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あいつとの、この距離感が心地良かった。親兄弟より近くはなく、他人より離れてもいない。
それならば麗しのサービス叔父様も、全くそうは見えないが一応双子なんだから俺にとって同じ立場の存在だったはずだ。けれど『叔父様』と呼んではいても、世界中を飛び回っていたあいつとは違って常に傍に居たから、兄のような存在だった。グンマもそうだ。傍に居すぎて、手の掛かる弟のような感覚で接していた。


――あいつは、一所にじっとしている事が出来ない人間だった。
殆ど『家』、つまりガンマ団の本部には滅多に帰ってこなかった。俺の世話や遊び相手になってくれた親父の部下の方がよっぽど身近だったと思う。

なのに。

ごくたまに―まぁ、大抵は金をせびりにだったけれど―帰ってくると、何の違和感も無くすんなりと俺達と同じ枠の中に納まった。他人がどれだけ努力してもけして入れない枠だ。家族―そう、つまりは『家族』なんだろう。血の繋がりというのは偉大だ。


父親のように頼れる相手ではなく、兄のように導いてくれる相手ではなく、弟達のように護る相手でもなく、友人や部下のように信頼できる相手でもない。


実際に言い争いどころか肉弾戦すっ飛ばしてガンマ砲の応酬をしあったことも間々ある。ちなみに俺は本気で殺すつもりだったし、相手もそれは同様だろう。顔にはニヤニヤと下らない笑いを貼り付けてこそいたが、その眼は限りなく真剣だった。それでも俺はあいつに殺されると思った事は無いし、あいつも俺を殺せない。不本意ながら逆もまた然り、だ。


父親のように頼れる相手ではなく、兄のように導いてくれる相手ではなく、弟達のように護る相手でもなく、友人や部下のように信頼できる相手でもない。

――隣に、並び立つ相手だ。

結局のところ、同類なんだろう。俺とあいつは。
だから。……こんなにも、惹かれるのだろうか。



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戦闘開始直前





「怪我した」
「おや」

怪我して素直に保健室にくるのはグンマともう一人ぐらいなものだろう。
そのもう一人は素直に怪我をした腕を差し出す。

「・・・珍しいですね。貴方が怪我なんて」

そう言うとシンタローは肩をすくめる。
高松が傷を調べるとそこは赤く水ぶくれができていた。

「みりゃ分かるだろ」
「火傷・・・アラシヤマですか?」
「授業での組み手じゃねぇぞ?」
「でしょうね。貴方が彼に後れを取るとは思えませんし・・こんな時間ですから」

外はすでに闇に包まれている。高松は寮の専属医師でもあるため学校内に部屋が与えられている。
場所は保健室のすぐ隣。といってもそこには寝むる為にしか使っていないが。

「では何故このような怪我を?」
「コージがこけて俺に倒れてきて階段から落ちかけてそれを助けてくれたのがアラシヤマ・・だったんだけど」
「興奮して発火ですか」
「親父にはないしょね?」

その言い方にまだ幼さが見え高松は小さく笑む。
だがすぐのその顔はしかめられた。

「軽度ではありますが・・痕が残るかもしれませんね」
「いいだろ別に。俺男だし。親父には授業でついたって言えばいいし」
「そうですか。ですが私が嫌ですからならべく残さないようにしてみせますよ」
「・・・また実験したのか?」

シンタローが顔をしかめる。それは嫌そう、というより呆れてるような顔。

「やめろよなぁ先輩も後輩も俺にやめさせるように言ってくるんだぜ?」
「死ぬような実験はしていませんよ」
「んなことしってるよ」

シンタローは胸を張って言い切った。

「そこは信頼している」
「・・・・ありがとうございます」
「でも、ほどほどにな?うるさいんだよ」
「ええ。最近は人間選んでますから」
「・・・・・あ、そう」
「次はアラシヤマにしましょうか」
「アラシヤマは悪くないんだけど」

シンタローの言葉に高松は医療器具から顔をあげるとにっこり微笑んだ。

「私がむかついてるんです」
「・・・そ」

シンタローは顔をそらし頬をかく。昔から気になってはいたことだ。
マジックの息子だからというのとは別な感じで甘やかされている。

「へんなの・・・」
「何がですか?」
「別に」
「少し我慢してくださいね?」
「もうしみるのには慣れたよ」
「そうですか」

高松はそれでもそっと薬を塗った。

「しばらく通ってくださいね」
「え~?いいよ自分で手当てできるし」
「授業が終わったら疲れ果てておざなりになるでしょう?」
「・・・・まぁ、否定はできないけど」
「前科がありますからね」
「・・・・ちぇ」
「いいですね?時間があるときでかまいません」
「はぁい」
「よろしい」

満足そうに笑む高松にシンタローも笑った。




「はい。いいですよ」
「サンキュ。じゃあな」

シンタローはたちあがり外へ向かおうとすると高松も立ち上がったのを背中で感じた。
なんだろうと後ろを振り返ると額に暖かなぬくもり。

「おやすみなさい」
「・・・・・・・!?」

シンタローは額を押さえ目を丸くしている。

「おやすみのキスですよ」
「もう子供じゃねぇぞ!?」
「まだ子供ですよ」

シンタローは顔をしかめたがすぐににやりと笑うと高松に手を伸ばした。
そしてまだ差がある身長の距離を縮めるために少し背伸びをして。

「・・・・おやすみ」

そういい残すとシンタローは走って保健室を出て行った。
残された高松は固まったまま立ち尽くしていた。
それからゆっくりと口を指で触れる。まだぬくもりの残る唇を。

「・・・子供ちゅうではまだ子供、といいたいとこですけど」

去り際にシンタローが微笑んだ。
それはそれは妖艶に、こちらの理性を崩すほどに。

「・・・・明日ここにくるまで崩れたところは補強しないといけませんね」

まだ、もう少しただただ安心される存在でありたい。
サービスのように頼りたいときに傍に入れないので意味がない。

「しかし」

向こうから進んで腕の中に飛び込んでくるのなら獲って喰ってもかまわないだろう。
高松はそう結論付けてにっこり笑うと笑顔のままアラシヤマに試す薬を選び始めた。




シンタローは足早に廊下を歩いていた。
ほてった顔を冷やすように。

「勢いでやっちまったけど・・・明日行きずれぇなぁ」

だいたいいつまでも子ども扱いしようとするのが悪い。
17だ。もう17歳になったんだこの前。
それをまだおやすみのキスをねだるような子ども扱いするなんて。

「今に見てろ!」

大人扱いさせてやる。
対等だと思わせてやる。
絶対に向こうから言わせてやる。

「それまでぜってぇ好きだなんて言ってやんねぇ!!」

これからが勝負だ!
シンタローは誰もいない廊下で拳を上げた。
高松がそれはそれは丁寧にやさしく包帯を巻いた手を。


FIN


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すき





笑顔を作るようになったのはいつのことだったか。
おそらく子供のときからだと思う。
それは、自然に覚えたことだ。
そうしなければならなかった。
優秀だけど秘石眼の使えない、総帥としては使えないお坊ちゃんでいなければならなかった。
いなければならないなどと、誰が決めたことではなく自分が決めたことだ。
大好きな大好きなシンちゃんのために。

そうしていて本当に良かったと思った。
まさかマジック叔父様の実子だったなんて。
危うくシンちゃんの場所を奪うところだった。
大好きなシンちゃん。
大好きなシンちゃん。
日記だって恨み言なんて本の一部。
これは彼に送る恋文のようなものだ。

いつか、君がここを去るときに渡そうと思う。
幸せになって欲しいけど忘れないで欲しいなんてわがままかな。
ねぇ、シンちゃん。




「・・ん」

鏡の中の笑顔に満足してグンマは洗面台を離れる。
時々、こうして笑顔を確認する。
シンちゃんがいるときにもするけどいないときによくやる。
シンちゃんがいないとすぐに僕の笑顔は張り付いたものになるから。

「おはようシンちゃん」
「・・おう」

ちゃんとした笑顔で挨拶をしたのにシンちゃんは首をかしげながら挨拶を返した。

「どうしたの?」
「・・いや、気のせいだ、と思う」
「ふぅん」
「おはようグンマ」

今度はちゃんと笑顔で挨拶を返してくれた。やっぱりこの笑顔を見ないとね。

「うん!おはようシンちゃん」

うれしくて笑顔でもう一度挨拶するとシンちゃんは「やっぱり気のせいか」とつぶやいて朝食作りに戻ってしまった。
僕も不思議に思ったけどすぐにシンちゃんの髪に寝癖を見つけたのでそれ以上深く考えなかった。





その夜シンちゃんが僕の部屋を訪ねてきた。それは不思議なことじゃない。
だって僕らはそういう関係だから。さびしがりのシンちゃんを甘えさせたくて始まった関係。
それでも大好きだと何度も言った事はあるが愛してると言った事は一度もない。
愛と呼ぶにはあまりにも僕は彼に全てを許している気がする。
たとえ裏切られても、殺されても、一人置いていかれてもかまわないんだ。
たとえ何があっても、全てがシンちゃんの敵になっても。
自分の持つ全てで守りたいと思う。
この心を、なんと名づけるべきなのだろう。
名づけられないものなのかもしれない。

「突然来て、悪いな」
「ううん。うれしいよ」
「そか」
「・・どうしたの?シンちゃん」
「・・・いや、大丈夫か?」
「は?」

言っている意味が分からない。
目の前にいるシンちゃんは心配そうに僕を見ている。

「・・特に、何事もないけど。うん。大丈夫」
「そっか。ならいいんだ」
「じゃあ帰るの?」
「あー・・」
「かえるの?」
「・・・かえらない」


その言葉に口の両端をきゅう、と上げグンマは笑う。
その本当のグンマの笑顔に俺はやっとほっとする。
昔からそうだったがグンマの笑みは時折さみしい。
さみしいと言うのが正しくないなら、かなしい。
かなしいけれどいとしい、と思う。
そういう日はどうにも触れたいと思うし触れて欲しいと思う。

「シンちゃん」

髪が引っ張られたので抵抗せず引き寄せられる。
重なるぬくもりにまだ心の中に残っていた不安がほどける。
それを知っているのだろうか。それとも最初からそのつもりなのだろうか。
グンマの抱き方はひどく優しくて、俺を甘えさせてると思う。
ただ人のぬくもりが欲しいときはその意図を汲み取るようにただ寄り添って寝るだけのときもあった。
それでも怒らないし、むしろ両手を広げられている気がする。
それでもその両手は閉じきらない。
まるでいつでもここから出て行ってもいいのだというように。

「シンちゃん?」

快楽にうるむ目で必死にグンマの顔を見た。ここいれる間は、ここにいたいと思う。
いつかはここから出て行かなければならないのかもしれない。
俺は人ではないのかもしれないし、赤の番人の体は成長しないかもしれない。
グンマはマジックの実子で長男だ。総帥を継がなかったとはいえその意味合いは大きい。
いつかは伴侶を得て子を得て家族を作るのかもしれない。
それでも、きっと。

「もしも・・」
「うん」
「ここにいたいと俺が願えばお前はうなづくんだろうな」
「うん」
「即答かよ」
「うん。シンちゃんが望む限りは」
「望まなくなったら?」
「さぁ。今はわかんないや」

そう言ったグンマの笑顔があの笑顔で。
かなしくていとしくて、俺はうそつけ、と必死の泣き笑いを浮かべて言った。
きっと俺が戻ってくるかもしれない、とずっと待っているんだろう?
グンマはそれに何を返すでもなく困ったように微笑んだ。
そうして、お互いそんな笑顔のまま唇を重ねた。





シンタローが目を開けると先に目覚めたグンマが頬杖をついてこちらを見つめていた。
その優しいまなざしに居心地の悪さと照れくささを覚えながらシンタローは頬を染め体を起こす。
グンマもそれを追うように体を起こす。二人とも何も身に着けておらず外気にさらされた素肌が僅かに寒気を覚えた。
グンマはそれに気づいたのか昨夜自分がシンタローから脱がしたシャツを拾って微笑みながら手渡した。

「おはよう。シンちゃん」

シンタローは挨拶を返しながらそれを受け取り羽織った。
幾度も経験したことではあるがどうにもこの気遣いややさしさが照れくさくてしかたない。

「・・はよ。つか人の寝顔見てにやにやしてんなよ」
「うん。でもシンちゃんが安心して寝てる寝顔が好きなんだ」

あっさりしたグンマの答えにシンタローはますます顔を赤くする。
だがグンマの笑顔を見て突然手を伸ばして頬をつまむとのばした。

「・・・・・・・・ふぁに?(なに?)」
「・・・いや、気に喰わないなと」
「ふぁにが(なにが)」
「・・・・その笑顔」

そうつぶやいてシンタローはグンマの頬をひっぱった手を離した。

「それ、嫌いだ」
「・・・嫌い?」
「昔から、嫌いだ。ちゃんと、笑え」

それを聞いたグンマはくしゃり、と顔をくずしてそれはうれしそうに、でもちょっと困ったように笑った。
貴方に気兼ねなく自由に生きて欲しいと願って笑顔を作るというのにばれてうれしいなんて。

「シンちゃん、好きだよ」

「もうどうしようもないくらい、君が大好きだよ」

いつか貴方はいなくなってしまうかもしれないのに。
今にもあふれ出そうな涙をこらえて困ったような笑顔で繰り返す。

「すきだよ、だいすきだよ」

「すべてからさらいたいくらい」

「すき」

「だったら」

シンタローの言葉にグンマは泣きそうなのをこらえる。

「だったら、さらえ」
「――――――――――――」

強烈な許しの言葉にグンマは涙を流して笑った。
シンちゃんらしい、そう笑うグンマにシンタローは真っ赤な顔で枕を投げつけた。

「痛いよシンちゃん」
「うるせーばーか」

ああ、もう。

「心から、君がすきだよ」


FIN


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温室の中で





一枚の葉を確かめるようになでる。見た目も、触った感触も異常はない。
高松はほっとしたように息を吐いて次の木へ視線を移す。

「・・おや」
「また医者に怒られるんじゃねぇの?」

そこにはシンタローが立っていた。あの黒髪は結われ服装もラフなものだ。
久方ぶりに見る姿だ。最近の彼は髪をおろしたスーツ姿のほうが多い。

「・・私が医者です。決して無理はしていません」
「そういってこの前病室に連れ戻されたんだろ?」

グンマと、キンタローに。
その言葉に高松は静かに笑うだけだった。
シンタローもそれに対してどうするでもなく話題を変える。

「で、何してんの?」
「温室の手入れ、というより確認ですね」
「ああ、しばらく放ったらかしだったから?一ヶ月くらいそのままだったろ?でも」

シンタローは周囲を見回す。周囲の、南国の植物が生い茂る温室を見回す。
それはどれも生気に満ちうつくしい緑の葉を揺らす。

「・・・元気そうだけど」
「でしょうね。長期間放っておいても大丈夫なようにしてはおきましたから」
「・・・なんで?」

高松は静かに笑った。その笑みにシンタローは見覚えがある。

「・・・高松」
「全部ばれたら殺されるんだろうな、と思って」

でも、生き延びちゃいましたねぇ、と高松は苦笑して、小さく息を吐いた。

「・・体、辛いのか?」
「いえ、大丈夫です」

そう言いながらも高松は後ろにあるおおきなシダの木によりかかる。

「殺して、くれないんですね」
「当たり前だ」
「責めてもくれないんですねぇ。誰も」
「・・・嘘か本当かくらい分かるさ。アンタはグンマを本当に愛して育ててくれたろう?」
「ええ、心から」

高松は即答だった。シンタローは呆れたように、そしてどこか納得したように笑う。
きっとあの島で言っていた「グンマを青の呪縛から解き放ちたい」というのも本当に本心だったのだろう。

「ほらな。なら、許すよ。グンマは・・・グンマだから」
「貴方は?」
「俺?俺結局なんも変わってないじゃん。実子じゃないけどちゃんと今でもマジックの息子だぜ?」
「それでも騙していたでしょう?それに、親友とも別れることになった」
「あ~まぁ、でもほら。俺もアンタのこと騙してたわけだろ?ならお互い様ってことで。
 それにパプワは大丈夫だ。また会える。だって「さよなら」を言ってないからな」
「・・・そうですか」
「ああ」

でも、とシンタローは表情を真剣なものへと変えた。

「俺のこと大事にしてくれたの、結局ルーザーの息子だったから?」
「それは違います」

強い声だった。

「それだけは違います」
「・・・でも、俺のことルーザーの息子だと思ってたんだろ?」
「それはもちろんです。ですが、だから、というのは違います。
 私は貴方が死んでキンタロー様が初めて外に出られたとき、その姿を見たときにすぐに彼がルーザー様の本当のご子息だと分かりました」

それでも、貴方のために戦ったでしょう?

「それは、グンマのためじゃないのか?謎を解きたいって・・」
「それもありましたけどね。でもあなたのためでもあるんですよ」

信じなさい、と高松は笑った。シンタローはそれに少し眉間にしわを寄せる。
高松は苦笑するとシンタローに向かってゆっくり手を広げる。

「私はね、貴方がルーザー様の息子であろうとマジック様の息子であろうと赤の番人だろうと青の番人の影だろうとなんだっていいんですよ。
 貴方が貴方であればそれだけで十分・・というよりも、貴方が貴方でなければ意味がない、否、貴方でなければ嫌なんですよシンタローさん」
「・・・う」

にっこりと笑う高松に対しシンタローは顔を真っ赤にしてうめく。

「だからね?いらっしゃい」
「・・・・う~」

うなりながらもシンタローは前に進む。
最初から二人の距離はそれほど離れていない。
すぐにシンタローは高松の腕の中に納まった。

「すいません心配かけて」
「心配なんかしてねーもん」
「ああ、不安にさせてすみません、かな?」
「・・・・許す」
「ありがとうございます」
「病室帰るぞ」
「まだこうしていたいのですが」
「体、熱いぞ」
「必ず戻ります。だから」

もう少しだけ。

その喜びを含んだ声にシンタローは顔を上げる。そこには高松の幸せそうな顔があった。
シンタローはそれに苦笑しそっと顔を近づけ触れるだけのキスをするとまた肩に頭を乗せる。
久しぶりのキスの感触に二人は顔がにやけるのをこらえる。
誰も見ていないのに変なの、と思ってふと顔を見合わせると同じような顔をしている。
たまらず、二人同時に笑い出した。




「わざわざ送ってくださらなくてもちゃんと病室戻りますよ」
「うるせぇ」

スタスタ歩いていくシンタローに手をつかまれ引きずられるように高松は歩いていく。

「ねぇシンタローさん」
「なんだよ」
「お見舞いきてくださいよ」
「俺は忙しいの」
「総帥になるんですか?」
「そう。で、お前は怪我が治り次第コタローの治療スタッフ率いてもらうからな」
「決定ですか?」
「決定です」
「そうですか」
「だから早く怪我治せよ?」
「ええ。ついでにパプワ君からもらった花、加工して差し上げましょうか?」
「・・・・・頼む」
「ええ」
「ほら早く歩けよ」
「嫌ですよ、もう少しゆっくりいきましょうよ」
「ゆっくりしててもグンマとキンタローが迎えに来るぜ?」
「ええ。ですからそれまで」
「・・・わかった」

シンタローは歩くスピードを緩め高松はそれにうれしそうに笑う。
そして角を曲がった瞬間グンマとキンタローに出あってしまうまであと5秒。




FIN

ss



抱っこ





かかってきた携帯のメロディーでグンマからだとわかり素早く携帯を手にした。

「どうなさいました?グンマ様」
『高松?シンちゃんしらない?』
「いらっしゃらないんですか?」
『いないんだよ!せっかく久しぶりのお休みだからかまってもらおうと思ったのに・・・』
「なるほど。そうですね・・・お疲れだから一人でゆっくりなさりたくて隠れていらっしゃるのかもしれませんよ?
 今日は見逃して差し上げたらいかがですか?休みは明日もあるでしょう?」
『む~・・それもそうかぁ。しょうがないね。でも明日は捕まえていいよね?』
「すぐに見つかればいいってことでしょう」
『そうだね・・しょうがないか。今日はシンちゃんに充電させてあげよう。
 じゃあしっかり甘やかしておいてね高松。よろしく」

プツ。ツーツーツー・・・。
その言いっぷりに苦笑して携帯を閉じた。
そして人の背中にべったりとひっついている存在にもまた苦笑した。
肩に頭を乗せているので艶やかな黒髪がこぼれてくる。
それを指でつまんでかるくひっぱった。

「痛い」
「私は重いですよ」
「我慢しろ」
「さっきからずっとしているでしょう?それに私は仕事中ですよ?」
「誰もこないだろ?マッドサイエンティストの保険医のところなんざ」
「それもそうですねぇ」

まぁ誰が来てもいいようにしっかり入り口に鍵をかけているが。

「お茶を淹れてあげますからどいてください」
「ん~」

ぽて、とこちらに背を向けてベッドに倒れたシンタローに苦笑する。
突然あらわれたと思ったらベッドに乗り上げ手招きするので行ってみればいきなり座らされ寄りかかられた。
甘えたいのは分かるし甘やかしたい気持ちもあるのだがこちらも事務処理が残っている。

「・・シンタローさん」
「おれこうちゃ」

全部ひらがなですか。
とりあえず紅茶を淹れて一旦テーブルに置く。
そして一応尋ねる。

「もし私が仕事したらどうします?」
「いじける」
「いじけますか」

それじゃあ仕事が出来ない。

「じゃあ、甘やかしますか」
「・・・・」

ころん、とシンタローがころがりこちらを向くとにか、と笑う。
その笑顔に心中で白旗を掲げ降伏宣言をした。

「・・しょうがないですねぇ」
「いいじゃん。たまにだろ?」
「いつも、でもいいんですよ?」

その言葉にむくり、とシンタローが起き上がる。
そしてはい、と手を広げられたので傍にいくと抱きつかれる。

「いつも、はダメだな」
「そうですか」
「だってどうせ普段甘えらんねぇじゃん?俺はあっちこっち行ってるしお前はここかパプワ島だし」
「そうですねぇ。今回も貴方にあわせて帰ってきたようなものですし。
 そろそろここも引退してパプワ島の研究に専念しましょうかねぇ」

一瞬、腕の中のシンタローの体がこわばった。

「シンタローさん?」
「・・・・本気で?」

抱きつかれて顔が分からなかったがその声には堅さがあった。

「・・ええ、本気ですよ?」
「じゃあ、もう帰ってこねぇの?」
「そう思いますか?」
「オモイマス」
「信用ないですねぇ・・・ちゃんと帰ってきますよ」
「うそつけ。お前にとっちゃパプワ島は夢の国だろ?研究に没頭して俺は放っとかれるんだ」
「夢の国、については否定しません。でも帰ってきますよ。貴方を放っておくはずないでしょう?」
「嘘だ」
「嘘じゃありませんよ?本当です。だいたいそんなの当たり前でしょう?」

体を離せばいぶかしげに顔をしかめたシンタロー。それを安心させるように笑う。

「ここは私の家で、そして貴方がいる」
「・・たか、」
「だから、大丈夫ですよ」

触れるだけのキスをすれば頬を染めるシンタローがかわいくて仕方がない。

「ね?シンタローさん」
「・・・おう」
「貴方も来てくださいね」
「・・・ん」
「辛いですか?パプワ島は」
「だいじょうぶ、だ」
「私もいますものね」
「じしんかじょー」
「ふふ。本当でしょ?」
「ちぇ」

いいから甘やかせ!と抱きついてくるシンタローをやさしく抱きしめた。
甘やかした後の役得は今夜かな。
そんな呟きが声に出ていたのかシンタローから照れ隠しのパンチをくらった。
それでも頬を染めたシンタローはただひたすらかわいいのでにやけていたらもう一度殴られた。

「可愛い人ですねぇ」
「うるせぇ!!」
「ほら、甘やかして欲しいんでしょう?」

手を広げれば「くそ!」と憎まれ口を叩きながら腕の中に飛び込んでくる。
ああ、本当に可愛い人ですね。


「愛していますよ。シンタローさん」








FIN

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