゃないよ。ただ、お前を始末したがっている連中には好きにしろと言ったがね。お前が殺されるのならそれでもいいと思ったが、お前は相手を返り討ちにし、そうはならなかった。別に殺されないなら、お前にはまだ利用価値があるからそれはそれでよかったしね。まぁ、今は私が殺してやりたい気分だけど」
「―――わては、シンタローはんのため以外には、何があろうと命を無駄遣いするわけにはいかへんのどす」
アラシヤマは静かにそう言うと、
「ほな、失礼します」
と一礼をして部屋から出ていった。閉まったドアを見て、
「何で、よりにもよってあんな厄介なのを受け入れちゃったんだい、シンちゃん?一切の情を廃して徹底的に利用するだけにしておかないとダメだヨ」
とマジックは呟き、
(結局、あの子は裏切られても、いずれ許しちゃうんだろうねぇ・・・)
深い、溜め息を吐いた。
ドンドン、と総帥室のドアをノックする音が聞こえ、(来やがったか・・・)とシンタローは溜め息を吐いた。
「シンタローはーん!帰ってきましたえ~vvv」
「ああ」
アラシヤマの方を見もせずに、書類に目を通しながらそう返事をすると、
「ええっ?久々に会ったのにそれだけどすかぁ??“ちょっと照れながら、恥ずかしそうにお帰りのキス”とかはッツ!?」
そっけないシンタローの反応に、思わず自分の妄想を口にしたアラシヤマであったが、
「眼魔砲!」
即、眼魔砲を撃たれた。そして、どうにかダメージから回復すると、吹き飛ばされた部屋の隅っこで
「ええんどす、ええんどす。どーせわてなんて・・・」
体育座りをしていじけていた。
「ウゼェ!用がねーなら今すぐ帰れッツ!!!」
放っておくとキノコが生えそうな程鬱陶しい様子であったので、シンタローがそう怒鳴ると、
「あ、用ならありますわ」
立ち上がったアラシヤマは、シンタローの傍まで歩み寄り、
「ただいま、シンタローはん。わて、約束守りましたやろ?」
そう、真剣な顔で言った。
シンタローは溜め息を吐き、
「オマエ、ただの馬鹿じゃなくて大馬鹿に格下げだナ」
と言うと、
「嬉しおますv」
アラシヤマはシンタローを抱き寄せ、キスをした。シンタローは、渋々といった様子でアラシヤマの背に手を回した。
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ジャングルの闇は深い。暗い中、辺り一面から動物のものと思われる奇怪な叫び声のような物音や、風か潜んでいる獣か分からないが木の葉がガサガサと揺らされる音が聞こえる。そのような慣れない環境の中で歩哨に立っている若者は、緊張感と連日続く過酷な訓練からくる疲労のあまり今にも気絶しそうであった。
じっと闇に目を凝らすが、何も見えない。
ふと、緊張感が緩み彼は浅くため息をついたが、その瞬間、首に激痛が走った。一瞬のことで彼には何が起こったか判らなかったが、首の急所をナイフの背で強打されたのである。
襲撃者は崩れ落ちて気を失っている彼の姿を何の感情も交えない冷静な目つきで見下ろすと、襟首を掴んで引き摺りながら闇の中に消えた。
「全員起床!完全装備で5分以内に訓練場に集合しろ」
時刻は午前2時であり、疲れきっている中、睡眠を中断された訓練生達はもはや条件反射のように黙々と装備品を身につけていた。
「あと2分」
暗闇の中、短い呻き声が聞こえ、ドサッと地面に重いものが倒れる音がした。どうやらモタモタしていた者が背後から教官に足蹴りを食らわされて地面に倒れ伏したようである。
訓練生達がやっとの思いで訓練場に集合すると、そこには歩哨についていたはずの仲間が縛られて転がっており、そして、その傍には教官であるアラシヤマが抜き身のナイフを手にして立っていた。アラシヤマは、気絶している歩哨を縛っているロープを切ると、彼の横腹を蹴りあげ覚醒させた。
「遅い。おまえらは今から全員が捕虜だ」
そう言うと、整列している彼らに、パンツ一枚残して着ているものを全て脱ぐように指示した。
暑い地域とはいえ、夜と昼の温度差は激しく夜は寒かった。思わず訓練生達が躊躇してお互いの顔を見合すと、アラシヤマは無表情で手近にあったバケツの水を全員にかけ、再度服を脱ぐよう命令した。そして、
「今から午後4時までジャングルで過ごせ。訓練基地付近には近寄るな」
と、寒さで震えている訓練生達をジャングルに追放し、姿を消した。
「なんで、俺たちがこんな目に遭わなきゃなんねーんだよ!」
ジャングルの中、追放された訓練生達が寒さのあまり一箇所に寄り集まってお互いの体温で暖をとっていると、誰かが泣きながらそう言った。皆、泣きそうになりながら黙っていたが、内心は同じ思いであった。実戦を体験して芽生えかけていた自信のようなものが今回の訓練で風船の空気が抜けるように一気にしぼんでしまった。
腕時計も何も持たせてもらえなかったので太陽の高さでおおよそ時間の見当をつけ、憔悴しきった訓練生達がビクビクしながら訓練場に戻ると、そこにはアラシヤマの姿は見当たらず、総帥であるシンタローが待って居た。
「今からアラシヤマ教官に替わって、俺が指揮を執る」
そう言うとシンタローは訓練生達に焚き火の傍に来るように促し、服と装備を彼らに返した。
「ホラ、食え」
シンタローが服を着終わった一人ひとりに無造作に熱いスープを手渡すと、中には泣き出す訓練生もいた。
シンタローは彼らが食べ終わるまで黙っていたが、彼らがどうやら人心地がついた様子になったのを見ると口を開き、
「・・・まだまだ訓練は続くが、帰りたい奴は俺と一緒にガンマ団に戻ってもかまわねぇ。俺が許可する。そうしたい奴は、腕章を俺に渡せ」
とぶっきらぼうに言った。数人がためらいがちに立ち上がり前に出てシンタローに腕章を渡すと、
「他には誰もいねぇのか?」
と、シンタローは全員を見渡し、確認するように聞いた。
誰も前に出てこなかったのを見届けると、シンタローは立ち上がり、突然、
「―――以上で訓練は終了だッツ!今から全員ガンマ団に帰還する。訓練時の班に分かれてすぐにBポイントに向かって出発しろ」
と言った。訓練生達は俄かには信じ難いようであったが、誰もが喜びの色を隠しきれない様子であった。
彼らの出発を見送ったシンタローはその場に留まっていたが、溜息を吐いて鍋を持ち上げると、
「―――片付けるゾ。手伝え」
誰もいないはずの方向に向かってそう声をかけた。すると、
「もちろんどすえ~」
何処からか、アラシヤマが現れた。
指揮官用の少し大き目のテントの中で2人は簡易机を間に挟んでそれぞれ椅子に座っていた。シンタローは、アラシヤマがつけた訓練生のデータや訓練記録に目を通している。アラシヤマはというと、何か書類に記入していた。
アラシヤマはふとペンを置くと立ち上がり、ランプに灯を入れた。
「そろそろ、暗うなってきましたナ」
シンタローは紙面から目を上げ、アラシヤマを見ると、
「こいつ等、俺に腕章を渡した奴らダロ?不適格ってお前は判断したのか?」
と聞いた。
「そうどす。指揮官には向いてまへんナ。これから先、どこから綻びが出たものかわかりまへんし、リスクは少ない方がええんどす」
そうアラシヤマはキッパリと断言した。シンタローは、特に異論を差し挟むわけではなかったが、もう一度紙面に目を落とし何やら考え込んでいる様子であった。
しばらくするとアラシヤマはただ事実を述べるように淡々と
「・・・わては、わてのやり方が厳しすぎるという批判があることは、わかっています」
と言った。シンタローは手に持っていた資料を机に置いた。
「―――“自分に打ち勝つ”。これができねー奴は、戦場で絶対生き残れねぇナ。俺は、オマエのやり方を否定はしたくねぇ」
その言葉を聞いたアラシヤマは、目を見開いたままシンタローを凝視した。
「・・・何だヨ?その間抜け面は」
「いや、すんまへん」
そう言うと、ぎこちなくシンタローから目を逸らした。
場の雰囲気になんとなく居心地が悪くなったシンタローは、(この俺がどうしてこんなヤツに気を遣わなきゃなんねーんだ!?)と理不尽に思いながら、それでも話題を探してみた末、少しひっかかっていたことを聞いてみた。
「そういや、何でわざわざ訓練生をパンツ一丁にしてたんダヨ?まさかお前・・・」
「ちっ、違いますえ~!濡れ衣どすッツ!あれは、体力の消耗が激しいのと精神的ダメージが大きそうやからああしただけで、あんな連中の裸見ても何にも面白うないどすわ。どーせなら、女の裸の方が」
「だよナ」
「・・・あんさん、わてに何言わしますんや。わて、純情派なんどすえ?」
机に突っ伏したアラシヤマは力なくそうボヤいたが、シンタローはそれを無視し、
「そろそろ、飯にすっか」
スープの残りを温めようと立ちあがった。
「スープ、作りすぎちまったかな」
外で焚き火を囲みながら携帯食とシンタローが作ったスープの残りで食事を取っていると、
「あんさん、料理が上手どすな。何が違うのかわてにはわかりまへんが、買うたもんとは全然違いますわ」
とアラシヤマがポツリと言った。
「・・・オマエ、何でわざわざ俺に最後の役を振ったんだヨ?オマエがやりゃあよかったじゃねーか」
アラシヤマは炎の照り返しが映るシンタローの顔を眺め、
「そら、わてよりもシンタローはんの方が効果絶大どすさかい。第一、わてあーいうの似合うてまへんやろ?」
おどけたように言い、笑顔のつもりなのか口角を上げた。
(コイツ、笑うのに慣れてねーのかな)
そう思ってシンタローがアラシヤマを見ていると、アラシヤマは真面目な顔と口調で
「シンタローはん。あんさん、やっぱり優しゅうおますな」
と言った。それを聞いたシンタローは、眉間に皺を寄せた。
ガンマ団に戻ってから、シンタローはイライラしていた。何故かと言えば、指揮官候補生の教育訓練以来、暇さえあればアラシヤマが、
「シンタローはーんッツ!こ、これ読んでおくれやすぅ~vvv」
と言って何やらハートのシールで封のされたファンシーな封筒を押し付けてきたり、自分の行く先々にどういうわけか出没する頻度が以前よりも多くなったような気がしたからである。相手にせず無視していると、カメラ片手にこっそり木の陰などから盗撮しようとしていたりする姿が目に付き、余計にムカついた。
そして、ことあるごとにアラシヤマが口にするある言葉が気に障ったので、ある日シンタローはアラシヤマを総帥室に呼び出した。
「仕事以外で、シンタローはんからお誘いがあるやなんて、う、嬉しおますえ~vvv」
アラシヤマは非常に嬉しそうであったが、シンタローはとても不機嫌であった。
「テメェ、何で呼び出されたか、胸に手ぇ当ててよーッく考えてみろッツ!!」
「えっ?わて、心当たりがまったくおまへんが」
アラシヤマは数分考え込むと、何かに思い当たったようで、ポンと手を叩いた。
「わかりましたえー!」
「言ってみろ」
総帥机に頬杖をついたシンタローがそう促すと、
「あんさん、今まで照れてはったんどすな! “もっと2人きりの時間をつくりたい”これでっしゃろ!!心友のわてに今まで言い出せへんかったやなんて、みずくそうおま」
「眼魔砲ッツ!!」
ドウッツと音がし、まともに正面から眼魔砲をくらったアラシヤマは吹き飛ばされ、部屋は半壊状態となった。
しばらくすると、アラシヤマはどうにか立ち直ったらしい。
「あの、痛うおますが、違いましたん??でもまぁ、わてはいつでもあんさんをバーニング・ラブvどすさかいに!」
「ぜんぜん違うッツ!!!てめぇ、本気でわかんねーのかヨ・・・。それと、もう一つ!!」
「なんどすか?」
「オマエ、いつも“バーニング・ラブ”って言うけどラブは間違ってるダロ!!てめぇなんざ友達じゃねーけど、百歩譲って友達だったら“like”とかじゃねぇの!?」
「・・・バーニング・ライク?えらい語呂が悪うおますナ」
「そういう問題じゃねぇッツ!」
アラシヤマは数秒考えた末、
「いや、語呂とか関係なく、わてにとってはラブの方ががしっくりくるんどす。だから、ラブでええんどす」
そうキッパリと言い切ったアラシヤマは、本気でそう思っているようであった。
(コイツの根拠のない自信は、一体どこからきやがんだ?ムカツク)
シンタローは、アラシヤマと話していると自分ばかりが非常に疲れる気がした。しかし、どうにかしてアラシヤマに意趣返しをしてやろうと思い、アラシヤマをからかうつもりで、
「オマエ、全然俺の好みじゃねーけど!」
と前置きし、
「俺を抱きたいとか抱かれたいとかそーいうつもりがあんのかヨ?―――考えてやってもいいゼ?」
そう言ってアラシヤマを上目遣いに見ると、アラシヤマは、拾い集めていた書類の束をバサッと床に落とし、どうやら思考停止状態に陥ったようであった。
「シシシシシシシンタローはんッツ、今何て!?!?」
しばらくして我に返ったようではあるが、思いっきり動揺しているアラシヤマを見てシンタローは大笑いし、
「バーカ!冗談だ。んなワケねーだろ!」
と言うと、アラシヤマは非常に疲れた顔で、
「し、心臓に悪い冗談はやめておくんなはれ。とにかく、今までシンタローはんにバーニングラブやいうのでせいいっぱいどしたわ・・・。わて、純情派やさかい」
そう言ってどうにか拾い集めた書類を総帥机の上に置くと、アラシヤマはヨロヨロとしながらも、
「ほな、失礼します」
それでも律儀に挨拶をし、帰っていった。シンタローは、鳩が豆鉄砲をくらったような間抜けなアラシヤマの顔を思い出し、久々にスッキリとした気分であった。
「び、吃驚したわ・・・」
総帥室のドアを開け、外に出たアラシヤマはズルズルと扉にもたれてその場に座り込んだ。
「―――考えてやってもいい、か・・・」
(まぁ、シンタローはんは何の気もなしに言うた冗談やろけどナ。昔は、何度かシンタローを犯したい思うたこともないわけやおまへんけど、今は、)
「・・・今は、とりあえずこのままでええんどす」
自分に言い聞かせるようにアラシヤマはそう呟いた。
(シンタローはんは、何やかんや言いつつわてを認めてくれてはる。あの頃とは、違う)
様々な思いが脳裏をよぎったが、無理矢理それを断ち切り、息を吐くとアラシヤマは立ち上がった。
「あんまり、わてを挑発せんといておくんなはれ」
疲れたような口調でそう言うと、歩き出した。
ふと気がつけば、シンタローはここ最近アラシヤマの姿を見かけていなかった。
(アイツ、別に今遠征の予定も入ってねぇし、めずらしいナ)
そう思った後、
(なんで俺があんな奴のことなんか1ミリたりとも考えなきゃなんねーんだ!?むしろ、いなくてせいせいするし!)
シンタローは自分に腹を立て、そして一気に不機嫌になった。読んでいた書類を脇に押しやると、
(気分転換にコーヒーでも入れるか)
と椅子から立ち上がった。
扉をノックする音が聞こえたので、シンタローが扉を開けると、
「おはよう、シンちゃん。パパだヨv」
マジックが立っていた。マジックは部屋に入ってくるなりシンタローを抱きしめようとしたが、シンタローはそれをかわした。マジックは少々残念そうな様子であったが、気を取り直したように
「シンちゃーん、さっきCMを観たんだけど、パパ重大なことに気づいたヨ!」
と言った。
「あ゛ぁ?」
「そのCMってのがね、“最近、息子と一緒にお風呂に入っていない。身長も体重も知らない”って!」
「あっそ」
「シンちゃんッツ!パパもずっとシンちゃんと一緒におフロに入ってないんだヨ!?これは、親子のコミュニケーション不足という由々しき事態だッ!!!だから、今夜はお風呂に入って一緒に寝ようネvvv」
嬉しそうにそう言うマジックを、シンタローは冷たく見返し、
「グンマと一緒に入れば?アイツも息子ダロ?」
と言った。
「・・・シンちゃん、可愛いけど可愛くないネ。グンちゃんは、午前中にキンちゃんと新発明のロボットを見せにきてくれたヨ。シンちゃんはパパの所に全然遊びに来てくれないから、パパ寂しいんだもーん」
「ウゼェ!眼魔・・・って、何しやがんだ!?テメェッツ」
マジックはいきなりシンタローを抱き上げると、シンタローを抱えたままソファに座った。
「離せッツ!!!」
アラシヤマは、それほど急ぎの用事ではなかったが書類を持って総帥室を訪れた。
(なんや、数日会わへんかっただけやのに久々な気がしますナ・・・。アレ?ドアが少し開いてますやん)
何の気なしにアラシヤマがドアノブに手を掛けると、中からマジックの楽しげな声が聞こえてきた。
(あの親馬鹿親父、性懲りもなくまた来てたんか・・・。どうやら出直した方がよさそうどすナ)
ドアノブから手を離そうとしたが、マジックの言葉が耳に入り、アラシヤマは固まった。
「シンちゃんがそんなにパパとお風呂に入るのが嫌だったら、今ここで脱がせて確かめちゃおうかな♪」
「親父ッツ!悪フザケはヤメロよッツ!」
シンタローの必死で抵抗する声が聞こえ、アラシヤマが(なんか、わて、覗きをしている間男みたいどすナ・・・)と思いながらドアの隙間から部屋の内部を見ていると、マジックは暴れるシンタローを押さえつけ総帥服のボタンを外し始めた。
「全部服を脱がないと正確な身長体重は計れないからね」
「って、そんなものここには置いてねぇし!!!」
「もちろん、そんなことは知ってるヨv」
そう言うと、シンタローの顎を持ち上げ、キスをした。
「何すんだヨ!?」
上着を半分脱がされた状態で、顔を紅くして泣きそうになっているシンタローの頭を片手で自分の肩口に抱き寄せると、マジックはアラシヤマの方をみて勝ち誇ったように哂った。
(―――アレは、明らかにわてが見ているのを知ってての嫌がらせどすな。あの親父・・・!シンタローはんもシンタローはんどすえ!嫌やったら何でもっと抵抗しまへんのや?・・・ほんまは嫌やないんか!?)
何故か非常に腹立たしさが収まらないながらも、
(ここでわてが入っていくわけにもいきまへんな)
それでもまだ分別が残っていたらしく、ドアから離れるとアラシヤマは姿を消した。それをマジックは確認し、(シンちゃん、すっかりおとなしくなっちゃったねぇ。ちょっとやりすぎたか?でもまぁ煩い邪魔者はいなくなったし、いいか☆)と思いつつ、
「シンちゃん、パパと一緒にお風呂に入ってくれる気になったカナ??」
シンタローの顔を覗きこんで明るくそう聞くと、シンタローは、腕の力が緩んだ一瞬の隙にマジックを突き放して立ち上がり、
「・・・死ねッツ!眼魔砲―――ッツ!!」
最大級の眼魔砲を放った。部屋は、壊滅状態となった。
一日の仕事を終えたシンタローが、廊下を歩いていると、
「シンタローは――――ん!!」
後ろの方から叫ぶ声が聞こえた。振り返りざま、
「眼魔砲ッツ!!」
と、眼魔砲を撃とうとすると、いつの間にか近くまで来ていたアラシヤマが、
「あっ、今回眼魔砲は堪忍しておくれやす~!アイスがとけますさかいに」
コンビニの白いビニール袋をヒラヒラさせてそう言った。アイスという単語に少々気が抜けたので、シンタローはとりあえず高密度のエネルギー体を消失させた。
「何だヨ、ソレ?」
「アイスクリームどす。シンタローはんと一緒に食べようと思うて、買うてきたんどすえ~!」
「買うてきたって、オマエ。いきなりわけわかんねェし」
「だって、シンタローはん、この前何遍もわてのこと“暑苦しい”言うてましたやん。よくよく考えてみたんどすけど、それはわてが“炎”を使うイメージからくるもんやと分かったんどすー!わては暑苦しい男やないいうことをシンタローはんに証明しよう思いまして、だから、冷たいアイスなんどすvvv」
(見当違いなうえ、やっぱりコイツ、わけわかんねェ・・・)
シンタローは、アラシヤマの行動自体を指してそう言ったわけであったが、アラシヤマが、
「あんさん、一日中、冷房に当たってばっかりでしたやろ?体に悪うおます。ということで、今から外へ行きまへんか?それに、アイスは外で食べるもんどすえー!!」
と言った言葉を聞いて少し心を動かされたので、アラシヤマの勘違いについて蒸し返すのはとりあえず、やめておいた。
「まぁ、別にいいけど。今は夜だゾ?こんな時間から一体どこに行くんだよ」
「まっ、わてにまかせておくれやす」
そう言って嬉しそうに笑うアラシヤマに軽くムカつきつつ、シンタローはアラシヤマについて行った。
「―――それにしても、あちィ」
シンタローは、こめかみを伝い落ちた汗を拭った。夜になって朝よりは涼しいはずであるが、クーラーに慣れた体には、気温は非常に高く感じた。
「まだなのかヨ?」
「もう、すぐそこどすえ~」
暗い林を抜けた先には月明かりに照らされた高いフェンスがあり、
「この中どす」
アラシヤマはフェンスをよじ登り始めた。2人が身軽に飛び降りた場所は、コンクリートの上であった。微かに塩素の臭いが鼻についた。
「ここって、士官学校・・・」
「の、プールどすvやっぱり水辺は涼しゅうおますナ!これで、わてが暑苦しゅうないことがあんさんにもわかりましたやろ??」
アラシヤマは何やら非常に自信ありげである。
「・・・やっぱオマエ、暑苦しーわ」
「エッ?何でどすかッ!?こーいうこととちゃいますのんッツ??」
アラシヤマは悩んでいたが、シンタローが、
「もういいから、とっととアイス食っちまおーゼ!溶けたらもったいねーし」
そう言うと、嬉しそうに袋からアイスを取り出し、
「半分こ、どすえ~vvv」
と、照れながら、アイスを割ってシンタローに渡した。
シンタローはあまり納得はいかなかったものの、プールの飛び込み台に座ってアイスを食べながら、
「それにしても、なんでガンマ団の幹部がコンビニでこんな安いアイス買ってんだヨ?俺、こんなの食ったのってガキの時以来だゼ?」
隣の飛び込み台に座っているアラシヤマの方を向いて言うと、もう既にアイスを食べ終わっていたらしいアラシヤマが、
「シンタローはん」
真剣な顔をして近づいてきた。
「何だよ?」
一体何を言われるのかとシンタローは身構えたが、アラシヤマは、
「―――あんさん、そんなエロい食べ方したらあきまへん!いや、わての前では勿論ええんどすが(むしろ推奨)、他の男の前では絶対アイスを食べんといておくれやす―――!!!」
そう叫んだので、
「眼魔砲」
と、片手で眼魔砲を撃つと、アラシヤマは水飛沫を上げてプールに落ちた。制服のままプールに落ちたアラシヤマが、
「なっ、何しはるんどすかッツ!?」
抗議をしたものの、
「さーて、アイスも食い終わったし、そろそろ帰っかナ!」
シンタローは全く取り合わない。
シンタローが座っていた飛び込み台から立ち上がろうとすると、不意に足を引っ張られ、水の中に落ちた。
アラシヤマが抱きとめたので、顔までは水に浸からなかったが。
「お返しどすえ~v水もしたたるええ男どすナ!シンタローはん♪」
「テメェ、殺ス・・・!」
と非常にムカついたシンタローがアラシヤマを睨み上げると、アラシヤマは全く話を聞いていないようで、シンタローの下唇を親指でなぞり、
「つめとうおます。さっき、アイスを食べたからでっしゃろか?」
と、考え込んでいた。
「離せヨ!」
シンタローは、アラシヤマの腕の中から抜け出そうとしたが、馬鹿力なのか何なのか、腕は中々外れない。イライラしたシンタローがアラシヤマの指を噛み、親指の根元に赤く歯形がついた。
「あ痛!えらい凶暴な人魚どすなァ・・・」
アラシヤマはちょっとの間自分の手を眺めていたが、
「やっぱり、可愛いおます~vvv」
そう言って、キスをした。
「・・・あの、この先は?」
シンタローに睨まれつつ、アラシヤマが恐る恐るお伺いを立てると、
「考えりゃ、分かるダロ?」
「やっぱり、駄目なんどすな・・・」
アラシヤマはガッカリした様子であった。そして、シンタローを離した。
(本当は、そんなに嫌というわけじゃなかったんだけど・・・。まっ、別にいいか!)
シンタローがそう思いながら、先にプールサイドに上がると、
「シ、シンタローはーん・・・」
アラシヤマが水に入ったまま情けない調子でシンタローを小さく呼んだ。その様子がなんとなくおかしかったので、何だかそれほど腹も立たなかった。シンタローが、
「オラ、とっとと帰っぞ!」
と言うと、
「了解どす~!」
とアラシヤマは喜んでプールサイドに上がってきた。
「ヒデェ格好だナ!」
「あんさんも、たいして変わりまへんやん?」
「―――ったく、誰のせいだヨ?」
「ま、そのうち乾きますやろ」
軽口をたたきながら、2人は再びフェンスを乗り越えた。
誰もいないプールにはしばらく細かい細波が立っていたが、いつしか水面は穏やかになり、丸い月が映っていた。
わ、わたしはひょっとすると“甘い”の定義が間違っておりますでしょうか??(大汗)
ひよこ様ー!勝手に押し付けましてすみませんが、もしよろしければひよこ様に捧
げます・・・!(土下座)
「シンタローは――――ん!!」
後ろの方から叫ぶ声が聞こえた。振り返りざま、
「眼魔砲ッツ!!」
と、眼魔砲を撃とうとすると、いつの間にか近くまで来ていたアラシヤマが、
「あっ、今回眼魔砲は堪忍しておくれやす~!アイスがとけますさかいに」
コンビニの白いビニール袋をヒラヒラさせてそう言った。アイスという単語に少々気が抜けたので、シンタローはとりあえず高密度のエネルギー体を消失させた。
「何だヨ、ソレ?」
「アイスクリームどす。シンタローはんと一緒に食べようと思うて、買うてきたんどすえ~!」
「買うてきたって、オマエ。いきなりわけわかんねェし」
「だって、シンタローはん、この前何遍もわてのこと“暑苦しい”言うてましたやん。よくよく考えてみたんどすけど、それはわてが“炎”を使うイメージからくるもんやと分かったんどすー!わては暑苦しい男やないいうことをシンタローはんに証明しよう思いまして、だから、冷たいアイスなんどすvvv」
(見当違いなうえ、やっぱりコイツ、わけわかんねェ・・・)
シンタローは、アラシヤマの行動自体を指してそう言ったわけであったが、アラシヤマが、
「あんさん、一日中、冷房に当たってばっかりでしたやろ?体に悪うおます。ということで、今から外へ行きまへんか?それに、アイスは外で食べるもんどすえー!!」
と言った言葉を聞いて少し心を動かされたので、アラシヤマの勘違いについて蒸し返すのはとりあえず、やめておいた。
「まぁ、別にいいけど。今は夜だゾ?こんな時間から一体どこに行くんだよ」
「まっ、わてにまかせておくれやす」
そう言って嬉しそうに笑うアラシヤマに軽くムカつきつつ、シンタローはアラシヤマについて行った。
「―――それにしても、あちィ」
シンタローは、こめかみを伝い落ちた汗を拭った。夜になって朝よりは涼しいはずであるが、クーラーに慣れた体には、気温は非常に高く感じた。
「まだなのかヨ?」
「もう、すぐそこどすえ~」
暗い林を抜けた先には月明かりに照らされた高いフェンスがあり、
「この中どす」
アラシヤマはフェンスをよじ登り始めた。2人が身軽に飛び降りた場所は、コンクリートの上であった。微かに塩素の臭いが鼻についた。
「ここって、士官学校・・・」
「の、プールどすvやっぱり水辺は涼しゅうおますナ!これで、わてが暑苦しゅうないことがあんさんにもわかりましたやろ??」
アラシヤマは何やら非常に自信ありげである。
「・・・やっぱオマエ、暑苦しーわ」
「エッ?何でどすかッ!?こーいうこととちゃいますのんッツ??」
アラシヤマは悩んでいたが、シンタローが、
「もういいから、とっととアイス食っちまおーゼ!溶けたらもったいねーし」
そう言うと、嬉しそうに袋からアイスを取り出し、
「半分こ、どすえ~vvv」
と、照れながら、アイスを割ってシンタローに渡した。
シンタローはあまり納得はいかなかったものの、プールの飛び込み台に座ってアイスを食べながら、
「それにしても、なんでガンマ団の幹部がコンビニでこんな安いアイス買ってんだヨ?俺、こんなの食ったのってガキの時以来だゼ?」
隣の飛び込み台に座っているアラシヤマの方を向いて言うと、もう既にアイスを食べ終わっていたらしいアラシヤマが、
「シンタローはん」
真剣な顔をして近づいてきた。
「何だよ?」
一体何を言われるのかとシンタローは身構えたが、アラシヤマは、
「―――あんさん、そんなエロい食べ方したらあきまへん!いや、わての前では勿論ええんどすが(むしろ推奨)、他の男の前では絶対アイスを食べんといておくれやす―――!!!」
そう叫んだので、
「眼魔砲」
と、片手で眼魔砲を撃つと、アラシヤマは水飛沫を上げてプールに落ちた。制服のままプールに落ちたアラシヤマが、
「なっ、何しはるんどすかッツ!?」
抗議をしたものの、
「さーて、アイスも食い終わったし、そろそろ帰っかナ!」
シンタローは全く取り合わない。
シンタローが座っていた飛び込み台から立ち上がろうとすると、不意に足を引っ張られ、水の中に落ちた。
アラシヤマが抱きとめたので、顔までは水に浸からなかったが。
「お返しどすえ~v水もしたたるええ男どすナ!シンタローはん♪」
「テメェ、殺ス・・・!」
と非常にムカついたシンタローがアラシヤマを睨み上げると、アラシヤマは全く話を聞いていないようで、シンタローの下唇を親指でなぞり、
「つめとうおます。さっき、アイスを食べたからでっしゃろか?」
と、考え込んでいた。
「離せヨ!」
シンタローは、アラシヤマの腕の中から抜け出そうとしたが、馬鹿力なのか何なのか、腕は中々外れない。イライラしたシンタローがアラシヤマの指を噛み、親指の根元に赤く歯形がついた。
「あ痛!えらい凶暴な人魚どすなァ・・・」
アラシヤマはちょっとの間自分の手を眺めていたが、
「やっぱり、可愛いおます~vvv」
そう言って、キスをした。
「・・・あの、この先は?」
シンタローに睨まれつつ、アラシヤマが恐る恐るお伺いを立てると、
「考えりゃ、分かるダロ?」
「やっぱり、駄目なんどすな・・・」
アラシヤマはガッカリした様子であった。そして、シンタローを離した。
(本当は、そんなに嫌というわけじゃなかったんだけど・・・。まっ、別にいいか!)
シンタローがそう思いながら、先にプールサイドに上がると、
「シ、シンタローはーん・・・」
アラシヤマが水に入ったまま情けない調子でシンタローを小さく呼んだ。その様子がなんとなくおかしかったので、何だかそれほど腹も立たなかった。シンタローが、
「オラ、とっとと帰っぞ!」
と言うと、
「了解どす~!」
とアラシヤマは喜んでプールサイドに上がってきた。
「ヒデェ格好だナ!」
「あんさんも、たいして変わりまへんやん?」
「―――ったく、誰のせいだヨ?」
「ま、そのうち乾きますやろ」
軽口をたたきながら、2人は再びフェンスを乗り越えた。
誰もいないプールにはしばらく細かい細波が立っていたが、いつしか水面は穏やかになり、丸い月が映っていた。
わ、わたしはひょっとすると“甘い”の定義が間違っておりますでしょうか??(大汗)
ひよこ様ー!勝手に押し付けましてすみませんが、もしよろしければひよこ様に捧
げます・・・!(土下座)
総帥室で顔を向かい合わせて話しているのはガンマ団総帥シンタローと、幹部のアラシヤマであった。
昨日夜半から起きたN国のクーデター。
その抑圧をすべく組まれた隊の隊長がアラシヤマであり、本日正午過ぎ、一旦情報を提示する為アラシヤマのみ帰還してきた。
どうやら内乱はさほど激しくはなく、後一週間もしたら抑圧できるだろう、というのがアラシヤマの報告であった。
クーデターを起こした理由はどうやら国の政治のやり方に不満があったようで、反乱した者達もただ単なるエゴではなく、自分達が生きる為必死だったらしい。
「腐った国どした。」
それがアラシヤマの本音であった。
ここに居ては依頼者側の話しか聞く事はできない。
鵜呑みにする訳ではないが、どうしても情報が偏るものだ。
「どうやらN国の国王は実権は握ってのうて、大臣達が国を動かしとります。水増しやら、税金やらでかなりぼったくっとるようでしたわ。」
アラシヤマの話に耳を傾け、作成された簡易の書類に目を通す。
“腐った国”とアラシヤマが言うように、内部情勢は本当に腐っていた。
国のトップにあるまじき行為。
トップの人間が良ければそれでいい、という考えの政治。
人々は働く場所すら奪われ、それでも高額な税金を納めなければならない。
N国は物作りの盛んな国で、そこの国民達は争いを好まない。
今まで堪え忍んできたものが一気に爆発したのだろう。
「お前の意見は?」
「へぇ。わてはシンタローはんがこのままN国側でいろと言いはるんでしたらそれに従いますわ。けど……」
そこで一旦区切り、シンタローの目に己の焦点を合わせる。
「悪い奴限定お仕置き集団だとしたら、クーデター側に行くべきやと思います。ただし、ギャラはかなり少なくなりますけどな。」
そう言って取り出した紙をシンタローに見せる。
そこにはガンマ団がこの戦いで使う経費と、N国側が報酬で払う金額、そして、クーデター側が払えるであろう金額が書いてあった。
「クーデター側はおおよそどす。」
「フーン。N国側と一億は違うナ。」
「ま、元々国民の金どすから。奴等が稼いだ金なんぞ鐚一文あらしまへん。」
ひらひらと紙を指の間に挟み、シンタローが笑う。
「命令変更だ。団員達は一旦ガンマ団本部へ退却。新たな指示を言い渡す。」
「了解どす。」
ビ、と、敬礼をして、アラシヤマは部屋から出て行った。
アラシヤマはそのままモニター画面付きの外線器で部下達に話を伝える。
『了解しました。』
担当の隊員が敬礼をし、外線は切れた。
己の役割を果たすと、アラシヤマは再びシンタローの元へと舞い戻る。
さっき行ったばかりなのに又戻ってきたアラシヤマに、シンタローは思い切り不機嫌な顔をした。
「シンタローはーん!」
「キモいしウザイから何処かに消え失せろ。」
「いややわー、シンタローはんたら恥ずかしがって!」
しなを作り頬を染めるのが又ウザイ。
アラシヤマという男は仕事に私情を一切出さない。
戦闘の事では尚更。
多分シンタローが死ね、と命令すれば何の躊躇もなく死ぬだろう。
勿論シンタローはそんな事は言わないが、団に身を置く事しか能がないと思っているアラシヤマはそれが自然で当たり前の事なのだ。
しかし、一度団から離れれば唯のストーカーと化す。
今回作戦変更となった為、アラシヤマはその瞬間からフリータイム突入なのだ。
そして、彼の趣味はシンタローをストーカーする事。
常に見ていたいし、声を聞きたいし、触れていたい。
しかし、シンタローが職務中である為触れる事はしないのだ。
黙ってろ、と言われて、アラシヤマは話す事を止めた。
しかし、見つめる見つめる!
穴が開くんじゃないかと心配する位じーーっとシンタローを見つめるのだ。
見るな、と、言えないシンタロー。
なんだかんだ言ってシンタローだってアラシヤマが好きなのだ。
そうでなければ大人の関係は持てないだろう。
好きでもない奴に体をいいようにされるのを好む程の変態ではないし、プライドがまず許さない。
彼はシンタローにとって、唯一自分をさらけ出せる相手でもあるのだ。
アラシヤマは優しい。
自分がどんなに暴言を吐いても、暴力で語っても笑顔で許してくれる。
それに甘え過ぎてもいけないのだが、甘えている、という気分にさせないようにするのも又上手い。
心は狭いが優しいのだ。
寛大ではない。それだけは絶対ない。
黙々と作業を進めるシンタローに、アラシヤマは飽きるという事を知らないように、じーーっと見つめている。
少し居心地が悪いが、仕事に夢中な為、段々そんな気分も無くなっていく。
ふわ、と温かい温度が頬を掠め、同時に芳しい匂いが鼻孔をくすぐった。
匂いのする方へ目線を送ると、いつのまにかアラシヤマが温かいコーヒーを入れてきたようで、カップをカチャリと邪魔にならない所に置いた。
「サンキュな。」
そう御礼を言えば、照れ臭そうに微笑む。
その顔がやはりキモかった。
アラシヤマの入れたコーヒーを一口飲んで、初めて自分が喉が渇いている事に気付いた。
コクコクと喉を鳴らし、瞬く間に飲み終える。
白いカップに入っていた黒い液体がみるみるうちに無くなっていく。
カチン、と、皿の上にコーヒーカップを置くと、又アラシヤマがコーヒーを注いでくれた。
時計をふと見ればもう夜で。
あれから何時間アラシヤマは何も話さずここに居たのか、と考える。
つまらなくないのか、と。
ふと、コーヒーを注ぐアラシヤマを見るとニコニコしていて楽しそうであった。
ああ、又甘やかしてくれやがって。
シンタローは軽く伸びをする。
今日しなければならない仕事はもう終わった。
そろそろ帰る準備をしようと席を立つ。
「帰るんどすか?なら、わてと食事でも……」
ぱあっと花が咲いたような雰囲気で笑い、誘うアラシヤマに、シンタローは心底疲れた顔をして見つめる。
「断る。」
そんな、殺生な!
泣き崩れるアラシヤマを興味のない目の端で見下し、シンタローは彼が回復するのを待った。
しかし、やはりアラシヤマ。
ねちっこさは天下一品である。
仕方ない、と、シンタローは肩をつぼめて溜息を吐いた。
「じゃあ特別に今回は一緒に飯食ってやるヨ。だけど俺疲れてるから、お前何か作れヨ。」
「へえ!おおきに!嬉しいどすー!シンタローはん!!」
肯定してやれば、さっきまでの泣き崩れは一体何だったのか、と思う。
まぁ、どう考えたって泣きまねだと知っていたが。
ルンタッタと足どり軽やかにシンタローの手を引っ張る。
もう夜遅いので、所定の場所にしか警備は居ない。
人前でのこの行為は死ぬ程嫌ではあったが、人が居ない所では許していた。
アラシヤマが慣れた手つきで自分の部屋の警備を解除した。
ドアを開けてシンタローを押し込める。
シンタローも勝手知ったというように電気を付ける。
相変わらず殺風景な部屋。
簡易ベッドにテーブル、スタンドにパソコンとクローゼット。
必要最低限の物しか置いていない。
テレビや書庫がないのはどうしてだ、と、以前聞いた事があるのだが、その時のアラシヤマの解答は、テレビは談話室、本は図書室で見ているとの事だった。
「さーて、シンタローはん、何にしましょ。」
エプシロンをして、笑顔で聞いてくるアラシヤマに、シンタローはやはりウザいと思うのだった。
「まぁ、食えるモンなら何でも……。」
そういえば、こいつの作る料理を食べるのは初めてだ。
一体何を作るのか。
「解ったどす!腕によりをかけますえ!!」
腕まくりをして、手早く料理を作っていく。
そういえばパプワ島でこいつは一人暮らししていたようなモンなんだから料理位は出来ていたンだろーナ、と、シンタローはふと思う。
マーカーの弟子なのだから、中華風かと思いきや、和風なものがシンタローの前に置かれた。
献立は、白米、キノコの吸い物、カブの漬物、里芋のにっころがしに、ぶりの照り焼き。
いただきます、と、二人で手を合わせてから箸でつつく。
「どうでっしゃろ。」
「………薄い。」
ニコニコ聞いてくるアラシヤマに、シンタローはズバリと思った事を述べた。
京料理は味が薄い。
ましてシンタローはイギリス人の父親に育てられたのだ。
父はシンタローの体を気遣うのもあったし、自分自身があまり濃い味付けが好きではないので薄口ではあったが、それでも京料理に比べれば充分濃のだ。
「シンタローはんて、味覚は子供舌なんどすな……。」
「あんだとッツ!?」
料理の事で馬鹿にされるのはシンタローは嫌だった。
何てったって、趣味、料理と書く位料理は好きなのだ。
色々研究して、独自に開発していったり、新しいレパートリーを増やしたりしている。
「京料理は食べ物そのままの味を楽しむもんどす。味付けは、素材の味を失わん程度に引き立て役としてしか使いやしまへん。」
そう言われ、シンタローは唸った。
確かにまずくはない。
それが又シンタローをいらつかせる理由でもあった。
「濃い味は嫌いなのかヨ。」
「まぁ、嫌いではあらしまへんけど得意ではないどすな。」
じゃあ、俺が作った料理も嫌々食ってたのかヨ!
そう考えると苛々する。
せっかく作ってやったのに。
それが顔に出ていたのか、アラシヤマは笑顔でシンタローを見る。
「あ、シンタローはんの料理はとってもおいしゅう頂かせとります。何たって、最大の調味料は“愛”どすえ。」
ブーーーッ!!
いきなりな台詞に、シンタローは飲んでいた吸い物を吹いた。
アラシヤマの顔面に直撃したが、彼は平然としていて…いや、むしろ喜んでいるようであった。
咳込むシンタローと、タオルで顔を拭くアラシヤマ。「でも……」
ふわ、と、アラシヤマの顔がシンタローの顔に近づいた。
もう少しで唇が触れそうな距離。
「1番美味しいのはシンタローはん自身どす。」
歯の浮くような台詞にシンタローはアラシヤマを蔑むような目で見たが、本心としてはくらっ、ときてたりする。
唇が重なり合い、それが合図となって、二人はベッドに重なり合った。
簡易ベッドな為、ギシギシと安っぽい音が奏でられる。
それと合唱するかのように、熱い吐息と甘い声が部屋に静かに響いた。
「あ、あ、」
途切れ途切れに聞こえる遠慮がちな喘ぎ。
汗で張り付く長い髪を気にする事なく突き上げられる。
シーツを掴み、腰を高く掲げられ、後ろから有無を言わさず快感を与えられた。
「シンタローはん。逃げないでおくれやす。」
無意識のうちに腰が引けていたらしい。
思いきり腰を引っ張られて、少し後ろに引きずられた。
畜生、何でこう、コイツはこうゆう時ばかり強引なんだ。
ムカつく、と、頭の中で悪態を吐くが、快楽のせいで息を吸うのもままならない口からは、いつもの毒舌は生まれなかった。
生まれるのは喘ぎ声だけ。
唇を噛み締めて声を押し殺そうともしたが、酸欠になりそうなので止めた。
アラシヤマに触れられている所が全て熱い。
自分も熱に浮かされているのに、こうも温度差を感じるのはアラシヤマが特異体質だからだろうか。
「ふ……ぅ……あ、ああ」
「もっと声聞かせておくれやす。シンタローはんの情事にまみれた声、わて、大好きなんどす。」
後ろから聞かされた為、顔までは見る事はできなかったが、その声色は酷く楽しそうで、そして、掠れていて色っぽい。
そんなアラシヤマの声が実はシンタローも好きなのである。
その証拠に、話し掛けられると、シンタローの蕾は、きゅうきゅうとアラシヤマ自身を締め付けるのだから。
上から覆いかぶされて、片手で腰、もう片方で乳首をいじめられる。
「んんッツ!あ、や、いや……」
ふるふると頭を振るのだが、止める気配はさらさらなかった。
「シンタローはんの乳首、えらい可愛らしおすなぁ。ピンクで、ツンツン尖って。わてに弄られて喜んどりますえ。」
ベロリと首筋を舐められ、シンタローはぶるり、と震えた。
前はいじって貰えず、かといって前のめりになっている自分は触る事すら出来ない。
涙が溢れた。
「あ…あらしやま……ッツ!」
舌ったらずの言葉遣いでアラシヤマを呼ぶ。
後ろでは、己とアラシヤマの液体が、ぐちゃぐちゃといやらしい音を奏でていた。
「何どすえ?」
耳元で囁かれる甘い声。
ぴったりとくっつき合う肌と肌が汗ばんでいて、少し気持ち悪い。
「も、だめ……あ、あ、」ゆるゆると腰が動いている。
それはシンタローの理性が途切れた合図でもあった。
「後ろだけでイッてみたらどうどっしゃろ。ふふ、恥ずかしどすなぁ?男やのに突っ込まれてヨガるなんて。」
今の状況を他人事みたいに言われて、かぁっ!と顔が熱くなる。
そして、思い知らされた。
恥ずかしいのに、又、きゅうっと蕾が絞まる。
「酷い事言われて感じとりますの?いやらしい体どすな、シンタローはんの体は。」
そう言ってシンタローの蕾に指を入れた。
「やあああ!い、痛あぁああッツ!!」
ビリビリと電流が流れて、シンタローは体を海老剃りに曲げた。
太腿がぴくぴくと痙攣をおこす。
「痛がってますのに、ここはガチガチどすな?痛いの本当は好きなんどっしゃろ。痛くされてよがるなんて……シンタローはんも大概変態どすな。」
酷い事を言われているのに、体は感じてしまって。
嫌なのに気持ち良い。
もっと激しく貫かれて、どうにも出来なくなる位になって。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
その時、くるりと正面を向かされた。
アラシヤマの顔が。シンタローはんの顔が。
見える。
「イク時のシンタローはんの顔、絶対見なあきまへん。」
「……こ、この、へんたいッツ!」
「それはお互い様どっしゃろ。」
アラシヤマの動きが早くなる。
熱い。自分もアラシヤマも。
胸に落ちる汗が、冷たくて、そしていやらしかった。
アラシヤマの息遣いも、段々荒くなっていく。
そんなアラシヤマを愛おしく思ってしまう俺は、もしかしたら相当コイツにやられてるのかもしれない。
おもむろにシンタローは腕をアラシヤマの背中に回した。
一瞬目を見開いたアラシヤマだったが、小声で一言、おおきに。と呟いてシンタローの奥不覚に貫いた。
「あ……アラシヤマ…!」
「クッ……!」
びゅくびゅくとシンタローの精子はだらし無く垂れ流され、シンタローの腹の上に注がれた。
アラシヤマは素早く己自身を抜き取り、シンタローの顔へと噴射したのであった。
「あ、熱……」
呆然としていたシンタローであったが、アラシヤマにされたこの仕打ちに対して、段々頭がクリアになる。
俺、まさか顔射されたのか?
顔を指でなぞると、明らかに汗ではないドロっとした感触。
「こォの腐れ野郎ーーーッツ!!」
シンタローの右ストレートパンチがアラシヤマの鳩尾にクリティカルヒットした。
次の日、言われた通り退却してきた団員。
彼等が見たものは、闘ってもいないのにボコボコにされたアラシヤマ。
しかし、顔はどこかスッキリとしていた。
そして、やはりスッキリした顔をしたシンタロー今回の戦いの作戦指示を出す。
「総帥からの命令どす。心して聞きなはれ。」
アラシヤマがそう言うと、団員達はビシッと敬礼をし、シンタローに向き直った。
「今回、諸君等にはN国側について貰っていた。だが、報告書を見る限り、悪はN国側と推測する。俺達ガンマ団は正義の団体として生まれ変わったのは諸君等も解っていると思う。弱きを守り、強きをくじく為にも俺達はクーデター側につく!」
そう熱弁すると、団員達から喝采が起きた。
正義感溢れる者達が今のガンマ団には多い。
シンタローとアラシヤマはそんな部下達を見て、少し顔を綻ばせた。
「作戦内容はラシヤマに伝えてある。コイツに従い、今まで通りやってくれ。以上だ。」
ぷつり、とマイクが切れた音がした。
シンタローと交代で、アラシヤマがマイクを握る。
しかし、対人恐怖症の為、斜め下を見ているアラシヤマ。
だが、団員達は慣れっこなので気にしない。
むしろアラシヤマが正面を向いて話した方が団員達には驚きだろう。
「さ、作戦内容は、まず、総帥に和平解決でけへんかN国の大臣に言って貰います。それで交渉成立でけへんかったらわてらの出番どす。N国の国王は実権を握っとりまへん。そやから大臣に少し脅しをかけます。税金の軽減、全ての大臣達の辞職、これが目的どす。」
挙動不信になりながらもとりあえずそれだけ言う事が出来た。
団員達も敬礼しながら話を聞き、返事を声高らかにしたのであった。
団員達への通達が終わると、当然ながら指揮官としてアラシヤマは戦地へ赴かなければならない。
団服の上にコートを羽織り、少ない日用品をアタッシュケースに詰めて艦に乗り込む。
団員達の誰よりも先に仕事に付くのがアラシヤマである。
仕事に生きる、いや、生かされている。
この仕事が彼にとっての天職であり、これしか自分ができる仕事がない。
タラップを上がろうとした時、横に居る赤い服の黒い髪。
「シンタローはん……」
思わず呼んでしまう。
この時間にこんな所に居ていい人間ではない。
仕事の合間に見送りに来てくれたのか。
そう思うと思わず心がほっこりした。
「きばって来いよナ。」
風で髪がたなびく姿を見て、ああ、この人を好きになって良かったと、アラシヤマは素直にそう思えた。
だから。
彼の激に答えなければならない。
「へぇ、行ってきますえ!」
満開の笑みを見せ、タラップを上がる。
彼の為に自分が出来る事を精一杯やろう。
それが彼にできる自分の全てなのだから。
柔らかな気分のまま、アラシヤマは戦地に向かう艦に乗り込んだ。
生きて帰ろうと誓う。
終わり
昨日夜半から起きたN国のクーデター。
その抑圧をすべく組まれた隊の隊長がアラシヤマであり、本日正午過ぎ、一旦情報を提示する為アラシヤマのみ帰還してきた。
どうやら内乱はさほど激しくはなく、後一週間もしたら抑圧できるだろう、というのがアラシヤマの報告であった。
クーデターを起こした理由はどうやら国の政治のやり方に不満があったようで、反乱した者達もただ単なるエゴではなく、自分達が生きる為必死だったらしい。
「腐った国どした。」
それがアラシヤマの本音であった。
ここに居ては依頼者側の話しか聞く事はできない。
鵜呑みにする訳ではないが、どうしても情報が偏るものだ。
「どうやらN国の国王は実権は握ってのうて、大臣達が国を動かしとります。水増しやら、税金やらでかなりぼったくっとるようでしたわ。」
アラシヤマの話に耳を傾け、作成された簡易の書類に目を通す。
“腐った国”とアラシヤマが言うように、内部情勢は本当に腐っていた。
国のトップにあるまじき行為。
トップの人間が良ければそれでいい、という考えの政治。
人々は働く場所すら奪われ、それでも高額な税金を納めなければならない。
N国は物作りの盛んな国で、そこの国民達は争いを好まない。
今まで堪え忍んできたものが一気に爆発したのだろう。
「お前の意見は?」
「へぇ。わてはシンタローはんがこのままN国側でいろと言いはるんでしたらそれに従いますわ。けど……」
そこで一旦区切り、シンタローの目に己の焦点を合わせる。
「悪い奴限定お仕置き集団だとしたら、クーデター側に行くべきやと思います。ただし、ギャラはかなり少なくなりますけどな。」
そう言って取り出した紙をシンタローに見せる。
そこにはガンマ団がこの戦いで使う経費と、N国側が報酬で払う金額、そして、クーデター側が払えるであろう金額が書いてあった。
「クーデター側はおおよそどす。」
「フーン。N国側と一億は違うナ。」
「ま、元々国民の金どすから。奴等が稼いだ金なんぞ鐚一文あらしまへん。」
ひらひらと紙を指の間に挟み、シンタローが笑う。
「命令変更だ。団員達は一旦ガンマ団本部へ退却。新たな指示を言い渡す。」
「了解どす。」
ビ、と、敬礼をして、アラシヤマは部屋から出て行った。
アラシヤマはそのままモニター画面付きの外線器で部下達に話を伝える。
『了解しました。』
担当の隊員が敬礼をし、外線は切れた。
己の役割を果たすと、アラシヤマは再びシンタローの元へと舞い戻る。
さっき行ったばかりなのに又戻ってきたアラシヤマに、シンタローは思い切り不機嫌な顔をした。
「シンタローはーん!」
「キモいしウザイから何処かに消え失せろ。」
「いややわー、シンタローはんたら恥ずかしがって!」
しなを作り頬を染めるのが又ウザイ。
アラシヤマという男は仕事に私情を一切出さない。
戦闘の事では尚更。
多分シンタローが死ね、と命令すれば何の躊躇もなく死ぬだろう。
勿論シンタローはそんな事は言わないが、団に身を置く事しか能がないと思っているアラシヤマはそれが自然で当たり前の事なのだ。
しかし、一度団から離れれば唯のストーカーと化す。
今回作戦変更となった為、アラシヤマはその瞬間からフリータイム突入なのだ。
そして、彼の趣味はシンタローをストーカーする事。
常に見ていたいし、声を聞きたいし、触れていたい。
しかし、シンタローが職務中である為触れる事はしないのだ。
黙ってろ、と言われて、アラシヤマは話す事を止めた。
しかし、見つめる見つめる!
穴が開くんじゃないかと心配する位じーーっとシンタローを見つめるのだ。
見るな、と、言えないシンタロー。
なんだかんだ言ってシンタローだってアラシヤマが好きなのだ。
そうでなければ大人の関係は持てないだろう。
好きでもない奴に体をいいようにされるのを好む程の変態ではないし、プライドがまず許さない。
彼はシンタローにとって、唯一自分をさらけ出せる相手でもあるのだ。
アラシヤマは優しい。
自分がどんなに暴言を吐いても、暴力で語っても笑顔で許してくれる。
それに甘え過ぎてもいけないのだが、甘えている、という気分にさせないようにするのも又上手い。
心は狭いが優しいのだ。
寛大ではない。それだけは絶対ない。
黙々と作業を進めるシンタローに、アラシヤマは飽きるという事を知らないように、じーーっと見つめている。
少し居心地が悪いが、仕事に夢中な為、段々そんな気分も無くなっていく。
ふわ、と温かい温度が頬を掠め、同時に芳しい匂いが鼻孔をくすぐった。
匂いのする方へ目線を送ると、いつのまにかアラシヤマが温かいコーヒーを入れてきたようで、カップをカチャリと邪魔にならない所に置いた。
「サンキュな。」
そう御礼を言えば、照れ臭そうに微笑む。
その顔がやはりキモかった。
アラシヤマの入れたコーヒーを一口飲んで、初めて自分が喉が渇いている事に気付いた。
コクコクと喉を鳴らし、瞬く間に飲み終える。
白いカップに入っていた黒い液体がみるみるうちに無くなっていく。
カチン、と、皿の上にコーヒーカップを置くと、又アラシヤマがコーヒーを注いでくれた。
時計をふと見ればもう夜で。
あれから何時間アラシヤマは何も話さずここに居たのか、と考える。
つまらなくないのか、と。
ふと、コーヒーを注ぐアラシヤマを見るとニコニコしていて楽しそうであった。
ああ、又甘やかしてくれやがって。
シンタローは軽く伸びをする。
今日しなければならない仕事はもう終わった。
そろそろ帰る準備をしようと席を立つ。
「帰るんどすか?なら、わてと食事でも……」
ぱあっと花が咲いたような雰囲気で笑い、誘うアラシヤマに、シンタローは心底疲れた顔をして見つめる。
「断る。」
そんな、殺生な!
泣き崩れるアラシヤマを興味のない目の端で見下し、シンタローは彼が回復するのを待った。
しかし、やはりアラシヤマ。
ねちっこさは天下一品である。
仕方ない、と、シンタローは肩をつぼめて溜息を吐いた。
「じゃあ特別に今回は一緒に飯食ってやるヨ。だけど俺疲れてるから、お前何か作れヨ。」
「へえ!おおきに!嬉しいどすー!シンタローはん!!」
肯定してやれば、さっきまでの泣き崩れは一体何だったのか、と思う。
まぁ、どう考えたって泣きまねだと知っていたが。
ルンタッタと足どり軽やかにシンタローの手を引っ張る。
もう夜遅いので、所定の場所にしか警備は居ない。
人前でのこの行為は死ぬ程嫌ではあったが、人が居ない所では許していた。
アラシヤマが慣れた手つきで自分の部屋の警備を解除した。
ドアを開けてシンタローを押し込める。
シンタローも勝手知ったというように電気を付ける。
相変わらず殺風景な部屋。
簡易ベッドにテーブル、スタンドにパソコンとクローゼット。
必要最低限の物しか置いていない。
テレビや書庫がないのはどうしてだ、と、以前聞いた事があるのだが、その時のアラシヤマの解答は、テレビは談話室、本は図書室で見ているとの事だった。
「さーて、シンタローはん、何にしましょ。」
エプシロンをして、笑顔で聞いてくるアラシヤマに、シンタローはやはりウザいと思うのだった。
「まぁ、食えるモンなら何でも……。」
そういえば、こいつの作る料理を食べるのは初めてだ。
一体何を作るのか。
「解ったどす!腕によりをかけますえ!!」
腕まくりをして、手早く料理を作っていく。
そういえばパプワ島でこいつは一人暮らししていたようなモンなんだから料理位は出来ていたンだろーナ、と、シンタローはふと思う。
マーカーの弟子なのだから、中華風かと思いきや、和風なものがシンタローの前に置かれた。
献立は、白米、キノコの吸い物、カブの漬物、里芋のにっころがしに、ぶりの照り焼き。
いただきます、と、二人で手を合わせてから箸でつつく。
「どうでっしゃろ。」
「………薄い。」
ニコニコ聞いてくるアラシヤマに、シンタローはズバリと思った事を述べた。
京料理は味が薄い。
ましてシンタローはイギリス人の父親に育てられたのだ。
父はシンタローの体を気遣うのもあったし、自分自身があまり濃い味付けが好きではないので薄口ではあったが、それでも京料理に比べれば充分濃のだ。
「シンタローはんて、味覚は子供舌なんどすな……。」
「あんだとッツ!?」
料理の事で馬鹿にされるのはシンタローは嫌だった。
何てったって、趣味、料理と書く位料理は好きなのだ。
色々研究して、独自に開発していったり、新しいレパートリーを増やしたりしている。
「京料理は食べ物そのままの味を楽しむもんどす。味付けは、素材の味を失わん程度に引き立て役としてしか使いやしまへん。」
そう言われ、シンタローは唸った。
確かにまずくはない。
それが又シンタローをいらつかせる理由でもあった。
「濃い味は嫌いなのかヨ。」
「まぁ、嫌いではあらしまへんけど得意ではないどすな。」
じゃあ、俺が作った料理も嫌々食ってたのかヨ!
そう考えると苛々する。
せっかく作ってやったのに。
それが顔に出ていたのか、アラシヤマは笑顔でシンタローを見る。
「あ、シンタローはんの料理はとってもおいしゅう頂かせとります。何たって、最大の調味料は“愛”どすえ。」
ブーーーッ!!
いきなりな台詞に、シンタローは飲んでいた吸い物を吹いた。
アラシヤマの顔面に直撃したが、彼は平然としていて…いや、むしろ喜んでいるようであった。
咳込むシンタローと、タオルで顔を拭くアラシヤマ。「でも……」
ふわ、と、アラシヤマの顔がシンタローの顔に近づいた。
もう少しで唇が触れそうな距離。
「1番美味しいのはシンタローはん自身どす。」
歯の浮くような台詞にシンタローはアラシヤマを蔑むような目で見たが、本心としてはくらっ、ときてたりする。
唇が重なり合い、それが合図となって、二人はベッドに重なり合った。
簡易ベッドな為、ギシギシと安っぽい音が奏でられる。
それと合唱するかのように、熱い吐息と甘い声が部屋に静かに響いた。
「あ、あ、」
途切れ途切れに聞こえる遠慮がちな喘ぎ。
汗で張り付く長い髪を気にする事なく突き上げられる。
シーツを掴み、腰を高く掲げられ、後ろから有無を言わさず快感を与えられた。
「シンタローはん。逃げないでおくれやす。」
無意識のうちに腰が引けていたらしい。
思いきり腰を引っ張られて、少し後ろに引きずられた。
畜生、何でこう、コイツはこうゆう時ばかり強引なんだ。
ムカつく、と、頭の中で悪態を吐くが、快楽のせいで息を吸うのもままならない口からは、いつもの毒舌は生まれなかった。
生まれるのは喘ぎ声だけ。
唇を噛み締めて声を押し殺そうともしたが、酸欠になりそうなので止めた。
アラシヤマに触れられている所が全て熱い。
自分も熱に浮かされているのに、こうも温度差を感じるのはアラシヤマが特異体質だからだろうか。
「ふ……ぅ……あ、ああ」
「もっと声聞かせておくれやす。シンタローはんの情事にまみれた声、わて、大好きなんどす。」
後ろから聞かされた為、顔までは見る事はできなかったが、その声色は酷く楽しそうで、そして、掠れていて色っぽい。
そんなアラシヤマの声が実はシンタローも好きなのである。
その証拠に、話し掛けられると、シンタローの蕾は、きゅうきゅうとアラシヤマ自身を締め付けるのだから。
上から覆いかぶされて、片手で腰、もう片方で乳首をいじめられる。
「んんッツ!あ、や、いや……」
ふるふると頭を振るのだが、止める気配はさらさらなかった。
「シンタローはんの乳首、えらい可愛らしおすなぁ。ピンクで、ツンツン尖って。わてに弄られて喜んどりますえ。」
ベロリと首筋を舐められ、シンタローはぶるり、と震えた。
前はいじって貰えず、かといって前のめりになっている自分は触る事すら出来ない。
涙が溢れた。
「あ…あらしやま……ッツ!」
舌ったらずの言葉遣いでアラシヤマを呼ぶ。
後ろでは、己とアラシヤマの液体が、ぐちゃぐちゃといやらしい音を奏でていた。
「何どすえ?」
耳元で囁かれる甘い声。
ぴったりとくっつき合う肌と肌が汗ばんでいて、少し気持ち悪い。
「も、だめ……あ、あ、」ゆるゆると腰が動いている。
それはシンタローの理性が途切れた合図でもあった。
「後ろだけでイッてみたらどうどっしゃろ。ふふ、恥ずかしどすなぁ?男やのに突っ込まれてヨガるなんて。」
今の状況を他人事みたいに言われて、かぁっ!と顔が熱くなる。
そして、思い知らされた。
恥ずかしいのに、又、きゅうっと蕾が絞まる。
「酷い事言われて感じとりますの?いやらしい体どすな、シンタローはんの体は。」
そう言ってシンタローの蕾に指を入れた。
「やあああ!い、痛あぁああッツ!!」
ビリビリと電流が流れて、シンタローは体を海老剃りに曲げた。
太腿がぴくぴくと痙攣をおこす。
「痛がってますのに、ここはガチガチどすな?痛いの本当は好きなんどっしゃろ。痛くされてよがるなんて……シンタローはんも大概変態どすな。」
酷い事を言われているのに、体は感じてしまって。
嫌なのに気持ち良い。
もっと激しく貫かれて、どうにも出来なくなる位になって。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
その時、くるりと正面を向かされた。
アラシヤマの顔が。シンタローはんの顔が。
見える。
「イク時のシンタローはんの顔、絶対見なあきまへん。」
「……こ、この、へんたいッツ!」
「それはお互い様どっしゃろ。」
アラシヤマの動きが早くなる。
熱い。自分もアラシヤマも。
胸に落ちる汗が、冷たくて、そしていやらしかった。
アラシヤマの息遣いも、段々荒くなっていく。
そんなアラシヤマを愛おしく思ってしまう俺は、もしかしたら相当コイツにやられてるのかもしれない。
おもむろにシンタローは腕をアラシヤマの背中に回した。
一瞬目を見開いたアラシヤマだったが、小声で一言、おおきに。と呟いてシンタローの奥不覚に貫いた。
「あ……アラシヤマ…!」
「クッ……!」
びゅくびゅくとシンタローの精子はだらし無く垂れ流され、シンタローの腹の上に注がれた。
アラシヤマは素早く己自身を抜き取り、シンタローの顔へと噴射したのであった。
「あ、熱……」
呆然としていたシンタローであったが、アラシヤマにされたこの仕打ちに対して、段々頭がクリアになる。
俺、まさか顔射されたのか?
顔を指でなぞると、明らかに汗ではないドロっとした感触。
「こォの腐れ野郎ーーーッツ!!」
シンタローの右ストレートパンチがアラシヤマの鳩尾にクリティカルヒットした。
次の日、言われた通り退却してきた団員。
彼等が見たものは、闘ってもいないのにボコボコにされたアラシヤマ。
しかし、顔はどこかスッキリとしていた。
そして、やはりスッキリした顔をしたシンタロー今回の戦いの作戦指示を出す。
「総帥からの命令どす。心して聞きなはれ。」
アラシヤマがそう言うと、団員達はビシッと敬礼をし、シンタローに向き直った。
「今回、諸君等にはN国側について貰っていた。だが、報告書を見る限り、悪はN国側と推測する。俺達ガンマ団は正義の団体として生まれ変わったのは諸君等も解っていると思う。弱きを守り、強きをくじく為にも俺達はクーデター側につく!」
そう熱弁すると、団員達から喝采が起きた。
正義感溢れる者達が今のガンマ団には多い。
シンタローとアラシヤマはそんな部下達を見て、少し顔を綻ばせた。
「作戦内容はラシヤマに伝えてある。コイツに従い、今まで通りやってくれ。以上だ。」
ぷつり、とマイクが切れた音がした。
シンタローと交代で、アラシヤマがマイクを握る。
しかし、対人恐怖症の為、斜め下を見ているアラシヤマ。
だが、団員達は慣れっこなので気にしない。
むしろアラシヤマが正面を向いて話した方が団員達には驚きだろう。
「さ、作戦内容は、まず、総帥に和平解決でけへんかN国の大臣に言って貰います。それで交渉成立でけへんかったらわてらの出番どす。N国の国王は実権を握っとりまへん。そやから大臣に少し脅しをかけます。税金の軽減、全ての大臣達の辞職、これが目的どす。」
挙動不信になりながらもとりあえずそれだけ言う事が出来た。
団員達も敬礼しながら話を聞き、返事を声高らかにしたのであった。
団員達への通達が終わると、当然ながら指揮官としてアラシヤマは戦地へ赴かなければならない。
団服の上にコートを羽織り、少ない日用品をアタッシュケースに詰めて艦に乗り込む。
団員達の誰よりも先に仕事に付くのがアラシヤマである。
仕事に生きる、いや、生かされている。
この仕事が彼にとっての天職であり、これしか自分ができる仕事がない。
タラップを上がろうとした時、横に居る赤い服の黒い髪。
「シンタローはん……」
思わず呼んでしまう。
この時間にこんな所に居ていい人間ではない。
仕事の合間に見送りに来てくれたのか。
そう思うと思わず心がほっこりした。
「きばって来いよナ。」
風で髪がたなびく姿を見て、ああ、この人を好きになって良かったと、アラシヤマは素直にそう思えた。
だから。
彼の激に答えなければならない。
「へぇ、行ってきますえ!」
満開の笑みを見せ、タラップを上がる。
彼の為に自分が出来る事を精一杯やろう。
それが彼にできる自分の全てなのだから。
柔らかな気分のまま、アラシヤマは戦地に向かう艦に乗り込んだ。
生きて帰ろうと誓う。
終わり