忍者ブログ
* admin *
[224]  [225]  [226]  [227]  [228]  [229]  [230]  [231]  [232]  [233]  [234
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

czx
PRESENT


ずっともらってばかりだった俺が、
 はじめて誰かにあげたプレゼントは、
  肩たたき券 だった。
あいつは、バカみたいに喜んでた。

手作りのプレゼントが恥ずかしくなったころ
 小遣いをためてはじめて買ったプレゼントは
  なべつかみ だった。
あいつは、それを使ってカレー作ってくれた。


いつだったか、プレゼントを渡す相手からもらった金で
その本人にプレゼントを買うことに疑問を感じた。
どっかの獅子舞にもバカにされた。
それで、高松に頼んで、備品室の整理とか手伝ってこっそり稼いだ。
たいした額にはならなかったから、結局小遣いも足したけど
「俺の」金も入ったプレゼントが、なんか、ちょっと嬉しかった。


学校卒業して、小遣いは無しにした。
軍の、給料があるからだ。
これからは、あいつの世話にならなくても稼げるんだ。




だけど。
自分で給料をもらうことになっても
それは結局、あいつからもらう金。

あいつ個人の金じゃないのはわかってるけど、
何人もの苦労があるのもわかってるけど。
そう、考えちまった。


なんか、ちょっとくやしかった。


だから、その年、俺はあいつにプレゼントを
買わなかった。

だけど。
一度も顔をあわせもしない日々が来ることを
俺は、考えてもいなかった。


それから、いろいろ。
何だか、本当に、いろいろあったんだ。


いろいろあって、俺は、総帥になった。


そうして、やっと
俺は、本当に、
あいつへのプレゼントを買うことが出来た。
俺が手にした…俺だけの、本当に、俺からのプレゼント。

くだらないって言うなよ。…男の意地ってヤツだ。



久しぶりに渡すプレゼント。
特別な、プレゼント。
そう思ったら、何買っていいか、わかんなくなって。
何で俺があいつへのプレゼントのために悩んでるんだよ、とか。
俺が稼いだ金を、何であいつのために使わなきゃいけないんだ、とか。
考えてたら腹が立ってきたから。
次に話しかけてきた店員の勧められたものを買って帰ろうと思ったころ、
店のヤツに勧められるままに買ったのは
 薔薇の花束 だった。

俺からあいつに薔薇の花束もどうなのかって、思ったけど
相手が父親だとも言えず、
きれいだから、良しとした。
後は、いつもよりちょっと気合の入った夕飯とケーキ。



俺が、俺の金で買ったプレゼント。
男として、これでやっと対等になれた気がする。
なんだかんだと、一族全員そろっての誕生パーティー。

あいつは、
バカみたいに喜んでた。


俺の気持ちなんか、気付くわけが無い。
(気付かれるわけにもいかねぇ)
だけど、あんたがあんまりバカみたいに喜ぶから
仕方ないけど、来年からもまた、祝ってやるよ。
俺の、金だしな。





PR
cxz
笑いたい奴だけ笑え


愛とか、夢とか理想もあるけど、目の前の現実はそんなに甘くない。

【笑いたい奴だけ笑え】

私の息子シンタローはガンマ団総帥である。
私はマジック。元ガンマ団総帥でもある、シンタローや、グンマや、そして、今いないコタローの父親でもある。
今日はシンちゃんが遠征から帰還してくる日。
今日の晩御飯は何にしようか。そんなことを考えていた時・・・・
「コンコン」
突然、ドアをノックする音が聞こえた。
「マジック様、総帥が帰還されました。」
「ティラミスか、わかった。」
私はティラミスの知らせを聞いて、外の飛空艇へと出る。
「シンタロー総帥、ご到着です。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

しかし、シンちゃんの口から出た言葉がこれだ。
「おい、親父、コタローはどこだ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・
イキナリデスカイ・・・・・

「おい、親父、答えろ!!」
私はしばらく真っ青になった。
そうだった。シンちゃんはコタローを適愛していたんだった。
忘れていた。
「・・・シシシ・・・シンちゃん、落ち着いて聞いて、今コタローは行方不明なんだ・・・
おそらく、パプワ島にいると思うのだが・・・・」
「んだと!!」
シンタローは眼魔砲を構える・・・いや・・・「ため」の状態に入っていた。
「し・・・し・・・し・・・し・・・し・・・し・・・シンちゃん・・・落ち着いて話し合おうぢゃないか~~~~~~~~~~」
「ああん?まだいたのぉ親父ィ~~~」
ちゅどーーーーーーーーーーーーーーん
「やめろ、シンタロー。とりあえずパプワ島に行ってみるしかあるまい。おそらく、パプワ島にいるのではないか。
パプワ島でコタローの力が暴走したら大変なことになるからな。」
キンタローが口を挟む。
「ええ!!またいなくなっちゃうの!!??せっかく帰ってきたとおもえば、すぐにこれなんだから!!」
グンマが悲しそうな顔をして言う。
「まあ、最後に笑うのは誰か分からんがな。」
「キンタロー、それはどういうことなんだい?」
「おそらく、特戦部隊や、心戦組もパプワ島にいるのではないかと俺は推定している。
リキッドがそれをいち早く知っているのではないのだろうか。まあ、リキッドが笑うのか、シンタローが笑うのか分からんがな。」

 zzzzzzzz

「お父様、お腹好いた・・・」
「どうした、なぜ叔父貴は寝ている。」
「いや、お前の話が長いからだろ。」
「グンマ、お腹好いた!!??」
キンタローが激しい突込みを入れる。
「こいつの腹ン中、これいれたろか。」
シンタローが言っているこれとは、なんと酸素がたっぷりのボムだった。
しいて言えば、酸素爆弾だった。
「眼魔砲」
キンタローが酸素爆弾を破壊した。
「いいか、シンタロー、酸素というのは空気より、少し重く、二酸化マンガンと薄い塩酸をまぜて発生させることができるんやで。
酸素は物を燃やす力があるんやからな。それを腹ン中入れると死んでしまうだろう!!」
「キンちゃん・・・関西弁・・・」
「ブユーデンブユーデンデンデデデンレッっゴー!!」
「キンちゃん、そんなギャグどこで覚えたの!!??」
「トイレどこですか?」
「ねえよ。」
キンタローがへんなギャグを言っていた。
私は目を覚ました。
「あれ、ココはどこだい?」
 
 「「「だめだ・・・こいつ・・・完全におかしいで」」」
「こうしちゃいられねえ!!笑いてえ奴だけ笑え!!最後に笑うのは俺だからな!!」
「よく言ったぞ!!」
「シンちゃん、必ず無事で戻ってきてね」
「ああ」
私にはシンタローがみせた笑顔がなんとなく、印象に残った。

明日へ続く坂道の途中で、すれ違う大人たちは呟くのさ。

終わり

xcz

 書斎で、残っていた仕事を片付けていれば、躊躇いがちなノック音が聞こえてきた。かすかなそれは、シンとした静寂が支配する部屋でなければ、拾うことも出来なかっただろう。ひとつ音立てて、一拍置いた後、みっつ、それは続いた。
 それを耳にしたとたん、マジックは、壁にかけられていた時計を見やり首を傾げ、それから外にいる相手に聞こえるように声を出した。
「入っていいよ、シンちゃん」
 そう告げると、オーク材の重厚な扉がゆっくりと開いた。扉の向こう側から感じた気配は間違いはなく、そこからちょこんと顔を出したのは、マイスイートハニー――もとい、愛息シンタローであった。
 こっちへおいで、というようにマジックは手招きしてあげる。お許しをもらったため、マジック手製の黒ねこさんパジャマ姿で、とてとてと傍へと近づいてきた。
「どうしたんだい? シンちゃん」
 ここへ来ているシンタローは、けれど二時間も前にベッドの上でマジック自身が寝かしつかせたはずであった。ぐっすり寝ているのを確認してから、ここへ戻ってきたのだ。しかし、どうやらあれから起きてしまったようである。
 寂しくないように、という思いで作った、マジック人形を腕にしっかり抱いて、愛らしい黒ねこさんが、じっとマジックを見つめたまま、ことりと首を傾げて問いかけた。 
「パパは、まだ寝ないの?」
「ん?」
 それはどういう意味だろうか。時計の針は、深夜0時をそろそろ指す時刻である。しかし、マジックにとってはこの時間帯は、まだ眠り時刻ではない。もちろん、10時就寝のシンタローは、知らないだろうが、それでも父親が夜遅くまで起きていることは分かっているはずである。
 とりあえず、マジックは椅子から立ち上がると、息子の前へとしゃがみこんだ。しっかりと目線を合わせると、綺麗な漆黒の瞳が、こちらの様子を伺うように見ていた。
 何か言いたいことがあるのだろう。
 それを言わせるために、柔らかく微笑んで見せれば、シンタローは、おずおずと言葉を紡いだ。
「あのね………パパ。僕と一緒に寝て?」
「ッ!」
 その言葉を聞いた瞬間、マジックは大量の鼻血を噴出しかけたか、そこは、さり気なく鼻を摘んで――さり気なくなっていたかどうかは突っ込んではいけない――ごくりと飲み込んだ。
「一緒に…かい?」
 思いがけない言葉に震えた声で訊ね返せば、
「……うん」
 作り物の猫ミミが上下にゆれ、躊躇いがちに頷かれた。その恥らう姿は、あまりにも初々しく、マジックは再び鼻を摘んで、鼻血を飲み込んだ。
(シンちゃんからお誘いなんて、なんて大胆なんだい、シンちゃん!! パパ、信じられないよッ!)
 信じられないのは、マジックの思考回路である。どこでどう接続されると、そういう解釈ができるのだろうか。しかし、今更そこを指摘したところで、どーしようもないことである。
 表面上は優しい父親の顔を見せながら、内では大興奮なパパを前に、シンタローは、甘えるように父親の服の一部をそっと掴んだ。
「怖い夢見たの…だから、一緒に寝て欲しいの」
 その言葉と仕草に、さらに妄想の高みへとトリップしてしまったマジックだったが、怯えたシンタローの顔に、すぐさま現の世界へと戻ってきた。
 妄想パパでも、息子第一には変わりないのである。
(シンちゃんの大胆発言は、怖い夢を見たせいか…)
 なるほど、そういう理由があれば、先ほどの言葉も頷けた。シンタローは、怖い話や本というのがとても苦手なのだ。それなのに、そんなものを夢で見てしまえば、怯えるのも無理はなかった。
 しっかりとパパ人形を抱きしめているのも、夢の怖さを紛らわすためなのである。だが、それがさらに息子の可愛さを強調させてて、パパに強烈パンチを食らわせていることは、もちろん本人は永遠に知らなくてもいいことであった。
「そっか。怖い夢見ちゃったんだね」
 安心させるように優しい笑みで、そう告げれば、こくりと可愛く頷かれる。同時に抱いていたマジック人形をさらにギュッと強く抱きしめる仕草に、思わず、脳天を貫かれたようにのけぞってしまった。
(ああ、なんて可愛いんだい、君は。私を悩殺させられるのは、君だけだよ!)
 まことにもって、迷惑極まりない事実である。
 その海老反りになった背中は、シンタローが顔を上げる前に、常に鍛え上げられている――当然シンタローがらみで――背筋によって元に戻された。そうして、何事もなかったかのような顔をしてマジックは、シンタローを見つめた。
「それで、おねしょはしなかったかい?」
 そういうこともよくあるから、ちょっとばかりからかい口調で訊ねてみれば、とたんにシンタローはむっと口元をへの字に曲げた。
「しなかったもん! 僕は、もう6歳だよ!」
 きっと鋭い視線を投げつけられるが、マジックにとっては、流し目や上目遣いと同じぐらい、誘っているような視線に見えて仕方がなかった。もちろん、シンタローにそのつもりは、欠片もないのは、地球が丸いのと同じくらい当然のことである。網膜にあるマジックフィルターが、勝手にそう改変するだけだ。仕方がないというものである。
「そっか、ごめんね。シンちゃんは、もう赤ちゃんじゃないもんね」
 二週間ほど前に、おねしょを一回してしまったのは、言ってはいけないことだ。案の定、そんなことは忘れているシンタローは、両手に拳を作って力いっぱい否定してくれた。
「違うもん!」
 その仕草も、とても可愛らしく、パパはまたしても鼻血である。すでに総帥服の袖は、色は変わっていないにもかかわらず、ぐっしょりと濡れていた。
「うん。ごめんごめん。パパが悪かったよ……それじゃあ、一人でも寝れるよね?」
 息子があんまりにも可愛くて、ついつい悪戯心が湧き上がり、そんなことを言ってしまえば、とたんにその顔が泣く一歩手前にように、くしゃくしゃに歪んでしまった。
「………パパぁ」
 すがり付くような声と眼差し。うるっと涙を溜めた瞳で、一心に自分を求めるその姿に、マジックはぐらりと傾ぎ、がくりと両膝を床につけた。そのまま、床をバンバンと叩く。
(くぅ~~~~!! どーして、君はこんなに可愛いんだい? この地球上で…いや、宇宙の中でも君ほど可愛い子はいないよッ!! パパ、保障するからねッ!)
 必要ない保障である。
 床も、あまりに力いっぱい叩いたために、わずかながらだが凹んでしまった。普段ならば、ここまでの力は出せないだろうが、シンタローの威力は絶大である。
 まったく必要ないところで出る力である。
「パパ? どうしたの」
「いや、茶色の虫がいたんだよ」
 さすがに、その突然の奇行に息子が突っ込めば、爽やかに誤魔化して、マジックは一呼吸つき内なる興奮を宥めた。
 真夜中でも、シンちゃんのためなら一気にボルテージが上がるパパなために、静めるのも大変である。
 ようやく落ち着きを取り戻すと、マジックは、ぽふっと愛息の形のいい頭に手を乗せた。猫耳の間を、ひと撫ぜする。
「それよりも、さっきの言葉は冗談だからね? シンちゃん。パパも、シンちゃんと一緒に寝たいよ。今日は、一緒に寝てもいいかな?」
 片付けるべき仕事は残っていたが、そんなものはどうでもいいことである。シンタローと共寝の前にそれは瑣末な事柄でしかなかった。
「うん!」
 潤んだ瞳と薔薇色に上気させた頬で、嬉しそうに頷くその姿に、マジックは決意を固めた。
(シンちゃん……今夜、お互いひとつになろうね。そして、夜明けのコーヒーを一緒に飲もう――)
 本当に、どーしようもないパパである。
 再びあっさりと妄想世界へ行ってしまった父親は、今回はなかなか戻ってくる気配はなかった。
「ふふっ…初夜か――」
 すっかり遠くまで行ってしまったようである。
(今晩は優しくするよ、シンちゃん)
 めくるめく薔薇色の世界を夢見ているマジックを前に、幸いというべきか、その妄想世界を見ることが出来ないシンタローは、素朴な疑問を口にした。
「パパ、『しょや』って何?」
 子供は知らなくてもいい言葉である。しかし、マジックにとっては重要な言葉だった。
「ん? それは、後でじっくりと教えてあげるからね、シンちゃんv」
 そう焦らずとも、まだ夜はたっぷりと残っている。にこやかに笑みを浮かべつつ、今夜の花嫁を抱き上げようとしたマジックだが、その手は空気を抱くだけだった。
「ぬぉッ!?」
 驚くマジックの前で、美貌の主がシンタローを抱き上げていた。
「それはね、『しょーがない奴』の略だよ、シンタロー」
「サービス叔父さん! こんばんわ」
 突然現れた叔父を前に、シンタローは満面の笑みを浮かべた。さらに嬉しそうにキュッとその首に抱きついくシンタローに、サービスもやんわりと笑みを浮かべた。
「こんばんわ、シンタロー」
 マジックから、シンタローを攫ったのはサービスだった。さらに、仲の良い様子を見せ付けられたマジックは、ジェラシーで悶えつつ、末の弟に言い放つ。
「サービス、一体いつからここに! 入る時はノックしなさい!」
 せっかくの親子団欒(?)を邪魔されて、憤慨を露にすれば、呆れた顔のサービスが言葉を返した。
「したけど、兄さんが気付かなかっただけだろ。随分前から僕はここにいたよ」 
 その通りである。もう五分ほど前からここにいるのだが、頻繁に妄想の世界へ飛んで行っていたマジックが、気付かなかっただけだ。シンタローが気付かなかったのは、背後に立っていたためである。
「仕方がないじゃないか! シンちゃんの可愛さにメロメロになっていたんだからな。―――それで、何しに来たんだ」
 本当に呆れるしかない理由を告げて、当たり前の質問をしてみれば、サービスは、やれやれと言わんばかりの溜息をひとつ落として、言った。
「いや、シンタローがこの部屋に入っていったのが見えたからね。何か起こるだろうと思って不安にね――案の定だし――ついでに、お休みを言いにきたんだ。―――お休み、兄さん」
 すっと持ち上げられる右手。即座にその手の中心に集まる膨大な熱量。
「眼魔砲」

 ちゅどーんッ!!

「お前は、永遠に私を眠らせる気かぁ~~~~~~~!!」
 タメ無しMAX眼魔砲を放ったサービスのそれをまともに受けたマジックは、部屋の壁もろとも、錐もみ状態で外へと飛んで行った。



「叔父さん。また、パパを飛ばしたの?」
 もうもうと立ち上がっていた砂煙も落ち着き、あたりに静寂が取り戻されると、シンタローはぴょんと、猫のようにサービスの腕から飛び降りた。それから、ぽっかり空いた書斎の穴を眺める。そこはすっかり風通しのいい部屋になっていた。
 しかし、シンタローの顔に驚きはない。それは、別に珍しいことではないせいだった。週一ぐらいで、起こっていることなのだ。心配することはなかった。
「ああ。必要だからね」
 さらりと恐ろしいことを告げるサービスだが、否定する相手がいないので、問題はない。もちろん、シンタローは、それを素直に受け入れた。
 心残りは、吹き飛ばされる前に、パパにお休みなさいを言い損ねたことだが、一度、怖い夢で起きる前に言ったので、諦めることにした。それに、朝になってから改めて「おはよう」の挨拶をすればいい。今は、いないけれど、すぐに復活してくる不死身のパパなのである。シンタローにとっては、それも自慢のひとつだ。
「そっか! パパには必要なことなんだね。だったら、早く僕も出来ないかなぁ」
 サービスの放つ『眼魔砲』というのは、蒼白い光を放っていて、とても綺麗なのである。自分の手からそれを出せれば、とても気持ちいいに違いなかった。それに何よりも、『マジックに必要』という部分が重要だった。
「大きくなったら、君も打てるようになるよ」 
 その言葉に、シンタローは、顔を輝かせた。
「ほんと? そうしたら、今度は僕がパパにそうしてあげたいな」
 パパには『眼魔砲』が必要なのだと、サービスが言うのならば、きっとそうなのだろう。そう信じ込んでいるシンタローが、嬉しそうにそう言えば、サービスもうっすらと笑みを浮かべて頷いた。
「そうだね。そうしてあげるといい」
 無責任な言葉を言い放つサービスに、シンタローは大きくしっかりと頷いた。
「うん♪」
 絶対に、大きくなったらパパに眼魔砲を打つことを決めたシンタローである。本当に十数年後には、全然違う意味で、眼魔砲を父親に放つことになるとは―――もちろん知る由もないことである。
「早く眼魔砲を打てないかな!」
 はしゃぐように、そう言うシンタローの肩をぽんと叩いた。
「そうだね。すぐ打てるようになるよ。でも、今晩はもう遅いから、寝ようかシンタロー。今晩は、叔父さんが付き添ってあげるよ」
「うわぁ~い。ありがとう、サービス叔父さん!」
 大好きな叔父さんと寝れば、今度こそ悪夢などは見なくてすむだろう。
 シンタローは、サービスと手をつなぎながら、大きな穴の開いた書斎を後にした。



 一方、マジックは―――。
「ふふっ……ああ、私を迎えに来た天使が見えるよ。……でも、シンちゃんの方が何倍も…いや、何万倍も可愛いよ。っていうか、シンちゃん…お願い、パパを迎えに来て――しくしくしく」
 どこぞの木の枝に引っかかったまま、朝露よりも先に緑の葉に塩辛い雫を落としていたのだった。


cxz

(最悪……)
 廊下を歩いていたシンタローは、前方十メートル先にいる人物を視界に捕えたとたん、反射的に顔を顰めた。
 このまま回れ右をして、見なかったことにしたいが、そうなると、後五分後に控えている朝の会議に間に合わない。普段なら、もう少し余裕を持って出てくるのだが、今日は、少し事情があって遅くなってしまったことが悔やまれる。そのおかげで、一番出会いたくない相手に対面しようとしているのだから、本当に最悪であった。
 何事もありませんように。
 そう願いながら、目の前からやってきた相手とすれ違う。
「おはよう、親父」
「おはよう、シンちゃん♪ 今日も可愛いねv」
 朝から、テンション高く満面の笑みで挨拶をしてくる相手をするりと避け、そのまま通り過ぎようとしたシンタローだったが、その去り際に、がっちりと腕をつかまれた。
 ビクッ。
 思わず身体が反応するのを、悔しいかな止められなかった。しかし、そこで怯むわけには行かず、キッと漆黒の瞳を光らせ、振り返った先にいる相手を睨みつけた。
「なんだよ、親父。今から会議に出なきゃいけないから、あんたの相手をする暇ねぇんだけど」
 そっけなく、そう言い放ち、ついでに握られているそれを振り払おうと渾身の力を込めたものの、向こうに予測されていたおかげで、成功はしなかった。
「会議? これから君の行く場所は、ベッドでしょv」
「なッ!」
 決定事項のように言われた言葉に、うろたえるシンタローを尻目に、マジックはその腕を掴んだまま、ずんずんと先ほどシンタローが来た道を引き返し始めた。通りすがりにつかまれたために、マジックの進行方向とは逆向きであったシンタローは、後ろ向きに歩くことになり、踏ん張ることが難しく、そのおかげで、どんどんと会議室からは遠ざかって行く。
「ちょ、ちょっと待て! 離せ、親父。俺は、仕事がッ!」
 しかし、その訴えは相手の耳にはひとつも入らないようだった。抵抗も形にならぬまま、引きずられるようにして自室に戻されたシンタローは、そのままベッドへと押し倒された。
「親父ッ!」
 すぐさま起き上がろうとしたその身体を、肩に手を置くことで押さえこまれる。身動きできずにいれば、マジックの右手が伸び、前髪をかき上げるようにして、額に触れた。
 少しひんやりとした手が、思わぬほど心地いい。つい、その冷たさを味わってしまえば、なぜか苦笑を浮かべたマジックと間近で視線があった。
「なんだよ」
 目線の近さに気恥ずかしさを感じ、ついぶっきらぼうな言い方をしたものの、相手の眼差しはいつくしむような柔らかなそれになった。
「熱がある時に無理したら駄目でしょ?」
 そうして告げられた言葉に、シンタローの眉間には皺が寄り、口元がへの字型に歪む。
「………やっぱり気付いたのかよ」
 不貞腐れた顔をすれば、当然といった笑みを浮かべたマジックは、しっかりと頷いた。
「当たり前でしょ? 一体何年、シンちゃんのパパをやってると思っているんだい? 君の顔を見て、すぐに分かったよ。熱があるなら、そう言いなさい。無理すれば、後で余計に寝込むことになるんだよ、シンちゃん」
「…………」
 たしなめるようにそう言うマジックに、シンタローの反応と言えば、押し黙ったままで、むすっとした表情を浮かべていた。自分に熱が出ていることを見抜かれたのがよほど気に食わないようだ。
 だが、かすかに潤んだ目やいつもより赤く火照った頬などから見れば、微熱などでは収まっていないのがわかる。確かに、注意深く見なければ、それとは分からないが、マジックの眼はそれを見逃さなかった。
「辛いなら素直に言えばいいのに――まったく、君は変わらないね」
 幼い頃から、そうだった。
 熱を出しても、お腹を壊しても、父親であるマジックには何も言わなかったのである。忙しい父親を心配させたくないという理由のために、体調が悪くても我慢する癖がついてしまったのだ。
 そのため、余計にシンタローの様子には気遣う癖が、こちらにもついてしまった。顔が見られれば、すぐに体調を確かめるように注意深く様子をチェックする。そうしないと安心できなかった。
 自分がいない時は、不安だったが、それは、心配なかった。淋しいが、体調が悪くなると、近しい者にすぐにそれを告げていたらしかった。父親が戻る前に、完治させるためだということはすぐに気付いたが、それでも父親としては哀しいものがあった。
 そんなふうに、シンタローの優しさは、時折そんな強がりも含んでいるから、マジックとしては、余計に過保護になってしまうのであった。もちろん、その全てが可愛いからというのは大前提だ。
 それはシンタローが大人になっても変わらない。同じ愛しさを、マジックは変わらず感じていた。
 もっとも、シンタローの方は少し違うだろう。
 今の状況は、 自分を心配させないためというよりは、こうして無理やり休まされるのを恐れるために違いなかった。
 ガンマ団総帥という地位に居続けるために、彼は今も並々ならぬ努力を続けている。多忙な総帥職を、毎日こなしていた。それでも仕事は減るわけではないから、多少の不調も、根性で押さえ込んで、仕事に励むつもりだったのだろう。しかし、そんな無理をして、さらに身体を壊せるようなことをさせる気などまったくなかった。自分が気付いた以上、体調が戻るまで、仕事は休止である。
「大人しくしておきなさい。すぐに高松を呼んでくるからね」
 言い含めるようにそう言い、額に添えていた手で前髪をすくい上げると、くしゃりとひと撫ぜしてベッドから離れた。
 すぐに起き出して、仕事に戻るだろうか、と思ったものの、幸いそんな気はなくしてくれているようで安心した。けれど、自分の姿が完全に消えてしまえば、それも危ういもので、また再び仕事に戻らないように、根回ししなければと、いそいそと内線電話へと手を伸ばした。
「………チッ」
 マジックの去ったベッドの上で、シンタローは盛大に舌打ちをした。マジックの目は、今はない。逃げ出そうと思えば、逃げ出すことは出来る。けれど、すでに諦めの気持ちが広がっていた。
 あちらが先手を打っているに違いないからだ。
 今朝、熱の所為で身体がだるく、支度をするのを手間取りながらも、会議に間に合わせようと必死になっていたのが、全てパァだ。
 おそらくもう会議は中止になっているだろうし、その後に控えていた業務も後日に回されているはずだった。その手際のよさには、感心させられると同時に悔しくなる。
 まだまだ自分は、父親には敵わないと実感させられるせいだ。
(いつか絶対に越えて見せるけどな!)
 そんなことを考えていると、向こうの部屋からひょっこりとマジックが顔を出した。何の用だと思っていれば、にっこり笑って告げられる。
「シンちゃん。後でお粥を作って持って来てあげるから、待っててねv」
 それはおそらく病気で寝込んだ時だけに食べさせてくれる、特製お粥であろう。食欲がなくても、それだけはいつもしっかりと食べていた。時には、それが食べたくて、仮病を使ったこともあった。それぐらい、美味しいお粥なのだ。
(これだけは、越えられないかもな)
 父親の味は、シンタローにとっては絶対だった。味の基準が全て父親が作ってくれた料理の味からなっている以上、それを完全に越えることは、シンタローには不可能である。だが、これはこれ。ひとつぐらい絶対に敵わないことがあってもいいだろう―――他は越えて見せるけれど。その決意は変わらない。
「はーいはいはい」
 おざなりに返事を返したシンタローだが、その顔には嬉しそう笑みを刻まれていた。
(それなら早く元気になりますか)
 特製のお粥を作ってくれる相手に報いるためにも、シンタローは、ベッドの中に潜り込むと大人しく瞼を閉じた。
xzc

就任式が終って、その後の引継ぎに関係した仕事もどうにか無事に完了し、彼はようやく自分が総帥になったのだと思えるようになった。
そうは言ってもすぐに実感できるものではなく、身に纏った紅い軍服がやけに重く両肩にのしかかり、その責任と重圧に押しつぶされないよう、彼は意識して背筋を伸ばす。
いつか、この服が馴染むときがくるのだろう。その時は今はまだ恐怖の対象でしかないこの団が変わっているはずだ。
変えてみせる。自分と家族と仲間の手で。
あの島での出来事で決心し、子供達にそう誓った。これからが本番だ。
団の根本的な改革は、内外に大きな波紋を呼んだが、彼自身の働きとそれを支える家族の助けによってどうにか落ち着きはじめた。
家族の関係も少しずつではあるが再生されつつある。
父親も従兄弟も叔父も、お互いに歩み寄り、新しくやりなおそうとしていた。
彼が一番気がかりな父と弟の関係は、残念ながら弟が眠り続けているので、これ以上どうしようもなかったが、あの時弟を抱きしめた父親に期待しても良いと彼は思っていた。
早く目覚めて欲しい。
それが家族共通の願いだった。

総帥服を着たまま、彼は弟の元を訪れる。
眠っているのだから見えないのは重々承知だが、弟に総帥となった自分の姿を見せておきたかった。
もう怖がらなくて良いと教えてやりたかった。
額にかかる金髪を払ってやりながら、幼い寝顔を眺めていると、いつのまにか父親が背後に立っていた。
「いつの間に来たんだよ」
「ついさっきかな」
父も頻繁に訪問していると、従兄弟や秘書から聞いていたが、忙しい彼が弟の部屋を訪れるのは深夜になることが多く、ここで父と顔を合わせる事は今までは無かった。
「声かけりゃ良いのに」
「もう夜だしね」
軽く微笑う父親の顔は酷く優しげで、彼が子供の頃に向けられていた表情と良く似ていた。
懐かしく安心するその顔を久しく見ていなかった気がして、改めて色々なことがあったのだと思い出し、彼は目を伏せた。
「どうしたの?」
「何でもねぇ」
心配そうに気遣う声も温かで、弟にもこの声が聞こえていれば良いと思わずにはいられない。
「なぁ今度こそ、大丈夫だよな」
何が、とは明言せずに問う彼に、父親は深い愛情を含ませて「もちろん」ときっぱり答えた。

連れ立って弟の部屋を後にして、彼は父親に腕を引かれてリビングに向かった。
文句を言いながらも彼にしては大人しく付いて来たのは、先ほどの答えが嬉しかったせいだろう。
彼をソファーに座らせると、父親はちょっと待ってと言い残し、どこかへ行き、戻って来た時にはワインの瓶を手にしていた。
「あんだよ」
「一緒に飲もうと思ってね」
幼い頃から父は自分の前で酒を飲む事は無かったし、成人してから父と一緒に飲んだ事も無かった。アルコールには強い家系であるから飲める性質だろうとは思ってはいたが、父からの酒宴の誘いは意外な気がした。
「アンタと?」
「そう」
不審げな彼の様子に気が付いたのか、父親は笑いながらワインのラベルを見せた。
「これはね、私の生まれ年のワインなんだ。何か特別な事があった時に開けようと思って、今まで大事に取っておいたんだけど」
「…今開けて良いのか?」
「もちろん。私の愛する息子が、私の跡を継いでくれた。こんな喜ばしいことは無いだろう?」
何も言えなくなってしまった彼に父親はワイングラスを持たせる。コルクを抜く音がして、紅い液体が注がれた。
「乾杯」
「…乾杯」
グラスの触れる小さな音が、静かな空間に響いた。

BACK NEXT
カレンダー
05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved