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16の誕生を迎える前日に、マジックに呼び出された。

「シンちゃん、お誕生日プレゼントには何が欲しい?」

「…いらない」

「シンちゃん、4年前に士官学校に入ってから、そればっかりだよね」

「別に……」

ただ、気づいただけだ。
マジックが、どういう人間かということに。






Birthday present.






多少変態が入っていたけど、それでも親バカな父親くらいにしか思ってなかった。
時折見せる冷たい目で、俺を見つめてくることは一度もなかったし、
それを見た俺が怯えていると気づけば、瞬時に笑顔を見せていたからな。

4年間士官学校に入ってマジックから離れた時、そんなのは一部でしかないと知った。
時折見ていた冷たい目をしている顔こそが、マジックの本当の顔なんだよな。

誰もがマジックに心酔しながらも、誰もがマジックを心の底では恐れていた。




赤い総帥服は何のため?
返り血を浴びても、目立たないため。

俺が知らないだけで、アンタは国をいくつ潰してきたんだよ。
どれだけの人間を殺してきたんだよ。

なあ…。
それで得た金で、俺の誕生日を祝うって言うのか?
血にまみれた金で俺に何を与えようと言うんだ?

そんなモノはいらない。





「シンちゃん…本当に何もいらないの?
 シンちゃんが望むなら、パパは世界だって差し出すよ」

「……っ!」

その言葉に、息を飲む。
見上げたマジックは、苦笑ともいえる笑みを浮かべていた。

「ア…アンタ、何言って…」

情けないことに、声が震えた。
マジックは俺が望むなら、本当に世界さえ差し出すことが解っているから。



「パパはね、シンちゃんが望むモノならなんでもあげたいんだ」

腕を伸ばされ、抱きしめられる。

「…いらない」

「…本当に?
 じゃあ、何が欲しいの?」

答えを促すように、マジックは俺の髪を撫でる。

「…何もいらない」

「…パパはしんちゃんの誕生日をお祝いしたいんだよ?
 何か言ってくれなきゃ、困っちゃうよ」

困ればいい。
マジックなんか、困ればいい。

血に汚れた金で得たモノで祝われる俺の気持ちを、マジックは考えたことがあるのだろうか。
それがどんな気持ちなのか、アンタ解るか?



「…シンちゃんは、お金の出所が嫌なの?」

恐る恐る、マジックが訊いてきた。
訊かれた内容は勿論のこと、その声が酷く頼りない声で顔を上げようとしたのに、
マジックが抱きしめる手に力を加え、それを許してくれない。

「ガンマ団が…パパが誰かを血に染めて得たお金で、祝って欲しくないの?」

ぎゅっと抱きしめられる腕の強さに、マジックの葛藤が垣間見えた気がした。
俺だけではなく、マジックも悩んでいたことを初めて知った。

「…あぁ」

「…そっか」

酷く情けない声で、マジックが呟いた。
緩められた腕から顔を上げる。
見上げたマジックの顔は、俯いていてよく見えない。


「……親父?」

「んー…パパもね、同じこと思った時があってね。
 と言ってもパパの場合は、
 貰う立場の時に思ったんじゃなくて、弟たちにあげる時に思ったんだけどね。
 血に汚れたお金で買ったプレゼントをしても、喜んで貰えるのかって…」

ぽりぽりと所在なさそうに、マジックが頬をかく。

「でも弟たちがその疑問を抱く前には、プレゼントを渡すことをやめたから忘れていたけど、
 シンちゃんは、そんなことを考える歳になっちゃったんだよね…」

いつもの饒舌は消え失せ、訥々とマジックが語る。
静かなその声に、その言葉に、俺は何を言えばいいのか解らなくなる。

「でもね、シンちゃん。
 それでも、パパはお祝いがしたいんだ。
 シンちゃんが生れてきてくれたことが本当に嬉しいから…。
 だから、やっぱりシンちゃんにはプレゼントを受け取って欲しい。
 でも、それがシンちゃんを苦しめちゃうんだよね…。
 …これじゃあいつまでたっても、堂々巡りだね」

マジックが、小さく笑った。



「シンちゃんが、バカ息子だったらよかったのに」

「は?」

いきなりの言葉に、思わず間抜けな声が出る。

「だから、シンちゃんがバカ息子だったらよかった、って言ったんだよ。
 お金の出所とか気にせずに、プレゼントを強請ってくれるような子だったらよかったのにね」

「あーそうですか。
 悪かったな、細かい子どもで」

先ほどまで見せていた消沈した顔は消え失せ、今はいつもの食えぬ笑みを浮かべている。
その変わり身の早さに、ムカついた。
俺はまだ悩んでいるのに、なにをコイツは言っているのだろう。

思いっきり睨み上げれば、マジックはもう笑ってはいなかった。
真剣な目で、俺を見つめている。



「でも本当にそんな子どもだったら、パパきっとシンちゃんのことここまで好きにならないよ」

嘘偽りの無い目で、俺を真っ直ぐに見てマジックが言った。
その真剣さに圧倒され、俺は何も言うことができずにただマジックを見た。

「…でもやっぱりそれだと、堂々巡りなんだよね。
 シンちゃんが欲しいモノを言って欲しい。
 シンちゃんの喜ぶ顔が見たいんだ」

それだけ言うと、マジックはふっと笑った。
苦しそうな笑みだった。

再び伸ばされた手が、頬を撫ぜる。
労わるように、慈しむように…。

マジックは、もう何も言わない。
痛いほどの沈黙が、ふたりを包む。




「…誕生日…プレゼントは、いらない」

乾ききった喉から搾り出すように、呟いた。
頬を撫でていた手が止まる。
その手を辿って、マジックを見据える。

「…シンちゃん、でもパパは……」

苦しそうにマジックの顔が歪む。
でもそれを遮って、言葉を続ける。



「アンタは何で、プレゼントを与えようとするんだ?」

「シンちゃんの喜ぶ顔が見たいから」

「だったら俺がいらないって言ってんだから、
 プレゼントを貰ったところで俺が喜ばないってのは解らないのか?」

「それは…そうだけど…」

まだ何か言おうとするマジックの胸倉を掴み、引き寄せる。

「いらないって言ってるだろ。
 俺は何かを買い与えられたところで、喜べないんだよ」

「でも、シンちゃん…」

「あー、もううるせぇ!」

胸倉を掴む手に力をいれさらに引き寄せ、キスをした。
いつもマジックが俺にしてくるキスを、俺からマジックに仕掛ける。

マジックは驚きのあまりか、動けないでいる。
反撃してくると思ったが、かなり動揺しているらしい。
そのことに、そんな場合ではないと知りながらも、勝った気になる。

トンとマジックの胸を突き放した。
未だに呆然と俺を見つめるマジック。



「シンちゃん?」

「俺は、本当に欲しいモノなんてない。
 それに欲しかったとしても、血にまみれた金で買ったモノも奪い取ったモノもいらない。
 アンタが俺の喜ぶ顔が見たいと言うのなら、絶対にそんなモノ寄越すな。
 俺は…俺はただ……」

その先を言うべきかどうか、躊躇する。
けれど、今言わなければきっとマジックには伝わらない。
両手を握り締めて、自分を鼓舞する。

「…俺は、俺が生れてきたことを本当に喜んでくれている、って解ればいいんだ。
 モノなんかじゃなくて、気持ちでそれを伝えてくれるだけでいいんだ…」

「…シンちゃん」

嬉しそうにマジックが笑う。
どうして、この男は俺の言葉ひとつでそこまで表情を変えるのだろう。
人を殺す時はあれほどまでに冷酷な目をしているのに…。




「シンちゃん、明日パパとデートしよう?」

いつの間にか近づいたのか、ぎゅうぎゅうと俺を抱きしめマジックが言った。
その温もりに笑顔に安心しながらも、重要なことを思い出す。

「あ、明日、必須演習の授業があるから無理だ。
 でも、夕飯ぐ…」

夕飯ぐらいは付き合ってやろう、と言おうとしたのだが、
それは最後まで言葉となって出てはくれなかった。

マジックが携帯を取り出し、もう話し始めている。



「あ、私だがね。
 明日、士官学校を休校にするよう頼むよ」

…開いた口が塞がらない。
馬鹿みたいに、口を開けたままマジックを見上げれば、
電話を切り終えたマジックが俺を見つめ、微笑む。

「これで、明日ずっと一緒にいられるね?」

「…アンタ、何したんだよ?」

「士官学校を休校にしただけだよ?
 本当はずっとシンちゃんの誕生日は休校にするつもりだったんだけど、
 そんなことしたらシンちゃん怒るかなって思って我慢していたんだけど…」

照れたように笑いながら、マジックが告げてくる。

「…アホかっっ!
 怒るに決まってるだろ!
 解ってるんだったら、そんなことするんじゃねぇ。
 今すぐ、取り消せ!」

胸倉を掴み上げ怒鳴ったところで、マジックは苦笑するだけ。



「シンちゃん、パパが何か買ってプレゼントするのと、一緒に過すのとどっちがいい?」

「…それって、卑怯だぞ」

単なる苦笑ではなく、困ったように笑いながらそんなことを言うなんて卑怯だ。
胸倉を掴んでいた手が、力なく落ちた。
マジックは俺の頭を抱き寄せ、ごめんね、と謝った。

「……仕方ないから、明日だけは許してやる。
 でも、来年以降は絶対するなよ」

学校が終われば、大人しくアンタの元に返ってくるから、
と小さく付け足せば、マジックは、ありがとう、と呟いた。




間違った愛情の下、間違った愛情だと知りながら、後どれだけこの間違った関係を続けるのだろう。
いつか終わらせなければいけないと思いながらも、そんな日が来ることはないと知っている。

マジックが俺を手放すことなどなく、
これまでマジックがやってきたことを思えば嫌悪すらするというのに、
俺自身ももうマジックから離れられないのだから。





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07.26~09.13
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11.只今取込み中。    ※同じ始まりでマジシン小説も書いてますが、内容は別物です。






別に見ようと思ったわけじゃなく、何となく付けてみただけだった。

一般家庭にはあまりないであろう大きさのテレビ画面に映ったのは、女と男の後姿。
どうやらドラマか映画らしい。
興味がなかったのでチャンネルを変えようと、リモコンに手を伸ばした時だった。



「『好き』と言う想いが『カタチ』になって残ればいいのに」



そんな台詞を女の方が口にした――。



+++



「純愛だねー」

ケケケッと茶化すようにそう言って、ハーレムは酒瓶を口に運んだ。
「おい、見てねーんだったらチャンネル変えろよ。ニュース見せろ」
そんなハーレムからリモコンを取り上げようと、シンタローが手を伸ばしてきた。
「おーっと」
それをするりと交わしてリモコンを遠くへと放り投げると、シンタローはあからさまに顔を顰めた。
「死にてーのか、アル中」
「そーカリカリすんなって。カルシウム不足なんじゃねーの?」
ニッと口元を吊り上げたハーレムに、シンタローが溜息を零す。

「うざ…」

小さな声だったが、その声ははっきりとハーレムの耳に届いた。
「っとに可愛くねーなー、この甥っ子はよォ」
「うわッ!?」
手を伸ばしてシンタローの腰を掴んで引き寄せると、油断していたのかその身体はあっさりと腕の中に収まってきた。
「何しやがる!?」
「暴れんなヨ」
予想通りバタバタと暴れる手足を、それでも器用に押さえつけて抱き締めると、シンタローは諦めたように大人しくなって、また嫌そうに溜息を付いた。
「酔っ払い…」
「その酔っ払いにあっさりと抱っこされちまったガキはどいつだー?」
ニヤニヤと笑って言ったハーレムに、シンタローの眉間の皺が濃くなる。

それでもシンタローがこれ以上抵抗してこないのは、この状況を嫌がっていないからだ。
素直ではないシンタローの、遠回しな甘えにハーレムは気付いている。

シンタローは自分からは決して甘えてこない。
だからシンタローがそれを望んでいる時は、見逃さずに此方から仕掛けてやらなければならないのだ。

「ったく――面倒なガキだな」
まぁそんなガキにイカレちまってる俺も俺だ――ククッと声が漏れた。
「あ?何か言ったか?」
ハーレムの呟きにシンタローが顔を上げた。
どうやら内容は聞こえていなかったらしく、ハーレムは「何でもねェ」と受け流した。
そんなハーレムにシンタローは気にした様子もなく、興味なさげに「ふぅん」と言ってテレビに視線を移す。
「なーまだコレ見てんのか?」
「あ?別に最初から見ちゃいねーよ」
「なら何でニュースに変えたら駄目なんだよッ!!」
ハーレムの腕の中でシンタローがまた暴れだす。

そう言えばニュースが見たいとか言ってたなと、ハーレムは思い出す。
別に面白くもないだろうにと思うのだが、目の前のドラマに興味を示すよりはマシかと、どうでもいいことを考える。
テレビの画面では黒髪の女が男に向かって微笑んでいた。
「―――…」
その顔を見て、ふと先程の台詞が頭の中に蘇った。


――「『好き』と言う想いが『カタチ』になって残ればいいのに」――


「…形になったら大変だっての」

「は?」

前触れもなくそう言ったハーレムに、シンタローは意味不明だと不思議そうな顔をした。
「んー、ホレ、さっきあの女が言ったろ?」
「聞いてねー」
テレビ画面に映る女を指差したハーレムに、シンタローはきっぱりと言う。
「あー、好きだって想いが形になって残ればいーとかってな」
口にすると恥ずかしーなと思いながらも説明すると、案の定シンタローはそんなハーレムを見て『キモッ』と引いていた。
その態度に腹が立ち、遠慮なくシンタローの頭を叩いてやる。
「俺が言ったんじゃねーっての!」
「――たッ!?アンタすぐ手ェ出すクセ、直せよ!!」
「オメーには言われたくねェ」
恨めしそうに言われた台詞に即座に言い返すと、シンタローは「俺はいいんだ!」と俺様的な答えを返してきた。
「ったく…どーゆー教育してんだよ」
あの馬鹿兄貴と、ハーレムは兄の姿を思い出すが、すぐに考えるだけ無駄だと溜息を付いた。


「でもよォ、大変だな」

唐突にシンタローがそう言って顔を上げた。
叩かれた事はもうどうでもいいらしい。特に機嫌を害した様子もなく、真っ黒な瞳を真っ直ぐハーレムに向けている。
「あん?」
いきなりナンダ?とハーレムが同じようにシンタローの目を見ると、シンタローは先程ハーレムがしたのと同じようにテレビの画面を指差した。
「アンタの言った『想いが形に』ってやつ」
「俺が言ったんじゃねー」
ハーレムは間違えるなと釘を刺すが、シンタローは全く気にしていないようだった。
「どっちでもいーじゃん、俺はアンタから聞いたんだし」
シンタローはサラリとそう答えると、ニヤリと笑ってハーレムの首に腕を回してきた。
「――…!」
どこか挑戦的な瞳をして、ゆっくりと近付いてくるシンタローのその顔に、ハーレムは表情には出さずに見惚れる。
「…どうしたよ?」
積極的じゃねーかと、腰に手を添えると、シンタローはもう一度口元を吊り上げて言った。


「形になったらアンタが俺のコト、どー思ってるのかはっきり分かるよな?」

「……………」


「――ぷッ、」
言われた言葉に呆然とするハーレムに、シンタローが可笑しそうに噴出した。
「すげー顔、してんぜ?アンタ」
クック、と笑うシンタローは、ハーレムから一本取れたことが嬉しいのか上機嫌だった。

(―――っとに可愛くねぇ…ッ)
人の揚足を取るのは大好きだが、その逆ははっきり言って面白くないハーレムだ。
大人気ないと分かっていても何か仕返しをしてやりたいと考える。
そこでふと、ある事を思い付いた。

ハーレムはニヤリと笑ってシンタローを見た。
「…な、なんだヨ?」
何かを感じ取ったのか、シンタローの身体が強張ったのが分かった。
しかし此処で逃がしてやるほどハーレムは親切ではない。
ゆっくりとシンタローの顎に指をかけてその顔を持ち上げる。
「ハ、ハーレム?」
焦った様子で逃れようと微かな抵抗を見せるシンタローだったが、それを許さずに唇が触れそうなくらいに近い距離まで顔を寄せた。

「そうだよなァ、俺様の気持ちがカタチになんてなって残ったりしたらよォ、お前さん大変だなァ?」

殊更言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡ぐと、シンタローの身体がビクッと震えた。
「な、なんで…ッ」
シンタローの顔が微かに赤くなっていた。よく見れば瞳も揺れている。

シンタローは真面目に迫られる事に弱い。
冗談半分で襲えば、確実に言葉と手足で反撃してくるが、此方が真面目な態度で好意を見せると途端に弱々しくなり、どうすればいいのか分からなくなって萎縮してしまう。
ハーレムはそれを知っていて、あえてじっくりと攻め寄る。

「俺の気持ちがカタチになんかなったら、お前、潰れちまうゼ?」

「な――!?」

シンタローの目が驚きで見開かれた。
何を言っているんだ?とでもいいたいようなその目に笑いが込み上げる。

「重いぜ?――俺様の『スキ』の『カタチ』はよ」

「―――ッ」
そこまで聞いて、やっとハーレムの言いたい事が分かったのか、シンタローの頬にサッと朱が走った。
「ん~?どーした、顔が赤くねェか?」
ニヤニヤと笑いながら突っ込むと、シンタローは「うるせェッ!!」と憤慨する。
「――クソッ、何でアンタはッ」
悔しそうに此方を睨んでくる姿が、ハーレムにはおかしくてたまらない。
なんだかんだと言ってもこの甥っ子は、自分から見ればまだまだ子供だ。
素直な感情表現がとても心地良いと思う。
「ん?俺様が何だって?」
意地悪く聞いてやれば、シンタローはますます怒りを露にする。
「~~~~ッ」
先程のしてやったり顔はどうしたのか――口をへの字にして俯いて、何かを必死に考えているようだ。
「シンタロー~?」
下を向いてしまったシンタローの顔を覗き込む。
「―――ッ」
するとシンタローは何かを思いついたのか、何故か自分と同じように不適な笑みを浮かべて顔をあげた。
「?」
「い、言っておくがな!テメーだってそうなんだからなッ!!」
負けるもんか!と言うオーラがシンタローの身体から滲み出ている。
「あ?」
『何が?』と聞くよりも先にシンタローが、ビシッと人差し指をハーレムに向けてきた。


「俺の、ス…、ス――ッ、『スキ』の――、カ、『カタチ』でッ、つッ、潰れちまうのはよッ!」


「………」
シンタローの言葉に、ハーレムは一瞬呆気に取られた。




――舌噛みながら赤くなって言う台詞じゃねーだろ。




そう思ったが口には出さずにおく。
負けん気の強い甥っ子の、精一杯の反撃であろうから。

(今のテメーの顔、鏡で見てみるかァ?)

本当にコイツと一緒にいると退屈はしないとハーレムは思う。
別に勝ち負けの勝負をしているわけでもないのに、シンタローはハーレムの言葉を素直に受け取ることを、負けとしてみるのだ。
此方を睨み続けるシンタローに、ここで自分の兄のマジックであれば『嬉しいヨvシンちゃんッvv』と素直に喜ぶのだろうが――。

(生憎俺もテメーと同じ気質なんだヨ、甥っ子)

チロリとシンタローの顔を見ると、反論してこないハーレムに『勝った』とでも思っているのか、その表情に余裕が戻ってきていた。
そんなシンタローに、ハーレムは『残念だったな』とニヤリと笑い――。


「なら、二人仲良く圧死だな?」


そう言って――シンタローの唇に掠める様な優しいキスを落とした。


「~~~~~~ッ!!!!」


――ボンッ、そんな音が聞こえた気がした。

目の前には可笑しいくらいに真っ赤になったシンタロー。
顔だけではなく、耳まで真っ赤になっている。


「――っとに可愛いヤツだな、お前さんはよォ」


ククッと笑って抱き締めると、腕の中でシンタローが観念したのか、「くそったれ」と負け惜しみの一言を漏らした。




――涙目でンなこと言われたって、誘われてるようにしか見えねーんだぜ?




ハーレムはニヤリと口元を吊り上げて――もう一度シンタローの唇にキスを贈った。






END


2006.04.30
200.09 01サイトUP


ちょっと補足を…。
も、もしかしたらこの小説を読んで『アレ?』と思う方がいらっしゃるかもしれませんが(多分いないと思いますが…)、昔、別ジャンルで同じ台詞を使った漫画を描いたことあります。話は違うのですが同じような台詞を使ってるのでちょっとご報告…(汗)


gds
4.大人気ないにも程がある。






「キスはすんなよ」

情事の最中。
唐突に甥っ子がそう言った。

「あぁん?何でだよ?」

するなと言われるとしたくなるのが人間と言うもので――。

「――てめッ!イヤだっつってんだろ!!」

身動きがとれないようにがっちりと顔を抑えて唇を近付けると、案の定鋭い瞳で睨まれた。
一般人ならばこの一睨みで気を失うものもいるだろう。
しかしながら生憎コイツは自分の甥で、幼い頃からよく知っている。睨まれたところで痒くもなんともない。

――むしろ煽られる。

「『すんな』とは聞いたが『イヤ』とは聞いてねー」

ニヤニヤと笑いながらそう言えば「今言った!」と喚かれる。

「とにかく離せッ!!」
「離したらオメー逃げんだろ?」
「当たり前だッ!!くそッ、この馬鹿力!!」

振り解けないことが余程悔しいのか、真下の甥っ子は顔を赤くして怒っている。

「何で駄目なんだヨ?」

――たかだかキス一つで照れるような関係でもあるまいし。

素直に疑問を口にすると、騒いでいた甥っ子の動きが何故かピタリと止まった。

「…どうした?」

不審に思ってその瞳を覗き込むと、それがフイと逸らされてしまった。
人の目を真っ直ぐに見て話をするコイツのこの行動はおかしい。

「…言わねーなら続行な」
「――ッ!?ちょッ、待…ッ」

そのまま言うまで待ってやっても良かったが、正直真っ最中に止められて気分のいいものではない。
言う気がないのならば言わせてやればいいだけのこと。
力押しでその唇を奪ってやった。

「~~~~~ッ!!」

いつものように舌を割り込ませて歯列を舐め上げ、逃げる舌を追いかけて絡ませる――それだけで慣らされたコイツはあっさりと陥落する。
本当に嫌だと思っているのならば、舌を噛み付いてくるだろう。それをしないという事は止める必要がないということだ。

「――…ッ、は、ぁッ」

途中で呼吸を助けるために一度唇を離すと、言葉もままならないくせに潤んだ瞳だけは真っ直ぐに此方を睨んでいた。

「煽ってんのか?」

「ぬかせ…ッ、っくしょー、やっぱ苦ッ…」

悔しそうにしながら手の甲で唇――というか舌を擦るその様子に『ああ』と思い当たる。

「何だオメー、煙草が駄目なのかよ」

確かに『苦い』と聞こえた。
それは間違いなく自分の舌の事を指している。
一日中煙草をふかしている己の舌はさぞかしその苦味を含んでいることだろう。
かく言う今も、ベットに入るまで煙草を吸っていた。

「ガキだな」

思わず鼻で笑ってしまった。

「うっせー!」

甥っ子は機嫌の悪さを隠す素振りもなく舌打ちをした。
そう言えばコイツが煙草を吸っている姿は見たことがないなと、今更ながらに気付く。
多分――息子を溺愛するどこぞの阿呆が、健康に悪いとかなんとか理由を付けて吸わせないのだろう。

「――とにかく、これで分かっただろ。もうすんなよ」

『ガキはどっちだ』とぶつぶつ文句を言いながら、何故か甥っ子はベットから降りようとしている。

「おいこら」

何処へ行く気だと腕を掴めば

「興醒めした」

――と一言告げて掴んだ腕を振り払われた。
そしてそのまま『やってられるか』と言わんばかりの怒気を露にして、素早い動きで衣服を着込んでいく。

「オイオイここまでしてお預けかよ」

「知るか」

勝手に処理しろ――そこまで言われてピキッときた。

「ほーーぅ」

若干低めの声を出して立ち上がる。

「な…ッ、何だよッ!?」

真っ裸のままで近付けば、甥っ子は身体を強張らせて後ずさった。

「お前もいい加減学習能力がねーなぁ、シンタロー」

不適に笑って、勢いよく床を蹴った。

「なッ…―――ん―――ッッ!!?」

一瞬で近付き、逃げる身体を捕まえて、避ける暇など与えることなく何かを言おうとしていた唇を奪った。

「んんーーッ、っく!!」

今度は大人しくされるつもりはないのだろう。
舌を噛み付く気はないようだが、身体を捩って離れようと暴れている。
殴りかかってくる腕を掴み、蹴り上げようとする足は己の足を絡ませる事でその動きを防ぐ。
どうやっても逃げようがないと分かっているのに、必死に暴れる姿が子供のようで妙に笑えた。

「んっ…くッ…」

弾力のある舌に己の舌を絡ませると、やはりその苦さが嫌なのか必要以上に逃げられた。
ならばと、口内のあちこちを殊更ゆっくりと舐め上げてやる。

「んんッ!!」

ビクンと身体が大きく跳ねた。
どうやら弱い部分に触れたらしい。一瞬にして殴ろうとしていた腕の力が抜けたのが分かった。
そのまま歯の裏側にもゆっくりと舌を這わせ、零れる唾液も気にせずに反応を示す場所を執拗以上に攻め立てれば、やがて逃げていた舌が諦めたように大人しくなり無意識に絡められた。

(キス一つで可愛いモンだなオイ)

ピチャピチャと室内に響く水音が心地良い。
音がするたびにビクビクと身体を震わせるその様子に酷く満足する。
先程まで自分を睨んでいた鋭い瞳は、今は熱を帯びて潤んでいて何処か遠くを見るように焦点が合っていない。
その目がどんなに自分を煽っているか――コイツはわかっていないのだろう。

「ん…ふ…」

すでに抵抗する力をなくしたのようで、動きを封じ込めるために絡ませた足を解けば、支えがなくなったかのようにずるずるとその身体は床へと落ちていった。
ペタリと床に腰を付いてしまった状態の甥っ子をニヤニヤと眺める。

「――…くっそお…ッ」

荒い息を吐くその姿は、本当に男心をくすぐってくれる。

「ヨかったか?」

ん?としゃがんで真っ赤になった顔を覗き込む。

「ほざけッ…!」

「素直じゃねーな。ホレ、続きすんぞ」

お預けってのは趣味じゃねーんダヨと、へたり込んでいる身体をヒョイと持ち上げた。

「うわッ!?」

当然のことながら、キス一つで腰が抜けた甥っ子は逃げる間もなく腕の中に収まった。
いわゆるお姫様抱っこというやつでベットまで運び、無造作にその身体を投げ捨てる。

「――ぶッ!!?」

ぼすんと音を立ててシーツに沈み込む姿が、間抜けだなと思うが口には出さずにおく。
これ以上からかうと本気で拗ねてしまうだろうから。

「てめ…ッ!!」

すぐさま身体を反転させて素早く蹴りを入れてくる足をかわして、勢いよく覆い被さり動きを封じた。

「っとに懲りねーなオメー。何度同じポジション取られてんだよ」

「うるせーこの力馬鹿ッ!ナマハゲッ!!極潰しッ!!!」

逃げられないと悟ったのか、次々に飛び出てくる罵声に苦笑する。

「これもパターンだな。ガキかテメェは」

毎度の事だぜ?と笑ってやると、甥っ子は何故か顔をまた真っ赤に染め上げた。

「…くそったれ!」

「ヘイヘイ」

最後の抵抗というよりは負け惜しみにも聞こえるその一言の後、大人しくなるのもいつものパターンだという事に――コイツは気付いていないんだろうなと、もう一度苦笑した。



ゆっくりとした手付きで大人しくなった身体に指を這わせながら、ふと思い出して手を止めた。


「…おい」

「――ナンダヨ」


ジロリと睨む姿に『可愛くねーな』と言おうとして、その可愛くないヤツに手を出しているのは誰だと思い当たり、それを言うのは止めた。



そのかわりに――。




「オメーは吸うなよ?煙草」


――俺が苦いのはヤだからヨ




耳元にそっと囁けば、甥っ子は一瞬目を大きくした後に心底呆れたような顔をした。
それでもその後に俺様を引き寄せて――…




「死ね」




綺麗に笑ってそう言って、唇が触れるだけのキスをしてきた。






END


2006.04.30
2006.08.26サイトUP

ds
1.「叔父」と「甥」






「なぁ、俺と寝てみねー?」

いつものように兄に金を集りに行ったその部屋で、唐突に言われた一言。

一瞬何を言われたのか理解出来なかったが、やけに冷静な顔をしている相手の姿を見ているうちに、その言葉は脳内へと到達した。

「…一人じゃ寝られねーってか?相変わらず甘いガキだな」

へ、と馬鹿にするように吐き捨てて言うと、『ボケるなよ』と返された。

「イミ、分かってんだろ?茶化さねーで返事しろよ」

妙に大人びた口調でそう言う甥の姿に、ゾクリと背筋に何かが走った。

コイツは確か先日15だか16の誕生日を迎えたばかりのガキで――そこまで考えて思い止まる。
同じ世代の頃の自分の行動を思い出したからだ。
我慢の聞かない餓鬼とはいえ、かなり色々な『遊び』をしていた。
それを考えるとこの甥―シンタロー―の言動も、年頃の男の台詞と思えばおかしくはない。

だが――。

(兄貴が許すか…?)

溺愛して止まないシンタローの色事を。
今の口調から言うと、どう考えても『初めて』とは言い難い。
それが女相手なのか男相手なのかはわからないが、男である自分を誘う時点で少なくとも一度は男を相手にしたことがあるのだろう。

そう考えるとますます疑問に思う。

異常なまでに実の息子に執着を見せる兄が、常日頃からその息子に悟られないように二十四時間監視をしていることを自分は知っている。
その日その日の訓練内容から一日の食事内容まで、逐一漏らさずに見ている様子に思い切り呆れ返った記憶も新しい。
受けている授業の教師から交友関係にあたるまで、息子に近付く全ての人間をチェックしている事もわかっていた。

そんな中で、この甥っ子が誰かと関係することなど可能だろうか――?

それにもう一つ疑問に思う点がある。

コイツの性格はあまり触れ合う機会のない自分でも分かる。
情に厚く真っ直ぐな男。そんなコイツが『遊び』で誰かと関係するとは思い難いのだ。

四六時中見張っていて、息子に必要以上に近付く人間を排除しようとする兄。
馬鹿正直で心根が甘く、人を傷付けるのが嫌い筈の甥。
そしてそんな甥が見たこともない歪んだ笑みを浮かべながら、唐突に自分に提案したとんでもない内容――。


「――――-ッ!」


ゾワッ。

一瞬にして背中に嫌な汗が吹き出た。


(まさか――、)


スウッと頬に伝う汗も拭わないままに、シンタローの顔をまじまじと見つめた。


「オマエ…まさ、か…」


『兄貴と――』


――言葉は最後まで出なかった。
だが、中途半端な自分の言葉への返事は聞かなくても予想がつく。

「…さぁ?」

シンタローがニコリと笑う。
その笑みが聞きたくもない答えを教えてくれる。

「――で?アンタの答えは?」

恐らく真っ青になっているだろう自分に向かって、シンタローはさらに笑みを深めた。

「な…」

「アンタのそんな顔、初めて見んな」

楽しそうに笑顔を浮かべる甥っ子にクラクラきた。
何を考えているのかわからない。

「『何を考えてる?』って顔だな」

「――ちッ、」

勝手に人の顔色を読むんじゃねぇと言いたくなった。
何故今この部屋に自分とコイツしかいないのだと、今更ながらにこの状態を呪う。

「別に大層なことなんて考えちゃいねーよ。ただちょっとした嫌がらせにはなるだろーな、って事ぐらいだ」

誰に対しての嫌がらせなのかは聞かなくても分かる。

「で、どーすんの『叔父さん』?」

わざとらしく『叔父』を強調する黒い笑みに胸焼けしそうになる。
昔はムカつくくらいに真っ直ぐな瞳をしていた筈なのに、歪んだ愛情の所為でそれが濁ってしまっていた。
この子供は兄の手で愛され護られ――そして歪んでしまった。


――それを哀れに思ってしまったのが間違いだった。


「…いいぜ、誘いに乗ってやる」

「―――ッ!?」

するりと出てきた己の言葉に、『しまった』と思うよりも手が動いていた。

強い力で、何故か驚く甥の手を掴み引き寄せる。
するとその身体はあっさりと手中に収まり、視界に黒髪が広がった。
顎に指をかけて上向かせれば、自分で誘っておいたくせにその瞳は何処か不安げに揺れている。


ムカつく人物を思い出させる黒髪。
年を追うごとに『アイツ』に似てきたと、『アイツ』を知る者なら誰もがそう思うだろう。


兄はそれを分かっていて、この可哀想な子供を溺愛している。


「言っとくが誘ったのはオメーだぞ、ガキ」


保険のような一言を告げ、そのまま有無も言わさず噛み付くように唇を重ねた――。






+++++






『後悔先に絶たず』


後悔なんざしねーと豪語するほどに、己の生きたいままに行動してきた自分が、この言葉をしみじみと思わせられる日が来ようとは思っていなかった。

流石に兄の仕事場でもある総帥室で事に及ぶわけにも行かなかったから、少し遠いが自分の艦の自室へと連れて来た。

自分の傍らには、ぐったりとした様子で横たわる甥っ子。

勿論服なんてものは最初に全て脱がせてしまったから、真っ裸の状態である。
その身体には嫌がらせとも当て付けとも言える、自分が付けた沢山の鬱血。
そしてシーツに染みる白と赤の液体。

「―――オイ…」

ピクリとも動かないが、確実に起きているだろうシンタローに声をかける。
返事はしなかったが、気だるそうにゆるゆると此方を向いた。
その顔には幾度にも伝った涙の跡。

「オメェ…嘘付きやがったな?」

全てをヤるだけヤり終えてから言う自分も自分だと思ったが、どうしても確認せずにはいられない。


触れる度に異様に反応を示し、必要以上に縋り付いて来た腕。

余裕のある顔をしながらも、始終震えていたその身体――。


「テメー、初めてじゃねーかッ!!」

バン、と大きな音と共に自分の枕に穴が開いた。
敗れた布からフワフワと飛び出る羽毛が鬱陶しい。
しかし今はそれどころじゃなかった。

「…誰も経験あるなんて一言も言ってないぜ」

言われて確かにそうだと気付くが苛立ちは収まらない。
苛々とした自分とは違い、やけに落ち着いている声。
何処か冷めているようにも聞こえるのは気のせいではない。

「…テメー…野郎が好きなのかよ?」

――誘われなければ手は出さなかった。
なのにコイツは男である自分を誘った。

ギロリと睨めばシンタローは一瞬キョトンとした後に、可笑しそうに笑い始めた。

「はッ!ンなわけあるかよ。相手すんなら女の方が良いに決まってんだろ。誰が好き好んで突っ込まれ役なんかするかよ」
――言っとくけど俺、童貞じゃねーからな。

そこまで言って『気色悪い事言ってんじゃねーよ』と、シンタローは顔を顰める。

「なら――」

『何故?』――そう言おうとした心を読んだのか、此方を見る目付きが不意に変わった。
ふざけたものではなく――やけに冷めていて、酷く痛々しいものへと――。


「どーせあと何年もしねーうちにヤられるんだ。…男だから処女もクソもねーケドよ」

――ゆらりと黒い瞳が揺れる。


「…初めてが実の父親だなんて洒落になんねーにも程があるだろ?狂ってくれと言われてるよーなモンだからな」


「―――ッ!!」

自嘲気味に笑うその姿が、あまりにも儚く見えて息を呑んだ。


「アイツ――…親父はマジで俺んコト抱くつもりなんだろうな。いつでも身の危険を感じるよ。アイツ…冗談のように振舞ってはいるけど――目が笑ってない…」

そう言ったその一瞬だけ、シンタローの瞳が泣きそうに歪んだ。
ただ、それもほんの一瞬の事で…。後はひたすら冷めた――いや、乾いた笑みを浮かべ続けていた。

「オメー、いつからそんな風に笑うようになった…」

幼い頃はそれこそ純粋に笑う子供であったのに。
こんな笑い方をするにはまだ早すぎる子供だというのに…。

「別に。『周り』の大人を見本にしてるだけだ」

「手本にするにゃー最悪な環境だな」

ケッ、と吐き捨てるように言うと、シンタローは『そうだな』と、やはり乾いた目をしながら笑った。



「…俺は未だ、狂うわけにはいかないんだ…」

「……」

何かを考え込むようにポツリと出た言葉に眉を顰めた。

おそらくはたった一人の弟の事を思っているのだろう。
それがなければとっくに狂っていると、言われなくてもその瞳がそう語っている気がした。

父親の歪んだ愛情をその身一つで受け続けてきたこの子供が、既に壊れ始めていることに兄は気付いているのか――…。


「――何故『俺』を誘った」

普段は毛嫌いをして近寄りもしなかったくせに、何故今この時に他の誰でもなく自分を選んだのだろう。
父親に対する抵抗であるこの行為に、何故父親の身近な人物である自分を誘ったのか――。

その疑問に対する答えは、あまりにも予想外の言葉であった。

「だってアンタ――俺の顔、嫌いだろ?」

「――!!」

ニヤリと笑った甥っ子のその言葉に、心臓が大きな音を立てた。

「―――ッ…」

驚いた様子を隠しもせずに、じっとその顔を見るとその瞳は先程とは違い、何故か生き生きとして見える。

「今日はよくアンタのそんな顔、見るな」

はは、と明るく笑われるが、何が可笑しいのか分からない。
悩む自分に、目の前の甥っ子はひとしきり笑った後にふと、その笑みを止めて真っ直ぐに此方を見てきた。
それは本当に『真っ直ぐ』としか表現の出来ない瞳で、久方ぶりに見るこの甥っ子の『本当』の瞳のような気がした。

「アンタだけだよ…この顔を見て、不愉快そうにした『身内』は」

フワリと自然な笑みを浮かべてシンタローが笑う。

「…なん、で…オメーはそれでそんなに嬉しそうな顔が出来るんだ」

ジワリと嫌な汗が浮かんだ。
妙に喉が渇いて、掠れた声しか出てこない。

「アンタの俺を見る目が、親父やサービス叔父さんが俺を見る目とは違うから」

「―――!」

考えないようにしていた事を、ズバリと言い当てられた瞬間だった。

「はは、またその顔」

固まる自分に、シンタローは困った顔をした。
そしてまた瞳を揺らし――いつもとは違った重い空気を乗せた声で小さく呟いた。

「…俺が気付いてないとでも思った?」

「シンタロー…」

静かすぎるその声に、何も言えずにただその名を呼ぶ。

「俺を愛する事で俺じゃない誰かを手に入れようとしてる、俺にとっちゃあ重荷でしかない愛情より、アンタの真っ直ぐな怒りの方が、俺には心地良いよ。…なあ――アンタ達は俺を通して誰を見てるんだろうな?」

そう言うシンタローの瞳には、誰に対する怒りも持っていなかった。
ただ――『仕方がない』と言って諦めてしまえる、そんな虚しい大人の顔をしていた。

その瞳は痛々しいどころのものではなかった。
諦めを選ぶにはまだ子供である甥が、大人以上に全てを悟った顔をして諦めを見出してしまっているのだ。


今更ながらに深く後悔した。
コイツのどこを見て、『アイツ』に似ていると思ってしまっていたのかと――。


「…なぁ」

ゆっくりとした動きでシンタローの腕が伸びてきた。
身体を動かす事が辛いのか、時折顔を顰めている。

「…なんだよ?」

その弱々しい腕を掴んでやると、思っていたよりも冷たくなっている事に気付き、舌打ちしながら身体にシーツをかけてやる。

「アンタ、そんな顔するヤツじゃねーだろ?…いつもみたくムカつく顔で笑えよ」

心配そうに自分を見ながらそう言う子供の想いが痛かった。
自分の方が傷付いているくせに、他人の事を気に出来るこの子供があまりにも痛々しすぎる。

「…そりゃーこっちの台詞だ、クソガキ」

声が震えるのを押さえがなら、何とか言葉を紡ぐ事に成功した。

「え~、俺?笑ってんだろ、ホラ!」

ニッと口元を吊り上げるその笑みは年相応だ。
しかし――。

「ばーか、目が笑ってねーっての」

その瞳を見るのが苦しくて、誤魔化すように頭を掴みぐしゃぐしゃにかき混ぜた。

「何しやがるッ、ナマハゲっ――痛ッ!!?」

自分に反撃しようと、シンタローが身体を浮かせた瞬間にその動きがピタリと止った。

「馬鹿かテメーは。当分動けねェって言っただろーが」

不慣れな様子におかしいとは思っていたが、苛立っていた所為もあり全く手加減なしで抱いてやったのだから、今のシンタローが起き上がれるはずはないのだ。

「聞いてねーッ」

キッと涙目で睨まれる。

「そうだっけか?そりゃー悪かったな。個人差もあるだろうがな、初めてじゃ相当腰に負担がかかってるだろーから今日一日は起き上がれないぜ」

「今更言うな!!」

「聞いてねーって言ったからわざわざ説明してやったんだぜ?ありがたく聞いとけよ」

恩着せがましくそう言ってみると、甥っ子は吐き捨てるようにクソッたれと悪態を付く。

「ちくしょー…せっかくの休みが台無しだ」

膨れてシーツに顔を埋める様子に苦笑する。

「こーゆーことになりゃあ一日使いモンにならなくなることくらい、予想しなかったのかよ?」

「女は普通に動いてんじゃん」

「そりゃーオメーが下手だったんだろ?」

腰が抜けるほどヨくなかったってことだ。
もしくはオマエのブツが小さすぎて満足できなかったか――。
(ちなみに『今は』そこそこ大きいとは思う)

『何でだよ?』と聞かれて、つい本音を口にしてしまう。

しまったと思った時には、シンタローの顔に青筋が浮かんでいた。

「…動けるようになったら…ぶっ殺ス」

「腰抜かしたガキンチョが何を言ってやがる」

返り討ちだと額を指で弾いてやると、シンタローは『ちぇッ』と面白くなさそうにそっぽを向いてしまった。
もっと怒るだろうと思っていたから、正直拍子抜けした。


拗ねたその様子は、先程の重い空気を感じさせずに安堵する。
初めて見知った甥の本当の姿を、自分以外の誰かが見たことはないのだろうと、その事実が何処か哀れに思う。


長くなり始めているその黒髪に、自分がアイツの影を見ることはもう二度とない。


だが、兄や弟達は――。



「おい、シンタロー」

そっぽを向いたままの髪に手を伸ばして、そっと指に絡ませてみる。

「…ナンダヨ」

振り向かないままでシンタローは返事をする。


「オメー、俺んトコに来るか?」


偽りのない本心からの言葉だった。

今なら未だ間に合う。
兄が本当にこの子供の心を壊してしまう前に、救い出してやればコイツはコイツのままでいられる。

だが、それに対しての甥っ子の答えは予想通りのもので――。


「俺はまだ、逃げられねーよ…」


それは小さく、消え入りそうな声だった。


「そうか…」

「ああ…サンキュな」


髪に絡ませた指を一旦ほどき、今度は先程とは違い優しくその頭を撫でてやると、シンタローはそっと振り返り、哀しいまでに綺麗な微笑みを浮かべた。



「アンタはもう、『俺』を『俺』として見てくれてんだな」


――それが嬉しいと甥っ子は笑う。



「やっぱりアンタで良かった」

「?」

「『初めての男』」

そう言ってニコリと笑ったシンタローに、何故か胸がドキッとした。
そんな人の心情を知らないで、シンタローは話を続ける。

「なぁ…また誘ったら、アンタは相手してくれる?」

「…突っ込まれんのは趣味じゃねーんだろーが」

「アンタならいーや」

『何言ってやがる』と呆れた顔をして見せた自分に、予想外の甥っ子の言葉。
それは冗談ではなく、純粋にそう思っているのが伺える子供らしい分かりやすい表情で――。

「~~~~~ッ」

思わず頭を抱えてしまった。
不快に思えない自分がおかしい。

「なんだヨー、嫌なのか?」

頭を抱えて唸る俺の行動がおかしいのか、シンタローは楽しそうにクスクスと笑っている。

「それにさ、アンタなら簡単に死なねぇじゃん?」

人の考えなどお構いなしで喋るシンタローのその言葉の裏には、『親父相手でも』という意味が隠れている気がした。

「勝手に殺すな」

クソッと舌打ちをする。
一言『お断りだ』と言えば済む話だというのに、自分の頭はそれを言う事を拒否している。
それはどういうことなのか――。

今日という日に本部に戻ってきたことを後悔してみるが、今更どうしようもないのは事実。

チラリと視線を横に向けると、子供の顔で明るく笑う甥の姿。

人の事を『ナマハゲ』と呼び、悪口を言いまくっていた可愛げのない――だが、先程までの死にそうな面よりも百倍は良い、子供の顔。


「な?俺の相手しろよ」

内容が内容だが、おそらく本人にとって身体を重ねる事など『オマケ』程度にしか思っていないのだろう。
コイツが望んでいるのはそんなことではなく、『シンタロー』自身を見てくれる相手がいると言うこと。

そして間違いなく分かる事は――その相手が他の誰でもない叔父である俺―ハーレム―を指していると言うこと。

「…俺になんのメリットがあるってんだ…」

深い溜息が零れた。
そんなものは考えたって無駄だとわかっているのに。
自分はもう、この子供に囚われ始めている。

「え~?じゃあ『愛しの叔父様v』って呼んでやろーか?」

ふざけた口調にげんなりする。
どこぞの誰かのように呼ばれる姿を想像し、鳥肌がたった。

「ヤメレ」

「…じゃあ、やっぱり駄目なのかよ?」

楽しそうだった表情が一瞬にして曇った。

「誰もンなコトは言ってねーだろ。…仕方がねーからな、お子様の子守はしてやるよ」

「――!!」

不安な色を浮かべるその瞳が気に食わなくて、それを早く違うものにする為にそう言ってやると、一瞬にしてその表情が明るくなった。

「まぁ…だからよ、あんま兄貴には近付くな?」

兄の行動は止めようがないから、言っても無駄だろうが一応釘を刺しておく。

「…おう!」

笑顔で素直に頷くシンタローの頭をヨシヨシと撫でながら、なんだかんだと言って、自分は結構面倒見がいいのではないかと思った。




「しかしなぁ…どーすっかねソレ」

「?」

何が?と首を捻るシンタローの身体には、所有印とも言える鬱血が山ほど付いている。
勿論さっき自分が付けたものだ。

「すぐに消えねーの?」

「すぐに消えたらどーするかなんて思わねーっての」

やれやれと溜息を付く。
最中は頭に血も上っていたし、何よりもふざけた兄に対する嫌がらせの意味もあって、無我夢中で付けていた。それが今になって後悔する事になろうとは。

「いいじゃんこのままで。人前で脱がなきゃいーんだろ?大丈夫だって」

「他人事のよーに言ってんじゃねーぞオメー。兄貴に見つかったらどーすんだ」

「親父の前でも脱がなきゃすむ話だ」

元々脱ぐつもりなんてないし。
そう言ってシンタローは一瞬だけ辛そうに顔を顰めた。

「簡単に言ってくれるな」

「まぁもし見つかったりしたら――そうだな、素直に言うか」

「――は?」

サラリと言われた爆弾発言に目を見開く。

「『ハーレム叔父貴とお付き合いしてマスv』って」

ニヤリと笑う甥っ子に眩暈を覚える。

「テメーなぁ…」

自然と声が低くなるのは仕方のないことだろう。
しかし、そんな脅しもこの甥っ子には全く効かないらしい。
髪を撫でたままの俺の手を掴み、その甲にそっとキスをして――


「せいぜい親父に殺されないように頑張んな?」


嬉しそうに――そして挑発的に不敵な笑みを浮かべた。

そして自分はと言うと――


(ヤベェもんにハマっちまったな…)


思わずその笑顔に見惚れてしまい――素直にそう思ってしまっていた。






問題は山積みだが、この子供が救われるのなら暫くの間見守るのも悪くはない。


その役目を負うのが自分しかいないのならば尚更の事。


どうかこれ以上傷付く事がないように。


これ以上壊れる事がないように――。






END


2006.05.05
サイトUP 2006.08.19

fsf
15.偶然






最近全然会っていない。
誰にかと言うとキンタローにだ。

俺の遠征には大抵くっついてくるキンタローだが、今回は研究会と重なってしまい其方の方へ行ってしまった。
キンタローは俺の補佐を勤めてるとはいえ、一人の研究員だ。
どちらかと言えば補佐の方が副業なわけだから、そっちを優先したところで俺はとやかく言うつもりはない。
別にガキじゃねーんだし、数日会えないくらいで『寂しい』と思うつもりもなかった。


しかしだ。
会えない日が、二週間ともなると話が変わってくる。


当初研究会が終われば、俺の後を追うと言っていたキンタローだが、突然それが出来なくなった。
プログラムにバグが出たとか言って、結局キンタローは本部に留まることになってしまったのだ。

仕方のないことだから別にいいかと、俺だって最初は思っていた。
どうせもう少しで自分も本部に戻るのだ。
帰ったらきっと疲れているであろうキンタローの為に、美味い食事でも作ってやるかと意気込んでもいたんだ。

だが――。

帰ろうとした矢先に、取引先の相手に引き止められる事になってしまった。
理由は『五日後にある祭りを是非見て行って欲しい』というものだった。
勿論俺は角が立たないようにやんわりと断りを入れてみた。
しかし相手側は、世話になった礼にどうしてもその祭りを楽しんで貰いたいのだと言って聞かなかった。
どうやらその祭りは五年に一度しかない祭りらしく、『是非』と懇願されて――俺は折れてしまった。

取引先の頭領とも言える男には小さな子供がいて、何故かその子供に気に入られてしまった俺は、その子供からも『一緒にお祭りを見ようよぅ』と言われて、断る事が出来なくなってしまった。
何故ならその子供は、未だ眠り続ける大切な弟と同じくらいの年齢で――俺はどうしてもその子供の望みを叶えてやりたいと思ってしまったのだ。



まぁ、そんなわけで――…。
一週間だった滞在が、それに五日増え、それプラス本部までの往復日数を足すと丁度二週間になってしまった。

南国のあの島から戻ってきて、これだけの間キンタローと離れていたことは初めてだった。
まだ打ち解けていない時ですら、気付けば視界に入ってきていたキンタローに二週間も会っていない。
そのせいもあり、俺は滞在している間にしょっちゅうキンタローの事を思い出していた。

是非にと言われて見た祭りは、言われるだけあって素晴らしい物だった。
温かな子供の手を引いて、色々な所を歩き回るのは楽しかった。
でもそんな中でも思うのはキンタローのことばかりで――。

キンタローと見て廻りたかった。
キンタローにも見せたかった。

そんな思いばかりが胸の中にモヤを作っていた。
とにかく俺は自分でもよくわからないが、キンタローがいないと何かが足りない気がして落ち着かないのだ。
当たり前のように傍にいたヤツがいないのはすっきりしない。

――俺ってこんなヤツだったか?

そう思ってもおかしくないくらい、キンタローのことばかり考えていた。
だから帰りの艦の中でも、『もっとスピード出せ』などと無茶な事を言ってどん太を困らせてしまった。



「シンタロー総帥に敬礼」

本部到着後。
いつも通り大袈裟な人数での出迎えに、内心呆れながらも隊員達に目を走らせて見るが、案の定その中にキンタローの姿はなかった。
『お疲れ様です』と出迎えたティラミスにそれとなく聞いてみると、どうやら研究室にほぼ缶詰状態でいるらしいことがわかった。

一目でも見れば多分すっきりするだろうから、すぐにでも研究室の方へ足を向けたかったが、自分は総帥である以上帰ってくるなり好き勝手な行動を取るわけにはいかない。
とりあえず片付けるものを片付けてしまわないと、自由になれない。
ならばさっさと片付けるまでだと、俺はひっそりと溜息を付いて総帥室へと向かった――。



+++



「シンタロー様、本日はお疲れでしょうからもうお休みになられては?」

チョコレートロマンスに声をかけられて、時計を見ると時刻は既に二十時を回っていた。
帰ってきたのが夕方だったから、五時間近く書類に集中していたらしい。
ちょっとのつもりだったのにとんだ誤算だ。

「…そうだな、今日は止めにすっか」

ん、と背伸びをして席を立つ。
途中でコーヒーを何度か飲んだが、流石にそれだけで腹が膨らむ筈もなく、俺の腹は空腹を訴えていた。
…今から作るか?
そう思って、それも面倒だなと思い直す。
一人で作って食っても美味くないことはよくわかっている。

「そーいやキンタローはメシ食ったのか?」
ふと思う。
缶詰状態だと聞いたから、きっとグンマや他の研究員達が差し入れの一つや二つしているだろうが、キンタローは熱中すると周りが見えなくなり、食事をしないことがざらにある。
いつもであれば、それに気付いた自分が何か作って持って行き、無理矢理にでも口に入れるのだが、今回は離れていたのでそれが出来なかった。
「…ちゃんと生きてるだろーな」
急に不安になる。
「…様子、見てみるか…」
予定よりも大幅に会いに行く時間がずれてしまったが、顔を見るくらいならば邪魔にならないだろう。
そう思って俺は一族の住居地区とは逆の方向に向かって歩き出した。


キンタローに会ったらとりあえず『ただいま』を言おう。
アイツはそういう挨拶をやけに気にするから。
そうすれば絶対に『おかえり』と返してくれる。

自分の『ただいま』を言う相手がキンタローであることが嬉しい。
早く『おかえり』と言って欲しい。
そうすれば会えなかった二週間の隙間があっという間に埋まるだろうから。

(――なんか俺、恥ずかしくねェ?)

なんでたった一人の人間に会おうとしているだけで、こんなにわくわくしているのだろう?
この感覚は、昔遠征に行った父親が帰って来る時に感じていたものに似ている。
自分にとって大切な人に、久しぶりに会える喜び。
会う寸前まで胸が高鳴る楽しい時間。

(…ま、いっか)

会いたいのは本心だし。
会えなくて落ち着かなかったのも本心だし。
…本当は帰ってきて一番に会いたかったという想いも本心だ。

『ただいま』と言って『おかえり』と言ってもらって『いつも通り』に戻りたい。

「俺の帰る場所だからな!」
『うん』と、自分に納得させるようにして深く頷いた。
見慣れた通路を歩き、研究室に直行しているエレベータへと足を運ぶ。
この通路を左に曲がれば目的地だ。

と、そこへ――。

ピンポーン♪
エレベータの止まる音が聞こえた。
本部の堅苦しいイメージに不似合いなその音は、ヤメロと言ったのにグンマが無理矢理設定したものだ。

(研究員か?)

研究室から直行のエレベーターだから、おそらく研究員の誰かだろう。
ついでだ、そいつが降りたらそれに乗ってキンタローに会いに行こう。
そう思って誰かが降りてくるのを待つ。
と言っても、エレベーターを降りた瞬間に総帥が立っていれば、いくら団員とは言え一般の研究員には刺激が大きすぎるだろうから、その事を考慮して通路の端から俺はこっそり覗き見している。

――正直な話、ただ俺自身が疲れていて、誰かと話すのが億劫なだけだったりするが。

シュン――エレベーターの扉が開いた。
中から人影が現れる。

「――!!」

俺は思わず目を見開いた。
何故ならエレベーターから出て来た人物が、会いに来たその人であったからだ。

キンタロー、そう呼ぼうとして思い止まる。

久しぶりに見たキンタローは少しだけやつれているようだった。
やはり食事をきちんと取っていないのだろう。おそらく睡眠も。
俺が同じ事をしていると物凄く怒るのに、勝手なヤツだと思う。
だが、それよりも――。


(すげーな!マジで偶然ってあるもんだ!!)


まるで示し合わせたかのように、キンタローに会えた事が嬉しい。
一目見れただけで、心のモヤが一瞬にして晴れてしまった。
ずっと会いたかった自分の半身。

自分の事ながら現金だと思ってしまう。
それでも会えたことがやはり嬉しくて。



「キンタロー、偶然だなッ!今から戻んのか?だったら一緒に帰ろうゼ!!」



俺は自分でも驚く程に明るい声を出して、意気揚々とキンタローの元へと駆け寄った――。






END


2006.10.23

…むー…イマイチ消化不良…(苦笑)。
UPしようかどうか悩みましたが、最近更新出来ていないのでとりあえず…。
いつか修正したいなぁと思いつつ…。

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