キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にworks部屋に移動しました。
ここにいて
ふと本から目線を上げると、珍しくソファでうとうとしている金髪の従兄弟が目に入った。
時計を見ると、夜の12時を回っている。
いつの間にか話の展開に夢中になってしまったらしい。
最近小説など読む時間もめっきり減ってしまっていたが、この間偶然本屋で手に取った短編集がおもしろかったので、同じ作家の長編を買い部屋に帰ってくると早速読んでいたのだった。
3分の1くらい読んだところで、キンタローがやってきた。
今日は研究会に行って遅くなるはずだったが、どうやら会の後にいつも開かれている飲み会は辞退して帰ってきたらしかった。
シンタローは彼が帰って来たのなら続きは後にしようと思って栞を挟んだが、キンタローは自分も読まなくてはいけない本があるから、と言ってそれを制した。
どうやら研究会で次回使う論文を読まなくてはならないらしく、それならと2人で読書の時間となったのだったが。
疲れてしまったのだろう。
手からたくさん付箋がついた論文集が滑り落ちてしまいそうになっている。
そっとその手から論文集を取ると、今まで開いていたところにペンを挟んでテーブルの上に置いてやった。
しかし、ソファに座ったまま寝ていると疲れがとれない。
明日も仕事があるし、ベッドに連れて行った方がいいだろうと思ったが、同じ背格好の大の男を起こさないように抱え上げるのは至難の業だった。
仕方なく起こそうとして覗き込むが、その安らかで端正な寝顔にしばらく見入ってしまった。
始めて会った時は長かった金色の髪は耳の下の辺りまで切ってしまったが、俯いていたたため長く残された前髪が顔の上半分を覆ってしまっていた。
そっと髪をかき上げると、父親のルーザー似というよりは伯父のマジック似の凛々しい、形のいい眉毛が現れる。
いつもは気難しそうに寄せられているそれも、今は穏やかだった。
閉じられたまぶたを飾る睫は金色で、自分のものよりもかなり長い。
唇は自分のと似ている、とシンタローは思った。
あまり間近でじっくりと顔を眺める機会などなかったな、と思いつつ、ふと、自分にはやっぱり似ていないな、と思う。
時折、息があまりにも合うためか、考え方が似ている部分があるのか、雰囲気なのかわからないが、双子のようだと称されることがある。
確かに、24年間も一緒の体に入っていたんだからそういうこともあるかもしれない。
でも、姿形はやっぱりグンマやマジックの方がよっぽど似ている。
(オレが本当に一族の人間だったら、こんな顔だったんだろうか)
不意に、普段極力考えないようにしている暗い思いに囚われそうになり、大きく頭を振った。
今更考えても仕方の無いことを、時々考えそうになる。
その度に自己嫌悪に陥り、闇色をした何かに押し潰されるような、誰にも言えない不安と恐怖に苛まれる。
幼い頃から、父親や一族の人間とは明らかに違う髪の色、瞳、顔立ちに劣等感を持っていた。
本当はマジックの血を引いていないのではないかとか、引いているとしても一族の人間として出来損ないだ、と皆が言っているような気がして。
周囲の視線が痛くて。
マジックは黒髪も黒い瞳も、この肌の色もこの顔も好きだ、母親譲りだ、と言い続けてくれたけど、実はその全てが、自分のものではなかった。
母親も何も関係がない、赤の番人ジャンそっくりに作られたのだという、残酷な事実。
そして、青の番人の「影」という、無慈悲な創造主の思惑から作り出された目くらまし。
人はオンリーワンだから大切なのだという言葉がある。
でも、自分にとっては全く慰めにも何にもならない言葉だった。
急に動悸がすることに気づいて、シンタローは思わず胸を抑えた。
まずい。
冷や汗が出て、呼吸さえするのが苦しくなって、口を押さえてわめきちらしたいような気持ちを抑える。
キンタローの髪から手を外し、しゃがみこんだまま床に手をついた。
そうしないと、脚ががくがくと震えて尻餅をついてしまいそうだった。
やめろ。
キンタローが起きちまうだろ。
そしたらきっとキンタローのことだからどうした、って聞いて慰めようとしてくるだろ。
今は、だめだ。
それだけは。
目を思い切り瞑って、その発作のような動悸をやり過ごそうとする。
もし、とか考えるな。
もっと前向きに、これからのことを考えればいい。
もっと考えるべきことはたくさんある。
しかし、どくり、どくりと心臓は痛いほど跳ねて、まるで自分のものではないかのようだった。
ジャンの心臓が、抵抗してるのか?
オレが、青の番人の・・・影だから?
オレは、オレは、また、いつか、この体から出て行かなくてはいけないのか・・・?
そしてまた、別の体に宿って、他人の人生を奪うのか?
それならいっそ、シンタローという魂が消えてしまえば・・・、未来永劫、罪悪感に苦しまなくて済むのかもしれない・・・。
「・・・シンタロー・・・!!?」
切羽詰った声が、頭上から聞こえた。
顔を上げるのもつらくて、口を押さえたまま下を向いていると、キンタローが飛び起きて片膝をついて覗き込んだ。
「どうした!具合でも悪いのか!?」
心の底から心配そうにキンタローが震える肩を抱いた。
「立てるか?」
胸の痛みと息苦しさに全く返事が出来ないでいると、キンタローは「少し我慢してくれ」と言い、脇と膝裏に腕をいれシンタローの体を抱き上げた。
そのまま大股で寝室に運ぶと、ゆっくりとベッドに横たえた。
「医者を呼んでくるか?」
毛布をかけながら、キンタローが伺う。
シンタローは、ゆっくりと首を横に振った。
「―」
かすれて、よく声が出ない。
ちゃんと発声したつもりなのに、きちんと言葉になっていないようだった。
キンタローが長身を屈めて、口元に耳を寄せてくれた。
もう一度言うと、キンタローは「わかった」と安心させるように微笑んだ。
キンタローは自分のハンカチを取り出して、額や首の汗を拭いてくれた。
思わずその手をとって少し引き寄せると、わずかに頷いてシンタローの脇に添い寝してくれた。
子どもの頃はマジックが遠征に行って家にいなかったのが寂しくて、家にいるときはよく一緒に寝てくれとせがんでいた。
また怖い夢を見て一人で眠れないときは、マジックのベッドに行って一緒に寝てもらっていた。
その記憶がぼんやりとあるキンタローは、きっと従兄弟は眠るまで側にいて欲しいのだとすぐに察した。
キンタローはまるで親が子どもにするように、シンタローをそっと腕の中に包んだ。
そして背中をゆっくりとさすってくれた。
その温かさが心地よくて、暴れていた心臓は徐々に落ち着きを取り戻していく。
呼吸も落ち着き、青ざめていた頬にも血の気が戻るのが分かった。
「悪ィ・・・」
上目遣いに失態を詫びるが、その声は自分が思っていたより弱々しかった。
キンタローは心配そうに見つめたが、やがてシンタローの額に唇を落とした。
まるで彼の唇が触れた場所からシンタローを労わる気持ちが伝わってくるようだった。
「シンタロー・・・。愛している」
唇を離すと、まっすぐに目を見つめて言ったキンタローの言葉が、緩むのをこらえていた涙腺を溶かした。
ガキだな、オレは。
まるで、言って欲しかったみたいじゃねぇか。
自分の浅ましさにまた自己嫌悪に陥りそうになったが、溢れる涙を止めることはできなかった。
「愛してる」
表向きは科学者らしい合理的な性格をしているはずの彼が、愛という言葉を囁く時の、なんと情熱的なことか。
その熱さが、冷たい心の闇を溶かすかもしれない。
もう1人で、抱え込むな。
耳元で囁かれた言葉が胸に染みて、シンタローは子どものように声を上げて泣いた。
end
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PR
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家政夫vs主夫
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「はぁ……」
ヤンキー、もといリキッドは、何度目になるとも知れない深いため息をついた。
声をかけんのも面倒で、放っといているが……。
はっきり言ってウザェ。
コイツはいつもこんなだ。
ため息ついたり、明後日の方向見ながらボーっとしてたり……。
五月病か?
んで、決まっていつも、何か言おうとして何も言わない。
大概、俺がそれにイラついて、ド突いて終わり。
そんなんの繰り返しで、絶対言いやがらねぇ。
意外と頑固だな。ヤンキーめ。
まぁ俺だって、いつもいつも怒鳴りっぱなしなわけじゃない。
わけじゃないが……。
……次やったら言う。
握った拳のおまけ付きで。
いい加減学習やがれ。
五月病なら他所でやれ。
「やっぱ敵いませんね。シンタローさんには」
いきなりなんだと思った。
ああ? 敵わねぇ?
当ったり前だろ。てめぇが俺の相手になるはずねぇ。
「結構、自信あったんですけど……」
何のだ?
とは聞かない。
思い当たる事は山ほどある。
家事とか、力とか、顔とか?
まぁそんなとこだろ。
しかしよ、困ったように笑って言うその顔、無性に腹が立つ。
俺を負かそうなんざ十年は早ぇ。
だが、はなっから諦めてるヤツはムカツク。
怒りを込めて頭上に手刀を落としてやった。
拳骨じゃないだけありがたいと思え。
「いてェ!」
「ばぁーか」
敵わないと思ってる時点でてめぇは負けてんだ。
「そんなじゃ一生俺にゃ勝てねぇな」
顔はどうしようもないがな。
「え、いや、勝つって言うか……」
語尾がどんどん小さくなるにつれ、顔が俯いていく。
だぁー、ったくもぅ、面倒くせぇな。
完全に下を向いて、見えてきた後頭部に、軽く手をのせる。
「いつでも相手になってやるぜ?」
うわ、俺って優しい。
「っ……!」
ぱっと顔を上げたそいつは、何故か妙に嬉しそうで、半歩ほど引いた。
何か嬉しくなるような事言ったか? 俺は。
「やっぱ敵わないです。ホント」
緩んだ顔でそう言って、笑う。
「ああ? どういう意味だよ?」
「何でもないっス!」
そのまま夕飯の準備を始めたそいつに、それ以上追求する事は出来なかった。
いや、しても良かったんだが。
……まぁ、言っちまえばもうどうでも良かったと言うか、面倒だったと言うか……。
とにかくそれで終了。
全く、ヤンキー思考は理解できねぇ。
END
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後書き
お題其の弐
色んな意味で、勝てないなっていうこと。
シンちゃん、気付いてやって!可哀相!
2004(April)
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俺様
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自分勝手かというと、そうでもない。
たまに優しい顔するし、気付けば他人を思いやっていることも多い。
けれど。
「ぁん?何ガンくれてんだ、ヤンキー」
「い、いいえ!何でもないっス!」
何と言うか、やっぱり『俺様』。
絶対、誰にも屈したりしなさそうだよな。
その辺確実に隊長血筋が窺えるよ。
というか、隊長といい、この人といい、コタローといい……。
青の一族はこんなんばっかですか?
はた迷惑だよな……主に俺みたいな下っ端に。
……別に嫌いとかじゃないんだけど。
むしろ――――。
いや、止めとこう。
「おい、パプワ、何してんだあのヤンキーは」
「はっはっは、気にするな!いつもの如くトリップだ!」
「……さいですか」
……何か色々言われてるし。
誰がトリップしとるか!
全くこの無敵で不敵なちみっこめ!
これ以上俺のイメージ崩さないで……!
(最初から最悪です)
「胞子は程々にしとけよ?」
してません。
誰のこと考えてるかとか分かってほしいもんです。
テレパシーとかさぁ……。
伝われ~、伝われ~。
「ん……?」
「どうした? シンタロー?」
「いや何か嫌な気配が……アラシヤマか?」
……違います。
ぐっ、もどかしい!
言わない限り気付いてくれないんでしょうね。
だってまあ、普通そんな風に見られてるなんて思わない。
もっと話し掛けて欲しい。
もっと触れたい。
もっと……。
ああ、おかしくなりそう。
「……おいリキッド」
「え、あ、はい?!」
ビックリしたぁ……。
いきなり後ろに立つの止めてくださいっ。
「てめぇ、なんか言いたいことあんのか? さっきからよぉ」
「え? 何でもないですって!」
「人にずっとガン飛ばしといて、何でもないたぁ、いい度胸だなぁオイ!」
「え、えぇっ?!!」
そんな度胸ないですって!
……とか言う前に拳骨が降ってきました……。
痛った……舌噛んだ……。
いや、ホント、見てただけなんだけど……。
そりゃ不純な想いはこもってましたけど。
やっぱ『俺様』だ。この人は。
……ああ、もぅ。
そんなあなたに、想いを抱くのは無謀でしょうか?
END
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後書き
お題その一。乙女回帰してるよ。
無謀にも挑戦開始。
ドキドキします!
どういう順に順番に消化していこうか…?
2004(April)
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キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にはworks部屋に移動しました。
不法侵入者 1
遠征中の予定が早まって、思っていたよりも早く団に帰ることになることはままある。
一ヶ月は不在かと思われた新総帥の部屋は、予定より2週間も早く主を迎えた。
「それにしても今回は早く帰れて良かったよな~」
私服に着替えたシンタローは、冷蔵庫から冷えた白ワインを取り出しながら相棒に話しかける。
「そうだな。あの政治家の影の説得工作が効を奏した。おそらく次のリーダーになるだろう」
キンタローも従兄弟が用意したカナッペをテーブルに運びながら応えた。
まだ陽も完全には落ちていない夕方ではあったが、夕食までまだ時間があったため、2人で早々に飲み始めてしまおうというものだった。
シンタローがワイングラスに2人分のワインを注ぐと、小さな2人だけの酒宴の準備ができた。
「とりあえず無事帰って来れて良かった。乾杯だな」
「ああ」
キィン、とまるで金属のような高い音が部屋に響き渡った。
すっかり暗くなった頃には、ワインの空き瓶が2つもテーブルの下に並べられていた。
キンタローはグラスを置いてソファに凭れ掛かると、L字型ソファの斜め向かいに座る従兄弟を見遣る。
あまり酒に強くはないシンタローは、同じく深く腰掛けて頬を赤く染めている。
「3本空けちまったな…」
そう言って残念そうに3本目の緑色の瓶を光に透かして、揺らしてみている。
そんな他愛もない仕草が可愛らしい。
普段から大所帯に囲まれて暮していると、こうして2人だけになった時間というのは貴重に感じる。
仕事で外出すれば側近やSPがついてくるし、プライベートでも一族や高松らがなんやかやとシンタローやキンタローに構ってくる。
しかしどうやら今日は2人が予定より早く帰ってきたこともあってか、マジックはまだ帰ってきておらず、プライベートスペースは非常に静かだった。
「あー眠ぃ・・・」
シンタローは半分落ちかけた目をこすった。
しかし、今従兄弟に眠られると千載一遇のチャンスを逃すかもしれない。
キンタローは、立ち上がると彼の側に寄った。
「シンタロー・・・」
「・・・ん?」
天井を向いていたシンタローは、少し落ちた瞼でキンタローの方を見た。
あくびをかみ殺していたのか、黒い瞳が潤んで揺れていた。
その様子が可愛らしくて思わず笑みが出る。
隣に座り、おろした長い黒髪を撫でる。
まっすぐにその瞳を見つめると、こちらの意図をようやく察したのか、彼は戸惑ったように視線を下に逸らした。
恥ずかしがっているのだろうか。
強がりで尊大な従兄弟が頬を染めてうつむいている様子は普段の彼からは想像もつかない。
そっと手を頬に添えると、やっと赤い顔をあげた。
ゆっくりと、お互いの唇の距離が無くなっていく。
とうとう、触れるか、というその時。
ガチャン!!
2人の背後で盛大な物音がした。
「誰だ!!」
びくりとして一斉に振り向くと、あろうことかシンタローの部屋の自動扉が閉まりかけるところだった。
誰かが、慌てたように逃げていく影。
ありえない。
ガンマ団総帥たるシンタローの部屋は、指紋認証でロックがかけられているため、在室している時は一族の人間ですら簡単に開けることはできないのである。
・・・まあ、一族、特にシンタローを異常なまでに溺愛している人物の対策にキンタローがつけたロックであるのだが。
実は公私とも相棒を自認しているキンタローの指紋も登録してあったが、それは2人とグンマしか知らなかった。
キンタローが駆け寄ると、ドアのところになんと割れた酒瓶が落ちていた。
派手な物音の正体はこれらしい。
瓶に入っていたウィスキーらしき琥珀色の液体がカーペットに染みを作り、強いアルコール臭を放っている。
「ちっ。一体誰だ!?勝手に入ってきやがって・・・!」
キンタローは無言で、影が逃げた方へためらいもなく全速力で駆けていく。
シンタローも後に続いた。
T字になった廊下で一瞬立ち止まったキンタローに追いつくと、無言で二手に分かれた。
しばらくして、2人とも部屋に戻ってきた。
全く人影の行方がわからない。
しかも、なぜ酒瓶?
酒瓶で襲い掛かるつもりが、落としてしまって慌てて逃げたのだろうか。
間抜けなヤツだ。
キンタローはまず指紋認証ロックの制御板が故障していないかどうかを確認した。
一度閉めてシンタローに開けさせたが、特に故障している様子はなかった。
こじ開けられた様子もない。
次にキンタローはタオルを手に巻いて慎重にビンの欠片を集めると、指紋をとるためにそれらをとっておくことにした。
「何たることだ・・・オレの作ったセキュリティが万全ではないということだな。とにかく、SPとハウスキーパーに連絡を」
キンタローは掃除をさせるべく連絡をとった。
ハウスキーパーとSPはすぐやってきて、こぼれたウィスキーの処理をし始めた。
「彼らに捜索を手伝ってもらうだろう?」
駆けつけたSPを指しながらキンタローが尋ねるが、先ほどから無言だったシンタローは何やら考え込んでいるようだった。
何かアイデアがある時の顔だな、とキンタローは思い、その顔が正面を向くのを待った。
ゆっくりと、シンタローは顔を上げ、こう告げた。
「オレらの他に、オレの部屋に入れる可能性のあるヤツが一人だけいる」
「何・・・?誰だ、グンマか?」
「いや、グンマとオレの指紋は違うだろ?」
指紋が違う、と言われて、キンタローはあまり思い出したくない1人の人物が頭に浮かんだ。
「…ジャンか…!」
シンタローは眉をしかめ、いかにも不愉快だと言いたげな表情で頷いた。
そう。
認めたくない事実ではあるが、シンタローは今、赤の番人ジャンのものだった体を使っている。
パプワ島でシンタローに体を明け渡し、精神体になったジャンは新しい体を赤の秘石からもらったはずであるが、オリジナルの肉体と全く同じ肉体を所有している可能性は高い。
全く故障している様子のない右指の指紋認証のロックが外せるとしたら、指紋が同じ人物 ― つまり、ジャンくらいしか考えられないのだ。
「ちっ。とりあえず、ヤツを探そう。とっちめてやる」
シンタローがとんでもないところを見られたのという羞恥に真っ赤になりながら怒る。
頷くと、ジャンがいるはずである研究棟に電話をかけた。
「ああ、キンタローだ。ジャンはいるか?」
若い研究員が出たが、ジャンはいないと言う。
どうやら、誰かに呼ばれて1時間ほど前に研究棟を出て行ったが行き先はわからないという。
「そうか。わかった。もし戻ってきたら連絡をくれ」
シンタローは不機嫌そうに眉根を寄せ、とにかく電話をかけまくれ、と言った。
しかし高松にはシンタローがかけた。
キンタローがかけるとメロメロになってしまい、しかも話を引き伸ばそうとするのでうっとうしかったから。
案の上「知りませんよ」とそっけない。
同時にキンタローがグンマにかけてみると、ジャンを先ほど一族のプライベートスペースで見たという。
「どこで見たんだ?」
と聞くと、ハーレムの部屋の近くだという。
「うし。とりあえずハーレムの部屋に行ってみよう」
SPらに指示を出し、2人でハーレムの部屋に向かうことにする。
飛行船で暮らしていることが多いので滅多に戻ってこないハーレムの部屋は、1つ下の階にあった。
しかし任務で今はある国に行っている筈で、予定では部屋の主はいないはずであった。
部屋の前に立つと、いるかどうかはわからなかったがとりあえずインターフォンのボタンを押す。
すると、無人だと思っていた室内から人の声がした。
「・・・あん?」
内側からドアが開くと、まずあふれ出してきたのはものすごい酒の匂い。
さっきまで2人も酒を飲んでいたので鼻が利かなくなっているはずなのに、それでもわかるほどの酒の匂いだった。
「ハーレム叔父貴」
1人であれだけの量を飲んだのだろうか?
日本酒、ウィスキー、ブランデー、ビールなど様々な空瓶がテーブルや床に散乱していた。
キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にworks部屋に移動しました。
不法侵入者 2
「あんだよ、2人揃って」
硬い金の髪を奔放に伸ばしたハーレムは、ドアの側面に寄りかかってぼりぼりと頭を掻いた。
「いや、ハーレム、団に戻ってたんだな」
シンタローは口を開くとこの叔父とケンカばかりするため、キンタローが淡々と尋ねる。
「ああ。さっさと仕事終わらせて帰ってきた。おめーらもずいぶん早かったじゃねーか」
だるそうに言う叔父の息は酒臭い。
「ああ。全て順調に行った。・・・ところで、この近くでジャンを見なかったか?もしかしたら一緒にいるんではないかと思ったんだが」
キンタローが静かに尋ねると、ハーレムの片眉が跳ね上がった。
「あいつなら、逃げてったぜ」
「逃げた?」
ニヤリと笑う叔父。
シンタローはこの笑みを見るとムカツク、と言っていた。
「ああ。酒持って歩いてたからよお、一緒に飲むべって言ったんだけど、逃げたんだよ、アイツ。だから追いかけた」
「・・・」
「でも、上の階で見失っちまって」
金の髪と黒の髪の従兄弟同士は、顔を見合わせた。
つまるところ、こういう推測が成り立つ。
何らかの事情でウィスキーを抱えて一族のプライベートスペースを歩いていたジャンが、不運にもハーレムに見つかって酒目当てで追い回された。
そこで、機転を利かせて隠れるつもりで無人だと思っていたシンタローの部屋に入った。
しかし、予定外に早く帰ってきた2人がいた(しかも取り込み中だった)ため、慌てて逃げた。
・・・ということだろうか。
「どうする・・・?」
「ジャンのやろー。やっぱりむかつくからとっちめる」
シンタローは見られたというショックを再び思い起こしたのか、膨れっ面で唸った。
先ほど探してもいなかったのだから、すぐ見つかるだろうか。
せっかくマジックもいないのに、このままジャンの捜索に時間をかけていては、2人の時間が短くなってしまう。
「とりあえず今晩はロックの設定を変えて、アナログな物理鍵を使うという方法はどうだ?」
「オレは今すぐアイツを一発殴って記憶を消したいんだが」
「ジャンだっておそらく悪気があったわけではないだろう。とりあえず、ジャンを見たら通報するように通達を出しておけばいい」
優しいのか優しくないのかわからない提案をすると、しばらくむっとしていたシンタローも渋々頷いた。
「そうだよな。逃げられるわけないし・・・」
そんなやりとりをしながらシンタローの部屋に向かっていると、件の人物が、所在無げにドアの前に佇んでいるのが見えた。
「ジャン・・・!てめー!勝手に人の部屋入ったな!!」
「うわ!シンタロー!やめろその構え!!」
シンタローが眼魔砲の構えを取り出したので、ジャンは泣きそうな顔で慌てて降参のしるしに両手を上げた。
面差しが似通っている ― いや、全く同じ顔の2人が対峙しているのは奇妙な光景だった。
「悪かったよ!謝りに来たんだ。ハーレムがあのウィスキーをとりあげようとしたから・・・。慌てて逃げ込もうと思ったんだ。一度閉まったら、ハーレムだって中に入れないだろ?」
2人が推測した通りの理由だった。
「それでオレたちがいたものだから、驚いて落としたのか」
キンタローが静かに尋ねると、ジャンは2人の顔色を伺いながら頷いた。
「いないと思ってたから・・・。すまん。本当に悪かった。もう二度と勝手に入ったりしない」
ジャンは本当に申し訳なさそうに謝罪した。
それがまるで若い頃のシンタローを見ているようで、キンタローはなんとなくそれ以上責める気になれなかった。
「もうお前が入れないようにロックのシステムを変更する」
感情を押し殺して淡々と告げると、ジャンはバツが悪そうな顔をした。
「・・・それに見たことは誰にも言わない」
言いにくそうに付け加えた黒髪の男に、
「あ、あれはだなっ!!目にゴミが入ったからキンタローに見てもらってただけだ!!」
シンタローが真っ赤になりながら吠えた。
思わず従兄弟を見る。
目を閉じながら目の中のゴミを見ることなど不可能なのだが、いつも正直に思ったことを話すと怒られるので、口を挟むのは差し控える。
ジャンは、困ったような顔つきになった。
「だいたいよー。てめえ、なんでこんなトコいるんだよ」
シンタローは不機嫌も露に、ジャンが一族のプライベートスペースにいたことを詰問する。
腕組みをした彼は、返答次第では本気で殴るかもしれなかった。
「いやあ・・・。実は、サービスが一緒に飲もうって言ってくれたから・・・。一番いいウィスキーを買って持ってきたんだ」
「え・・・!?サービス叔父さん、帰ってきてるのか?」
シンタローの顔が、サービス、という言葉に一転して輝きだした。
放浪癖のある敬愛する叔父が、家に戻ってきているなんて。
「お前たち、予定より早く帰ってきたから知らなかったんだよな。2日前にふらっと帰ってきたんだよ」
さっきまでの不機嫌はどこへやら。
シンタローはサービスに会わせろ、とジャンを急かし始めた。
キンタローは額に手をあてて嘆息する。
この様子では、シンタローはサービスに会いに行って一緒に飲もうと誘われるかも知れない。
せっかくの2人の時間が、不法侵入者によって奪い取られてしまった。
キンタローは2人の後をついて行きながら、どうやってこの不法侵入者に仕返しをしようかと考えていた。
end
1へ
キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にworks部屋に移動しました。
ボクの大好きな従兄弟たち 1
「えっ!ボクも一緒に行ってもいいの?」
グンマがあまりにも驚いた顔をするので、シンタローは返って驚いて呆れてしまった。
「なんで?グンマも温泉行きたいって言ってたじゃん」
帰宅したばかりで総帥服のままたったシンタローは、ポケットに手を突っ込んだまま少し首を傾げて不思議そうにしている。
シンタローはキンタローと昼間話していたときに、偶然温泉の話になった。
キンタローが日本の温泉宿に是非行ってみたいというので、3人でじゃあ行こうという話になり、帰宅してすぐグンマに提案したのであるが。
グンマはぽかーんと口まで開けて驚いている。
一緒に帰ってきたキンタローもグンマが驚いたことが意外だったようだが、黙って2人のやり取りを聞いていた。
「ううん。すっごく嬉しい!3人で温泉~!やった!」
しかしすぐにグンマは従兄弟同士3人で日本の景勝地にある温泉宿に行ける喜びが全身を支配したようだった。
わーいわーいと言って、まるで子供のようにぴょんぴょん飛び跳ねている。
「そこまで喜ぶことかよ・・・」
と、シンタローはわが従兄弟ながら子どもっぽい、と呆れ顔だ。
いつもは気難しそうな表情のキンタローも思わず笑みをこぼした。
***************
2週間後。
日本支部に寄る用事があったシンタローは、2人の従兄弟を伴って海辺に面した景勝地の高級温泉宿に休暇を過ごしに出かけた。
父親のマジックは別の用事で本部を離れるわけにはいかなかったので、若い従兄弟3人組だけの旅行となった。
と言っても運転手や側近は護衛のためついてきたが、部屋は部下と別々なのでプライベート旅行と言っても良いだろう。
「わあ、広ーい!」
女将に案内されて入った和室は、2間続きのかなり広い部屋だった。
窓の外には、なんと広大な美しい太平洋に向かって開放された露天風呂があった。
「うわ、ホントに開放的な風呂!気持ちよさそう~」グンマと共に一足先に入ったシンタローが、早速ベランダのように張り出した部屋つきの貸切露天風呂を見て興奮している。
2人のはしゃいだ様子に呆れつつも、部屋に入ろうとしてごち、と鴨居に頭をぶつけたキンタローは、自分と同じくらいの背丈のシンタローが無意識にかがんで入ったことを思い出して1人こっそり苦笑した。
さすがに女将が風呂や食事の時間などの説明をし始めると、2人とも露天風呂から戻ってきてきちんと話を聞いた。
「ありがとう。3日間よろしく」
シンタローが最高の笑顔で礼を言うと、長身の彼を見上げていた女将の頬がこころなしか赤くなった。
女将は最初に玄関まで迎えの挨拶に来た時、あまりにも見目の良すぎる3人組に見とれていたが、他の従業員の目が硬直したように3人に釘付けになっているのに気づき、すぐ気丈にも立ち直って賓客の案内をし始めたのだった。
(さすがシンちゃんだよね~。女将さんも目がハートになってる)
グンマはそんなかっこいい従兄弟たちが誇らしくて、内心うれしかった。
頬を染めた女将が部屋を去ると、「さっそく風呂入ろうかな~」と脱ぎ始めているシンタロー。
グンマはまだ着いたばかりなのにシンタローが本当に脱ごうとしているのに驚く。
「えっもう入るの??」
慌ててキンタローを見遣ると、彼もシャツのボタンを外しにかかっている。
「何回でも入る!夜は大浴場にも行く!」
シンタローは押入れから浴衣とタオルを取ると、キンタローにも渡した。
2人が入るなら自分も、と思いグンマもすぐ脱いだ。
正直言ってグンマは裸体を見られるのが恥ずかしかったが、2人は平然としている。
男同士だし、従兄弟同士だからだろうか。
外に出ると、秋口のため少しひんやりした。
思わず自分の体を抱きしめてしまう。
海から来る風が潮のにおいを運んでくる。
「うわー気持ちいい・・・」
シンタローが海に向かって伸びをしていた。
キンタローもやってくると、竹で出来たベンチに浴衣などを置いて先に湯に入った。
グンマも大の男3人、それもそのうち2人が190cm超だが余裕で入ることができる、部屋つきの風呂にしてはかなり大きな石の露天風呂に身を沈めると、その温かな湯に押し出されるようにふうーっと深いため息が出た。
シンタローは器用に長い髪をくるりとアップにすると海に近いほうに入り、へりに腕を上げて海を眺めていた。
太平洋は秋の陽の光を受けて穏やかな銀色に輝いていた。
空は秋らしくどこまでも高く、時折薄いうろこ状の雲が見えるくらいで、とても澄んでいた。
キンタローはシンタローの側に近づくと、海を見ながら温泉なんて不思議だな、と話しかけていた。
そうだよなー。すげえ気持ちいい。
シンタローも楽しそうに応えている。
確かに、潮騒を聞きながら掛け流しの源泉100%の風呂に入ることが出来るなんて、贅沢で気持ち良いことこの上がない。
シンタローとキンタローの広い背中を見ながら、グンマは2人についてきて本当に良かったと思う。
実はグンマは旅行を提案されたとき、温泉旅行なんてシンタローとキンタローの2人だけで行きたいのではないかと思ったので、自分を誘ってくれたことが意外で意外で仕方がなかった。
2人の従兄弟は、どうやらお互いに特別な感情を持っているらしかったから。
始めはあんなにキンタローがシンタローに噛み付いていたのに、徐々に競うように総帥と科学者として伸びていったからなのか、お互いをよきライバル、そしてお互いの能力を認め合い肩を預ける間柄になっていた。
また、2人がどこまで行っているかは不明だったが、非常に親密な関係になっていることにグンマも気づいていた。
2人はグンマには気づかれていないと思っているかもしれないが―。
しばらくすると、グンマは自分の白い肌がもうすっかり赤くなってしまっているのに気がついた。
普段湯船につかったりしないので、あまり長く入るのは得意ではないし、それに―。
「ボク、のぼせそうだから先に上がるね。少し涼みにお庭の散歩に行ってくる」
「おう」
シンタローもわずかに上気していたが、にっと笑ってグンマが部屋に入るのを見送った。
グンマは浴衣の帯を結びながら露天風呂に続く窓を振り返ると、相変わらず湯につかりながら海を眺めている2人がいた。
(こういうときは2人にしてあげたほうがいいよね)
羽織を纏い部屋を出ると、旅館を探検しながら、庭園を歩いた。
旅館は海の反対側には山が迫っており、頂上の方は赤く色づきはじめていた。
雲を頂いた雄大な美しい山々に囲まれ、海も眺めることができるこの旅館は最高の立地だった。
庭の池には無数の美しい錦鯉が優雅に泳いでおり、見たこともないような大きさの鯉もいた。
眺めていたら、着物をきた従業員の男性が鯉の餌をくれたので、礼を言って餌をまくと、黒い鯉がまっさきに飛んできてぱくりと大きな口で餌を食べた。
池のそばに茶屋風の和菓子を出してくれるところがあったので、しばらく座って抹茶と和菓子と鯉を楽しんだ。
キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にはworks部屋に移動しました。
ボクの大好きな従兄弟たち 2
陽も傾いてきたので部屋に戻ると、もう少しすると夕食が運ばれてくるということだった。
2人とも湯上りにふさわしく浴衣と羽織姿で、シンタローは軽くアップにした黒髪の後れ毛が少し色っぽかった。
2人の様子をそれとなく伺うと、何も変わった様子はない。
ちょっとがっかりしたグンマは、ドアのノックの音に気を取り直した。
何人かの仲居が、次々と豪華な料理を運んできた。
大きなテーブルいっぱいに料理が置かれ、また中央には巨大な鯛の上に色とりどりの刺身が載った船盛が置かれる。
シンタローが皆の分ビールを注ぐと、「乾杯!」と言って杯を掲げた。
夕食はもう豪勢で素晴らしかった。
近海で獲れたという新鮮な海の幸や、山も近いこともあって豊富な山の幸が素材の味を殺すことなく調理され、美しく盛り付けられていた。
シンタローとキンタローは、一杯目のビールが終わると、すぐ冷酒の徳利を傾け始めた。
グンマは日本酒は得意ではなかったので、ビールをおかわりした。
「おいしいね~」
グンマは頬を真っ赤にしながら、にこにこと笑う。
シンタローとグンマが馬鹿話をしたり、キンタローをシンタローがからかってやり返されたり。
キンタローがグンマの発明をほめると、シンタローがデザインを笑ってグンマが怒る。
酒の勢いもあって笑いが止まらない。
グンマはだいぶ酔ってきて、なんだか自分が昼間2人に気を遣っていたのがばかばかしくなってきた。
こうしてグンマだけが気を遣っているのは不公平ではないか。
2人が関係をおおっぴらにしてくれれば、こちらだって態度のとり方を決めることが出来る。
2人を観察しているのも、疲れたし、もどかしい。
キンタローもシンタローも、だいぶ酒を飲んでいて特にシンタローは頬を朱に染めている。
キンタローはもともと酒が強いこともあって、あまり顔には表れないがそれでもいつもより饒舌だった。
皆酔ってるし、まあいいか、と意を決すると、「ねえ」と2人に声をかける。
「ん?」
と同時に振り返ったシンタローとキンタロー。
いつも息がぴったりだ。
「シンちゃんとキンちゃんってつきあってるの?」
できるだけ可愛らしく、聞いてみた。
「はあ!?」
あからさまに真っ赤になって、怒ったようにわめき出したのはシンタローだった。
キンタローはというと、頭が真っ白になったという感じで猪口を持ったまま硬直している。
「ん、なわけあるかっ!?なんでそうなるんだよっ!」
後れ毛を振り乱して、うなじまで真っ赤にして怒ったシンタローはグンマに手元にあったお絞りを投げつけた。
「ええっ違うの?だって仲良いから・・・」
お絞りが顔にもろにぶつかった。
グンマが意外そうに言うと、シンタローが膝立ちになってグンマをはたこうとしてきた。
「あーのーなあ!仕事で一緒にいるんだろうが!」
酔っているので手元が狂っているらしく、グンマでも簡単にその手を避けることができた。
まあまあ、とシンタローの猪口に酒を注ぎながら、グンマも微笑む。
「いいじゃん。ボクに隠さなくったってさー。ボク応援するよ?」
あくまでも聞き出そうと食い下がるグンマに、シンタローはぐいっと酒を飲んでから飛び掛った。
この、と技を掛けてこようとするシンタローに対し、きゃあきゃあとじゃれているようなグンマ。
まるで子どもの遊びだった。
しかし、今まで硬直していた男が、ここで立ち上がった。
「いや」
硬質で低音な声が静かに発せられると、ヘッドロックをかけていたシンタローとかけられていたグンマは声の主を振り返った。
ゆらりと、長身の金髪碧眼の男が近づいてくる。
ただならぬ雰囲気に2人が身を離すと、「どーしたんだ、キンタロー」と、シンタローが心配そうに見上げた。
キンタローがシンタローの話を否定した?
ということは、実は2人はつきあっている?
グンマの胸が高鳴る。
シンタローの側に立ち膝をしたキンタローが、何を言うのかと思ってグンマは固唾を呑んで見守った。
「オレはシンタローが好きだぞ」
「え・・・?」
シンタロー、グンマ、2人の声が重なる。
シンタローは信じられないといった放心した顔でキンタローを見上げている。
グンマは、驚きながらも、2人に気づかれないように少しづつ後ずさって距離をとった。
(そうか、まだ付き合ってはなかったんだな)
今まさにこの瞬間に立ち会ってしまったことに興奮を禁じえずにいると、キンタローがシンタローの頬に手を添えた。
そして。
キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にはworks部屋に移動しました。
ボクの大好きな従兄弟たち 3
(わーっ!!キンちゃん!大胆過ぎ!!)
グンマは思わず顔を両手で覆うが、つい指の間から2人の様子を見てしまう。
「ん・・・っ!や・・・」
シンタローは驚いて逃れようとするが、キンタローは彼の後頭部に手を回し、またしっかりと抱きしめてしまって離さない。
「ぁ・・・ふ」
しばらくして、抵抗が弱まり、漏れる吐息が甘いものとなっていく。
(う・・・。シンちゃん、色っぽい・・・)
頬や少しはだけた浴衣の隙から見える胸元が桜色に染まっている。
小さい頃から見てきた従兄弟なのに、どきどきしてしまう。
(キンちゃん、キス上手いからなあ・・・)
なんでそんなこと知ってるかって?
ナイショ。
ようやくキンタローはシンタローを離すと、黒い前髪をかきあげてやった。
シンタローはすぐに恥ずかしそうにキンタローを非難するような目をした。
「お前はオレをどう思っている?」
キンタローには、グンマのことはおよそ眼中にないかもしれない。
真っ直ぐにその青い目でシンタローの黒い目を見つめるキンタロー。
生真面目な性格の彼が、冗談を言っているようには思えなかった。
「お前、酔ってんのか・・・?」
シンタローが半信半疑といった顔で困惑しながら尋ねる。
キンタローは青い目を少し見開くと、髪をかきあげて静かにため息をついた。
「酔っていないと言えば嘘になる。相当量の酒を飲んで少し頭もボーっとする。・・・でも前からお前が好きなのは本当だ。酒の力を借りていると思ってくれても構わない」
シンタローはその答えに、ようやく頭のてっぺんまで茹蛸のように真っ赤になった。
「オ、オレは・・」
シンタローは戸惑ったようにうつむく。
グンマからは表情は良く見えなかったが、心臓がどきどきしつつもグンマはなるべく気配を消した。
自分のせいでこの雰囲気をぶち壊したくはない。
「オレも、お前のこと、好きなんだと・・・思う。今わかった」
(やったね!!)
グンマは心の中でガッツポーズを作った。
キンタローは、ふわりと笑った。
「オレはお前の全てを支えて生きて行きたい。オレの一生は、これからもお前に捧げる」
「・・・」
見つめ合う2人の視界には、恐らくグンマは入っていない。
キンタローはさらに続けた。
「お前と分離してよかったと思ってる。こうして、抱きしめることができる」
腰が抜けたようになっているシンタローを、キンタローは力強く抱きしめた。
「おめでとうっ!!シンちゃん!キンちゃん!超お似合い~」
グンマはいよいよ自分はどうしようかと思っていたが、下手に気まずい思いをさせるのは嫌だったので、わざと明るく振舞った。
「乾杯しようっ!」
ビールの栓を開けて、2人にグラスを持たせるとなみなみと注いでやる。
嬉しくて仕方がなかった。
「グ、グンマ・・・」
恥ずかしい場面を見られてしまったとシンタローは青くなったが、キンタローはいたって平然としていた。
「はい、かんぱーい!」
グンマもキンタローもぐいっとビールを飲んだが、シンタローは固まっていた。
「もう、シンちゃん!いいじゃん。ボクだって、大好きなシンちゃんをどこの馬の骨とも知らない男になんかあげられないんだから。その点、キンちゃんだったら文句無く合格!お嫁に行って良いよ。って言っても家変わらないけどネ~」
「なんでオレが嫁なんだ・・・」
シンタローはがっくりとうなだれた。
そしてグンマはいそいそとフロントに内線電話をかけると、
「あ、すみませーん。ボクいびきがうるさいから他の部屋に寝たいんだけど、いいですか?はいお願いします」
と勝手にもう一部屋とってしまった。
「おいグン・・・」
シンタローが驚くが、グンマはシンタローの肩を叩いて笑う。
「いーの。ボクお邪魔虫になりたくないし。・・・それに」
「・・・それに?」
シンタローがきょとんと首をかしげた。
「ボク、キンちゃんとシンちゃんと一緒に旅行に来れただけですごいうれしいからいいの。だから、その、シンちゃん、キンちゃん、これからも時々は誘ってね。絶対邪魔しないから」
にこっと笑ったグンマに、シンタローは照れくさそうに笑った。
「・・・・おぅ」
「ああ」
キンタローも笑った。
「2人とも大好きだよ~。じゃ、ボクもう寝るからね」
従業員の男性が来たので、しばしのお別れと祝福の意味をこめて、グンマは1人ずつに抱きついてキスする。
そして荷物を持ってもらって部屋を去っていった。
シンタローは急に静かになった部屋で、ぽりぽりと頭を掻いた。
「あー・・・、オレたちももう寝るか・・・?」
隣の部屋にもう布団は3組敷いてあった。
「そうだな。これだけ酔っていると大浴場に行くのは危ない。明日にしよう」
キンタローは食事を下げるようにフロントに電話をすると、襖を開けた。
すぐに仲居らが来て、綺麗に後片付けがされた。
シンタローは自分が寝るかと言い出したにも関わらず、窓辺の椅子に座って暗い海を眺めていた。
背もたれの後ろに立つと、かがんで項にキスをした。
「う・・・。止めろ。ヘンな気になる」
「オレとしては歓迎だが?」
いつもの気難しそうな顔とも、また、さっきまでグンマといたときの顔とも違う、艶のある表情にどきりとする。
(オレってキンタローのこと好きだったんだ・・・)
結局おとなしく布団に入ったキンタローに妙な警戒心を抱きながらも、シンタローは自分の気持ちを再確認してまた赤くなった。
実は時々、キンタローに見とれていた。
キンタローは男の自分から見てもかなりの美形で男前だと思うし、いつも紳士的に振舞っているが、スーツの下に隠れた抑えた狂暴性がスリリングだった。
自分の気持ちを知って、戸惑う。
しかし、決して嫌な気持ちではなかった。
とりあえず一個あけて寝ろ、と言うと、3つあった布団の真ん中をおとなしくあけて寝てくれた。
それが残念なような、安心したような。
不思議で複雑な思いを抱えつつ、シンタローは今夜はよく眠れそうに無かった。
end
2へ
KILL LOVE 記念SS *10月11日にworks部屋に移動しました。
ボクの大好きな従兄弟たち 1
「えっ!ボクも一緒に行ってもいいの?」
グンマがあまりにも驚いた顔をするので、シンタローは返って驚いて呆れてしまった。
「なんで?グンマも温泉行きたいって言ってたじゃん」
帰宅したばかりで総帥服のままたったシンタローは、ポケットに手を突っ込んだまま少し首を傾げて不思議そうにしている。
シンタローはキンタローと昼間話していたときに、偶然温泉の話になった。
キンタローが日本の温泉宿に是非行ってみたいというので、3人でじゃあ行こうという話になり、帰宅してすぐグンマに提案したのであるが。
グンマはぽかーんと口まで開けて驚いている。
一緒に帰ってきたキンタローもグンマが驚いたことが意外だったようだが、黙って2人のやり取りを聞いていた。
「ううん。すっごく嬉しい!3人で温泉~!やった!」
しかしすぐにグンマは従兄弟同士3人で日本の景勝地にある温泉宿に行ける喜びが全身を支配したようだった。
わーいわーいと言って、まるで子供のようにぴょんぴょん飛び跳ねている。
「そこまで喜ぶことかよ・・・」
と、シンタローはわが従兄弟ながら子どもっぽい、と呆れ顔だ。
いつもは気難しそうな表情のキンタローも思わず笑みをこぼした。
***************
2週間後。
日本支部に寄る用事があったシンタローは、2人の従兄弟を伴って海辺に面した景勝地の高級温泉宿に休暇を過ごしに出かけた。
父親のマジックは別の用事で本部を離れるわけにはいかなかったので、若い従兄弟3人組だけの旅行となった。
と言っても運転手や側近は護衛のためついてきたが、部屋は部下と別々なのでプライベート旅行と言っても良いだろう。
「わあ、広ーい!」
女将に案内されて入った和室は、2間続きのかなり広い部屋だった。
窓の外には、なんと広大な美しい太平洋に向かって開放された露天風呂があった。
「うわ、ホントに開放的な風呂!気持ちよさそう~」グンマと共に一足先に入ったシンタローが、早速ベランダのように張り出した部屋つきの貸切露天風呂を見て興奮している。
2人のはしゃいだ様子に呆れつつも、部屋に入ろうとしてごち、と鴨居に頭をぶつけたキンタローは、自分と同じくらいの背丈のシンタローが無意識にかがんで入ったことを思い出して1人こっそり苦笑した。
さすがに女将が風呂や食事の時間などの説明をし始めると、2人とも露天風呂から戻ってきてきちんと話を聞いた。
「ありがとう。3日間よろしく」
シンタローが最高の笑顔で礼を言うと、長身の彼を見上げていた女将の頬がこころなしか赤くなった。
女将は最初に玄関まで迎えの挨拶に来た時、あまりにも見目の良すぎる3人組に見とれていたが、他の従業員の目が硬直したように3人に釘付けになっているのに気づき、すぐ気丈にも立ち直って賓客の案内をし始めたのだった。
(さすがシンちゃんだよね~。女将さんも目がハートになってる)
グンマはそんなかっこいい従兄弟たちが誇らしくて、内心うれしかった。
頬を染めた女将が部屋を去ると、「さっそく風呂入ろうかな~」と脱ぎ始めているシンタロー。
グンマはまだ着いたばかりなのにシンタローが本当に脱ごうとしているのに驚く。
「えっもう入るの??」
慌ててキンタローを見遣ると、彼もシャツのボタンを外しにかかっている。
「何回でも入る!夜は大浴場にも行く!」
シンタローは押入れから浴衣とタオルを取ると、キンタローにも渡した。
2人が入るなら自分も、と思いグンマもすぐ脱いだ。
正直言ってグンマは裸体を見られるのが恥ずかしかったが、2人は平然としている。
男同士だし、従兄弟同士だからだろうか。
外に出ると、秋口のため少しひんやりした。
思わず自分の体を抱きしめてしまう。
海から来る風が潮のにおいを運んでくる。
「うわー気持ちいい・・・」
シンタローが海に向かって伸びをしていた。
キンタローもやってくると、竹で出来たベンチに浴衣などを置いて先に湯に入った。
グンマも大の男3人、それもそのうち2人が190cm超だが余裕で入ることができる、部屋つきの風呂にしてはかなり大きな石の露天風呂に身を沈めると、その温かな湯に押し出されるようにふうーっと深いため息が出た。
シンタローは器用に長い髪をくるりとアップにすると海に近いほうに入り、へりに腕を上げて海を眺めていた。
太平洋は秋の陽の光を受けて穏やかな銀色に輝いていた。
空は秋らしくどこまでも高く、時折薄いうろこ状の雲が見えるくらいで、とても澄んでいた。
キンタローはシンタローの側に近づくと、海を見ながら温泉なんて不思議だな、と話しかけていた。
そうだよなー。すげえ気持ちいい。
シンタローも楽しそうに応えている。
確かに、潮騒を聞きながら掛け流しの源泉100%の風呂に入ることが出来るなんて、贅沢で気持ち良いことこの上がない。
シンタローとキンタローの広い背中を見ながら、グンマは2人についてきて本当に良かったと思う。
実はグンマは旅行を提案されたとき、温泉旅行なんてシンタローとキンタローの2人だけで行きたいのではないかと思ったので、自分を誘ってくれたことが意外で意外で仕方がなかった。
2人の従兄弟は、どうやらお互いに特別な感情を持っているらしかったから。
始めはあんなにキンタローがシンタローに噛み付いていたのに、徐々に競うように総帥と科学者として伸びていったからなのか、お互いをよきライバル、そしてお互いの能力を認め合い肩を預ける間柄になっていた。
また、2人がどこまで行っているかは不明だったが、非常に親密な関係になっていることにグンマも気づいていた。
2人はグンマには気づかれていないと思っているかもしれないが―。
しばらくすると、グンマは自分の白い肌がもうすっかり赤くなってしまっているのに気がついた。
普段湯船につかったりしないので、あまり長く入るのは得意ではないし、それに―。
「ボク、のぼせそうだから先に上がるね。少し涼みにお庭の散歩に行ってくる」
「おう」
シンタローもわずかに上気していたが、にっと笑ってグンマが部屋に入るのを見送った。
グンマは浴衣の帯を結びながら露天風呂に続く窓を振り返ると、相変わらず湯につかりながら海を眺めている2人がいた。
(こういうときは2人にしてあげたほうがいいよね)
羽織を纏い部屋を出ると、旅館を探検しながら、庭園を歩いた。
旅館は海の反対側には山が迫っており、頂上の方は赤く色づきはじめていた。
雲を頂いた雄大な美しい山々に囲まれ、海も眺めることができるこの旅館は最高の立地だった。
庭の池には無数の美しい錦鯉が優雅に泳いでおり、見たこともないような大きさの鯉もいた。
眺めていたら、着物をきた従業員の男性が鯉の餌をくれたので、礼を言って餌をまくと、黒い鯉がまっさきに飛んできてぱくりと大きな口で餌を食べた。
池のそばに茶屋風の和菓子を出してくれるところがあったので、しばらく座って抹茶と和菓子と鯉を楽しんだ。
キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にはworks部屋に移動しました。
ボクの大好きな従兄弟たち 2
陽も傾いてきたので部屋に戻ると、もう少しすると夕食が運ばれてくるということだった。
2人とも湯上りにふさわしく浴衣と羽織姿で、シンタローは軽くアップにした黒髪の後れ毛が少し色っぽかった。
2人の様子をそれとなく伺うと、何も変わった様子はない。
ちょっとがっかりしたグンマは、ドアのノックの音に気を取り直した。
何人かの仲居が、次々と豪華な料理を運んできた。
大きなテーブルいっぱいに料理が置かれ、また中央には巨大な鯛の上に色とりどりの刺身が載った船盛が置かれる。
シンタローが皆の分ビールを注ぐと、「乾杯!」と言って杯を掲げた。
夕食はもう豪勢で素晴らしかった。
近海で獲れたという新鮮な海の幸や、山も近いこともあって豊富な山の幸が素材の味を殺すことなく調理され、美しく盛り付けられていた。
シンタローとキンタローは、一杯目のビールが終わると、すぐ冷酒の徳利を傾け始めた。
グンマは日本酒は得意ではなかったので、ビールをおかわりした。
「おいしいね~」
グンマは頬を真っ赤にしながら、にこにこと笑う。
シンタローとグンマが馬鹿話をしたり、キンタローをシンタローがからかってやり返されたり。
キンタローがグンマの発明をほめると、シンタローがデザインを笑ってグンマが怒る。
酒の勢いもあって笑いが止まらない。
グンマはだいぶ酔ってきて、なんだか自分が昼間2人に気を遣っていたのがばかばかしくなってきた。
こうしてグンマだけが気を遣っているのは不公平ではないか。
2人が関係をおおっぴらにしてくれれば、こちらだって態度のとり方を決めることが出来る。
2人を観察しているのも、疲れたし、もどかしい。
キンタローもシンタローも、だいぶ酒を飲んでいて特にシンタローは頬を朱に染めている。
キンタローはもともと酒が強いこともあって、あまり顔には表れないがそれでもいつもより饒舌だった。
皆酔ってるし、まあいいか、と意を決すると、「ねえ」と2人に声をかける。
「ん?」
と同時に振り返ったシンタローとキンタロー。
いつも息がぴったりだ。
「シンちゃんとキンちゃんってつきあってるの?」
できるだけ可愛らしく、聞いてみた。
「はあ!?」
あからさまに真っ赤になって、怒ったようにわめき出したのはシンタローだった。
キンタローはというと、頭が真っ白になったという感じで猪口を持ったまま硬直している。
「ん、なわけあるかっ!?なんでそうなるんだよっ!」
後れ毛を振り乱して、うなじまで真っ赤にして怒ったシンタローはグンマに手元にあったお絞りを投げつけた。
「ええっ違うの?だって仲良いから・・・」
お絞りが顔にもろにぶつかった。
グンマが意外そうに言うと、シンタローが膝立ちになってグンマをはたこうとしてきた。
「あーのーなあ!仕事で一緒にいるんだろうが!」
酔っているので手元が狂っているらしく、グンマでも簡単にその手を避けることができた。
まあまあ、とシンタローの猪口に酒を注ぎながら、グンマも微笑む。
「いいじゃん。ボクに隠さなくったってさー。ボク応援するよ?」
あくまでも聞き出そうと食い下がるグンマに、シンタローはぐいっと酒を飲んでから飛び掛った。
この、と技を掛けてこようとするシンタローに対し、きゃあきゃあとじゃれているようなグンマ。
まるで子どもの遊びだった。
しかし、今まで硬直していた男が、ここで立ち上がった。
「いや」
硬質で低音な声が静かに発せられると、ヘッドロックをかけていたシンタローとかけられていたグンマは声の主を振り返った。
ゆらりと、長身の金髪碧眼の男が近づいてくる。
ただならぬ雰囲気に2人が身を離すと、「どーしたんだ、キンタロー」と、シンタローが心配そうに見上げた。
キンタローがシンタローの話を否定した?
ということは、実は2人はつきあっている?
グンマの胸が高鳴る。
シンタローの側に立ち膝をしたキンタローが、何を言うのかと思ってグンマは固唾を呑んで見守った。
「オレはシンタローが好きだぞ」
「え・・・?」
シンタロー、グンマ、2人の声が重なる。
シンタローは信じられないといった放心した顔でキンタローを見上げている。
グンマは、驚きながらも、2人に気づかれないように少しづつ後ずさって距離をとった。
(そうか、まだ付き合ってはなかったんだな)
今まさにこの瞬間に立ち会ってしまったことに興奮を禁じえずにいると、キンタローがシンタローの頬に手を添えた。
そして。
キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にはworks部屋に移動しました。
ボクの大好きな従兄弟たち 3
(わーっ!!キンちゃん!大胆過ぎ!!)
グンマは思わず顔を両手で覆うが、つい指の間から2人の様子を見てしまう。
「ん・・・っ!や・・・」
シンタローは驚いて逃れようとするが、キンタローは彼の後頭部に手を回し、またしっかりと抱きしめてしまって離さない。
「ぁ・・・ふ」
しばらくして、抵抗が弱まり、漏れる吐息が甘いものとなっていく。
(う・・・。シンちゃん、色っぽい・・・)
頬や少しはだけた浴衣の隙から見える胸元が桜色に染まっている。
小さい頃から見てきた従兄弟なのに、どきどきしてしまう。
(キンちゃん、キス上手いからなあ・・・)
なんでそんなこと知ってるかって?
ナイショ。
ようやくキンタローはシンタローを離すと、黒い前髪をかきあげてやった。
シンタローはすぐに恥ずかしそうにキンタローを非難するような目をした。
「お前はオレをどう思っている?」
キンタローには、グンマのことはおよそ眼中にないかもしれない。
真っ直ぐにその青い目でシンタローの黒い目を見つめるキンタロー。
生真面目な性格の彼が、冗談を言っているようには思えなかった。
「お前、酔ってんのか・・・?」
シンタローが半信半疑といった顔で困惑しながら尋ねる。
キンタローは青い目を少し見開くと、髪をかきあげて静かにため息をついた。
「酔っていないと言えば嘘になる。相当量の酒を飲んで少し頭もボーっとする。・・・でも前からお前が好きなのは本当だ。酒の力を借りていると思ってくれても構わない」
シンタローはその答えに、ようやく頭のてっぺんまで茹蛸のように真っ赤になった。
「オ、オレは・・」
シンタローは戸惑ったようにうつむく。
グンマからは表情は良く見えなかったが、心臓がどきどきしつつもグンマはなるべく気配を消した。
自分のせいでこの雰囲気をぶち壊したくはない。
「オレも、お前のこと、好きなんだと・・・思う。今わかった」
(やったね!!)
グンマは心の中でガッツポーズを作った。
キンタローは、ふわりと笑った。
「オレはお前の全てを支えて生きて行きたい。オレの一生は、これからもお前に捧げる」
「・・・」
見つめ合う2人の視界には、恐らくグンマは入っていない。
キンタローはさらに続けた。
「お前と分離してよかったと思ってる。こうして、抱きしめることができる」
腰が抜けたようになっているシンタローを、キンタローは力強く抱きしめた。
「おめでとうっ!!シンちゃん!キンちゃん!超お似合い~」
グンマはいよいよ自分はどうしようかと思っていたが、下手に気まずい思いをさせるのは嫌だったので、わざと明るく振舞った。
「乾杯しようっ!」
ビールの栓を開けて、2人にグラスを持たせるとなみなみと注いでやる。
嬉しくて仕方がなかった。
「グ、グンマ・・・」
恥ずかしい場面を見られてしまったとシンタローは青くなったが、キンタローはいたって平然としていた。
「はい、かんぱーい!」
グンマもキンタローもぐいっとビールを飲んだが、シンタローは固まっていた。
「もう、シンちゃん!いいじゃん。ボクだって、大好きなシンちゃんをどこの馬の骨とも知らない男になんかあげられないんだから。その点、キンちゃんだったら文句無く合格!お嫁に行って良いよ。って言っても家変わらないけどネ~」
「なんでオレが嫁なんだ・・・」
シンタローはがっくりとうなだれた。
そしてグンマはいそいそとフロントに内線電話をかけると、
「あ、すみませーん。ボクいびきがうるさいから他の部屋に寝たいんだけど、いいですか?はいお願いします」
と勝手にもう一部屋とってしまった。
「おいグン・・・」
シンタローが驚くが、グンマはシンタローの肩を叩いて笑う。
「いーの。ボクお邪魔虫になりたくないし。・・・それに」
「・・・それに?」
シンタローがきょとんと首をかしげた。
「ボク、キンちゃんとシンちゃんと一緒に旅行に来れただけですごいうれしいからいいの。だから、その、シンちゃん、キンちゃん、これからも時々は誘ってね。絶対邪魔しないから」
にこっと笑ったグンマに、シンタローは照れくさそうに笑った。
「・・・・おぅ」
「ああ」
キンタローも笑った。
「2人とも大好きだよ~。じゃ、ボクもう寝るからね」
従業員の男性が来たので、しばしのお別れと祝福の意味をこめて、グンマは1人ずつに抱きついてキスする。
そして荷物を持ってもらって部屋を去っていった。
シンタローは急に静かになった部屋で、ぽりぽりと頭を掻いた。
「あー・・・、オレたちももう寝るか・・・?」
隣の部屋にもう布団は3組敷いてあった。
「そうだな。これだけ酔っていると大浴場に行くのは危ない。明日にしよう」
キンタローは食事を下げるようにフロントに電話をすると、襖を開けた。
すぐに仲居らが来て、綺麗に後片付けがされた。
シンタローは自分が寝るかと言い出したにも関わらず、窓辺の椅子に座って暗い海を眺めていた。
背もたれの後ろに立つと、かがんで項にキスをした。
「う・・・。止めろ。ヘンな気になる」
「オレとしては歓迎だが?」
いつもの気難しそうな顔とも、また、さっきまでグンマといたときの顔とも違う、艶のある表情にどきりとする。
(オレってキンタローのこと好きだったんだ・・・)
結局おとなしく布団に入ったキンタローに妙な警戒心を抱きながらも、シンタローは自分の気持ちを再確認してまた赤くなった。
実は時々、キンタローに見とれていた。
キンタローは男の自分から見てもかなりの美形で男前だと思うし、いつも紳士的に振舞っているが、スーツの下に隠れた抑えた狂暴性がスリリングだった。
自分の気持ちを知って、戸惑う。
しかし、決して嫌な気持ちではなかった。
とりあえず一個あけて寝ろ、と言うと、3つあった布団の真ん中をおとなしくあけて寝てくれた。
それが残念なような、安心したような。
不思議で複雑な思いを抱えつつ、シンタローは今夜はよく眠れそうに無かった。
end
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