「か・・・買ってしもうたどす・・・」
アラシヤマが一枚の写真を食い入るように見つめている。
写真には長い黒髪の青年が写っていた。
「ああ・・・シンタローはん・・・ッツvv」
写真に頬ずりをして、完全に独りの世界に浸ってしまっていた。
どう見ても変態である。
アラシヤマが浮かれ気分で部屋へ戻ろうと角を曲がったその時、進行方向から来た男にぶつかってしまった。
「うわっ!!」
「ああっ、写真がっ!」
ひらひらと自分の手から落ちてしまった写真を拾おうとして、アラシヤマは固まる。
ぶつかった相手は拾おうとしている写真に写っているその人だった。
「シ、シンタローはん」
「いってえなぁっ、ちゃんと前見て歩きやがれ!」
自分のことは完全に棚に上げている。・・・さすが天然俺様体質である。
「す・・・すんまへん・・・」
思わず謝ってしまうアラシヤマもアラシヤマだが。
そこでアラシヤマが写真のことをハッと思い出した。
シンタローに見られる前に隠さなくては!
勢いよく写真に手を伸ばすが、時既に遅し。
さっきまで怒っていたシンタローが、写真を拾い上げてぽかーんとしている。
「・・・なんだよコレ」
そこには撮られた覚えの無い自分の姿が写っている。
「あ、えーと・・・それはどすな・・・そのー」
しどろもどろの答えしか返さないアラシヤマを、シンタローは普通の相手ならビビってこの場から逃げ出してしまう程きつく睨む。
さすがにアラシヤマも、このまま答えなければガンマ砲を撃たれかねない、と観念して口を開いた。
「それは、買ったんどす・・・」
「買ったぁ?!誰からだよッ」
あああ~、やっぱり怒ってはる!
そんな当たり前なことを思いつつ、アラシヤマは泣きそうになりながら写真のことを話した。
このガンマ団内では、シンタローの写真が売買されているのだ。
勿論このことはシンタローやマジックに知られれば半殺しでは済まないと誰もが分かっているので、ごく一部の間で密かに取引が行われている。
そして自分はたまたまその現場を目撃してしまい、取引を行っている奴に必殺技をかまそうとしたら逆に写真を売りつれられてしまった。
「と、言う訳なんどす・・・」
自分がその写真を買って喜んでいたことと、シンタローファンクラブなるものも存在するという事は話さないでいる。
「そいつら・・・全員ぶっ殺す!!」
写真を売りつけた団員を捜しに行こうとずかずかと歩いていく。
「あ、シっ、シンタローはんっ」
「あんだよ?止める気か!?」
物凄い形相をして怒っている今のシンタローを止められる者は居ないだろう。
「ち、違いますえ!・・・写真を・・・」
アラシヤマが言いたいのはシンタローが握り締めている自分の写真を返して欲しいという事だった。
すぐにそれを察してシンタローはアラシヤマに向かって右手を突き出す。
・・・ヤバイ
思った瞬間にアラシヤマの身体は閃光に包まれていく。
衝撃音が辺りに響いて、タメなしガンマ砲をくらったアラシヤマは黒焦げで倒れている。
「ったく・・・」
シンタローは大きくため息をついた。
そして気を失っているアラシヤマに向かってぼそりと呟いた。
「・・・写真なんか、買わなくてもオメーにならいくらでもやるっつーの」
微かに顔を赤らめながらシンタローは他の奴らを捜しにその場を去っていった。
アラシヤマが一枚の写真を食い入るように見つめている。
写真には長い黒髪の青年が写っていた。
「ああ・・・シンタローはん・・・ッツvv」
写真に頬ずりをして、完全に独りの世界に浸ってしまっていた。
どう見ても変態である。
アラシヤマが浮かれ気分で部屋へ戻ろうと角を曲がったその時、進行方向から来た男にぶつかってしまった。
「うわっ!!」
「ああっ、写真がっ!」
ひらひらと自分の手から落ちてしまった写真を拾おうとして、アラシヤマは固まる。
ぶつかった相手は拾おうとしている写真に写っているその人だった。
「シ、シンタローはん」
「いってえなぁっ、ちゃんと前見て歩きやがれ!」
自分のことは完全に棚に上げている。・・・さすが天然俺様体質である。
「す・・・すんまへん・・・」
思わず謝ってしまうアラシヤマもアラシヤマだが。
そこでアラシヤマが写真のことをハッと思い出した。
シンタローに見られる前に隠さなくては!
勢いよく写真に手を伸ばすが、時既に遅し。
さっきまで怒っていたシンタローが、写真を拾い上げてぽかーんとしている。
「・・・なんだよコレ」
そこには撮られた覚えの無い自分の姿が写っている。
「あ、えーと・・・それはどすな・・・そのー」
しどろもどろの答えしか返さないアラシヤマを、シンタローは普通の相手ならビビってこの場から逃げ出してしまう程きつく睨む。
さすがにアラシヤマも、このまま答えなければガンマ砲を撃たれかねない、と観念して口を開いた。
「それは、買ったんどす・・・」
「買ったぁ?!誰からだよッ」
あああ~、やっぱり怒ってはる!
そんな当たり前なことを思いつつ、アラシヤマは泣きそうになりながら写真のことを話した。
このガンマ団内では、シンタローの写真が売買されているのだ。
勿論このことはシンタローやマジックに知られれば半殺しでは済まないと誰もが分かっているので、ごく一部の間で密かに取引が行われている。
そして自分はたまたまその現場を目撃してしまい、取引を行っている奴に必殺技をかまそうとしたら逆に写真を売りつれられてしまった。
「と、言う訳なんどす・・・」
自分がその写真を買って喜んでいたことと、シンタローファンクラブなるものも存在するという事は話さないでいる。
「そいつら・・・全員ぶっ殺す!!」
写真を売りつけた団員を捜しに行こうとずかずかと歩いていく。
「あ、シっ、シンタローはんっ」
「あんだよ?止める気か!?」
物凄い形相をして怒っている今のシンタローを止められる者は居ないだろう。
「ち、違いますえ!・・・写真を・・・」
アラシヤマが言いたいのはシンタローが握り締めている自分の写真を返して欲しいという事だった。
すぐにそれを察してシンタローはアラシヤマに向かって右手を突き出す。
・・・ヤバイ
思った瞬間にアラシヤマの身体は閃光に包まれていく。
衝撃音が辺りに響いて、タメなしガンマ砲をくらったアラシヤマは黒焦げで倒れている。
「ったく・・・」
シンタローは大きくため息をついた。
そして気を失っているアラシヤマに向かってぼそりと呟いた。
「・・・写真なんか、買わなくてもオメーにならいくらでもやるっつーの」
微かに顔を赤らめながらシンタローは他の奴らを捜しにその場を去っていった。
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ひとつ
窓を水滴が叩く音がする。
「シンタロー」
それを何処か遠くで聞きながら、キンタローは、叔父達のように双子ではないけれど、それでも今もっ
て誰より近くに存在していると叫ぶ事の出来る片割れを呼ぶ。
「ん?どした、キンタロー」
そしてシンタローと呼ばれた長い黒髪黒眼の青年は、膝に乗せ読んでいた雑誌から目を離した。
金髪碧眼と、外見はまるで真逆のキンタローのその目を覗くために。
自分がソファに座りシンタローが足元のフローリングに直接腰を下ろしている事から、キンタローは自
然シンタローを見下ろす事になる。
オニキスを見ながら、キンタローは以前から何度か思っていた事をまた繰り返し思う。
これから先何度でも思うだろう。
真っ直ぐに相手の目を見つめ、誤魔化しや嘘を突き倒そうとするそれは好ましい、と。
「雨が降り始めたな」
「ああ、まあ天気予報でも100パーセントだったからな。これで少しは外の温度も下がるんじゃね?」
天気予報を信じて洗濯を温室に干して良かったな、と続ける辺りガンマ団総帥の言葉とは思えないが、
同意するキンタローもその補佐とは思い難かった。
その事実を幸か不幸なのか、団内に気にする者は皆無で。本人達もそれが問題だと思った事は無い。
パタリと広げていた雑誌をシンタローが閉じるのと、キンタローがソファから下りシンタローの向かい
に座り込むのはほぼ同時だった。
その距離は、他者から見ればあまりに近過ぎて、彼等には少しもどかしくて。
「ん。」
「ああ」
両者の、剥き出しの腕と上腕部の半分が布に包まれた腕が計四本伸ばされた。
緊張の欠片も見出せない、互いの静かな息遣いが聴こえる。
真夏に暑苦しいだろう体温は、この空調の利いた室内では感じる煩わしさなど何処にも無い。
「親父達、何時頃帰ってくるんだったっけか」
「五時前後には帰宅すると言っていたな。濡れていないだろうか」
「グンマに折り畳み傘持たせたから大丈夫だろ」
「そうか」
ぷつり、と会話が途絶え、彼等は互いに己とは違う色の髪に頬を寄せ合った。
伸ばした腕は、隙間を埋めるように背に回っている。
密着した胸から響く鼓動は、跳ねる高さに刻むリズムにも寸分の狂いは無かった。
時々、特に雨に関わらず水の音がするとこうしたくなる。
先述のように双子ではないから羊水で共に母に育まれた訳ではないのだし、母体で原初に一つの卵だっ
た訳でもないからその頃の無意識の記憶の安らぎを求めている訳でもなかった。
それでも、こうしていると安らぎは確かに其処に在るのだ。
狂おしく体を求め合うよりも、時に優しかった。
確かにシンタローは『キンタロー』の表に居て、本来居る筈のキンタローは『シンタロー』の心の意識
されない淵に居た。
『一つ』に限り無く近かったが、別の存在だった。
しかし、一番近くに『在った』。
互いが向き合う瞬間まで、シンタローは本人が知らなくともキンタローという存在を包んでいたし、
キンタローはシンタローの心の中で世界を見て他者に叶う事の無いシンタローの心をダイレクトに感じ
ていた。
『一つ』ではなかった。
でも一番近かった。
『一つ』ではなかったが、いつだって『独り』じゃなかった。
その行為は、互いが離れても『独り』ではないと確認するためなのかと、
二人は思い水音の気配に実行する。
夏がかなり関係ないです。
そして片桐は裏書けません。多分。いや、挑戦した事ないですけど・・・・・。無理。
シンタロさんとお気遣いの紳士は、よくよく思えば元から『一つ』ではなかったんですよね。
一つの体に同居していただけで(片方無自覚)、根源は同じものじゃなくて別個の存在だった。
それでも生まれた瞬間から共に存在し続けたのは、不思議な関係だと思うのです。
この文章は05/8/19~05/9/19までお持ち帰り自由でした。
フリー期間は終了しましたが、持ち帰ってサイト掲載をして下さるという方はご連絡と「片桐 華楠が書いた」という事を明記して下さい。
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朱の丘
「御子息」
草一本生えていない岩丘に一人佇む少年。
幼い背中に、義務によって声を掛けた。
「・・・マーカー」
「陣にお戻りを」
面倒。
それの、一言に限る。
何故に第一線を駆ける自分達が、自分が。
上司の、兄の。
総帥の愛息子の世話を焼かなくてはならないのか。
人の内面を少年は当然知る事なく、ゆっくりと振り向いた。
自分や馬鹿弟子の様に黒い髪が風に流れる。
「悪い。面倒をかけた」
まったくだ。
しかしそれを口にも顔にも出す事はせず、無言で少し小高くなっている場から降りてくるよう促す。
反抗する事なく丘を下る子息に別段満足を抱く事はなく、ぼんやりとその近づく姿を眺めていた。
そしてふと気付く。
その未だ頼りない手に握られた白刃、その銀光に被さる朱。
そのあまりに見慣れた色は彼の頬にも付着しており、考える事なくソレが何か理解する。
しかし、どうやら今度は迂闊な事に思考が表情に直結していたらしい。
自分より先に少年が声を発した。
「一人、敵兵が入り込んでた。
一通り見ておいたけど、俺まだ研修生みたいなモンだからさ、一応アンタ達でもう一度見回っておいて
くれないか」
彼が戦場に立つのは、今回が初めてと聞いた。
今まで時機を見ていたが、養成所に入り、同年代の微温湯に浸かる前に死を感じさせる事が一族の大人
達で決定されたらしい。
そして選ばれたこの戦場。
此処は所謂激戦区と呼ばれる。
通常なら、まず有り得ない。
訓練も何も受けていないような少年が、自分達特戦部隊が投入される程の戦場に後方支援ではなく前線
部隊として立つという。
そして。
団の防衛線を掻い潜れる程度に力量を持った敵兵を、一対一とはいえ我々に気付かせる事なく抹消した。
相手は歴戦の戦士だっただろうに。
「 御意」
肌が粟立った。
今まで大切に守られてきた子息は、恐らく初めて人間を殺めただろうに。
彼は表情一つ変えず瞳に怯えの欠片も見せず、まるで買い物の使いを頼むような様子で指示を出した。
粟立ちがやがて震えへと変っていく。
それは強者への畏怖。
それは何れ彼が自分を支配するという歓喜。
初めの彼を侮っていた感情は霧散していた。
「シンタロー様」
初めて呼んだ名前。
シンタロー様も気付いたのか、目と口を真円に開いていた。
支配者然としていた先程とのギャップに、頬が些か緩む。
「陣営に戻る前に血を洗い流しましょう。隊長が心配されます」
「あの獅子舞が俺の心配なんかするかあ?」
胡散臭い。
その感情を前面に押し出している少年は年相応、下手すればより幼く見えた。
「ああ見えて叔父馬鹿ですからね」
「・・・・ふー・・・ん?」
信じきれないままのあやふやな返事。
無理もないだろう、あの人の愛情表現は子供のように拙いのだから。
くつくつと喉を鳴らしていると、突然、微か前を歩いていたシンタロー様が振り向いた。
振り向いた彼の、その姿にまた。
「だけど血はまだ落とさねェ」
「それは・・・何故かお訊きしても?」
つとその丸みを多分に残す双眸が見下ろした先の、昏さを帯び始めた朱色。
染まった両手を開き、零すまいとまた握りしめた。
「覚えておく。
刃が頭蓋を砕いて脳を裂く感触を。
断末魔も憎しみの目も血の温かさも色も」
団内でも複数見る事が出来る黒眼は、青ではなくてもあまりに強さを秘めていた。
「人を殺す事、全部」
目を閉ざした。
強い少年だ。
自分達や馬鹿弟子のような、『こちら側』の者は触れる事すらかなわない強さ。
唐突に理解する。
彼ら一族がある種異常な程シンタロー様を慈しむのは、手が届かないからだ。
だから焦がれる。
憧れる。
このような戦場に出したのも、彼に何ら害は無いと解っていたから。
目を開けた先のシンタロー様は、暗朱を拭わぬままの顔を照れたように歪めていた。
「俺、まだ全部覚え切れてねっからさ」
「・・・・そうですか」
再び歩きだした背は細く、成長途中の危うさの陰を負っていた。
けれど歩む路は覇道になるだろう。
「なあマーカー。親父は世界の何が欲しいんだろうな」
しかしその時霞み掛かる思考の中で、現総帥とは覇道といえど違う路行を行きそうだと予感した。
しかし私は期待を抱き続けるだろう。
彼の支配に。
桜華 椿様、12121踏み抜き申告有難う御座います!
お持ち帰りは椿さんのみで。
「崎シンかマカシン」との事でしたので、マカシンで行かせていただきました。
・・・・・・・・・・・。これ、カップリングか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
ええと、マーカーさん短時間に感情がコロコロ変わりすぎですよ。
思春期乙女か。
あ、あと補足ですが。
シンタローが異様に強いのは親族に鍛えられていた為。(身を守る術は何でも教えてそうだ)
あと陣に戻った後、シンタローはハーレムに拳骨喰らいます。「一人でフラフラしてんじゃねーよ!」みたいな。
こんな文章でよかったら貰ってやって下さい、椿さん!
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My dear ruler
バサリ。
広い室内に相応しい大きさの黒卓に、紙の束が放り投げるように置かれる。
「アラシヤマ」
「へえ」
「今度の任務だ」
長い黒髪の紅い御人が平淡な声で告げた。
普段は常に何らかの感情が其処に篭められているが、この時だけはいつもこうなので特に気に留める事
もない。
視線で書類に目を通すように言われ、手にとってパラパラと捲った。
沈黙。
これも、いつもの事だ。
この瞬間に、常駐している彼の側近がいない事も。
自分の時だけなのか、他の連中もそうなのか。
どちらにせよ、関係のない事だ。
此処にいないのが本当なのだから。
紙を捲る音がピタリと止んだ。
「特AAA、どすか。
ほんまに在ったんどすなあ、初めて見ますわ」
【特AAA】。
それは最高難易度を示す。
難易度と共にするのは死亡確立。
彼で三代目になるこの組織、生還者は片手が埋まれば良い方だろう。
「ああ」
死の宣告に等しい其れを確認する自分の声に、事も無げに応える目の前の彼。
じいっと目は目から逸らさずに。
(色事中は、可愛らしく逸らしなはるくせになあ?)
く、と咽喉で一つ笑いを。
「恋人であるわてに、死ねと仰る?」
常だったら歪むだろう瞳が
「関係ねぇな。その任務はどうしても外せねえ。
お前が一番適任だった。
それだけだ」
ひたり、と見てきらり、と静かに瞬いて
「如何してわてが適任と思われなはったか、お訊きしても?」
ああ、
「お前がお前だからだ」
タマラナイ。
一人、小脇に書類を抱えて広い通路を歩く。
足音が響かないのは幼い頃の修行の賜。
少し縒れた胸元を一撫でしてから感触を思い出す。
胸倉を引かれて、ガツリとぶつかりながら重なり合った。
『帰って来い。テメェにやらせなきゃなんねえ事は未だ山の様にあるんだよ』
目を閉じて、黙祷するように、
「Yes,sir」
If it's with you,
it's by the hell,too.
サッパリってなんですか。
とりあえず5050hit有難う雪刃嬢。
感謝・・・・!
雪刃のみお持ち帰り可で。
因みに最後の英文は
『貴方となら、地獄まで。』です。
ついでにタイトルは
『愛しい支配者』なり。
『Yes,sir』は『イエッサー』だけど、
綴りがあってるかどうかはかなーり謎。(ダメじゃん)
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「うあーっ!あっちいんだよチクショウ!!」
蝉の求愛の声
風鈴が風と交わる音
日差しを受けて輝く草木と清流
夏の風物詩。
そして夏と云えば当たり前の様に付属してくる、熔けるようなこの暑さ。
ある時ある季節ある場所で。
この時間帯、丁度日陰になっている縁側で。
俺、シンタローは柱に凭れながらダレていた。
親父とグンマに半ば無理矢理に着せられた浴衣は涼しい。
前をかなり寛げているから尚更に。
が、それは普段の服から考えるとであって。
暑いもんはやっぱり暑い。
ので、さっきから必死に団扇で煽ぎまくっている。
一雨くれば、もう涼しくなるんだがなあ・・・・。
「シンタロー様」
「っ、・・・・・マーカーか」
足音一つ立てずに現れたのは、俺の直属である変態の師。
そして獅子舞な方の伯父の部下だった。
一応俺の部下でもあるが、マーカーの所属する特戦部隊は独立した特殊な位置にあるので、絶対的な決
定権は無い。
「お前、こんな処でも気配消して歩くなよ」
「すみませんね、職業病の一種とでも思って下さい。
・・・大分、暑さにやられているようですね?」
「ああ・・・・最近、クーラーの効いてる部屋に篭りっぱなしだったからな。
すっかり耐性が無くなってやがる。他の奴等は?」
「酒盛の真っ最中ですよ。絡み酒が多いので早々に逃げて来てしまいましたよ」
・・・・こーんな真昼間から、ナニやってんだよあのオッサン等は。
伊達衆の面々も混ざっているだろう事を考えると、何とも云えない気持ちになる。
考えている事が顔に出ていたのか、隣に立っているマーカーが笑っている声が聞こえた。
「・・・・なんだよ」
「いえいえ、お気に為さらず。
それより珍しいですね、御髪を紐で括られているとは」
「んぁ?」
首の後ろで結んでいる髪に触れられるのを感じた。
その時に、マーカーのこんな気温の中でも冷たい指先が首の付け根辺りに当たって気持ちが良い。
「それな、アラシヤマが持ってきた水羊羹の箱に付いてた紐」
「・・・・他に無かったのですか?」
「探せば有ったんだろうけどよ、暑くて仕方なかったんだよ。それに良い色だろ?」
「まあ、確かにそうですが。しかし総帥ともあろう御方が菓子折の飾り紐で・・・・。
身に着ける物は、斯様な場でも選ばれませんと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・良いじゃねえかよ別に」
小舅な言葉に謀らずとも拗ねた響きを持つ声が出た。
ふう、と諦めた様な困った様な溜息が背後から聞こえるのと同時に、髪が首に纏わりつく。
「・・・何、すんだよ。暑ぃ」
体を捻って振り返ると、案の定マーカーが紐を持って笑っている。
「もっと高い位置で纏められた方が涼しいでしょうに。
御髪に触れる許可を下されば、御括り致しますよ」
今度は俺が溜息を吐く番らしい。
体を前に戻して、垂れてきていた髪を雑に後ろに流しながら、言う。
「面倒くせぇ言い回しすんなよな。
・・・・暑ぃから、さっさとやっちまってくれよ」
「ええ、喜んで」
張り付いていた髪が、またゆっくりと離れていく。
触れるマーカーの指はさっきよりも少しだけ湿っていて、こんなトコロでも夏を感じた。
「なあ」
「はい?」
「後で、残りの水羊羹二人で食っちまおうぜ」
「・・・ええ、喜んで御一緒しますよ」
2004年暑中見舞いフリーテキストでした。
配布は終了しましたが、もし持ち帰りたいと仰ってくださる方がいたら
管理人までご一報お願いします。
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