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as
迂闊なことに、変だと気付いた時には敵意にぐるりと囲まれていた。

暗い森の中の、わずかに開けた空間。

周囲に生い茂った草木に潜む敵の姿は、目に見えないけれど、見えないだけに如実だった。

(少なくとも15、・・20はいるか)

臨戦態勢をとって周囲を探ると、1つ、覚えのある気配に気付く。

たちまち接近してきたそれは、すぐに実体となって、頭上の枝から音もなく降り立った。

「わての獲物どすえ」

「・・連絡の1つもよこさない部下を、いつまでも待ってられるか」

「だからってなにも、総帥が直々に来ることあらしまへん」

「キンタローは反対側を捜索してる」

がつんと肩をぶつけて、目配せを。

背を任せる相手として、少なくとも力量的には不足がない。

お互い、自分の前方180度の端から端まで目を曝しながら、タイミングを計る。

気を抜いているつもりはないが、それでも口元が弛んでしまうのは、圧倒的な余裕のせいだ。

「運が悪いな」

「相手が、ですやろ?」

「当然。あ、あんま炎、広げんじゃねーぞ」

「任せておくんなはれ」

敵中に身を踊らせる瞬間、どちらともなく肩の上で、拳をぶつけた。
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+
アラシヤマはわずかに震えたような手のひらを伸ばし、静かすぎるほど静かに俺のむき出しの腹に乗せた。

冷静に観察しながら、部屋の照明をすべて落とす。

こいつはまったく妙に人のことを神聖視してやがるのはわかっていたから、ここまでは予想通りだとぼんやり思って、すぐに、予想なんてしていたのか俺は、と羞恥と呆れに顔が赤く染まることを耐えるのは困難になった。

そして急に、些か乱暴に腕を引かれ体を押され口唇を奪われ脚の自由も奪われる。

熱い荒い息。

首の皮膚に柔らかく引き裂くような痛み。

がっつくな、と呟いた言葉は小さすぎて、濃い闇に呑まれて消えた。
+
いやな夢だったなあと思って、本当にいやな夢だったとため息混じりに笑みを作りながら、コーヒーメーカのスイッチを押した。

背中から、聞き慣れた声がかけられる。

少し、驚いたようなトーン。

「シンタロー、もう起きていたのか」

「ああ」

「コーヒーなら俺がやろう」

「いいよ、こんくらい」

それより今日の予定は。

午前中デスクワークで、午後からはどこに行くんだっけ。

普段通りの会話、普段通りの雰囲気に、だんだん夢の記憶は薄れていく。

でも、どうしても脳裏にこびりついて剥がれない記憶のカスは、ほんのわずか触れただけでぞわりと背中を震わせるのだった。

だから触れないようにする。

いやな夢はある意味、いやな現実よりタチが悪い。

自分でどうにかすることができない理不尽さを含んでいるから。

ふと視線を上げれば、キンタローの訝し気な表情が妙にクリアに飛び込んでくる。

そうして自分が部屋唯一の扉ばかり気にしていることに気付かされて、居心地の悪いような苛ついたような、曖昧な感情を誤魔化すように、コーヒーカップを乱暴に取り出した。

扉はまだ開かれない。

開きそうにない。
+
ガンマ団本部に戻ってくることは少ない。

戻ってきたとしても、滞在時間は短い。

だから相手の言い分も、わからないでもないのだ。

「これから、どないどすか」

軽めの言葉とは裏腹に、伺いをたてるアラシヤマの態度は、つい謝りたくなる程度には切実に見えた。

例えそれが、底冷えする深夜の廊下、なんて、いかにも寂しい状況の醸し出す雰囲気のせいだったとしても。

一応、まだ20代だし。

溜まるもんは溜まるし。

そういうのを抜きにしても、相当の期間触れ合っていなかったから、せっかくの機会に触れ合いたいと思うのも、たぶん、お互い、同じで。

「・・・・いいぜ」

「はあ、やっぱり・・・・・・・って、え」

「聞こえなかったなら、いい」

「シ、シンタローはんっ」

追ってくることがわかっているから、少しも歩調を緩めたりしない。

私室の扉だって服を脱ぎながらさっさと開けて、さっさと閉じた。

ロックまでは、勘弁してやったけれど。
A
好意から花を贈られて悪い気のする人間は、たぶん、いないと思う、けれど。



アイリス、百合、ストック。

「あなたを大切にします、純潔、永遠の恋・豊かな愛」

スミレ、マーガレット、勿忘草。

「誠実・愛、心に秘めた愛、真実の愛」

白バラと赤バラ、スターチス、ライラック。

「尊敬、愛・情熱、永久不変、愛の芽生え」

ジャスミン、ニコチアナ。

「私はあなたのもの、あなたがいれば」

興味深そうに響く、高い声。

今朝、花言葉辞典を片手に現れたグンマは、俺が放っておくのをいいことに部屋を駆け回っては、いちいち花に付属された意味を(知りたくもないのに)教えてくれている。

重いため息を堪えながら、俺は、痛み出したこめかみを押さえた。

突然、花束及び鉢が総帥室に届けられ始めて、1ケ月ばかり。

現在の総帥室には花が溢れている。

むせ返るような甘い匂いにも、部屋とは不釣り合いな鮮やかな色彩にもいいかげん慣れたものの、贈り物の意図がわからないことは怖い。

(わかりすぎるからこそ怖い、とも言えるか)

贈り主を知っているはずのキンタローは、訊かれないかぎりその名を出さないだろうし、俺も敢えて訊く気にはなれない。

そして、断定しようと思えば断定できる贈り主は、花が届き始めてから姿を見せていない。

「シンちゃん、大丈夫?」

「・・・ああ」

「えーとね、昨日の花はアイビー。花言葉は永遠の愛、友情、信頼」

脱力して、背もたれに全体重を預けた。

ぎし、と皮の軋む音とほぼ同時に、扉が軽快に開いて。

「シンタロー、今日の花だ」

「・・・あんがとよ」

いつも通り、キンタローの手によってデスクに置かれた鉢植えには、オレンジ色の花が咲き誇っている。

見慣れない、珍しい形。

「・・グンマ、これは?」

「ん、ん~~~~え~と、あ!ストレリッチア、だって」

「ストレリッチア?」

「ストレリッチア、もしくはストレチア。和名は、極楽鳥花」

力が抜けたはずの体から、さらに力が抜けた。

色も、名前も、1人の男のことを彷佛とさせる。

「花言葉は、恋する伊達男」
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