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Feel on me
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昼頃叔父が来た。
いや、そもそもこの酒漬けオヤジを叔父だと思ったことはないな。
俺があのクソ親父の息子だというのも怪しいが、(実際違ったし、まあ、それはそれ)
この人が『あの』叔父さん(こっちは正真正銘叔父だと思う。)と双子というのもかなり怪しい。
獅子舞とかナマハゲとか、おっさんで充分だろう。
で、そのおっさんが来て、散々騒いでいった挙句についさっき部下に引き取られていった。
はた迷惑な親戚だ。
同情するぜ、特戦部隊。
言ってやらねぇけど。
山ほど一升瓶持ってきやがって、散らかし放題散らかしたのまでは……まあ許そう。
しかし……。
「……うぅ……」
おっさんの元部下……現在島の番人兼家政夫は、青い顔ですっかり使い物にならなくなっていた。
かなりの量の酒を呑まされたらしい。
俺一人で片付けろと……、あの酒まみれオヤジめ。新手の嫌がらせか?
そろそろ半世紀は生きてんだから大人になれよ。
うぇ、酒臭ェ。
ここは子供も住んでるんだぞ? オイ。
「……夢の国……待って~うさぎさ~ん……」
……コイツはコイツで使えねぇばかりか、むしろ邪魔だ。
つーか何の夢見てんだ、何の!
「オラ、邪魔だ。隅っこ行ってろ」
部屋のど真ん中で寝ようとする背中を蹴りながら端に追いやって、瓶を片付ける。
あーあ、換気しねぇと匂い消えねぇなこりゃ。
「ぐぁ……すみ、ませ……」
夢の国から戻ってきたらしく、謝ろうとしたんだろうが、言葉は途切れ途切れだった。
ったく、いちいち手間かけんなよ。
「黙ってろよ。あと吐くなら絶対外行け」
「すみませ……タイチョ……」
そっちかよ!
「査定は! マイナス査定だけは……!!」
だから何の夢なんだ。何の。
「……はぁ」
ため息が大きい。
酔っ払い一名と二人きりのこの部屋は相変わらず酒臭くて、俺まで酔っちまいそうだ。
とりあえず、あらかた片付けた空き瓶を台所の横に押しやって、ドアと窓を全開にする。
風が心地いい。
まだ日が暮れるまでには時間があるな。
水でぬらしたタオルを酔っ払いの額に置いて、横に座り込む。
何で俺が介抱までしてんだ。
でもまあ、することも無いしな。
隣でボーっと、今日は晩飯どうしようとか考えてた。
「んっ……」
かすかに声がした。
瞼がニ、三度動いて酔いつぶれはようやく目を覚ましたらしい。
「……ぁ? ……」
ゆっくりと体を起こしながら首を回らす。
足元に湿ったタオルが落ちた。
「いつまで寝惚けてんだ。馬鹿」
「……」
ぜってぇ起きてねぇ。まだ寝惚けてんなコイツは。
ここは一発眼魔砲でも、と構えを取った瞬間―――。
「……」
――――ぴとっ。
「……」
何だこれ。
「冷たい……」
頬が熱い……。
いや、頬じゃねぇか。
頬に触れたこいつの手。
「冷たくて、気持ちいいっス……」
そのままずるりと滑って、人の肩にもたれてまた寝やがった。
「オイっ」
もう反応がない。
寝るのが早ぇんだよ! ガキかお前。
「ん……待てよ~ミ○キ~……」
「……」
とりあえず。
――――ゴンッ。
「いだっ!」
一発殴っておいた。
END
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後書き
触れられるのははじめてではないのだけれど。
Feelニ作は対です。
なんで隊長様やら特戦部隊がいるのかは謎。
2004(April)
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水の満ちた箱
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それは鉄で出来ていて、とてもとても硬くて重い……。
家事があらかた終わって、部屋の方に振り返ったら、その人は座ったまま寝ていた。
珍しく天気はあんま良くないし、外は少し暗いから眠くなったのかもしれない。
「あの……?」
声をかけても起きそうになかった。
それなら寝かせておいた方がいいよな。
起こすと機嫌悪くなるかもしれないし。
……この間それでどつかれたし。
俺って……。
もぉ、泣けるよホント。
「…………」
……しっかし。
……綺麗な顔してるよな。
「……って違う!」
そうじゃなくて!
つーか、何だそれ!!
馬鹿か俺は!!
……そうじゃなくて……。
「……俺は……」
この間の夜の事。
今でも引っかかってる。
顔を苦しそうに歪めて、笑おうとして叶わなかったこの人は、とても遠い所にいる気がした。
こんなに近いのに。
「俺なら聞けるのに……」
絶対、他人に……俺に、弱いところなんて見せないんだろう。
「言ってくれないんですもん」
だから分からないんだ。
鉄で出来た、水の満ちた箱の中で溺れてる。
溺れているのに声を出さない、手を伸ばさないから――。
けど気付いちまった。
だから俺は耳を澄まして、手を伸ばして……。
なのに払われて――。
「俺じゃ、だめですか?」
しゃがみ込んで顔を覗き込む。
寝てるからこんな近くにいれるんだ。
起きてる内は……あー……だめだ、やっぱ怖ぇって。
何となく、髪に触れる。
この人の髪、滑らかで心地良いから。
「……だめなんっスか?」
肩から滑り落ちた黒髪に一瞬ドキッとした。
ってなんで『ドキッ』なんだよ!
ときめくなよ俺!!
ったく、どうしちまったんだか……。
『頼りない』って言われて沈んだり、『褒めてやる』って言われて舞い上がったり。
全く、女々しい限りだろ?
昔の自分に笑われちまうよ。
……それでも。
「……いつか」
今は……耳を澄ませて、手を伸ばすだけだけど。
「いつか、俺が箱を壊せる日は来ますか?」
溺れる前にあなたが声を出して、自ら手を伸ばしてくれるように。
それは鉄で出来ていて、とてもとても硬くて重い……。
けれど、壊せるだけの力があれば――。
鉄が朽ちるのを待つのではなく……。
END
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後書き
手を払われたならいっそ箱ごと。
堅く閉ざされているそれが、壊れていくのを待つか、それとも壊すか。
つーか起きろよ総帥。
2004(April)
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まだ笑っていられる
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「ぅ……」
込み上げる嘔吐感が堪えきれずに声を漏らす。
同時にぱたぱたと透明な液体が口端からこぼれた。
胃液が逆流したかのような感覚と、喉を通る不快な味に眉をしかめる。
口を抑えて、汚れてしまった手を無造作にシャツで拭うと、 自身を落ち着かせるためにゆっくりと息を吐いた。
「ちっ……」
いつからこんなに軟な体になってしまったのだろう?
働きすぎだと言われたときも、こんなことで倒れるわけないと笑い飛ばした。
それがどうだ?
今同じことが言えるのか?
プレッシャーだの、ストレスだの……そんなものに振り回されて。
体を少し酷使しただけでこれだ。
「弱っちくなっちまったもんだ」
ガンマ団総帥が聞いて呆れると自嘲する。
眠ることを忘れたかのような忙しい日々が、まるで自分を押しつぶしていくようで……。
家の外壁に背を預け、彼は小さく笑った。
笑おうとして崩れた。
「けっ……」
それが分かってしまって、だから悪態をつく。
慣れてきた生活が急に戻せるはずもなく、心地良いはずの夜が、 眠れずに怖いとさえ感じる。
輝く星明りの中で、ただひたすらに早く明けろと願うばかり。
「……お、起きてたんですか」
「…………」
問いに彼は答えなかった。
答えたくもなかった。
顔も向けぬまま、まるでその存在にさえ気付かなかったかのようにして。
それでも話しかけてきた青年は、構わないというように続けた。
「眠れないんっスか?」
「…………」
「……あの……起きてます?」
「…………っるせぇ」
あまりにしつこいのでボソリとそれだけ呟いて突っ撥ねる。
「す、すみません」
それきり青年は何も言わず、 しかし立ち去るでもなく彼の横に腰掛ける。
謝るくらいなら戻ってくれた方が楽だと思った。
それをわざわざ口にするのも面倒で、彼も何も言わない。
どれぐらい続いたのか、青年の口が少し動く。
「……あ、あの……」
彼にはほんの短い時間だったが、おそらく青年には絶えられないほど長いものだったのだろう。
「……ぁんだよ」
仕方なく答える。
そうでもしないと、青年はいつまでたっても戻っていきそうにないと思ったから。
しかし、次に青年が紡いだ言葉はそんなことを忘れさせた。
「辛いっスか?」
聞いた瞬間は意味がわからなかった。
だが、頭は徐々に言葉を理解する。
「……見てやがったな」
「え、いや、その……す、すみません」
青年は途中から現れたのでない、おそらく最初からいたのだろう。
特戦部隊にいただけあって、気配で起きたのかもしれない。
何にしろ嫌な場面を見られてしまったと、彼は舌打ちする。
「あの、俺、聞きますから」
突然何を言い出すのだろう。
いつになく真剣な眼差しで、青年は言う。
「俺なら、聞けます」
……ああ。そうか、と彼はようやく理解した。
自分ならば、もう団と関わりのない自分ならば聞けるのだ、と。
彼の溜め込んでいるもの全て―――。
「……お前が?」
くっと口の形が歪む。
最初は同情のようにも聞えた。
だが――。
「なっ、何っスか!!」
青年の顔があまりに真剣で、馬鹿みたいに心配そうに見つめてくるから。
「お前に助けてもらうほど落ちぶれてねぇよ」
逆におかしくなってしまった。
考えていたことが馬鹿らしいとさえ思えてくる。
勿論、青年は不服そうにしていたが。
「頼りにならないですか」
「全然な」
その一言が余程堪えたのか、目に見えて明らかに肩を落とす。
それに苦笑しながら、彼は青年の頭に手を置いて、 そのままガシガシとかき回すように撫でる。
例えてみれば犬を撫でている時のように。
「何するんっスかー!」
「まあ、心意気は褒めてやるよ」
いつの間にか不快感は消えていた。
それが青年のおかげかどうかは知らない。
彼は立ち上がり笑った。
今度は、崩れなかった。
END
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後書き
力になりたい。
でもその人は望まない。
……ヘタレめ。
2004(April)
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あの人
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いや、何がどうっていわれたら困るんだけど。
だってなぁ。
否が応にも惹きつけられる。
あの人。
黒く長い髪が、目の前にふわりと流れた。
柔らかそうな、さらさらとしたそれ。
風に靡いてえらい綺麗だなとかそんなことを思ってたら……。
ゴキッ。
「痛ぇっ!」
案の定殴られた。
「ボーっとしてねぇで仕事しろや」
「はい……」
もういつものことだけど。
この天然俺様気質の総帥様は、かなりの小姑で、家事全般にとてつもなく厳しい。
というか俺っていつまでたっても下っ端生活なのな。
最近じゃそういう星の元に生まれたんだ、と半分諦め気味だが。
心休まる日々がないわけよ。
その内血ィ吐くぞ?
いや、吐いてるけど。
………大丈夫か俺の体。
「……オイ」
「え、あ。すっ、すみませんっ!!」
手に取り込んだ洗濯物を持ったまま、またボケっとしちまったらしい。
即座に謝っちまうところが…俺もうだめだ。
下っ端街道まっしぐら。
「何やってんだよさっきから……」
言えるわけがない。
言ったら眼魔砲が来る。
「いやー、あはは~」
笑って誤魔化してみたが……あの……睨んでる視線、すげぇ痛いんですけど。
「はは……」
「…………」
怖い。
マジで怖い。
まさに蛇に睨まれた蛙って感じだ。
無言の威圧感。
「……別にいいけどよ」
くるりと踵を返して家へと向かうあの人。
うわ、怒ってる。
一体何で機嫌損ねるかわかったもんじゃない。
うぅ…何でこんなびくびくしてんだ俺は。
しっかりしろ俺!
元特戦部隊! 現番人!!
「あ……」
思わず声が出た。
風が強く吹いて、ざんばらな俺の髪がくしゃくしゃになったのとは対照的に、黒く束ねた髪が舞う。
さらさらとした、柔らかそうな……。
「……なにしてんだてめぇは」
「え……うあわっ!!!」
それはもうほとんど無意識上に、その髪に触れていた。
あー、見た目と違わず触り心地いいなー……ってそんな場合じゃなくて!!
「いやいやいや、ち、違うんっスよ! 髪に埃が……!」
なんつー下手ないい訳だよ。
一昔前の詐欺じゃないんだから……。
「変な奴」
……通った。
そんなんで総帥とか務まるんだろうか。
するりと滑って髪は手の平を抜けていった。
何だかそれが、すげぇ惜しい気がして、 そのまま歩いていく姿を、ただなんとなく見てた。
と、ふと振り返って、やっぱり悪い目つきで睨みながらあの人は言う。
「オラ、まだ家事残ってんだろ」
「あ、はいっ!」
その手の中の触感を忘れられないままに、呼ばれたほう方と急ぐ。
他人の髪って、あんなに気持ちいいもんだっけか?
……何か。
いや、何がどうっていわれたら困るんだけど。
否が応にも惹きつけられる。
あの人。
END
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後書き
♪確かな道標じゃ満足することが出来ずに~
はい。満足できませんでした。
どんだけ少女漫画系だお前。
2004(April)
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今日はパパと一緒にお買い物に行った。
お店ですれ違う人たちにじろじろ見られて恥ずかしかった。
確かに世界一かわいい美少年と、やたらデカいおっさんが歩いてたら見たくもなるよね。
『美しさは罪。』美貌のおじさまに教えられたことを思い出す。
Dad, give me a dream day.
晩ごはん用の食材を買い終えた後のこと。
「何か欲しいものはある?」
「欲しいもの? 世界とか?」
「それはシンちゃんに止められたから無理だよ。まったく、お前は本当にパパ似だね」
「そこでため息をつかないでよ。こっちだって好きでパパに似たわけじゃないよ。とにかく、何なら買ってくれるのさ」
「うーん…無難にお菓子とか?」
「わかった。じゃあ選んでくるよ」
「別にお菓子とかじゃなくてもいいのに…シンちゃんに似て無欲な子だねぇ」
「これがいい」
「……………………………………………………………」
「無意味に長い沈黙はやめてよね、パパ」
「あ、ああ、ごめんね。ちょっとフラッシュバックしてたものだから」
パパは僕の手の中にあるお菓子の箱をまじまじと見つめた。
変なものを選んだつもりはないけどなあ。
「M&Mを箱ごと持ってくるなんて豪快な子だね。昔ハーレムも同じことをしていたよ。コタローに敬意を表してパパ似は撤回して、ハーレム似にしてあげよう」
「そんなわけのわからない敬意はいらないよ。パパに似てる方が幾分かマシに思えるからパパ似でいいよ」
「節々に引っかかるところがあったけど、まあいいよ。お菓子はみんなで分けなさいね」
「えぇぇぇえ!? 僕のなのに! 僕が買ってもらったのに!」
「だめー。グンちゃんやキンちゃんとわけっこしなさい。みんなで食べると、もっとおいしいから、ね?」
老人がウィンクしたってかわいくないよ。
そういうのは、僕みたいな美少年がやってこそ、サマになるんだから。
「…はぁ~い」
しぶしぶ返事をすると、いいこいいこと頭をなでられた。
「もう、子ども扱いしないでよ」
「お前はまだ子供じゃない。ほら、おうちに帰るよ」
荷物は二つ。両方ともパパが持った。
だから、パパの両手には、何かが入り込む隙間はないわけで。
言いたかったことも、言えなくなってしまう。
「片方は僕が持つ」
「そう? …じゃあ、こっちを持って」
僕のお菓子が入った袋。他にネギとかが入っている。箱ごと買ったM&Mががさがさと音を立てていた。
早くおうちに帰ってわけっこしよう。
「はい」
すっ、と差し出された手。
「手、つないで帰ろう」
それは僕が言いたかったこと。
言い出せなかったこと。
この人にはわかっているのだろうか。僕がしてほしいこと、したいこと。
全部、お見通しなのかもしれない。
だってさ。どんなに否定したって僕はまだ子供だから。守ってくれる手がほしい。
「…ん」
ひんやりとした手は、ごつごつとして大きかった。
「コタローの手はあったかいねぇ」
熱さと冷たさが混じりあい、その部分が溶けていくような感じがする。
パパと僕の、境界線が消えていく。
「パパの手が冷たすぎるんだよ」
右手にはビニール袋。左手にはパパの大きな手。パパの右手は僕が占領した。今だけは僕のもの。
今だけは、お兄ちゃんのことを忘れてよ。
「シンちゃんともこんな風に歩いたっけなぁ。20年近く前だよ」
やっぱりパパは、お兄ちゃんのことが大好きなんだ。
僕と二人でいる時でさえ、お兄ちゃんの話題ばかり。
パパの頭の中はお兄ちゃんでいっぱい。
僕のことだけを考えてはくれないの?
「だけどシンちゃんはやんちゃだったから、すぐに私の手を振り解いて、どこかへ行ってしまうんだ」
夕日に照らされたパパの顔は、少し寂しそうだった。
「でもお前は違うね。こうして私の手を握っていてくれる」
ほら、とつないだ手を揺らす。
「ありがとう」
お前は私から逃げないでいてくれる。
あの子と違ってお前は私に真っ向から立ち向かってきて、力の限り抗う。
「お前だけが、本当の私を見ているのかもしれないね」
秋の風が僕達の間を駆け抜けた。
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vsマジックならシンタローは逃げ、コタローは立ち向かっていくと思うのです。
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