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人に公言する、もしくは自分で定めるほどの特殊な性癖なんて持っていない。

たぶん、いたって一般的。

敢えて言うならマゾヒストでありサディストである。

人に焦がれる境遇ならば、それがいたって一般的。



赤黒く染まった頬には、既に痛みを感じない。

ついさっきまでは感電したみたいに痺れていた。

あの痺れがずっと続けばいいのに、と思う。

思うから、強いとは言えず、弱いとも言えない強さで患部に親指を押し当てた。

もちろん痛い。

鋭さのない、鈍い痛み。

気付けば、順序付けられた行為のようにすぐさま眼を閉じ、頬に拳が埋まった瞬間の光景を、目蓋の裏にコマ送りで再生していた。

風になびく長くしなやかな黒髪の、なんと美しいことか。

怒りの表情というのは、泣き顔と同様、なんであんなにも感覚に訴えるものがあるのか。

記憶を堪能しながら、ゆっくり目蓋を持ち上げる。

堪能しきる前に、自ら中途半端に区切るのがいい。

フラストレーションの愉快さ。

殴られた際に歯が口内の粘膜に負わせた裂傷からは、わずかばかりの血液が滲んでいる。

舌の奥に感じる、錆びた味。

唾を吐き捨てる。

地面に伸びる、ピンク色をした液体に、思わず笑った。
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月曜日は仕事して、火曜日だって仕事して、水曜木曜金曜日にも、もちろん仕事。

週末の土曜日は、いつもより書類が多い。



「今日終わらなかったぶんは、明日に持ち越し」

「いや」

自分に向かって呟いて椅子にもたれると、即座に返ってくる、短い否定の言葉。

わざとらしく片眉を上げてみれば、書類の枚数を確認していたキンタローが、静かに俺を見据えた。

「明日は休め」

「なんで。終わってねーだろがよ」

「おまえに倒れられたら来週の予定が狂う」

「遠征だろ?そこまでヤワじゃねーっての」

「いいから休め。後は、俺にも片付けられる仕事だ」

やろうと思えば反論は可能だし、キンタローぐらい言い包める自信もある。

それでも従う気になったのは、少しも退く気のない眼力に押されたせいか、もしくは俺だって休息を求めていたから、か。

「後者だろうな・・」

短い舌打ち。

「なんだ?」

「なんでもねえ。・・とりあえずはわかったから、おまえもほどほどにしとけよ」

分厚い扉を開けて、廊下に出る。

深夜の静寂な空気がひんやり冷たい。

窓の外、すっかり黒く染まった空には、どうしたって目を奪われる三日月が浮かんでいた。

そういえば、当たり前にある自然を確認するのだって、久しぶりな気が、して。

(最近ずっと、朝まで総帥室につめてたから)

キンタローやグンマが時々、耳障りにならない程度に、俺に休むようにと言う。

心配をかけているのはわかる。

わかるけれど。

まわりのやつら、今はもう会えないあいつ、それに、自分自身のために、やらなくてはいけないことがある。

「まだ、全然だけどな」

重い腕を上げて、ガラスに手のひらを張り付けた。

夜空に瞬く星は、数えるまでもなくあの島で見たものより少ない。

きつく目を閉じた。

(ここが、今の俺の居場所だ)

確認と決意の言葉を唱えて、再び視界を開く、と。

ガラスに映る、いつの間にか俺の背後に忍び寄っていた男は、緩やかに微笑んでみせた。

「もう、今日は」

胸ぐらを掴んで強引に引き寄せて、言葉の途中で、開きかけの口唇を塞いだ。

大きく見開かれた瞳は、本人の驚きを如実に表している。

そのせいか反応のない舌をつついて、勝手に絡めて。

視線で促せばようやく状況を理解したのか、情けない笑みを作ったアラシヤマは、俺の頭に手を添えて、ゆるゆると舌を動かし始めた。

「おまえ、この後の予定は?」

体温の高いアラシヤマの指に煽られて、身体はどんどん熱くなっていく。

「シンタローはんやキンタローじゃあるまいし、もう部屋に戻って寝るだけどす」

見かけだけは平然と答えるアラシヤマの目も、潤んだみたいな熱っぽさ、で。

かぶりつくようにして、髪に隠れた耳に誘いの言葉を吹き込む。

たった数階の距離さえ待ちきれず、再び口唇を合わせてくるアラシヤマは馬鹿だ。

馬鹿だけど、馬鹿なのは、俺も同じだった。
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「月見酒どすか」

風に乗って背中に届いた声に、俺は驚くことなく、よって振り向くこともせず、盃に口をつける。

密やかに近付いてくる気配なら、しばらく前から感じていた。

微かな息の音が、温く淀んだ空気を揺らす。

ゆらり。

気配はゆっくりと、さらに俺に近付いた。

「わても御相伴に預かってよろしいでっしゃろか」

返事を待たず、俺のすぐ横──2人が座っても、十分に余裕のある長椅子なのに──に腰を下ろして、アラシヤマは笑んだ。

しかし、徳利に手を伸ばそうとはしない。

瀕死の状態から目覚めたばかりの人間だから、高松に止められているのかもしれない。

それでも、そうとうタフなことに変わりはないけど。

「きれいな満月どすなあ」

呑気な口調に、無意識に、ため息が漏れる。

「・・こんな時間にウロウロしてていいのかよ、怪我人」

「へえ、もうすっかり完治しとりますさかい」

笑って嘘をつくこの男は、今、生きているのが奇跡みたいなもんで。

俺だって、1度は死んだ身で。

(それなのにこうして酒を飲んで、話をして、息を吸って、月を見てる)

盃を傾ける。

白濁の液体は、すぐ、渇いた土に染み込んで消えた。

「シンタローはん、酔うてはりますの?」

アラシヤマはいつも、返事を待たない。

(待たないのじゃなく、必要としていないだけか)

酒で湿った口唇が、舌が、息を奪い取ったのは一瞬のこと。

「・・怒りまへんの。眼魔砲、とか」

「眼魔砲、欲しいのか」

「滅相もない」

殊勝なことを言いながらアラシヤマは、人を勝手に抱きしめて。

離せ、と口先だけで抵抗したところで、その腕の力を緩めようとはしない。

「なんだか、こうしなくちゃいけないような気が、して」

耳に吹き込まれる都合のいい囁きは、単純に心地よかった。

許容か、自棄か。

「シンタローはん?」

訝しむ声につられるようにして、アラシヤマの背に手を回した。

確かな体温。

身体に直接響く、心臓の音。

こいつは生きているし、俺だって生きている。

それが事実。

(離れる気にならないのは、許容か、自棄か)

いや。

確認、だ。
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肩を突かれ、窓際まで追い詰められたのは突然で、俺は咄嗟に右手のひらに気を溜める。

それを解き放つより早く、明らかに狙ったタイミングで、なにやら小さくもない固まりを口唇に押し入れられた。

だから結局不発の右手は、抵抗なのか同意なのかも曖昧に、相手の腕を掴むに止まったのだった。

「・・甘ぇ」

口唇を離して、数秒。

べたべたになった舌を突き出して文句をいえば、アラシヤマは柔らかく笑ってみせた。

「シンタローはん、お帰りなさい」

「わざわざ熱烈な出迎え、ありがとよ」

皮肉が通じないわけでもあるまいに(元々、皮肉なんぞ気にしないやつではあるか)やはり、アラシヤマは笑ったままで、今度は比較的軽めに人の舌先を舐める。

甘い。

アラシヤマの舌と俺の舌、もう、どっちの責任なんだかわからないけれど。

「今回の遠征、ずいぶん長かったどすな」

「ああ、でも予定通りだろ」

「・・シンタローはん、今日、何日か覚えてはります?」

徹夜仕事だとか遠征で何ケ月も本部を離れたりだとか、そんなのがしょっちゅうだから、不便しない程度には日にちの感覚なんて失っている。

それでも記憶の糸を辿ってみて、ついでに壁にかかったカレンダーを見やれば、容易にアラシヤマの言いたいことは理解できた。

癪では、あるが。

「・・おじさんの誕生日」

「・・いや、それとは別件で」

今日がなんと呼ばれる日か、なんて。

無理矢理であろうとも、イベントを象徴する物体を既に受け取ってしまった以上、どうでもいいことのような気がして。

まだまだ口に残る甘さがなんだかおかしくなって、久しぶりに笑った。
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手首に、擦り切れたような痕を見つけた。

一瞬にして想像したのは、まあ下世話にして下品な、思わずため息をつきたくなってしまう光景、で。

それに逆らわず大きなため息を吐き出すと、デスクに向かって熱心に書類作業を進めていたシンタローは、手は止めないままに俺を見上げた。

「んだよ」

「・・いや」

とりあえず目線だけで伝えてみれば、察しよく即座に赤く染まる、耳たぶ。

比例して、眉間の皺がぐっと増えた。

「ほどほどにしておけよ」

「・・おまえ、変な想像してるだろ」

「いや、一般的な想像だと思うが」

「・・誰も、縛らせたりなんか・・してねえからな」

怒りにか羞恥にか、絞り出したような低い声が部屋に、響いて。

「そんなこと、わかっている」

否定すれば、今度は、シンタローのため息が静寂な空気を揺らす。

そっと触れてみても止められなかったから、くだんの手首を持ち上げて、無遠慮にスーツの袖を捲った。

ますます深まる、眉間の皺。

見慣れた、それでも異様な赤い指の痕が、手首をぐるりと囲んでいる。

「・・火傷だな」

沈黙は肯定だった。

火傷の理由なんかわかりきっていて、結局俺は、ほどほどにしておけよ、と繰り返すことになる。

「で、今回の処分は?」

「減俸1ケ月、同期間内は半径1メートル侵入禁止」

心底おもしろくなさそうな顔に、つい苦く笑ってしまう。

怒りを買うのを承知でお決まりのセリフを口にするのは、俺自身がこんな出来事を楽しんでいるからなのかも知れない。

「火傷させられないのも、不満なくせに」
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