ウインター・ワンダーランド
片づけを終えて戻ってきてみると、パプワとチャッピーはもう眠っていた。
ささやかなお祝いはいつの間にか島のナマモノたちも巻き込んで、大宴会と化していた。さすがの最強ちみっ子も疲れたのだろう。
ふわりとシーツを被せたのは、長い黒髪を一つに結った、俺を複雑な気分にさせる人だった。
パプワのために「失いたくない」。
コタローのために「奪いたくない」。
―――そして俺のために、「帰したくない」人。
「シンタローさん」
随分と気をつけて小声で呼んだつもりだったが、唇に人差し指を立てられて、俺は慌てて口をつぐむ。
誕生日おめでとう、とみんなに言われていたけど、シンタローさんに言われたときが一番嬉しそうだった、と思うのはきっと俺だけじゃない。
幼い寝顔を見つめているシンタローさんもまた、穏やかな表情だ。
「こんな南の島でも、さ」
囁くような声が聞こえてきた。
「クリスマスってのはちゃんと来るもんなんだな」
「そりゃそうっすよ」
隣に音をさせずに座り、俺は笑顔を作ってみせる。
1年がたてばクリスマスはやってくる。
来年も、その来年も、そのまた来年も暦は淡々と続いていく。
俺が知りたいのは、そこにあなたが居るかどうか、だけで。
「クリスマスなのに、下に置くプレゼントがねェや」
ごめんな、とパプワとチャッピーの寝顔に笑って、シンタローさんはゆっくり立ち上がった。
トシさんが取ってきてくれた木には、カラフルな飾りつけがしてある。折り紙で作った星を指でつついている横顔に、胸が締めつけられた。
「じゃあシンタローさん、朝になったらそこに座ってたらどうっすか?」
「はぁ?」
「プレゼントに」
ニッと笑ったら、同じ笑顔が返ってきた。
「ふざけんな、何されっか分かったもんじゃねえよ」
「はは、確かに」
だけど、これ以上のプレゼントなんて考えられない。
笑っているあの人にそっと近づいて、腕を掴んだ。
「ん…?」
軽く(残念だけれど本当に軽く)触れ合った唇は、柔らかかった。
「~~~ッ!!」
正確に2秒後、俺は頭を抱えて蹲っていた。
「オメーな…これはヒイラギどころかモミの木ですらねーだろうが!」
俺の頭、「めけょ」って言った。絶対言った。
「つ…掴まないで下さいよ!」
「うるせえ、これで済んだだけありがたいと思え!」
やっぱり小さな小さな声で言い争う俺たちを見て、モミの木ですらないツリーが笑った気がした、聖なる夜のお話。
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おうちでねこをかうときは
あめもむちもやくにたちません
ねこのきがむくまで
しんぼうづよくまちましょう
COME ON, MY SWEET
俺の部屋には時々猫がやってくる。
偉そうで、我が儘で、勝手な黒猫。
「こっちにおいで」
ちょっちょっ、と呼んでも見向きもしない。
美味しいご飯を作っても、ふかふかの寝床を用意しても、まるで知らんぷりを決め込んでいる。
俺は肩を落として溜息をつく。
まあ、とっくの昔に諦めてるんだ。
だって猫の気を変えさせることなんて神様だって出来やしないだろう?
暫くその猫のことなど忘れた振りをして本を読んでいると、猫はちょっとずつ近づいてくる。
視界の隅にちらちら動く黒い影をなるべく見ないように、俺は視線を逸らしている。
猫は漸くその気になったのか、俺の足に甘えるように身体を擦りつけてきた。
だが肝心なのはここからだ。
すぐにその漆黒の背中を撫でたりしてはいけない。
苛々した猫にフーッと唸られて、嫌というほど引っ掻かれる羽目になる。
足の間をぐるぐる回る猫を、そうだな―――五分くらいだろうか、放っておく。
そうすると猫は痺れを切らしたように俺の膝に脚をかける。
そして甘えた声で一声鳴くのだ。
―――全くだらしがないことだが、その声に俺は至って弱い。
「・・・おまえは我が儘過ぎるぞ」
抱き上げると猫は真っ黒な瞳で俺を凝視めて可愛らしく首を傾げる。
「そんな顔をしても駄目だ」
そっと俺の頬に触れる前足には鋭い爪を隠しているくせに。
大人しく抱かれていたかと思えばその一瞬後には、俺の胸から飛び出していってしまうくせに。
そう―――猫という生き物と共に暮らすには、無限の忍耐が必要だ。
(それでも俺はおまえに夢中だから)
少しは手加減してくれないか、シンタロー。
あめもむちもやくにたちません
ねこのきがむくまで
しんぼうづよくまちましょう
COME ON, MY SWEET
俺の部屋には時々猫がやってくる。
偉そうで、我が儘で、勝手な黒猫。
「こっちにおいで」
ちょっちょっ、と呼んでも見向きもしない。
美味しいご飯を作っても、ふかふかの寝床を用意しても、まるで知らんぷりを決め込んでいる。
俺は肩を落として溜息をつく。
まあ、とっくの昔に諦めてるんだ。
だって猫の気を変えさせることなんて神様だって出来やしないだろう?
暫くその猫のことなど忘れた振りをして本を読んでいると、猫はちょっとずつ近づいてくる。
視界の隅にちらちら動く黒い影をなるべく見ないように、俺は視線を逸らしている。
猫は漸くその気になったのか、俺の足に甘えるように身体を擦りつけてきた。
だが肝心なのはここからだ。
すぐにその漆黒の背中を撫でたりしてはいけない。
苛々した猫にフーッと唸られて、嫌というほど引っ掻かれる羽目になる。
足の間をぐるぐる回る猫を、そうだな―――五分くらいだろうか、放っておく。
そうすると猫は痺れを切らしたように俺の膝に脚をかける。
そして甘えた声で一声鳴くのだ。
―――全くだらしがないことだが、その声に俺は至って弱い。
「・・・おまえは我が儘過ぎるぞ」
抱き上げると猫は真っ黒な瞳で俺を凝視めて可愛らしく首を傾げる。
「そんな顔をしても駄目だ」
そっと俺の頬に触れる前足には鋭い爪を隠しているくせに。
大人しく抱かれていたかと思えばその一瞬後には、俺の胸から飛び出していってしまうくせに。
そう―――猫という生き物と共に暮らすには、無限の忍耐が必要だ。
(それでも俺はおまえに夢中だから)
少しは手加減してくれないか、シンタロー。
おうちでいぬをかうときは
かわいがってあげましょう
ただくれぐれも
つけあがらせないようにしましょう
SIT DOWN,MY GOOD BOY
名前を呼ぶと飛んでくる。
ちぎれそうなくらい尻尾を振って飛びついてくる。
俺のうちには、デッカイ金色の犬がいる。
「調子に乗んな、ボケ!」
叱りつけるとすぐさま耳をぺたんと伏せてしゅんとしょげる。
尻尾はくるりと丸まって、今にも泣きそうな顔をして見上げてくる。
その顔を見ると俺は思わず笑ってしまって、つい頭をぐしゃぐしゃと撫でてやりたくなるんだ。
だけどここで甘やかすと、この犬は調子に乗って大はしゃぎするに決まってる。
なんせこいつは大型犬だから、そうなると落ち着かせるのは大変なのだ。
「駄目だぞ、当分お預けだからな」
素知らぬ顔でそう言ってやる。
途端にがっくりとうなだれてぱったぱったと尻尾を揺らす。
「―――・・・いい子にしてるって約束出来るか?」
小さな声で囁いて金色の毛並みを撫でてやると、犬はぱっと目を輝かせていい返事をした。
遊んで遊んで、とおねだりをする。
温かい舌で俺の顔をぺろりと舐める。
期待に満ちた眼差しでじっと俺の眼を覗きこむ。
人懐こいこの駄犬が、実のところ俺は可愛くて仕方がない。
だけどうっかり油断すると、すぐに飛びついてきて俺を押し倒す。
「ちょ、コラ離れろ!」
怒鳴っても知らん顔をして乗っかかってくる犬に、俺は本日三回目の眼魔砲をぶちかました。
そう―――犬って生き物には、誰がご主人様かということをきっちり教え込む必要がある。
(俺の躾は厳しいんだからな)
覚えとけよ、リキッド。
かわいがってあげましょう
ただくれぐれも
つけあがらせないようにしましょう
SIT DOWN,MY GOOD BOY
名前を呼ぶと飛んでくる。
ちぎれそうなくらい尻尾を振って飛びついてくる。
俺のうちには、デッカイ金色の犬がいる。
「調子に乗んな、ボケ!」
叱りつけるとすぐさま耳をぺたんと伏せてしゅんとしょげる。
尻尾はくるりと丸まって、今にも泣きそうな顔をして見上げてくる。
その顔を見ると俺は思わず笑ってしまって、つい頭をぐしゃぐしゃと撫でてやりたくなるんだ。
だけどここで甘やかすと、この犬は調子に乗って大はしゃぎするに決まってる。
なんせこいつは大型犬だから、そうなると落ち着かせるのは大変なのだ。
「駄目だぞ、当分お預けだからな」
素知らぬ顔でそう言ってやる。
途端にがっくりとうなだれてぱったぱったと尻尾を揺らす。
「―――・・・いい子にしてるって約束出来るか?」
小さな声で囁いて金色の毛並みを撫でてやると、犬はぱっと目を輝かせていい返事をした。
遊んで遊んで、とおねだりをする。
温かい舌で俺の顔をぺろりと舐める。
期待に満ちた眼差しでじっと俺の眼を覗きこむ。
人懐こいこの駄犬が、実のところ俺は可愛くて仕方がない。
だけどうっかり油断すると、すぐに飛びついてきて俺を押し倒す。
「ちょ、コラ離れろ!」
怒鳴っても知らん顔をして乗っかかってくる犬に、俺は本日三回目の眼魔砲をぶちかました。
そう―――犬って生き物には、誰がご主人様かということをきっちり教え込む必要がある。
(俺の躾は厳しいんだからな)
覚えとけよ、リキッド。
雪のように白く
黒檀のように黒く
血のように赤く
世界で一番美しい
その人の名は
SNOW WHITE
それはもう随分昔のことだった。俺たちはたぶん七つか八つだっただろう。
一緒に絵本を読んでいた時、不意に顔を上げて従兄弟が言ったのだ。
―――このお姫様って、シンちゃんみたいだね。
「僕は今でもそう思ってるけど?」
背後から聞こえる声は昔と変わらず明るい。俺は溜息を吐いてペンを置いた。
窓の外ではしんしんと雪が降っている。室内は暖房が効いて快適だったけれど、午後の総帥室は雪に全ての音を吸い取られたかのように静かだった。
「相変わらず夢見がちな奴だな・・・あ、もうちょっと右」
「ここ?」
「あーそこそこ」
あの頃の俺たちは殆ど背の高さが同じだった。
でも今では俺の方がずっと大きい。この従兄弟とて人並みの身長はあるのだが、人一倍大柄な男が揃った一族の中では時に華奢にすら見えてしまうのだった。
凝った肩を揉みほぐしてくれる手も俺に較べれば一回りは小さいだろう。
「それにしても凝ってるね~。シンちゃんお仕事し過ぎだよぉ~」
「仕方ねえだろ、総帥なんだから。それにキンタローはもっと働いてるゾ」
補佐官を務めるもう一人の従兄弟は、新兵器の開発のために昨日も徹夜したらしい。それは新しい理論を発明するだけしてプランの具体化は人任せにする天才科学者のせいだ。
そう言うとその張本人は頭上でくすくす笑った。
「だってそーいうのは僕よりキンちゃんの方が向いてるんだもん」
「手伝ってやれよ」
「あ、それ無理。キンちゃんと高松の話聞いてたら3分で寝ちゃう」
「・・・・」
「でもちっちゃい頃のシンちゃんて可愛かったよねー、超絶可愛かったよ、あの頃は」
「強調するな。今は不細工みたいじゃねえか」
「おとーさまが心配するから僕たち外で遊べなかったじゃない? だからお肌も白くってさ」
「まあな」
「髪の毛だってさらさらヴァージンヘアでさあ」
「今でもさらつやだぞ、俺は」
「子供だったから唇もぷくぷくだったし」
グンマの手は肩を解し終わって首筋に移っている。
(・・・全く変な奴)
こいつはギリギリの線でレッドゾーンを逃れている危ない男だが、マッサージは上手い。
こうして時々ふらりと総帥室に現れて肩を揉んでくれる。それは俺の疲れが溜まる時期と不思議と一致していて、そのことに俺は今初めて気づいてちょっと驚いていた。
「あんな綺麗なお姫様を何で魔女は殺したがってるんだろうって、僕凄く不思議だったんだ」
「それはやっぱ、嫉妬じゃねえの」
欠伸しながら適当な返事をする。
と、不意にグンマの手が止まった。
「ねえ、シンちゃん」
「あん?」
「もしかしたら魔女はあのお姫様が好きだったんじゃないのかな」
突然首筋に鋭い痛みが走った。
「―――つっ・・!」
それは思わずびくりと身を竦めてしまうほどの痛みだった。
「だからきっと、殺して独り占めしたかったんだよ」
温かいものが触れてまたぴりっと痛みが走る。その感触から、歯を立てた痕にそっとグンマが口づけたのだと分かった。
「ここは今でも日に灼けてないんだね」
「グンマ・・ッ」
昔と変わらぬ明るい声が、昔とは違う熱さでうなじを撫でてゆく。
「綺麗だよ、シンちゃん・・・赤い血が白い肌に滲んで」
俺よりも小さな手が、俺の髪を梳いて顎をすくいあげる。
「この髪の毛も、昔よりずっと綺麗。―――」
雪のように白い肌と。
黒檀のように黒い髪と。
(そして血のように)
赤い唇で、グンマがにっこりと笑った。
(違う、あれは)
「―――僕にとっては今でもシンちゃんが一番だよ」
(あれは俺の血だ)
(毒の林檎と分かっていても)
口にせずにはいられない。
重なる唇を受け止めながら俺はきつく眼を閉じた。
窓の外では白い雪が、激しさを増しながら降り続いている。
黒檀のように黒く
血のように赤く
世界で一番美しい
その人の名は
SNOW WHITE
それはもう随分昔のことだった。俺たちはたぶん七つか八つだっただろう。
一緒に絵本を読んでいた時、不意に顔を上げて従兄弟が言ったのだ。
―――このお姫様って、シンちゃんみたいだね。
「僕は今でもそう思ってるけど?」
背後から聞こえる声は昔と変わらず明るい。俺は溜息を吐いてペンを置いた。
窓の外ではしんしんと雪が降っている。室内は暖房が効いて快適だったけれど、午後の総帥室は雪に全ての音を吸い取られたかのように静かだった。
「相変わらず夢見がちな奴だな・・・あ、もうちょっと右」
「ここ?」
「あーそこそこ」
あの頃の俺たちは殆ど背の高さが同じだった。
でも今では俺の方がずっと大きい。この従兄弟とて人並みの身長はあるのだが、人一倍大柄な男が揃った一族の中では時に華奢にすら見えてしまうのだった。
凝った肩を揉みほぐしてくれる手も俺に較べれば一回りは小さいだろう。
「それにしても凝ってるね~。シンちゃんお仕事し過ぎだよぉ~」
「仕方ねえだろ、総帥なんだから。それにキンタローはもっと働いてるゾ」
補佐官を務めるもう一人の従兄弟は、新兵器の開発のために昨日も徹夜したらしい。それは新しい理論を発明するだけしてプランの具体化は人任せにする天才科学者のせいだ。
そう言うとその張本人は頭上でくすくす笑った。
「だってそーいうのは僕よりキンちゃんの方が向いてるんだもん」
「手伝ってやれよ」
「あ、それ無理。キンちゃんと高松の話聞いてたら3分で寝ちゃう」
「・・・・」
「でもちっちゃい頃のシンちゃんて可愛かったよねー、超絶可愛かったよ、あの頃は」
「強調するな。今は不細工みたいじゃねえか」
「おとーさまが心配するから僕たち外で遊べなかったじゃない? だからお肌も白くってさ」
「まあな」
「髪の毛だってさらさらヴァージンヘアでさあ」
「今でもさらつやだぞ、俺は」
「子供だったから唇もぷくぷくだったし」
グンマの手は肩を解し終わって首筋に移っている。
(・・・全く変な奴)
こいつはギリギリの線でレッドゾーンを逃れている危ない男だが、マッサージは上手い。
こうして時々ふらりと総帥室に現れて肩を揉んでくれる。それは俺の疲れが溜まる時期と不思議と一致していて、そのことに俺は今初めて気づいてちょっと驚いていた。
「あんな綺麗なお姫様を何で魔女は殺したがってるんだろうって、僕凄く不思議だったんだ」
「それはやっぱ、嫉妬じゃねえの」
欠伸しながら適当な返事をする。
と、不意にグンマの手が止まった。
「ねえ、シンちゃん」
「あん?」
「もしかしたら魔女はあのお姫様が好きだったんじゃないのかな」
突然首筋に鋭い痛みが走った。
「―――つっ・・!」
それは思わずびくりと身を竦めてしまうほどの痛みだった。
「だからきっと、殺して独り占めしたかったんだよ」
温かいものが触れてまたぴりっと痛みが走る。その感触から、歯を立てた痕にそっとグンマが口づけたのだと分かった。
「ここは今でも日に灼けてないんだね」
「グンマ・・ッ」
昔と変わらぬ明るい声が、昔とは違う熱さでうなじを撫でてゆく。
「綺麗だよ、シンちゃん・・・赤い血が白い肌に滲んで」
俺よりも小さな手が、俺の髪を梳いて顎をすくいあげる。
「この髪の毛も、昔よりずっと綺麗。―――」
雪のように白い肌と。
黒檀のように黒い髪と。
(そして血のように)
赤い唇で、グンマがにっこりと笑った。
(違う、あれは)
「―――僕にとっては今でもシンちゃんが一番だよ」
(あれは俺の血だ)
(毒の林檎と分かっていても)
口にせずにはいられない。
重なる唇を受け止めながら俺はきつく眼を閉じた。
窓の外では白い雪が、激しさを増しながら降り続いている。
しらゆきひめ
「白雪姫は、かわいそうね」
僕はシンちゃんと絵本を広げている。
雪がふっている。おにわで小さな雪だるまを作って、そのあと雪がっせんをした。僕はとちゅうで泣いてしまって、シンちゃんはおこったようなこまったような顔で「泣くな」といった。
「ほら、グンマ、行くぞ」
シンちゃんの手をぎゅってにぎったら、なみだがとまった。
きがえてお昼ごはんのあとは、たかまつに「中にいてください」って言われて、絵本のじかん。
シンちゃんは「赤ちゃんみたいだ」ってぶつぶつ言ってたけど、たまにはいいよね。
たかまつがもってきてくれた絵本は、白雪姫だった。
お母さまがいなくなった白雪姫がかわいそうで、僕はため息をつく。
それに、あたらしいお母さまはまじょなんだ。とってもこわい。
「ハーレムおじさんは、サービスおじさんのことまじょっていってる」
「でもサービスおじさまはこわくないよ」
「こわくないね」
「ふしぎだね」
雪がふるお外はしずかだ。絵本をめくる音だけがきこえる。
おきさきさまになったお母さまは、自分がせかいでいちばんきれいだと思ってる。
「ずうずうしいね」
絵を見た僕が思わずいったら、シンちゃんがわらって僕をおした。
だってこの絵で見ると、あんまりきれいじゃないもの。
まほうの鏡だってそう思ったみたい。「せかいでいちばんきれいなのはだぁれ」っていわれて、「白雪姫です」っていっちゃった。
「―――このお姫さまって、シンちゃんみたいだね」
しろいはだ。
くろいかみ。
あかいくちびる。
「僕は男の子だからお姫さまじゃないよ」
「うん、でも」
いおうと思ったけどやめた。シンちゃんはすぐおこるから。
なんかいきかれても、「いちばん白雪姫がきれい」っていっちゃう鏡。
めいれいされても、白雪姫をたすけてあげるかりゅうどさん。
ちいさなからだでも、白雪姫をまもろうとがんばる7にんの小人たち。
みんな白雪姫のことが好きなんだ。
とってもこわいことも、こわくなくなるくらいに。
(やっぱりシンちゃんといっしょだよ)
おもっているうちに、シンちゃんは「めでたし、めでたし」までよみおえる。
僕はぽつんといった。
「白雪姫は、かわいそうね」
「かわいそうくないよ」
ちょっとおかしないいかたで、シンちゃんがわらう。
「王子さまとけっこんして、しあわせにくらしたんだよ」
「だって」
たまたまとおりかかっただけの王子さまだよ。
白雪姫がえらんだわけじゃない。
みんな白雪姫のこと好きなのに、みんなそれでよかったの?
僕なら、いやだ。
シンちゃんをほかのだれかにあげるなんて。
「白雪姫は、おもしろかったですか?」
絵本をかえしにいったら、たかまつにきかれた。
僕は少しかんがえていった。
「僕、大きくなったら白雪姫とけっこんする」
「はっ!?」
白雪姫も王子さまのこと好きなら。
僕が王子さまになればいいんだ。
たかまつは「それは少しむずかしいのではないかと…」とぶつぶついっている。
わかってないみたいだけど、おしえたげない。
しろいはだ。
くろいかみ。
あかいくちびる。
みんなが好きになる人。みんなを好きになる人。
だけどだれにもあげない。まほうをかけて、わたさない。
(きっと、せかいでいちばんきれいになるよ)
僕だけの、しらゆきひめ。
「白雪姫は、かわいそうね」
僕はシンちゃんと絵本を広げている。
雪がふっている。おにわで小さな雪だるまを作って、そのあと雪がっせんをした。僕はとちゅうで泣いてしまって、シンちゃんはおこったようなこまったような顔で「泣くな」といった。
「ほら、グンマ、行くぞ」
シンちゃんの手をぎゅってにぎったら、なみだがとまった。
きがえてお昼ごはんのあとは、たかまつに「中にいてください」って言われて、絵本のじかん。
シンちゃんは「赤ちゃんみたいだ」ってぶつぶつ言ってたけど、たまにはいいよね。
たかまつがもってきてくれた絵本は、白雪姫だった。
お母さまがいなくなった白雪姫がかわいそうで、僕はため息をつく。
それに、あたらしいお母さまはまじょなんだ。とってもこわい。
「ハーレムおじさんは、サービスおじさんのことまじょっていってる」
「でもサービスおじさまはこわくないよ」
「こわくないね」
「ふしぎだね」
雪がふるお外はしずかだ。絵本をめくる音だけがきこえる。
おきさきさまになったお母さまは、自分がせかいでいちばんきれいだと思ってる。
「ずうずうしいね」
絵を見た僕が思わずいったら、シンちゃんがわらって僕をおした。
だってこの絵で見ると、あんまりきれいじゃないもの。
まほうの鏡だってそう思ったみたい。「せかいでいちばんきれいなのはだぁれ」っていわれて、「白雪姫です」っていっちゃった。
「―――このお姫さまって、シンちゃんみたいだね」
しろいはだ。
くろいかみ。
あかいくちびる。
「僕は男の子だからお姫さまじゃないよ」
「うん、でも」
いおうと思ったけどやめた。シンちゃんはすぐおこるから。
なんかいきかれても、「いちばん白雪姫がきれい」っていっちゃう鏡。
めいれいされても、白雪姫をたすけてあげるかりゅうどさん。
ちいさなからだでも、白雪姫をまもろうとがんばる7にんの小人たち。
みんな白雪姫のことが好きなんだ。
とってもこわいことも、こわくなくなるくらいに。
(やっぱりシンちゃんといっしょだよ)
おもっているうちに、シンちゃんは「めでたし、めでたし」までよみおえる。
僕はぽつんといった。
「白雪姫は、かわいそうね」
「かわいそうくないよ」
ちょっとおかしないいかたで、シンちゃんがわらう。
「王子さまとけっこんして、しあわせにくらしたんだよ」
「だって」
たまたまとおりかかっただけの王子さまだよ。
白雪姫がえらんだわけじゃない。
みんな白雪姫のこと好きなのに、みんなそれでよかったの?
僕なら、いやだ。
シンちゃんをほかのだれかにあげるなんて。
「白雪姫は、おもしろかったですか?」
絵本をかえしにいったら、たかまつにきかれた。
僕は少しかんがえていった。
「僕、大きくなったら白雪姫とけっこんする」
「はっ!?」
白雪姫も王子さまのこと好きなら。
僕が王子さまになればいいんだ。
たかまつは「それは少しむずかしいのではないかと…」とぶつぶついっている。
わかってないみたいだけど、おしえたげない。
しろいはだ。
くろいかみ。
あかいくちびる。
みんなが好きになる人。みんなを好きになる人。
だけどだれにもあげない。まほうをかけて、わたさない。
(きっと、せかいでいちばんきれいになるよ)
僕だけの、しらゆきひめ。