「シーンちゃんッッ!」
ぱたぱたと笑顔で走ってくる兄グンマ。
隣にいるのは真逆で真顔の従兄弟キンタロー。
この科学者コンビが一緒に居る事はまったくもって珍しくない。
珍しいといえばグンマがアフリカ1号に乗っていないと言う事位か。
「ねーねー、シンちゃん!ハッ禁のビデオあるんだけど一緒に見ない?」
「はぁ?!」
笑顔で言う童顔の兄には似合わない台詞にシンタローは思わず驚きの声を上げる。
隣に居たキンタローは終始無表情でグンマの話を聞いていても何も言わない。
「ねー、見ないのー?」
上目使いで見上げられ、シンタローは少し考える。
ハッキンといってもAVとは限らない。
最近ではホラーや、暴力表現の激しいものも全てハッキンとなる事が多いのだ。
「どーゆーやつ。」
「んーとねぇ。」
ガサゴソと持っていた茶色い袋をまさぐる。
そして中から出てきたDVDは全部で3本。
全てAVらしいが、全てコミカルらしい。
題名が有名な映画や、ドラマをパクっている所からそう伺える。
「何故よりにもよってそーゆー奴にした。」
「だぁって!真面目なのにしたらやばくなるかもしれないでしょー?お互いに!」
グンマも男だったんだなと、シンタローは改めてそう思った。
そしてやっぱり気になるのがキンタロー。
そうゆう系のを見たらキンタローはどうなるのか、どんな顔をするのか。
シンタローはすっっごく気になった。
なので。
「じゃあ、さっさと見よーぜー!」
あっさり欲望に負け、二つ返事でOKを出したのだった。
場所はグンマのお伽話の部屋。
何故ピンクなのか。
ピンク好きはもはや直系の遺伝なのか。
コタローもいつかピンクになってしまうのだろうか、と不安になるほどのピンクとレースとお花に囲まれた部屋。
無意味にベッドに天涯までついていて、しかも、縫いぐるみがちょこちょこ置いてある。
AVを見るような部屋では断じてないだろう。
親達が入って来れないようにきちんと鍵を閉めてDVDを再生する。
「俺久しぶりだな。」
「僕も。」
「こういったDVDを見るのは初めてだ。」
「ま、何事も経験だ経験。」
「笑えるよ~?キンちゃん!」
初めてというキンタローに二人はそう薦める。
キンタローはキンタローでクソ真面目な顔をして「そうか。楽しみだな。」と、呟いた。
予告が始まり、三人は食い入るように画面を見る。
すると、金髪の女性二人が上半身を剥き出しにして、不可思議な踊りを踊り初めたり、濃厚なキスを始めたり、揚句の果てには男性と絡んだりし始めた。
シンタローはキンタローの様子が気になったのでチラ、と見てみると、キンタローは唖然としていて、グンマは見るまでもなく笑い転げていた。
しかも、何故か沢山の金髪とか黒髪とかいろんな髪色の女性がダイナマイトボディを決めつつ教師のように居て、同じ位居る男は生徒のようにその女達の話を聞いている。
出来ないと下半身に悪戯されるらしい。
全くもって理解不能である。
「ねー、シンちゃん、あれのマネっこしよーよー!」
きゃ、きゃ、と楽しそうにグンマが画面を指差す。
シンタローは断固拒否をした。
すると、グンマはぷく、と頬を膨らませる。
「だって僕、あんな雌豚じゃ勃たないもん…。」
ん?
シンタローは聞き違いかと思った。
あのグンマが雌豚とか言った?
そんな事言う奴だっけ?あいつ。
キンタローは平然としていた。
まるで当たり前のように。
何故ならグンマはシンタローの前ではぶりっ子だが、他の人間の前では至って普通なのである。
シンタローに可愛がって貰う為、あえてキャラを作っているのだった。
作っている、というより、それが普通になってしまっている所が既にやばい。
「じゃーいーもん!僕が雌豚の役やっちゃうから!」
「ああ?ふざけ…ンンー!」
ふざけんな、と言う前に、グンマがシンの舌に舌を絡めてくる。
ちゅ、ちゅ、と唾液の混ざり合う音が聞こえて、シンタローは目をきつくつぶった。
口を離すと唾液が名残惜しそうにつらつらなり、眉を潜め顔を蒸気させるシンタローを見て、グンマは笑った。
「ほらぁ、キンちゃん!ぼぉっとしてないでシンちゃん押さえてよぉ~!」
「あ?ああ。」
キンタローは訳も解らずシンタローの腕を後ろから押さえる。
くったりとしたシンタローを腕の中に納めると、グンマは又シンタローにキスをする。
「ん、んん、ふん、あ、」
苦しそうに、しかし気持ち良さそうにシンタローが鼻にかかる吐息を吐く。
キンタローは思う。
何故あれしきの破廉恥な映像で、ここまで心が高ぶれるのか。
しかし、シンタローの恥ずかしそうな顔を見て、キンタローの中心も又熱を帯びていた。
グンマはキスをしながらシンタローの鎖骨、そして乳首までをその華奢な指先でつつ、と渡る。
「ん!ンン!」
びく、とシンタローの体が跳ねた。
キンタローがしゅる、とシンタローのズボンの紐を緩め、パンツの中に手を突っ込む。
「ふ。や、あぅ!」
直に触られグンマの口を離し、シンタローは講義の声を出した。
しかし、直ぐに又グンマにキスをされるのである。
口内、乳首、性器と、1番感じる場所を弄ばれて、シンタローは抵抗する事すらできなくなってしまう。
「気持ちいいのか?シンタロー。」
耳元で囁かれ、耳たぶをペロ、と、舌先で嘗められる。
「ふ、うん!」
「シンちゃん、男の子なのに乳首も感じるのぉ~?」
あはは~と、キスを離し、脳天気な笑い声を出すグンマだが、シンタローを攻める事は止めない。
「ン、や、め、ンンッ!」
抗議の声はグンマの口内に掻き消された。
舌を絡められ、吸われ、音を立てながらいたぶられる。
キンタローも、シンタローの下半身に緩急をつけて上下にグラインドさせている。
シンタローの性器が限界を示すかのように硬くそそり立つ。
びく、びく、と体が面白いように震えていた。
「あ、駄目だよぉ~シンちゃん!一人でイッちゃうのは、なし~!」
「あ、だ、て、もぉむりぃ…」
は、は、と浅い息を口から吐きながら、とろんとした目でグンマを見つめる。
その顔を見て、グンマは、知らず知らずのうちに唇の端が上がるのを感じた。
おもむろに自分の首元からネクタイを緩め、しゅる、と、外す。
そしてシンタローの性器に縛り付けたのだった。
間抜けなアヒル柄をプリントしてあるグンマのネクタイは、直ぐにシンタローの液体により、絵柄に似つかない惨事になっていく。
「いた、やだ!取れよ!ふ、あ!」
イヤイヤと頭を振るが願いは聞き届けられそうにない。
間抜けなAVの女優が声をあらげているのが遠くで聞こえる。
今、一番聞こえるのは己の液体を弄ぶ音。
くちゅ、くちゅ、と聞こえるその音にシンタローは耳を塞ぎたくなる。
そして戒め。
イキたくてもイケないもどかしさ。
「や、や、やだぁ!グンマッ!!コレ、取ってぇ…」
取って欲しくてグンマに縋り付く。
細い体に腕を伸ばせば、温かい体温を感じる。
「グンマばかりでは不公平だろう。シンタロー。」
不意に後ろからキンタローの声が聞こえ、シンタローの尿道に爪を立てられる。
カリ、と引っかかれ、シンタローは思わず海老反りに。
喉仏がコクリと上下に動いた。
「そんな口は必要ないな。」
キンタローはそう言い放ち、ストライプの自分のネクタイをシュルリと素早く取ると、シンタローの口をそれで塞いだ。
「ンーンー!!」
「シンちゃん、ソレ、さるぐつわみたーい!」
喜んでグンマはシンタローの汗ばむ額にキスをする。
グンマの長い睫毛がふわりと、近づき、シンタローは目で止めてと訴えるが知らんぷりをされて悲しくなる。
既に体の自由が効かなくなっているので、キンタローの顔を動かす事もできない。
キンタローなら助けてくれるかも、何て淡い期待は次の瞬間跡形もなく消え去る事となる。
シンタローの体が宙に浮き、前に倒された。
視界がグラリと揺れ、離された両腕で咄嗟に自分の体を受け止める。
それでも受け止めた両腕には少し鈍い痛みが走ったが、今置かれている状況の方がシンタローにとって一大事であった。
「ふ、ンン!!ンーンー!!」
目線だけをキンタローに向けるが、それはかちあう事もなく。
すっかり力の入らなくなった体、浮いている腰。
その腰をキンタローは両腕で持ち上げて、既に己の液体でヌルヌルにはなっているソコに指を入れた。
ツプリと音がして、徐々に指を埋め込む。
「ンン!!」
「少し力を緩めろ。いいか。少し力を緩めるんだ。」
クニクニと内側から円を描くようにクルクル指を回し、辛そうに顔を歪めるシンタローの腰を優しく撫でながら、ゆっくり閉じられているソコを解きほぐす。
言われた通りシンタローは少しづつではあるが力を緩め始めた。
それを指先で感じたキンタローは、ふ、と満足そうな笑みを浮かべる。
「え~!二人だけでずるいよぉ~!!僕も!」
そう言ってグンマはシンタローの唇を覆っていたキンタローのストライプのネクタイを外す。
息がシンタローの肺に思い切り吸えるようになり、シンタローは少し咳込んだ。
咳込みが終わるのを待ってから、くい、とシンタローの顎を持ち上げれば。
屈辱と羞恥にまみれ、それでも意識を飛ばせまいとしている意思の強い瞳とかちあった。
「シンちゃん、噛まないでね~」
グンマはニッコリと可愛らしく微笑んで、その微笑みとは正反対の凶暴な己の性器をシンタローの口に無理矢理捩込むのだった。
「ふぐぅっ!!」
いきなり又始まる息苦しさと、口内に広がる苦くて塩っぱい何とも言えない味。
一言で言えばまずい。
しかし、それを舐めているという事実がシンタローを興奮させた。
「シンちゃん、アイスキャンディー舐めるみたいにペロペロ舐めるんだよぉ~」
そう言われて、シンタローは言われた通りに舐め始める。
シンタローの脳内は既にスパークしており、快感のあまり何も考えられない。
ただ言われた事をたどたどしく行動する。
シンタローの舌捌きはお世辞にも上手いとは言い難いものがあったが、そのたどたどしい舌のうねりにグンマは熱い息を吐いた。
そして、シンタローの黒い髪をさらさらと撫でる。
それが心地いいのか、うっとりとするその表情にグンマもご満悦。
そんな空気に浸かっていたのもつかの間。
「ふぐ、ンンンン!!!」
シンタローが声なき声を上げる。
原因は後ろのキンタロー。
もう大丈夫と判断したのか、シンタローの蕾の中に己の高ぶりを捩込む。
ぐぐ、と奥に進み、最奥迄到達すると、キンタローは軽い溜息を吐いた。
シンタローの中はピッチリとキンタローを加え込み、中の肉壁がキンタローを離すまいとうねる。
「ふー、ふー、」
シンタローも、鼻で息をしながら、余りの快楽に涙が一筋流れ落ちた。
「気持ちいいの?シンちゃん。」
そう質問するグンマに、シンタローは素直にコクコクと頭を振る。
「お前の中も相当気持ちいいぞ。」
「もー!キンちゃんったら先にしちゃうんだもん!終わったら次僕だからね~」
そう言うが早いか、グンマはシンタローの頭を掴み腰を前後に動かす。
その度に唾液と交わる卑猥な音がシンタローの聴覚を犯す。
唇の端は既に飲み込めなくなった自分の唾液とグンマの液体。
だらし無く垂れ流される。
そして後ろにはキンタローが腰を掴み、ガクガクと震える足の間に割って入り込み、ガンガン貫く。
熱い。
口の中も体の中も。
前からも後ろからも快楽に犯されて。
なのに中心に縛られている戒めによってイク事が出来ない。
体が壊れてしまうような過ぎた快楽にシンタローの顔が歪む。
睫毛に着いた己の涙をしばたたかせて、それでも消える事のない快楽に身を委ねるしかなく。
キンタローが中を掻き交ぜる。
ゴポゴポと白濁の液体がフトモモに流れ出た。
それに不快感を少なからず感じたが、この快楽の前では微々たるもの。
グンマも乱暴にシンタローの髪をつかむ。
「ん、シンちゃん、きもちいーよぉ…」
上目使いでグンマを見ると、普段から女顔のグンマが潤んだ瞳でシンタローを見ていて目がかちあった。
ニコ、と、笑うグンマだったが、何時ものような無邪気な笑顔ではなくて。
一人の成人男性の顔をしていた。
「シンちゃん、イキたいの?」
その質問にも質問はコクコクと頭を動かす。
「そう簡単には取れないぞ。結び目がお前の、いいか。お前の液体で取れ難くなっているんだ。」
背中から声をかけられ、その吐息が当たり、シンタローはぶるり、と体を震わせた。
「切ってあげるよ~!そのかわり、ちゃんと僕達を満足させたらねν」
悪魔のような囁きをシンタローにぶつける。
「ふ、ううん!!」
グンマとキンタローが無遠慮に律動を繰り返す。
ボロボロ涙を零しながら浅はかないやらしい体を二人に差し出す。
「ん、ん、んんっ!!」
「あ、僕もうやばいかも。」
「俺もだ。」
「あ、キンちゃんも?」
表情を表に出さないキンタローは一言そう言うと、シンタロー自身に手を延ばし、ネクタイに曝されていない場所を直に触る。
「ふ、ッッ!!」
ちょっと触っただけなのにシンタローの体はビクつき、中をきゅ、と締め付ける。
「出すぞ、いいか、シンタロー。受け止めろ。」
「ふえ?ふ、ンンンン!!」
どくり、どくり、と波打つようにシンタローの中に吐き出されるキンタローの白濁の液。
とっくに限界地点を超えているシンタローは虚ろな目で、キンタローの欲望をその中に受け入れる。
体が震える。
膝が笑う。
そんな中、全てを出し切り、キンタローはシンタローの蕾から自身を取り出す。
ズルリ、というリアルな音と、それと一緒にコポと、出てくるキンタローの液。
「じゃ、僕もシンちゃんの中で出そうっと。」
グンマはシンタローを仰向けに押し倒す。
そして、まだ自由のきかない両足を肩に担いで、猛った己をねじこむ。
さっきまで使われていたのですんなりと入っていった。
やっとキンタローという熱から解放されたのに、今度はグンマという熱がシンタローを支配する。
熱さと快楽で身をよじるが、グンマはそれを許さず、シンタローの中に出し入れを早める。
熱の絡み付く感覚だけが妙にリアルにシンタローを支配してゆく。
「シンちゃん、ちゃぁんと受け止めてね~ν」
グプ!
シンタローの奥を貫いた。
「ふ、ふぁ!や、やだ!」
「シンちゃんワンワンみたいνヨダレ垂らしちゃってカワイイν今から切るからシンちゃん動いちゃダメだよぉ~」
ヒタリと、冷たい金属の感触に、シンタローの動きビクリと止まる。
ジャキ、と、近くにあったハサミでグンマは自分のネクタイを切った。
ぱさ、と無残にも真っ二つになったネクタイがシンタローの腹の上に落ちる。
シンタローがそれに気を取られた瞬間をグンマは見逃さず、シンタローの足を思い切り開かせ、ガクガク揺らした。
「ひゃ、あ、あ、ああっ!!」
「シンちゃんッッ!!」
肌と肌がぶつかり、汗が飛ぶ。
「ん、あ、あああああ!!」
ビクリと体をわななかせたかと思うと、グンマを締め付け、シンタローは長い間精子を吐き続けた。
びゅくり、びゅくり、と白濁の液体がシンタローの腹と顔を汚す。
中の収縮運動によって、グンマもまた、シンタローの中に己の精子をぶちまけたのだった。
「シンちゃん、随分出したね~」
「顔まで飛ぶとは若いな。シンタロー。」
「ッッはー、はー、」
誰のせいだとか、恥ずかしいから何も言うなとか、今のシンタローの思いははち切れんばかりのものだったが、体のあの、情事の後のけだるさと痺れによって言い返す言葉も紡ぎ出せない。
寧ろ、喉がカラカラで声がでないのだ。
「みず…」
シンタローはそれだけ言うと、荒い息遣いだけをして、何もしゃべらなくなってしまったのだった。
「テメーらさいッッてーだ!!ばかたれ共ッッ!」
水を飲んで喉を潤したシンタローが放った第一声はそれで。
キンタローとグンマは耳を塞いだ。
AVは既に終わっており、目次の画面に飛んでいる。
「第一グンマ!何でテメーはこーんなチンケなAVでムラムラすんだ!テメー最初笑ってたじゃねーか!」
ビシ、とグンマに指を指す。
「次にキンタロー!何でテメーまで乗るんだ!フツー止めるだろ!フツー!!」
続いてキンタローに指を指す。
「だって。僕シンちゃんが欲しかったんだもん。」
「はぁ!?」
「欲しいものは全力をかける。俺達は青の一族だからな!」
やけに清々しく言い切るキンタロー。
グンマもウンウンと頷いている。
「綺麗にまとめてんじゃねーヨ…」
何だってこの一族は馬鹿しかいないのか。
その馬鹿どもに俺は…クッ!
「シンちゃんだってノリノリだったじゃん。」
「ウム。とても気持ち良さげだったぞ。」
ムーカーツークー!!
ここがグンマだけだったらシンタローは迷う事なく眼魔砲を撃っていた。
しかし、今はキンタローが居る。
力の均衡が平行な奴が居るのだからやたらに撃っても相殺されるか、グンマまで加われば、いくら弱いグンマでも少しは加勢になる。
そして返り討ちに会うのは目に見えているので。
シンタローはただ奥歯をギリギリ噛み締めるのだった。
このゴーイングマイウェーの同世代にシンタローは何時もしない我慢をさせられて。
「ねーねー!そんなにカリカリしないでもーいっかいしよ…」
ゴツン!!
カワイイ笑顔で提案した兄に、シンタローのゲンコツが頭に直撃した。
「ぶわぁああん!!シンちゃんがぶったーー!」
「その位で泣くんじゃねー!俺の方が泣きたいわい!」
「さっき散々鳴いていたじゃないか。」
キンタローじゃなければオヤジギャグかよ!とノリで殴れたかもしれないのに!
キンタローじゃ、100%真面目になので、シンタローは何処に向ければいいか分からない苛々を募らせる。
そして、落ち着く為、はぁ、と溜息をついた。
あ、頭痛くなってきたぞ。つーか、こいつらには悪かったとか、そーゆー懺悔はねーのかよ!
だが、そんな事望むだけ無駄だという事を既にシンタローは知っている。
「シンちゃん。僕ら別に遊びじゃないからね~」
「いいか、よく聞けシンタロー。責任は取る。お前の事は俺達二人共愛しているんだ。いいか。愛しているんだぞ。」
「二度言わんでよーし!」
一人常識的に、血は繋がってなくても、男同士という事とか、従兄弟とか、兄弟とかを考えるシンタローだったが、二人の余りのノーテンキさ加減にコメカミを押さえるのだった。
三人の奇妙な恋愛関係はまだ始まったばかり。
終わり
ぱたぱたと笑顔で走ってくる兄グンマ。
隣にいるのは真逆で真顔の従兄弟キンタロー。
この科学者コンビが一緒に居る事はまったくもって珍しくない。
珍しいといえばグンマがアフリカ1号に乗っていないと言う事位か。
「ねーねー、シンちゃん!ハッ禁のビデオあるんだけど一緒に見ない?」
「はぁ?!」
笑顔で言う童顔の兄には似合わない台詞にシンタローは思わず驚きの声を上げる。
隣に居たキンタローは終始無表情でグンマの話を聞いていても何も言わない。
「ねー、見ないのー?」
上目使いで見上げられ、シンタローは少し考える。
ハッキンといってもAVとは限らない。
最近ではホラーや、暴力表現の激しいものも全てハッキンとなる事が多いのだ。
「どーゆーやつ。」
「んーとねぇ。」
ガサゴソと持っていた茶色い袋をまさぐる。
そして中から出てきたDVDは全部で3本。
全てAVらしいが、全てコミカルらしい。
題名が有名な映画や、ドラマをパクっている所からそう伺える。
「何故よりにもよってそーゆー奴にした。」
「だぁって!真面目なのにしたらやばくなるかもしれないでしょー?お互いに!」
グンマも男だったんだなと、シンタローは改めてそう思った。
そしてやっぱり気になるのがキンタロー。
そうゆう系のを見たらキンタローはどうなるのか、どんな顔をするのか。
シンタローはすっっごく気になった。
なので。
「じゃあ、さっさと見よーぜー!」
あっさり欲望に負け、二つ返事でOKを出したのだった。
場所はグンマのお伽話の部屋。
何故ピンクなのか。
ピンク好きはもはや直系の遺伝なのか。
コタローもいつかピンクになってしまうのだろうか、と不安になるほどのピンクとレースとお花に囲まれた部屋。
無意味にベッドに天涯までついていて、しかも、縫いぐるみがちょこちょこ置いてある。
AVを見るような部屋では断じてないだろう。
親達が入って来れないようにきちんと鍵を閉めてDVDを再生する。
「俺久しぶりだな。」
「僕も。」
「こういったDVDを見るのは初めてだ。」
「ま、何事も経験だ経験。」
「笑えるよ~?キンちゃん!」
初めてというキンタローに二人はそう薦める。
キンタローはキンタローでクソ真面目な顔をして「そうか。楽しみだな。」と、呟いた。
予告が始まり、三人は食い入るように画面を見る。
すると、金髪の女性二人が上半身を剥き出しにして、不可思議な踊りを踊り初めたり、濃厚なキスを始めたり、揚句の果てには男性と絡んだりし始めた。
シンタローはキンタローの様子が気になったのでチラ、と見てみると、キンタローは唖然としていて、グンマは見るまでもなく笑い転げていた。
しかも、何故か沢山の金髪とか黒髪とかいろんな髪色の女性がダイナマイトボディを決めつつ教師のように居て、同じ位居る男は生徒のようにその女達の話を聞いている。
出来ないと下半身に悪戯されるらしい。
全くもって理解不能である。
「ねー、シンちゃん、あれのマネっこしよーよー!」
きゃ、きゃ、と楽しそうにグンマが画面を指差す。
シンタローは断固拒否をした。
すると、グンマはぷく、と頬を膨らませる。
「だって僕、あんな雌豚じゃ勃たないもん…。」
ん?
シンタローは聞き違いかと思った。
あのグンマが雌豚とか言った?
そんな事言う奴だっけ?あいつ。
キンタローは平然としていた。
まるで当たり前のように。
何故ならグンマはシンタローの前ではぶりっ子だが、他の人間の前では至って普通なのである。
シンタローに可愛がって貰う為、あえてキャラを作っているのだった。
作っている、というより、それが普通になってしまっている所が既にやばい。
「じゃーいーもん!僕が雌豚の役やっちゃうから!」
「ああ?ふざけ…ンンー!」
ふざけんな、と言う前に、グンマがシンの舌に舌を絡めてくる。
ちゅ、ちゅ、と唾液の混ざり合う音が聞こえて、シンタローは目をきつくつぶった。
口を離すと唾液が名残惜しそうにつらつらなり、眉を潜め顔を蒸気させるシンタローを見て、グンマは笑った。
「ほらぁ、キンちゃん!ぼぉっとしてないでシンちゃん押さえてよぉ~!」
「あ?ああ。」
キンタローは訳も解らずシンタローの腕を後ろから押さえる。
くったりとしたシンタローを腕の中に納めると、グンマは又シンタローにキスをする。
「ん、んん、ふん、あ、」
苦しそうに、しかし気持ち良さそうにシンタローが鼻にかかる吐息を吐く。
キンタローは思う。
何故あれしきの破廉恥な映像で、ここまで心が高ぶれるのか。
しかし、シンタローの恥ずかしそうな顔を見て、キンタローの中心も又熱を帯びていた。
グンマはキスをしながらシンタローの鎖骨、そして乳首までをその華奢な指先でつつ、と渡る。
「ん!ンン!」
びく、とシンタローの体が跳ねた。
キンタローがしゅる、とシンタローのズボンの紐を緩め、パンツの中に手を突っ込む。
「ふ。や、あぅ!」
直に触られグンマの口を離し、シンタローは講義の声を出した。
しかし、直ぐに又グンマにキスをされるのである。
口内、乳首、性器と、1番感じる場所を弄ばれて、シンタローは抵抗する事すらできなくなってしまう。
「気持ちいいのか?シンタロー。」
耳元で囁かれ、耳たぶをペロ、と、舌先で嘗められる。
「ふ、うん!」
「シンちゃん、男の子なのに乳首も感じるのぉ~?」
あはは~と、キスを離し、脳天気な笑い声を出すグンマだが、シンタローを攻める事は止めない。
「ン、や、め、ンンッ!」
抗議の声はグンマの口内に掻き消された。
舌を絡められ、吸われ、音を立てながらいたぶられる。
キンタローも、シンタローの下半身に緩急をつけて上下にグラインドさせている。
シンタローの性器が限界を示すかのように硬くそそり立つ。
びく、びく、と体が面白いように震えていた。
「あ、駄目だよぉ~シンちゃん!一人でイッちゃうのは、なし~!」
「あ、だ、て、もぉむりぃ…」
は、は、と浅い息を口から吐きながら、とろんとした目でグンマを見つめる。
その顔を見て、グンマは、知らず知らずのうちに唇の端が上がるのを感じた。
おもむろに自分の首元からネクタイを緩め、しゅる、と、外す。
そしてシンタローの性器に縛り付けたのだった。
間抜けなアヒル柄をプリントしてあるグンマのネクタイは、直ぐにシンタローの液体により、絵柄に似つかない惨事になっていく。
「いた、やだ!取れよ!ふ、あ!」
イヤイヤと頭を振るが願いは聞き届けられそうにない。
間抜けなAVの女優が声をあらげているのが遠くで聞こえる。
今、一番聞こえるのは己の液体を弄ぶ音。
くちゅ、くちゅ、と聞こえるその音にシンタローは耳を塞ぎたくなる。
そして戒め。
イキたくてもイケないもどかしさ。
「や、や、やだぁ!グンマッ!!コレ、取ってぇ…」
取って欲しくてグンマに縋り付く。
細い体に腕を伸ばせば、温かい体温を感じる。
「グンマばかりでは不公平だろう。シンタロー。」
不意に後ろからキンタローの声が聞こえ、シンタローの尿道に爪を立てられる。
カリ、と引っかかれ、シンタローは思わず海老反りに。
喉仏がコクリと上下に動いた。
「そんな口は必要ないな。」
キンタローはそう言い放ち、ストライプの自分のネクタイをシュルリと素早く取ると、シンタローの口をそれで塞いだ。
「ンーンー!!」
「シンちゃん、ソレ、さるぐつわみたーい!」
喜んでグンマはシンタローの汗ばむ額にキスをする。
グンマの長い睫毛がふわりと、近づき、シンタローは目で止めてと訴えるが知らんぷりをされて悲しくなる。
既に体の自由が効かなくなっているので、キンタローの顔を動かす事もできない。
キンタローなら助けてくれるかも、何て淡い期待は次の瞬間跡形もなく消え去る事となる。
シンタローの体が宙に浮き、前に倒された。
視界がグラリと揺れ、離された両腕で咄嗟に自分の体を受け止める。
それでも受け止めた両腕には少し鈍い痛みが走ったが、今置かれている状況の方がシンタローにとって一大事であった。
「ふ、ンン!!ンーンー!!」
目線だけをキンタローに向けるが、それはかちあう事もなく。
すっかり力の入らなくなった体、浮いている腰。
その腰をキンタローは両腕で持ち上げて、既に己の液体でヌルヌルにはなっているソコに指を入れた。
ツプリと音がして、徐々に指を埋め込む。
「ンン!!」
「少し力を緩めろ。いいか。少し力を緩めるんだ。」
クニクニと内側から円を描くようにクルクル指を回し、辛そうに顔を歪めるシンタローの腰を優しく撫でながら、ゆっくり閉じられているソコを解きほぐす。
言われた通りシンタローは少しづつではあるが力を緩め始めた。
それを指先で感じたキンタローは、ふ、と満足そうな笑みを浮かべる。
「え~!二人だけでずるいよぉ~!!僕も!」
そう言ってグンマはシンタローの唇を覆っていたキンタローのストライプのネクタイを外す。
息がシンタローの肺に思い切り吸えるようになり、シンタローは少し咳込んだ。
咳込みが終わるのを待ってから、くい、とシンタローの顎を持ち上げれば。
屈辱と羞恥にまみれ、それでも意識を飛ばせまいとしている意思の強い瞳とかちあった。
「シンちゃん、噛まないでね~」
グンマはニッコリと可愛らしく微笑んで、その微笑みとは正反対の凶暴な己の性器をシンタローの口に無理矢理捩込むのだった。
「ふぐぅっ!!」
いきなり又始まる息苦しさと、口内に広がる苦くて塩っぱい何とも言えない味。
一言で言えばまずい。
しかし、それを舐めているという事実がシンタローを興奮させた。
「シンちゃん、アイスキャンディー舐めるみたいにペロペロ舐めるんだよぉ~」
そう言われて、シンタローは言われた通りに舐め始める。
シンタローの脳内は既にスパークしており、快感のあまり何も考えられない。
ただ言われた事をたどたどしく行動する。
シンタローの舌捌きはお世辞にも上手いとは言い難いものがあったが、そのたどたどしい舌のうねりにグンマは熱い息を吐いた。
そして、シンタローの黒い髪をさらさらと撫でる。
それが心地いいのか、うっとりとするその表情にグンマもご満悦。
そんな空気に浸かっていたのもつかの間。
「ふぐ、ンンンン!!!」
シンタローが声なき声を上げる。
原因は後ろのキンタロー。
もう大丈夫と判断したのか、シンタローの蕾の中に己の高ぶりを捩込む。
ぐぐ、と奥に進み、最奥迄到達すると、キンタローは軽い溜息を吐いた。
シンタローの中はピッチリとキンタローを加え込み、中の肉壁がキンタローを離すまいとうねる。
「ふー、ふー、」
シンタローも、鼻で息をしながら、余りの快楽に涙が一筋流れ落ちた。
「気持ちいいの?シンちゃん。」
そう質問するグンマに、シンタローは素直にコクコクと頭を振る。
「お前の中も相当気持ちいいぞ。」
「もー!キンちゃんったら先にしちゃうんだもん!終わったら次僕だからね~」
そう言うが早いか、グンマはシンタローの頭を掴み腰を前後に動かす。
その度に唾液と交わる卑猥な音がシンタローの聴覚を犯す。
唇の端は既に飲み込めなくなった自分の唾液とグンマの液体。
だらし無く垂れ流される。
そして後ろにはキンタローが腰を掴み、ガクガクと震える足の間に割って入り込み、ガンガン貫く。
熱い。
口の中も体の中も。
前からも後ろからも快楽に犯されて。
なのに中心に縛られている戒めによってイク事が出来ない。
体が壊れてしまうような過ぎた快楽にシンタローの顔が歪む。
睫毛に着いた己の涙をしばたたかせて、それでも消える事のない快楽に身を委ねるしかなく。
キンタローが中を掻き交ぜる。
ゴポゴポと白濁の液体がフトモモに流れ出た。
それに不快感を少なからず感じたが、この快楽の前では微々たるもの。
グンマも乱暴にシンタローの髪をつかむ。
「ん、シンちゃん、きもちいーよぉ…」
上目使いでグンマを見ると、普段から女顔のグンマが潤んだ瞳でシンタローを見ていて目がかちあった。
ニコ、と、笑うグンマだったが、何時ものような無邪気な笑顔ではなくて。
一人の成人男性の顔をしていた。
「シンちゃん、イキたいの?」
その質問にも質問はコクコクと頭を動かす。
「そう簡単には取れないぞ。結び目がお前の、いいか。お前の液体で取れ難くなっているんだ。」
背中から声をかけられ、その吐息が当たり、シンタローはぶるり、と体を震わせた。
「切ってあげるよ~!そのかわり、ちゃんと僕達を満足させたらねν」
悪魔のような囁きをシンタローにぶつける。
「ふ、ううん!!」
グンマとキンタローが無遠慮に律動を繰り返す。
ボロボロ涙を零しながら浅はかないやらしい体を二人に差し出す。
「ん、ん、んんっ!!」
「あ、僕もうやばいかも。」
「俺もだ。」
「あ、キンちゃんも?」
表情を表に出さないキンタローは一言そう言うと、シンタロー自身に手を延ばし、ネクタイに曝されていない場所を直に触る。
「ふ、ッッ!!」
ちょっと触っただけなのにシンタローの体はビクつき、中をきゅ、と締め付ける。
「出すぞ、いいか、シンタロー。受け止めろ。」
「ふえ?ふ、ンンンン!!」
どくり、どくり、と波打つようにシンタローの中に吐き出されるキンタローの白濁の液。
とっくに限界地点を超えているシンタローは虚ろな目で、キンタローの欲望をその中に受け入れる。
体が震える。
膝が笑う。
そんな中、全てを出し切り、キンタローはシンタローの蕾から自身を取り出す。
ズルリ、というリアルな音と、それと一緒にコポと、出てくるキンタローの液。
「じゃ、僕もシンちゃんの中で出そうっと。」
グンマはシンタローを仰向けに押し倒す。
そして、まだ自由のきかない両足を肩に担いで、猛った己をねじこむ。
さっきまで使われていたのですんなりと入っていった。
やっとキンタローという熱から解放されたのに、今度はグンマという熱がシンタローを支配する。
熱さと快楽で身をよじるが、グンマはそれを許さず、シンタローの中に出し入れを早める。
熱の絡み付く感覚だけが妙にリアルにシンタローを支配してゆく。
「シンちゃん、ちゃぁんと受け止めてね~ν」
グプ!
シンタローの奥を貫いた。
「ふ、ふぁ!や、やだ!」
「シンちゃんワンワンみたいνヨダレ垂らしちゃってカワイイν今から切るからシンちゃん動いちゃダメだよぉ~」
ヒタリと、冷たい金属の感触に、シンタローの動きビクリと止まる。
ジャキ、と、近くにあったハサミでグンマは自分のネクタイを切った。
ぱさ、と無残にも真っ二つになったネクタイがシンタローの腹の上に落ちる。
シンタローがそれに気を取られた瞬間をグンマは見逃さず、シンタローの足を思い切り開かせ、ガクガク揺らした。
「ひゃ、あ、あ、ああっ!!」
「シンちゃんッッ!!」
肌と肌がぶつかり、汗が飛ぶ。
「ん、あ、あああああ!!」
ビクリと体をわななかせたかと思うと、グンマを締め付け、シンタローは長い間精子を吐き続けた。
びゅくり、びゅくり、と白濁の液体がシンタローの腹と顔を汚す。
中の収縮運動によって、グンマもまた、シンタローの中に己の精子をぶちまけたのだった。
「シンちゃん、随分出したね~」
「顔まで飛ぶとは若いな。シンタロー。」
「ッッはー、はー、」
誰のせいだとか、恥ずかしいから何も言うなとか、今のシンタローの思いははち切れんばかりのものだったが、体のあの、情事の後のけだるさと痺れによって言い返す言葉も紡ぎ出せない。
寧ろ、喉がカラカラで声がでないのだ。
「みず…」
シンタローはそれだけ言うと、荒い息遣いだけをして、何もしゃべらなくなってしまったのだった。
「テメーらさいッッてーだ!!ばかたれ共ッッ!」
水を飲んで喉を潤したシンタローが放った第一声はそれで。
キンタローとグンマは耳を塞いだ。
AVは既に終わっており、目次の画面に飛んでいる。
「第一グンマ!何でテメーはこーんなチンケなAVでムラムラすんだ!テメー最初笑ってたじゃねーか!」
ビシ、とグンマに指を指す。
「次にキンタロー!何でテメーまで乗るんだ!フツー止めるだろ!フツー!!」
続いてキンタローに指を指す。
「だって。僕シンちゃんが欲しかったんだもん。」
「はぁ!?」
「欲しいものは全力をかける。俺達は青の一族だからな!」
やけに清々しく言い切るキンタロー。
グンマもウンウンと頷いている。
「綺麗にまとめてんじゃねーヨ…」
何だってこの一族は馬鹿しかいないのか。
その馬鹿どもに俺は…クッ!
「シンちゃんだってノリノリだったじゃん。」
「ウム。とても気持ち良さげだったぞ。」
ムーカーツークー!!
ここがグンマだけだったらシンタローは迷う事なく眼魔砲を撃っていた。
しかし、今はキンタローが居る。
力の均衡が平行な奴が居るのだからやたらに撃っても相殺されるか、グンマまで加われば、いくら弱いグンマでも少しは加勢になる。
そして返り討ちに会うのは目に見えているので。
シンタローはただ奥歯をギリギリ噛み締めるのだった。
このゴーイングマイウェーの同世代にシンタローは何時もしない我慢をさせられて。
「ねーねー!そんなにカリカリしないでもーいっかいしよ…」
ゴツン!!
カワイイ笑顔で提案した兄に、シンタローのゲンコツが頭に直撃した。
「ぶわぁああん!!シンちゃんがぶったーー!」
「その位で泣くんじゃねー!俺の方が泣きたいわい!」
「さっき散々鳴いていたじゃないか。」
キンタローじゃなければオヤジギャグかよ!とノリで殴れたかもしれないのに!
キンタローじゃ、100%真面目になので、シンタローは何処に向ければいいか分からない苛々を募らせる。
そして、落ち着く為、はぁ、と溜息をついた。
あ、頭痛くなってきたぞ。つーか、こいつらには悪かったとか、そーゆー懺悔はねーのかよ!
だが、そんな事望むだけ無駄だという事を既にシンタローは知っている。
「シンちゃん。僕ら別に遊びじゃないからね~」
「いいか、よく聞けシンタロー。責任は取る。お前の事は俺達二人共愛しているんだ。いいか。愛しているんだぞ。」
「二度言わんでよーし!」
一人常識的に、血は繋がってなくても、男同士という事とか、従兄弟とか、兄弟とかを考えるシンタローだったが、二人の余りのノーテンキさ加減にコメカミを押さえるのだった。
三人の奇妙な恋愛関係はまだ始まったばかり。
終わり
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いつも通りの朝。
窓から注ぎ込む太陽の光りと、窓辺に置いてある観葉植物。
そして、スクランブルエッグが白い皿に鮮やかに映え、カリカリのトーストにお好みでバターかマーマレード。
コポコポと、コーヒーメーカーで落とされる香高いコーヒー。
イギリス製の椅子に腰かける家族達。
皆の父親役であるマジックは、新聞紙片手にコーヒーを飲み、一番年上のグンマは、コーヒーに砂糖とミルクを混ぜ合わせ、トーストにマーマレードを塗りたくる。
同い年の二人のうちの金髪の方、キンタローは、バターをトーストに塗り、隣に座るシンタローに渡し、黒髪の方、シンタローはそれを受け取りトーストにかじりつく。
それを見てからキンタローは自分のトーストにバターを塗るのだった。
この、かいがいしい世話はもう、4年前位に遡るか。
怨まれても可笑しくない自分にキンタローはとても世話を焼いてくれて。
嬉しく思う半面、申し訳なくも思う。
「どうだシンタロー、俺の、いいか、俺の作ったバタートーストの味は!」
「あ?ああ、うめーよ。」そう答えると、フフンと、自慢げに笑い、キンタローはコーヒーを一口飲む。
「ね、ね、シンちゃん!パパの作ったスクランブルエッグは!?」
「あ!?うっせーな!新聞見てろ。しゃべりかけんな!」
新聞紙を閉じていきなり話し掛けてきたので、シンタローはおもいっきり不愉快な顔をする。
そして、マジックが、ひどいよ、シンちゃんッ!等と百面相をしている間にバクバク食べていく。
ぶっちゃけ、解りやすく言えば完全無視。
「シンタロー。コーヒーのお変わりは?」
「ン、頼むわ。」
自分のコップをキンタローに差し出し、シンタローはまたも朝食を食べ始める。
シンタローは多忙な為、一分、一秒と無駄にはできないのだ。
本来なら、一人で食べて直ぐさま仕事に打ち込みたいのだが、やはり一日に一度は家族と顔を合わせたいというシンタローの思いもある。
「あ、シンちゃ~ん。」
口の回りに食べカスを付けたグンマが口を開く。
「あんだよ。」
「あのね、今日は大事な開発の実験日だから、キンちゃんこっちに来るんだぁ~。」
「げ、マジかよ?ま、今日は会議もねーから大丈夫だとは思うけど…。」
「すまんな。」
「いーよ。気にすんな。」
白い歯を見せ笑うシンタローに、キンタローは顔を伏せた。
それは赤い顔を見せたくなかったから。
はっはーん!
さてはキンタロー、シンちゃんの事好きっぽいねぇ。
でもね、シンちゃんはもう、私のものなんだな~。
マジックは新聞を見ている振りをしながら二人のやりとりをバッチリ見ていた。
でも、大人の余裕というのだろうか。
ライバルとは思っていないようだ。
「だがシンタロー!それが終わったら必ずお前の元へ行くからな!」
力説するキンタローに、シンタローはちょっとだけ眉を下げて笑い、おう。と呟いたのだった。
さて、ここは総帥室。
シンタローは黙々とデスクワークをこなしていた。
山のようにある報告書を一々目を通すのは疲れるものがあるが、総帥という立場上あれは嫌だ、これは嫌だとは言っていられない。
時折キンタローが目にはブルーベリーがいいと言って置いていった飴を口に含んで転がす。
それでも駄目な時は、秘書に言って疲れ目用の目薬を持ってきてもらっていた。
こうゆう時こそキンタローがいてくれたらなぁ~。
あいつデスクワーク得意だし、仕事早いし。
無い物ねだりなんだろうが、シンタローはついつい思ってしまう。
勿論一番仕事ができるのはマジックなのだが、マジックの力は借りたくないというコンプレックスとプライドが入り交じる思いを抱えているのでマジックにだけは手伝って欲しくない。
「ちきしょー、かったりぃナ!」
ぶつぶつ文句をいいながらも、手と目はバリバリに動かす。
終わった書類はさっさと秘書に持っていかせ、出来るだけディスクの上は汚くしておきたくない。
こんな所でシンタローのプチ潔癖症、お姑根性を垣間見る事ができる。
キンタローがこちらに来る予定は午後7時だそうだ。
それまで、出来る範囲は終わらせとかねぇと。
シンタローは、頬を手の平で二、三度叩き気合いを入れて書類を書き始める。
ビーー!
インターホンの音が鳴る。
一体誰だ!何の用だ!
このクソ忙しいのに!
秘書がインターホンで応答し、慌てたように扉を開ける。
プシュン!と空気の抜ける音と共に、やけに聞き覚えのある足音。
顔を上げたくないッッ!!
シンタローは、本気で思った。
「シーンちゃん!頑張ってるぅー?ほーら、お弁当!持ってきたよー!!」
ガリガリガリ。
シンタローは、ナイスシカトをし、必死にサインを書いて現実逃避。
「あれ?あれ?シンちゃん、パパだよ?お前のだぁーいすきなパ・パν」
「誰が誰を好きだってぇ!?勝手に決めんな!アーパー親父ィ!!」
ガバッと顔を上げ、睨むと、マジックは、真剣な面持ちから一転、超笑顔になる。
「やーっとこっち向いてくれたνパパ、無視されてるのかと思っちゃったν」
「無視してたんだよ!!」
ケッ!
「で?何の用だ。」
すると、マジックは手に持っていたバスケットをシンタローの目の前に差し出す。
「シンちゃんと一緒にランチ!食べようと思ってきちゃったν」
ニコニコ笑いながら、アポ無しで来る父親に、シンタローの怒りはマックス寸前。
ただでさえキンタローが居なくて仕事が溜まっていて苛々しているのだ。
「親父…」
「なぁに?シンちゃんν」
「5秒以内に出ていけ…」
ドスの利いた声と、右手に光る眼魔砲。
溜めている。
かなり溜めている。
マジックは、ハハハと渇いた笑いをして、バスケットをシンタローのディスクに置き、食べてね、と一言言ってからそそくさと総帥室を後にした。
つまらない。かなりつまらない。シンちゃんが私を構ってくれない。
そりゃあね、仕事が忙しいのは解るよ。
でも、ランチ位、一緒に食べてもいいじゃない。
いつもカリカリして!
カルシウムの多い物を明日から出そう。
マジックは、そう心に決めて部屋に戻る為歩いていた。
途中途中で団員に敬礼され、マジックは、軽く手を上げたりし、エレベーターに乗ろうとしたその時。
「おとーさまー!」
パオーン!ガッチャンガッチャン!!
後ろから声をかけられた。
振り替えらなくても誰だか一発でわかるが、マジックは、とりあえず振り向く。
すると、予想通り、自分の実子グンマがアフリカ1号というゾウロボに跨がりこちらに向かってきていた。
「どうしたの?グンちゃん。今日は開発の実験だったんじゃないの?」
「うん!今は休憩時間なんだぁ~。」
そう言って一緒のエレベーターに乗り込む。
グンマは、キンタローと自分の飲み物を下の自販機で買って来るのだという。
「ねぇ、グンちゃん。グンちゃん達は、シンちゃんとランチ、食べたりするの?」
すると、グンマは、人差し指を唇に宛て、顔を上に向け、うーんと唸り考える。 「う~ん。最近はシンちゃん忙しそうだから食べてないよぉ~。僕、元々開発課だから、休憩時間も合わない事が多いし。キンちゃんは補佐管だから一緒に食べたりしてるのかもしれないけど。」
え。それ本当?
じゃあ、何でパパとはランチ一緒に食べてくれないの?
おかしいじゃないか。
お前の父親兼恋人は私だろう??
ぴた、と行動を止めたマジックを特に気にする風でもなく、グンマはニコニコ笑っていた。
シンちゃんは、キンちゃんの事どう思っているのだろうか。
朝は感じなかった不安が一気にマジックを襲う。
マジックがグンマにそのことを聞こうとした時、無情にもエレベーターが止まり、グンマは元気よく自分に手を振り行ってしまった。
残されたマジックは、自分の部屋のフロアのボタンを押し、何かを考えるかのように、すぅっ、と、真顔になる。
彼は考え事をする再、いつもこうやって真顔になる。
ゴウンと動く浮遊感の感じるエレベーターの中、マジックは一人、シンタローの事を思うのだった。
随分時間が立ち、日も大分傾いてきた頃、実験はようやく成功し、一同は安堵の溜息を吐いた。
「これで一安心だな。」
「そぉだね、キンちゃん!」
予定より早く終わって良かった。
この分なら6時迄にシンタローの手伝いができる。
キンタローは来ていた白衣を脱ぎ捨て、シンタローの元へ急ぐ。
そんなキンタローを見て、グンマはクスッと笑う。
よっぽどシンちゃんの事が好きなんだなぁ~。
キンタローの脱ぎ捨てた白衣をたたみながら、そう、思うのだ。
キンタローは、ツカツカとエレベーター迄やや早足で歩き、総帥室迄のボタンを押す。
考えているのはシンタローの事ばかり。
でも、キンタローは知っていた。
彼がマジックと出来ている事を。
二人の仲を裂いてまでシンタローとどうこうなりたいとはキンタローは思ってはいなかった。
いや、そうではない。
思ってはいけない事だと認識をしていた。と、言った方が正解だろう。
だからシンタローを思うだけに留めておこうとキンタローは思っている。
チーンと、間の抜けた音と共にエレベーターが開く。
キンタローは早足で総帥室に向かった。
ブサーを鳴らすと、すぐシンタローが自ら出てきた。
「早かったナ。さっきグンマから内線があって、お前がこっちに向かってるって言われた。」
歩き、ディスクの上の書類をばさばさと滑らせる。
後ちょっとなんだよな、そう言って、少し温くなっているコーヒーを啜った。
「手伝おう。」
キンタローは一言そう言うと、書類をまとめ始める。
書類のサインは基本的にシンタローがしなければならない。
キンタローの仕事は、秘書達が既にやった分類別に別けてある書類の小分け。
シンタローが読む時間を削減すべく、先に読み、自分の中でYesかNoを決め、それを更に別けるのだ。
シンタローがどうするか、どうゆう判断を下すか。
24年間同じ体に入っていたキンタローならではの仕事方法だといえる。
「シンタロー様、お休みになられていないので、キンタロー様からもお休みになるよう申し上げて下さい。」
近くにいた秘書が、コソッと話し掛ける。
すると、ムッとしたようにシンタローがくるりと振り向いた。
「いーんだヨ!それに!後ちょっとで終わるんだから!」
少し顔が赤いのは、仕事ができないと思われていると思ったから。
そんな事はないのに。
マジックより仕事ができない劣等感を抱えているのだ。
「そうか。では、早く終わりにして休ませよう。お前達も頼む。」
「ハ、ハイ!!」
ペコリと頭を下げ、秘書達も応戦しはじめたのだった。
キンタローが来たせいで、随分早めに書類が片付いた。
久しぶりの時間内終了に、シンタローと秘書達は喜びの笑みを浮かべる。
「お疲れ様でしたー!」
「おう、お疲れ。」
秘書達は出来上がった書類をそれぞれの役場に持って行く。
プシュン!とドアが開いて閉じた。
「シンタロー、さ、休め。」
「ああ。」
キンタローに促され、シンタローは椅子に深く座り溜息を漏らす。
その間、既に冷え切ってしまったコーヒーを捨て、熱いコーヒーをキンタローは入れ直しシンタローに渡す。
そして、自分の分も入れてコクリと喉を鳴らす。
「サーンキュ!」
シンタローはそう言うと、下に閉まっておいたバスケットを取り出した。
中にはサンドイッチ、唐揚げ、甘い卵焼きが入っていて。
明らかにマジックが来たのだと解った。
それを美味しそうに頬張るシンタローを見て、何かキンタローの中で切れた。
そんな事、露知らずのシンタローは、マジックの作った弁当をキンタローの前に置く。
「お前も食うか?」
そして、自分の大好きな顔で笑うから。
その笑顔は俺の為に向けられているのか?
解らない。解らなくなる。
アイツの笑顔は誰のもの?
「俺はいい。」
「なんで。作った奴はともかく味は上手いゾ。」
又、笑う。
心臓が痛い。
夕日に照らされ笑うシンタローはとても綺麗なのに、それを憎らしいと思うのは何故だろう?
きっと、そんなシンタローにしたのは紛れも無くあの人だから。
自分は、シンタローを一番知っているが、一番知らない人間なのだろう。
「お前は、俺に、お前の為だけに作ったマジック叔父貴の手料理を食えと、そう言うのか?」
下を向いているせいか、キンタローの顔は見えない。
「は、?いきなりな…」
「俺の気持ちに気付いているくせに。知らない振りをするんだな。」
持ち上げられた顔は至って普通のアイツの顔。
でも、瞳が、父に似ている顔が、俺を攻める。
解ってたか、なんて。解ってたさ。ああ、解ってたよ。
お前の熱い瞳も、求める指先も、葛藤してた心も。
全部、全部俺は解ってた。
それでも知らない振りをしていた俺はチキン野郎なんだろう。
仕方ねぇじゃねぇか。
俺は、現状のままで居たかった。変えたくなかった。知りたくなんて…なかったんだ!
攻めるような瞳で見つめるキンタローに、シンタローは少し身を引いた。
「意味、が、わからね…」
息苦しい圧迫感の中、シンタローは一言そう言った。
どうして知らない振りをする?シンタロー。
何故、ハッキリとしない?
曖昧にされることが何より辛い事なんだと、お前は知らないのだな。
優しさは時として鋭い刃物のように心に刺さるんだ。
答は、俺はとうに知っている。
だから、お前の口で、声で、早く俺を止めてくれ。
お前を止められるのは俺だけだが、俺を止められるのはお前だけなんだ。
「シンタロー。」
ガタ、と、立ち上がると、シンタローがビク、と、震えた。
気にせずシンタローの肩を、強く掴む。
「――ッッ」
少し顔をしかめたのが解る。
夕日が沈む中、シンタローの唇に己の唇を押し当てようと、近づく。
す、と、唇までの距離を計る為、薄く目を開いたキンタローはぎょっとした。
「――ッッ、――ふぅっ…!」
指先に垂れる熱い液体。
その液体は、シンタローの睫毛から染み出し、シンタローの頬から流れ落ちている。
それが涙なのだと知って、キンタローは罪悪感に駆られたのだ。
俺は何て事をしてしまったのだろう。
守るべき人を悲しませて。俺のやっている事はただの傲慢だ。
自分の愛をシンタローに押し付けた。
シンタローがマジック叔父貴と恋中である事を知っていて。
中を裂きたくない、とか、割り込みたくない、とか、思う事ばかり一人前で。
結局俺は最後まで黙っていられなかった。
「すまない。…すまないシンタロー。」
歯を食いしばって、涙を止めようとするシンタローが余りにも幼く見えて。
赤い総帥服に身を包んで、ガンマ団のトップであるシンタローが泣く、なんて。キンタローはシンタローを力強く抱きしめた。
「う、ふぅ…ふぇ…」
シンタローの体温が、キンタローの心臓の鼓動が。
お互いに伝わりあって。
泣くシンタローの髪を撫で、もうしない、と何度も、何度も、キンタローは呟くのだった。
どれほど時間がたったのだろうか。
夕日は沈んだようで、蛍光灯の明かりが二人と部屋を照らす。
泣き止んだシンタローは、自然とキンタローを見る。
お、おおお俺ってば!俺ってば!!
なんつー醜態を晒しちまったんだあああ!!
キンタローは、凄く辛そうで、シンタローの心はツキンと痛んだ。
「泣かせて…すまなかった。」
「いや…。」
何だか恥ずかしくてシンタローは目線を反らす。
こんな時にとても不謹慎だが、キンタローはシンタローと秘密を共有出来て少し嬉しかった。
勿論、全然甘いものでもなく、寧ろ辛いものなのだがそれでも嬉しいと思うのはきっと、恋の末期なんだろう。
「キンタロー…。」
「なんだ。」
「俺は、こんな事言うと気持ち悪いかもしれないが、俺、マジックと…その…だから、お前の気持ちはスゲー嬉しいンだけど、答えられそうにねぇ。だけど、俺が背中を預けられんのはお前だけだ。これだけは本心。嘘じゃねえ。」
赤くなった瞳でキンタローを真っ直ぐ見つめる。
ややあって、キンタローが口を開いた。
「知っている。」
「はぁ?」
間の抜けた声をシンタローは発した。
「それでもお前が好きなんだ。でも…」
一つ呼吸を置いて、キンタローは優しい瞳でシンタローを見つめる。
「もう、お前達の邪魔はしない。だが、俺はお前が好きだ。叔父貴に飽きたら俺の所へ来い。」
そう言って悪戯っぽく笑うので、シンタローも釣られて笑う。
総帥室は先程とは打って変わって明るい空気に包まれたのだった。
. 「シンちゃんとキンちゃん遅いねぇ~おとーさま。総帥業務は終わったって連絡入ったのに。」
「え?!あ、そ、そうだね…。」
すっごく気になっているマジックは部屋をうろうろ。
その傍らでグンマはのほほんと紅茶を飲んでいた。
「何かあったのかな~?」
「何か!?あの二人に!?まさか、まさか…」
「今日のおとーさま、何時も以上におかし~。」
アハハと笑ってマイペースグンマ。
そんな時。
「ただいまー!」
「ただ今戻りました!」
二人してご帰宅。
マジックの心拍数が高鳴る。
部屋に入ってきた二人は、朝見た時以上に仲睦まじくて、マジックの心境は些か平穏ではない。
二人で食事の前の手洗いうがいを済ませ、席につく。
えーーー!?ま、まさかお前、キンタローとそうゆう関係になったんじゃあるまいね?
ああ、パパすっごく気になるよ!
でも、面と向かっては聞けないのである。
「シ、シンちゃん、随分キンタローと仲良しだねぇ~」
だから遠回し作成に出るマジックなのだった。
シンタローはいぶかしげにマジックを見たが、少し頬が赤い。
ま、まままままさか!!
ドキドキ心臓の音が馬鹿みたいに煩い。
助けを求めるように、嘘だと誰かに言って欲しくてキンタローを見る。
「仲はいいです。俺とシンタローは一心同体ですから。」
「ッッ!!」
決定的とも取れる言葉にマジックはハンケチーフをかじり泣いた。
はーぁ、と重いため息をついたかと思うと、肩を落としキッチンに入る。
貴方のせいで振られたのだからこのくらいの意地悪、許してくれるだろう?
キンタローはそんなマジックの背を見てそう思う。
ガタリ、シンタローが立ち上がる。
手にはあの、バスケットを持って、マジックの行ったキッチンへ。
シンタローがキッチンへ入ると、マジックが号泣していたので、空になったバスケットを昼、マジックがしたように目の前に突き出す。
「うまかったよ、ごちそーさん!」
「シンちゃん…」
良かった。私の取り越し苦労だったみたいだ。
「え~ん!!シンちゃんだぁああい好き~!!」
ガバッとシンタローに抱き着く。
「だあああ!うぜぇんだよッッ!!」
抱き着かれても、泣かれても、キス…されても、嫌だって思わねぇのはアンタだけなんだぜ?
感謝しろよ、クソ親父!
終わり。
窓から注ぎ込む太陽の光りと、窓辺に置いてある観葉植物。
そして、スクランブルエッグが白い皿に鮮やかに映え、カリカリのトーストにお好みでバターかマーマレード。
コポコポと、コーヒーメーカーで落とされる香高いコーヒー。
イギリス製の椅子に腰かける家族達。
皆の父親役であるマジックは、新聞紙片手にコーヒーを飲み、一番年上のグンマは、コーヒーに砂糖とミルクを混ぜ合わせ、トーストにマーマレードを塗りたくる。
同い年の二人のうちの金髪の方、キンタローは、バターをトーストに塗り、隣に座るシンタローに渡し、黒髪の方、シンタローはそれを受け取りトーストにかじりつく。
それを見てからキンタローは自分のトーストにバターを塗るのだった。
この、かいがいしい世話はもう、4年前位に遡るか。
怨まれても可笑しくない自分にキンタローはとても世話を焼いてくれて。
嬉しく思う半面、申し訳なくも思う。
「どうだシンタロー、俺の、いいか、俺の作ったバタートーストの味は!」
「あ?ああ、うめーよ。」そう答えると、フフンと、自慢げに笑い、キンタローはコーヒーを一口飲む。
「ね、ね、シンちゃん!パパの作ったスクランブルエッグは!?」
「あ!?うっせーな!新聞見てろ。しゃべりかけんな!」
新聞紙を閉じていきなり話し掛けてきたので、シンタローはおもいっきり不愉快な顔をする。
そして、マジックが、ひどいよ、シンちゃんッ!等と百面相をしている間にバクバク食べていく。
ぶっちゃけ、解りやすく言えば完全無視。
「シンタロー。コーヒーのお変わりは?」
「ン、頼むわ。」
自分のコップをキンタローに差し出し、シンタローはまたも朝食を食べ始める。
シンタローは多忙な為、一分、一秒と無駄にはできないのだ。
本来なら、一人で食べて直ぐさま仕事に打ち込みたいのだが、やはり一日に一度は家族と顔を合わせたいというシンタローの思いもある。
「あ、シンちゃ~ん。」
口の回りに食べカスを付けたグンマが口を開く。
「あんだよ。」
「あのね、今日は大事な開発の実験日だから、キンちゃんこっちに来るんだぁ~。」
「げ、マジかよ?ま、今日は会議もねーから大丈夫だとは思うけど…。」
「すまんな。」
「いーよ。気にすんな。」
白い歯を見せ笑うシンタローに、キンタローは顔を伏せた。
それは赤い顔を見せたくなかったから。
はっはーん!
さてはキンタロー、シンちゃんの事好きっぽいねぇ。
でもね、シンちゃんはもう、私のものなんだな~。
マジックは新聞を見ている振りをしながら二人のやりとりをバッチリ見ていた。
でも、大人の余裕というのだろうか。
ライバルとは思っていないようだ。
「だがシンタロー!それが終わったら必ずお前の元へ行くからな!」
力説するキンタローに、シンタローはちょっとだけ眉を下げて笑い、おう。と呟いたのだった。
さて、ここは総帥室。
シンタローは黙々とデスクワークをこなしていた。
山のようにある報告書を一々目を通すのは疲れるものがあるが、総帥という立場上あれは嫌だ、これは嫌だとは言っていられない。
時折キンタローが目にはブルーベリーがいいと言って置いていった飴を口に含んで転がす。
それでも駄目な時は、秘書に言って疲れ目用の目薬を持ってきてもらっていた。
こうゆう時こそキンタローがいてくれたらなぁ~。
あいつデスクワーク得意だし、仕事早いし。
無い物ねだりなんだろうが、シンタローはついつい思ってしまう。
勿論一番仕事ができるのはマジックなのだが、マジックの力は借りたくないというコンプレックスとプライドが入り交じる思いを抱えているのでマジックにだけは手伝って欲しくない。
「ちきしょー、かったりぃナ!」
ぶつぶつ文句をいいながらも、手と目はバリバリに動かす。
終わった書類はさっさと秘書に持っていかせ、出来るだけディスクの上は汚くしておきたくない。
こんな所でシンタローのプチ潔癖症、お姑根性を垣間見る事ができる。
キンタローがこちらに来る予定は午後7時だそうだ。
それまで、出来る範囲は終わらせとかねぇと。
シンタローは、頬を手の平で二、三度叩き気合いを入れて書類を書き始める。
ビーー!
インターホンの音が鳴る。
一体誰だ!何の用だ!
このクソ忙しいのに!
秘書がインターホンで応答し、慌てたように扉を開ける。
プシュン!と空気の抜ける音と共に、やけに聞き覚えのある足音。
顔を上げたくないッッ!!
シンタローは、本気で思った。
「シーンちゃん!頑張ってるぅー?ほーら、お弁当!持ってきたよー!!」
ガリガリガリ。
シンタローは、ナイスシカトをし、必死にサインを書いて現実逃避。
「あれ?あれ?シンちゃん、パパだよ?お前のだぁーいすきなパ・パν」
「誰が誰を好きだってぇ!?勝手に決めんな!アーパー親父ィ!!」
ガバッと顔を上げ、睨むと、マジックは、真剣な面持ちから一転、超笑顔になる。
「やーっとこっち向いてくれたνパパ、無視されてるのかと思っちゃったν」
「無視してたんだよ!!」
ケッ!
「で?何の用だ。」
すると、マジックは手に持っていたバスケットをシンタローの目の前に差し出す。
「シンちゃんと一緒にランチ!食べようと思ってきちゃったν」
ニコニコ笑いながら、アポ無しで来る父親に、シンタローの怒りはマックス寸前。
ただでさえキンタローが居なくて仕事が溜まっていて苛々しているのだ。
「親父…」
「なぁに?シンちゃんν」
「5秒以内に出ていけ…」
ドスの利いた声と、右手に光る眼魔砲。
溜めている。
かなり溜めている。
マジックは、ハハハと渇いた笑いをして、バスケットをシンタローのディスクに置き、食べてね、と一言言ってからそそくさと総帥室を後にした。
つまらない。かなりつまらない。シンちゃんが私を構ってくれない。
そりゃあね、仕事が忙しいのは解るよ。
でも、ランチ位、一緒に食べてもいいじゃない。
いつもカリカリして!
カルシウムの多い物を明日から出そう。
マジックは、そう心に決めて部屋に戻る為歩いていた。
途中途中で団員に敬礼され、マジックは、軽く手を上げたりし、エレベーターに乗ろうとしたその時。
「おとーさまー!」
パオーン!ガッチャンガッチャン!!
後ろから声をかけられた。
振り替えらなくても誰だか一発でわかるが、マジックは、とりあえず振り向く。
すると、予想通り、自分の実子グンマがアフリカ1号というゾウロボに跨がりこちらに向かってきていた。
「どうしたの?グンちゃん。今日は開発の実験だったんじゃないの?」
「うん!今は休憩時間なんだぁ~。」
そう言って一緒のエレベーターに乗り込む。
グンマは、キンタローと自分の飲み物を下の自販機で買って来るのだという。
「ねぇ、グンちゃん。グンちゃん達は、シンちゃんとランチ、食べたりするの?」
すると、グンマは、人差し指を唇に宛て、顔を上に向け、うーんと唸り考える。 「う~ん。最近はシンちゃん忙しそうだから食べてないよぉ~。僕、元々開発課だから、休憩時間も合わない事が多いし。キンちゃんは補佐管だから一緒に食べたりしてるのかもしれないけど。」
え。それ本当?
じゃあ、何でパパとはランチ一緒に食べてくれないの?
おかしいじゃないか。
お前の父親兼恋人は私だろう??
ぴた、と行動を止めたマジックを特に気にする風でもなく、グンマはニコニコ笑っていた。
シンちゃんは、キンちゃんの事どう思っているのだろうか。
朝は感じなかった不安が一気にマジックを襲う。
マジックがグンマにそのことを聞こうとした時、無情にもエレベーターが止まり、グンマは元気よく自分に手を振り行ってしまった。
残されたマジックは、自分の部屋のフロアのボタンを押し、何かを考えるかのように、すぅっ、と、真顔になる。
彼は考え事をする再、いつもこうやって真顔になる。
ゴウンと動く浮遊感の感じるエレベーターの中、マジックは一人、シンタローの事を思うのだった。
随分時間が立ち、日も大分傾いてきた頃、実験はようやく成功し、一同は安堵の溜息を吐いた。
「これで一安心だな。」
「そぉだね、キンちゃん!」
予定より早く終わって良かった。
この分なら6時迄にシンタローの手伝いができる。
キンタローは来ていた白衣を脱ぎ捨て、シンタローの元へ急ぐ。
そんなキンタローを見て、グンマはクスッと笑う。
よっぽどシンちゃんの事が好きなんだなぁ~。
キンタローの脱ぎ捨てた白衣をたたみながら、そう、思うのだ。
キンタローは、ツカツカとエレベーター迄やや早足で歩き、総帥室迄のボタンを押す。
考えているのはシンタローの事ばかり。
でも、キンタローは知っていた。
彼がマジックと出来ている事を。
二人の仲を裂いてまでシンタローとどうこうなりたいとはキンタローは思ってはいなかった。
いや、そうではない。
思ってはいけない事だと認識をしていた。と、言った方が正解だろう。
だからシンタローを思うだけに留めておこうとキンタローは思っている。
チーンと、間の抜けた音と共にエレベーターが開く。
キンタローは早足で総帥室に向かった。
ブサーを鳴らすと、すぐシンタローが自ら出てきた。
「早かったナ。さっきグンマから内線があって、お前がこっちに向かってるって言われた。」
歩き、ディスクの上の書類をばさばさと滑らせる。
後ちょっとなんだよな、そう言って、少し温くなっているコーヒーを啜った。
「手伝おう。」
キンタローは一言そう言うと、書類をまとめ始める。
書類のサインは基本的にシンタローがしなければならない。
キンタローの仕事は、秘書達が既にやった分類別に別けてある書類の小分け。
シンタローが読む時間を削減すべく、先に読み、自分の中でYesかNoを決め、それを更に別けるのだ。
シンタローがどうするか、どうゆう判断を下すか。
24年間同じ体に入っていたキンタローならではの仕事方法だといえる。
「シンタロー様、お休みになられていないので、キンタロー様からもお休みになるよう申し上げて下さい。」
近くにいた秘書が、コソッと話し掛ける。
すると、ムッとしたようにシンタローがくるりと振り向いた。
「いーんだヨ!それに!後ちょっとで終わるんだから!」
少し顔が赤いのは、仕事ができないと思われていると思ったから。
そんな事はないのに。
マジックより仕事ができない劣等感を抱えているのだ。
「そうか。では、早く終わりにして休ませよう。お前達も頼む。」
「ハ、ハイ!!」
ペコリと頭を下げ、秘書達も応戦しはじめたのだった。
キンタローが来たせいで、随分早めに書類が片付いた。
久しぶりの時間内終了に、シンタローと秘書達は喜びの笑みを浮かべる。
「お疲れ様でしたー!」
「おう、お疲れ。」
秘書達は出来上がった書類をそれぞれの役場に持って行く。
プシュン!とドアが開いて閉じた。
「シンタロー、さ、休め。」
「ああ。」
キンタローに促され、シンタローは椅子に深く座り溜息を漏らす。
その間、既に冷え切ってしまったコーヒーを捨て、熱いコーヒーをキンタローは入れ直しシンタローに渡す。
そして、自分の分も入れてコクリと喉を鳴らす。
「サーンキュ!」
シンタローはそう言うと、下に閉まっておいたバスケットを取り出した。
中にはサンドイッチ、唐揚げ、甘い卵焼きが入っていて。
明らかにマジックが来たのだと解った。
それを美味しそうに頬張るシンタローを見て、何かキンタローの中で切れた。
そんな事、露知らずのシンタローは、マジックの作った弁当をキンタローの前に置く。
「お前も食うか?」
そして、自分の大好きな顔で笑うから。
その笑顔は俺の為に向けられているのか?
解らない。解らなくなる。
アイツの笑顔は誰のもの?
「俺はいい。」
「なんで。作った奴はともかく味は上手いゾ。」
又、笑う。
心臓が痛い。
夕日に照らされ笑うシンタローはとても綺麗なのに、それを憎らしいと思うのは何故だろう?
きっと、そんなシンタローにしたのは紛れも無くあの人だから。
自分は、シンタローを一番知っているが、一番知らない人間なのだろう。
「お前は、俺に、お前の為だけに作ったマジック叔父貴の手料理を食えと、そう言うのか?」
下を向いているせいか、キンタローの顔は見えない。
「は、?いきなりな…」
「俺の気持ちに気付いているくせに。知らない振りをするんだな。」
持ち上げられた顔は至って普通のアイツの顔。
でも、瞳が、父に似ている顔が、俺を攻める。
解ってたか、なんて。解ってたさ。ああ、解ってたよ。
お前の熱い瞳も、求める指先も、葛藤してた心も。
全部、全部俺は解ってた。
それでも知らない振りをしていた俺はチキン野郎なんだろう。
仕方ねぇじゃねぇか。
俺は、現状のままで居たかった。変えたくなかった。知りたくなんて…なかったんだ!
攻めるような瞳で見つめるキンタローに、シンタローは少し身を引いた。
「意味、が、わからね…」
息苦しい圧迫感の中、シンタローは一言そう言った。
どうして知らない振りをする?シンタロー。
何故、ハッキリとしない?
曖昧にされることが何より辛い事なんだと、お前は知らないのだな。
優しさは時として鋭い刃物のように心に刺さるんだ。
答は、俺はとうに知っている。
だから、お前の口で、声で、早く俺を止めてくれ。
お前を止められるのは俺だけだが、俺を止められるのはお前だけなんだ。
「シンタロー。」
ガタ、と、立ち上がると、シンタローがビク、と、震えた。
気にせずシンタローの肩を、強く掴む。
「――ッッ」
少し顔をしかめたのが解る。
夕日が沈む中、シンタローの唇に己の唇を押し当てようと、近づく。
す、と、唇までの距離を計る為、薄く目を開いたキンタローはぎょっとした。
「――ッッ、――ふぅっ…!」
指先に垂れる熱い液体。
その液体は、シンタローの睫毛から染み出し、シンタローの頬から流れ落ちている。
それが涙なのだと知って、キンタローは罪悪感に駆られたのだ。
俺は何て事をしてしまったのだろう。
守るべき人を悲しませて。俺のやっている事はただの傲慢だ。
自分の愛をシンタローに押し付けた。
シンタローがマジック叔父貴と恋中である事を知っていて。
中を裂きたくない、とか、割り込みたくない、とか、思う事ばかり一人前で。
結局俺は最後まで黙っていられなかった。
「すまない。…すまないシンタロー。」
歯を食いしばって、涙を止めようとするシンタローが余りにも幼く見えて。
赤い総帥服に身を包んで、ガンマ団のトップであるシンタローが泣く、なんて。キンタローはシンタローを力強く抱きしめた。
「う、ふぅ…ふぇ…」
シンタローの体温が、キンタローの心臓の鼓動が。
お互いに伝わりあって。
泣くシンタローの髪を撫で、もうしない、と何度も、何度も、キンタローは呟くのだった。
どれほど時間がたったのだろうか。
夕日は沈んだようで、蛍光灯の明かりが二人と部屋を照らす。
泣き止んだシンタローは、自然とキンタローを見る。
お、おおお俺ってば!俺ってば!!
なんつー醜態を晒しちまったんだあああ!!
キンタローは、凄く辛そうで、シンタローの心はツキンと痛んだ。
「泣かせて…すまなかった。」
「いや…。」
何だか恥ずかしくてシンタローは目線を反らす。
こんな時にとても不謹慎だが、キンタローはシンタローと秘密を共有出来て少し嬉しかった。
勿論、全然甘いものでもなく、寧ろ辛いものなのだがそれでも嬉しいと思うのはきっと、恋の末期なんだろう。
「キンタロー…。」
「なんだ。」
「俺は、こんな事言うと気持ち悪いかもしれないが、俺、マジックと…その…だから、お前の気持ちはスゲー嬉しいンだけど、答えられそうにねぇ。だけど、俺が背中を預けられんのはお前だけだ。これだけは本心。嘘じゃねえ。」
赤くなった瞳でキンタローを真っ直ぐ見つめる。
ややあって、キンタローが口を開いた。
「知っている。」
「はぁ?」
間の抜けた声をシンタローは発した。
「それでもお前が好きなんだ。でも…」
一つ呼吸を置いて、キンタローは優しい瞳でシンタローを見つめる。
「もう、お前達の邪魔はしない。だが、俺はお前が好きだ。叔父貴に飽きたら俺の所へ来い。」
そう言って悪戯っぽく笑うので、シンタローも釣られて笑う。
総帥室は先程とは打って変わって明るい空気に包まれたのだった。
. 「シンちゃんとキンちゃん遅いねぇ~おとーさま。総帥業務は終わったって連絡入ったのに。」
「え?!あ、そ、そうだね…。」
すっごく気になっているマジックは部屋をうろうろ。
その傍らでグンマはのほほんと紅茶を飲んでいた。
「何かあったのかな~?」
「何か!?あの二人に!?まさか、まさか…」
「今日のおとーさま、何時も以上におかし~。」
アハハと笑ってマイペースグンマ。
そんな時。
「ただいまー!」
「ただ今戻りました!」
二人してご帰宅。
マジックの心拍数が高鳴る。
部屋に入ってきた二人は、朝見た時以上に仲睦まじくて、マジックの心境は些か平穏ではない。
二人で食事の前の手洗いうがいを済ませ、席につく。
えーーー!?ま、まさかお前、キンタローとそうゆう関係になったんじゃあるまいね?
ああ、パパすっごく気になるよ!
でも、面と向かっては聞けないのである。
「シ、シンちゃん、随分キンタローと仲良しだねぇ~」
だから遠回し作成に出るマジックなのだった。
シンタローはいぶかしげにマジックを見たが、少し頬が赤い。
ま、まままままさか!!
ドキドキ心臓の音が馬鹿みたいに煩い。
助けを求めるように、嘘だと誰かに言って欲しくてキンタローを見る。
「仲はいいです。俺とシンタローは一心同体ですから。」
「ッッ!!」
決定的とも取れる言葉にマジックはハンケチーフをかじり泣いた。
はーぁ、と重いため息をついたかと思うと、肩を落としキッチンに入る。
貴方のせいで振られたのだからこのくらいの意地悪、許してくれるだろう?
キンタローはそんなマジックの背を見てそう思う。
ガタリ、シンタローが立ち上がる。
手にはあの、バスケットを持って、マジックの行ったキッチンへ。
シンタローがキッチンへ入ると、マジックが号泣していたので、空になったバスケットを昼、マジックがしたように目の前に突き出す。
「うまかったよ、ごちそーさん!」
「シンちゃん…」
良かった。私の取り越し苦労だったみたいだ。
「え~ん!!シンちゃんだぁああい好き~!!」
ガバッとシンタローに抱き着く。
「だあああ!うぜぇんだよッッ!!」
抱き着かれても、泣かれても、キス…されても、嫌だって思わねぇのはアンタだけなんだぜ?
感謝しろよ、クソ親父!
終わり。
キスをする合間の、頬に触れる熱い吐息にオレは弱い。
少し離れてそれからまた違う角度から唇が合わさると、頭の奥が芯から溶けてしまいそうになる。
こんな、夜も明けそうだと言う頃にコイツと、・・・マジックと、こんな濃厚なキスをする事になるとは
ほんの数分前には思いもしなかった。
遠征先から帰って来て、さっそく自分専用の広い、シーツもふかふかのベッドで思う存分寝倒してやろうと
少し浮かれ気味でカードキーで扉を開けた瞬間、コイツが出てきて壁に押し付けられる形でそのまま唇を奪われてしまった。
あまりに唐突すぎて抵抗する事もできなかったが
今はオレの方がしっかりと親父の背中に両腕を回してしがみ付いている。
久しぶりの、キスだ。
懐かしい匂いに涙腺が緩みそうになった。
繰り返し繰り返し、何度も唇を重ねる度にひどく胸が熱くなる。
こんな場所で、こんな事をして、もしかしたら誰かに見られてしまうかもしれないのに
それすらどうでも良いなんて思える程、オレはコイツに飢えていたのだろうか。
「会いたかったよ」
マジックはオレの耳元で低くそう囁いた。
あぁ、そうかい。
いつものように悪態をついてやりたかったが生憎そんな余裕もなくオレは
親父と目を合わさないように俯いて、黙っていた。
何で、
そう、
アンタは、恥ずかしげもなくこんな事をして。
言ってやりたい事は山程あるのに考えがまとまらない。
大体どうしてこんな時間に、オレの部屋にいておまけに起きてるんだよ。
そんな事は聞かないでも解かってる。
解かってるから余計に何も言えない。
言ってしまったら、オレの方が頬が熱くなりそうで絶対に口に出したくなかった。
畜生、畜生、畜生。
不意をついてあんなキスをするなんて反則じゃないのか。
この馬鹿野郎め。本当に馬鹿だよアンタは。
こんな時間まで、オレの部屋で、オレの事なんか待ってるんじゃねェよ!
オマエは忠犬ハチ公かッ
そんなコイツが情けなくて、愛しくて、マジックがもう一度
オレの唇に触れた時、オレは再度ヤツの口腔の侵入を許していた。
シンちゃん、シンタロー、と
何度も名前を呼ばれるのがたまらなくて
オレはただ、ただひたすらに親父のキスに応えた。
長くて骨ばったマジックの指が、ゆっくりとオレのスーツのボタンを丁寧に外していく。
すっかり開拓されてしまった身体は、彼の手が胸を這うだけで敏感に反応を示すが
刹那、我に返ったオレは、慌ててヤツの両腕を掴んだ。
「・・・何?」
不満そうにマジックが恨みがましい目でこちらを見る。
何、じゃねェだろ。
「場所をわきまえろよ。」
じろりと睨みを利かせて外されたボタンを元に戻しながら、マジックの腕をすり抜ける。
背中を向けた、後ろの方で
「じゃあベッドならイイの?」
と聞かれ、オレが返事をせずに部屋へ入ると親父もオレの後につづき
そのまま背中から抱きすくめられてしまった。
首の付け根に顔を押し当てられ、金髪がくすぐったくて
文句を言ってやろうと振り向いて視線を合わせたら、オレの方が我慢できなくなってしまった。
お互いの服が床に乱雑に脱ぎ散らかされる。
とてもじゃないがベッドまで待てなかった。
息継ぎとも喘ぎともつかない声がうす暗い青い光に満たされた部屋に反響する。
「可愛いよ」とか「好きだよ」とかそんな台詞はもう十分聞き飽きているのに。
それでもそう言われると身体は火照って
アンタが、アンタのその声で、オレの名を呼んで肌に手が触れるだけで感じてしまう。
父さん。
父さん、
父さん、
父さん。
オレもアンタに、ずっと逢いたかった。
充分に温めたティーポットにお湯を注いで、アッサムの茶葉をスプーン2杯分入れる。
ティーコジーを被せて葉が踊り終わるのを待ったら、カップについでお好みでミルクやお砂糖を。
「僕、紅茶はアッサムが一番好きなんだー!」
ニコニコと如何にも楽しげに、グンマはマジックの淹れた紅茶を美味しそうに飲んだ。
勿論、ミルクとお砂糖入りで。
「だと思ったよー!アッサムが紅茶の中で一番甘いからね!パパも甘いのだ~い好き!」
「おとー様もアッサムが一番好きなの?」
「いやいや、パパはね~紅茶はセイロンが一番好きなんだ。」
種類と特徴 産地によって味や香り、水色が異なるセイロンティー。
クセがなくすっきりとした味なので、薄目にいれたストレートティーだと日本食にも合う。
日本贔屓の激しい彼にとっては、セイロンが一番自分の舌に合ったようだ。
「特に、ヌワラエリヤなんてまるでシンちゃんみたいで素敵じゃなーい?!」
「ヌワラ・・・??」
「ヌ・ワ・ラ・エ・リ・ヤ。紅茶もねー、一つの茶葉で色んな種類があるって事!今度調べてごらん。」
そう言って、嬉しそうに微笑みながらマジックは自分の分の紅茶をそれは上品に飲み干した。
「シンちゃーん!」
仕事の合間の休憩に、シンタローが台所で少し早めの自分の夕食を作っている所にグンマがひょっこり顔を出した。
「何だヨ。オマエの分なんて作らねーからな。」
髪の毛が邪魔で、いつもは腰まで下ろしている髪を上に高く結ってポニーテールにしているのを見られたのが恥ずかしいのか、
シンタローは迫力のない仏頂面でグンマを睨んだ。
相変わらず素っ気無い態度をとる従兄弟にグンマがぷぅっと頬を膨らませる。
とても同い年とは思えない程童顔な顔立ちなので、シンタローは少し呆れつつ何の用かと尋ねた。
「うん。あのね、ヌワラエリヤって知ってる??」
「何かの呪文か?」
聞き慣れない単語に眉を潜めてそう言うと、グンマは激しく首を振った。
「さっきねー、おとー様とおやつの時間を楽しんでたんだけど」
「オマエ本当にオレと同い年か?」
「で、紅茶とケーキをね、食べてたんだけど。おとー様は」
「要点をかいつまんで喋らんかい。」
「おとー様は紅茶の中で一番ヌワラエリヤが好きでそれがシンちゃんみたいなんだって!!!」
ぜぇ、はぁ、と息を切らせて呼吸するグンマを横目に、シンタローはさっそく台所にある茶葉の棚を開いた。
(えーとヌワラエリヤ・・・ヌワラエリヤ・・・)
あちこちお茶の缶を手にとって見るが、それらしいものは見つからない。
(オレみたいって何だ?)
諦めて途中だった料理を再開しながらシンタローはずっと、‘ヌワラエリヤ’と言う謎のお茶の事を考えていた。
「キンタロー。‘ヌワラエリヤ’って知ってるか?」
シンタローの唐突の質問に、キンタローは面を食らう事無くアッサリと『セイロンティーの一種だろう。』と答えた。
「スリランカの中央山系の最高地が産地だ。何故そんな質問を?」
よくもまぁ、そんなにポンポンと次から次へと知識が出てくるもんだと感心しつつ、シンタローはちょっと戸惑いながらキンタローに
「オレにそっくりなんだと。」
と言った。
「・・・誰が言ったんだ?」
「こんな事を言うようなヤツが思い当たらない程鈍くないだろ?オマエ。」
「マジック伯父貴か。・・・さすがと言うか・・・親バカにも程があるな。」
(どー言う意味だ。そりゃあ。)
少しばかり腹を立てながら、キンタローの説明を待つ。
聞いた途端、シンタローは座っていた椅子ごとひっくり返った。
「・・・・アイツ馬っ鹿じゃねーの・・・。」
「少なくとも伯父貴にはオマエはそーゆー存在なんだろ。」
「あぁああ~~・・・ったく・・・アホくさー・・・」
ガタガタと崩れた態勢を整えつつ、シンタローは片手でガリガリと頭を掻いた。
まったくあの親父らしいと言うか何と言うか・・・
「何だったらオマエも伯父貴を紅茶に例えてみたらどうだ。喜ぶぞ。」
揶揄するようにキンタローが言うと、シンタローは‘よせよ’と手を扇いだ。
「柄じゃないって。」
「そうか?オレだったらマジックは絶対『ダージリンのファーストフラッシュ』が似合いだと思うが。
今度言ってやれ。喜ぶ。」
「・・・?今度はどんな特徴のお茶だっつーんだよ。」
「紅茶の3大銘茶の一つだ。お茶の色は黄金色、若々しく、清々しいのが特徴。香りはまるでシャンパンのごとく、だ。」
「成るほど、違いない。」
二人は笑ってやり掛けの仕事に取り掛かった。
***
「誰がヌワラエリヤだって?」
深夜0時が回った頃、仕事が終わり一息ついたのか、
仰向けになって寝室のベッドの上で本を読んでいるマジックの腰の上に、シンタローは全体重をかけて跨った。
「苦しいよ」
「キンタローの知識の深さには感心するけどな、アンタには呆れ果てる。
よくもまーそんな下らん知識ばっか覚えてくるもんだな。」
パタン、と読みかけの本を静かに閉じて、枕元に置く。
自分の上に跨っているシンタローの腰を両手で掴んで、マジックは悪戯がバレた子供のように笑った。
「でもそうだと思ったんだ。パパにとってシンちゃんは‘ヌワラエリヤ’そのものだよ。」
「・・・まーだ言うかコノ親馬鹿め。」
「本当、本当だとも。それよりこの体勢はいけないと思うんだ。」
瞑っていた目をうっすらと開けてマジックはシンタローを見つめた。
「パパ、変な気分になるよ。」
熱っぽい視線が、シンタローの首から胸、腰、太腿まで降りていく。
それに気付いて、シンタローも身体を曲げて、マジックを見つめた。
やがて至近距離になって気付くと、肌と肌が触れ合う程お互いを抱きしめていて、
小さい声でシンタローが‘イイよ’と呟くと、マジックは‘本気にするよ’と一言だけ零して
そのまま彼をベッドに押し倒したのだった。
―――――――――<ヌワラエリヤ>優雅でデリケートな花のような香気を持つ。
世間はもう年始年末の準備で忙しい12月。
シンタローは溜まっている仕事をそこそこに切り上げ、元旦に備えるべく御節の材料の買出しに出る事にした。
どれだけ忙しくても、これだけは毎年欠かしていない。これも料理人の性と言うヤツだろうか。
どうせ食べる相手は決まって誰かさんになるワケだが。
いつもの総帥服から厚手のニットに古びれたジーンズに着替え、そのままコートを羽織って車で出ようとした瞬間、
後ろから呼び止められ、シンタローはウンザリした顔で声を掛けられた方へ振り返った。
「何だヨ。」
「今から買い物に行くんだろ?パパが運転してあげようか!?」
意気揚々として話しかけてくるマジックに、シンタローはバッサリと切り捨てるように『結構です。』と答えたが、
そう言われて大人しく引き下がる男ではなかったので、強烈な押しに押されて段々疲れ始めてきたシンタローは
はぁ、と大きくため息を一つ零すと大人しく助手席のドアを開け、どかっと無作法にシートに座った。
続いてマジックが運転席のドアを開け、シートに座る。
昔はシンタローも今ほど大人では無かったので、先ほどのような事があると延々とこの父親とケンカしっ放しだった。
しかし最近は、とりあえず疲れたら勝手に好きなようにさせる、と言う結論に達したらしい。
その方が無駄な体力の消耗も減るし、無益な暴力を奮う事も自分が酷い目に合うことも無くなる。
どうしても譲れない時はやはり強情を張らせてもらうが、それ以外の些細な事に関しては極力譲るように心がけていた。
飽くまで、マジックのためではなく、自分のために。
狭い車内で野郎が二人。何てロマンも欠片も無いのだろう。と考えていたら、
「凄くイイ感じだよね、今。」
と、マジックが言うので‘あーそうですね。’とシンタローは心にもない返事を返した。
(この人は一体いつまでこーなんだ?)
少しは落ち着きってものを持ってもイイんじゃないのか。
まだ20代のはずの自分の方がコイツよりも老けてる気がする。
そんな事を悶々と考えていると、前を向いたままマジックがふっと小さく肩を揺らした。
「シンちゃんが何考えてるか当ててあげようか?」
「ナニ。」
「‘こいつは一体いつまでこーなんだ?’」
ズバリ当てられて、シンタローが思わず目を丸くする。
そのままマジックはシンタローを見ずに続けて言った。
「‘少しは落ち着きってモンを持って欲しい’・・・かな?」
「・・・・・よく解かってんじゃねーの。」
少しだけ拗ねたようにシンタローが顔を背けると、彼はアッハッハと笑った。
「シンちゃんの考えてる事なんて、パパには全部お見通しなんだよ。」
実際、マジックはシンタローの先手を打つのが非常に上手い。
性格的な陰湿さも手伝っているのだろうが、それ以上に彼はシンタローの事をよく見ているからだ。
「パパはきっと死ぬまでこうだよ。」
「そりゃイイ迷惑だ。」
「最期まで、シンタロー馬鹿なままだ。」
それがまるで極々当たり前で、自然な事のように車を運転しながらマジックがそう言うので
シンタローは小さく『あ、そ』とだけ答えた。
頭を向けているせいで顔こそは見えないが、シンタローの耳がほんのり紅く染まっているのをマジックは見逃さなかった。
買い物の途中、タバコが切れてそこら辺のコンビニに入ると、入り口の前で数人の子供(と言っても15、6歳)が言い争っていた。
子供同士のする事だと、買ったタバコをコートの裏側にあるポケットに突っ込むと車の外で待っているマジックの元へ走り寄った。
すると、マジックの眉間に凄まじく皺が寄っているのでシンタローは少しぎょっとした。
暖房の効いた暖かい車内に戻ってワケを聞くと、どうやらあのコンビニの前の子供が原因のようだ。
「一体どんな言葉使いなんだか!!」
余程気に入らなかったのか、彼はずっとその話題を続けていた。
「今ってあんなもんだろ。っていうかオレだって綺麗な日本語ってワケじゃねーしな。」
「そう!そこだよ!シンちゃんも直しなさい今すぐ!みっともないから!」
「はぁ?オマエはどっかの国語教師かっつーの・・・」
変な事にすぐ拘るんだ、コイツは。
ヤレヤレ、とシンタローが肩を落とすと、マジックは大きな声で叫んだ。
「‘何故習わない正しい言葉を!美しい母国語を!’」
・・・『My Fair Lady』の一説だ。そう言えば如何にもこの男が好きそうな映画だ、とシンタローは苦笑した。
マジックの書斎には大量の本や、ビデオが置いてある。
小さい頃から、よく秘密で盗み見していた。
マジックが現役で、自分がまだほんの子供だった頃、そこが一番の遊び場所だったから。
「オレもその映画は何回も見たぜ。」
「・・・勝手にパパの書斎いじったね?」
「ヒギンズ教授の悔しそうな顔が気に入ったんだ。」
―――下町の花売りの娘を、英国の女王や王子が気に入る程美しいお姫様に育てておきながら、
彼女の気持ちにまったく気付かず、ケンカの末家出され、やっと彼女と自分の気持ちに気付く。
「そんな話だったよな?」
「よく覚えてるね。でもパパはお姫様の気持ちの方がわからないなァ。
何で勝手に怒って勝手に飛び出してっちゃうんだか。」
(だろうネ。)
窓を少し開けて、シンタローは先ほど買っておいたタバコを1本取り出して火をつけた。
ふう、と煙を吐く。苦い。
「オレはイライザの気持ちの方がよく解かるけどな。」
「そう?」
「そうだよ。」
―――――――――『パパには全部お見通しなんだよ。』
マジックがシンタローの事を全て理解しているつもりでも、本当は、まだ、色々、解かっていない事はたくさんある。
例えば今、シンタローが吸っているタバコが、実は自分と同じ銘柄だったり。
タバコの吸い方まで真似している事も、シンタローは秘密にしている。
解かっていない事は、まだまだホントはたくさんあるのだ。
「・・・アンタのイライザが言うんだから間違いねぇさ。」