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+ PM 09:22【LIVING】+

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 夕食の片付けを終えたリビングでシンタローはテーブルに突っ伏していた。
 正面に座ったグンマは曖昧な笑みを浮かべながらデザートのフルーツゼリーを口に運んでいる。
 長い付き合いから把握したシンタローの性格上、今の気持ちが判らなくもなかったのでこのまま放っておくのが一番かとも考えたのだが、さすがにそれも可哀想な気がしてグンマは黙ったまま一緒にリビングに留まっていた。
 さっぱりしたゼリーは食べやすく、それでものんびりと口に運んでいたのだが、グンマは既に二つ目のカップを空にしていた。三つ目も余裕で入るなと思いながら、今食べてしまおうか後に残しておこうかと考える。
 ふと時計に目をやれば、間もなく九時半になるところであった。後片付けに差ほど時間を要した感じもしなかったので、そうするとかなり長い時間沈黙したままシンタローとここにいることになる。
『んー…どーしてあげるのか良いのかなぁ?』
 結局三つ目も食べることにして、グンマはゼリーにスプーンを入れて一口目を口へ運びながら考えた。
『やっぱ、僕がキンちゃんとのこと知ってたってのがシンちゃんにとっては嫌だったんだよね…』
 三人で居たときの会話で、キンタローが何を指しているのか判るとグンマは言った。つまりは、それ・・も込みで知っているということになるのだ。
『別に恥ずかしがることないと思うんだけど…』
 グンマはまたゼリーを口へ運んだ。
 二人が良いのならばそれで良いとグンマは思っていた。キンタローがずっとシンタローを見ていたのは気付いていたし、抱く感情に恋愛が含まれた瞬間も直ぐに判った。それだけグンマは二人を見ていたのだ。
 あのシンタローがよく受け入れたなと驚かなかったといえば嘘になるが、相手がキンタローだからグンマとしては何となく良かったと思えた。二人の関係が変わったからといって自分との関係が変わるわけでもなく、今までと同じように接し方に変化はない。時々キンタローには自ら切り込みを入れて少々えぐった話を聞いたりもするのだが、それだけなのだ。キンタローはシンタローのことに関してのみ自ら口を開くことがあるから、聞いても大丈夫という判断のもと突っ込みを入れているので、グンマとしてはきちんと相手をわきまえているつもりであった。
 キンタローとのことでシンタローには何か余計なことを言ったことは一度もない。
『そんなに内緒にしたかったのかなぁ…』
 そんなことを考えているとゼリーのカップが半分空になった。このまま三つ目も空いてしまうかなと思っていると、目の前で突っ伏していたシンタローが顔を上げた。少し恨めしそうな顔で見られて、グンマは肩を竦めた。
「お前、さ……いつから知ってた?」
「ん?結構前から知ってたよ。多分、二人が出来上がってから数日後ぐらいには…」
「………ッ」
 グンマのあっさりした返答はシンタローにとって有り難かったが、キンタローと関係してから数日後にはばれていたとは思っていなかったようで、またテーブルにめり込みそうになったシンタローである。
 グンマは、言葉に詰まって俯いてしまったシンタローを見ながら、向こうから声をかけてきたということは自分も問いかけていって良いのだろうという判断を下して、食べかけだったゼリーを一気に片付けてから口を開いた。
「シンちゃん、僕が知っていたことが嫌だったの?」
「…それもある」
「それも?他には?」
「お前…知ってンのに…知らねぇって思ってた自分が…」
「あー…そっか!あはは、それは確かに恥ずかしいかも」
 グンマが努めて明るい笑い声を上げるとシンタローが睨み付ける。だが、相当ショックを受けているようで、眼にはいつもの鋭さがなかった。
『うーん…まだ眼が弱いなぁ…』
 普段の様な強い眼力が窺えず、グンマはどうしようか迷ったのだが、今まで座っていた椅子から立ち上がるとシンタローの隣に移った。横の椅子に座るとシンタローの腕をそっと掴む。
「シンちゃん、別にいーじゃん。僕なんだし」
「お前だからイヤなんだよ…」
「何それ?ヒドイなぁ…」
 グンマは傷ついたという顔を大袈裟にしたが直ぐに笑みを浮かべてシンタローの頭を撫でた。立ち上がった状態だと身長差から手が届かないのだが、椅子に座った状態で且つ相手が体勢を崩しているとグンマでも届く範囲に頭が来る。振り払われるかなと思っての行動だったが、シンタローは大人しくしていた。
「…何だかお前がでっかく見えるよ…」
「だって僕お兄ちゃんだもん。シンちゃんはずいぶん可愛いことになってるけどね」
「…うるせぇ」
 からかったら頭を撫でていた手を振り払われたのでグンマは大人しく手を引っ込めた。
「ったく、キンタローもキンタローだよ…アイツは」
 矛先が今はここにいない従兄弟に向くと、グンマは一応フォローのつもりで口を挟んだ。
「まぁ、キンちゃんは仕方ないよ、頭の中シンちゃん一色だからさ」
「何だよ、それ」
「だってキンちゃん、シンちゃんのことしか考えてないよ?」
「………ッだからって、あんな台詞はねーだろッ」
 声を荒立てたシンタローの顔が赤くて、これは怒っているのか照れているのか、はたまた拗ねているのか、グンマには判断が付かなかった。
「まぁ、そーだけど……でも、僕でも判ったのに何でシンちゃん気付かなかったの?」
「だって飯の話してたじゃねーかッ」
「そーだけどさぁ…」
 グンマは相槌を打ちながら考えた。普段のシンタローならばそういった台詞・・・・・・・には敏感に反応を示すはずなのだ。他人の色事には首を突っ込みたがる性格のはずだが、自分のこととなると途端に嫌がる。他に付き合いのある友人の前ではどうだか判らなかったが、少なくともグンマの前ではそうであった。
『僕だけ特別待遇なのかなぁ…』
 そんなことを考えていると、シンタローが浮かべた照れたような笑みを思い出した。意味を取り違えたが、キンタローの台詞に嬉しそうな顔をしていた。
「シンちゃん……もしかしてキンちゃんが好きなお料理、知りたかったの?」
 グンマの言葉にシンタローが派手な音を立てて椅子から立ち上がる。あまりにも勢い良く立ち上がったのでグンマはぽかんとしながら見つめていたが、シンタローが口元を押さえながらも顔を赤くしたので『ビンゴだ』と確信した。
 グンマに図星されたシンタローは、次の言葉の衝撃に耐えようと構えたのだが、グンマの口からは予想外の言葉が飛び出してきた。
「わぁっ!素敵っ!」
「……はぁッ?!ステ…ッぁあ!?」
 あまりにも想像と違う台詞を言われて、思わずシンタローは素っ頓狂な声を上げた。グンマはポンッと胸の前で手を合わせると、目をキラキラ輝かせながらシンタローを見つめてきた。
「何かいいじゃん、そういうの!やっぱそーだよね!知りたいよね!」
 自分事のように楽しそうな声を上げて肯定してくるグンマを見て、シンタローはその勢いに圧倒された。
「いや…その、な…グンマ…」
「キンちゃん、全部美味しいっていうからさ!確かに作り手としてはどういうのが好きなのかってのは細かく知りたいところだよね!」
「あの…だから…」
「そーだよ!だから僕がせっかく話題振ったのに……そっか、それであの回答じゃショックだよね、シンちゃん」
 捲し立てるように言われたグンマの台詞に押されて、シンタローは黙り込んでしまった。
 グンマは立ち上がってそんなシンタローに近寄ると下から顔を覗き込んだ。青い瞳でしっかりとシンタローを見つめる。
「ごめんね、シンちゃん。イヤな思いさせるなら、知ってるよって僕から言ってあげれば良かったね」
「…それは…」
 シンタローは何か言おうとしてまた黙り込んだ。グンマはそのまま考え込んでしまったシンタローが口を開くまで待つことにして、沈黙を保ったままシンタローをじっと見つめた。
 そうして根気よく待ち続けると、シンタローが降参といったように両手を上げて今まで体にこもっていた力を抜いた。ふっと笑みを浮かべてグンマを見る。シンタローの柔らかな笑みを眼にして『眼福っ』と思いながらグンマも笑顔を返してシンタローに勢い良く抱きついた。
「うわっと」
「シンちゃん、何か可愛いーっ」
「あ?馬鹿なこと言ってンじゃねーよ」
 そういって自分にしがみついてくる従兄弟の頭を小突いた。
「えへへ、こうしてたらキンちゃんに怒られるかな?」
「相手がお前じゃ怒ンねーだろ」
「シンちゃんは甘いなぁー、キンちゃんは嫉妬深いよー?」
「…知ってる」
 嫉妬深いと言った台詞をシンタローはしらばっくれるかと思ったグンマだったが、知ってると言ったことから、だんだん開き直れてきたことが窺えた。
「お前さ、どうやって知ったんだよ?」
「ん?キンちゃん問い詰めたの」
 グンマはシンタローにぎゅうっと抱きついたまま、そんな台詞を語尾にハートマークが付きそうなほど可愛らしくさらりと言ってのけた。シンタローの顔が若干引きつる。
「問い詰めたって…」
「うーん、キンちゃんがなかなか教えてくれないからね」
「……………」
「あ、そんな顔しないでよ、シンちゃん。別に僕、酷いコトしてないよ?」
「…本当かよ?」
 シンタローにそう言われてグンマは笑った。
「あのね、僕が気付いたのはキンちゃんの雰囲気が変わったからなんだよね」
「キンタローの雰囲気?」
「うん。柔らかくなったの。多分シンちゃんの影響じゃない?」
「……………?」
 シンタローにはあまり意味が判らないようで先を促すような素振り見せたが、グンマは優しげな笑みを浮かべたままそれ以上は答えなかった。
 グンマは暫く黙ったままシンタローに抱きついていて、シンタローも自分にしがみついているグンマを無碍に扱うような真似はしなかった。
 事ある毎にシンタローやキンタローにスキンシップを図るグンマに抱きつかれること自体は抵抗がなかったが、それでもこんなに長く腕に力を込められたことが今までなかったので、何だか少し変な気がして手持ちぶさたに長い金色の髪を摘んだ。指にクルクル絡めて遊んでみる。そういえばキンタローが自分の髪でよくやっているなと思ったところで、グンマが胸元で笑い出した。
「グンマ?」
「シンちゃん、キンちゃんみたい」
「へ?」
「シンちゃんの髪の毛で同じ様なことやるでしょ、キンちゃん」
 シンタローから離れると、グンマは自分の髪を摘み上げて見せた。
「な…何で知っ…」
「キンちゃんが言ってたよ?シンちゃんを抱きながら髪の毛触るの好きなんだって」
 グンマの台詞にシンタローの顔がカッと赤くなった。
「あはは、冗談だよ、シンちゃん。それとも僕ビンゴしちゃった?」
「グンマッ!!」
 シンタローに怒られてもグンマはいつもと変わらない笑みを浮かべて逃げていく。こいつはどうしてくれようか考えながら若干凄み帯びたシンタローが一歩足を動かすと、それに気付いたグンマは振り返って「もう大丈夫?」と一言問いかけた。
 グンマの問いかけにシンタローの動作が止まる。
「ダメなら僕まだ付き合うよ。シンちゃんだったら一晩でも二晩でも付き合っちゃう」
 大きな青い瞳で真っ直ぐに見つめられて、シンタローは苦笑した。
「大丈夫に決まってンだろ」
「何だ、残念っ」
 そう言って口をとがらせたグンマだが、直ぐに笑みを浮かべた。
「まぁ、これからはキンちゃんとのことを相談する相手が出来たと思ってさ!」
「ゼッテー言わねぇー…」
「えー、キンちゃんからの話だけじゃつまんないよ、僕が」
「………アイツ、そんなにお前に話してンのかよ?」
「んー…五分五分…かなぁ」
 キンタローがグンマに話してくる回数と、グンマがキンタローに突っ込みを入れる回数の比率をざっと考えて、そんなことを呟く。シンタローは何が五分五分なのか意味が判らず問い返したのだが、グンマはまた笑って誤魔化した。さすがのグンマも「自ら適度にえぐって話聞いてます」とは、シンタロー相手に言えなかった。
「じゃ、僕はもう行くよー?」
「あぁ、俺も仕事に戻ンなきゃ……とグンマ」
 グンマはリビングから出ていこうとしてシンタローに呼び止められた。振り返るといつもどおり少し不機嫌そうな顔をしたシンタローに戻っていた。
「なーに?シンちゃん」
「あー……次、何…食いたい?」
 これがシンタローなりの礼なのだ直ぐに察したグンマは喜んで走って戻ってくる。
「またケーキがいい!シンちゃんのオススメで!」
「リョーカイ。また時間出来たら作るよ」
「楽しみにしてるーっじゃぁ、またね、シンちゃん」
 グンマはシンタローとの約束を楽しみに再びリビングから出ていこうとして、ふと思いつき、またシンタローの元へ戻った。
「ねぇねぇ、シンちゃん」
 そばに寄ったグンマが内緒話をするように手招きすると、シンタローは何事かと思って腰を屈める。このリビングには二人しか居ないのだが、それでも尚小声で話すようなことがあるのかとシンタローは眉を顰めた。まだキンタローとのことで爆弾となるような発言を抱えているのかもしれないと心の中で少しばかり構える。
 シンタローが屈んでくれると、グンマは顔を近づけ、唇の横に口付けた。
 シンタローは驚いて顔を上げる。
「えへ。ありがと」
 唖然としたシンタローを尻目に、グンマは今度こそリビングから出ていく。
 間際にシンタローが「これは…される方が特なんじゃねぇーの…?」と呟くと「することに意味があるんだよ」という言葉だけが返ってきた。
 一人リビングに取り残される形となったシンタローは、呆然としながら、唇からは外された、それでもそこに近い位置を、己の指でそっとなぞった。


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k
 












 日付が変わるまで後少しだ。
 俺は少しだけ一人で一年を振り返りたい気分になって、みんなが揃っているリビングから抜け出して外へ出た。
 まぁ、本館の屋上に出ただけなんだけど。高くそびえ立つ本部の建物の屋上からは、結構遠くの街まで見渡せるからさ。何となくそんな気分だったから、自分の部屋には戻らなかった。
 カウントダウンが始まる前にまたリビングに戻ればいいだろと思って、寒さが身に染みる中、白い息を吐き出して、俺はこの高い位置から見える遠くの明かりの群に目をやった。

 一年間色々あったけど、俺なりに一生懸命やってきたつもりだ。
 それでも自分に及第点をあげられるほど現実は甘かねぇーけどサ。
 まぁ、自分が頑張れたところは褒めてやりてぇって思ったりもするけどな。
 でもやっぱそれよりも悔しい気持ちの方がまだ勝る。
 ちょっと待てって思っても、時間がどんどん流れていくし、まだまだやんなきゃなんねぇーことは山積みだ。
 あと一歩は結構でかくて、でもたった一歩なのに届かねぇのかスゲェ悔しい。

 間近に迫った次の年。
 そんな気持ちを噛み締めて、心機一転また踏ん張るか、なんて考えながら俺は年が変わるのを割と落ち着いた気持ちで待ってた。



 ………はずだったんだけど、今現在───。



 そんな俺とは正反対に、かなり切羽詰まった様子のキンタローに迫られてます…。

 年の終わりにオメェは何する気だッ!!キンタローッ!!



 俺が口に出して叫ぶよりも、頭の中に声が響いた。






 シンタロー…俺はお前のことが好きなんだ。






「キ…キンタロー…?」
 今までにないほど至近距離にいるキンタローに狼狽えて、俺の声は動揺がそのまんま表れていた。






 だって…こりゃ動揺しねぇ方がおかしいだろ…?






 金網に手を掛けて夜の景色を見ていた俺の背後に人の気配を感じて、何処に行くとは言わずに出てきても俺の居場所を直ぐに探し当てられる人物を考えると、後ろにいるのがキンタローだってのは直ぐに判った。
「シンタロー…」
「どーした?キンタロー」
 予想通りの従兄弟から名前を呼ばれて、俺は何も考えずいつも通りに返事した。
 更に近付いてくる気配を感じて、コイツも普段と変わらず俺の横に並んで、同じように目の前に広がる夜景を眺めるのかな、なんて暢気に笑みを浮かべながら考えてたら───背後から迫られた。
 何気なくフェンスに掛けられていた俺の手にキンタローの手が重ねられてそっと握られる。






 そんで。
 好きだと言われた。






「聞こえなかったのか?俺はお前が好きだと言ったんだ」
「す…好きって…」
「好きは好きだ。他に何がある?」
 聞き間違いかと誤魔化したかったけど、俺は上手く言葉が継げなかった。

 大体から、何でオメェはそんなに太々しい言い方してんだよ。
 しかも何でこのタイミングだ?
 年の終わりに忘れらンねぇーようなことすんじゃねぇ。
 顔は見えねぇけど口調は淡々としてて、コイツが考えていることが判ンねぇ。

 判ンねぇから不安になる。ドキドキする。

「何って…」
「もう今までの関係だけでは嫌なんだ…」
「嫌だって…」
「ただの従兄弟ではなく、仕事上のパートナーだけではなく…俺のことを見てほしい、シンタロー」

 そう言われて、俺は一所懸命考えた。
 逃げ道を。
 他にキンタローとの間にプラスできる関係を。
 従兄弟以外に何がある?
 相棒以外に何を言える?

 今コイツが望んでることが判らねぇほど、俺だってバカじゃねぇ。

「シンタロー」
「…んだよ?」
「こっちを向いてくれ…」
「……………」
 キンタローの要求に俺は迷った。
 今の俺は、多分困り果てたような顔をしている。
 その顔をキンタローに向けていいのか、迷った。
 背中にキンタローを感じながら逡巡する。
「シンタロー」
 キンタローは俺の名前をもう一度呼んで、再度促すように俺の手を握る手に少し力を込めた。
 俺は迷いを断ち切るように一度眼を閉じて一つ息を吐き出すと、ゆっくり振り返る。それと同時に、握り締められていた手が解放された。重なり合っていたのは片手だけだったのに、キンタローの手が離れると、それだけでとても寒く感じる。
 俺が振り返るとキンタローの青い眼と視線が至近距離でぶつかった。
 俺の顔を正面から見て、キンタローの顔が苦しそうに、切なそうに、少しだけ歪んだのがはっきり判った。
 今までにない至近距離で、夜の外にいてもお互いに相手の表情がよく見える。
 それが良いのか悪いのか判ンねぇーけど、キンタローの表情を見て、俺も少し苦しくなった。

 それからしばらく黙ったまま、俺達はお互いを見つめてた。
 きっと翌年は目前に迫ってる。
 このまま年を越すのかよ、俺達は。






 かなりヤダぞ、それは───。






「嫌なら拒絶してくれて構わない」
 そんな俺の心情を察したのか、キンタローが先に口を開いた。
「…拒絶…」
「他にないだろう?俺はもうお前のことを以前と同じように見ることは出来ない……だから……駄目ならはっきりそう言ってほしい」
 そう言いながらもキンタローの青い眼が縋るように見つめてきて、拒絶されるのを拒んでいるのが見てとれた。
「……………」
 俺は言葉に詰まって何も言えなくなる。
 そんな顔すんなよ、キンタロー。
 いつも太々しいまでに無表情で、冷静沈着なお前だろ?
「シンタロー…」
「……………」
 俺が黙ったままだから、キンタローがまた名前を呼んだ。せがむように体が動き、俺の方に腕が伸ばされたが、俺を掴むことに躊躇いが生じたのか、後ろにあるフェンスへ手をついた。
 俺の左右はキンタローの腕で塞がれる。
 吐息が触れるほどの距離に俺は思わず顔を背けた。
 至近距離で青い眼に見つめられるのが耐え難くて、でもキンタローをはね除けることなんて出来なくて、ただ視線から逃れるように顔を逸らした。
 手で押し返せばキンタローは簡単に離れていくんだろうなと思ったけど、簡単なことなのにそれが出来ないでいる俺は、これからどうしたいんだろう。
 いきなりのことすぎて、何て言えばいいのか判ンねェよ。
「シンタロー…」
 何も言葉に出来なくて、無言のまま顔を逸らした俺に、またキンタローが名前を呼びかけた。
 判ってるよ。お前の方を向けってんだろ?
 そう思ったけど、体が思うように動いてくれなくて、キンタローの方を向くことが出来ねぇ。
「シンタロー…」
 また縋るように名前を呼ばれた。顔なんか見なくたって今コイツがどんな表情を浮かべてるか、頭の中で鮮明に浮かぶ。その声だって、耳にしてると辛くなんだよ。
 キンタローの要求はシンプルで、それに対しての返答もイエスかノーで答えりゃいいだけだ。
 たった一言なのに、それが口に出来ねぇんだよ。
 答えなんかもうとっくに出ているような気もすんだけど、それでも何も言えないまま俺が固まってるのは、まだ混乱から抜け出せてねぇーからだ、きっと。
 戦場じゃこんな迷いって生じねぇーのにな。
 二択なんて、瞬時に状況分析して片方切り捨てて、どんどん次に進んで行けんのに。
 まぁ、ここは戦場じゃねぇーけどサ。

 直ぐにイエスという言葉が出なかったのは、俺がコイツをそういう対象で見たことが一度もなかったからだ。
 でも、ノーと言えないのは、断ったことでキンタローが俺から離れていくのが嫌なんだ。

 ずっと従兄弟はグンマだけだった。
 でもキンタローが加わったことで俺達のバランスが変わって、グンマとの関係も前より楽しくなった。
 きっとコタローが目を覚ましたら、もっと楽しくなる。

 仕事の相棒を見つけたときは、ホントに嬉しかった。
 何食わぬ顔して助けになるお前の仕事ぶりは、ホントに感謝してる。
 傍にいる居心地の良さと安心感から、頑張れてるところがあんだよ。

 それを失いたくねぇ。






 キンタローを俺の傍から離したくない───。






「日付が変わるまでお前が沈黙したままなら………シンタロー、俺は肯定ととるからな」
 俺が一つの答えに辿り着いた瞬間、キンタローが何かとんでもないことを言い出した。
「はあぁッ?!」
 迫られてたことを忘れて、俺は素っ頓狂な声と共に振り向いた。
「何だよ、そりゃ」
「新年早々振られるのは嫌だ」
 言われた台詞に、まぁ確かに、と頷きそうになったけど、違ェだろ俺。
「だったら、何でオメェはこんなギリギリになってそんなこと言い出したんだよッ」
 俺は声を荒立てながら勢い余ってキンタローの胸ぐらに掴みかかる。
「………迷いに迷っていたら三十一日になってしまったんだ…今日もずっと機会をうかがっていたんだが…」
「んな素振り見えなかったぞッ」
「全部お前の何気ない行動に誤魔化された…」
「俺ッ?!」
 キンタローに頷かれて一日の行動を振り返りそうになったけど、そんな俺の様子に気付いたのか、キンタローにまた急かされた。
「とにかく、振られるなら今年中がいい」
 またサラリとンなこと言いやがってコイツは、と思いながら俺はキンタローを睨み付ける。
「年が変わンのと同じように、そんな直ぐにオメェは気持ちを切り換えられるっての?」
 わざと冷めた口調で言ってやると、この場の空気がしゅんとなった。
「………終わりと始まりだから…きっと…」
 キンタローの言葉が小さく聞こえてきて、フェンスを掴んでいる手に力が籠もったのを何となく感じた。
 そのままじっと見つめてくる青い眼は、俺を離したくないという気持ちが表れてる。
 さっき俺が行き着いた答えもそこだったな。
 お前を離したくないよ、キンタロー。


 でも───。


 俺は迷う心から抜け出せないでいる。
 俺がお前を想う気持ちは、エゴのような気がする。
 お前が俺を想う気持ちと、異なるような気がする。

「シンタロー…」
 顔を近づけて名前を呼ぶキンタローを見つめながら、俺は年の終わりに何を想ったかな。
 二人揃って至近距離で見つめ合い、白い吐息が重なり合う中、相手を待つ形になった。
 今は何も言えない俺と。
 まだ何も出来ないお前と。






 それから少しして、キンタローの腕時計から鳴ったアラーム音が俺の耳に響いた───。







20071231...LAST


 
k







+ PM 07:50【LIVING】+

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 その日は久しぶりに従兄弟三人が揃って夕食を摂っていた。
 ここのところばらばらの行動が続いていた三人なのだが、キンタローが研究室に籠もりきりで食事を疎かにしていたのをグンマが見かねてシンタローに告げ口をした。その結果、有能な補佐官は有無を言わさず総帥によって研究室から引きずり出されたのである。一時間ほど前の話だった。
 テーブルの上にはシンタローがあり合わせの材料で作ったという料理の数々が並んでいる。生野菜のサラダから肉料理に魚料理、スープと三人で食べるには少々豪華な夕餉である。
 キンタローはシンタローが用意したものを大人しく食べていた。食事の進みが悪いわけでもないので、きちんと食欲があるのは一目で分かる。自分も食事を摂りながらその様子を観察していたシンタローは、自分が作ったものがある程度キンタローの腹に納まると、溜息混じりに文句を言った。
「お前さぁー…体が資本って俺が何回言ったと思うわけ?ったく…俺がいなかったらどーすんだよ」
 シンタローに睨まれながら小言を食らったキンタローだが、口に入っていたものを飲み込むと、それを特に気にした様子もなく平然と言い返した。
「お前がずっと傍にいればいい」
 キンタローとしては大したことを言ったつもりもなかったのだが、その一言があらぬ方向からの反撃となってシンタローは二の句が継げられなくなってしまった。
 だがキンタローの横で同じように食事を摂っていたグンマは、面白そうに笑いながら突っ込みを入れた。
「あはは、キンちゃんどさくさに紛れて凄いこと言ってるね」
「別に凄いことじゃないだろう」
「えー、ずるいよー。シンちゃんを我がものにするなんて」
「厳然たる事実だ」
「んー…そうなんだろうけどさぁ」
 目を白黒させながら二人の会話を聞いていたシンタローは、グンマの肯定の台詞で我に返り怒鳴り声を上げた。
「オメェら、ふざけたこと言ってんじゃねぇーッ誰がものになるかっつーの」
 少し顔が赤いのは怒りの所為からなのか、あるいは別の理由・・からなのか、鋭い眼で睨んでくるシンタローに、グンマはきょとんとした顔をする。次いで驚いた顔をすると慌ててキンタローを見た。平然とした様子で食事を続けるキンタローに、グンマは声を潜めて話しかける。
「ちょっと、キンちゃん…シンちゃんって…」
「あぁ。お前にばれていることを知らないぞ」
 キンタローの台詞にグンマは耳を疑った。
 グンマがキンタローを問い詰めて二人の関係を白状させたのはかなり前の話になる。というか、出来上がって数日も経たない内のことだった。
 てっきり自分に話したことをシンタローに言ったものだと思い込んでいたのだが、いまだに二人の関係がばれていないと思っているシンタローに驚き、黙りを貫き通しているキンタローにも驚いた。二重の驚きであった。
「もう…そーゆーことは先に言っておいてよ…」
「………何コソコソ話してんだよ?」
 シンタローは怪訝そうな顔をしながら二人を交互に見た。目の前で内緒話をされたら気になるというのも人の心理であろう。二人とは異なる真っ黒な瞳でじっと見つめられてグンマは気まずい思いをしたのだが、本来もっと気まずい思いをするべき人物は飄々と食事を口に運んでいた。
「な…なんでもないよ、シンちゃん…」
「そーかぁ?」
「うん…き…気にしないで、ね…」
 グンマがしどろもどろになりながら返事をする。キンタローがシンタローから受けた忠告通り大人しく食事をしていることで気が逸れたのか、それ以上は突っ込んで聞いてはこなかった。
 それから話題を変えてシンタローとグンマが喋り、キンタローが大人しくその横で食事を摂るという時間が少し流れた。二人の会話を黙って聞いていたキンタローだが、突然グンマに話題を振られると一旦食事の手を止める。
「さっきから一切喋らないでずっとご飯食べてるけど、やっぱりシンちゃんのご飯は美味しい?」
「美味しい」
 グンマは何気ない会話のつもりでキンタローに話題を振り、キンタローも素直な感想を一言述べただけだったのだが、それを耳にしたシンタローは照れたように軽く肩を竦めた。
「あー、シンちゃん照れてる」
「う…うるせーよ」
 キンタローは、グンマに指摘されてうっすら顔が赤くなったシンタローを見る。視線が合うと勢い良く逸らされたのだが、それがキンタローの青い眼には可愛く映って、微笑を浮かべた。
「ふーん………まぁ、いーけどね」
 そんなキンタローを眺めながら、グンマがわざと冷ややかな視線を作って投げ付ける。目で指摘されて、今度はキンタローが肩を竦めたのだが、問題の人物はきょとんとしたまま訳が分からないようで、また真っ黒な瞳で二人をじっと見つめていた。
 間もなく久しぶりに三人が揃った食事が終わるかという頃、またグンマがキンタローに話題を投げかけた。
「そーいえばキンちゃんって、シンちゃんが作ったご飯、いつも大人しく食べてるけど、アレが食べたいとかコレが食べたいとかってないの?」
「あぁ、そーいや、俺も聞いたことねぇーな」
 グンマの質問にシンタローも興味を示したようで話題に乗っかる。何かを期待するような表情で二人に質問されたキンタローは返答に困った。
『これは…どう答えたら良いんだろうか…』
 直ぐ食事を疎かにしてしまうことから判るように、キンタローは食に無頓着なのだ。
 特に好き嫌いもなく、食べられれば何でも良いというのが根底にある。一言付け加えるのなら、極端に甘いものは遠慮したいといったぐらいで、敢えてリクエストしてまで食べたい物が今まであったのかと問われれば、差し当たって思い当たるものもない。
 更に、食事に関して恵まれた環境にいるというのもあった。シンタローが料理好きなため、一口で止めたくなるような奇抜な味をした料理や食べられるのかどうかすら怪しい斬新な料理が出てくることはまずない。彼が作れば美味しく頂ける料理が並ぶのだから、それ以上を考えたことは一度もなかった。
「今のままで十分満足しているが…」
「えー、それじゃつまんないよー。何かおねだりとかしないのー?」
「…おねだり…」
「僕なんかしょっちゅう色んなもの作ってもらってるのに…」
「そうなのか?」
「うん。昨日はアップルパイを焼いてもらったんだ。凄い美味しかったー!あ、キンちゃんも食べたかった?」
「甘いものはいらない」
 あれだけの激務に身を投じているガンマ団総帥を捕まえて何をやらせているんだと周りの者達は思うのだが、シンタローにとっては良い気分転換になっていたりする。嫌なことははっきりと嫌だと言う性格だから、グンマに付き合ったということはそれだけ余裕があったということなのだろうとキンタローは思った。
 そうなると、自分はどうなのだろうかとキンタローは問いかけてみる。
 食べたいもの、食べたいものと頭の中で呟きながらそのまま暫く考えてみて、ようやく辿り着いた先といえば、シンタロー本人・・・・・・・ぐらいだな、ということであった。
 あまりにも食べたいものが思いつかなくて、更にシンタローと考えていたら食べたいの意味が途中ですり替わってしまったようだ。
『確かに食べる・・・とは言うが……これでは回答にならないだろうな…』
 ねだってまで食べたいものは、と考えながらキンタローはシンタローをじっと見た。シンタローの方は次にキンタローが何を答えるのか興味津々の呈で見ている。
 グンマは更に外からそんな二人を好奇心旺盛に見ていたのだが、ふと思い立って席を立つ。
「まだ二人とも時間あるよね?新しいお茶の葉っぱもらったの。二人とも何か飲むでしょ?」
 二人が頷いたのを確認すると、グンマはキッチンへ向かった。お湯を沸かして三人分のお茶の用意をするとなるとそれなりに時間がかかる。しばらくキッチンにいたグンマがお茶の準備を終えて戻ってくると、シンタローとキンタローはまだお互いをその目に映したまま沈黙していた。
『わぁー、シンちゃんとキンちゃん、今までずっと見つめ合ってたのかな?』
 キンタローはともかく、シンタローの方は相手が答えるのを待っていただけなので、グンマが戻ってくると自然な動作で視線を外した。グンマにはそれすら少しドキドキと感じられる。
 シンタローはグンマの手伝いをしようと腰を上げたのだが、グンマはそれを制した。
「いーよ、シンちゃん、ご飯のお礼」
「そーか?悪ィな」
 グンマはカップにお茶を注ぐとシンタローとキンタローに渡し、自分の分を入れると再び席に着いた。二人の会話はどうなっているのかなと思いながら、入れたばかりのお茶をゆっくり飲む。シンタローとキンタローもグンマから受け取ったカップに口をつけた。
 熱いお茶を飲みながらキンタローはもう一度考えてみる。
 作ってもらったものは全て美味しいということで、特に何か例を挙げなくてはいけないこともないのだろうが、シンタローからの期待が籠もった視線を見るとここは何か答えなくてはいけないような気になってくる。
 しかし、ここで調子よく何か適当に挙げられる性格でもないキンタローは、考えても言葉が出てこなくて、だんだん答えは「シンタロー」でもいいんじゃないかという気さえしてきた。
 ねだって食べたい・・・・のも、キンタローにとって美味・・であることも紛うことのない事実であるのは確かだ。
 キンタローは再びシンタローに視線を向けた。
「ずっと……食べてみたいと思っていたが、初めて口にしたときの衝撃は大きかったな。想像以上だったし直ぐ夢中になった。俺としては毎日食べたいと思うんだが……実際問題それは無理なのが残念だ」
 キンタローの横で大人しくお茶を飲んでいたグンマが思い切り咽せた。
 キンタローとしてはシンタローの眼を真っ直ぐ見つめながら相手に判りやすいように台詞を口にしたつもりだったのだが、グンマの反応の方が早かった。
 グンマは少しの間涙目になりながら咳き込んでいたのだが、何とか自分を落ち着かせるとキンタローに心底呆れた顔を向ける。この従兄弟はキンタローが何を指して言ったのか直ぐに察したのであった。
「キンちゃん…」
「他に自ら望んだものが直ぐに思い浮かばなかった」
「まぁ………いーけどね。確かに、食べる・・・とは言うし…」
 キンタローとしてはシンタローも直ぐに気付くだろうと思っていたのだが、当の本人は少し照れた笑みを浮かべながらキンタローに視線を返した。
「確かに毎日同じものってのは栄養が偏るから良くねぇーけど、そんなに気に入ってンのがあんなら言ってくれりゃいいのに」
 シンタローの台詞にキンタローとグンマは目を剥き固まった。思わず揃って相手を凝視してしまう。何を指して言ったのか、グンマは直ぐに判ったのだが、当の本人には伝わらなかったようであった。
「いつ食ったやつ?」
「いつ……そうだな、初めて食べた・・・のは…」
 キンタローの台詞にグンマが慌てて口を塞ぐ。
「ちょっとキンちゃんッ!それはさすがにシンちゃんが可哀想でしょッ!」
 グンマに怒られてキンタローは口を閉じた。本人としては最後まで言うつもりはなかったのだが冗談には聞こえなかったようだ。
「冗談だ、グンマ」
「洒落にならないことしないでよ」
「グンマ、何で俺が可哀想なんだよ?」
 シンタローはキンタローとグンマのやりとりが理解できないようで、今度はグンマに話題を振ったのだが、振られた方は何とも言えない顔をする。困ったグンマはキンタローの顔を睨んだ。グンマとしてはとばっちりを食らうのは御免だということなのだが、睨まれた方は意に介した様子もなく平然としている。
「………何でもないから気にしないで、シンちゃん」
「何だぁ?まぁ、いーや。キンタロー、最近も食ったヤツ?」
「最近は…」
「キンちゃんッ!」
 またグンマの咎める声が響いたところでキンタローの携帯がタイミング良く鳴った。ディスプレイを見れば研究室からで部下からかかってきたのが一目で分かる。キンタローはこれで会話を打ち切ろうと電話に出た。
 キンタローが会話から外れるとこの話題はここで中断されると思われたのだが、何も判っていないシンタローはグンマに問いかけてきた。
「なぁ、グンマはキンタローが何を指して言ってンのか判ってンの?」
「うん…まぁ………多分…」
「何だよ、俺だけ判ってねぇーのかよ。お前も食ったことあるヤツ?」
「ぼ…僕はないよッ!!」
 グンマは慌てて勢い良く首を横に振った。そんなあってはならないような恐ろしいことをサラリと聞かないでと狼狽する。
「じゃぁ、キンタローにだけ作ったのか…いつだろ?」
 シンタローが首を傾げながら記憶を辿っていく。グンマはそんなシンタローに何を言えばいいのか判らず、何とか曖昧な笑みを浮かべた。
「大体ここで食うときは、グンマ、お前も一緒だろ?キンタローと二人ってのはそう無かったはずだから…いや、でも待てよ…」
 見当を付けようと一所懸命考えているシンタローがだんだん可哀想になってきたグンマだが、自ら答えを言うことは絶対に出来ないと思った。これは口が裂けても言いたくない。お願いだから僕にこれ以上聞かないでと心の中で激しく祈った程である。
 キンタローが電話を切ると、グンマは再び睨む。シンタローが一所懸命どの料理なのか思い出そうと考え込んでいる姿を目で促して「どうするの?」と訴えた。
 どうするのかと問われても、キンタローもどうしたらいいのか判らなかった。
 自らまいた種とはいえ、シンタローは直ぐに察すると思ったのだが、予想外の方向へ行ってしまったのだ。軌道修正をかけるにも、それにははっきりした言葉で言わないと相手に伝わらないだろう。先程のように揶揄した台詞を口にするならともかく、グンマがいる前ではっきりと言っていいものかどうなのかは悩むとろこであった。というよりも、言えないことだということはキンタローにも判った。
 色々な都合を考えて、これは二人になったときにでも回答するのが良いだろうという結論に達した。
「研究室から呼び出しがかかったから俺は行くぞ」
 キンタローがそう言って椅子から立ち上がると「何だよ。だったら答えを教えてから行けよ」とシンタローが視線を向けた。本当に何も判っていない様子で、きょとんとした顔で見つめてくるのが何とも言えず、キンタローの目には可愛く映った。己は末期かも知れないという自覚が半分くらいあるキンタローなのだが、シンタローが時折見せる『そういう顔』を見てしまうと周りに構わず手を伸ばしたくなるのだが、さすがに今は諦めた。ここにはグンマもいるのだ。
「…今度答える」
 キンタローは適当に誤魔化してリビングから出ていこうとした。
 しかしシンタローの傍を通ったときにスーツの上着の裾を掴まれる。振り返ると椅子に座った状態のシンタローが首を傾げながらキンタローをじっと見上げていた。
「今度って、もったいぶるようなことかよ?なぁ、教えろよ、キンタロー。気になんだろ」
 シンタローの台詞にキンタローが一度グンマに視線を向けると、グンマは心したように顔を背けた。
 キンタローはゆっくり屈んでシンタローの肩に手を置くと耳元に唇を寄せ「答えはお前だ、シンタロー」と意図して低い声で囁いた。
 予想通りに今の台詞でフリーズしたシンタローの耳に軽く口付けるとキンタローは背を向けてリビングから出ていった。

 その後どうなったかは、グンマのみぞ知る。


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[BACK]


+


         シンタローがジャンの体で復活し、メンバーたちがパプワ島からガンマ団に戻り        怪我が完全に治ってから、アラシヤマはシンタローからしばらく無視をされていた。
         任務から帰還し、久々に暇が出来たアラシヤマはその状況をどうにかしようとほぼ        1日中シンタローの後をついてまわっていた。
         「シンタローはーん?」
         「・・・・」
         シンタローは、相変わらずアラシヤマを無視して歩いている。
         「何怒ってはりますのん?わて、あんさんに何かしました??えーっと、着替えを        覗こうとするのはいつものことですし、盗撮もストーキングも日課みたいなものです        やん?」
         「・・・・(怒)」
         アラシヤマの言葉を聞いたシンタローは、ますます険しい顔をし、歩調を速めた。        それでもアラシヤマは後を追いかけ、なんとか理由を聞き出そうとする。
         「あまり、訳の分からんことですねてはりますと、いくらわてでも困りますえ?」
         その言葉を聞いたシンタローは、急にピタッと立ち止まった。
         勢い余ったアラシヤマは、危うくこけそうになった。
         振り返ったシンタローは、妙に無表情であり、いつも表情豊かなシンタローを見慣れ        ているアラシヤマは戸惑った。
         「・・・お前は、顔が同じだったらジャンでもいいんだろ?洞窟でアイツに友達に        なってくれって頼んでたじゃねぇかヨ。そもそもこの体も、もともとはアイツのだし。        『親友、親友』って、別に俺に拘る必要はないと思うぜ」
         「・・・(そう言われると痛いどすな。わて、実際ジャンはんに友達になってくれ言うて        しもうたし。うーん(何かを妄想)。あっ、やっぱり中身がシンタローはんやないとあきま        へんわ)。(←この間3秒)シンタローはん、わてはあんさんの外見やのうて中身が好きなん        どす(・・・もちろん外見も好みどすけど、それを今言うたら逆効果になりそうですしな)。        いくら顔や体が同じでも、ジャンはんは、あんさんとは別の人間どすから、わてが心友に        なりたいと思うのはあんさんだけどす。だから、例えあんさんがまた体の無い幽霊になった        としても、わての『バーニング・ラブv』な友情パワーでなんとかしてみせますえ!!」
         シンタローの表情が少し和らいだ。
         「まぁ、とりあえずはその言葉を信用しといてやるヨ。・・・ただ、お前が答えるまでに        3秒かかったけどナ」
         ホッとした後、ギクッとしたアラシヤマはダラダラと冷や汗をかきつつ弁明した。
         「い、嫌やわぁ、シンタローはん。わてが答えるまでに3秒もかかったやなんて、たぶん        気のせいちゃいますのん?・・・それにしても、そないなことですねはるやなんて、シン        タローはんはやっぱり可愛いおすなぁvvv」
         なんとなく有耶無耶のうちに仲直り出来そうな雰囲気に気が緩んだアラシヤマが思わず本音        をもらすと、少し和らいでいたシンタローの表情が、再び険しいものに戻った。
         「やっぱりお前、無視決定。・・・眼魔砲!」
         「あぁー、痛いどすが、シンタローはんがヤキモチ妬いてくれはったなんて、幸せどす~」
         その後しばらく、大怪我をしながらも何故かアラシヤマは幸せそうにニヤニヤ笑っていたので、        周囲のみなさん方は非常に不気味に思ったらしい。




+

 本日、シンタローが半年ぶりに帰って来るというのでガンマ団内はお祭り騒ぎの状態であった。
 総帥のマジックが上機嫌なので、その雰囲気は部下にも伝わり、心なしか誰もが嬉しそうな顔をして廊下を行き交っていた。
 アラシヤマはお祭り騒ぎには興味がなく、明日からの任務の準備を黙々としていた。 彼は最近では単独の暗殺任務が多かったが、今回は少人数単位での任務であった。
 彼は常々、(わては、シンタローが総帥の息子ということはどうでもええし、その部分でシンタローと友達になりたいとは全く思わへんから、他の奴らよりもシンタローに対する評価が客観的どす)と自負していた。
 アラシヤマから見ると、シンタローは格闘技が出来るほうだが、まだまだ隙があり、甘い部分が多かった。
 アラシヤマが伝え聞いた噂によると、シンタローは、叔父のサービスと修行をしていたようで、彼はシンタローが修行によってどれほど強くなったのか興味があり、そしてただ単純にシンタローに会いたかったが、アラシヤマは、(わ、わては、別に、シンタローなんかに会いとうおまへん!)と自分を無理矢理納得させ、意地を張ってシンタローに会いに行こうとはしなかった。
 アラシヤマが食堂で昼食を食べているとき、近くに座っていたガンマ団員の会話が耳に入った。
 「おい、お前聞いたか?総帥の息子がガンマ砲を撃てるようになったらしいぞ」
 「ふーん。やっぱり、全然似てなくても親子なんだな。良かったじゃねぇか。これで親子だって証明されてよ」
 「そうだな。今まで散々いろんな噂がたってたしな。お偉方もホッとしてんじゃねぇか?まぁ、俺らには関係ねぇがな」
 「違ぇねぇ」
 そう言って、シンタローのことを少し揶揄して笑うガンマ団員の会話に、アラシヤマは(シンタローは、わてのライバルなんどすから、あんさんらが馬鹿にしてもええもんやおまへん!!)とムカつきつつも、(それにしてもシンタローは眼魔砲が撃てるようになったんどすか)と、少し感心した。
 
 翌日の任務で、アラシヤマはシンタローが居ることに非常に驚き、上官に食って掛かった。
 「なんで、いきなりシンタローがいるんどすか?ここはそんなに危なくないとはいえ、まだまだ残党がたくさんいますえ?この人数やと誰もシンタローを守る余裕なんてないでっしゃろ?」
 上官は、食って掛かるアラシヤマに迷惑そうな顔をしつつも、
 「総帥命令だ。まぁ、マジック総帥も使えないようならいくら自分の息子とはいえ、こっちには遣さないだろう。その辺りはきっちりしているお方だからな」
 と言い、それ以上の抗議は受けつけなかった。
 その向こう側でシンタローは団員と話しており、追い払われたアラシヤマはシンタローを見るともなしに見ていた。
 久々に見かけたシンタローは、半年間の間に以前よりも髪が長くなり、顔つきが大人びており、アラシヤマは少々戸惑った。
 シンタローは、アラシヤマに気が付くと嫌そうな顔をし、顔を顰めて舌を出した。そんなところは、まだまだ子どもっぽく、アラシヤマは少し安心した。
 今回の任務は、麻薬を秘密裏に栽培していた村そのものと、その村に大量に残された麻薬の原料を消滅させることであった。そこの村で精製されていた麻薬は質が悪く、使用するとすぐに死に至ることで有名であったので、ガンマ団に徹底破壊の以来が来た。その村で働いていた従業員達の中で、危険な麻薬を作っていることを知っていた者は極一部であったが、ほとんどの村民は麻薬を精製する過程で何らかの有毒な物質に触れていたので現在病院に収容されていた。建物自体も有毒な物質の成分が染み込んでいたので、全て消滅させなければならなかった。その村の周囲にはゲリラの残党が、その麻薬を狙って潜伏しており、いくら決着は着いていたとはいえ油断は出来ない状況であった。
 麻薬を一箇所に集め、アラシヤマが低温の炎で煙を出さずにそれを燃やし尽くし、他の団員達がその後の化学的処理を行っていた。
 シンタローは建物を破壊し、アラシヤマがそれを燃やすという役割であり、2人は村の入り口に戻った。
 「あんさん、新しい技を覚えたそうどすが、ほんまに使いものになるんどすか?」
 「てっめぇ、疑ってやがんのかヨ?そんじゃ、見せてやるぜ!眼魔砲ッツ!!」
 シンタローの手に球形のエネルギーの塊が生まれ、爆発音とともに木で出来た建物を破壊した。
 「なるほど。これが眼魔砲どすか」
 「そーだ!スゲェだろ?」
 嬉しさからか、非常に珍しくアラシヤマに向かって無邪気に笑うシンタローに、ここ数年、そんな笑顔を自分に向けられた事のなかったアラシヤマは非常に動揺した。
 「す、す、すごいどす・・・」
 オドオドしているアラシヤマを見たシンタローは、眼魔砲の威力に恐れをなしたと思い、上機嫌であった。
 そして、シンタローが順調に建物を破壊し、アラシヤマがそれを燃やしていくうちに1軒の民家を残すのみとなった。
 「そんじゃ、最後の1軒か。眼魔――」
 その時、民家の中から小さな人影が飛び出してきた。
 「止めろっつ!僕の家を壊すなッツ!!」
 4歳程の年齢の男の子が家の前に立ち塞がり、両手を広げて通せんぼし、2人を睨みつけた。
 2人は予想もしなかった出来事に、思わず顔を見合わせた。
 「確か、村民はみんな避難したって・・・?」
 「マァ、こんなこともありますやろ。それにしても、このガキどないしまひょか?面倒でおすな」
 「面倒って、オマエ、保護して病院か避難所に連れて行くしかねぇだろ?オイ、そこのお前、こっち来い。父ちゃんと母ちゃんのとこに連れてってやる」
 そう声を掛けたシンタローであるが、子どもは頑としてそこを動こうとしなかった。
 「その家は、危険なんだ。早くしねぇと家の下敷きになっちまうぞ?すぐにどかねぇと知らないからな?」
 シンタローが少し脅すような調子で言うと、子どもはますます意固地な様子になった。
 「嫌だ!そんな嘘言って、僕の家を壊すつもりだろ!!お前らみたいな化け物の言うことなんか誰が聞くかよ!!」
 化け物という言葉を聞いたシンタローは、ショックを受けたようであり、しばらく呆然としていた。
 アラシヤマはシンタローの横を通り過ぎ、ズカズカと子どもの前に進んだ。
 怯えた顔でそれでも精一杯睨みつける子どもに対し、アラシヤマは1つ溜め息をつき、
 「あんさん、人に言うていいことと悪いことがありますやろ。ライバルの俺以外がシンタローを傷つけるのは許せまへんな。子どもやからというて、俺は容赦しまへんで」
 と言った。
 アラシヤマが子どもの首筋を何か針のようなもので刺すと、子どもは気を失った。
 子どもが倒れるのを見て我に返ったシンタローが慌てて、
 「おい、殺したのかヨ?」
 と、アラシヤマに詰め寄ると、子どもを荷物のように左腕に抱えたアラシヤマは、
 「もし、そうやったらどないします?いくら子どもやからて、油断できまへんえ?」
 と、小馬鹿にしたように言った。
 「もし、子どもを殺したんなら、俺はお前を許せねぇ」
 シンタローがアラシヤマを睨み付けながらそういうと、
 「そういう考え方が甘いんどす。―――子どもは気ぃ失うとるだけですわ」
 そう答えた後、アラシヤマは最後に1件だけ残っていた民家を燃やした。火の勢いは強く、木で出来ていた粗末な家屋はあっけなく燃え落ちた。
 シンタローは何か考えているようであり、なかなかそこを動こうとしなかったので、アラシヤマが焦れてシンタローの肩を掴み撤退を促そうとすると、シンタローはアラシヤマの手を振り払った。
 そのまま1人で先に歩いて行ったシンタローの後を、アラシヤマは急ぐでもなしに追いつつ、(シンタローは、眼魔砲ていう特殊な能力を持ってわてと立場は同じになったはずやのに、甘いままどすな。どうして変わらへんのやろか?わてと同じところまで堕ちてきたらええのに。・・・でも、シンタローにはやっぱりそのままでいてほしい気もしますな)と思いながら集合場所へと歩いていった。








士官学校時代で、なんだか地上げ屋な17歳のお2人です。アラが大人気ない&大変ムカつきますかと・・・。
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