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perfect blue







    ねえパパ。誕生日、何が欲しい?

 物心ついた時から毎年繰りかえされた俺からのクエスチョン。
 対する親父のアンサーは常にひとつ。

    おまえのくれる物ならなんだってv

 …って、馬鹿のひとつ覚えかっつの。
 そういう答えが返ってくんのはわかりきってたけど、今年もきいた。
 別にこんな質問、しなくたってよかったんだ。
 いやむしろ、その一人ツッコミをしたいから、きいたようなもんだった。
 …逃げ場をつくる言いわけなのは、マジックだってわかってただろうけど。
「…なんか、欲しいもん、あんの? 誕生日」
 おやすみのあいさつ。
 唇の触れない、かるいAir Kissをして。
 しどろもどろにきいたのは、あの視線をみつけたから。
「ああ、」

 最近、時々。
 不思議とマジックは、こういう目をするようになった。
 あの青、どこか冷たくこわく感じていた青は、ふと気づくと炎のようにゆらめいた青色をしてる。青いのに、熱い。
     見てはいけない。
 とっさに思うのはその言葉で、何故いけないのか、警鐘を鳴らすのは自分の中のなんなのか、いまだ理由はわからない。
 ただ、ひきこまれそうで。
 “それ”から逃げろ逃げろと、思ってしまう。
 今までみたいな怖いとか嫌だとか、気持ちとか感情が追いつく前に条件反射で。思うコレと、思わせるまなざしはなんだ。
 転ぶ前に手をつくとか、反射運動のひとつみたいな?
 それとも本能ってこういうもんか。

「ごめんね、シンタロー」
 あやまる言葉をつづけて俺の頬をつつんだふたつの手のひらの、さらりと乾いた感触も、ゆれたその瞳も。
     ああ。
 嘘だ嘘だ。
 重ねられたくちびるが熱くて、胸がぐっと苦しくなる。
 親愛なんてとっくにすぎてるじゃないか。
「シンちゃんの、ぜんぶが欲しいんだよ」
 はじめて知ってしまった。


 こんな、たましいのふるえるキスを。


 今までの、嘘を。


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余計な鎖


You're so fucking special
I wish I was special








 Tokyoに初めて来た時の事だ。
 その頃の俺はシンタローと分化して暫くというぐらいで、シンタローの内に抑圧されていた時のような、シンタローというフィルター越しの世界と違う、よりリアルで新しい“体験する事”を新鮮に感じていた。
 回数は、まあ多くはないが少なくもない程度に、請われれば。その程度だ。

 ただマジックを交えて、というのは初めてだった。プレジデンシャルスイートの密室で初めて3人で、初めてづくしで東京の思い出にはなるな、と頭の隅で思っていた。…こういう時は善し悪しは別として、と加えておくのが文法上正しいか?
 否マジックを交えて、というのは誤謬かもしれない。マジックがいればシンタローはマジックとやる、俺が二人の行為に交じるのが初めて、それが正しい。
 シンタローが俺と欲を吐き出すのは大抵、マジックがいない時。シンタローのパターンだと、ある程度の回数のうちに俺はそれを理解していた。

 未分化時の俺をどう表現すればいいのだろう。
 多重人格者の説明のように、ステージに出たり引っ込んだり、というのは分かりやすい表現だ。真っ暗な世界の中、スポットライトで一点だけ照らされた、丸く光で切り取られたかのような人格のステージ。そこに二十数年立ち続けたシンタローと、シンタローの演技を闇から見続けた、永遠に出番の回ってこないバイプレイヤーでもありオーディエンスでもある俺。ステージ上のシンタローが語り、感じ、どう行動するか、シンタローを見てシンタローの世界を推測し理解する、それの繰り返し。だからこそ俺は、唯一の存在だったシンタローをただ憎んだ。俺達の状態を仮に“ステージ”と言ってのけるとしたらそういう事だ。シンタローと俺が共有している部分を、こころと称してしまえば確かに分裂しているのだろう。
 そして真実俺達は永遠に分かたれた。Till death do us part,死が2人を別つまで、なんて道徳的な誓いを立てた事もこれから立てる気も一切ないが、兎に角俺達は生きて俺達になり、取り敢えず今は道徳観念からかけ離れた一室にいる。

「んっ……んっ…んっ…んうっ」
 突き上げられる快感は、俺の身体にも残っている。シンタローを追い出す前からこの身体は、今同じベッドにいる血縁のこの男に、とっくに穿たれているからだ。これは分裂と並べた表現では事足りぬ感覚だろう。…ああ、やはり違うな、人格のステージなんて表現では言い切れない感覚もあるか。そう、確かに共有もしていた。主人格だからという問題ではなく、お互いが覚えている。否、共有している事もある。…面倒な。
 くぐもったシンタローの喘ぐ声は後ろから責めたてる俺の律動に揃えてあがる。
 シンタローが喘ぐのは俺も責任の一端ではあるが、その声がくぐもっているのは俺のせいではない。
「苦しいようなら、こっちは少し休もうか? シンちゃん」
「んっ。…や・ぁっ!」
 早速とした息苦しさに笑ってマジックが怒張する自分自身を口に銜えこんだシンタローの顔をあげようとしたが、唇から離れようとするそれにシンタローは頑是なく追いすがった。
 再び深く銜えられ、これでもかというばかりに、ぢゅッ、と音を立ててきつく吸い上げられて思わずマジックも息をのむのが分かる。そんな2人を間接照明の薄暗さは俺の目の前に淫靡に映しだしている。
「いつも、こうなのか?」
 腰の動きを休めず俺が訊くと、マジックも欲情したまなざしのままで笑って見返してきた。
「いや、3人でなんて初めてだよ。随分…シンちゃんはお気に入りみたいだけど。…キンちゃんとはいつも3人で?」
「いや、俺も初めてだ。…俺が訊いたのは、シンタローが伯父貴とする時はいつもこんなに興奮しているのかという事だ」
「フフッ…君らのいつもっていうのがどんなのか、聞いてみたいねぇ」
「ん…そうだな…」
 いつもの感覚を思い出せるように、動きを止めてみると、シンタローの舌の動きだけが部屋に響いた。
「さして、自慰と違いはないだろう。独りでもやれるが身体が2つあるんならお互いで吐き出したほうが感度が増すだけ手っ取り早い」
 言うとマジックは少し呆けた顔をした。
「だからこんな風に貪欲なシンタローは初めて見る」
 俺が生真面目に正直な感想を言うと、シンタローはヒクリと少し反応しただけで押し黙ったまま、マジックは少しだけ我慢をしてすぐに堪えきれずに肩を震わせて笑った。
「…他には?」
「……あんまり熱中しすぎてイク時には目を閉じて『父さん』って言ってる」
「! ンな事っ……ぐッ!」
 これには異議ありだったのか、シンタローが抗議の声をあげようとしたがマジックに頭を抑えこまれて思い切り喉をついたようだ。
「それはそれはそれは…いー事を聞いたv」
「あとは……酔った拍子に俺は男でも女でも金髪碧眼としかやったことがないとか何とか。随分と自慢気に喋ってたな…。代償行為だと俺は分析しているんだが」
「    !     ッッ!」
「そうなんだ? ところでシンちゃんはキンちゃんに動いて欲しいみたいだねェ」
「そうか? やはりいつもと違うな」
 俺の下で暴れるように藻掻いているシンタローの意図をマジックに言われて成程と納得すると、俺は途中だった自分の快感に再び没頭し始める。
「嬉しいよ」
「うる…っへ…! あ、は……んん!」
「ね…、キスしよっか? シンちゃん。…ん?」
 俺とシンタローの荒い吐息にマジックの睦言が続く。シンタローの形にならない抵抗も、煽るだけだとどうやら2人とも、シンタローさえも理解しているようだった。口淫をキスに変えて、悔しげに言葉を紡いでは喘ぐシンタローの狂態と、更に更にと煽っていくマジック。
 異様に興奮している2人の様は、段々と俺の理性をも侵してくる。
 慣れた、上りつめる感覚。
「   うアッ!」
 先にイッたのはシンタローだった。いつもより早い絶頂の、ひどい痙攣じみた締めつけに俺の視界がざらつく。…やばい。
 やはり、いつもよりも何と言うか     色々と、凄い。
 思った瞬間、呻いて一気にシンタローの中に吐精した俺は、汗だくの身体をベッドから引き離してふらりと窓際のソファに沈む。
 火照った体が自然と涼を求めていた。
「おや、続けないのかい? 3人揃うなんて折角の、滅多にないシチュエーションじゃないか」
「いい。少し   見ている」
「そう? じゃ、見えるように?」
 汗に濡れてぐったりしているシンタローの背を抱えると、マジックは自分の膝の上に引きあげた。シンタローの背中といたずらに笑っているマジックの胸がぴったりと重なる。
 ああとても楽しそうだ、俺は息を整える。
 マジックがちらりとこちらを見て、両手でシンタローの腿に触れて脚を開かせた。
「…シンちゃん。パパだよ」
「……あ、…ァ…」
 瞳を閉じたまま、囁かれてシンタローが眉を寄せる。触れてもいないのにあっという間に再び熱を持ち始めるのが此処からでも見てとれて、先ほどの興奮が醒めてしまった俺は呆れて、そして感心した。
「…すごいな」
「ん?」
 自分では知らず呟いていたようで、その呟きに快感に耐えているシンタローに降るようなキスを与えるマジックが答えを返してくる。聞かれているとは思わなかった。蕩けきったシンタローに比べてマジックの方はまだ余裕という事か。
「いや…すごい反応だな、と。……伯父貴に囁かれただけで勃つ、シンタローのそれは一体なんだろう、本能とでも言うやつか?」
 もしくはPavlov's dogs。条件反射。理性で抑えられぬ犬のそれと同じ調教か。
 探求心むき出しの俺の言葉に、何故かマジックは幾分表情を和らげた。
 それから汲み取れる感情を言葉にするなら、切ないとか、哀しそうな、が適当だろうか。または憐憫。…誰に? 俺に対する?
「そうだね。…でも、」
「んっ…ッ」
 ひとつ、唇を重ねた。余裕もなくシンタローの腕がマジックに絡みつく。
「…愛だといいなと、私は思うよ」
 そう言った後にマジックがシンタローの耳元で囁いた言葉は聞こえなかった。
 けど、続いたシンタローの反応でなんとなくわかったような気になる。
 多分、いいことなんだろう。



 俺にもこんな、どうしようもない部分でまで愛せる誰かができればいい。
 思って、ふと窓の外を見た。

 孤独とはこのようなものかな、初めて思った。
















ゴキゲン







「はぁ~いここからは、エロエロティック・タイムでェす」

「埋めてやるから死んでくれ」

「え~いいじゃないか~。遊ぼうよ」

「仕事中」

「だってもうこれ一つで終わりだろう?」

「…アンタなあ、本気で俺に引き継ぐ気ィあんのか? サポートするっつーからここん所ずっと一緒にいるけど碌に仕事しねェじゃねーか!」

「SMごっこをしよう!」

「………」

「うんあの頸椎ヒットは痛めかななんてはっはっは。シンちゃんがSでいいヨ!」

「あぁ?」

「シンタローのSはサドのSでしょ。パパのMはマゾのMでしょ。ホラぴったり!」

「SはMを埋めてもいいのか?」

「はいはいシンちゃんパパのお膝に座って~! 人間椅子だよ!」

「聞けヨ」

「肉椅子! 家畜人ヤプー! あ、ヤプーだとシンちゃんがMになっちゃうね!」

「……」

「ヤプーってねー未来の話でねー。日本人が白人美人の、んーなんて言うのかな…ぶっちゃけ性隷? こう色々肉体改造とかしちゃってねーェ」

「知ってるよ気色の悪ィ……。アンタの本棚なんなんだ」

「おや、どうしてパパのコレクションをシンちゃんが知ってるのかなァ?」

「う。ッ…不本意ながら。ガキん時に単なる興味で親父の本棚見たんだよ!」

「はっはっは。シンちゃんたら・エッチ★」

「…やってやろうじゃねェの。縛って叩いて磔か? どれからだ?!」

「だ・か・ら。はい膝の上! よぉーしパパ頑張っちゃうゾー」

「…はー………仕事するんだから喋るなよ。黙ってろよイス!」

「わーいv」


 *****


「親父…あのさあマジな話、」

「んー?」

「本気で意味がわからない」

「んー♪」

「単にソファに座ってるアンタの上に座ったこれの、どッこがSMなんだよ! もっとこー器械体操のピラミッドの体勢とか、あンだろ乗られて苦しい格好がよ!」

「んっふっふー♪」

「しゃ・べ・れ。コノヤロウ」

「酷いなァ。黙れって言ったのはシンちゃんじゃないか~。仕事は? いいの?」

「あー……も・いいや。方針は決めたから、どっちにしろ明日キンタローたち招集して草案練るしな……親父も責任とって叩き台の3つや4つ、根性で出せヨ!」

「OK! パパはシンちゃんの責任だったら幾らでもとるさ! じゃあまず結婚しようか!」

「じゃあの意味がわからない。つーか普通のイスにシートベルトはアリマセン。手ェど・け・ろ・よ! この、馬鹿力!」

「え~だって、仕事終わったんでしょ?」

「チッ…………SMぅう~~~?」

「まあまあ。そんなイヤそうな顔しないで。シンちゃんの好きなようにしていいからさv ね?」



「~~~~手、どけろって。…    そっち、向くから」








2003.12.20. BGM:マジックの憂うつ

シンちゃんは幼少パパの蔵書を読みかけましたが
きもち悪くなってやめました。不審感つのるつのる。






「……ご主人さま、」
 ソファの上で、マジックの両脚を跨ぐようにして俺が見下げた光景。
 顔を近づけてほんとうにギリギリのところで熱っぽく呟いたマジックの唇が、俺の唇をちらりと掠めたのに、うわ、と思いながらキスをした。
 初めて呼ばれるその響きに、ぜんぜん慣れていなくて、一気に熱があがった。
 こういう、ちょっとしたところで煽るの巧いよなァ。
 何だか口惜しい思いでゆるりと開いて待っていた口中に舌を伸ばして触れても絡めてこない舌先に、あ、ホントにマグロだ。と思う。
 …Mってマグロの事だったか? ホントにってなんだよ。
 つか、俺主導のキスって。
 これもあんまり、ない。つーか、ない? え、なかった? いやまさかンな事。
 変なところで男の沽券にぐるぐるしてしまう。まだキスの途中だ。
「……俺の好きなように、って?」
 唇を離すと目を合わせるのが忌々しくて、ぎゅ、と強く首に腕を回して確認する。
 …あんまり抗わないから、このまま絞めてしまえるんじゃないかとさえ思った。
「うん」
 頷く感触に、ぞくりと肌が粟立った。ああこのひとが好きだ。
 理窟なく、埒外に。唐突に思う。
 好きなようにって、何だ。好きなのと好きなようにと違うのか。それって俺が今まで好きなようにやってきてないって事なのか。好きな気持ちと好きな行為は違うのか。俺だってちゃんと好きなようにやって、
 っいやいやいや待て待て何だその恥ずかしい考えはッツ!
 頭の中でぐるぐるしすぎて親父を抱きしめたままでいると、俺のとっくに張りつめてしまった部分を一度だけ、撫ぜられた。
 うっわ俺、段取り悪ぅー。
「触れよ」
 しなきゃそれ以上動かなそうだったので、憮然として命令を、した。
 …されたほうは命令だかゴネられたんだか、どう受け取ったかは知らねェけど。
「Sir.Yes.Sir.」
 軍隊なんか統率した事はあっても入った事なんかないだろうに、そう嘯く親父に、ヂ、とファスナーを下ろされて解放され。
「ッ……ゥ…」
 つ、と親指が先端を縁取り撫ぜていく。
 身体の芯の、腰のところ。にぶく重くなるような。
 直接キた快感に眉を寄せた。
 どうされても気持ち良く弄られている自分をうっとり眺めていたのに、視線を感じて顔をあげると嬉しそうな眼があって、瞬間、瞳を伏せた。
「…見てんじゃねぇよ」
 親父の余裕に対して、こっちはなんだかものすごく分が悪い気がする。
 視線を遮るように膝立ちして、マジックのさらさらの金髪を抱えて、唇を合わせた。最中いつもされているみたいなキスじゃなく俺の好き勝手に、キス。
 静かだなあと思うのは、やってる時にいっつも親父が色んな事囁いてくるからだろう。なんて言うか、アイシテルとかスキダとか、親父みたいな事は絶対言いたくない俺主導だと黙々とただ単にやりたい情動だけでやってるだけ、みたいな感じでちょっと複雑な気持ちになった。
 …言葉責めがイイって話じゃないんだが。
 舌にやわく噛みついて引っ張りし出してみたり、唇を重ねるだけだったり。
 ずっと舌を絡めているような濃厚なのじゃない、遊びのようなのを繰り返すのは、俺が子供っポイっていうんじゃなくて。
 ずっとなんてしてたら息が苦しいからであって。
 キスの合間に息をする。
 その間に親父の瞳を至近から覗き込むと、まばたきの先には欲情の色しか見えなかった。煽る手の動きと、キスと、呼吸と、キスを重ねる毎にリズムが重なってきているから、きっと向こうから見ても自分の瞳も同じように欲情しか映していないんだろう。
 そういうキスを繰り返す間に親父は俺の腰が上がっているのを良い事に、下を全部脱がしてしまった。
「   」
 蕾に直に触れられて、すぐ近くの予兆に身奮いしたのに、マジックの指は犯す事なく入り口を行き来する。
「どれが、」
「あ…?」
「どの指入れて欲しい?」
「…! このっ…言、えるかよッ……」 
 欲しくて疼くのは確かだけれど。言いたくないものは言いたくない。
「ちゃんと教えてくれないとパパ分からないなー?」
 くそ、好きなようにしていいって言った癖に! 嘘つき親父めっ!!
 親父の揶揄に頭に来て、今まで寄せていた身体をがばっと起こして蕾を玩ぶ手を引きはがした。腹が立つセリフにすら頭がジンジンする。
「~~~っ俺の好きにしてイイんだろっ!?」
 言い放って中指の爪先に齧りついた。
 マジックが痛みに顔を鹿爪るのを様ァ見ろとしっかり見届けてから飲み込む。爪に喉の手前を引き掻かれて少しだけえずいたが気にしない。続けて人差し指にも噛みついた。
 マジックの眉根の皺が強くなる。
「まったくもって沈黙は金、だねェ。……2本も欲しいんだ?」
 それなのに楽しそうな声音でずばりと指摘されて頬が熱くなった。
 む、ムカつく…!! 
「大体てめえがムリ言うから…ッツ!」
 身包み剥いで喰い尽くしてしまいたくなった。
 感情に任せて勢い引っぱると2人でソファから転がり落ちて、乗り上がる。
 ベッドまでなんて、とてもじゃないが遠すぎて気持ちが間に合わない。
 生憎、ひどく気分が高揚していた。

















くちなしの花







 議定書の原稿にシンタローの決をもらおうと、総帥室に向かった。
 部屋の前では秘書が事務仕事を片づけていたが、俺に気づくと、キンタロー様、と起立する。見知った相手でもある、いつものように俺はかるく手を挙げてそれを制すと、デスクに歩み寄ってシンタローに用がある旨を短く告げた。
 勝手知ったる場所なので案内の必要もない。秘書の先導も断り、何とおりもある下書きの束を持って、総帥室の扉を開いた。

「あっ…は…ぁン!」

 扉を閉めた。
 なんだ。どうして今、扉を閉めたんだ俺は。何故だ。
 理由はあれから既に数秒、経過している今ならもちろん見当がついている。
 扉を開けた瞬間、視覚は眼前に立てられている衝立で遮られていたが、ひときわシンタローの声がフロアに響いたからだ。わかっている。だが考える前に身体は行動していたぞ。何故だ。倫理観? 俺に、この俺に?
 …興味深い。
 ふと秘書の様態が気になって振り向いてみると、ぽかんと口をあけているのが見えた。俺と目があったのに秘書は狼狽えたが、それも少しの間で、また自分の仕事に没頭しはじめる。成る程、と思う。
 つまりよくあることなのだと、推察しておこう。
 知らないこと、わからないことは面白い。
 仕事中でも平時でも臨時でもそれは変わらない。
 好奇心猫をも殺すと言うが、猫でもないので平気だろう。
 と思って、再び扉を開いた。
 一段と毛足の長い絨毯に、踏み入って靴底を沈める。
 かすかに甘い芳香と、情交に喘ぐ声が満ちた部屋へ。
 背後で秘書があわてて椅子を蹴って立ち上がる気配がしたが、俺は彼に声を出される前にさっさと入室して閉めてしまう。
 あの調子だと俺が(否、俺も、か? 否仕事中の情事がよくあることでもニアミスは滅多にないはずだ。あれば耳に入る)諦めて帰ると思っていたのだろうか。
 わかっていないな。
 制止の声などかけられたらふたりに気づかれてしまうじゃないか。
 これが出歯亀というものかと、まるで縁のなかった言葉に妙に感心してしまう。
 静かに歩を進めると衝立の向こう、手前にはソファが対に置かれているのが見えた。床には総帥服の赤いズボン、編み上げの黒い靴、ベルト、下着といった着衣が点々と散乱していた。
 更に奥、上座ともいえるガンマ印を背負う形で、高価な設えの机がある。
 そこに広い、伯父のスーツの背中があった。その腰に絡もうとするシンタローの日焼けしていない素足が、マジックの腰の動きとともに揺れるのが目につく。
 人を乗せる用途は考えられていないだろう机が、押しつけられているシンタローとシンタローに乗りかかるマジックという1人+αの加重に耐えられるのだろうかと気になった。壊れたりしたらそれはそれで面白いのだが。
「父さ……あっやぁっ…! そこ、…ぅんッ」
「ここ…? 気持ちイイ? シンちゃん」
「ん…もっと…!」
「ふふ、積極的だね…溜まってたんだ?」
「ふぁっ…は……馬鹿やろ…言うなよ、んなこと…」
 残念なことに俺の立ち位置から見えるのは先述のとおりマジックの後ろ姿とシンタローの脚だけだ。せめて横から俯瞰できれば良いのだが、それでは気づかれてしまう。ふん、覗きというのもいろいろと面倒なものだな。
 俺は持っていた書類を部屋の角にある花器の脇に置き、あらためて壁に背を預けると、ふと隣から甘い芳香がした。
 眺めると小さな白い花々は、枝振りも見事に活けられている。
 これは何という花だろう。イランイランやムスクには強い催淫作用があるというがこの花も同類か。否そんなものを職場に置くほど馬鹿ではないか。マジックの言うとおり単に仕事に忙殺されて溜まっていただけかもしれない。花の名前は活けた本人であろう秘書にあとで尋ねてみよう。
 それにしても喉が渇く。
 かるく咳払いをすると、シンタローの胸にくちづけを落としていたマジックがぴくりと顔をあげ、抜き身の刃のような瞳をこちらに向けた。
 ああ気づかれてしまったか。
 怒って眼魔砲でも打たれるかと少し緊張して背を浮かせたが、マジックは俺を認めると意外にもにっこり笑ってひとさしゆびを唇に当てた。
 あれは知っている。グンマが時々やる、内緒だよ、の仕草だ。
 伯父も存外稚気のある男だな。俺も倣って唇で笑むとひとさしゆびを当てた。
「とうさん…?」
 俺と紳士協定を結んでいて抜挿がおろそかになったマジックの頬に、シンタローが指先を伸ばして自分のほうを向かせると、ぐいとばかりに引き寄せた。蕩然と、余裕なく行為に夢中でマジックが気をそらした理由にも気づいた風はない。
「うん…シンちゃん、残念だけど、そろそろイこうか…。お仕事まだいっぱい残ってるもんねぇ」
 長いキスの後、やさしく囁いて、マジックはシンタローを無茶苦茶に貫き始めた。
 嬌声と、息遣いと、肌の打ち合う音と、濡れた音。
 マジックは何度も角度を変えては激しく内壁を穿ってシンタローを悦ばせる。
「   ィ…! あ・ああぁッ!!」
 シンタローの爪先が引き攣って、絶頂を迎えたのを知る。間を置かずにマジックも呻いて身を震わせた。
 ふたりとも、暫く黙って荒い呼吸で抱き合っていたが、マジックがシンタローを起こすとその顎を自分の肩に乗せる。シンタローは余韻に浸っているのか充足した顔で瞳を閉じているのが見えた。
「…足りなかったらまた今夜、…ねv」
「ん…」
 甘えるように鼻を鳴らして瞳を開くと、俺と目があった。
 そうか、見えるということは見られる可能性もあるのだな。
 覗きもなかなか奥が深い。
「なッ…! い……!!」
 当て推量だが恐らく、何故、いつからここにという質問だろう。
「なに、ほんの少し前からだ。議定書の原稿を持ってきたぞ」
 言うと真っ赤になって相変わらずシンタローを抱いているマジックを引きはがして逃げると、俺の目の前に汗だくで総帥服の前をはだけた身体が現れた。
「別に今更」
「だよねぇ」
「うるせェ! …っあーもー…何してんだよオメーはよッツ」
「出歯亀だ」
「んなこと堂々と言ってんじゃねェ」
「訊くから答えたまでだろう。……だが色々と勉強になった」
「なんのだ」
「それはパパのテクニックさっv」
「黙りやがれ畜生」
 後始末をしていたマジックが口を挟んだので、シンタローは悔し紛れに毒づき、俺は素直に首肯する。
「ああそれもある。特にあの最後の腰つきは今後の参考に…」
「するな馬鹿ッ!」
 罵倒するシンタローに俺は、やれやれと壁にもたれるのを止め、落ちている総帥服をシンタローに放った。
「さて、総帥の机がベッドじゃないことを思い出せたら服を着るんだな」
 言って俺は喉の渇きを癒すため、三人分の水を持って来ようと、いちど総帥室を後にした。















「あのさ」







 どうやら雲の中に入ったようだ。
 眠るコタローの様子を見に行き、何事もないのを確認すると、ガタガタと大きく上下に揺れる機内を不安定に、狭い通路を歩いていく。
 通路の小さなアクリル製の窓の外を覗き込むと、瞬間目の前が真っ白になる。と思うといきなり大粒の雨が窓を叩き、ふっと視界が開けた先にある黒々と陰影をつけて続くものが雲影なのだと理解した時点でとっくに風勢で水滴は吹き飛ばされている。

「すげぇ風」

 雲間を縫うように飛んでいるのを理解してまた歩き出す。
 たどり着いた先の重厚なドアが開くと、書斎ぐらいの大きさの部屋の中で、真面目な面持ちでソファに座って、マジックも俺と同じように窓の外を見ていた。
 俺と目が合うと、途端に真面目とかけ離れた破顔一笑。

「シンちゃんようこそおかえりご苦労様!」

 …見なかった事に。
 なんつーかもう手の中の俺に模したヌイグルミ(ンな時にまで持ってきてやがったのか)といい浮かれた調子といいただひたすらムカつくので。
 見てない。俺は何も見てない聞いてない。

 さっきまでの激動がまるで嘘みたいにユルい空気。
    いや、嘘じゃない。パプワ島での俺達の運命は絶対に嘘なんかじゃない。
 無理矢理自分の中の時間を5分ほど前、つまり親父のいなかった状態に戻す。親父のテンションにつきあっていたら永遠に俺の話が進まない。
 こっちは真剣なんだ。

「あのさ」

「ん? なんだい」

 俺のひどく勝手な印象だろうが、コタローが親父の腕の中で気を失った時から、このひとは今まで俺が見てきた中で一番穏やかな顔を、している気がする。いや今のコレとはまた違う顔の話で、だ。そこん所は分かっておいてくれ俺。特に俺。思いこみでいいから。

「あ…」

 駄目だ。
 いきなり理由もなくパニックに陥りそうになる。
 知らないのは怖い。ことこの男に関しては特に。
 すべてを知るほど自分が見ていたとは全然思えない。
 もっとちゃんと見ておけばよかった、後悔もよぎる。
 知ろうとしなかった事がただ悔やまれた。
(だから今のコレとは違う話なんだってば忘れんな俺)
 ああ、もう。
 …こんな事にまで、弱い。
 畜生。
 自信なんか全然ねェよ。
 それでも踏ん張れヨ俺。
 言え。

「アンタの総帥席、俺にくれ」

 よし言ったッ。

「これ? いいよーさぁどうぞ!」

「違ーう」

 俺の言葉にマジックはうきうきと机の向こうにあった本革張りのハイバックチェアを差し出してきて脱力した。
 俺の一大決心をお約束でかわすなッ!

「そうじゃなくて…ガンマ団の、親父が今いるガンマ団の総帥の地位を俺に譲って引退しろって言ってんだ」

 なんとか立て直して、ぎり、と睨みつけて言った。言う事に必死だった。
 俺の言葉を受けても、親父の手元は未だヌイグルミを玩んでいる。
 っつか、どっかに置け。それ。邪魔。俺に向かってヌイグルミで手ェ振ってくンな。

「……本気かい?」

「…俺は本気だ」

 反問されると無性に苛立つ。
 分かれよ、自分勝手に思う。親父の事なんて分かろうともしなかった癖に。
 俺が、本気なんだって。
 分かって欲しい。勝手だ。知ってる。
 でも、分かって欲しいんだ。

「さあて…、急な事だ。   話を聞こうか」

 一段、親父の声のトーンが変わった。
 これは、…これがガンマ団総帥マジックの声だ。
 さっきの、パプワ島で見せた時と同じ。
 餓えた獣と向き合っているような、スキのない、くそ、眼が逸らせない。

「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。別にパパはシンタローに反対しているわけじゃない。だけど今は三国相手に仕掛けてる最中だからね。煩雑だよ。色々と」

「戦争は、しない。  殺しはしないんだ。ガンマ団は人殺しの集団じゃなくする」

 瞬きもせず俺が言い切ると、失笑された。
 届かないのか。伝わらないのか。
 まだ俺はアンタの手の中なのか。

「難しいね」

 笑いを収めて俺の目の前に改めて対峙した男に言われて、穴が開いたような失望を覚える。理解してくれと願ってやまない自分に。理解をしない、アンタに。埋まるはずのないものに。
 出来もしない事と。
 俺だって分かるさ。そんなの。
 それでも。それでも。それでも。

「今更そんな風に変えられるかな。…おまえの言うのは夢でしかないよ」

「でも変える」

「どうやって」

 寸分の間もおかずに聞き返されて、言葉に詰まる。

「統制ひとつとった事のないおまえにそれが出来るのかい。それとも殺されかけても平和裏に、そして死ねとでも?」

「ッ…そんな事、出来るわけないだろ!」

 カッと頭に血がのぼった。
 怒鳴り散らしたのだと最初気づけなかった。

「ならどうする」

「   それでも変える。誰でもない俺が決めた」

 大きく深呼吸をして、頭に血が上るのを抑えようとする。
 もう一度、親父の瞳を睨めつける。

「俺は、あそこに、パプワ島に来た事を無駄にしたくないんだ! …そりゃ、分かってるよ。俺一人で出来る事なんてないじゃないか。出来ない癖に誤魔化して力業で、盲打ちでがむしゃらにやっていくしかないんだよ! こんな、今にもアンタにワガママぶつけて八つ当たりしたいのに、そんな大層な事出来るわけがねェ…!」

 それでも。退くな。言っちまえ!

「でも俺は一人じゃない。俺だけで変えるんじゃない。皆で。目の前の、出来る事から始めていく。一個ずつでいいんだ。変えていく。変えていける」

 大丈夫だろうか。
 マジックに語る俺の外側から、客観性が空間を認識しようとする。
 今いる己の立ち位置を。
    泣きそう、かも。俺。情けねェの。

「だから頼むから、」

 弱さが溢れそうになるのを必死で押し隠そうとする。
 駄目だ。引くな。

「頼むからこれ以上、   」

 これ以上あんたが、ひとの命を奪わないでいられるように。
 言わせないでくれ。
 頼む。

「OK。ダーリン   おまえの望むままに」

「……~~~」

 なんかもう、震えた肩を抱きしめられてぽんぽんって背中たたかれて宥められて髪にキスされて、いつもならものすごく不本意な扱いをされてるけど。
 ひとりじゃない。
 だからこんな風に俺が力が抜けてても大丈夫なんだって、信じたい。











































2003.12.17. BGM:リリィ

24歳。パパと対等に近づこうと努力すると
単にワガママ言うてるかんじになるのはどうして。





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