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asa

「わての笑顔は、華なんどす。」
自ら〝華〟だと称したそれが、目前まで迫る。
互いの吐息や髪先が触れ合う距離で、ふ、と息を吐き笑った。
「そんで、指先は蜘蛛の糸」
〝蜘蛛の糸〟が俺を絡め獲ろうとするかのように頬に優しく触れる。
それはそっと輪郭をなぞり、喉元まで伸びる。
身を捩ろうとしても背は壁に押し付けられ、俺よりも多少小さな体に挟まれ、逃れられない。
「華で誘うて、罠を張るんどす。こないして」
〝蜘蛛の糸〟に雁字搦めにされている錯覚。
実際に腕が首や背に回され、頬に唇が触れる。
捕食者の瞳が、俺を捉えて離さない。
「──蝶を捕らえるために」
そう言って、〝華〟がまた笑んだ。
困惑することしかできずに、それから目線を逸らす。
拒絶の言葉が喉の奥に引っ掛かって、それ以上出てこない。
「…まだ、逃げられますえ」
冷たい指先が、軍服の中に降りてくる。触れられた胸板が、一瞬びくりと強張る。
「せやけど、これ以上絡め獲られてもうたら逃げられへん」
〝華〟がまた、俺の唇に触れる。
「ええんどすの?」

今更そんな風に尋ねられたって、答えはひとつしかないし
そのひとつの答えだって口にしたくないのを分かっていて、〝華〟はまた笑う。

蝶はもう、とっくに華に囚われているというのに。


(05/03/25)

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a

「逆やのうて?」
「逆じゃねぇよ」
アラシヤマが俺のことを好きだなんてぬかす理由は、至って簡単。
〝俺がアラシヤマのことを多少なりとも好いていると思っているから。〟
つまりは、こいつは臆病なんだ。自分のことを好いてくれてると確信のある相手じゃなければ、好きになれない。
まぁ、こいつのこの思い込みは、俺が言った嘘を信じ込んでいるからのもので、あの時、あの島で俺が言った嘘は、自分の首も締めている。

だからこそ、互いに任務の無いときを狙って俺にくっついてくるアラシヤマに向かって俺は口を開いた。
「お前の気持ちは愛でも何でもねーんだ」
自分で告げた言葉が、諸刃となって胸をえぐる感覚がある。
──そう、俺は別に愛されてなんかいない。それは、とっくに知っていたはずだ。
「…でも、わてはシンタローはんのことを」
「お前は愛したいんじゃない、愛されたいだけなんだよ」
「シンタローはん、わての話聞いて」
「聞く必要なんかねェよ」
そんな悲しそうな顔されたって、困る。
だって、誰かが言ってやらなきゃ、お前は気がつかないだろ?

「愛してますえ?」

お前が俺に求めているものと、俺がお前に求めているものは違うんだ。

俺の気持ちはお前には届かないし、お前の気持ちは俺に届かない。

(04/06/08)

a

じっとりと、絡みつくような、そんなものを感じる。
しかもそれは、愛しのいとしのあの方から、確かにこちらへ向けられている。
──ああ、わてにも春が!
「へぇ、そんで、この任務の件なんどすけども──」
思わず小躍りしたくなるような、全身のむず痒い感覚を堪えつつ、努めて事務的に言葉を紡ぎだす。それにああ、だとか小さく零れる相槌にすらうっとりしながらも、極力それを悟られないように。と、思いつつも、口角が上がりたそうにヒクつく。ヤバいと思い視線を軽く上げるが、気が付かれなかったらしい。差し出す書類に落とされた視線がこちらを向いて、かちりとぶつかる。
「あ」
「…ンだよ」
「いや、なんでも」
愛想笑いの一つも浮かべる余裕はなく、無表情を慌てて作って視線を下ろして、魂の叫びは心の中に留めて置く。
──今やっぱりこっち見てはってわてのことじーっと見つめてはってああんもうッツ!!
普段の自分ならじたじたしたり身を捩じらせたりしたであろう、熱いまでの視線。今それをしないのは、その行動だけで負けが決まってしまうから。心友関係に勝ち負けなど、とも思うが、これは一種の駆け引きだ。
そう、いつも負けてばかりいる勝負に、やっと勝ち目が見えてきたのだ。
「……で、──の視察が」
声が震えやしないか、高鳴る鼓動を感づかれやしないか、そんなことばかり考えながらどうでもいい質問をいくつも挙げる。本当に尋ねたいこともあったはずだが、なんだかもう忘れてしまった。
「…やとわては思うんどすけど」
少し強気に意見してみれば、相槌が途切れた。思索の間、というには少し長すぎる静寂に再び視線を向けてみれば、どことなく頬を上気させているような──
「あの、よ」
恥ずかしげに一度視線を逸らして、話を切り出すその声もさっきまでのトーンとは違って、どことなく可愛らしさすら感じるその姿に、上擦りそうになる声を必死で押し殺し、小さく「へぇ」とだけ返事を返す。
「言っていいもんかどうか、迷ったんだけど」
「何どす?」
「……お前さ、その──」
急に、キッ、と強い視線を向けてくる。肩が小さく震えているような気がした。
「ジッパー開けっ放しなのはわざとなのかそれともうっかりさんなのか」
「へぇ」
軽く返してから、ん、と首を傾げる。
もう一度その言葉を脳内で反復してみて、やっと合点がいった。

要するに心友の、声に出しては教え難いが故の、親切心からの熱視線。

がっくりと肩を落とし、こっそり涙を零しながらも、しっかりと身嗜みを直す姿を、不思議そうに見下ろす愛しいいとしいはずの総帥の姿がちょっぴり憎らしく見えたりした。


(06/02/07)

ass
全身を、見えない熱の重りでがんじがらめにされているような倦怠感。ぼんやりと、思考の回転すら重みを帯びている気がする。体温を計ってみれば普段より二度上を示すデジタルの数字に、後悔の念が込み上げる。
「くそッ…」
小さく呟いて体を起こしてみれば、ずしりと自分の体重以上の重みが体を押し潰そうとする。
くらくらする頭をスッキリさせようと左右に振ってみれば逆効果で、脈打つ痛みまでもが現れ始めた。
昨日から確かに体調はおかしかったが、気のせいだと思うことにして普段どおりのスケジュールをこなしたこともいけなかったらしい。異常を感じた時点で休息をとっておけば、きっとここまで酷くはならなかっただろう。


16.休日

確かに俺は、電話口の向こうの「大丈夫だってー」なんてグンマの間延びした声に、自分の体調のことは誰にも告げるなと言った筈なのに、何で目の前のコイツはいかにも看病しにきたような顔で笑ってやがるんだ。
「…あぁ、わてのことは気にせんでよろしおすえ」
機嫌よさげにそう告げて、アラシヤマは俺の額の上に置かれていて、そしてたった今俺が急に起き上がったことでずり落ちたタオルを掴み、サイドテーブルに置かれた盥の中へそれを入れた。
「シンタローはん、何か食べられますやろか? 一応お粥用意したんどすけど」
──冗談じゃねぇ、そう怒鳴りつけてやろうとしてまず息を大きく吸い込んだところですでに何か違和感は感じはしたが、声を出そうとし咳き込んだところでその正体に気が付く。声が出ないのだ。
慌ててアラシヤマが俺の背を擦り、それを振り払ってはまた重い咳が吐き出された。
「……もしかして、声出ぇへんのどすか」
そこまでだとは思ってもいなかったのだろう。アラシヤマも多少間の抜けた声を漏らす。
大体その後に続く言葉は聞かなくても判っているのだ。「せやったら助けも呼べへんどすな」だとか「可愛らしい声が聞けなくて残念どすけど」だとか、そういった方向に持っていかれる前に一発ぶちのめしてやろうと眼魔砲の構えをすれば、アラシヤマはそれを然程気にしない様子で
「体力低下しとるんやさかい、無駄な力使わんほうがよろしおす」
と、背を向けテーブルの上に置いてあった小さな両手鍋の中身を深めの皿に盛り始めた。それは薄く湯気を立て、蓮華ととも盆に乗せられに差し出された。何のつもりだと目線で訴えてみれば再度それが突き出され、仕方なく受け取る。掛け布団の上から膝に乗せ眺めると、艶やかな緩い白飯の上に梅干と三つ葉が食べて欲しそうにこちらを見ている。美味そうだ、とは思うがアラシヤマの料理なんか下手に口にはできない。小奇麗さが余計に怪しく思えて、アラシヤマを睨みつけてやった。
──てめぇの用意した食いもんなんか食えるか。
通じるだろうと思い目線だけで言うと、アラシヤマはなぜかだらしない笑顔で皿と蓮華を手にし、一口分掬ってふうふうと息で冷まし始めた。俺が怪訝な顔をしてみせても、アラシヤマは嬉しそうにそれを俺の目の前まで運んで見せた。
「わてに食べさせて欲しいなんて…よろしおすえ、ひとくちひとくちあーんさせたりますッ」
アラシヤマの顔から突き出された蓮華に焦点を移し、そして再び困ったようにアラシヤマを見てやってもにこにこと微笑まれ、仕方なく、仕様がなく、それを口の中へ運ばせてやった。
「そーどす、きちんと食べて薬飲んで、仰山眠ればすぐによぉなります」
意外と美味かったそれを租借しながらアラシヤマを眺めれば、また一口分の粥を吐息で冷ましているところで、俺の視線に気がついて嬉しそうに蓮華を差し出す。
「はいシンタローはん、あーん」
アラシヤマの行動と粥が重くて、胃がきりきりと痛む。
蓮華を押し返し、必要以上に重々しい表情で首を左右に振ると、そこでやっと伝わったらしくアラシヤマは蓮華を置き、盆を俺の膝から下ろした。
「ほんまは空腹時にはあかんのやろうけど…まァちぃとは食べれたし、ええか」
そう言ってまたあらかじめ用意してあったらしい、ラベルの貼られていないビンを開け、蓋へころころと錠剤を出し始めるアラシヤマに、俺はあからさまに嫌そうな顔をしてみせる。どう見ても市販のものには見えないそれは、いかにも怪しくて飲む気にはなれず、また首を左右に振った。
「…く、口移しで飲みたいんやったらそれでもわては…ああ、けど口移しで飲むと苦なるて言いますし」
どもりながらおかしなことを言い出すアラシヤマを、じっと睨みつけてやってもやはりなにも通じないらしく、大きく溜息を吐いた。俺の事をなんでも理解している顔をして、何も分かっちゃいねぇんだ。
「それとも、薬嫌いなんどすか?」
また的外れな問いを掛けられ、面倒になり軽く頷いてみせる。やっとアラシヤマは納得したらしく、取り出した薬をビンへ収め蓋を閉めた。
「せやったら、せめてゆっくり眠っとくれやす。」
左手が、俺の膝の上の掛け布の上を滑るように撫ぜた。それをぱしりと叩き、身体を横たえてみるも視線とやさしく布団を掛けてくる手が気になって睡眠どころではなく…どころではないはずなのに、頭がどうも熱でぼんやりする。

唐突に、まったく不本意に訪れた休日の日が傾いたころに、ぼんやりと瞼を擦る。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。眠る前までのあの全身の気だるさが多少消えているようで、ゆっくりと体を起こしてみれば、それはあっけなく果たされた。
まるで眠る前までのことが夢のように。
だが、夢でないことは、脇の椅子からベッドにもたれ掛かるようにして眠りに落ちているアラシヤマが証明していた。そういえば昨日任務から帰還したはずで、下手をすれば寝ずにやってきたのかもしれない。
これでストーカーじゃなけりゃ、いい奴なんだろうな。と、前提からありえないことをぼんやり思いながら、アラシヤマを小突いて起こす。んあ、と間の抜けた声を上げて俺に視線を向けると、慌てて飛び起きる。
「…わ、わてまで寝てもうたわ。あはは」
笑い混じりに誤魔化して、広げたままだった小鍋なんかを片付け始める奴の動きは、どこかぎこちない。
「具合、どないどす?」
背を向けたまま尋ねてくる声に何とも答えずに、視線を落とす。もしかしたら、俺凄く嫌なやつ? 普通に友人として見舞いに来たコイツを疑いに疑って? けれどそれは日頃の行いが悪いアラシヤマ自身のせいで、疑われてもしょうがないわけで…
ぐるぐる回る思考を、いつのまにか戻ってきたアラシヤマが、額に手を当て遮った。それを手で勢いよく掃えば、ほんのりと笑顔を見せる。動物やら植物やら無機物やらの友達たちと、俺にしか見せない表情だ。
「大分元気出てきたみたいどすなァ。」
良かった、と溜息を一つ零されては、自分の行動にはっきりとした後悔が生まれるのが分かった。
「…… 、…。」
ぼそりと、言葉を吐く。
片付けを終えたらしいアラシヤマには何も聞こえなかったらしく、平然と荷物をまとめた風呂敷をサイドテーブルへと置いた。
「せやったら、わてはそろそろ」
そう告げて、俺の顔を覗き込む。そしてそのまま、唇を重ねてきた。
「看病のお礼…もらっていきますえ」
嬉しそうにハートを撒き散らしつつ、ぎしぎしとやはりぎこちないながらも慌てたように素早い動きで、アラシヤマが扉をくぐる。俺はといえば、アラシヤマよりもぎこちない動きで、唇をぬぐうのが精一杯だった。遠ざかって行くスキップのステップが微かに聞こえる。
あまりにも唐突で、眼魔砲さえしそこねた。
──ああやっぱり、声に出して礼言わなくてよかった。
後日、俺の風邪がうつったとはしゃぎながらぶっ倒れた奴を見て、改めてそう思うことになるなんて、分かりたくもなかった。


a

「シンタローはんからわてにキスしてくれはったら、もう付き纏いまへんわ」

「そないな事、気色悪ぅてでけへん?」

「…せやから、シンタローはんのこと、好き」


俺から触れることの出来なかったあいつの唇が
抵抗する言葉を塞ぐ
乱れる吐息、混じりあう唾液
これは、あのときの嘘と
伸ばされた手を振りほどくことの出来なかったことへの罰

心の中でそっと呟いてはかき消される気持ちと言葉
思考がぐちゃぐちゃに溶けていって、体が火照る

せめて、自業自得なんだと思わなければやりきれねェ。

(04/06/17)

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