昔々、あるところに、アラシヤマという根暗で友達が皆無の男がおりました。ちなみに、彼の職業は暗殺者で、趣味は編み物、特技は罠作りです。
彼は、町の外れにある“一度迷い込んだら二度と生きては戻ってこれない”という言い伝えのある迷路のような遺跡にかなり前から住んでいましたが、町には全く姿を現しませんでした。町の人たちは、遺跡を気味悪がって、誰も近づかなかったので、アラシヤマが遺跡に住んでいることさえ知りませんでした。
しかし、裏社会の一部の筋には、アラシヤマがその遺跡に住んでいることは有名でした。アラシヤマはこれまで暗殺関連で色々と恨みをかっていたので、懸賞金が掛けられており、彼を退治しようとする“腕に覚えあり”な物騒な連中が遺跡に度々チャレンジしましたが、遺跡には罠が張り巡らされており、アラシヤマが居るところまで辿り着けない場合がほとんどでした。
「ったく、何で俺が、依頼とはいえこんなとこに馬鹿なガキ共を探しに来なきゃなんねェんだ?」
シンタローは、町からかなり遠い場所にある遺跡の前に立っていたが、見るからに陰気な遺跡を見て溜息を吐いた。シンタローが遺跡の入り口を眺めると、そこには、“友達大歓迎!”、“ようこそおこしやすv”という看板が立っていた。
「ここに住んでる奴って、確か、暗殺者だったよナ?何だコレ・・・」
シンタローはその看板を見て、ますますやる気を失くした。
しかし、シンタローの所属する探偵社が受けた依頼であり、彼がこの件の担当であったので、仕方なく遺跡の中に足を踏み入れた。
「あぁー、今日も退屈どすなぁ・・・。誰もお客はんが来まへんし、暗殺の依頼もありまへんしナ。暇やから、罠でも考えまひょか」
本やら何やら得体の知れない材料やらに溢れた遺跡の一室で、アラシヤマは椅子に座り、机に紙を広げ何やら図面のようなものを書いていたが、ふと、顔を上げ、
「あっ、どうやら、お客はんのようどすな」
と言った。
アラシヤマは、数多くあるモニターの前に移動した。
シンタローは、薄暗い遺跡のなかを進んでいたが、矢がいきなり壁から飛んできたり、ブービートラップがいたるところに仕掛けられてあった。罠は、元々遺跡にあった罠に加え、新たに仕掛けられたものがたくさんあった。
シンタローは、罠が仕掛けられているらしいところに、森で拾ってきた木の枝を投げてみると、パンジー熊罠が仕掛けられてあり、木の枝は長く鋭い鉄の釘が何本も打ち付けられてある板に挟まれ、粉々になった。もし、足などが挟まれたとしたら大怪我をするところであった。
(何だよここは?最新式の罠があるかと思えば、古典的な罠もあるし。見たことがねぇやつもあるな。とにかく、コレを作ったヤツは、性格が悪いことだけは間違いねぇ!)
シンタローはそう思ったが、とにかく罠を避けながら、進んでいった。
アラシヤマは、ずっとシンタローの様子をモニターで観ていたが、
「中々やりますなぁ・・・。こんなところまで来れたお客はんは初めてどすえ~」
と感心したように言った。心なしか、彼は嬉しそうであった。
シンタローは、かなり遺跡の奥まで来たが、そこには如何にも業とらしいドアがあった。シンタローはドアを胡散臭げに見たが、後ろの壁をコンコンと叩くと、少し考え、いきなりドアを蹴破った。
「お客はんのご到着どすな!」
アラシヤマがそう言ったその数秒後、扉がバンッツと蹴破られ、
「3日前に、3人の馬鹿ガキ共がここに来ただろ?そいつらをどうした?」
と、銃を構えたシンタローが入ってきた。
アラシヤマは、シンタローを見て、
「またイナゴやバッタかと思ったら、今度は蝶々はんどすな。嬉しおす~vvv」
と、ニヤニヤしながら言った。
「何ふざけたこと言ってやがんだ?さっさと答えろッツ!」
と、シンタローがやや切れ気味に言い、銃を構えたまま一歩前に踏み出すと、突然、床が網に変わってシンタローを絡めとり、天井の方に引き上げられたので宙吊りとなった。
「あんさん、詰めが甘うおますえ?それにしてもラッキーどすな。ここのは、ネットだけどしたわ」
何とかネットを外そうともがいていたシンタローであったが、暴れれば暴れる程、どういう仕組みになっているのかますます網が絡まってしまう。彼は、アラシヤマを睨みつけ、
「今すぐ、これを外せ。それで、馬鹿共は!?」
アラシヤマは彼の近くまで来ると、床に落ちていた銃を拾い上げ、弾を抜いた。そして、シンタローを見て、少し考えた末、口を開き、
「あぁ、あの連中どすか。五月蝿いから地下牢に放り込んでありますわ。―――ところで、あんさんの名前は?名前を教えてくれたら、連中を返しあげてもよろしおますえ?わての名前はアラシヤマどす」
と言った。
彼は、躊躇したが、どうやら探し人達が生きているようであったので、短く、
「―――シンタロー」
と名乗った。
「ほな、シンタローはん、今からネットの綱を切りますえ~」
アラシヤマがそう言うと、天井から吊り下げる役目を担っていたロープのようなものが突然発火し、ロープが焦げ、焼き切れた。
シンタローは、手や足が網に絡まっていたので上手く着地出来ないと思い、落ちる瞬間、思わず目を閉じたが、予想していたような衝撃が来なかったので目を開けると、アラシヤマに抱きとめられていた。
そのまま、アラシヤマが歩き出したので、シンタローは、
「オイ、降ろせヨ!?とっととネットを外せ!」
と言ったが、アラシヤマは立ち止まらず、
「降ろしてもようおますけど、ここは罠がたくさんありますから面倒どすえ~?こうするのが、一番の時間の節約どす。あっ、ネットは外したら、あんさん絶対暴れますやろ?わては今シンタローはんと戦いとうおまへんし、もうちょっと我慢しておくんなはれ」
「ヤダ。オマエ、キモイし」
「うわっ、あんさん、初対面の相手にそんなこと言いますの!?俺様酷ッツ!!・・・仕方ありまへんなぁ」
シンタローは相変わらずもがいていたので、アラシヤマは嘆息すると何処からか布を取り出し、シンタローの鼻と口に数秒押し当てた。すると、シンタローはグッタリとなった。
「クロロホルムどす。ちょっとの間眠っといておくんなはれ」
そう言うと、アラシヤマはシンタローを抱えたまま闇の中に姿を消した。
時刻は夜となったが、月の光のおかげで、辺りは非常に明るかった。
アラシヤマは、長い歳月が経っても崩れずにいた、遺跡の入り口付近の東屋のベンチの上にシンタローを寝かせ、無言で、網の繊維をナイフで切っていた。
「もうそろそろ、目が覚めてもええ頃なんどすが・・・」
シンタローの目蓋がピクリと動き、「ん・・・」と声を漏らしたので、覚醒が近い事が分かり、アラシヤマは安心した。
アラシヤマは、改めてシンタローの顔を眺めたが、伏せられた睫毛や、薄く半開きになった唇を見て、
(何やら、その辺の女よりも色っぽうおますなぁ・・・。どう見ても男なんどすけど)
と思い、
「ま、味見ぐらいやったら、ええですやろ!」
と言って口付けた。
しばらく2つの影は重なっていたが、アラシヤマは、シンタローの下唇を舐めると、名残惜しそうに離れ、
「・・・これは、極上品どすな。わて以外の誰にも渡したくなくなりましたわ。どうも、試さん方が良かった気もしますなぁ・・・」
溜息を吐いた。
しかし、アラシヤマは気持ちを切り替えると、
「シンタローはーん、起きておくんなはれ~!起きまへんと食べてしまいますえ~」
と軽い調子で言い、シンタローの頬をペチペチと軽く叩いた。
シンタローは、
「う~ん・・・」
と、言い、アラシヤマの手を鬱陶しそうに振り払うと、いきなりガバッと起き、
「煩せえッツ!!眼魔砲ッツ!!」
と、アラシヤマに向かって眼魔砲を撃った。そして、アラシヤマは、衝撃で吹き飛ばされた。
「い、痛うおます~。不意打ち攻撃はナシどすえ、シンタローはーん!」
と、彼は言ったが、シンタローは、全く聞いておらず、
「えっ、今何時だ!?オイッツ、馬鹿どもはッツ??」
シンタローは、アラシヤマの方まで歩みよると彼の胸倉を掴んでそう怒鳴った。
「あぁ。あんさんが寝ている間、連中を町の宿に置いてきましたわ。お金は払っておきましたさかい、今頃は宿で高鼾やないどすか?これは宿の名前どす」
と言い、シンタローにメモを渡した。
それを聞き、メモを受け取ったシンタローは、アラシヤマの服を離した。
「オマエ、暗殺者なんだろ?なんでそこまですんだヨ?」
とシンタローが呆れた様に言うと、アラシヤマは少し考え、
「・・・まぁ、一応、不法侵入の馬鹿といえども、肝試し程度の子どもですし。だから殺さずにおいたんどす。あと、子どもをわざわざ宿に届けたのは、あんさんが気に入ったからどすえ~vvvこれで一つ貸しが出来ましたナ!探偵はん」
アラシヤマがそう言ったのを聞いて、シンタローは、
「おまっ、いつの間に!?」
と、顔色を変えたが、
「そら、あんはんが寝てはる時に探偵社の証明書を見たに決まってますわ。シンタローはんの寝顔ほんまに可愛ゆうおましたえ~vvv」
「・・・ほんのちょっとだけ見直したと思ったけど、やめた。やっぱ取り消すわ」
「えっ!?何でどすか~??取り消さんといておくんなはれ~!!」
アラシヤマは焦ってそう言ったが、シンタローは立ち上がり、
「じゃあナ。もう二度と会わねェと思うけど」
と言うと、アラシヤマは、
「そんな遠慮せんと、また遊びに来てくれはったらええんどすえ??初めてできた友達どすし、シンタローはんやったらいつでも大歓迎どす!!」
「てめぇと友達になった覚えはねェし、ぜってー、来ねぇ!!」
「ほな、わてが遊びに行きますわvvv」
「来んなッツ!!」
シンタローは、振り返らずに遺跡を後にした。
アラシヤマは馬に乗ったシンタローの姿が遠ざかる様子を見送っていたが、ついにその姿が見えなくなると、遺跡の中へと姿を消した。
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夕暮れ時、小隊が作業を終えると、アラシヤマは、
「キャンプに戻るように」
と、小隊長に伝えた。
兵士達は撤退の準備を始めたが、その準備が完了しても、動くそぶりを見せないアラシヤマを見て、不思議そうな顔をする若い兵士もいた。
「アラシヤマ指揮官、それでは、我々はお先に失礼致します」
小隊長がそう言い、オーダーアームスの形で敬礼すると、兵士達も全員それに倣った。
アラシヤマがその場に1人残り、小隊が完全に撤退すると、辺りは急に静かになった。
「やれやれ、団体行動は疲れますなぁ・・・。それにしても、ここ数日でケリがついて、明日ガンマ団に戻れるやなんて、何かの皮肉ですやろか」
アラシヤマは、ブツブツと文句を言いながらも、作業を進めた。
いつの間にか雪が夜空から静かに降り落ち、地面にあたっては消えていた。
周囲は暗かったが、不意に一箇所小さく明かりが点き、徐々にその範囲は広がった。
辺りには、蛋白質が燃える臭いが漂い、アラシヤマは少し顔を顰めた。アラシヤマはしばらく目の前の光景を黙って見ていたが、持っていた袋の中から生花を取り出し、炎の中に投げ入れた。
しばらく黙祷した後、アラシヤマは踵を返し、その場から歩き出した。
(わてにできるのは、ここまでどす)
アラシヤマは、暗い路を引き返していたが、不意に、路の前を猫ぐらいの大きさの動物が横切った。動物は立ち止まり、アラシヤマの方を振り向きしばらく様子を窺っていたが、アラシヤマに害意がないことを悟ると、素早く茂みの中に逃げ込んでいった。
(あぁ、最後の最後で、えらい余計なもんを見てまいましたわ。あの猫が銜えとった布切れは、ガンマ団の迷彩服どすな。これでまた、シンタローはんに会うのが遅くなりそうどす)
アラシヤマは溜息を吐くと、動物が来た方角の藪に足を踏み入れた。路からそう遠くないところで、やはり、アラシヤマが想像していた通りのものがあった。
(こんなとこで死んだフリをする馬鹿は流石におりまへんやろ・・・)
アラシヤマはそう思いながらも、兵士の死体を足で突付いて確かめてみたが、やはり何も反応は返ってはこなかった。
ボディチェックの作業を済ませ、見つけた書類を鞄に仕舞うと、アラシヤマはコンバット・ナイフを取り出し、兵士が首から掛けていたタグの鎖を切った。
タグを外そうとすると、一緒に鎖に付けられていた小さな十字架が、兵士の傍らに転がり落ちた。
アラシヤマは、それを眺め、
「誰や判りまへんが、とりあえず、メリー・クリスマスどす。まぁ、あんさんにとっては、全然めでとうおまへんやろけど」
そう言った。
アラシヤマが十字架を兵士の胸の上に載せると、その直後、死体は燃え始めた。火力は強く、あっという間に死体は灰へと変わった。
アラシヤマがその場を去った後、灰の上には雪が降り積もり、辺りの景色は白一色となった。
明け方、アラシヤマがヘリでガンマ団に戻ってくると、珍しくシンタローが出迎え、不機嫌そうに、
「遅い」
と言った。
アラシヤマは、シンタローが出迎えてくれたことは予想外であり、すぐに言葉が出てこなかった。
シンタローが一歩アラシヤマの方に近づくと、アラシヤマは一歩後退り、そのことに自分でも気づいたようで、気まずそうな顔をした。
シンタローは、アラシヤマの表情を見て、
「何なんだよ?」
と言い、踵を返した。
「シンタローはん!待っておくんなはれッツ!!」
と、慌てたようにアラシヤマが声を掛けると、
シンタローは振り返りはしなかったが、立ち止まった。
「あの、わて、今、えらい焦げ臭いと思います。どうも、こんななりであんさんに近づくのは気が引けたんどす」
「・・・怪我はねェのか?」
「ああ、それはもう。ぴんぴんしとりますえ~vvv」
アラシヤマがそう答えると、シンタローは、振り向きざま、
「眼魔砲!」
アラシヤマに向かって、それほど威力は強くないが、眼魔砲を撃った。
アラシヤマは衝撃でバタリと倒れたが、しばらくすると起き上がり、
「シンタローはーん!なっ、なんでいきなり眼魔砲ですのんッツ??」
そう抗議したが、シンタローは、
「だって、いつもは全ッ然!遠慮も配慮もねェオマエが、あんなこと言うなんてキモかったし。それに、眼魔砲で臭いも取れたんじゃねぇの?」
と言った。
アラシヤマは、立ち上がり、苦笑すると、
「シンタローはん、やっぱり、あんさんは優しおすな。―――バーニング・ラブvどすえ~!!」
そう言って、いきなりシンタローに抱きつこうとしたが、避けられた。
「甘えてんじゃねェッツ!!」
「あっ、期待させといて、そないにイケズな仕打ちしはりますの?やっぱり非道うおます~~」
アラシヤマは、ブツブツ言っていたが、ふと、何か思い出したようであり、
「すっかり言うのを忘れとりましたが。シンタローはん、ただいま帰りました」
と言うと、シンタローは、
「ああ。おかえり、アラシヤマ」
と答えた。
アラシヤマは、シンタローに近づいても今度は逃げられなかったので、おそるおそる、シンタローを抱きしめると、
「今回も、あんさんのもとに還って来られて嬉しおす。いつ言えへんようになるか判りまへんから、何遍も言いますが、―――愛してます」
と言った。
シンタローが総帥室で忙しく執務をこなしていると、コンコンとドアをノックする音がし、「失礼します」と言ってアラシヤマが入ってきた。
「この前の任務の報告どす。シンタローはん、ここに置いときますえ?」
そう言いながらアラシヤマは総帥机の上に報告書の束を置いたが、シンタローは、
「おう」
と一言返事をすると、アラシヤマの方を見もせず、眉間に皺を寄せて、今読んでいる書類に書かれてあった内容について考え込んでいた。傍からみると、アラシヤマが来ていることを認識しているのかどうかさえも、定かではなかった。
「シンタローはん。わてが今、ここに来とること、わかってはります?」
「ああ」
「・・・コタローはんとマジック前総帥のどっちが好きどすか?」
「ああ」
「―――わてのこと、好」
アラシヤマは何か言おうとしたが、突然、シンタローは読んでいた書類を机に置き、
「さっきから、ゴチャゴチャとうるせえッツ!眼魔砲!!」
と言って、アラシヤマに向けて眼魔砲を撃った。
その後、
「あれ?アラシヤマ、オマエいつから居たんだ?ったく、一言挨拶ぐらいしろよナ!」
と、床に倒れているアラシヤマに向けてそう言った。
しばらく倒れていたアラシヤマであったが、眼魔砲のダメージから回復すると、
「シンタローはーん!非道うおす~!!やっぱり、ずっとわての存在に気づいてなかったんどすかぁ!?あんさん、最近、仕事中毒気味とちゃいますの?働きすぎは体に毒どすッツ!!」
起き上がって、抗議した。
シンタローは、かなりムッとしたようであったが、色々と思い当たる節もあったようで、
「―――んなこと、オマエに言われるまでもねェし」
そう、すねたように返事をした。
「あんさん、ほんまに分かってはります?」
と、アラシヤマは疑り深げな様子であったが、急に何か思いついたようであり、笑顔で、
「ほな、ここはひとつ、今からわてと息抜きしまへんか」
と言った。
「・・・何すんだヨ?」
シンタローが、非常に胡散臭げにアラシヤマの方を見ると、
「ファースト・エイドの復習どす~!!(この前は、もうちょっとのところで変態ドクターに邪魔されましたさかいナ!)」
アラシヤマはそう言いい、対するシンタローは、
「ヤダ」
―――即答であった。
「・・・そうそう、シンタローはん。この前の遠征の時、わてとやった賭け将棋で大負けしましたやろ?その分の掛け金、まだ支払ってもらってまへんでしたな」
「全く、覚えがねぇナ!」
「踏み倒そうったって、そうはいきまへんえ?いくらシンタローはんといえども、わてはきっちり取り立てますさかいに!」
「・・・ファースト・エイドつっても、色々あんだろ?何すんだヨ」
「今回は、やっぱり基本中の基本の人工呼吸どす~!!」
シンタローは、しばらく考えていたが、急に何かを思いついたようであり、笑顔で、
「いいゼ」
と言った。
(やっぱり、シンタローはんも、なんだかんだいいつつ実は待っとったんどすな!!)
そう、アラシヤマは自分に都合のいいように解釈してニヤニヤしていたが、シンタローは机のほうに戻ると引き出しを開け、
「ホラ、これ使え」
と、何かをアラシヤマの方に投げた。
「・・・何どすか?コレ」
何かゴムのようなものでできた物体を受け取ったアラシヤマが、不思議そうに尋ねると、
「人工呼吸の補助器具。これを使うと、マウス・トゥ・マウスじゃなくても大丈夫だ!最近は、血液感染の問題とかいろいろうるせェしな」
と言った。それを聞いたアラシヤマが、
「えぇ~ッツ!?こんなん使いますと、応急手当にかこつけて、シンタローはんにキスできまへんやんッツ!!せっかく、それ以外のことも色々しようかと楽しみにしとりましたのに――!!」
思わず本音をもらすと、
「・・・テメェ、そんなこと考えてやがったのか?出て行きやがれ――ッツ!!眼魔砲ッツ!!」
先程よりも威力の大きい眼魔砲をシンタローは撃った。
「シンタローはーん!!わては、あきらめまへんえ~~・・・」
アラシヤマは、眼魔砲の衝撃で部屋の外に飛ばされ、姿が見えなくなった。
シンタローはドアを閉めると、
「・・・マァ、一応、息抜き程度にはなったナ」
と言って溜息をつき、再び書類に目を落とした。
「この前の任務の報告どす。シンタローはん、ここに置いときますえ?」
そう言いながらアラシヤマは総帥机の上に報告書の束を置いたが、シンタローは、
「おう」
と一言返事をすると、アラシヤマの方を見もせず、眉間に皺を寄せて、今読んでいる書類に書かれてあった内容について考え込んでいた。傍からみると、アラシヤマが来ていることを認識しているのかどうかさえも、定かではなかった。
「シンタローはん。わてが今、ここに来とること、わかってはります?」
「ああ」
「・・・コタローはんとマジック前総帥のどっちが好きどすか?」
「ああ」
「―――わてのこと、好」
アラシヤマは何か言おうとしたが、突然、シンタローは読んでいた書類を机に置き、
「さっきから、ゴチャゴチャとうるせえッツ!眼魔砲!!」
と言って、アラシヤマに向けて眼魔砲を撃った。
その後、
「あれ?アラシヤマ、オマエいつから居たんだ?ったく、一言挨拶ぐらいしろよナ!」
と、床に倒れているアラシヤマに向けてそう言った。
しばらく倒れていたアラシヤマであったが、眼魔砲のダメージから回復すると、
「シンタローはーん!非道うおす~!!やっぱり、ずっとわての存在に気づいてなかったんどすかぁ!?あんさん、最近、仕事中毒気味とちゃいますの?働きすぎは体に毒どすッツ!!」
起き上がって、抗議した。
シンタローは、かなりムッとしたようであったが、色々と思い当たる節もあったようで、
「―――んなこと、オマエに言われるまでもねェし」
そう、すねたように返事をした。
「あんさん、ほんまに分かってはります?」
と、アラシヤマは疑り深げな様子であったが、急に何か思いついたようであり、笑顔で、
「ほな、ここはひとつ、今からわてと息抜きしまへんか」
と言った。
「・・・何すんだヨ?」
シンタローが、非常に胡散臭げにアラシヤマの方を見ると、
「ファースト・エイドの復習どす~!!(この前は、もうちょっとのところで変態ドクターに邪魔されましたさかいナ!)」
アラシヤマはそう言いい、対するシンタローは、
「ヤダ」
―――即答であった。
「・・・そうそう、シンタローはん。この前の遠征の時、わてとやった賭け将棋で大負けしましたやろ?その分の掛け金、まだ支払ってもらってまへんでしたな」
「全く、覚えがねぇナ!」
「踏み倒そうったって、そうはいきまへんえ?いくらシンタローはんといえども、わてはきっちり取り立てますさかいに!」
「・・・ファースト・エイドつっても、色々あんだろ?何すんだヨ」
「今回は、やっぱり基本中の基本の人工呼吸どす~!!」
シンタローは、しばらく考えていたが、急に何かを思いついたようであり、笑顔で、
「いいゼ」
と言った。
(やっぱり、シンタローはんも、なんだかんだいいつつ実は待っとったんどすな!!)
そう、アラシヤマは自分に都合のいいように解釈してニヤニヤしていたが、シンタローは机のほうに戻ると引き出しを開け、
「ホラ、これ使え」
と、何かをアラシヤマの方に投げた。
「・・・何どすか?コレ」
何かゴムのようなものでできた物体を受け取ったアラシヤマが、不思議そうに尋ねると、
「人工呼吸の補助器具。これを使うと、マウス・トゥ・マウスじゃなくても大丈夫だ!最近は、血液感染の問題とかいろいろうるせェしな」
と言った。それを聞いたアラシヤマが、
「えぇ~ッツ!?こんなん使いますと、応急手当にかこつけて、シンタローはんにキスできまへんやんッツ!!せっかく、それ以外のことも色々しようかと楽しみにしとりましたのに――!!」
思わず本音をもらすと、
「・・・テメェ、そんなこと考えてやがったのか?出て行きやがれ――ッツ!!眼魔砲ッツ!!」
先程よりも威力の大きい眼魔砲をシンタローは撃った。
「シンタローはーん!!わては、あきらめまへんえ~~・・・」
アラシヤマは、眼魔砲の衝撃で部屋の外に飛ばされ、姿が見えなくなった。
シンタローはドアを閉めると、
「・・・マァ、一応、息抜き程度にはなったナ」
と言って溜息をつき、再び書類に目を落とした。
シンタローは、屋上で給水塔がつくる影の中に寝転んでいた。その建物はガンマ団内で一番高い建物であったので、仰向けに寝転がると、空の青と雲の白しか視界には入らなかった。
目を閉じて、しばらく寝転がっていたが、不意にドアの方から見知った気配がした。 しかし、シンタローは相変わらず目を閉じたままであった。
コツコツと、靴音が聞こえ、シンタローの数歩手前で立ち止まった。
「シンタローはん、こんなところに1人で寝てはりますと、襲われますえ?」
と、上方から揶揄を含んだ声が降ってきた。
「有り得ねェ。・・・用がねーなら、とっとと帰れヨ」
シンタローが面倒そうにそう言うと、
「なんや、あんさん、また落ち込んでましたんか」
と、声の調子が真面目なものに変わった。
シンタローが返事をしないと、勝手に横に座る気配がした。
しばらく、お互い無言のままであったが、
「あそこにおる豆粒みたいな集団は、士官学校生どすな。まァ、ようもあんなに騒げるもんや思いますわ。わてらの時は、もうちょっとマシやった気がしますえ」
と、少々呆れたような声が少し上のほうから聞こえた。
「たぶん、俺らの時も同じようなもんだったと思うゼ?」
そう言うと、
「いーや、違うはずどす!!まったく、今のガキどもは・・・」
とブツブツ言っていた。
シンタローが黙ったままでいると、しばらく考え込む気配がし、
「シンタローはん、今は全く“夢多かりしあの頃でなく”どすか?」
不意に、真剣な声がした。
「―――そうでもねぇヨ」
そう答えると、
「しんどかったら、しんどいって正直に言うてもええんどすえ?」
諭すようなトーンで、声がそう言った。
しばらく間が空き、
「この俺様が、万が一にもオマエに弱音なんか吐くかよ。ありえねぇ」
シンタローがそう言うと、
「あんさんらしいどすな」
そう言って笑う気配がした。
「ほな、わてはもう行きますわ。これから、任務が入ってますしナ」
立ち上がりかける気配がし、
「あ、そうそう。忘れ物どす」
シンタローの顔の上に一瞬影がさしたかと思うと、唇に何かが触れ、
「行ってきます。あっ、シンタローはーん!これからは他の男の前で無防備に目を閉じてたらあきまへんえ?もう、心配でたまりまへんわ」
と、少し離れた場所から声が聞こえた。
「とっとと行きやがれッツ!!」
思わず、シンタローが目を開け起き上がると、屋上にはシンタロー以外、誰も居なかった。
ただ、ドアがきちんと閉まっていないことだけが、唯一、シンタロー以外の存在がいたことを示していた。
シンタローは思わず、唇に触れ、
「早く帰って来い。アラシヤマ」
そう、言った。
シンタローが、(非常に珍しく)アラシヤマを探してパプワ島を歩いていると、やっと見つけたアラシヤマは木の下で何やら本を読んでいた。
かなり遠くからであったにもかかわらず、アラシヤマはすぐにシンタローに気づき、
「あっ、シンタローはーん!!もしかして、わてに会いに来てくれはったんどすか?うれしおす~vvv」
「イヤ、散歩だし」
そうシンタローが言うと、
「またまた、シンタローはんはテレ屋どすなぁ。まぁ、そんな意地っ張りな所もかわいおすけどvvvあっ、もしや、この前わてが頼んで思いっきり無視&眼魔砲された、裸エプロンの件、ついにやってくれはる気になったんどすか??なんやもう、バッチリ用意してますさかい、何なら今ここで着替えはってくれたら、」
「――眼魔法ッツ!!」
ドウッツ!!と爆発音がし、アラシヤマと、いかがわしげなコスチュームは吹き飛んだ。
「やっぱ、帰っか」
シンタローが帰ろうとすると、
「ま、待っておくんなはれ~」
と、驚異的な回復力で復活したアラシヤマがシンタローを引き止めた。
「ったく、ちゃんと他人の話ぐらい聞けヨ」
シンタローはそう言いながら、とりあえずアラシヤマの近くに腰をおろした。
「そういや、オマエ、何の本見てたんだ?」
シンタローが何気なくアラシヤマに聞くと、アラシヤマは誇らしげに、
「料理の本どすえ!時々、シンタローはんが料理を作ってくれはりますけど、“たまにはわても”と思いまして」
と言った。
シンタローはこの間、アラシヤマの作った料理を食べてみたが、あまりの不味さに非常にムカつき、金輪際食べたくないと思った。一応確認してみると、料理本を見て作ったにも関わらず、何故かそのような味になったとのことであった。ちなみに、本人は特に不味いとは思わなかったらしい。
シンタローが、アラシヤマがもうこれ以上変な料理を作る気を起こさないように料理本を取り上げると、ふと本に挟まれた栞が目に入った。
「何だコレ?オマエ、栞なんか持ってたっけ??」
シンタローがそう聞くと、アラシヤマは非常に照れた様子で、
「ホラ、シンタローはん、これって、あんさんがわてのベッド(コールドスリープ装置)の上に置いててくれはってたお花ですやん。結局、グッタリしてしまいましたんで、押し花にしたんどすえ~。これで、いつでも一緒どすvvv」
と言った。
シンタローは、栞を取り出して
「フ―――ン」
と、しばらく眺めると、ビリビリと破って傍の焚き火に放り込んだ。
「あ゛―――ッツ!!なっ、何しはりますのん!?せっかく、あんさんがわてにくれはったものですのに!!」
慌てて、栞を拾おうとするアラシヤマに対し、シンタローは、
「今まで、お前に何か物をやった覚えなんか全くねェし」
と言ったが、燃え尽きた栞を前にしたアラシヤマは全く聞いていない様子で、
「せ、せっかくのシンタローはんからのプレゼントが~」
と、端の方で、トージ君と一緒に非常に鬱陶しい様子で膝を抱えていた。
「あ゛―――!!もう、ウザイッツ!!」
シンタローはアラシヤマに向かってポケットから取り出した何か小さいものを投げつけた。
ガンマ団ナンバー2の実力なのか、落ち込んではいてもアラシヤマはかなりのスピードで飛んできたその物体を片手でキャッチしたが、
「何なんどすか、コレ?」
それは、掌に収まるぐらいの、かなり小さいものであった。
「お守り」
「えっ?シンタローはんがわてに!?貰ってもええんどすか??嬉しおす~!!」
アラシヤマはゲンキンにもすぐに元気になり、トージ君を放っておいて引きこもり状態から復活し、シンタローの近くまで来たが、
「言っとくが、たぶん有効期限はもう切れてると思うがナ。昔、オフクロが俺にくれたやつだし」
シンタローはぶっきら棒にそう言うと、そっぽを向いてしまった。
アラシヤマは真剣な顔になり、
「そんな大切なもの、わてが貰えまへん。これは、シンタローはんが持っておいておくんなはれ」
そう言って、お守りをシンタローに返した。
シンタローはアラシヤマの方を見ずに俯いたまま、
「俺は、総帥だからいつも守られることが多いけど、お前はそうじゃないし。だから、お前が持っとけ」
そう小さい声で言い、アラシヤマの方にお守りを差し出すと、
「シンタローはん、わてはガンマ団ナンバー2どすえ?何があっても死なへんって約束しますさかい、やっぱり、これはあんさんが持っておくべきどす」
アラシヤマはお守りを受け取らずに首を振った。そして、さらに諭すように、
「シンタローはん、わては、あんさんの気持ちが嬉しいんどすえ?わてはさっき、物にこだわってましたが、やっぱり、そうやないことがわかりました」
そう言って、苦笑するアラシヤマであったが、
「でも、俺、他に何も持ってきてないし・・・」
シンタローが少し泣きそうになって、アラシヤマの方を見ると、シンタローを見たアラシヤマはしばらく無言になった後、急にニヤリと笑い、
「ほな、シンタローはんをわてにくれはります?それが、わてにとって最高のプレゼントどす」
と、言った。
その場の雰囲気に流されかけたシンタローが思わず頷こうとすると、
「じゃあ、このエプロンを・・・」
と、アラシヤマは懲りずに、いかがわしげな布切れを取り出してきた。
「眼魔砲ッツ!!!」
それを見たシンタローは、思わず、アラシヤマに向けて眼魔砲を撃ってしまった。
「あれ?途中まで、いい雰囲気やったのに、どこでどう間違ったんやろか?おかしおす~・・・」
そう言いながらアラシヤマはバタリと倒れ、そして、気がついたときには既にシンタローは居なくなっていた。
シンタローは居なくなっていたが、その場には、
「HAPPY・BIRTHDAY アラシヤマ」
と書かれたケーキが置いてあり、
「やっぱり、シンタローはんは、可愛いおすなぁ・・・」
と、ケーキを食べながら、アラシヤマは結構幸せであった。
シンちゃんが「誰これ?」ってかんじですね☆(反省)
・・・アラシヤマの誕生日を全く覚えていなかった管理人は、
少しアラシヤマに優しくしようかと思って書いてみたのですが、
これってどないなんでしょうか??