作・斯波
夢を見て、泣いた。
涙が零れ落ちる前に飛び出した。
あいつにだけは、この顔を見せたくなかったから。
DARLING, I DON’T CRY
パプワハウスを飛び出して、林の中で月を見上げた。
青い月が、笑ったような顔で俺を眺めていた。
夢の中で俺を呼んだ熱い声。
俺の髪を撫でて、そっと頬に触れてそして俺にキスをしてくれた。
「リキッド・・・」
小さな声で想い人の名前を呼んでみる。
途端に涙があふれた。
大人になれば哀しいことは少なくなる筈だって思ってた。
誰かを好きになって泣きたくなるなんてことはもう、ないと思っていたのに。
こみあげる嗚咽を止めることが出来なくて、子供のように泣きじゃくった。
―――シンタローさん。
ふっと呼ばれたような気がして振り返った。
だけどそこにいたのはやっぱり青い月だけで、それさえもが悲しかった。
(あいつにこんな顔は見せたくない)
リキッドではなかったことに安堵する一方で、空虚な風が心を吹き抜ける。
一度でいいから、太陽の匂いのするあの広い胸で泣きたいと思った。
もし俺が好きだと言ったら、あの純情ヤンキーはどんな顔をするだろう。
たぶん真っ赤になって目をうろうろ泳がせて、どう言ったら俺を傷つけずに済ませられるかそればかりを考えて右往左往するのに決まっている。
俺の想いはきっと、あの優しい男を困らせるだけだ。
翌朝俺はいつもと同じ顔を取り繕うことに何とか成功して、パプワと遊んだりヤンキーを殴ったりヤンキーに蹴りを入れたりヤンキーに眼魔砲を撃ったりしていたのだけれど。
ふとした拍子に目が合ったリキッドは、何だか物言いたげに見えた。
(知ってるか、リキッド)
おまえがその向日葵のように明るい微笑を投げる全ての相手に、俺は今気が狂いそうなほど嫉妬してる。
―――もう泣かないという決心を、俺はいつまで守れるんだろう。
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そう言えば南国を読んだ頃には、
途中からリキッドの存在自体を忘れていた。
…心から反省しております。
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作・斯波
あの人が泣いてるのを初めて見た。
月明かりの下だった。
それ以来、あの泣き顔が目に焼きついて離れない。
BABY, DON’T CRY
夜中に目を覚ましたらシンタローさんがいなかった。
パプワとチャッピーは昼間の遊び疲れが出たのかよく眠っている。
そっと、パプワハウスを抜け出した。
シンタローさんはわりとすぐ見つかった。
それは声が聞こえていたからだ。
家からちょっと離れた林の中で、シンタローさんはこっちに背を向けて泣きじゃくっていた。
しゃくりあげるたびに解いた髪が背中で揺れる。
小さな子供みたいに声を上げて泣いているシンタローさんを、俺はただ呆然と眺めていた。
もう大人と呼ばれる年齢になっている人間がこんなにも無防備に激しく泣くことがあるなんて、俺は今まで知らなかったんだ。
人の気配を感じたのかシンタローさんが振り向いたので、俺は慌てて木の陰に隠れた。
だけど俺の心臓はドキドキと波打っていた。
カメラだって100分の1秒をレンズに焼きつける。
わずか数秒だったけど、俺の網膜にはシンタローさんの顔がはっきり残っていた。
月の光にきらきら光る涙を零しながら振り返ったその顔は、赤ん坊みたいに幼くて、そしてとても綺麗だった。
翌朝目が覚めると鬼姑はちゃんと家にいて、そしていつもと全く変わらない顔でパプワと遊んだり俺を殴ったり俺に蹴りを入れたり俺に眼魔砲を撃ったりしていた。
強気で格好良くてエラそうなその顔を見ながら、俺は喉まで出そうな言葉を何とか抑えていた。
―――何がそんなに悲しいんすか。
誰を想ってあんなに泣いてたんすか、シンタローさん。
あんたを泣かすことが出来る奴に、俺は今気が狂いそうなほど嫉妬してる。
(独りぼっちで泣かないで)
いつか俺の胸であの人が泣いてくれるようになればいいと、そう思う。
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南国でのシンタローさんの泣き顔が好きでした。ちみっ子心に既にシンタローさんファンだった…
…と初出で書きましたが、考えたらそんなにちみっ子でもなかったです。
何を無意味に年齢詐称してるんでしょうか私は。
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作・斯波
冷や汗かいて頑張っても
まるで太刀打ちできないんだ
息を切らして走ってみても
WILD CATには敵わない
側に寄んな、と煩そうに言う。綺麗な眼で、おまえは邪魔だと言外に通告されてる。
どう頑張ってもご機嫌は回復しそうにない。
―――こんなときは触らない方がイイ。
好きだと言って貰えたからって安心出来ない。
抱き合ってるからって気は許せない。
あの人は、そんなに安くない。
「あの」
「話は後。俺今からパプワと出かけてくるから」
「あ、はい・・・行ってらっしゃいませお義母様・・(涙)」
トシさんの持ってる日本刀だってこれほどの斬れ味じゃないだろう。
一言で会話を終わらせて背を向けるあの人は、振り向きもせずに俺の視界から消えた。
(俺は何をしたのか)
黙ってられるとドキドキする。
(それとも何をしなかったのか)
「何か文句でもあんのか、ああ?」
「えっ」
思いがけない場所で思いがけないタイミングの不意打ち。
パプワたちの目を盗むようにして侵入してきた舌が、硬直したままの俺の口の中を舐め回してまた出て行く。
「あ・・っ」
思わず洩れた声まで吸い取るキスはしめて2秒。
唇を離してニヤリと笑うあの人の瞳は妖しく濡れていた。
「―――・・・物欲しそうな顔してんじゃねえよ、ヤンキー」
くるくる変わる機嫌に振り回される。
俺の背筋をぞくぞくと快感が駆け上がってゆく。
ぼんやりしてたら、あの人を見失う。
俺の気持ちを知ってて、元の世界で一緒に過ごしていた従兄弟たちの話をする。
あの人とどんな関係だったのかなんて問いつめたことは一度もないけど、それでも俺の胸中は穏やかじゃない。
逆らったりしない俺の、それでも表情に気持ちが出ているのかちらりと俺の顔を見てあの人は唇の両端を吊り上げて微笑むんだ。
「んな不景気なツラすんな。俺が好きなのはオメーだけだよ」
イマイチ信じ切れない俺の、だけど今は一緒にいたいと願う気持ちまでもお見通し。
この人の笑顔はタチが悪い。
おまえなんか眼中にねえよ―――眼差しがそう言ってる。
なのに時々、ひどく無防備な顔を見せる。
「ちょ、こんなとこで―――」
「いいから早く」
「だけど誰か来たら」
「そんなの構わねえから。なあ、抱いてくれよ・・・今すぐに」
淫らに誘ってるくせに、その顔は何だか泣きそうに歪んでいて。
俺に向かって笑いかける唇がかすかに震えてるのを、心が千切れそうなほど愛しいと思った。
―――何かつらいことを知っているんですね。
笑顔の奥にふと、この人の昔が見えたような気がした。
「いつまでくっついてんだよ、離れろ」
「終わると冷たいっすね、アンタ」
「引きずんの、ヤなんだよ」
(黙っちゃいやだ)
あんたが不機嫌だと、俺はどうしていいのか分からなくなる。
(そんな顔しないで)
鬱陶しそうに睨みつけてくる視線に、どうしようもなく煽られる。
「俺、アンタが好きです」
「あっそ。―――」
変わり身の早さに焦らされて、俺なんか眼中にないと思い知らされて、それでも好きで好きでたまらない。
(素早いアンタはまるでWILD CAT)
だけど逃げても無駄だよ。
追いついてみせる。
きっと、必ず。
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作・斯波
こっちだけではなくあっちにも
どっちにも
逃げ道を残してる
WILD CAT に罪はない
側に寄んな、と言い放つ。本気だし、きっと冷たい目をしてる。
あいつに構ってやる気なんか、これっぽっちもない。
―――こんな夜は俺に近づくんじゃねェ。
好きだといったからって調子に乗るな。
俺を抱いてるからってつけあがるな。
俺は、そんなに甘くない。
「あの」
「話は後。俺今からパプワと出かけてくるから」
「あ、はい・・・行ってらっしゃいませお義母様・・(涙)」
でっかい雑種の犬みたいに人懐こい笑顔がいっぺんに曇る。
おずおずと背中を追ってる視線は痛いほど感じてるけど、俺は振り向かなかった。
(安心なんかさせてやらない)
黙ってるとドキドキしているあいつの鼓動までが聞こえてくる。
(もっともっと不安がればいい)
「何か文句でもあんのか、ああ?」
「えっ」
パプワたちの遊ぶ声を聞きながら、固まったままのあいつに噛みつくようなキスをした。
「あ・・っ」
思わず洩れたといった風情の声にかっと身体が熱くなる。
それを我慢して唇を離してニヤリと笑ってみせた。
「―――・・・物欲しそうな顔してんじゃねえよ、ヤンキー」
おまえが俺の気持ちを読みとれるようになるまで、これ以上はお預け。
おまえの機嫌なんか知ったこっちゃない。
もっともっと真剣に俺を追いかけてこい。
うっかりしてると逃げちまうぜ?
あいつの焦燥を知ってて、仲良くしてた従兄弟たちの話を半ば強制的に聞かせる。
俺とどういう関係だったのかなんてあいつは訊いてこないけど、それでもしゅんとしょげてる。
ポーカーフェイスが苦手なあいつの顔には気持ちが全部書いてあって、耳をぺたんと伏せた犬みたいなあいつを見ると俺は思わず笑いたくなるんだ。
「んな不景気なツラすんな。俺が好きなのはオメーだけだよ」
信じたいけど信じ切れない―――そう思ってるおまえの心くらい、とうに俺はお見通しだよ。
おまえなんか眼中にない。
今はまだ、そう思わせときたいから。
なのに時々、自分の気持ちを隠しきれなくなる。
「ちょ、こんなとこで―――」
「いいから早く」
「だけど誰か来たら」
「そんなの構わねえから。なあ、抱けよ・・・今すぐ」
灼熱にも似たおまえの激情で俺をめちゃめちゃにして欲しい。
酷くしてもいいから、何もかもを忘れさせて欲しい。
笑いかけた唇の震えを、おまえが気づかないようにと願った。
「いつまでくっついてんだよ、離れろ」
「終わると冷たいっすね、アンタ」
「引きずんの、ヤなんだよ」
殊更に不機嫌を装う俺を、あいつは持て余して溜息をつく。
だけど睨みつける俺の視線に、おまえの中の雄はどうしようもなく昂ぶってる。
そんなの百も承知さ。
だって煽ってるのはこの俺様なんだから。
「俺、アンタが好きです」
「あっそ。―――」
振り回して焦らしておまえなんか眼中にないと思い知らせてやる。
間抜けなハンターじゃ俺を捕まえることは出来ないんだ。
―――The cat has already fallen into your trap.
そんなこと、教えてやるつもりはない。
もっと俺を好きになれ。
もっと俺に本気になれ。
逃げつづけてみせる。
きっと、必ず。
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リッちゃんは腕枕とかしてみたいんだと思います。
かなわぬ夢。
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作・斯波
変わらないもの
変われないもの
そして変えたくないもの
好きなままでずっと
ここで暮らすことは自分で決めた。
後悔なんてしてないし、そんな自分にプライドも持ってる。
だけど俺だって男だから、時々はふっと昔のことを思い出したりもするんだ。
俎板に向かって玉葱を刻んでいる俺の背後からひょいと顔を出したのは、同居してもう随分になる怖ろしい鬼姑だった。
「今夜の晩飯何」
「あ、炒飯です」
「おまえ炒飯好きだなー」
溜息混じりに言われてちょっとむくれた。
「え~? 俺そんなに作ってます~?」
「あー、作ってるよ。週三回は冷や飯炒めてんだろ、この炒飯星人」
「何だソレ! 弱そうな宇宙人だなオイ!」
「おまえもっとレパートリー増やした方がいいよ」
「仕方ないでしょ、だって」
―――だって、俺は四年前までは戦場にいたんだから。
破壊と殺戮を任務とした特戦部隊に四年間所属した。
数え切れないほどの街を焼き尽くし、数え切れないほどの命を奪った。
勿論そんな自分を肯定してる訳じゃないし、今更戻りたいなんて微塵も思わない。
だけど時々思うんだ。
あの頃の俺には、毎日違う明日がやってきてたな、って。
熱したバターの中に玉葱を放り込む。
ぱっといい香りが広がって、隣でサラダを作ってたシンタローさんが笑った。
「美味そ。―――」
「え、そうすか?」
「おまえ、炒飯作んのだけは上手いもんなあ」
野菜を投げ込んで塩胡椒を振る。
「・・・俺にはこれくらいしか、出来ないすから」
今は毎日が一緒。洗濯して、掃除して、飯を作って。
毎日楽しい―――それは本当だ。
隊長に特戦に戻ってこいと言われた時だって、この生活を捨てる気になんか全然ならなかった。
だけどそんな自分が少し変わったのかもしれないと思うのは、多分シンタローさんがこの島にやって来たからなんだと思う。
シンタローさんは輝いてた。
大きな責任と仕事を背負ってるシンタローさんは、何だか凄く『男』って感じがした。
この人には毎日違う明日が待ってるんだろうなって、俺はシンタローさんを見て思ったんだ。
「いつだって同じ味でしょ、俺の炒飯」
「はあ?」
「俺の毎日とおんなじなんすよ。―――大したこと、無いっす」
「そうかな」
レタスを洗うシンタローさんの手つきには無駄がない。
「俺は凄いと思うけどな」
「・・・・」
「いつでも同じ味が待ってるって・・・それって凄いことなんだぜ」
俺はシンタローさんの横顔を凝視めた。
悲しくて寂しくて、俺なんか居ても居なくても同じだって思って・・・何かもう世の中の全てがどうでもいいやって思う時にいつもの顔でいつもの味を出してくれたら―――それだけで、生きていけるような気になる時ってあんじゃん。
シンタローさんはちらっと俺を見て、ニヤリと笑った。
「向こうの世界に帰っても、きっと炒飯食うたびに俺はおまえのこと考えると思う」
「シンタローさん・・・」
「俺はおまえの炒飯、好きだよ?」
だからおまえもずっと変わんなよ。なあ、リキッド―――。
普段より少しだけ優しい声でそう言われて、思わず笑った。
涙が出そうなのはきっと、玉葱のせいだと自分に言い聞かせた。
「あっヤンキーてめェ焦がしてんぞ馬鹿!」
「・・・え? うぎゃーっ!!」
(ね、シンタローさん)
「やっぱてめーなんざ全然凄くねェ! どーすんだよ今日の晩飯!」
(変わらなくてもいいのなら)
―――俺はここにいます。アンタを好きなままで、いつまでも。
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10巻の表紙、本誌で見たよりもリキシンで
危うく本屋で立ち眩みを起こすところでした。
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作・斯波
さて何とせうぞ
一目見し面影が
胸を離れぬ
誘 惑
―――本当は、最初からおまえが欲しかったんだ。
シンタローは黒い瞳でリキッドをひたと見据えている。
まるでリキッドの背中を撃ち抜くかのように、真っ直ぐ凝視めている。
その視線に気づいたリキッドが振り返った。
唇がかすかに開く。
その唇から自分の名が零れる直前、シンタローはふいと背中を向けていた。
今度はリキッドがシンタローの背中を凝視める。
それを痛いほど意識しながら歩き去るシンタローの唇には、かすかな笑みが浮かんでいた。
(そろそろ、だな)
リキッドの臨界点はとっくに超えている。
あと一歩で、己を失って崖から飛び降りる。
その時あの男はどんな顔を見せてくれるんだろうと思うと、楽しくてたまらなくなった。
思えば一目惚れだった。
己の力量も知らずにガンマ団総帥に楯突くこの男を、自分のものにしたいと思った。
はからずも島に残る羽目になりパプワハウスで同居することになってから、シンタローのその気持ちは日々強くなっていった。
シンタローさん、と無邪気に呼びかけてくる笑顔。
その笑顔と、一途なひたむきさに惹かれた。
ずっとリキッドを見ていた。
見ていて、気がついた。
その笑顔は、自分だけに向けられている訳ではないということに。
だから、自分から仕掛けることにしたのだ。
シンタローがその気になれば、リキッドを落とすなど容易いことだった。
十六歳で特戦部隊に入り、その後この島に一人残ったリキッドは、まるで子供と同じだ。
どうせ本気の恋などしたことがないと、シンタローはいち早く見抜いている。
皿を洗いながら、何気ない会話を交わしていたシンタローの眼がリキッドを捉える。
触れあいそうな距離で凝視められ、それまで笑っていたリキッドが狼狽える。
「シ・・シンタローさん・・」
「んー? 何?」
あと1センチ近ければ。
あと1秒長ければ。
泣き出してしまいそうな―――逃げ出してしまいそうな、ギリギリの均衡。
(間違いねェ)
シンタローの自信はすでに確信に変わっている。
(あいつは俺を好きになってる)
リキッドは思ったことがそのまま顔に出る。
青い瞳に浮かぶきらきらした慕情と憧れをシンタローが見逃す筈が無い。
(あと、ひと押し)
向けられる好意にどうしようもなく無防備なリキッド。
シンタローの優しい微笑に眼が眩んでしまったリキッド。
その影に潜む企みにも、邪な劣情にもまるで気づかない。
少しだけ触れた肩がちりちりするほどに熱く思える。
リキッドが目の前にある笑みを浮かべたままの形の良い唇から目を離せないでいることなど、シンタローにはとっくに分かっている。
「・・・何見てんの?」
「べべべ別に何にも見てませんよ!! 早く皿、洗っちまいましょう!」
真っ赤な顔で皿を洗い出したリキッドの体温を感じながらシンタローはこっそり笑った。
差し伸べられた手を疑わずに取ろうとする、可愛い可愛いリキッド。
もう片方の手に何を持ってるかなんて、おまえは全然考えないんだな。
だから最近シンタローは殊更リキッドに優しくしてやっていた。
まだ恋を知らない男の幼い心に、自分だけを刻みつけたいと思っている。
(そうすればきっと)
―――あいつは俺にハマる。
リキッドが洗濯をしている。
その姿を眺めながら、シンタローは膝の上に置いた本をぱたんと閉じた。
もともと一行だって頭に入ってはいないのだ。
(リキッド)
声に出さずに呼んでみる。
おまえが欲しい。
いつでも真っ直ぐに人を見るその綺麗な眼を、俺だけに向けさせたい。
それでもシンタローは何も言わない。
恋の告白など、死んだってするつもりは無かった。
好きだと言うのは、リキッドからでなければならない。
このもつれたパズルを完成させるのは、あいつの言葉でなくては。
(なあ、もう分かってるんだろ?)
俺への想いで爆発しそうになってるじゃないか。
自分の心を持て余して、何が何だか解らなくなって。
とっくに、俺しか見えなくなってんだろ?
ちゃんと俺を見て言えよ、リキッド。
あなたが欲しいと。
だからあなたを、俺にくれ、と―――。
その時、シンタローの声が聞こえたかのように、リキッドが振り向いた。
「・・・シンタローさん」
泡だらけの手のまま、シンタローの前に立つ。
思い詰めたようなその瞳を見上げてシンタローは待っている。
(さあ飛び降りろ、リキッド)
見れば握りしめた手はかすかに震えていて。
白くなるほど噛みしめた唇を、奪って噛みついて吸いつくしてやりたいと思う。
(そして俺におまえの全てを引き渡せ)
「話が、・・・あるんですけど」
最後のピースがかちりとはまる。
シンタローの口角が、にいっと上がった。
「いいぜ。―――何?」
誘われたようにリキッドが、ふらりと一歩踏み出す。
長い雨がやっと上がった、静かな午後のことだった。
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リキシンです。シンリキではなく誘い受でお願いします。
リッちゃんに優しいシンタローさんが想像できない私は鬼ですか。
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