トライアングル
18歳離れた子供。
ともすれば、親子といってもおかしくないような年齢に複雑な感情を抱いていた。
思春期なんぞ当に過ぎているが、否、だからこそ単純に喜べない。
「わ~、漸く起きたね~」
「泣かすんじゃねぞ」
「判ったよぅ。シンちゃんってばそればっかなんだから」
しかし、他の二人の様子を見て、悩んでいるのが自分だけであるということに馬鹿馬鹿さを覚えた。
士官学校を出てから、こうして三人が揃うことは珍しい。
唯一、本部にいることの多いグンマも研究室にこもることが多いし、シンタローも自分も戦場に身を置いている。
グンマとシンタローはメール等でやり取りをよくしているらしいが、キンタローは諜報部という難儀な部署のため、外部との連絡が取れないことが多い。
今回、特別に帰ってこれたのは、母の健康状態が芳しくないからだ。
他の団員だったなら、親が危篤であろうが亡くなろうが戦線を離脱することは出来ないだろうが、そこは総帥の息子。
小康状態であったことも起因して、直ぐに戻ることが出来たのだ。
一方、シンタローは元々休暇だったために、陣痛が始まってからずっと母の傍にいた。
連絡を受けてたグンマも研究室からすぐに向かったのだが、そのときに母体が危険であると聞き、シンタローと共に永遠とも思えるほどの長い時間廊下で待っていた。
そして、弟が生まれてから三日後の今日、キンタローも戻ってきた。
出産直後から、母の様態は芳しくない。
母が弟を抱いたのは一回だけ、それ以降は集中治療室に入ったきりだった。
キンタローが見る限り、シンタローたちの顔色は芳しくない。
けれども自分も似たようなものだと思い直す。
それはきっと、三人に共通の認識があったからだろう。
グンマの母親が亡くなった理由を、直接聞いたことは無かったと思う。
だがしかし青の一族の子を産むことにより母体が危険にさらされるということを知っている以上、もしかしたらという思いが心のどこかにはびこっている。
今も弟を可愛がっているこの雰囲気がどこかから回りしている。
「名前はまだ決まっていないのか?」
小さな手を指で突きながら聞くと、シンタローの顔が少しだけ歪んだ。
「どうか、したのか?」
何か不味いことを聞いてしまったのかと思い、不安に駆られていると不意にグンマが袖を引っ張った。
そこにはやはり僅かに歪んだ――呆れた表情を浮かべているグンマがいた。
「あのね、生まれたときにベットに貼ってあったんだけど…」
「――コタローだよ」
「ぐっ…」
別に悪い名前ではないだろう、きっと。
しかし、シンタロー、キンタロー、コタローとは一体どんなセンスをしているのだとつい問い詰めたくなる名前ではある。
「せめて統一性があればいいんだけどねぇ」
否、きっとタローで統一していると言い張るだろう、あの父親は。
不意打ちのブローにため息をついたが、この弟に罪は無い。
「よろしくな、コタロー」
声を識別できないはずなのに、確かに笑ったと思ったのはきっと欲目だろう。
それから数日後。
意識が戻ることも無く、母が逝った。
まだ40才にも達していなかったはずだ。
キンタローが最後に会ったとき、つわりが終わったと笑っていた。
丈夫ではなかったが、健康そのもので優しいかった母。
過去形であらわさなければならないことが、何よりもつらかった。
「コタローの面倒見てくれないか?」
居間でぼんやりとしていたところに声をかけられた。
振り返れば、シンタローが赤ん坊を抱っこしている。
「どうかしたのか?」
「…いや、ちょっと預かっていてくれないか?」
人見知りといっていいのか、コタローは知らない人が近づくと途端に泣き出す。
今のところ、シンタロー、グンマ、キンタロー、マジックまでは安全なのだが、交代でやってくるベビーシッターには懐いてくれない。
…医者であるから仕方が無いのだが、高松に懐いているのを見たときは末恐ろしかったが。
そんなわけで、二人で交代でコタローを見ている状態なのだ。
ちなみにグンマは除外されている。
コタローが懐いているのは確かだが、不安でおちおちほかのことが出来なくなってしまうからだ。
シンタローの手からコタローを預かるが、空色の瞳がじぃっとキンタローを見ていた。
まだこの頃は眼で識別できるわけではないというが、確かにキンタローを捕らえているみたいでなんだかおかしい。
「まだ懐かないのか?」
「ん~、なんとか近づいても泣かないくらいにはなったみたいだがな」
苦笑するシンタローに無言で頷く。
シンタローにせよ、キンタローにせよこの屋敷に帰ってくることはあまりない。
グンマに預けるなど恐ろしいことが出来ない以上、一刻も早くベビーシッターに懐いて欲しいというのがある。
だがしかし、二人ともコタローの傍にいてやりたいという思いもある。
否、いてやれないことを口惜しいとまで感じているのだ。
「…あ~、絶対ブラコンになる」
「…程ほどにしておけ、異常者は出したくない」
「お前も同じだろ?」
「まぁ、な」
互いに顔を見合わせて苦笑した。
「っと、そういえば何か用事でも出来たのか?」
「ああ、ちょっと辞令が下ったらしくってな」
シンタローは現在休暇扱いを受けていたが、そろそろそれも終わりらしい。
母が亡くなる前から付きっ切りであったことを考えれば、そろそろ復帰しろということなのだろう。
そういいつつも、キンタローも近日中に戻らなければならない。
元々休暇扱いだったシンタローだったが、そこに総帥の娘であるという要素があったからこそ今まで休むことが出来た。
ついでのようにキンタローも休めたのもその影響に過ぎない。
「…そういうわけだから、行って来るぜ」
「ああ、ちゃんと見ておく」
ため息を吐き、踵を返すシンタローの後姿を見送る。
現在、コタローの秘石眼の有無は不明とされている。
それは子供――赤ん坊であるため、力の使い方を知らないかららしい。
秘石眼を使いこなすには、それ相応の訓練をしなければ出来ないのは良く知っている。
それは蛇口を探しているに等しい。最初はどこを捻ればいいかわからないのだが、こつさえ知っていれば目を瞑ったって出来る。
故に、訓練を受けた後のほうが遥かに暴走しやすく、また未熟なままで暴走したとしても周囲にそれほどの影響を与えることは無い。
実際、キンタローが子供の頃に起こした時には、シンタローがよろける程度でしかなかった。
危惧する程ではないのだが、グンマからあることを聞いてしまった。
どこかからハックしたものらしく、公にしないでねと釘を刺されたもの。
…曰く、秘石眼が両目であるか否かが不明であるということだ。
そして、その解明を父であるマジックが急かしているという事も――
ふと、自分の腕の中にある存在に眼をむけた。
かまってもらえなかったのが不満なのか、今にもぐずりそうな顔をしている。
「ああ、悪かったな」
抱っこしている腕を軽く揺らしてやると、途端に笑顔になった。
とても脅威になるようには思えない、そんな笑顔だ。
不安に思わないといえば嘘になる。
キンタローにしても、片目をコントロールするのが手一杯なのだ。
暴走させることは無いだろうが、微調整が難しい。
それが両目ともなれば、想像を絶する力であるに違いない。
しかし、その点を引いても父親の行動は何か不審に感じられた。
確かに危険な存在かもしれないが、それを隠す必要が一体どこにあるのか。
考えるにはあまりにも少ない情報に、再度ため息を吐いた。
グンマは色々知っているようではあったが、まだまだ調査中だと言っていた。
滅多なことは無いと思うけどね、と笑っていたものの、その眼は厳しいものだった。
情報統制ゆえに、何かを嗅ぎ取ったのであろう。
文字通り、ガンマ団における大部分の情報網を握っているグンマが手こずっているのだ、一筋縄ではいかない秘密があるに違いない。
ふと、視線を下ろせば、コタローが大きな眼で見つめていた。
その瞳は鮮やかな青色で、一族の血が流れていることを如実に語っている。
つまりは自分の弟であるという確かな証拠。
「厄介なことになったな」
実質独り言のようだが、コタローに向けて話しかけるにはあまり向かない言葉だ。
それでもコタローは目の前にある顔――キンタローに向けてその手を一杯に伸ばして触れようとしていた。
パタパタと動くその腕があまりにも可愛らしく、微笑むと抱えなおしてその手が届くようにと調整してやる。
「大丈夫だ。例え何があろうと俺達はお前の兄なんだからな」
漸く触れた何かにご満悦なコタローに、諭すようにそっと誓った。
<中書き>
このお話を書くにあたり、ちょっとだけ原作とかけ離れすぎた設定を作ってしまったことにどうしたものかと悩んでいました。
いろんな方に申し訳ないと思ったのですが、こうして発表した以上、最後まで駆け抜けていこうと思います!
原作と違う展開をするところも多々あるとは思いますが、それでも読んでくださる方がいることを願っております。
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暗転した世界
何度もインターフォンを押したが返事がない。
すぐに眉根にしわを寄せてしまうのを変な癖だと笑われたが、あの二人に囲まれていたら自然にそうなってしまったのだ。
どうしたものかと迷ったが、すぐにパスワードを打ち込んだ。
音もなく開いたドアは一見無防備に見えるが、すでにここに来るまでに幾重ものセキュリティが用意されており、容易にここにたどり着くことは出来ない。
しかし足を踏み入れれば、あまりの飾り気のなさにあっけに取られてしまうだろう。
華美を嫌い機能性を好むためか、はたまた貧乏性のせいか、驚くほど必要最低限のものしかない。
調度品も、決して安いものではないが実用性に富んだものが多い。
キンタローが会いにきた、彼女の座るデスクもそうだ。
重量感のある樫で出来たデスクは、滅多な事では使い物にならないということはないだろう。
すべらかな肌触りが心地よく、どこか温かみのあるものだった。
そのデスクを見て目を見張ったのは、別にデスクに異常があったわけではない。
度の過ぎるスキンシップから起こる、ガンマ砲の打ち合いを奇跡的に避けている机には傷ひとつついていない。
そう、問題は緊張感も無くうたた寝している彼女にあった。
長い黒髪が空調の風に合わせて揺れている以外は、シンタローの寝息がかすかに聞こえる程度。
手にペンを持ったまま、気持ちよさそうに眠っている彼女にそっと近づく。
デスクに乗っている大量の書類。
今すぐにでも目を覚まさせ、総てを決済させるべきなのだろう。
そのために、キンタローは手伝いに来たのだから。
けれども寝顔を間近で見た瞬間、手が動いていた。
「ん…」
ゆっくりと体を起こすと、サイドボードの上においてある時計に手を伸ばした。
何度か空振りしたものの、何とか捕まえることに成功し、今の時刻を見る。
「あれ?」
時計の示す時間を見て、違和感を感じた。
明らかにおかしな時間に、ふと寝る直前に何をしていたかを思い出そうとした。
なぜかぼんやりとしか思い出せない。
何時もどおり、業務を終えて屋敷に戻ったはず。
だが、何か腑に落ちないのだ。
そこではた、といろんなことに気がついた。
ここは屋敷ではない、総裁室の奥にあるベットルームだ。
総帥になったころは、あまりの忙しさにここに寝泊りをしたものだが、最近はよほどのことが無い限り、帰る様にしているはずだった。
そして、自分の格好。
上着が脱がされていて、その下に着ているシャツ一枚の格好だ。
さらに言うなら、ブラジャー、ズボンがない。
さっと、顔が青くなった。
いくらなんでもおかしい。
どんなに疲れていても、きちんと着替えて寝ているはずだ。
がば、と身を起こして周りを見回す。
人の気配なんて無い。
よく見ると枕元にズボン、そしてたぶん身に着けていただろうブラジャーが…
見つけた瞬間に、今度は顔が熱くなった。
自分だったらこんな風に畳まない。
脱いだらすぐ、洗濯籠に突っ込むはずだ。
起きぬけの衝撃が覚めやらぬまま、とりあえずのろのろとズボンと、きれいに揃えられている靴を履いた。
そこでようやく部屋の外、いつも自分が陣取っている部屋に何者かの気配を感じた。
今まで気がつかなかったのが不思議なくらいだが、自らの身に起きたことに手一杯で何も考えられなかったというところだろう。
そっと、気配を消して歩き、少しだけドアを開けて様子を窺う。
耳に届く音は、カタカタとキーボードを叩く音のみ。
淡々としたその音にいささか拍子抜けたが、思い切って顔をドアの外へと出してみた。
「…起きたのか?」
真直ぐにこちらを見るその目に、さっきまでのことが嘘だったのではないかと思った。
しかし、彼の座る椅子にかかった深紅のジャケットが全力で忘れようとするシンタローの意識を引き止める。
「いつ、来たんだ?」
それでも一抹の期待を胸に、平常を装ってドアをくぐり彼の元へ、デスクへと近づいていった。
それが現実へと一歩一歩近づいていくと信じて。
「結構前だな」
「そうか」
ちらり、とデスクに広げられている書類に目をやる。
たちまち襲う既視感に胸が騒いだが、何とか抑える。
しかし、現実はシンタローをあざ笑うかのように、するりと伝えられた。
「あまりにも気持ちよさそうだったから、起こさないでおいたんだが、ゆっくり眠れたか?」
「…え?」
キンタローの声が遠くに聞こえる。
代わりに、キンタローの手元にある書類の内容がフラッシュバックする。
確か、昼ごはんを食べた後にあの書類を見ていたのは――自分?
「シンタロー、どうかしたのか?」
突然黙ってしまったシンタローの様子に気がつき、椅子から立ち上がると、その顔に手を伸ばした。
もしかしたら、体調が悪いのかもしれない。
根詰めて仕事をしている姿を見ているからこそ、どうしても心配してしまう。
しかし、伸ばした手はあっけなく振り払われた。
「シンタ…」
「とっとと出て行け~~!」
わけもわからずキンタローが追い出された後。
顔を赤くしたシンタロー一人が部屋に残された。
<後書き>
シンタローのしているブラは肩紐なしのやつです。
(そこからですか)
寝るときにブラを外すものらしいですね。
私はそのまま寝てるんですけど、妹とかがそうしてるのを聞いて書いてみました。
ネタをありがとう、妹(いや、そんな感謝の仕方はどうかと)
なんで脱がしている間に裏向きの話にならないかというと、書いている人間に問題ありです。
後、設定もある程度影響している気がします。
通常設定だったら、キンタローが襲うか、たたき起こして仕事させてそうですけど、この設定だとあくまで兄弟ですから。
付き合っていてもそうでなくても、こんなもんでしょう。
このページにはおまけがあります。すぐに見つかると思うので、頑張ってください。
散歩道
「遅い!」
木々の隙間から漏れる光を浴びて、シンタロー自身が輝いているように見えた。
所々闇の濃い場所もあるというのに、なぜか一人切り取られたかのように見失うことはない。
キンタローよりも先へ進み、時折振り返っては笑いながらせかすのだ。
その足取りは軽やかで、全く体重を感じさせない。
「迷子になるぞ!」
追いかければムキになって、全力で走っていくことは理解しているこそ、少しだけ遅れてついていくが、キンタローも決して引けをとるつもりはない。
遅ければおいていかれるし、かといって隣を走ることもできない、中々難しいところである。
そして、気を抜けば、たがが散歩で道に迷うこともある。
実際、何度も迷ったこともあり、いろんな人に迷惑をかけたものだ。
兄として一応諌めたが、全く聞くつもりはないらしい。
一人、ずんずんと進むその後ろに仕方がなくついていった。
実際のところ、二人の歩いているところは屋敷の敷地内であり、巧妙にカメラが設置されていた。
それは彼らの安全のためであり、また父親のコレクションのためでもあった。
だからこそ、迷ったとしてもすぐに救出させるのである。
注意深く見れば、ところどころ手が加えられていることに気がついただろうが、駆け回ることに夢中で、子供たちが気がつく由もない。
しかし、今日は迷う心配は要らなかったらしい。
どこをどうきたのかはわからないが、いつの間にか庭園にたどり着いていたのだ。
段々と規則正しい木々の並びに最初に気がついたのはキンタローのほうだった。
走ることに夢中になっているシンタローに対し、今度こそはきちんと帰れるようにと気を配っていたからこそ気がつけたのである。
それから少ししてシンタローは足を止めた。
「…戻ってきちまったのかよ」
憮然とした顔に、かける言葉を少しだけ悩んだ。
ここで機嫌を損ねれば、また森の中へと突っ込んでいくことは間違いない。
ぐるりと周りを見渡すが、そこに広がるのは見慣れた庭。
早々に興味を持たせることができなければ、今来た道を戻ることになる。
キンタローはあせりながらも、シンタローの横に並んだ。
同じく何かを探しているようだったが、目新しいものは見つからなかったらしい。
シンタローが振り向き、キンタローに声をかけようとしたそのとき、キンタローの目にあるものが飛び込んできた。
病室という割には、温かみのあるその部屋は、病弱なグンマのために用意されたものだった。
一年の半分ほどをこの部屋で過ごすグンマだが、保護者が敏感になりすぎているともいえなくはない。
その日も例外なく、ベットに横になっていたのだが、思いも寄らない来客に驚き、かつ喜んだ。
「まったく、また風邪かよ」
開口一番、呆れたように言われたが、久しぶりに会うことができて思わず笑顔になった。
ここから屋敷まではそれほど遠いわけではない。
けれども子供だけで来れるほど近くもなければ、安全な場所ではない。
なんといっても、離れているとはいえガンマ団本部の一角なのだから。
とはいえ、グンマの関心は別のところにあった。
「シンちゃん、今日はスカートだ~」
そう、いつもは兄の服を借りているシンタローだが、今日は珍しく“女装”をしていたのである。
シンタローが持っている服は、父であるマジックの趣味で、可愛らしい服が多いのだが、動きにくいという理由で勝手にキンタローの服を拝借しては駆け回ってるのだ。
しかし、今日は先ほど着ていたキンタローの服を脱ぎ、わざわざ着替えたのである。
それは病室に向かうのに、汚れた格好じゃいけないとキンタローが諭したこともあり、朝、マジックを送り出したときに来ていた服に着替えただけなのだが、グンマにしてみればうれしい限りである。
しかもキンタローも一緒である。
シンタローに比べれば、会う機会も多いのだが、こうして三人そろうことは少ない。
何とか体を起こそうとしたが、キンタローによってとめられてしまった。
「無理をするな。治りが遅くなるぞ」
もう一度布団の中に戻され、むぅと膨れた顔をしたが、起き上がった瞬間に、シンタローが後ろに何かを隠しているのが見えた。
「何もってるの?」
体を乗り出そうにも、キンタローに押さえられてしまうのがわかっているので、精一杯首を伸ばしてシンタローの後ろのほうを見ようとする。
その言葉に対して得意げに、両手を前に突き出した。
「すごいだろ?」
そこには色とりどりの花が咲いていた。
庭でキンタローの目に飛び込んできたもの。
それは庭師によって手入れされている花だった。
いつもは当たり前のように見ているだけだったが、グンマが寝込んでいることを思い出し、お見舞いに行こうと提案したのだ。
グンマが屋敷に来るときは、よく庭で遊ぶので、持っていったら喜ぶのではないかと説得したところ、思いのほか簡単に通ったのだ。
シンタローも、最近顔を合わせていない従兄弟が心配だったし、何よりキンタローが考えていることがなんとなくわかってしまった。
「頼んでとってもらったんだ」
「けど、俺たちが選んだんだぜ」
庭師が丹精こめて作った作品を、無断でとるわけにも行かないと、一応断りを入れようとしたところ、花を切ってくれたのである。
「すっごいうれしいよ、ありがとう」
その後、二人だけで来たことがばれて、こってり怒られたりしたが、また訪れようと計画したとかしないとか。
<後書き>
もしもの第一弾です。
シンタローを女の子にした意味が、早くもないような作品に…
おかしいな、最初に思いついたときには、思いっきり萌えな話が出来上がったと思ったのに…
個人的には、本当に苦労性になってしまったキンタローさんがお気に入りです。
これで、大きくなったらなったで、悪い虫やらグンマの黒さに四苦八苦し始めるのですよ。
…キンタローさん苦労日記に変えたほうがいいかしら?
*この設定は、『南国~』が始まる前、と考えてください。
シンタロー(♀) マジックの娘。双子の妹。
士官学校での成績はトップクラス。負けず嫌いな性格上、常に一番でなくては気がすまない。
姉御肌のため、慕うものが多い。ストーカーの類も多いのだが、本人はまったく気にしていない。
かなりの天然。
キンタロー(♂) マジックの息子。双子の兄。(実際はルーザーの息子)
士官学校での成績はトップクラス。卒業後、その能力を買われ、諜報部へ。そのため長期家を空けることもある。
一応、時期総帥。かなりのシスコン。
周りの環境とオールマイティカードであるため、苦労性。というか貧乏くじを引くこと多し。(その分おいしいところあり)
グンマ(♂) ルーザーの息子。シン、キンの従兄弟。(実際はマジックの息子)
幼いころは、キンタローとともに、シンタローの悪口を言ったものに対して嫌がらせを多々行ってきている。
しかし、キンタローと違い、裏工作(笑)が多かったため、彼の悪行を知るものはキンタロー一人のみ。
多分、一番素を見せているのはキンタローではないかと。
他、補足としては取替えっこは行われてます。(キン、グン間で)
基本的にグンマはキンタローもシンタローも大好きです。
シンタローが軸だからこそ、自分と一緒に怒っていたキンタローが好き、みたいな。
でも互いのことを、シスコン、悪魔、と思っていたりします(笑)
そんな、一種仲間のような絆がシンタローにはうらやましかったり。
ほかの人物関係はいじるつもりはありません。
が、もしも付け足すようなことがありましたら、不定期に更新させていただきます。
ではでは、ついてこれる方のみ、お付き合いくださいませ。
シンタロー(♀) マジックの娘。双子の妹。
士官学校での成績はトップクラス。負けず嫌いな性格上、常に一番でなくては気がすまない。
姉御肌のため、慕うものが多い。ストーカーの類も多いのだが、本人はまったく気にしていない。
かなりの天然。
キンタロー(♂) マジックの息子。双子の兄。(実際はルーザーの息子)
士官学校での成績はトップクラス。卒業後、その能力を買われ、諜報部へ。そのため長期家を空けることもある。
一応、時期総帥。かなりのシスコン。
周りの環境とオールマイティカードであるため、苦労性。というか貧乏くじを引くこと多し。(その分おいしいところあり)
グンマ(♂) ルーザーの息子。シン、キンの従兄弟。(実際はマジックの息子)
幼いころは、キンタローとともに、シンタローの悪口を言ったものに対して嫌がらせを多々行ってきている。
しかし、キンタローと違い、裏工作(笑)が多かったため、彼の悪行を知るものはキンタロー一人のみ。
多分、一番素を見せているのはキンタローではないかと。
他、補足としては取替えっこは行われてます。(キン、グン間で)
基本的にグンマはキンタローもシンタローも大好きです。
シンタローが軸だからこそ、自分と一緒に怒っていたキンタローが好き、みたいな。
でも互いのことを、シスコン、悪魔、と思っていたりします(笑)
そんな、一種仲間のような絆がシンタローにはうらやましかったり。
ほかの人物関係はいじるつもりはありません。
が、もしも付け足すようなことがありましたら、不定期に更新させていただきます。
ではでは、ついてこれる方のみ、お付き合いくださいませ。
月の雫
あの島から帰ってきた。
――皆で。
色々なことがあり、変わってしまったことがあったのに、現実に戻ればグンマには研究が待っていた。
しかし、そうやってすぐに日常に戻れるものは希少だった。
まずは、シンタロー。
大きな地震の後、島の住民達がどこかへと旅立ったことを知り、暫く呆然としていた。
彼がここに戻ってきたのも、あの島に残っていても肝心の少年達がいないからであって決してこちらにいたかったからではないだろう。
ろくに食事をとろうとしないのも気がかりのひとつ。
そして、もう一人の従兄弟。
彼もまた何をして良いのか分からず、相変わらず無表情にトレーニングルームにて筋トレをしている。
それぞれが思い悩む中、平和に見えるのはグンマだけだと誰もが思っていた。
そんな中、ふらりとシンタローがグンマの元を訪ねてきた。
「今暇か?」
「うんっ!」いきなりドアが開き、首だけを覗かせて問いかける従兄弟に慌てて手に持っていた工具を置くと、彼の元へとパタパタと近づいた。
「どうしたの、こっちにくるなんて珍しいよね?」
なにもシンタローだけでなく、大抵の団員は研究棟へ来ることはない。
研究員のようにここに詰めているものでもなけば、こんな奥まったところに顔を出すものがいないからだ。
独立した建物にあることも要因のひとつだが、マッドドクターの呼び名を持つグンマの育て親に会いたくないという、至極まともな理由が大半であろう。
「んー。確かお前、F-2区の鍵持ってたろ。借りれるか?」
F-2区というのは今いる建物の横にある、温室のひとつ。
研究棟とはいうが、このあたりにはいくつもの建物がある。
シンタローの言う温室も、中はいくつも分かれており、温度設定が定められているところだ。
「…ねえ、僕も行っていい?」
最近なにやら考え込むその姿を見かけるようことが多かったが、それが何を思っているのか分からず、グンマはただ見ているだけだった。
だから唐突に現れた彼が、何かを思いついたのか気になった。
「別に構わなねぇよ」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
大急ぎで鍵を保管している引き出しをかき回す。
その場所は建てられた時期が古く、また利用頻度が低いこともあり、ドアが電子化されていない。
あの建物の以前の管理者よりグンマが引き継いだもの。
しかしバイオに関しては興味がないため、高松に管理を任せ、グンマは名目上の管理者でそこへ赴くことはあまりない。
程なくして鍵を見つけると、じっと見つめる。
「どうかしたのか」
動きの止まったグンマを不審に思い、声をかけた。
ゆっくりと顔を上げ、ふわりと優しい笑みを浮かべるとつかつかとシンタローに近づく。
何事かと眉を寄せるその手を取り、そこに鍵を握らせる。
長い間放置されていた鍵は冷たく、くすんだ色をしていた。
鍵とグンマと交互に見比べていると漸くその口が開いた。
「あげるよ、シンちゃんに」
この鍵は必要ないから。
鍵ごと手を包み込んだと思うと、一度も聞いたことがない優しい声が聞こえた。
「けれど、ここは…」
「僕のものじゃないよ。本当ならキンちゃんのものだし」
そう、元々はルーザーの研究室だったところ。
現在は我が物のように扱っているのは高松で、怪しげなバイオ植物も育てているが、昔の名残か、世界各国の植物が植えられている。
「それから、今はお父様のものだよ」
言外に、己の望みを告げる。
きっと気が付かれることはないだろうけれども、どうしても伝えたかったのだ。
何事にも捕らわれない彼が好きだったから。
未だに混乱しているシンタローは、居心地が悪く眼を逸らした。
この従兄弟は以前と変わってしまった。
髪を切った後、よく笑うようになった。そう、笑い方が変わった。
自分で何でも出来るようで、そのくせすぐに他人に頼るようなところがあったのに、今では自らの分野だけでなくガンマ団にある総ての研究員を束ねるべく頻繁に他の研究室に足を通わせている。
しかし、それは言外にガンマ団を、実父の跡を継ぐ気はないと表明しているようなもの。
前に進んでいく従兄弟は、きっと翻す気はさらさらないのだろうと、なぜかシンタローは分かっていた。
「行こっか」
顔を向ければ、笑っている従兄弟。
何が彼を変えたのか、とても不思議だった。
がちゃり、と原始的な音がする。
ドアは普通のものと違い、外の熱に影響されないように分厚くなっている。
そのため開けるのに苦労するが、ドアからあふれる熱気が心地よい。
「ここのドアも換えたいな~」
「好きにしろよ」
結局そうしたならばあの鍵の意味がなくなるのだが、発想があまりにもらしくて笑った。
熱帯の気候を模した温室にはガンマ団周辺では見かけることのない木々が植えられている。
暫く、二人とも無言で歩いた。長い間歩いた気もするが、実際は短かったかもしれない。
草を踏む音だけが耳に届く中、不意にシンタローが足を止めた。
その後ろを歩いていたグンマもつられて足を止める。
「…シンちゃん?」
仕方なく、声をかける。
グンマはどんな無茶を言われてもかまわないと思っていた。
たとえそれが、彼が目の前から去っていくことでも。
実際、あの島にいるときから覚悟していた。
この従兄弟がここで生きていくのだろうということ。
自分とは違う世界に行ってしまうのだと。
それでも笑ってくれるなら、それでいいと思った。
少し前の彼のような表情はもう見たくなかったから。
今彼がここにいるのは、奇跡。
あの子供が手を離してくれたから起きたこと。
何故きっちりと結ばれていたそれを離してしまったのかは知らない。
ただ、それが一番良い方法だと思ったのだろう。
あの子供は聡いから。
「綺麗だな」
「うん」
彼は振り返らない。
けれども、それでいい。
彼が今欲しいのは、話を聞いてくれる誰か。
だから、このままでいい。
「悪ぃ」
「…何が?」
息を整えて、泣かないように準備する。
「俺は、ここから始めようと思う。俺の楽園を」
一瞬にして、止まった。
彼は、なんと言った?
それは、そうその一言は。
望んだもの。
望んではならないと、抑えていた答え。
あの少年を追いかけるものだと思っていた自分がいた。
だから。
「―――っぅ」
「グンマ?」
シンタローが振り向く姿が、翳んでいた。
きっと、もう使われなくなると思ったから、鍵を渡した。
あの島と、彼と繋がっていたいと少しでも思っていたかったから。
「泣くなよ」
困った顔で、シンタローが頭を撫でてやるが、その涙が止まることはない。
「お前の、居場所を取っちまって悪いな」
でも、決めたから。
その言葉に、頭を横に振ることで答える。
居場所なんて、どうでも良かった。
自分があの父親の跡を継ぐつもりはなかったし、なによりどんなことをしても自分が変わるわけではないと分かったから。
たとえ名前が変わっても、親が違っても、自分は自分なのだと。
漸く涙がひいて、眼が赤いままグンマは笑った。
「お帰り」
「…なんだよ」
いきなりの言葉に、どっと力が抜けた。
「気にしないでよ」
「大体、何で泣いたんだよ。わけわからねーよ」
「あはは」
言うつもりはなかった。
きっと、怒るだろうから。
「それで、これからどうするの?」
せがんで我侭を通して手をつないでもらった。
こんなのはいつ振りだろうか?
嫌がりながらその手を握る彼の眉間には皺が寄っている。
「ん、そうだな~。取り合えず親父の跡をついで…」
彼の声が、耳に優しい。
この胸の中の誓いは、きっと変わることがないだろう。
彼のためならば、僕は何だってしてみせよう。
幼いころ、僕を守ってくれるといった彼のために。
<後書>
いかがでしたでしょうか?
初めての長い話ということでしたが、これでお終いとさせていただきます。
書いている最中で、自分の中のグンマさんが変わっていくのが分かり、そのため、読みづらいところも沢山あったと思います。
ただ、シンタローさんが大好きなグンマさんを書こうとしていただけなのに、いつの間にかグンマさんが大好きになっていく自分に笑ってしまいました。
もし、この話を読んで、グンマさんを好きになってくれる人がいたらなと思います。
ここまで読んでくださった皆様、感謝の言葉でいっぱいです。本当に長々とありがとうございました。