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10 【眩暈がするほど愛してる】


いやだ、と途切れる吐息に掠れた声が上がる。
その身体を組み敷き貪りながら、「何が嫌なの、シンちゃん?」と問えば、答えは無くただ首を横に振るだけだ。
……じゃあ、当ててあげようか。
パパに抱かれるのが嫌かな?
それとも私の存在そのものが?
そしてそんな相手に快楽を感じる事が…?
そんな言葉を囁けば、固く閉ざされていた瞼が上がり、黒い瞳が私に向けられた。
睨みつけているつもりだろうが、その歪められた表情は泣きそうなものにしか見えない。


この問いには、否定されたい思いと、それとは逆に肯定されたい思いが両方存在している。

───これ以上傷つけないように手放したい。だから肯定して、この手から逃れて欲しい。
───この腕に閉じ込めて手放したくない。だから否定して、この手を離さないで欲しい。

己の中にある相反する想いに、歪んだ愛情に、眩暈すら覚える。
私はこの子をどうしたいのだろう。
こんなに傷つけてまで、どうしたいと思っているのだろう。


ただ、愛している。誰よりも。
それだけは真実なのに。


お題は溺愛なのに、何かダークになってしまいました、すみません…;
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mgf


「溺愛10のお題」 1~5


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1 【猫かわいがり 】


「かわいくてかわいくて食べちゃいたいくらい」
シンタローを抱き締めて頬擦りしつつ言ったら、真っ青になって泣き出してしまった。
「ど、どうしたの!? パパ、何かした?」
おろおろしつつ問いかけると。
大きな黒い瞳からぼろぼろ涙を流しながら、今年4つになる息子は答えた。
「パパすきだけど、食べちゃやだ、ぼくおいしくないもん」

……愛らしい黒髪の頭の中では、どんな調理模様が繰り広げられていたのだろうか。

ちなみに「目に入れても痛くない程かわいい!」と叫んだ時も、「ぼくを目に入れたら、パパしんじゃうくらいいたいと思うんだけど…」と震えていた。

ああかわいい。
そりゃあもう、ね。食べちゃいたいくらい。




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2 【上目遣い】


子供の頃は、ただひたすら見上げていた。
首を直角に上向けても、 あいつが見下ろしてくれなければ表情も見えない。
そんな大きな差が段々縮まって。少しずつ少しずつ、背丈も近づいて。
だけど。

「シンちゃんにそうやってじっと見上げられると、誘われてるのかって思っちゃうんだけど」
「何馬鹿言ってんだッ」

未だ平行には届かない視線。
あれから何年経っても、あいつは俺を僅かにだが見下ろし続けていて、俺は上目遣いで睨む。


でもこんな間近にその顔が見れるようになり、表情が判るようになったのは、少し嬉しいような気がしないでもない。




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3 【それが聞きたくて】


「シンちゃん、愛してるよ!」
「それ聞き飽きた。つーか、言いすぎ」
呆れを含んだ息子の視線と声。
「そんな言葉はな、ふつー男は恥ずかしくって一生に数回言えるか言えないかだ」
「そんなもんかねぇ」
「そんなもんなの! 少ししか言わないから真実味があるんだ、こういうのは」

シンタローとそんな会話をしてから二週間。

「………」
何だか、ここ数日不満げな視線をよく向けられる。どうしたの、と聞けば、別にと答えるだけだが。
二週間、か。
こっちもだけど、不機嫌なあの子も限界ってところかな。
近づいて、視線を合わせて。毎日心底思いつつも、言わずにいた言葉を解禁する。

「シンちゃん、愛してるよ」

すぐに顔を顰めたけれど、一瞬嬉しそうに口元綻んだのは見逃さなかったよ。
本当に素直じゃないね。




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4 【隣の特等席】



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5 【寝顔】


「はー…珍しい」
小さく小さく口の中で呟きながら、隣に眠る男の顔を覗き込む。
色々あって、言葉ではちょっと言えないような関係になって。
こうして同じベッドで眠る事も度々あるのだけれど。
いつも先に眠るのは俺で、先に起きるのはコイツで。…今まで寝顔なんか碌に見た事なかった。

いや。
何度か、先に起きた事はある。
でも寝顔をよく見ようとすると、すぐにこの男は起きてしまう。
「シンちゃん、どうしたの? 早いね」
もう朝?…とか呟きながら。

気配に聡すぎる奴。
そんな時に、ほんの少し心に芽生えるのは、起こして悪かったという気持ちと、警戒されているのだろうかという不安。
勿論そんな思いは口に出来ないから、「何でもない」などと言いながら、再び布団に包まり目を閉じていたものだけど。
俺を特別警戒しているわけじゃない、それは知っている。

”この男が警戒しているのは、自分以外の全てなんだろう”

───そう思うと、何だかかなしかった。


そんな夜を何度も何度も繰り返して。
だから、こんな時間を持てる日が来るなんて思わなかった。どこかで諦めてすらいた。
隣に眠る男の、閉じた瞼。ほんの僅かに開いた唇と穏やかな呼吸。
それをただ見て、聞いている事が何故かこんなにも嬉しい。
心の中で、「オッサンなのに無理するから」なんて、こっそり憎まれ口叩いたりしながらも、隠しきれない笑みが浮かぶ。

その無防備な寝顔に、自分の存在をやっと認めてもらえた気がして、嬉しいのに何故か泣きたくなった。



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「溺愛10のお題」 6~10へ
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「兄貴ー金貸してくれー!」

久々に足を踏み入れる我が家。
近年はあまり帰ってきてはいなかったが、それでも勿論遠慮などある筈がない。
そんなハーレムが真っ先にやって来たのは、長兄であるマジックの部屋だった。
マジックも留守がちなのだが、本日は在宅していると事前に調査済みだ。相も変わらず軍内の盗聴は完璧だ。
ばんっと豪快に扉を開け、同時に言い放つ、兄に対する遠慮のない金の無心。こんな光景は、ハーレムが帰ってきた時には珍しくもない。
そんな彼に向かって、常なら呆れた視線を向けてくる長男の姿が、部屋の中に見える筈なのだが。
今日は、いつもとは違った。

瞬間、ハーレムの視界に飛び込んできたのは、ソファに重なる二つの影。
一瞬で判別出来る、彼にとってはよく見知った人物二人の。

「ぎゃあああああああッツ、ナマハゲーーーー!?」
「兄貴…ッ、って、シンタロー!?」
「ハーレム……部屋に入る時はちゃんとノックしろってお兄ちゃん子供の頃あれほど…」

ソファから立ち上がり説教を始めたマジックの横を、その身体の下から跳ね起きたシンタローがばたばたと駆けてゆく。
呆然としていたハーレムの脇もすり抜け、部屋を飛び出して行く甥の姿。
真っ赤な顔と、シャツのボタンが幾つか外され見えた肩口にくっきりつけられた紅い痕が、一瞬でも判別出来た。



「兄貴、今の……」
「何だ?」
入室の際のマナーについてから始まり、英国紳士とはどうあるべきかと懇々と続いていた説教を遮り、呼びかけると。マジックは慌てる様子も無く問い返し、先を促す。
「とうとうやっちまったのか?」
身も蓋もないハーレムの言葉に、やはりマジックはうろたえもしない。
「さっきのスキンシップのことか? 別に疚しい事は無いが」
マジックはにこやかに「疚しい」関係を否定するが、ハーレムの脳裏には先程の光景が焼き付いている。
……あれはどう見ても、正しい親と子のスキンシップには見えなかった。

「…口にキスしてたよな」
「シンタローが赤ん坊の頃からしてるだろう、おまえも知っている筈だが」
「ソファに押し倒して?」
「童心に戻ってプロレスごっこを久し振りにね」
「服の中に手入れて?」
「おなか痛いっていうから摩ってあげてたんだ」
「思いっきりキスマークつけて?」
「ああ、あれ虫に刺されたんじゃないか?」
「………タチ悪ィ虫らしーな」
埒が明かない。というか無茶苦茶だ。
暖簾を必死で押しているような状況に、ハーレムは兄への追求を切り上げ、踵を返し扉に向かいつつ言い放った。
「いいや、シンタローに聞くわ。アイツ、こーいうの誤魔化せねーだろうし」
「あー待て待て。判った、認める。だからシンちゃん苛めるんじゃありません」
大げさに溜息をつき、マジックは漸く白旗をあげた。
「まだ衣服も着ていたし、シンちゃんも、慌てなければいくらでも誤魔化せたのに。まだまだ修行が足りないなあ」
「んな修行する機会、普通はねェんだよ。ていうか兄貴何してんだよ…」
「血は繋がってないし、世間的に同性愛も認められつつある昨今だし、まあいいじゃないか」
「……手ェ出したの、血の繋がり無いこと知ってからだろーな?」
「……………………」
沈黙は否定を表す。
ああ駄目だこの兄。とうとうやったか。まあ、あの阿呆みたいな可愛がり方を考えれば、おかしくもないのかもしれない。いやおかしいか。そもそも血の繋がりは無いと言うが、誰よりもシンタローを息子として認めているのは兄貴本人だろうに────。
などとハーレムの脳内に様々な思考やツッコミが渦巻くが、実際口に出た言葉は

「で、話戻すけど金貸してくれよ」

だった。
しかし当然、マジックからYESという返事は返ってはこない。ハーレムに向けられている視線は、「またか」という呆れを雄弁に物語っている。
「答えは判り切っているが、使い道は?」
「明後日の、」
「却下。その前に団の三億円返せ愚弟」
「まだ何も言ってねぇ!」
「聞かなくても判る」
「じゃあ聞くな!! くそッ、あんなん見られてちッとはうろたえろよ! ふつーなら口止めとかで希望のひとつやふたつ聞くもんだろッツ!!」
「うろたえるも何も、私自身は誰に見られても、世界中に言いふらされても構わんよ。むしろ皆に知ってほしいぐらいだ。あの子は私のものだとね。でも、シンタローが嫌がるからやらないが」
見事と言いたいぐらいの開き直りだ。こうなるともう、ハーレムには二の句が継げなかった。
関係を隠すのは、シンタローが拒否するから。本当に、彼にとってはただそれだけなのだろう。
あんな目撃談など脅しの材料にもならないと自覚し、兄の援助を諦めて、次回の競馬の掛け金は部下の給料から捻出することにしたハーレムだった。



実際の所、ハーレムはわざわざマジックにたかる為に、故郷イギリスまで戻って来たのではない。
ガンマ団から特戦部隊に依頼があり、隊長として新総帥であるシンタローと、その詳細を話し合う為に来たのだった。
英国に到着したはいいが、その時点では、団での会談予定にはまだ時間があった。
その時間を有効に使おうと思い、家へ金の無心に乗り込んだのだが、そこで思いがけない事態を目撃をしてしまった、というのが今までの状況。

そして、先程のごたごたから数時間後。
会談の予定時間は訪れ、団内で叔父と甥は再会していた。
「よォシンタロー、わりィな、さっきはジャマしてよー。おかげで欲求不満だろ」
「ううううるせぇッ!! それより、契約内容の書類だ見とけッ!」
会うなりハーレムの揶揄が飛ぶが、シンタローは眼光鋭く睨みつけながらも、きちんと書類を手渡してくる。しかし、さすがにその顔は赤い。
あんな出来事の後で顔をこうして合わせるのは、自尊心の強いシンタローにとっては、とてつもない苦痛に違いない。それでも、先程の自宅でのように逃げ出す事もなく、きちんと会談に臨むのは、総帥としての自覚ゆえだろう。
叩き付けるように手渡された書類に軽く目を通しつつ、ハーレムは密かに笑う。
唯我独尊を地で行く俺様気質な甥っ子だが、根は生真面目で課せられた役割から決して逃げない辺りは、そういや父親であるマジックに少し似ているかもな、などと考えていた。
「ァん? こりゃ結構大きな役目じゃねーか。腕が鳴るぜェ~」
「…やりすぎんなよ、テメ」
書類に落としていた視線を上げ、ケケケとばかりに凶悪な笑みを見せた叔父に、一抹の不安を感じた新総帥は、一応の配慮を求める。
なまじ実力がありすぎる程ある人物が揃う特戦部隊だけに、命令を下せば確実に成果を出すが、出しすぎてむしろ団にとっての損害になる事も多い。
壊さなくていいものまで破壊し尽くす、過激な戦いを度々繰り返し。そんな出来事が積み重なって、後にガンマ団を追放される事になるのだが、この時点の部隊はまだ団の直属だった。

「おシゴト話はこれでしゅーりょー!ってナ。…で、シンタロー、さっきの事なんだがな」
「そっその話はいい! 仕事の話に来たんだろーが!」
「マジックに手篭めにされたってマジか?」
「…………は?」
突然のハーレムの問いはあまりにも予想外のもので、ぽかんとした表情でつい問い返す。
しかし続く叔父の言葉は、シンタローにとっては益々予想外だった。
「『シンちゃんがあんまりにも可愛いから、つい無理に自分のものにしちゃったんだよねー』って、兄貴のヤツがオマエの人形に頬擦りしながら言ってた」
「───っ、あの馬鹿ッ!」
思わずといった風に罵りの言葉を口にするシンタローに、向けられるハーレムの視線は、思いがけず真剣みを帯びていた。
そんな彼に、確認するかのように、
「違うのか」
そう問いかけられ、シンタローは首を強く横に振る。
声には出さないが、違う、と否定するその行動。
「まぁなー、確かに兄貴なら無理矢理ヤれない事もねェだろーけど、オマエの方もそんなん簡単に許すタイプでもねーし…」
許すどころか、合意も無くそんな事をすれば、どれだけ険悪な状態になるだろうか。ハーレムとしては甥っ子のやたら高いプライドを知っているだけに、そう思う。
しかし、少なくとも南国の島から戻ってから、マジックとシンタローの関係は良好なようだった。
自分一人が悪者になる事で、息子をかばおうとでもしたのだろうか。
開き直っているようで、それでもシンタローの意思を尊重して、親密すぎる程親密な関係を黙っていたマジックなら、有り得るのかもしれない。
だがしかし。
シンタローにわざわざこうして確認を取らずとも、マジックのそんな言葉が偽りだなど、本当は充分に察する事は出来たのだ。

「無理強いする相手に対して、あのカオは出来ねーよなァ」
「顔?」

呟いたハーレムの言葉の意味が判らず、シンタローは問い返す。
「俺がドア開けた瞬間の、おまえの表情」
「ッ、それ以上言わんでいいッツ!!」
先の言葉が読めたらしく慌てて怒鳴りつけてくるシンタローに、ハーレムは意外そうな視線を向ける。

…へぇ、コイツ自覚あんのか。

昨今の団内で随一の実力を持っていたこの甥は、反射神経も状況に対応する能力も勿論人並以上。それなのに、自分が踏み込んだあの一瞬に、全く何の対処も出来ずにいた。
それだけ、目の前の男───マジックしか見えていなかったのだろう。
その腕の中で、普段の彼からは想像もつかない程、甘く蕩けきった表情を見せていて。
あれで無理矢理もへったくれもないだろう。
というかむしろ。

「おめー、ホントに好きなんだなァ…」

ハーレムとしてはからかうつもりではなく、ほぼ無意識に呟いた言葉だった。
しかし普段の甥に対する態度が態度なだけに、彼は揶揄されたと受け取ったようだ。赤い顔を更に耳までユデダコのように赤くし、睨みつつ怒鳴りつけて来た。
「悪いか!?」
「へ」
「好きだったら、何か悪いかよ!?」
……おいおい、コッチも開き直りやがった。
シンタローの喚叫に一瞬唖然としたハーレムだが、
「悪いも悪くないもあるか、オマエらで勝手にしろ」
そう言葉を返す。
「マジックには言うなよ!」
目尻を上げ言い放つシンタローの口止めは、顔が赤いせいかあまり迫力はない。
こんな状況で相手を脅せると思ってるのかオマエは、と内心思いつつも、ハーレムは言わねェよと答えた。
言わなくても、あんな表情と態度を常に見せているのだったら、マジックは判っているだろうから意味が無い。

目撃してしまった事態により、何だかんだで二人から遠回しに惚気られているような気がして、複雑な心境に陥ったハーレムだった。




「はーやれやれ。疲れた一日だったなァ」
団の建物から退出したハーレムは、車を使わずに歩いて外に出た。
レンガ造りの古い建物や噴水のある公園。目に映るこの辺りのそんな景色は、昔とそれ程変わりは無い。
子供の頃にも、ここはよく通っていた道だった。
兄に手を引かれ、あの公園に連れて行ってもらった事も、何度もある。
ハーレムの脳裏に、過去の風景が浮かぶ。

団の総帥となるまでのマジックは、厳しい面もあるが、内面は人間味溢れる優しい兄だった。
しかし父が死に、まだ十代前半の年端もいかない身で総帥の座を継いだ彼は、目に見えて変わっていった。
纏う雰囲気は冷たく鋭利な刃のようになり、子供だった自分は正直なところ、そんな兄がとても怖く思えたものだった。
それでも兄弟という身近な立場で、ずっと見ていたのだ。

彼が幾度か大事なものを作り、そして失って傷つき、その度に益々冷酷さを増してゆくのも。
どんどん遠い人間になってゆくのも。

何も出来ないまま、ただ全てを見ていた。
そして反発し、兄弟は同じ組織内に在りつつも、長年顔も合わせない程疎遠になっていった。



「シンタロー」
「…何だよ」
執務室から退出する時、振り返りシンタローに声をかけた。
それまで話していた内容が内容だけに、固い声で問い返す彼に、ただ一言だけ。

「マジックを裏切るなよ」

それだけを最後に伝えた。心の中で、お前だけは、と呟きを足す。
はあ?と、問い返す声と、首を傾げる仕草。
扉を閉める瞬間にそれを確認した。
言われた意味が判らないというか、そんな事を考えたこともないのだろう、あの甥っ子は。
どれだけ、あの兄が人を裏切り、裏切られてきたか。多分彼は何も知らない。
シンタローが生まれ、マジックは随分変わった。ハーレムとしては、予想もしない方向に。
多分、それは良い事だったのだろう。
どこかネジが外れたのでは、とすら度々思えるようになったマジックだが、人間味を取り戻した彼は今きっと幸せなのだろう。

世界すら手に入れかけ、でも心は確実に破滅に向かって進んでいた。
そんな男が、生き方を激変させるような相手に出会ったというのなら、例えそれが手ずから育てた子だろうと、構わないかもしれない。
それに。
───幸せそうな兄を見るのは、悪い気分ではない。

そういや幸福な人間は、他人に幸せを分け与えたくなるというではないか。競馬の資金も、気が向けば出す気になるかもしれない。
…可能性は低いが。


そんな事を考えつつ、ハーレムは懐かしい道をゆっくりと辿り歩いて行った。





お~~いおいおいおい…お~い甥。
えー…ダジャレでした。さむさむ。
シンさんが実にめろめろしている…。

マジ←ハム入ってないかコレと聞かれたら、
気のせいだと答えます。ハイ。多分…。

BACK


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「ひどいよーシンちゃん…」


いい年した男が、べそべそと顔を手で覆いながら嗚咽を漏らしている。が、嘘泣きなのは明白だ。
「うるさい、泣きマネやめろ!よけームカつくから!!」
そんな男に向かって飛ぶ罵声。
マジックとシンタローの間では、ありがちとも言えるこの状況。

「どーしたのシンちゃん? またおとーさまと喧嘩?」
シンタローの怒鳴り声を聞きつけたらしい、同じ家に住むグンマとキンタローが、二人のいる居間へとやって来た。
「シンタロー、痴話喧嘩は犬も食わないと言うが」
「そんなんじゃねー!」
痴話喧嘩って何だ痴話って!?
宥めるような口調で言う従兄弟の台詞に問題を感じ取り、こちらにもシンタローの怒声が飛んでゆく。
「どうしたの、おとーさま。今回の原因は何?」
そう問うグンマに、マジックが「よよよ」とばかりに泣き付いている。
「シンちゃんがね…」
そんな台詞を背にして、シンタローは「やってらんねェ」と吐き捨て、足音を荒々しく響かせながら居間を出て行ってしまった。




痴話喧嘩は犬も食わない、なんて馬鹿馬鹿しい。
喧嘩でも何でもない。いや、喧嘩にすらならないのだ、いつも。
感情を荒立ててぶつけるのは、いつも自分の方のみなのだから。

自室へと戻り、自棄気味に身を投げ出したソファの上で。苦虫を潰したような表情で、シンタローは思う。

激しい感情をマジックからぶつけられたのは、コタローを幽閉され、それを責めた時に殴られたあの時ぐらいではないだろうか、と。
マジックから総帥の地位を継ぎ、もう数ヶ月。こんな年になっても度々、グンマ達からは「またなの」と言われるぐらい衝突はしている。
だが。

「シンちゃん怒らないでよー」
「落ち着いて話し合おうじゃないかあ…」

気に入らないのは、あの男はそんな言葉で下手に出ているようでいて、実際は自分の方が軽くあしらわれていると感じるからだ。
自分だけが感情を爆発させ、その波風が落ち着くのを、マジックは余裕を持って待っているような気がする。
そして、結局は「負けた」気分になる。


マジックに対して、余裕なんて持てない。
その時点でもう、負けていると思う。
ちくしょう。
すげームカつく。腹立つ。
悔しい。
親父の奴。
もっと俺に本気になればいいのに──────



「パパはいつでも本気だよ? シンタロー」
「うわ!」
心で毒づいていた筈なのに、いつしか感情の高ぶりに任せて低く声に出してしまっていた。
半ば寝そべるように、ソファの上で姿勢を崩していたシンタローの視界に、突然現れ声をかけてきたのは、今一番顔を見たくない男。
ソファの後ろに立ち、真上から見下ろしている。
部屋の明かりは消していた。窓から月の光が僅かに射し、室内は漆黒の闇に覆われているわけではないが、視界が悪いことには違いない。
それでも。暗いその中でも、はっきりと判ってしまった姿、表情、視線。
明るい金の髪と白い肌は、薄暗い空間にも映える。
闇をも支配するその色。

しまった…。

シンタローは思わず舌打ちしていた。
入ってきた気配も気づかないとは、不覚だ。過去には軍人として、暗殺者として、訓練を受けてきた。気配には誰より聡い筈だったのに。
こんな部分でも、この男には敵わない。
そう思うと、苛立ちが益々募る。そして先ほど聞かれた台詞に対して誤魔化したい気持ちもあって、つい大声で怒鳴ってしまう。
「何勝手に入って来てんだよ!」
「シンちゃんと仲直りしなきゃと思って」
「気配殺して入ってくんなッ!」
「そんな怖い顔しないで。部屋真っ暗だったから寝てるかもと思ったんだもの」
もし寝てたら起こしちゃ悪いしね、と言いながらマジックは、手近に設置されていたサイドボードの上のランプを灯す。
オレンジ色の明かりが、部屋をぼんやりと照らし出した。
蛍光灯よりは薄暗い明かりだが、それでも不機嫌に歪められた表情は相手に鮮明に見えてしまっているだろう。
「…もう寝る。出てけ」
「仲直りしに来たんだから、もう少し話そうよ」
笑顔で言われ、話すことなんかないと首を横に振る。だが、相手もやんわりとした雰囲気を纏いつつも、引く気配がない。
元々、怒った原因なんて些細なものだった。
それで一方的に自分が激昂していただけだ。マジックはわざとらしく嘆くだけで何も反論せず、言い合いにすらならなかった。
それで喧嘩と言えるのか、とシンタローは思う。
喧嘩というのは対等の立場で衝突するものだと思う。片方のみが怒り、片方にあしらわれるだけでは、喧嘩にならないのだ。
元々、この男に育てられた身だ。生きてきた年数も違うし、何も出来なかった赤子の頃から守り育ててくれた親と、ある程度の年齢で精神的に自立したとはいえ、長い間その腕に守られ生きてきた子供としての立場の差がある。
結局は、この男───父親には敵わない。
対等に、なんて無理なのは判ってはいるのだけれど。

「ムカつく…」

判ってはいるからこそ、もどかしい。
視線を外し、舌打ちしながら呟く。
そのもどかしさを、こんな言葉と態度でしか表せないのが情けない。
「そうやって、余裕ぶってるのがムカつく。あんた絶対、俺の言う事なんてマトモに聞いてないだろ。…何言っても、本気で怒らないし……」
マジックは、そんな心情を全部判っているかのように、ただ穏やかに笑いながら、シンタローが横たわっている大きなソファの端に腰掛け、語りかけてきた。
「ちゃんと聞いてるよ。……余裕なんてないよ、パパは本気でシンちゃんに嫌われたくなくて、いつも必死なんだから」
「………」
「だからシンちゃんに怒られて怖いとは思っても、怒ることはないよ?」
「…怖い?」
意外な言葉に、シンタローは思わず、逸らしていた視線を男に向けて聞いてしまう。
「シンちゃんに愛想尽かされるかもしれないと思うと、怖いね」
向けた目に映ったのは、笑みを浮かべてはいたけれど、どこか困ったような表情で、こう語る男の姿。

誰を敵に回しても、世界中の人間に憎まれても構わないけれど。
ただ一人、お前に嫌われることだけが、怖い。

そう続ける男の顔から今まで見せていた笑顔は消え、真剣な光がその目に宿っているのを、見上げるシンタローは感じていた。
「感情をコントロール出来なくなって、お前を傷つけてしまうのも怖い。私は前科持ちだからね」
「……」
過去には世界の覇王を目指し、全ての支配すら目論んだ男が、淡々と弱気とも取れるそんな言葉を、伝えてくる。
「……そんなの、あんたの勝手な都合じゃないかよ…」
だが、シンタローとしては簡単に納得は出来ない。
嫌われたくないと思うのも、傷つけたくないと思うのも、確かに男の勝手だ。
だがそれは、結局相手の気持ちを考えていない、自己満足だろうと思う。
配慮にもなっていない。逆に傷ついたのだから。
そう思うのに、伸ばされた手で頬を撫でられると、切なくなる。
自然と、こんな言葉を口にしていた。
「俺は、あんたに本音ぶつけてほしかったんだ…」
「今、ぶつけてるよ?」
激昂する感情だけが全てじゃないよ、と大きな手で触れられつつ柔らかい口調で言われてしまえば、もう黙るしかなかった。
敵わない。
やっぱりそう感じてしまう。悔しいけれど。
浅い溜息をつき、目を閉じた。

「ねえシンちゃん。これがパパの本音だから。パパが悪かったところは直すから。だからもう仲直りしようよ」

パパはお前と喧嘩したままなのは、嫌なんだ。
囁かれたそんな台詞に、喧嘩すらさせてくれなかったくせにと、反論しそうになるが。
言っても多分仕方ないから、目を閉じたまま、小さく頷いた。
閉じた瞳の向こうで、安心したように笑う気配がする。
そんな事を嬉しいと思う心が、結局は自分の本音なのだろう。
一方的ではない「喧嘩」をしたいと思ったのは、本当だ。
しかし恐らく、この男と真剣な「喧嘩」をしたら、それはそれで自分は不安になるのだろう。
この男だけが、自分の心の全てを支配する。
結局マジックの思いのままなんだろうと幾許かの不満がありながらも、こうして、節くれだった感情を宥められる気分も、悪いものじゃない。
そう思い、シンタローは頬に触れるマジックの手へと己から顔を摺り寄せた。



「キスしていい? 仲直りのキス」
「……勝手にしろ」
心とは裏腹に口から出てくる、ぶっきらぼうで、可愛げのない言葉と声音。シンタロー自身、自分のそんな態度を自覚していて、言った瞬間ほんの少し自己嫌悪に陥ったのだが。
しかし、マジックは心底嬉しそうに微笑んで、ゆっくりと寝そべるシンタローへ覆い被さってゆく。

オレンジの光の中で重なった影は、長い時間そのまま動かなかった。


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何か……よくある話かもですみません;
落とし所が見つからずダラダラしてるのもすみません;;
そしてびみょーーーに、シンマジテイストが入ってる気が……
てゆか私がマジ←シン好きなんです……。

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dfs

「シンちゃん、いるの? 入るよ?」
 異母兄の声に、転寝していたシンタローは、もたれかかっていた脇息からはじかれたように身を起こした。未だ開ききらない視界に、几帳をめくって顔を覗かせたグンマの、呆れたような表情がぼんやりと映る。
「誰もいないの? シンちゃん、無用心すぎるよ! こないだ、伊達衆のナントカってのに襲われたばっかりなのに!」
「人聞きの悪いことを言うな。この俺が昼間っからそう簡単に襲われるかってんだ」
 起き抜けに嫌なことを聞いた、と蘇芳の小袿を着崩したシンタローは欠伸を噛み殺しながら言う。一方、内裏から下がってきたばかりなのか、未だ深緋の束帯姿のグンマは、「わかってないな」と言いたげにため息をついた。
「本当だったら、女の人ってことになってるシンちゃんの部屋に、僕だってこんなふうに入ってきちゃいけないのに……取次ぎどころか、女房の一人もいないなんて。──ティラミスとチョコレートロマンスはどうしたのさ?」
 グンマの小言に、シンタローは億劫そうに返す。
「お前は特別だろ。兄弟なんだから、水臭いこと言うなよ。……ティラとチョコは、こないだその、アラシヤマが入ってきた築地の崩れを直しに行ってる」
「そんなこと……僕に言ってくれれば、仕丁の一人や二人、すぐ貸したのに」
 不満そうなグンマに、シンタローは肩をすくめた。
「俺がやれって言ったんだよ。まあ、こっちに不用意に他人を近寄らせたくないってのもあるが……いろいろばれると面倒だからな。別に俺は一人でも大丈夫だし、それにあいつらだって、たまには『自分は男だ』って、実感したいんじゃねえかと思ってさ。──ちゃんと狩衣を着て、力仕事してってな。俺が言うのもなんだけど、親父の馬鹿な遺志のせいで、女装して、自分が男だってばれないように、それこそ女みたいに屋敷に閉じこもる生活させられてるんだぜ? 女房装束を着せられてるってだけでも恥なのに、なんにも知らない奴らにちょっかいかけられたり、言い寄られたりまでして……男としての面目なんて、あったもんじゃねえ。たまには開放してやらないと、おかしくなっちまうだろ?」
「シンちゃん……」
 表情を曇らせるグンマに、シンタローは苦笑する。
「そんな顔すんなよ。しょうがねえだろ。親父が娘だって吹聴してた俺が実は男だ、なんて今さら知られるわけにはいかねえんだから。巻き込んじまったティラミスとチョコレートロマンスには悪いが、こういう秘密は、人が関わるほど漏れやすくなるからな。……とりあえず、一族の権力基盤が落ち着くまで、なんとか我慢してやってもらうさ。ルーザー叔父さんやコタローの不利になるようなことは、したくねえからな」
「だけど……本当にいいの? シンちゃんは、それで?」
 勧められた茵にふてくされたように座るグンマを無視して、シンタローは手渡された文箱を覗き込んだ。マジック亡き今、屋敷の主であるグンマがわざわざ文使いのようなまねをすることもないのだが、シンタロー側の事情が事情で、本来ならば大勢いるはずの女房も信用できる者を厳選して数を極端に制限しているため、なにか間違いがあってはいけないと、直々に出向いてきたものらしかった。
「……オッサン、また来るのか」
 文箱の中に不似合いな酒壺を見つけ、シンタローが忌々しそうに言う。
「うん。僕のところにも別に文が来たよ。月見酒だって」
 酒好きのハーレム叔父が、月見にかこつけてグンマとシンタローの住む二条院にやってくるようになったのは、三ヶ月ほど前からのことだ。
 それは、二人の父であるマジックの喪が明け、改めて一族の長の座に就いたルーザーの意向で、血族の誰かとシンタローを娶わせることが決まった矢先の出来事だった。都の口さがない野次馬たちは、絶大な権勢を振るったマジック亡き後、さっそく高貴なる一族の権力闘争が始まったのかと、興味津々でハーレムの動向に注目した。マジック最愛の娘を娶るということは、すなわち、マジックの持っていた力の全てを受け継ぐということを意味したからだ。シンタローを男と知る者はごく近い血縁の者と、シンタローの傍近く仕える二人の従者に限られており、マジックの生前からその周囲に近づくものは厳しく制限されていたため、当の二条院に仕える者にとってすら、シンタローは実在するのかどうかさえ定かではない、謎めいた深窓の姫君であった。シンタローが誰と結ばれるかによって、主であるグンマの行く末も変わりかねないと、都中の誰よりも二条院の使用人たちこそが、この訪問のもたらす結末について、固唾を呑んで見守っていたのだ。──その青の一族自体が、当初からこの茶番劇にいささかうんざりしていたことも知らずに。
 だが、渦中の人物の一人であるシンタローはと言えば、自分の素性を知っているはずの叔父が、微妙な時期に微妙な行動に出たために、その真意を測りかねて右往左往していた。
 常に行動が型破りでとらえどころのない叔父のすることである。単純に酒を飲みに来ただけなのかもしれないが、なにか別の考えがないとも言い切れない。ルーザーとハーレムの関係が良好とはいえないものであることも周知の事実だったから、今回の決定に対して、なにか一悶着起こすつもりではないかとも思われた。
 とにかく相手はなにをするかわからない酔っ払いだ。用心するに越したことはないとの結論に達し、ティラミスとチョコレートロマンスを見張り役に、シンタロー自身はこんなときのためにあらかじめ立てこもりやすいように改造しておいた塗籠に身を隠したのだった。
 しかし、それはただの杞憂だったと言うべきか──結局のところ、酒宴で酔いつぶれたハーレムが、シンタローのところにやってくることはなかった。
 都一の酒豪と評されるハーレムが酔いつぶれるなど、考えられないことだったが、もしかしたらグンマか、グンマの後見役の高松が、気を利かせてなにか薬を盛ったのかもしれないと、シンタローは勘繰っていた。──あえて確認はしていないので、真相は謎のままだが。
 拍子抜けするような思わぬ結末のおかげで、奇妙な緊張感をはらみつつも、日常は今までと一見変わりなく続いていくかのように思われた。最初のハーレムの行動が印象的だったせいか、その後の叔父や従兄弟との手紙のやりとりなどは、取り立てて人目を引きもしなかったのだ。──ただ、なにもなかったことの代わりのように、シンタローの心に奇妙なしこりが残ったこと以外は。
 ……あえて言うならば、それは、さんざん思い悩ませられておいて、結局は肩透かしを食らったことへの、恥ずかしさや苛立ちといったものであろうか。
 別にハーレムの方でなにかはっきりしたことを言ってきたわけでも、二人の間に暗黙の了解があったわけでもなく、シンタローが一方的に心配して気をもんだだけのことで、逆恨みと言われればそうなのだが、だからといって簡単に納得して気持ちを収められるわけでもなかった。
 少なくとも、シンタローにしてみれば、あんなろくでなしの叔父に対して、少しでも期待めいたものをかけてしまった自分が許せないのである。この先の見えないうんざりするような状況を、あの叔父ならなんとかしてくれるのではないかとかすかな望みを抱いて裏切られた、その八つ当たりも兼ねて、あのときのことをずっと根に持っていたのだ。
「ハーレム叔父様、よく来るよね。この前遊びに来てから、まだ三日もたってないんじゃない?」
 三ヶ月前の酒宴以降、ハーレムは頻繁に二条院を訪れるようになったが、毎回飲んで騒いで帰るだけである。警戒することがかえって馬鹿らしいと思えるほどに、ハーレムはシンタローのことを気にしていないように見えた。
「……どうせ、酒目当てなんだろ。でなきゃ、俺の財産目当てか。……一体何回月見するつもりなんだろうな、あのオヤジは」
 今日は新月だっつうの、とシンタローは悪態をつく。
 この時代、親の財産は娘が相続するというのが普通であった。ゆえに、生前、位人臣を極めたマジックの莫大な財産も、長男のグンマではなく、世間的に一人娘ということになっていたシンタローが全て受け継いでいる。ルーザーがシンタローを一族の者と娶わせようとするのも、実は男であるという秘密もさることながら、この莫大な財産を他の者の手に渡したくないという思惑ゆえでもあるのだ。
「サービス叔父様とキンちゃんからも手紙来てるからね。忘れずにちゃんとお返事書いてよ? あと一応こっちの二人にもね」
 榊と松の枝にそれぞれ結び付けられた文を見て、シンタローは呆れたようにため息をつく。
「……あいつらもよく懲りないよな……」
 おそらく榊が有力貴族の一人であるアラシヤマのもので、松が青の一族と同等の勢力を持つ赤の一族の一人、リキッドのものなのだろう。
 この二人、いつどこでどうシンタローを垣間見たのか知らないが、もうずいぶんと前から言い寄っていて、未だに諦めるということを知らない。シンタローを溺愛して、言い寄る者たちを秘かに闇に葬っていたとされるマジックが、絶大な権力を誇っていたころから生き延びているのだ。代替わりして未だ権力を掌握しきれていないルーザーが一族との婚姻を決めた程度で、引き下がるはずもなかった。
「こっちの二人のは、適当でいいから、今すぐ書いてくれるかな? あとで高松が害虫撃退の薬をふりかけて送るから、先に欲しいんだって」
「……あ、そう……」
 明日の二人の惨状を思うと今から気が遠くなるシンタローだったが、ここで情けをかけてもさらに泥沼化するだけである。なるべく二人のことは考えないようにして、手近な紙にどうとでもとれるような曖昧な歌を書きつけ、さっさとグンマに渡した。
「サービス叔父様とキンちゃんのは、また後ででいいから。ティラミスかチョコレートロマンスに持たせてよこしてね」
「……オッサンのはいいのかよ」
「ハーレム叔父様には、今夜の宴のこともあるから、僕の方から出しておくよ。シンちゃんは、前のときに返事書いたばっかりだから、今回はいいんじゃないかな?」
 頻繁に返事を書いて、こちらが気のあるような素振りをするのもどうかとグンマは言う。
「別に、ハーレム叔父様に対してどうこうっていうんじゃなくてさ……。どうせ、これは全部世間の目を欺くお芝居なんだから、変に野次馬を喜ばせるようなことするのも、癪だなって思わない?」
「……そうだな……」
 シンタローはため息をつきながら、サービスの手紙を取る。
「うちの馬鹿親父のせいでサービス叔父さんにもいらん迷惑かけちまって、本当申し訳ないよな……」
 サービスの手紙は、一応恋文の体裁を取ってはいるものの、中身はこちらの様子を心配し、気遣うような内容のものだ。
 マジックの死後、信頼していた長兄が堂々と隠していたとんでもない事実が明るみに出、ひどく驚き、動揺もしただろうに、シンタローのため、なにくれとなく心を砕いてくれるサービスを思うと、自分の置かれたこの異常な状況のことなど、実に些細なことであるかのように感じられてしまう。
 ルーザーは、懇意にしている弟のサービスや、自分の息子であるキンタローとの婚姻を望んでいるようではあるが、シンタローは、少なくともサービスにはこれ以上の心労はかけられないと考えていた。
「……あの繊細な叔父さんに、俺と結婚してくださいなんて言えるわけねえだろ……」
「そんなこと気にしないで言うだけ言ってみたら? サービス叔父様も、意外とまんざらでもないかもよ?」
「……いや、あの美貌の叔父様の御尊顔が連日傍近くにあったりしたら、俺の神経が持たない」
「じゃあ、キンちゃんにするの?」
「……キンタローねえ……」
 シンタローは、それぞれが季節の植物に結び付けられた恋文とは違う、いやに慇懃な雰囲気の立て文を手に取った。
 立て文とは、手紙を礼紙で縦に包んだもので、正式な文書という面がある一方、恋文であることを隠す場合などにも使われる。だが、キンタローがシンタローに恋文をこっそり送る必要はない──むしろこの状況では、その方がおかしい──わけで、キンタローの性格から察するに、正式な結婚の申し込みの手紙という考えからの立て文なのだろうが、この場合のそれは、かえってよそよそしい態度と思われかねなかった。──言うなれば、シンタローと結婚などしたくないのだが、世間体もあるし父親にも言われたので、とりあえず形だけ手紙を出してみる、というような。
 手紙の内容も、使っているのは恋文に使われる仮名ではなく真名で、これは公文書かと勘違いしそうな硬い文章が続く。これを仮に普通の女性に出すのだとしたら、十中八九、最初の手紙で断られるのがオチだ。
「……なあ、キンタローは、なにを考えてこの手紙を書いてんだろうな……?」
「ああ、キンちゃんはね、一族の義務とか責任とか背負い込んだ気になってんじゃないの? シンちゃんが本当は男だって知ったときと、それなのに女の子の成人式である裳着をするって聞かされたとき、すごくびっくりして落ち込んでたもん。大好きなシンちゃんが大変なことになってるから、自分がなんとかしなきゃ、って思っちゃったんじゃない。ルーザー叔父様もいろいろ発破かけてるみたいだしさ」
「……それはそれで気が重いな……」
 一族の者との婚姻が一番無難なのはわかっているのだが、どの相手も一長一短で決め手に欠ける。
「いっそのこと、ルーザー叔父様と結婚しちゃえば? そもそも言い出したのが叔父様なんだしさ。そうすれば、シンちゃんが受け継いだお父様の財産もルーザー叔父様のものになって、当主としての基盤も磐石になるだろうし、ちょうどいいんじゃない?」
「……そうすっと、俺がキンタローの義理の母親で、なおかつお前の義理の叔母になるんだぞ? オッサンや叔父さんと義理の姉弟ってことになるんだぞ!?」
 それでいいのかよ、とシンタローはグンマを睨む。
「……んん、僕や叔父様たちはともかく、キンちゃんは承知しないだろうね」
「そうだろう?……それよかむしろ、俺としてはお前と結婚するのが一番手っ取り早いんじゃないかと思ったりもするんだけどな──」
 思っても見なかった申し出に、グンマは驚いて目を見張った。
「ええ? 僕と!? だって僕たち、兄弟だよ?」
「だからかえって気安いんだよ。要するに、俺が男だって世間にばれなくて、親父の遺産も他所に渡らなけりゃいいんだろ? だったら親父の長男で、ずっと一緒に暮らしてたお前が一番の適任じゃないかよ。他の血縁の奴らとだと、遺産はともかく、どうしたって人の出入りが激しくなって、秘密を守るのも難しくなりそうだし──それにお前なら、ルーザー叔父さんの信用もなぜかあるし、一応後見人の高松もいるしな」
 いざとなれば、気心の知れた使用人も含め、大きな力になるだろうと言うシンタローに、グンマは難しい顔で考え込んだ。
「……でも、兄弟──世間的には兄妹か──ってのを、どう言い訳するのさ?」
「そこをなんとか……実は養女で、とかさ」
 どうせお芝居なんだから、なんとかならないかな、と言うシンタローに、グンマは首を傾げる。
「んん……そりゃあ、『実は男でした』ってのよりは衝撃は少ないかもしれないけどさ」
「そうだろ?」
「でも、シンちゃんが世間的に女だって思われてるってことは、変わらないんだよ? 僕は、結局のところ、そこが一番の問題じゃないかと思うんだ。自分勝手なお父様が生きてたころならともかく……こんなこと、いつまでも隠しておけるものじゃないって。一時的に隠せはしても、この先、絶対に綻びができるよ。だから早めになんとかして、シンちゃんが男として、堂々と皆の前に出て、暮らせるようにした方がいいって思うんだ」
「……」
「それに、養女ってことになると、血筋とか、遺産相続とか、どうなるのかなあ……。それに今更、そんな余計に事態をややこしくするようなこと、ルーザー叔父様が許すと思う? とりあえず世間体第一で、シンちゃんに裳着までさせて、一族の者と結婚させるって決めちゃったのに?」
「……ああ、もう、面倒くせえなあ!」
 グンマの反論に、シンタローは苛立ったように髪をかき回した。
「……いっそのこと、俺が本当に女だったら良かったのにな」
 本当の女だったなら、こんな一族の厄介者ではなく、もっといろいろ役に立つことができたのに、とシンタローはつぶやく。
「……そう言えばさ、シンちゃん」
「ん?」
「シンちゃんって、どうして女の子として育てられたちゃったわけ?」
「……あれ、お前、知らないんだっけ?」
「知らないよ。そんなの全然、聞かされてないもん。シンちゃんが男の子だって初めて知ったのだって、お父様が亡くなったときだよ?」
 そもそもの原因を確かめずにいたと言うグンマに、シンタローは唖然とする。
「……その割には、お前、当たり前みたいに受け入れたよな。キンタローなんて、驚きすぎてしばらく音信不通になったのに」
 シンタローが感心したように言うと、グンマは首を傾げた。
「だって、シンちゃん、裳着したの遅かったからね……だから、あんまり『女の人』っていう認識がなかったっていうか……。その裳着だって、男だってわかった後にしたわけだし」
 この時代、高貴な女性は人前に姿を現すことは決してない。例え兄弟でも、話をするときには間に几帳を立てたり、場合によっては女房に取り次がせたりする。女性の姿を見られる者は、異性では、親や夫、恋人に限られるのだ。
 だが、それはあくまで成人した男女に関してのことで、子供にはその禁忌はない。その区別は男ならば元服、女ならば裳着と呼ばれる成人式にある。言うなれば、その成人式を終えていないのなら、いくつになろうが子供のままということで、だれに顔を見られようがかまわない、という理屈が成り立つ。
「これが、もしお父様が存命中で、僕がなにも知らないうちにシンちゃんが裳着をしてさ、昨日まで気軽に顔を見せていたのが急に見られなくなったりしたら、シンちゃんを『女の人になっちゃったんだ』って意識したかもしれないけど。でも実際はそんなことにはならなかったし、裳着を終えた今だって、『どうせ男同士なんだから』って平気で顔突き合わせているわけでしょ? ティラミスとチョコレートロマンスも『どうせ兄弟なんだから』って全然気にしないし。……だから僕としては、そんなに前と変わったことがあるような気がしなくて……」
「……そんなもんなのかな」
「でもまあ、僕の場合、シンちゃんと一緒に暮らしてるからね。キンちゃんとは話が違うよ。キンちゃんはずっと、シンちゃんのことが好きだったんだから」
「……キンタローの趣味も悪いけどよ、奴には本当、可哀想なことしちまったよな……」
 いくら女の子として育てられたからと言って、シンタローの中身までがそのように成長したわけではない。むしろ女の子らしからぬがさつな乱暴者で、事情を知らなかった叔父たちに、グンマと中身が入れ代わって生まれれば良かったのにと言わせたくらいだ。
 シンタローにしてみれば、そんな女に惚れるなよ、と言いたいところなのだが、事実を知ったときのキンタローの落ち込みようを見てしまえば、そんなことを軽々しく口にするわけにもいかない。
「……それで、結局、シンちゃんはなんで女の子でいることになったわけ?」
 昔を思い出して遠い眼をするシンタローを、グンマが引き戻した。
「あ、ああ……その話だったな。……グンマ、お前、俺の母親がすげえ迷信深い人だったってこと、知ってるだろ?」
 シンタローの言葉に、グンマは頷く。シンタローの母親は二人が物心つくころにはすでに亡くなっていたが、その奇矯な人となりは数々の昔話からなんとなく聞き知っていた。
「その母さんがさ、俺を産んだとき、お告げがあったって言うんだ」
「お告げ?」
 突拍子もない言葉にグンマが驚くと、シンタローも決まり悪そうな顔をした。
「ああ。……なんか胡散臭い感じがするんだけど……とにかくそうだったらしい。俺を女の子として育てなくてはいけないって」
「……ふうん……それで?」
「親父は、最初は信じなかったって言うんだ。どっちかって言うと、そういうの嫌いな方だし」
「うん、そうだね」
「だから、母さんの言うことを無視して普通に育てようとしたらしいんだけど──そのことで、母さんとずいぶん口論になったりもしたらしいんだけど、聞かないでいたら、そのうち母さんが産後の肥立ちが悪くて死んじゃって」
「……」
「親父は、そのことがよっぽど堪えたとかで……。こんなことになるんだったら、母さんの最後の望みくらい、叶えてやればよかったって思って──もしかしてそのお告げのことを無視したから、母さんが死んだんじゃないかとまで思いつめたらしくて。それで──」
「それでシンちゃんのことを、改めて女の子として育てることにしたってわけ?」
「そう、らしい」
「……」
「……」
「……シンちゃんには悪いけどさ、この話にはなんだかすごく、裏があるような気がするんだけど」
「……やっぱり……? 実は、俺もそう思う」
 二人は顔を見合わせて渋い表情をした。
「あの計算高いお父様がだよ? そんな絵物語みたいなこと、すると思う? 絶対なんか戦略立ててたに違いないよ」
「だよな。むしろ、母さんの迷信深さを、かえって利用してそうだよな。母さんの異常な物狂いの半分──いや、三分の二くらいは、親父が捏造して都合のいいように使ったものなんじゃねえの」
 もはや故人となった実の親に対し、見も蓋もないことを二人は言う。極端な話、没落貴族の姫と大臣家の子息の恋という、当時有名だった両親の御伽噺のようななれそめに対してすら、身寄りも後ろ盾もない女を妻にして他家の余計な干渉を避けるためだろう、とか、相手の女に恩を着せ、文句を言わせないようにするためだろう、とすら思っていた。
「僕が思うにさ、お父様は、一族に姫がいないことを気にしてたんじゃないかな」
 この時代の権力とは、娘を天皇に嫁がせて皇子を産ませることにある。だが、グンマやシンタローが生まれた当時、天皇家には直系の男子がおらず、女帝による一代限りの皇位継承が続いていた。
「天皇家は男系だから、いくら青の一族が男子に恵まれていて、女帝と結婚できても、その権力は次に続かない。女帝がお隠れになったり、代替わりしちゃえばそこで終わり。それに、女帝擁立は一時的なもので、いつまでも続くわけがない。──でも、一族には天皇に嫁がせるための姫がいない」
「……それで、賭けにでたって?」
「そう。……ええと、ちょっと待って……そのときのことを整理してみると……。シンちゃんが産まれたとき、帝は女性で、青の一族の男性がその伴侶だった」
「そして、天皇家には当分、男子が産まれそうな様子はなかった」
「お父様は、先のことを考えて、今度産まれてくる子──シンちゃんが、女の子であればそれでよし、よしんば男の子でも、女の子として育ててみるべきかどうか、検討し始める。でも、この無茶な計画を実行するにあたり、さすがのお父様にもかなりの躊躇いがあった」
「……その決心がつかないうちに、俺が産まれ、母さんが死ぬ」
「そのときにお父様は決めたのかもしれない。青の一族には女は滅多に産まれない。天皇家にも今は男子の産まれる気配はない。そしてシンちゃんはまだ産まれたばかりで、その性別を知る者はごく限られた者だけだ」
「……それが、どうして俺を女として育てようということになる?」
 シンタローの言葉に、グンマは奇妙に悟り済ましたような微笑を浮かべた。
「……結果的には、お父様は賭けに勝った、というべきだろうね……お父様が死んで、全ては無駄になってしまったけど」
「……親父が生きてたら、俺はやがてパプワのとこに入内することになったろうって?」
「そう」
 グンマが頷くと、シンタローは不快そうに眉をひそめた。
「……年齢差を考えてみろよ。パプワが元服するころ、俺はどう少なく見積もっても三十にはなってる。それでもか?」
「その年齢差こそが、重要なんじゃないかと僕は思うんだ。パプワくんは赤の一族の血を引いているから、権力を保持し続けるためには、青の一族はどうしても姫を入内させなければならない。シンちゃんは実際は男で、本当ならとうてい入内なんかできっこないんだけど、一方のパプワくんは子供で、入内したからってすぐに男女の関係になるわけじゃない。シンちゃんは入内するんなら女御として遇されるから、人前に姿を現すこともない。それなら信用できる女房さえきっちりそろえておけば、事実は絶対にばれない」
「……最初のうちはそれで誤魔化しても、パプワが大人になったら、どうするんだ?」
「そのときには、シンちゃんの年齢がものを言うんだよ。『もう齢だから、添い伏しはできません』って」
「……それで上手くいくと思うか……?」
「お父様なら平気で口出しもするだろうからね。無理やりにでも思い通りにしただろうね。……もっとも、パプワくんを見てると、さすがのお父様でも難しかったかもなっては、思うけど」
「……その計画が実行に移されなくて、本当に良かったと思うぜ」
 もしものことを想像してか、げんなりとしてシンタローは言った。
 近い将来、元服と同時に即位することになるだろうパプワは、今はまだ袴着を終えたばかりの子供ではあるが、すでにしてその非凡の才の片鱗を見せ、周囲を驚かせているという。
「……でも、惜しいのは惜しいんだよな。パプワの次はコタローが帝位に就くんだろ? 俺が入内できたんなら、それまでの橋渡しにもなったのに」
「それはもう、言ってもしょうがないね……ルーザー叔父様にはたぶん、そんな度胸はないよ」
「あの人、頭はいいんだけどなあ」
「お父様の死も、突然のことだったからね。今は一族を取りまとめるので、一杯一杯なんじゃないの。だからシンちゃんのことも、一族内でこっそり片付けちゃうことに決めたんじゃないかと思う。叔父様らしからぬ胆略的な考えだったよね。上手くすれば、赤の一族との均衡を保つのに使えたのにさ」
「……グンマ……お前って」
「赤の一族で、シンちゃんに言い寄ってるやつ、いたよね。ナントカっての。あいつ馬鹿っぽいから、上手く言いくるめてシンちゃんと結婚させちゃえばさ、赤の一族との伝手もできて、いろいろ便利だったのに。ねえ?」
「……俺は時々、お前が一番当主に向いてるんじゃないかと思うときがあるよ……」
 親父そっくり、とシンタローが呟くと、いやだなあ、とグンマは顔をしかめる。
「僕は権力なんてものに興味はないよ。あんなののどこが面白いのか、ちっともわからないもの」
「……いいよ、お前は別に、そのままで……。好きな学問でもやっててくれよ。その方が平和だから」
 シンタローが投げやりに言うと、その意味を理解しているのかいないのか、グンマは柔らかく微笑んだ。
「そうだね。早くいろんなことが落ち着いて、前みたいに皆でのんびりすごせるようになるといいのにね」
 お父様がいなくなってからこっち、つまらない人付き合いばかりが増えて、すごく面倒なんだ、とぼやくグンマには、栄華の頂点にある一族の面影は、ほとんどない。
 自分たち兄弟は、結局父親のようには、父親の望んだようにはなれなかったな、とシンタローは思う。二人を溺愛していたマジックが、そのところを実際にどう思っていたのかは、もはや知りようがないのだけれども。
 とはいえ、一族のこれ以上の繁栄は望まずとも、その凋落を招きたくないのは二人とも同じだった。叔父たちや従兄弟が悩み苦しむ姿など見たくもないし、それ以上に何百人といる使用人たちを路頭に迷わせるわけにはいかない。
 だが、それを防ぐ手立てがあるのだろうか、と思うと、シンタローは押し黙るしかなかった。ルーザーのするように、自分が一族の誰かと結婚して済む問題ではない分、不安は余計に募る。
 いつの間にか、世間話や中断している学問の話をし始めているグンマに適当に相槌を打ちながら、先の見えぬ現状に対し、シンタローはこっそりとため息をついた。


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