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ah
平凡な日常ほどありがたいものはない。
ない、が、≪ここ≫ではそうはいかない。
≪ここ≫での平凡は外の領域からみればまた特殊で。
いくら殺し屋集団の看板を取り払ったとはいえ、
≪ここ≫―――『新生ガンマ団』とは、平凡な日常というものはまずあり得ない。



チュド―――――――ンッ



・・・今日も今日とて在るべからざる場所から放たれる青の一族の秘技が鋼鉄な本部を揺るがし大勢の団員をざわめかせ、
一部の幹部を嘆かせる。






領域・~テリトリー(前編)





在るべからざる場所―――そこはガンマ団総帥の部屋。
豪華な―――しかし現総帥が今の地位に就任する前に全体に模様替えをした為、
決して嫌味ではない装飾が施されている。
そこに佇む二人の男。
二人は全くと言っていい程似ても似つかない容貌である。
一人は長い黒髪を、以前よりは日焼けの落ちた小麦肌に滑らせた男。
歳は・・・20前後に見えるだろうか。実年齢はもう三十路を控えているのだが、
マリアナ海溝よりも深すぎる事情により外見年齢はまだ青年になったばかりというところ。
意志の強さを物語る瞳は髪色同じく黒曜石。
【G】というロゴ入りの真っ赤なスーツは前総帥から(無理矢理に)受け継がらせたもので、
それからこの男が現総帥のシンタロ―である事が伺える。
趣味の悪いと言われた新着した同デザインの総帥服だが、想像するのとは大違いに彼とマッチしている。
黒髪と相性が良いのかもしれない。
もう一人の男はシンタロ―が黒い髪・瞳に対して見事なまでの金髪に蒼瞳を持ち、
さらさらと流れるような絹を連想出来るシンタロ―の髪とは打って変わり、かなり硬質である。
服装は特に派手でもなければ地味でもない。
ただ紫を基調にしている為か、どこか攻撃的な印象を全体に与える。
銜え煙草が猛禽類のような攻撃性を助長してもいた。器用に灰は床に落ちる事はないのが不思議だ。
特に目立つのが金髪に対して、何故か自生した黒眉でそこから獅子舞又はナマハゲ―――もとい、
前ガンマ団総帥の二番目の弟であり、特選部部隊隊長のハーレムだと知れる。
両者ともその整った顔立ちによりかなり目立つ。
男女問わず、一度見たらそうそう忘れられるものではないだろう。
佇んでいると言うよりは睨み合っている―――しかも互いに戦闘準備万端と言った風であり、
実際もう互いに一族の秘技を繰り出し合うと言う真に穏やかではない事をし合っている。

「ったく。何でこんな事ばっかりすんだよアンタはッ!」
「相手が弱過ぎんだよ。とっととケリつけた方が効率いいだろうが。こちとら忙しいしな」
「どこが忙しいってんだよ!いっつもいっつも競馬と酒に溺れやがるヘビースモーカー親父ッ!!
もうガンマ団は殺し屋じゃねーって何度言わせればいいんだアンタはッ!!!」

ガンマ団が暗黒面で名を馳せていた血生臭い歴史は長い。
それだけに不殺だと公言してもなかなかに殺し屋のイメージは世間から拭う事は難しく、
試行錯誤悪戦苦闘の毎日に丈夫だと自負している胃もキリキリと痛む―――と言うのにこの叔父は、
まるで自分の足を引っ張る所業ばかりで向ける怒りも並ではない。
額に青筋をデカデカと浮かべてシンタローが人差指をびしっと向け指すと、
口元は相変わらず笑みを残しているハーレムの蒼瞳が変わる。
気付いた変化に身体が凍り付いていくような感覚。


自分は何か特別な事をしたのか?
交わされる言葉の内容はハーレムがこうして大きな問題を抱えてくる度に激しい衝突を引き起こす、
終局の見えぬ平行線。
だからこそ脱力する程の今の会話にいつもは感じられない反応を見せた叔父の心情は分からない。
分からないが―――・・・
何か、あるのだ。
目の前の男の気に触れた言の葉が。


「もう殺しはしない?―――はっ!見せかけだけの奇麗事だな」
「んだと・・・っ」
「お前だってしてるだろ。
この前893国にどデカイ眼魔砲をぶちかましてくださったのはどこのどいつだァ?」
「あれは半殺しで済んでる!誰も殺してはいねぇよ!!」
「似たようなもんだろうが」
「違うッ!生きてるか死んでるかの違いが出てくるんだぞっ!!」

それだけで大きな違いだと口にする、若き新総帥の何と幼い事か。いっそ憐れだなとも思ってしまう。
世間を知らな過ぎる器だけ大きい、けれどただそれだけの総帥。

「死ななければいい。そりゃあ違うんじゃねーの?」

胸の中に溝が出来る。
それはさらに範囲を広げ、その内部に侵入するのはマグマのような純粋な―――単純な怒り。
せき止める法をシンタロ―は知らず、今日もまたこの言葉で二人の言い争いは終結を迎える。
それはあまりにも単純であっけなく面白みもない。

「出てけ――――ッッ!!!」





あれからどれくらい経ったのだろう。
ハーレムが憎たらしいまでの笑みを浮かべて立ち去った後、シンタロ―はすぐさま今日のノルマに取り掛かろうと、
叔父との喧騒の残り火を押しのけながらもパソコンでの作業へと頭を切り替える。
が。
イライライライラ・・・。

「あ~~~!!!ムカツクゥ―――――――ッッ!!!」

シンタロ―総帥、ハーレムと別れてからこれで数十回目の叫び。
PCを立ち上げてもエラーを出し捲くるわ折角打ち込んだ文章もデリートさせてしまったりでちっとも進まないではないか。
とにかく苛々して仕様がない。頭をガシガシと乱雑に掻き回して背凭れに体重を乗せる。
ぎしっ・・・と鳴る音が妙に虚しい。そして腹ただしい。
考えるのも嫌なのだが無視ることも出来ないトラブルメーカーな叔父の事。
もう彼との衝突は日常茶飯事に達している。
今回のように任務先で目に余る事をしでかしたとのものだけでなく、プライベートな時でも、だ。
出会えば何故か二人の間に衝突が起きる。殆どハーレムから仕掛けるのだが。
シンタローがその挑発にのってしまい勃発し、先程の状況になるその繰り返し。
最後に残るのはどうしようもない、あの男に対する消化出来ない怒り。
けれど今シンタローが感じているのは、様々な身勝手言い分ばかり述べる彼に対してだけの怒りではない。
男の言葉がリフレインする。


―――見せかけだけの奇麗事だな―――――死ななければいい。そりゃあ違うんじゃねーの?――・・・


分かっている。出来るだけ相手を傷付けずに済めば良いのだと常に願っている。
いるが・・・。
その事を忘れてしまう時が確かにあるのだ。
こうして我を忘れかけるくらい感情が高ぶると、願っていない言葉もついっと出てきてしまう。
感情に流されるのは総帥として汚点他ないだろう。
願ってはいない・・・・・・けれど心の奥底、“思って”はいる。
命を奪わないで済めば相手を傷付ける事を大目にみてしまう自分がいる。
そんな愚かな事があろうか。
平和を望むなら穏やかに事を進めなければならない―――けれど、
それに目を閉じて耳を塞いで・・・行われる己の手で、指示で行われる破壊。
平和が訪れるのは事実だ。
それでも破壊の元に行われたそれは、真の平和と言えるものではない。
その事実を一番の破壊衝動者に突きつけられる。
普通の者なら気にもせず聞き流すそれを、あの男は掘り返す。
忘れるなと囁くように・・・。
それが優しさからくるものだったら、まだ素直に聞けよう。
けれど彼の場合は―――明らかに自分に対しての挑発行為からだ。
感じる、彼が自分に向けている感情に。それは殺意なのだろう。
あれほど激しいものを感じない筈がない。
男も隠す気がないのか。全てをシンタローにぶつけてくる。
その元で真実を知らしめる。奇麗事を並べて言葉と矛盾している真実の自分を。
・・・・・・・一番胸を占めているのは自分に対する怒り。
忘れていた事に対しての。
忘れようとしている自分に対しての。
意識してではないけれど結局はそうなのだから言い訳するのはあまりに惨めで無意味。
所詮口先だけのキレイゴト。

「第ッ一!!アイツは何かにつけて俺に突っかかってくるんだ!」

けれど、その全ての感情を叔父に全面向ける事でそんな自分と思考を避ける。
それが卑怯な事だと内心理解していながら、認められずに足もがく。
あまりに怒りが今は何よりも勝っている為か、言葉を掛けられるまで戸口の気配に気付かなかった。

「ご機嫌斜めなトコ、すみまへんけど・・・」

遠慮深く様子を伺うように入ってくるアラシヤマの片手には大きな封筒。

「―――っ」

消して気配を消していた訳でもないのに気付けなかった。そんな自分に更に苛立つ。
積み重なる怒り憤怒、交じり合うマーブリング迷彩色の思考。
気付けなかったのだと決して悟られてはならない。
多くの人の上に立つとはそういう者。
常に冷静な判断と威厳を保ち尊敬を浴び、人を動かせるよう勤めなければならないのだ。
自分の父がそうであったように。

「んだよ」

けれど保とうと勤める冷静さをこの男の前では欠いてしまうのは、
身近な存在として無意識な認識をしているからか。
不機嫌さを隠さずに―――隠せるものなら実際は隠したいのだが―――夜中の訪問者を苛立ちの眼光で見据える。

「苛立ってますなぁ」
「るっせーよ」

相手にも分かるあからさま溜息をつかれ、更に苛々が増してしまう。
きっと自分の心臓はグツグツと煮立っているんだろうと冷静な部分が残っている自分がいれば、
そう客観視するかもしれない。
アラシヤマがここに来たのはハーレムとシンタローの騒動を聞きつけてきた野次馬心からでなく、
先日赴いた地区での報告書を渡しにきた事は右手に納められている茶封筒から知れる。
用件はそれだけであろう。それを置いて早く立ち去れと、に言葉を鋭く乗せてやる。
しかしその程度の嫌悪態度をとられたくらいでこの男が立ち去る事はない。
それは冷たくあしらわれる事に慣れているからか、
それとも師匠の弟子いびり(・・・。)から培われた打たれ強さか。
・・・・・・どちらかを取らねければならないとすれば、後者の方がマシな気がする。

「またハーレム様どすか?」
「関係ねーだろ。テメエには」

否定しないところからして答えになっていないようだが100%肯定であるようだ。
無視を決め込もうとするがなかなか立ち去らない男に苛々し、発する言葉がつい冷たいものとなる。
普段は冷たくないのかと問われれば返答に苦しいものはあるが。

「気が散る。帰れ」

彼の深いところまでの心情を読み取り、眉を顰める。

―――これは・・・相当ご機嫌斜めみたいどすな。

いつもより、という意味で。
普段ならばもっと遠まわしな言い方で立ち去るよう言う。
例えば明日も早いのだろうから早く休息を取らないと業務に響くぞ、とか。
帰れと言われても、このような状態の彼を放っておけない。
彼でなければアラシヤマも関心を持たずに立ち去ろうが、
相手がシンタローであるならばどうにかしてやりたいと保護欲のようなものが湧く。
その原因は、やはり―――

「シンタローはんの立場―――心情を他の親しい誰かが抱いています時、
あんさんはそれを黙って見捨てる事が出来ますの?」

自分は出来ない。
親しい者は少ないが、この男とは浅い仲ではないのだと自負している。
何より自分はこの男に心底惚れ抜いているのだから余計に―――。
くるりと身体ごとアラシヤマに向けるシンタローの表情は冷たい。微かに浮かべているその笑みも。
姿勢悪く右肘を立て顔を乗せる。僅かに顔を傾けた事で、さらりと長く伸ばされた黒髪が揺れた。

「俺とお前が親しいって言うのか?」
「違います?」
「大違いだ」

即答。
けれど、知っている。気付いている。言葉とは裏の彼の本心を。それは思い上がりじゃない。
いつも自分には冷たい素振りばかり見せる彼だけれど、隠されたココロを自分は知っている。
隠そうとしても隠し切れない無駄な足掻きをどうして彼は手放さないのかも知っている。
自分をそう簡単に誤魔化せないしさせはしないのに。


―――声が聞こえますよって。


以前、誰かに自分はこう言った。
確かまだ彼の父親が総帥だった頃、まだ現総帥が一団員でしかなく、まだあの島の温もりを知る前の頃。
もう顔も声すら覚えていない一団員の男がシンタローに対して言ったのだ。
そう、その時。
何時ものように冷たくあしらわれたアラシヤマに同情しての発言。
友達はいない彼だが、彼を慕う者は皆無ではなかった。
その中の一人の男がシンタローが去った後に悔しげに漏らした。


「シンタローさんは冷たい人ですよね」
「なしてそう思いますの?」
「えっ・・・だって・・・」


彼が自分に冷たい態度を取り続けるから?


「声が聞こえますよって」
「声?」
「悲しい声どすなぁ・・・。ああ、あんさんは泣いとるんですか?」
「アラシヤマ様・・・?」


その言葉はもはや男に対してではなく、別の強情な誰かに向けて。
声が聞こえた。
それは幻聴などではなく、真実(ほんとう)の彼自身。
それを彼に言おうならば間違いなく否定され、同時に眼魔砲の一発でも撃たれるのであろうが。
だからこれは自分だけが抱くもの。
そしてシンタロー自身が気付かなければ、頑固な彼は認めないのだろう事。
彼の内面考察は今は切り離そう。それより今聞いておきたい事がある。
自分が親しいものではないと言うならば、あの男はどうなのだろう。
今、シンタローの思考の大部分を奪っている彼の事は。
彼に寄せるシンタローの想いが敬愛や親しみではない事を知っている。
二人の間に何事もなければ、
無意識博愛者であるシンタローが相手に対して負の感情を抱きはしないのだろうけれど。
憎しみの感情にすら嫉妬を感じる自分はどこまで欲深いのであろうか。

「ハーレム様より、わてはあんさんとの距離があるます言うんですか?」
「・・・何故にそこでその名前が出てくるんだ」

何故?
それは。
嫉妬という一感情。
下らないプライドがそれを相手に伝えようとはしない。
伝えなければ当然伝わらない。
これがもっと心の芯からの深い間柄ならば伝わるのかもしれない。
けれども自分達はそこまで深くはないのだと
、親しい者とは自負していても悲しきかな、否定は出来ない認識。
ただそれは年月の問題ではない。
無論年月は親近感に大きく作用するが。
最低ラインでもあの島の小さな王者ほどに、彼の心に近付かなければ。

―――えらい高いハードルですなぁ。

一年半以上。二年は経過したであろうか。
自分がシンタローを知った14から約十年。
嫌悪感と認めたくはなかった激しい憧れを抱いて、彼の傍に居た。
それに比べればずっと短い2年にも満たない歳月で、彼の親族よりも何よりも、
きっと心を砕いた最愛の弟よりも、南国の幼い王者は何の策略もなしに彼にとって最も心傾けられる存在になった。
そしてその王者もまた。そこまで思考を巡らせてはた、と気付く。
最初は彼の叔父に対して沸きあがらせられていた嫉妬心が、
いつのまにか別の人物に向けていた事に驚いた。
当初のものと随分掛け離れてしまっていた事に、しかし笑う事は出来ない。
それだけ彼は多くのものに愛され、そして彼もまた多くのものを愛する。
今、彼の怒りをかっているハーレムにも、もしかしたら・・・・・・いや、きっと・・・

「アラシヤマ?」

訝しげに自分の中に突然閉じこもってしまった青年を見やる。
いつも自分の殻に閉じ篭ってしまう事は彼には珍しい行動ではないが、それがいつもとどこかが違う。
それは―――そう、直感。確かに働く第六感。
それ程先程の問いには答え難いものであったのか。
ただ単に一例としてハーレムの名を持ってきただけなのか。
何もこんな時にその名を挙げる事もないだろとは思う。
思うが。
ともかく・・・

「アラシヤマッッ!!」
「・・・えっ!?・・・あ、な、何ですのん!!?」
「~~~~~ッ・・・。・・・・・・あのなぁ・・・何だ?はこっちの台詞だ」

質問に答えず自分の殻に閉じ篭る男の思考に割り込むように名を叫び呼ぶ。
返ってきたのが素っ頓狂な返事だった為か大きな脱力感が襲ってくるのは仕方がないのか。
段々に怒りより呆れの方が強くなった気がしないでもない。
つい漏れてしまう溜息。
相手に聞こえるか聞こえないかの小さなものだったが、
しっかりと相手には聞こえたらしく困惑の表情を見せた彼。
相手の機嫌を更に悪くさせたのだろうかと思ったからだろう。
実際は、ただ、

「もういいや。こうしてるのが何か阿保らし」

話が食い違い繋がらず更に複雑化していく彼との会話は意味不明で生産性がないのだと、
手をひらひらさせて特別意識してではないだろうけれど思いを表し、その視線は宙を仰ぐ。
ちらり、とディスクに詰まれた書類に目を配る。
自分にはまだまだ山のような仕事がある。
それの為の時間を、
例えるなら最初から繋がりもしないバラバラのジグソーピース問答の為に随分と費やしてしまった。
はっきり言えばこれ以上の無駄な時間を打ち切ろうとの意味が、言葉の中には込められている。
それをアラシヤマも気付いているのだろう。何も言わないけれど、きっとそうだと妙な確信がある。
先程から彼には冷たい又は素っ気無い言葉ばかり投げてしまっている。
アラシヤマが嫌いな訳ではない。
普段は「嫌いだ」「うっとおしい」等言ってしまうが。
そしてそれは嘘でもないけれど、真実でもない。
冷たくしてしまうのは癖みたいなもの。
不器用な一種のコミュニケーション。
それは先程も提示したが嫌いだからではなく、
不思議と親族を抜かせばこの団内では気軽に接する事が出来るから。
彼が何か自分に訴えようとしているのは何となく分かる。
根拠もないもないただの感だけれど、きっとそれはお互いにとって、大切な事。
けれど対話する程の時間の余裕がこちらにはないのだ。
そして相手も高幹部の地位。それは総帥ではない自分程でないにしても多忙を余儀なくされる身。
不器用ながらシンタローなりに気を使ったつもりなのだ。
隠された本当の思いが伝わるか伝わらないかは相手の受け取り方次第。
互いの親密の度合が深ければ深い程正しく思いを汲む事が出来る。
確かに二人はあの島で故意ではなくとも隠されていた心をお互いに見せ合えた。
全てではなく、多少歪んだものだったけれど。
確かに。
それでも。
まだ足りなかった。

―――阿保らしい事・・・?

アラシヤマの表情がおどおどしていたものから一変し、シンタローの発した言葉を心中にて反復する。
自分の想いが?
他の誰かとの彼との関わり一つ一つに対する嫌悪感が?
その全てが陳腐なものだと?
決してシンタローはそこまで思って言っているのではなかった。
けれど最初にすれ違ってしまった二人は思いが混じる事はなく、平行線を辿るでもなくすれ違い、
時間をかけず大きな亀裂を作る。
陳腐なもの。
違う。いつだって自分は真剣なのだ。
彼に関しては全て。
想いは感情的な叫びとなり、止め処もなく溢れ出す。

「阿保ちゃいます!真剣なんどすえ!?」

いきなり常ならぬ怒鳴るアラシヤマに酷く驚き、目を丸くして一変した彼を見る。
言葉にしなければ伝わらない想い。
伝えなければならない想い。
越えなければならない境界線(テリトリー)。
大きく息を吐き出し、キッと相手を見据えた。顔面だけでなく身体中が火だって熱い。

「わては・・・わては、シンタローはんの事が・・・・・・」
「俺の事?」

まだ驚きながらも確信に迫るだろう言葉を待つのはシンタロー。
伝わって欲しくて反比例して言い出せなかった想いを言の葉に乗せるのはアラシヤマ。

「~~~好・・・きなんどすッッ!!」

言い終ったが同時に、
重労働後のようにどっと疲れが噴出してその場に崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。
やっとの思いで吐き出した、心の小箱に大事に大事に秘めていた切望色の想い。
すっきりしたと思えたのは一瞬で、今度は一気に顔が朱に染まりまた青くもなる。
長い間伝えれずにいた想いを遂に告白してしまったとの純粋な羞恥心と、
告白に対する相手の返答に期待と不安が交差する。

―――つ、・・・遂に言うてもうたっ!

整った容貌からか、一人で居る事が多いからか、はたまたガンマ団No.2という肩書きからか、
仲の浅い者(主に部下)から見ればアラシヤマはクールな上司。
やや大げさに言えば孤高の御方と憧れ的な眼差しで見られている。
特に新幹部や士官学校生などからは決して少なくなく尊敬を受けており、(※悲しきかな、当の本人はそれを知らず)
又、親しき同僚その他から見れば執念深い根暗男と見られがちなこの青年も、
クールで孤高なお方と見られようが根暗と言われようが根っこは極めて純情。
恋愛関連に関しては友愛以上に小心であるが故、
この告白が如何に勇気を振り絞ったものだったのかは想像に難くない。
体内で煩いほど響き渡る心臓が運んでくる血流が面中心に集まる。
今直ぐにでもここから逃げ出したい衝動を押し留めながら返答をただ黙して待つ。


待って。



待って。



待って。




―――アレ?

返答なし。
更に待っても同じ事。
何故。
突然の告白に彼は戸惑ってしまったのだろうか。
無言相手に不安が更に募り、恐る恐る彼と下げていた視線を合わせた。

「シンタローはん・・・あの・・・」
「あ?」

その声色は快・不快のどちらも伺えぬもので、
決死の告白を受けた者の反応とはあっさりとし過ぎている。戸惑いの様子はまるでない。

「わて、今言うたでっしゃろ・・・。あんさんの事が・・・っ!」
「言ったな。好きって」

あまりにもけろりとした返答にはて?と疑が過ぎる。
何かが擦れ違うような―――冷風が塀の亀裂に吹き抜けるような―――何か―――。

「せやさかい、お、お返事頂きたい・・・・んどす・・・けど」
「返事?いっつも言ってるだろ」

疑が確信へと近づく。それはもしや。

「いっつも好きだの親友だの言ってるじゃねーか」

見事に嬉しくないビンゴ。
確かに普段の彼も直に『好き』とは言ってはいないが、同等な言葉を彼に投げ掛けるのは日常茶飯事だ。
だからシンタローはアラシヤマの『好き』を友愛だと判断した。

―――果たしてそうでっしゃろか。

心の亀裂が更に開く感覚。
それを抉じ開けるのは自分。
キッカケは彼。
気付きたくない。


―――知らない方が良い事だってあるのよ―――


幼い頃にそう、自分に何故か哀しそうに告げたのは誰だったのだろう。
その時頭を撫でてくれた人の顔は今ではもうぼやけてしまったけれど、口元に浮かんだ笑みは忘れない。
笑っているのに、今にも泣きそうだった。その言葉が今となってリフレインする。
気付いてしまうのは自分。
その原因なるのはシンタロー。
今までの『好き』は嘘じゃない。
けれど今まで発してきた『好き』は今抱えている恋心が生んだ『好き』とは種が全く違う。
シンタローが判断したであろう友愛の『好き』。
それは今までの『好き』。
伝えたい『好き』は違う『好き』。
踏み出そうともがく想い。
更に踏み込む彼との彼が作った境界線。
踏み出すのは怖い。
けれど。

「ならこう言えば分かります?―――・・・愛してます、シンタローはん」

踏み出さなければ、きっと何も変わらない。

「・・・・・・」

無言でこちらを見つめる彼の面は先程の告白を受けた後とは明らかに違う。
伝わった筈だ。確実に。
不思議と二度目の告白に気恥ずかしさをそれ程感じなかった。
二度目だから、ではなく、まるで愛の告白をしたと言うよりこれは説得に近いと何故か思った。
それが、無性に悲しいのは何故―――?
無言無表情でアラシヤマの視線を受け止めていたシンタローは、
硬くも感じられた面を溜息と共に切り替えた。
まるで聞き分けのない子どもに向ける顔。それそのものだった。

「なあ・・・、好きも愛してると同じじゃん。『好き』がすっげー『好き』になっただけでさ」
「シンタローはん・・・」

搾り出すように出た相手の名を呼ぶ声は、泣きそうで。
どうして哀の想いが押し寄せてくるのか、もう知っている。
何度目かの震えが両の拳に走った。

「お前、書類提出しにきただけだろ?もういい加減帰れ。
こっちだって日常会話を楽しむほどの時間の余裕はねーし」

これで打ち切りと言葉を遮断し、くるりとディスクワークに戻ろうとするシンタローの右腕を強く掴んで轢き留めたその手は、
意識するより早く。
アラシヤマの瞳に焦燥感は消えうせ、代わりに怒りに似た色が浮かんでいた。
けれどそれは決して怒りの感情ではなく。

「違いますッ!!」
「何が」

何が、違う?
今までの『好き』と今伝えた『愛している』の違いを彼は気付かないのだろうか。
そこまでシンタローという人物は人の感情に疎かっただろうか。
いや。

「本当は知っとります筈ですわ」
「知らない・・・」

伝わっている。
だからこんなにも彼は真っ直ぐなアラシヤマを見れない。


最初に『好き』だと言った時。その時は気付かなかったが、彼は一瞬だけ瞳を揺らめかせた。
けれど彼にはまだ平常心を保つだけの余裕があった。
直ぐに相手の言葉の意味に気付かぬ振りも出来た。
『愛している』と言われた時にも相手の本心を細かく探っていた。
その言葉は真実なのか否かを。
次に『愛している』と言われ、彼の瞳や声色・伝わる全てから想いの意味を知り、同時に驚愕を覚えた。
その今では言葉の震えを感じている。
彼はアラシヤマの想いに気付いている。
それは今ではもう確実。


一歩、アラシヤマはシンタローへと進む。
ほんの少しだけ、半歩もいかないがシンタローは後退する。
僅かに耳についた革靴と絨毯の擦れる音。
また、一歩近付くアラシヤマと同じく僅かに後ずさるシンタロー。
後退する事は気負いを意味してしまうが、頭では分かっていても体が動いてしまう。
出来るなら時間を掛けて事を進めれば良いのだ。
それは理想。
けれど彼はあまりにも頑固で素直でなくて自分では何も気付かないから。
ならば無理矢理にでも彼のテリトリーに入り込む。
一つ間違えてしまえば永遠に修復不可能となってもそれでも踏み込みならきっと今しかない。
チャンスは互いに何度も訪れてはくれないのだ。
互いの息が掛かるかかからないかの距離で、やっとシンタローが口を開く。
相手との距離をこれ以上進めない為に。

「何で近付くんだよ。帰れって言っただろうが」

弱々しい声。まるで何かに酷く怯えたような声。

「怖がる事は何にもあらしまへんのに」
「―――なっ」
「もう誤魔化しは効きまへんよ?わてはずっと無視出来る程にはお人好しではおまへんから」
「何を誤魔化すってんだよっ!それに怖がってなんかねえっっ!!」

ハーレムとの言葉の攻防の時のように声を荒げる彼にに臆する事はない。
むしろそんな彼を痛ましく感じる。

「どうして俺がテメエを怖がらなくちゃなんねーんだよ!!」

彼の領域を全て取り払おうとするかのように、アラシヤマは言葉を紡ぐ。
それは確実へと繋がっていく。

「強がらなくてもいいんでっせ?」
「違うって言って―――ッ!」

語尾はアラシヤマに抱き込まれた為、発する事なく霧散する。
抱く腕は強く。
自分の想いを塗り込めるように優しく。

「分かりますんや」

そっと瞳を閉じてシンタローの肩に顔を埋めると、
彼の愛用するシャンプーの匂いがふわりと微かに香った。
母が子に聞かせるような穏やかな声がシンタローを包もうとする。

「わても・・・おんなじどすから」

その一言にもゆっくりと時間が流れる。
その人の痛みは同じ痛みを持つ者にしか決して分かり合えない。
同じ痛みを知らない者の手厚い同情心は、かえって傷口を深く抉り出すのだ。

「アラシヤマ・・・?」

胸に埋めさせられた顔をゆっくりと上げて合わさったのは、驚きを表している黒曜石の瞳。
そうだろう。自分だって隠していた心中奥の奥の鎖で固く封じていた心。
友が欲しいと常日頃言う。
それは本心。
けれど。
更に奥に潜めていた一番の想いのカモフラージュでもあったのだ。
友愛が恋愛より劣る訳じゃないけれど、伝えるのはどちらが重いか。
受け止めるのはどちらが軽いか。






領域・~テリトリー(後編)





愛する事が怖いのだと、音なき泣き声が聞こえる。
愛するものを失う恐ろしさを自分は知っている。
また彼も。
ふと気が付けば、彼は沢山の多種愛を持っていた。
親愛・友愛・家族愛・敬愛・・・。
それを捨てる気はない。けれどこれ以上所有するのは辛い。
もう失いたくはない。失わない為に守る。

―――けど、それは常にギリギリだ。

込み上げてくる、泣きたくなるような衝動感情を抑えるようにアラシヤマに縋る。
この男の前で弱さを表す事は悔しいけど。
縋らずにはいられないのは、込み上げるものを抑える為か。
それとも彼と同じ想いから欲する衝動か。

―――いや、けどそれは・・・。

自分の彼に対する想いは、彼が自分を想う感情と同一のモノだろうか。
向き合う事でさえ怖いのに、それを直ぐに認識するのはきっと無理。

「急がなくてもいいんですわ」

心を読まれたかと思い、びくりと僅かに肩が震えた。
読心術なんて―――そんな筈はないのだけれど。

「わてはただちゃんと向きおうて欲しい思いましただけですわ」

少々急かしてしまった面は否めないけれどと笑う彼の顔に寄る眉間の皺が哀しく見えた。
直接的ではなく。
とても間接的に諭そうとするその姿勢は、やり方の大差はあれど、と同じだ。

―――誰と、同じ?

ちらり、と月色の影がアラシヤマ越しに脳裏に映る。
揺れる 揺れる 黄金の鬣。

―――眩しい。

顎をつい・・・っと上げ、空ろな瞳をどこからか漏れているらしい微風に揺れる黒に映す。
さらりとそれを撫で上げてみれば相手の身体がおかしなくらいにビクンと跳ねる。
構わず優しく髪を梳いた。

「・・・お前の髪も・・・硬いな、少し」
「シンタローはん・・・?」

消え入りそうな彼の声、その中にある確固たる事に気付いた自分。
不審に思い、緊張に硬くなる面を彼に向ける。



お前の髪も・・・



―――“も”。それは誰の事を言うてはりますの?

ゆっくりと身体を離す。心臓がドクドクと喧しい。

「・・・言うて、シンタローはん」
「何を」
「あんさんは・・・あんさんの―――」


誰がシンタローはんの中にいますの。
わてより先に誰が入り込みましたんどす?
あんさんの眼前にいますんはわてですのに、わてを見てくれはりませんの?


疑問系ながら実際には検討はついている。
だからこそ苦くて辛い。

「わてでは役不足でっか?」

全てが遅すぎましたのやろか・・・。
苦しく苦い想いと共に愛しい人を更に強く抱き寄せる。

―――違う。

強い想いを打ち明けた彼の肩に腕を回しながら心の中、そっと呟く。

―――そうじゃない。

役不足なんかじゃない。
彼も大事な構成物質のピース。

―――ないが・・・ただ・・・。

世界に数限りなくある言葉。
だというのに上手く想いを適切に表す言葉は見つからなくて。
自分自身ですら整理のつかない想いを、どうして彼に伝えられるのでしょうか。





開け放たれた窓からバサバサと時より強めの風が室内で踊る。
部屋の主の兄よりは落ち着いた、弟よりは飾り気のある調度品の数々、
その中心部に固定設置されたさして大きくはない白いテーブル。
そして置かれた何杯目かのコップに注がれた、
アルコール度の非常に高い、決して少なくはない無数の酒瓶。
鬣のような硬質な黄金も揺れてその度に鈍く光る。
酒に酔う事はなく、逆に酒を酔わせているのではないかと誰かにそう嫌味として咎められたが、
あながち間違いではなさそうだ。
アルコールが齎す浮遊感も甘さも、いつの頃からか薄れていった。
面白みが半減したと知っていても呷り続ける酒。
浴びるように飲む。
確かにその言葉通り、服のあちらこちらに点々と酒の水滴がばら撒かれている。
双子の弟のような米国紳士的に上品に飲むと言う事はない。
途中からコップは意味をなくし瓶を片手に直接口を付け喉に流し込んだ。
とっくに酔ってしまってもおかしくはない―――それ程豪快に肝臓へとドロドロと流し込んでも酔い込めない。
今日はまだ大喰らいの彼は夕食を口にしていないのだ。
空っぽのお腹に酒を入れると酔いが回るのが早くなると言われているけれど。
それは全くに訪れず。
また乱暴な手つきで注がれる酒。
硝子の中、小さくなった氷が狭い空間の中でかちりと音を立てて離れる。
そしてまたどちらからと言う事もなく引き寄せあい、懲りずにカランとぶつかる。
豪酒な彼。
しかしこれでもまだ酔えぬ原因は

「アイツの所為で何時まで経っても酔えやしねえ」

子どもみたいな八つ当たり。
想いの複雑さは世間を知る大人のものなのに。
領域は森羅万象形見えるものも違えるものとて無限ではない。
例えるなら視界に捕らえる事は叶わぬ不明確な一つの箱舟。
ある一定量を受け付けたならそれは容易く崩れ落ち、泡粒に姿を変え深海へと消える。

「とっくに限界を超えてやがるだろう。テメエは」

紡がれた言葉は驚くほど弱い。
それに反応を示したかのように、またカランと鳴り揺れた氷。
小さく、なのにとても空間全体に響く音を打ち消すように呷る。
想いの全てを流すかのように。
グラスに残った僅かな残り酒と氷に映った顔は、
波紋でよくは見えなかったが不快だけで形成された面だろう事は知れた。
快を促す酒。
不快のみ感じる男。
原因はきっとあの影がある京人。
今頃、現総帥と言う肩書きを持つ甥の元へ何かと理由を付て傍に自分の居場所を作ろうとする、
部下の弟子が甥っ子の傍に居るのだろう小さな推理は全くの感ではない。
甥との日常茶飯事ともなっている討論後。
自室に戻る際、近くに感じた彼の気配。
気は複雑に乱れ、会いに行く男とのこれからをあれやこれやと頭に描き、
期待と落胆を繰り返しているのだろう事を予測するのは常日頃の―――係わり合いが乏しい為、
その間の微かな記憶の彼と甥の関係考察と、
師匠である部下から極たまに耳にする彼の小話からの僅かな情報からだけだが―――彼から簡単に知れる。
三十にも満たない生で、両腕から溢れ出してしまう程の親愛も無責任な期待も、
殺意を含む憎しみさえも受け止め続けた甥。
彼に近付くモノ。
その大半が甥の心を気にもせず入り込んだ先には未成熟な領域(テリトリー)。
入り込んだと言うより無理やりな形の侵略だろう。
あの男なら大丈夫なのだとの無意識下での勝手な押し付けられた信頼。
受け止め、同時に失った幾つもの愛おしい存在。
もうこれ以上何かを失う事が酷く怖いのだと深い心が悲鳴を上げても、誰も気付かない。
気付こうともしない。
例え察しても黙殺し、不安定要素で構築された窮屈な領域に土足で進入する。
あの京人もまた同じなのだとハーレムは結論付けた。
けれど。
どこかでリンリンと鳴る否定の鈴音。
ちらりと視界に過る片方だけのしかし両眼に炎を宿す瞳は―――。

「シンタローに呷られたのかよ?」

アイツも。
己も。
媚びるでもなく、劣等感も優越感さえ他の者ならいざ知らないが、
甥の前には現さない抱く筈はなかった不純な想い。
意外とも思える二人の共通点はシンタロー。
それでいて、違いを生み出す原因もまた彼。
一歩後ろ又は隣で、彼を見守り支えになりたいと願うアラシヤマとは違い、
ハーレムは甥の数十歩先を歩む優越感は持とうとする。
彼のように前に進むでもなく後ろに控えるでもなく、共に並ぶ事すら望む事はない。
甥はもう子どもではないのだし自分はそこまで甘くはない。
ただ特別意識させる事なく、察する事もさせずに道を作りたかった。
例えば生い茂る道なき広大な草原を無造作に進む。
新しく出来た道を甥が進むのだ。
常に彼の前を歩き、
その先に待つ、ハーレムとシンタローの互いの位置関係は今と比べ、どう変化するのだろうか。

「一時の愚問で終わるがな」

思考はそこで途切れる。
気付かせない素振りで彼の中へ潜り込みたかった。
けれど。
シンタローの箱舟はもうぎゅうぎゅう詰めで。
それ以上は定員オーバー。
それでも、あの器用でしかし妙なところで不器用なお人好しは、自分を必要とする者を、
結局は本気では邪険に出来ず、手を差し伸べるのだ。
心が悲鳴を上げていようとも。
それに気付かぬ愚者達の為に。
それが我慢ならないというのは傲慢なのだろう。
いや。ただの我侭だろう。
シンプルに。
自分は気が短い。
十分に自覚している。事について否定する気はない。
博愛の衣で、偽り姿で、狭く広い舞台で演じ続ける甥に現実を叩きつける。
瞳を逸らすなとそれこそ容赦なく。
好印象を持たれはしないだろう。
けれど憎悪の感情は強ければ強い程、質によっては彼の心を捉える事が可能となる。
それは“自分だから”だと自負してもいる。
彼の作った固い殻もこじ開け、捉える。
シンタローの箱舟から温まっている輩を全員蹴倒してしまえば、舟内は当然がら空き。
留まるのは自分だけでいい。
他の奴らには渡したくない居場所(ソンザイ)。
歪んだ愛情だ独占欲の黒い愛と人は呼ぶのだろうか。

「まァ誰が何を言おうが勝手に思おうが、俺には関係ねぇがな」

甥は確実にこの傲慢な叔父に対し、憎悪の想いを持っている筈。
しかしそれもこの男のカリュキュレーションズアンサー。
いつかのどこかで聞いた言葉がリフレインする。
もう遠の昔に誰かの囁き。

「愛と憎しみは紙一重・・・ねぇ」

愛する事と憎しみは別モノの感情。
当時はなにを馬鹿な事だと片付け、
まるっきりに無関心だった彼が意味を理解出来ずにそのまま流してしまった、記憶に留めていない遥かな昔。
必須項目ではない蛇足。気になるもの。常に胸を占める強き想い。
それだけで手一杯なのだから。
互いに互い、思いが先走り過ぎて素直になれないままに。
あまりに強情な甥。
激しい嫌悪感と、否定し切れない、確かに抱く愛しく想う情。
気付いてしまったなら―――認めてしまったのなら、すべき事は自然と一つの道へと向かい進む。

「刻み込んでやるよ」

俺を。
癒えない傷をもっと深く与え続けてあげる。
無理矢理にでも、それでも欲しいのだから。
我慢は覚えない。欲しければ奪えば良い。
全て。
身体だけじゃ決して満足など出来ない。
もっと欲するのは。

「けっ、らしくもねぇ」

男からすればまだまだ青臭いいあんな子どもに、
こんなにも激しく執着する事し快と不快を簡単に揺さ振られるなんて。
今は忘れるようと、酒を体内に循環させる。
今、だけ。
彼を忘れる事は実際には出来やしないし、

「忘れてもやらねぇけどな」

波紋を作り続けるワインレッドの表面に自分と甥を映し、小さく笑った。
微かに覗く月は朧月。
部屋の主である男を見守るように、淡く光を降らせ続けた。





「シンタローはん」
「んだよ」

呼ばれてはじめて飽きずにアラシヤマの髪を撫でていた手動がとまる。
明らかに見せつけと分かる盛大な溜息の次には「テメエの所為で溜まってる仕事を中断させられるわ
ソレを今からヤル気は削がれちまったしで散々だぜ」と長々ぶつぶつ言ってくる。
やれやれ先程までの彼はどこへ行ってしまったのか。
そう思うのと同時にけれど虚ろ調子ではない、いつものシンタローに少なからずの安堵感。
文句を言われる謂れは
・・・・・・・・・やはりあるのだろう。

―――それに何ぞ言い返したとしてもメリットのある結果は得られへん事も先読みが出来るさかい、
     素直に謝罪しておくのが何より得策でっしゃろ。

シンタローが“こういう場面”では“こうする”、
“ああいう場面”では“ああする”など舵の取り方が意識する事少なからず理解出来るようになってきている。
それだけ自分は彼を、彼だけをずっと見ているのだから。
気がつけば何時だって彼の事だけを追いかけていく自分。
今は安堵感を持たせる小言を淡い笑みを持って人差し指を彼の唇に当てて制した。
少なからず驚いたような彼は黒曜石の瞳を少し大きく開く。

「あんさんが誰を強く思うても構いまへん・・・と言うたら、まあ・・・嘘になりますけど」

言いながら触れる唇をゆっくりと優しくなぞりあげる。
アラシヤマにしては大胆過ぎる行為に対し、普段ならば十や二十、下手すれば眼魔砲を繰り出す癖に。
出来ない、しようとも思えないのは、彼の常には見られない温かさを纏った自愛な笑みについ、
毒気を抜かれたからか。

「いつかわてがトップになりますよって。期待しててくだはれv」

あの子どもよりも、最愛の弟よりも、彼の従兄弟からも他の仲間よりも、
・・・戦略的にシンタローに入り込む彼の叔父である、あの男をも越えて。
体も心も。
誰よりも自分が一番彼の傍にいたい。

「はァ?何の」

案の定。彼は気付かない。気付かれたらきっと、

「言うたらあんさん力いっぱい否定しますさかい。まだ言いまはんわ」
「んだよソレ。否定されるって分かってるんなら何のトップだか知らねーけどぜってぇーに無理だろ」
「酷いおますなぁ~。まだ何のか言うてまへんのにもう無理だ言いはるなんて」
「テメエの考える事は大概、俺にとってろくでもねえ事だし」
「ああっ!!相変わらずに殺生なお方やっ!」

冷たくさらっと言われてしまい、大袈裟によよよよ・・・と泣き真似を存分に披露する。
ただ少しからかってみただけなのに、相変わらずの彼が妙に可笑しくて、涙を瞳に溜めお腹を抱えて笑った。
彼が可笑しくて。
本当に、涙まで浮かんだのはそれだけが理由だったのだろうか。





それから少し続いた、いつも通りの二人の会話・対話とほぼ一方的ながらの言い合い。
いつも通り。
他の気心の知れた相手とならば誰とも大差な変わりのない態度。
平面だけの会話。
微量に受け取れる事の出来る想い。
それもそう遠くないうちに。

「変えてみせますよって」
「は?何を??」






誰も入り込めない、入り込ませない、二人だけの領域(テリトリー)。
END

☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:
PAPUWAキャラクター人気投票でシンちゃんが一位を獲得したと知った瞬間に、
「こりゃぁ祝うっきゃねえ!!」とばかりに書いた三位(ハーレム)vs二位(アラシヤマ)×一位(シンタロー)。
真っ黒クロスケ・・・と言う程ではありませんが、シリアスまっしぐらでした(´▽`;A゛
その口直し・・・になるのか分かりませぬが、ちょこっとおまけ↓はALLギャグ路線でGOo(≧▽≦)○☆★


★GOBLIN’SPARTY★・・・の没ネタ


★これまでのあらすじ★
ガンマ団に設置してある託児所の子ども達の為に、ハロウィンパーティを主催したシンタロー現総帥。
化け猫の仮装をして自らも積極参加。
無事に終わったハロウィンパーティだが、自室に吸血鬼の仮装をしたアラシヤマが訪れ、菓子を強請った。
邪険に対応するシンタローに、「仕方あらしまへんなぁ・・・・・・ほなら悪戯しますえv?」と襲い掛かるアラシヤマ!
どうなる!?シンタロー!!!





やばいヤバイや~~~べ~~~えええええよおおおぉおぉおぉおぉぉ~~~~~~~~!!!!!
脳みそをフル回転させて、この窮地を切り抜ける方法を考える。
何かある筈だろ!?どんな難解な状況でも打破する何かがッ!!思いつけ思いだせ思い・・・・・・・・・
―――あ。
あった・・・。アレがあったんだっけか!
グイッと相手の体を押し退けてベットから降りる。

「シンタローはん?」

展開に着いていけないと語るぼんやりとしたアラシヤマに背を向けてソファに向かう。
ソファの上にはさっきパーティで着用していた化け猫服(?)が無造作に投げ出してある。
少し時間が経った為か少々の皺が出来てしまっていたが、
どうせ明日にはガンマ団内に設置されているクリーニング部署に頼む予定だったから特に問題視はしていない。
しかし、クリーニングに出す前に≪コレ≫に気付けてよかったぜ。
そのまま出しちまってたらえらい事になっただろうな。
ポケットの中がべとべとしちまって。
俺が離れてしまっても、耳を塞ぐかその口を塞ぐかしたいアラシヤマお得意一人妄想語りが聞えてくる。

「何か探しものでっか?何もこないないざ本番な時にせんでもええんでっしゃろ。
それともよっぽど今すぐに必要なものですの?
ハッ・・!今入用なもの言わはったらやはりそういうもんですの!?
いややわぁ~vvシンタローはん、意外と大胆ですわぁv
そないなもんに頼らへんでもわてはちゃあぁ~んとあんさんを満足させる事出来ますよって要らへん思いますよ?
京人は手先器用が多いよってどすから。
まあ京人全員がそうとは言えまへんが、けどわては幼少期から何をやらせてもそつなくこなせましたし。
はっ!!そう言えばあんさんなしてそないな物を持っとりますの。
・・・まさか。
・・・・・・まさかとは思いますけどシンタローはん。
どこぞの誰かと使ったりしてまへんでっしゃろな!?
使う使わないは別としても、わて以外の男と―――――うわっ!!」
ぼすっ
「いい加減に黙れ」

≪コレ≫を服から取り出すただその動作時間だけで、
んなアホな想像妄想を限りなく続けられるアラシヤマの顔面めがけて化け猫服で思いっきり殴ってやった。
服はまあ、柔らかい素材で出来ているからそんなに痛くはなかっただろ。
勢いは全力でつけたから痛い“ようには”一瞬感じるかもしれねえケド。

「ほれっ」
「え?ぅわっととッッ!」

突然投げたソレを、慌ててアラシヤマが危なげな手つきでキャッチした。
手に平の中でソレが数回バウンドしている。
おいおい・・・。一回でキャッチしろよ、ガンマ団(自称)No.2の男。
ガッシリと両手に握り締めたソレをゆっくりと指を解いて凝視するこいつの顔に、
状況追跡困難色が目印のような判り易さで色濃く浮かんでいる。
俺の貞操危機(※まだあるのか信憑性はイマイチ)を救う小さなソレは。

「チロルチョコ・・・でっか?」

ハロウィンパーティで子ども達に配った菓子の中でやけに数の多かったチロルチョコ。
余った分は本部に戻すも良し、土産代わりに貰っても良しとなっている。
ハロウィンパーティー主催者は俺だが、菓子・場所手配諸々は親父の代からの総帥秘書、
名前だけは甘く仕事に関してはかなり厳しいコンビ・ティラミス&チョコレートロマンスに主な手配、運営を任せた。
菓子類は元々子供たちの為に用意したモンだし、俺は残らないように全部配ったんだが、
それでも中途半端に一つだけ余っちまったチロルを一応貰っておいた。
まさかこんなちっちゃなモンに救われるとは思わなかったぜ。

「そ。お前も知ってるだろ?チロルチョコ」
「そら、知ってはりますけど・・・はっ!?もしかしてシンタローはん・・・ッ」
「お前の予想、多分ビンゴな。どんなに小さくても菓子は菓子だろ」
「シ、シンタローはぁぁあん~~~」

あんまりに情けねえ声に、ちょっとだけ・・・本当に少しだけ意地悪だったかなと思うけど、
やっぱりそー簡単には俺の初物は渡してやんねーよ。






どうせ来るなら全てを賭ける覚悟を持って全力できな。
中途半端じゃ俺は捕まえられねえよ?
俺はお高いんだぜ?
知ってたか?



。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。。・
:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。
本当はこっちが【★GOBLIN'S  PARTY★】本編になる予定でしたが、
気が付いたらアラッシー甘やかしのHAPPYENDをUPしておりました。
おっかしいですね~(゚_゚?)何の為に『何故かチロルチョコの多い菓子の袋(勿論他の菓子もあるが)を
一つを渡し~』と菓子描写をしたのやら(;´▽`A``
俺様なシンちゃん書けて幸せ~vv主婦してるシンちゃんが一番好きなんですが、俺様受もいいよねッ☆ヾ(≧∇≦*)〃
俺様受シンちゃんシンちゃんはアラッシー相手じゃないとなかなか難しいですし。(キンちゃん・・・は対等ですし)


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これからがはじまり





今までは殺し屋として君臨していたガンマ団。
サバイバルな男達の群れなそこには女性は殆どいない。
その為か団員には女性との縁がなく、また稀に縁あったとしても相手が『殺し屋』だと知れれば、
たちまち女性は逃げていく。
よって家庭を持つなどと言う者はガンマ団員では非常に小数であったのだが。
しかし今は殺し屋から180度変えた為、相変らず女性職員は少ないものの外で交際が順調にいっている団員が増えたらしく、結婚式の御呼ばれなんかも急激に増えた。
それはそれでとてもめでたい事なのだが、
ここで、どこの企業でも一度は頭を抱えてしまう問題が発生してしまったのだ。
結婚ともなれば次はそう、子どもである。
ベビーブームが到来し、結果、子どもを預かる所謂『託児所』なる場所が出来た。
しかも園長は、

「はいはぁ~~~いvvみずきちゃんはミルク160CCだったよね~~♪」

マジック前総帥その人であった。
総帥の座を息子のシンタロ―に継承した後、はっきり言って彼はかつてない暇を持て余していた。
最初は息子のディスクワ―クなどを手伝おう♪と張り切っていたものだが、当の新総帥本人に、

「この位自分で出来る!!テメエは老後を楽しんできやがれ!!」

と蹴りだされてしまった。シンタローとしてはもっと自分を信用して欲しいのだ。
決してマジックはシンタローの力量を疑っている訳ではなく、むしろその逆なのだが。
可愛い可愛い愛しすぎて困っちゃうvくらい大ッ事な愛息子のお手伝いをして、
少しでも負担を減らしてやりたいなーと思っているだけなのだが。
その後、仕方なしに有り余るほどの書物を読んだりレンタルビデオを借りに行ったり、何やらテレビや新聞、口コミ等で今流行のに手をつけてみたりもしたが、どうもイマイチ楽しめないのだ。
そんな時問題になっていたベビーブームによる育児問題。殺し屋廃業とは言え、
忙しさは変わらない―――いや、180度方向転換をした為以前より更に多忙なのだ。
よって設置された託児所。マジックの提案であった。自ら園長&主任になり結構生きがいを持って
世話をしているらしい。ちなみに殆ど2歳未満の乳児達がこの託児所で過ごしている。



夜も更け、ここ前総帥の寝室ではキングサイズのベッドに二人の男が寄り添って枕を共にしている。
一人はこの部屋の主、もう一人はその息子で現総帥。先程の疲れもあってか、
シンタロ―の瞼は閉じかかっている。マジックは息子の豊かな髪の毛を梳き、背中を宥めるように
摩りながら安眠へと導いていた。ちなみに二人が先程まで何をしていたのかは聞くだけ野暮です(笑)
しかしふと、マジックは思い出したように眠りかけていた息子にある提案をした。

「ねぇ、シンちゃん」
「・・・んだよ」
「シンちゃんもさぁ、数日間託児所で子供達のお世話してみないかい?」
「何でまた」
「シンちゃん今まで託児所に関してはノータッチだったでしょ?」

何事も体験だよvとマジックが畳み込む。それでもどこか渋るような息子に疑問を持つ。
子どもは嫌いじゃない筈―――いや、むしろ子ども好きなシンタロ―だ。渋る理由が見当たらない。
よいせっと身体を起こして溜息をつくシンタロー。

「今、総帥の仕事で手一杯だし・・・」

そうか。納得した。
まだ息子は総帥に就任してから日が浅い。慣れぬディスクワークに四苦八苦しており、ろくに休む時間も取れない。徹夜だって少なくはない。マジックも同じ道を歩んだからこそ十分に分かる。もはや総帥業からは引退したものの、総帥という地位について数十年経っても毎日が目まぐるしく忙しかった。

「だからさ・・・」

無理だと呟くシンタローの額にそっと口付ける。

「くすぐってぇ・・・」

文句を言いながらもクスクスと笑うシンタローにつられるような形でマジックも微笑む。

「大丈夫だよvパパが何とかしてみせるからvv」
「何とかって何だよ」
「シンちゃんは安心してパパに任せてvね?決定v託児所実習vv」

パパが手取り足取り教えてあげるからね~♪と浮かれ気味な父親を見て、シンタローは内心、

―――ただ単に俺と一緒に何かがしたいだけなんだろーけどな、実際。

呆れながらも愛されてると実感するのはこんな時だったりして、
それが妙にくすぐったくて・・・嬉しかったりする。
ばさっ毛布を顔が隠れるくらい被る。トマト顔はあまり見られたくない。

「わぁーった。やるからもう寝るぞ」
「おやすみvシンちゃんvv」

シンタローの毛布を少しはいで、再額に口付ける。


夜明けはまだ遠い・・・。



(シンちゃん一人称)

親父が俺のどっかの短大生のレポートのように溜まりに溜まりまくっている仕事にどう手を回したかは知らんが、託児所実習の日までには結構片付いていた。勿論俺も一生懸命こなしたが、最終日にはまだかなり残ってた筈なんだが・・・。まあいいか、見直してみたけど完璧な出来の書類だったし。
親父に渡されたガンマ団の託児所への地図を片手に歩を進める。総帥だが分からない施設は沢山ある。ここはやたらと広いのだし、建物も殆ど似通っている。
数十分歩いてついた先――――。



「ここが親父のいうガンマ団の施設なんだろうな・・・」

多分・・・・・・いや、絶対。やけに可愛い動物やらお花やらが描かれたその建物は、
周りの無機質さを感じさせる建物とは明らかに異色でかなり浮いているし。
何より【ウエルカムvマジック園】と言うダサ過ぎる園名が入った看板がデカデカと掲げてあるし。
まあ園名はともかく、外見は託児所らしくていいかと、戸に手を掛ける。

「あれ?」

開かないぞ?なんかロックがしているみたいだ。
今日7:45に来る事は親父や働いている職員達は知ってる筈なんだがなー。
ふと見ればインターホン。

「これを押せばいいのか」

さあ押すぞという時に、がちゃっ内側からロックが解除された。

「シンちゃんいらっしゃい♪」

嬉々として現れたのは、黄色を基調とした≪くまのプーさん≫がデカデカとプリントされたプリチ~v
エプロン姿に頭に三角巾を被った育ての父親。片手には小せえ赤ん坊を抱えている。

「ほらカズキ君、シンタローお兄ちゃんにおはようは?ん?」

親父にしっかりと紅葉の手でしがみついている“カズキ君”は暫し俺の顔を物珍しそうに見ていたが、
急に視線を逸らして親父の胸に顔を埋めた。何か泣いてるみたいなんだけど・・・。
俺、そんなに悪人面してっかなぁ・・・。

「嫌われたのかな・・・?」
「ううん、『人見知り』だよ」
「あ、そうか」

そういう時期って幼児期にあるって聴いた事がある。確か前に親父が話したか。

『一歳の頃のシンちゃんはね~、あんまり人見知りはしなかったんだけど、
ハーレムにはいつまで経っても懐かなくって、毎回見た途端に泣き出しちゃって。
あんまりシンちゃんが可哀想だから、暫くの間ハーレムに遠征に行ってもらったんだvv』

と話してたな。(獅子舞が可哀想とは思わないらしい親子)

「ごめんね、シンちゃん。昨日言い忘れてたんだけどいつもドアはロックして、
用がある人はインターホン鳴らさなきゃいけなかったんだ」
「随分と用心深いな」
「大事な預かり者だからねv」
「ふーん」

以前まで人殺しを平気でこなしていた男は、今では育てる側に回ったんだな。
それは俺も同じ事だけど。
てとてととしっかりとした足取りで、二歳近くだと思う女の子が俺の足元に引っ付いてきた。

「だ~~vv」
「この子は俺に人見知りしないんだな」
「そうだね、まだクミコちゃんはあんまり人見知りしないみたいだから」
「ふ~~~ん」

詳しいよな親父。ちょっと以外かもとか思ったが、考えて見なくても納得出来るじゃねぇか。
この男はシンタローとコタロー二人の息子の父親なのだから。
―――って言っても、俺は実子じゃねぇけど。マジックの本当の息子はグンマで・・・・・・。

「シンちゃん?」
「あ、ううん。何でもねぇよ」

「じゃあ早速あそこの部屋―――『観察室』って書いてある部屋が見えるでしょ?
そこの右隣の部屋―――がロッカーあるからそこに荷物置いて着替えてきてね」

着替え終わって(着替えって言っても、親父みたいに三角巾被ってエプロン付けるだけだけど)
うがい手洗い、それから出勤簿に印、と。

「シンちゃ~~~ん。朝会始まるから来てね」

でかい声で遠くから俺を呼ぶな親父!まだ寝てる子どもとかが起きるだろ!
ちなみに俺のエプロンかなり濃いピンクを基調とした≪ハローキティちゃん≫がでっかくプリントされたやつ。言っとくが俺の趣味じゃねえ!昨夜俺が用意したエプロンは薄水色の無印エプロンだった筈・・・・・・・・・・・親父・・・勝手に摩り替えやがったな・・・。
持ってきたリュック開けてみてから気付いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

仕方ねえか、ま、この方が子どもは喜ぶだろうし。



朝会っても、廊下でやるのか。場所的にも子どもが集まってる『歩フク室』ってところで。
そこかの会議室とかでやるんじゃないんだな。
まぁそうか、子どもとかがしっかり視界に入るところに常にいないとなに起こるか分かんねぇし。



朝会内容はかなり細かかった。夜中に預けられる子どもはここで寝泊りで、夜勤者がしっかりと管理してるらしい。寝たらそのまんま起きないで朝まで寝てるって訳じゃねえんだなー。
驚くほど細かく子どものチェックしてる。
朝会終了後からはもう目が回るほど忙しかった!
飯食わせようとすれば逃げるわ泣くわ暴れるわスプーン投げるわ吐き出すわ、
食事だけでもこの調子で、その他もろもろもかなり30人近くの子どもに振り回された。
慣れない手つきで四苦八苦している俺の側には、親父が付きっ切りで、

「離れんか!」

と言ってもニコニコしていて、何がそんなに嬉しいんだか効果なし。



やっと昼寝の時間になって俺達も弁当食い終わった頃、か弱い、
けど・・・何て言うか・・・訴えるような泣き声が聞こえた。
俺は親父の裾を引っぱり泣き声のする部屋を指差す。

「何かあの部屋から独特の泣き声が聞こえんだけど」
「ああ、ミルクの時間か」

『観察室』とプレートが掲げられている一室に眠っているのは真っ赤な顔して泣き叫んでいる、
すっげー小せえ赤ん坊。ホントに顔真っ赤にして泣くんだなー。あ、だから“赤ちゃん”か。

「この子はコウ君、まだ4ヶ月になったばかりなんだよ。まだ首座ってないから気を付けてね」
「なあ、親父。結婚して子どもが出来て、旦那はガンマ団で仕事は分かる。
じゃあ何でこいつらは“ここ”にいるんだ?」

母親がいるだろうが。こんな小さい時期の子どもなら尚更、母親が育ててやるもんじゃねぇのか?何で託児所なんかに預けるのか分からない。まさか育児放棄や捨てられたとかじゃねぇだろーな・・・。

「この子達の“お母さん”達もここで働いてるから」
「はぁ!?」
「シンちゃん・・・総帥なのに知らなかったのかい?」
「う」
「戦闘系じゃないけどね。経理とか事務とかそういう細やかな作業をしてくれてるよ?」

今までは『殺し屋』だったからだろう、女性にはあまり関心の持てないガンマ団だが、心機一転して団員が女性と付き合って、その女性もガンマ団に関心を持ってきて旦那と同じ職場に就職か。
納得したような、でも微妙に複雑な俺の耳に嫌~~な台詞が入ってきた。

「ねえシンちゃん」
「あんだよ」
「こうしてると・・・・・・・・・・・・・・・幸せ家族v育児編vvって感じだよねv」
「死ね。んで、三途の川がホントにあちいか確かめて来い」
「酷いッ!シンちゃんてば」

知るか、アホ。いちいちオーバーリアクションすんじゃねーよ。コウが驚いて哺乳瓶から手ぇ離しちまったじゃねーか。ったく・・・・・・。



「子どもって・・・こんなに世話すんの大変だったのかよぉぉぉ~~~~~~~~;」

いや、以前パプワの世話してた時も大変だったけどな。
ロッカーに手をついてそのままずるずると床に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
体力には自信がある俺だが流石に今日一日終わった後はすっげー疲れた。

「ディスクワークばっかで、あんま体動かしてなかった・・・か・・・ら・・・・・・」

・・・・・・あれ?何か引っかかる。

「あっ・・・//////」

・・・体動かしてないっても、親父が夜求めてくると結構動くっていうか体力消耗させられるけど・・・・////////

「何考えてんだよ、俺・・・///////」

やけにリアルに思い出しちまった。やべえ・・・顔が火だる。

「何考えてるのv?」
「何ってナ――――――――――うわああぁぁあああああああああああぁ!!!!!!!!!!!!」

部屋の隅まで後ろ向きですっ飛んだ!!いきなり気配消して超接近するな!親父!!!!!

「見事なほど驚いてくれたね」
「テメエがいきなり現れるからだろ!!!」
「シンちゃん、静かにねv子ども達がびっくりしちゃうし」

ぐぅぅうう・・・。何かすっげー悔しい。正論だが。

「何かシンちゃんが真っ赤になって蹲ってるから、どうしたのかなー?って思ったから、
大丈夫かなーってそっと近付いたんだけど」
「別に何ともねぇよ」
「そうかい?じゃあ帰ろっかvv」
ぱしっ
「何気に俺の肩を引き寄せるな!」
「クスン。シンちゃんってば冷たい・・・」
「うっせえ!」

親父が軽く人差し指を唇に当てる。

「だから静かにってば」

アンタが変な事しなきゃ問題ねえんだよ!!!!(怒)



とにかく今日は疲れた。子ども達は可愛いと思うけど・・・やっぱり第一の感想は『疲れた』だろう。
だってのに!どうしてこのオヤジは元気に求めてくるかな!?今日はゆっくり寝かせろ!
第一アンタだって疲れてるだろうに!!俺以上に子どもの相手やその他こなしてただろ!!
なのに食事と風呂済ませて疲れたから今日は早く寝ようとした瞬間合鍵で扉を開けて、
有無を言わさずアンタの寝室に連れ込まれて!!!はぁ・・・、何されるか分かる事が嫌・・・。

「シンちゃんv“ご飯とデザートは入るところが別腹”って言うの聞いた事ある?」
「それってただ単にもっと食いたいヤツの言い訳だろ」

特に若い?女性が使う(かもしんない)。

「でもね、某B級番組が調べたところによれば、ある女性に胃が満腹なるまで食べてもらったんだけど、デザートを見せた途端に少し胃のスペースが空いたんだよ。
パパもテレビ越しだけど実際見てビックリしちゃった☆★」
「で?それと今俺を押し倒してるっつー状況とどう関係あんだよ」

俺は疲れてるんだ!ヤったらもっと疲れるだろーが。

「つまりね、仕事の疲れとシンちゃんとの愛の行為により生じる疲れは別物vv」

おおぉぉ~~~~~~い!!!!
ふざけんな!!食欲と性欲ごっちゃにしてんじゃねぇー!!!!!!!!!!

「まあ託児所作ったのパパだし、疲れても嫌じゃないんだけどねvシンちゃんは?」
「大変だったけど」
「ケド?」

「全然懐いてくれない子が段々懐いてきてくれたり、抱っこする時乳児とは思えないくらいの力で
ギュって俺にしがみついてくると、頼られてるなって感じて温かい気持ちになるよな・・・」
「そうだね。シンちゃんもあの年の頃パパがいなくなるともう泣きだしっちゃって。で、パパが飛んで
いって抱っこするとピタリと泣き止んで、『もうどこにも行かないでー』って抱きついて」
「STOP!」
「どうしたんだい?」

あんなー、このままアンタの話聞いてたら夜が明けるわ。
俺は早く寝たい。っつー訳で早く自室に帰りたいんだが!?
ぽんっ
???親父の手が俺の両肩に置かれるのは何故だ?

「そうだね。長々と話し込んじゃったらシンちゃんとの熱い夜が明けちゃうよねv」
「だから俺は!んぐっ」

唇塞がれた・・・。
あとは・・・・・・明日起きれっかなー・・・。(現実逃避)



(マジック一人称)

「シンちゃん、起きてる?」
「起きてる・・・」
「あ、何か怒ってる」
「当たり前だ。
明日からまた総帥としての仕事が山のように待ってるってのに無理させやがって・・・」

ブツクサと文句を言う言葉に棘あるなぁ。でも声に張りが無い。
もう精も根も尽きちゃったってやつか。パパなんか、後五か

「STOP」
「え、何が?」

いきなりSTOPって・・・?パパ何も言ってないよ??

「今、物凄くSTOPかけなきゃいけないような気がしたんだよ」

感がいいねぇ・・・シンちゃん。

「そう言えば・・・コタローの事なんだけど・・・」

ぴくっ
あ、やっぱりコタローの事に関しての反応はほかの事よりも敏感に感じるようだ。

「自分でも・・・今までコタローには、随分悲しい想いをさせたと思っている」

シンちゃんは何も言わずに、でも真剣に私の話に耳を傾けてくれていた。

「これからは良い父親になろうと思っている」
「親父・・・」

あ、初めてこっち向いてくれた。――――――――――いかんいかん、今はその話じゃない。

「サービスが・・・コタローには母親が必要じゃないかって言ってね」
「・・・・・・・・・・」
「再婚・・・しようと思うんだ」

困惑した風でもなく、しっかりと私の言葉を受け止めようとする真剣な黒曜石の瞳。

「シンちゃんはどう思うかい?」
「どうって・・・」
「反対?」
「反対はしねーよ。しねーけど・・・」

少し、間が空いた。おずおずとした口調で聞いてくる。

「相手・・・いんのか?」

いるから言ってるんじゃないか。肯定する私にシンちゃんは肩の力を抜いて笑った。

「そっか、おめっとーさん。随分遅い再婚だけどな」
「遅いは余計だよ」

クスクスとベッドで笑い合う。
シンちゃんは頭に手を組んでごろりと枕に頭を預け、天井の薄明かりに目をやる。

「んじゃ、俺も親父に負けてらんねーな。気立てが良くて優しい奥さん見つけねーと」

は?何を言ってるんだ?この子は。

「ちょっと待って!シンちゃん」
「あん?」
「パパの再婚相手はシンちゃんなのに、何でシンちゃんがお嫁さんを探すんだい?」

??????あれ、シンちゃん、まるで鳩が豆鉄砲喰らったような顔してる。
何かおかしな事でも言ったかな。

「ちょ――――――――――――――っと待て!待ってくれよ!!」
「何だいv?」

何かシンちゃんが黒い影背負ってブツブツ言ってる。どうしたのか。
がしっ
まだ暗い顔でシンちゃんが私の肩を掴んできた。どうしたんだろ、さっきから。
あ、もう一回vって言う意思表示vv?(思い込み激しいパパンって若いねv)

「コタローに母親っていう存在が必要なのは分かる!アンタが再婚するのも一向に構わねえ!
で、どうして俺がアンタの嫁になんきゃねんねーんだよ!女にしろ!女!!」
「何でだい?パパはシンちゃんとしか愛せないし・・・」

勿論グンちゃんやコタロー、キンタローは家族の意味で愛してるけど。

「結婚vしようねvv」
「い・や・だ!」

あかんべーするシンちゃんも可愛いなぁ・・・vvでも・・・。

「シンちゃんは私が嫌いかい?」

ここで“パパ”ではなく、“私”というのにはちゃんと意味がある。
だって結婚したらパパじゃなく・・・・・・・・・アレ・・?

「ねえシンちゃん」
「あ?」
「結婚したらパパはシンちゃんの事はシンちゃんのままでいいよね。
でもシンちゃんはパパの事なんて呼べばいいんだろうねぇ」
「知るか!アンタと結婚なんかしねえよ!!」
「じゃあシンちゃんは誰と結婚したいんだい?」
「え・・・・・・」

急にシンちゃんの勢いがぴたりと止まり、絡め合っていた視線が下降する。
口をもごもご小さく動かしているけど、音にならないらしい。
シンちゃん自身どう言いたいのか分かっていないというところだろうか。
しかし、今までシンちゃんは文句を言いながらも私と肌を重ねる事を頑なに拒まなかった。
それは私がシンちゃんを息子として見ているのと同時に、恋人としてみているシンちゃんも私を父親、
そして恋人だと見ていてくれてるのだと、疑う事もなかった。
なのにシンちゃんは違うのかい?私のただの思い過ごしか?幻想夢なのか?シンタロー。

「ほら・・・だってよ!俺もアンタも男だし・・・」
「だから?」
「だからって・・・・・・ええと・・・、ほら!後継者とかどうすんだよ!
俺が結婚してその後を継ぐ子どもとか・・・孫の顔見てぇだろ?」
「後継者は何もシンちゃんの子じゃなくても、いいんじゃないかい?グンちゃんやキンタロー、
コタローだっている。ほら、私の大事な息子は四人もいる。
私は恋愛対象ではシンタローが側にいさえすればそれでいいんだよ」
「・・・・・・・・・・」

そんな思いつめた顔をさせちゃって・・・でも、私ばかりシンちゃんに「好き」「愛してるよ」って
言わせるのはずるくないかい?一度は聞いてみたいじゃないか。結婚願望も勿論本気だよ?



沈黙はどれだけ続いたのだろうか。ようやくシンタローが口を開く、音を紡ぐ。
「俺は・・・」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・わりい・・・もうちょい・・・タンマな・・・」
「分かった。待ってるから・・・もう少しだけ・・・・・・」

ずっと君だけを待ってるよ。
君の心を信じてるよ。
決して私だけの一方通行じゃあないよね?
ねえ・・・シンタロー・・・・・・。



タイムリミットまで・・・あと・・・僅か・・・・・・・・・・・。



                                                   END





★あとがき★

ひそか様から頂きました挿絵?四枚のお礼小説マジック×シンタローでした☆★なんか甘いですねー。
ラブラブ書くの苦手なのに・・・。実はこれ、40%くらい実話が入ってます。
妖(あや)は2003年の2月に乳児園に10日間実習に行って来て、この【ウエルカムvマジック園】はそこがモデルです。
実習内容もこんな感じで死にそうでしたよ・・・。
意外と難しかったのはパパンです。口調とか。でもこれでも妖にしたら驚異的なスピードで書き上げました。
(2003・5・2)












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最近あいつの様子がおかしい。グンマやマジックその他の連中には何ら変わりない態度をとっている。
おかしいのは―――俺に対してだけだ。
少し前は気軽に俺の部屋に入ってきて他愛のない世間話をアイツが一方的にしたり、
二人だけではないが共にどこかへ行った事もある。俺達が初めて対面した頃は想像すら出来なかった
平和と言うだろう、この図。その事に今は昔の確執に固執する気も起きない。
とにかく、ここ最近アイツは―――シンタローは俺を確実に避けていた。



「キンちゃん、シンちゃんと喧嘩でもしたの?」

グンマの問いに目を見張る事もなく「いや、特には・・・」と返答する。
あの鈍感極まりないグンマですらそう感じるほど俺に対して態度の変わったアイツ。
他の連中も感づいているのだろう。だが、俺には本当に心当たりが見つからない。
不自由する事もないから、それについてシンタローを問い詰める事もしない。
アイツの態度は日に日に余所余所しくなっていった。
そしてそれとは半比例するかのようにガンマ団内は酷く騒がしくなっていった。
一体何が起こるのだろうと聞いたらジャンが吹き出して笑った。

「もう直ぐお前らWシンタローの誕生日だろう。その祝いの準備だろーが☆★」

俺はこのかた誕生日祝いというものをした事がない。当たり前と言えば酷く当たり前だ。
今まで俺はシンタローの中に生まれた時から閉じ込められていたのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・―――!
・・・そうか、そう言う事か。アイツが妙に俺に対して余所余所しい訳はそれか・・・。

「馬鹿な奴だ・・・」

冷たく言い放つ。アイツがどう受け止めようと構わない―――筈だが、あまりのヤツらしさに呆れる。
そして何故かこの胸が無性に疼いた・・・。



少し前の俺はまさか今のような現状になろうとは思っていなかった。
覇王の高みを目指していた筈の俺は、今ではグンマや高松、ジャンと科学の道へと進んでいる。
そしてそれを決して不快には感じない。この道に進んだのは他でもない、俺自身の意思。
今もこうして倉庫から今日使用する素材を引っ張り出している。
使う素材が多いのと重いのでこういう力仕事はグンマには不向きだ。
こういう気遣いすら、以前の俺なら出来なかった事なのではないのか。
こんなにも俺が変わったのは、おそらくあの島の所為だろう。・・・・・・・・・・そして・・・。
全ての素材を両手に抱えると、重さはさほど気にならないが、視界が不自由になる。
角を曲がろうとした時、相手もぼぉっとしていたのか誰かとぶつかってしまった。
ドンッ
俺は何ともなかったが、相手も素材も派手に転んだ。

「―――――――っつ~~~」

視界に映るのは四方八方に転がった素材、そして鮮やかな黒と赤のコントラス。
無意識に俺はそいつの名を呼んでいた。

「シンタロー・・・」
「あ・・・」

あいつの顔が、俺の存在を確認した途端固まる。時が、止まる。



無機質な俺の部屋に居るのは、主の俺と・・・・・・シンタロー・・・。
何故俺はシンタローを招きいれたのだろう。
これからグンマやジャンと共に研究室へ向かう予定だった筈だ。
その為に必要だった素材は部屋の片隅に纏めて鎮座させている。
それが予定外の客のコイツも不審がり声をかけてきたが答える事はしなかった。
どう言ってよいのか、何故こうした事をしているのか俺自身分からない。
ほおっておけば良かったのだと言う声は、それ以上の何かによって打ち消され、
それが何度も心中で渦巻いた。
俺もヤツも言葉は少なく、とりあえず俺の好きな銘柄の紅茶を出す。
するとヤツは驚いたように、しかしふと笑った。何だと聞くとカップを掲げ、
自分の好きな銘柄の紅茶なのだと言った。そうかと返答し、また暫しの沈黙が流れる。
そう遠くもない場所のあちらこちらから賑やかな声や音が聴覚に入り混む。

「騒がしいな」
「お前の誕生日祝い・・・だからな」

その言い方に疑問を持つ事はない。
【俺達】ではなく【お前】と言う訳も知っている。どこか沈んだ声色で何を想う―――?

「お前もだろう」
「そうかな・・・以前はそうだったかもしんねーけど・・・」

そこで区切り、ふと窓辺に視線を投げる。分かっている。何故【以前は】と言うのか。
先程入れた紅茶は白い湯気を消して冷めていく。

「お前は【シンタロー】を捨てるのか?」
「・・・それは・・・・・・」

いきなり核心をつく問いに対して即座に否定はしないのか。
俯き、黒髪がコイツの顔を隠す。
泣きそうに見えるのは俺の気のせいではないだろう。
こいつはいつだって泣いていた。
ガンマ団という組織では滅多に喜怒哀楽を表わさなかったが、それでも心の底ではいつも殺し屋として、
総帥の息子として、青の一族の異端者としての重圧に耐え切れなくなり泣いていた。
・・・・・・たった一人で・・・・・・共に居た俺に気付かずに・・・誰にも、
コイツ自身すら気付かずにたった一人、心はいつだって泣いていた事を俺は知っている。
今もこの窓の外のようにいつ泣き出してもおかしくはないこの曇り空のようだ。
ずっと続くかと思われた沈黙の間は、カップを握り締めていたコイツの両手が解かれたのと同時に時を進める。
やっと重い口を開き、心の底を晒した。

「俺は・・・俺が時々分からない。
俺はずっとマジックの息子だと思っていた。
けど・・・けどっ!ジャンのコピーだアスの影だの!!本当は親父の―――マジックの息子じゃなかった!
けどっっ、ルーザーの息子でもない。
だってそうだろ?ルーザーの息子はお前だ・・・・・・お前だけだ・・・」
「・・・・・・・・・」
「俺は・・・俺の定位置が分からない・・・。
親父は俺に跡を継がせた。けど、それも・・・っ」

そこで区切り、それ以上の言葉を飲み込む。
全く青の一族の力も証もない自分に青の一族の未来を託させたのは一種の哀れみではないかと思っているのだろう。
誰もが気付かない。
この男の心中はこんなにも脆く、そしてそれを覆う為の強さを求め、得、
しかしやはり闇は消えないのだと。

「マジックはあの時言っただろう。お前も自分の息子だと」
「そう言うお前は俺をどう思っているんだ?憎い相手なんだろう?
ニセモノと・・・言い続けてきただろ」

伏せていた面を上げて問いかけてくる。
あの時はそう思っていた。俺こそがシンタロー本人だと、それは今も変わらず思っている。
だが、では目に前の男は誰だ?
俺はこの男をどう捉えている?
・・・答えは至極簡単に出てくる。
今も憎いかと問われれば肯定は出来ない。
また沈黙が流れそうになるのを止めたのは俺だった。
椅子から腰を上げ、近付く。
何だ?と見上げるコイツの右手を俺の右胸に強く押し付けた。
当然の行動にヤツは動揺したように黒曜石の瞳を大きく見開く。

トクン・・・トクン・・・

「感じるか・・・?・・・これが俺の鼓動―――ここに居る―――生きているという証だ」

そのまま左手もコイツ自身の右胸に押し付ける。

「そしてこれがお前の鼓動だ」

お前も俺も今ここにいて、異なった生を歩んでいる。

「今のお前は偽者ともコピーとも思っていない。俺は新たな名を受けた。自ら己の進む道を見つけた」

初めて俺の為に涙を流してくれたヤツが付けた名。洒落た名では決してないが、
それでも今はその名で呼ばれる事に腹はたたない―――と言うよりむしろ・・・・・・。

「お前はガンマ団の総帥・シンタロー。
・・・それが俺が知っている【お前】だ」
「キンタロー・・・」
「お前が今口にした名前・・・その存在が【俺】だ」

暫く呆けていたようなコイツの顔が、突然堪え切れないといった感じで吹き出して笑った。
・・・・・・何だ?・・・一体・・・。
俺の不快を感じ取ったのか、悪い悪いと手を振って未だ笑いながら紡ぐ言葉。
その中に黒い影が薄れていくのを感じる。

「ははっ、・・・まさかお前が俺に・・・くくっ・・・んな事言うなんて・・・っ、
思わなかったからよっっ」

あとは堰を切ったかのように笑い出した。
似合わない台詞だと言いたいのだろう、少々腹も立ったが、
涙まで浮かべて笑っていると思ったそれは可笑しさからではないと言う事が分かった。
何か吹っ切れたような・・・そんな感じだ。
俺には分かる。コイツと俺は24年間共にいて兄弟以上な関係だった。
そうでなかったにしてもコイツと俺は全く異なりしかしどこか似ているのだ―――そう言ったのは誰だったか。
言われた時は反発心を持った記憶がある。
だが、今は―――――。
コツン
軽くコイツの頭を小突く。
何だよと眉を寄せ見上げてくるその面には、先程とは打って変わったお前がいた。

「さっさと溜まっている書類を片付けろ。
俺もいい加減研究ばかりでは飽きるし、なにより身体がなまってしょうがない。お前もだろう?」
「・・・そうだな・・・さっさと終らせて・・・一戦交えようゼ!」

呆けていたような顔が徐々に子どものような挑戦的な笑みを口の端に浮かべさせる。
結局紅茶一杯だけでヤツは腰を上げ扉へと向かった。

「じゃあな!美味しい紅茶ごちそーさんっ」
「ああ・・・」

シュン
扉が開き、柔らかな笑みを浮かべ、手を軽く振ったヤツの姿が視界から消えた。
最後に見えた豊かな黒髪が踊るように揺れたように見えた。
もう、暫くは大丈夫だろう。お前は強いから一人だって立ち上がれる。
もし一人では立ち上がれない時、俺が手を貸そう。
きっと俺がお前の立場でもお前はそうしようとするだろうから。

「変わったのはあの島の所為か・・・?それとも・・・」

ふと窓の外に視線を向けた。先程までの薄曇りは晴れ、白雲が青空を更に浮き上がらせていた―――。
大分遅れてしまったが、今から隅に追いやった素材らを持って研究室にでも向かうか。
おそらく―――いや、間違いなくその歳に合わない幼い面をしたイトコが、
遅いと文句をつけながらも俺が来るのを待っているだろうから。
そいつとその育ての男、そして先程までこの部屋に滞在していた男と同じ顔を持つ青年が待つアノ場所へ―――



俺の居場所へ―――。





10/31―――言わずと知れたハロウィン。


ハロウィンだろうが何だろうが総帥職に身を置く自分、まして就任したてで右も左も全くではないにしても、
色々と分からず不慣れな日々。
四苦八苦状態の俺には御祭り騒ぎに付き合える程の余裕も時間もないが、
普段ならあの息苦しい総帥室にてディスクワークの中の時刻に、今夜は自室に戻り自作の衣装に着替える。
何の・・・って、流れから分かるだろ。


今夜開かれるハロウィンパーティ用の仮装衣装だよ。


もうお化け類々に仮装して菓子を大人から貰うのを楽しむ歳じゃないが、
日本支部に去年から設置された託児所(※NOVEL『ここからがはじまり』参照)に預けられている子ども達の為に俺が主催した。
普段多忙な親持ちだからなかなか良い思い出作りは出来ねえし、だからってそれはやっぱ可哀想だろ?
子どもの時に親との楽しい思い出をいっぱい作っておかなきゃな!
よってハロウィンパーティ参加は希望団員のみとは言っているが、託児所に子ども預けている団員は強制的に参加だ。
今年は日本支部の託児所でハロウィンだが、来年はまた別の支部又は本部に設置された託児所で開催予定だ。
俺が居なくともどこの託児所付きの支部は、ハロウィンパーティを行うよう命じてはあるが。

「もしかしなくても職権乱用か?」

衣装を身に纏いながら自嘲気味に苦笑する。
それでも誰も提案には反対はしなかった。
ハーレムら辺だったら否定的な事を言うんだろうが。
ちなみに今は遠征中。
また何か大規模な騒ぎでも起こしてなきゃいいがなー。
全身鏡に総帥ではない自分を映す。
それは随分久し振りだなと感慨にふける間もなく、どこかおかしなところはないかくるりと1ターンして後ろ側もチェックをいれる。

「ん、パーペキ☆★」

言い忘れたが、俺は化け猫だ。
・・・・・・・・・・・・本当は吸血鬼をやろうとしたんだよ。
けど、ハロウィンに吸血鬼はセオリー過ぎてかなりの奴がやる事は容易に予想が付く。
だからって化け猫はねーんじゃねぇかと思うが、グンマに俺とグンマとキンタローの従兄弟三人で『化け○○』シリーズをやろうと強く誘われた。
はじめはいくら何でもでもそれは・・・と断っていたが、どこから聞きつけたのか今出たばかりの情報を知って(もしかしたら盗聴器でも各部屋に仕掛けてるんじゃねーのか!?)沸いてきたのか、親父にもグンマ以上にしつこく言われるし、
キンタローも以外にも乗り気だったんでこうして化け猫になった訳だが。

「あ、やべっ」

デジタル掛け時計に目をやると、もうパーティ開始時間を五分も切っていた。





慌てて廊下に出た俺が最初に目にしたのは、瞬時に俺を見て固まってしまったらしい京都の吸血鬼、だった。

「猫。どすか・・・」
「正確には化け猫だがな」

放心状態といった風で尚且つ人を凝視するな、アラシヤマ!!どうせ似合わん事は当人が一番痛感してしてるんだよっ!!

「グンマはんがシンタロ―はんがなかなか来よらない事をえらく気にしてはったさかい、わてが迎えにきたんどす」
「だからお前がここに居んのか」
「さ、はよ行きましょ」

顔も合わせない・・・。変な奴。いつも変は変だが。←酷い。
そんなにこの格好が似合わない、とか?

「シンタローはん。その格好どすけど」
「悪かったな!似合わなくてっ」
「そへんほななくてっ」

両手を手前で慌てて振って否定する。

「どえらく可愛いらしいと思やはったんどすv似合ってますよってvv」
「・・・・・・あっそ」

男に可愛いだの似合うだの言われて嬉しい訳ない。ってか気色悪い。

「どないしましたん?顔、赤くなってますけどっ♪」

・・・・・喧しい。ってか、その顔、ぜってー俺の内心知ってて言ってやがるだろぉっ!
ん?この手は何だ。

「わてが欲しいくらいですわ・・・」

近付くアラシヤマの顔・・・。


バキッ ドカンッ


アホッ!!!そのまま妖怪ぬりかべにでもなってろっ!!





「あ、シンちゃん遅いよっ」

眉間に皺を寄せて、化け狸の仮装をしたグンマが走り寄って来た。
俺よかよっぽどグンマの方が化け猫が似合うんじゃないかと思うが、
『化け○○』シリ-ズは狐と狸と猫で、どの仮装をするかはアミダくじで決まったんで、まあこうなっている訳だ。
会場はガンマ団日本支部で一番の大きさを誇る広場。
数分だが遅刻してしまった俺に代わって親父やグンマが指示し、もう既にハロウィンは始まっていた。
全体をざっと見回すと、案の定吸血鬼や魔女(男ばかりなので魔法使いか?)、狼男などポピュラーな仮装をした団員がそこら中に犇めき合っている。
グンマ考案『化け○○』シリ-ズのもう一人の被害者(?)、キンタローは・・・・
・・・・・居た。
傍に控えているドクターが、鼻血を垂らしながら惚れ惚れとした熱っ視線を向けている中で、いつものポーカーフェイスを決め込んでいる。

「ああ・・・vこの気品溢れ、凛とした御姿を御父上のルーザー様にも是非御覧頂きたいものですよvv
題して、『孤高の狼キンタロー様』vvv」

バット・ネーミング・・・。
いやそれよりもキンタローの格好、狼じゃないし。

「一応は狐なんだが」
「ええ、孤高の狼のように雄雄しい・・・『妖狐キンタロー様』vvvvv」

かなり苦しいな、ドクター。
訂正した時、顔がかなり引き攣っていたのを(一瞬だけど)俺はしっかりと見たからな。
まあキンタロー自身、間違われた事に対してそれ程固執せずにあっさりとしている。
知らん者が見たら然も意外だろうが、あいつはドクターに対して、比較的態度が大らかだ。
あの島での一場面以来、親しみを感じられる数少ない一人となったらしい。
まあいい事なんだろうと、柄にもなく微笑ましい様子を見ていた俺の斜め右後ろからする、嫌に低いおどろおどろしい声。

「シンタローは~ん」

うわっ、何だよまだ居たのかお前。
ちなみにその恨みがましい視線は何だ。思いっきりどす黒い怨念オーラが背後から立ち上ってるぞっ!?

「・・・なんや、えらいキンタローはんの方ばかり見つめはってますなぁ・・・」

台詞の最中に更に黒い気配が増したな、アラシヤマ。
それより“見つめる”って・・・何だか女々しい誤解を受けかねない言い方だぞ?
それに関しては妙に引っ掛かりを感じたが、ツッコミを入れるのも面倒に感じたので、
「関係ないだろ」と軽くあしらいアラシヤマから離れた。


「・・・・・・関係、大有りでっせ?」

小さな呟きは、遠くなった俺には聞こえはしなかったけれども。





菓子類を受け取ると、他の仮装し団員同様、俺も支部大広場内を目的地もなく歩き回る。
新生ガンマ団の(と言うより俺が考え出した)ハロウィンは通常とは事なり、菓子を貰いに来る子どもも与える大人も仮装し、
大人は団で用意した袋詰め菓子を持ち、
子どもが例のお決まりの台詞『Trick or Treat!』を言って袋からいくつかの菓子を手渡す。

「トリックアッドトリック!!」

元気いっぱいの声が膝下から聞こえた。
託児所で保母さん(保育士というのが正式名称だろうがこの呼び方は好かない)、に教えてもらって作ったのだろう、形の歪んだ
パンプキンのお面を頭上近くまで少し邪魔そうに上げて、黒布を身体に纏っている。
年の頃は3、4つかの男の子だ。見覚えがある。
菓子を貰うときに掛ける『Trick or Treat!』の発音・単語を間違いはしないかと恐れることもない、
期待に満ち溢れた真っ直ぐに輝く瞳。
実際は随分と単語も発音も違うけど、まだ幼い子どもには正しい発音は難しいだろう。
ふと、昔ハロウィンにまだ胸躍らせていた頃の俺を、この子にそっと重ねた。
単語・発音の間違いではなく、ハロウィンの思い出を思い出して思わず噴出しそうになるのを堪え、何故かチロルチョコの多い菓子の袋(勿論他の菓子もあるが)を一つを渡し、小さな頭を優しく笑みと共に撫でると、舌っ足らずな「ありがとう」を言って別のターゲットの所へと走っていく。
ああ、言い忘れちまったが走り去った子どもに投げ掛ける、やはりお決まりの台詞。


「Happy  Halloween!」





その繰り返しが何度、何時間続いたのか、始まり前に軽食は摘んだものの腹が減ったなと感じた頃にハロウィンは終りを告げた。
自室に戻りシャワーを浴びる。

「初心に返れたっつーか、結構楽しいモンだったよな」

何よりあれ程子ども達に喜ばれた事に、深い充実感を感じる事が出来た。
とは言え、流石に疲れた。
総帥職関連をやるにはちょっと無理だな、眠気が凄い。

「飯・・・簡単に済ませて、今日は早く寝るか」

自室には小さいながらキッチンが備え付けられている。
総帥という地位に居れば高級料理でフルコース三昧の日々だろうと世間には認識されがちだ。
確かにそれを望めばあまりにも簡単に叶うだろう。
けど、俺は基本的に自炊だ。
外交が多く、高カロリー&偏食なメニューを付き合い柄取りがちなので、普段は俺なりに栄養バランスを考えた飯を作っていた。
はっきり言って料理の腕にはかなりの自信がある。
あの島で二年近くも朝昼晩(+おやつ)時にパプワとチャッピー(たまに+α)のを作ってたんだからな。
そう、いつの間にか当たり前のようにあの島に馴染んで・・・。

「・・・アイツ・・・今もちゃんとした飯食ってんのかな」

まだ湿り気が重い黒髪をろくに拭かず、梅紫蘇を混ぜただけの質素な握り飯を二つほど握る。
腹は減ったが、今はこれで十分足りる。後はもう寝るだけだし。

「あの島には特選部部隊だったリキッドって奴が、ジャンの代わりに赤の番人として残ったんだよな。
アイツが俺の変わりに飯とか洗濯とか掃除とか・・・そういうのをやらされているんだろうな。多分」

料理、出来たか?
面識が乏しいのでそう言う部分は全く知らない。

「きっと今頃パプワ達は・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
溜息と苦笑。
未だ酷く固執している。アイツとその島の仲間に。
それが悪い事だとは思わない。
アイツが教えてくれたから。

「いつか会いに行くその時、胸を張って行かねえと、とやかく言うんだろうな・・・アイツなら」

その日の為に今は精一杯に生きようと思える。

「明日は会議があるし、もう寝よ」

歯はちゃんと磨き、思い出を夢に変えてベッドに潜る。向けた挨拶は誰へともなく。

「おやすみ~~~」
ピ――――――――。

健やかな安眠は、ドアベル代わりの機械音に妨害されてしまったらしい。
しっかし誰だ?こんな時間に。
ロック解除をしようと毛布を退けてはた、と気付く。
ああ、そう言えば俺、ロックし忘れてたな。
自分の無用心振りを反省し、ベッドの中で入室許可の返事を簡潔に返す。
相手は扉をゆっくりと開けた。
視界に映る、京都の吸血鬼。

「何だ、アラシヤマかよ」

まだその格好でいたのか?
気に入ったのか?案外。似合ってるし。

「何だとはまた随分ですなぁ、シンタローはん」

別に蔑ろにしようと思って言った訳じゃないが、この根暗茸は(←酷い)
直ぐ物事をマイナスの方向に流れを持って行くんだよなー。癖なんだかそうじゃないんだか。
意識して言っているのではないだろうが。
それも性質悪り~。

「お菓子をくれまへんか?」
「は?菓子ぃ??」
「へえ、お菓子どす♪」

言いながらマントを目の前でひらひらとさせる。
これは何か、まだハロウィンは(アラシヤマの中では)終わってないので自分にも菓子を寄越せとの意思表示か。
気付くのは多少時間が掛かった。

『TrickorTreat!』

ハロウィンに菓子を貰う時のお決まりの台詞だが、テメェは大の大人だろーがっっ!!
そんな、両手を手前で組みながら小首を傾げて強請るアラシヤマに激しく鳥肌が立つ。

「くれてやる菓子なんぞない。それと女の子的お強請りの仕方は止めいっ!」

全身全霊で奴を否定すれば、
「ああっ!攣れないお人やっ」
と言いながら滝涙を浮かべて有耶無耶のうちに退出させられるのだが、今回は違う展開になるようで。

「仕方あらしまへんなぁ・・・・・・ほなら悪戯しますえv?」
「は?」

アラシヤマから発せられた言葉を理解出来ないままに、気が付いたら
どさっ
腰掛けていたベットへと押さえつけられていた。行き成り過ぎる展開に状況が上手く飲み込めん。
・・・ええと、アラシヤマが俺の部屋に来た→未だ吸血鬼の格好→いい歳して菓子を強請ってきて・・・・・・。

「シンタローはん・・・」

五月蝿い。こっちは現在状況情報処理中だ。で、断ったんだよな。それでアラシヤマが―――。

「どんなお菓子よりこっちの方がずっとそそられますわ・・・」

やや掠れた声が熱い吐息と共に顔面ギリギリにかかって・・・・・・・・・・・・・―――えええぇぇっっ!?

「だっ、ちょ、ちょっと待てえぇっ!!何やろうとしとんじゃーっ!?」
「何・・って、またーvシンタローはん今更でっせ?」

耳元でやけに艶っぽい声色で小さく笑うそれに、思わずゾクリと体が震えた。コイツ・・・マジにヤる気満々!?

「止めんかぁ!」

力任せに暴れてみるがこの程度の力ではアラシヤマにとっては大した障害にならなかったようだ。普段ならこんな馬鹿、簡単に押し退けられるが、今は本当かなり疲れているので思ったようには力が出ねえ。こうなりゃ眼魔砲で退けるのみ!!と思ったが、結構長い付き合いからかその考えは相手に伝わったらしく気を溜め込む前に釘を刺されてしまった。

「直ぐその力に頼りますのはあんさんの悪いところですわ」

ムカッ

「自分の思い通りにならへんと暴力に訴えるのは小さな子どもと同じどすえ?」

これ見よがしに盛大な溜息を漏らしやがった。そもそもの原因が己だと言う事を棚上げしやがってっ!
体が憤怒で小刻みに震えるが、それ以上の事(眼魔砲連打だかヤクザキックとか)はこいつの言葉で押さえつけられる。
「明日も早いし、今日はもう疲れたから寝かせろ」
とでも言えば止めるかもしれないが、そんな在り来りな定義文的弱音は吐きたくない。いつも、
「無理をし過ぎているのではないか」
と忠告をしてきたり、
「休息をちゃんと取るよう」
と勧めるこいつに、俺は要らない世話だと素っ気無くあしらっていた。だから疲れたからと言うのは理由に出来ない。
とにかくこの状況を回避しねえとヤられるッ!
イザとなれば口八丁な相手なので慎重に言葉を選ぶ。
菓子がないから悪戯するハロウィンのモンスターを理由にしてるんだよな。
で、アラシヤマは吸血鬼。
なら・・・

「・・・吸血鬼は若くて美しい処女の生き血を飲むんだろ」
「まあ、一般的にはそないな事になってます。ついでに言わせてもらえば肌の綺麗な人も条件に入っております」
「だったら女のトコ行け!若くて美しいはともかく!俺はしょ・・・」

じょじゃないと言いかけて慌てて言葉を飲み込む。
危うくとんでもなく恥ずかしことを言いそうになった自分に冷や汗が流れる。
ちなみに俺が処女喪失・・・っつーか、抱かれた経験があるのはコイツの所為。
初めて関係を持ったのはそう昔の事ではなくつい最近。
・・・何、冷静ぶって非生産的な過去を振り返ってるんだ、俺は。
ともかく現実を嫌でも見据えなくちゃなと恐る恐る相手の顔を伺い見上げると・・・・・・
ああっ!やっぱり得たり†な笑みを見せてるッ!!

「ガンマ団に女性は少へんですし、吸血鬼が血を吸うんは(基本的に)好いとる相手だけなんですわ」

・・・何で何言っても裏目に出るんだ俺は。(涙)

「それにしはっても・・・」
「何だよ・・・」
「気にしてはったんどすなあ。処女がなくならはった事」

はっきり処女言うな!!
こういう時だけ(悪い意味で)しっかりしやがって。いつもの引っ込み思案な性情はどこへ置いてきたんだっ。

「その責任はわてにありますし、気にしなくてもええどす」

あーそうかよ。慰めありがとよっ。←自棄。

「シンタローはん知ってはりました?
吸血鬼はトランシルヴァニアのドラクロア伯爵が血液嗜好症(ヘマトフィリア)やったって話です」
「血液嗜好症(ヘマトフィリア)?」
「何らかのきっかけで血液を飲まんといられへん病なんどす」
「で?」

話しずれてきてるし今までの対話との繋がりが見えん。

「特徴がわてとピッタリですわと思やはって」
「は?どこが」
「わてもシンタローはんに触れらんといられませんトコがv」

無邪気な笑顔で恥ずかしげもなくよく言う。どっから出てくるんだそんな言葉。

「・・・今更口説いてんのかよ」
「ほんま、今更どすなあv」

呆れた。
嫌味も通じないのか。
いつもは妖怪サトリかと思わせるくらい通じまくる癖に、今は幸せそうな顔して男を襲ってる。
何気に背景シュガーピンクになってるし。
けど・・・、何でこう・・・心の中が疼くかな、俺。しかも認めたくはないが悪い意味じゃなくて・・・。
~~~~~あー!訳分かんなくなってきちまったじゃねーか!

「だからわてはあんさんを・・・」

アラシヤマの手が俺のパジャマにのびる。
抵抗?
出来ねえだろ、ここまできちまうと。
すっかり眠気も覚めちまったし、付き合ってやるよ。
ただし見える場所に跡付けたり、明日に支障をきたす程ヤり過ぎたら即効殴る。
その時、俺の理性がちゃんと残ってたらの話だが・・・。
は~~・・・。明日は401国との大事な会議が早くから入ってるっつーのに・・・。

「ほんまに好きどすえ、シンタローはん・・・」
「聞き飽きた」
「ほんまつれないお人どす」

素っ気無く返すと苦笑を浮かべてボタンを全て外す。
素肌に触れた外気が寒いとコイツの背中に腕を回して抱きつけば、自然、腕に絡まっていたパジャマがするりと抜ける。





10/31、ハロウィン。
子どもはすやすや夢の中。お菓子に囲まれてお化けと踊る夢を見よう。
今夜限りの化け猫が、同様の吸血鬼に菓子の代わりに身を捧げている事は内緒だよ?

焼きたてクッキーおひとつどうぞ♪





宇宙船を作るー!と張り切っているジャン。それに手伝わされているのはグンマとキンタローだ。
高松は色々な事を想像して止めにかかったが、グンマは

「面白そーv」

とヤル気満々。少々今までの研究にマンネリを感じていたところだったのだ。
キンタローは別に乗り気ではなかったのだが、それは何に対してもであって、グンマがしつこく

「キンちゃんもやろー。ねー、やろーよーぉ」

と誘うのでまあいいかと。
同い年とは言え、どうもキンタローにはグンマが手のかかる弟のような存在に感じていたので、
心配な兄弟心もあって同意したのだが。

「あれ・・・、これ何の研究レポートだろう?知ってる?キンちゃん」
「俺よりお前の方がこの施設に居るのは長いだろう」

呆れたような視線を送られるとグッと詰まってしまう。
ちなみに二人が居るのは昔高松が使っていた第三研究所。
ジャンやキンタローまで科学の道に進むという事で研究室の増築が決定された。
それでまだ科学者としては未熟ながら期待あるジャン、キンタローにも研究室が一室ずつ支給され、
三人が宇宙船“ノア”を作ると決定した時、新たにこの第三研究室も与えられた。
ちなみにグンマは既に科学研究には浸かっていたのでちゃんと元から研究室(第六研究室)がある。

「あれ・・・」
「どうした?」
「こんなレポートあったっけ?」

グンマは一番小さいディスクの上に置き去りにされている埃臭い紙の束を見つけた。
ホチキスで止められたとても古いのだろう、かなり保存状態の悪い六ページ分のレポートである。
ここはジャン、キンタローそしてグンマしか使っていない筈。少なくとも自分のレポートではない。
キンタローに問うと知らないと首を左右に振る。とりあえずぱらぱらと中身を捲ってみる。
どうやら何かの薬の作り方らしい。となると、“ノア”作りに夢中のジャンのでもなさそうだ。
興味深げに読みにくいレポート内容を読んでいたグンマだったが、
満足したようにレポートを胸に抱えてキンタローに向き直った。

「よし、これ作ってみようv」
「即決だな。大丈夫か?」
「まっかせて!一度新薬って作ってみたかったし!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

聞いたのはそういう意味ではなく、ちゃんと薬を作れるのかという事だったのだが。
しかし(グンマに対しては)あまり深く追求しない性質なので、まあいいかとその場は流した・・・・・・・・・・・・のが全ての始まりだった・・・・・・。



「どうしたんだ、グンマ。ちっとも“ノア”作りに参加してくれてないけど」

ジャンが不思議そうに問う。白衣姿が意外と様になっている。
キンタローも白衣姿で、カルテらしきものに目を向けたまま答える。

「ああ、何でも『新薬を作る練習するんだー♪』とか言って自分の研究室に篭りっきりだ」
「ふー・・・ん・・・(何か、今のグンマの物真似・・・めちゃくちゃ似てて怖い;)」
「で、何を作っているんだグンマは」
「うっわ!!サービス!」

そこには見目麗しきグンマ&キンタローの叔父が、まるでずっと居たように佇んでいた。

「何でここに・・・」
「ちょっとジャンに用があったんだ。で、グンマは何を作っているのだ、キンタロー」
「知らん」

即答。

「そうか」
「ってオイ!何あっさり納得してんだよ!何か危ない薬でも作ってたらどうすんだよ!?」
「大丈夫だろう。多分な」
マイペースな親友にガックリと肩を落す。付き合いは長いが未だに分からないところだらけな男である。

「そんな事よりジャンに用とは何だ」

“そんな事”と片付けてもいいのかキンタロー。
そう気にするのはジャンだけで、相も変わらず美貌の叔父様は顔色一つ変えず用件を切り出す。

「ジャンに今朝言い忘れた事があってな」
「何?」
「昨晩うっかりお前の背中にキスマークを付けてしまってな。だから人前で服を脱がない方が良いと思」
「うわあああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!
こ、子どもの前でその話すんなよぉ――――――――/////////////////!!!!」

ムッとして子どもではないと主張するキンタローは何故かサービスの爆弾発言を全く気にしていなかった。
どうやらこの二人仲はガンマ団では公認らしい。
ちなみにいつもは美貌の叔父様は薄着を好むジャンが嫌がる為、キスマークはつけないで上げているらしい。
(テクニシャンだねv)


一方、こちらは第115研究室ではやっぱり白衣を纏ったグンマが先程のレポートを元に、
『クッキー』を焼いていた。

「出~来たv『若返りの薬入りクッキー!』。かなり時間掛かっちゃったケド」

若返り薬入りクッキーは、それはもう見た目も美味しそうに焼きあがっていた。
グンマは満足そうに天使な笑顔で恐ろしい事を呟く。

「え~~と、誰に試食してもらおうかなー?」

やっぱり高松の教え子である。立派に師匠?と同じく、何のためらいもなく人様を実験台にしようとしている。
可愛く(若返りの薬入り)クッキーをラッピングしながら誰が適任か思案していた。

「滅多な事では死ななそうな人と言えば・・・」

う~~~~~んと唸っていたのは極僅かな時間。ポンッと手を叩き、にぱっvと邪気のない笑顔で微笑む。

「シンちゃんにあげようv」

・・・今回の生贄もやっぱりシンタローだった。



ここは総帥室。日がな一日、新総帥のシンタローはここでデスクワークを行なう。
まだ総帥職務に慣れなく、今も今とて書類処理にスッタモンダ中である。
しかしまだ戦闘の感は失ってはいない。間違いなく遠くからだがこちらに向かってくる足音が耳に響いてくるのをキャッチした。こういうパターンなら息子ラブvのマジックだが、この気配はマジックに似ていて全く違うもの。
ドタドタドタ・・・
子供のように廊下を走ってきた青年は確かに総帥室に向かっていた。
バッタ~~~~~~~~~~~~~~ン!!!!!!!!!!!!
勢いよく総帥室の扉が開かれ、やけに上機嫌なボーイソプラノが響いた。
驚く事もなくシンタローは声の主に視線を向ける。

「シンちゃん♪」
「グンマ、どうした?」
「あのねvクッキー作ったから食べて欲しいんだ♪もうすぐおやつの時間でしょ?」
「・・・もう【おやつの時間】を設ける歳でもないんだが・・・それに俺あんまり甘いものは・・・」

28にもなってなって【おやつの時間】を設けているのはお前だけだ。とシンタローは思った。

「大丈夫♪甘さ控えめだし。いっぱい作っちゃったから食べてねv」

そうまで言われて断れるはずもない。まあ、控えめなら甘いものも好きだし丁度小腹も空いてきたところだ。

「んじゃイタダキマス」
「どうぞv」

一口含む。あの『若返り』入りのクッキーを・・・。
どうなるかなー♪とワクワクしながら目の前の男を楽しそうに観察するグンマの瞳には、全く邪気はなかった。
しかしやってる事は邪悪そのものである。

「結構美味いな」

素直な感想だ。何だかんだ言いながら次々と口に運んでいく。それを聞いてグンマは嬉しそうに返答した。

「でしょ~v隠し味に若返りの薬入れたしv」
「ふ~~~ん・・・若返りの薬入りの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って・・・・・・・何だって・・・?
若返りの薬・・・?」
「うんvシンちゃんに実験台になってもらおうと思ってvv」
「・・・・・・・・・・・――――!!??」

ガタンッ!!
いきなり立ち上がったシンタローは真っ青な顔で洗面所へ走っていった。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダジャ――――――――――
その後聞こえた水音。

「どうしんだろ。吐いちゃった?」



「グ~~~~~ン~~~~~マ~~~~~~~」

ごしごしと力なくタオルで口元を拭うシンタローの声色はかなり低い。要するに怒ってまぁ~~すという雰囲気が漂っていた。
ぐいっ

「わぁ!」
「俺の歳を減らしてどないっすーんじゃ~~~~~~~~!!」

グンマの胸倉を掴んでガクガクと揺さぶり尋問する。頭にはデカデカと怒りマークが浮かんでいた。
流石のグンマも引き気味で答える。揺さぶられながら。
答えようにも上手く喋れなく、途切れ途切れに何とか返答する。

「実、け・・・んだ・・・に、シンちゃ・・・がいっ、かなぁ・・・ぁって思っ・・・だけ・・・よぉ~」
「何が『いいかな~』だ!従兄を弟実験台に使おうとか思ってんじゃねーよ!!」
「く・・・苦しいよぉ・・・」

そろそろ離してあげないとグンマの顔がどんどん青くなっていきます。しかしとりあえず若返り薬入りクッキーは吐き出したといえ(吐いたんかい)、そんな薬盛られてたシンタローは気にせず怒りまくる。

「第一なぁ!――――――――――う!?」
「わっ!」
ドスン!
「~~~・・・・・・痛い~~~~~!」

シンタローは突然苦しそな声を出し、グンマから手を離した。
当の本人は揺さぶり+ちょっと首絞めから解放されたがそのまま重力にしたがって後方に身体が崩れ、
強く尻餅をつく。
身体が疼き、熱くなる。身体が変化していくのが分かる。

「うぐっ!!」
ボンッ
「うわぁ!!」
「シンちゃん!?」

煙が立ち、シンタローを乳白色の煙が包む。

―――若返り!!??今若返ったらどうなるんだ!?

未だ苦しい意識の中、嫌な事ばかりが頭を過ぎる。次第にシンタローを包み込んでいた煙が晴れていく。

「けほっけほっ」

シンタローのものだろうが、やけに高い声(咳)。次第に明確に現れるシンタローの姿にグンマは目を丸くした。
一瞬分からなかったがどうやら実験は、

「あ、失敗しちゃったみたい」

あっけらかんとした感想。しかしその手にはノートと思しきものが。それに研究結果を書いている。
流石高松の背を見て育っただけあって同じ事をしている。あくまでマイペースなグンちゃん。

「こぉおおおらぁぁ!!!呑気に研究結果書いてんじゃねー!!――――――――・・・ん?何か俺の声・・・」
「若返りのは失敗しちゃったケド」

はい、と手渡された手鏡で己の姿を繁々と見つめる。少なくとも若返ってはいないが、これは―――――。

「何だよこりゃ~~~~~!!!???」

己の変わり果てた?姿を見て絶叫するシンタローは見事におチビちゃんになってしまって―――はいない。
よく通る声はボーイソプラノではなくアルト。余裕のできた総帥服の上からでは分かり難いが、顔がやや特有の丸みを帯びている。そして決定的に今までと違うのは、見事なまでの胸の膨らみ・・・・・・だった。

「うわあぁぁああああああぁああっ!!!!!!!!!」
「シンちゃん、女の人になっちゃったみたい」
「誰の所為でこうなったと思ってるんだよ!!」

その前にシンタローに使用したのは『若返りの薬』ではなかったか・・・。



と、いう訳でマジックに相談するのは色んな意味で怖いので信頼を置けるサービスに相談した。
グンマに元に戻る薬を作らせようとしたが、

「解毒剤?まだ作ってないよ?これからv」

一発頭のてっぺんをグーで殴った。・・・ってか毒だったんかい。
サービスの部屋には部屋の主以外には、当たり前のようにいるジャン、被害者シンタロー、タンコブが出来て
ピーピー泣いている容疑者(笑)・グンマ、呆れたような瞳で泣いている従兄弟を見やるキンタロー、
そして科学のことなら(本人曰く)おまかせな高松の計六名。

「そう言えば昔もこんな事があったな」
「え?」

あの時の事は思い出したくないと言う高松を無視してサービスが話すには、
シンタローが六歳の頃誤って高松特製『歳増やしの薬』を飲んでしまい、
その解毒剤を作らせ飲んだが副作用なのか女体化した事があると言うのだ。(『薬でドキドキ!!』参照)
ちなみにグンマもシンタローも忘れていて記憶に留めてはいないらしい。
グンマの見つけた『若返りの薬』レポートは、
その時失敗して出来た『女体化の薬』が書き記されているものであった。

「ドクターの所為かぁ!!!!!!!」
「うわっ!落ち着いて下さいシンタローちゃん!」
「ちゃんて何だ!ちゃんって!」
「・・・とりあえず落ち着け、シンタロー」
ぐいっ
「うわっ!」

いきなりキンタローの腕の中に抱きこまれた。

「なっ・・・」
「落ち着いたか?」
「!!??何すんだよ突然!」

離れようと身を思いっきり捩るが筋力が著しく低下した為ビクともしない。

「と、とにかく離せ/////!!」
「離した途端暴れるだろ」
「暴れんから離してくれ//////!!」

気のせいか名残惜しげに手を離すキンタロー。
何故だか妙にドキドキしている鼓動を沈めようと努めるシンタロー。

―――女の身体だとなんかな・・・意識しちまうってゆーか・・・。って!俺にはソッチの趣味はねーけど・・・。

色んな意味で深ぁ~~~い溜息が出てしまう。

「よーするに俺が女体化したのは今回が初めてって事じゃないって事かよ・・・」

ガックリと項垂れるシンタロー。
どうしようか相談に来たのに嫌な過去を掘り起こされてしまい、余計落ち込んだ。
しかし不幸は不幸なヤツのところにやってくるというもので、一難去らずにまた難はやってくる・・・・・・。
バンッ!
ノックもせずに入室してくるサービスの双子の兄。

「サービスあのよぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・?」

最初こそ最愛の弟に向けられた視線だが、
語尾ら辺は真っ赤なブレザーを余裕そうに着込んだ女性に向けられた。
がしっ

「へ?」

小脇に抱えられたシンタローが間抜けな声を出す。

「この姉ちゃん頂いてくぜ!」
「「「「待て」」」」

全員(―シンタロー)の声が見事にハモる。
いきなり抱えられたシンタローは状況把握が出来なかったので反応が遅れた。

「勝手に持っていくんじゃない。ハーレム」
「んだよ。サービスにはジャンがいるだろ」

正直ハーレムとジャンの仲がいいのはかなり気に喰わないが、幾ら言っても無駄。
近頃は内心穏やかとは言い難いが諦めている。サービスが顔色一つ変えずに双子の兄に注意する。

「彼女は・・・・・・・信じられないかもしれないが・・・・・・・・シンタローなんだよ」
「ほー、どおりでそっくりだな」

じぃ~~~~~~~~~~・・・
暫し目踏みでもするかのように女体化シンタローを凝視する。

「まあいいか、とりあえず貰ってくぜ」
「ふっざけんな!降ろせ離せ―――!!」

ジタバタ暴れるが、先程キンタローに抱き込まれたと同じ、ビクともしない。

「いかんなァ、女性がそんな言葉使いしたらぁ」
「うっせー!」
「兄貴がお前のこ~んな姿見たらどう思うかねぇ~~~」
「う゛っ!!」

ピタリ途端石化。

「だから一時かくまってやろってんじゃねーか。俺ってば親切v」
「嘘付け!」
「お前、いつまでもそんなブカブカな服着てる訳にもいかねーだろ。服用意してやるから黙って来い!」

確かに自分を嫌っている(と、シンタローは思っている)ハーレムが自分を襲う訳ないかと思案する。
言葉に嘘はなさそうだし。
確かにこの総帥服のみならず他の普段着でもぶかぶかであろう。当たり前だが女物の服など持っていないし。
何故に自分に対して親切心を起こしたのか知れないがマジックに見つかるよりはマシだろう。
見つかったなら最後、とんでもない服を着せられそうだ。まさか犬猿の仲の二人なのに、シンタローがハーレムの部屋に居るとは考えないだろうし。貸しを作るのは嫌だが、結局シンタローの身柄はハーレムへと渡された。



サービスとハーレムの部屋はそう離れていないのでマジックや重幹部には見つからずに済んだ。
さっき総帥室からサービスのいる部屋まではかなりの距離だったので、
今となってはよく見つからなかったものだと冷や冷やする。
ハーレムの部屋はサービスの部屋より少々成金趣味っぽい部屋だったが、
それでもマジックの私室よりは数段落ち着いている。

―――そう言えばハーレムの部屋って初めて入ったよなぁ・・・。

仲があまり良くなかった所為だろう。サービスの部屋には小さな頃から出入りしていたが。
きょろきょろと物珍しそうに室内に目をやっていた所為だろう。イキナリ投げ寄こされた服に気付かなかった。
ばさっ

「うわっっぷ!」
「それ着ろ」

ぶっきらぼうな口調で投げ寄こされた服を顔から剥がす。

「悪いな」
「いいからさっさと脱衣所で着替えて来い」

頷いて脱衣所の方へ早足でかけて行った。
その背中を見たハーレムの笑みは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かなり邪悪に満ち溢れていた。

―――甘いな。ぱっと見分からねえがその服は・・・。

やっぱりハーレムはハーレムだったと言う事か。



数分後。

「何だ・・・・・この服・・・・・・」

脱衣所から着替えて出てきたシンタローの顔は恨めしげに叔父を見据えていた。
握り拳がわなわな震えていて今にも殴りかからんとでもしそうである。

「女性総帥服」
「こんなに露出度高いのかよ!!」

びしっ!と自分の胸を指差す。ベージュを基本色としたハーレム曰く“女性総帥服”はスリットがかなり深く
襟元からは胸が大きく開いている、露出度がおもいっきり高い服であった。

「ジャージ系でいい!」

身体は女になろうとも心は男なのだ、まさに気分は女装。そんな趣味はシンタローには更々ない。

「折角俺様が用意してやったんだぞ!!!それを礼はともかく出てくる言葉が文句かよ」
「~~~~~~~~~~~・・・・!!??・・・そう言えば何で女になった俺の体型が分かったんだよ」
「グンマと女になったテメエがコソコソサービスの部屋に向かっているを見たんだよ。
一目見りゃぁ大体分かるぜ」
「!!??」

ドサッ・・・
そう言うが早いか、ハーレムはシンタローをベッドへと押し倒した。
二人分の体重を受けてスプリンクラーが鳴る。


実はもう少し言えば、
グンマが見つけた『若返りの薬』の作り方が記されていたレポートを第三研究室に置いたのはこの男。
シンタローが六歳の頃、
青年化したり女体化したりした事はその頃マジックやサービスから聞いていて知っていた。
当時は特に興味のある話題でもなかったが、今回偶然高松に用があって訪れた研究室で見つけた当時の
レポートを発見し、これをグンマやキンタロー、ジャンなどがよく出入りする第三研究室にでも置いておけば、
そのうちの誰かが興味を持って作るかもしれない。
そしたら毒見として選ばれるのはまずシンタロー。
本当にグンマが作っている事を知り、どうなる事かと見ていたが、
見事『若返りの薬』は女体化の効果をシンタローに発揮。
サービスの所へコソコソの身を寄せようとしているシンタロー(+たんこぶつくって泣きべそかいてるグンマ)を
見、まるでサービスに用があるかの如く何食わぬ顔をし、女体化してしまったシンタロー目的でサービスの
部屋へ。そして自分の部屋へ誘導する。つまり確信犯だったのである。


当初の予想通り、女性になったシンタローはハーレム好みのイイ女だった。
脂肪など元々付かず、引き締まった筋肉は薄れ丸みを帯びながらもほっそりした肢体、すらっと伸びた手足、女性特有の色気に満ち、そして男の時には無かった柔らかい豊満な胸。
それをハーレムが突然鷲掴みした。
途端漏れる声。

「うぁ・・・っ」
「ふぅむ・・・・・・。感度はなかなか・・・」
「やめろっ」

抵抗するがやはりハーレムにはノーダメージだ。暴れれば暴れるほど男の加虐心を高めるだけ。
ニヤニヤとした笑いを濃くし、唇を耳の裏に寄せて囁く。

「こんな状況になってやめられると思うか?折角女になったんだ。覚悟決めな」
「出来るか!―――ふぅ、んっ」

どんなに吼えても妖しい指使いに息が荒くなり、それ以上言葉を紡げなくなる。

―――嘘だろおおぉぉおおおっっ!!!???サービス叔父さん!グンマ!キンタロー!ジャン!
誰でもいいから誰か!!ヘルプ・ミー!!!!!!!!!!!!

このままではハーレムに犯される!心の中でシンタローは大泣きして助けを求めた。
その切なる願いが聞き届けられたのであろうか。
どっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっっっ

「そこまでだよ、ハーレム」
「兄貴ぃ!!??」
「親父!!??」

眼魔砲ぶっ放し、ヤレヤレとした口調で男女が濃厚に絡み合っているベッドに歩み寄ってくるマジック。

「サービスから連絡が入ってね。まさかと思って来てみれば・・・、サービスの言った通り、グラマーな美人さんvになったシンちゃんを攫おうとしている実の弟の姿が目の前に、か・・・」

軽い口調に笑顔だが、目と声色は怒ってまぁ~~~~すと言う事をしっかりと伝えていた。

「覚悟はいいね?ハーレムv」
「オイ!兄貴!!何だその構えは!やめんかー!」
「大丈夫vシンちゃんには当たらないようにするからvv」
「全然大丈夫じゃねぇえええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

獅子舞の必死の咆哮虚しく、ハーレムは慢心の力が込められた眼魔砲をプレゼントされた。
ちなみにシンタローはと言えば、無傷で済んでめでたしめでたしv

「ちっともめでたくねぇええぇぇええっっっ!!!!!!」
「シンちゃぁ~~~んvv今夜は寝かせないぞv」

マジックに見事拉致られたとかなんとか。


END♪





★あとがき★

ひさか様より頂きましたWシンちゃんの女体化イラストの返礼小説です♪とは言え、また妖のツボを突きまくりのイラストを7枚も頂いてしましまいましたが(笑)大感謝でございますぅ!!ひそか様(*^0^*)/一時裏行きになりそうになりましたよ(またか)。攻キャラは特に指定なしだったので、総受にしましたvええと、CPとしてはハレシンとマジシン。それから実はキンシンもちこっと・・・。これは賛否激しそうですが。普通キングンが多いですから。でも好きなんですよ~vこのCPもvv
あ、サビジャンが入ったのは妖の趣味です(笑)
(2003・5・3)











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