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「またケンカしたのか・・・」

部屋に入るなり、アザのついた兄の顔が目に映りハーレムは呆れたようにそう言い放った。
またシンタローだろう、と付け加えてもマジックの方は気にも留めないないのかニコやかにこちらを微笑んでいる。
そんな兄の気取った態度が癇に障ったのか、ハーレムはわざとらしく子供じみた稚拙な言い回しでシンタローの愚痴を零したが、
それでもマジックは上品に笑ったままだ。
おもしろくない、とばかりにハーレムが口を閉ざすとマジックは優しい口調で彼に言った。

「オマエにもその内わかるよ。」

あぁ、まったく。この人はいつもこうやってすぐに兄貴ぶるんだよな。
そんなコトをぼんやり考えながら寂しかった口元に1本のタバコを咥えてライターで手早く火をつける。
このライターはお気に入りで、いつも持ち歩いている。
フー、と息を吹けば濁った煙が天井を舞った。

「わかりたくもねぇな。」

タバコの煙を目で追いながら、そう呟くとマジックはく、く、と肩を揺らした。

「何がおかしンだよ?」
「ハーレムは、子供だね。」

四十幾つにもなって実の兄に‘子供’呼ばわりされるとは思わなかった。
思わず目を丸くしていると、マジックは自信たっぷりに彼に言った。

「素直じゃない子ほど、可愛いと思わないかい?」

はいはい、カッコつけ屋さん。
と、心の中でハーレムは軽くあしらってやった。





静かな、誰もいない総帥室の中でシンタローは一人、ギシギシと椅子を前後に揺らしていた。
今朝方、ほんの些細な事が原因で父親を殴ってしまった右手をシンタローはじっと見やる。
殴った自分でもコレほど痛いのだから、マジックの方は相当痛かったコトだろう。アザでもできているかもしれない。
そもそもケンカの原因は、シンタローが昨夜、部下と連れ立って夜遅くまで酒場で飲み明かして早朝6時を回ってから家に帰宅したコトにある。
マジックが嫌味ったらしくネチネチネチネチ文句をつけた事がシンタローの神経を逆撫でし、ついには暴力沙汰にまで発展してしまったと言うワケだ。
だが、シンタローの言い分としては大の男が25にもなって朝帰りした位でそこまで過剰に口を出される筋合いはない!
であったが生憎どちらも一歩も引かず今に至る。

右手を開いては閉じ、開いては閉じ、を繰り返す。

いつも思うのだが、何故あの父親はこう言う激しいケンカの時に絶対に手を出さないのだろう。

・・・まるで自分が本当に手のつけられないガキみたいじゃないか。

くそッ!!!と、力まかせに目の前の机を拳で思い切り叩く。
イライラしてしょうがない。仕事も手につかない。本当に最悪だ。
へらへらと笑うあの憎い父親の顔が頭をよぎった。

まったく。
何だってアイツはいつまで経ってもファンキーな親父でいるつもりなんだか!!!

そんな事でシンタローの頭はいっぱいだった。
無駄な時間が刻々と過ぎていく・・・。

(あんな父親、大嫌いだ。)

ゴツン、と硬い机に突っ伏して頬を密着させる。
そのまま目を瞑ると、やはり目蓋の裏にも父の影ばかりを追ってしまってまったくもって落ち着かなかった。

『私はオマエの父ではない』

突然、父親の痛烈な言葉が脳裏に甦り、シンタローはぎょっとして慌てて目を見開いた。
寒気がする程の冷たい言葉に未だショックを引きずっていると言うのか。
それが急に恥ずかしくなってシンタローはますます身体を縮めて机にうつ伏せた。

「・・・・。」

そっと自分の下半身に手をやる。
そう言えば暫らく女を抱いていないな。
そう一人ごちた。
こんな鍵の閉め切った寂しい部屋で一人でマスをかくなんて自分はどれだけ孤独なんだかまったく救われない。
シンタローは重いベルトを外す手を早めた。

「ぅわ・・・」

手にはもうネバり気がついていて、コレが所謂疲れマラってヤツか。オレはそんなに疲れてるのか。
それもこれも全部あの親父のせいだ。
そんな自己中な事を考えながら、欲望に忠実に、シンタローは自分のそれを片手で扱いた。
くぐもった声が部屋中に響き渡る。
何か、何か良いネタはないか。
そんな事を貪欲に求めるとやはりあの父親の事が頭に浮かんで、
そんな自分が情けなさ過ぎてシンタローの目にじわりと涙が滲んだ。

「くそ・・・・ッ」

感じてしまう自分が悲しかった。
認めない。認めたくない。絶対に。
それでも早める手を止める事ができなかった。

『シンタロー』

(アンタが!!アンタがそんな風にオレの事呼ぶから・・・!)

たまらなく胸が熱くなって切なくなる。
だけど絶対に言ってやるもんか。

「――――――――・・・・・父さん・・・・ッ・・・!」

一声啼いて、シンタローは自分の手の中にそれを放った。
部屋には、熱い吐息ばかりが残った。
・・・悲しかった。





昨夜のケンカが尾を引いていて、仕方なくシンタローは寄り道をする事もなくまだ夜も早い内から自宅へ帰ると
リンビングの方に煌々と明かりがついているのでそのままそこへ向かうと彼はいた。
テレビの前の大きなソファーベッドの上で綺麗な顔を仰向けにして眠っている。
目を閉じているせいかいつもよりあどけない無防備な顔には自分のつけた青いアザが未だくっきりと痛々しいほどに残っていた。
何かで覆い隠せば良いものを、まったく嫌味な父親だとシンタローは悪態をついた。
「そーゆートコがムカつくんだよ。」
寝ている事を良いことに、ここぞとばかりに文句を言ってやる。
それでも黙ったままの父の顔は、何だか奇妙な感じがした。
自分のつけたアザにそっと触れてみる。
何も、こんなに痕が残るほど殴ることはなかった。
嫌になるほど自己反省をする。
この人は、自分の事を可愛いと言っては愛してくれるがシンタローにしてみれば、そんな事はまったく信じられなかった。

本当はずっと昔から自分にコンプレックスを抱いていた。

父親とまったく似ていない事。
秘石眼を持っていない事。
素直になれず、つまらない意地ばかり張ってしまう事。

従兄弟のグンマの方が、よっぽど素直で親父に似ている。
そう思っていたらまさか本当にグンマが親父の実の息子だったなんて、
シンタローは今まで信じてきたものを一気に失ってしまった。
「父さん」
呟いてみる。・・・返事はなかった。
「父さん・・・」
目を瞑ったままのマジックの唇に自分の唇を合わせた。
涙が頬を伝った。
自分でもどうして泣いているのか解らなかった。
ただ、キスがしたかった。それだけだった。
頬を濡らす涙はとても苦いのに唇だけはひどく甘かった。
苦しいのと悲しいのとで胸がいっぱいになる。
声には出さず何度も彼を呼んだ。すると、
それに応えるように下から腰を抱かれて、思わず口が開くと舌がゆるりと歯列を割って口腔を犯した。
迎え入れた舌に自分の舌を巻き取られ、唇の端から吐息が零れた。
お互いの舌を何度も濃厚に絡ませながら、お互いを抱き締める。
唇を離すと、彼は笑っていた。
「どうしたのかな。シンちゃん。」
揶揄うようにそう言われて、シンタローは自分の顔が一気に熱くなったのが解った。
あんまりと言えばあんまりの仕打ちに怒りで身体が震える。
何も言わずに立ち上がろうとした時、とてつもなく強い力でその場に押し倒された。
「―――・・・あにすんだ・・・ッ!」
「それはこっちの台詞なんじゃないの」
意地悪すぎる問いかけに、シンタローは恥ずかさで死んでしまいたくなった。
これが昨夜の仕返しなのかと、そう思うと悔しくてしょうがない。
「・・・そんな顔しないでよ。」
苦笑するマジックに、シンタローは黙ったまま顔を思い切り背けた。
どうせ、どうせ何を言っても無駄だ。
コイツはオレの事なんて、ちっとも解ろうとしないんだ。そう思ったから。
冷たい人だと軽蔑するのに、どうしてキスだけはこんなにも優しいのだろう。
赤い舌がちらりと覗いて、どちらのものとも言えない唾液をしつこく絡ませ合う。
こんな事を繰り返していると、頭がどんどんぼやけてきてしまって何をされてもイイような気分になってしまう。
(もう、どうにでもなればイイさ。)
シンタローはそのままマジックのキスに溺れた。
長い指が慣れた手つきで服を脱がしていく。
胸を弄られる度、声が漏れそうになったが相手を喜ばせたくない一心でシンタローは必死にこらえた。
本当に生意気だと耳元で囁くと、マジックはシンタローの首元にきつく噛り付いた。
「ぅあ!」
これはたまらなかったのか、シンタローの口から叫び声が上がった。
それをおもしろがって執拗にそこばかり責めてくるので、シンタローはキッと目の前のサディストを睨み付けた。
「アンタわざとやってんだろ・・・!」
「もちろん」
にこやかに返される。腹が立つ親父だ。
「でもねシンタロー。噛まれて感じるなんて、オマエも結構な変態だと思うよ。」
「・・・・ッ!」
もう既に反応しきってる自身を握りながらそんな事を言う父親に、自分の羞恥心を極限まで煽られ、シンタローの顔が
今度こそこれ以上無理な位にカァーッと赤くなった。
「何でそんなコト言うんだ・・・!」
もう泣きたい。泣いてしまいそうだ。
顔を隠したいのに、両腕を片手で抑えられてそれもままならない。
本気で嫌になる。
こんな変態な親父も、

そんな変態を好きな自分も。

「シンタローが可愛いからだよ。」
“だからつい苛めたくなるんだ”そう呟いて、彼はシンタローのそれを包んでいる手を勢いよく擦り上げた。
「ッあぁ!」
途端に上がる嬌声。出したくないのに口から漏れて、自分でも止められなかった。
「ヤだ・・・!嫌だ・・・!!」
それでも扱かれる度どんどん感じてしまって、自然に腰が揺れだしてしまう。
マジックが戒めていた手を離すと、シンタローは両手で彼の首にしっかりとしがみ付いた。
「んん・・・あぅ・・・・うぅ・・・・!」
力一杯自分にしがみ付く息子のあまりの可愛らしさに、マジックはごくりと喉を鳴らした。
狙ってやっているのかと思う程、たまらない仕草だ。
中に指を挿れてやると、シンタローの口から切ない悲鳴が上がった。
「シンタロー・・・」
「父さん・・・・ッ!」
狭い入り口がめいいっぱい広げられて、襞を抉るように掻き乱される。
中を指が行き来する度にもっと奥に刺激が欲しくて、たまらなくて、シンタローの腰が揺らめき出した。
女を抱くよりも、こんな男に抱かれる方が感じるだなんて絶対に認めたくないがそれがどうしようもない事実だった。
「・・・、ッやァ・・・んん・・・・ッ!」
根元まで指が差し込まれて中の柔らかい部分に爪が当たって痛いのに最高に気持ち良い。
指が引き抜かれる瞬間思わず出しかけた声が浅ましくて情けなかった。
「んはぁ・・・・!」
微かに掠れた官能的な響きの声で、マジックがシンタローの名を何度も呼び続けると、
それが嬉しくてそれだけで何でも受け入れてしまえるような気になってしまう。
「はぅ・・・・ッ」
抵抗もなく受け入れると彼自身が深く奥へ差し込まれて内壁を抉るそれは、指よりもずっと熱くてたまらなかった。
「あ、は・・・・ぃや・・・ッ!」
「・・・嫌じゃないクセに。」
いやらしい吐息が部屋中に充満する。
広い背中に服の上から思い切り引っかいても、マジックは怒ることなくシンタローを抱いた。









***




「またアザが増えてるな・・・」
うんざりした顔のハーレムの皮肉にもマジックの顔は緩みっぱなしだ。
ニヤつく顔を抑えながら持っていた書類に目を向ける。
「よくあんなヒネくれモンを相手にできるな兄貴は。」
「そうかな?結構わかりやすくて可愛いと思うね。」
不適に笑う兄に、理解不能だとハーレムは肩をすくめた。
マジックの背中に引かれた赤い爪跡は、暫らく残ったようだ。
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しらないくせに。


 


今日がどこから来て、どこへ行くのか。


明日がいつで、昨日がなんで。


 


きみが誰で彼が見るものがどれでここにいて欲しいのは僕で。


 


 


しらないくせに。


 


しらないくせに、笑うから。


 


 


 


 


 


         しらないくせに   m*j*s


 


 


 


 


 


 


 


イブは誰と過ごすのか。


軍人を育成する士官学校の教室であってもそんな会話は年若い者同士なら当然生まれるもので、校舎を囲む木立が色づき、やがてその葉がすべて散った頃にはほとんどの生徒が得意げに予定を語るようになっていた。


信仰心の篤いとはいえない国民性を嘆くことなく、信じるならば神より一族と当然のこととのように受け止めている自分では“知り合いの誕生日ですら記憶できないのに、なにがパーティーだ”と斜に構えて見せるのがせいぜいで、いまも、浮かれた級友たちの顔を見るだけでうんざりとしていた。


 


サービスは、少年の繊細さと青年の冷たさを併せ持つ両極端な年頃だった。


勿論、周囲にいるのは同じ年のものが多く取り立てて目立つというわけでもない。


けれど彼の場合は生い立ちの特殊さと環境が作り上げてしまった傲慢さをそのまま受け止め体現してしまっているので、同年の級友たちには苛々させられることも多かった。


口に出すほど不躾ではないし気に入らないものにほど冷めたな笑みを投げてやるのが常だったが、入学以来なぜかつるむことの多い高松という少年には『女狐』とからかわれている。


 


彼の兄は世界最強と呼ばれる軍を率いる総帥だった。


五つしか違わない兄が数千、数万の軍隊を瞬きひとつで操ることが出来るという事実は面映いものであり、同時に激しく嫌悪するものでもあった。


軍隊と言ってもしていることは暗殺稼業だ。


敵と定めた組織の中深くに潜り込み、反撃の暇も与えずターゲットを片付ける。


軍備は強大国に匹敵するものを揃え、抱える兵士は殺すことと息をすることが同意であるような猛者ばかりだ。そんな中に、自分が組み込まれていくという事実にいまひとつピンと来ないまま士官学校に在籍している矛盾を感じてはいるのに、死も、殺人も、なにもかもが薄靄の向こうにあった。


物心付いた頃には当たり前にあった“殺す”という行為に、サービスは、既に麻痺しつつある自分を自覚している。


だからこそ嫌悪するのだ。


自分を巻き込んだ家というものに。


兄というものに。


確とした答えを見出そうともしない、自分に。


 


 「またなにか小難しいことを考えているんですか」


 「寝ているお前の首を、どうしたら気付かれることなく絞められるか。ここ暫く僕の頭の中はそのことでいっぱいだよ、高松先生」


 「それはいけませんね。一緒に考えてあげましょうか」


黒髪を、肩の辺りで切り揃えた高松はクラスメイトのひとりで将来は化学兵器開発部門に進みたいと明言する悪友だ。


性格がいいとは決して言えぬ食えないやつだが、その点ではサービスも似たようなものなので人のことは言えない。


 「クリスマス休暇はどうするんです?」


 「お前に聞かれるとは思わなかった」


 「あなたなんかに話しかけるのは私くらいのものですよ。あ、と、それから…」


口元のほくろに指先を当て、教室の中を見回す。


 「話しかけてほしくなくても、やたらと纏わり付いてくるあのバカ犬はどこです?」


 「知らない」


 「おや、放し飼いは無責任ですよ。散歩中はリードをつけて、いい匂いのするメス犬にも、相手の飼い主の許可を得てからアピールさせないと」


 「犬なのは確かだけど、僕の犬じゃない」


 「では至急野犬センターに連絡を」


サービスの機嫌が悪いと見切ったのか、高松は薄く微笑み背を向けた。


好きではない。でも、嫌いじゃない。


高松は友人。


傍に、おいても、いい。


 


 


 


 


世界中から集まる士官候補生たちは、その各国の習慣に従い行動することを認められている。


だからクリスチャンであるものはクリスマス休暇を充実させるし、ジャパニーズは正月を祝うため“モチ”だの“オトシダマ”だの意味不明な言葉を並べつつ帰省の支度に余念がない。


サービスの長兄が日本贔屓になったのは最近のことで、彼に聞けばその呪文の意味を教えてくれるのかもしれないが生憎話しかける時間的余裕というものがなかった。


自分ではない。


兄に、だ。


父であり前総帥の嫡男である彼がその職を引き継いだのは十三歳のときで、その頃のサービスときたら未だ枕元にぬいぐるみを並べているような幼子だった。


悩みも苦労も不自由もなく育てられたためいつまでも幼さが抜けきらなかったことは父や兄の責任でもあるだろうが、サービス自体“愛されて当然”という無意識の意識があったためそのような傾向はいまとなっても改められずに残っている。


『核シェルターの中に造られた温室の中で育てられた』という枕詞は高松が彼に与えたものだが、隣で聞いていた次兄は『観察眼が鋭い』などとずれきった感想を述べていた。


この兄にだけは言われたくはないけれど、常々“美しく繊細かつ優秀”な兄に近付きたいと思っていたサービスは同列に見られるならいいか、と納得してしまったのだからどうしようもないだろう。


とにかく。


冬の休暇に入る学校に残ったところで楽しいことがあるわけでもない。


もとより信仰心の持ち合わせのないサービスは、人気の少ない学校にいるより自宅の方がましだと判断したため配布された休暇申請書の“帰省を希望する”という欄にサインを入れた。


隣で、ペンを持ったままぼーっと申請書を眺めている級友の手元に意識を集中させながら。


 


 「ジャン」


 「んー?」


十二月に入って突然冷たくなった風が窓ガラスを叩く。


 「どうするんだ?」


 「なにが」


 「休暇」


 「あー、どうしようか」


どうしようか、と言いながらも考えてはいまい。彼の手は一向に文字を綴る気配がない。


 「残るのか?」


 「うーん、まあ…そうかなー」


 「日本は正月をバカみたいに祝うものだろう。帰らないと叱られるんじゃないか?」


 「へ?」


不思議そうに。


高松は誰かをなにかに例えるのがうまい。“犬”と評された友人は聞きなれない物音を聞きつけた子犬のような顔つきでサービスを見上げる。


視線にしてひとつだけ高い彼も、座っていればサービスより小さい。


 「え、なんで日本?」


 「なんでって、お前は日本人だろう」


 「え、俺?なんで?」


 「…………え、」


心底驚いています、という顔で見詰められサービスも同じ表情で返す。


 「俺、日本人なんて言った?」


 「え、あ、いや、…え?」


 「いろいろ混ざってるから正確には自分のルーツは分かりませんって、自己紹介のとき言った気がする…けど。もう一年以上前のことだよ」


 「…そ、そうだったかな」


聞いていなかった。


入学式のあと新入生全員で自己紹介をしたが、勿論サービスは誰一人として挨拶を聞いた記憶がない。自分に向け語りかけているならともかく、不慣れな英語で訳の分からないことを言い募る少年たちに興味などなかった。その後クラスごとに分けられもう一度繰り返したようだが、そこでもほぼ上の空で誰がなにを言ったかなどなにひとつ覚えてはいなかった。


 「髪が黒いのはジャパニーズだけの特徴じゃない。日本には行ったこともないよ」


 「そう、か」


 「一番可能性が高いのはスパニッシュか、もっと小さい南の島とか…そんなところじゃないの」


 「へえ」


動揺を悟られぬよう背を向ける。


日本人だと思っていた。


今年の夏を迎える前あたりから、それまでにも増してそう強く思い込んでいた。


サービスは、胸の中で必死に繰り返す。日本人だ、だから日本の風習や習慣を知っているのは当然で、そこにはなんら問題がない。


矛盾はない。



ないはずだった。いままでは。


 


脳裏に浮かぶ兄の顔。


昔はもっと笑ったのに、いまでは高い壇上から見下ろす怜悧な瞳があるばかり。


冷たい。


冷たい兄。


弟なのに。――――弟だから?


 


次兄も、サービスの双子の兄も、長兄のことを悪く言ったりはしないし自分とて心の深いところでは信頼している。当然だろう、彼がいるから生きていけるのだし、いまというすべてがあるのだ。


感謝はしても憎む必要など欠片もない。


それなのに。


 


 「サービスは?家に帰るんだろ?」


 「…そうだな、たぶん」


 「たぶん?なんだそれ」


へらりと笑って、手元の休暇申請用紙に視線を戻す。


 「帰るうちがある訳じゃないし、俺は寂しく寮で過ごすよ。たまには構いに来てくれるよな?」


言いながら走らせたペン先が“残るので暖房を切らないで”という文字を綴った。


 「なんで…なんで僕がジャンのためにわざわざ休みを潰さなきゃならないんだ」


 「そんなこと言わないでさぁ」


キャップを指先で弄びつつ、ジャンが、サービスに向き直る。


霧の向こうにある太陽のような朧の微笑み。温かいけれど、何故だか不安にさせられるジャンの笑顔。彼を見ると、いつもいつも苦しくなるのはどうしてだろう。


なんでこんなに切ないのだろう。


重なる視線を逸らすにはサービスのプライドは高すぎて、その痛みを飲み込むにはサービスの心は幼すぎた。


 「俺、サービスのこと、好きだよ。お前は俺なんかいらないって言うだろうけど、俺には必要だよ。ずっと一緒にいられたらって…本当にそう、思っているよ」


 


その気持ちを疑ったことはない。


 


けれど信じるには。


 


 「それじゃあ…」


 「うん?」


 「それなら、ジャンは、これから先ずっと…ずっと僕だけに…」


縛り付けて。


 「僕だけの、…」


 「なに?なんだよ聞こえないって」


締まりのない顔。


人懐こい雰囲気は、それは、自分だけに向けられたものではなく。


 「っ、僕の下僕としておいてやってもいいって言ったんだ!」


 「げ、下僕ぅ?」


キョロリと目を剥き、サービスのことを数秒凝視してそれから。


それから、弾けたように笑い出す。


 「そんな台詞、臆面もなく口に出来るのなんて世界中探してもサービスだけだろうな」


 「なっ、」


 「うはははは、美人でユーモアにも溢れてて、本当にサービスはすごいなぁ」


 「バカにするな!」


 「バカになんてしてないよ。いやぁすごい、サービスはすごい。益々好きになる」


嬉しそうに笑って、それはきっと嘘じゃない。


嘘ではないと思える。


思えるけれど。


 


 


好きだよ、という彼の言葉は、幸せと痛みを連れてくるから。


だから。


 


 


――――だから、僕は。


 


 


 


 


 


別に会いに来た訳ではない。


誰に対する言い訳なのか、自分でもばからしいとは思うけれど胸の内で“忘れ物を取りに来た”という言葉をもう一度反芻し寮の門へと小走りに進む。


今日はイブで、明日はいよいよクリスマス。たったひとりすることもなく、寮の堅いベッドに転がっているであろうと出不精の下僕を買い物に付き合わせるのは当然だ。その為という訳ではなく、たんに予定が合わず兄弟への贈り物を買いに出られなかった。だから荷物持ちが必要なのだ。


学生であっても休暇中の訪問はゲスト扱いになるため、管理人に見つからないよう通用口に回る。世界最強を誇る軍隊の敷地にほど近いこの学校はセキュリティに隙が多い。これは、その程度で命を落とすようなら入隊後に生き延びることなど出来ないという教訓が籠められているのだというのは学生たちの間でまことしやかに囁かれていることだが事実かどうかは分からない。


冷たい廊下を、足音を忍ばせ進んでいく。


 


寮ではサービスの隣室がジャンの部屋だが、近付いてみるとドアが開いていることが分かった。この寒さでよくも堪えられるものだと思ったが、こっそりと覗き込んだ狭い部屋に主の姿を見付けることは出来なかった。


どこかへ出掛けたのだろうか。


ドアを閉め忘れて?


そんなに慌てて、どこへ。


気が抜けて、しばし立ち尽くしてしまったもののクシャミが出たことで我に返る。


窓が開いていた。


 


ドアも、窓も開けたまま。


構ってくれと言ったのは彼なのに。


 


恐る恐る踏み込んだ室内は、彼のあけすけな性格には似合わぬ整頓された空間だった。学生の身ではそんなものかも知れないが、生活感というものが感じられない。


ものの少ない、寒い部屋。


机の上にある小さな写真立ての中で微笑む自分たちは、とても、幸せそうなのに。


 


窓辺へ近付くことは本能が拒んでいる。


それでも進んでしまうのは、自分はきっと知っているからだ。


なにが見えるのか。


見えてしまうのか。


 


 


寮の裏に面した窓は、小さな噴水を備えた庭が見下ろせる。


その脇にあるベンチに座りグループレポートの相談をするのは夏場のことで、木枯らしの吹くいまとなっては誰も寄りつくことがない。訓練に疲れた体を寒風に晒す必要はないからだ。


だからいまも。休暇中のいまこそ、誰もいるはずがない。


“いなければいい”という思いで見下ろしたそこには、想像した通りの光景があり、想像した通りの現実があった。


笑わなくなった兄が笑っている。


笑う、というより薄く口元だけに微笑みを浮かべている。


きっと他愛のない、下らない話をしている彼を、それでもただ微笑みながら見詰めている。穏やかに。


ジャンの顔は見えなかったけれど、二人の周りにある空気が決して冷たくないことはここからでも見て取れる。自分の側にいるときと同じあの笑顔を見せているのだろうか。好意を、伝えたりするのだろうか。


 


見詰める自分の瞳から、炎が立ち上るような気がして窓から離れる。


ジャンの部屋を出て寮を出て、それから真っ直ぐ帰宅した。


記憶にある限り家族への贈り物を忘れた年はこの時が初めてだった。


腹立たしいのか、悲しいのか、寂しいのか。


自分の感情なのに分からなかった。


分かりたくはなかった。


 


そのまま、休みが明けるまでジャンと会うことはなかった。


 


 


 


休暇明けに顔を合わせた時ジャンは『どうして会いに来てくれなかったのか』と口を尖らせ言い募ったが、サービスは取り合わず素っ気ない返事だけをした。


 『きみもなかなかいい休暇を過ごしたんじゃないのか』


きみ、という呼び方にジャンは少し驚いたようだが、女王様のいつもの気まぐれだと笑いご機嫌を直して頂くために今日のお茶は下僕が用意させて頂きますよと微笑んだ。


 


 


 『どうして突然日本贔屓になったんですか?』


 『贔屓ではないよ。いいと思ったら知りたいし、集めたいし、行ってみたいと思うだろう』


 『そうかな』


 『サービスはそういうことはないかい?ほら、お前と仲のいい彼…ジャンも、日本人の血が入っているだろう?』


 『確かめたことはありませんが、そうでしょうね』


 『彼から聞いたことがあるんだよ。日本の祭はたくさんの“夜店”が並び、体に悪そうな色をしたアイスクリームが売られるんだって』


 『体に悪い食べ物を売るなんて、妙な習慣ですね』


 『私もそう言ったんだが、彼は笑っていたよ』


 


笑っていたよ。


 


 


 「日本なんて、行ったことはないんじゃ…なかったのか」


 


 


この気持ちがなんなのか。


サービスには名付ける術すらなかったから。


 


 


 


しらないくせに、笑うから。


 


僕の気持ちも、なにもかも。


 


 


 


 


 


END



「愛してるよ父さん!」
あぁ、シンちゃん…ッ!無邪気な笑顔で超絶カワイイ!!パパ死んでもいいくらい幸せ!!




……のハズなのに。
何で今日は4月1日――――ッ!?

それでも普段は聞けない愛の告白に思わず鼻血。
あぁシンちゃん…ほんのり頬を染めて笑うお前が愛しい。

「親父…ッ」
抗議するように呼ばれて、いつのまにかシンタローを押し倒していたことに気付く。
「ゴメンゴメン、シンちゃんがあんまりにも可愛いから、つい」
「つい、で息子を押し倒すなッ!!そして謝りながらどこ触ってんだー!!」
「ゴメンねー、シンちゃん」

パパもう止められないや
テヘッ、と笑ったが、もう目は笑っていなくて
欲望に飢えた獣の目をしていた。

「あっ……」
マジックが首筋に噛み付くと声が漏れた。
舌で首筋を下へ辿っていく。シャツの前を開ける。
胸の飾りを甘噛みする。
「!……ッあ、はっ!!」
シンタローの体がビクビクと震える。
眉根を寄せ堅く目をつむって快感に耐えるシンタローが愛しくて、顎を掴みこちらを向かせる。
「こっち見て、シンタロー」
「とぉ…さん」
甘えるような声で首に腕を回し、
マジックを見つめた。
そうして数瞬――、




「……っはッ!!」
突如弾かれたようにマジックは自分の体の下にいる黒髪の男の、






首を絞めた。
「何す…っ」
黒髪の男は涙目で訴えたが
「殺す」
冷たい声で答えられ、ギリギリと腕に力がこもる。
「な…んで?」
「それはこちらのセリフだ。

なぜ君がココにいる」



ジャン

そう呼ぶと、さっきまで首を絞められていた男は、くっく…、と声を漏らすと
「なぁんだ、バレてたんですね、マジック様」
と屈託のない笑顔を見せた。
「結構うまく化けてる自信あったのになぁ」
「あぁ、イイ線いってたよ。あやうくダマされるところだった」
マジックは睨みつけると黒髪の男――ジャンは悪びれもなく言った。
「せっかく高松にシンタローの髪を解析して作った特製のカツラと、シンタローの声紋を録音して作った声変わり薬を貰ったんですケドね」
あの隠居、暇だからって余計なモン作りおって…
「シンタローには優しいんですね」
からかうように言う。
「私を愛してくれているからね」
と言ってやった。

「うわ、あてつけですかソレ?
妬けるなぁ。俺のことはそんな目で見てくれなかったのに」
楽しそうにジャンは言うから
「心にもないことを」
とそっけなく返してやった。
「何で俺がシンタローじゃないと分かったんですか?」
「シンちゃんはもっと色っぽい顔します」
「はは…アイツもお気の毒様…」
「さて、そろそろ出ていってもらおうかな」
「えーっ、そんなこと言わないでくださいよ。
愛していますよ、マジック様」
「くだらんな」

たとえそれが本心であろうと嘘であろうと変わりはない。
私が愛しているのはシンタローだけなのだから

そう言うとジャンは心底可笑しそうに笑いながら、随分変わりましたねと残して扉の向こうに消えていった。

違うね、ジャン。
“変わった”んじゃない。“変えられた”んだ、シンタローに。

教えてあげよう。
目だよ。目が違う。
君は私を見ない。
シンタローはちゃんと私を見ていてくれる。

…嘘じゃ、ないよ。



mmm
彼の墓にやってきた。やっと墓参りできるくらいには心の整理がついた。
墓の主の髪と良く似た色の花を供えた。

帰ろうと思って、来た道を引き返す。と、その先に立っている男がいる。漆黒の、髪を風になびかせて――…

「シンタロー…?」

バカな、彼がここにいるはずが……。

「すまねぇ…どうしても教えてくれねぇから……」

私の後をつけてきたらしい。

「誰の、墓――?」

「……」

どう答えればいいのだろう。
二人の間に沈黙が流れる。会話なく、石畳を進んでいく二人。
気まずい。




そんなことがあってここ最近、お互いなんとなく距離を置いてしまっている。シンタローは尾行してしまったことを申し訳なく思っているようだし、マジックは再びあの問いを投げかけられるのを恐れているいるからである。

どうして言えるだろうか。

私がその存在を跡形もなく消した最愛の者

今でこそシンタローを一番愛している。これは絶対だ。けれど私は、自ら最愛の人の命を奪った。


あの日不安そうな顔をして立っていたシンタロー。できることなら教えてやりたい。
でも――…

いつかは、シンタローのことを殺してしまうかもしれない。
そんな告白をして、彼は今まで通り傍にいてくれるのだろうか。

怖い。
話したら、私の傍を離れていくのではないか――?

ごめんね、シンタロー。私は、お前を失ってはいけない。もしいなくなってしまったら、きっと生きていけないよ。
お前のいない世界なんて、何の意味もないのだから。


シンタローはあれ以来あの質問をすることができなかった。
あんな風に困ったマジックは見たことがなかったから。
でも、このままではダメなことだけは分かっていたから。
今思い切ってマジックの部屋の前なのである。

ドアをノックした。

「はーい、どなた?」
「…オレだ」
「!」
シンタローだ。
普段なら一番顔を見たい相手。
今は、一番顔をあわせたくない相手。

「ゴメン、シンちゃん、今はちょっと手がはなせない……」
嘘だ、と分かった。
「親父ッ!」
ビクリとした。大声に驚いたんじゃない。逃げるな、と言われている気がしたから。

「あの…サ、こないだは、その…探るようなコトして悪かった。
そんでさ…アレ、もう忘れてくれよ」
アレとは、きっとあの質問のことに違いなかった。

「辛いなら、言わなくていいから……
そんだけ。じゃあな」
扉から離れていく気配がする。

違うんだ。卑怯な私は辛い過去を話すのを躊躇っているんじゃない。

シンタロー、お前を失うことを恐れているんだ。

「シンタロー!」
「!」
「…ゴメンね」
「…もういいっつってんだろ」

いっそ罵ってくれれば良かったのに。

――アンタの隠しごとには慣れてる

その一言の方が胸に痛い。
シンタローにはたくさんの秘密を隠してきた。
たくさん嘘をついてきた。
口には出さないけれど、シンタローは嘘を嫌がる。言えるものなら言いたい。
やっぱり彼に秘密ばっかりなのは、辛いだろうから。




「シーンちゃん。今空いてるカナ?」
マジックがひょっこりシンタローの部屋に現れた。
「何だヨ」
「ちょっとお話したいコト、あるんだケド……」
「フーン。さっさと言えよ」
「こないだのコトなんだけど……話すよ」
「!!……っもう、その話はいいんだよ…ッ」


知りたいけれど
知らない
方が良い気がする

「聞きたかったんじゃないの?」
「べ、別に……」

おかしな子だと思いながら、
「パパの一番はシンちゃんだよ」
と言ったら
知ってる、って言われちゃった。自信過剰な子で困っちゃうなぁと思う。

「親友のね、墓だったんだ」
ポツリと言う。
「彼もね、『君を守る』なんて言っちゃってね」

お、お前はッ!言ってるそばからソレかよ!
アンタは前科がありすぎて信用できねーんだよ
内心ブーブー言っていたが
しかし次の一言に言葉を失う。

「殺したんだよ」

感情のこもらない声で言われた。

「本当はね、あの墓の下に彼は埋まってはいないんだよね」

「もういい…」

「だって跡形もないくらい……コナゴナに」

「分かったからッ」

「消した」

「やめろ!!」

泣きそうに、なっていた。
「フフ……怖くなった?私のコトが」
「ケッ、今更そんなことで。…アンタ人殺しまくってたクセに」
こう言ったら困ったように笑われてしまった。

アンタが、泣かないから……

抱き寄せられて、
優しいね、シンタロー。と呟かれて、ポンポンと背を叩かれた。
恥ずかしい奴……


「何で、話したんだよ」
「いやー、パパ隠しごとするとね、シンちゃん怒るから」
「怒ってねーよ!」
「まーたそんなこと言って。素直じゃないなぁ」あっ 何だかいつものペースに戻ってきたかも
「誰が!いつ!怒ったよ。言ってみろ」
「はいはい」

「…シンタロー。
こんな話を聞いても、まだ傍にいてくれる?」
怖いくらい真面目に言うと、シンタローは一瞬キョトンとした顔をして。そうして突然吹き出した。
「えー!!何で笑うのシンちゃん!ココ笑うトコ!?」
「バカじゃねーのアンタ」
「そうだよパパはシンちゃんバカだよ!!」
「ちがぁーう!
……言っとくケドなぁ、もうアンタの最低な部分なんて見飽きてんだよ。もうアンタがどれだけきたねぇヤツかなんてよーく知ってんだよ!」
「酷い言われようだね」
「何で信じねーんだ…もっと信じろよ!
今更何か出てきて驚くと思ってんのか!」
隠さないで欲しい。
アンタのこと、知らないことばっかりだなって、思ったんだ。

「分かったよ、もう隠しごとはしない」
お前がそう言ってくれるなら。
信じるよ。
「親父。今日空いてるか?」
「もちろん!シンちゃんのためなら詰まってるスケジュールも即・空けちゃうよ!」
ティラミスとチョコレートロマンスが聞いたら泣くゾ……、と言ってやろうと思ったが無駄なのでやめにする。彼らも御愁傷様である。
「何ナニ?シンちゃんから誘ってくれるなんて珍しいねー」
「あぁ、行きたいところがあるんだ」
嗚呼!シンちゃんとデートなんて何年ぶりだろうか。数えると悲しくなるから数えないけれど。胸踊るマジックである。


「あの…シンちゃん。一つ聞いていいカナ?」
「んー?」
「コレは……パパへのあてつけでしょうか?」
「あァン?」
だって、酷いよシンちゃん!久しぶりの、久しぶりのデートがだよ!
お墓って!そりゃないよ!
「文句あんなら、帰ってもいいんだゾ」
「わわ分かったよ!」
道中も花屋に入ってキレイな花を買うから「パパにくれるんだねvV」って言ったら「眼魔砲」だからね。ワケわかんないよシンちゃん…。
ブツブツ言ってたらシンタローの姿がちっちゃくなってたので慌てて追い掛ける。

「ココは…」
親友の、墓だった。
答えないでシンタローは花を供えて――

――親父を好いてやってくれてありがとよ――

そういう彼の横顔が、とってもキレイに見えて。見とれてしまった。







「ところで親父。アンタ、オレに嫌われたくないから黙ってたんだろ?」
「……」
(図星なんだな…)
「なんで喋る気になったんだよ」
「いやー、よく考えたらね。もし!仮に!万が一!例えばの話だけどね!」
「早く言えよヨ」
「せっかちさんめ☆
あのね、シンちゃんがパパのこと嫌いになっても、パパの傍を離れようとしても。そんなこと絶対にさせてあげないんだよね」
「はぁ?」
「だーかーらー。シンちゃんが万が一、パパから離れるなんていったら

鎖に繋いででも、私だけのモノにすればいーよね、と思って。
アハハハ」
「『アハハハ』じゃない!何か今サラリと怖いコト言われた気が」
「大丈夫大丈夫。シンちゃんがパパと一緒にいてくれさえすれば」
やっぱり、これ以上マジックについて知らない方が幸せなんじゃ…。
何だか前言撤回したくなったシンタローであった。


-了-





mm
マジックの部屋に入って「親父ー?」と声をかけてみるが返事はない。ただの屍のよ……じゃなくて、眠っているようだ。

目の前で眠っているこの男はバカだ。つい数日前まで病人だった自分にキスをして3日も寝込んでいるのだ。……うつした方は1日もしたらケロリとしていたというのに。

なーにが「うつしたら早く治るかも」だ。
そう思いながらも一応は自分がうつしたのは確かなので放っておくこともできず、面倒を見てやるシンタローなのである。
額の濡れタオルを新しいものにかえてやる。


「…シンちゃん」

名を呼ばれて「ワリィ、起こしちまったか?」と問う。

「シンちゃん……シンちゃん…ッ」

ようすがおかしい。マジックの顔を覗きこむと、眠っているようだった。うなされているようである。

「シン、タロー…ん…っ……シンタロー」

不安気に何度も自分の名前を呼ぶ。眉間にシワを寄せ、額にはうっすらと汗が浮かぶ。


イカナイデ――…


どうしていいか分からずシンタローは。

手を、握ってやった。

「どこも、いかねーよ」

ぎゅっと握ってやる。小さな頃、熱を出して寝込んでいる自分によくマジックがしてくれたように。

すると落ち着いたのか、スースーと寝息を立てだした。寝顔を見ていると、常より少し幼い感じを受ける。

きっと自分だけが知っている顔。




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