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シン「もし今大地震とか起きたらどうする?」
アラ「とりあえずシンタローはんを華麗に救出した後、水確保でシンタローはんの聖水飲みますわ。」
シン「オマエ、本当気持ち悪い。」
アラ「シンタローはんのぶんはワテのを炎で濾過しますえ!」
シン「いらない。」
アラ「何言ってますのん!?命の危機にゼータクなんぞ言えまへんえ!?」
シン「テメーのションベン飲みたくねぇっていうののどこが贅沢なんだッツ!」
アラ「あ、なんや、シンタローはん。ワテの白い液た」
シン「そーゆー問題じゃねーから。」
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p
俺等一族は、実は吸血鬼だッ!!

って、言ってもよ、昼間は普通に生活できるし、寝るところは棺桶じゃなくてベッドの上。

ニンニクなんて、スパゲティに入れて喰ってるし、クリスチャンだから十字架も恐くねえ。

だったら、どこが吸血鬼かっていうとだな、長寿だし、人間の血を飲む。

長寿っていっても、成人するまでは普通に成長するし、人間の血なんて成人してから飲むもんで、それを飲んで初めて吸血鬼として認められる。

そこで、成長が止まるというよりかなり遅くなる。

あと、血を飲むって言っても、首の頸動脈に歯を突き立ててなんてものはしない。

まぁ、好きな人に対しては首から血を吸うけどな。

それは、まぁ、セックスみたいな物ではなくて、口付けのような儀式みたいなもの。

そんな一族に生まれた俺は、一族の長マジックの息子として生まれてきた。

親父は、今までの長の中でも優れた能力者で、闇の眷属の種族の中でも頂点に立つスッゲェ奴だ。

それなのに、俺ときたら一族の証の金髪も、青い瞳も持たない。

不信がる親戚を無視して、親父は俺を可愛がってくれた。

どがすぎるくらい。

けど、まぁ、イヤじゃなかった。

あいつとの、セックス以外はイヤじゃない。

しつこいんだよなぁ…。

それはそうと、今日、俺は成人式を迎える。

大人として体が出来上がった24歳に、その儀式を迎えることが許される。

なぜかって?

世の中のことを自分の眼で見て考えられる年にならねえと、その力で意味もなく人を殺してしまうからだ。

ほら、ガキがよく嫌いとか言うだろ?

いなくなっちゃえばいいのにって思って行動してみろ。

この世の中、死体だらけだぜ?

だから、大人になってから。

ちょっと前に、従兄のグンマが成人式を迎えた。

そいつは、金髪青眼で、頭のいいバカ。

父親が早くに蒸発(人間の女と駈け落ち)してからというもの、同族でもある一族お抱え主治医に育てられた。

特に甘いものがスキで、この前ウインナーコーヒーを作ってくれた時なんて、コーヒーの上に甘いホイップクレーム、コーヒーは粘り気のある甘さの物だった。

よく今まで、糖尿病にならなかったのか不思議なくらいだ。

さてと、俺の回想はここまで。

もうすぐ、成人式が始まるから、用意しねえとな。



今日は満月。

俺の成人式。

待ちに待った成人式。


「これで、俺も立派な吸血鬼になれるな」

「そうだね~。シンちゃんの、黒いマント姿格好いいだろうなぁ!」

グンマが黒いマントをひらひらさせながら、儀式前の俺にうれしいこと言ってくれるもんだから、ちょっと照れちまう。

それによ、グンマが今着ている黒いマントも、成人を迎えないと着ることができない。

色々決まりごとがあって、面倒だけどそれも吸血鬼だからこそ。

「ああ、早く時間がこねえかなぁ」

そんなことをぼやいた時、俺らのいる部屋をノックする音が聞こえた。

「シンちゃん、時間だよ」

親父の声が聞こえた。

「シンちゃん!」

グンマの眼が輝いていた。

「おう!」

俺も高鳴る鼓動を抑えることができない。

やっと、大人になれる!

どんなにこの日をまったことか。

俺は早く自立をして、親父のそばから離れたいんだ。

大人にならないと自分の身を守る力なんてねえし、自立できないしよ。

「いくぜ!」

俺はグンマの背中を強く叩いてドアを開けた。

「待ってよ!」

グンマが遅れて、あとをついてくる。

本当は、昔は、グンマが成人するまでは、これぐらいの力で背中を叩いていたら、グンマはむせていたのに今はなんともなのがすごくつらかった。





式が滞りなく行われ、後は俺が人間の血を飲むところまで来た。

ここが、一番の見せ場。

クライマックスだ!

この式を執り行なっているのは、一族の長でもある俺の親父で、式の合間に俺に小声で励ましたり、俺に血を捧げた女が憎いからさっき殺してしまったなんて言ってきては、俺の表情の変化を楽しんでいた。

「これより、シンタロー。お前は一族のものとしての証のため、この赤き水を飲み干し、一族の長である私に誓いをたてなさい」

金の杯に入れられた赤い血が、ゆらりと揺れながら俺の手のなかに収まった。

「さ、飲みなさい」

ゆっくりと口を近づけ、杯のなかの赤い水の芳香な匂いを胸いっぱいに吸い込んだとき、俺はある異変に気がついた。




気分が悪い。




おかしい。

親父の血をたまに飲んだりしたときは、確かに甘くおいしく、そして芳醇な香りに歯止めが利かないときもあった。

しかし、今、俺が手にしているのは人間の血。

同族の血よりも、甘いはずだというのに。

そんな俺の異変に、最初に気がついたのは親父だった。

「シンちゃん、そんなに緊張しなくていいんだよ」

小声でそっといわれ、俺は意を決してそれを飲んだ。

飲まないと大人にはなれない。

いや、飲もうとした。

「ぐっ!」

口の中に広がる、なんともいえない臭さとまずさに俺はその場で口に含んだものを吐き出した。

「げほっ!」

「シンちゃん!」

親父のあせった声と、式典に参列していた人達のざわめきが耳には届くんだが、体が言うことを利かない。

熱くて、痛くて、そして・・・

自分の正体を感じた。

白い羽が宙を舞い、親父の表情はどこか悲しそうで、俺はごめんとあやまっていた。

「いいよ、シンちゃん。シンちゃんが、天使でも女の子になっても、パパはゆるすよ」

俺は、白い羽を背に持った光の眷属だったんだ。

しかも、女の子。

後ろにいる野次馬たちから、歓声の声があがっていた。

そう、天使の血は最高の食事だから。






「この子の扱いについては、長である私が決めるッ!!異義あるものは、明日の朝聞く。それでは、失礼する」

親父は、座り込んでいる俺を抱き上げその場を去ろうとした。

「…待ってくださいッ!!」

この世の中で、親父に異議申し立てをできる奴なんていないと思っていた。

そんな命知らずな奴は誰なんだと、会場の方を見てみればグンマがいつものへらへら顔ではなく、引き締まった顔で俺等を見ている。

これが、吸血鬼の顔なんだと実感した。

「なんだい?」

それに律儀に答える親父だけど、すごく緊張しているのがひしひしと伝わってくる。

「叔父様、光の眷属を食料とすれば寿命がのびる。そして、一族に取り込めば繁栄と強き力を手に入れれるます。一族のために、あなたはどちらを選ぶのですか?」

辺りはシンと静まり返った。

親父は厳しい目でグンマを見ている。

「もし、取り込むと言うのでしたら、シンちゃんを僕のお嫁さんにしたいんです」

ぴくりと親父の肩が動いた。

周りの奴らは、それがいいと賛同し始めた。

「シンちゃんを僕にください!」

俺がグンマと結婚?

親父以外とセックスをすると言うのか?

「…イヤだ」

イヤだ。

「シンちゃん?」

絶対にイヤ。

「イヤだッ!!」

親父以外なんて、イヤだ。

何か溢れてくる力を、無我夢中で掻き集めグンマに向けて放った。

すごく眩しい光がグンマに向かって…


気がついたら、グンマは壁にのめりこんでいた。

俺は、無意識のうちに出していた右手をみつめた。

そこには今、大きな光を出した形跡はまったくない。

今のは一体何だったのか、考えるだけで体が震えてきた。

もしかしたら、この力は吸血鬼のものではなく光の眷属のものなのではないのかと。

そう考え出したら、きりがない。

かなりの高い可能性でそれなのだから。

ああ、誰か俺を助けてよ。


「シンちゃん、眼魔砲を打てるんだ・・・」

親父の驚いた声が聞こえてきた。

「は?」

そんな名前初めて聞いたぞ。

「何だよそれ?」

俺の質問にうれしそうな笑顔を浮かべながら、眼魔砲について説明をし始めた。

「私たち一族の、それも一部の者にしか使えない一族伝統の技だよ。当たり前のことながら、パパは使えるけど、グンちゃんはまったくてんでだめなんだよね。それにしても、シンちゃんが使えるだなんてパパ驚き桃の木山椒の木だな」

親父のその言葉に、俺は首を傾げた。

言っている意味が全くと言っていいほど判らないからだ。

「光の眷属のお前が、私たちの一族の秘儀を使えたということはお前は、私と同じヴァンパイアだよ。ただ、羽が付いているのは・・・お前の母さんのご先祖様が光の眷属だったのかもしれないね。すごく綺麗だよ。お前は、私たちのような黒よりも白が本当に似合う」

俺のこの羽のことをまったく気にしていないように話す親父が、すごく暖かくて、この人が俺を助けてくれる人なんだと実感した。

「しかも、女の子になっちゃうだなんて・・・・」

「父さん」

「ん?」

頬に手をやり、そっと口付けた。

「シンちゃん?」

「あんただけだと俺は思う」

そう、この世界にはあんただけ。

俺を助けてくれるのは。

「俺を・・・」

「ん?」

「父さんの妻にして」
pp

俺がまだ赤ん坊だった頃、この家の前に捨てられていた。

この家は、貴族のなかでも上級にあたり、所有している近郊にある葡萄畑から毎年採れる上質のワインは、王室の人々に愛され続けている。

だからなのであらうか、ここの家の住人全てが普通の人とは違った生活習慣をしていようが、誰も何も言わないのは。




「…アーメン」

俺は毎朝、主へのお祈りは欠かせない。

俺がこうして、今日まで生きてこれたのも主のお導きがあったからこそだ。

「毎朝、お祈り熱心だね」

背後から、優しい声が聞こえた。

「父さん。おはようございます」

後ろを振り返り、挨拶をすると、青い眼を細め笑う。

金髪に太陽の光が反射して、主のお姿に見間違えてしまう。

「ああ、お早よう」

この人は、ガンマ家当主マジック。

俺を拾い育ててくれた、父であり恩人でもある人。

「シンタロー、私は今から寝るよ」

「はい。お父さん、お休みなさ…」

習慣でもあるお休みの口付けを交わす。

「ん…ふぁ…、お休みなさい」

「…ん、お休み」

この家の主人でもあるマジックや召使達は皆、朝になると眠りにつき、日が沈むとともに目を覚ます。

貴族の暮らしは夜に開かれる、舞踏会や晩餐会が主流だからだとマジックは俺に言う。

小さい頃はその生活をしていたが、主へのお祈りを望む俺は、マジックに無理をいって普通の人が送る生活、太陽の目覚めとともに起き、太陽が沈むとともに眠りにつく生活をしている。

俺が毎朝お祈りを欠かせないのは、2年程ここの家から離れ、神父として学び、今では近くの小さな教会でミサを開いているからでもある。

俺が神父の道を進むことを、マジックは賛成しなかった。

どうしても行きたいという俺に、マジックは一つの条件を出してきた。

俺はその条件を、のんだ。

『24歳になったら、お前の全てを私のモノにするよ』

もうすぐ、24歳の誕生日になる。

全てをマジックのものにするということは、俺は俺でなくなるのか?

そんな不安と、別の感情が心の奥底に沸き上がる。

「ミサに行かないとな…」

全ての人が眠りにつき、静かになってしまった城内を一人歩き出す。



24歳の誕生日まで、後3日。

教会に行くため、あぜ道を歩きながら、道沿いに生えている雑草と分類される草花に、自然と目が行く。

普段の俺なら、習慣となったその行動のなかで、花々の美しさに心奪われていたのだが、今日は別のことが支配をしてしまい、花の美しさを感じることができなかった。

あと3日で俺のすべてが、父さんのものになるということが、頭のなかで渦を巻く。

体ならとっくの昔に、すべて奪われた。

心は体よりも前に、奪われていた。

自分に何が残っているのだろうと、自問自答を繰り返す。

神への祈りを辞めろといわれれえば、そんなもの何時だって辞めることができる。

ただ、あの人への気持ちが欲情となって暴走する己への、戒めなのだ。

今のような季節だった6年前、場内の人々が眠りに就いている真上に太陽が上った時、俺は眠っているあの人を襲った。

日が沈めば、次に日が顔を出すまで抱いてもらえると分かっているのに、体はあの人を求め、渇き、気が付けば飢えた獣のようにあの人の上にまたがっていた。

鏡に映る、乱れた己の姿が浅ましく、俺は神父になることを決意した。

神など、この世にはいない。

だが、己のなかの欲望を抑えるための道がそれしかなかったのだ。

「神父さま」

「今日も、お話して」

無邪気な子供が、俺の足にまとわり付く。

「…ああ、そうだね。…それじゃ、今日は何の話をしようか」










神の話など夢物語そのもの


現実は、苦悩ばかり


卑猥なものなどない、神の話


処女で神の子を宿した聖母


本当は誰の子だったのだろうか


真実を打ち明けられなかった聖母は、『聖母』と言えるのだろうか


『言葉は神の存在を語り、心は神の存在を否定している』

昔、その言葉を俺に言った奴がいる。

同じ寮だった彼は、学校内で常にNo.2の成績だった。

いつも一人で友達もおらず、暗く、そして心の強い男だった。

噂では悪魔信仰があるなど、事実と異なる噂を立てられていた。

そんな彼が俺に言った言葉が、的を得ていたなど、同寮達も予想がつかなかっただろう。

「…さ、今日のお話はここまでだ」

「はい。神父さま」

「ごきげんよう。神父さま」

「さようなら。神父さま」

「さようなら」

子供たちを見送る。

空を見上げれば、太陽は天高く輝いている。

この太陽が恨めしい。

早く、沈んでしまえ。

早く、闇になれ。

早く、あの人を起こしてくれ。

早く、父さん、俺を抱いてよ。

そのたくましい、腕で壊れるくらいに、俺を抱いて。




「お天道様を恨めしそうに、見てはりますな」

「ア、アラシヤマ?」


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※シンちゃん、かわいそうです。




『シンタロー君。君、本当にマジック様の子供かい?』

入学式の次の日、これから始まる学校生活に大きな期待と、希望と、不安をランドセルに入れ込め真新しいそれを背負い、ウキウキ気分で行った小学校。

すごくドキドキしながら楽しみにしていた最初の授業。

それは、自己紹介。

最初の子が顔を真っ赤にさせながら、その自己紹介は始まった。

自分も上手に自己紹介ができるのか不安になりながらも、順番をまつ。

シンタローの順番が回ってきたのは、それから程なくしての事だった。

心臓がはじけそうなほどドキドキしながら、クラスのみんなの前で自分の名前と父親が誰かを言った時、担任の先生からそんなことを言われた。

僕は、その先生の表情が
イヤだった。

泣きたくなった。

けど、我慢したんだ。

だって、パパの子供だから。

ガンマ団総帥マジックの息子だから。

『似てないね』

言われたくない一言。

それで、僕は学校が嫌いになった。

先生ともう顔を、合わしたくない。

教室のみんなも、いやな表情で僕を見てくるんだ。

嘘つきって、言ってくる。

嘘なんてついてないって言ったら、それが嘘だと言われた。






その日僕は、一人家に帰った。







一緒に帰る友達なんて、できなかった。





僕は嘘つきだから。






部屋に行って、ランドセルを机の上に置く。

教室よりも広い、僕だけの部屋。

自慢の部屋。

だけど、今はそれがすごく淋しかった。

独りぼっち。






「シンちゃん、学校どうだった?」

夕食の時、パパがそんなことを聞いてきた。

食事がうまく喉を通らないのに、そんなこと聞いてこないでよ。

「…もう、行きたくない」

同じテーブルに付いているグンマが、口の周りを真っ白にして「何で?」って聞いてくる。

パパも同じように、聞いてくる。


『似ているね』


同じがイヤだ。


「クソガキ、おまえいじめられたのか?」

今日、たまたま帰ってきた獅子舞も聞いてくる。


『同じだよ』


獅子舞も同じ。

だから、止めてほしかった。

「いじめ…ですか。グンマ様を、入学させなくてよかったです。可愛いグンマ様だったら、いじめの標的になるやもしれませんッ!!」


『ほら、おかしいよ』


おかしい。

すごく。

鼻血を垂らしながら、高松が言う言葉に、僕はたまたまあることに気が付いた。

「パパ…」

「なんだい?」

やさしい笑顔のパパ。


『青い目をした男』


僕と全然、似ていないパパ。

「グンマはなんで、小学校に行かないの?」


『騙されないで』


「高松が、ダメだっていうからね」


『その人は…』


頭のいいパパ。

「何で、グンマはお出かけするときも、遊ぶときも警護がつくの?僕にはつかないよ?」


『嘘つきだから』


「高松が、心配性だからね」

僕が言いたいこと、わかっているよね。

「グンマは何で……」

「シンちゃん、それ以上は言わないでおくれ。グンちゃんは、パパがいないから高松が過保護に…」

すべて、高松のせい?

僕に警護が付かないのも?

僕は、ガンマ団総帥の息子なんだよ。

「高松が可愛がっているから、僕よりも後からお菓子を食べるの?遊具で遊ぶときも、車に乗るときも、家に入るのも…何で僕、グンマより先なの…グンマは何でも、僕よりも後からなのッ!?」

ほら、パパがいつもと同じこと言うよ。

「それは、シンちゃんがパパの息子だから何でも一番に…」

いつも、同じだ。


『息子じゃないのに、息子と言うよ』


「同じ答えばかり、みんな、みんな、いつもッ!!本当は皆して、僕のことパパの子供って思ってないんでしょッ!?ほら見てよッ!!髪の毛は真っ黒で、パパと似ているところなんて一つもないじゃんッ!!僕はパパが、どこかの施設から貰ってきた子供なんでしょ?だったら、その施設に帰してよッ!!本当のパパとママに会わせてよッ!!」

止まらなくなった僕の口を止めたのは、獅子舞だった。

ほっぺたが痛かった。

「お前な、兄貴がどんな思いでお前を育ててきたと、思ってるんだよッ!!一番苦しいのは、お前じゃなくて兄貴なんだぜッ!!」

真っ赤な顔の獅子舞。


『その人は僕を見てくれない人』


パパの方を見ると、冷たい眼で僕を見ている。

知らないパパ。

「シンタロー、この話は止めよう」

否定しないんだ。

「…やっぱ、グンマがパパの本当の子供なんだ?」

「違うよ」

「違わない!だったらなぜ、僕は黒いのッ?パパの子供じゃないんでしょ?だったら、僕なんか施設にでも預けて、グンマを息子にしちゃえばいいじゃんかッ!!グンマ、パパにそっくりだよッ!!」

ナフキンをパパに投げ付け、僕は走って部屋を出た。

誰も、呼び止めなかった。

名前、呼んでくれなかった。







僕はガンマ団を抜け出して、一人で町を歩いていた。

居場所なんて、なかったから。

周りを見れば、親子連れがいっぱいいる。

皆、顔のどこかが似ている。

羨ましい。

『僕はいつも一人』

そう、いつも一人なんだ。

ガンマ団のなかにいても、僕をパパの息子と表面では扱ってくれるけど、僕がいなくなった後、すぐに僕はパパの子供じゃないって噂していることくらい知っている。

だけど、信じていたかった。

パパを。

僕は気が付いたら、古ぼけた教会の前にいた。

確か、教会は身なし子や虐待により親元を離れた子、家出をした子達を保護してくれたはず。

僕も受け入れてくれるかな?

重たいドアを、ゆっくりと開けた。



ここから、僕の新しい人生が始まることを祈って…。



「シンタロー、あなたは本気なのですか?」

その声に振り替えると、俺の育ての親でもある神父様が、荷造りをしている俺を心配そうに見ていた。

「本気です。これ以上、ガンマ団にこの国を壊されたくないんです」

「そうですか」

ここはもともと、小さな、平和な国だった。

ガンマ団支部があっても、この国を占領などしなかった。

しかし、18年前状況が一変した。

今まで占領などする気配がなかったガンマ団は、力のない国民に銃を向けた。

小さな軍事力もないこの国は、その侵略攻撃に半年もせずに降伏宣言をした。

そんな情けない首相に市民は怒り、ゲリラ戦が度々起きていた。

そして、俺は今年24歳になるのを機に、ゲリラ隊に入ることを決めた。

「この国を守りたいんですッ!!」

「‥わかりました。あなたのその情熱は、私の愛するこの国を守りたいと、あなたの愛するこの国を元に戻すための戦いへ赴く兵士としての、ものなのですね」

「はい」

勝つ自信はない。

だけど、ここで俺等が戦わないと、あの金髪の悪魔にこの国民は根絶やしにされてしまう。

「それでは戦場へ行ってしまう貴方の贐に少し、昔の話をしましょうか?」

神父さまのその暖かい心遣いに、胸が熱くなった。

まるで、本当の父親のように旅立つ俺に、小さかった頃の俺の話をしてくれると言うんだ。

「…あなたは、そう、18年前、ここの教会の扉を開いたのです」






小一時間、昔話に俺等は花を咲かせていた。

懐かしかった。

楽しかった。

暖かかった。

昔、俺が暖かさを望んで扉を開いたここには、その暖かさがある。

両親がいない俺が、望んで、恋い焦がれた暖かさ。

「それでは、昔話はこのぐらいでお開きにしましょう」

明日は早いのですから、お休みなさいと、言い残して神父さまは部屋からでていった。


「お休みなさい」


そして、今までありがとうございました。


ゲリラ隊に参加した俺に待っているのは、死のみだけど後悔はしないから。





夢の中で悲鳴が聞こえた。

これは夢だってわかっている俺がいる。

部屋のなかにいるのに、すごく体がふわふわしていた。

ドアを開けて、悲鳴のしたほうに行くと、あの‘G’の腕章を付けた男が俺に気付いて、銃口を向けてくる。

なにか大声で言っているのに、何を言っているのか分からない。

だから、俺は…

「…ぅ、夢?」

目を開けば、見慣れた天井。

「やっぱ、夢か―」

部屋を見回した俺は、我が目を疑った。

「おはようと言うべきかな?」

あの、金髪の悪魔がそこにいた。

「マジックッ!!」

憎しみをこめ睨み付けるが、相手はそんな俺を無視するかのように、近くにいた部下だと思われる男に何か指示を出したあと、品定めをするかのような冷たい視線で俺を見る。

「威勢がいいね」

人を馬鹿にしたようなしゃべり方に腹が立つ。

腕を動かしたいのに、体が思うように動かない。

青い冷たい瞳から、言いようのない圧力が感じられる。

あれが、噂に聞く秘石眼か。

「そんなところは、昔と変わっていないね」

昔?

何を言っているんだこいつは。

俺は、初めて会ったというのに。

「覚えていないという顔だね」

「俺は、あんたなんか知らない!」

青い瞳が怪しく光る。

「知らない?」

「ああ、知らない!」

男の表情から、笑みが消えた。

「お前を探すために、どれだけの人間が犠牲になっていると思っているんだい?」

私もその一人だよと、うなるような低い声で囁き、動くことを忘れた俺の上にのしかかってきた。

「知らないものは、知らない!」

「ほう?」

頭の中で警告音が鳴り響いている。

男が言っていることを何か思い出さないと、やばい。

だけど、思い出すことができない。

「お前を探すために、私は12の国をつぶしたよ。お前と同じような子供をすべて、殺していったよ。お前と同じ、黒い髪の人間を根絶やしにしていったよ。お前が憎いから…。私の元から逃げおおせたお前がね…」

言っている意味がわかんない。

何故、俺のせいで?

この男と俺の接点がわからない。

「憎い憎いと思っていたのに、実際本人に会ってみるとどうしてこう、愛おしいと思えるのか。お前は昔から、私の心をかき乱すんだろうね」

憎いなら、殺せというと、男は笑った。

「殺すはずがないだろう。私の可愛い坊や」


こいつが父親?

接点が、類似点がねえ。

頭が思うようにうごかない。


抵抗する気力を失ったそんな俺を、男はあの笑みを絶やすことなく犯した。

「愛しているよ」

そう、男は俺の耳元で囁いた。

熱い塊が俺の中で暴れながら、そんなことを言うものだから頭のなかがおかしくなっていく。

「あ…、もぅ…むりぃ」

「まだだよ。シンタロー、もっとお前を味合わせておくれ」

動きがだんだんと早くなっていく。

何か、熱いものがこみ上げて、目頭が熱くなる。

「ひゃ・・、いやぁ…」

「何が、嫌なんだい?本当は嬉しいくせに」

あれから、どれくらい時が過ぎたんだろう。

あの教会から連れ出された俺は、ガンマ団本部のこいつの部屋で犯され続けていた。

行為の途中で、神父さまの生首を見せ付けられた。

教会を燃やしたとも聞かされた。

涙があふれて、前が見えなかった。

何故、俺なんだと何度も自問自答した。

答えはこの目の前の悪魔が持っているというのに、聞くことが出来ない。

この男は絶対的権力者の力で、俺をねじ伏せる。

親子だなんてうそだ。

俺にはそんな力なんて無い。

髪の色だって全然違うじゃないか・・・・。

顔だって似てない。

 『本当は、グンマがパパの本当の子供なんだ!』

グンマ?

 『マジック様に似てないね』

似てない?

 『何故、いつも僕ばかりが最初なの?』

いつも?

 『僕はパパの子供なのに、警護の人なんて―』




 思い出した



 俺は、こいつの子供として育てられた・・・・。


 遠い昔に。


「シンタロー・・」

甘い囁きが耳をくすぐる。

思い出してしまったことを、この男に告げてもいいのだろうか。

それとも、告げないほうが俺にとって幸せなのではないだろうか。

「愛してるよ」

こいつの言っていることは、嘘の塊。

信じたら死んでしまう。

「お前だけだ」



 「うそ・・・つ・・・き」


自然ともれた言葉に、男は笑っていた。





「思い出したんだね?」

嬉しそうに笑う、悪魔。

「私がどれだけお前を、愛しているのかわかっただろう?」

「あんたは、うそつきだ!俺はアンタの子供じゃねえ!昔、アンタは俺を影武者として扱ってじゃねえか!それが実子に対するものか?愛してる?いい加減にしろ、俺はあんたなんてただの悪魔にしか思えねえ!」

その悪魔の腕から逃れるため、俺は暴れた。

だが、その腕の力は強く逃げ出すことを許さなかった。

「また、逃げるのかい?」

笑っている。

こいつ、頭おかしい。

「離せ!」

「手を離したらお前はどこかに行ってしまう」

話が通じない。

「それとも、また見つけ出して捕まえて欲しいのかい?」

国を潰して行きながらお前を探し出すよと、耳元で囁かれたとき何故か俺は笑っていた。

「楽しそうだね、シンタロー?」

楽しいのか?

嬉しいのか?

「何か良いことあったのかい?」




 『この世界が、僕とパパだけになってしまえば良いのに』



どこでそれを願ったのかは覚えていない、ただアンタのその言葉が嬉しくて、そして楽しかった。

「また、追いかけっこするか?俺は、逃げるの得意だぜ?」

「ふふふ。私も追いかけるのは得意だよ」

そう、屍を作りながらこの世に俺とアンタだけの世界を作りたい。

「ああ、その前に父さん・・・」

「なんだい?」

「ただいま、そして愛してる」

軽く唇に触れるだけのキスをする。

「ああ、お帰り。私の愛しい人」

そしてアンタは、深い口付けをする。



似ていないなんて、そんなのはどうでもいい。





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「やっぱ、あの音がないと安心できないよなぁ?」

「ああ、ここがガンマ団だと認識できるよな」

総帥室に入ろうとドアに手をかけようとしたら、秘書達の話し声が聞こえてきた。

どうやら、今朝のシンちゃんとの痴話喧嘩のことを言っているようだ。

「今日は久々に聞いたから、なんか懐かしくってさぁ。ああ、やっぱりここはガンマ団なんだって、つくづく実感したぜ」

「静かなここは、気味が悪いからな」

なんか、うれしいような、悲しいような複雑だぁ。

まぁ、気を取り直して入るとしよう。

「おはよう」

「総帥!お早ようございますッ!!」

二人の声が綺麗に重なって、私に挨拶をする。

「今日は、何か重要な会議でも入っていたかい?」

私の記憶では、午後からサービスがくる予定だ。それ以外は、何も入っていないはずだ。

「実は、今朝方急に連絡が入りまして…」

歯切れの悪くティラミスが話だした。







「兄さん、いい匂いだね。私の分もついでよ」

予定どおりにサービスがやってきた。

さっきから、私の食べているシンちゃん特製カレーをくれくれとうるさい。

「…お前の分はないよ。これは私の分だけだ」

ケチと小さな声で言われてしまった。

「…ふん。言ってたとおり、シンタローは居ないんだね…」

「時が来れば、戻ってくる」

そう、予定どおりにいけばの話だ。

厄介者が出てきているが、そいつらのうるさい口を止めるため、私はちゃんと考えているよ。

私とシンちゃんのためなら、何でもするよ。

「…兄さん。やっぱそのカレー少し分けてよ」

「ダメだ」

しつこいぞ。

「ケチ」

そんなに、ケチケチ言わなくても。

「―わかった。分ける代わりに、頼みごとがある」

お兄ちゃんが、弟を物で釣るなんてちょっと悪いとは思っているけど、これもシンちゃんと私のため!

「そのために、私を呼んだくせに」

嫌々って、態度をとってからにぃッ!!

落ち着け!

ここで機嫌を損ねると、後々厄介だ。

「6年間ぐらい、コタローを育ててほしい…。実はね今日、イギリスから一族の長老達が来たよ」

気を取り直して話す私の言葉に、サービスの表情が強ばった。

長老。

血の繋がりは僅かにあるが、秘石眼も眼魔砲も打てない一族達が、昔から私たち兄弟家族のことに対して口うるさく命令をしてきた。

そんな言葉に、一々従うはずもないが弟たちにとってはあまりよくない思い出がある。

サービスが秘石眼を失ったときは、生きる資格がないとまで言ってきた。

「…なんで」

「シンタローが生まれたときから、うるさくてね。まぁ、力で黙らせはしたが、コタローが生まれて以来またうるさく騒ぎ初めたんだよ。黙らせるためにシンタローを高松の養子にしたんだが…。今日、コタローを正式な後継者と認めると言い出してきたんだよね」

シンタローが生まれたときなんか、暗殺者なんてものを送ってきたり、あの子自信に出来損ないなんて言うもんだから、本当にあの死に損ないは私の気分を逆撫でするよ。

「兄さん。私は、シンタローのほうが…」

「それには私も、同意見だ。どうも、私はあの子を…コタローを見ると殺してしまいそうになるからね」

「兄さん…」

どこか安心したような、そんな表情を作るサービス。

「どんなに周りが、シンタローの持つことができなかったモノを持つコタローが、正当な後継者と言われようが私は、シンタローを…」

そう、誰にも邪魔はさせない。

「後継者にするよ」

私の言葉に、サービスも深く頷いた。

「義父さん」

「なんですか?」

朝、俺は義父さんにお弁当箱を入れた、巾着袋を手渡した。

「研究が忙しくて、お昼ご飯抜いたりしてるだろ?」

「お弁当ですか…。ありがとう」

俺、義父さんのこの笑顔好きだな。

それを見たいからって、弁当作るのってバレバレか。

「グンマ博士の分も入れてるから。ちゃんと食べなてくれよ」

「ええ。あの方も、喜びますよ」

何気ない朝の会話。

これが、俺の求めていた家庭だ。

マジックなんかに弁当作った日には、2日間ベッドから立ち上がることさえできないだろうな…。

ああ、恐ろしいことを考えるな!

ん?

待てよ。

マジックはカレーを盗んだ。

しかも、俺を散々いいようにして…。

「義父さん!」

「なんですか?」

ありえる。

「お弁当、総帥には絶対渡さないで…」

「シンちゃんッ!!ひどいよッ!!」

どかんと扉が開く音とともに、マジックが涙を流しながら入ってきやがった。

「シンちゃんッ!!ひどすぎるよッ!!パパ、シンちゃんの愛妻弁当食べたいんだよッ!!」

朝からなんで、こんな馬鹿を見ないといけないんだ…。

しかも、前々から盗んでいたようで、本当あんたはウザイよな。

「―眼魔砲ッ!!」

「シンちゃんの馬鹿ぁぁッ!!」

そんな言葉を残して、奴はとんでいった。

「義父さん、今日もいい天気ですね?」

「そうですね」

何事もなかったかのように、俺たちはいつもどおりの朝を迎えていた。









「おッ!!兄貴、美味そうなもの喰ってんな?」

「あげないよ」

「何だよ、2個も持ってんじゃんか。一個くらいくれよ」

「あげない」

「んだよ、ケチ」

「…これは、愛妻弁当だから、お前にあげるわけにはいかないよ」

「愛妻?後妻なんて居たか?」

「…秘密」


その日の午後、俺は総帥室に出頭した。

以前から出していた、配属希望の件で話があるということで呼び出しがあったからだ。

「よく来たね。そこに、座りなさい」

部屋に入ってきた俺にマジックは一瞥し、ソファーに座るように指示をする。

そして、秘書達に退室するように命令をした。

いやな予感がする。

「…さてと」

秘書達が退出したのを確認し、手元にあるスイッチでドアにロックを掛けると、椅子から立ち上がりソファーに座っていた俺のほうに近づいてきた。

「シンちゃん、お弁当すっごく美味しかったよッ!!2個食べちゃったから、パパお腹いっぱいだよッ!!」

ああ、やっぱり食ったのね。

「ふーん、お腹いっぱいねえ…」

「そうだよッ!!」

頬を赤らめて、花が飛び散る笑顔を向けるな。

「じゃ、デザートは入らねえな」

え?デザート?と、首を傾げながら俺の手元を見る。

持ってるのと、俺に目で訴えてくる。

「あるぜ…ここに」

指を指せば、マジックはなるほどと呟いた。

「そうだね。こんなに美味しいデザートを、食べないわけはいかないからね」

そして、デザートに手を掛けた。

「お腹がいっぱいで、入らないんだろ?」

「別腹だよ」

女だけだろと笑うと

「それに、食後のいい運動だ」

と、マジックは言った。

「ん…」

深く口付けを交わしながら、マジックの背に腕を回す。

「…26時間振りの、口付けだね」

小さく囁かれると、そんなに離れていたんだと寂しさが込み上げて、より一層マジックに縋りつく形になる。

「シンちゃん?」

「やっぱ・・・・いや、なんでもねぇ」

あんたにこの気持ちを伝えたとしても、あんたは俺を捨てたんだよな・・・。

惨めな気持ちにはなりたくないから、敢えて俺は言わないけどあんたは気が付いてるんだよな?

「私たちの間に隠し事なんて、必要ないでしょ?」

「・・・・」

言おうか言うまいか。

それよりここはごまかしたほうが良いのか?

「・・・・特戦部隊の件だけどさ」

以前から言っていた配属希望先の話を持ち出して、誤魔化すことにした。

「ああ、あれ?」

まんまと引っかかった馬鹿なおっさん。

「うーん。ハーレムは大喜びなんだけどね。長期遠征とかになるとパパ体がさびしいしなあ」

そんなことで、一団員である俺の配属先を秘書課にしようとしているのかよ。

「秘書のほうが良いよ~。私といつも一緒だし」

能天気な声を無視し。

「俺は、アンタを守れるくらい強くなりたいんだよ」

「シンちゃん・・・・そんなにパパのことを・・・。うん、いいよ。ハーレムにはシンちゃんが傷ひとつでも負う事があろうものなら、ハーレムの体を生きたまま八つ裂きにしてあげるって、釘をさしておいたから」

・・・・・あのおっさん、それでよく大喜びで承諾したな。

酒でも使ったか?

「それより、シンちゃん。デザートをおくれ」

手の動きが本格的になったのを察した俺の体は、自然と息を上げ始めた。



「シンちゃんッ!!」

呼ばれて振り向くと、そこには元従兄のグンマが手を振りながら、俺の方に向かって走ってきていた。

久しぶりに会ったミヤギと別れてすぐ、タイミングを図ったかのように出てきたから、少驚いてしまった。

「グンマ博士、どうしたんだ?」

「はぁはぁ…、グンマ…でいいよ。…シン…ちゃん」

息を切らしながら、手に持っていた何かを俺に渡してきた。
手渡されたのは、白い封筒だった。

「何だ、これ?」

「叔父様から、…頼まれて…ふぇ、…持ってきたの」

こいつが叔父様と呼ぶのは、3人いる。

一人は、美貌を兼ね備えたサービス、現在俺の所属している部隊の隊長ハーレム、そしてこのガンマ団総帥マジック。

ハーレム隊長は、昨晩からヤンキーに新人教育だと称して、拷問をしていた。

先程まで一緒に新人教育をしていたが、ヤンキーがあっけなく昇天してしまったので、意識が戻るまで自由行動。

意識が戻り次第、呼び出しが掛かる予定だが、それもまだ先のことだし、用があるなら館内放送で呼び出しするだろう。

それにハーレム隊長が一々、このグンマ博士に手紙を渡すわけがない。

あの人は、こういうびくびくした人間があまり好きではないからな。

残るはサービスか、マジック総帥か…。

「サンキュウなッ!!」

宛名のない封筒を見ながら、立ち去ろうとすると袖を捕まれた。

何か用かと振り向くと、どこか嬉しそうに笑う顔があった。

「シンちゃん、待ってッ!!あのね、叔父さまから聞いたんだけど、シンちゃんまた一族に戻れるって……っッ!?」

全部聞き終わる前に、捕まれた手を振りほどいた。

「っざけるなッ!!!俺の幸せを奪う一族なんかに、頭を下げたって戻るものかッ!!!」

困った顔、するなよ。

俺は今が、一番幸せなんだ。

家に帰れば義父さんがいて、悩みを相談しあえる友達がいて、どんなに苦しい任務だろうが支えてくれる仲間がいる。

誰にも、奪われたくないんだ。

もう、愛している人に裏切られたくない。

今は、体だけの関係で満足しているんだ。

「シンちゃん…」

「ワリぃ…」

俺はグンマ博士の顔をみることなく、その場を立ち去った。





久しぶりの我が家に戻ると、義父さんはまだ帰っていなかった。
俺が任務から帰る日には、必ず家に居てくれるのに今日はいなかった。

「研究、忙しいのかな?」

仕方ないと一人ごちりながら、自室で先程の手紙を読むことにした。

「?」

久しぶりの自室。何か、ものすごく違和感のある感じがする。

家具やカーテン、お気に入りの寝具など、出掛けたときと変わっていないのに、部屋に足を進み入れて行くたびに、その違和感は薄まるどころか濃いくなっていくばかりだ。

「何が、何が違う?」

部屋に置いてある机に手をついた瞬間、その違和感の正体がわかった。

「この部屋の家具、寝具も、全部、入れ替わってるッ!!?」

もしやと思い、恐る恐るクローゼットの中を見て絶句した。

「………服も、下着も…入れ替わってるッ!!!」

確かに、部屋にあるものや衣服類は同じもの、同じ位置だが、それらすべて新しいものに変わっているのだ。

「誰が…?」

一瞬、ガンマ団総帥の顔が浮かんでしまった。

ありえない、ありえない、と自分に言い聞かせ、少し一息つこうとベッドの上に横になる。

天井を見つめ…?

あそこに、穴なんか空いてたっけ?

「……白蟻か?」

一瞬、嫌な答えが浮かんだが、そんなことありえないと言い聞かせ、気分転換に久しぶりのます掻きしようかと、ベッド下に隠しているおかずを取ろうと手を伸ばしてみる。が、何も手に当たる感触がねぇ。

おかしい。

義父さんは、プライベートを守ると言っているから、俺の留守中にベッド下を掃除するわけがない。

「いったい…どうなってるんだ?」









「兄さん、この部屋どうしたの?」
「……」
「何だよ、このモニター?」
「あ、コラッ!!ハーレム、見るなッ!!!触るなッ!!!」
「この部屋と瓜二つな部屋映して…。兄さん、正直に言ってよ」
「そんなことよりッ!」
「兄さん?」
「あん?」
「今日の午後、あれをやる。ハーレム、サービス、あの子達に伝えておきなさい」
「兄貴、本気なのかッ?今、あいつが抜けたら、特選部隊の戦力、半減するぜッ!?」
「もう、6年前から決めていたことだ。それをいまさら、変えるつもりはない」
「兄さん…」
「シンタロー、コタローに殺しあいをさせる。勝ったほうが、次期総帥だ」


『至急、総帥室まで出頭せよ』

手紙に書いてあったのは、たったそれだけだった。

「誰が出したか、わかんねぇな…。けど、この字は義父さんの字なんだよなぁ」

俺はここ2~3年の間、任務のため遠征に出掛けることが増え、義父さんとのコミュニケーションの時間が減ってしまった。

それを補うため、遠征先から必ず、手紙を出すことを心がけている。

義父さんからも、返事や体を心配してくれる手紙か届いたりしていた。

この手紙の字は、その義父さんの手紙の字そのもの。

誰かに頼まれて、代筆でもしたのだろうか?

後で聞けば分かることだし、考えるよりも先に、
総帥室へ出頭することにした。




これは、何かの嫌がらせか?

総帥室に入ると、総帥秘書のティラミスに隣の部屋で待つようにと案内された。

そこで俺が、今眼にしている光景は…。

「俺の部屋?」

その部屋には、俺の部屋とまったく同じ間取りと、家具。

よくよく見れば、そこにあるもの全てが、自分の部屋からなくなったものばかり。

やはり、犯人はあいつだったんだ。

しかし、何故?

カチャリ

疑問が頭の中をよぎるのと同時に、背後で鍵が閉まる音が聞こえた。

「!?」

嫌な予感がした。

おそる、おそる振り向くと、そこには予想どおりの奴がいた。

「長期任務、ご苦労さま」

「ぇッ??あ…ありがとうございます」

ちょっと拍子抜けしてしまった。

労いの言葉を、あんな風に優しい笑顔で言われると、くすぐったい。

「あの、総帥。俺に何か御用でしょうか?」

だけど、俺とこの人とはとっくの昔に他人になっているんだ。

さっさと用事を済まして、帰ろう。

久しぶりに義父さんに、夕飯作りたいしな。

「ああ、用ね。まあ、日頃頑張っているから、ご褒美をあげようと思ってね」

笑ってる。この笑顔、何かものすごく嫌な予感がする。

「お気持ちだけで、十分です。では、俺はこれで」

「ご褒美はね~」

人の話を聞けよッ!!

「いえ、結構です」

ご褒美と称して、嫌な思いをしたと話によく聞いている。

「それでは、しつれい…」

一礼をして、部屋を出ようと足を動かそうとしたとき。

「一族に戻りなさい。これは命令だよ」

聞きたくないその言葉に、体が固まる。

何だよ、この人は。冗談だろ?

「絶対命令だ」

心でも読んでるのか?
今更なんだよ。

6年前、あんたが言ったんだろうが。

義父さんの養子になれって。

「嫌だと言うのなら、一族に戻りたくないというのなら、譲歩してもいい。ただし、この者を殺してからだ」

一枚の写真を手渡された。

「その子は、ハーレムが遊びで失敗し作ってしまった子だ」

金髪、青目の子供。

「母親が、訴えを起こそうとしている。殺し屋集団である、ガンマ団がそんな事で有名になると、色々と面倒だ…。今この子は、ガンマ団上層階にいる」

上層部?

一族専用のフロアか。

「…」

頭の中で、ガンマ団の見取り図を模索する。

「殺せ」

その言葉を聞くのと同時に、頭のなかに幾つかのシミュレーションが出来上がった。

もっとも最悪なパターンは、この子が秘石眼を操れ、戦闘経験があったとき。

その時は、死を覚悟しよう。

しかし、それはもっとも最悪なパターン。

場数なら、確実に俺のほうが上だろう。

「了解ッ!!」

敬礼をし、マジックの横を通り、部屋から出ようとドアノブに手を掛けて、ノブを回す。

「?」

回らない。

「総帥、ここのドアは引き戸ですか?」

「違うよ」

そうか、違うのか…。それじゃ、反対に回してみるか。

「……」

開かない。

そういえば、鍵の閉まる音とともに、こいつが入ってきたよな…。

「総帥、あの、鍵が」

「おや、閉じ込められちゃったね。それじゃ、シンちゃんとパパ密室事件でもしようか?密室腹情死殺人事件・・・・犯人はシンちゃんだ!ってね?」

「そういう場合は、アンタが犯人になる確率がたけぇだろ!」

嘘だッ!!

「もう一つの、出口があっちにあるから、そちらから出なさい」

言われた方を見ると、確かにドアがあった。

「ぁ…ありがとうございます」

きびすを返し、そちらへ歩いていく。

気のせいか奴も、後ろから付いてくる。

後ろを見ないようにして、ドアノブを握り、ドアを開ける。

「俺?」

目に飛び込んできたのは、俺の人形、肖像画等など…。

そういえば、この部屋、こいつの寝室だ。

小さい頃は、よく行ったりしていたから何となく覚えている。

しかし、あの頃と大きく違うのは人形の山、山、山…。

ガンマ団総帥は、メルヘンチックな男なのかよッ!!

「シンちゃんッ!!」

後ろから、嫌な声が聞こえる…。

俺が開けた扉は、出口ではなく、地獄への入り口だ。

ここは、あの目の前にある扉を開ければ逃げられる、かも。

ダメもとだッ!!

俺は走りだし、その悪夢のような部屋を横切り、その奥にあるドアを開けた。

「!」

開けたその部屋に、あの写真の子供が立っていた。

今からこのドアを、ノックするつもりだったんだろう。

右手が上がっている状態のまま、俺を見つめている。

ターゲットだッ!!

『殺せ』

頭の中で命令が響く。





「あ、おに…」

子供が笑いながら、俺に手を伸ばしてくる。

忘れていた。

眼魔砲の可能性を、シミュレーションしていなかった。

腰に収めていたナイフを引き抜き、その子の両目を切り裂いた。

「え?」

これで最悪なパターン、秘石眼使用の可能性は消えた。

次に右腕を切り落とす。

後は、喉にナイフで線を書くのみ。

「いたぁ…ぁい」

声にならねぇ痛みだろうな。

今、楽にしてやるよ。

「お兄‥ちゃ…ん…」


我ながら、素早い動きだったと一連の動作を振り替える。

「素晴らしいよ、シンタロー」

命令を出していたマジックは、後ろで拍手している。

「総帥、任務終了しました」

振り返り、報告をすると、奴は嬉しそうに笑っていた。

「それでは、俺は失礼しま…」

「ああ、シンタロー。どこにいくんだい?」

腕を捕まれる。

どこに行くって、任務終わったんだ。

自室に帰ってもいいだろ?

「任務が終了したので、俺は…」

「どこに帰るというんだい?」

「え?」

「お前の家はここだよ」

「俺は、貴方の一族では…」

「何を言っているんだい?私の息子は、もうお前一人なんだよ」

「コタロー様は…?」

確か、今6歳になっているはず…。

「ああ、コタローか。今お前の足元で、いき絶えた物のことかい?」

足元?

いき絶えた?

コタロー?

この血まみれの子供が、コタロー?

俺が、任務で殺したこの子供が?

無意識に腕を伸ばして、コタローに触れようとしたが、捕まれた腕をひっぱられ、触れることさえできなかった。

「コタ…」

目の前で扉が閉まる。

嫌だ!

俺、まだコタローをこの腕で抱き締めていないんだッ!!
コタローッ!!


「放せよッ!!」

「ダメだよ」

暴れるシンタローを、寝室に連れ込む。

「だって、だって、コタローがッ!!」

自分がやってしまったことに、少々錯乱状態になってはいるが、その方がすすめやすい。

「シンタロー、分かっているんだろ?」

ベッドに座らせると、少しばかり私の声を聞くようになってきた。

「あ…」

黒炭のような両目から、美しい雫を流しだす。

「確実に息の根を止めたと…」

ああ、そんなに泣かないでいいのに。

「あ、あ…」

お前には、私がいるんだよ。

「大丈夫。誰も、お前を責めないよ」

誰にも、責めさせはしないよ。

「…父さん」

そう、それでいい。

「私がいるから」

お前には私がいる。

「父さん…父さん…」

お前は私だけを、見ればいいんだ。

「そばにいるよ」





ハーレムにお前が、無意識のうちにターゲットを殺せれるようにと命令したのは私だと、お前はいつ気が付くだろうね。



それでいいと、お前も気がつくのはもう少し先の話かも知れない。


この腕で、コタローを抱き締めることができなかった俺は、一族に戻ることになった。

今までのような生活は、できなくなったが、今はそんなのはどうでもいい事だ。

どこで、間違ったんだと思い返せば、コタローが生まれたせい。
だから、コタローがいなくなった今、俺たち親子は元の形に戻った。



そう、それでいいんだ

それが、幸せ

それが、俺たち親子の幸福






「シンちゃん、今日の夕飯は何がいい?」

「ん?カレー」

「OKッ!!」




幸せと思えばいい。

俺はこの人に愛されているのだと。

それを、求めていたのではないか。

俺が求めていたものがやっと手に入ったんだ。



これが、幸福




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